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【事件名】商標“本生”審決取消事件(2)
【年月日】平成19年3月28日
 知財高裁 平成18年(行ケ)第10374号 審決取消請求事件
 (平成19年1月29日 口頭弁論終結)

判決
原告 アサヒビール株式会社
訴訟代理人弁理士 萼経夫
同 舘石光雄
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 山本敦子
同 柴田昭夫
同 大場義則


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2003−19635号事件について平成18年6月30日にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成12年12月15日、別紙審決書写し別掲のとおりの構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第32類「ビール、ビール風味の麦芽発泡酒」として、商標登録出願(商願2000−135077号、以下「本願」という。)をしたが、平成15年8月28日付けの拒絶査定を受けたので、同年10月7日、同査定に対する不服の審判(不服2003−19635号事件)を請求した。その後、原告は、平成15年12月22日、本願の指定商品を「ビール風味の麦芽発泡酒」に減縮する補正をした。特許庁は、平成18年6月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月18日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに、審決は、(1)@本願商標は、白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けて表示してなるものであるところ、同書体は、一般的な文字飾りとして、普通に使用される方法を超えるものではないこと、A「本生」の文字は、全体として「加熱殺菌していない本格的なもの。」という意味を認識させるものであり、食品業界において、「防腐剤や添加物等を加えていない無添加の商品、火入れしていない商品、天然素材を使用した本格的仕様の商品」等を表す語として普通に使用されていることを勘案すると、本願商標は、これを本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に使用しても、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであって、商標法3条1項3号に該当する、(2)本願商標は、本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外のものに使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法4条1項16号に該当する、(3)原告の取り扱いに係る「ビール風味の麦芽発泡酒」(以下「原告商品」という。)は、「Asahi(アサヒ)の本生」として知られているとまではいい得るとしても、使用の結果、「本生」の文字のみにより、当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識できるほど、取引者・需要者間に広く知られるに至ったものとまでは認めることができないから、本願商標が商標法3条2項に該当するとはいえない、と判断した。
(2) なお、審決の「4 当審の判断」は、「(1) 商標法第3条第1項3号について」、「(2) 商標法第3条第2項について」及び「(3)」(結論部分、表題は付されていない。)から構成され、商標法4条1項16号に関しては、独立の項目を設けていない。しかし、「(1) 商標法第3条第1項3号について」の項目中に、指定商品中の「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の商品に使用したときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある旨の、及び結論部分に「商標法4条1項16号に該当するとした原査定は妥当である」旨の各説示があるので、本判決では、審決において、同法4条1項16号に係る判断がされたものとして扱う。
第3 取消事由に係る原告の主張
 審決は、以下のとおり、本願商標が商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当し、同法3条2項に該当するとはいえないと誤って判断したものであるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)
(1) 「本生」の文字の意味について
 審決は、「本生」の文字は、「全体として『加熱殺菌していない本格的なもの。』ほどの意味合いを認識させる」(審決書3頁10行〜11行)、「食品業界において、『防腐剤や添加物等を加えていない無添加の商品、火入れしていない商品、天然素材を使用した本格的仕様の商品』等を表す語として普通に使用されている」(審決書3頁12行〜14行)と認定判断している。しかし、上記認定判断には、以下のとおり誤りがある。
 すなわち、「本生」について、辞書、事典又は解説書等において、「加熱殺菌していない本格的なもの」という意味を持つ語として解説されている例はなく、また、そのような意味で慣用的に使用されている例もない(甲15〜16の4)。
 「本生」は、「もとからあるもの、中心となるもの、正しい、正式のもの」等を意味する「本」という語と、「材料に手を加えないこと、完全でないこと、生ビールの略」等を意味する「生」という語の各語の持つ意味合いから商品の品質・製法等を間接的に想起させるが、あくまで造語である。
 確かに、審決が示すとおり、新聞記事には、@「本生わさび」(流通サービス新聞)、A「日清の本生うどん」(日本食糧新聞)、B「本生酒」(日本食糧新聞)、C「上高地みそ・本生」(日本食糧新聞)、D「大関『本生』」(日本食糧新聞)、E「本生吟醸ビール」(読売新聞)、F「期限限定本生酒」(日本食糧新聞)、G「無加熱の本生原酒」(毎日新聞)、H「大吟醸原酒・本生かすみ酒」(読売新聞)等の掲載例があり、また、インターネットのホームページには、 @「本生ビール」(寿屋酒店)、A「本生ビールオゼノユキドケ」(城岩酒店)、B「本生しょうゆ」(潟с}ヒサ)、C「本生しぼり(アロエ)」(ケンコーコム)、D「本生マッコリ」(楽天市場)、E「本生麺」、「信州本生桜そば」((有)伴野)などの掲示例が存在する(乙1の1〜1の15)。
 しかし、これらの掲載例等は、いずれも宣伝効果をねらって、商品の質を間接的な表現により宣伝広告したものにすぎず、これらをもって、「本生」の文字が、「加熱殺菌していない本格的な」という商品の品質を表示する語として普通に使用されているということはできない。
 仮に「本生」の文字が、食品業界において商品の品質を表示するとしても、その使用されている商品は、「うどん」、「日本酒」、「ビール」、「しょうゆ」など、本願商標の指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」とは製造及び販売部門を異にする商品である。
(2) 本願商標の識別機能について
 審決は、「本願商標は、これを本願指定商品中『熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒』に使用しても、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」(審決書5頁35行〜38行)と認定判断している。しかし、上記認定判断には、以下のとおり誤りがある。
 複数の語の結合からなる商標は、商品の品質を直接表示しない限り、当該商標を構成する各文字が持つ意味や用法により日常多用されている場合であっても、造語を形成し、単に、商品の品質を表示するものと理解することはできず、商品の出所表示機能を有すると解すべきである(「商標審査基準」の「五、第3条第1項第3号」の「4.」参照。)。
 例えば、「全生/ゼンナマ」(甲1)、「純生」第28類(甲2の1)、「ナマ/純生」第32類(甲2の2)、「蔵生」第28類(甲2の3)、「グイ生」第28類(甲2の4)、「ぐい生」第28類(甲2の5)、「つぶ生」第28類(甲2の6)、「原生」第32類、第33類(甲18)、「麦生」第32類(甲2の7)、「新生」第32類、第33類(甲19)の例など、「生」の文字に商品の品質を連想する一字を組み合わせて構成される商標について登録が認められた例は少なくない。
 これらの先例に照らしても、本願商標を構成する「本生」は、造語であり、商品の品質を間接的に表示するにすぎないから、商品の出所表示機能を有すると理解すべきである。
(3) 本願商標のデザインについて
 審決は、「本生」の文字の書体について、「この程度の書体は、一般的な文字飾りとして使用されているものであるから、普通に用いられる方法の域を脱したものとは認められない」(審決書3頁3行〜5行)と認定判断している。しかし、上記認定判断には誤りがある。すなわち、本願商標は、「本生」の文字を白抜き状に細線で縁取り、右下に黒い影を付けて立体的に表現してなる特殊な書体であり、立体的文字の表示が顕著なため、外観的にも特殊文字として注目され、強い印象を与えるものである。したがって、本願商標は、構成する文字の書体に外観上の特徴があり、商品の出所表示機能を有する。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)
 審決は、「本願商標の使用の実際を総合して、・・・原告の商品は、『Asahi(アサヒ)の本生」として知られているといい得るとしても、使用の結果、『本生』の文字のみにより、当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識できるほど、取引者・需要者に広く知られるに至ったものとまでは認めることができない。」(審決書7頁18行〜23行)と認定判断している。しかし、審決の上記認定判断には、以下のとおり誤りがある。すなわち、
(1) 原告は、本願商標の特殊文字を、原告商品の缶及び瓶のラベルの中央下部に、「Asahi」とは書体を異にして表示し、このような本願商標の特殊文字の付された原告商品を、カタログ、チラシ、新聞情報及びテレビのCM放映等において、宣伝、広告してきた。これらの宣伝広告によって、本願商標の特殊文字は、取引者・需要者間に、その商品の出所が原告であることを示すものとして、強く注目され、全国的に広く親しまれ、認識されるに至った(甲3の1〜9の43、34〜124)。
 原告は、平成13年2月に、原告商品の販売を開始したが、大々的な宣伝広告と販売促進強化の結果、発売後2か月間に200万箱(1箱は大瓶20本)の売上を記録し、発泡酒市場での最速記録となった(甲6の1〜9の43)。原告商品の発売以後の販売実績等は、次のとおりであり、平成17年末までの総売上数量は、2億2840万箱(350ml缶換算で82億6152万本)である(甲33)。
@ 平成13年(2001年)2月〜12月
 売上数量3900万箱(350ml缶換算で14億1068万本)
 市場シェア22.3%
 広告及び販売促進費161億円
A 平成14年(2002年)1月〜12月
 売上数量4700万箱(350ml缶換算で17億5万本)
 市場シェア23.1%
 広告及び販売促進費176億円
B 平成15年(2003年)1月〜12月
 売上数量4905万箱(350ml缶換算で17億7420万本)
 市場シェア24.4%
 広告及び販売促進費151億円
C 平成16年(2004年)1月〜12月
 売上数量5336万箱(350ml缶換算で19億3010万本)
 市場シェア28.8%
 広告及び販売促進費157億円
D 平成17年(2004年)1月〜12月
 売上数量3999万箱(350ml缶換算で14億4649万本)
 市場シェア28.7%
 広告及び販売促進費95億円
 このように、本願商標は、その指定商品である原告商品の缶及び瓶に使用され、購入者が、原告商品ないし本願商標を看取した回数は莫大なものとなり、また、缶及び瓶の使用態様が商品案内及びカタログ等に使用され、大々的な宣伝広告と販売促進の結果、著名ブランドとしての地位を獲得した。
(2) 本願商標の使用例においては、「Asahi」の部分と「本生」の部分とは、デザイン及び文字の大小において明らかな相違があること、一体不可分の結合態様ではなく、両文字は視覚的にも離れた状態であること、特殊文字で構成された「Asahi」は周知著名性を有するハウスマークであることから、「アサヒホンナマ」と称呼して宣伝広告をしたとしても、「Asahi」と「本生」とは、それぞれ分離して認識され、「本生」の文字は、単独で、その商品の出所を表示していると、取引者・需要者に認識されるものといえる。
(3) 以上の経緯に照らすならば、原告商品の高い売上実績は、原告のハウスマークである「Asahi」及び「アサヒ」の標章に負うところが大きく、また、「本生」の文字が商品の品質・製法等を間接的に想起させる表示であることを勘案したとしても、本願商標は、原告商品の取引者・需要者により、原告の業務に係る商品の商標であることが十分に認識されているというべきである。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性判断の誤り)
 審決は、本願商標を本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには、「商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある」(審決書5頁末行)と認定判断している。しかし、上記審決の認定判断には誤りがある。
 まず、前記1のとおり、本願商標の「本生」の文字は、「加熱殺菌していない本格的なもの」を意味するものでないから、本願商標を指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の商品に使用したとしても、商品の品質に誤認を生じさせることはない。
 また、「生」の文字を構成中に有する前記1(2)の商標については、いずれも、指定商品につき「熱処理していない」、「火入れしていない」等の限定をすることなく、登録されている。「本生」の文字をその構成中に有する商標についても、その指定商品を限定することなく、登録されている(乙5の1〜10)。このような先例に照らしても、本願商標について、指定商品を「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に限定しない限りは誤認を生じさせるとすることは相当でない。
第4 取消事由に係る被告の反論
 審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
(1) 「本生」の文字の意味について
 本願商標を構成する「本生」の文字は、「正しい。正式の。にせや、仮でない。」等を意味する語である「本」の文字と、「天然のままで、手を加えてないもの。加熱殺菌してないこと。また、『生ビール』の略。」を意味する語(乙19)である「生」の文字を結合したものと容易に理解され、その指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」との関係において「加熱殺菌していない本格的なもの」という意味を有すると理解される。
 「本生」の文字は、辞典類に熟語として掲載されていないが、「本」及び「生」の各文字は、上記の意味を有する語として、日常親しまれて使用されている。
 「本」の語は、「ほんとうの」という意味を有し、形容詞的(名詞を修飾するものとして)に使用され得る語である(乙18)。例えば、「本醸造」の語は、「本」と「醸造」の各文字の結合であり、「最もオーソドックスな製造法で、麹菌や酵母などの微生物の力によって徐々に時間をかけて醸造する方法」を意味し(乙20、21)、「本みりん」の語は、「本」と「みりん」の各文字の結合であり、これも伝統的な製法で作られる酒精調味料を意味する(乙20)。このように、「本」の文字は、「ほんとうの、本物の、本格的な」という意味を表す語として、名詞、普通名称等と結合して、熟語又は慣用語として使用され得る語といえるものである。他方、「生」の語は、前記のとおり、その指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」との関係において、「加熱殺菌してないこと」等を意味する語である。そうすると、「本」と「生」の語の結合からなる本願商標「本生」の文字から、「加熱殺菌していない本格的なもの」ほどの意味合いを無理なく認識し得るものであって、この種の商品の需要者は、専ら20歳以上の成人であることを考慮すれば、「本生」の文字が熟語として辞書等に掲載されていないとしても、これに接する上記の需要者をして、上記意味合いを容易に認識させるというべきである。
 新聞記事及びインターネットの掲載例(乙1の1〜1の15)によれば、「本生」の語は、構成全体として取引者・需要者に、「加熱殺菌していない本格的なもの」ほどの意味合いを認識させ得るものであり、また、「ビール」の分野や、同じ醸造過程を有する「日本酒」の分野はもとより、他の食品分野においても、当該商品の品質等を表示するものとして普通に使用されている(乙2の1〜4の5)。さらに、日本酒の分野においては、古くから、杜氏蔵人の間で「生酒」のことを「本生」とも称している(乙22)。
 仮に、上記新聞記事等での「本生」の文字が、商品の宣伝的効果を目的として使用された例があるとしても、そのことによって、当該文字に接した取引者・需要者における、「本生」に対する上記の認識に変わりはない。したがって、「本生」の文字は、商品の品質等を表示したものというべきである。
 なお、原告自ら、原告商品の宣伝広告において、「もっとうまくなった!スカッと本格『生』」(甲7の3)、「スカッと本格『生』」(甲8の3)、「しっかりうまい、本格『生』」(甲76)、「発泡酒の本格派『生』」(甲87の3)といった文字を多数、かつ、大々的に使用しているから、需要者等は、これらの商品に付された「本生」の文字について、当該商品が「生」であることを説明するために表示したものであると理解すると解される。
(2) 本願商標の識別機能について
 「本生」の文字は、「加熱殺菌していない本格的なもの」といった意味合いを認識させるものであって、ビールを含む酒類等を扱う業界はもとより、食品分野一般において、その取り扱いに係る商品について品質等を表示する語として慣用的に使用されているものであるから、本願商標をその指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用した場合、これに接した取引者・需要者は、当該商品が「加熱殺菌していない本格的なもの」、すなわち、商品の品質等を表したものとして認識する。「本生」の文字は、商品の品質・製法等を間接的に想起させるにすぎない造語とはいえない。したがって、「本生」は、本件指定商品との関係においては、識別標識としての機能を有しない。
 原告は、「生」の文字をその構成中に含む審決例及び登録例を挙げ、本願商標も同様に取り扱われるべきである旨主張する。しかし、出願に係る商標が登録され得るか否かは、個別具体的に検討、判断されるべきものであるから、本願商標とは構成を異にする上記登録例等によって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かを左右することはないというべきである。
(3) 本願商標のデザインについて
 本願商標は、白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けて表示してなるものであり、同書体は普通に用いられる方法を超えるような特徴はない。各種レタリングを施した文字は、商品の宣伝広告等において広く用いられており、本願商標の上記書体も普通に用いられているものである。袋文字に影を付した文字が、ビール、発泡酒について普通に用いられていることは、インターネットのホームページ上の掲載例(乙6〜16)及び商標登録(乙17の1〜17の12)に示されている。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
 商標法3条2項に該当するというためには、本願商標が使用された結果、本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を果たし得るに至ったことを要するというべきである。
 原告は、平成12年12月19日付けのニュースリリースにおいて、原告商品に、「本生」の文字を含む商品名を公表して以来、審決時(平成18年6月30日)に至るまで、カタログ、チラシ、日刊新聞及びテレビのCM等により宣伝広告や販売促進等を行っている。
 原告商品において、本願商標「本生」の文字は、赤ラベル、青ラベル、緑ラベル上の五角形様の図形内に表記されているが、その上部に原告の代表的なハウスマークの一つである図案化した「Asahi」の文字が、例外なく併記されており、また、ニュースリリースにおいては、その見出し中に、例外なく「アサヒ本生」の文字が表記されており、日刊新聞、テレビCM等においては、「アサヒビール株式会社」、「アサヒビール」又は「アサヒ」等(以下これらをまとめて「アサヒ」という場合がある。)の文字がとともに表記されている。
 このように、「本生」の文字は、単独で使用されず、常に「Asahi」あるいは「アサヒ」の文字が併記され、又は隣接して使用されていることに照らすならば、原告商品に接した需要者は、「Asahi」の文字に着目し、「Asahi(アサヒ)の本生」と認識し、理解するのが自然であるといえる。
 そうすると、本願商標は、使用の結果、「本生」の文字が、単独で、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるほど自他商品識別標識としての機能を発揮し、さらに商品の出所を表示するものとして広く知られるに至ったものとはいえない。
 また、ビールメーカー各社は、熱処理をしていないビールについては、「ビールの表示に関する公正競争規約」に基づき、ラベル中央部又は商品の下部に「生」の文字を表示しているが、発泡酒においても、熱処理をしていない場合は、同様に「生」等の文字を表示している実情がある(乙25〜27)。
 これらの経緯に照らすならば、原告がカタログ、チラシ、日刊新聞及びテレビのCM等により原告商品の宣伝広告等を行っている事実を前提としても、「本生」の文字に接する取引者・需要者は、「本生」を、商品の出所を示した表示であるとは認識せず、「加熱殺菌をしていない本格的なもの」という品質等を説明した表示であると認識する。したがって、本願商標の使用の結果、「本生」の文字自体が、原告の業務に係る商品であることを認識することができるものに至っていない。
 以上のとおり、原告商品の販売における宣伝広告等を考慮しても、「本生」の文字自体が、使用の結果、審決時までに何人かの業務に係る商品であることを認識できるものとの識別性を具備しているとはいえない。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性判断の誤り)について
 本願商標を構成する「本生」の文字は、前記1のとおり、「加熱殺菌していない本格的なもの」という意味を有すると理解され、商品の品質等を表示するものであるから、これを指定商品中の「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の商品に使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
 原告は、登録例等を挙げて、本願商標についても、それらと同様に取り扱うべき旨主張するが、出願に係る商標が登録され得るか否かは、個別具体的に検討、判断されるべきものであり、本願商標が商標法4条1項16号に該当するか否かが、本願商標とは構成を異にする上記登録例等によって左右されるものではない。
 なお、「発泡酒」と「ビール」は、麦芽の配合の割合が相違することを除けば、その製造方法はほぼ同じであり、ともに発泡性酒類に属する同種の商品である。ところで、前記のとおり、ビールに関しては、酒税法3条12号及び18号(乙23)、「ビールの表示に関する公正競争規約」(乙24の1及び24の2)により、「熱処理をしていないビール」以外には、「生ビール」又は「生」と表示してはならないとされている。発泡酒については、このような規約はないが、熱処理をしていない商品について、ビールと同様に、「生」と表示されている実情がある。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
(1) 原告は、審決が、本願商標を構成する「本生」の文字について、「全体として『加熱殺菌していない本格的なもの。』ほどの意味合いを認識させる」、「食品業界において、『防腐剤や添加物等を加えていない無添加の商品、火入れしていない商品、天然素材を使用した本格的仕様の商品』等を表す語として普通に使用されている」(審決書3頁12行〜14行)と認定判断した点には誤りがある旨主張する。この点の当否を検討する。
 商標法3条1項3号は、商品の品質、生産方法等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標等については、商標登録を受けることができないと規定する。法が、同号に掲げる商標について、商標登録の適格を欠くとした趣旨は、@商品の品質等を表示する、記述的ないし説明的な標章は、これを商品に付したとしても、取引者・需要者は、当該標章を、自他商品の識別標識であるとは認識せず、単に商品の品質等を説明したものと認識するであろうから、結局、このような標章は、自他商品を識別する機能を欠くものとして、登録商標としてふさわしくないこと、また、A商品の品質等を表示する標章は、取引に際して、有用又は不可欠な手段として機能し、何人に対してもその自由な使用を確保させる必要性が高い場合があるから、商品の出所を識別させる目的で、特定人に独占的な使用を許すのは好ましくないこと等にあるものと解される。
 そこで、本願商標が、このような観点から、商標法3条1項3号に該当するか否かについて吟味する。
ア 事実認定
 証拠(甲15〜16の4、乙1の1〜4の5、乙6〜16、乙17の1〜17の12、乙18〜22)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(ア) 「本生」の語は、辞典類には掲載されていない。日本酒の分野では、古くから杜氏蔵人言葉で、「生酒」のことを「本生」ともいっていることが指摘されているが(乙22)、特殊な用法といえる。
 また、辞書等により、「本生」を構成する「本」と「生」の各語について、その意味を探ると、「本」の語は「もとからあるもの、中心となるもの、正しい、正式のもの」等を、接頭語的に用いて「ほんとうの、本物の、本格的な」を、また、「生」の語は「材料に手を加えないこと、完全でないこと」等を、それぞれ意味するとされている。
(イ) 次に、辞書的な意義から離れて、実際にどのような場面で使用され、どのような意味に用いられているかを検討する。審決時(平成18年6月30日)、及びこれに近接する時期である平成18年2月から3月まで、同年10月から11月までに、新聞記事情報及びインターネットのホームページにおいて、本願商標を構成する「本生」の文字が使用されていたことが確認された例としては、以下のものがある。
 すなわち、「一切熱処理しない本生酒」(乙1の3)、「『本生』とは、製造工程で熱処理を一切していないもの」(乙1の5)、「本生吟醸ビール」(乙1の6)、「本生酒」(乙1の7)、「無加熱の本生原酒」(乙1の8)、「新鮮な酵母入りの健康にも良い本生ビール」(乙1の10)、「2銘柄の本生ビール」(乙2の1)、「酵母が活きた本生ビール」(乙2の2)、「酵母を一切ろ過しない本生ビール」(乙2の3)、「火入れを一切しない本生酒」(乙3の3)、及び、商品名の一部として使用されている例として、「本生わさび」(乙1の1、乙4の3)、「日清の本生うどん」(乙1の2)、「日清本生うどん」(乙4の2)、「上高地みそ・本生」(乙1の4)、「本生300ミリリットルびん詰」、「大関『本生』」(乙1の5)、「大吟醸原酒・本生かすみ酒」(乙1の9)、「本生ビールオゼノユキドケ」(乙1の11)、「無農薬”本生”しょうゆ<濃口/淡口> 」(乙1の12)、『キダチアロエ液本生しぼりストレートタイプ』(乙1の13)、「“本生”マッコリ」(乙1の14)、「信州本生桜そば」(乙1の15)、「“本生”生酒直行便」(乙3の1)、「銀嶺月山吟醸一声蔵(本生)」(乙3の2)、「子乃日松・無濾過吟醸本生」(乙3の3)、「出羽桜桜花吟醸本生」(乙3の4)、「本生シリーズ」(乙4の1の1)、「冷凍本生みじん切りにんにく」(乙4の4)、「信州本生そば」(乙4の5)。
(ウ) 審決当時において、「本生」の文字は、ビールや日本酒の分野はもとより、各種食品分野においても、比較的広範に用いられている。その意味するところは、食品の製造過程等によって差異があり、漠然として、一義的に理解することには困難が伴うが、ビールや日本酒等の酒類の分野においては、「加熱殺菌していない本格的なもの」というほどの意味合いを持つ語として認識され、使用されているものと解するのが相当である。
(エ) また、本願商標の書体は、審決書写し別掲のとおりである。白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けたデザインは、特殊文字として注目されたり、強い印象を与えたりするほどの特徴はない。また、白塗りの袋文字に影を付したデザインについては、これを使用した例が、インターネットのホームページ(乙6〜16)や商標登録(乙17の1〜17の12)において、数多く存在し、特徴的なものとはいえない。
 したがって、本願商標の書体は、普通に用いられる形態であるということができる。
イ 判断
 上記認定した事実を総合すると、本願商標を構成する「本生」の文字は、食品分野において、広く用いられているものであって、ビールや日本酒の酒類等の分野においては、「加熱殺菌していない本格的なもの」というほどの意味合いで、認識され使用される語であり、また、本願商標における書体は、ごく普通に用いられる特徴のないデザインということができるから、本願商標は、これを本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に使用すれば、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させ、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものといえる。これを特定人に対して、自他商品の識別目的で、独占使用させることは適当でないと解する。
(2) 以上のとおりであるから、本願商標は、これを本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に使用しても、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず、商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断は、これを是認することができる。原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 原告は、審決が、本願商標を原告商品に使用した結果、「本生」の文字のみによって、原告商品が原告の業務に係るものであることを認識できるほど、取引者・需要者に広く知られるに至ったとはいえないと認定判断した点には誤りがあると主張する。この点の当否を検討する。
 商標法3条2項は、商標法3条1項3号に該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識できることができるもの」は、商標登録を受けることができる旨規定する。法が、同条2項所定の場合に登録をすることができるとした趣旨は、@当該商標が、本来であれば、自他商品識別力を持たないとされる標章であっても、特定人が当該商標をその業務に係る商品に使用した結果、当該商標から、商品の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に、広く知られるに至った場合には、登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること、A当該商標の使用によって、商品の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上、他の事業者等に、当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。
 そうすると、出願商標について、「需要者が何人かの業務に係る商品・・・であるかを認識することができる」に至ったと認められるか否かは、使用に係る商標及び商品の性質・態様、使用した期間・地域、当該商品の販売数量・程度、宣伝広告の程度・方法などの諸事情を総合考慮して判断すべきこととなる。
 上記の観点から、本願商標について検討する。
ア 事実認定
 証拠(甲3の1〜9の43、20〜124)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
(ア) 原告は、原告商品の販売を開始した平成13年2月に先立つ平成12年末ころから、原告商品について大々的な宣伝広告を行うとともに、販売促進に努めた。その結果、原告商品の売上は、発売後2か月間で200万箱(1箱は大瓶20本)、その後も、平成13年(2月〜12月)の3900万箱(350ml缶換算で14億1068万本、市場シェア22.3%)、平成14年(1月〜12月)の4700万箱(350ml缶換算で17億5万本、市場シェア23.1%)、平成15年(1月〜12月)の4905万箱(350ml缶換算で17億7420万本、市場シェア24.4%)、平成16年(1月〜12月)の5336万箱(350ml缶換算で19億3010万本、市場シェア28.8%)、平成17年(1月〜12月)の3999万箱(350ml缶換算で14億4649万本、市場シェア28.7%)に達し、平成17年末までの総売上数量は2億2840万箱(350ml缶換算で82億6152万本)を記録した。
(イ) 原告は、原告商品の缶、瓶、その他の包装、商品案内、カタログ、広告等に、本願商標その他の「本生」の文字を含む標章を使用してきた。
 「本生」の標章が使用された態様は、以下のとおりである。
 まず、「本生」の標章は、原告商品のラベル等に、横長の五角形様の図形内に表記されているが、白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けた表示が強調されているわけではなく、ラベル等に表示された「本生」の文字を注視して、はじめて、書体が認識できるというような態様で用いられている。そして、本願商標を構成する「本生」の文字の書体は、ごく普通に用いられる書体であり、取引者・需要者の注意を惹く、特徴的なデザインではない。また、「本生」の標章は、その上部ないし近接した位置に、原告の代表的なハウスマークの一つである図案化した「Asahi」の文字が併記された態様で使用されている。
(ウ) 原告が、原告商品の販売を開始するに当たって、発表したニュースリリース(甲3の1〜3の22)には、「『アサヒ本生』は、“すっきりさ”と“味わい”を併せ持つ、“本格的な味感”の発泡酒です。」、「商品名は、“本格的な味感”をストレートに表現する「本」の文字と、お客様が当社に抱いている最大の価値である「生」の文字を組み合わせて『アサヒ本生』とし、発泡酒市場の中心領域において“生”という確固たる価値を主張していきます。」などと記載して、原告商品の商品名を「アサヒ本生」とすることを宣言した上で、宣伝広告活動を展開してきた。
 原告は、「アサヒ本生」の文字を商品名として原告商品の宣伝広告を行っていた発売当初はもとより、発売から1周年を期に「本生」の部分をブランド名として確立させることを意識するようになった後においても、相変わらず、原告の発表したニュースリリース中の「表題」部には、漫然と「アサヒ本生」の表示を使用しているのみならず、新聞等の広告やテレビCM等においても、「アサヒ本生」の表示を使用していた。また、新聞等の広告において、「本生」の文字を含む文字は、常に「アサヒビール株式会社」、「アサヒビール」又は「アサヒ」等の文字と併記して表記されている。
(エ) さらに、原告は、「もっとうまくなった!スカッと本格『生』」(甲7の3)、「スカッと本格『生』」(甲8の3)、「しっかりうまい、本格『生』」(甲76)、「発泡酒の本格派『生』」(甲87の3)などの文言を、漫然と、原告商品の宣伝広告に用いていた。すなわち、原告は、「本生」を、原告商品を他社の商品から区別させる態様で、商品名として統一的に使用するのではなく、むしろこれとは逆に、「本格」ないし「生」の語などを、原告商品の品質・特徴を説明・強調する目的で宣伝広告に使用してきた。
イ 判断
 上記のとおり、確かに、原告は、原告商品の販売開始時以降、原告商品及びその宣伝広告媒体で、「本生」の文字を含む標章を大量に表示してきた経緯があるものの、他方、@原告は、原告が作成、公表したニュースリリース等ですら、原告商品を表記する場合には、「本生」ではなく、「アサヒ本生」を用いてきたこと、A原告商品の缶、瓶、その他の包装、商品案内、カタログ、広告等において、「本生」の文字を単独で使用する例は、ほとんどなく、「アサヒ」等の文字と併せて表記してきたこと、B原告は、「発泡酒の本格派『生』」などの例にみられるように、むしろ、「本」及び「生」の語を原告商品の特徴を説明する目的で、宣伝広告に使用していたことなど、「本生」の文字を含む標章の使用態様に係る諸事情に照らすならば、原告商品又はその宣伝広告媒体に接した取引者・需要者は、「本生」の文字のみによって、商品の出所が原告であると認識することはなく、「アサヒビール株式会社」、「アサヒビール」又は「アサヒ」等の文字に着目して、商品の出所が原告であると認識すると解するのが自然である。すなわち、原告商品を他社商品から識別する機能を有する標章部分は、「本生」ではなく、「アサヒ」、「Asahi(アサヒ)を併記した本生」又は「アサヒ本生」にあるというべきである。
 そうすると、「本生」の文字が相当程度使用されてきたものであって、新聞等の記事において、原告商品を単に「本生」とのみ称呼している例が存在することを勘案したとしても、「本生」の文字は、審決の時点までに、「本生」の文字のみで需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できるほどに広く知られるに至っていたとは認められない。
 もっとも、当裁判所がこのように判断した理由は、原告が、本願商標について、上記のような態様で漫然と使用してきたことに起因するものであり、本願商標の「本生」の語の多義性に照らして、原告において専ら自他商品の識別のために使用した場合に、取引者・需要者をして、本願商標に係る「本生」の文字のみによって原告の業務に係る商品であることを認識できるほどに広く知られるに至る可能性のあることを一般論として否定したものではない。
(2) 以上によれば、原告商品について、「『Asahi(アサヒ)の本生』として知られているとまではいい得るとしても、使用の結果、「本生」の文字のみにより、当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識できるほど、取引者・需要者間に広く知られるに至ったものとまでは認めることができないから、本願商標が商標法3条2項に該当するとはいえない」とした審決の認定判断に誤りはない。原告の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性判断の誤り)について
(1) 原告は、審決が、本願商標を、本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには、「商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると認定判断したことには誤りがある旨主張する。
 商標法4条1項16号は、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」については、登録を受けることができない旨を規定する。その趣旨が、品質に誤認を与える標章について、登録商標としての保護を与えることは公益に反するという政策的な理由に基づくことは明らかである。
 そこで、この観点から検討する。
 本願商標を構成する「本生」の文字は、多義的に解される余地はあるものの、ビールや日本酒の酒類の分野では、「加熱殺菌していない本格的なもの」というほどの意味合いで認識され、理解される語であることは、前記1において説示したとおりである。そうすると、形式的にみる限りは、本願商標について、本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと判断する余地もなくはない。しかし、@「本生」の語は、辞書に掲載されているような、確定した意味を有する語とは異なり、多義的な意味を有する語であること、A被告自ら主張するように、ビールメーカー各社は、熱処理をしていないビールについては、「ビールの表示に関する公正競争規約」に基づき、ラベル中央部又は商品の下部に「生」の文字を表示しているが、「発泡酒」においても、熱処理をしていない場合は、同様に「生」等の文字を表示しているのが実情であること(乙25〜27)からすれば、本願商標が熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒に用いられることはおよそ想定できないことなどの諸事情を総合すると、本願指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」に「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」との限定がなくとも、格別、商品の品質誤認を生じさせるおそれがあると認めることはできない。
(2) 以上のとおり、本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには、「商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある」とした審決の判断には誤りがある。
4 結論
 その他、原告は縷々主張するがいずれも理由がない。
 以上のとおり、審決には、原告主張の取消事由3に係る判断部分に誤りがあるものの、同判断部分は、原告主張の取消事由1及び2に係る取消事由が存在しない以上、審決の結論を左右する違法とはならず、審決の結論は是認できる。
 したがって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 大鷹一郎
 裁判官 嶋末和秀
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