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【事件名】ピーターラビットの著作権表示事件
【年月日】平成19年1月30日
 大阪地裁 平成17年(ワ)第12138号 著作権に基づく差止請求権不存在確認請求事件
 (口頭弁論終結日 平成18年10月17日)

判決
原告 株式会社ファミリア
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 井上周一
同 小野昌延
被告 コピーライツ・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 小泉淑子
同 鳥海哲郎
同 菅尋史
同 大江修子


主文
1 被告は、別紙原告製品目録記載1ないし6の図柄の著作権に基づいて、原告が同目録記載1ないし6のタオルを製造、販売する行為を差し止める権利を有しないことを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主文1項と同旨
2 被告は、ベアトリクス・ポターが創作した著作物に別紙被告表示記載1ないし5の表示(以下「被告表示」と総称し、個別に指称するときは「被告表示1」「被告表示2」などという。)を使用してはならない。
3 被告は、被告とベアトリクス・ポターの著作物の利用についてのライセンス契約をしたライセンシーに対して、ベアトリクス・ポターが創作した著作物に被告表示を使用させ、又はこれを表示させた商品の販売、広告及びこれを表示させた役務の提供、広告をさせてはならない。
4 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成17年12月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、ベアトリクス・ポター(Beatrix Potter)が創作した絵本である「THE TALE OF PETER RABBIT」(邦題「ピーターラビットのおはなし」)中の絵柄(原画)についての著作権の日本における管理業務(商品化許諾業務)を行っている被告に対し、同絵柄を使用したバスタオル及びフェイスタオルの販売を企画したと主張する原告が、
(1) 日本における同絵柄(原画)の著作権が存続期間満了により消滅したことを理由に、被告が原告に対し同著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに、
(2) 同著作権が消滅した後も被告が被告ライセンス商品についていわゆるC表示など同絵柄(原画)について未だ著作権が存続しているかのような表示をライセンシーをして使用させ、需要者ないし取引者をして同絵柄の著作権が日本において未だ存続しているかのように誤認させる表示をしているところ、同表示は、同ライセンス商品の品質又は内容及び後記被告商品化許諾業務に係る役務の質又は内容を誤認させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に該当すると主張して、不正競争防止法3条1項に基づき、同表示を自ら使用すること並びにライセンシーをして使用させること及び同表示を使用し、又は使用させた商品の販売等や役務の提供等の差止めと、
(3) 同法4条又は民法709条の不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)
 を
 それぞれ求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いのない事実である。)
(1) 原告は、昭和25年に創業された子供用被服、文房具、日用雑貨品等の商品を製造販売することを目的とする株式会社である。
 被告は、著作権、商標権、特許権、実用新案権等の無体財産権の販売代理及び仲介業務等を目的とする株式会社であり、フレデリック・ウォーン・アンド・カンパニー・リミテッド(Frederick Warne and Company Limited.以下「FW社」という。)の有する著作権の日本における管理業務(以下「被告商品化許諾業務」ともいう。)を行っている。
(2) 原告は、別紙原告製品目録記載1ないし6のバスタオル及びフェイスタオル(以下「原告製品」と総称する。)の製造販売を計画し、その図柄はベアトリクス・ポター創作の絵本である「THE TALE OF PETER RABBIT」(邦題「ピーターラビットのおはなし」。以下「本件絵本」という。)の中の絵柄の一部を使用したものである(甲4、9。以下、本件絵本で使用されている絵柄のうち原告製品で使用されている絵柄を「本件絵柄」という。)。
(3) 本件絵柄を含む本件絵本の言語的部分及び絵画的部分に係る著作権は、FW社が有していたが、日本においてその保護期間がいずれも平成16年(2004年)5月21日をもって満了し、現在では消滅している。
(4) 被告は、FW社の著作権管理業務(被告商品化許諾業務)において、被告から使用許諾を受けた者に対し、その者の商品又は役務に「CFrederickWarne & Co.,20XX」という表示(以下「本件C表示」という。)、「Licensedby Copyrights Group」(以下、被告表示2を「Copyrights Group」と表記する)との表示(以下「。本件ライセンス表示」といい、本件C表示と併せて「本件C表示等」ということがある。)及び本件C表示等の全部又は一部を含む被告表示3ないし5を使用させ、かつ、この表示義務を被告商品化許諾業務を行う上で、ライセンスを許諾するにあたっての条件としている(甲16)。そして、現に、これらの表示を付したライセンス商品(以下「被告ライセンス商品」という。)が販売されている。
2 争点
(1) 著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無
(2) 被告表示を表示する被告の行為は商品の品質・内容、役務の質・内容の誤認を惹起させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たるか。また被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか。
(3) 被告の不正競争行為ないし不法行為と原告の損害との因果関係及び損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無)について
【原告の主張】
ア 本件絵柄を含む本件絵本の著作権は、平成16年5月21日の保護期間満了により消滅し、現在これらはパブリックドメインに帰している。そこで、原告は、平成17年9月より、本件絵柄をそのままプリントして使用した原告製品を製造販売することを計画していた。
 ところが、被告は、上記著作権が消滅しているのに、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した様々な絵柄に本件C表示を付したり、「Copyrights」社の社名の頭文字の「C」に○印を付する表示(被告表示2)をするなど、本件C表示と紛らわしい表示を使用して、著作権の保護期間が満了していると思われる絵画にも、いまだ被告が著作権を有するかのように一般消費者に誤解を与えかねないような虚偽の著作権表示を行っている。そのため、原告の取引先を始めとする第三者は、本件絵柄についても著作権侵害のおそれがあるのではないかと思い、余計な紛争に巻き込まれることをおそれ、原告と原告製品の取引を行わない。このように、原告は、原告製品を販売できないという現実の不利益を被っている。
 したがって、原告製品の販売を行うためには、被告に対し著作権に基づく差止請求権の不存在を確認する利益が存在する。
イ 被告は、日本において本件絵柄の著作権が消滅したことを認めており、また、被告の業務内容が著作権の管理業務(被告商品化許諾業務)を行っているだけであるから、原告に対し、著作権に基づく差止請求権を行使することはあり得ず、したがって、その不存在を確認する利益がないと主張する。しかし、以下のとおり、被告の上記主張は理由がない。
(ア) 被告は、自らの立場を、FW社の単なる「著作権の管理業務」を行うにすぎないものであるかのようにいうが、それ以上の役割を果たしている。すなわち、被告は、FW社のライセンシーであり、日本の会社にサブライセンスしているが、現在すべてのライセンス商品には「Licensed by Copyrights Group」(本件ライセンス表示)と表示させている。ライセンス契約上もライセンサーは被告であり、日本の会社はライセンシーである。そして、被告が実際に営業において果たしている日本での役割は、FW社の単なる代理でなく、代行者のごとき立場であって、FW社自身が直接的に日本でライセンス契約をしたり営業活動をすることはごくまれであり、現実には被告がライセンサーとして活動している。被告は、日本の会社との標準商品化契約書(甲7)上、ライセンシーに対し著作権侵害訴訟等の提起について被告の同意を得ることを義務づけ、被告のウェブサイトにも被告の業務内容として「ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす、知的所有権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます」と。表示し、FW社の著作権ライセンス事業について「単なる代理人」として活動しているだけでなく、より強い権限を有し、または少なくともそれを有するような外観を作り上げている。
 このように、被告は、FW社の日本における商品化事業における再使用許諾権付きの独占的使用権者(サブライセンサー)であり、日本において独占的使用権を有しているので、FW社が本件絵柄等の著作物について著作権を有するとしても、FW社の差止請求権を債権者代位権により代位行使できる。したがって、被告が著作権に基づく差止請求権を行使する可能性がある。
(イ) また、被告は、本件絵柄の著作権の保護期間が満了した後においても、新聞広告(甲10の1・2)、カレンダー(甲11)等において、例えば「(前略)CFrederick Warne & Co.,2004(中略)Licensed byCopyrights Group」との記載をしている。この記載を見た取引者及び需要者は、日本において、いまだに本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの作画全般が2004年制作の著作権保護を受けているような誤解を受けるし、さらに、被告は、FW社の著作権表示よりも目立つ形で、すなわち被告の名称表示中の「C」部分を著作権表示であるCマークよりも大きくなるように表示して、あたかも被告自身に著作権が帰属すると誤認させるような表示をしている。
 このように、被告は、自ら単なるFW社の著作権管理業務を行っているだけの立場ではないような広告を行い、かつFW社とともに著作権の保護期間を誤解させるような表示や、著作権表示と紛らわしい表示を積極的に行い、ベアトリクス・ポターの原画がパブリックドメインに帰していることが一般的に知られないようにし、著作権について正確に理解していない取引者及び需要者が、日本においてもいまだ著作権の保護がベアトリクス・ポターの原画にあるかのように誤認するような外観を積極的に作出している。
(ウ) さらに、被告は、本件絵柄を含む本件絵本に描かれた絵柄について著作権を主張する意思はないと主張するが、被告自身が実際に行っている上記の表示などからすると、現実の市場での行動は、本件訴訟上の被告の態度と明らかに相反している。したがって、被告が本件訴訟で著作権を主張する意思はないと答弁するのみで確認の利益がないということはできない。いかに原告が本件絵本の著作権保護期間の満了について取引先に説明しようと、被告が上記のような著作権表示を継続する限り、かつ、著作権保護期間の満了を周知徹底しない限り、現実的に原告は取引先に原告製品を販売することができない状態になっているのである。
【被告の主張】
 確認の訴えは、給付の訴えと異なり、確認の対象となり得るものが形式的には無限定であるから、原告の権利又は法律的地位に不安が現に存在し、かつ不安を除去する方法として原告・被告間でその訴訟物たる権利又は法律関係の存否の判決をすることが有効適切である場合であるか否か、すなわち確認の利益があるか否かを個々の訴訟ごとに吟味しなければならない。
 そして、請求の趣旨1項の著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求の訴えについては、以下の理由により、原告は何ら確認の利益を有しない。
ア まず、被告は、原告製品に表示されたそれとおぼしき「ピーターラビットのおはなし」を始めとする一連の本件絵本に描かれた絵柄(本件絵柄を含む。)についての著作権が日本において消滅したことを認めており、被告が同著作権の存在や同著作権に基づき原告製品を製造販売する行為を差し止める権利の存在を主張した事実は全く存在せず、これらの権利の有無につき原告及び被告の間に争いはない。したがって、本件で、原告の権利又は法律的地位に現実的な不安は生じていない。
 「原告の権利又は法律的地位に現実的な不安が生じる」のは、通常、被告が原告の法的地位を否認したり、原告の地位と相容れない地位を主張したりする場合であるが、上記のとおり、被告は、著作権に基づいて原告製品の製造販売行為を差し止める権利を有しないことを認めているのであって、被告が原告に対し、著作権に基づく差止請求をしたことはないし、するおそれもない。
 この点、原告は、被告ライセンス商品に被告表示を付することにより、原告製品を販売し得る地位に不安が生じていると主張する。しかし、被告表示は、原告に対するものではなく一般に向けてのものであるから、被告表示を付したこと自体で自動的、一般的に原告について「商品を販売し得る地位の現実的な不安」があるとして確認の利益が認められるものではない。仮にそうだとすれば、被告表示を目にする何人にも確認の利益が認められることになり、確認の利益を訴訟要件とする意味がなくなる。本来、請求原因事実として「原告に対し」権利主張していることが必要なのである。なぜ、万人の中で原告が確認の訴えを提起できるのかを説明するためには、被告表示により、原告に商品を販売できない不利益が現実的具体的に生じていること、すなわち、原告が原告製品の取引を拒絶された事実及び被告表示と当該取引拒絶事実との因果関係が具体的に主張立証される必要がある。しかしながら、本件でこの点についての具体的な主張立証は一切なされていない。
 仮に、原告の法律的地位に不安が現に生じているとしても、以下のとおり、本件確認請求は、そのような不安を除去する方法として有効適切ではない。すなわち、確認の訴えの対象としては、より有効・抜本的な解決の得られる訴訟物を選ぶべきであるから、自己の権利の積極的確認ができるときは、相手方の権利の消極的確認を求めるべきではないとされている。このことからすれば、原告としては、被告が著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるよりも、原告が原告製品を販売する権利のあることの確認を求めるべきであるから、本件確認請求は、原告の法律的地位の不安を除去する方法として有効適切ではない。しかるに、原告は、あえて消極的確認を求めている。それは、FW社が有する商標権及び不正競争防止法上の地位ゆえに原告が原告製品を販売し得る地位にあるとは主張できず、積極的確認を求めることができないからである。すなわち、上記のとおり、原告製品が製造販売される場合、当該製造販売はFW社が有する商標権の侵害であるし、また不正競争防止法上の不正競争行為にも該当するのであるから、原告は、本来的に正当に原告製品を販売し得る地位になく、そのような確認を求める正当な利益を有しないのである。またそもそも被告が原告に対し著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認しても、被告にはなお本件C表示等を付する権利があり、他方原告にこれを禁じる権利はない。よって、被告による本件C表示等はなお存続し得るのであって、原告の不安は除去されない。
 したがって、この点からも、被告が著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する意味はなく、原告に確認の利益はない。
イ 次に、二次的著作物について創作性があれば、FW社が著作権を有していることを主張することがあるかもしれない。しかし、著作権の管理業務を行うにすぎない被告自身が著作権に基づく差止請求権を有すると主張することは、その事業内容に照らし全くあり得ない。あり得ないことについて確認する意味はないから、原告は上記訴えに関し確認の利益を有しない。
 この点、原告は、縷々理由をあげて、被告がFW社の単なる代理人でなく、代行者のごとき立場であるとか、被告が実際には権利者又は権利者と同等の立場であることを広告しているとして被告の「強い立場」を主張する。原告の上記主張の趣旨は必ずしも明らかでないが、仮に、被告が、権利者と同様にその独自の裁量でFW社の有する権利に基づき差止請求権を行使できるとの趣旨であれば、事実と異なる。そもそも「代行者」であっても、権利者でない以上、FW社からの指示なく差止請求権を行使することなどできない。また、原告が上記主張の理由としてあげる事実、すなわち、被告のすべてのライセンス商品には「Licensed by Copyrights Group」と表示させていること、ライセンシーの訴訟提起についてライセンサーすなわち被告の同意を要することとされていること、被告のウェブページ上で「ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす、知的所有権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます。」と表記されていること等は、日本における被告の立場がFW社が保有する権利の管理業務の受託者であるという被告の主張と矛盾せず、むしろこれを裏付けるだけのものである。
(2) 争点(2)(被告表示を表示する被告の行為は、商品の品質・内容、役務の質・内容の誤認を惹起させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たるか。また、被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか)について
【原告の主張】
 被告は、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの絵柄の著作物について、すでに著作権の保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続しているかのように誤認させる被告表示を被告ライセンス商品又は被告商品化許諾業務に係る役務に表示しているところ、この行為は、以下のとおり、被告の商品(タオル等)の品質・内容及び役務(被告商品化許諾業務)の質・内容の誤認惹起表示に該当し、不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為(以下「13号の不正競争行為」という。)にあたるとともに、民法709条の不法行為を構成する。
ア 被告の13号の不正競争行為の態様
 商品の品質等誤認惹起表示について、「表示媒体」はベアトリクス・ポターの絵柄の使用されている商品(タオル等)であり、「表示事項」は商品の品質・内容であり、「行為態様」は本件絵柄について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続しているように誤認させる表示をしている行為である。
 また、役務の質等誤認惹起表示について、「表示媒体」は本件絵柄を含む商品化許諾業務という役務であるが、役務が無形であることから「役務」の「使用」に該当する「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物」である商品(カレンダー・タオル等)であり、同商品に被告表示を付する行為が誤認表示行為にあたる(商標法2条3項6号。甲11、12)。あるいは、インターネットの電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に被告表示を表示して役務を提供する行為(同7号。甲13)、さらには役務に関する広告等(新聞広告・しおり)に被告表示を付して展示・頒布等する行為(同8号。甲10、14、15)が誤認表示にあたる。「表示事項」は役務の質・内容であり、「行為態様」はベアトリクス・ポターの絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだ著作権が存続しているように誤認させる表示をしている行為である。
 被告表示の具体的態様は、いずれも「C」、又は「Copyrights」の「C」(大文字)の文字を囲み次の文字である「o」(小文字)に重なる部分のみが欠ける「○」(丸印)を含むものである。なお、後者は、「o」(小文字)の上端に接しており、下端にはわずかな隙間があるだけである。隙間は全くないこともあり、あるいは、小さく書いた場合には、わずかな隙間はほとんど意識されない。
 被告表示は、著作権表示の一部である「C」を含むか、又はそれと酷似する。さらに「」の直後に社名ま、 C たはその一部(opyrights)が表示されている。
 著作権表示は、@「C」の記号、A著作権者名、B最初の発行年の各記載により構成されているところ、被告表示は、まず@の「C」の記号、またはこれと極めて類似する記号を使用している。次に、A被告の会社名称、又は、「C」の記号と極めて類似する記号を被告の会社名称の一部として利用して被告の会社名称を表示している。しかも、被告の会社名称は、著作財産権の代名詞であり、Cの由来となった「複製権」を意味する「copyright」の語を主要部とする名称である。Bの最初の発行年の記載は、たとえば「2005」などの西暦も表示されている場合には、2005年発行の著作物についての著作権表示と誤認され、著作権がなお存続すると誤認させる。
 需要者は、これを一体として見た場合、著作権保護を受ける著作物であることを警告する著作権表示と認識する(Cが警告的作用のあることは被告も争っていない。)。そして、被告表示が、著作権保護期間が満了したベアトリクス・ポターの原画付近に付された場合には、それらの原画についていまだ日本においても著作権が存続しているとの誤認を需要者に与える。
 被告の著作権を重要な権利要素とする被告商品化許諾業務との関係でいうと、被告表示により、ベアトリクス・ポターの原画を使用するには被告から使用許諾を受けなければならない、あるいは当該原画の付された商品や業務(役務)は著作権で保護されている対象であるとの誤認を生じさせる。
 このような誤認は、商品の物的な意味での品質・内容ではないが、商品の価値に直結する性質の、商品に付帯する権利の有無や内容についての品質、内容に関するものである。被告商品化許諾業務の役務については、その質、内容についての誤認である。取引者や消費者は、ベアトリクス・ポターの絵がついているから著作物に対する好みで商品を購入するのであり、商品の物理的な品質とともに、それにも増して当該商品の価値を左右するものは、それに付されている公有財産となった絵柄であり、それは商品の品質や商品の内容そのものである。
イ 商品又は役務の誤認惹起表示の意義等
 「商品の品質、内容」及び「役務の質、内容」の意義については、「品質」と「質」は対象が商品か役務かで使い分けられているだけであり、また品質と内容又は質と内容を区別する実益はない(甲24、25)。
 被告表示のような虚偽の著作権表示が、品質(質)か内容か明確に峻別することが困難であったとしても、不正競争防止法2条1項13号の規制対象となることは間違いない。また、著作権表示は、立法経緯から本条項の対象外とされた「供給可能量、販売量の多寡、業界における地位、企業の歴史、取引先、提携先等」のいずれにも該当しない。また、これらに準じる表示でもない(甲25)。このように、立法経緯からしても虚偽の著作権表示を同号の適用外とする理由は見い出せない。
 産業財産権の四法においては、公示制度があることの関係もあり、虚偽表示が明文で規制されている(特許法198条、同188条、実用新案法58条、同52条、意匠法71条、同65条、商標法80条、同74条)。このような規定のあることは、著作権表示についても虚偽が許されないことを積極的に裏付けているといえる。その性格上、著作権法に明文がないことは、虚偽が適法で許されるということではない。知的財産権全体の均衡のある解釈がなされるべきであることには異論はないであろう。
 著作権表示については、上記のような刑事罰を科す規定はない。しかし、審査制度のない著作権表示の虚偽に刑事責任まで負わせる程度の違法性がないというだけであり、これを取り上げて虚偽の著作権表示が適法であると判断するのは相当でない。
 さらに、商標権の表示(商標法73条、同法施行規則17条の「商標登録表示」とは異なる)。として、Rの表示を行うことがあるが、登録商標でないものにこの表示をすれば虚偽表示になり得るとされる(甲24)。このように、商標では、商標登録表示以外についても、商標法80条、同74条の適用可能性があるとされている。商標法4条1項16号は、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」について、商標登録を受けることができないとされる。そして、同条項の審査基準においては、「5.商標の付記的部分に『JIS』、『JAS』、『特許』、『実用新案』、『意匠』等の文字又は記号があるときは、これらの文字等が補正により削除されない限り本号の規定を適用するものとする。」とされる。なお、ここでは「商標」が除外されているが、そもそも商標について「商標」の文字等を付記しても誤認は生じないためであると思われる。そして、この審査基準においては、「意匠」についても対象としており、また「等」として、限定列挙している趣旨でもないから、「著作権」についても対象としていると考えられる。
ウ 二次的著作物との関係
 被告は、被告表示が原画の二次的著作物の著作権表示であると主張する。しかし、二次的著作物との関係でも、被告表示は品質等誤認表示に該当する。
 まず、商品等の質量等に関する一部の情報のみを強調して表示する結果、その商品等全体の質量等について誤認するおそれがあれば、その強調された情報自体は正しい表示であったとしても、質量等誤認表示に当たることがある。
 たしかに、原画について著作権が満了していても、その組合せによっては全体として二次的著作物となることはあり得る。しかし、原画を組み合わせただけ、または若干の加除増減を行った絵画について、原画を超えて二次的著作物として著作権が成立するのは極めて限定的な範囲である。たとえ二次的著作物として著作権が成立している局面があるとしても、あたかも個々の原画自体に著作権が残存しているような紛らわしい被告表示を行うことは、二次的著作物が成立しているという一部の情報のみを強調して、全体の質・内容について誤認を生じさせるおそれがある。
エ 13号の不正競争行為と需要者の関係
 被告表示が、著作権保護期間の満了した原画付近に付された場合、原画について、いまだ著作権が存続しているとの誤認を与える。
 そしてこのような誤認、 の結果、被告から実際に許諾を受けた需要者(取引者)は、実際には著作権により保護されていないにもかかわらず、著作権により保護されるものとして、被告から不必要な許諾を得ている。
 また、被告から許諾を受けようとする取引者は、本来であれば被告から許諾を得る必要がないにもかかわらず、事実上誤った認識のもとに許諾を受けていることになる。そうでない者は、誤認表示を利用している、より悪質な者である。
 さらに、商品を購入する消費者も、著作権で保護されている絵柄が付された商品であるとの誤認あるいは正当な著作権を有する者の許諾を得た商品や業務活動であるなどとの誤認を生じる。
 いずれにしても、取引者や消費者である需要者が直接的な損害を受けることは13号の不正競争行為の要件事実とはなっていないので、事情にすぎないが、上記の誤認によって影響を受ける需要者の観点から付言するものである。以上のように、被告は、被告表示を行うことによって、需要者である取引者・消費者に対し、いまだ著作権保護を受けているとの警告的作用を有する被告表示を行い、著作権管理業務において、著作権保護期間が満了して著作権の保護を受けない原画自体について、著作権の保護を受けているものとしてライセンシーに使用を許諾し、あるいは、著作権ではなお保護されているかのような観を呈する誤認的表示を行っているのである。
オ 営業上の利益の侵害
 被告の13号の不正競争行為により、原告は、不正競争防止法3条1項の「営業上の利益を侵害されるおそれ」がある。
 すなわち、13号の不正競争行為と侵害された営業上の利益の直接的なつながりが立証しにくいときであっても、営業上の利益を侵害されるおそれは認められる。
 本件では、原告は、著作権保護期間の満了したベアトリクス・ポターの原画について、それを使用した原告製品の販売を実際に計画し、準備している。したがって、原告は、実際にベアトリクス・ポターの原画を付した製品を販売する際には、事実上、他者が同原画について著作権に基づく著作権管理業務を行っているという表示を付した商品が現実に市場で競合するなど密接な利害関係を有している。そして、実際にも本件では被告が表示を止めないために、いまだに原告製品の販売を行うのに支障を来す状況にある。
 被告の役務はベアトリク、 ス・ポター著作の絵本を主たる対象とした「ピーターラビット」に関連する商品化許諾業務であるが、その許諾業務において被告表示を使用しているだけでなく、許諾を受ける者に対し、許諾の条件として被告表示を付することを要求している。このように、被告は上記役務を提供するに当たり、許諾を受ける者に対しても被告表示をさせ、許諾を受けた者の売上げから許諾料を徴収するなどして経済的な利益を上げているので、被告の提供する役務を全体として見た場合、被告自身は商品化許諾業務を行っているだけでなく、許諾を受けた者の商品の製造販売についても利害関係を有し、これに密接に関わっている。したがって、原告が公正な条件の下で営業活動を行うことの利益又は公正な事業者が享有する競争上の地位を脅かされているかを検討する場合には、単に被告商品化許諾業務のみを対象とするだけでは不十分であり、被告から許諾を受けた者が商品を製造販売することも踏まえて判断を行う必要がある。そして、原告は、原告製品の販売を予定しており、これと被告から許諾を受けた者が商品の製造販売を行うことは競争関係にある。そのため、被告から許諾を受けた者がその商品にいまだ著作権の保護が及ぶような被告表示があるために、それを見た百貨店の販売担当者が原告製品の販売を中止するよう求めることとなり、原告はその販売を行えなくなっているという営業上の損害を被っているといえる。
カ 13号の不正競争行為の成否に関するまとめ
 以上のとおり、被告は、被告表示を行い、商品の品質等誤認表示あるいは役務の質等誤認表示を行っている。そして、原告は被告の品質等誤認表示により、少なくとも営業上の利益を侵害されるおそれがあるから、不正競争防止法3条に基づき、被告表示の使用等の差止めを求めるとともに、同法4条に基づき、損害賠償を求めることができる。
キ 民法709条の不法行為の成否
(ア) 著作権表示については、万国著作権条約上又は上記国内法においては明文で虚偽の又は不当な表示を規制する規定はない。しかし、不当な著作権表示が法的に全く何らの規制も受けず、自由に使用することができるものではないことはもちろんである。少なくとも表示する者は誤解をされない表示を行う条理上の義務、あるいは、虚偽の表示をしてはならない条理上の義務を負う。そうすると、著作権表示と紛らわしい表示、まさに被告及びFW社が現在行っている表示についても同様に、一般に需要者に誤解を与えるのであれば、当然、そのような表示は許されないものと考えられる(ちなみに、産業財産権の虚偽表示には、刑事罰が科されている。特許法198条、同188条、実用新案法58条、同52条、意匠法71条、同65条、商標法80条、同74条)。
(イ) したがって、被告は、そのような表示を行う合理的な理由も必要も何もなく被告表示を行ってはならない義務を負っているのであり、その義務に違反してそのような表示を行うことは、原告に対する不法行為を構成する。仮に、本件のような事態が具体的に発生しているのにかかわらず、これを知りつつ具体的な対策をとらずに放置するときには、さらに強度の違法性を帯びることは明らかである。
ク 万国著作権条約上の要請について
 被告は、被告が本件C表示をさせているのは、万国著作権条約上、被告の権利確保のために法律上要求される行為であるから、13号の不正競争行為に該当することはないし、民法709条の不法行為を構成することもないと主張する。しかし、被告の上記主張は、以下のとおり失当である。すなわち、第1に、本件の著作権の虚偽表示は、日本で被告の指示で付されている。被告の被許諾者間との契約により、日本で虚偽表示を付した商品が製造され販売されているのである。この事実を無視して、他国で保護される必要があるから、日本で虚偽表示を付した商品の製造販売が許される理由はない。第2に、百歩譲って仮に被告の主張するように「著作物の保護について無方式主義を採用する国において発行された著作物が、方式主義の国で保護されるためには、すべての著作物について万国著作権条約が規定する著作権表示を行わなければならない」との立場に立って考えても、現実には、ベアトリクス・ポターの原画が、万国著作権条約に規定する著作権表示により保護を受ける場面はほとんど考えられない。
(ア) 該当国
 万国著作権条約上の著作権表示により著作物の保護を受けるためには、ベルヌ条約を締結せず、かつ、万国著作権条約を締結し、かつ、方式主義を採用していることを要する。まず、平成17年4月末において、ベルヌ条約を締結せず、かつ、万国著作権条約を締結している国は、ラオスとカンボジアの2か国のみである(甲20)。次に、著作物の保護方式については、ラオスでは著作権法制自体、整備されておらず、そもそも著作物の保護が行われていない(甲21。これを示すに、「商人」という語以外、「営業」とか「企業」という語も最近作ったぐらいである。弁護士も首都に数名いるのみである。)。他方、カンボジアでは、自国民及び自国内で創作等がなされた著作物については無方式主義を採用し、他の国において創作された著作物については登録を要し方式主義を採用するようである(甲22。ポルポト政権が貨幣を廃止していたことは周知のところである。民法すら最近出来たところである。)。したがって、現時点で著作権表示を行う意義があり得るのは、カンボジア1か国だけである。ただ、カンボジアも、最近になり上記の内容の著作権法が制定されたばかりである(甲23)。
 まず、カンボジアで本件絵柄にカンボジア著作権法による保護が与えられるかどうかを具体的にみると、本件絵柄はベアトリクス・ポターの死後50年以上になるから、カンボジア著作権法30条により、著作権法による保護は与えられない。カンボジア(のみならず他の殆どの国)では米国著作権法401条(a)のような著作権表示を付することを強制し要求することはないから、C表示は必要でない。ちなみに、米国著作権法でも虚偽の著作権表示は当該著作物の著作権を無効にするから、虚偽の著作権表示を前提にしても意味がない。万国著作権条約3条についての被告の立論は、権利行使に著作権表示が厳格に要求された過去の米国著作権法のことを念頭にしていると思われるが、その米国でも属地性の原則から、著作権表示を付さないで著作物を外国で発行していても、現在では米国で著作権を取得する権利を喪失しないとされるし、まして期間が切れた後、警告であるC表示は必要がない。
 そして、著作権法のない現在のラオスで本件絵柄が著作物として保護されることはなく、ラオスが著作物を著作者の死後70年保護する規定を設ける可能性はない。加えて、米国と同様の権利行使に著作権表示を要求する方式の法制をとる可能性はない。
(イ) 被告の活動範囲
 被告のウェブページでは、被告が属するコピーライツ・グループは、全世界に広がり活動しているかのように表示されている(甲8の2)。また、被告は、ベアトリクス・ポターの「ピーターラビット」は、全世界において商品化され、流通しているとする。しかし、上記のウェブページの記載を額面どおりにみると、コピーライツ・グループは、「事務所を英国・ドイツ・日本に、提携代理店を米国に置」いているものの、実際に著作権表示による保護を受ける必要があるカンボジアでは商品化権事業を全く行っていない。個人レベルでは別として、日本とカンボジアの間で、現実に被告がどれ程の商品を輸出して販売を行っているかは疑問である。ましてや日本語表記したポターの著作物を利用した日本製品の輸出販売がカンボジアに対してどれ程の量なされているかについての主張も立証も被告から全くない。
 また、甲第8号証の2のウェブページの記載では、コピーライツアジアは被告と同じ連絡先を使用している。このことからしても、コピーライツアジアが実体として存在するとしても、その主要市場は日本が中心となっていることが明らかである。
【被告の主張】
ア 13号の不正競争行為の成否
(ア) 13号の不正競争行為不該当性
 被告表示は誤認惹起表示とはいえない。
a まず、取引者又は消費者等の需要者は、被告表示1又は2を見て、被告の著作権の表示であると認識し、被告表示1又は2が付された絵柄等につき被告が著作権を有すると誤認することはあり得ない。被告表示1のごとき単なる「C」という表示は、いわゆるC表示ではない。甲17ないし19号証では、「C」というマークが書籍の表紙及び/又は裏表紙に表示されているが、これらは、当該書籍につき著者やその他の者が著作権を有することを示すために表示されているものではなく、当該表示を見た者をしてそのように認識させることもない。よって、被告表示1を見た者が、当該表示が付された絵柄等につき被告が著作権を有すると認識することはあり得ないし、何者かが著作権を有することを示すものであると認識することもない。
 被告表示2は、被告の商号のロゴマークであり、これを見た者が認識するのは、「Copyrights」という被告の商号であり、「Licensedby Copyrights」とあれば、被告によりライセンスを受けている(本件の場合、商標権等の権利に関する使用許諾である。)との認識が生ずるものである。よって、需要者が、被告表示2を「著作権表示」であると認識し、被告に著作権があると誤認することはあり得ない。原告は、被告表示2が「著作権表示」あるいはそれに紛らわしい表示であることの根拠として、万国著作権条約3条1項で「…Cの記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになる…」と規定されていることをあげるが、「Copyrights」と「CCopyrights」とが明確に区別されて認識されるものであることはいうまでもない。
b 仮に、需要者において、本件C表示又は被告表示3ないし5を見て、本件絵柄について日本国内において著作権が現存すると誤認することがあったとしても、それは不正競争防止法2条1項13号の「商品の品質、内容についての誤認」又は「役務の質、内容についての誤認」ではない。よって、被告各表示を付することは、「不正競争」に該当しない。
 なお、Cには、単に「著作物」であることを示す意味もあり得る。そして、「著作物」であれば、著作権の保護期間が満了した後でも、一定限度で「著作物」としての要保護性は認められる。すなわち、「著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護」の規定である著作権法60条の違反については刑事罰が定められており(同法120条)、この点に期間制限はない。そうすると、全く著作物性のないものと保護期間が満了した著作物とは、要保護性が異なるのであるから、「著作物」であることを外部に表示することには意味がある。
c ある商品について著作権が現存するか否かは、「品質」の字義からして明らかに当該商品の「品質」にかかわるものではなく、「品質についての誤認」に該当しない。
d 他方、「内容」の字義からすると、著作権が現存するか否かもこれに含まれると考える余地もないではない。しかしながら、不正競争防止法2条1項13号の趣旨からすれば、著作権が現存するか否かが同号にいう「商品の内容」であると解する余地はない。すなわち、本号は、商品の原産地や品質等、あるいは役務の質や内容等が、取引を選択し決定する際の重要な情報であり、これらの事項について誤認表示が行われれば、不当な需要が喚起され、公正な競争秩序が乱れることになるので、かかる誤認表示を不正競争と位置づけて規制するものである。本来、誤認表示は、不当景品類及び不当表示防止法4条によって一般的に規制されるものであるところ、特に上記の趣旨から「原産地、品、 質(質)、内容、製造方法、用途、数量」を限定列挙して、競争者間における民事的規制として誤認表示の規制を規定したものである。よって、本号によって不正競争として規制される誤認表示とは、不当な需要を喚起する場合、すなわち、当該誤認により、誤認がなければ取引を選択しなかったであろう需要者を取引に向かわせ、もって競業者より優位な立場に立つような場合に限られる。すなわち、本号にいう「商品の内容」とは、その誤認によって不当な需要が喚起されるものでなければならない。
 この点、ある商品につき著作権が現存するか否かは、不当な需要を喚起するものではない。すなわち、消費者が商品を購入する際に、著作権が現存するか否かをもって購入するか否かの判断要素とすることはない。消費者は購入するのみであるから、被告から苦情を受けることなど想定されないのであって、「使用すると、被告から苦情を受けるなどのトラブルが起こるとの誤解」は、消費者との間では生じないのである。他方、日本国内の商品製造者において、仮に、著作権が現存するか否か、「使用すると、被告から苦情を受けるなどのトラブルが起こるとの誤解」が、被告との間でベアトリクス・ポターの絵柄のライセンス契約を締結するか否かについての判断に影響することがあったとしても、原告はこのようなライセンス契約締結について、被告の「競業者」ではない。よって、被告表示によって不当な需要が喚起されることはなく、被告が原告に対し優位な立場に立つこともない。本件でも、絵本の絵柄の内容の良否に影響するかどうかを見るべきであるが、海外では当然付されているC表示が、日本で付されるか付されないかにより、絵本の絵柄の内容の良し悪しに影響することは考えられない。絵本の絵柄を鑑賞するのにC表示の有無は全く関係ないのであるから、絵本の絵柄の品質、内容が誤認されることはない。
 仮に百歩譲って、原告がベアトリクス・ポターの絵柄のライセンスを第三者に供与する事業を行おうとしても、それはFW社の有する権利によって不正競争防止法や商標法により禁止されるものであるから、被告と競争関係に立つ可能性は全くない。すなわち、著作権がないのであれば、原告とベアトリクス・ポターの絵柄のライセンス契約を締結しようと判断する商品製造者は、存在し得ない。著作権のみを配慮し他の権利は全く考慮しないという非常に特殊な商品製造者を需要者と捉えることは非常識極まりない。
 よって、各被告表示は、本号の「誤認表示」に該当しない。
e ところで、原告が、役務の質・内容について問題としているのは、特定していないが、被告表示2であると思われる(その他の被告表示については、その表示主体は被告ではないし、原告は、被告が被告の役務の表示として使用した事実を主張・立証していない。また、実際に被告は使用しておらず被告がそのような事実を認めてもいない。)。
 他方、被告表示2についても、被告表示2により何らの「誤認」も生じないことが明らかであることは前記のとおりであるから、主張自体失当である。なお、被告表示2が役務として使用されているとの主張により、原告は被告表示2が被告の営業表示、すなわち商号として使用されていることを認めているものであって、被告はこれを有利に援用する。
f 以上より、被告表示を商品に付することはそもそも不正競争行為にあたり得ず、不正競争防止法に基づく原告の主張は主張自体失当である。
g 原告は、特許法、実用新案法、意匠法、商標法において虚偽表示が明文で規制されていることをもって、著作権表示についても虚偽が許されないことを積極的に裏付けていると主張する。しかし、損害賠償額について推定規定や罰則等、類似する規定を有する著作権法とこれら四法においてあえて著作権法において虚偽表示の禁止規定をおいていないことを重視すべきであって、これら四法に虚偽表示の禁止規定があるからといって、本件C表示や被告表示2ないし5の違法性や不正競争行為該当性が裏付けられることには全くならない。すなわち、四法については権利の有無が登録により形式的に明らかであり、また公的機関の審査に対する公衆の信頼もある。これに対して、著作権については、実際の権利の有無は不明瞭であり(創作性の有無など判断が微妙な場合が多々ある。)、かつ、公的機関が関与していないのであるから、それに対する信頼も考慮する必要がないという大きな本質的な差異がある。なお、原告は、著作権表示については上記のような刑事罰を科す規定はないと述べるが、著作権法にはそもそも禁止規定からしてない。
(イ) 被告表示をするについての正当な理由
 以下のとおり、被告が本件C表示をしているのは、被告の権利確保のために法律上要求される行為であって、かかる行為が不法行為となる余地はない。
a 万国著作権条約の要請
 Cマークは、方式主義の国と無方式主義のベルヌ同盟国とを結ぶ架け橋の条約として締結された万国著作権条約上、著作権保護の要件とされるものである。万国著作権条約3条1項は、次のとおり保護要件を定めている。すなわち、「締約国は、自国の法令に基づき著作権の保護の条件として納入、登録、表示、公証人による証明、手数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には、この条約に基づいて保護を受ける著作物であって自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものにつき、著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともにCの記号を表示している限り、その要求が満たされたものと認める。Cの記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない。」と。したがって、万国著作権条約の保護を受けるためには「すべての複製物」にC表示を付することが要求されているのであって、C表示を付さない複製物が存在した場合、同条約による保護を受け得なくなってしまうのである。
 本件絵柄及びそのキャラクターの名称等は、全世界において商品化され、当該商品は全世界において流通しているものである。他方、本件絵柄の著作権が消滅したのは、後記bのとおり日本のみである。よって、海外で存続する本件絵柄の著作権について、全世界における保護を図る必要がある。そして、現に、方式主義の国は存続し、このような国における保護は、万国著作権条約に頼らねばならないところ、すべての複製物にC表示を付するのがその要求である。とすれば、FW社が被告に対し、日本のライセンシーに対してもその製造販売する商品にC表示を義務付けるよう指示し、被告がそれに従うことは当然である。
b 海外で著作権が存続していること
 C表示は、無方式主義の国にあっても、事実上著作権者を明らかにする目的で、さらには著作権侵害者に対して損害賠償を求める場合に、C表示の存在により侵害者の過失の立証が容易になる可能性があるという意義もあって、慣習的に著作物に付されるものである。
 ところで、ベルヌ条約あるいは万国著作権条約加盟国中で、本件絵柄の著作権が消滅したのは日本だけである(ただし、米国では、登録を欠いたため元から著作権が成立していない。)。この点、日本国内会社向けライセンス対象商品であったとしても、日本でC表示を付さない複製物が存在したことが立証されれば、万国著作権条約による保護を受け得なくなるのである。さらには、いったん製造販売された後の流通は権利者側ではコントロールしきれないものであり、国外に販売されていく可能性がある。特に、本件絵本のキャラクターは全世界的に人気の高いキャラクターであり、その商品化商品も全世界的に人気があるので、国外流通の可能性はより高い。とすれば、権利者としては、全世界においてC表示を付する意義を認めて付している以上、日本国内会社向けライセンス対象商品であったとしても一律に本件C表示を付さざるを得ない。他方、たとえば甲13号証のウェブサイトなどは、そもそも全世界からアクセスできるものであって、本件C表示は必須である。
c 二次的著作物の存在
 本件絵本のキャラクターに関しては、FW社を著作権者として、本件絵柄を原著作物とする二次的著作物たる新たな創作的な絵柄が創作されており、これら二次的著作物にかかる著作権はいまだ存続している。現在商品化されている商品にはこれらの二次的著作物を含むものも多い。これらの著作物については、C表示が付されるべきものである。
(a) FW社が行う本件絵本のキャラクターの商品化事業において、商品化事業の参加者となったメーカーは、基本的に、被告よりインターネット上の資料庫(URL: http://www.warneimages.com)で、メーカーごとのユーザーネーム及びパスワードをもって提供されるイメージ画像から一つを選択して、あるいは複数を組み合わせて、商品デザインを作成する。このインターネット上の資料庫には、本件絵柄(原画)とともに、ベアトリクス・ポターの死後、FW社のデザイナーが描き起こしたイラスト(RCAナンバーのもの)がストックされている。これらRCAナンバーのイラストは、絵柄は本件絵柄とほぼ同一であるものの色調が異なるもの、本件絵本の登場人物の後姿や本件絵柄で他の動植物等により隠されている部分等、本件絵本において描かれていない面を描いたもの、本件絵本のキャラクターにつき本件絵柄とは異なるポーズで描いたもの、本件絵本のキャラクターと組み合わせて使われる植物、昆虫、小鳥、その他背景を新たに創作し描いたものなどであり、いずれも本件絵柄とは別個の新たな著作物あるいは本件絵柄を原著作物とする二次的著作物たり得るものである。
 なお、種類が豊富であること及び解像度の問題から、商品化事業の参加者において商品のデザインをする際には、これらRCAナンバーの描き起こしたイラストが使用される場合が最近特に増加している。そして、上述のとおり、商品化事業の参加者は、これらのイラストを組み合わせて、「ピーターラビットシリーズ」の商品化商品をデザインする。その組合せ及び配置により、このデザインの時点で新たな著作物又は二次的著作物が創作される場合もある。また、商品によっては、本件絵柄またはRCAナンバーのイラストが三次元化される場合もある。この場合も、三次元化において創作性が認められ、二次的著作物たりうる。
 なお、資料庫のストック中に希望する背景等が見つからない場合、あるいは各絵柄を組み合わせる際にそのつなぎとして更に背景等が必要となる場合、商品化事業の参加者からの依頼を受けて、FW社側で更に新しくイラストを作成する場合もある。
 また、商品化事業の常として、商品化事業の参加者のデザインについては、被告を通してFW社が許諾しない限り商品化することはできないし、本件商品化商品の「ピーターラビットシリーズ」の絵柄にかかるデザイン部分の著作権が商品化事業の参加者において発生する場合は、商品化事業の参加者との契約上、発生とともに当然にFW社に当該著作権が移転することとされている。
(b) このように、本件商品化事業に係る商品は、新たな著作物又は二次的著作物を含み、または全体として二次的著作物となっているものであるから、これらの二次的著作物については、通常著作物に表示が付さC れるのと同様に、C表示が付されるべきものである。
 この点原告は、二次的著作物として著作権が成立するのは、限られた範囲であり、仮に被告が主張するように二次的著作物全体についての著作権表示であったとしても、それは明らかに限られた一部においてのものであって、それ以外の大部分については、そもそも著作権は認められない種類のものであり、原画の基本的な要素を構成する主要部分については虚偽になるのであるから、上記の「誤認させるような表示」に該当し、不当であると主張する。
 しかし、まず、二次的著作物として著作権が成立するのは限られた範囲であり、その他の大部分については著作権が認められないという事実主張を否認する。前記のとおり、被告商品化許諾業務に係る商品(被告ライセンス商品)については、かなりの範囲で新たな著作物が使用されている場合が多く、またそれらと本件絵柄が一体となって全体として二次的著作物ともなり得ているものである。かかる状況下にあって、ある商品に描かれた新しい著作物あるいは二次的著作物たる絵柄について、同一商品上に一体として著作権の消滅した絵柄が描かれている限り、一切C表示を付することができないと考えるのは不当である。本件でも、著作物性が認められ得る被告ライセンス商品上の絵柄について、その中に著作権の消滅した絵柄が描かれているからといって、C表示を付してはならない理由はない。なお、この場合、新しい著作物部分あるいは二次的著作物部分についてのC表示であることを当該部分を摘示して説明した上で付するのは、現実的でない。よって、被告商品化許諾業務において被告が被許諾者に求めているのと同様に、商品の適当な場所に、本件C表示を付することを要求せざるを得ないのである。
 なお、原画の著作権が消滅している場合にも、当該原画の二次的著作物が存在するとしてC表示を付するというのは、他の商品化事業にあっても行われていることである。例えば「不思議の国のアリス」のサー・ジョン・テニエルによる挿絵は既に著作権が消滅しているが、同挿絵に基づく「不思議の国のアリス」のキャラクターたちの商品化事業を行う英国マクミラン社は、原画に彩色したものについては著作権が生じているとしてこの著作権の使用許諾に基づき商品化事業を行っており、その商品化商品製造にあたっては、「THE MACMILLAN/ALICE/1865/C1911/1995/1996 Macmillan Publishers Limited」という表示を付けさせている。(乙30)
(ウ) 本件ライセンス表示
 「Copyrights」というのは被告が属するCopyrights Groupのロゴ表記である(甲8の1〜3 「Copyrights )。Japan」という社名は、著作物のない箇所などにも、様々な場面で使用しているものであり、商号につきどのようなロゴを用いるかは自由である。
 原告は、仮にこれが被告の「ロゴマーク」であったとしても、それを見た取引者及び需要者が、著作権を有すると誤認するものであると主張するが、全く事実を無視した主張といわざるを得ない。原告が主張するところの本件C表示としてFW社名が摘示されているそのすぐ下に「Licensed by Copyrights Group」と表記された場合に、需要者が被告に著作権があると誤認することはない。
(エ) 適法な営業上の利益の侵害の不存在
 そもそも原告が原告製品の製造販売を行うことは違法であり、原告に法的保護に値する営業上の利益はない。すなわち、タオルは第24類の布製身の回り品に該当するところ、原告製品目録1及び4のタオルについては商標登録第4798294号の商標権(乙1及び2)を、同目録2及び5のタオルについては商標登録第4798298号の商標権(乙5及び6)を、同目録3及び6のタオルについては商標登録第4798295号の商標権(乙3及び4)を、それぞれ侵害する。また、原告製品に表示された本件絵柄のいずれもが、FW社及び商品化許諾業務を行っているグループの商品表示又は営業表示として周知著名であって、原告はかかるFW社の周知著名表示を使用するものであるから、不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争行為にも該当する。仮に原告の取引先が原告との原告製品の取引を拒絶したとの主張が事実であるとしても、当該取引先は、かかる商標権及び不正競争防止法上の理由から(あるいは原告製品のデザインなどの品質上の理由かもしれないし、価格上の理由かもしれないし、さらには、取引先特有の理由かもしれない。)、取引を拒絶したのであって、著作権があると誤信して取引を拒絶したとは到底いえない。したがって、原告に侵害されるべき営業上の利益は全く存しない。
イ 民法709条の不法行為の成否
 原告は、本件絵柄の著作権消滅後も、本件C表示や本件ライセンス表示をしていることをもって、被告が原告の権利侵害行為を行っていると主張する。しかし、権利侵害行為というためには、上記各表示をすることが、被告の作為義務あるいは不作為義務違反といえることが必要であるが、原告は、これにつき単に「条理上の義務」がある、と主張するのみである。そして、原告は、なぜそのような条理上の義務が発生するのかについて何ら合理的な主張をしていない。
 したがって、被告表示をすることが民法709条の不法行為に該当するとの原告の主張も理由がない。
(3) 争点(3)(被告の不正競争行為ないし不法行為と原告の損害との因果関係及び損害額)について
【原告の主張】
ア 百貨店等との原告製品の販売交渉の経緯
 原告は、株式会社高島屋、株式会社大丸、株式会社ミレニアムリテイリング(西武・そごう)、株式会社阪急百貨店、株式会社近鉄百貨店において原告製品の販売を計画していたが、これら取引先の担当部署からは、「現在、各百貨店の通常売場や催事場において、ピーターラビットの絵柄を使用した商品がライセンス商品と称してCを表示して販売されている」、「ベアトリクス・ポター原作の『ピーターラビットのおはなし』の著作権が終了し、パブリックドメインになったと言われても、よくわからない」、「お客様から何かのクレーム・お問合せがあった場合に、同じような絵に著作権表示があると言われれば誰でも対応できる自信がない」などといった理由をあげて、原告製品の販売を拒否されている(甲4、5)。そのため原告製品の販売が、事実上できない事態となっている。
 なお、被告は、通常、商品化商品を売り込む営業活動を行う場合は実際のサンプル商品を作成した上でそのようなサンプルを見せて売り込むものであると主張する。しかし、本件では、原告製品を販売するのは原告自身であり、また原告が販売することの了解を求めた者は、百貨店において商品販売を専門に行っている担当者であり、一般的な商品知識はもちろん原告の他の製品についてもよく知っている専門家である。したがって、原告がわざわざサンプル商品を持参しなければならないという状況ではない。
 販売交渉を行った百貨店及びその経過の概要は、おおむね以下のとおりである。
(ア) 販売活動・交渉の実施
 原告は、独自に単独で店舗を構えるほか、百貨店やショッピングセンター内などの一角に直営店などを開設して、子供服などの販売の営業を行っている。この百貨店内などに開設されている原告店舗は店舗貸しになっており、店舗内での取扱商品については入店している百貨店の了解を得て販売を行わなければならない。そこで、原告は、平成17年9月に、原告店舗が開設されている複数の百貨店に原告製品の企画を説明し百貨店内の原告店舗での販売を相談した。その際、別紙原告製品目録と同様のものを原告製品の見本として提示した。
(イ) 販売交渉先からの回答
 しかし、百貨店の担当者からは、店頭での取扱いについて了解を得られなかったため、原告は原告製品を販売することができない。百貨店の担当者は、いずれも原告製品の店頭での販売を躊躇している理由として、被告の著作権表示を挙げる(C表示は被告も自認しているとおり、第三者に対する警告的作用を有している。)。
イ 原告の損害との因果関係及び損害
 原告が原告製品を販売できないのは、従来タオル販売実績のある百貨店の担当者より、店舗内での販売について了解を得られないためである。
 そして、そのような了解を得られないのは、著作権保護期間が満了したベアトリクス・ポターの原画について、被告がいまだに被告表示を行っているためである(すなわち、C表示の警告的作用を行っているからである。)。すなわち、被告表示がある以上、百貨店の担当者がベアトリクス・ポターの原画の著作権にまつわる紛争やトラブルを避けるためには、被告の警告を考慮して原告製品の取扱いを控えざるを得ないのである。
 また、著作権表示に警告的作用があることは被告も認めるところであるが、まさにその作用が効果を奏し、これにより原告の百貨店での販売が妨害されているのである。特に原告が主要な取引先としている百貨店は、一般に取扱商品の選択には慎重であることがよく知られているところである。したがって、被告の警告表示があるために、百貨店が原告製品の取扱いを控えているといえる。
 このように、被告の不正競争行為ないし不法行為によって、原告は、計画していた原告製品の製造販売ができず、経済的な損害を受けており、その損害額は、少なくとも200万円を下らない。
 なお、被告は、商標権について述べるが、ベアトリクス・ポターの原画自体には登録商標表示はなされていないので、これは取引の拒絶とは無関係である。現に、商標権の存在を理由に取引を拒絶した百貨店は存在しない。
【被告の主張】
 原告は、本件C表示と原告の損害との因果関係の主張として、本件C表示の警告的作用ゆえに、原告製品の販売について「相談」した百貨店から、当該百貨店における「原告製品」の販売を断られる結果となり、よって当該百貨店において原告製品を販売できなくなった旨主張する。しかし、原告の主張立証内容からは、そもそも原告が主張するような「相談」が実際に行われたのか甚だ疑問であり、到底「本件C表示の警告的作用ゆえに、百貨店から原告製品の販売を断られた」事実を認めることはできない。またそのような事実があったと仮定したとしても、果たしてそのような事実ゆえに原告が当該百貨店において何故自らの責任と判断において原告製品を販売できないことになるのか甚だ疑問であり、被告はこれを否認する。
 また、原告の主張内容からすると、必ずしも明らかではないが、原告は百貨店に対し、百貨店内の原告直営店での販売について、バイヤーなどの「交渉担当者」に「相談」したということのようである。しかしながら、通常、直営店での大半の商品取扱いについては、当該直営店を運営する者の判断に委ねられるのが原則であり、バイヤーに話して交渉する必要があるのは百貨店等の平場等いわゆる一般売り場で取り扱ってもらう場合と考えられる。したがって、そもそも原告が全ての取扱い予定商品につき、バイヤーなどの「交渉担当者」に、個別・具体的に当該商品販売の可否について「相談」をしたのかどうか自体、甚だ疑問である。また、原告がそのような「相談」をしたと仮定し、さらに当該相談の結果交渉担当者が原告製品の販売に賛成しなかったと仮定したとしても、それゆえに直営店での販売が不可能となるものではないと思われる。
 なお、通常、商品化商品を売り込む営業活動を行う場合は実際のサンプル商品を作成した上でそのようなサンプルを見せて売り込むものであるところ、本件では単なるプリプロダクションデザインにすぎず、これらのみをもって原告が原告製品の製造販売を具体的に予定し、さらには取引先に対して販売を行おうとしたと認めることはできない。
 さらに、原告従業員のX作成の陳述書(甲30)においては、百貨店の担当者の回答内容として、同人の主観によりまとめられた内容(例えば、各回答内容はいくつかのパターンにわかれるものの同パターンのものについては交渉先ごとに同一文言で記載されており、各回答内容が、各交渉担当者が実際に回答した文言内容ではなく、X氏の主観に基づくまとめであることが明らかである)が箇条書きされ。ているのみであり、実際にX氏と交渉担当者の間でどのようなやりとりがなされたのかは全く不明であり、到底具体的な主張立証がなされているとはいえない。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)(著作権に基づく差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無)について
(1) 原告は、被告の原告に対する本件絵柄の著作権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求めており、その訴えは、いわゆる権利の消極的確認の訴えの範疇に属するものである。そして、一般に、確認の訴えにおける確認の利益は、原告の権利又は法律的地位に現存する不安・危険を除去するために、判決によってこの権利関係の存否を確認することが必要かつ適切である場合に認められるところ、消極的確認訴訟の場合においては、被告が権利の存在を何らかの形で主張していれば、特段の事情のない限り、原告としてはその権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存することになるものというべきであり、これを除去するために判決をもってその不存在の確認を求める利益を有するものということができる。
(2) 原告は、著作権が消滅しているのに、被告が、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した様々な絵柄に本件C表示を付したり、コピーライツ社(Copyrights社)の社名の頭文字のCに○印を付し本件C表示と紛らわしい表示を使用して、著作権の保護期間が満了していると思われる絵画にも、いまだ被告が著作権を有するかのように一般消費者に誤解を与えかねないような虚偽の著作権表示を行っており、これにより、原告の取引先を始めとする第三者は、本件絵柄についても著作権侵害のおそれがあるのではないかと思い、余計な紛争に巻き込まれることをおそれ、原告と原告製品の取引を行わないのであり、原告には、原告製品を販売できないという現実の不利益が発生していると主張している。
(3) 以下に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア FW社の日本における商品化権及び販売促進化権のエージェント(代理人)は、当初、訴外福音館書店であったが、平成9年11月30日をもって両者間のエージェント契約は終了し、同年12月1日以降、被告がFW社と日本における商品化権及び販売促進化権のエージェント契約を締結し、それ以降、FW社が著作権等を有する著作物等について日本において商品化許諾業務を行う主体として、日本国内の企業とライセンス契約を締結する権限を取得した(甲6)。
イ 被告は、ライセンサーとして日本国内の企業をライセンシーとして商品化許諾契約(ライセンス契約)を締結するものであり、その標準となる標準契約書(甲7の1・2)には、著作権及び商標権の保護に関して次の記載がある。
(ア) ライセンシーは、実施権許諾製品に、クレジット、著作権及び商標標示文若しくは別表(省略)記載の記号を入れることに同意する。
(イ) ライセンシーは、本契約に基づいて許諾された著作権ならびに商標権を保護するために必要な範囲まで、ライセンサー及び所有者を援助することに同意する。その目的のために、ライセンサー若しくは所有者が望んだ場合は、ライセンサー若しくは所有者の費用負担において、ライセンサー若しくは所有者の名前において、あるいはライセンシーの名前において、あるいは当事者としてライセンシーと共に、権利侵害の訴訟若しくはその他の訴訟を起こすこともあり得るものとする。ライセンシーは、かかる著作権並びに商標権の侵害、若しくは実施権許諾製品、そのラベル付け、包装、それに関する宣伝・パブリシティツールの模倣に気づいたときは、すみやかにライセンサーに書面で通知し、ライセンサーは、それに関して訴訟を起こすかどうかについて決定する権限を有するものとする。ライセンシーは、所有者の代理人としてのライセンサーの文書による同意を初めに得ることなく、かかる侵害若しくは模倣に関連して、いかなる訴訟を起こすことも措置を講じることもしてはならない。
(ウ) また、被告は、そのウェブページ(甲8の1〜3)において、「コピーライツグループ」の業務内容を次のように説明している。
 「提供サービス
 コピーライツは、ライセンシーならびにライセンサーの代理人として、次のような業務を行っています。
(中略)
 5.会計・法務サービス」
 そして、上記の「5.会計・法務サービス」については、以下のような解説を行っている。
 「法務
 (中略)
 ●さらに、ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす、知的所有権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます。」
(エ) 被告は、平成16年12月3日(本件絵柄に対する著作権の消滅後である。)、FW社と連名で、繊研新聞に次のことを記載した全面広告を出し、本件C表示を表示した(甲10の1・2)。
 「作者のビアトリクス・ポターは、自分の作り出したキャラクターのクオリティに細心の注意を払いました。そしてビアトリクスの意思を継いで全ての知的財産権を管理する版権元のフレデリック・ウォーン社と版権管理のパートナーであるコピーライツ社(日本ではコピーライツ・ジャパン株式会社)は、キャラクターのあらゆる商品化・販売促進への使用にあたり、クオリティを維持するために尽力して来ました。ピーターラビットTMは、オリジナルのイメージ・クオリティを維持しながら、常に新たなデザイン化がなされています。」
 「ピーターラビットTMは、多くの著作権、商標権、不正競争防止法などによって保護されています。版権元の許認可なしでの不正な使用による商品化とその販売に対しては、知的財産権の侵害行為として断固法的措置を講じることを辞しません。コピーライツ・ジャパンは版権元の正規代理店として、愛される世界のキャラクター、ピーターラビットTMを守り続けてまいります。ピーターラビットTMの商品化・ライセンスと販売に関するお問い合わせは、コピーライツ・ジャパンにご連絡ください。」
ウ なお、被告が被告ライセンス商品について被告表示2の表示及び同3ないし5の表示を義務づけ、現にこれを表示したライセンス商品が販売されていることは、当事者間に争いがない。また、証拠(甲30)によれば、原告従業員のXは、原告が企画した原告製品を主要百貨店で販売してもらうため、各百貨店の商品仕入れ及び店頭販売の担当者に、その旨の相談をしたところ、同担当者の多くから、原告製品を店頭で販売することは待ってほしい、現在、各店の売り場等においてピーターラビットの絵柄を使用した商品がライセンス商品としてCを表示されて販売されている、ベアトリクス・ポター原作の「ピーターラビットのおはなし」の著作権が終了し、パブリックドメインに帰していると言われても、各店の店頭ではそのことがよく理解されず、お客様から著作権等に関してクレームや問合せがあった場合に現場の全社員がこれに対応できる自信がないなどと回答されたこと、原告は、結局、上記各百貨店等から原告製品の店頭での販売を断られたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
(4) そこで、C表示の意義についてみるに、万国著作権条約(パリ改正条約)は、2条において「いずれかの締約国の国民の発行された著作物及びいずれかの締約国において最初に発行された著作物は、他のいずれの締約国においても、当該他の締約国が自国において最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護及びこの条約が特に与える保護を受ける。」とした上で、3条1項において、「締約国は、自国の法令に基づき著作権の保護の条件として納入、登録、表示、公証人による証明、手数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には、この条約に基づいて保護を受ける著作物であって自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものにつき、著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともにCの記号を表示している限り、その要求が満たされたものと認める。Cの記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない。」と定めている。すなわち、Cの記号は、自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件としている万国著作権条約の締約国が、その締約国で著作権の保護を受けるための方式として要求しているものを満たしたと認めるための要件として、「著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに」これを表示することを要求したものである。
 このように、Cの記号は、ある著作物がいずれかの締約国で著作権の保護を受けるための条件として一定の方式を満たすことを要求している場合に、当該締約国において著作権の保護を受けるための方式を満たしたと認められるために表示されるものであって、それ自体として当該著作物について著作権を創設するものではないことは明らかである。また、日本のように、著作権の保護について上記のような方式主義を採用していない国においては、その表示が義務づけられているものではないことはもちろん、Cの記号の表示(C表示)の有無によって著作権の保護の有無が法的に左右されるものではない。したがって、日本においては、C表示が付されていないからといって著作権の保護を受けないというものではないし、逆に、C表示が付されているからといって、当然にそれが著作権の保護を受ける著作物と認められるものではなく、C表示の有無とこれを表示した著作物が日本国内において保護されるか否かは、法律上はまったく無関係である。
(5) しかしながら、C表示は、その現実的な機能として、著作者及び最初の発行年の記載と相まって、いまだ当該著作物について、当該著作者を著作権者とする著作権が存続している旨を積極的に表明するとの側面をも有するものであり、その著作物を無断で使用する場合には著作権侵害になることを需要者又は取引者に対し警告するという機能を有することを否定することはできない(C表示がかかる警告的機能を有すること自体は、被告もこれを認めている。)。
 他方、既に存続期間が経過するなどして著作権が消滅している著作物は、いわゆるパブリックドメインに帰したものとして何人も自由に使用できるものであるから、著作権が消滅し、パブリックドメインに帰した本件絵柄をそのまま使用した原告製品を販売することを計画している原告は、これを著作権に基づく権利行使を受けないで自由に販売し得るという法律的地位を有しているということができる。
 しかるに、被告がFW社の日本における著作権の管理業務を行う者として、ライセンシーに対し本件C表示を付することを義務づけ、その結果、被告ライセンス商品には、本件C表示が付されて現に販売されているところ、被告が表示させている本件C表示は、著作権の存続期間が満了している本件絵柄とそうでない二次的著作物を何ら区別することなく、包括的に著作権を表示するものとなっており(甲11など)、実際上の機能として、本件絵柄について著作権の存続期間が満了しているにもかかわらず、いまだ著作権が存続しているとの印象を与えるおそれのあるものであり、かつ、実態として警告的作用を有している。また、被告は、自らのウェブページにおいて、「ライセンシーと版権元の双方に影響を及ぼす、知的所有権の侵害や不正使用などの問題とも取り組んでいます。」などと表示し、さらに、新聞の全面広告でも「ピーターラビットTMは、多くの著作権・商標権・不正競争防止法などによって保護されています。版権元の許認可なしでの不正な使用による商品化とその販売に対しては、知的財産権の侵害行為として断固法的措置を講じることを辞しません。」などと表示して、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)と二次的著作物とを特に区別することなく、その著作権がいまだ存続していることを前提に、その侵害に対しては断固とした法的措置を執ることを言明している。そして、その結果、本件絵柄を使用した原告製品を取り扱うことを予定している百貨店等の取引者が、著作権の存続期間が満了した本件絵柄とそうでない二次的著作物の区別に疎いこともあって、被告からの著作権に基づく権利行使を受けることをおもんぱかり、これを一因として原告製品の取扱いを躊躇しているものである。そうすると、原告には、被告から著作権に基づく権利行使を受けることなく原告製品を販売し得るという法律的地位に不安・危険が生じているということができ、このような不安・危険を除去するためには、原告が、本件絵柄について被告が原告に対する著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する旨の判決を得るのが有効適切であるということができる。
 もっとも、実際に、上記取引者が、もっぱら被告から著作権に基づく権利行使を受けることのみをおもんぱかって、原告製品の取扱いを躊躇しているかどうかは、本件証拠上必ずしも明確であるとはいい難い(FW社は本件絵柄を登録商標とする商標権を取得しており(乙1ないし6)、上記取引者がFW社から商標権に基づく権利行使を受けることを危惧して原告製品の取扱いを躊躇している可能性もある。)。しかし、本件C表示の存在やウェブサイト等での被告の広告から上記取引者が被告から著作権に基づく権利行使を受けることを懸念することは十分あり得ることであり、他に原告製品の取扱いを妨げる事情があり得ること(上記の商標権に基づく権利行使を受けたり、被告の主張するように不正競争防止法に基づく権利行使を受けることがあり得ること)は、著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める利益が存在することを否定するものではない。
(6) 被告は、本件絵柄についての著作権が日本において消滅したことを認めており、被告が同著作権の存在や同著作権に基づき原告製品を製造販売する行為を差し止める権利の存在を主張した事実は全く存在せず、これらの権利の有無につき原告及び被告の間に争いはないから、本件で、原告の権利又は法律的地位に現実的な不安は生じていないと主張する。
 なるほど、被告は、本件訴訟において、上記著作権が日本において存続期間満了により消滅したことを認めており、また、同著作権終了後において、訴訟上あるいは訴訟外で原告に対し本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)について著作権がある旨を主張したことがあると認めるに足りる証拠はない。そして、権利の消極的確認訴訟において確認の利益を基礎づける事実としては、被告が原告に対し当該権利の存在を主張していて、原告・被告間に権利の存否をめぐる紛争の存在することがその典型例として考えられる。しかし、消極的確認訴訟の確認の利益を基礎づける事実がそのような場合に限られるものと解すべき根拠はなく、要は、被告の行為によって原告の法律的地位に不安・危険が存在し、これを除去するために判決をもって権利の不存在を確認することが有効、適切であれば確認の利益を基礎づける事実としては足りると解すべきである。本件において、被告は、FW社が著作権を有していた本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄について、FW社が同絵柄についていまだ同著作権を有しており、同絵柄を無断で使用する行為は著作権侵害行為であるとの警告を発する機能をも有する本件表示を表示させてC いるのであって、被告のウェブサイト等での広告と相まって、原告は、被告のかかる行為によって、著作権に基づく権利行使を受けるおそれがない状態で原告製品を販売し、又は取引先をして販売させ得る法律的地位に不安・危険を生じさせていることを否定することはできない。
 また、被告は、本件訴訟上、本件絵柄について著作権が消滅したことを認めていて、その権利の有無につき原告及び被告の間に争いはないから確認の利益を欠く旨主張するが、被告は、原告の同著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求に対し、同請求を認諾しているわけではなく、かえって、本案の答弁において、原告の上記請求を棄却する旨の判決を求めているから、被告が同著作権が消滅していることを認めているからといって、著作権に基づく差止請求権の有無に関して原告と被告との間で争いがないとはいえず、上記確認請求の訴えが確認の利益を欠くものということはできない(訴訟実務上も、確認請求に対し、請求棄却の判決を求めながら請求原因事実を認めるとの答弁がされることが少なくないが、このような場合に、同確認請求に係る訴えが確認の利益を欠く不適法なものとは解されていない。)。
 次に、被告は、本件確認請求は、原告の法律的地位に生じた不安を除去する方法として有効適切ではないと主張し、その理由として、原告製品の製造販売は、FW社が有する商標権の侵害であるし、また不正競争防止法上の不正競争行為にも該当し、原告は本来的に正当に原告製品を販売し得る地位にないから、そのような確認を求める正当な利益を有さず、被告が原告に対し著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認しても、被告にはなお本件C表示等を付する権利があり、他方原告にこれを禁じる権利はないから、被告による本件C表示等はなお存続し得ることを挙げる。
 しかし、本件絵柄を使用した原告製品に対する本件絵柄の著作権に基づく差止請求権の有無について原告・被告間に争いがないとはいえないことは、上記のとおりであり、これにより原告の法律的地位に不安・危険が生じている以上、原告と被告との間で、被告の原告に対する同著作権に基づく差止請求権の不存在を判決をもって確認する利益は肯定されるのであって、これとは別に、被告が原告に対し原告製品の販売が商標権侵害ないし不正競争行為に当たるとしてその差止めを求める権利を有すると解されるとしても、このことによって、本件確認請求に係る訴えが確認の利益を欠く不適法なものと解することはできない。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用できない。
(7) さらに、被告は、著作権の管理業務(商品化許諾業務)を行うにすぎない被告自身が著作権に基づく差止請求権を有すると主張することは、その事業内容に照らし全くあり得ないから、あり得ないことについて確認する利益はないとも主張する。
 しかし、日本における被告のライセンシーがライセンス商品に本件C表示等や被告表示3ないし5を表示しているのは、前記(3)の認定事実のとおり、ライセンス契約上、被告がライセンシーに対しその表示を義務づけているからにほかならず、その表示主体は被告と評価することができる。そして、被告をライセンサーとする日本国内の企業との間で締結されるべきライセンス契約に関する標準契約書には、「…その目的のために、ライセンサー若しくは所有者が望んだ場合は、ライセンサー若しくは所有者の費用負担において、ライセンサー若しくは所有者の名前において、あるいはライセンシーの名前において、あるいは当事者としてライセンシーと共に、権利侵害の訴訟若しくはその他の訴訟を起こすこともあり得るものとする。ライセンシーは、かかる著作権並びに商標権の侵害、若しくは実施権許諾製品、そのラベル付け、包装、それに関する宣伝・パブリシティツールの模倣に気づいたときは、すみやかにライセンサーに書面で通知し、ライセンサーは、それに関して訴訟を起こすかどうかについて決定する権限を有するものとする。ライセンシーは、所有者の代理人としてのライセンサーの文書による同意を初めに得ることなく、かかる侵害若しくは模倣に関連して、いかなる訴訟を起こすことも措置を講じることもしてはならない。」との、被告が「ライセンサー…の名前において、あるいは当事者としてライセンシーと共に」著作権に基づく訴訟上の権利行使を行うことを想定した条項が設けられているほか、被告は、そのウェブページや新聞広告において、自己の名の下に著作権を含む知的財産権の侵害に対しては断固とした法的措置を執る旨を言明している。以上の被告の行動にかんがみれば、少なくとも外観上、被告が自己又はライセンシーの名の下に、自らの判断で又はFW社の指示によって著作権に基づく差止請求権を行使するおそれがないとはいえない。したがって、被告の上記主張は採用できず、本件確認請求に係る訴えには確認の利益が認められる。
(8) そして、本件絵柄を含む本件絵本の言語的部分及び絵画的部分に係るFW社の著作権は、日本においてその保護期間がいずれも平成16年(2004年)5月21日をもって終了し、現在では消滅していることは、当事者間に争いがないから、被告は、原告に対し、本件絵柄の著作権に基づく差止請求権を有しないことは明らかである。
 よって、被告との間で、被告が原告に対し本件絵柄の著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める原告の請求は理由がある。
2 争点(2)(被告表示を表示する被告の行為は商品の品質・内容、役務の質・内容の誤認を惹起させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たるか。また被告の上記行為は民法709条の不法行為を構成するか。)について
(1) 13号の不正競争行為の成否について
ア 不正競争防止法2条1項13号は、商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信に、その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡するなどし、若しくはその表示をして役務を提供する行為を不正競争行為としている。
 自己の商品又は役務(以下「商品等」ということがある。)に関し、他の商品等と差別化を図り、自己の商品等の優秀性をアピールする適正な情報をその商品や商品の広告等に表示して需要者に示すことは、これにより商品等を適確に選択させる有益な情報を需要者に提供し、その商品等の正当な需要を喚起し、ひいては事業者間の競争をより健全かつ活気あるものにする。他方、商品等若しくはその広告等に表示する原産地、品質、内容等を偽り、需要者の誤認を招くような表示をすることは、適正な表示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち、需要者の需要を不当に喚起する一方、適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになる。そして、このような行為を放置すれば公正な競争秩序を阻害することにもつながる。不正競争防止法が上記行為を不正競争行為としたのは、このような趣旨に出たものと解される。
 本件において、原告は、@被告のライセンシーに対し、その販売するベアトリクス・ポターの絵柄の使用されているライセンス商品(タオル等)に被告表示をさせることにより、本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続しているように誤認させるような表示をしたものであるところ、この表示は上記商品の品質・内容について誤認させるような表示に該当する、また、A本件絵柄を含む商品化許諾業務という役務の使用、すなわち「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係るもの」(商標法2条3項6号)である被告ライセンシーの販売する商品に被告表示をさせ、あるいは、インターネットの電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に被告表示を表示して役務を提供し(同7号)、さらには役務に関する広告等(新聞広告・しおり)に被告表示を付して展示・頒布等する(同8号)などにより、ベアトリクス・ポターの絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだ著作権が存続しているように誤認させる表示をしたものであるところ、この表示は被告商品化許諾業務の質・内容について誤認させるような表示に該当する旨主張する。
 そこで、以下、各被告表示ごとに13号の不正競争行為の成否について検討する。
イ 被告表示1について
 被告表示1は、アルファベットの「C」を○で囲んだ「C」の一文字を表示するものであるところ、原告は、被告表示1も著作権表示ないしその一部であり、原告主張のような誤認を生じさせる表示であると主張するものと解される。
 しかし、「C」は、それ自体として著作権表示とか、C表示などと称されることがないとはいえないものの、前記のとおり、万国著作権条約上、Cの記号は、自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件としている締約国が、その締約国で著作権の保護を受けるための方式として要求しているものを満たしたものと認めるための要件として、「著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともにCの記号を表示している限り、その要求が満たされたものと認める。」とされているものであり、著作権者の名、最初の発行の年と相まって著作権表示を構成するものであって、「C」一文字だけで著作権表示といえるものではない。さらに「」、 C はその一文字だけでは、「A」や「B」などと同様に、単なる符号、記号として表示される例も少なくないと認められるから、「C」の一文字だけでは、当然に万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示を表し、ないし象徴するものとはいえず、それが単独で商品等に表示されたとしても、原告の主張するような「本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続している」ように誤認させるような表示とはいえないというべきである。
 したがって、被告表示1を被告ライセンス商品あるいは被告商品化許諾業務という役務に表示する行為は、13号の不正競争行為に当たらない。
ウ 被告表示2について
 被告表示2は、「Copyrights Group」と表示するものである。証拠(甲8の1・2)によれば、「コピーライツ」社は、英国に本社を置く著作権会社であり、事務所(法人)を英国、ドイツ、日本に、提携代理店を米国に置いており、これらを総称して「コピーライツグループ(Copyrights Group)」と称し、被告は、その日本における事務所を置く日本法人であることが認められる。そして、被告表示2は、被告が属する「コピーライツグループ」を英語表記した「Copyrights Group」の冒頭の「C」(大文字)の文字を囲み、次の文字である「o」(小文字)に重なる部分のみが欠ける「○」(丸印)を含むものとして表記されているものである。
 原告は、被告表示2は著作権表示の一部である「C」を含むか又はそれと酷似する記号を使用し、さらに「C」の直後に社名又はその一部(opyrights)が表示されているものであり、「C」の記号と極めて類似する記号を被告の会社名称の一部として利用して被告の会社名称を表示している、また、被告の会社名称は、著作財産権の代名詞であり、Cの由来となった「複製権」を意味する「copyright」の語を主要部とする名称であって、需要者は、これを一体として見た場合、著作権保護を受ける著作物であることを警告する著作権表示と認識し、そして、被告表示が、著作権保護期間が満了したベアトリクス・ポターの原画付近に付された場合には、それらの原画についていまだ日本においても著作権が存続しているとの誤認を需要者に与える旨主張する。
 被告は、被告表示2は単に「コピーライツグループ」のロゴであると主張するところ、証拠(甲8の1)によれば、たしかに被告表示2は、英国に本社を置く著作権会社である「コピーライツ(Copyrights)」社の海外事務所たる法人等の集団である「コピーライツグループ」のロゴとして使用されていることが認められる。もっとも、英国に本社を置くコピーライツ社は、その社名が複製権を意味する「copyright」をほぼそのまま表記したものであり、しかも、その冒頭の「C」(大文字)の文字を囲み、次の文字である「o」(小文字)に重なる部分のみが欠ける「○」(丸印)を含むものとして表記されているから、冒頭の「○」で囲まれた「C」が「C」と紛らわしい表記であることは否定できない。
 しかし、「C」の一文字だけで万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示を表すものとはいえないことは、前示のとおりである。また、コピーライツ社や被告を含むコピーライツグループの名称が、著作財産権の代表的内容である「複製権」を表す「copyright」の頭文字の「C」を大文字とした上、これを○で囲む「C」の記号と紛らわしい表示を含んでいるものの、この表示自体が万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示といえないことは明らかであるし、需要者の通常の判断能力を前提として同表示を含む実際の使用態様である被告表示3ないし5全体の表示を観察すれば、被告表示2は、やはり「コピーライツグループ」のロゴとして使用されているものと認識されるというべきであって、これをもってFW社ないし被告もその構成員となっている「コピーライツグループ(Copyrights Group)」が本件絵柄の著作権を有していることを表示しているものとは外観上も解することができない。したがって、被告表示2は、原告の主張するような「本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続している」ように誤認させるような表示とはいえないというべきである。
エ 被告表示3ないし5について
(ア) 被告表示3及び4は、いずれも「C」の記号に続いて、著作権者であるFW社の表示及びその最初の発行の年(2005年)が表示されているから、万国著作権条約により保護を受ける要件を満たす著作権表示ということができる。そして、いずれも本件ライセンス表示を伴う。また、被告表示3には、FW社がベアトリクス・ポターのキャラクターの名前及び絵柄についてすべての著作権及び商標権を有する旨(FrederickWarne & Co. is the owner of all copyrights and trademarks in the Beatrix Potter characters names and illustrations)が記載されている。
 被告表示5は、「C」の記号及び著作権者であるFW社を表示するものであるが、最初に発行された年の記載がないので、万国著作権条約により保護を受ける著作権表示とはいえないものの、このような著作権表示と紛らわしい表示であるということができる。そして、本件ライセンス表示を伴うものである。
 ところで、被告は、本件表示3ないし5の表示主体は被告ではない旨主張する。しかし、前示のとおり、被告は、日本国内の企業との間で締結するライセンス契約上、同企業に対し、被告表示3ないし5の表示を義務づけ、同企業をしてそのライセンス商品に同表示を使用させているのであるから、それがFW社の指示に基づくものであるとしても、その表示主体は被告にほかならないというべきである。
(イ) 原告は、被告表示3ないし5の表示によって、本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続しているように誤認させるものであると主張する。なるほど、被告表示3及び4の表示が本件絵柄付近に表示されていれば、本件絵柄についての著作権が既に保護期間満了により消滅しているのに、同表示に接した需要者をして、本件絵柄が2005年に発行された著作物であって、いまだ著作権の存続している著作物であると誤認させるものといえなくはなさそうである。また、被告表示5についても、最初の発行の年が表示されていない点で、正確には万国著作権条約にいう著作権表示ということはできないものの、この表示が本件絵柄付近に表示されていれば、これに接した需要者をして、やはり本件絵柄がいまだ著作権の存続している著作物であると誤認させるものともいえそうである。
 もっとも、前記1(4)で説示したとおり、万国著作権条約に定めるCの記号は、ある著作物がいずれかの締約国で著作権の保護を受けるための条件として一定の方式を満たすことを要求している場合に、当該締約国において著作権の保護を受けるための方式を満たしたと認められるために表示されるものであって、それ自体として当該著作物について著作権を創設するものではないし、日本のように、著作権の保護について上記のような方式主義を採用していない国においては、その表示を義務づけられているものではないことはもちろん、Cの記号の表示(C表示)の有無によって著作権の保護の有無が法的に左右されるものでないから、日本においては、C表示が付されていないからといって著作権の保護を受けないというものではないし、逆に、C表示が付されているからといって、当然に著作権の保護を受ける著作物と認められるものではない。このように、被告表示3ないし5は、それが被告の商品に描かれた本件絵柄付近に表示されていても、当然に本件絵柄に著作権の保護が及ぶことを保証するものではない。しかし、C表示は、その現実的な機能として、著作者及び最初の発行年の記載と相まって、いまだ当該著作物について、当該著作者を著作権者とする著作権が存続している旨を積極的に表明するとの側面をも有するものであること、そして、その著作物を無断で使用する場合には著作権侵害になることを需要者又は取引者に対し警告するという機能を有することを否定できないことも、前記1(4)で説示したとおりである。
 ところで、被告表示3ないし5の付された商品に関する何らかの事項についてある種の誤認を生じさせ得るとしても、それが13号の不正競争行為を構成するというためには、その表示が商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量、役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるようなものでなければならないところ(13号の不正競争行為として上記誤認の対象として列挙されているものは限定的な列挙であると解される。)、原告は、上記各表示は、被告ライセンス商品の品質、内容及び被告商品化許諾業務という役務の質、内容について誤認を生じさせるものであると主張するので、以下に検討する。
(ウ) まず、被告表示3ないし5が、被告ライセンス商品の品質を誤認させるものかどうかについて検討する。商品の品質とは、その商品の有する性質や性能をいい、たとえばタオルという商品であれば、その素材となる繊維の種類、その配合割合、肌触り、仕上がり具合等がその典型的なものとして挙げられるであろう。しかし、タオルに絵柄が描かれている場合、その絵柄が著作権による保護の対象となる著作物であるということが、13号の不正競争行為にいう誤認表示の対象となる商品の品質ということはできないというべきである。けだし、商品に描かれた絵柄が著作権の保護を受ける著作物であることが「商品の品質」に含まれるとするのはその通常の用語の意味から離れることになるし、仮にこれを肯定するとすれば、著作権による保護の対象となる著作物たる絵柄(例えば、最近描かれた現代絵画)を使用した商品が、著作権保護期間が満了しパブリックドメインに帰した絵柄(例えばゴッホの絵画作品)を使用した商品よりも品質の上で優れていることを前提とせざるを得ないが、そのような前提を採り得ないことは明らかであるからである。したがって、被告表示3ないし5が被告ライセンス商品の品質を誤認させるものということはできない。
 次に、被告表示3ないし5が、被告ライセンス商品の内容を誤認させるものかどうかについて検討する。商品の内容とは、その商品の実質や属性をいうものと解され、その商品に描かれた絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるというのも、その文言上は商品の実質や属性に当たると解する余地がないとはいえない。しかし、商品の実質や属性であればどのようなものであっても、13号の不正競争行為である誤認表示の対象となる「商品の内容」ということはできないのであって、前示のとおり、同号の趣旨が、商品等若しくはその広告等に表示する原産地、品質、内容等を偽り、需要者の誤認を招くような表示をすることは、適正な表示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち、需要者の需要を不当に喚起する一方、適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになる点にあることからすれば、「商品の内容」に関する誤認表示とは、商品に誤認を招くような表示をすることにより、その表示を信じた需要者の需要を不当に喚起するような表示であることを要すると解すべきである。これを本件についてみると、原告は、本件表示は本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続していると誤認させるものであると主張するところ、タオル等の商品に使用された絵柄が消費者等の需要者の需要を喚起するもの、すなわち、消費者等の需要者が、たとえばタオルの品質であるその素材となる繊維の種類、その配合割合、肌触り、仕上がり具合等とは別に又はこれと並んでタオルに使用された絵柄に着目して当該商品を選択する場合、その選択の基準となるのは、その絵柄そのものの美しさや芸術性の高さ等によるのであって、消費者等の需要者は、その絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かによってこれを購入するか否かを決定しているものではないというべきである。
 したがって、被告表示3ないし5は、それが本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのにいまだに著作権が存続していると誤認させるものであるとしても、13号の不正競争行為である「商品の内容」に関する誤認表示には該当しないというべきである。
 ちなみに、商品に実際には存在しない特許権、実用新案権、意匠権を表示する行為は13号の不正競争行為に該当する場合が多いと解されるが、そのように解されるのは、そのような表示が需要者をして当該商品が特許や、実用新案登録、意匠登録を認められたような優れた技術、デザインを有するという商品の品質、内容を誤認させるものである場合が多いからであると解される。これに対し、消費者等の需要者は、その絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かによってこれを購入するか否かを決定しているものではなく、そのような事項は商品の品質、内容に関するものとはいえないから、著作権の保護期間経過後の著作物に著作権表示を付することと上記のような特許権等の虚偽表示とを同列に論じることはできない。
 以上のとおり、被告表示3ないし5は、被告ライセンス商品の品質・内容を誤認させるものとはいえず、13号の不正競争行為には該当しないというべきである。
 また、被告ライセンス商品に描かれた絵柄が、ベアトリクス・ポターの創作した原画を原著作物とする二次的著作物に該当する場合には、当該二次的著作物において新たに付与された創作的部分について原画の著作権とは別の著作権が生ずるから(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)、上記創作的部分の存在を根拠に被告表示3ないし5を表示することが直ちに虚偽の表示であるということはできない。証拠(乙11ないし17、20ないし29(枝番のあるものはそれを含む。))及び弁論の全趣旨によれば、被告ライセンス商品に使用されている絵柄には、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した原画について、これに含まれない本件絵本の登場人物の後ろ姿や本件絵柄で他の動植物等により隠されている部分等が新たに描き込まれていたり、同一の絵柄でも登場人物のポーズを変えたりするなど若干の改変が加えられているものが少なくなく、さらには上記原画を三次元化した商品が開発されていること、これらの新たに付与された創作的部分は、いずれもFW社が行う本件絵本のキャラクターの商品化事業において、FW社が本件絵柄(原画)のほか、ベアトリクス・ポターの死後、FW社のデザイナーが描き起こしたイラスト(RCAナンバーのもの)がストックされているインターネット上の資料庫(URL: http://www.warneimages.com)を設け、商品化事業の参加者となったメーカーがメーカーごとのユーザーネーム及びパスワードをもって被告から提供される同資料庫にストックされているイメージ画像から一つを選択し、あるいは複数を組み合わせて、商品デザインを作成したり、資料庫のストック中に希望する背景等が見つからない場合、あるいは各絵柄を組み合わせる際にそのつなぎとして更に背景等が必要となる場合、商品化事業の参加者からの依頼を受けて、FW社側で更に新しくイラストを作成する場合もあること、上記のとおり被告商品化許諾業務における被許諾者によって創作されたデザインについては、被告を通してFW社が許諾しない限り商品化することはできないし、被告ライセンス商品の「ピーターラビットシリーズ」の絵柄にかかるデザイン部分の著作権が上記被許諾者において発生する場合は、同被許諾者との契約上、発生とともに当然にFW社に当該著作権が移転することとされていることが認められる。以上の事実によれば、被告ライセンス商品中、本件絵柄に上記のような新たな絵柄が付加され、又は改変が加えられているなどの新たに付与された創作的部分が存在するときは、その創作的部分については原画の著作権とは別に著作権が成立し得るものであり、その著作権はFW社に帰属するところ、被告表示3ないし5はその創作的部分に付されているとみることもできなくはない。そうすると、被告表示3ないし5を使用することは、直ちに本件絵柄の著作物についていまだに著作権が存続していることを誤認させることにはならないといえる。これに対し、原告は、原画を組み合わせただけ、または若干の加除増減を行った絵画について、原画を超えて、二次的著作物として著作権が成立するのは極めて限定的な範囲であって、たとえ二次的著作物として著作権が成立している局面があるとしても、あたかも個々の原画自体に著作権が残存しているような紛らわしい被告表示を行うことは、二次的著作物が成立しているという一部の情報のみを強調して、全体の質・内容について誤認を生じさせるおそれがある旨主張する。しかし、原著作物に対していかなる範囲が創作的部分として原著作物に対する著作権とは別の著作権が成立するのかは一義的に明確であるとはいえず、新たな創作的部分については著作権表示をしてその無断使用を禁ずる警告的機能を果たさせる必要性があることも否定できないし、新たに付与された創作的部分を他の部分と区別して著作権表示をすることを求めることは実際的でない。そして、前記説示のとおり、日本において著作権表示が果たす役割は、上記警告的機能を超えるものではなく、それが日本の著作権法によって保護されるべき著作物であることを保証するものではないことにかんがみると、上記のような二次的著作物である被告ライセンス商品について、被告表示3ないし5を表示することが商品の品質・内容の誤認惹起表示として禁止されると解することはできない。
 さらに、万国著作権条約が著作物の保護要件として定める著作権表示は、上記警告的機能を有するものであるが、本来は、同条約で定めるとおり、自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件としている(方式主義を採用している)締約国が、その締約国で著作権の保護を受けるための方式として要求しているものを満たしたものと認めるための要件であって「著、 作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに」表示することが要求されているものである。したがって、ある著作物が著作権の保護に関して方式主義を採用している締約国で著作権の保護を受けるためには、既に著作権の保護期間が満了している国を含め、著作権者の許諾を得て発行されたすべての複製物について著作権表示をすることが要求されているのであり、そうであるとすれば、既に著作権の保護期間が終了している国において著作権表示をすることができないとすると、当該著作物については方式主義を採用している締約国においては保護され得ないという不合理な結果を招来することになる。たしかに、原告の主張するように、現在、方式主義を採用している締約国は、わずかにラオスとカンボジアの2か国のみであって(甲20)、このうちラオスでは著作権法制自体が整備されていないのであり(甲21の2)、これらの2か国で本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄が著作権の保護を受け得るかどうかが現実の問題となるのかについては疑問の存するところである。しかし、上記2か国において、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄の著作権に基づく権利を行使することが必要となる事態が現実に生じるかどうかはともかくとして、万国著作権条約が一般的に、方式主義を採用している締約国で著作権の保護を受けるためには、すべての複製物について著作権表示を要すると規定している以上、既に著作権の保護期間が満了している国において著作権表示をすることを13号の不正競争行為に該当するものとして禁圧することは、同条約の趣旨に合致しないといわざるを得ない。したがって、この観点からしても、著作権表示又はその一部を含む被告表示3ないし5を表示する行為をもって、商品の品質・内容を誤認させる不正競争行為に該当すると解することはできないというべきである。この説示に反する原告の主張は採用できない。
 なお、被告表示3ないし5のうちの本件ライセンス表示の部分(Licensed by opyrights Group)C は、当該商品が被告のライセンスを得て製造販売されているものであることを表示するものであり、何ら虚偽の事実を含むものではないことが明らかである。
 以上のとおり、被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を付することが13号の不正競争行為に該当するということはできない。
(エ) 次に、被告表示3ないし5が、被告の役務(商品化許諾業務)の質及び内容を誤認させるか否かについて検討する。
 まず、被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を表示させた被告の行為が同商品の品質・内容を誤認させる13号の不正競争行為に該当しないことは、上記(ウ)で説示したとおりである。しかし、被告が被告ライセンス商品に被告表示3ないし5の表示をさせることにより、その表示の対象である商品が被告商品化許諾業務という役務の使用(役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物(商標法2条3項6号))にあたり、これが被告と商品化許諾契約を締結して同許諾業務に係る役務の提供を受けようとする需要者との関係で、同役務の質・内容を誤認させるかどうかは、別個に判断すべき事項である。そして、商品化許諾業務という役務提供を受けるにあたり、需要者(被告と商品化許諾契約を締結しようとする企業等)は、被告(ライセンサー)やそのライセンサーであるFW社が商品化すべきキャラクターについていかなる権利を有しているかを重要な要素として、同契約の締結の要否を検討するものと考えられるから、被告表示3ないし5を本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)付近に付した場合には、ベアトリクス・ポターの原画を使用するには被告から使用許諾を受けなければならない、あるいはその原画の付された商品は著作権で保護されている対象であるとの誤認を生じさせ、したがって、被告の役務である被告商品化許諾業務の質・内容について誤認を生じさせるものであるといえる。また、被告が、インターネットの電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に被告表示を表示して役務を提供する行為(同7号)さらには役務に関する広告等(新聞広告・しおり)に、被告表示3ないし5を本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)付近に付して展示・頒布等する(同8号)などの被告の行為も、同様に、被告の役務である上記商品化許諾業務の質・内容を誤認させる表示に当たるものといえる。
 もっとも、前記(ウ)のとおり、被告表示3ないし5が付されている絵柄は、本件絵柄その他ベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)そのものばかりではなく、これに含まれない本件絵本の登場人物の後ろ姿や本件絵柄で他の動植物等により隠されている部分等が新たに描き込まれていたり、同一の絵柄でも登場人物のポーズを変えたりするなど若干の改変が加えられたりしているものが少なくなく、さらには上記原画を三次元化した商品が開発されている。これら新たに付与された創作的部分については原画の著作権とは別に著作権が成立し得るものであり、その著作権はFW社に帰属するのであるから、そのような本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)を原著作物とする二次的著作物である絵柄に被告表示3ないし5を付する行為は、直ちに被告商品化許諾業務という役務の質・内容を誤認させる表示には該当しないというべきである。
 さらに、本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)そのものが描かれた被告ライセンス商品、インターネットの電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たってのその映像面、役務に関する広告等(新聞広告・しおり)に被告表示3ないし5を付して役務を提供する行為が13号の不正競争行為に当たるとしても、原告は、その不正競争行為により営業上の利益を侵害されるおそれがあるとはいえないというべきである。すなわち、原告の主張する「営業上の利益を侵害されるおそれ」とは、原告は、著作権保護期間の満了した本件絵柄を使用した原告製品の販売を計画し準備しているところ、他者が本件絵柄について著作権に基づく著作権管理業務を行っているという表示を付した商品が現実に市場で競合しており、そのような虚偽の表示により、原告製品の販売を行うのに支障を来すおそれがあるというにあるものと解される。しかし、役務に関する誤認惹起表示等を不正競争行為とした趣旨は、前記のとおり、役務若しくはその広告等に表示する質・内容等を偽り、需要者の誤認を招くような表示をすることは、適正な表示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち、需要者の需要を不当に喚起する一方、適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになるからである。したがって、13号の不正競争行為により侵害される営業上の利益もかかる観点からその存否が検討されるべきところ、原告は、被告と競争関係に立つ商品化許諾業務を営む事業者ではなく、したがって、商品化許諾業務という役務の質・内容を誤認させる表示により、本件における需要者すなわち被告商品化許諾業務における日本のライセンシーを奪われるという関係に立たないことが明らかである。原告は、本件絵柄を使用した原告製品を販売することを計画し準備しているものであり、むしろ、被告ライセンス商品を販売する被告のライセンシー(被告商品化許諾業務の被許諾者たる需要者)と競争関係に立つものであるところ、そのライセンシーが被告ライセンス商品に被告表示3ないし5を付することが、その商品の品質・内容を誤認させる表示に当たらないことは、前記(ウ)説示のとおりである。
 原告は、原告が公正な条件の下で営業活動を行うことの利益又は公正な事業者が享有する競争上の地位を脅かされているかを検討する場合には、単に被告商品化許諾業務のみを対象とするだけでは不十分であり、被告から許諾を受けた者が商品を製造販売することも踏まえて判断を行う必要がある旨主張するが、上記説示に照らし採用できない。
 以上によれば、被告ライセンス商品や広告等に被告表示3ないし5を付する被告の行為は、その一部が13号の不正競争行為にあたると解されるとしても、原告は、同行為により営業上の利益を侵害されるおそれがあるとは認められない。
 したがって、原告は、被告に対し、被告表示3ないし5を自ら使用することや、ライセンシーをして使用させること及び同表示を使用し、又は使用させた商品の販売等や役務の提供等の差止めを求める権利を有さず(不正競争防止法3条1項)、また、同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことになる。
(2) 民法709条の不法行為の成否について
 原告は、不当な著作権表示が法的に全く何らの規制も受けず、これを自由に使用することができるものではなく、少なくともその表示をする者は誤解をされない表示を行い、あるいは、虚偽の表示をしてはならない条理上の義務を負うところ、被告は、著作権表示と紛らわしい被告表示を、合理的な理由も必要も何もなく使用してはならない義務を負っているのであり、その義務に違反して被告表示を行うことは、原告に対する不法行為を構成するなどと主張する。
 しかし、原告のいうところの条理上の義務とは、要するに、そもそも真実とは異なる表示をしてはならないという抽象的な内容をいうものにすぎず、具体的にいかなる要件の下に、いかなる態様の表示が民法上の不法行為責任を生じさせる不法行為となるのか明らかではない。不正競争防止法が、一定の表示媒体、表示事項及び行為態様を特定し、13号の不正競争行為に該当する行為を限定している趣旨にかんがみると、13号の不正競争行為に該当しない行為を民法上の不法行為として損害賠償責任を負わせることは、極めて例外的な場合であると解され、被侵害利益の重大性、行為態様の悪質性に照らして違法性が極めて高いものに限られるものというべきである。
 これを本件についてみると、まず、前記(1)イ、ウのとおり、被告表示1、2はそもそも著作権表示に該当しないものであり、取引者をして前記のような誤認を生じさせるものではないから、これを表示することが不法行為を構成するものでないことは明らかである。他方、被告表示3ないし5は、一応著作権表示又はこれと紛らわしい表示を含むものであり、取引者をして原告製品に使用された本件絵柄がいまだ著作権による保護を受けるものであり、これを取り扱えば、被告ないしFW社から著作権に基づく権利行使を受けるのではないかの危惧を生じさせ得るものといえる。しかし、前示のとおり、日本は著作権の保護に関していわゆる方式主義を採用しておらず、このような著作権表示の有無と著作権に基づく権利行使の可否とは無関係であり、被告表示3ないし5が本件絵柄に著作権が存続していることを法律上保証するような表示ではないこと、被告としては万国著作権条約上、いわゆる方式主義を採用している国においてFW社による著作権に基づく権利行使の機会を確保するために、被告の発行するすべての著作物について著作権表示をしていることが要求されるのであり、被告表示3ないし5を被告ライセンス商品に表示することについて正当な利益を有するものといえること、また、証拠(乙1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、FW社は、本件絵柄について、原告製品であるタオル類を含む「布製身の回り品」を指定商品に含む登録商標の商標権を有していることが認められ、同事実によれば、被告表示3ないし5のみが原告製品を販売することに対する障害になっているものとはいえないこと、FW社は、もともと本件絵柄について著作権を有していたものであり、被告は、被告商品化許諾業務を遂行するために、著作権の保護期間終了後も被告表示3ないし5を表示し続けたのにすぎないものであること、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被告が被告表示3ないし5を使用することが、原告に対する不法行為責任を生じさせるほどの違法性を有するものではないというべきである。
3 結論
 以上のとおりであり、被告との間で、被告が原告に対し本件絵柄の著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、被告に対し、不正競争防止法3条1項に基づき被告表示の禁止及び被告表示を使用した被告ライセンス商品の販売等の禁止を求めるとともに、同法4条及び民法709条に基づき損害賠償を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、いずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2 1 民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 松宏之
 裁判官 西森みゆき
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