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【事件名】「THE BOOM」送信可能化権事件 【年月日】平成19年1月19日 東京地裁 平成18年(ワ)第1769号 送信可能化権確認本訴請求事件、 平成18年(ワ)第12662号 送信可能化権確認反訴請求事件 (口頭弁論終結日 平成18年10月23日) 判決 本訴原告(反訴被告) 株式会社ムーブメント 同訴訟代理人弁護士 山口正徳 本訴被告(反訴原告) 株式会社ソニー・ミュージックレコーズ 同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 辻居幸一 同 竹内麻子 同 外村玲子 同 水沼淳 主文 1 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)に対し、本訴被告(反訴原告)が別紙A記載の各楽曲を収録した各レコードに関するレコード製作者の送信可能化権につき持分2分の1を有することを確認する。 2 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)に対し、本訴被告(反訴原告)が別紙B記載の各楽曲を収録した各レコードに関するレコード製作者の送信可能化権を有することを確認する。 3 本訴原告(反訴被告)の本訴請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを本訴原告(反訴被告)の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 (1) 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、本訴原告(反訴被告)が別紙A記載の各楽曲を収録した各レコードに関するレコード製作者の送信可能化権につき持分2分の1を有することを確認する。 (2) 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、本訴原告(反訴被告)が別紙B記載の各楽曲を収録した各レコードに関するレコード製作者の送信可能化権を有することを確認する。 2 反訴 主文1項及び2項と同旨 第2 事案の概要 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実の外、弁論の全趣旨及び後掲の各証拠によって認定できる事実を含む。) (1) 当事者 本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)は、映画、放送、ステージ、スタジオその他芸能作品の企画制作及び提供並びに芸能人の出演斡旋に関する業務等を目的とする会社であって、アーティスト「THE BOOM」(以下「本件アーティスト」という。)が所属する音楽事務所である。原告の代表者であるCは、音楽プロデューサーであり、関連する音楽事務所のファイブ・ディー株式会社(以下「ファイブ・ディー」という。)も経営している(甲11、15、弁論の全趣旨)。 本訴被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(後記「SME」が平成15年4月1日に「株式会社エスエムイージェー」に商号変更されると同時に新設分割された会社。以下「新SME」という。)を中核とする企業グループ(ソニーミュージックグループ)内のレコード会社であり、平成13年10月1日、当時の株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(なお、平成3年4月1日前の旧商号は「株式会社シービーエス・ソニーグループ」であった。旧商号時も併せて、以下「SME」という。)から外6社とともに会社分割された(乙12、弁論の全趣旨)。 (2) レコードの原盤制作 原告とSMEは、本件アーティストの実演に係る別紙A「収録楽曲名」記載の各楽曲を収録した各アルバムタイトル又は各シングルタイトルのレコード原盤に関する音源(以下「A音源」という。)について、平成元年5月21日付け共同制作原盤譲渡契約(甲1。以下「第1契約」という。)、平成3年3月20日付け共同制作原盤譲渡契約(甲2。以下「第2契約」という。)及び平成5年5月10日付け共同制作原盤譲渡契約(甲3。以下「第3契約」という。)を締結し、それぞれ原盤制作費の各2分の1を負担してこれを制作した(なお、以下では、著作権法上のレコード製作者の場合を除き、原盤に関しては「制作」の語を用いる。)。 また、原告とSMEは、本件アーティストの実演に係る別紙B「収録楽曲名」記載の各楽曲を収録した各アルバムタイトルのレコード原盤に関する音源(以下「B音源」という。)について、平成6年11月21日付け覚書(甲4。以下「第4覚書」といい、第1契約、第2契約及び第3契約と併せて、以下「本件各契約」という。)を締結し、原告が原盤制作費の全額を負担してこれを制作した。 (3) 本件各契約の内容 第1契約、第2契約及び第3契約は、いずれも、原告(本件各契約中の呼称は「甲」)とSME(同「乙」)とが本件アーティスト(同「丙」)の「実演を収録し、共同にて原盤を制作し、甲はこれを何ら制限なく独占的に乙に譲渡すること」に関する内容であって、その大半の規定を同じくするものである(甲1ないし3)。 第4覚書は、第3契約に附帯する形で、契約期間、原盤制作費等の割合、印税率の取扱いにつき変更を加え、契約更改金等の付随する規定を新たに設けたものであり、このほか、第4覚書に定めのない事項については、第3契約の諸規定を準用するものとされている(甲4)。 第1契約及び第2契約には、いずれも、第6条(権利の譲渡)として、次の規定がある(甲1、2)。 「第6条(権利の譲渡) 甲は、本契約に基づく原盤に関し甲の有する一切の権利(甲・丙の著作隣接権又は甲の著作権を含む)を、何らの制限なく独占的に乙に譲渡する。 @この権利には、一切の複製・頒布(貸与・放送・有線放送・上映を含む。以下同じ)権及び二次使用料等(〔省略〕)の徴収権を包含する。 A乙は、如何なる国に於いても、随時、本契約の終了後も引続いて自由に、且つ独占的に当該原盤を利用してレコード及びビデオを複製し、これらに適宜のレーベルを付して頒布することが出来る。 B前号のレコード及びビデオの種類、数量、価格、発売の時期・方法その他一切の事項について、乙は自由な判断により決定することが出来る。 Cこの権利の一部又は全部を、乙は自由な判断により第三者に譲渡することが出来る。」 また、第3契約には、第6条(権利の譲渡)として、同@号の括弧内が「貸与・放送・有線送信・上映等を含む。以下同じ」と異なっているほかは、第1契約及び第2契約と同一の規定がある。なお、第4覚書には、この点についての規定がない(甲3、4)。 (4) 送信可能化権の立法と音源配信 平成9年法律第86号による著作権法の改正(以下「平成9年改正」ということがある。)により、実演家とレコード製作者に対し送信可能化権を認める規定(著作権法92条の2第1項、96条の2)が創設され、平成10年1月1日から施行された(顕著な事実)。 その後、インターネットを通じたパソコン向けの音源配信については、平成11年12月からSMEにより「bitmusic」の名称で開始され、現在、関連会社により「mora」として運営されており、このほか、米国アップル社の関連会社が運営する「iTunes Music Store」等がある。 また、携帯電話向けの音源配信が平成11年2月からエヌ・ティ・ティ・ドコモの「i-mode」で「着信メロディ」として開始された後、現在、CD等の音源を用いた「着うた」、「着うたフル」(いずれもSMEの登録商標)がKDDI等によって展開されている(乙28)。 (5) 本件各契約上の権利の帰属 平成13年10月1日、SMEの会社分割に伴い、SMEの本件各契約に係る権利義務その他債権債務を含む一切の契約上の地位が被告に承継された。その結果、SMEが有していたA音源及びB音源に関する本件各契約上の権利は、現在、被告が保有している(乙12)。 (6) 音源配信に関する印税と支払 本件アーティストの音源は、平成13年7月から平成17年12月までの間、「着うた」等において配信された。 SME又は被告において、音源配信の印税は、基本的にCDの印税と同様の計算方法に基づいて算出されており、「着うた」等については、平成16年1月1日以降の配信分から、「プロモート利用印税」(ただし、当初は「プロモート印税」の名称)が設定された。 本件アーティストの音源配信に関する印税(実演家印税、原盤印税及びプロモート利用印税)は、平成13年7月分から平成17年12月分まで、四半期ごとに原告又はファイブ・ディーに支払われた。(乙28) 2 事案の概要 本訴は、原告が被告に対し、本件アーティストの実演に係るA音源及びB音源に関するレコード製作者の送信可能化権について、立法による権利創設前に締結された本件各契約によって譲渡されることはないなどと主張して、A音源につき原告が持分2分の1、B音源につき原告がその全部をそれぞれ有することの確認を求める事案である。 反訴は、被告が原告に対し、原告の主張するA音源の持分2分の1とB音源の全部についても、本件各契約による譲渡の対象となると主張して、被告がこれらの権利を有することの確認を求める事案である。 3 争点 A音源及びB音源に関するレコード製作者の送信可能化権の帰属(平成9年法律第86号によりレコード製作者の送信可能化権が法定される前に締結された本件各契約に基づく原盤に関する無制限かつ独占的な権利譲渡条項の解釈) 第3 争点に関する当事者の主張 〔原告の主張〕 レコード製作者の送信可能化権が立法により創設される前に締結された本件各契約によって、本件アーティストの実演に係るA音源及びB音源に関する送信可能化権が原告から被告に譲渡されることはないから、A音源については原告が持分2分の1、B音源については原告がその全部を有する。 1 本件各契約の解釈 (1) 本件各契約の解釈について ア 本件各契約は、平成9年改正の前に締結されており、締結時点において、著作隣接権としての送信可能化権は、法的権利として存在していないから、存在していない権利が譲渡されることもない。 イ また、本件各契約の締結当時、インターネットは未だ発達しておらず、サーバにアップロードされた楽曲をダウンロードして聴取するという音楽配信サービスが何ら想定されていなかったから、契約における意思解釈としても、当事者間における送信可能化権の譲渡の意思を認めることができない。 原告代表者も、本件各契約の際、楽曲をインターネット等を通じて販売することなど全く想定していなかったし、そのような説明を受けたこともない。 第1契約、第2契約及び第3契約の解釈問題としては、当事者間の合致している意思内容の確定が基本であり、当事者の目的に照らして条項を解釈するのであれば、契約締結当時に存在しておらず、少なくとも、原告側において全く想定していなかった送信可能化権に契約の効力は及ばないと解すべきである。 ウ そして、契約の目的として、原告の目的は、現に存在し所持している権利を譲渡する対価として、CD等のレコードやビデオの販売に伴う印税収入を定めたにすぎないのであって、将来開発されるすべての利用方法につき契約当時の当事者の意思や想定にかかわらず、無制限かつ永久に譲渡の対象とするというのであれば、事後的な被告の独断であって、両当事者に共通の合理的な目的とはいえない。 なお、原告、被告及びファイブ・ディーは、平成14年4月1日、3社間で合意をし、原告の本件各契約に係る権利義務その他債権債務を含む一切の契約上の地位がファイブ・ディーに譲渡されたが、レコード製作者の送信可能化権は、本件各契約上で想定されていた権利ではないから、上記の合意によっても、原告からファイブ・ディーに移転することはない。 (2) 有線送信権と送信可能化権について 平成8年12月に実演家とレコード製作者の権利を保護するためのWIPO実演・レコード条約(WPPT)がWIPO外交会議で採択されたことを踏まえて、平成9年改正が行われ、送信可能化権が創設された。 この改正により、著作権法は、実演家とレコード製作者に対し、送信可能化権を付与し、許諾についての独占権を与えて、権利保護を強化した。なぜなら、いったん著作物を公衆の利用可能な状態に置くと、以後はこれをコントロールすることが事実上できなくなり、利用可能な状態に置くか否かの許諾こそが唯一無二のコントロール方法となるからである。それゆえ、実演家とレコード製作者の権利について、放送と有線放送に関しては、報酬請求権として規定されているのに対し、送信可能化権は、許諾権として規定されている。 ところが、平成9年改正前の契約により、実演家とレコード製作者から送信可能化権を移転するような解釈を容易に許すのであれば、権利保護を強化した法改正の趣旨が没却されてしまう。被告の主張によれば、平成9年改正が施行された平成10年1月1日の時点で、送信可能化権が原告からSMEに移転したことになると解されるが、これでは、実演家及びレコード製作者の権利保護を強化した改正法の趣旨を没却することになり、妥当ではない。 したがって、著作隣接権等の譲渡を内容とする契約の解釈にあたっては、送信可能化権の譲渡を明示するなどの特別の事情のない限り、これを含まないものと限定的に解釈すべきである。 この点、契約で定めた「放送権」に「衛星放送権」も「有線放送権」も含まれないとして、限定的に譲渡の範囲を解釈した東京高裁平成15年8月7日判決(ライオン丸事件)が参考となる。 さらに、送信可能化権は、送信可能な状態に置く行為に対する許諾権であって、送信行為自体に対する許諾権ではなく、頒布や販売に対する許諾と次元を異にする。法改正によって、「公衆送信」という概念を創設し、「放送」、「有線放送」という概念に「自動公衆送信」という概念を付加、創設して統合している(著作権法2条)のは、インターネット送信等に関し、従前の「放送」、「有線放送」、「有線送信」といった概念では適切に対応できないことからの帰結である。 したがって、レコード等の複製、頒布、販売と送信可能化行為とを同視することはできないし、有線放送や有線送信が送信可能化行為の適切な例示となるものではない。 (3) 文化審議会著作権分科会報告書について 文化審議会著作権分科会報告書(乙40)は、未知の利用方法に関する利用契約の解釈問題については、個別具体的な事案に即して、民法の一般原則を用いて裁判所が合理的な解釈を行うことに委ね、判例の集積を通じて法形成がなされるのが適切であり、少なくとも現時点においては、著作権法に特別な規定を設ける必要はないとされているものであり、何ら被告の主張を裏付けていない。 弱者対強者の点についても、大企業が著作者として利用権の一方当事者である場合も少なくなく、利用形態の実態は千差万別であって、すべての利用契約について、著作権者は構造的な弱者であるとの前提で法律上特別な扱いをすることは、現状にも合致しないであろうとされているのであって、このような構図が適合する場合を否定するものではない。現に、原告は、資本金1000万円の小規模会社であるのに対し、被告は、天下のソニーグループであって、資金力、営業力、アーティストの顔ぶれに至るまで、隔絶した差異があり、まさに音楽業界における弱者対強者の構図が適合する。 2 音源配信に関する印税について 本件各契約の締結の際、送信可能化権は存在していないから、原告において、送信可能化権の移転や対価を想定していないことが明らかである。現に、第1契約、第2契約及び第3契約の印税に関する条項は、レコードやビデオの販売を前提としたものにすぎない。契約の文言に「特殊なレコード」の記載があるとしても、レコードの販売はあくまで物の売買であるのに対し、楽曲の送信、ダウンロードまで物の売買に含めることには無理がある。 原告代表者は、被告の担当者から、本件アーティストの楽曲を実験的にインターネットで配信することの依頼を受けて、これを許諾したことがあるが、その後、多様な送信が行われるようになったにもかかわらず、正規の契約が取り交わされなかったため、平成17年9月に申入書(甲5)による申入れに至った。 原告側としても、被告側から送られてくる印税収入の中に、音源配信に伴う印税収入が含まれていることは認識していたが、印税支払明細書は難解であって、各楽曲ごとに配信に係る印税収入とそれ以外を区別して認識することは、事実上不可能であり、これまで、被告側から適切な説明がされたこともない。 もとより、本件各契約における印税に関する条項は、CD等のレコードやビデオなどのパッケージ商品の販売を前提としたもので、レコード店のマージン、レコード会社の販売管理費、プレス代、ジャケット制作費、宣伝費などのコスト計算を行い、在庫リスクを見込んでされた印税計算であり、インターネット等を通じての音源配信におけるコスト計算と全く異なる。 レコード会社の負担するリスクは、確かに、CD等の販売に関し、在庫等のリスクを負担していたとはいえても、インターネット等を通じての音楽配信サービスの場合は、在庫リスクが存在しない。また、レコード会社自身による送信にこだわらず、「iTunes Music Store」など外部委託による音楽配信サービスを利用すれば、設備投資のリスクを負うことなく、利益配分を受けることが可能である。しかも、本件アーティストに関しては、既にデビュー以来の投下資本は回収され、多大な利益をもたらしている。 したがって、パッケージ商品における印税計算式は、音源配信の場面における適正な印税収入を定めたものでなく、被告側への送信可能化権の帰属を正当化できるものではない。 3 業界慣習について レコード会社は、音楽業界において、隔絶した資本力や営業力を有するため、レコード会社側に有利な契約が押しつけられる例は多く、借地借家契約や消費者金融における借主と貸主の場合と同様、経済的な弱者対強者の問題を含んでいる。また、著作権法の改正も、経済的弱者である著作者側の保護を目的としてされたものである。 この点、著作権法61条2項の規定が参考となる。同条項は、著作者側が経済的弱者の地位にあることに鑑み、著作権の譲渡がその全部譲渡を意味するものとすれば、著作者の保護に欠けるおそれがあるため、将来どのような付加価値を生み出すか予想ができないものの代表格である同法27条(翻訳権、翻案権等)と同法28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)については、明示の意思表示がない限り、譲渡されないものと推定している。 この立法趣旨からすれば、当事者の明示の意思表示によって著作権の全部譲渡が契約内容となっている場合でも、譲渡の対象となる権利は締結当時既知でかつ法律上承認された利用権能に限られると解すべきである。けだし、契約締結後の技術の急速な進展が著作物の新しい利用方法を案出させ、これに伴う新しい権利を発生させたとしても、これもまた譲渡契約の内容に含まれるとして、譲受人に与えることは、当事者の意思解釈として妥当でないからである。 インターネット等による音楽配信サービスが採算のとれる事業として本格化してきたのはこの2年ほどのことであり、第1契約、第2契約及び第3契約の当時、楽曲をインターネット等を通じて販売することなど一般に想定されていなかった。まさに、契約締結時には予想のつかない付加価値であり、その後の技術の急速な進展に伴う新しい種類の権利の創設であって、譲渡の対象を送信可能化権にまで拡張することは、著作権法61条2項の趣旨に反するものとして許されない。 4 学者の各意見について 土肥教授の意見書(乙29)の中で、未知の利用方法に関する契約が無効になるとするとビジネスは成立しないとされ、また、池田教授の意見書(乙30)の中で、複製権を持たない者がインターネット上の音楽配信サービスを行うことは実際上不可能ということになるとされるが、必要に応じて適宜利用許諾の契約がされれば、これらの指摘は当たらない。 田村教授の意見書(乙45)に対しては、次のとおり、反論する。すなわち、東京高裁平成15年8月7日判決(ライオン丸事件)の位置付けについて、著作権ないし著作隣接権の譲渡契約の意思解釈という共通性があって参考となるが、本件では包括的な譲渡を内容とする契約の解釈であって、上記事件よりもさらに譲渡人の権利を制限ないし剥奪する内容であるから、より厳格な解釈が求められる。そして、契約当時に想定されていなかった権利につき仮に直面していたとしたらどちらに帰属させていたと考えられるかの発想は、妥当でなく、射程外の問題として、新たに適切な内容の契約を締結することが最も自然な解決方法であって、権利譲渡の対価である印税収入等の内容を含むから、権利の帰属だけを決定すれば適切な契約内容になるものでない。また、逆に放送権のみが譲渡人に留保されてそれ以外の著作権が譲渡された場合に、衛星放送に関する権利はむしろ譲渡されたことになるとの解釈は、上記判決の曲解であって、著作権の剥奪に近く、譲渡対象の範囲の認定は厳格に行い、射程外のものとして、契約の効力は及ばない。さらに、著作権法61条2項の解釈も妥当でなく、半田教授の「著作権法概説」(甲10)の同条項の該当箇所によっても、趣旨に基づく契約解釈、譲渡対象の制限が肯定されている。 もとより、インターネット等を通じた音楽配信サービスという新たな利用方法と送信可能化権に対する最も素直で適切な対処は、新たに適切な内容の契約を締結することであり、原告は、広範で多様な音楽配信サービスを意図して、被告側に、新たな契約締結の申入れ(甲5)をした。 そして、新たに創設された送信可能化権をもつ実演家、所属事務所、レコード会社及び音楽配信業者とが使い勝手のよい音楽配信の実現を目指して新しい処理基準を創設することが著作権法の目的に適うものである。 また、音楽配信サービスに係る維持管理費用の問題は、コスト計算がCD等のパッケージ販売を前提とするものと異なるし、不特定多数の楽曲の収益によって負担されるべきであるから、送信可能化権の帰属を正当化するものではない。 〔被告の主張〕 契約解釈の原則に基づき、本件各契約により、レコード製作者の著作隣接権を含む一切の権利が包括的に譲渡されたと解するのが当事者の目的に適合し、社会的、経済的合理性を有するから、A音源の持分2分の1及びB音源の全部に係る送信可能化権は、被告に帰属する。 1 本件各契約の解釈 (1) 原盤に関する権利の帰属 音楽業界における実演家、所属事務所、レコード会社の間の契約実務からすれば、一般に、原盤権として、原盤に収録された音源に係る実演家及びレコード製作者の著作隣接権を含む一切の権利が観念されており、これには、原盤そのものを独占的に使用、収益、処分する権利が含まれている。 本件各契約のうち、第1契約、第2契約及び第3契約のような共同制作原盤譲渡契約では、原盤制作費の一部を負担した実演家所属事務所は、レコード会社と共同で原盤権者となるが、第4覚書のような原盤独占譲渡契約の場合と同様、このような所属事務所の原盤権は、実演家の権利も含めて、レコード会社に独占的かつ永久的に譲渡され、その結果、レコード会社は、永久に自由かつ独占的に当該原盤を利用して、レコード等を複製、頒布することができる。 これに対し、所属事務所は、実演家印税の外、原盤印税を受領するものであり、このうちの原盤印税は、当該原盤の利用に対する報酬であって、原盤権の譲渡に対する対価ともいえる。 (2) 本件各契約の目的と解釈 本件各契約において、第1契約、第2契約及び第3契約の第6条の柱書、@ないしC号の各文言の外、第8条(実演家印税)及び第9条(原盤印税)の中の、特殊なレコードとして発売し、又は、特殊なレコードに使用した場合の印税についての取決め等によれば、SMEは、原盤権という原盤に収録された音源についての実演家及びレコード製作者の著作隣接権を含む一切の権利及び当該原盤の所有権の譲渡を受け、永久に、自由かつ独占的にこれを利用してレコード等の複製、頒布をすることができること、これに対し、レコードの原盤制作費を負担した原告は、原盤印税を受領することにより、原盤権の譲渡に対する対価ともいえる当該原盤の利用に対する報酬を得ることが明記されている。しかも、第1契約及び第2契約の第6条@号には、頒布の形態として、「有線放送」が例示され、第4覚書でも準用される第3契約の第6条@号には、同じく「有線送信」が例示されており、このような有体物の譲渡等に限定されない頒布の権利を何らの制限なく独占的に譲渡する旨が規定されている。 すなわち、本件各契約には、頒布として、有体物の譲渡等に限らず、放送、有線放送(有線送信)、上映などの無形利用を含むことが例示され、これらを含む当該原盤に関する実演家及びレコード製作者の著作隣接権を含む一切の権利がSMEに譲渡されることが明示的な文言で規定されているから、当事者の目的については、SMEに対し、原盤に収録された音源に係る著作隣接権の支分権を対象として、これを譲渡ないし許諾することではなく、音源に関して発生する一切の権利を譲渡すること、つまり、実演家及びレコード製作者の著作隣接権を包括的に譲渡することにあることは明白であり、従来の形態及び媒体による音源の頒布権だけでなく、将来開発される形態及び媒体による音源の頒布権をも譲渡の対象としている。 当事者の目的を参酌すれば、音源配信は、本件各契約の「レコード」の「頒布」に含まれ、音源配信に係る権利も譲渡されたと解するのが相当であり、このように解してこそ、第6条A号に定めるように、放送、有線放送(有線送信)、上映などの無形利用について、永久に独占的権利をSMEに保障することができる。万一、本件各契約によっては、その後に著作隣接権に追加された支分権がSMEに帰属していないとすれば、本件各契約の第6条A号と明白な矛盾を生ずることになる。 このように、本件各契約の当事者の目的は、原盤権という原盤に収録された音源について発生する著作隣接権を含む一切の権利を包括的にSMEに帰属させ、SMEが永久に、自由かつ独占的に当該原盤を利用することを確保することにあるから、本件各契約においては、将来の法改正により、著作隣接権を構成する支分権が追加されたとしても、これをも含めて実演家及びレコード製作者の著作隣接権の一切をSMEに譲渡したと解するのがその目的に適合する。 レコード会社であるSMEは、このような一切の権利に基づきレコード等の商品を自らのリスクで製造販売し、その利益に与り、損失の一切を負うものであり、一切の権利の包括的譲渡に将来の支分権も含まれると解することに社会的経済的合理性がある。 他方、このような原盤利用について、レコードの原盤制作費を負担した原告は、SMEから原盤印税を継続的に支払われることが確保されているから、社会的経済的合理性を有する衡平な契約といえる。 (3) 有線送信権と送信可能化権 昭和61年著作権法改正により、有線送信権が認められたが、従来の「有線放送」の中で、公衆に対して同一の情報を一斉に送信するもののほか、公衆の求めに応じて個々に情報を送るリクエスト型の送信も含めて解釈されており、重要性を増すリクエスト型の送信を明らかにするためにされた改正であった。そして、将来、有線放送以外の有線送信の中で、特別な扱いをすべきものが出てくる場合には、新たな概念に基づく法改正がされることが予定されていた。 本件各契約のうち、第1契約及び第2契約の第6条@号には、頒布の形態として有線放送が例示され、第3契約の第6条(第4覚書の準用)@号には、同様に有線送信が例示されているから、本件各契約における頒布は、インターネット配信のような公衆の求めに応じて個々に情報を送るリクエスト型の送信すなわちインタラクティブ送信による音楽配信サービスを含むことが明らかであり、SMEは、本件各契約により、このような音源配信について原盤を独占的に利用する権利を譲り受けたものである。 そして、平成9年改正により、昭和61年に新設された有線送信権を従前の有線放送権に戻すとともに、その代替として、送信可能化権が創設された。 このように、インタラクティブ送信に係る権利は、送信可能化権の創設前には有線送信権の中に含まれ、有線送信権の創設前には有線放送権の中に含まれていたものであり、本件各契約の締結時に存在していた権利の代替的な権利として送信可能化権が認められたものである。 また、音源配信においては、サーバへの音源蓄積が必要となり、これに対して実演家の録音権及び録画権(著作権法91条)、レコード製作者の複製権(同法96条)が及び、送信可能化権は、このようなサーバがネットに接続される状態を対象とするが、ほとんどの場合、録音権、録画権、複製権と重畳的に機能し、これらの権利が行使できないような例外的な状況で意味がある。 さらに、著作権法改正の契機となった「実演家及びレコード製作者に関する世界知的所有権機関条約」は、「レコードに固定されたその実演」(同条約10条)及び「そのレコード」(同条約14条)に利用可能化権を認めるものであり、原盤に収録された音源について、一切の権利を有する者が送信可能化権を有することは当然である。同条約は、レコード生産及び流通が第三者のインタラクティブないしオンデマンド型音源配信により代替される事態を防止しようとしたものであり、レコードに係る権利の保有者を細分化あるいは複雑化しようとしたものではない。 (4) 文化審議会著作権分科会報告書 平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書(乙40)では、本件の事案と同様の問題について、「第4節契約・利用ワーキングチーム」の「未知の利用方法に係る契約」として、報告されている。 これによっても、すべての利用契約について、「著作権者は構造的な弱者である」との前提で法律上特別な扱いをすることは現状にも合致しないであろうとされており、SMEが強者であり、原告が弱者であるとの前提で解釈することは誤りである。 また、一般論としては、譲渡人が取得すべき将来の不確定な収益に対する権利を契約によって包括的に譲渡することも可能であるから、著作者が当該利用方法の経済的価値を認識した上で利用契約を締結していないからといって、一般に予見し得なかった利用方法が利用契約の対象に含まれないというわけでもないとされているから、当事者である原告とSMEが本件各契約の締結時において、将来成立する支分権である送信可能化権につき認識している必要もない。 さらに、未知の利用方法が利用契約の対象に含まれていると解すべきかどうかの判断にあたっては、著作権者が利用契約に基づく著作物の利用について、十分な対価を得ていると評価されるか否かが重要となり、利用の対価の決定方法として、利用者が取得する収益に比例した方法が採られている場合には、新たな方法を利用契約に含めて解してもそれほど問題は生じないと思われると指摘され、現に、本件各契約においては、原告に対して原盤印税が継続的に支払われることが確保されている。 2 音源配信に関する印税 本件アーティストの音源は、平成13年7月11日に「bitmusic」で初めて配信され、以来、継続して平成17年12月までの間、「着うた」等において配信されていた。 SME又は被告において、音源配信の印税は、基本的にCDの印税と同様の計算方法に基づいて算出されており、「着うた」等については、平成16年1月1日以降の配信分から、「プロモート利用印税」(ただし、当初は「プロモート印税」の名称)が新たに設定され、原告及びファイブ・ディーに対しても、同年7月23日付け連絡書(乙5)で通知されている。 本件アーティストの音源配信に関する印税(実演家印税、原盤印税、プロモート利用印税)は、平成13年11月以降、四半期ごとに原告又はファイブ・ディーに支払われ、これまでのすべての印税が支払済みであり、いずれも異議なく受領されている。 なお、インターネット等を通じた音源配信では、多大な設備の維持管理費用が必要であり、SMEがそのすべてを負担している。すなわち、SMEは、その音源配信開始前、違法ダウンロードサイトが横行し、ネットの音楽はタダという風潮にあり、音楽産業、レコード業界として、ネット配信の枠組みを作るため、独自の著作権保護技術や楽曲の再生ソフトや課金システムを開発し、売上予想なしで、平成11年12月、最初に「bitmusic」による音源配信を開始したものである。 3 業界慣習 原盤権の譲渡を受けた原盤に収録された音源に関し、レコード会社は、実演家及びレコード製作者の送信可能化権を含む一切の著作隣接権の譲渡を受け、他方で、原盤の利用につき実演家及び所属事務所に対して印税を支払うという慣行は、長年にわたり、音楽業界において確立されている。このような業界慣習に基づいて近時の音源配信も行われており、被告以外の主要なレコード会社においても、同様である。このことは、レコード会社がコントロール権を保有し、実演家及び所属事務所が報酬請求権を保有するという基本的な構図で業界慣習を理解できる。 そして、SMEを含めると日本国内で製造販売されるレコードの9割近くを販売している日本を代表するレコード会社各社は、いずれも、次のことを認めている。 @現在の音楽業界において、音楽配信サービスは、従来のCDの市場を補完する重要な商品市場として欠かせない存在となっている。 A原盤譲渡契約においては、「送信可能化権」の平成9年改正以前に締結されたものであっても、レコード会社が送信可能化権を含む実演家及びレコード製作者の著作隣接権を保有することに変わりはなく、原盤譲渡契約は、原盤に収録された音源についての包括的な譲渡であり、将来の法改正によって付与される支分権も含めて譲渡されると解されている。 B平成9年改正前に締結された原盤譲渡契約に基づき制作された原盤についての音楽配信サービスにおける利用について、レコード会社ないし関連会社が送信可能化権を有するという点について、アーティストや所属事務所(プロダクション)から異議を受けたことはない。 したがって、本件各契約も、契約当事者の目的に次いで、このような業界慣習により、解釈されるべきである。 4 学者の各意見 慶應義塾大学の池田眞朗教授は、契約による権利移転の原則論、一切の権利と送信可能化権の関係、当事者の意思解釈、原盤譲渡契約の本質につき検討し、反対説からの分析をするなどの考察を経て、送信可能化権を含む一切の権利が譲渡されたと解することが権利移転の原則論にかない、また、原盤譲渡契約の本質からして当事者の意思解釈に合致し、公平かつ経済的合理性を有するとの意見を述べている(乙30)。 また、一橋大学の土肥一史教授は、著作権の全部又は一部の譲渡、著作権譲渡契約締結時に法定化されていない支分権についての考え方、ドイツ著作権法における法定化されていない支分権及び未知の利用方法に係る権利の帰属、ドイツ法とフランス法下での規整等につき検討した上、送信可能化権が譲渡されたと解することは、著作権法の下での包括譲渡という法形式に適合するなど、譲渡の対価とみられる原盤印税の支払額が譲渡後の原盤の使用という将来的な事情によって増加するという契約の特徴からみて当事者間の衡平に適合するとの意見を述べている(乙29)。 さらに、北海道大学の田村善之教授は、問題の所在、東京高裁平成15年8月7日判決(ライオン丸事件)、本件との関係、著作者有利原則・目的譲渡理論、著作権法61条2項等につき検討した上、本件の譲渡契約の対象に送信可能化権も含まれていると解釈すべきであるとの意見を述べている(乙45)。 第4 当裁判所の判断 1 証拠によって認められる事実 前記第2の1の前提となる事実に、証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 (1) 著作権法の改正経緯 ア 著作権及び著作隣接権のうち送信系の権利の変遷 (ア) 昭和61年法律第64号(乙11、顕著な事実) 昭和61年法律第64号による改正前の著作権法においては、「放送公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうことをいう。」(2条1項8号)、「有線放送公衆によつて直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(〔省略〕)を行なうことをいう。」(2条1項17号)とされていたところ、同改正により、「有線送信公衆によつて直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(〔省略〕)を行うことをいう。」(2条1項17号)、「有線放送有線送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行うものをいう。」(2条1項9号の2)とされた。 これは、従来、有線放送の中にオン・ディマンド型(インタラクティブ型)の送信を含めて解釈していたところ、当時のキャプテンシステム等のビデオテックス、データベースのオンラインサービスなどの新しい情報伝達手段の発展に伴い、これらを含むことを明確にする「有線送信」の上位概念を創設するとともに、「有線放送」の内容を一斉型の送信に限定したものである。なお、将来、有線放送以外の有線送信の中で特別な取扱いをすべきものが出てくる場合には、新たな概念が作られることが予定されていた。 (イ) 平成9年法律第86号(乙16、顕著な事実) 平成9年法律第86号により、「公衆送信公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(〔省略〕)を行うことをいう。」(2条1項7号の2)、「放送公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。」(2条1項8号)、「有線放送公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう。」(2条1項9号の2)と改正された。 これは、無線と有線、一斉型とオン・ディマンド型を問わず、すべてを包括する内容の「公衆送信」の概念を設けたものであり、オン・ディマンド型のものは、「放送と有線放送」以外の「公衆送信」と位置付けられる。 また、同改正により、「自動公衆送信公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」(2条1項9号の4)、「送信可能化次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。イ〔省略〕ロ〔省略〕」(2条1項9号の5)とされ、オン・ディマンド型(インタラクティブ型)の送信では、著作物の送信準備段階の行為も規制の対象となり、インターネット上のサーバ(自動公衆送信装置)に著作物の情報をアップロードした時点から公衆送信権が働くこととなった。 このうちの送信可能化権については、著作者にこれを含めた公衆送信権として付与されたほか(23条)、実演家(92条の2)とレコード製作者(96条の2)に付与されており、これらの実演家とレコード製作者の規定は、それぞれ、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty)10条及び14条を踏まえたものである。 イ レコード製作者の権利(顕著な事実) 昭和45年法律第48号による現行著作権法は、当初、レコード製作者の狭義の著作隣接権として、複製権(96条)のみを定めていたが、昭和59年法律第46号により貸与権(97条の2第1項、現在の97条の3第1項)、平成9年法律第86号により送信可能化権(96条の2)がそれぞれ設けられ、さらに、平成11年法律第77号により譲渡権(97条の2第1項)が新設された。 (2) 我が国における音楽配信サービス事業の展開 ア インターネット小史 (ア) コンピュータネットワークの起源(甲19、乙79ないし81、88、90、100) ネットワークの歴史は、昭和44年の米国国防総省におけるコンピュータ間のデータ通信を可能にしたARPA(Advanced Research Project Agency)ネットの実験成功にまで遡る。我が国においては、旧電信電話公社の主導により、昭和54年にINS(Information Network System)構想が提示され、昭和59年に文字や画像などの音声以外の情報の送受信ができるキャプテン端末が開発された当時が今日のネット社会の黎明であり、昭和63年には、全都道府県庁所在地を結んだ光ケーブル網が完成した。 (イ) パソコン通信(甲20、乙91ないし94) パソコンの利用者の増加に伴い、昭和60年以降、大手事業者の商用サービスによるパソコン通信が盛んになった。これは、ダイヤルアップ接続によってホスト局と接続し、直接の通信を確立してデータ通信を行うものであり、今日のインターネットとは異なり、特定の会員相互間における、いわば閉じたネットワークというべきものであった。 (ウ) Windows95以降(甲19、乙88) 一般家庭に本格的にパソコンが普及したのは、平成7年にWindows95(マイクロソフト社)が搭載されるようになってからであり、同時に、世界規模での通信網であるインターネットに接続する環境が整備されてきた。 パソコン通信事業者等は、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)として、インターネットへの接続環境を提供し、通信速度の改善とともに、インターネット利用者を増やしてきた。 今日、ADSLやケーブルテレビ、光回線などによるブロードバンド化された接続が一般的になり、パソコンのみならず、携帯電話でも、「i-mode」(エヌ・ティ・ティ・ドコモ)、「EZweb」(KDDI、ツーカー)、「Yahoo!ケータイ」(ソフトバンク)など、単体でインターネットに接続できる環境が提供されている。 イ 音源配信の経過 (ア) パソコン向け音源配信(甲12、13、17、乙3、28、51ないし78) 我が国のレコード業界における本格的な音楽配信サービスは、SMEにより、平成11年12月20日に「bitmusic」として開始された。これは圧縮した音楽ファイルに著作権保護の技術が施されており、対応した携帯音楽プレーヤーであれば、購入した楽曲をパソコンから転送することができ、著作権を保護しながら、ユーザーの需要にも配慮した設計がされていた。 その後、平成12年4月には、SMEを含むレコード各社の共同の出資により、株式会社レーベルゲートが設立されて「レーベルゲート」を立ち上げ、このほか、同月には、エイベックスが「@MUSIC」を開始し、徳間ジャパンが「エムコレ!」の配信実験をスタートし、同年7月には、ポニーキャニオンが「キャンディドットコム」、キングレコードが「Kmusic」をそれぞれ開始するなど、多くのレコード会社が音楽配信ビジネスに進出した。そして、平成16年4月1日、「レーベルゲート」が東芝EMIとワーナーミュージック・ジャパンの参加などによって「mora」としてリニューアルされ、平成17年8月4日には、米国アップル社の子会社であるアイチューンズ株式会社が「iTunes Music Store」の展開に乗り出した。 現在、音楽配信サービスのビジネス規模は大きく成長しており、ダウンロード可能な音源数は、「iTunes Music Store」において、約100万曲、「mora」において、約50万曲とされており、音楽配信サービスは、従来のCDの販売と同様、広い範囲の音源をカバーしている。 (イ) 携帯電話向け音源配信(甲12、乙3、28) 携帯電話でも、平成11年2月から、エヌ・ティ・ティ・ドコモにより、「i-mode」でのMIDI音源を利用した配信サービス(いわゆる着信メロディ)が開始された。また、平成12年11月には、PHS端末のDDIポケットから、CDなどの音源を配信する「Sound Market」のサービスが始まり、平成13年1月から、エヌ・ティ・ティ・ドコモのPHS端末でも、「M-stage music」が開始された。 そして、平成14年12月から、CDなどの音源を携帯電話の着信音として設定することのできる「着うた」のサービスが開始され、平成16年11月19日から、KDDIの携帯端末向けに音源1曲の全部の配信が可能な「着うたフル」のサービスが始まった。また、平成17年8月からは、ボーダフォン(現在のソフトバンク)の携帯端末向けの「着うたフル」サービスも開始されている。 今日、携帯電話向けの音源配信は、事業者側にとっても課金システムが確立されているメリットがある一方、ユーザー側のサービス利用障壁が低いこともあって、一般に広く浸透しており、KDDIの携帯端末による「着うたフル」の累計ダウンロード件数は、平成17年6月に1000万曲を突破した。 ウ 音楽配信サービスの売上げ等(乙3、4、28) (ア) 音楽ソフト売上げ 近年のCDレンタル等を含むCDの売上げは、次のとおりである。 平成13年 5934億円 平成14年 5808億円 平成15年 5319億円 平成16年 5202億円 この数年、CDの売上げは減少しており、平成16年は平成13年の87.7%である。 (イ) インターネット配信(パソコン向け音源配信)売上げ近年の音源配信とMIDIデータ配信を併せた売上げは、次のとおりである。 平成13年 16億円(うち、音源配信のみ5億円) 平成14年 25億円(うち、音源配信のみ11億円) 平成15年 32億円(うち、音源配信のみ17億円) 平成16年 50億円(うち、音源配信のみ36億円) 平成16年は平成13年の312.5%であって、MIDI音源を除いた音源配信のみでみれば、7倍以上に拡大している。 (ウ) 着信メロディ、「着うた」及び「着うたフル」配信(携帯電話向け音源配信)売上げ 近年の携帯電話向け音源配信の売上げは、次のとおりである。 平成13年 503億円 平成14年 664億円 平成15年 897億円 平成16年 1099億円 平成16年は平成13年の218.5%となっている。 エ 音楽配信サービスの位置付け(乙3、28) (ア) 独立行政法人日本貿易振興機構の調査レポートである「産業レポート日本の音楽配信産業の動向(2005年12月)」(乙3)によれば、要旨、「近年の音楽ソフト市場は、音楽CD販売の退潮が続く一方、インターネット向け音楽配信の市場規模が着実に拡大しつつある。音楽配信市場拡大の背景には、インターネット音楽配信プロバイダーや携帯電話向け配信プロバイダーを経由する新たな流通構造の確立がある。音楽配信ビジネスの特徴は、商材であるコンテンツがDRM(デジタル著作権管理)によって保護されるため、配信プラットフォームによって継続的に収益を得ることが可能となる点にある。」とされている。 (イ) 市場規模としてみても、平成16年におけるパソコン向け及び携帯電話向け音源配信の売上合計額は1149億円であり、CDレンタル等を含むCDの売上額の5202億円の2割以上を占めるに至っている。 このように、音楽配信サービスは、今日、従来からのCDなどの販売と同様、広い範囲の音源をカバーしており、現在では、通常、CDの発売と同時に着うたフル等の配信が開始されている。 (3) レコード原盤制作の経緯等 ア 音楽業界におけるレコード原盤の制作(乙9) (ア) CDのような音源についてレコード原盤といわれるマスターの録音物を制作する主体は、音楽実演家たるアーティストの所属する音楽事務所(プロダクション)であり、プレスされたCDのようなレコードを配給する主体は、レコード会社であるとされている。その配給とは、プレスして製造されたCDを商品化して宣伝し、卸売店や小売店に販売することであるところ、実際には、レコード会社がプレスや物理的な配給も他社に委託して行っていることが多く、レコード会社の配給事業の本質は、レコードの企画と宣伝にある。 (イ) レコード会社、アーティスト又は所属事務所のいずれかの主導により、新作アルバムとしての原盤制作がスタートすると、原盤の制作費として、スタジオミュージシャンの報酬、スタジオ使用料、編集室使用料、エンジニア料及び編曲料等が必要となる。 このような原盤制作費の負担の方法は、レコード会社と所属事務所との契約の内容により、@レコード会社が全額負担するもの、Aレコード会社と所属事務所が共同して負担するもの、B所属事務所が全額負担するものの3つに分けられる。上記Aの方法で制作された原盤については、「共同原盤」と称されている。 (ウ) なお、アーティストは、所属事務所との間でマネージメント契約を締結しており、同契約に従って、レコード会社から所属事務所を経由して実演家印税分の支払を受けることになる。 イ レコード会社と所属事務所の契約形態 レコード会社は、原盤の制作に資金を投下し、商品としてのCDを製造し、宣伝広告や販売促進に費用をかけ、在庫リスクを背負いつつ、自らの販売網によって、これを販売する。実演家たるアーティストは、在庫リスクのような危険を負担しない一方、これに対するリターンは、小売価格の2%程度の実演家印税によることになる。 これに対し、所属事務所は、原盤制作費を部分的に負担し、リスクを一部引き受けて共同原盤についての権利者となることで、レコード会社から原盤印税の支払を受け(前記ア(イ)Aの場合)、又は原盤制作費を全額負担して、より高い原盤印税の支払を受けることができる(前記ア(イ)Bの場合)。(乙9) 具体的な契約形態の概要は、次のとおりである。(乙17ないし28、31ないし35、41、42、44) (ア) 専属実演家契約(前記ア(イ)@の場合) 実演家たるアーティストの多くは音楽事務所に所属しており、所属事務所とレコード会社とは、専属実演家契約を締結する。この契約においては、レコード会社が原盤制作費を全額負担してレコード製作者となるが、制作された原盤に関する実演家の著作隣接権等の一切の権利がレコード会社に譲渡され、実演家が所属事務所を経由して通常1ないし2%程度の実演家印税の支払を受ける内容となっている。 (イ) 共同制作原盤譲渡契約(前記ア(イ)Aの場合) 所属事務所とレコード会社は、原盤制作費を共同で負担する場合、共同制作原盤譲渡契約を締結する。この費用の一部を負担した所属事務所は、レコード会社と共同してレコード製作者となるが、この契約においては、制作された原盤に関して、実演家の著作隣接権も含め、レコード製作者の著作隣接権等の一切の権利がレコード会社に譲渡され、所属事務所が通常10数%程度の原盤印税をレコード会社との負担割合に応じて支払を受けるほか、所属事務所を経由して実演家に実演家印税が支払われる内容となっている。 (ウ) 原盤独占譲渡契約(前記ア(イ)Bの場合) 所属事務所とレコード会社は、原盤制作費を所属事務所が全額負担する場合、原盤独占譲渡契約を締結する。所属事務所は、単独でレコード製作者となるが、この契約においても、制作された原盤に関して、実演家の著作隣接権も含め、レコード製作者の著作隣接権等の一切の権利がレコード会社に譲渡され、所属事務所が原盤印税の支払を受けるほか、所属事務所を経由して実演家に実演家印税が支払われる内容となっている。この場合、所属事務所は、レコード会社との間で案分することなく原盤印税の全額の支払を受けることができる。 ウ 本件アーティストに係るレコード原盤制作 (ア) 本件アーティストの発掘(乙86) 本件アーティストについては、SMEにデモテープが送られてきたことを契機として、SMEの新人発掘部門が本件アーティストの才能を認めて評価し、SMEが本件アーティストを全面的にバックアップをする形がとられ、原告が音楽事務所として引き受けることになって、本件アーティストのメジャーデビューが実現した。 (イ) 本件各契約に基づく原盤制作(甲1ないし4、11、乙1、28、86) SME担当者と原告代表者との話合いにより、SMEと原告との間で、本件アーティストに係るレコード原盤の制作費を折半することを基本として、共同制作原盤譲渡契約を締結する旨合意された。 その後、第1契約、第2契約及び第3契約に基づいて、A音源に関するレコードの原盤が制作費を原告とSMEが各2分の1を負担して制作された。また、第4覚書に基づいて、B音源に関するレコードの原盤が制作費の全額を原告が負担して制作された。 エ 送信可能化の経緯(乙13、弁論の全趣旨) 平成9年法律第86号が施行された平成10年1月1日当時、A音源及びB音源に係るレコードについて、自動公衆送信される状態に置かれていたことはなく、未だ送信可能化は行われていなかった。 A音源及びB音源に関して配信されるようになったのは、平成13年7月11日以降である。 (4) 本件各契約の規定の概要 ア 本件各契約の概要(甲1ないし4) 本件各契約のうちの第1契約、第2契約及び第3契約は、いずれも、原告とSMEとが本件アーティストの実演を収録し、共同で原盤を制作し、原告はこれを何ら制限なく独占的にSMEに譲渡することに関するもので(前文)、大半の規定を同じくするものである。特に、第1契約と第2契約の書面については、SMEが用意した印字された雛型の定型用紙の空欄に、原告名、本件アーティスト名、原盤制作費の持分比率、印税率等の数字、印税の振込先口座、契約期間年数等を手書きで書き入れたものであった。 その概要を見出しでみると、第1契約、第2契約及び第3契約のいずれも共通しており、第1条(定義)、第2条(委任)、第3条(目的)、第4条(原盤制作)、第5条(原盤制作費)、第6条(権利の譲渡)、第7条(約諾)、第8条(実演家印税)、第9条(原盤印税)、第10条(特別な場合)、第11条(印税計算・支払)、第12条(スタジオ使用料)、第13条(広告・宣伝)、第14条(保証)、第15条(委任関係)、第16条(事前の承認)、第17条(契約期間)、第18条(契約違反)、第19条(機密保持)、第20条(信義則)、第21条(修正・変更)、第22条(特約条項)となっている。 また、第4覚書は、全体で9項の条項からなり、負担割合の変更のほか、契約更改金の支払条項やいわゆるアーティスト育成条項等が含まれている。 イ 第1契約の内容(甲1) 第1契約の主要な条項は、次のとおりである。 (ア) 第2条(委任) 「甲は、丙から丙の実演を収録して、レコード及びビデオを独占的に複製し、頒布その他を行なうについて完全なる委任を受けており、本契約を締結するに足る十分な権利を有していることを保証する。」 (イ) 第3条(目的) 「甲及び乙は、本契約の有効期間中(更新延長期間も含む。以下同じ)丙による実演を独占的に収録して共同で原盤を制作する。 当該原盤及びこれに係る一切の権利は、甲・乙の共有に属するものとし、原盤は乙が保管する。」 (ウ) 第5条(原盤制作費) 「(1)原盤の制作に関する諸費用(〔省略〕)は、甲がその1/2、乙がその1/2を負担する。 (2)甲が負担すべき原盤制作費を乙が立替払いを行なった場合、乙はその負担分を甲に請求し、甲は請求のあった日より60日以内に当該請求金全額を乙に支払うものとする。 (3)尚、甲が前項の支払を行なわない場合、乙は甲が原盤に係る一切の権利を全て放棄したものと看做し、乙の自由な判断により当該原盤に係る甲の有する一切の権利を、原始的に全て乙に帰属させることができるものとする。」 (エ) 第6条(権利の譲渡) 「甲は、本契約に基づく原盤に関し甲の有する一切の権利(甲・丙の著作隣接権又は甲の著作権を含む)を、何らの制限なく独占的に乙に譲渡する。 @この権利には、一切の複製・頒布(貸与・放送・有線放送・上映を含む。以下同じ)権及び二次使用料等(〔省略〕)の徴収権を包含する。 A乙は、如何なる国に於いても、随時、本契約の終了後も引続いて自由に、且つ独占的に当該原盤を利用してレコード及びビデオを複製し、これらに適宜のレーベルを付して頒布することが出来る。 B前号のレコード及びビデオの種類、数量、価格、発売の時期・方法その他一切の事項について、乙は自由な判断により決定することが出来る。 Cこの権利の一部又は全部を、乙は自由な判断により第三者に譲渡することが出来る。」 (オ) 第7条(約諾) 「(1)甲は、乙に対し以下のことを約諾する。 @本契約の有効期間中は、乙以外の者の為に収録の為の実演を丙に行なわせないこと、並びに劇場用及びテレビ用映画等に丙が出演する際は、当該映画からレコード又はビデオを複製し頒布する権利は、乙が独占的に留保している旨を明示した契約により行なうこと。 A本契約終了後5ヶ年間は、既に乙が丙の実演により発売したレコード又はビデオに関る原盤に収録された著作物と同一の著作物に関して、収録の為の実演を丙に行なわせたり、甲自ら丙の実演を収録したり、乙以外の者にその収録を許諾したりしないこと。 B〔省略〕 (2)万一、甲が前項に違背した場合は、その結果生じた全てのレコード及びビデオに係る一切の権利(甲・丙の著作隣接権又は甲の著作権を含む)は、すべて甲・乙・丙間の別段の意思表示を要せず、当然乙に帰属したものとする。」 (カ) 第8条(実演家印税) 「甲及び乙は、本契約に基づく原盤を使用して発売されたレコード及びビデオに関して、以下の定めに従い、丙の実演家印税(所得税込)を算出し、甲がその1/2、乙がその1/2を負担し、甲を経由して丙に支払うものとする。 (1)レコードとして発売した場合 @シングル・レコード(〔省略〕)の場合 片面1曲につき金2円00銭 Aシングル・レコード以外のレコードの場合 前号の定めにより算出したシングル・レコード1枚当りの印税を基にし、当該レコードとシングル・レコードの税込定価の比率により算出する。 (2)デジタル・オーディオ・ディスク又は特殊なレコード、ビデオとして発売した場合は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (キ) 第9条(原盤印税) 「本契約に基づく原盤を使用した場合の原盤印税(〔省略〕)は、以下の通りとし甲がその1/2、乙がその1/2を収受するものとする。 (1)レコードとして発売した場合 1枚のレコードに本契約に基づく原盤のみを使用した場合、レコード1枚につき (税込定価−消費税−ジャケット代)×10% ジャケット代は、税込定価の10%とする。但し、シングル・レコードの場合は、ジャケット代の控除を行なわないものとする。 (2)デジタル・オーディオ・ディスク又は特殊なレコード、ビデオに使用した場合は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (ク) 第11条(印税計算・支払) 「(1)本契約に基づく印税は、レコード及びビデオの営業所出庫数量の80%に対して発生するものとする。 (2)乙は、毎年3月、6月、9月及び12月の各末日をもって印税の計算(円単位以下二桁にて切捨て)を締め、各締切日の翌々月25日に計算明細書を付して甲(丙)に支払う。〔省略〕 (3)〔省略〕」 (ケ) 第15条(委任関係) 「(1)本契約の締結にあたって、及び本契約の有効期間中はいつでも、甲は乙の要請があれば、本契約に関係のある甲・丙間の契約書・覚書等の写および丙の委任状等を乙に提出する。 (2)万一、本契約期間中に甲・丙間の契約関係がすべて消滅した場合に於いても、丙は引続き乙の専属実演家として、本契約に定めると同一条件にて、本契約上丙に課せられた義務を履行するものとし、甲はこれに対して何等異議を申し立てないことを約諾する。」 (コ) 第17条(契約期間) 「(1)@本契約の期間は、本契約の締結日から最初のレコード又はビデオの発売日まで、及び当該発売日以降2ヶ年間とする。 A本契約の期間満了の2ヶ月前迄に、甲又は乙が相手方に対して文書により本契約の消滅の意思表示をしない限り、本契約は更に2ヶ年の期間、同一条件にて自動的に更新延長される。 B自動延長後の取扱についても、前号の定めによるものとする。 (2)〔省略〕」 (サ) 第20条(信義則) 「本契約に定めのない事項、又は本契約の条項の解釈等についての疑義を生じた場合は、甲・乙誠意をもって協議の上、信義に則して解決するものとする。」 ウ 第2契約の内容(甲2) 第2契約の条項は、第1契約と基本的に同一であるが、内容の異なる主要な条項は、次のとおりである。 (ア) 第8条(実演家印税) 「(1)レコードとして発売した場合 1枚のレコードに、当該原盤のみを使用した場合、レコード1枚につき (税込定価−消費税−ジャケット代)×1.5% ジャケット代はデジタル・オーディオ・ディスクにおいて所謂「特殊仕様」ジャケットを使用した場合は税込定価の15%、その他のレコードに関しては税込定価の10%とする。但し、シングル・レコード(〔省略〕)の場合は、ジャケット代の控除を行なわないものとする。 (2)特殊なレコード、ビデオとして発売した場合は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (イ) 第9条(原盤印税) 「(1)レコードとして発売した場合 1枚のレコードに当該原盤のみを使用した場合、レコード1枚につき (税込定価−消費税−ジャケット代)×11.5% ジャケット代はデジタル・オーディオ・ディスクにおいて所謂「特殊仕様」ジャケットを使用した場合は税込定価の15%、その他のレコードに関しては税込定価の10%とする。但し、シングル・レコード(〔省略〕)の場合は、ジャケット代の控除を行なわないものとする。 (2)特殊なレコード、ビデオとして発売した場合は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (ウ) 第17条(契約期間) 「(1)@本契約の期間は、1991年5月21日から1993年5月20日迄とする。」 エ 第3契約の内容(甲3) 第3契約の条項は、第1契約及び第2契約と基本的に同一であるが、内容の異なる主要な条項は、次のとおりである。 (ア) 第6条(権利の譲渡) 「@この権利には、一切の複製・頒布(貸与・放送・有線送信・上映等を含む。以下同じ)権及び二次使用料等(〔省略〕)の徴収権を包含する。」 (イ) 第8条(実演家印税) 「(1)レコードとして発売した場合 1枚のレコードに、当該原盤のみを使用した場合、レコード1枚につき (税込定価−消費税−ジャケット代)×2% ジャケット代はデジタル・オーディオ・ディスクにおいて所謂「特殊仕様」ジャケットを使用した場合は税込定価の15%、その他のレコードに関しては税込定価の10%とする。 (2)特殊なレコード及び特殊なビデオとして発売した場合の丙の実演家印税は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (ウ) 第9条(原盤印税) 「(1)レコードとして発売した場合 1枚のレコードに当該原盤のみを使用した場合、レコード1枚につき (税込定価−消費税−ジャケット代)×12% ジャケット代はデジタル・オーディオ・ディスクにおいて所謂「特殊仕様」ジャケットを使用した場合は税込定価の15%、その他のレコードに関しては税込定価の10%とする。 (2)特殊なレコード及び特殊なビデオとして発売した場合の原盤印税は、乙の業界慣習に従い乙が決定する。」 (エ) 第17条(契約期間) 「(1)@本契約の期間は、1993年5月21日から本契約に基づく丙のオリジナル・フルアルバム(〔省略〕)2タイトル目の発売日迄とする。 A甲・乙は、本契約期間満了の2ヶ月前迄に、本契約期間満了日以降の契約に関する取扱いを協議するものとする。 この場合、甲は丙のレコード及びビデオに係る原盤制作権又は発売権に関し、乙に所謂ファースト・オプション権(最優先選択権)を賦与するものとする。 (2)〔省略〕」 オ 第4覚書の内容(甲4) 第4覚書の主要な条項は、次のとおりであり、第3契約の該当する条項に変更を加え、また、新規の事項を規定している。 (ア) 1項 「甲・乙の両者は、原契約第17条第1項規定の原契約の契約期間を1994年11月22日から原契約に基づく丙のオリジナル・フルアルバム(〔省略〕)1タイトル目の発売日迄及び当該発売日以降3カ月間の期間更新・延長することに合意するものとします。」 (イ) 2項 「原契約第5条第1項に規定の原盤制作費および原契約第8条に規定の実演家印税の負担割合、並びに原契約第9条に規定の原盤印税の収受割合『甲1/2、乙1/2』を『甲100%』と読み替えるものとします。」 (ウ) 3項(なお、3項は項番号が重複しており、このうちの最初の項) 「前項の規定に基づき、原契約の更新・延長期間中に甲が新規に制作し、乙に譲渡する原盤を使用した場合の原盤印税率等の取扱いについては、以下の通りとするものとします。 @レコードとして発売した場合に関しては、原契約第9条第1項に規定の原盤印税率『12%』を『13%』に読み替え、その全額を乙は甲に支払うものとします。尚、乙は原契約第8条に規定の実演家印税の支払を行う義務はないものとします。 A〔省略〕」 (エ) 5項 「乙は、契約更改金として金1、000万円也(消費税別途加算)を本覚書締結後すみやかに甲に対し支払うものとします。」 (オ) 6項 「乙は、本覚書の有効期間中の丙の海外における音楽活動を積極的に援助・応援するため『海外活動協力金』として、金1、000万円也(消費税別途加算)を甲に対し支払うものとします。〔省略〕」 (カ) 8項 「本覚書に定めのない事項については、原契約等の諸条項の規定を準用するものとします。」 カ 現在の共同制作原盤譲渡契約書の雛型(乙84、85) 平成9年改正の後、被告において、共同制作原盤譲渡契約書の雛型が改訂され、次のとおり、インターネットを利用した音源配信等に関する規定が設けられた契約書を使用している。 (ア) 第1条(定義) 「Gレコード等:収録物のうち、第三者への提供又は第三者による利用を目的として製作される物をいいます。レコード等には、〔省略〕ハードディスク、公衆送信用記録媒体、並びに、将来開発され得るその他の物を含みますが、これらには限定されません。」 「J利用行為:〔省略〕(B)レコード等に収録された実演を送信その他の方法によって第三者に提供して、第三者に実演を再生させ得るようにする行為をいいます。」 (イ) 第4条(本件利用行為) 「(1)乙は、本契約の有効期間中及び本契約の終了後を問わず、また、地域の制限なく、本契約の有効期間中に制作された本件原盤等を使用して、本件利用行為を行うことができます。」 (ウ) 第6条(権利の譲渡及び帰属) 「(1)本件契約に基づいて行われる収録のための実演、及び当該収録のための実演によって甲乙共同にて制作された本件原盤等に係る以下の権利について、甲は、地域及び期間の制限なく、独占的に乙に譲渡するものとします。 @所有権。 A著作権法に基づくレコード製作者の権利。 B著作権法に基づく実演家の権利。 C著作権法に基づく著作者の権利。〔省略〕 D著作権法に基づく映画製作者の権利。 E本件原盤等の制作に伴って発生する、その他一切の権利。」 (エ) なお、印税については、同契約書別紙部分「原盤印税及び実演家印税の算定方式及び支払方法」の「1.原盤印税及び実演家印税の算定方式A.本件レコード等を販売する場合」において、 「(10)本契約第1条第11号(B)に規定する利用行為により販売する場合 @第(1)項に規定した印税率に80%を乗じて、本件印税を算出します。 Aジャケット代は税込定価の10%とします。但し、ジャケットを伴わない販売についてはジャケット代の控除を行いません。B本件印税は販売数量の100%に対して発生します。」 と規定されている。 (5) 原盤印税の支払実績 ア プロモート利用印税(乙5ないし8、12、14) 新SME(SMEが平成15年4月1日に「株式会社エスエムイージェー」に商号変更されると同時に新設分割された「株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント」)は、平成16年1月1日以降の「着うた」としての音楽配信サービスを対象とする「プロモート印税」について、取引先に対し、次のとおり通知した。 「1.印税率: @〔省略〕 A貴社・当社が共同で制作費を負担した原盤;(税込定価−消費税)×{3%+(4%×貴社原盤持分比率)} ※〔省略〕 B貴社が全ての制作費を負担した原盤;(税込定価−消費税)×7% ※印税計算対象数量は販売数の100%とします。 2.対象原盤:貴社・当社間において締結されている全てのアーティストに係る契約に基づき制作され、当社が保有する全ての原盤。 3.〔省略〕 4.〔省略〕 5.備考: @「着うた<R>」が新規開発商品であることに鑑み、当分の間、各印税率に80%を乗じて印税率を算出します。 A〔省略〕 B〔省略〕」 その後、平成17年1月1日以降の「着うた」としての音楽配信サービスを対象として、これを新たに「プロモート利用印税」と改め、取引先に対して通知した。これによると、印税率等については、従前のプロモート印税と同じであるが、対象サービスを着うた以外にも拡大し、音楽配信サービスにおける配信控除として20%を控除し、当分の間各印税率に80%を乗じて印税を算出すると説明している。 イ 被告の印税支払実務(甲1ないし4、12、乙5ないし8、13ないし15、46ないし50(枝番を含む。以下同じ。)) 被告における印税支払の実務は、音源配信の種類に応じ、本件各契約による印税支払の取決め及びプロモート利用印税の支払約束の規定に従って、次のとおり行われている。 (ア) 「mora」や「iTunes Music Store」のサイトから提供されるフル音源配信では、レコードに収録された音源を同じ容量(収録時間)で配信しており、原盤印税(他に実演家印税)が支払われる。 (イ) 「着うた」に代表される音源及びビデオクリップ等の一部を配信するサービスでは、主に、レコード会社直営のサイトからダウンロード配信されており、原盤印税(他に実演家印税)に加えてプロモート利用印税が支払われる。 そして、印税の計算方法は、従来のレコード販売に関する原盤印税の基本的な計算式が「(税込価格−消費税−ジャケット代)×印税率×(営業所出庫数×80%)」であるところ、音源配信の場合の基本的な計算方法は、上記の計算式を音源配信に当てはめたものであって、「(税込価格−消費税)×(印税率×80%)×ダウンロード数」である。このうち、税込価格は、ダウンロード1回当たりの税込価格であって、フル音源配信の場合は210円程度、一部の音源配信の場合は105円程度であり、原盤印税及びプロモート利用印税の印税率は、契約書等に記載の印税率のとおりである。なお、印税率に80%を乗じて、20%を配信控除としているのは、サーバ等の設備投資、各種技術に関わる費用等のインフラ整備等、音楽配信サービスの普及や市場形成に当たり投資した費用回収相当分とされている。 ウ 本件アーティストの音源配信に関する印税支払実績(乙10、13) SME又は被告は、本件アーティストの平成13年7月から平成17年12月までの音源配信に関する印税として、原告又はファイブ・ディーに対し、合計143万6645円を支払った。 (6) 原告の申入れとこれに対する回答 原告は、新SMEに対し、平成17年9月6日付け申入書(甲5)をもって、本件アーティストの音源について、本件アーティストが実演家の送信可能化権を有し、原告がレコード製作者の送信可能化権を有することを前提に、音源配信の利益配分に関する新たな算出方法の設定を条件とする本件アーティストの音源の配信を求めた。 これに対し、新SMEは、原告に対し、同年12月20日付け書面(甲8)をもって、本件アーティストの音源については、被告が送信可能化権を含む一切の権利を保有しており、原告との間の紛争が解決するまで、本件アーティストの音源の配信を中断する旨を伝えた。 2 A音源及びB音源に関するレコード製作者の送信可能化権の帰属について (1) A音源及びB音源に関するレコード製作者 ア レコード製作者の意義 著作権法上、レコード製作者とは、「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。」(著作権法2条1項6号)と定義されているから、レコード(同法2条1項5号)に入っている音を初めて蓄音機用音盤、録音テープその他の物に固定した者、すなわち、レコードの原盤の制作者を指すものと解される。そして、レコード製作者であるためには、いかなる方式の履行をも要しないものであるが(同法89条5項)、物理的な録音行為の従事者ではなく、自己の計算と責任において録音する者、通常は、原盤制作時における費用の負担者がこれに該当するというべきである。また、レコード製作者が誰かについては、原盤制作と同時に原始的に決定されるべきものであり、原盤制作後の後発的な費用負担の変更等によって、レコード製作者たる地位そのものが変わることはないものと解される。 イ 本件におけるレコード製作者 これを本件についてみるに、本件各契約において、前記1(3)ウ(イ)認定のとおり、第1契約、第2契約及び第3契約では、A音源に係る原盤の制作前に、原告とSMEが制作費の各2分の1を負担し、第4覚書では、B音源に係る原盤の制作前に、原告が制作費の全額を負担することが明示的に決まっていたものである。そして、A音源に係る原盤は、原告とSMEが共同で2分の1ずつ各自の計算と責任において制作し、B音源に係る原盤は、原告が自己の計算と責任において制作したものである。 したがって、これらの音源に係る原盤の制作時において、原始的に、A音源については、原告とSMEが各2分の1の割合をもって共同してレコード製作者の地位を取得し、B音源については、原告がその全部につき単独でレコード製作者の地位を取得したものと認められる。なお、本件において、A音源及びB音源に関するレコードが著作権法8条(保護を受けるレコード)の要件を充たしていることは明らかである。 ウ レコード製作者の有する権利 平成11年法律第77号による著作権法改正の結果、現在では、レコード製作者は、複製権(著作権法96条)、送信可能化権(同法96条の2)、譲渡権(同法97条の2第1項)及び貸与権(同法97条の3第1項)の外、二次使用料を受ける権利(同法97条1項)及び報酬を受ける権利(同法97条の3第3項)をそれぞれ享有する(同法89条2項)。このうち、二次使用料及び報酬を受ける権利を除いたものが、狭義の著作隣接権(同法89条6項)である。 本件各契約が締結された平成元年5月から平成6年11月までの当時は、平成9年法律第86号及び平成11年法律第77号の施行前であるから、レコード製作者には、上記の狭義の著作隣接権のうち、複製権及び貸与権のみが付与されていたものであり、送信可能化権及び譲渡権は付与されていなかった。 (2) 本件各契約におけるレコード製作者の権利 ア 本件各契約の体裁 本件各契約の当事者は、本件アーティスト(丙)の所属事務所である原告(甲)とレコード会社であるSME(乙)であり、このうち、第1契約、第2契約及び第3契約については、互いに共同のレコード製作者の地位にある原告とSMEとの間で交わされた契約であり、第4覚書については、単独のレコード製作者の地位にある原告とそのような地位にないSMEとの間で交わされた契約である。 第1契約、第2契約及び第3契約が前記1(3)イ(イ)の「共同制作原盤譲渡契約」に当たるのに対し、第4覚書は、前記1(3)イ(ウ)の「原盤独占譲渡契約」であるものと位置付けられる。 なお、本件各契約においては、原告が本件アーティストからその実演を収録してレコード及びビデオを独占的に複製し、頒布その他を行うにつき委任を受けており、十分な権利を有することを保証する(第2条)とともに、要請によって、原告と本件アーティストの間の契約書の写しや委任状等をSMEに提出する(第15条)ものとされているから、原告は、実演家たる本件アーティストとの関係では、本件各契約における本件アーティストの権利義務に関する条項について、所属事務所として、本件アーティストを実質的に代理する立場で契約した内容となっている。 イ 本件各契約上のレコード原盤に関する権利 本件各契約の中では、第1契約(甲1)、第2契約(甲2)及び第3契約(甲3。第4覚書(甲4)により準用される場合を含む。)の第6条(「原盤に関し甲の有する一切の権利(甲・丙の著作隣接権又は甲の著作権を含む)」)のみならず、第3条(「当該原盤及びこれに係る一切の権利」)、第5条(3)項(「当該原盤に係る甲の有する一切の権利」)、第7条(2)項(「レコード及びビデオに係る一切の権利(甲・丙の著作隣接権又は甲の著作権を含む)」)等の規定において、本件アーティストの所属事務所である原告が有する原盤に関する権利として、本件アーティストの実演家としての著作隣接権等も含め、これを包括的に捉えて構成している。 このような原盤に関する権利を「原盤権」と称するか否かは格別として、原盤に関して原告の有する権利の中に、著作権法で定められたレコード製作者としての一切の著作隣接権が含まれているものと解される。 なお、前記1(4)カ認定のとおり、被告が利用する現在の共同制作原盤譲渡契約書(乙84)では、第6条(権利の譲渡及び帰属)の中で、譲渡の対象となる原盤に係る権利として、@所有権、A著作権法に基づくレコード製作者の権利、B著作権法に基づく実演家の権利、C著作権法に基づく著作者の権利、D著作権法に基づく映画製作者の権利、E原盤等の制作に伴って発生するその他一切の権利を掲げることにより、規定を具体化している。 (3) 本件各契約における著作隣接権譲渡の解釈 ア 本件各契約の解釈 本件各契約における権利譲渡条項については、当該条項の文言自体及び本件各契約書中の他の条項のほか、契約当時の社会的な背景事情の下で、当事者の達しようとした経済的又は社会的目的及び業界における慣習等を総合的に考慮して、当事者の意思を探求し解釈すべきものである。 イ 条項の文言及び契約の内容 前記(2)アのとおり、第1契約、第2契約及び第3契約は共同制作原盤譲渡契約であり、第4覚書は原盤独占譲渡契約であるところ、本件各契約は、第1契約、第2契約及び第3契約の前文にあるとおり、本件アーティストの実演を収録して原盤を制作し、原告からSMEに対して「何ら制限なく独占的に」これを譲渡することに関して契約されたものである。そして、本件各契約の第3条(目的)及び第6条(権利の譲渡)は、いずれも、この前文を直接的に具体化した規定であり、第6条には、原告は、当該契約に基づく原盤に関し原告の有する「一切の権利(中略)を、何らの制限なく独占的に」SMEに譲渡すること及び上記権利には、「一切の複製・頒布(貸与・放送・有線放送・上映を含む。)権」等を包含することが規定されているのである。 他方、本件各契約のうち、第1契約、第2契約及び第3契約についての第8条(実演家印税)、第9条(原盤印税)、第10条(特別な場合)及び第11条(印税計算・支払)、第4覚書の2項及び3項は、いずれも、印税の支払についての取決めであり、本件各契約の第6条に従って、原盤に関する権利が原告からSMEに譲渡された後、レコード等の売上げに応じて、SMEから原告に対して原盤印税が支払われ、実演家印税もSMEから本件アーティストに対して原告を経由して支払われることを規定したものである。 本件各契約の第6条の文言は、前記1(4)イウエ認定のとおり、各柱書において、原盤に関して原告の有する権利(原告と本件アーティストの著作隣接権又は原告の著作権を含む)を「何らの制限なく独占的に」SMEに譲渡するというものであり、そこには、原告の下に権利の一部を留保するような文言上の手掛かりはない。 なお、本件各契約の第6条@号の中で、柱書の権利の内容として、「一切の複製・頒布(貸与・放送・有線放送〔有線送信〕・上映〔等〕)権〔省略〕を包含する」と規定されているが、このうち、レコード製作者の著作隣接権に該当するのは、貸与権のみであり、放送権、有線放送権(有線送信権)は、実演家の著作隣接権に関するものである。ここでの有線放送権あるいは有線送信権における解釈の如何は、著作権法上の排他的権利であるレコード製作者の著作隣接権の帰属に関しては、特段の意味を持たないものと考えられる。他方、同条A号では、いかなる国においても、随時、契約終了後も引き続いて自由に独占的に原盤を利用できることが言及されており、将来にわたって、本件各契約に基づく当事者間の基本的な権利関係が維持されることを内容としている。 ウ 当事者の目的 (ア) 著作権法103条は、著作隣接権の譲渡について、同法61条1項の規定を準用しているから、レコード製作者の著作隣接権についても、その全部又は一部を譲渡することが可能である。本件各契約の第6条は、その文言のとおり、このようなレコード製作者の著作隣接権を含む原盤に関する権利の一切、すなわち一部ではなくその全部をレコード会社であるSMEに譲渡したものである。 そして、原告のレコード製作者の地位に基づく権利の譲渡に対して、その譲渡の対価に相当するものが印税の支払であり、A音源及びB音源に係るレコードの売上げに応じて、所定の計算方法によって算出された原盤印税が計算明細書を付して支払われることになる。 このように、本件アーティストの所属事務所である原告としては、レコード製作者として与えられた排他的権利である著作隣接権をレコード会社であるSMEに譲渡して、その行使を放棄する一方、経済的な観点から、SMEに対する原盤印税支払請求権という形に発展させて、実質的な権利行使を意図したものである。また、レコード会社であるSMEとしては、レコード製作者の著作隣接権のみならず、原盤の所有権や実演家の著作隣接権等も併せて譲り受けることにより、原盤に対する排他的な支配権を確保し、自由でかつ独占的な経済的利用が可能となる反面、その利用による売上げに応じた収益を、印税の形で、レコード製作者たる原告や実演家たる本件アーティストに還元することを容認したものである。 (イ) 原告とSMEの双方が本件各契約において意図した内容は、前記(ア)のとおり、原告がレコード製作者としての著作隣接権を含む一切の権利を譲渡し、SMEが自由で独占的な経済的利用をする一方で、その収益を原告に還元することにある。 このような当事者の意図や目的において、本件各契約の締結当時、著作権法上、レコード製作者の著作隣接権として、具体的にいかなる権利が定められているかは問題とされず、SMEに当該レコード原盤の自由で独占的な経済的利用を可能ならしめるため、これに係る一切の権利を移転させ、その反面において、対価的な印税の支払を約束したものである。 (ウ) 著作権法は、改正の比較的頻繁な法分野であり、急速な技術の発達や利用環境の変化を背景にして、新しい権利関係や法的規制が創設されてきたものであり、平成9年改正による送信可能化権の創設についても、インターネットなどのネットワーク環境の下でのインタラクティブな送信形態の発達を背景としたものである。 本件各契約の第6条の文言と前記ウ(ア)のような当事者の意図を勘案すれば、契約当事者としては、SMEに当該レコード原盤に係る一切の権利を取得させ、原告に対し対価としての印税を与えるという基本的な関係を確保すべく、上記のような立法の背景の下、少なくともレコード製作者の地位に伴うものである限り、契約締結当時の具体的な権利関係に加え、将来的な立法にわたる部分についても、一律に包括的な譲渡の対象としたものと解するのが相当であり、これが本件各契約の第6条の趣旨であると考えられる。 エ 音楽業界における慣行 本件各契約のうち、第1契約及び第2契約の書面は、前記1(4)ア認定のとおり、レコード会社であるSMEが用意した印字された雛型の定型用紙の空に、原告名、本件アーティスト名、原盤制作費の持分比率、印税率等の数字、印税の振込先口座等を手書きで書き入れたものであった。 前記1(3)アイ認定のとおり、我が国のレコード音楽業界において、原盤に収録された音源に関し、レコード会社が実演家及びレコード製作者の著作隣接権を含む一切の権利の譲渡を受け、他方で原盤の利用に関して印税を支払うことは、長年にわたる慣行として確立しており、このような関係を前提として、今日まで、原盤ビジネスが展開されていることが窺える。 そして、この関係は、レコード原盤を基本単位として、レコード会社がコントロール権を保有し、実演家と所属事務所とが報酬請求権を保有するという図式でも説明されており、音楽業界の構成員である実演家、所属事務所及びレコード会社の三者間において、これまでに構築されてきた相互の役割や力関係を反映した特有の経済的な合理性の1つのあらわれと解することができる。 オ 音源配信と印税支払の対価性 なお、本件各契約の第6条の趣旨を前記ウ(ウ)のように解するとすれば、新たに譲渡の対象となる送信可能化権についても、その対価性が確保されていることが必要である。 この点、音源配信に係る印税支払については、前記1(5)認定のとおり、プロモート利用印税も含め、ダウンロード数に応じて、一定の算定式に従った印税が支払われており、その金額は、平成13年7月から平成17年12月までの分として、合計143万6645円に及んでいる。原告は、この算定式自体に対して、不満を持ち、前記1(6)認定のとおり、適正な利益配分を求める申入れをしたものと窺えるが、音源の配信数に応じて支払われるものであることに変わりがなく、このような算定方法に依っていることは、従前のCD等の販売の枠組みとの整合性を保つ上で、やむを得ないところでもある。 そうすると、送信可能化権を譲渡対象とした場合においても、音源配信による比例的な対価の支払がされているから、従前のCD等の販売に準じて対価性がなお維持されているとみることができる。 (4) 小括 以上のとおり、@ 本件各契約には、原盤に関し原告の有する「一切の権利」を「何らの制限なく独占的に」譲渡する旨の規定があること、A それにより、レコード会社であるSMEにおいて原盤に対する自由でかつ独占的な利用が可能となったこと、B そこでは著作隣接権の内容が個々に問題にはならず、原盤に対する自由でかつ独占的な利用を可能ならしめるための一切の権利が問題になっていること、C 他方、アーティストの所属事務所である原告は、レコード会社から収益を印税の形で受け取り、レコード製作者の権利の譲渡の対価を収受することができること、D このような関係は、音楽業界において長年にわたる慣行として確立していること、これらの事情を総合的に考慮すれば、本件各契約により、原盤に関して原告の有する一切の権利が何らの制約なくSMEに譲渡されたものと解される。すなわち、平成9年法律第86号により創設された送信可能化権についても、本件各契約の第6条の包括的な譲渡の対象となり、上記改正法が施行された平成10年1月1日の時点で、A音源の持分2分の1とB音源の全部について、いったん、レコード製作者たる原告の下に付与されたものが、同時に、本件各契約の第6条により、そのまま原告からSMEに譲渡され、後に被告に承継されたことになる。 なお、A音源の残りの持分2分の1については、本件の確認請求の対象とはなっていないが、レコード製作者たるSMEが送信可能化権を取得し、その後被告に承継されたものであり、その結果、A音源の全部についての送信可能化権が被告に帰属することとなったものである。 3 原告の主張について (1) 本件各契約の解釈(前記第3〔原告の主張〕1(1))について ア 原告は、本件各契約が送信可能化権が創設された平成9年改正前に締結されており、存在していない法的権利が譲渡されることはないと主張する。 なるほど、本件各契約は平成9年改正前に締結されたものであるが、その第6条については、レコード製作者の権利につき包括的な譲渡を規定したものと解され、契約締結時に存在する権利に限定されるものとまではいえない。 イ また、原告は、本件各契約の締結当時、インターネットによる音楽配信サービスを想定しておらず、契約による意思解釈として、送信可能化権の譲渡意思を認めることができないと主張する。 本件各契約の締結当時、送信可能化権に係るインターネット等による音源配信について、原告において、具体的に予期していなかった事態であったとしても、そのような認識のみから契約の意思解釈をすることは相当ではなく、本件各契約の文言やこれに込められた当事者の意図ないし目的から契約の解釈をすべきである。そして、本件各契約の第6条の文言と前記2(3)ウ(ア)のような当事者の意図を勘案すれば、契約当事者としては、SMEに当該レコード原盤に係る一切の権利を取得させ、原告に対し対価としての印税を与えるという基本的な関係を確保すべく、少なくともレコード製作者の地位に伴うものである限り、契約締結当時の具体的な権利関係に加え、将来的な立法にわたる部分についても、一律に包括的な譲渡の対象としたものと解される。 (2) 有線送信権と送信可能化権(前記第3〔原告の主張〕1(2))について ア 原告は、平成9年改正による送信可能化権の創設は、実演家とレコード製作者の権利保護の強化にあり、このような法の趣旨からは、譲渡を明示するなどの特別の事情のない限り、譲渡の対象に含まれないものと限定的に解釈されると主張する。 しかし、送信可能化権の立法の経緯がレコード製作者等の権利保護の強化にあったとして、立法前に締結された譲渡契約の解釈において、経済的な側面での対価性が肯定できるのであれば、これによる譲渡を特に不合理なものと考えることもできず、限定的に解する必然性はない。 イ また、原告は、契約で定めた「放送権」に「衛星放送権」も「有線放送権」も含まれないと判断した東京高裁平成15年8月7日判決(ライオン丸事件)が参考になると主張する。 しかし、同判決は、著作権の一部譲渡の事案であって、包括的な全部譲渡を目的としたものではなかったため、契約文言中の「放送権」の内容をめぐる当事者の意思解釈が結論を左右したものであり、同じく権利の譲渡を問題とするものではあるが、本件のように当初から包括的な全部譲渡を目的とする契約の場合とは、おのずと当事者の意思解釈の手法や内容が異なるというべきである。 (3) 音源配信に関する印税(前記第3〔原告の主張〕2)について 原告は、本件各契約における印税に関する条項は、送信可能化権を想定しておらず、音楽配信サービスの場面での適正な印税計算を定めていないと主張する。 確かに、本件各契約における印税の取決めは、従前のCD等の販売を念頭に置いたものであるが、音楽配信サービスにおいても、これに準じた計算がなお一定の合理性を失っていないというべきであり、送信可能化権の帰属に関する解釈を左右するとまではいえない。なお、レコード会社が自ら音楽配信事業を行うか否かは、専ら経営判断の問題であり、また、音楽配信サービスの場合には、CDの場合のように在庫リスクが発生するわけではないが、設備投資や管理のコストは生ずるものであって、これを考慮することはやむを得ないところである。 (4) 業界慣習(前記第3〔原告の主張〕3)について 原告は、音楽業界においても、経済的な弱者対強者の問題があり、著作権法の改正もそのような著作権者側の保護を目的としており、著作権法61条2項の規定が参考となると主張する。 しかしながら、送信可能化権の創設自体にそのような弱者救済の目的があったとしても、本件各契約の解釈において、譲渡合意の対象に含まれるか否かの問題に強行規定的な意味まで有するとは解されない。なお、著作権法61条2項の趣旨は、著作権の譲渡契約において、そのような特掲のない限り、著作者の下に翻案権等を留めておくことにより、著作者の創作活動に支障を来さないようにするところにあると解され、著作隣接権である送信可能化権の場合に、この趣旨を類推することはできない。 4 結論 したがって、原告の本訴請求については、いずれも理由がないことになる。 他方、被告の反訴請求については、いずれも理由があり、被告がA音源に関するレコード製作者の送信可能化権につき持分2分の1を有すること(確認請求の対象となっていない残りの持分2分の1を併せると、全部を有することになる。)及びB音源に関するレコード製作者の送信可能化権を有することをそれぞれ確認する。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 平田直人 裁判官 田邉実 別紙A <1>
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<10>(別紙B<1>と同一アルバム)
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別紙B <1>(別紙A<10>と同一アルバム)
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