判例全文 line
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【事件名】人工衛星設計プログラムの職務著作事件(2)
【年月日】平成18年12月26日
 知財高裁 平成18年(ネ)第10003号 著作権存在確認等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第27552号)

判決
控訴人 X
被控訴人 宇宙開発事業団訴訟承継人 独立行政法人宇宙航空研究開発機構
被控訴人 株式会社CRCソリューションズ
両名訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 田中伸一郎
同 竹内麻子
同補佐人弁理士 越柴絵里


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 主位的請求
 控訴人と被控訴人らとの間において、別紙1の「著作物目録」(ただし、原判決別紙1の「著作物目録」中、番号12の「収録資料の名称等」欄の「別紙4」を「原判決別紙4」に、番号13の「収録資料の名称等」欄の「別紙6」を「原判決別紙6」に改めたほか、同目録の記載と同じ〔なお、本判決において、別紙4及び6は欠番〕。以下「別紙著作物目録」という。)の各プログラムについて、控訴人が著作権及び著作者人格権を有することを確認する。
(3) 予備的請求
ア 控訴人と被控訴人らとの間において、別紙著作物目録記載2のプログラムについて、控訴人が、同プログラムを二次的著作物とし、別紙著作物目録記載11のプログラムを原著作物とする原著作者の権利を有することを確認する。
イ 控訴人と被控訴人らとの間において、別紙著作物目録記載3のプログラムについて、控訴人が、同プログラムを二次的著作物とし、別紙著作物目録記載13のプログラムを原著作物とする原著作者の権利を有することを確認する。
ウ 控訴人と被控訴人らとの間において、別紙著作物目録記載5のプログラムについて、控訴人が、同プログラムを二次的著作物とし、別紙著作物目録記載19のプログラムを原著作物とする原著作者の権利を有することを確認する。
(4) 訴訟費用は、第1審、第2審とも、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、平成15年10月1日に、第1審共同被告(訴訟承継前)宇宙開発事業団(以下「事業団」という。)の権利義務を承継し、独立行政法人として成立した被控訴人独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「被控訴人機構」という。)の職員であり、別紙著作物目録記載の各プログラム(以下「本件各プログラム」という。)の作成時において事業団の職員であった控訴人が、被控訴人機構、及び事業団に対してプログラム等の作成支援を行っていた被控訴人株式会社CRCソリューションズ(以下「被控訴人CRC」という。)に対し、控訴人と被控訴人らとの間において、主位的に、本件各プログラムについて控訴人が著作権及び著作者人格権を有することの確認、予備的に、別紙著作物目録記載11、13及び19のプログラム(以下、個別のプログラムについて、同目録に付された番号に対応して、「本件プログラム1」などという。)の著作権を有することを前提に、本件プログラム2、3及び5を二次的著作物とし、本件プログラム11、13及び19をそれぞれ原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求めたのに対し、被控訴人らが、本件各プログラムのうち5、11ないし13及び15のプログラムについてその著作物性を争うとともに、本件各プログラムの作成者が控訴人であることを争い、さらに、控訴人作成に係るプログラムであったとしても、著作権法(以下「法」という。)15条(以下、昭和60年法律62号〔昭和61年1月1日施行〕による改正前のものを「旧15条」、同改正後のものを「現行15条」ともいう。)の規定に基づき、事業団の職務著作として事業団が著作者となり、事業団の権利義務を承継した被控訴人機構にその著作権があると主張して争っている事案である。
 原判決は、本件プログラム4、5、1、2、6及び3(注、作成日順である。)については、控訴人が創作したものではなく、仮に、控訴人が創作したものであるとしても、上記各プログラムを含む本件各プログラムは、いずれも、事業団の職務著作が成立し、事業団の権利義務を承継した被控訴人機構に著作権があるとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が、これを不服として、その取消し及び上記著作権等の確認を求めて控訴したものである。
2 前提となる事実等及び争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当事者の主張
 次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」「3 争点についての当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張
(1) 本件各プログラム全体について
ア 控訴人は、本件各プログラムの作成や解析などの原点すなわち「発意」は、控訴人の個人研究テーマ、すなわち、大学院で想定した「ロケット燃焼中の機体挙動と設計影響の研究」にある。控訴人は、多数の基礎文献を勉強し、主要文献を所蔵し、スピンダイナミックス(本件プログラム1、4、6関連の技術)、状態量推定(本件プログラム3、5、12、13、19関連の技術)、静的安定性(本件プログラム2、11関連の技術)、軌道力学(本件プログラム15関連の技術)などといった各技術分野に対応する本件各プログラム作成のための基礎及び必要な方程式の検証と導出などを、大学院時代に既に身に着けていた。控訴人が、事業団において、独力で、かつ、容易に、本件各プログラムを作成することができたのは、そのためである。上記個人研究テーマは、控訴人が、大学院時代に自己に課した「ライフワーク」であり、本件各プログラムは、控訴人の「個人の自由な研究活動」の成果であり、たまたま事業団の職員となったからといって、その成果が侵害されてよいものではない。原判決は、このような事実及び本件各プログラム作成の原点すなわち「発意」が既に大学院時代に研究者としての控訴人に存在していたことを全く無視している。
 被控訴人らは、控訴人が大学院において宇宙工学を学んだからこそ事業団に技術者として採用され開発部員として勤務してきた旨主張するが、控訴人がたまたま事業団に採用されたからといって、被控訴人に「個人の全人生や自由な研究活動」を売り渡した覚えはないし、その気もない。
イ 控訴人のフランス共和国(以下「フランス」という。)の国立宇宙研究センター(Centre National d'Etudes Spatiales、以下「CNES」という。)への留学中に、プログラム作成では反対し無関与であった上司が、事業団の正規の手続を経ずに、メーカーに無償で横流しした。また、事業団は、人工衛星やロケットや追跡管制に関して、多くの設計改修やシステム構築などの提案をしたが、これに反対し、控訴人を左遷したり、職務外しなどをした後、控訴人に内緒で、控訴人の解析結果や提案やプログラムなどを無断流用した。さらに、事業団は、控訴人が個人管理していた本件各プログラムにつき、控訴人との協議を持つこともなく、一方的に消去した。この無断消去は、控訴人が本訴を提起する直接の動機となった事柄であり、個人の知的活動へのぼうとくであるとともに、古代の奴隷制も同然である。
 原判決が、これらの事情を無視しているのは、不当である。
ウ 控訴人は、本件各プログラム関連の設計評価(チェック&レビュー)などのために、@ECSミッション解析計画、AECS、ECS−b失敗の原因究明解析、B人工衛星解析ソフトウエア整備解析計画、Cアポジモータ燃焼時の衛星動力学解析計画、DETS−Xミッション解析計画、EETS−Xのリアルタイム推定の計画、FETS−X運用解析計画、G静止衛星ミッション解析計画、H静止衛星のスピンダイナミックス/AMF誤差設定の解析計画、I静止衛星のリアルタイム推定の計画等の概念検討などで、本質的提案をしてきたが、ことごとく反対され、事業団の業務でないとして握りつぶされた。それゆえ、控訴人は、独力で、大学院時代に設定したテーマに従って、個人研究を続けていたところ、事業団は、控訴人の個人研究の成果の一部である本件各プログラムを、無断で横流ししたり、流用したり、消去したりし、控訴人が異議を唱えると、控訴人を左遷した。
 このような事業団による無支援、反対、冷遇等の処遇は、控訴人の人権を侵害するものであり、このような特殊な職場は、「古代の奴隷的」ともいうべき職場実態である。
エ 事業団は、研究機関ではなく、予算とスケジュールのみを管理し、技術は受託業者任せであり、このような事業団の業務実態の下で、職員の「個人の自由な研究活動」を、業務と切り離し、緩やかに容認しており、特に、職員による解析などは、非職務、個人研究として黙認していた。したがって、このような業務実態の中で作成された本件各プログラムは、個人的なものであって、事業団の業務から切り離され、業務管理の対象外とされていたから、本件各プログラムの著作権及び著作者人格権は、作成者である控訴人個人に帰属するというべきである。
 このことは、控訴人が、所定のプログラムが個人的な権利であると考え、著作権の帰属の検討を申請した際、事業団が、「業務連絡」において、控訴人の個人的な権利であると認めたことからも裏付けられる。
オ 控訴人は、事業団において、技術管理体制を整備すべき旨提案し、控訴人が開発したプログラムについては、控訴人が管理保存し、他の職員が控訴人に使用許可を申請すべきこと、上記プログラムの名称、作成年月日等を明記して磁気テープに記録することなどを取り決めた上、上記取決めに従って、控訴人開発のプログラムの使用申請に対し、控訴人が著作権者であることを明記して、使用を許可していた。控訴人が著作権者であることは、事業団の各部門の部長らが認めていた公知の事実であったのであり、事業団は、本件各プログラムの著作権及び著作者人格権が控訴人に帰属することを認めていたというべきである。
(2) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)、19(ドップラー変化による衛星運動解析プログラム〔B061プログラム〕)について
 本件プログラム15及び19は、控訴人が、大学院時代に購入した多数の文献に基づいて、新たに創作した、一般的で複雑な軌道伝播プログラムであり、「個人の自由な研究活動」の継続により、独力で作成したものである。
 事業団は、昭和53年度以降、「ECSミッション解析」の予算要求をしているが、昭和52年度の予算要求書(乙100)と認可書(乙88)には「ECSミッション解析」の項目がないから、事業団は、「ECSミッション解析」作業を想定しておらず、控訴人の職務とされていなかったのである。
 したがって、昭和52年度に控訴人が担当した「ECSミッション解析計画」は、控訴人の職務ではなく、事業団にとって不必要な業務とされていたのであり、控訴人は、個人研究として、本件プログラム15及び19を完成したものである。
 本件プログラム15及び19における作成の「発意」は、大学院時代の控訴人の研究テーマであったのであり、被控訴人らに指示されたことによるのではない。控訴人の職場である試験衛星設計グループの開発部員のa(以下「a」という。)が控訴人に対して本件プログラム15及び19の作成を指示したことはあっても、その指示内容は、簡易なものであって、具体的なものではなく、作成期限も定められていなかった。これに対して、控訴人は、実用に耐える精度を持ち、新規で詳細な軌道伝播に係る本件プログラム15及び19を独力で完成したのである。
(3) 本件プログラム4(SPD)、5(DOPPLER〔B063〕)について
 本件プログラム4及び5の作成の実態は、いずれも、事業団と被控訴人CRCとの契約は委託とはいえない部分的な単純作業の単価契約であり、事業団は、本件プログラム4及び5の作成費用の一部を負担したのみであったから、事業団による創作性のあるプログラムの作成とはいえない。
 また、本件プログラム5は、本件プログラム19の派生物というべきプログラムであるから、本件プログラム19の二次的著作物であり、その著作権及び著作者人格権は、控訴人に帰属する。
(4) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル6次元〕)について
ア 控訴人のフランス留学は、事業団の正規の留学でなく、控訴人の個人留学であった。すなわち、控訴人は、昭和54年度フランス政府給費留学生試験に個人的に応募し、筆記試験は合格したが、面接試験は不合格であった。この不合格は、フランス受入れ機関の内定が得られなかったこと、また、フランス留学が個人的なものであって、事業団が全く支援しなかったことによる。その後、控訴人の恩師の好意及び尽力で、フランスの受入機関が内定し、この内定後、事業団は、控訴人の個人留学を渋々認めたものである。
 このように、控訴人のフランス留学は、個人的な留学であったのであり、フランス留学時の控訴人の身分はフランス政府給費留学生であった。控訴人の留学について、フランス政府が身分保証して滞在費を支給し、個人研究(プログラム作成も含む。)では、CNESが文献提供や計算機使用などの費用負担を行っている。また、控訴人の留学の目的は、「国外の文化を学び国際人として広く知見を深める」などであって、事業団の業務と切り離されていたのが実態であった。
 上記のとおり、控訴人の個人的な留学により、事業団を休職中に、控訴人は、個人の自由な研究活動の継続として、独自に、本件プログラム12を作成したものであり、かつ、控訴人が、プログラム作成の全ステップを行ったものである。事業団は、本件プログラム12の作成費用及びCNESの大型コンピュータ使用料を負担しておらず、所定の休職時の社会保険が支給されたが、これは、プログラム作成費用ではない。
 事業団は、前記( )エのと1 おり、控訴人がフランス留学中に作成したプログラムについて、著作権を始めとする、著作者としてのすべての権利が控訴人に帰属することを認めていた。
イ 本件プログラム12の作成は、控訴人の休職中にされたものであって、事業団からの作成についての指示などは全くなく、控訴人の自由意思に基づき、本件プログラム12及び「CNES計画のSOLARISプロジェクトのためのアプローチフェーズ・ランデブーの予備的ミッション解析」と題する控訴人名義の論文(甲5)を作成し、CNESに公表したものであり、上記論文が控訴人名義の単名論文であったことは、その内容とプログラムに関する一切の責任を控訴人が負う意思であった。そして、上記のとおり、事業団自身が控訴人に本件プログラム12の著作権が帰属することを認めるとともに、控訴人が、終始、本件プログラム12を個人的に管理してきたものである。したがって、「職務著作の規定は、業務従事者の職務上の著作物に関し、法人等及び業務従事者の双方の意思を推測し、法人等がその著作物に関する責任を負い、対外的信頼を得ることが多いことから・・・職務の範囲が明確で、その中での創作行為の対象も限定されている場合であれば、そこでの創作行為は職務上当然に期待されているということができ、この場合、特段の事情のない限り、当該職務を行わせることにおいて、当該業務従事者の創作行為についての意思決定が、法人等の判断に係らしめられていると評価することができ、間接的な法人等の発意が認められると解するのが相当である。」(116頁下から7行目ないし117頁8行目)とする原判決の判断は、誤りである。
(5) 本件プログラム13(KALMAN〔オリジナル、9次元〕)について 本件プログラム13も、控訴人の「個人の自由な研究活動」の継続として独自に作成し、控訴人が本件プログラム13の全ステップの作成を行ったものである。
 原判決は、「本件プログラム13は、前記のとおり、原告が、事業団の衛星設計第1グループに所属し、開発部員として、MOS−1(注、海洋観測衛星1号『もも1号』〔MOS−1〕〔別紙7(原判決別紙7と同じ。)の「昭和50年から平成9年ころまでの間に打ち上げられた人工衛星」一覧表(以下「別紙人工衛星表」という。)番号18〕)の設計開発を担当していた際に作成されたものであり、その内容からも、当時の原告の職務に深く関連するものである。」(123頁2行目ないし5行目)と判示するが、誤りである。
 本件プログラム13は、MOS−1とは無関係であり、そもそも、MOS−1は、大きな軌道変換用のロケットを搭載していない。そして、事業団は、本件プログラム13に反対しており、その作成費用を支出してもいない。
(6) 本件プログラム11(STAT〔オリジナル〕)について
 本件プログラム11に係る解析は、事業団の誘導制御部門が担当すべき業務であり、また、具体的には受託業者である三菱電機株式会社(以下「MELCO」という。)が行うべき業務であった。控訴人は、MELCOを監督する立場にあったが、控訴人が指摘をしても、それをMELCOの担当者が理解せず、事業団もMELCOも反対以外何もせず、かえって、控訴人の責任を問うてきたので、控訴人は、好意から解析を行い、本件プログラム11を作成したものである。
 本件プログラム11は、式も量も簡単なプログラムであるが、公知の基礎方程式を自由に計算し、解析できるようにしたものであり、作成した時点で、このようなプログラムはなかったのであるから、著作物性が認められるべきである。
(7) 本件プログラム1(DYNA)、2(STAT)、6(DYNA−A)について
ア 本件プログラム1は、控訴人個人の自由な研究・発想により、本質部分を作成していた。控訴人は、全ステップの作成を行い、控訴人の指揮の下で、被控訴人CRCの担当者が一部の単純作業に当たるステップの作成を行った。当初、本件プログラム1には、プログラム構造上の欠陥があったが、被控訴人CRCの担当者は、これを解決することができず、控訴人において、全計算ステップを再点検し、欠陥を洗い出し、再コード化やアルゴリズム・計算フローを再構築し、控訴人にしかできない物理的検証を行って、解決したのである。被控訴人CRCの担当者は、控訴人の眼前で、控訴人が提示した再コードや指示に従って、計算機への打込みなどの単純作業を行ったにすぎない。
イ 本件プログラム2は、本件プログラム11の派生物というべきプログラムであって、控訴人が解析し、被控訴人CRCは、図化機能を付加したのみであるから、本件プログラム11の二次的著作物であり、その著作権及び著作者人格権は、控訴人に帰属する。
ウ 控訴人は、本件プログラム1の大規模な改修を行い、発展させたのが本件プログラム6である。控訴人は、本件プログラム6の本質的部分である基礎方程式を検証し、組み立て、アルゴリズムと計算フローを新たに作り上げた。被控訴人CRCの担当者は、控訴人が導き出した基礎方程式を、控訴人の指示どおりに、単純な制御文の間に機械的に組み込んだだけであり、被控訴人CRCの創作あるいは表現行為というものはない。事業団は、何の作業もせず、被控訴人CRCの単純作業に対して費用を一部負担したのみであった。つまり、本件プログラム1及び6は、その作成のために、控訴人が全作業を行い、費用負担したというのが実態であった。
(8) 本件プログラム3(KALMAN−1)について
 本件プログラム3は、控訴人の指示の下で、被控訴人CRCの担当者が、入出力整備と自動図化機能の陳腐なプログラム付加の単純作業をしただけである。そもそも、誰も理解しなかった「推力飛行中の状態推定」分野の解析経験のない、単純作業の役務をしている被控訴人CRCの担当者が、本件プログラム3のような独創的なプログラムを作れるわけがない。
 また、本件プログラム3は、本件プログラム13の派生物というべきプログラムであるから、本件プログラム13の二次的著作物であり、その著作権及び著作者人格権は、控訴人に帰属する。
2 被控訴人らの主張
(1) 本件各プログラム全体について
ア 控訴人は、同人が、大学院時代に、本件各プログラムに係るスピンダイナミックス、状態量推定、静的安定性、軌道力学などといった各技術分野について勉学してきたため、本件各プログラムを作成することができたのであるから、控訴人の「個人の自由な研究活動」の成果であり、たまたま事業団職員となったからといって、その成果が侵害されてよいものではない旨主張する。
 しかし、控訴人が大学院において宇宙工学を学んだからこそ事業団に技術者として採用され開発部員として勤務してきたものであり、控訴人が、事業団に雇用された後においての、ロケットや人工衛星の推力・飛行推定・動的安定性などの理論的な研究や具体的な計算式の導出の研究を強調しても、このような研究は、そもそも、事業団の開発部員としてすべき職務である。それにもかかわらず、控訴人は、これらの研究・開発は、事業団の業務とも控訴人の職務とも関係のない個人研究にすぎないと主張するものであって、このような主張が許されないことは明白である。
 また、控訴人は、原判決は、このような事実及び本件プログラム作成の原点すなわち「発意」が既に大学院時代に研究者としての控訴人に存在していたことを全く無視していると主張する。
 しかし、本件で問題とされているのは、法15条の要件該当性の有無であるから、大学院時代の研究に「原点」を求め、これを「発意」という控訴人の主張は、「発意」の意味をはき違えており、それ自体失当である。
イ 控訴人は、控訴人の開発したプログラムを、上司がメーカーに無償で横流しし、また、事業団が、控訴人に内緒で無断流用したり、控訴人との協議の機会を持つこともなく一方的に消去した旨主張する。
 しかし、控訴人の上記主張は、事実に反する上、著作権の帰属を争う本件訴訟において議論されるべき問題ではない。
 控訴人の無断流用の主張は、開発部員である控訴人が提案したETS―Xの設計変更の提案を、いったん事業団が反対した後に結局は採用したという非難であって、どのような法律的主張をも構成しない。
 また、無断消去の主張は、事業団が昭和62年以来保管してきた磁気テープの量が膨大となり、保管場所と費用を考慮して、このような磁気テープを廃棄したことをいうものであるが、上記磁気テープは、事業団の費用で購入した磁気テープにプログラムを記録したものであって、その物理的な所有権が事業団に帰属していたことは明らかである。そればかりでなく、そもそも著作権等の帰属のいかんにかかわらず、プログラムの媒体が廃棄されたからといって、プログラムに対する著作権等が害されるわけではない。
 さらに、無断流用の主張は、控訴人のフランス留学前に控訴人が作成した本件プログラム15、19、4及び5を事業団が第三者に使用させたという非難であるが、上記各プログラムの作成において控訴人の関与があったとしても、その管理及び利用する権限は事業団が有するのであって、開発部員として関与した控訴人の同意の有無いかんは、上記各プログラムの事業団への帰属に影響を及ぼすものではない。
ウ 控訴人は、本件各プログラム関連の設計評価(チェック&レビュー)などのための、ECSミッション解析計画、ECS、ECS−b失敗の原因究明解析、人工衛星解析ソフトウエア整備解析計画等を、ことごとく反対され、事業団の業務でないとして握りつぶされたとし、事業団による処遇は、控訴人の人権を侵害するものであり、このような特殊な職場は、「古代の奴隷的」ともいうべき職場実態である旨主張するが、控訴人自身の理由のない被害者意識に基づく感情的な主張にすぎない。
エ 控訴人は、事業団内部において、技術管理体制を整備すべき旨提案し、控訴人が開発したプログラムについては、控訴人が管理保存し、他の職員が控訴人に使用許可を申請すべきことなどを取り決めた上、上記取決めに従って、控訴人開発のプログラムの使用申請に対し、控訴人が著作権者であることを明記して、使用を許可していたとし、本件各プログラムが控訴人に帰属することを事業団が認めていた旨主張する。
 しかし、控訴人のいう使用許可というのは、人工衛星開発本部、ロケット開発本部(H−Uロケットグループ)、N−U、H−Tロケットグループ、システム技術開発部、技術試験衛星グループ等の事業団の組織間で作成され交換された業務連絡(甲81ないし86)であって、控訴人個人の使用許諾書でないことは明白であり、控訴人の上記主張は、失当である。
(2) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)及び19(ドップラー変化による衛星運動解析プログラム〔B061プログラム〕)について
 控訴人は、本件プログラム15及び19が、控訴人の「個人の自由な研究活動」の継続から独力で作成したものである旨主張するが、事実は逆であって、ECSミッション解析の作成計画の進行中に、控訴人が該当部門に異動して、初めて事業団のプログラムの作成に関与するようになったものである。
 控訴人は、昭和52年度に控訴人が担当した「ECSミッション解析計画」は、事業団の業務ではなく、事業団にとって不必要な業務とされていた旨主張する。
 しかし、控訴人の所属部門の「人工衛星の設計」業務は、ミッション解析を含む概念である。すなわち、ミッション解析とは、衛星の設計を進める上で、軌道や姿勢等に関連して必要になる一連の解析の総称であり、当然に衛星の設計に関係するものである。
(3) 本件プログラム4(SPD)、5(DOPPLER〔B063〕について
 本件プログラム4は、控訴人が、昭和54年2月6日に打ち上げられた実験用静止通信衛星「あやめ」(ECS)(別紙人工衛星表番号8)(以下「ECS」ともいう。)の電波途絶のトラブルを受け、その原因究明及び特定のための解析を行うこととし、アポジモータ燃焼(Apogee Motor Firing、以下「AMF」ともいう。)時の衛星挙動を解析するプログラム作成に着手し、そのための定式化、アルゴリズムを作成し、事業団において認可され、事業団と被控訴人CRCの間でプログラム化についての契約が締結された。
 本件プログラム4の作成は、被控訴人CRCの技術担当者らが行い、同人らが基礎数式の理解からはじめコーディングまでを行い、昭和55年3月、報告書(紙媒体)にプログラムを記載して、事業団に納入したものであって、事業団が著作権を有するものである。以上のことは、本件プログラム5も全く同様である。
(4) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル6次元〕)について
ア 控訴人は、自己の個人的な留学により、事業団を休職中に、個人の自由な研究活動の継続として、独自に、本件プログラム12を作成した旨主張する。
 しかし、控訴人がCNESに留学中に作成したプログラムの職務著作性は、単に留学中か否かによって決定されるべきものではなく、控訴人の留学(海外研修)前の事業団における職務、留学(海外研修)中の研修の目的・内容、留学(海外研修)より帰国した後の職務等を全体的・総合的に考慮すべきものである。
 すなわち、控訴人が和55年7月30日付けで事業団に提出した「海外研修計画」(乙70に添付)においては、(ア) 事業団における従前の「(8)経歴」として、「f.ECS−a、−bミッション解析業務」、「g.静止衛星のアポジモータ燃焼中のスピンダイナミックス解析」、「h.実測ドップラーデータによるアポジモータの性能推定および姿勢変動推定」、「i.人工衛星ソフトウェア体系化計画の業務」を掲げ、(イ) 「(3)研修の目的」においては、「本研修は、現在、早急にその確立が必要とされる、将来をも含めた人工衛星、宇宙船のシステムの設計/運用に必須な「軌道力学を主体としたミッション解析法」について、宇宙先進国から、幅広く、その技術を習得」するとし、(ウ) 「(4)研修の内容」においては、「U技術研修(Stage)」の項に「(A)Aアリアンロケットあるいはスペースシャトルで規定される重量の深宇宙探査機のミッション解析の問題について、パッチド・コニック法及びフライバイ法等の手法を用いて解析を行なう。B固体或いは液体のアポジモータ燃焼中に於る、静止衛星のダイナミックス問題について、ジェットダンピング、液体のスロッシングの効果を考慮して、解析を行なう」などといった事項を列挙し、(エ) 「研修の効果」の項においては、「今後の人工衛星、宇宙船及び大規模宇宙構造物等に対する『ミッション解析』を行う上で、更に、現在計画中である『人工衛星ソフトウェア体系化計画』の長期/短期構想の立案の上で、研修計画を反映させたいと考える」と記載している。
 そして、控訴人は、「衛星設計第1グループ副主任開発部員」の地位において、幹部会において、昭和57年2月26日の「海外研修報告」(乙72の2)によって研修の報告をしたが、そこでは、「1研修課題」を「軌道力学を主体としたミッション解析法の習得」にあったとし、その「課題1」として「CNESのランデブ計画に対する1つの予備的ミッション解析」を挙げ、「(1−2)マヌーバ計画作成の為のシミュレーション」の項において、「前述のStrategyに従って決まるランデブ迄のマヌーバシーケンスに基づいて、Ariane投入軌道誤差の全体推移のシミュレーションを実施した。これにより、マヌーバ点での軌道誤差増大傾向並びに誤差伝播傾向、及び、地上局/静止衛星局(TDRS)からの可視に従ってのKalmanフィルタによる軌道/誤差推定、誤差共分散の収束傾向が把握された」、「尚、本解析プログラムは、約16000ステップが新規開発された」と述べ、カルマンフィルタによる解析プログラムについて海外研修の成果として報告している。
 そうすると、本件プログラム12は、職務著作に当たるというべきである。
イ 控訴人は、控訴人のフランスのCNESのツールーズ宇宙センターへの留学が個人留学であった旨主張する。
 しかし、控訴人の留学期間中の研究は、事業団の業務及び留学前後の控訴人の職務と無関係に行なわれたものではなく、海外研修自体がその職務の延長線上において行なわれたものであり、研修目的に掲げられたプログラム作成も職務であった。
ウ 控訴人は、留学に際し受け入れ先を個人的に探したとか、事業団が推薦状を出さなかったと述べているが、個人的な被害者意識の表現でしかない。
 控訴人は、フランス留学につき、恩師の好意及び尽力で、フランスの受入機関が内定し、この内定後、事業団は、控訴人の個人留学を渋々認めた旨主張する。
 しかし、控訴人は、昭和55年7月31日の留学に関する決裁(乙70)に先立ち、昭和54年の事業団内部の留学生試験に合格しており、事業団のb(以下「b」という。)総務部長が同年11月22日付けで「X君は、本留学生試験に合格することを条件に、NASDA内部の留学生審査に合格し、来年度は留学することを認められています」と明記した推薦書(乙70別添資料9)をフランス大使館科学部あてに発行しており、個人留学が確定してから事業団が渋々認めたとの控訴人の上記主張は、事実に反する。
エ 控訴人は、本件プログラム12及び論文を作成し、CNESにおいて公表した旨主張する。
 しかし、上記論文は、いずれも、ミッション解析に関する計算式・理論式の研究の発表に関するものであって、本件プログラム12のソースコードやオブジェクトコードを公表したものではないから、これらの論文発表をプログラムの著作物の公表ということはできない。
(5) 本件プログラム11(STAT〔オリジナル〕)について
 本件プログラム11は、ルミヤンステフの計算式をFORTRAN言語で表現したものであり、別紙2に示されるように、わずか1頁に16行をもって記載された極めて単純なものである。したがって、原審において主張しているとおり、本件プログラム11は、著作物とするに足りないものというべきである。
(6) 本件プログラム1(DYNA)、2(STAT)、6(DYNA−A〔ABM燃焼フェーズの動的解析プログラム〕)及び3(KALMAN−1〔9次元〕)について
 本件プログラム1、2、6及び3は、いずれも、被控訴人CRCの担当者の創作であって、控訴人の創作に係るものではない。そして、本件プログラム1、2、6及び3が、事業団の業務におけるETS−Vミッション解析プログラムの一環として作成されたことは明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 本件各プログラム作成経緯について
 本件各プログラムは、事業団の権利義務を承継した被控訴人機構の職員である控訴人が、事業団在職中に関与した一連のプログラムであり、相互に関連性があるので、これらのプログラムが作成された背景事情について検討すると、前記第2の2において引用する原判決の「事実及び理由」欄の「1 前提となる事実等」及び証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。なお、枝番のあるものは、特に断らない限り、各枝番を含む。以下同じ。)によれば、以下のとおり認められる。
(1) 事業団の組織及び業務の内容
ア 事業団は、旧事業団法(昭和44年法律第50号)に基づき、昭和44年10月1日に「平和の目的に限り、人工衛星及び人工衛星打上げ用ロケットの開発、打上げ及び追跡を総合的、計画的かつ効率的に行い、宇宙の開発及び利用の促進に寄与すること」を目的として設立した法人である。
 平成15年10月1日、被控訴人機構の成立に伴い、事業団は解散し、事業団の一切の権利及び義務(被控訴人機構の業務を確実に実施するために必要な資産以外の資産として国が承継するものとされた資産を除く。)は、被控訴人機構に承継された(機構法附則10条1項、2項)が、事業団の業務の範囲は、次のとおりとされていた(旧事業団法22条)。
@ 人工衛星等の開発並びにこれに必要な施設及び設備の開発
A その開発に係る人工衛星等の打上げ及び追跡並びにこれらに必要な方法、施設及び設備の開発
B @の開発並びに人工衛星等の打上げ及び追跡並びにこれらに必要な方法、施設及び設備の開発で、委託に応じて行うもの
C @ないしBに掲げる業務に附帯する業務
D @ないしCに掲げるもののほか、旧事業団法1条の目的を達成するため必要な業務
イ 事業団の設立から昭和59年度まで(注、事業団の事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までである。)の時期は、利用機関からの要請に基づき、アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)からの技術導入から始まり、やがて、自主開発へと発展していった。事業団では、気象、通信、放送等の実用衛星の打上げが目標とされるとともに、人工衛星、打上げ用ロケットの開発に必要な信頼性・品質管理、プロジェクト管理などの基本的技術管理手法の習得が行われたほか、試験施設等の整備が進められた。技術獲得を主眼とする目的に合わせて、ロケット設計、衛星設計、誘導制御、構造開発等の各グループが、それぞれの業務を分担するとともに、「マトリックス制」と称する、各部門が業務を行うに際し、グループ内のみならず、グループが横断的にも連携する組織体制が採用されていた。昭和60年度以降は、広範かつ多様な宇宙活動を安定的に遂行するために独自の技術力を確立すること、及び、的確かつ自在に宇宙開発活動を展開するための高度な技術力を保持することを基本方針とし、技術の一層の向上、信頼性・安定性の確立等を目標とするとともに、業務の効率化、責任体制の明確化、技術蓄積の強化のために、ロケット、人工衛星ごとに開発本部制を採用し、プロジェクトの実行組織を統一化、簡略化した。
 (乙1、2、7、29)
ウ 事業団内部でプログラムが作成されるようになったのは、昭和47年ころからであるが、昭和48年ころからは、ロケットや人工衛星の全体的把握とシステム運用・ミッション達成のために、各種プログラムの開発も必要であるとの認識の下で、技術系職員は、プログラム作成のために、コンピュータ言語の講習を受け、実際にプログラムを作成するなどして、プログラム作成技術に習熟するよう務めるようになり、やがて、相当数の者が簡単な予測解析から複雑なシミュレーションなどまでプログラムを作成できるようになっていった(乙205の1、206の1、207の1)。
エ 昭和48年から昭和51年までの間、事業団において、人工衛星の設計及びこれらに付帯する研究等を所掌する試験衛星設計グループと、ロケットの設計及びこれらに付帯する研究等を所掌するロケット設計グループとが、衛星の軌道投入解析、姿勢予測・変更解析、可視・蝕時間解析等のミッション達成に必要な事前の技術検討のため、国外から導入することの困難なプログラムについても開発を進めていたが、その際、事業団は、外部の企業に委託するほか、事業団内部でもプログラム作成を進めていた(乙118、119、205の1)。
オ 事業団では、一定の基準で業務の一部を外部企業に委託することができることとされていたが(旧事業団法23条)、業務の一部を委託する場合、必要に応じ受託者から当該委託業務の進行状況等を報告させ、又は必要な指示を与える等委託業務の実施管理上必要な措置を講ずるものとし(業務委託基準8条)、作業別に実施計画書を作成し、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任しており、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされ、完成されたプログラム等は、磁気テープ等の記憶媒体で納品されるとともに、プログラムのソースコード等を書面にまとめた成果報告書も併せて納品されていた(乙1、29、191、205の1)。
カ 昭和50年9月9日に、技術試験衛星T型(ETS−T)「きく」(別紙人工衛星表番号1)(以下「ETS−T」という。)が打ち上げられ、次いで、昭和52年2月23日に、技術試験衛星U型(ETS−U)「きく2号」(別紙人工衛星表番号3)(以下「ETS−U」という。)が打ち上げられ、いずれも打上げは成功した。ETS−Uは、我が国が初めて打ち上げる静止衛星であった。
 (乙6、7)
(2) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)作成の経緯
ア 控訴人は、昭和49年3月に名古屋大学大学院工学研究科修士課程航空学専攻を卒業し、同年4月1日、事業団に任用され、開発部員として辞令を受け、その後、昭和52年1月11日、飛行安全管理室から試験衛星設計グループに異動となった。試験衛星設計グループの業務は、昭和51年6月1日改正の宇宙開発事業団組織規程30条において、@人工衛星の設計、これらに付帯する研究及び試験並びにこれらのための施設及び設備に関すること(実用衛星設計グループの所掌に属することを除く。)、A人工衛星の製作のとりまとめに関すること(実用衛星設計グループの所掌に属することを除く。)、B人工衛星の運用計画(管制の実施に係るものを除く。)の作成に関すること(実用衛星設計グループの所掌に属することを除く。)と規定され、静止気象衛星(GMS、ひまわり、別紙人工衛星表番号4)、実験用中容量静止通信衛星(CS、さくら、別紙人工衛星表番号5)及び実験用中型放送衛星(BS、ゆり、別紙人工衛星表番号7)を除く人工衛星の開発を内容としていた。
 (甲9、乙119)
イ 事業団の職制上、開発部員は、上司の命を受けて開発業務を行う者として、副主任開発部員は、主任開発部員を補佐し、その命を受け、開発業務を行い、かつ、開発部員を指導する者として、それぞれ位置付けられていた(本社の開発部員等について、宇宙開発事業団組織規程53条〔昭和60年4月5日改正の規程より149条〕、筑波宇宙センターの開発部員等について、同規程61条の3〔昭和60年4月5日改正の規程より163条〕)(乙2、118ないし127)。
ウ 昭和52年4月には、事業団の開発業務に係るソフトウェアの開発及び整備に関する業務を有効かつ適切に実施するため、ソフトウェア委員会が設けられ、ここに「ソフトウェア」とは、事業団の開発業務に係るコンピュータプログラム並びにその開発及び運用に必要なデータ、理論及び方法をいうものと定義付けられた(乙196)。
エ 事業団は、上記ETS−Uの打上げの成果を踏まえて、静止衛星を利用したミリ波等の周波数の通信実験などを行うECS(実験用静止通信衛星「あやめ」、別紙人工衛星表番号8)のプロジェクトを推進させることとなった。衛星プロジェクトにおける解析は、数式を用いて計算機又は手計算で行うが、大きく分けると「ミッション解析」、「運用解析」、「データ解析」の3種類に分けられ、「ミッション解析」は、衛星設計を進める上で、軌道、姿勢等に関連して必要となる一連の解析を総称するものであり、衛星開発担当が行う業務であった。元来、ETS−UとECSとは、一つのプロジェクトであり、ETS−Uのための各種解析及び作成されたプログラムを基礎にして、ECS用に必要なプログラムを加え、打ち上げ前のミッション解析作業を行うものであった。そこで、ETS−U用に作成された静止衛星ミッション解析用プログラムをECS用に改修する作業が、試験衛星設計グループの副主任開発部員のaを中心に進められた。aは、上司から、同グループの副主任開発部員として、控訴人の技術指導をするように指示を受けたところ、当時、軌道伝播解析については追跡管制部が行っていたが、試験衛星設計グループとして、簡易な軌道伝播解析に関するプログラムが入用であったこと、また、控訴人に解析プログラムの作成に習熟させる意図もあって、控訴人に対し、ECS用に、軌道伝播解析に関するプログラムの作成を指示した。
 (乙12、13、30、116、205の1、205の2の9)。
オ 控訴人は、aの指示を受けて、昭和52年4月8日付けで、「軌道伝播公式について」(乙10)と題する文書を作成し、次いで、同年6月28日付けで、軌道伝播に関する「bP2プログラム」の機能、取扱い及び検証の結果を示した「bP2プログラムマニュアル」(乙11)と題する文書を作成した(乙10、11、205の1)。
カ 試験衛星設計グループにおいて、既存のプログラムを改修し、あるいは、新規にプログラムを作成して、ECS用のミッション解析プログラム群を作成することは、正式には、昭和52年6月20日付けの「静止衛星ミッション解析用プログラムの開発状況および作業範囲/分担」(乙13)と題するaと控訴人連名の文書によって提案され、同年10月12日に認可された。また、控訴人は、同年8月19日付けの「ECSソフトウェアの体系」(乙12)と題する文書、同年10月15日付けの「ECS、ABM燃焼時解析(NORADデータ評価)」(乙18)と題する文書を作成し、事業団の認可を得ていた。
 (乙12、13、18、205の1、205の2の9)
キ 控訴人は、昭和52年8月末にフランスのCNESのツールーズ宇宙センターに留学したaの後任として、ECS用ミッション解析プログラム群の作成、とりまとめを担当した。そして、昭和53年6月16日の組織改正により、試験衛星設計グループは、衛星設計第1グループに名称変更され、実用衛星及び地球観測衛星を除く人工衛星の開発を所掌することとされたが、控訴人は、「ECSソフトウェアの体系」と題する文書を作成するなどして、その後のプログラム作成等を進め、aから指示を受けて作成を始めた軌道伝播に関するプログラムである本件プログラム15を、同年10月20までに完成させ、そのころ、これらの本件プログラム15を含むプログラム群を用いたECSミッション解析が行われ、その解析結果をまとめた「ECSミッション解析(最終版)」(乙14)と題する文書が、同年11月24日に認可された。
 (乙10ないし14、120、205の1、209)
ク 本件プログラム15は、ECSの設計の妥当性の検討及び静止衛星における各種技術の取得を目的として開発された、ECSミッション解析プログラム群に含まれる、軌道伝播解析プログラムである。本件プログラム15 は、 衛星軌道面座標系と慣性座標系により座標変換する式、による軌道伝P.M.Fitzpatrick 播要素の公式を基礎として、「地球重力による摂動」、「大気抵抗による摂動」、「大気密度」を考慮しつつ、衛星軌道要素の時間的変化を求めるものである。本件プログラム15は、「GENPER」(131ステップ)、「MEAN」、「KEPLER」(47ステップ)、「EULER」、「TIMEE」など12個のサブルーチンからなっている。
 (甲127、乙10、209、213、弁論の全趣旨)。
(3) 本件プログラム19(ドップラー変化による衛星運動解析プログラム〔B061プログラム〕)作成の経緯
ア 控訴人は、昭和54年3月9日までに、ドップラーデータ等を用いてECSのアポジモータ燃焼時解析を行い、「ECSのAMF時解析」と題する文書(乙15の1)にまとめて提出した。
イ 控訴人は、昭和54年9月ころまでに、ドップラーデータ等を用いたECSのアポジモータ燃焼時解析について、本件プログラム15のサブルーチンをそのまま用いたり、あるいは、既にaが作成していたプログラム及び本件プログラム15の他のサブルーチンを改修、発展させ、14のサブルーチンからなる、ドップラー変化による衛星運動解析を行うための本件プログラム19を作成した(甲124、125、155)。
ウ 本件プログラム19は、本件プログラム15と同様、ECSの設計の妥当性の検討及び静止衛星における各種技術の取得を目的として開発されたECSミッション解析プログラム群に含まれるプログラムである(乙209)。
(4) 本件プログラム4(SPD)作成の経緯
ア 昭和54年2月6日に、実験用静止通信衛星であるECS(あやめ)(別紙人工衛星表番号8)が打ち上げられたが、衛星搭載ロケットモータ(アポジモータ)点火後に電波が途絶した(乙7の2〔73頁〕)。
イ 事業団は、ECSの電波途絶のトラブルを受け、その原因究明及び特定のため、アポジモータ燃焼時の衛星挙動を解析する作業に着手したが、その一つとして、静止軌道投入のために人工衛星に搭載されたアポジモータ燃焼中の衛星の運動を解析する作業があり、その解析のために作成されたプログラムが本件プログラム4であった(甲9、13、112、乙30)。
ウ 本件プログラム4作成の計画は、昭和54年7月ころまでには、事業団において認可され、衛星設計第1グループの控訴人、ロケットの開発担当部門のc(以下「c」という。)が担当とされ、また、事業団と被控訴人CRCとの間で、プログラム作成と計算等についての委託契約が締結された。この契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であり、その支払が事業団より被控訴人CRCに対して行われた。被控訴人CRCの担当者は、d(以下「d」という。)、e(以下「e」という。)及びf(以下「f」という。)であった。
 (乙21、30、31、216、223、224、弁論の全趣旨)
エ 控訴人は、本件プログラム4のためのアルゴリズムを詳細に検討し、衛星データ、ABM(注、Apogee Boost Motor)質量特性変更データ等の入力条件を決定するための作業を行った。被控訴人CRCのdらは、昭和54年8月初旬、控訴人らとの間で、本件プログラム4の開発について打合せをし、その際、控訴人から、本件プログラム4の基礎となる数式が記載されたトムソンの論文を示され、それを理解することから作業を開始した。cからは、統合されるプログラムのエンジン部分の概略設計も示され、また、プログラム使用の段階で入力するデータの態様、データ出力の形式を確認した上、具体的なプログラミング、すなわち、コーディングを行った。プログラムが一応作成された段階で、被控訴人CRCのdらは、控訴人及びcと検証作業を行い、座標の取り違え、計算結果の評価不良等が発見されたので、一緒にソフトウェアの改修、機能検証確認、計算を行った。そして、昭和55年3月、被控訴人CRCは、報告書(紙媒体)に記載する方法で、本件プログラム4を事業団に納入した。
 (甲9、112、乙21、31、32、223)
オ 本件プログラム4は、昭和55年3月までに作成されており、上記のとおり、アポジモータ燃焼中の衛星の運動を解析するプログラムであるが、より具体的には、アポジモータ燃焼中の衛星の挙動を把握することを目的とし、現実の衛星・モータのABM質量特性変更データ等のダイナミックス条件に忠実かつ詳細なスピン・ダイナミックス・シミュレーション・プログラムであった(甲9)。
(5) 本件プログラム5(DOPPLER〔B063〕)作成の経緯
ア aは、昭和55年1月、CNESのツールーズ宇宙センターでの留学から戻り、衛星設計第1グループに復職した(乙205の1)。
イ 同年2月22日に、実験用静止通信衛星「あやめ2号」(ECS−b)(別紙人工衛星表番号9)(以下「ECS−b」という。)が打ち上げられたが、アポジモータ燃焼中に電波途絶という結果となった(乙7の2)。
ウ 事業団では、ECS−bの原因解明と検証の作業が行われ、aは、温度解析による不具合原因の解明に当たり、一方、控訴人は、ドップラーデータからの、決定論的なアポジモータ燃焼中の衛星状態量の推定を試みることとし、同年3月ころには、本件プログラム5作成のための推定アルゴリズムを作成し、入出力条件を検討した(甲9、乙205)。
エ 同年4月には、本件プログラム5作成の計画が、事業団において認可され、事業団と被控訴人CRCとの間で、プログラム作成と計算等の支援に関する契約が締結された。控訴人は、事業団の担当者として、被控訴人CRCのe及びgを指示監督した。すなわち、控訴人は、同年4月初旬、被控訴人CRCのeらと本件プログラム5の開発について打合せをし、アルゴリズムと入出力条件を指示した。eらは、具体的なプログラミング、すなわち、コーディングを行い、ドップラー周波数より軌道、姿勢、推力誤差を決定するプログラムを新規に作成し、軌道、姿勢、推力誤差からドップラー周波数を決定するプログラムについては、従前に作成されていたプログラムを改修して使用した。プログラムが一応作成された段階で、控訴人は、被控訴人CRCと共同でソフト機能検証確認及び計算を行った。同年5月、本件プログラム5は、報告書の形で、事業団に納入され、その対価の支払が、事業団より被控訴人CRCに対して行われた。
 (甲9、乙25の2、25の3、乙30、217、223、弁論の全趣旨)
オ 本件プログラム5は、上記のとおり、ドップラーデータからアポジモータ燃焼中の衛星状態量推定を試みる目的のプログラムであって、サブルーチン49個、1709ステップからなり、公知の「T 3局のドップラデータによるABMによる速度増分ベクトルΔVおよび加速度ベクトルAの計算式」、「U ドップラ周波数の計算式」、「V 多項回帰式による最小二乗法」及び「W ラグランジェの多項式」のアルゴリズムと入出力条件を基礎に、「軌道摂動力とモータ燃焼中のABM推力による軌道伝播計算」、「ABM推力」、「ドップラー周波数の計算」、「入力データ読込」、「推定結果の印刷」、「所期データ設定の計算コントロール」などといった作業を行うプログラムである(甲7ないし9、126、155、乙222ないし225)。
カ 同年5月12日、事業団において、ECS−bについての不具合調査・対策報告書(その6)が作成され、異常事象として、ABMケース上部テレメトリ温度急上昇、ドップラー周波数異常増加等が検討され、不具合の原因について考えられる要因が抽出された。不具合対策委員会では、決定的な原因解明は、aの検討していた温度解析によるものとし、控訴人のドップラー解析は、補完的なものと位置付けられた。
 (乙205の1及びその添付資料31、32)
(6) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル、6次元〕)作成の経緯
ア 控訴人は、昭和54年3月ころ、大学院時代の指導教授を介してCNESに働きかけ、フランス政府給費留学生試験の受験準備を行い、事業団のh参事及びb総務部長の推薦状を得て、フランス政府給費留学生試験に応募し、昭和55年2月合格した。控訴人は、事業団の理事長の推薦状を添えて、フランス大使館に給費申請をした。一方、事業団では、外国政府等の援助資金を得て留学する場合に、外国出張として取り扱うことができるかどうかは、留学規程により、当該留学の内容や事業団の業務との関連性を考慮して行われることとされていたところ、控訴人は、昭和54年10月に実施された事業団の海外研修生選考試験に合格し、昭和55年度の海外委託研修生候補者に選定され、事業団が承認した「昭和55年度海外委託研修計画」に基づいて、昭和55年度海外委託研修生として、同時に、フランス政府給費留学生として、昭和55年8月14日から、フランスのCNESのツールーズ宇宙センターに留学した。
 (甲9、乙70)
イ 事業団の海外委託研修計画に基づく留学生の派遣期間(外国出張として認められる期間)は、12か月以内が原則であり、控訴人についても、留学期間として、1年間の研修期間に、往復に必要な旅行日数を加算した369日間が認められていたが、目的達成までにさらに1年間の研修期間が必要であると思われることと、フランス政府給費留学生として1年間の給費留学期間の延長が認められる見通しがついたことを理由として、控訴人から留学期間延長の願い出がされ、これを受けて、事業団が控訴人を休職の措置とすることで1年間の延長が認められた。そして、上記休職期間中、控訴人は、通常の金額の100分の70に減額されるものの、給与の支払が行われ、健康保険法、雇用保険法及び厚生年金保険法上の取扱いも変更されなかった。一方、フランス政府からは、研修給費として月額1900フランを給付された。なお、控訴人は、上記留学中の昭和56年4月1日付けで、開発部員から副主任開発部員に昇格した。
 (乙30、70、71)
ウ 控訴人は、昭和55年7月30日付けで事業団に提出した「海外研修計画」(乙70の別添資料5)において、研修の目的、内容及び効果として、以下の記載をしていた。
 研修の目的
 「・・・将来の宇宙開発は、多種多様なミッション志向となり、技術的に極めて高度なものが要求されて行くと考えるが、この各種のミッション達成に必要な、人工衛星の設計/運用に係るシステム工学としての『ミッション解析』についての応用自在な能力を培うことは、将来の宇宙分野に於る日本の地歩を確立する上からも、国際協力、共同開発の度合の強まっている今日、最も重要不可欠と考える。・・・本研修は、現在、早急に、その確立が必要とされている、将来をも含めた人工衛星、宇宙船のシステムの設計/運用に必須な『軌道力学を主体としたミッション解析法』について、宇宙先進国から、幅広く、その技術を習得し、将来の深宇宙探査機、大規模宇宙構造物までをも含めた、日本の宇宙開発に資することを目的とする。」
 研修の内容(技術研修(Stage))
 「(A) 軌道上での人工衛星の力学に関する研究;下記の3つのテーマからなる。@ 地球周回或いは、月周回軌道に対する、ランデブ・ドッキングの問題について、時間、燃料等の制約条件下での、最大最小法及びエンケの摂動法を用いて、解析を行う。A アリアンロケット或いはスペースシャトルで規定される重量の深宇宙探査機のミッション解析の問題について、パッチド・コニック法及びフライバイ法等の手法を用いて、解析を行う。B 固体或いは、液体のアポジモータ燃焼中に於る、静止衛星のダイナミックスの問題について、ジェットダンピング、液体のスロッシングの効果を考慮して、解析を行う。
 (B) CNESで計画中のプロジェクトに関する調査研究;@ アリアンロケットで打上げられる人工衛星の解析運用ソフトウェアのシステムに関する調査研究。A スペースラブ、宇宙ステーションに関する将来プロジェクトの調査研究。」
 研修の効果
 「人工衛星の設計/運用に係る『ミッション解析』は、NASDA、ひいては、我が国の宇宙開発に於て、立ち遅れている分野の一つである。それ故、今後の人工衛星、宇宙船及び大規模宇宙構造物等に対する『ミッション解析』を行う上で、更に、現在計画中である『人工衛星ソフトウェア体系化計画』の長期/短期構想の立案の上で、研修成果を反映させたいと考える。」
エ ところで、昭和57年当時、アメリカのNASAや我が国の事業団において人工衛星の軌道決定のプログラムとして最も広く用いられていたのは、バッチ・イタレーション法であったが、かなりの処理時間を要するものであり、この欠点を解決するための方法として、定係数線形フィルタを用いる方法とカルマンフィルタ(非線形フィルタ)を用いる方法が考えられていた。カルマンフィルタは、1960年に、アメリカのカルマンが、弾道弾の着弾点の推定計算式として発表して以来著名となった計算式であり、ノイズを除去して現時点の最適な推定値を求めるとともに、時系列に変化する情報の履歴から次にとる値を予測するものであった。人工衛星の軌道は、非線形方程式によって規定されるため、軌道推定も、本質的には非線形推定問題であり、理論的には、カルマンフィルタ(非線形フィルタ)を用いるのが適当であって、これに関する多数の論文及びプログラムが発表されており、宇宙飛行体の状態推定の技術分野において高い関心が持たれていたが、応用面では、宇宙航行システムの状態を確率モデルとして表すことが難しいとされ、なお適応性等について検討の余地が十分にあるものとされていた。事業団では、システム計画、システム開発研究に関する部門で、昭和47年ころから、軌道推定プログラムとして、定係数線形フィルタの開発が進められていたが、その際、当時知られていた非線形のカルマンフィルタも検討され、定係数線形フィルタとカルマンフィルタとを比較した場合、カルマンフィルタは、高精度な値を求めることができる反面、計算ステップ及び記憶容量が大きくなるという欠点があったので、ETS等の打上げのためには、飛行軌道を簡単な計算で瞬時に求めることの可能な定係数線形フィルタが適すると考えられており、その上で、定係数線形フィルタにおいて、精度を上げるための努力がされていた。また、上記部門では、昭和49年ころからは、非確率型カルマンフィルタのプログラムの開発も行われていたが、パラメータの値を正確に定義付けられず、設計者の主観に左右されるという欠点があるとされ、設計の際にパラメータの決定に不安を抱くことが多く、応用範囲に限界があると考えられていた。
 このように、当時の事業団においては、軌道推定プログラムとして、カルマンフィルタを用いるより定係数線形フィルタを用いるべきであるとするのが優勢であった。
 (乙206、206の2の3、215の1、215の2の2)
オ 上記のとおり、当時、人工衛星の軌道推定方式としてバッチ・イタレーション法が広く用いられ、非線形フィルタであるカルマン・フィルタを用いた状態量推定解析は実用化されていなかったところ、控訴人は、CNESにおいて、ミッション解析、モータ燃焼中のダイナミックス及び推定などの技術を学ぶとともに、より精密に人工衛星の軌道を推定する方式としてカルマン・フィルタの研究を進め、その理論を適用する対象としてCNESのSOLARIS衛星を選び、昭和56年10月、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」を作成し、また、昭和57年1月に、「CNES計画のSOLARISプロジェクトのためのアプローチフェーズ・ランデブーの予備的ミッション解析」と題し、留学前の身分である「日本宇宙開発事業団衛星設計第1グループ技師」との肩書を付した控訴人名義による英文の論文(甲5)を完成させ、上記論文を、CNESのツールーズ宇宙センターにおいて、CNES技術者たちを対象にして発表した。本件プログラム12は、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」の一部分を構成するもので、30個のサブルーチンからなり、特徴的なサブルーチンは、「ANGLE」(16ステップ)、「ELM1」(20ステップ)、「ELM2」(76ステップ)、「EULER」(19ステップ)である。
 控訴人は、留学を終えて帰国する際に、上記「TAKAKO」のソースプログラムを、留学先のフランスのツールーズ宇宙センター内の大型計算機からプリントアウトするとともに、磁気テープに複写して持ち帰り、個人的に保管していた。
 (甲5、9、10、13、14、45、119、120、155、156、弁論の全趣旨)
カ 控訴人は、昭和57年2月17日に留学を終えて帰国し、翌日には、衛星設計第1グループ副主任開発部員として復職し、同月26日に留学先で行った研究成果について報告するための、「海外研修報告」(乙72の2)を提出した。そして、同年4月2日の事業団幹部会において、同報告書に基づく報告をしたが、その中で、「1研修課題」を「軌道力学を主体としたミッション解析法の習得」にあったとし、「課題1」として「CNESのランデブ計画に対する1つの予備的ミッション解析」を挙げ、「マヌーバ計画作成の為のシミュレーション」の項において、「Strategy(注、軌道マヌーバのStrategy)に従って決まるランデブ迄のマヌーバシーケンスに基づいて、Ariane投入軌道誤差の全体推移のシミュレーションを実施した。これにより、マヌーバ点での軌道誤差増大傾向並びに誤差伝播傾向、及び、地上局/静止衛星局(TDRS)からの可視に従ってのKalmanフィルタによる軌道/誤差推定、誤差共分散の収束傾向が把握された。」、「以上から、Solarisプロジェクトのシステムサーチに対する1つのデータ提供と共に、現在、CNESでは、最小二乗法による軌道決定が現用で、SPOTミッションに際して、更に精度の高い決定法の検討を行って居るが、これに対する1つの新しい方法の提供/確立が成されたと考える。」、「尚、本解析プログラムは、約16000ステップが新規開発された。」と述べ、カルマンフィルタを利用したCNESの衛星のランデブー解析プログラムを作成し、その有用性を確認したことについて海外研修の成果として報告しており、これを更に発展させてカルマンフィルタを用いた本件プログラム13を昭和58年1月に作成したことは、後記(7)のとおりである。
 (甲155、乙72)。
キ 控訴人は、上記のとおり、カルマンフィルタを利用したCNESの衛星のランデブー解析プログラムを作成したことを報告していたが、それが本件プログラム12であることを明らかにしておらず、個人的な管理を続けていた。
 控訴人は、本件訴訟において、当初、「KALMAN」というプログラム(実測ドップラーデータから確率論的に〔カルマンフィルタを用いて〕衛星状態量及び誤差共分散が推定されるプログラム)について著作権及び著作者人格権の確認を求めていたが、その後、本件プログラム12及びこれを発展させた本件プログラム13について著作権及び著作者人格権の確認を求めるに至り、事業団及び被控訴人機構は、初めて、本件プログラム12の存在を知った(弁論の全趣旨)。
(7) 本件プログラム13(KALMAN〔オリジナル、9次元〕)作成の経緯ア 控訴人は、昭和57年7月20日に作成した、昭和57年度の業務計画明細書(甲48)において、「静止衛星燃料バジェット推定法の統一化に対するアポジモータ燃焼に伴う軌道/姿勢誤差の推定」を件名として、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案した。
 また、衛星設計部門会議資料とするため、他の職員との連名で、同年8月10日作成の「アポジモータ燃焼時の衛星動力学解析の実施について」と題する文書(甲47)において、同様の提案をした。これらの提案は、控訴人が留学中に作成した、本件プログラム12を発展させたプログラムを想定するものであった。これらの提案のうち、後者については認可されたものの、前者のカルマンフィルタを用いた解析実施の提案については、認可されなかった。
 (甲13、47、48、156)
イ 控訴人は、上記のとおり、事業団の認可はなかったが、昭和58年1月、本件プログラム13を作成した。本件プログラム13は、飛行中の衛星等の状態量(位置、速度、加速度)を、ドップラーデータ等のアポジモータ燃焼中の観測データに基づき、カルマンフィルタを用いて推定し、その推定値の誤差分散も求めるプログラムであり、別紙5に記載された23個のサブルーチン・プログラムより構成され、原判決別紙6で示されるプログラムである。本件プログラム13は、公知の確率論的手法であるカルマンフィルタを基礎とするものであるが、「ANGLE」、「DENPA1」、「ELM1」、「ELM2」、「EULER」、「MOTOR」、「TMXA」のサブルーチンに特徴があり、特に「TMXA」は、169ステップの大きなサブプログラムで、誤差変換行列(9次元)の計算を行っている。
 (甲13、15、112、121、155、156)
ウ 控訴人は、昭和58年1月21日、「Kalman Filter カルマンフィルタによるABM燃焼中の衛星動特性推定及び投入ドリフト軌道推定解析」を作成し、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案したが、同年2月ころ、この提案に対して、筑波宇宙センターの追跡管制開発室から、本件プログラム13は、パラメータ、バイアス誤差に問題があり、このままでは、アポジモータ燃焼中のリアルタイム的な推定には使えない旨の意見が出され、変更を求められた。しかし、控訴人は、同年3月3日、これを政治的思惑に基づく論議であるとして変更を拒否し、本件プログラム13を用いて解析を行い、その結果をもとに技術資料を作成して提案を行い、筑波宇宙センター追跡管制開発室と交渉を行った(甲123、132)。
エ 原判決は、「本件プログラム13は、前記のとおり、原告が、事業団の衛星設計第1グループに所属し、開発部員として、MOS−1(注、海洋観測衛星1号『もも1号』〔MOS−1〕〔別紙人工衛星表番号18〕)の設計開発を担当していた際に作成されたものであり、その内容からも、当時の原告の職務に深く関連するものである。」(123頁2行目ないし5行目)と判示し、甲13には、控訴人がMOS−1の設計に関与していた旨の記載があるが、証拠(乙232)によると、控訴人がこれに関与した形跡はなく、控訴人がフランス留学に際して作成した「海外研修計画」(乙70)の「現在従事している業務」欄には、「MOS−1ミッション解析業務」と記載されているが、結局、控訴人がMOS−1の設計に関与していたと認めるに足りない。
(8) 本件プログラム11(STAT〔オリジナル〕)作成の経緯
ア 事業団は、昭和58年3月、3軸姿勢制御方式の技術試験衛星X型「きく5号」(ETS−V)(昭和62年8月27日に打ち上げられた。〔別紙人工衛星番号19〕)の開発を決定した。MELCOが、その設計及び製造を受託し、システム設計を開始した。控訴人は、昭和58年4月から、衛星設計第1グループにおいて、ETS−Vの開発に、MELCOの監督員の立場で関与することとなった。
 (甲9、11、13、乙67の3、乙117)
イ 昭和58年4月5日及び同月6日、受託業者であるMELCOが、事業団による概念設計に基づいて行ったシステム設計(ダイナミックス設計や軌道設計や構造設計などの各種サブシステム設計をとりまとめた全体設計)の結果を報告し、事業団の審議を仰ぐ意味のシステム設計報告会が行われ、控訴人も、監督員として同報告会に出席した。設計報告会では、事業団から業者に対する問題点の指摘がされ、これに業者が回答し、更に審議されることになるが、控訴人は、前記システム設計報告会において、MELCOに対し、ETS−Vは従来の静止衛星に比較して慣性モーメント比(MOIR)が低く(1.05)、静的スピン安定性が低いこと、最大5年分の液体燃料を搭載できるタンクに1.5年分の燃料しか搭載しないことから、タンク内の液体燃料のスロッシングが、固体推薬のアポジモータ燃焼中に、衛星の動的ダイナミックスに悪影響を与える可能性があること、すなわち、動的スピン安定性に問題があることを指摘した。しかし、MELCOは、控訴人の指摘した静的スピン安定性について、小規模の変更をしたのみであった。
 (甲9、乙117)
ウ 控訴人は、静的スピン安定性について、昭和58年6月、学術論文「Stability of Spinning Spacecraft with Partially Liquid-Filled Tanks」(乙203)をもとに、ルミヤンステフの計算式を用いて計算するために本件プログラム11を作成し、これを用いて、ETS−Vについての静的スピン安定性を解析し、それをMELCOに提示した。MELCO及び事業団は、控訴人による解析に難色を示していたが、同年7月ころ、設計変更が行われた(甲9、11、112、乙203)。
(9) 本件プログラム1(DYNA)及び2(STAT)作成の経緯
ア 控訴人は、受託業者であるMELCOに対し、ETS−Vの動的スピン安定性についても解析作業をするよう促すとともに、昭和58年6月、ミッション解析の業務計画明細書(甲54)を提出したが、受託業者であるMELCOにおいて解決するよう監督すべきであるとして、事業団では認可されなかった。そこで、控訴人は、MELCOに対し、動的解析作業の実施を促したが、納得する結果を出すことはできず、納得するような対応もしなかったので、控訴人は、自ら、スロッシングの問題を解析するプログラム作成のための方程式導入、定式化、アルゴリズム作成に着手した。
 (甲9、54)
イ 控訴人は、動的スピン安定性の問題について十分な解析が行われていないと考え、同年7月27日に、「ETS−Vの現設計に於るダイナミックス上の問題点」と題する技術資料(乙44)を作成して問題点の解決を訴え、同年8月12日にも、「RCS燃料スロッシング影響を考慮したABM燃焼中のスピンダイナミックス定式化について」と題する技術資料(乙45)を作成し、ABM燃焼中の衛星スピンダイナミックスと投入軌道に及ぼす影響をシミュレーションするための定式化について、トムソンの直線運動量方程式及び角運動量方程式を紹介し、これを発展させた衛星全体の直線運動量方程式及び角運動量方程式により解析を行うべきであると提言した。しかし、事業団において特段の改善はされず、控訴人に対し、前記業務計画明細書(甲54)の書き直しが命じられるなどするのみで推移した(甲9、54、55、乙44)。
ウ 控訴人は、同年10月14日に、「第154回衛星設計部門会議用資料3」として、「ETS−Vスピンダイナミックスの検討及びミッション解析の実施について」と題する技術資料(乙46)を作成し、スロッシング解析のために、球面振り子のモデルを用いることを提案した。そして、控訴人は、再度、業務計画明細書を改訂(甲56)するとともに、同月28日、静的解析及び動的解析を含めたETS−Vのミッション解析に関する技術資料「ETS−VのMOIR/RCS液体燃料スロッシングに関する静止化ダイナミックスの検討について」(乙22)を提出した。これらの控訴人の検討及び提言の結果、同年11月ころ、控訴人提案に係る業務計画「技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)」が認可された。
 (甲9、10、56、57、乙22、46)
エ 事業団は、上記業務計画の認可を踏まえて、「技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)」業務計画の支援のため、昭和58年12月、被控訴人CRCとの間で、控訴人提言に係るプログラムの作成に関するCDC系等電子計算機計算等委託契約を締結した(契約名称は、「技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)支援」であった。)。控訴人は、被控訴人CRCの担当者のf、k(以下「k」という。)に対し、控訴人の論文(甲3、4)や海外の文献、資料を交付し、控訴人が導出した数式を説明するなどして指示を与えた。f、kは、控訴人の論文や海外の文献、資料を読み込み、数式の理解をした上で、プログラムの概念設計を行い、控訴人の確認を得た上で、詳細設計を行い、事業団の承認を得てから、具体的なプログラミングを行った(甲3、4、乙32、47、48の1)。
 プログラムが一応作成された段階で、控訴人の検証を受けたが、当初、意図した結果が出ず、控訴人は、ソースコードをチェックするなどして具体的な助言を与え、その結果、本件プログラム1及び2が作成され、それらを用いた解析結果とともに、昭和59年4月、事業団に納入された(乙32、48、49、218、弁論の全趣旨)。
オ fは、控訴人から海外の文献を渡され、そこに記載されているものと同じ作業を行い、同じ結果を得るプログラムの作成を指示され、プログラムの概念設計、詳細設計を行ってから、具体的なプログラミングを行い、プログラムが一応作成された段階で、控訴人の検証を受け、その結果、本件プログラム2が完成した。このプログラムも、それを用いた解析結果とともに、昭和59年4月、事業団に納入された。
 (乙32、48、49、218、弁論の全趣旨)
カ 事業団と被控訴人CRCとの間の上記契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であり、本件プログラム1及び2の解析支援に対する対価の支払が、事業団より被控訴人CRCに対して行われた(乙48の1、49の1、乙218)。
キ 本件プログラム1は、衛星やロケットの燃料タンク内の液体スロッシング(液面揺動)が機体の姿勢や軌道に及ぼす影響を調べるため、スロッシングを球面振り子で表現し、燃焼気体の噴流による減衰を考慮してシミュレーションするプログラムであり、本件プログラム2は、回転している衛星やロケット内部の液体移動が回転物体の静的な安定性に及ぼす影響を判別するために、ルミヤンステフ及びマッキンタイヤの計算式に基づいて計算するプログラムであり、同じ契約に基づいて被控訴人CRCに委託されたものであって、いずれも、昭和59年4月に作成された(甲62、155、乙32、48)。
(10) 本件プログラム6(DYNA−A〔ABM燃焼フェーズの動的解析プログラム〕)作成の経緯
ア 控訴人は、本件プログラム1及び2をもとにした解析結果に基づいて、ETS−Vのスピン安定性についての検討を行い、本件プログラム1については、修正が必要であるとの認識に至った。そして、事業団は、昭和59年4月、「ETS−Vミッション解析」業務計画の支援のために、被控訴人CRCとの間で委託契約を締結した(契約名称は、「ETS−Vミッション解析支援の役務借上げ」であった。)。これに基づいて、本件プログラム1を改修した本件プログラム6が作成され、昭和60年3月に事業団に納入された。
 (甲9、乙50、51、55、56、57の1、2)
イ 本件プログラム6は、本件プログラム1に機能を追加するというものであり、控訴人が、被控訴人CRCの担当者であったf及びkに、追加する機能の数式及び入力の態様等を指示し、f及びkが具体的なプログラミングを行い、その結果、本件プログラム6が完成した(甲63、155、乙32、219)。
ウ 本件プログラム6は、推力飛行中の衛星やロケットの燃料タンク内の液体スロッシングが機体の姿勢や軌道に及ぼす影響を判別するために、液体スロッシングを球面振り子で表現し、燃焼気体の噴流による減衰を考慮してシミュレーションするプログラムであり、本件プログラム1を改良したものであった(乙57の1)。
エ 事業団と被控訴人CRCとの間の上記契約では、作業場所は原則として事業団の本社あるいは筑波宇宙センター、使用計算機は事業団の電子計算機とされており、昭和59年4月から1年間、被控訴人CRCが所定の人員を事業団に派遣して作業するというものであり、「ETS−Vミッション解析」支援に対する対価の支払が、事業団より被控訴人CRCに対して行われた(乙51の1、乙219)。
オ 昭和59年9月21日、開発組織として本部制が導入されたことにより、人工衛星の開発を行う部門は、人工衛星開発本部となり、従前の衛星設計第1グループは、同本部の技術試験衛星グループに改組され、気象衛星、海洋観測衛星、地球資源衛星、通信衛星及び放送衛星を除く人工衛星の開発を所掌することとされ、控訴人は、人工衛星開発本部技術試験衛星グループ副主任開発部員となった(乙126)。
(11) 本件プログラム3(KALMAN−1〔9次元〕)作成の経緯
ア 事業団は、控訴人の提言により、本件プログラム13を改修する必要があると判断し、昭和60年4月、被控訴人CRCとの間で、ETS−Vミッション解析支援の契約(契約名称は、「CDC系電子計算機計算等委託ETS−Vミッション解析(その3)支援」であった。)を締結した(乙61、62)。
イ 被控訴人CRCの担当者はm(以下「m」という。)であり、控訴人は、mに対し、本件プログラム12及び控訴人がCNESにおいて発表した論文(甲5)のカルマンフィルタのアルゴリズムを示し、6次元のプログラムを、9次元(位置、速度、加速度)のプログラミングにすることについて具体的な指示を行った。また、入出力するデータ形式を指示した。mは、プログラムの概念設計、詳細設計を行って、控訴人の承認を得てから、具体的なプログラミングを行い、プログラムが一応作成された段階で、控訴人の検証を受け、その結果、本件プログラム3が完成した。昭和61年3月、本件プログラム3は、被控訴人CRCから事業団に納入された。対価の支払は、事業団より被控訴人CRCに対して行われた。なお、控訴人及びmは、上記プログラムの作成作業に関して、連名で、学会発表、論文発表をした。
 (甲5、10、13、乙33、62、63、220、227ないし229、弁論の全趣旨)
ウ 本件プログラム3は、推力飛行中の衛星等の9成分(位置、速度、加速度)の状態量を、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いて推定し、その推定量に対する誤差を計算するためのプログラムであり、昭和61年3月に作成された(甲115、116、乙62の3)。
エ 事業団と被控訴人CRCとの間の上記契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であり、本件プログラム3の解析支援に対する対価の支払が、事業団より被控訴人CRCに対して行われた(乙61の1、乙217)。
2 本件プログラム5、11ないし13及び15は著作物といえるか(争点3)について
(1) 法2条1項1号が、「著作物」の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定していることからすれば、法によって保護されるのは、直接には「表現したもの」自体であり、思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出すもとになったアイデア(着想)も、それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。また、ある表現物を創作したというためには、対象となる表現物の形成に当たって、自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行ったことが必要であり、当該表現物において、その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度に至っていない場合には、法上の創作には当たらない、言い換えると、著作物性を有しないものと解すべきである。そして、この点は、当該表現物がプログラムである場合であっても何ら異なるところはないが、小説、絵画、音楽などといった従来型の典型的な著作物と異なり、プログラムの場合は、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10の2)であって、元来、コンピュータに対する指令の組合せであり、正確かつ論理的なものでなければならないとともに、プログラムの著作物に対する法による保護は、「その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。」(法10条3項柱書1文)ところから、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどといったところに、法によって保護されるべき作成者の個性が表れることとなる。したがって、プログラムに著作物性があるといえるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するものであって、プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地もなくなり、著作物性を有しないことになる。そして、プログラムの指令の手順自体は、アイデアにすぎないし、プログラムにおけるアルゴリズムは、「解法」に当たり、いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。
(2) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)について
ア 前記1(2)によれば、本件プログラム15は、12個のサブルーチンからなる軌道伝播解析プログラムであり、衛星軌道面座標系と慣性座標系により座標変換する式、P.M.Fitzpatrick による軌道伝播要素の公式を基礎として、「地球重力による摂動」、「大気抵抗による摂動」、「大気密度」を考慮しつつ、衛星軌道要素の時間的変化を求めるものであり、上記理論式を軌道伝播解析という目的に合わせて展開し、入出力その他の条件を設定した上で、これをプログラミングしたものであるが、中心となる「GENPER」は131ステップ、「KEPLER」は47ステップのサブルーチンであり、式の展開、入出力その他の条件を設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であるところ、作成者の工夫がこらされており、その個性が認められるから、著作物性を有するものというべきである。
イ 被控訴人らは、本件プログラム15の理論式は公知のものであり、「GENPER」、「KEPLER」にも控訴人の独自性が表現されていないなどとし、本件プログラム15には著作物性がない旨主張する。
 しかし、 衛星軌道面座標系と慣性座標系により座標変換する式、P.M.Fitzpatrick による軌道伝播要素の公式は公知のものであっても、これを軌道伝播の解析に使用するに当たって、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であり、その中で、控訴人なりの表現をしているのであるから、著作物性があるというべきである。
 被控訴人らの上記主張は、採用することができない。
(3) 本件プログラム5(DOPPLER〔B063〕)について
ア 前記1( )オによれば、本5 件プログラム5は、ドップラーデータからアポジモータ燃焼中の衛星状態量推定を試みる目的のプログラムであって、サブルーチン49個、1709ステップからなり、公知の「T 3局のドップラデータによるABMによる速度増分ベクトルΔVおよび加速度ベクトルAの計算式」、「U ドップラ周波数の計算式」、「V 多項回帰式による最小二乗法」及び「W ラグランジェの多項式」のアルゴリズムと入出力条件を基礎とし、「軌道摂動力とモータ燃焼中のABM推力による軌道伝播計算」、「ABM推力」、「ドップラー周波数の計算」、「入力データ読込」、「推定結果の印刷」、「所期データ設定の計算コントロール」などといった作業を行うプログラムとして記載されたものである。
 上記のとおり、本件プログラム5は、多数のサブルーチン、多数のステップのプログラムであり、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であるところ、作成者の工夫がこらされており、その個性が認められるというべきであるから、著作物性を有するものというべきである。
イ 被控訴人らは、当該計算式について独自性はなく、当該プログラムがある目的における公知の計算式の採用を保護対象とすることになると、結果的には計算式そのものを独占させることとなるから、本件プログラム5は著作物性を有しないものと解すべきである旨主張する。
 しかし、上記のとおり、「T 3局のドップラデータによるABMによる速度増分ベクトルΔVおよび加速度ベクトルAの計算式」、「U ドップラ周波数の計算式」、「V 多項回帰式による最小二乗法」及び「Wラグランジェの多項式」のアルゴリズムをプログラムに書き換えるに当たっては、上記のとおり、多様な記載があり得るから、上記各計算式そのものを独占させることにはならないものというべきであり、被控訴人らの主張は、採用することができない。
(4) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル、6次元〕)及び13(KALMAN〔オリジナル、9次元〕)について
ア 前記1(6)オによれば、本件プログラム12は、控訴人が、昭和56年10月に完成させたランデブー解析プログラム「TAKAKO」の一部分を構成するもので、30個のサブルーチンからなり、それ自体は、軌道上の衛星等の状態量(位置、速度)を、確率論的手法であるカルマンフィルタを用いて推定し、その推定値の誤差分散も求めるプログラムである。
 本件プログラム12は、公知の確率論的手法であるカルマンフィルタを基礎とするものであるが、サブルーチン「ANGLE」(16ステップ)、「ELM1」(20ステップ)、「ELM2」(76ステップ)、「EULER」(19ステップ)などによって特徴付けられていることが認められ、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であるところ、作成者の工夫がこらされているというべきであり、その個性が認められるから、著作物性を有するものというべきである。
イ 前記1(7)によれば、本件プログラム13は、飛行中の衛星等の状態量(位置、速度、加速度)を、ドップラーデータ等のアポジモータ燃焼中の観測データに基づき、カルマンフィルタを用いて推定し、その推定値の誤差分散も求めるプログラムであり、別紙5に記載された23個のサブルーチン・プログラムより構成され、原判決別紙6で示されるプログラムである。
 本件プログラム13は、公知の確率論的手法であるカルマンフィルタを基礎とするものであるが、「ANGLE」、「DENPA1」、「ELM1」、「ELM2」、「EULER」、「MOTOR」、「TMXA」のサブルーチンに特徴があり、特に「TMXA」は、169ステップの大きなサブプログラムで、誤差変換行列(9次元)の計算を行っており、式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であるところ、作成者の工夫がこらされており、その個性が認められるから、著作物性を有するものというべきである。
ウ 被控訴人らは、原審で、本件プログラム12及び13の基礎式は、カルマン基本理論式、宇宙システムに応用するために東京工科大学名誉教授nが著書で発表した基本理論式とほぼ同一であり、特段の独自性を有するものではないとし、本件プログラム12及び13には著作物性がない旨主張している。
 しかし、ここで問題となるのは、カルマンフィルタが独自性を有するかどうかではない。本件プログラム12、13は、公知のカルマンフィルタを単にプログラムに書き換えただけのものではなく、公知のカルマンフィルタを利用してまとまったプログラム体系を構築し、記載したところに創作性が認められるから、被控訴人らの主張は、採用することができない。
(5) 本件プログラム11(STAT〔オリジナル〕)について
ア 証拠(甲16、114)及び弁論の全趣旨によれば、本件プログラム11の各ステップの記載は、以下のとおりであると認められる(別紙2参照)。
 「Z=r2=
 A=P=1000
 B=r1=0.75
 C=L=0.25
 D=R=0.28
 E=I22=312.6
 F=I11=330.5
 G=ASIN((SQRT(2*D*D*(B*B+Z*Z)−D**4−(Z*Z−B*B)*(Z*Z−B*B))/2/B/Z)
 H=π/180
 L=Z*SIN(G)*
 I=4/3*A*Z*Z*L*(3*C*C+L**2)
 J=I/F*(G*H−SIN(2*G)/2)
 K=I/E*(G*H+SIN(2*G)/2)
 PRINT Z、G、I、J、K
 END」
イ 本件プログラム11の第1ないし第7のステップは、変数を列挙するとともに、変数に代入する数字を定めている。変数に代入する数字は、計算式とは別に定まるものであるから、ここで選択する余地があるのは、変数とする記号として何を選ぶかという程度である。
 第8ステップは、(*編注 以下数式はルートの入ったものにつき略)
 の計算式(甲16〔2頁〕参照)について、以下のとおり、「sin」式から「sin−」式に変換して、(*編注 以下数式略)
 という「α」そのものを求める式に変換し、以下のとおり、第1ないし第7のステップにおける変数に置き換え、(*編注 以下数式略)
 これをFORTRAN言語で表現したものであるが、式の展開に工夫の余地はほとんど認められず、同ステップは、変数によって必然的に導かれるものであって、選択の余地はないというほかない。
 第9ないし第12ステップの記載は、下記の公知のルミヤンステフの式(乙203)をプログラムに書き換えたものであるが、同各ステップは、式の展開に工夫の余地がほとんど認められず、かつ、選択の余地もほとんどない。(*編注 以下数式略)
 第13ステップは、計算に使った変数及び解を印刷するための基本的なFORTRAN言語であるWRITE文(乙204の1)であって、選択の余地がない。
 第14ステップは、プログラムを終了させるための基本的なFORTRAN言語であるEND行(乙204の1)であって、選択の余地がない。
 さらに、各ステップの論理的順序をみても、変数へのデータ設定、計算、データ出力の3段階からなるありふれた流れであって、選択の幅は、著しく狭いものである。
 そうすると、本件プログラム11は、全体として表現に選択の余地がほとんどなく、わずかに表現の選択の余地のある部分においても、その選択の幅は著しく狭いものであるから、上記計算式を基礎にFORTRAN言語でプログラムを作成しようとする場合、本件プログラム11のようになることは避けられず、作成者の個性を反映させる余地はないものとして、その著作物性は否定すべきである。
ウ 控訴人は、本件プログラム11は、式も量的にも簡単なプログラムであるが、公知の基礎方程式を自由に計算し、解析できるようにしたものであり、作成した時点で、このようなプログラムはなかったのであるから、著作物性が認められるべきであると主張する。
 しかし、本件プログラム11は、控訴人も認めるとおり、式も量的にも簡単なプログラムで、公知の基礎方程式をプログラムに置き換えて、コンピュータにより計算し、解析することができるものであって、当該プログラムの記載に選択の余地がないものであるから、仮に、作成した時点で、このようなプログラムはなかったとしても、著作物性があるとはいえない。
3 原告は、本件各プログラムを作成(創作)したか(争点1)について
(1) 本件プログラム15(軌道伝播解析プログラム〔B010プログラム〕)について
 前記1(2)認定の事実によれば、控訴人は、フランスに留学したaの後任として、ECS用ミッション解析プログラム群の作成、とりまとめを担当し、軌道伝播に関するプログラムである本件プログラム15を昭和53年10月20日までに完成させたのであるから、控訴人が本件プログラム15を創作した者と認められる。
(2) 本件プログラム19について
 前記1(3)認定の事実によれば、控訴人は、昭和54年9月ころまでに、ドップラーデータ等を用いたECSのアポジモータ燃焼時解析について、本件プログラム15のサブルーチンをそのまま用いたり、あるいは、従前aが作成していたプログラム及び本件プログラム15の他のサブルーチンを改修して、発展させ、14のサブルーチンからなる、ドップラー変化による衛星運動解析を行うための本件プログラム19を作成したのであるから、控訴人が本件プログラム15を創作した者と認められる。
(3) 本件プログラム4(SPD)について
 前記1(1)によれば、事業団は、業務の一部を外部企業に委託していたが、その際、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任し、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされていたものである。
 そして、前記1(4)認定の事実によれば、事業団は、昭和54年2月6日に打ち上げられた、実験用静止通信衛星ECSの電波途絶のトラブルを受け、その原因究明及び特定のため、アポジモータ燃焼時の衛星挙動を解析する作業に着手し、被控訴人CRCとの間で、アポジモータ燃焼中の衛星の運動を解析するプログラムの作成と計算等についての委託契約を締結したこと、それとともに、衛星設計第1グループの控訴人、ロケットの開発担当部門のcを監督員とし、その指示監督の下で、被控訴人CRCのd、e及びfがプログラムの作成作業を行ったこと、その際、控訴人は、本件プログラム4の基礎となる数式が記載されたトムソンの論文を示し、cは、統合されるプログラムのエンジン部分の概略設計を示し、dらは、プログラム使用の段階で入力するデータの態様、データ出力の形式を確認した上、具体的なプログラミング、すなわち、コーディングを行ったこと、プログラムが一応作成された段階で、全員で検証作業を行い、座標の取り違え、計算結果の評価不良等が発見されたので、ソフトウェアの改修、機能検証確認、計算を行ったこと、その後、被控訴人CRCは、昭和55年3月、報告書に記載する方法で、本件プログラム4を事業団に納入したこと、事業団と被控訴人CRCとの間の上記委託契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であったことが認められる。
 そうすると、事業団と被控訴人CRC間の上記契約は、控訴人及びcの解析作業を支援するためのものであって、被控訴人CRCのd、e及びfは、控訴人らの業務を補助するものとして、控訴人らの指示監督の下で、控訴人らと共同でプログラミング作業を行い、共同で本件プログラム4を完成させたものと認められる。
 したがって、控訴人は、c、被控訴人CRCのdらと共同で本件プログラム4を創作した者というべきである。
(4) 本件プログラム5(DOPPLER〔B063〕)について
 事業団が、業務の一部を外部企業に委託していたが、その際、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任し、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされていたことは、上記(3)のとおりである。
 上記1(5)認定事実によれば、事業団は、被控訴人CRCとの間で、ドップラーデータからの、決定論的なアポジモータ燃焼中の衛星状態量を推定するためのプログラムの作成と計算等についての委託契約を締結するとともに、控訴人が監督員として現場の指示監督を行うこととなり、控訴人は、被控訴人CRCのeらを指示監督して、昭和55年5月までに、本件プログラム5を完成したこと、控訴人は、本件プログラム5の作成に当たって、アルゴリズムの作成及び入力条件作成等を行うとともに、被控訴人CRCの担当者らと共同でソフト機能検証確認及び計算を行ったことが認められる。
 そうすると、事業団と被控訴人CRC間の上記契約は、ドップラーデータからの、決定論的なアポジモータ燃焼中の衛星状態量を推定するという、控訴人の解析作業を支援するためのものであって、被控訴人CRCのeらは、控訴人の職務を補助するものとして、控訴人の指示監督の下で、控訴人と共同でプログラミング作業を行い、本件プログラム5を完成させたものと認められる。
 この点について、原判決は、控訴人が、「本件プログラム5の形成に当たって、推定アルゴリズムの作成及び入出力条件の検討を行うとともに、被告CRCの技術者らとともに、ソフト機能検証確認及び計算を行ったものであると認められるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認められる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない」(104頁24行目ないし105頁3行目)と判示しているが、上記説示に照らして失当である。
 したがって、控訴人は、被控訴人CRCのeらと共同で本件プログラム5を創作した者というべきである。
(5) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル、6次元〕)について
 前記1(6)認定の事実によれば、控訴人は、留学中のCNESにおいて、研修課題の研究に際し、ドップラーデータを用いて衛星の状態量を解析する方法の研究をも進め、昭和56年10月、本件プログラム12を含むランデブー解析プログラムを作成したのであるから、控訴人が本件プログラム12を創作した者と認められる。
(6) 本件プログラム13(KALMAN〔オリジナル、9次元〕)について
 前記1(7)認定の事実によれば、控訴人は、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析のために、昭和58年1月、本件プログラム13を作成したのであるから、控訴人が本件プログラム13を創作した者と認められる。
(7) 本件プログラム1(DYNA)及び2(STAT)について
 事業団が、業務の一部を外部企業に委託していたが、その際、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任し、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされていたことは、上記(3)のとおりである。
 前記1(9)認定の事実によれば、事業団は、被控訴人CRCとの間で、「CDC系等電子計算機計算等委託技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)支援」のための委託契約を締結するとともに、控訴人が監督員として現場の指示監督を行うこととなり、控訴人は、被控訴人CRCのf、kを指示監督して、昭和59年4月、本件プログラム1及び2を完成させたこと、上記契約は、控訴人提言に係る、ETS−VのMOIR/RCS液体燃料スロッシングに関する静止化ダイナミックスの解析を支援するためのものであって、控訴人が、本件プログラム1及び2の作成に当たって、海外の文献、資料を交付し、控訴人が導出した数式の説明をし、プログラムが一応作成された段階で検証をし、ソースコードをチェックするなどして具体的な助言をしたこと、事業団と被控訴人CRCとの間の上記委託契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であったことが認められる。
 そうすると、事業団と被控訴人CRC間の上記契約は、控訴人による、ETS−VのMOIR/RCS液体燃料スロッシングに関する静止化ダイナミックスの解析を支援するためのものであって、被控訴人CRCのeらは、控訴人の職務を補助するものとして、控訴人の指示監督の下で、控訴人と共同でプログラミング作業を行い、本件プログラム1及び2を完成させたものと認められる。
 この点について、原判決は、控訴人が、「本件プログラム1の形成に当たって、定式化、アルゴリズム、入力データ、出力仕様などの技術資料を提示するとともに、被告CRCの技術者らとともに、ソフト機能の検証及び確認を行ったものであるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認めるに足りる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない」(130頁8行目ないし14行目)、「本件プログラム2の形成に当たって、本件プログラム11を提示し、定式化、アルゴリズム、入力データ、出力仕様などの技術資料を提示したものであるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認めるに足りる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない」(130頁1行目ないし6行目)と判示しているが、上記説示に照らして、いずれも失当である。
 したがって、控訴人は、被控訴人CRCのeらと共同で本件プログラム1及び2を創作した者というべきである。
 控訴人は、本件プログラム1は、控訴人の「個人の自由な研究・発想」で本質部分を既に作成していたものであり、控訴人は全作成ステップを行い、控訴人の指示の下で、被控訴人CRCは一部ステップの単純作業を行ったにすぎないから、控訴人のみの創作である旨主張する。
 しかし、上記のとおり、控訴人による指示監督が行われたが、被控訴人CRCのdらは、自らの創意工夫によりコーディングを含むプログラミングを行っているから、一部ステップの単純作業を行ったにすぎないとはいえない。
(8) 本件プログラム6(DYNA−A)について
 事業団が、業務の一部を外部企業に委託していたが、その際、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任し、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされていたことは、上記(3)のとおりである。
 前記1(10)認定の事実によれば、控訴人は、本件プログラム1及び2をもとにした解析結果に基づいて、ETS−Vのスピン安定性についての検討を行ったところ、本件プログラム1について、修正が必要であると考え、事業団は、上記ETS−Vミッション解析支援のために、被控訴人CRCとの契約を締結したこと、本件プログラム6は、本件プログラム1に機能を追加するというものであり、控訴人が、被控訴人CRCの担当者であったf及びkに、追加する機能の数式及び入力の態様等を指示し、f及びkが具体的なプログラミングを行い、その結果、昭和60年3月、本件プログラム6が完成したこと、事業団と被控訴人CRCとの間の上記委託契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であったことが認められる。
 そうすると、事業団と被控訴人CRC間の上記契約は、「ETS−Vミッション解析支援の役務借上げ」であり、本件プログラム1及び2の場合と同様に、控訴人の解析作業を支援するためのものであって、被控訴人CRCのfらは、控訴人の職務を補助するものとして、控訴人の指示監督の下で、控訴人と共同でプログラミング作業を行い、本件プログラム6を完成させたものと認められる。
 この点について、原判決は、控訴人が、「本件プログラム1の改良プログラムである本件プログラム6の形成に当たって、上記ウの諸活動(注、「本件プログラム1の形成に当たって、定式化、アルゴリズム、入力データ、出力仕様などの技術資料を提示するとともに、被控訴人CRCの技術者らとともに、ソフト機能の検証及び確認を行ったこと」を指す。)に加え、本件プログラム1を用いた長時間計算の結果に疑問があることを発見し、本件プログラム1を総点検してプログラムの論理構造上の問題を発見し、被告CRCの技術者らと共同でバグ修正を行うとともに、多数のタンク内の液体挙動を扱えるように運動方程式を一般化したものを提示したのであるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認めるに足りる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない。」(130頁16行目ないし下から2行目)と判示しているが、上記説示に照らして失当である。
 したがって、控訴人は、被控訴人CRCのfらと共同で本件プログラム6を創作した者というべきである。
(9) 本件プログラム3(KALMAN−1)について
 事業団が、業務の一部を外部企業に委託していたが、その際、職員の中から現場の指示監督を行う監督員を選任し、契約した外部企業がプログラムの作成、解析等を行う場合は、監督員が指示監督をするものとされていたことは、上記(3)のとおりである。
 前記1(11)認定の事実によれば、事業団は、被控訴人CRCとの間で、「CDC系電子計算機計算等委託ETS−Vミッション解析(その3)支援」と題する契約を締結したこと、上記契約は、控訴人提言に係る、KALMANの6次元のプログラムを改修するためのものであって、控訴人が、本件プログラム3の作成に当たって、mに対して、KALMANの6次元のプログラム、控訴人がCNESにおいて発表した論文、入出力条件を指示し、mにおいて、プログラムの概念設計、詳細設計、具体的なプログラミングを行い、その過程で、控訴人においてチェック、検証をし、昭和61年3月までに、本件プログラム3が完成したこと、事業団と被控訴人CRCとの間の上記委託契約は、毎月の実績ベースで被控訴人CRCに対価を支払うという単価契約であったことが認められる。
 そうすると、事業団と被控訴人CRC間の上記契約は、ETS−Vミッション解析の支援であり、本件プログラム1及び2の場合と同様に、控訴人の解析作業を支援するためのものであって、被控訴人CRCのmは、控訴人の職務を補助するものとして、控訴人の指示監督の下で、控訴人と共同でプログラミング作業を行い、本件プログラム6を完成させたものと認められる。
 この点について、原判決は、控訴人が、「本件プログラム3の形成に当たって、定式化、アルゴリズム等の技術資料を提示したものであるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認めるに足りる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない。」(131頁1行目ないし6行目)と判示しているが、上記説示に照らして失当である。
 控訴人は、本件プログラム3は、本件プログラム13の派生物であり、控訴人の指示の下で、被控訴人CRCの担当者が、入出力整備と自動図化機能の陳腐なプログラム付加の単純作業をしただけである旨主張する。
 しかし、mは、控訴人から、CNESにおいて発表した論文、入出力条件を指示され、プログラムの概念設計、詳細設計、具体的なプログラミングを行い、控訴人においてチェック、検証を受けて、本件プログラム3を完成させたのであり、控訴人は、mと連名で、上記プログラムの作成作業に関して学会発表、論文発表をしている。そうすると、mの作業は、単純作業ではなく、創意工夫のあるものであったことがうかがわれるのであり、同人が入出力整備と自動図化機能の陳腐なプログラム付加の単純作業をしただけであるとする控訴人の主張は、失当である。
 したがって、控訴人は、被控訴人CRCのmと共同で本件プログラム6を創作した者というべきである。
4 本件各プログラムについて、職務著作として事業団が著作者となるか(争点2)について
(1) 法は、2条1項1号において、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義し、これを受け、同項2号において、「著作者」とは、「著作物を創作する者をいう。」と定義しているところ、思想又は感情を創作的に表現し得るのは自然人のみであるから、元来、著作者となり得るのは自然人である。しかし、他方で、法は、旧15条において、「法人その他使用者(以下この条において『法人等』という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定し、現行15条においては、「1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」、「2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定しており、法人等が著作者になり得るものとしている。このような法の規定の仕方にかんがみると、法は、旧15条及び現行15条1項を通じて、著作行為をし得るのは、自然人であるとの前提に立ちつつ、著作権取引等の便宜を考慮し、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみ、法人等を著作者と擬制し、所定の著作物の著作者を法人等とする旨規定したものであるが(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・判時1822号133頁参照)、プログラムの著作物については、プログラムの多くが、企業などの法人において多数の従業員により組織的に作成され、その中には、本来公表を予定しないもの、無名又は作成者以外の名義で公表されるものも多いという実態があるなどプログラムの特質にかんがみ、現行15条2項において、公表名義を問うことなく、法人等が著作者となる旨定めたものと解するのが相当である。
 ところで、職務著作が成立するためには、上記のとおり、「法人等の発意」があり、「法人等の業務に従事する者」による「職務上作成する著作物」であり、さらに、旧15条においては、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であることをも要件としている。そして、昭和60年法律第62号附則2項により、現行15条2項の規定は、同法の施行(昭和61年1月1日)後に創作された著作物について適用され、同施行前に創作された著作物については、旧15条が適用されるところ、前記2及び3の認定判断に照らせば、本件各プログラム(ただし、著作物性が否定される本件プログラム11を除く。)のうち、本件プログラム3についてのみ現行15条2項が適用され、その余は旧15条が適用されることとなる。
 「法人等の発意」の要件については、法人等が著作物の作成を企画、構想し、業務に従事する者に具体的に作成を命じる場合、あるいは、業務に従事する者が法人等の承諾を得て著作物を作成する場合には、法人等の発意があるとすることに異論はないところであるが、さらに、法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」の要件を満たすと解するのが相当である。
 また、「職務上作成する著作物」の要件については、業務に従事する者に直接命令されたもののほかに、業務に従事する者の職務上、プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである。
 さらに、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の要件については、公表を予定していない著作物であっても、仮に公表するとすれば法人等の名義で公表されるべきものを含むと解するのが相当である。
 本件についてみると、控訴人は、本件各プログラムの作成時において、事業団に雇用され、事業団の開発部員として、事業団の業務に従事する者であったから、「法人等の業務に従事する者」であることが明らかである。また、事業団には、職員作成のプログラムについて、職員を著作者とする旨を定める就業規則等はなく、控訴人と事業団との間においても、同旨を定める契約等はなかったことは、前記第2の2において引用する原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1(5)のとおり、当事者間に争いがない。
 そうすると、本件において職務著作の成否を検討するに当たっては、@「法人等の発意」があり、A「職務上作成する著作物」であって、B「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であるとの要件を満たすか(ただし、本件プログラム3については、Bの要件が不要であることは、前述のとおりである。)が問題となるので、順次、検討する。
(2) 本件プログラム15及び19について
ア 前記1(1)認定の事実によれば、事業団では、ロケットや人工衛星の全体的把握とシステム運用・ミッション達成の業務遂行のために各種プログラムの開発が必要であったことから、技術系職員の間で、プログラム作成は、ほぼ必須のものとされ、昭和52年4月には、事業団の開発業務に係るソフトウェアの開発及び整備に関する業務を有効かつ適切に実施するため、ソフトウェア委員会が設けられたこと、控訴人は、昭和49年4月1日、事業団に任用され、開発部員として辞令を受け、昭和52年1月11日、飛行安全管理室から試験衛星設計グループ(組織改正後は衛星設計第1グループ)に異動となり、上司のaの指示を受け、aの留学の後には、その後任として、ECS用ミッション解析プログラム群の作成、とりまとめを担当し、他の同グループ部員とともに、事業団により認可されたECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事しており、このような状況の中で、ECS用のミッション解析及びそのプログラム群に含まれる本件プログラム15及び19を作成したことが認められる。
イ 「法人等の発意」の要件についてみると、控訴人は、ECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事していたところ、上記各プログラムの作成は、上司のaの指示を受け、aの留学の後には、その後任として、プログラム作成に当たったものであるから、控訴人が、法人等から作成を命じられたプログラムであるというべく、上記各プログラムの作成について、事業団の発意を認めるのが相当である。
ウ 「職務上作成する著作物」の要件についてみると、本件プログラム15及び19は、ECS用のミッション解析及びそのプログラム群の作成に従事していた中で、そのプログラム群に含まれるものであったのであるから、控訴人の「職務上作成する著作物」であることが明らかである。
エ 「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の要件についてみると、本件プログラム15及び19は、いずれも、前記のとおり、事業団、特に試験衛星設計グループの遂行しているECSミッション解析プログラム群に含まれるプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
オ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は、控訴人の所属部門において、プログラムの作成は業務として位置付けられていなかった、すなわち、当時控訴人が所属していた試験衛星設計グループ、衛星設計第1グループは、他のグループ、例えば、実用衛星を担当する衛星設計第2グループ等とのグループ間の調整や、開発における外部委託業者の作業の監督(とりまとめ)等を業務としていたのであり、解析プログラムの作成といった技術的事項についての研究開発は、控訴人の職務の内容となっていなかった旨主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、事業団では、ロケットや人工衛星の全体的把握とシステム運用・ミッション達成の業務遂行のために各種プログラムの開発が必要であったことから、技術系職員の間で、プログラム作成は、ほぼ必須のものとされ、昭和52年4月には、事業団の開発業務に係るソフトウェアの開発及び整備に関する業務を有効かつ適切に実施するため、ソフトウェア委員会が設けられたものである。控訴人は、試験衛星設計グループに配属となった当初から、開発部員として、上司のaから、ECS用に軌道伝播に関するプログラムを作成することを指示され、その後、aの後任として、ECS用ミッション解析プログラム群の作成、とりまとめを担当して、本件プログラム15を完成させ、引き続いて、ドップラーデータ等を用いたECSのアポジモータ燃焼時解析について、本件プログラム15その他のプログラムを流用、改修、発展させて、本件プログラム19を完成させたのであるから、これらのプログラムの作成は、当時の控訴人の職務であったことが明らかであり、控訴人の上記主張は、失当である。
(イ) 控訴人は、ETS−U又はECS用のプログラム作成は、事業団により形式的に認可されたものの、人的・物的手当がされず、その作成提案等の遂行は反対され続けたのであって、本件プログラム15及び19の作成が控訴人の職務上されたということはできないと主張する。
 しかしながら、事業団において、人的・物的手当がされず、その作成提案等の遂行が反対され続けたことは、控訴人の陳述書(甲13)にそのような記載があるのみであって、本件全証拠をみても、そのような記載に対応する事実があったことを裏付ける客観的な証拠を見いだすことはできない。
 かえって、本件プログラム15は、控訴人が、試験衛星設計グループ配属後、当時の上司であったaから指示を受けて、その作成を始めたものであり、aは、ETS−U用に作成されたプログラムをECS用に改修することも含めて、ECSのミッション解析プログラムの体系化を目指しており、その一環として控訴人に上記指示をしたものである。本来、ETS−U及びECSは、開発に必要なプログラム等を共用することが予定されており、ミッション解析プログラム群を整備して体系化し、これをECS用にも用いるようにすべきことは、事業団において認可された業務であって、控訴人は、aの後任として、これらの業務の中心的な存在であったのであるから、その中で完成された本件プログラム15及び本件プログラム15のサブルーチンの一部も用いている本件プログラム19の作成は、当時、控訴人の職務であったものと認められる。
 したがって、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであり、失当である。
(ウ) 控訴人は、本件プログラム15は、控訴人が、大学院時代に購入した多数の文献に基づいて、新たに創造した、一般的で複雑な軌道伝播プログラムであり、本件プログラム19も同様であって、いずれも、控訴人が「個人の自由な研究活動」の継続から独力で作成したものである旨主張する。
 しかし、控訴人は、大学院において宇宙工学を学んだからこそ事業団に技術者として採用され開発部員として勤務しているのであり、配属された試験衛星設計グループで、ECS用に軌道伝播に関するプログラムの作成を指示されているのであるから、控訴人が大学院時代に購入した多数の文献に基づいてプログラムを作成することは、控訴人の職務にほかならない。
(エ) 控訴人は、事業団の昭和52年度の予算要求書(乙100)と認可書(乙88)に「ECSミッション解析」の項目がないから、控訴人の職務ではなかった旨主張する。
 しかし、前記のとおり、衛星プロジェクトにおいて数値解析は、不可欠であり、その解析の一つであり、衛星設計を進める上で、軌道、姿勢等に関連して必要となる一連の解析である「ミッション解析」が不可欠なことも明らかである。そして、事業団では、昭和52年6月20日付けで「静止衛星ミッション解析用プログラムの開発状況および作業範囲/分担」が提案され、同年10月12日に認可されているから、「ミッション解析」が当時の控訴人の職務に含まれていたことは、明らかである。
 控訴人が主張する、事業団の昭和52年度の予算要求書(乙100)と認可書(乙88)に「ECSミッション解析」の項目がなかったことの理由については、証拠上、必ずしも明らかではないが、そのことから、直ちに、控訴人の職務ではないことに結びつくわけではない。
 したがって、控訴人の主張は、失当というほかない。
カ 以上によると、本件プログラム15及び19は、職務著作として、事業団がその著作者となるものというべきである。
(3) 本件プログラム4(SPD)について
 前記1( )によれば、上記各4 プログラム作成は、事業団が、ECSの電波途絶のトラブルを受け、その原因究明及び特定のため、アポジモータ燃焼時の衛星挙動を解析するための作業の一環として、事業団において認可され、控訴人及びcとが担当した業務であり、また、前記3(3)によれば、被控訴人CRCのd、e及びfが、控訴人らの業務を補助し、控訴人らの指示監督の下で、控訴人らと共同でプログラミング作業を行い、完成させたのであるから、控訴人が、事業団から作成を命じられたプログラム、あるいは、控訴人らが事業団の承諾を得て作成したものであるというべく、本件プログラム4の作成について、事業団の発意を認めるのが相当である。
 また、本件プログラム4は、上記の経過で作成されたものであるから、控訴人の「職務上作成する著作物」であることが明らかである。
 そして、本件プログラム4は、上記のとおりのプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
 以上によると、本件プログラム4は、職務著作として、事業団がその著作者となるものというべきである。
(4) 本件プログラム5(DOPPLER〔B063〕)について
 前記1(5)によれば、本件プログラム5については、実験用静止通信衛星ECS−bが打ち上げられたが、アポジモータ燃焼中に電波途絶という結果となり、事業団において、その原因解明と検証の作業が行われ、控訴人は、ドップラーデータからの、決定論的なアポジモータ燃焼中の衛星状態量推定を試みることとし、事業団において認可され、また、前記3(4)によれば、被控訴人CRCのeらは、控訴人らの指示監督の下で、控訴人らと共同でプログラミング作業を行い、控訴人らの責任で本件プログラム5を完成させたものであるから、控訴人が、事業団から作成を命じられたプログラム、あるいは、控訴人らが事業団の承諾を得て作成したものであるというべく、本件プログラム5の作成について、事業団の発意を認めるのが相当である。
 また、本件プログラム5は、上記の経過で作成されたものであるから、控訴人の「職務上作成する著作物」であることが明らかである。
 そして、本件プログラム5は、前記1(5)のとおりのプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
 以上によると、本件プログラム5は、職務著作として、事業団がその著作者となるものというべきである。
(5) 本件プログラム12(KALMAN〔オリジナル、6次元〕)について
ア 前記1(6)によれば、(ア) 控訴人は、昭和55年8月14日から昭和57年2月17日までの間、昭和55年度海外委託研修生として、かつ、フランス政府給費留学生として、フランスのCNESのツールーズ宇宙センターに留学したこと、(イ) 事業団の海外委託研修計画に基づく留学生の派遣期間は12か月以内が原則であったところ、フランス政府給費留学生としては1年間の給費留学期間の延長が認められることになったので、事業団では、控訴人からの留学期間延長の願い出により、休職の措置とすることで1年間の延長が認められ、昭和56年8月18日以降は、給与は通常の金額の100分の70に減額されるが、健康保険法、雇用保険法及び厚生年金保険法上の取扱いも変更されなかったこと、(ウ) 控訴人は、上記留学中の昭和56年4月1日付けで、開発部員から副主任開発部員に昇格したこと、(エ) 控訴人は、事業団に対して、CNESにおける研修の内容(技術研修〔Stage〕)として、「(A) 軌道上での人工衛星の力学に関する研究;下記の3つのテーマからなる。@ 地球周回或いは、月周回軌道に対する、ランデブ・ドッキングの問題について、時間、燃料等の制約条件下での、最大最小法及びエンケの摂動法を用いて、解析を行う。
A アリアンロケット或いはスペースシャトルで規定される重量の深宇宙-探査機のミッション解析の問題について、パッチド・コニック法及びフライバイ法等の手法を用いて、解析を行う。B 固体或いは、液体のアポジモータ燃焼中に於る、静止衛星のダイナミックスの問題について、ジェットダンピング、液体のスロッシングの効果を考慮して、解析を行う。(B)CNESで計画中のプロジェクトに関する調査研究;@ アリアンロケットで打上げられる人工衛星の解析運用ソフトウェアのシステムに関する調査研究。A スペースラブ、宇宙ステーションに関する将来プロジェクトの調査研究。」を掲げ、「研修の効果」として、「人工衛星の設計/運用に係る『ミッション解析』は、NASDA、ひいては、我が国の宇宙開発に於て、立ち遅れている分野の一つである。それ故、今後の人工衛星、宇宙船及び大規模宇宙構造物等に対する『ミッション解析』を行う上で、更に、現在計画中である『人工衛星ソフトウェア体系化計画』の長期/短期構想の立案の上で、研修成果を反映させたいと考える。」と記載していたところ、当時、用いられていたバッチ・イタレーション法に代わる人工衛星の軌道推定方式として、より精密に人工衛星の軌道を推定し得るカルマン・フィルタの研究を進め、その理論を適用する対象としてCNESのSOLARIS衛星を選び、昭和56年10月、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」を作成したこと、(オ) 控訴人は、帰国後に、事業団の幹部会における報告の中で、「1研修課題」を「軌道力学を主体としたミッション解析法の習得」にあったとし、「課題1」として「CNESのランデブ計画に対する1つの予備的ミッション解析」を挙げ、「マヌーバ計画作成の為のシミュレーション」の項において、「Strategyに従って決まるランデブ迄のマヌーバシーケンスに基づいて、Ariane投入軌道誤差の全体推移のシミュレーションを実施した。これにより、マヌーバ点での軌道誤差増大傾向並びに誤差伝播傾向、及び、地上局/静止衛星局(TDRS)からの可視に従ってのKalmanフィルタによる軌道/誤差推定、誤差共分散の収束傾向が把握された。」、「以上から、Solarisプロジェクトのシステムサーチに対する1つのデータ提供と共に、現在、CNESでは、最小二乗法による軌道決定が現用で、SPOTミッションに際して、更に精度の高い決定法の検討を行って居るが、これに対する1つの新しい方法の提供/確立が成されたと考える。」、「尚、本解析プログラムは、約16000ステップが新規開発された。」と述べ、カルマンフィルタを利用したCNESの衛星のランデブー解析プログラムを作成し、その有用性を確認した旨の、カルマンフィルタによる解析プログラムについて海外研修の成果として報告したこと、(カ) その後、これを更に発展させてカルマンフィルタを用いた本件プログラム13を昭和58年1月に作成したことが認められる。
 そして、前記1(6)エのとおり、当時、用いられていたバッチ・イタレーション法に代わる人工衛星の軌道推定方式として、定係数線形フィルタを用いる方法とカルマンフィルタ(非線形フィルタ)を用いる方法が考えられており、両者を比較した場合、カルマンフィルタは、高精度な値を求めることができる反面、計算ステップ及び記憶容量が大きくなるという欠点があるのに対し、定係数線形フィルタは、カルマンフィルタほど精度は高くないが、飛行軌道を簡単な計算で瞬時に求めることが可能であり、実務的にみて、軌道推定プログラムとして、カルマンフィルタを用いるより定係数線形フィルタを用いるべきであるとする意見が優勢であったとしても、それは事業団内部の技術論争であって、カルマンフィルタについての研究自体は、事業団において、定係数線形フィルタとともに怠ることのできないものであり、カルマンフィルタの研究は、事業団において不可欠の業務であったものと認められる。
イ 「法人等の発意」及び「職務上作成する著作物」の要件については、控訴人の職務の遂行上、本件プログラム12の作成が予定又は予期されていたかどうかが問題となる。
 まず、控訴人の研修期間中の職務についてみると、控訴人は、事業団の海外委託研修生であり、留学前、あらかじめ、CNESにおける研修の内容、研修の効果を記載した「海外研修計画」を提出していたのであるから、控訴人の研修中の職務は、上記「海外研修計画」に沿った研修であるところ、研修の内容として、「CNESで計画中のプロジェクトに関する調査研究」の一つとして「アリアンロケットで打上げられる人工衛星の解析運用ソフトウェアのシステムに関する調査研究」があり、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」とともに作成された「CNES計画のSOLARISプロジェクトのためのアプローチフェーズ・ランデブーの予備的ミッション解析」と題する論文(甲5)においては、控訴人の留学前の身分である「日本宇宙開発事業団衛星設計第1グループ技師」との肩書を付しており、さらに、カルマンフィルタによる解析プログラムについて海外研修の成果として報告していたのである。そうすると、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」にサブルーチンとして包含される本件プログラム12の作成は、上記「海外研修計画」の記載から、事業団において、控訴人の研修の成果として予定又は予期し得るものであったというべきである。
 したがって、本件プログラム12は、控訴人の研修期間中の職務の遂行上、その作成が予定又は予期されていたということができるから、「法人等の発意」があり、控訴人による「職務上作成する著作物」に当たるというべきである。
 なお、同プログラムは、前記1(6)キのとおり、事業団及び被控訴人機構が、控訴人による本訴提起後に、初めて、その存在を知ったものではあるが、一般に、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」の要件を満たすことは、前記(1)のとおりであるから、上記の点は、「法人等の発意」を認めることの妨げとなるものではない。
ウ 控訴人は、CNESへの留学が個人留学であり、事業団を休職中に、個人の自由な研究活動の継続として、独自に、本件プログラム12を作成したものであり、事業団はプログラム作成費用を負担しておらず、留学の目的は、「国外の文化を学び国際人として広く知見を深める」ことなどであって、業務と切り離されていた旨主張する。
 しかし、上記認定のとおり、控訴人のCNESへの留学が個人留学でないことは明らかである。事業団は、留学中に控訴人を昇格させ、また、控訴人の留学期間延長の希望に配慮して、一応、休職という形を取りつつ、昭和56年8月18日以降でも、通常の金額の100分の70の給与を支給し、健康保険法、雇用保険法及び厚生年金保険法上の取扱いも変更しなかったのであって、事業団による給与が、プログラム作成も含めたフランスでの控訴人の公私の生活の大半を支えたことは明らかである。控訴人の研修中の職務は、自らが「海外研修計画」に記載したとおりであって、単に「国外の文化を学び国際人として広く知見を深める」ことであるということはできない。
 控訴人の上記主張は、いずれも、失当である。
エ 控訴人は、事業団は、本件プログラム12の作成費用及びCNESの大型コンピュータ使用料を負担しておらず、所定の休職時の社会保険が支給されたが、これは、プログラム作成費用ではない旨主張する。
 しかし、上記のとおり、事業団による給与がプログラム作成も含めたフランスでの控訴人の公私の生活の大半を支えていたのであるから、事業団が、間接的に、本件プログラム12の作成に係る費用を負担していることは、明らかである。
 仮に、控訴人が、自ら本件プログラム12についてのCNESの大型コンピュータ使用料等を負担したとしても、控訴人の職務として本件プログラム12を作成したとの認定を左右するものでもない。
オ 控訴人は、事業団は、控訴人がフランス留学中に作成したプログラムについて、著作権を始めとする、著作者としてのすべての権利が控訴人に帰属することを認めていた旨主張する。
 そこで、控訴人が帰国した後の事業団の対応について検討すると、証拠(甲71ないし74)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 控訴人は、昭和60年10月25日、「人工衛星開発本部技術試験衛星G総括開発部員」との発信者名で、調査国際部長(技術情報課)あてに、「標記の件に関して、別添の通り、NASDA職員が、インハウス/個人独自に開発した計算機ソフトウェアの所有権を主張して居りますが、本件に関して、NASDAとしては、個人への所有権認可或いは分割等が可能であるか御検討下さい。」などといった内容が記載され、同年11月6日付けで控訴人作成名義の「計算機ソフトウェアの所有権の申請」(案)と題する文書の添付された「計算機ソフトウェアの所有権について」と題する業務連絡(甲71)を提出した。上記「計算機ソフトウェアの所有権の申請」(案)と題する文書には、対象プログラムを3個掲げ、そのうちの一つ「ABM燃焼中の衛星状態量の確率論的推定プログラム(呼称KALMAN−1、2、3、等、約五千Steps」)」は、申請者(控訴人)がCNES留学中に開発したプログラムであることを理由としていた。
(イ) 筑波宇宙センター所長は、昭和61年2月3日付けで、総務部企画調整課、人事課、調査国際部、人工衛星開発本部の各長あてに、「コンピュータ・プログラムの著作物化に対する対応策(その2)」と題する業務連絡(甲72)を発信し、そこには、プログラムの著作物化に関する問題点として、「留学中に作成したプログラムの著作権は、職務著作の要件を欠いており、個人に帰属すると解釈される。従って規程等の見直しが必要である。」と記載されており、この業務連絡には、文化庁、日本著作権協議会、弁護士に相談した結果をまとめた「職務上作成するプログラムの権利帰属」に関する一応の調査結果が添付されていた。
(ウ) 控訴人は、昭和61年3月11日付けで、「人工衛星開発本部技術試験衛星G総括開発部員」との発信者名で、調査国際部長あてに、上記(ア)に対する回答を催促する内容の「『計算機ソフトウェアの所有権』の回答について」と題する業務連絡(甲73)を発信した。
(エ) 調査国際部長は、昭和61年3月27日付けで、上記(ウ)の「人工衛星開発本部ETSG総括開発部員」あてに、「計算機ソフトウェアの所有権について(回答)」と題する業務連絡(甲74)を発信したが、それには、プログラム著作権の帰属に関して、「留学中開発プログラム(1件)・・・個人に帰属」とされ、加えて、「職務/職務外にかかわらず宇宙開発事業に資する職員のソフトウェア著作権は、全面的に事業団が承継するため、規程/手続きの整備作業中である。」と記載していた。
 ところで、事業団における「業務連絡」については、事業団の内部規程である「業務連絡文書の取扱いについて」(乙68)において、「社内の各組織相互間の意思そ通の円滑化を図る手段として、また事務処理上の補助手段として、軽易な内容の指示、依頼、照会、回答、通知等を行う場合に用いるものとする。」、「なお、この業務連絡は、その内容が事業団の意思決定そのものに関するもの、例規的なもの又は基準的なもの等には用いないものとする。」とされ、事業団内部の軽易な内容についての連絡文書であり、事業団の意思を表示するものでないことが明らかにされている。
 したがって、筑波宇宙センター所長の業務連絡又は調査国際部長の業務連絡をもって、事業団において、控訴人がフランス留学中に作成したプログラムについて、著作権を始めとする、著作者としてのすべての権利が控訴人に帰属することを認めていたとすることはできない。
カ 進んで、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」との要件について検討する。
(ア) 前記1( )オのとおり、6 控訴人は、昭和56年10月、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」を作成し、また、昭和57年1月に、「CNES計画のSOLARISプロジェクトのためのアプローチフェーズ・ランデブーの予備的ミッション解析」と題し、自己の氏名に留学前の身分である「日本宇宙開発事業団衛星設計第1グループ技師」との肩書を付した控訴人名義による英文の論文(甲5)を完成させ、上記論文については、CNESのツールーズ宇宙センターにおいて、CNES技術者たちを対象にして発表したことが認められる。
(イ) 控訴人は、本件プログラム12及び論文を作成し、CNESにおいて公表した旨主張するのに対し、被控訴人は、上記論文は、いずれも、ミッション解析に関する計算式・理論式の研究の発表に関するものであって、本件プログラム12のソースコードやオブジェクトコードを公表したものではないから、これらの論文発表を同プログラムの著作物の公表ということはできない旨主張する。
 法は、「著作物の公表」の意義について、「発行され、又は第22条から第25条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合・・・において、公表されたものとする。」(4条1項)と規定し、「公衆」の意義について、「この法律にいう『公衆』には、特定かつ多数の者を含むものとする。」(2条5項)と規定しているから、本件プログラム12を公表したといい得るためには、本件プログラム12自体を、不特定多数又は特定かつ多数の者に対して、口述、展示等の方法により提示されることを要するものと解すべきである。
 本件についてみると、控訴人は、陳述書(甲156)において、「本論文は、私が個人留学時に作成したKALMAN(6次元、オリジナル)(注、本件プログラム12)・・・を用いた解析結果をまとめた論文です。私は、同論文及び同プログラムを、留学先のフランスCNESツールーズ宇宙センターで、CNES技術者たちに公表しています。当時、NASDAは、私の個人研究には関知せず、非職務でした。本訴後の、被告も、同プログラム存在や論文や公表などについては知らないと弁明しています。つまり、本発表は、私の個人研究の公表であり、私がKALMAN(6次元、オリジナル)の唯一の著作権者であることは明白です。」と述べているところ、証拠(甲5)によると、上記論文には、ランデブー解析プログラム「TAKAKO」の理論及び使用の手引が記載されているが、同プログラムのソースコードやオブジェクトコードについては、記載されていないことが認められる。
 その他、本件全証拠を検討しても、控訴人が、本件プログラム12自体を、自己の名義で、不特定多数又は特定かつ多数の者に対して、口述、展示等の方法により提示したことを認めるに足りない。
 そうすると、本件プログラム12は、いまだ、控訴人の名義で公表されているとはいい難い。
(ウ) そして、控訴人が帰国後に、カルマンフィルタを利用したCNESの衛星のランデブー解析プログラムを作成し、その有用性を確認した旨の、カルマンフィルタによる解析プログラムについて海外研修の成果として報告したことなどの諸事情にかんがみると、本件プログラム12は、公表されるとすれば、事業団の名義の下に公表されるべきものであったということができ、法旧15条の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であるとの要件を満たすものである。
キ 以上によれば、本件プログラム12の作成は、事業団の職務著作であるというべきである。
(6) 本件プログラム13(KALMAN〔オリジナル、9次元〕)について
ア 前記1(7)認定の事実によれば、控訴人は、昭和57年7月20日、昭和57年度の業務計画明細書(甲48)とともに、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案したが認可されず、再度、同様の提案をするに当たって、事業団の認可がないままに、本件プログラム13を作成したものである。
イ ところで、前記1(6)エのとおり、当時、用いられていたバッチ・イタレーション法に代わる人工衛星の軌道推定方式として、定係数線形フィルタを用いる方法とカルマンフィルタ(非線形フィルタ)を用いる方法が考えられており、両者を比較した場合、カルマンフィルタは、高精度な値を求めることができる反面、計算ステップ及び記憶容量が大きくなるという欠点があるのに対し、定係数線形フィルタは、カルマンフィルタほど精度は高くないが、飛行軌道を簡単な計算で瞬時に求めることが可能であり、実務的にみて、軌道推定プログラムとして、カルマンフィルタを用いるより定係数線形フィルタを用いるべきであるとする意見が優勢であったことが認められる。しかし、それは、事業団内部の業務運営上の技術論争であって、カルマンフィルタについての研究自体は、事業団において、定係数線形フィルタとともに怠ることのできないものであり、しかも、理論的に、軌道推定プログラムとして、カルマンフィルタが有効であることには変わりがなく、事業団の認可の有無にかかわらず、控訴人によるドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施の提案は、事業団にとって意味があったものということができる。現に、前記1(11)のとおり、事業団は、控訴人の提言を受けて、本件プログラム13を改修する必要があると判断し、本件プログラム3(KALMAN−1〔9次元〕)の開発を進めているのである。また、前記1(7)ウのとおり、本件プログラム13について、筑波宇宙センターの追跡管制開発室から、本件プログラム13は、パラメータ、バイアス誤差に問題があり、このままでは、アポジモータ燃焼中のリアルタイム的な推定には使えない旨の意見が出され、変更を求められているが、前記1( 6)エにかんがみると、飽くまでも業務運営上の技術論争と推測されるところである。
 そして、控訴人は、上記のとおり、自己の職務として、昭和57年度の業務計画明細書とともに、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案しており、更に検討を重ねていたのである。
 したがって、控訴人による本件プログラム13の作成を、事業団が認可していなかったとしても、控訴人の職務の遂行上、その作成が予定又は予期されるものであったと認めるのが相当であり、「法人等の発意」の要件を満たすものというべきである。
ウ 控訴人は、本件プログラム13の作成やそれに基づいた開発方針の提案はことごとく反対され、本件プログラム13の作成はすべて控訴人が独力で行ったものであって、事業団は、その作成費用を支出してもいないから、職務上の作成とはいえない旨主張する。
 しかし、事業団において実用衛星及び地球観測衛星を除く人工衛星の開発は、多角的に進められ、その中から事業団内部での取捨選択により認可するもの認可しないものがあったとしても、そのすべてが事業団の業務であって、事業団において認可されなかったからといって、事業団の業務から切り離されて、控訴人の職務との関連性が否定され、私的なものとなるわけではない。しかも、上記のとおり、事業団内部で、カルマンフィルタを用いるより定係数線形フィルタを用いるべきとするのが優勢であったため、事業団が、その政策的な判断により、カルマンフィルタに係る控訴人の提案を採用しなかったからといって、カルマンフィルタの研究やプログラムの作成が否定されているものでないことは、上述したとおりである。
 また、本件プログラム13は、上記の経過で作成されたものであるから、控訴人の「職務上作成する著作物」であることが認められる。
 そして、本件プログラム13は、前記1(7)のとおりのプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
エ 以上によると、本件プログラム13は、職務著作として、事業団がその著作者となるものと認められる。
(7) 本件プログラム1(DYNA)及び2(STAT)について
 前記1(8)、(9)認定の事実によれば、控訴人は、昭和58年4月から、衛星設計第1グループにおいて、ETS−Vの開発に携わっており、ETSVの静的スピン安定性のみならず、動的スピン安定性についても解析作業を行う必要があると考えたが、MELCO及び事業団において消極的であったことから、自ら、スロッシングの問題を解析するプログラム作成のための方程式導入、定式化、アルゴリズム作成に着手し、事業団の認可を得て、被控訴人CRCを指示監督して、本件プログラム1及び2を作成したものである。
 そうすると、事業団において、控訴人が職務上、本件プログラム1及び2を作成することは、当然に予定又は予期されていたものであり、事業団の発意を認めるのが相当である。
 次に、本件プログラム1及び2は、上記のとおりの経過を経てプログラミング作業の成果として作成されたものであるから、控訴人の職務上作成されたものであると認められる。
 そして、本件プログラム1及び2は、前記1(9)のとおりのプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
 以上によると、本件プログラム1及び2は、職務著作として、事業団がその著作者となるものと認められる。
(8) 本件プログラム6(DYNA−A)について
 前記1(10)認定の事実によれば、本件プログラム6は、本件プログラム1に機能を追加するというものであり、事業団の認可を得て、被控訴人CRCを指示監督して、本件プログラム6を作成したものである。
 そうすると、事業団において、控訴人が職務上、本件プログラム6を作成することは、当然に予定又は予期されていたものであり、事業団の発意を認めるのが相当である。
 次に、本件プログラム6は、上記のとおりの経過を経てプログラミング作業の成果として作成されたものであるから、控訴人の職務上作成されたものであると認められる。
 そして、本件プログラム6は、前記1(10)のとおりのプログラムであり、現実に公表はされていないが、公表されるとすれば、当然、事業団の名義により公表されるべきものであると認められる。
 以上によると、本件プログラム6は、職務著作として、事業団がその著作者となるものと認められる。
(9) 本件プログラム3(KALMAN−1〔9次元〕)について
ア 前記1(11)認定の事実によれば、控訴人は、KALMANプログラムを6次元から9次元に改修する必要があると考え、事業団の認可を得て、被控訴人CRCを指示監督して、本件プログラム3を作成したものである。
 そうすると、事業団において、控訴人が職務上、本件プログラム3を作成することは、当然に予定又は予期されていたものであり、事業団の発意を認めるのが相当である。
 次に、本件プログラム3は、上記のとおりの経過を経てプログラミング作業の成果として作成されたものであるから、控訴人の職務上作成されたものであると認められる。
 なお、本件プログラム3については、前記(1)のとおり、現行15条2項が適用されるから、旧15条の「法人等が自己の著作の名義の下に公表する」との要件は不要である。
 以上によると、本件プログラム3は、職務著作として、事業団がその著作者となるものと認められる。
5 当審における控訴人の本件各プログラム全体にわたる主張について
(1) 控訴人は、同人が、大学院時代に、本件各プログラムに係るスピンダイナミックス、状態量推定、静的安定性、軌道力学などといった各技術分野について勉学してきたため、本件各プログラム作成することができたのであるから、控訴人の「個人の自由な研究活動」の成果であり、たまたま事業団職員となったからといって、その成果が侵害されてよいものではない旨主張する。
 しかし、控訴人は、昭和49年4月1日、事業団に雇用されて以来、事業団に対して労働に従事する義務を負うとともに、その報酬を受けていたものである。したがって、控訴人は、事業団に対して労働に従事するに当たり、事業団の命ずる職務に従事しなければならないのであって、職務中に「個人の自由な研究活動」をし得る立場にはない。
 また、控訴人は、原判決は、本件各プログラムが控訴人の「個人の自由な研究活動」の成果であるなどといった事実及び本件各プログラム作成の原点すなわち「発意」が既に大学院時代に研究者としての控訴人に存在していたことを全く無視していると主張する。
 しかし、本件各プログラムが控訴人の「個人の自由な研究活動」の成果といえないことは、上記のとおりである。しかも、本件で問題となるのは、本件各プログラムが職務著作に当たるかどうかであり、法旧15条にいう「法人等の発意」とは、前記4(1)のとおり、法人等が著作物の作成を企画、構想し、業務に従事する者に具体的に作成を命じる場合、あるいは、業務に従事する者が法人等の承諾を得て著作物を作成する場合、さらには、法人と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合に、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期されるときを意味する概念であって、本件各プログラムの作成者本人の動機等を問題にするものではない。
 さらに、控訴人は、控訴人がたまたま事業団に採用されたからといって、被控訴人に「個人の全人生や自由な研究活動」を売り渡した覚えはないとも主張する。
 しかし、本件全証拠を検討しても、控訴人と事業団との間には雇用契約があるのみであり、控訴人が、給与を得ながら職務中に「個人の自由な研究活動」をし、その成果を控訴人に帰し得る旨の特別の合意の存在を認めることはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 控訴人は、控訴人開発のプログラムを、上司がメーカーに無償で横流しし、控訴人に内緒で、控訴人の解析結果や提案やプログラムなどを無断流用し、さらに、事業団が、控訴人との協議を持つこともなく一方的に消去した旨主張する。
 しかし、前示のとおり、本件プログラム11を除く本件各プログラムは、いずれも、職務著作に当たるものであって、作成した時点で著作権及び著作者人格権が事業団に帰属するから、事業団は、これらのプログラムにつき、随意に、著作者としての権利を行使することができるのである。
 したがって、事業団の横流し、無断流用、無断消去をいう控訴人の主張は、控訴人に上記プログラムの著作権及び著作者人格権があるという誤った前提に立つものであって、そもそも、失当である。
 なお、本件プログラム11が著作物といえないことは、前記2(2)のとおりであり、控訴人のいう、横流し、無断流用、無断消去は、そもそも問題となり得ない。
(3) 控訴人は、本件プログラム関連の「チェック&レビュー」のための、ECSミッション解析計画、ECS、ECS−b失敗の原因究明解析、人工衛星解析ソフトウエア整備解析計画等を、ことごとく反対され、事業団の業務でないとして握りつぶされた旨主張する。
 しかしながら、例えば、前記1(5)のとおり、ECS−b失敗の原因究明解析では、aは、温度解析による不具合原因の解明に当たり、一方、控訴人は、ドップラーデータからの、決定論的なアポジモータ燃焼中の衛星状態量推定を試みることとし、本件プログラム5を作成したところ、不具合対策委員会では、決定的な原因解明は、aの検討していた温度解析によるものとし、控訴人のドップラー解析は、補完的なものと位置付けたが、事業団は、本件プログラム5の作成に反対しておらず、むしろ、その作成を認可し、被控訴人CRCと契約を締結して、控訴人の職務を支援させているのである。
 また、前記1(8)、(9)のとおり、ETS−Vの開発に関し、MELCOが控訴人の問題点指摘に十分に応じなかったため、MELCOとの間で技術論争となったことがあるが、選択肢のある論争において、選択されなかったからといって、控訴人の業績のすべてを否定しているものでないことは、明らかである。
 さらに、前記1(7)のとおり、控訴人の作成した「Kalman Filter カルマンフィルタによるABM燃焼中の衛星動特性推定及び投入ドリフト軌道推定解析」に基づく、カルマンフィルタを用いた解析実施の提案に対し、筑波宇宙センターの追跡管制開発室から、控訴人の理論に対する異論が提示され、変更を求められたからといって、控訴人の業績を否定するものではなく、これを握りつぶすものでもないことは、明らかである。
 その他、本件全証拠を検討しても、事業団が、控訴人の業績を、事業団の業務ではないとして握りつぶしたと認め得る客観的な証拠は見当たらない。
 上記のとおり、控訴人の提案あるいは意見が通らなかったことが複数回存在したが、それは、事業団の目標達成のためにどの提案あるいは意見を採用するかは、事業団の業務運営上の判断であるばかりでなく、少なからず、控訴人の提案あるいは意見を事業団が認可したこともあるのであり、たとえ、控訴人の提案あるいは意見が採用されない場合があったとしても、控訴人のした研究、開発が無意味なものとなるわけではなく、少なくとも、事業団の目標達成のために、複数の提案あるいは意見が出されることは、比較の上からも、議論を深める上でも重要なことといわなければならない。また、控訴人が事業団の横流し、無断流用、無断消去と主張することからすれば、本件各プログラムは、事業団において生かされていることになり、控訴人のした研究、開発が無意味なものではなかったことを自ら裏付けているものである。
(4) 控訴人は、事業団は、研究機関ではなく、予算とスケジュールのみを管理し、技術は受託業者任せであり、このような事業団の業務実態の下で、職員の「個人の自由な研究活動」を、業務と切り離し、緩やかに容認しており、特に、職員による解析などは、非職務、個人研究として黙認していたとし、これを前提に、個人的プログラムは、個人的なもので、事業団の業務から切り離され、業務管理の対象外とされていたから、本件各プログラムの著作権及び著作者人格権は、作成者である控訴人個人に帰属する旨主張する。
 しかし、前記1(1)ないし(11)に認定した事情によれば、事業団が、控訴人の主張するようなものでなかったことは明らかであり、本件各プログラムの著作権及び著作者人格権の帰属を争う控訴人の上記主張は、その前提を欠くものである。
(5) 控訴人は、事業団内部において、技術管理体制を整備すべき旨提案し、控訴人が開発したプログラムについては、控訴人が管理保存し、他の職員が控訴人に使用許可を申請すべきことなどを取り決めた上、この取決めに従って、控訴人開発のプログラムの使用申請に対し、控訴人が著作権者であることを明記して、使用を許可していたとし、本件各プログラムの著作権及び著作者人格権が控訴人に帰属することを事業団が認めていた旨主張する。
 しかし、証拠(甲80ないし86)によれば、控訴人のいう使用許可というのは、人工衛星開発本部、ロケット開発本部(H−Uロケットグループ)、N−U、H−Tロケットグループ、システム技術開発部、技術試験衛星グループ等の事業団の組織間で作成され交換された「業務連絡」であり、控訴人は、人工衛星開発本部の担当者としてプログラムの貸出事務を行っているにすぎないものと認められ、また、事業団における「業務連絡」については、内部規程において、「なお、この業務連絡は、その内容が事業団の意思決定そのものに関するもの、例規的なもの又は基準的なもの等には用いないものとする」とされ、事業団内部の軽易な内容についての連絡文書であり、事業団の意思を表示するものでないことは、前記4(5)オ(エ)のとおりであるから、控訴人の上記主張は失当である。
(6) 以上によれば、控訴人の本訴請求中、控訴人と被控訴人らとの間において、本件各プログラムについて控訴人が著作権及び著作者人格権を有することの確認を求める請求(主位的請求)は、いずれも理由がない。
6 本件プログラム2は本件プログラム11を、本件プログラム3は本件プログラム13を、本件プログラム5は本件プログラム19を、それぞれ翻案したものか(争点4)について
(1) 控訴人は、本件プログラム2は、本件プログラム11の本質的機能の部分の表現を用いながら、付加的機能の追加を行ったものであり、本件プログラム11を翻案することにより創作した二次的著作物であると主張する。
 しかし、前記2(5)のとおり、本件プログラム11は、著作物性がないから、これが著作物であることを前提にした控訴人の上記主張は、失当である。
(2) 控訴人は、本件プログラム3の記載より本件プログラム13の創作的な特徴部分の記載を直接感得できるので、本件プログラム13を翻案することにより創作した二次的著作物であると主張する。
 しかし、前記4(6)のとおり、本件プログラム13は、事業団の職務著作であって、控訴人に著作権及び著作者人格権がないから、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
(3) 控訴人は、本件プログラム5は、本件プログラム19を原著作物とする二次的著作物であると主張する。
 しかし、前記4(2)のとおり、本件プログラム19は、事業団の職務著作であって、控訴人に著作権及び著作者人格権がないから、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
(4) 以上によれば、控訴人の本訴請求中、控訴人と被控訴人らとの間において、本件プログラム2、3及び5について、控訴人が、各プログラムを二次的著作物とし、それぞれ本件プログラム11、13及び19を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める請求(予備的請求)は、いずれも理由がない。
7 以上のとおり、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
 よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 宍戸充
 裁判官 柴田義明


(別紙1)「著作物目録」
番号 プログラム名称 収録資料の名称等
DYNA 資料名称:宇宙開発事業団単価契約報告書
       技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)支援
登録番号:LRC8400301,LRC8400311
登録時期:昭和59年5月14日
STAT 資料名称:宇宙開発事業団単価契約報告書
       技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その1)支援
登録番号:LRC8400301,LRC8400311
登録時期:昭和59年5月14日
KALMAN−1(9次元) 資料名称:技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その3)支援
登録番号:LRC8503881,LRC8503891
       LRC8503901,LRC8503911
       LRC8503921,LRC8503931
       LRC8503941,LRC8503951
登録時期:昭和61年6月3日
SPD 資料名称:昭和54年度 SPD T プログラムリスト
登録番号:7925(CDC6600/CYBER74用)
       7926(FACOM230−75用)
登録時期:平成7年10月16日
DOPPLER 資料名称:宇宙開発事業団委託業務成果報告書
     ECS−bアンテナパターン及びドップラデータの検討
登録番号:LRC8001591,LRC8001601
       LRC8001611,LRC8001621
       LRC8001631
登録時期:昭和55年8月25日
DYNA−A(ABM燃焼フェーズの動的解析プログラム) 資料名称:技術試験衛星V型(ETS−V)ミッション解析(その2)支援
登録番号:LRC8402971,LRC8402991
登録時期:昭和60年8月12日
11 STAT(オリジナル) 別紙2に記載された14の実行ステップで構成されるプログラム
12 KALMAN(オリジナル6次元) 別紙3に記載された30個のサブルーチン・プログラムにより構成され,別紙4で示されるプログラム(ただし,サブルーチン「MINVS1」を除く。)
13 KALMAN(オリジナル9次元) 別紙5に記載された23個のサブルーチン・プログラムにより構成され,別紙6で示されるプログラム
15 軌道伝播解析プログラム(B010プログラム) 資料名称:宇宙開発事業団委託業務成果報告書
       実験用静止通信衛星(ECS)ミッション解析プログラム
登録番号:LRC800038,LRC800039
       LRC800040,LRC800041
       LRC800042,LRC800043
登録時期:昭和55年4月
19 ドップラー変化による衛星運動解析プログラム(B061プログラム) 資料名称:宇宙開発事業団委託業務成果報告書
       実験用静止通信衛星(ECS)ミッション解析プログラム
登録番号:LRC800038,LRC800039
       LRC800040,LRC800041
       LRC800042,LRC800043
登録時期:昭和55年4月
※番号7ないし10,14,16ないし18は欠番である。

(別紙2) 略
(別紙3) 略
(別紙5) 略

(別紙7) 昭和50年から平成9年ころまでの間に打ち上げられた人工衛星
衛星名 通称 打上日 主目的
技術試験衛星T型(ETS-I) 「きく」 昭和50年9月9日 打上時の環境の測定,定常時の衛星動作特性及び環境測定,姿勢の測定,距離及び距離変化率の測定,伸展アンテナの伸展実験
電離層観測衛星(ISS) 「うめ」 昭和51年2月29日 電離層臨界周波数の世界的分布観測,電波雑音源の世界的分布観測,電離層上部の空間におけるプラズマ特性・正イオン密度の測定
技術試験衛星U型(ETS-U) 「きく2号」 昭和52年2月23日 静止衛星の打上技術,静止衛星の追跡管制技術の習得,静止衛星の姿勢制御機能の試験,デスパンアンテナの試験,ミリ波伝播実験用発振器の試験
静止気象衛星(GMS) 「ひまわり」 昭和52年7月14日 地球画像,海面及び雲頂面温度等の観測
実験用中容量静止通信衛星(CS) 「さくら」 昭和52年12月15日 衛星通信システムとしての伝送実験・運用技術の確立,通信衛星管制技術の確立
電離層観測衛星(ISS-b) 「うめ2号」 昭和53年2月16日 2に同じ
実験用中型放送衛星(BS) 「ゆり」 昭和53年4月8日 衛星放送システムの技術的条件の確立・制御・運用技術の確立のための実験,電波の受信効果の確認実験
実験用静止通信衛星(ECS) 「あやめ」 昭和54年2月6日 静止衛星の打上技術・追跡管制技術・姿勢制御技術の確立,ミリ波等周波数帯の通信実験及び電波伝播特性の調査
実験用静止通信衛星(ECS-b) 「あやめ2号」 昭和55年2月22日 8に同じ
10 技術試験衛星W型(ETS-W) 「きく3号」 昭和56年2月11日 N-Uロケットの遷移軌道投入能力確認・打上環境条件の修得,大型衛星の製作・取扱技術の習得
11 静止気象衛星2号(GMS-2) 「ひまわり2号」 昭和56年8月11日 4に同じ
12 技術試験衛星V型(ETS-V) 「きく4号」 昭和57年9月3日 三軸姿勢制御機能確認,太陽電池バドル展開機能確認,能動式熱制御機能確認
13 静止通信衛星2号−a(CS-2a) 「さくら2号−a」 昭和58年2月4日 非常災害時における通信の確保,離島との通信回線の設定,臨時の通信回線の設定,通信衛星に関する技術の開発
14 通信衛星2号−b(CS-2b) 「さくら2号−b」 昭和58年8月6日 13に同じ
15 放送衛星2号(BS-2a) 「ゆり2号a」 昭和59年1月23日 テレビ放送難視聴解消,放送衛星に関する技術開発
16 静止気象衛星3号(GMS-3) 「ひまわり3号」 昭和59年8月3日 4に同じ
17 放送衛星2号b(BS-2b) 「ゆり2号b」 昭和61年2月12日 15に同じ
18 海洋観測衛星1号(MOS-1) 「もも1号」 昭和62年2月19日 地球観測衛星の基本技術確立,センサ開発・機能性能確認,実験的観測,太陽同期軌道投入技術の習得等
19 技術試験衛星X型(ETS-X) 「きく5号」 昭和62年8月27日 H-1ロケットの性能確認,静止三軸衛星の基盤技術確立,次期大型実用衛星に必要な自主技術蓄積
20 通信衛星3号(CS-3a)(CS-3b) 「さくら3号a,b」 昭和63年2月19日,昭和63年9月16日 13に同じ
21 静止気象衛星4号(GMS-4) 「ひまわり4号」 平成1年9月6日 4に同じ
22 海洋観測衛星1号b(MOS-1b) 「もも1号b」 平成2年2月7日 18に同じ
23 放送衛星3号(BS-3a)(BS-3b) 「ゆり3号a,b」 平成2年8月28日,平成3年8月25日 15に同じ
24 地球資源衛星1号(JERS-1) 「ふよう1号」 平成4年2月11日 合成開口レーダ・光学センサによる観測,地球試験観測機器の開発
25 技術試験衛星Y型(ETS-Y) 「きく6号」 平成6年8月28日 通信・放送分野の要求に適合する2トン級実用衛星バス技術の確立,高度な衛星通信のための技術開発
26 静止気象衛星5号(GMS-5) 「ひまわり5号」 平成7年3月18日 4に同じ
27 地球観測衛星(ADEOS) 「みどり」 平成8年8月17日 地球環境のグローバルな変化の監視,地球観測技術維持,プラットフォーム技術・データ中継技術開発
28 技術試験衛星Z型(ETS-Z) きく7号「おりひめ・ひこぼし」 平成9年11月28日 ランデブ・ドッキング技術試験,宇宙用ロボット基盤技術,データ中継衛星を経由した軌道上運用技術の習得
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/