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【事件名】テレビ番組送信サービス事件(まねきTV)F(2)
【年月日】平成18年12月22日
 知財高裁 平成18年(ラ)第10014号 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
 (原審・東京地裁平成18年(ヨ)第22026号)

決定
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 本件抗告を棄却する。
2 別紙著作物目録記載の著作物の公衆送信の差止めを求める抗告人の申立てを却下する。
3 抗告費用は抗告人の負担とする。

事実及び理由
第1 抗告人の求めた裁判
1 抗告人
(1) 原決定を取り消す。
(2) 被抗告人は、被抗告人が運営する放送番組送信サービス「まねきTV」において、別紙放送目録記載の放送を送信可能化してはならない(以下「本件申立て1」という。)。
(3) 被抗告人は、被抗告人が運営する放送番組送信サービス「まねきTV」において、別紙著作物目録記載の著作物を公衆送信してはならない(当審において追加された申立て。以下「本件申立て2」という。)。
(4) 申立費用及び抗告費用は、被抗告人の負担とする。
2 被抗告人
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 本件事案及び審理の経緯
 抗告人は、放送事業者であり、別紙放送目録記載の周波数で地上波テレビジョン放送(以下「本件放送」という。)を行っている。
 被抗告人は、「まねきTV」という名称で、被抗告人と契約を締結した者(以下「利用者」という。)がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供している。
 原審において、抗告人(債権者)は、被抗告人の本件サービスが本件放送について抗告人が放送事業者として有する送信可能化権(著作隣接権。著作権法99条の2)を侵害していると主張して、被抗告人(債務者)を相手方として本件放送の送信可能化行為の差止めを求める仮処分を申し立てた(本件申立て1)。しかし、原審は、この申立てを却下したため、抗告人は原決定に対する抗告を提起した。
 当審において、抗告人は、別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)について抗告人が著作権を有しており、被抗告人の本件サービスが本件著作物について被抗告人が著作権者として有する公衆送信権(著作権。著作権法23条)を侵害していると主張して、本件著作物の公衆送信行為の差止めを求める仮処分の申立て(本件申立て2)を追加(選択的併合)する旨の申立ての趣旨の変更を申し立てた。被抗告人は、当審において本件申立て2を追加することは不適法ないし時機に後れたものとして許されず、仮に許されるとしても理由がないとして、その却下を求めた。これに対して、抗告人は、本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されない場合には、本件申立て2を管轄裁判所に移送することは求めないと述べた。
2 争点
(1) 本件サービスにおいて、被抗告人が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か(本件申立て1について)。
(2) 保全の必要性
(3) 当審において本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されるか否か。
 上記の変更が許される場合には、本件サービスにおいて、被抗告人が本件著作物の公衆送信行為を行っているか否か(本件申立て2について)。
第3 争点に関する当事者の主張
 当事者の主張は、次の1及び2のとおり付加するほか、原決定の「事実及び理由」の「第2 事案の概要等」中の「1 争いのない事実等」及び「第3争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
 当裁判所も、上記の「本件放送」、「本件サービス」等の略語を、原決定の用法に従って用いる。
1 抗告人の当審における主張の要点
(1) 争点(1)について
ア ベースステーション等の「自動公衆送信装置」該当性ベースステーション又はベースステーションを含む原決定別紙1若しくは2記載の一連の機器は、「自動公衆送信装置」に該当する。
 被抗告人が本件サービスに供している多数のベースステーション、分配機、ケーブル、ハブ、ルーター等の機器は、有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり、一つのアンテナ端子からの放送波を、このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信し得る状態にしていることに照らせば、単一の情報源からの著作物等を公衆に分配する機能を有する装置として、全体としてみれば、著作権法99条の2の送信可能化権との関係においては、一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものである。
 被抗告人は、ベースステーションのポート番号の競合を避けるための設定を行っていることを認めているが、これはルーターにおいて「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っていることを認めるものである。被抗告人のシステムにおいては、インターネットへの送受信を一つのルーターにより行うために、多数のベースステーションを統合したシステム全体を一台のコンピュータとして認識できるようにする「ポートフォワーディング」が用いられている(甲第5号証41、42頁)。「ポートフォワーディング」とは、「同一コンピュータ内のアプリケーションを識別するための番号」であるポート番号(甲第13号証293頁、甲第14号証84頁)を利用し、一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術である(甲第13号証508頁、甲第14号証56頁〜59頁)。つまり、被抗告人のシステムは、多数のベースステーションをあたかも一つのコンピュータ内の複数のアプリケーションであるかのように仮想する技術によって、インターネット上一つのコンピュータと認識されるようにすることにより、そのための設定が行われた一つのルーターから一つのグローバルIPアドレスを用いた送受信が可能であるように構築されているのである。これに対し、サーバを預かるサービスであるハウジングサービスでは、各サーバ一つにつき一つ以上のグローバルIPアドレスが割り当てられるので(乙第3、第4、第13ないし20号証)、ポートフォワーディングが用いられることはない。
 事業者が事務所内に設置した一つのサーバを運用して、その不特定又は特定多数の利用者に対し、第三者が行っている放送をインターネット経由で視聴できるようにした場合には、当該サーバが自動公衆送信装置であり、放送事業者及び著作権者の許諾がない限り、送信可能化権及び公衆送信権侵害であることは明らかである。ベースステーションの所有権が各利用者にあるとしても、アンテナからベースステーションへの分配機、ベースステーションからインターネット網への接続が一体となって有機的に結合されていることに照らせば、一つのサーバを運用しているのと異なる理由は全く存しない。また、個々のベースステーションの所有権の帰属は法的評価において意味を持つものではなく、それを「装置に組み込んで有機的一体として運用している者が誰か」という点こそが重視されるべき事柄である。
イ 送信可能化行為の主体
 被抗告人が電気通信回線であるインターネット回線に接続されているベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力していることは、著作権法2条1項9号の5イの「情報を入力すること」に当たり、また、既に放送波が入力されているベースステーションを電気通信回線であるインターネット回線に接続して利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることは、同号ロに当たる。
(2) 争点(3)について
ア 申立ての趣旨の変更の適法性
 当審において本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されない旨の被抗告人の主張は、争う。
 抗告審手続においても、申立ての趣旨の変更は許されるものであり、本件における本件申立て2は、原審における申立て(本件申立て1)とその背景事実を同一とするもので、請求の基礎を同一とするから、上記申立ての趣旨の変更は適法であり、また、本件申立て2を選択的に追加することにより審理を遅延させるものでもないから、申立ての趣旨の変更は許される。
イ 本件著作物の著作権等
 抗告人は、本件著作物の著作権者であり、本件著作物について公衆送信権(著作権法23条)を有している。そして、抗告人は、放送事業者として、本件放送において本件著作物を公衆送信している。
ウ 被抗告人の行為
 被抗告人は、本件サービスにおいて、被抗告人のデータセンター(被抗告人が賃借しているアパートの一室)壁面のアンテナ端子から、分配機経由でベースステーションに放送番組を送信し続けている。原決定が認定するように、ベースステーションを実質的に占有しているのが個々の利用者であり、各利用者は自己の占有領域であるベースステーションで放送番組を受信しているとの前提に立つと、被抗告人の行為は不特定または多数の利用者の占有領域への送信行為ということになるから、公衆送信であることが明らかであり、ベースステーションでは「同一の内容の送信が同時に受信」されているので、有線放送に該当する(著作権法2条1項9号の2)。そして、かかる有線放送について抗告人が許諾をしたことはないから、この部分について抗告人の送信可能化権を侵害する行為である。
2 被抗告人の当審における主張の要点
(1) 争点(1)について
ア ベースステーション等の「自動公衆送信装置」該当性
 ベースステーション又はベースステーションを含む原決定別紙1若しくは2記載の一連の機器は、「自動公衆送信装置」に該当しない。
 ベースステーションは、それぞれが独立した商品であって、他のベースステーションがなければ独立して機能しないことはなく、1台で独自の完結した機能を発揮し得るものである。したがって、本件サービスに供している多数のベースステーション、分配機、ケーブル、ハブ、ルーター等の機器全体を不可分一体の装置と考えることはできない。
 「ポートフォワーディング」の手法を用いたからといって複数のベースステーションが一つになるわけではない。ここでいう「ポート」とは「インターネット上の通信において、複数の相手と同時に接続を行なうためにIPアドレスの下に設けられたサブ(補助)アドレス」のことをいうのであって、通常、ローカルネットワーク内に複数のコンピュータが設置されている場合にコンピュータ毎に定められるものである(同一コンピュータ内のアプリケーションごとに付されるものではない。)。通常は、通信の相手ごとにグローバルIPアドレスを割り当てることはしないのであって、一つのネットワークにグローバルIPアドレスを一つ割り当て、そのLANに接続している複数のコンピュータにはそれぞれ一つずつの補助アドレス(ポート番号)を割り当てた上で、「ポートフォワーディング」などの手法を用いて1つのインターネット回線経由でデータの送受信をするのである。また、一般に、そのようなLANシステム全体が一つの「自動公衆送信装置」であるとは解されていない。
イ 送信可能化行為の主体
 抗告人は、被抗告人がアンテナ端子からベースステーションまで分配機を介して放送波を入力し続ける行為を、利用者の占有領域(ベースステーション)への放送波の送信であると主張するが、アンテナ端子からベースステーションまで放送波を入力する行為は利用者のテレビ放送の視聴行為の一部であり、有線放送ないし公衆送信との評価を受けるべき行為ではありえない。そもそもアンテナ端子〜分配機〜ベースステーション間は、一種の「導管」にすぎないのであって、そのような導管を提供すること(その結果、その「導管」内を著作物等の情報が流れること)は、著作物等の「送信」には当たらない。
 仮に、ベースステーションが個々の利用者の所有権に属していることから、アンテナ端子から分配機を介して各ベースステーションに放送波を送信する行為が有線放送であるとしても、同一構内における送信(著作権法2条1項7号の2における括弧書き)であり、公衆送信には該当しない。
(2) 争点(3)について
ア 申立ての趣旨の変更の適法性
 当審において本件申立て2を追加する旨の、抗告人の申立ての趣旨の変更は許されない。
 抗告審における上記申立ての趣旨の変更は、被保全権利を新たに追加するものであるところ、そもそも抗告審における上記のような申立ての趣旨の変更は被抗告人の審級の利益を不当に奪うものであり、許されない。
 仮に、民事訴訟法143条が抗告審にも準用されるとしても、当審における追加申立てに係る本件申立て2は、原審における本件申立て1と請求の基礎を同一とするものではない。
 また、抗告審において申立て2を追加することは、審理を遅延させることになるから、時機に後れたものとして許されない。
イ 本件著作物の著作権等
 抗告人は、本件著作物を題名のみで特定しているが、同一の題名のテレビ放送番組であっても、毎週の放送ごとに内容が異なり、著作物としては別個のものであるから、抗告人の挙げる著作物は特定していない。また、これらの著作物が同一の著作者によるものであるとしても、著作権者が抗告人であるのか、抗告人の関連会社のいずれかであるのか、外部のプロダクションであるのか、被抗告人は知らない。
 加えて、同題名で将来放送される番組のなかに、番組として制作中であるか、あるいは将来制作されるものが含まれるとすれば、これらについては、いまだ著作権は発生していない。
ウ 被抗告人の行為
 前記(1)イにおいて述べたとおり、アンテナ端子からベースステーションまで放送波を入力する行為は利用者のテレビ放送の視聴行為の一部であり、有線放送ないし公衆送信との評価を受けるべき行為ではあり得ないから、本件サービスにおいて、被抗告人のデータセンター壁面のアンテナ端子から、分配機経由でベースステーションに接続しても、放送番組の送信には該当しない。抗告人の主張には理由がない。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所は、抗告人の本件申立て1は抗告人の主張する被抗告人による権利侵害行為が認められないから理由がなく、また、当審において本件申立て2を追加する旨の抗告人の申立ての趣旨の変更は許されないと判断する。
 その理由は、次のとおり付加するほか、原決定の「第4 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 争点(1)について
(1) ベースステーション等の「自動公衆送信装置」該当性について
ア 抗告人は、被抗告人が本件サービスに供している多数のベースステーション、分配機、ケーブル、ハブ、ルーター等の機器は、有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり、一つのアンテナ端子からの放送波を、このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信しうる状態にしているから、全体としてみれば、一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものであると主張する。
 しかし、ベースステーションによって行われている送信は、個別の利用者の求めに応じて、当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり、送信の実質がこのようなものである以上、本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても、「自動公衆送信装置」該当性の判断を左右するものではない。
イ 抗告人は、被抗告人がベースステーションのポート番号の競合を避けるための設定を行っていることを認めており、ルーターにおいて「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っているから、多数のベースステーションを統合したシステム全体を一台のコンピュータとして認識できるようにしていると主張する。
 しかし、甲第13及び第14号証により一応認められる事実としては、「ポートフォワーディング」(IPマスカレード)は、一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術であるが、各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有しないときは、この技術を用いたとしても、「1対1」の送信しかできないのであって、「1対多」の送信が可能になるものではない。したがって、「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っていても、そのことから直ちにベースステーションを含む一連の機器が全体として、1台の「自動公衆送信装置」に該当することにはならない。
(2) 送信可能化行為の主体について
ア 抗告人は、被抗告人が電気通信回線であるインターネット回線に接続されているベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力していることは、著作権法2条1項9号の5イの「情報を入力すること」に当たり、また、既に放送波が入力されているベースステーションを電気通信回線であるインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることは、同号ロに当たると主張する。
 しかし、前記引用に係る原決定掲記の事実関係によれば、ベースステーションは「1対1」の送信を行う機能のみを有するものであって、「自動公衆送信装置」に該当するものではないから、被抗告人がベースステーションにアンテナを接続したり、ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても、その行為が送信可能化行為に該当しないことは明らかである。
イ 抗告人は、被抗告人が「ベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力している」とも主張する。
 しかし、アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、受信機に接続して受信設備の一環をなすものであることは、技術常識であるから、被抗告人がベースステーションにアンテナを接続しても、ベースステーションへの送信を行ったことにはならない。また、分配機は、単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、アンテナを複数の受信機で共用するために、アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数の給電線と接続させるとともに、それに伴う抵抗の調整を行うにすぎないことは、技術常識であるから、被抗告人が分配機を介してアンテナとベースステーションとを接続しても、「1対多」の送信や「有線放送」をしたことにはならない。
(3) 「送信可能化行為」該当性の判断
ア 前記引用に係る原決定掲記の事実関係及び前記(1)(2)に判示したところに照らせば、本件においては、次の各事情を指摘することができる。
(ア) ベースステーションの機能
 本件サービスにおいて用いられるベースステーションは、あらかじめ設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しかなく、1台のベースステーションについてみれば、「1対1」の送受信が行われるもので、「1対多」の送受信を行う機能を有しない。
(イ) 本件サービスにおけるベースステーションの利用形態
 本件サービスにおいては、利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在するところ、各ベースステーションからの送信の宛先は、これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており、被抗告人がこの設定を任意に変更することはない。
(ウ) 送信の契機等
 各ベースステーションからの送信は、これを所有する利用者の発する指令により開始され、当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており、被抗告人がこれに関与することはない。
イ 本件において、ベースステーションの機能、利用形態及び送信の契機等の上記の各事情を総合考慮すれば、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず、ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものではない。被抗告人の行為は、単に各利用者からその所有に係るベースステーションの寄託を受けて、電源とアンテナの接続環境を供給するだけであって、著作権法99条の2所定の送信可能化行為に該当するものではない。
2 争点(3)について
(1) 申立ての趣旨の変更の適法性について
ア 抗告人は、当審において本件申立て2を追加(選択的併合)する旨の申立ての趣旨の変更を申し立てている。
 抗告審の手続には、その性質に反しない限り、控訴審の規定が準用され(民事訴訟法331条)、控訴審の手続には、特別の定めがある場合を除き、民事訴訟法第2編第1章から第7章までの規定が準用されるから(同法297条)、訴えの変更に関する同法143条は抗告審の手続に準用されると解するのが相当である。
 そこで、本件について検討するに、原審における本件申立て1の被保全権利は、抗告人が本件放送について放送事業者として有する送信可能化権(著作隣接権)であるのに対して、当審における追加申立てに係る本件申立て2の被保全権利は、特定の著作物である本件著作物について著作権者として有する公衆送信権である。前者は、放送に係る番組等の内容、著作権の帰属のいかんを問わず発生する権利である。これに対して、後者は、特定の著作物の著作権を有することを前提とする権利であるが、その一方で、当該著作物が放送事業者により放送されていることを前提とするものではなく、放送されているとしてもどの放送事業者により放送されているかを問わないものである。このように、両者がその性質において異なる権利であり、被保全権利の存在を認めるための審理の対象となる事実関係も全く異なるものであることに照らせば、抗告人において権利侵害行為として主張する被抗告人の事実行為が同一のものであるとしても、当審における追加申立てに係る本件申立て2が原審における本件申立て1と請求の基礎を同一とすると解することはできない。
 したがって、当審において本件申立て2を追加(選択的併合)する旨の抗告人の申立ての趣旨の変更は許されないというべきであるが、抗告人は、本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されない場合に、本件申立て2を管轄裁判所に移送することを求めない旨を明らかにしているから、本件申立て2を不適法なものとして却下する。
イ なお、付言するに、本件申立て2は、被抗告人が「アンテナ端子から各ベースステーションへ放送番組を送信する行為が有線放送行為」に当たるとするものであるが、前記1(2)において説示したとおり、アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること(分配機を介した場合も同様である。)は、技術常識であるから、被抗告人の行為が、本件著作物の公衆送信行為に該当することはないというべきである。
3 結論
 以上によれば、抗告人の本件申立て1は保全の必要性(争点(2))について判断するまでもなく理由がないから、本件抗告を棄却し、当審における追加申立てに係る本件申立て2を却下することとし、主文のとおり決定する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 古閑裕二
 裁判官 嶋末和秀


(別紙)当事者目録
抗告人 株式会社テレビ朝日
同代理人弁護士 伊藤真
被抗告人 株式会社永野商店
同代理人弁護士 藤田康幸
同 志村新
同 水口洋介
同 小倉秀夫

(別紙)放送目録
 抗告人株式会社テレビ朝日が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像205.25MHz、音声209.75MHz

(別紙)著作物目録
 テレビ放送番組「いきなり!黄金伝説。」
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/