判例全文 line
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【事件名】ファイル交換ソフト事件(刑)(Winny)
【年月日】平成18年12月13日
 京都地裁 平成16年(わ)第726号

判決


主文
 被告人を罰金150万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトWinnyを制作し、その改良を重ねながら、自己の開設した「Winny Web Site」及び「Winny2 Web Site」と称するホームページで継統して公開及び配布をしていたものであるが、
第1 Bが、法定の除外事由なく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、平成15年9月11日から翌12日までの間、B方において、別表記載の各著作権者が著作権を有するプログラムの著作物である「スーパーマリオアドバンス」ほか25本のゲームソフトの各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて、インターネットに接続された状態の下、上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ、同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし、上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際、これに先立ち、同月3日ころ、Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら、その状況を認容し、あえてWinnyの最新版である「Winny2.0 β6.47」を被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上、同日ころ、上記B方において、同人にこれをダウンロードさせて提供し、
第2 Cが、法定の除外事由なく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、同月24日から翌25日までの間、同人方において、ユニバーサル・シティ・スタジオズ・エルエルエルピーが著作権を有する映画の著作物である邦題名「ビューティフル・マインド」及びディズニー・エンタープライゼズ・インクが著作権を有する映画の著作物である邦題名「アンブレイカブル」の各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて、インターネットに接続された状態の下、上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ、同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし、上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際、これに先立ち、同月13日ころ、Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら、その状況を認容し、あえてWinnyの最新版である「Winny2.0 β6.6」を上記被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上、同日ころ、上記C方において、同人にこれをダウンロードさせて提供し、もって、それぞれ、前記B及びCの前記各犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)
 〈省略〉

(補足説明)
1 弁護人らの主張
 弁護人らの主張は、本件が公訴棄却されるべきこと、本件における正犯者とされる者2名について著作権法違反の罪が成立しないこと、仮に正犯が成立したとしても被告人には著作権法違反幇助の罪が成立しないことなどであるが、以下それぞれの主張につき補足して説明する。
2 公訴棄却
(1) 訴因不特定(弁論要旨14頁以下)
 弁護人らは、本件公訴事実について、検察官が被告人の行為として特定したのはWinny2のβ版を公開した行為のみであって、幇助に該当する具体的な行為が特定されていないのであるから訴因の特定を欠き、本件は公訴棄却されるべきであると主張する。
 しかし、起訴状記載の公訴事実は、その第1、第2ともに、被告人が公開した対象であるWinny2をそのバージョンを含めて特定し、被告人がそれらを公開した日や、被告人自身が開設したホームページ上に公開するという具体的な方法、態様についてまで記載されているのであって、幇助に該当する行為は具体的に特定されているというべきである。
 したがって、本件公訴事実について、訴因の特定を欠くとする弁護人らの主張は採用できない。
(2) 本件公訴事実は罪とならないこと(弁論要旨161頁以下)
 弁護人らは、著作権法120条の2に関する法改正の経緯等からすると、著作権法は同法120条の2で処罰される場合を除いては、技術の提供による間接的な関与行為に止まる場合を処罰の対象とはしておらず、著作権法は刑法総則の幇助犯による処罰を予定していないものと解すべきであり、また、刑法62条は、特定の相手方に対して行うことが必要であり、不特定多数の者に対する技術の提供は刑法62条の幇助犯にあたらず、本件公訴事実は罪とはならない旨主張する。
 しかしながら、刑法62条1項の幇助犯に関する規定は、刑法以外の法令の罪についても、その法令に特別の規定がある場合を除いて適用されるのであり(刑法8条)、かつ、著作権法には、刑法総則ないし刑法62条1項の適用を除外する旨の規定も存しない。また、刑法62条に、弁護人らが主張するような制限が一般的に存するとは解されない
 よって、この点に関する弁護人らの主張は採用できない。
(3) 告訴の不存在(弁論要旨194頁以下)
ア 弁護人らは、本件は、著作権法119条1号、同法23条違反の罪にかかる事案であり、同罪は同法123条によって親告罪とされているところ、本件において被告人に対する告訴の事実が認められない旨主張する。
イ そこで、本件について告訴の有無を検討するに、親告罪における告訴の有無は、訴訟条件たる事実として、その認定にあたってはいわゆる自由な証明で足りるものと解すべきところ、告訴状謄本等(B1ないし10)によれば、本件公訴事実第1について、各告訴権者から正犯者とされるBに対する告訴がなされていることが認められる。また、判決書謄本(B206)によれば、本件公訴事実第2について、各告訴権者からもう一人の正犯者とされるCに対する告訴がなされていることが認められる。以上のとおり、B及びCに対して各告訴権者から告訴がなされていることからすれば、これら各告訴権者の告訴は、刑事訴訟法238条1項に基づき、幇助犯とされる被告人に対しても効力を生ずるというべきである。
ウ なお、弁護人らは、本件においていわゆる告訴の主観的不可分の原則を採用することは著作権法の趣旨に反するものであって、正犯者らに対する告訴は被告人に対して効力を生じない旨主張し、その理由として、著作権者は他人に対してその著作物の利用を許諾することができる(著作権法63条1項)のであるから、その処罰意思に関しても相手ごとに判断されるべきであると述べる。しかしながら、著作権者によってなされた告訴の効力がどの人的範囲に認められるかという問題と、著作権者が誰に対して著作物の利用を許諾したかということは、明らかに場面を異にするものであって、かかる主張は独自の見解と言わざるを得ず、採用することはできない。
 また、弁護人らは、被告人に対する告訴状(弁61ないし65)の内容からすると被告人に対する告訴は無効であって、仮に告訴の主観的不可分の原則を採用するのであれば、被告人に対する無効な告訴により、正犯者らに対する告訴が無効となるべきであると主張する。しかしながら、いわゆる告訴の主観的不可分を定めた刑事訴訟法238条1項における告訴とは、有効になされた告訴を指すと解するのがその文理からみて自然かつ合理的であって、無効な告訴が有効な告訴の効力を左右するとは到底言えず、この点についても弁護人らの主張は採用できない。
(4) 小括
 以上から、本件は公訴棄却されるべきであるとする弁護人らの各主張はいずれも採用できない。
3 証拠により認められる事実
 当公判廷において取調べ済みの関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1) Winnyの技術的内容
 Winnyの技術的な内容については被告人の著書である「Winnyの技術」(弁15)に詳しいが、その概略は次のとおりである。
ア P2P型ファイル共有ソフトであること
 Winnyは、コンピュータネットワークにおいて、個々のパソコンと中央のサーバが主従の関係としてシステムを構成するクライアント/サーバ方式のシステムと対照をなす、個々のパソコンが対等な立場にあって全体としてネットワークを構成するP2P技術を用いて開発された、個々のパソコンがそれぞれ有するファイルのデータを互いに送受信し合うために用いられるファイル共有ソフトである。このP2P型のファイル共有ソフトは、目的となるファイルがインターネット上のどこにあるかという情報についてのみ中央のサーバが管理する方式と、それら情報に関しても中央のサーバに依存せず、純粋に個々のパソコン同士でファイルの検索まで行う方式に分類が可能であるが、Winnyは中央サーバを必要としない後者に属する。
イ 匿名性
 Winnyにおいては、あるファイルがアップロードされるとそのファイルの位置情報等が要約されたキーが作成され、これがインターネット上の一定の範囲内にある他のパソコンに拡散し、そのファイルをダウンロードしたい他のWinny利用者は、ファイル検索によってそのキーから当該ファイルの位置情報を取得し、この情報に基づいてファイルの送受信がなされる。また、このキーは一定の割合で書き換えがなされ、書き換えられたキーをもとにダウンロードが実行されると、もともと当該ファイルのあったパソコンとは別のパソコンにファイルが複製され、この複製されたファイルがさらにダウンロードされるといういわゆる中継機能があり、これによって当該ファイル情報の一次的発信者が誰であるのかが判別できなくなることから、情報発信主体についての匿名性が確保される。
ウ 効率性等
 Winnyにおいてはファイル検索等の効率性を図るために、同じ嗜好性のあるパソコン同士をネットワーク上の概念的に近い場所に置くクラスタリングという方法が採用され、またファイルの送受信の効率性を図るために、一つのファイルがアップロードされると、当該ファイルは一定の大きさに分割されたキャッシュファイルに断片化されて、ファイルの転送はこのキャッシュファイルがブロックごとに転送される仕組みとなっている他、同じファイルを有する複数のパソコンからファイルが同時にダウンロードされる多重ダウンロード機能や、ダウンロードの再開が白動化できる自動ダウンロード機構等が備わっている。
エ 無視フィルタ
 Winnyには、ファイル名に特定の言葉を含むファイルについて自動ダウンロード機能の対象から除外する無視フィルタ機構が備わっており、ダウンロード側で設定することで一定のファイルを除外することができる。
オ Winny1とWinny2の関係
 Winny1は上記のようなファイル共有機能を主として開発、公開されたものであるのに対し、Winny2はファイル共有機能に加えて、P2P型大規模BBSの実現を目指した機能が付加されている。
 なお、Winny1とWinny2には互換性がない。
(2) 被告人がWinnyを開発、公開し、逮捕に至るまでの経緯
 被告人は小学生のころから、コンピュータのプログラミングを始め、平成元年、E大学情報工学科に入学し、平成11年3月には同大学大学院理工学研究科情報システム科学専攻を卒業し、工学博士課程を修了した。その後、一般の会社でコンピュータ関連の仕事に従事するなどし、平成14年1月からはF大学大学院情報理工学研究科の特任教員として講義を担当するようになった。
 被告人は、それらの大学や仕事とは別に、プライベートでコンピュータソフトを作り、自己が開設した「Kono’s Software Page」と称するホームページで公開するなどしていた。
 被告人は、平成14年1月ころ、被告人の現住所地であるマンションに引っ越し、インターネット環境としてADSLが利用できるようになった。そして、同年4月1日インターネット上の大型掲示板である「2ちゃんねる」の中の「MXの次は何なんだ」と称するスレッドに「Freenetに一票。追跡がほぼ不可能なファイル共有ソフト。」「参加する人が増えれば問題ないと思うけどね。Freenetは。」「暇なんでfreenetみたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindowsネイティブな。少しまちなー。」との書き込みをなし、自宅においてWinnyの開発を始めた。
 その後、被告人は、同スレッド上で開発の途中経過等についての書き込みをするなどしながら、同年5月6日、自己の開設した「Winny Web Site」にWinny1.0 β1を公開した。被告人は、Winny1.0 β1を公開した後も、その改良を継統し、同年12月30日にWinny正式版としてWinnyl.00を公開し、その後も微調整等の改良を繰り返しながら、平成15年4月5日にWinnyl.14を公開して一区切りを付け、同月7日に「Winny Web Site」を閉鎖してWinnyの公開、配布をいったん中止した。
 被告人は、同月9日「MXの次はなんだ?part109」と称するスレッドに「とりあえずファイル共有関連はやることが無くなって来ましたし、何か別のものに取り掛かろうかと思っても特に新しいネタも無いですし、暇つぶしに現WinnyBBSとは別の大規模向け分散BBSへのチャレンジやってみます。」などと書き込みをなし、Winny2の開発を宣言して、同日「Winny Web Site」 のサイト名を「Winny2 Web Site」に変更し、同年5月5日には同サイトからWinny2.0 β1を公開した。その後Winny2の改良を重ねながら、同年9月3日にはWinny2、0 β6.47を、同月13日にはWinny2.0 β6.6をそれぞれ公開した。
 そして、被告人はWinnyを「Winny Web Site」や「Winny2 Web Site」において公開するにあたり、「これらのソフトにより違法なファイルをやり取りしないようお願いします。」などの注意書きを同ホームページ上に付記していた。
 同年11月27日、被告人方に京都府警が捜索差押えに入ったことを契機として、被告人は「Winny2 Web Site」を閉鎖してWinny2の開発を停止した。
(3) 被告人と関係者間のメール送受信の状況等
ア 平成14年8月21日、被告人の姉から被告人に対し「太郎ちゃんが、軽く作ってみたものが、これだけ話題になるなんてやっぱり、太郎ちゃんてすごいのね、と感心してます。あとは、ぬかりなく気をつけてね。法律上とか、著作権とか、自分の職場とか、これから先のこととか、健康の事とか。活躍を期待してます。」などという内容のメールが送信された。これに対する返信として、同月23日、被告人は姉に対し「とりあえず何か一般に広まるソフトを作るというのだけは決まってるけど何やるかは決まってないし、といってすぐ広まるようなもんは、たいてい悪用が効くようなものに決まってるということで、これは予備みたいなもんかな。まぁ、何やったらまずいかは良く把握してるんで(おかげで最近は著作権法とかに詳しくなったけど)気は付けてます。作るだけならぜんぜん問題ないんだけど作者が悪用できることを明らかに宣伝するとまずいはず。その辺は抜かりないはず。とりあえず公に作者だとしてあまり名前出せないようなもん作っていても仕方ないんだけど、悪貨は良貨を駆逐するってのはいつの時代でもそうで悪用できるようなソフトは特に宣伝しないでも簡単に広まるね。もう少し名前出しやすい方向への応用は考えてるんでそっちも期待だけど、そちらは表に出てくるのがちと時間かかりそう。」などという内容のメールを送信した。
 また、同年9月10日、被告人は姉に対して「とりあえずWinnyの方はこちらの想定以上に大事になってますが、(WinMXという今まででのデファクトソフトが使えなくなったので人が移動してきている)こちらはソフト作っているだけなので警察沙汰にはならないと思います。作者なので自由に手を入れられるのでテストの時は絶対に外にファイルをUPしたりしないようにしてるし(現行法律下ではファイルを無差別に他の人に渡すと著作権その他で問題がでる)。ソフト作者が逮捕された例としては唯一FLMASKという、画像ファイルにモザイクかけるソフトの作者が逮捕された例がありますが、これは作者が他画像へのリンクを張っていたためでした。とりあえず技術とそれを何に使うかは別で、大規模なファイル共有技術というのはいろいろと応用が効くし、次世代コンピューティングで基盤となる重要な技術なので、この辺のノウハウを握っているのは何かと重要だと思ってます。」などという内容のメールを送信した。
イ 被告人は、平成15年10月10日、自己の開設する「Winny2 Web Site」において「Winnyの将来展望について」と題し、「そもそも私がファイル共有ソフトに興昧を持ったのは、当時ファイル共有ソフト使用ユーザーから逮捕者が出たということ(これは明らかに変だと思った)というのもありましたが、どうやったらコンテンツ作成側にちゃんとお金が集まるのか?ということに、もともと興味があったからです。」「インターネットの一般への普及の結果、従来のパッケージべースのデジタルコンテンツビジネスモデルはすでに時代遅れであって、インターネットそのものを使用禁止にでもしない限りユーザー間の自由な情報のやりとりを保護する技術の方が最終的に勝利してしまうだろうと前々から思ってました。そしてFreenetを知って、もはやこの流れは止められないだろうと。」「ここで私はこういうFreenet的なP2P技術が本質的にインターネットの世界では排除不可能と考えていますし、その事実が認知されていけば必ず自然に別のビジネスモデルが立ち上がってデジタルコンテンツ流通のパラダイムシフトが起こるだろうと考えていました。もしこの問題がクリアできなければインターネットそのものを学者などだけへの許可制にして一般では使用禁止にするしかないだろうとも。よってこれが将来インターネットでキーになる技術であろうと。」「ということで、コピーフリーでも成り立つコンテンツヘの課金システムという方面で何か新しい流れが出るだろうと期待して待っているわけですが、どうも一向に出る気配がないですねぇ。」「そもそも現在のコンテンツ流通の根本的な問題点はコピーやその配信にあるのではなく、前にも書きましたが、情報はタダが当たり前というインターネット世界における集金モデルの不備でしょう。既出の情報は共有前提でタダが基本というインターネットの世界において、すでにタダ扱いになっている箇所で昔のモデルに基づいてお金を取ろうとしているので現状矛盾が生じているのではないかと。既出の情報はタダでも、将来出てくる情報とその可能性でお金が取れるはずです。こういう可能性を無視してP2P技術そのものを悪と決め付けて排除しようとすると最終的にインターネット技術そのものの排除につながるでしょう。」などと書き込んだ。
ウ 被告人は、平成16年2月9日、正犯者Cの弁護人であったA弁護士に対して、平成15年11月27日に実施された被告人方捜索等に関して、「この際に、Winnyを公開しているサイトを閉じてくれないかと頼まれましたのでそれに応じました。これはこちらの任意で強制されたわけではありません。」「H15/11/27の調書作成の時点で、こちらでWinnyの開発と公開(ソース含む)を今後行わないという誓約書を書いてきました。なお、これは強制ではなく任意でこちらの自主判断です。前から当局にやめてくれと言われればやめる予定だったからです。」との内容を含むメールを送信した。
(4) 正犯BのWinny利用状況
 Bは平成14年11月ころ「Winny Web Site」からWinnyをダウンロードし、そのころからWinnyを利用してアニメや音楽ファイルをダウンロードするようになり、Winnyのバージョンアップについては、バージョンアップがなされる都度、「Winny Web Site」からダウンロードして行っていた。Bは、雑誌やインターネットからの情報により、同じファイル共有ソフトでもWinnyであれば捜査機関から逮捕されないものであると考え、平成15年春ころド中国のサイトからダウンロードしてきたゲームボーイアドバンスのゲームソフトのデータファイルをWinnyを用いてアップロードするようになった。同じ頃、BはWinny2のBBS機能を用いて「GBAのROM流しますん」と称するスレッドを立てた。Bは、Winnyにはアップロードしたファイル数が増えるとダウンロード効率が上がる機能があったことから、自己のダウンロード効率を上げるため、また上記の自分の立てたスレッドを有名にしたいと考えたことなどから、平成15年11月27日に著作権法違反の被疑者として逮捕されるまで、約400から500のゲームソフトのデータファイルを著作権者の許諾を得ないでアップロードしていた。その中にはBが平成16年3月5日に著作権法違反の罪で有罪判決を受けた際の基礎となったゲームソフトのデータファイル(以下「本件ゲームデータファイル」という。)が含まれているが、それらのファイルをアップロードする際、被告人に幇助されたという意識はもっていなかった。また、BはWinnyBBSのスレッドを立てた人に関しては、そのIPアドレスが分かることを知識としては知っていたが、逮捕されやすくなることと関連づけて考えるには至らなかった。
(5) 正犯CのWinny利用状況
 Cは、雑誌でWinnyが匿名性の高いファイル共有ソフトであると紹介されていたことからその存在を知り、平成14年12月ころ「Winny Web Site」からWinnyをダウンロードして使用し始め、Winnyのバージョンアップについてもその都度これを行っていた。Cは、WinnyがWin-MXとは異なって、ファイルを持っている相手方と交渉する必要がなく、またばれにくいなどの理由からWinnyを利用し始め、従前からどうしても手に入れたかった「セントオブウーマン」をダウンロードできたお礼として映画のデータファイルをアップロードするようになり、平成15年1月5日ころにはWinnyBBS掲示板を立ち上げ、アップロードする映画のデータのリストを掲載した。その後Cは、逮捕されるまで購入した映画のDVDやレンタルしたDVDをリッピングした上で、それらの著作権者の許諾を得ずに、Winnyを用いてアップロードし続け、同年1月14日には「アンブレイカブル」を、同年9月4日には「ビューティフル・マインド」をアップロードした。Cは、ハードディスクの容量が無駄になるのを避けるため、キャッシュ化する作業が終丁した時点で映画のデータをアップフォルダからバックアップ用のフォルダに移動させ、キャッシュフォルダからも当該ファイルの被参照量が一定量に達した時点で削除していた。Cには、「アンブレイカブル」及び「ビューティフル・マインド」(以下「本件映画データファイル」という。)につきキャッシュフォルダからいつ削除したかについての記憶はないが、平成15年11月27日の時点で、Cが使用していたパソコンには本件映画データファイルは存在しなかった。
(6) ファイル共有ソフトの利用実態等
ア 利用実態調査
(ア) 平成16年4月に社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)等によって実施されたファイル交換ソフト利用実態調査によれば、以下の事実が認められる。
 インターネット利用者のうち、ファイル共有ソフトを調査時点現在で利用しているのは2.8パーセント(総務省発表のインターネット接統サービス契約者数の推移から、インターネット利用人口全体を3389万人余りとすると約94万9000人)、過去に利用したことがあるのは4.3パーセント(同様に約145万7000人)である。
 ファイル共有ソフトを調査時点現在で利用している者が、ファイル共有ソフトを利用してダウンロードしたファイル数の平均は137ファイルであり、そのうち音楽ファイルが約50ファイル、映像ファイルが63ファイル、写真などが10ファイル、ソフトウェアが8ファイル程度という内訳である。
 ファイル共有ソフトにより利用されているコンテンツのうち、著作権等の対象になり、かつ著作権者の許諾が得られていないと考えられるコンテンツは音楽ファイルで92パーセント、映像ファイルで94パーセント、ソフトウェアで87パーセントであった。
(イ) なお、弁護人らは上記ACCS等による利用実態調査について、調査対象の無作為抽出となる努力が払われていないこと、ファイル名だけからはそのファイルが実際に著作物であるか等については判断し得ないことなどを理由として、ファイル共有ソフトの利用状況の実態に即したものとはいえないと主張する。
 そこでこの点について検討するに、同調査はアンケートに対する有効回答数が2万3707と、ある程度大きな規模でなされていることなどからすれば、そのアンケート実施方法に特段問題があったとは言えない。また、ファイル名とそのファイルの内容との同一性に関しても、確かにコンピュータウイルスにそれとは分からないような全く異なるファイル名を付してインターネット上に流すことが行われているように、ファイル名とそのファイルの内容が一致しない場合は存在するが、Winnyをはじめとするファイル共有ソフト自体が、検索者の目的とするファイルを探し出す為に、ファイル名ないしファイル名に含まれている単語に着目して、これを手がかりとして検索するという手法を用いていることからも明らかなように、ファイル名は文字通りそのファイルの内容が何であるかを知るために付されるのが通常であって、多くの場合ファイル名とそのファイルの内容は一致すると考えるのが合理的であるから、ファイル名によってそのファイル内容を判断し、それらを分類するという調査手法に特段問題があるとは言えない。
イ ファイル共有ソフトに関する情報
 平成15年9月ころまでには、インターネットや雑誌等において、ファイル共有ソフトが著作物の流通に著作権者に無断で相当程度利用されている旨の情報が流れており、Winnyに関しては、逮捕されるような刑事事件となるかどうかの観点から安全である旨の情報も多数流れていた。
4 Bの正犯性(弁論要旨168頁以下)
(1) 弁護人らは、平成15年11月27日の時点で、B方にあったパソコンのアップフォルダには本件ゲームデータファイルが存在しなかったこと、京都府警による同年9月11日から同月12日までのダウンロ−ト゛実験(B17)でダウンロードしたファイルは、同じキャッシュを有する別のパソコンをBのパソコンが中継したに過ぎない可能性があることなどから、Bには著作権法違反の正犯が成立しない旨主張する。
(2) そこでこの点について検討するに、Bは、正犯の実行行為を行ったとされる平成15年9月11日から同月12日にかけて、本件ゲームデータファイルをアップロードしていたかどうか直接明らかにはしていないが、アップロードをしていた理由として、ダウンロード効率を上げるために多くのファイルをアップロードしていたことや、ファイルをインターネット上で見つけてきてそれをアップロードし、そのファイル数が増えること自体がうれしかったなどと述べていることからすれば、Bは本件ゲームデータファイルについてもアップロード可能な状態にして、これを蓄積していたものと考えるのが自然である。また、Winnyには前記のとおり、ファイル転送に関して中継機能が存するが、Winnyのファイル転送は原則として直接なされるというのであり、中継が発生するのは4パーセント程度(第16回公判被告人供述80頁)、と例外的であることや、Bは捜索差押えを受ける同年11月27日の近い時期にパソコンの不安定さからOSを再インストールしたことがあると述べており(B証言75頁)、同年9月12日以後にBのパソコンの設定に大きな変更が生じ、その際に当該ゲームデータファイルが削除された可能性が十分に認められることなどを合わせて考慮すれば、京都府警によるダウンロード実験によって本件ゲームデータファイルがダウンロードされた以上、Bがその時点において本件ゲームデータファイルを故意に公衆送信可能な状態に置いていたものと認められ、Bには著作権法違反の正犯が成立する。
(3) よって、Bに著作権法違反の正犯が成立しないとする弁護人らの主張は採用できない。
5 Cの正犯性(弁論要旨169頁以下)
(1) 弁護人らは、平成15年11月27日の時点で、Cのパソコン内に本件映画データファイルが存しなかったこと、同年9月24日から同月25日にかけての京都府警によるダウンロード実験の際のポート番号「****」と、伺年11月27日のCのパソコンの見分の際のポート番号「****」とが異なることから、ダウンロード実験の実施過程に疑義があること、Cは人気のある作品は短期間で削除しており、ダウンロード実験の時点で本件映画データファイルを削除していて、京都府警の実験によりダウンロードされたのはネットワークを構成するC以外のコンピュータからなされたものである可能性があることなどから、Cは正犯の実行行為をしたとされる時点において、上記各情報を公衆送信可能な状態にしておらず、Cに著作権法違反の正犯は成立しないと主張する。
(2) まず、ダウンロード実験で京都府警が接続したポート番号と、C方で見分が行われた際のCのパソコンのポート番号が異なる点であるが、かかる弁護人らの主張は、Winnyを使用していたパソコンは1台であって、ポート番号についてはWinnyが自動的に設定したポート香号をそのまま用い、手動でポート番号を変更したことはないとするC証言を前提とするものである。確かに、C方パソコンの見分時の状況からすると、その時点でWinnyを使用していたパソコンは1台であると認められるが、Cが作成していたいわゆる放流告知スレッドからIPアドレス及びポート番号を割り出した捜査結果(B52)や、同スレッド上においてC自身が書き込んだ内容からすると、Cは少なくとも同年5月8日の時点においては、パソコン2台とインターネット回線を2回線用いてWinnyを利用していたものと認められる。そうすると、同年5月8日から同年11月27日の間に、CのWinny利用環境は、パソコン2台からパソコン1台へと変化していると認められ、Winnyの利用環境としてそのような事実と異なる内容を述べるC証言はその限度において信用性に乏しく、弁護人らの主張ばその前提を欠くというべきであり、弁護人らが主張する点は、上記ダウンロード実験結果に疑義を生じさせるものとはいえない。
 また、Cのパソコンが中継したに過ぎない可能性があるという点についても、本件映画データファイルがCによってアップロードされキャッシュファイル化されたことは、Cが作成していたDVDファイルリスト(B73添付)などから明らかである一方、それらをいつ削除したかについては曖昧な供述に終始していること(なお、弁護人らが主張する「太陽の少年」は、平成15年1月20日が初回放流日とあり、「アンブレイカブル」より後にアップロードされたこととなるが、これが平成15年11月21日の時点で削除されていない最も古い映画である旨の供述は証拠上存在しない。)、さらにBの正犯性で述べたとおり、Winnyにおいて中継が発生するのは例外的な場合であるととなどを総合的に考慮すれば、京都府警によるダウンロード実験によって本件映画データファイルがダウンロードされた以上、Cがその時点において本件映面データファイルを故意に公衆送信可能な状態に置いていたものと認められ、Cにも著作権法違反の正犯が成立する。
(3) よって、Cの正犯性に関する弁護人らの主張は採用できない。
6 被告人に対する著作権法違反幇助の成否
(1) 弁護人らは、被告人の行為は各正犯の客観的な助長行為となっていないとも主張するが、前記のとおり、被告人が開発、公開したWinny2がB及びCの各実行行為における手段を提供して有形的に容易ならしめたほか、Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめたという客観的側面は明らかに認められる。
(2) もっとも、WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、被告人自身が述べるところやE供述等からも明らかなように、それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかなる目的の下に開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大も妥当でないことは弁護人らの主張するとおりである
(3) 結局、そのような技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解するべきである
 そこで、以下、被告人がどのような目的でWinnyを開発、公開していたのか、本件における幇助行為とされる時点において被告人がいかなる主観的態様であったかについて検討する。
(4) 被告人の主観的態様
ア 検察官及び弁護人らの主張
 検察官は、捜査段階における被告人供述に信用性が認められることなどを前提に、被告人がWinnyを開発、公開したのは専ら著作権侵害による著作権法違反行為を助長させることを企図したものであると主張する。これに対し、被告人は、公判廷において、Winnyの開発、公開は著作権侵害を企図したものではなく、自分が興味をもったファイル共有ソフトの技術的検証を目的としたものであり、捜査段階における供述調書は捜査官の作文である旨述べ、弁護人らも捜査段階における供述は任意性を欠き、信用性も認められない旨主張する。
 そこで、被告人の捜査段階の供述の任意性及び信用性等について検肘する。
イ 捜査段階における供述の任意性
(ア) 平成15年11月27日作成の申述書(C官調書(C2)
 弁護人らは、平成15年11月27日の取調べ状況について、取調べを担当したO巡査が調書内容の訂正に応じてくれず、やや押し問答になったこと、申述書はP警部補が用意したものを書き写したに過ぎないなどという被告人の公判廷における供述を前提として、同日付け作成の申述書(C1)及び警察官調書(C2)には任意性が認められない旨主張する。
 しかしながら、被告人は一方で、同日の取調べが3時間程度であり、トイレに行く程度の休憩もあったこと、O巡査がWinnyの技術的な部分に関しては調書の修正に応じてくれたこと、警察には初めから協力するつもりであったことから調書への署名指印に応じたことを認め、さらに申述書についても、自らWinnyの開発をやめる誓約書を書いてもいいと申し出たところ、P警部補が見本を用意したことからこれを途中まで書き写し、ある程度書き写した時点でその内容に疑問を抱いたことからその旨申し出て、最後の4行に関しては見本を直した上で署名指印をしたが、その際捜査官から脅しや強要等はなかったと供述している。
 このような被告人の公判廷供述を前提としても、捜査機関による威迫や偽計などといった任意性に疑いを生じさせる事由はないと認められる上、上記のA弁護士に対して送信したメールにおいても、被告人はあくまで自主的に誓約書を書いたものであることを認めているのであって、これらのことからすると、同日付け作成の申述書(C1)及び警察官調書(C2)における供述の任意性は優に認められる。
(イ) 平成15年12月26日作成の警察官調書(C3)
 平成15年12月26日の取調べ状況に関し、被告人は公判廷において、徹夜明けであった上、P警部補が、「幇助だろ」と繰り返し厳しい口調で言うなど、幇助について押し問答があったなどと述べるが、その一方で、調書への署名指印に応じた理由として、調書が重要だとは考えておらず、何を書かれても大丈夫だろうと考えたことや、警察を基本的には信用していたこと、さらに非常に疲れていたことから早く帰りたかったこと、めんどくさかったことなどを挙げていることからすれば、被告人は捜査機関からの威迫等によってではなく、あくまで自主的な判断で調書への署名指印に応じたものであると認められる上、P警部補らに対してどういう交通手段で東京まで来たのかを被告人側から尋ねることができるような状況にあったことなどからすると、同日の取調べにおける被告人供述の任意性に疑いを生じさせる事由はないと認められ、同日付け作成の警察官調書(C3)には任意性が認められる。
(ウ) 平成16年5月10日作成の弁解録取書(C10、11)及び警察官調書(C5)
 弁護人らは、平成16年5月10日付け作成の弁解録取書(C10、11)及び警察官調書(C5)における供述に任意性が認められないと主張するが、被告人の公判廷供述によってもその供述の任意性に疑いを生じさせる事由もうかがわれず、同調書等には任意性が認められる。
(エ) 平成16年5月11日作成の弁解録取書(C7)、同月12日作成の検察官調書(C8、13)
 平成16年5月11日午後のQ検事による弁解録取の状況について、被告人は公判廷において、調書の訂正を求めたが、「まあまあ」と言って応じてくれなかったが、警察よりも比較的話を聞いてくれる感じであったと述べ、同月13日のQ検事による取調べまでは協力しようと思っていたが、同日の取調べにおいてQ検事が立ち上がり指さしながら大きな声で怒ってきたことなどからそれ以後の調書への署名指印を拒否したというのであって、被告人の供述によってもそれ以前の取調べについて偽計や威迫等、供述の任意性に疑いを生じさせるような事由もうかがわれない上、同月10日夕方には1時間程度、同月11日の朝には1時間程度、夜には45分程度、同月12日には、朝から夕方にかけて3回にわたって複数の弁護士による接見がなされており、手続的な助言等もされていると考えられることなどからすれば、それらの供述には任意性が認められる。
ウ 捜査段階における供述の信用性
(ア) 被告人供述の概要
 被告人は、主にWinnyの開発、公開の目的等、その主観的態様に関して、捜査段階及び公判段階において、以下のように供述している。
 平成15年11月27日には、Winnyを使って不特定多数の者が著作権法違反をしていることははっきり分かっており、逮捕された者がしたような犯罪行為が行われることは十分認識していたし、逮捕された人はこの中のごく一部である旨述べ(C1)、Winnyを開発するに至った理由として、自分が持っている技術でファイル共有ソフトを作ってみたいというプログラマーとしての好奇心とともに、パソコンやインターネットが普及した現在においては著作権の対象となるコンテンツの違法コピーは防ぎようがないのであるから、コンテンツの提供者側に新たな収益方法の模索が必要であるにもかかわらず、提供者側が既存のビジネススタイルにすがりつくのは、ファイル交換等を行った者を警察が検挙するからであると考えたことから、白ら匿名性の高いファイル共有ソフトを開発することで、警察が検挙できない状態にして、新たな収益方法を開発せざるを得ない状態を作ろうと思ったし、これはWinMXの後継として2ちゃんねらーが待ち望んだものであった旨供述している(C2)。
 また、同年12月26日には、Winny開発の理由として、上記と同様の供述をした上でFreenetのことに触れ、匿名性の高いファイル共有ソフトとしてFreenetに注目したが、Freenetは効率が悪く、利用に手間がかかると考えたことから、自ら匿名性と効率性とを兼ね備えたファイル共有ソフトを開発しようと考え、俗にワレザーと呼ばれる著作権法違反の常習者等が違法にデータ入手に関する意見交換をしていたスレッドに、Winnyの開発宣言を書き込んだ旨供述している(C3)。
 次に、平成16年5月11日の、京都地方検察庁における弁解録取においては、Winnyが著作権法を侵害する態様で利用されることはWinny開発当初から分かっており、Winnyを作成した目的は、コンテンツ、ソフトウェア業界のビジネスモデルが多くの矛盾をはらんでおり、これを変えるために、あえてインターネット上での著作物の違法コピーをまん延させることが必要であると考えており、Winnyが著作権を侵害する態様で使用されることは分かっていて、それを望んでもいた旨供述している(C7)。
 さらに、同月12日の、京都簡易裁判所における勾留質問においては、上記の弁解録取書のうち、「あえてインターネット上で著作物の違法コピーをまん延させることが必要であると考え」たとする点と、Winnyが著作権を侵害する態様で使用されることを望んでもいたとする点について否定する供述をしている(C12)。
 そして、同日には、Q検事に対して、ユーザーがソフトを利用しようと思えば、ソフトを購入することが必要で、販売、管理する提供者側に無断でコピーすれば損害賠償を求められたり、罰せられたりするような既存のビジネスモデルは、インターネットが普及している現状の社会では矛盾をはらんでいると言わざるを得ず、新しいビジネスモデルを正面から研究、開発していくべきと思っていたところ、Win-MXを利用した人が逮捕されたことを知って、ますます違和感を感じ、その少し後に、Freenetの存在を知って、匿名性が高ければ警察もWin-MXのように摘発できないと思い、そうなれば著作物の提供者が警察を頼ることもできなくなると思い、2ちゃんねるのスレッドにあった「Win-MXの次は何なんだ?」の議論の中で、Winnyを作ってやろうと考えたが、他方では、Winnyによって著作権システムを破壊してやろうとか、むちゃくちゃにしてやろうとか思っていたわけではなく、ソフト開発者に適正な対価が支払われるような新たなビジネスモデルを作ることが究極の理念であって、技術者として社会の発展を考えていた旨供述している(C8)。
 これに対して、被告人は、当公判廷において、Winnyを開発、公開した目的は、コンピュータソフトのプログラマーとして、Freenetの匿名性に関する技術に興昧を持ったことから、匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトのアイデアが実際に稼働するかの技術的な検証が目的であり、Winny2についてはP2P型大規模BBSの実現を目指したものであった旨供述する。
(イ) 検討
 まず、被告人がWinnyを開発、公開した目的についての捜査段階における供述は、その表現等について若干の変遷は見られるものの、インターネットが普及して、コンテンツ提供者側に無断でソフトのコピーがなされている現状においては、コンテンツの利用者が提供者に代金を支払うという既存のビジネスモデルは矛盾をはらんでいると考えていたこと、Win-MX利用者から逮捕者が出たことに違和感を覚えたこと、インターネットを通じて知ったFreenetの存在を知って既存のビジネスモデルが変わる契機となるのではないかと考えたこと、Freenetは効率性が悪く、それほど広まらないのではないかと考え、自ら匿名性と効率性を兼ね備えたファイル共有ソフトを作り、それが既存のビジネスモデルとは異なった新しいビジネスモデルにつながればいいと思ったことという点においては一貫している上、これらの内容は、被告人が捜査機関による捜索差押え等を受ける前である、平成15年10月10日、自己の開設する「Winny2 Web Site」において「Winnyの将来展望について」と題して前記のとおり述べた内容と概ね一致するものであり、これらのことからすると、これらの点に関する被告人の捜査段階における供述は十分信用できる。
 他方、被告人は、公判廷において、上記の「Winnyの将来展望について」はWinny開発当初からの認識ではなく、開発後に考えるに至った事柄を書き込んだものであるかのように供述するが、その内容は被告人がWinny開発以前からの認識を記載したことが文面上明らかであって、かかる認識を有するに至ったとする時期はWinny公開後であるとする被告人の公判廷供述は到底信用できない。
 もっとも、平成16年5月12日の京都簡易裁判所における勾留質問(C12)の内容や、同月12日のQ検事による取調べ(C8)の際、著作権制度を破壊しようとしたわけではない趣旨のことを述べていることなどからすると、被告人が著作物の違法コピーをインターネット上にまん延させようと積極的に意図していたとする部分については、その供述に信用性は認められない。
エ 被告人の主観的態様についての小括
 以上のように、その一部を除いて信用性のある被告人の捜査段階における供述や、被告人が「Winny2 Web Site」と称するサイトで「Winnyの将来展望について」として述べた内容、被告人が姉との間で送受信したメールの内容、特に問題のないソフトウェアを公開していた「Kono’s Software Page」とは異なる匿名のサイトでWinnyを公開していたこと等からすれば、被告人が前記「Winny2 Web Site」上で、違法なファイルのやりとりをしないような注意書きを付記していたこと及び無視フィルタ機構があることを考慮しても、被告人は、Winnyが一般の人に広がることを重視し、ファイル共有ソフトが、インターネット上において、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状をインターネットや雑誌等を介して十分認識しながらこれを認容し、そうした利用が広がることで既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期待しつつ、ファイル共有ソフトであるWinnyを開発、公開しており、これを公然と行えることでもないとの意識も有していたと認められる。
 そして、Winny2がP2P型大規模BBSの実現を目的としたものであり、Winny1との互換性がないものであるとしても、Winny2にほぼ同等のファイル共有機能が備えられていることや、上記の「Winnyの将来展望について」が平成15年10月10日付けのものであることなどからすれば、本件で問題とされている同年9月ころにおいても、同様の認識をしてこれを認容し、Winny2の開発、公開を行っていたと認められる。
 ただし、Winnyによって著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められない。
 なお、被告人は公判廷において、Winnyの開発、公開は技術的検証が目的であって、Winny2に関しても、P2P型大規模BBSの実現を目指したものである旨供述し、前記のような被告人のプログラマーとしての経歴や、Winny2の開発を開始する際の2ちゃんねるへの書き込み内容などからすれば、被告人がそのような意図を有していたとする公判廷供述はその部分に関して信用できるが、かかる事情は、すでに認定した被告人の主観的態様と両立しうるものであって、上記認定を覆すものではない。
(5) 以上から、本件では、インターネット上においてWinny等のファイル共有ソフトを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となるもので、Winnyを含むファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されており、Winnyが社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、効率もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況の下、被告人は、そのようなファイル共有ソフト、とりわけWinnyの現実の利用状況等を認識し新しいビジネスモデルが生まれることも期待して、Winnyが上記のような態様で利用されることを認容しながら、Winny2.0 β6.47及びWinny2.0 β6.6を白己の開設したホームページ上に公開し、不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められ、これによってWinny2.0 β6.47を用いてBが、Winny2.0 β6.6を用いてCが、それぞれWinnyが匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機としつつ、公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから、被告人がそれらのソフトを公開して不特定多数の者が入手できるように提供した行為は、幇助犯を構成すると評価することができる
7 結論
 よって、前記のとおり認定することができ、この限度で弁護人らの主張は採用しない。

(法令の適用)
 被告人の判示各所為はいずれも行為時においては刑法62条1項、平成16年法律第92号による改正前の著作権法119条1号、23条1項に、裁判時においては刑法62条1項、同改正後の著作権法119条1号、23条1項に該当するが、これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条、10条により軽い行為時法によることとし、各所定刑中罰金刑をそれぞれ選択し、判示の罪はいずれも従犯であるから、同法63条、68条4号によりそれぞれ法律上の減軽をし、以上は併合罪であるから、同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告人を罰金150万円に処し、その罰金を完納することができないときは、平成18年法律第36号附則2条により同法による改正前の同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)
 本件は、著作権法違反の正犯者ら2名が、それぞれ著作権者の許諾を得ずに、著作権の対象となる著作物であるゲームソフトや洋画の各情報を、インターネット利用者に対して自動公衆送信しうる状態にして、上記各著作物の著作権者が有する公衆送信権を侵害する実行行為に及ぶに先立ち、被告人が自己の開設するホームページ上にファイル共有ソフトであるWinnyを公開しダウンロード可能な状態においてインターネットを利用する不特定多数の者に提供して、Winnyを用いて上記実行行為に及んだ正犯者ら2名をそれぞれ幇助したという著作権法違反幇助の事案である。
 被告人は、ファイル共有ソフトの一つであるWinnyを開発、公開することで、これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし、著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識、認容していたにもかかわらず、Winnyの公開、提供を継統していたのであって、このような被告人の行為は、白己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも、その弊害を顧みることなく、あえて自己の欲するまま行為に及んだもので、独善的かつ無責任な態度といえ非難は免れない。また、正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際、被告人が公開、提供していたWinnyが、正犯者らの本件各実行行為にとって重要かつ不可欠な役割を果たしたこと、Winnyネットワ−クにデータが流出すれば回収等も著しく困難であること、Winnyの利用者が相当多数いると認められること等からすれば、被告人のWinnyの公開、提供という行為が、本件の各著作権者が有する公衆送信権に対して与えた影響の程度も相当大きく、正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告人の寄与の程度も決して少ないものではない。
 もっとも、被告人はWinnyの公開、提供を行う際に、インターネット上における著作物のやりとりに関して、著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではなく、著作権制度が維持されるためにはインターネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら、自己のコンピュータプログラマーとしての新しいP2P技術の開発という目的も持ちつつ、Winnyの開発、公開を行っていたという側面もあり、被告人は本件行為によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、Winnyによって直接経済的利益を得たとも認められないこと、何らの前科前歴もないことなど、被告人に有利な事情も存する。
 以上、被告人にとって有利、不利な事情を総合的に考慮して、被告人には主文のとおりの罰金刑に処するのが相当であると判断した。

京都地方裁判所第3刑事部
 裁判長裁判官 氷室眞
 裁判官 武田正
 裁判官 八槇朋博


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