判例全文 line
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【事件名】商標“一枚甲”侵害事件
【年月日】平成18年10月26日
 東京地裁 平成17年(ワ)第25426号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成18年9月25日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 池原毅和
被告 有限会社海宝堂
同訴訟代理人弁護士 井田吉則
同 丸山和広
同 大森啓子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成17年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告が三味線用バチに付していた標章が原告の商標権を侵害しているとして、原告が被告に対し損害賠償を求めた事案である。被告は、(1)原告の商標権と被告の標章が類似しないこと、(2)被告の標章が商標的使用に該当しないこと、(3)商標法26条1項2号によって原告の商標権の効力が及ばないこと、(4)先使用権が成立すること、(5)原告の商標権には無効理由が存すること等を主張して、原告の請求を争っている。
1 判断の前提となる事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠によって認められる。)
(1) 当事者
 原告は、「高山商店」の屋号で象牙バチ、べっ甲先付きバチを製造販売する者である。
 被告は、三味線用バチの製造、修理等を目的として、昭和62年3月2日に設立された有限会社である。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権を有している(以下、あわせて「本件各商標権」といい、その登録商標をあわせて「本件各商標」という。)。本件各商標権は、いずれも存続期間の更新登録がされて現在に至っている。なお、本件第2商標権は本件第1商標権の連合商標として登録されたものである。
ア 本件第1商標権(甲4の3、4)
 登録番号 第1366281号
 出願年月日 昭和50年1月21日
 登録年月日 昭和53年12月22日
 登録商標 「一枚甲」の縦書き文字及び「亀」の模様を、「ばち」形の輪郭線で囲んだもの(別紙原告商標権目録1記載のとおり。以下「本件第1商標」という。)
 商品の区分 第24類
 指定商品 和楽器、その他本類に属する商品
イ 本件第2商標権(甲4の5、6)
 登録番号 第1569626号
 出願年月日 昭和53年4月25日
 登録年月日 昭和58年2月25日
 登録商標 「一枚甲」の横書き文字のもの(別紙原告商標権目録2記載のとおり。以下「本件第2商標」という。)
 商品の区分 第15類(指定商品の書換登録前は第24類)
 指定商品 ばち
(3) 被告の使用していた標章
 被告は、平成5年ころから平成16年2月ころまで、べっ甲バチの才尻(グリップエンドの端面)に別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付してこれを販売していた(甲4の13、9の1)。被告標章は、金色の六角形の形をしたシールに、「一枚甲」の黒文字を縦書きしたものであり、べっ甲バチの才尻に貼付して使用されていた。
(4) 原告による侵害警告と被告標章の使用中止
 原告は、被告に対し、平成16年2月12日付け内容証明郵便において、被告標章が本件第2商標権を侵害するとして、被告標章の使用停止と損害の賠償を求めた(甲1)。
 被告は、原告に対し、同年3月3日付け回答書において、@被告標章につき先使用権が成立していること、A商標法26条1項2号により本件第2商標権は被告標章の使用には及ばないこと、Bトラブルを避けるため、今後、三味線バチに「一枚甲」の名称の使用をしないことを回答した(甲2)。
2 争点
(1) 本件各商標と被告標章とが類似するか。(争点1)
(2) 被告標章の使用は、商標的使用に該当するか。(争点2)
(3) 被告標章の使用は、普通名称の表示〔商標法26条1項2号〕に該当するか。(争点3−1)
(4) 被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示〔商標法26条1項2号〕に該当するか。(争点3−2)
(5) 被告標章の使用は、慣用商標〔商標法26条1項4号〕に該当するか。(争点4)
(6) 被告は、被告標章について先使用権〔商標法32条1項〕を有するか。(争点5)
(7) 本件各商標権に無効理由が存在するか。(争点6)
(8) 損害の額(争点7)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件各商標と被告標章とが類似するか)について
【原告の主張】
ア 本件第1商標について
 本件第1商標と被告標章は、「イチマイコウ」という称呼において同一であり、その称呼が意味する観念も、いずれも三味線バチに貼付されるシール等であることから同一である。また、本件第1商標は三味線バチのデザインのバチ先の方に亀の図案が記載されており、他方、被告標章では三味線のバチの図案はないものの、六角形の図案は典型的な亀甲形を用いたものであり亀を連想させ、本件第1商標の亀の図案と共通している。確かに被告標章においては三味線バチの図案はないとはいうものの、本件第1商標も被告標章も三味線バチに貼付されるので、三味線バチの図案よりも、べっ甲を指し示す亀甲を連想させる図案が重要である。この点において、本件第1商標の亀の図案と被告標章の亀甲形の図案は極めて類似しており、三味線バチに貼付されている状況では、三味線バチの図案の有無は外観上主要な関心を引き起こすものではない。
イ 本件第2商標について
 本件第2商標と被告標章は、「イチマイコウ」という称呼において同一であり、その称呼が意味する観念も、いずれも三味線バチに貼付されるシール等であることから同一である。外観も、「一枚甲」という表記において共通する。
ウ 商品の販路について
 三味線バチの販路は、被告が主張するように分別されているわけではない。被告自身、有限会社東邦楽器製作所、日本和楽器製造株式会社等に卸売も行っている。また、原告が直接販売を行う場合もある。
【被告の主張】
ア 本件第1商標について
 確かに、本件第1商標と被告標章は、その称呼については、それぞれ「イチマイコウ」であり同一である。
 しかし、本件第1商標の外観は、三味線バチをかたどった外枠の中の上部に一枚甲と記載され、その下には亀の絵が施されている。これに対し、被告標章は、三味線バチの外観を全く採っておらず、亀の絵もなく、単に六角形の金色の下地に黒字で一枚甲と記したものにすぎないのであって、その外観は著しく異なる。
 また、上記の外観からすると、本件第1商標からは、一枚のべっ甲で作製された三味線バチとの観念が生じる。これに対し、被告標章は、一枚のべっ甲で作製されたものという観念を生じさせるだけである。したがって、観念についても異なる。
 さらに、原告は、主に、原告から卸売業者、小売業者へと順々に商品を流通させているのに対し、被告は、主に、直接、顧客に販売しているという取引の実情を併せ考えると、何ら原告の商品と被告の商品とで商品の出所について誤認混同をきたすおそれはない。
 したがって、本件第1商標と被告標章は類似しない。
イ 本件第2商標について
 確かに、本件第2商標と被告標章は、その称呼については、それぞれ「イチマイコウ」であり同一であり、また、その観念の点でも、それぞれ「一枚のべっ甲で作製されたもの」との観念を生じ、類似する。
 しかし、本件第2商標の外観は、一枚甲とのみ横文字で書かれた文字だけのものである。これに対し、被告標章は、六角形の金色の下地に黒字で一枚甲と記したものである。したがって、その外観は著しく異なる。
 さらに、前記アの取引の実情を併せ考えると、何ら原告の商品と被告の商品とで商品の出所について誤認混同をきたすおそれはない。
 したがって、本件第2商標と被告標章は類似しない。
(2) 争点2(被告標章の使用は、商標的使用に該当するか)について
【被告の主張】
 商標の本質は、自他商品の識別機能、すなわち、@誰の商品であるかを示す出所表示機能、A一定の品質を保証する品質保証機能、B商標のシンボル性により商品を広告・宣伝する宣伝・広告機能であると解されている。
 そのため、第三者の商標の使用が、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されていると認められないときは、その商標の使用は本来の商標としての使用ということができず、商標権者は、自己の登録商標の本来の機能の発揮を妨げられないがゆえに、その商標の使用を禁止することができない。
 被告標章は、「商品が一枚のべっ甲で作製されたこと」を示すのみであって、それ以上、自他商品の識別標識としての機能、すなわち、@出所表示機能も、A品質保証機能も、B宣伝・広告機能も有していない。また、被告が被告標章を才尻に貼付したのは、才尻が、バチの外見上及び使用上、邪魔にならないところだからであり、才尻に標章を貼付したからといって、自他商品の識別機能が発揮されることはない。
 したがって、被告標章の使用は、本来の商標としての使用といえないから、被告標章の使用が本件各商標権を侵害することはない。
【原告の主張】
 被告は、才尻に標章を貼付したからといって、自他商品の識別機能が発揮されることはないという。しかし、才尻は、自他商品識別のためにむしろ好んで用いられる場所である。それ以外のバチの面に貼付すると、外観を損ねたり、操作の邪魔になったりして、長期間貼付されずに剥がした上で用いられることになりやすく、自他商品識別に適さないからである。
(3) 争点3−1(被告標章の使用は、普通名称の表示〔商標法26条1項2号〕に該当するか)について
【被告の主張】
ア べっ甲業、三味線バチの製造業、卸業、販売業及びその顧客は、いずれも、三味線バチに付された「一枚甲」という名称を、分厚い一枚のべっ甲でバチ先を作製したものを意味し、薄い2枚のべっ甲を張り合わせて作製された「合わせ甲」と区別されるものだと理解する。そして、「一枚甲」という名称は、遅くとも昭和40年ころから、三味線バチの製造販売等の業界では、上記の意味で使用されていた。したがって、被告標章は、被告製造にかかる三味線バチの「普通名称」を表示したものにほかならない。
 「一枚甲」という名称が、本件各商標権の商標登録出願以前から、べっ甲業界及び邦楽器業界において普通名称として使用され、本件各商標権の登録後も、広く普通名称として使用されてきたことは、昭和27年当時すでに「長崎の鼈甲細工について(二)」と題する文献において、「一枚甲」という名称が用いられていたこと、並びに、べっ甲職人等、製造卸業者、小売店等、演奏家及び業界組合から提出された各陳述書によって裏付けられる。
イ 被告標章は、その外観・称呼・観念を通じ、被告製造にかかる三味線バチは、分厚い一枚のべっ甲を使用してバチ先を作製したものであるという、その「普通名称」を直感させ、それ以上に、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められないから、「普通に用いられる方法」で表示されたというべきである。
 したがって、被告標章の使用については、商標法26条1項2号により、本件各商標権の効力が及ばない。
【原告の主張】
ア 「一枚甲」は、三味線のバチについての普通名称ではない。
 「一枚甲」の用語は、広辞苑などの国語辞典に現れておらず、日常的に使用されている用語ではない。
 被告は、昭和27年当時すでに「長崎の鼈甲細工について(二)」と題する文献において、「一枚甲」という名称が用いられていたことを指摘する。
 しかし、べっ甲細工の原料となる亀の甲羅は屋根瓦状または石垣状に組み合わさった13枚の甲からできており、上記文献は13組の甲を「一鼈甲」と呼んでおり、これに対して甲羅を構成する13枚の各甲を「一枚甲」と呼んでいるものである。同文献は、被告が指摘するように、「本邦に於ける当初の細工は、現今に於ける外国人の細工と同様、一枚甲からの挽抜であった。」とし、「前記したプレス台上に於いて十分に締め圧縮すると、蒸気に依って接着し、殆ど合わせ目が不明となり、元の一枚甲の如き物質となる。」としている。しかし、ここにおける「一枚甲」の意味は物質的な意味で甲羅を構成する13枚中の一枚の甲という意味にすぎず、一枚甲という名称をべっ甲細工の原材料や品質を示す名称として使用しているのではない。
 上記文献によれば、わが国における当初の細工や外国人の細工は、一枚甲を挽抜する方法で行われていた。その後、甲の複数の切片を接着する技術によって接着したものも一枚の甲から挽抜したものと区別できない状態になるとしている。したがって、べっ甲細工において、一枚の甲から挽抜した製品であるか甲の切片を接着した製品であるかは、わが国のべっ甲細工の歴史では区別する実益がなく、べっ甲細工において一枚の甲から挽抜した製品であるか、複数の甲を接着した製品であるかは、特に区別されていなかった。同文献のいう「一枚甲」は、同文献の文脈上で一頭のウミガメから取れる甲羅に対してそれを構成する一枚を意味するために用いられている用語にすぎず、日常語的にもべっ甲細工の業界の用語としても「一枚甲」という用語例は他に見られない。
 実際、べっ甲によって作製される櫛や眼鏡のフレーム、装飾品等について「一枚甲」という使用例はなく、同様に三味線のバチについても「一枚甲」という使用例は原告が用いるまでなかった。
イ 邦楽器の業界では昭和32年に初めて全国組織として「全国邦楽器組合連合会」が結成された。昭和38年9月1日現在の小売標準価格表には、「ばち類」の欄には「一枚甲」の商品名はなく、「一枚甲」は商品「ばち」について普通名称として使用されていなかったことは明らかである。
 価格表や広告などに「一枚甲」が使用され始めるのは、原告による本件各商標権の登録出願時以降である。
 被告の提出する陳述書は、東京邦楽器商工業協同組合の会員が提出するものである。同組合は、主として小売業者を中心とする組合であり、当業界で最も歴史のある全国組織である全国邦楽器商工業組合連合会には所属していない。東京には、他に東京邦楽器商工業協同組合、東京和楽器製造卸組合、東京和楽器商組合があって、営業上の利害関係から内部的な対立が生じて分裂した経緯がある。したがって、被告が集約して提出した陳述書は、公正中立な立場からの陳述ではない。
(4) 争点3−2(被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示〔商標法26条1項2号〕に該当するか)について
【被告の主張】
ア 昭和27年当時、べっ甲細工を施す「原材料」として、また、べっ甲細工の「品質」を示すものとして、「一枚甲」という名称が使用されていた。
 「一枚甲」という名称は、一枚のべっ甲を用いて作製されたものを意味するものであり、べっ甲バチの「品質」ないし「原材料」を示すものにすぎない。
イ 被告標章は、その外観・称呼・観念を通じ、被告製造にかかる三味線バチが、分厚い一枚のべっ甲を使用してバチ先を作製したものであるという、その「品質」、「原材料」を直感させ、それ以上に、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められないから、「普通に用いられる方法」で表示されたというべきである。
ウ したがって、被告標章の使用は、記述的商標の使用であることは明らかであるから、商標法26条1項2号により、本件各商標権の効力は及ばない。
【原告の主張】
ア わが国のべっ甲細工の技術においては、もともと、複数の甲を張り合わせたものであるか、一枚の甲を挽抜したものであるかは、判別し難い物となるところに「細工」の本質があり、べっ甲細工の品質や原材料の表示方法として「一枚甲」が用いられてきた事実はない。また、日常語にもその使用例はなく、べっ甲細工の専門家でもなければ、亀の甲羅が13枚の甲から成っていることを知らず、また、13枚の甲羅の一枚を一般に一枚甲と呼んでいる事実もない。
イ したがって、「一枚甲」という表示は、三味線演奏家や一般の三味線愛好家を含めた需要者が、もともと13枚ある亀の甲羅のうちの一枚の甲から作製されたべっ甲バチであると説明を受けずにその用語に接した場合、通常はその意義を容易に理解し得ない。品質や原材料を記述するためには普通の日常語を用いて説明的に表示する必要があり、「一枚甲」は記述的表示の情報伝達機能に乏しい。他方、本件各商標権の登録後に、一部の業者が「一枚甲」の用語を使用した事実は認められるものの、伝統業界の大勢は「一枚甲」を「原告のべっ甲バチ」として高く評価している事実があり「一枚甲」の出所識別表、 示の機能は十分に認められ、保護の必要性がある。
ウ 以上のとおり、「一枚甲」はべっ甲細工やべっ甲バチの「品質」ないし「原材料」を示す表示とはなっておらず、また、普通に用いられる方法での表示とも認められない。
(5) 争点4(被告標章の使用は、慣用商標〔商標法26条1項4号〕に該当するか)について
【被告の主張】
 仮に、被告標章が普通名称とまでいえないとしても、べっ甲バチに関する業界において、「一枚甲」は、一枚のべっ甲を用いて作製されたべっ甲バチを指す名称として慣用的に使用されてきたのであり、被告標章はいわゆる慣用商標に該当する。
ア 「一枚甲」とは、原告が作った造語などではなく、その名称からも明らかなとおり、べっ甲業者、三味線バチの製造業者、卸売業者、販売業者、顧客等においては、一枚のべっ甲を用いて作製されたバチ等を指すものである。
イ 「一枚甲」の名称は、製造会社、小売店等の価格表やカタログ、ホームページ等に記載されている。これらは、原告が作製したべっ甲バチを指すものとして記載されたものではなく、一枚のべっ甲を用いて作製されたべっ甲バチを指すものとして記載されている。
ウ 業界内においても、「一枚甲」とは、原告が作製したべっ甲バチではなく、一枚のべっ甲を用いて作られたべっ甲バチを指すものと認識され、そのような意味で取り扱われている。
エ したがって、被告標章は、慣用商標であり、商標法26条1項4号により、被告標章の使用について、本件各商標権の効力が及ばないのである。
【原告の主張】
ア 被告の提出する陳述書は、東京和楽器製造卸組合と対立的な関係にある東京邦楽器商工業協同組合傘下の新規参入業者等に、本件各商標権の効力を及ばせない意図の下に呼びかけて被告が集約したものであって、にわかに信用できない。むしろ、全国には700ないし800軒程度の三味線バチを扱う小売店があるにもかかわらず、「一枚甲」が普通名称であるとか慣用化されていると認めているのは、20社程度しかない。20社程度の一部の業者が意図的に「一枚甲」の名称を使用しているとしても、業界全体の総体数に照らせば、極めて一部の少数の者にとどまっており、「一枚甲」は未だ一般的名称として通用しているとは到底認められない。
イ 一方、「一枚甲」が原告の製造にかかる三味線バチであるという認識は多くの業者や演奏家が有しており、「一枚甲」には出所識別機能及び自他商品識別力が認められる。また、日常用語として、「一枚岩」、「一枚絵」、「一枚落」、「一枚看板」、「一枚起請文」、「一枚刷り」、「一枚盾」、「一枚棚」、「一枚版」、「一枚交」はあるものの、「一枚甲」という日常語はない。
 べっ甲細工の業界でも、「長崎の鼈甲細工について(二)」と題する文献を除けば、「一枚甲」という用語は見られない。一枚甲の櫛、一枚甲の眼鏡、一枚甲の簪等がないことはもとより、一枚甲のバチも一般的な用語としては存在しない。「一枚甲」は原告製造のバチであることに意味があり、一枚の甲から作製されたものであるかどうかを示すことに意味があるのではない。
(6) 争点5(被告は、被告標章について先使用権〔商標法32条1項〕を有するか)について
【被告の主張】
ア 本件各商標権出願前からの使用
 被告代表者の父は、本件第2商標権の出願に先立つ昭和50年3月1日、三味線バチの製造・販売業を始めて以来、「一枚甲」という名称を使用してきた。
イ 不正競争の目的の不存在
 「一枚甲」という名称は、昭和40年ころから、既に三味線バチの製造販売等の業界で使用されていた。また、昭和50年当時、原告により本件第1商標権が登録出願されていた事実を、被告代表者の父は知らなかった。そのため、被告には、出所の混同を生じさせる意図(ないし「ただ乗り」しようとする意思)など存在していない。
ウ 周知性
 被告代表者の父は、昭和50年3月、「一枚甲」という名称を使用して三味線バチの販売を始めた。同人は、三味線のバチ先は、「一枚甲」で作るものだと思い、長年、「一枚甲」のバチを製造販売してきた。そのため、多くの顧客及び仕入先等の間において、同人の製造販売する三味線バチが「一枚甲」であることは、広く認識されていた。
エ 継続使用
 被告は、被告代表者の父が、昭和50年3月から「一枚甲」という名称を使用して以降、平成16年2月に使用を停止するまで、約29年間、被告標章の使用を継続してきた。被告が、平成16年2月、被告標章の使用を中止したのは、原告から警告文が届き、無用な争いを避けるための一時的な措置にすぎない。
オ 以上のとおりであるから、少なくとも、本件第2商標権に対しては、被告の先使用権が成立する。
【原告の主張】
 被告が当初実際に使用していた標章は「本べっ甲」であり、「一枚甲」の使用は平成5年からである。したがって、被告が昭和50年ころから被告標章を使用していた事実はなく、また、被告の製造販売する三味線バチが「一枚甲」であることが広く認識されていたという事実もない。さらに、被告は、「今後」すなわち、将来に向けて無期限に被告標章を使用しないことを表明している。
(7) 争点6(本件各商標権に無効理由が存在するか)について
【被告の主張】
ア 本件第1商標権について
 本件第1商標権の外観は、三味線バチをかたどった外枠に一枚甲と記載され、その下に亀の絵が施されている。これに、その観念及び「イチマイコウ」との称呼を併せ考えると、本件第1商標権からは、分厚い一枚のべっ甲で作製された三味線バチが想起される。これは、商標法3条1項3号の「品質」、「原材料」、「形状」を表示するものである。
 加えて、本件第1商標権は、その外観・称呼・観念を通じ、原告製造にかかる三味線バチは、分厚い一枚のべっ甲を使用してバチ先を作製したものであるという、その「品質」、「原材料」、「形状」を直感させ、それ以上に、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められないから、「普通に用いられる方法」で表示されたというべきである。
 したがって、本件第1商標権は、商標法3条1項3号に違反するものであり、その登録に無効理由が存在する。
イ 本件第2商標権について
 本件第2商標権は、「一枚甲」という横文字からなる商標である。この「一枚甲」なる名称は「普通名称」にほかならない。そして、本件第2商標権は、その外観・称呼・観念を通じ、原告製造にかかる三味線バチは、分厚い一枚のべっ甲を使用してバチ先を作製したものであるという、その「普通名称」を直感させ、それ以上に、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められないから、「普通に用いられる方法」で表示されたというべきである。
 したがって、本件第2商標権は、商標法3条1項1号に違反するものであり、その登録に無効理由が存在する。
ウ 以上のとおり、本件各商標権の登録には無効理由が存在していることが明らかであるから、原告の被告に対する商標権に基づく損害賠償請求は許されないというべきである。
【原告の主張】
 「一枚甲」は、既に述べたとおり、「品質」、「原材料」、「形状」を表示するものではないし、「普通名称」でもない。したがって、本件各商標権に無効理由は存しない。
(8) 争点7(損害の額)について
【原告の主張】
 被告は、本件各商標を原告の許可なく使用してべっ甲バチを製造販売し、年間800万円を越える純利益をあげている。また、仮に原告が被告に対して本件各商標権の使用を許すとすれば、その実施料相当額は年間800万円を下ることはない。被告が、被告標章の使用を中止したとしても、原告は被告標章の使用が中止されるまでの過去20年余りの間に1億6000万円近い損害を被った。
 原告は、本件商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部請求として、3000万円及びこれに対する平成17年12月23日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点3−2(被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示〔商標法26条1項2号〕に該当するか)について
 本件事案の内容及び当事者双方の主張立証などに鑑み、被告標章の使用が商標法26条1項2号に該当するか否かについて判断する。
(1) 被告標章は、三味線のバチの「品質」ないし「原材料」を表示する用語であるかについて
ア 「一枚甲」という用語は、それ自体は広辞苑等の国語辞典に掲載されていないものの、「一枚」と「甲」を併せた用語であることは明らかである。
 そして、「甲」には「蟹または亀などの外表を被う殻。」との意味があり、この意味では、「甲羅、…、亀甲」との用例が広辞苑に記載されている(甲6(広辞苑第5版))。
イ 陳述書及び業界組合の意見等について
a) 被告が提出するべっ甲職人等(乙2ないし4)、製造卸業者(乙5ないし15)、小売店等(乙16ないし38の2)、演奏家(乙39)ないし業界組合(乙40)作成の陳述書には、次の記載がある。
@ 三味線のバチの台材の先に付けるべっ甲について、一枚の厚いべっ甲を割いて先付けした三味線のバチを「一枚甲」、一枚のべっ甲で作れるほど厚くないべっ甲2枚以上を両方から合わせて台材に張り合わせる方法で先付けした三味線のバチを「合わせ甲」ないし「二枚甲」といい、一枚甲であるか合わせ甲ないし二枚甲であるかにより、弾くときの感触や音色の点で違いがあり、価格も一枚甲の方が高いものであることから、取引時には、一枚甲か合わせ甲ないし二枚甲かを問い合わせるのが通常である(乙2ないし5、7、8、13、16ないし18、19の1、20ないし37、39)。
A 昭和26、27年ころには、分厚い一枚のべっ甲を先端に取り付けた三味線のバチを意味する一枚甲という名称が使用されていた(乙16、17)。
B 昭和30年ころには、分厚い一枚のべっ甲を先端に取り付けた三味線のバチを意味する一枚甲という名称が使用されていた(乙18)。
 昭和35年ころには、一枚の厚い甲羅から製造されるバチについて「一枚甲」の名称が使用されていた(乙5、7、19の1)。
 昭和38年ころには、分厚い一枚のべっ甲を先端に取り付けた三味線のバチを意味する一枚甲という名称が使用されていた(乙20)。
C 昭和40年代には一枚の厚い甲羅から製造されるバチについて「一枚甲」の名称が使用されていた(乙3、4、8、21ないし32)。
D 昭和50年ころには、分厚い一枚のべっ甲を先端に取り付けた三味線のバチを意味する一枚甲という名称が使用されていた(乙33ないし35)。
E 昭和52年以来、約500軒程度の小売店(全国で700ないし800軒程度と思われる。)と取引を行ってきた。「一枚甲」は台の先に取り付けられているべっ甲が一枚の物を指す言葉として使用されてきた(乙13)。
b) 一方、原告が提出するべっ甲職人等、製造卸業者、小売店等、演奏家ないし業界組合作成の陳述書には、次の記載がある。
@ べっ甲細工の業界において、一枚の甲羅から三味線のバチを作成することは一般的ではなく、また、一枚のべっ甲から作成された製品と数枚のべっ甲から作成された製品とで、その特質に特に相違はなく、外観上も識別し得ないものであるから、一枚のべっ甲から作成された三味線のバチを特に「一枚甲」という呼称を用いて区別したことはない(甲4の8)。
A 「一枚甲」は、技術的に優れた原告のバチに表示された原告の商標であると認識していた(甲4の9・10・18・23、10の1ないし9、11ないし15、21、30、31)。
c) 三味線のバチの業界における「一枚甲」という名称の使用状況について、小売業者を主な組合員とする東京邦楽器商工業協同組合は、本訴における被告の立場を支持する旨の決議をし、一方、卸業者を主な組合員とする東京和楽器製造卸組合は、本訴における原告の立場を支持する旨の決議をしている(東京和楽器製造卸組合が加盟している全国邦楽器商工業組合連合会は、同組合の決議を支持している。)(甲25ないし29、乙40、41)。
ウ このように、三味線バチ業界においては、業界を二分して、「一枚甲」との用語について、対立する見解を述べた陳述書が提出され、組合決議がなされているため、ここで文献や過去の取引書類等の客観的な資料を検討する。
a) 文献
@ 昭和27年発行の「長崎の鼈甲細工について(二)」と題する文献には、「本邦に於ける当初の細工は、現今に於ける外国人の細工と同様、一枚甲からの挽抜であった。」、「前記したプレス台上に於て充分に締め圧縮すると、蒸気に依る鼈甲自体の粘力に依って接着し、殆んど合せ目が不明となり、元の一枚甲の如き物質となる。」との記載がある(乙1)。
A 上記記載は、べっ甲細工の細工技術を述べるものであって、亀の甲羅が複数の六角形の部分の組み合わせから成っていること(甲5)に照らせば、亀の甲羅の複数の六角形の部分の内の一枚を「一枚甲」と称し、これを材料としたべっ甲細工について説明したものである。したがって、上記記載によっては、一枚のべっ甲から作製された三味線のバチを「一枚甲」と称していたことまでを認めることはできないものの、亀の甲羅の複数の六角形の部分の内の一枚を「一枚甲」と称し、これをもって作成された三味線のバチとそうでないバチとがあったことは認めることができる。
b) 定価表等の書類
@ 昭和56年1月及び昭和59年1月作成の株式会社大瀧邦楽器・株式会社九州オータキの定価表には、「ふじ印」(有限会社山口製作所のブランド名)の「惣甲撥」の中に「一枚甲」という名称の商品区分が設けられている(乙6の1・2)。
 なお、原告が有限会社山口製作所に対し、平成16年2月12日付け内容証明郵便で、本件第2商標権に基づく侵害警告を行ったのに対し、同社は、同年3月4日付け内容証明郵便で、「一枚甲なる表現を当該ばちの品質、生産の方法等を普通に用いられる方法で表示するものとして使用しており、また、当該表示を付した商品については、既に、貴殿の商標登録出願に先立つ昭和30年代頃より、その販売を開始しております。」と回答している(甲20の1・2)。
A 昭和55年3月及び平成4年7月発行の牧本楽器株式会社の価格表(牧本商報)には、「象牙代用撥」について「一枚甲」という名称の商品区分が設けられている(乙10の1・2)。
B 日本放送出版協会が昭和57年10月に発行した「箏のおけいこ」と題するテキストに掲載された有限会社山口製作所の広告には、「亀甲入り撥の部」に「一枚甲」という商品区分が記載されている(乙14)。
C 昭和61年1月作成の小川楽器製造株式会社のカタログには、「撥」について「一枚甲」という名称による商品区分が設けられている(乙11)。また、平成3年11月及び平成8年5月作成の同社卸売価格表にも、「撥」について「一枚甲」という名称の商品区分が設けられている(乙12の1・2)。
 なお、小川楽器製造株式会社は、原告の申入れを受け、平成16年6月27日、「一枚甲」という名称を使用しない旨の覚書を原告と締結した(甲4の20、9の3)。
D 平成元年3月作成の株式会社銀河楽器の定価表には、「ふじ印」の「べっ甲撥」の中に「一枚甲」という名称の商品区分が設けられている。また、これとは別に「べっ甲撥(関東製一枚甲)」との記載もある(乙9)。
E これに対し、昭和38年9月に発行された「邦楽器商報」に掲載された小売標準価格表のばち類欄には、「一枚甲」という名称の商品名は記載されていない(甲9の2)。また、平成15年ころに株式会社柏屋が使用していた「楓印、雅印及びお勧め商品」と題する冊子にも、「一枚甲」という商品名は記載されていない(甲22)。
c) ホームページ
@ 有限会社弦匠のホームページには、「当社では(並)から(特上)まで撥先は全て一枚甲で、欠けにくい撥を取り扱っています。」との記載がある(乙15)。
A 和楽器市場と題するホームページには、「こちらの撥は貼り合わせの二枚甲ではなく、一枚甲の作りになっておりますので、」との記載があり、「鼈甲撥(一枚甲)」との商品表示がされている(乙38の1・2)。
d) 上記認定事実によれば、三味線のバチにおける「一枚甲」との用語は、被告が提出している上記各陳述書に記載されたとおり、遅くとも昭和50年代半ば以降に、三味線のバチの台材の先に、一枚の厚いべっ甲を割いて先付けしたものを意味する用語として、少なくとも業界の一部の業者において使用されていたものと認められる。そして、「一枚甲」の三味線バチは、一枚甲で作れるほど厚くないべっ甲2枚以上を両方から合わせて台材に張り合わせる方法で先付けしたものである「合わせ甲」ないし「二枚甲」の三味線バチとは、その品質が異なり、原材料となるべっ甲の品質及び枚数が異なることから、その価格も異なるものであるため、その取引時には、三味線のバチのこの品質及び原材料を明らかにするために「一枚甲」か「、 合わせ甲」ないし「二枚甲」かを明示する必要がある場合が少なくはないと考えることは合理的である。
 以上によれば、被告標章を構成している「一枚甲」との用語は、少なくとも被告標章が使用され始めた平成5年当時とそれ以降においては、三味線のバチに先付けするべっ甲の種類を表示するだけでなく、三味線のバチそのものの品質及びその原材料を表示する用語として使用されていた名称(標章)であると認めることができる。
エa) 原告は、品質や原材料を記述するためには普通の日常語を用いて説明的に表示する必要があり、「一枚甲」は記述的表示の情報伝達機能に乏しい、と主張する。しかし、一般人が知らない用語であるとしても、三味線のバチの取引者・需要者の多数がこのような品質ないし原材料を表す用語であることが認識できるのであれば品質や原材料を表す表示というべきである。そして、「一枚甲」との用語は、三味線のバチの台材の先に、一枚の厚いべっ甲を割いて先付けしたものを意味する用語として、昭和50年代半ば以降は、少なくとも業界の一部の業者において使用されていたものであり、「合わせ甲」ないし「二枚甲」の三味線のばちとは、原材料となるべっ甲の品質及び枚数が異なるだけでなく、その品質が異なり、その価格も異なるものであるため、その取引時には、「一枚甲」か「合わせ甲」ないし「二枚甲」かを明示する必要がある場合が少なくはないことは前記認定のとおりであるから、「一枚甲」との用語は、三味線のバチの取引者・需要者がその取引の場においてその品質を確認するのに必要な用語であり、それらの多くの者がこの用語の意味するところを認識しているものと認めるのが相当である。
b) 原告は、伝統業界の大勢は「一枚甲」を「原告のべっ甲バチ」として高く評価している事実があり、「一枚甲」の出所識別表示の機能は十分に認められる、と主張する。しかし、原告が三味線のバチに使用しているのは、「一枚甲」の縦書き文字及び「亀」の模様を、「ばち」形の輪郭線で囲んだ本件第1商標であることからすれば(甲5)、業界が原告の商標として認識しているものは、このような「一枚甲」と図形との組合せ商標であり、これは単なる「一枚甲」との文字標章とは異なるものである。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 被告標章が「商品の…品質、原材料…を普通に用いられる方法で表示」(商標法26条1項2号)したものかについて
 被告標章は、金色の六角形のシールに「一枚甲」という漢字表記をごくありふれた字体で行うものであり、これをバチの才尻に貼付するものである。被告標章のうち、シールの六角形の形状は、シールの形状としてはありふれたものであり、何らかの自他識別機能を有するものということはできない(仮に、このシールの形状が六角形であることから、亀の甲羅を想起する者がいたとしても、これ自体はありふれたシールの形状にすぎず、自他識別機能を有するものということはできない。)。そして、三味線のバチの使用方法に照らせば、品質ないし原材料を表示する被告標章のシールをその握り手の部分に貼付することは、その使用により容易に剥がれてしまうおそれがあることを考えると一般的ではなく、これに対し、このようなシールをその才尻の部分に貼付することは、バチの使用方法に照らし、合理的な方法であるということができる。したがって、原告がバチの才尻部分に本件各商標を付していること(甲5)を考慮しても、被告標章は、依然としてバチの品質ないし原材料を「普通に用いられる方法で表示する」ものであるというべきである。
(3) 原告は、価格表や広告などに「一枚甲」が使用され始めるのは、原告による本件各商標権の登録出願時以降である、と主張する。しかし、商標法26条1項2号は、商標権の効力が及ばない範囲を規定しているのであり、被告による被告標章の使用時に、同標章の使用が同号の規定に該当すれば、本件各商標権の効力が及ばないことになるのである。本件においては、原告が本件各商標権侵害を理由とする損害賠償を求めている平成5年ころから本訴提起時までの期間において、同号の規定の適用が認められれば、本件各商標権の効力が及ばないというべきである。したがって、三味線のバチの品質ないしは原材料を意味する用語として、価格表や広告などに「一枚甲」との用語が使用され始めたのが、原告による本件各商標権の登録出願時以降である昭和50年代半ばからであるとしても、前記認定のとおり、遅くとも平成5年ころ以降には「一枚甲」と、 の用語は、三味線のバチの品質ないし原材料を意味する用語として使用されていたものと認められる以上、被告による被告標章の使用には本件各商標権の効力は及ばないというべきである。
(4) 以上によれば、被告による被告標章の使用については、商標法26条1項2号により、本件各商標権の効力は及ばないものというべきである。
2 結論
 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 古河謙一
 裁判官 吉川泉


別紙目録省略
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