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【事件名】インクカートリッジの特許権侵害事件(エプソン)
【年月日】平成18年10月18日
 東京地裁 平成16年(ワ)第26092号 特許権侵害差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成18年7月31日)

判決
原告 セイコーエプソン株式会社
同訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 早稲本和徳
同 七字賢彦
同 鈴木英之
同 大友良浩
同 隈部泰正
同 戸谷由布子
同訴訟復代理人弁護士 白石弘美
被告 株式会社エコリカ
同訴訟代理人弁護士 溝上哲也
同 岩原義則
同補佐人弁理士 山本進


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙物件目録1ないし6記載の各製品を輸入し、販売し、又は販売のための展示をしてはならない。
2 被告は、その本店、支店、営業所又は倉庫に存在する前項の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金500万円及びこれに対する平成16年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、インクジェット記録装置用インクタンクに関する特許権を有する原告が、原告製造販売に係るインクタンクが一度使用された後にインクを再充填されるなどして製品化されたものを被告が輸入し、販売している行為が、上記特許権を侵害するとして、被告に対し、特許法100条に基づき、上記行為の差止め等を、民法709条に基づき、一部請求として金500万円の損害賠償(これに対する訴状送達日以降の遅延損害金を含む。)を求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項1の特許発明を「本件発明1」と、同請求項2の特許発明を「本件発明2」といい、本件発明1と本件発明2を併せて「本件発明」という。また、本件特許権に係る特許を「本件特許」といい、 その明細書を「本件明細書」という。)を有している。
 特許番号 第3257597号
 発明の名称 インクジェット記録装置用インクタンク
 出願年月日 平成4年2月19日
 出願番号 特願2000−388604
 登録年月日 平成13年12月7日
 特許請求の範囲
 (請求項1)
 「インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。」
 (請求項2)
 「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。」
(2) 構成要件の分説
ア 本件発明1を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。
1A インクを収容する容器と、
1B インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、
1C 前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、
1D 前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなる
1E インクジェット記録装置用インクタンクイ本件発明2を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。
2A キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
2B インクを収容する容器と、
2C インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、
2D 前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、
2E 前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなる
2F インクジェット記録装置用インクタンク。
(3) 被告の行為
 被告は、業として、別紙物件目録1ないし6記載の各製品(以下同目録中の番号に従って「被告製品1」ないし「被告製品6」といい、被告製品1ないし6を併せて「被告製品」という。)を販売している。
(4) 被告製品の構成
 被告製品の具体的構成は、それぞれ、別紙「被告製品1の構成」ないし「被告製品6の構成」のとおりである。
(5) 本件発明と被告製品との対比
 被告製品は、いずれも、本件発明1の構成要件1A、1B、1Eを、本件発明2の2A、2B、2C、2Fを充足する。
(6) 出願経過等
ア 本件特許は、平成4年2月19日にされた出願(特願平4−32226号。以下「本件原出願」という。また、本件原出願の願書(乙6)に添付した明細書を「本件原明細書」といい、本件原明細書と本件原出願の願書に添付した図面を、「本件図面」といい、本件明細書と本件図面を併せて「本件原明細書等」という。なお、本件図面のうち、個々の図面を表記するときは、 末尾にその図面の番号を付記して、「本件図面1」などと表記する。)につき、平成12年12月21日に分割出願されたものである(甲2、乙6。同分割出願を以下「本件分割出願」という。)。
イ 本件原出願は、平成11年2月18日に手続補正がされ(乙7。以下「本件補正」といい、本件補正に係る手続補正書を「本件補正書」という。)、平成13年11月2日に特許第3246516号として設定登録されたが(乙8の2)、その後、平成14年5月7日に訂正審判請求がされ、同年12月10日、同請求について、これを認める旨の審決がされ、同審決は同月20日に確定した。これにより、本件原出願の特許請求の範囲請求項2は以下のとおりとなった(甲23。本件原出願の特許請求の範囲請求項2に係る発明を以下「本件原出願発明」という。)。「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通し、先端が円錐面として形成されたインク供給針を備えたインクジェット記録装置に装着するインクタンクにおいて、インクを保持するインク吸収用多孔質体と、前記インク吸収用多孔質体を収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面から突出するように筒状に形成されて前記インク吸収用多孔質体のインクが流入し、かつ前記インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されているインク取り出し口と、前記インク取り出し口の、前記インク供給針の挿通側に設けられて前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するリング状シール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止するように前記インク取り出し口に接着され、かつ前記インク供給針の円錐面により破断されるフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。」
2 争点
(1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。
 被告製品は、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2D及び2Eを充足するか。
(2) 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか。
ア 本件分割出願が不適法として、出願日が本件分割出願の日である平成12年12月21日となるか。
(ア) フィルムの実質的効果の追加の点について
(イ) 「パッキン6」を「環状シール材」とした点について
(ウ) インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させた構成を含まないものも対象となるようにした点について
(エ) 本件発明は、本件原出願発明と同一か。
イ 本件補正は要旨変更に当たるか(本件特許の出願日が本件補正書を提出した平成11年2月18日となるか。)。
(ア) インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させた構成を含まないものも対象となるようにした点について
(イ) 「環状のシール材」と「インク供給針」との接触状態を「密着」から「弾接」に変更した点について
ウ 本件発明は本件原出願発明と同一であるから、本件特許は、二重特許禁止の原則に反するとして、特許法39条2項により無効となるか。
エ 本件特許の出願日が平成12年12月21日又は平成11年2月18日であるとした場合、本件発明は新規性又は進歩性を欠くか。
オ 本件特許の出願日が本件原出願の出願日である平成4年2月19日とした場合、本件発明は進歩性を欠くか。
カ 本件特許1は、特許法29条の2により無効となるか。
(3) 被告製品について、本件特許権は消尽しているか。
(4) 損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 被告製品の本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2D及び2Eの充足性−被告製品のパッキン5は本件発明の「環状のシール材」といえるか(争点(1))について。
(原告)
ア 「環状のシール材」の意味
(ア) 本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「環状」とは、「円い形状」を意味すると解すべきである。
 理由は以下のとおりである。
a 広辞苑第5版によれば、「環」とは、「長いものをまげて円くしたもの。また、 円い形のもの。」を意味するとされているから、「環状」とは、「円い形状」を意味すると解すべきである。この点、被告は、広辞苑第5版の上記記載から「環状」は「長いものをまげて円くしたような形のもの」を意味すると解すべきであると主張するが、広辞苑第5版の上記記載においては、「円い形のもの」という部分には、「長いものをまげて」という修飾語は付されていないから、被告の上記主張は失当である。
b 当業者においても、「環状」という語は、被告製品のパッキン5の形状を含むものとして理解されている。例えば、特開平10−329329号公報(甲4)では、被告製品のパッキン5に類似している部材が「環状壁31」と説明されている。
(イ) 被告は、本件発明の「環状のシール材」とは、その外側を封止したフィルムの未破損領域により、インク取り出し口から抜け出すことを防止できるように構成されている部材でなければならない旨主張するが、本件明細書の特許請求の範囲には、「環状のシール材」について、そのような限定は付されておらず、被告の主張する上記限定解釈は失当である。
 また、そもそも、本件発明の作用効果は、フィルムの未破損領域による抜け出しの防止を可能にしたことだけではなく、シール材のインク供給針挿通側を封止することによってインクの漏れ出しを防止すること、フィルムによって封止することによって、先鋭度の低い供給針の使用を可能としたことにもあるから、そのような作用効果の観点からみても、上記のような限定解釈は相当ではない。
(ウ) また、被告は、本件原明細書においては「環状」という文言はなく、本件原出願当初においては、「パッキン6」が「環状」のものであることが認識されていなかった旨主張する。
 しかし、 本件原明細書の特許請求の範囲請求項1 、 段落【0 0 12】には、「パッキン6」が、「シール部材」として用いられていることが記載されており、本件図面3及び5には、「シール部材」すなわち「パッキン6」が「環状」の部材であることが開示されていたのであるから、被告の上記主張は失当である。
イ 対比
(ア) 被告製品のパッキン5は、円い形状をしているから、本件発明の「環状」ということができる。
 仮に、被告の主張するように、「環状」を「長いものをまげて円くしたような形のもの」と解したとしても、被告製品のパッキン5は、そのような形状をしているから、「環状」ということができる。
(イ) 仮に、本件発明の「環状のシール材」を、被告が主張するように、外側を封止したフィルムの未破損領域によってインク取り出し口から抜け出すことを防止できるように構成されているものに限定解釈したとしても、フィルムがない場合に、被告製品のパッキン5が抜け出す可能性がないわけではなく、被告製品においても、フィルムの未破損領域による抜け出し防止効果は認められるから、被告製品のパッキン5は「環状のシール材」に当たる。
 この点、被告は、乙第65号証の実験を根拠に、被告製品のパッキン5はインク取り出し口から抜け出す可能性はない旨主張するが、乙第65号証の実験は、第三者機関による実験でもなく、また、製品各1個ずつについての実験であり、同実験のデータは有意性のあるものとは到底いえない。
(ウ) また、被告は、被告製品のパッキン5は、フィルムが存在しなくても抜け出すことはなく、フィルムの未破損領域による抜け出し防止効果を奏しないので、「環状のシール材」には当たらないと主張する。しかし、上記(イ)のとおり、フィルムがない場合に被告製品のパッキン5が抜け出す可能性がないわけではなく、上記効果は認められる。
 しかも、本件発明の作用効果は、フィルムの未破損領域による抜け出しの防止を可能にしたことだけではなく、シール材のインク供給針挿通側を封止することによってインクの漏れ出しを防止すること、フィルムによって封止することによって、先鋭度の低い供給針の使用を可能にしたことにもあるところ、被告製品5も同様の作用効果を有しており、この観点からも、パッキン5が本件発明の環状のシール材に該当するとすることに何らの妨げもない。
ウ まとめ
(ア)a 以上の検討を踏まえて、被告製品の構成を、本件発明1の各構成要件に対応させると、以下のとおりとなる。
1a インクを収容する容器2を備えている。
1b インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク供給口3を備えている。
1c 前記インク供給口3に設けられ、前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のパッキン5を備えている。
1d 前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止し、かつ前記インク供給口3に接着された薄膜4を備えている。
1e インクジェットプリンタ用インクタンクである。
b 被告製品それぞれの、インク供給口3、インク供給針6、パッキン5及び薄膜4は、順に、本件発明1の、インク取り出し口、インク供給針、シール材及びフィルムに相当するから、被告製品は、本件発明1の構成要件1C及び1Dを充足する。
(イ)a また、同様に、被告製品の構成を、本件発明2の各構成要件に対応させると、以下のとおりとなる。
2a キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられたインク供給針6を備えたインクジェットプリンタに着脱されるインクタンクである。
2b インクを収容する容器2を備えている。
2c インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク供給口3を備えている。
2d 前記インク供給口3に設けられ、前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のパッキン5を備えている。
2e パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止し、かつ前記インク供給口3に接着された薄膜4を備えている。
2f インクジェットプリンタ用インクタンクである。
b 被告製品それぞれの、インク供給口3、インク供給針6、パッキン5及び薄膜4は、順に、本件発明2の、インク取り出し口、インク供給針、シール材及びフィルムに相当するから、被告製品は、本件発明2の構成要件2D及び2Eを充足する。
(被告)
ア 「環状のシール材」の意味
(ア) まず、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「環状」とは、「輪の形(リングの形)をした」、「長いものをまげて円くしたような形のもの」を意味し、管状のものは含まないと解すべきである。
 理由は以下のとおりである。
a 発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載が明確である限り、同記載の字義どおりに認定すべきところ(特許法70条1項)、日本語大辞典によれば、「環状」という語は、「輪のような形、ループ、リング」を意味する一般的な語であって、その語の意味も明確であるから、本件発明の「環状」も、字義どおり、「輪の形(リングの形)をした」の意味に解すべきである。
b 明細書及び図面の記載を考慮しても(特許法70条2項)、本件明細書には、「パッキン6、つまりリング状に形成されたパッキン6が、複数のインク供給孔9aを空間8に露出させる位置に固定されている。」との記載(段落【0008】)があり、パッキン6の形状がリング状であることを明記していること、及び本件図面には、断面が真円のリング状のシール材のみが図示されていることを考慮すれば、本件発明の「環状」とは、上記の本来の意味以上のものは何も定義されていないといわざるを得ない。
c 原告は、広辞苑第5版を引用して、「円い形」状のものはすべて「環状」に含まれる旨の主張をしているが、 広辞苑第5 版では、「環状」を「長いものをまげて円くしたもの。また、 円い形のもの。」と記載しており、同記載の前半部分と後半部分の繋がりと常識からすれば、「環状」とは、円い形状のものをすべて含むという意味ではなく、「長いものをまげて円くしたような形のもの。」と解すべきである。
d 本件原明細書等には、パッキン6のみが記載されており、しかも、このパッキン6の形状を「環状」という語を用いて概念的に説明している箇所はどこにも存在せず、被告製品のように上下方向に長さを有する管状の部材の構成は一切記載されていないのであるから、本件特許の発明者は、本件原出願の出願当時、本件図面に図示されているパッキン6の形状の構成しか認識しておらず、上下方向に長さを有する管状の部材の構成は発明していなかったというべきである。したがって、権利行使の段階になって、発明時に認識していなかった上下方向に長さを有する管状の部材の構成についてまで本件特許権の効力が及ぶと解することは、出願時点で発明者が発明として認識した限度以上に権利行使を認めることになり、認識限度論から見ても失当である。
e 原告は、特開平10−329329号公報では、被告製品のパッキン5に類似した部材が「環状壁31」と説明されている旨主張するが、 同公報では、 栓体3 0 を構成する弾性材料の一部の構造を「環状壁3 1 」と称しているのであって、 栓体3 0 の全体形状を「環状」と表現しているわけではないから、原告の上記主張は失当である。
(イ) 次に、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「シール材」とは、その外側を封止したフィルムの未破損領域により、インク取り出し口から抜け出すことを防止できるように構成されている部材であり、未破損のフィルムが存在しなくとも抜け出すことのない構造の部材は含まないと解すべきである。
 すなわち、原告は、本件原出願に対し、シール部材の内側にフィル
ムを設ける構成が開示されている特開昭63−3961号(乙11。以下「文献乙11」という。)等を引用例とする特許法29条2項の拒絶理由通知が発せられた際、フィルムによる抜け出し効果に言及した手続補正(本件補正)を行うとともに、平成12年12月21日付意見書(乙49)を提出したが、同意見書において、「本願発明のようにシール材の外側をフィルムで封止する構造を採ることにより、(中略)、供給口近傍に残る未破損領域によりシール材の抜け出しを防止できるという特別顕著な効果がある。」と主張しているところ、同主張は、シール部材の内外のどちらで封止するかは設計的事項にすぎないと判断した特許庁の審査官に対し、その拒絶理由の判断の根拠となった上記文献乙11等の従来技術との作用・効果の違いを認めさせるため、「インク取り出し口に接着されたフィルム」の効果を特に強調したものである。したがって、禁反言の原則により、本件発明における「シール材」とは、その外側を封止したフィルムの未破損領域により、インクの取り出し口から抜け出すことを防止できるように構成されている部材と解すべきである。
 また、本件明細書の作用効果の欄の段落【0018】には、インク取り出し口に接着されたフィルムの未破損領域がインク取り出し口に残存し、この未破損領域で「環状のシール材」がインク取り出し口から抜け出すのを防止することができることが記載されていることから、本件発明の作用効果は、フィルムの未破損領域でシール材の抜け出しを防止するというものであり、シール材は、フィルムの未破損領域により、インクの取り出し口から抜け出すことを防止できるように構成されている部材と解すべきである。
イ 対比
(ア) 被告製品1、2、5及び6のパッキン5は、下面側が広く開口し、上面側は平坦面の占める面積が広く中央が狭く開口し、かつ、上下方向に長さを有する管状の部材である。また、被告製品3及び4のパッキン5も上下方向に長さを有する管状の部材であり、下面側は広く開口し、上面側は内側と外側に分かれて二重管構造となっている。したがって、被告製品のパッキン5の形状は、いずれも「環状」ということはできない。
(イ) 被告製品のパッキン5は、インク取り出し口の内壁面と広い面積で圧接しており、かつ、横方向に張り出し、その外径がインク取り出し口の内径よりも大きくなっている張出部が存在しているので、フィルムの未破損領域が存在しなくても抜け出すことはない。この点を確認するため、被告は、被告製品のフィルムを完全に除去した状態で、パッキン5が抜け出すかどうかの実験を行ったが、同実験においては、パッキン5が抜け出したものは一つもなかった(乙65)。
(ウ) したがって、被告製品のパッキン5は、「環状のシール材」ということはできず、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2D及び2Eのいずれも充足しない。
(2) 本件分割出願の適法性(本件特許の出願日は平成12年12月21日となるか。)−フィルムの実質的効果の追加の点(争点(2)ア(ア))について
(被告)
ア 本件分割出願時の明細書の段落【0018】には、本件原明細書等に記載のなかった「インク供給針が挿通された時点では、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる」というフィルムの実質的効果が補充されているから、本件原明細書等に記載のない技術的事項を含んでおり、不適法な分割出願というべきである。
 したがって、本件分割出願には、出願日の遡及は認められず、本件特許の出願日は、本件分割出願の日である平成12年12月21日となる。
 なお、本件特許に対する特許無効審判事件(無効2005−80144。)の審決(以下「本件審決」という。)においても、被告の上記主張と同様の判断がされている。
イ これに対して、原告は、仮に、フィルムの強度がパッキン(シール部材)の抜け出しを防止する程度の強度を備えていないのであれば、本件図面3のような図はあり得ず、フィルムがパッキン(シール部材)を支えきれず、フィルムの下にパッキン(シール部材)が落ちた図面となるはずであるから、フィルムが「シール材の抜け出しを防止することができる」ことは、本件図面3に開示されていたと主張する。
 しかし、本件図面3は、本件原明細書の【図面の簡単な説明】に記載されているように、「本発明によるインクジェット記録装置においてインクタンクを装着した時の接続部の実施例を示す部分詳細図。」であり、本件原明細書の段落【0012】にも、インクタンク1をインクジェット記録装置に装着したときは、「パッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、・・・」と説明されているだけであり、その他、明確な説明がないため、パッキン6が下方に抜け出さずに図3のような状態でフィルム4の上側に留まっているのが、残存しているフィルム4の未破損領域がパッキン6の抜け出しを防止できる程度の強度を備えているからであるのか、同未破損領域に同強度はないが、インク供給針9と密着することによるものであるかは、判別できないといわざるを得ない。
 また、図3によれば、インク供給針9の挿通により生じた円形孔の直径は、フィルム4の直径の50%以上を占める大きなサイズであることが確認でき、かつ、その大きな円形孔の近傍にパッキン6が位置しているから、フィルム4が柔らかい素材であれば、フィルム4の未破損領域ではパッキン6を支えきれず、パッキン6が外側に抜け出してしまうはずである。したがって、図3を見ただけでは、フィルム4の強度がどの程度のものであるかまでは判別不能である。
 したがって、本件図面3を根拠とする原告の上記主張は失当である。
ウ また、原告は、前記のフィルムの実質的効果の記載は、本件原明細書等の記載事項の範囲内で自明に理解できる効果であると主張し、その根拠として、 本件原明細書の段落【0 0 0 7】、 段落【0 0 1 1】、 段落【0012】の記載を引用している。
 しかし、原告が引用した「インク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6」という記載は、何れもインク供給針が挿通される前の状態を説明したものであり、インク供給針が挿通される以前においては、フィルム4は破られていないから、「保持された」という文言で説明されていたとしても、それは、インク供給針が挿通された時点におけるフィルムによる環状のシール材の抜け出し防止効果の根拠にはなり得ない。
 また、この「インク取り出し口3とフィルム4の間で」の意味するところを検討すると、当該「で」の用法は、「AとBの間で」と表現されていることからして、手段や方法を表すものではなく、AとBの間に存するという場所を意味するのであって、上記の場合は、インク取り出し口3とフィルム4との間にパッキン6が存在することが記載されているにすぎないと解するのが自然である。
 したがって、原告の上記主張も失当である。
(原告)
 フィルムが「シール材の抜け出しを防止することができる」ことは、本件図面3 に開示されていた。すなわち、 仮に、 フィルムがパッキン(シール部材)の抜け出しを防止する程度の強度を備えていないのであれば、本件図面3のようにフィルムがパッキンを支えている図はあり得ず、フィルムがパッキンを支えきれず、フィルムの下にパッキンが落ちた図となるはずであるから、本件図面3から、フィルムがパッキンの抜け出しを防止する程度の強度を備えていたことは明白である。
 また、インク供給針9が挿通されたときのフィルムの未破損領域は、円形孔の周囲を取り囲んで一体の平面状になっており、かつ、インク供給針9が挿通された円形孔がフィルムに比して小さい断面積であるから、力学的に見ても、パッキン6をインク供給側に移動させる力が働いても、平面状のフィルム4の未破損領域に当たって、パッキン6のインク供給側への抜け出しを防止する作用をもたらすことは十分に理解できる。
 さらに、本件原明細書等には、「該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材」(段落【0007】)、「空間8にはインク取り出し口3 とフィルム4 間で保持したパッキン6 が装着されている。」(段落【0011】)、「インク取り出し口3とフィルム4間で保持されたパッキン6」(段落【0012】)と記載されており、パッキン6がフィルム4で保持されていることが記載されている。
 したがって、「インク供給針が挿通された時点では、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」という効果は、本件原明細書等の記載事項の範囲内で自明に理解できる効果であり、この点に関する被告の主張は理由がない。
(3) 本件分割出願の適法性(本件特許の出願日は平成12年12月21日となるか。) − 「パッキン6 」を「環状シール材」とした点( 争点(2 )ア(イ))について
(被告)
 本件原明細書には、「パッキン6」について、「パッキン6」、「供給針シール部材」という名称と、断面が真円の棒状の長いものを曲げて端と端をつないで円くした形の「パッキン6」の図面しか開示されておらず、「環状」という記載はなく、概念的な広がりは一切なかったにもかかわらず、本件分割出願において、特許請求の範囲に「環状のシール材」と記載された。そして、原告は、本件発明の構成要件1C及び2Dの「環状」を、被告製品に使用されている「環状のラバーチューブ」までを含むものとして主張するのであるから、「環状」という上位概念を追加した本件分割出願は、本件原明細書に記載されていなかった事項を後付けで追加した不適法な分割出願というべきである。
 このように、本件分割出願の明細書には、本件原明細書に記載のない事項が含まれていることから、本件分割出願は不適法であり、したがって、本件特許の出願日は、本件分割出願の日である平成12年12月21日となる。
(原告)
 前記(1)で主張したように、「パッキン6」が「環状」のものであり、かつ、「シール部材」であることは、本件原明細書において明らかにされていたのであるから、被告のこの点に関する主張は失当である。
(4) 本件分割出願の適法性(本件特許の出願日は平成12年12月21日となるか。)−インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させた構成を含まないものも対象となるようにした点(争点(2)ア(ウ))について
(被告)
ア 本件原明細書の要旨は、インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設けることにより、メニスカスの体積を減らしてインクタンク交換時の気泡の侵入が少ないインク供給装置を提供できる点、及び、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる点にあると認められる。ところが、本件分割出願の明細書では、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させない構成も含まれるように発明の要旨が変更されている。
 このように、本件分割出願の明細書には、本件原明細書に記載のない事項が含まれていることから、本件分割出願は不適法であり、したがって、本件特許の出願日は、本件分割出願の日である平成12年12月21日となる。
 なお、本件審決においても、被告の上記主張と同様の判断がされている。
イ これに対して、原告は、「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している」という構成は、フィルムを保護するという目的のために採られた構成であって、本件原出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明(以下「本件原当初発明」という。)の本来の目的を達成するための構成ではなく、付加的な構成にすぎず、このような付加的な部分を削除しても、発明の本来の目的、発明の本質には、何ら変更はないのであるから、発明の「要旨を変更」することにはならないと主張する。
 しかし、本件原明細書において、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させることによってフィルムを保護することが薄いフィルムを採用するにあたっての不可欠な要件であったことは、本件原明細書の段落【0006】、【0007】、【0011】、【0014】、【0015】、【0017】等の記載から明らかである。すなわち、本件原明細書は、インクタンクのインク取り出し口を封止するフィルムに薄いフィルムを用いた場合でも、指で破らないようにすることを課題とし、その課題解決のために、インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを不可欠な構成としていたものであるから、それを付加的な構成ということはできない。
 また、そもそも、発明者が付加的な構成と認識していたのであれば、明細書のどこかに、同構成をあってもなくてもよい選択可能な構成と説明されているはずであるが、本件原明細書においては、インク取り出し口外縁3aをあってもなくてもよい選択可能な構成として説明している箇所はどこにも見当たらない。また、本件図面1ないし6には、インク取り出し口の外縁がフィルムの接着面よりも突出した構成のインクカートリッジのみが図示されていて、インク取り出し口がフィルムの接着面よりも突出していない構成のインクカートリッジはどこにも開示されていない。また、上記各図を見ても、インク取り出し口外縁3aはインク取り出し口3と一体的に構成されているから、インク取り出し口外縁3aの部分を取り外すことを暗に想定していたとも認められない。なお、本件原明細書の段落【0017】には、「さらに図6に示すように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。」との説明があるが、これは、フィルムを二重に接着させた本件図面6の構成を、より望ましい実施形態として選択的に記載しているのであり、本件原出願発明がインク取り出し口外縁3aを設けない構成であってもよいことを記載しているとは到底認められない。
 さらに、本件原明細書の段落【0014】ないし段落【0016】の記載からすると、フィルム4を通常の取り扱いにおいても破れやすいものとした結果、このフィルム4の破損を防止するために、インク取り出し口外縁3aを突出させた構成を採用したものと解され、したがって、本件原明細書においては、インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している構成は、薄いシールを採用するに当たって一体のものと説明されているのであって、各々を単独で用いることを本件原明細書から把握することはできない。
 したがって、原告の前記主張は失当である。
(原告)
 本件原当初発明の目的は、従来技術の@インクタンク交換時に記録ヘッドに流れる気泡の量が多く、印字不良を発生させる要因となっていること、Aインク供給針は先端が鋭く加工されており危険であるため、その安全性を確保する必要があることという技術的課題を解決することにあるところ、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成は、フィルムを保護することを目的として採用されたものであるから、本件原当初発明の本来の目的を達成するための構成ではなく、付加的な構成にすぎない。
 このような付加的な部分を削除しても、発明の本来の目的、発明の本質には、何ら変わりはないのであるから、分割出願の適法性に影響はしないというべきである。
 したがって、被告のこの点に関する主張は失当である。
(5) 本件分割出願の適法性(本件特許の出願日は平成12年12月21日となるか。)−本件発明は本件原出願発明と同一か(争点(2)ア(エ))について
(被告)
ア 本件発明1と本件原出願発明との同一性
(ア) 本件発明1と本件原出願発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
a 一致点
 「インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク」
b 相違点
(a ) 相違点1
 「インク取り出し口」に関して、本件発明1では、「前記容器の底面に筒状に形成されて」としているのに対して、本件原出願発明では、「前記容器の底面から突出するように筒状に形成されて」としている点
(b ) 相違点2
 「容器」に関して、 本件発明1 では、「インクを収容する容器」としているのに対して、本件原出願発明では、「インク吸収用多孔質体を収容する容器」であって、当該「インク吸収用多孔質体」が「インクを保持する」としている点
(c ) 相違点3
 「インク取り出し口に接着される『フィルム』」に関して、本件発明1では、「前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着された」としているのに対して、本件原出願発明では、「前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止するように前記インク取り出し口に接着され、かつ前記インク供給針の円錐面により破断される」としている点(d ) 相違点4
 「インク取り出し口」に関して、本件発明1では、「前記インクが流入する」としているのに対して、 本件原出願発明では、「前記インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されている」としている点
(イ) 上記相違点についての考察
a 相違点1について
 本件発明1と本件原出願発明とのいずれの「インク取り出し口」も、「容器の底面」から「突出する」ものであるから、表現上の差異があるにすぎず、したがって、相違点1は実質的な相違点とは認められない。
b 相違点2について
 本件明細書の段落【0007】に記載される発明の好ましい実施の態様では、「インクを収容する容器」にインクを保持、貯蔵している多孔質吸収材が装填されるものとされており、この多孔質吸収材が本件原出願発明の「多孔質吸収体」に相当するものであることは明らかであるとともに、このような多孔質吸収体(材)を用いて安定したインク保持、貯蔵又はインク供給を図ることは、インクタンクにおける周知・慣用手段を付加したにすぎず、したがって、相違点2は実質的な相違点とは認められない。
 具体的には、特開平3−92356号公報(乙16。以下「文献乙16」という。)の第4図及び第5図に、「吸収材18」が図示されているから、「インクを保持するインク吸収用多孔質体」は、周知技術・慣用技術の付加にすぎないと認められる。
c 相違点3について
 本件発明1と本件原出願発明とのいずれの「フィルム」も、「インク供給針」が挿通される際に破断されるものであることは明らかであり、また、本件原出願発明における「前記インク供給針の円錐面」との特定は、インクタンク構成を特定するものではないことから、相違点3も実質的な相違点とは認められない。
 また、実開昭61−115641号公報(乙17。以下「文献乙17」という。)の第2図及び第4図に、先端が円錐面のインク供給針が図示されているから、インク供給針の先端を円錐面とする点は、周知技術・慣用技術の付加にすぎないと認められる。
d 相違点4について
 本件原出願発明についての「前記インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されている」との特定は、「前記インク吸収用多孔質体側に」の表現に明らかなように、インク取り出し口の容器内部側に存在する部分の構成を特定するものである。
 ところで、インクタンクの使用形態から考察すれば、前記「インク取り出し口の容器内部側に存在する部分」であるフィルタの外側に位置した空間が存在しない場合、インク供給針はフィルムを破った後に、フィルタをも破ることとなり、フィルタ本来の機能が果たし得なくなることからして、このような空間を設けることが当然に必要である。また、前記「インク取り出し口の容器内部側に存在する部分」の構成は、多孔質吸収材(体)にフィルタ5を押し付けるために用いられるものであって、加工室吸収材に保持、貯蔵されるインクを使用する際に円滑に流出するため、又は不使用時にインクが流出しないようにするためにインクタンク内部で負圧を発生させるものであることは、インクタンクの技術分野においてよく知られたことであり、例えば、文献乙16の第4図及び第5図に、インク取り出し口のインク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域を確保する構成が図示されているから、そのような領域を設ける点は、周知技術、慣用技術の付加にすぎないと認められる。
 したがって、相違点4は、インクタンクの技術分野においては、周知・慣用技術の付加に止まるものであって、実質的な相違を形成するものとはいえない。
(ウ) したがって、本件発明1は本件原出願発明と同一である。
イ 本件発明2と本件原出願発明との同一性
 本件発明2は、本件発明1の特定事項の前段に「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、」という「おいて書き」を追加したものであるが、上記「おいて書き」の部分は、インクタンクがインクジェット式記録装置に着脱されるものであることを示すとともに、インクタンクが装着されるインクジェット式記録装置側の構成としてのインク供給針の構成を特定するものではあっても、インクタンク側の構成の詳細を特定するものではないことから、本件発明2は、実質的に本件発明1とその内容において違いはない。原告も、本件特許の無効審判の平成17年11月17日の口頭審理期日において、この点を認めている。
 また、文献乙17や、特開平4−14462号(乙18。以下「文献乙18」という。) の第3 図(a )及び(b)に、先端部が円錐状に形成されているインク供給針や、供給針に筒胴部の内径よりも小さいインク供給孔を設ける構成が開示されているから、本件発明2の構成要件2Aは、そもそも周知・慣用技術にすぎないことも明らかである。
 したがって、上記アで主張した理由と同様の理由によって、本件発明2と本件原出願発明とは同一である。
 なお、原告が主張する相違点1(イ(ア)a)の「本件原出願発明は、本件発明2が規定しているインク供給針がメニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されていることを何ら規定していない」という点については、インク供給針にメニスカスによりインクを保持できる程度の径のインク供給孔を設ける構成は、例えば、文献乙18の第3図に開示されていることから、周知技術、慣用技術の付加にすぎないと認められる。
ウ このように、本件発明と本件原出願発明とは同一であるから、本件分割出願は不適法であり、したがって、本件特許の出願日は、本件分割出願がされた日である平成12年12月21日となる。
 なお、本件審決においても、被告の上記主張と同様の判断がされている。
(原告)
ア 本件発明1と本件原出願発明との対比
(ア) 本件発明1と本件原出願発明とは次のとおりの相違点がある。
a 相違点1
 本件原出願発明のインク供給針は、先端が円錐面として形成されているのに対し、本件発明1は、これを規定していない点
b 相違点2
 本件原出願発明は、インクを保持するインク吸収用多孔質体を規定しているのに対し、本件発明1は、これを規定していない点
c 相違点3
 本件原出願発明のインク取り出し口には、インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されているのに対し、本件発明1、はこれを規定していない点
d 相違点4
 本件原出願発明は、フィルムがインク供給針の円錐面により破断されることを規定しているのに対し、本件発明1は、これを規定していない点
(イ) 被告は、上記相違点1、4について、インク供給針の先端を円錐面とする構成ないしフィルムがインク供給針の円錐面により破断される構成は、文献乙17の第2図及び第4図並びに文献乙18の第3図等に示されていると主張する。しかし、文献乙17も文献乙18も、ゴム栓に対して突き刺しうるような先端が先鋭なインク供給針に関するものであり、単に、先端に円錐面があるという点が本件原出願発明と共通するにすぎない。本件原出願発明は、フィルムとの関連をもって、インク供給針の円錐面を特定したものであるから、文献乙17及び文献乙18を根拠に相違点1及び4を周知・慣用技術の付加とすることはできない。したがって、被告の上記主張は失当である。
 被告は、上記相違点2、3について、周知・慣用手段を付加したにすぎないと主張する。しかし、本件原出願発明においては、インク吸収用多孔質体を用いた場合、インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されていることにより、インク供給針のインク吸入部分を上記領域に位置させることができ、それによって、良好なインク供給が可能となるのであるから、インク吸収用多孔質体とインク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されていることは本件原出願発明において有意の構成である。したがって、被告の上記主張は失当である。
(ウ) したがって、本件発明1は本件原出願発明と同一ではない。
イ 本件発明2と本件原出願発明との対比
(ア) 本件発明2と本件原出願発明とは次のとおりの相違点がある。
a 相違点1
 本件発明2は、インク供給針がメニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されていることを規定しているのに対し、本件原出願発明は、これを規定していない点
b 相違点2
 本件原出願発明は、インクを保持するインク吸収用多孔質体を規定しているのに対し、本件発明2は、これを規定していない点
c 相違点3
 本件原出願発明のインク取り出し口には、インク吸収用多孔質体側にインクを貯留する領域が確保されているのに対し、本件発明2は、これを規定していない点
d 相違点4
 本件原出願発明は、フィルムがインク供給針の円錐面により破断されることを規定しているのに対し、本件発明2は、これを規定していない点
(イ) 被告は、上記相違点1について、文献乙18により、インク供給針にメニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔を穿設する構成は周知・慣用技術の付加にすぎないと主張する。
 しかし、文献乙18に記載された凹状のメニスカスは、気泡がインク経路に侵入することが不可避なものとして理解されており、メニスカスによってインクを保持するようなインク供給孔が穿設されたものとすることはできない。また、一般に、インクヘッドに連通するインク供給針においては、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されていることが必須であるとはいえない以上、同構成を備えたインク供給針と備えていないインク供給針とでは技術範囲が異なる。
 したがって、被告の上記主張は失当である。
 また、相違点2ないし4についての被告の主張が失当であることは、前記ア(イ)で主張したとおりである。
(ウ) したがって、本件発明2は本件原出願発明と同一ではない。
ウ 以上より、本件発明と本件原出願発明とは同一とはいえないから、本件分割出願は適法であり、したがって、本件特許の出願日は、本件原出願がされた日である平成4年2月19日まで遡及する。
 なお、原告は、平成18年7月18日、本件原出願について、本件原出願の特許請求の範囲の請求項2を削除する旨の訂正審判の請求をした。
 したがって、この訂正により、本件発明と本件原出願発明が同一であることを理由として本件分割出願が不適法となることはなくなった。
(6) 要旨変更に当たるか(本件特許の出願日は平成11年2月18日となるか。)−インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させた構成を含まないものも対象となるようにした点(争点(2)イ(ア))について
(被告)
ア 本件原明細書の要旨は、インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設けることにより、メニスカスの体積を減らしてインクタンク交換時の気泡の侵入が少ないインク供給装置を提供できる点、及び、インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる点にあると認められる。ところが、本件補正において全文補正された明細書では、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させない構成も含まれるように発明の要旨が変更されている。
 したがって、仮に、本件分割出願が適法であるとしても、平成5年法律第26号による改正前の特許法(以下「平成5年改正前特許法」という。)40条に基づき、本件特許の出願日は本件補正がされた日である平成11年2月18日となる。
イ これに対する原告の反論とそれに対する被告の再反論は、前記(4)イのとおりである。
ウ なお、原告は、原出願において要旨変更があったとしても、そのことによって、出願日が手続補正がされた日に繰り下がるとみなされるのは、原出願だけであり、この出願日の繰り下げが、分割出願の出願日に影響を与えるものではないとも主張している。
 しかし、平成5年改正前特許法40条の規定により、本件原出願の出願日は本件手続補正の時点に繰り下がり、その出願日の繰り下がりのみなし効果の方が先に生じるのであるから、仮に、本件分割出願が適法であるとしても、その出願日の遡及は、要旨変更があった本件補正の時点までしか認められないというべきである。また、要旨変更か否かの審理の対象となっている事項が、分割出願において治癒しているのであればともかく、被告が要旨変更だと主張している事項は、本件分割出願においてもそのまま残っているのであるから、原告の主張は、結局のところ、要旨変更として審理するのか、分割不適法として審理するのかの限度で影響があるにすぎない。
 したがって、原告の上記主張は失当である。
(原告)
ア 前記(4)で主張したように、「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している」という構成は、本件原当初発明の本来の目的を達成するための構成ではなく、付加的な構成にすぎないから、同構成を削除しても、発明の本来の目的、発明の本質には、何ら変わりはなく、発明の「要旨を変更」したことにならないというべきである。
イ そもそも、特許庁における審査、審判手続においては、原出願の出願手続でされた手続補正が要旨変更であったとしても、そのことによって出願日が手続補正がなされた日に繰り下がるとみなされるのは、原出願だけであり、この出願日の繰り下げは、分割出願の出願日に影響を与えるものではない。分割出願においては、その原出願の出願当初の明細書及び図面に基づいて、原出願に包含された発明であるとされれば、分割出願の出願日は、その原出願の出願日に遡及することが認められるのである。
 被告の主張は、原出願の要旨変更が分割出願の出願日に影響を与えることを前提としており、この前提に誤りがある。
ウ したがって、本件特許の出願日は、本件原出願がされた日である平成4年2月19日まで遡及する。
(7) 要旨変更に当たるか(本件特許の出願日は平成11年2月18日となるか。)−「環状のシール材」と「インク供給針」との接触状態を「密着」から「弾接」に変更した点(争点(2)イ(イ))について
(被告)
ア 本件原明細書の段落【0012】には、「それと同時にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、」と記載されていたところ、本件補正は、「環状のシール材」と「インク供給針」との接触状態を、上記の「密着」から「弾接」に変更しており、これは要旨変更に当たる。
イ この点、原告は、ゴムによって構成されるパッキンとインク供給針を「密着」させた場合、パッキンとインク供給針が「弾接」することは当然のことであると主張する。
 しかし、本件原明細書には、パッキン6の材質がゴムであると説明された箇所はどこにも存在しないし、また、原告が引用した広辞苑第5版には、「パッキン」の例として、「銅板」、「鉛」、「プラスチック」など、弾力の乏しい材質のものも記載されているのであるから、原告の上記主張は、「パッキン6」の材質を一義的に定める記載が明細書にないにもかかわらず、ゴムを前提として「密着」すれば「弾接」するという理論であるから、前提において誤りがあり、失当である。
ウ また、原告は、本件図面5のAA断面図を根拠に、パッキンとインク供給針が「弾接」の状態にあると主張する。
 しかし、上記図5のAA線における断面を正確に図示すれば、パッキン6が凹んだ状態で表されることはなく、凹んでない円形のままのパッキン6とインク供給針9との間の領域に、伸びたフィルム4が存在する部分とフィルム4が存在しない隙間が表されるはずであるから、図5は上の図と下の図で矛盾しており、このような矛盾した図を根拠として、言葉で説明されていなかった事項を補正で追加することは認められないというべきである。また、本件原明細書の段落【0016】の「伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合」との記載は、パッキン6が弾力性を欠く材質であるから厚さ50μ m 程度の薄いフィルム4が挟まっただけで、パッキン6と供給針9との間に隙間ができるということを示したものと見るべきである。
 したがって、原告の上記主張も失当である。
エ したがって、仮に、本件分割出願が適法であるとしても、平成5年改正前特許法40条に基づき、本件特許の出願日は本件手続補正がされた日である平成11年2月18日となる。
(原告)
 本件原明細書の段落【0012】には、「それと同時にインク取り出し口3のフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保される。」との記載があり、パッキン6の内周とインク供給針9の外周が「密着」することが記載されている。
 そして、広辞苑第5版は、「パッキン」の意味について、「管の接目などに機密・水密などの目的で挟む材料。ゴム・麻糸屑・石綿・銅板・鉛・プラスチックなどを用いる。」と記載していることから、パッキンとは、ゴムなどを用いてすき間等を詰めるものを意味するが、このようなゴムなどによって構成されるパッキンとインク供給針を「密着」させた場合、パッキンとインク供給針が「弾接」することは当然のことである。
 また、パッキンにより密着させたシールを行う場合、弾性をもったパッキンを用いることが技術常識である。
 さらに、本件図面5は、「伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合」(段落【0016】)を示しているが、この本件図面5におけるAA断面図を見ると、インク供給針9とパッキン6との間にパッキン6が入り込んだ部分では、パッキン6はへこんでいる状態となっている。このことから、パッキン6が弾性を有することは十分に理解できる。
 したがって、「環状のシール材」と「インク供給針」が「弾接」することは、本件原明細書等においても開示されているというべきであり、この点に関する被告の主張は失当である。
 したがって、本件特許の出願日は、本件原出願がされた日である平成4年2月19日まで遡及する。
(8) 本件発明は本件原出願発明と同一であるから、本件特許は、二重特許禁止の原則に反するとして、特許法39条2項により無効となるか(争点(2)ウ)について
(被告)
 前記(5)で主張したように、本件発明と本件原出願発明とは同一であるから、本件特許は特許法39条2項に違反する不適法なものであり、したがって、本件特許は無効である。
 したがって、本件特許は無効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求等をすることはできない。
(原告)
 前記(5)で主張したように、本件発明と本件原出願発明とは同一ではないから、被告のこの点に関する主張は失当である。
(9) 本件特許の出願日が平成12年12月21日又は平成11年2月18日であるとした場合、本件発明は新規性又は進歩性を欠くか(争点(2)エ)について
(被告)
ア 特開平5−229133号公報(乙8の1。以下「文献乙8の1」という。)に基づく新規性の欠如
(ア) 本件特許の出願日が平成12年12月21日又は平成11年2月18日であるとした場合、文献乙8の1は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に該当する。
(イ) 文献乙8の1には、次のとおりの記載がされている。
 「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
 インクを収容する容器であるインクタンク1と、インク供給針9が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口3と、
 前記インク取り出し口3に設けられ、前記インク供給針9の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するパッキン6と、
 前記パッキン6の前記インク供給針9の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口3に接着されたフィルム4とからなり、
 前記インクタンク取り出し口3の外縁3aが、前記容器の底面よりも外側に突出しており、
 前記インクが多孔質体2に保持された状態で前記容器に収容されており、
 前記インク取り出し口の上流側であるフィルタ5が前記インク吸収用多孔質体2に押し付けられていることを特徴とするインクジェット記録装置用インクタンク。」
(ウ) 本件発明1との対比
 文献乙8の1には、上記(イ)のとおりの構成が記載されているが、文献8の1のパッキン6が本件発明1の環状のシール材に相当することは、その機能からみて明らかである。
 したがって、本件発明1は文献乙8の1と同一であるから、本件発明1は新規性を欠く。
(エ) 本件発明2との対比
 本件発明2における「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて」という「おいて書き」の部分は、インクタンクがインクジェット式記録装置に着脱されるものであることを示すとともに、インクタンクが装着されるインクジェット式記録装置側の構成としてのインク供給針の構成を特定するものではあっても、インクタンク側の構成の詳細を特定するものではないから、本件発明2は実質的に本件発明1とその内容において違いはない。また、原告は、本件特許の無効審判の平成17年11月17日の口頭審理期日において、この点を認めている。
 したがって、本件発明1と同様に、本件発明2も文献乙8の1と同一であり、新規性を欠く。
イ 特開平4−257452号公報(乙9。以下「文献乙9」という。)に基づく新規性の欠如
(ア) 本件特許の出願日が平成12年12月21日又は平成11年2月18日であるとした場合、文献乙9は本件特許の出願前に頒布された刊行物に該当する。
(イ) 文献乙9には、次のとおり記載されている。
 「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
 インクを収容する容器であるインクタンク1と、
 インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口3と、
 前記インク取り出し口3に設けられ、前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するパッキン11と、
 前記パッキン11の前記インク供給針6の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口3に接着されたフィルム4とからなるインクタンクを備えたインクジェット記録装置」
(ウ) 本件発明1との対比
 文献乙9 には、 本件発明1 の「インクを収容する容器」( 構成1A)と「インクジェット記録装置用インクタンク」(構成1E)に相当する「インクタンク1」、「インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口」(構成1B)に相当する「インク取り出し口3」、「前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材」(構成1C)に相当する「パッキン11」、「前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルム」(構成1D)に相当する「フィルム4」が開示されている。
 また、文献乙9の「パッキン11」が本件発明1の「環状のシール材」に相当することは、その機能からみて明らかである。したがって、文献乙9には、本件発明1の構成のすべてが開示されており、本件発明1は文献乙9と同一といえるから、新規性を欠く。
(エ) 本件発明2との対比
 前記ア(エ)で主張したように、本件発明2は、本件発明1と実質的に違いはない。
 したがって、本件発明1と同様に、本件発明2も文献乙9と同一であり、新規性を欠く。
ウ 前記ア、イのとおり、本件発明は、文献乙8の1又は文献乙9に基づき、新規性を欠くが、仮に、新規性が認められるとしても、文献乙8の1、文献乙9に基づき、当業者が容易になし得た発明であるから、進歩性を欠く。
エ 以上より、本件特許は無効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求等をすることはできない。
(原告)
 前記(4)ないし(9)で主張したように、本件分割出願及び本件補正は適法であるから、本件特許の出願日は本件原出願日の平成4年2月19日まで遡及し、平成12年12月21日又は平成11年2月18日となることはない。したがって、本件特許の出願日を平成12年12月21日又は平成11年2月18日であることを前提に本件発明の新規性ないし進歩性を論じることはできない。
(10) 本件特許の出願日が本件原出願の出願日である平成4年2月19日とした場合、本件発明は進歩性を欠くか(争点(2)オ)について
(被告)
 本件発明は、次のとおり、実開昭64−16334号公報(乙10。以下「文献乙10」という。)、文献乙11、特開平1−180351号公報(乙12。以下「文献乙12」という。)、特開平3−295665号公報(乙13。以下「文献乙13」という。)、特開昭63−22653号公報(乙14。以下「文献乙14」という。)、文献乙16、文献乙17、文献乙1 8 、 特開平4 − 7 1 5 7 号公報( 乙6 0 。以下「文献乙6 0 」という。)及び特開平3−288652号公報(乙61。以下「文献乙61」といい、文献乙10、文献乙11、文献乙12、文献乙13、文献乙14、文献乙16、文献乙17、文献乙18、文献乙60及び文献乙61を併せて「被告引用文献」と総称する。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠く。
 したがって、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法123条1項2号の規定により無効にされるべきものであるから、原告は、本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求等をすることはできない。
ア 被告引用文献の記載内容
(ア) 文献乙10の記載内容
 文献乙10の16頁の第2図には、インクを収納するインクタンク26と、インクを供給する中空針44が挿通可能で、インクタンク26の底面に筒状に形成されてインク27が流入するインク流出部29及び口部31を備えたインクカートリッジが図示されているところ、上記「インクタンク26」は、本件発明1の構成要件1A及び本件発明2の構成要件2Bの「インクを収容する容器」に相当し、中空針44が挿通可能で、インクタンク26の底面に筒状に形成され、インク27が流入する「インク流出部29」及び「口部31」は、本件発明1の構成要件1B及び本件発明2の構成要件2Cの「インク取り出し口」に相当する。
 また、文献乙10には、インク流出部29に嵌め込まれるゴム栓33が開示されており、挿入された中空針44の外周にゴム栓33が密着した状態が図示されているところ、これは、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの環状のシール材をインク供給針の外周に弾接させる構成に相当する。
 したがって、文献乙10には、本件発明1の構成要件1A、1B、1C及び1E並びに本件発明2の構成要件2B、2C、2D及び2Fに相当する構成が記載されている。
(イ) 文献乙11の記載内容
 文献乙11の2頁右下欄9ないし12行には、「第2図において、7はインク供給管の外周に設けられ、インク供給管受部9へインク供給管8を挿入したときにインクの漏洩を防ぐ例えばOリングのような封止部材(シール部材)であり・・・」と、3頁左上欄4ないし7行には、「また、インク供給管8とインク供給管受部9との接触部は封止用Oリング7により封止されているので袋体5から外部へのインクの漏洩を防止することができる。」と記載されているところ、 上記「Oリングのような封止部材(シール部材)」は、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「環状のシール材」に相当する。
 したがって、文献乙11には、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「環状のシール材」に相当する構成が記載されている。
(ウ) 文献乙12の記載内容
 文献乙12の2頁左下欄9ないし12行には、「インク取出口2へインクゴム栓1を圧入し、インクゴム栓1、インク取出口2の上端面にフィルム部材を取付ける」と、3頁左下欄6ないし9行には、「さらに、二次効果としてインクゴム栓のシール不良によるインク汚染を防止できるため、ユーザへ安全で衛生的なインク貯留装置を提供することが可能となる。」と記載されているところ、上記「インクゴム栓1、インク取出口2の上端面にフィルム部材を取付ける」構成は、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eに相当する。
 したがって、文献乙12には、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eに相当する構成が記載されている。
(エ) 文献乙13の記載内容
 文献乙13の2頁右下欄12ないし14行には、「この例では、その後で第2の弾性部材14の外面にプラスチックのシート等の封止膜18を貼着しているが・・・」と記載されているところ、上記「弾性部材14の外面にプラスチックのシート等の封止膜18を貼着」する構成は、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eに相当する。
 したがって、文献乙13には、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eに相当する構成が記載されている。
(オ) 文献乙14の記載内容
 文献乙14の3頁左下欄12ないし16行には、「124はピストンノズル122の周囲に、接合カバー部14から突設させたプラグであり、その外側部に凸部124Aを有し、また内側のピストンノズル1 2 2 の摺動面にはインク封止用のO リング1 2 4 B を設けてある。」と、また、4頁左上欄16ないし19行には、「なお、ピストンノズル122とプラグ124との間隙部分にしみだしたインクは、Oリング124Bにより封止されて外部に漏洩することはない。」と記載されているところ、上記「インク封止用のOリング124B」は、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「インクの漏れ出しを防止する環状のシール材」に相当する。
 したがって、文献乙14には、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「前記インク取り出し口に設けられ」に相当する構成及び「環状のシール材」に相当する構成が記載されている。
(カ) 文献乙60の記載内容
 文献乙60の5頁の第4図には、従来の技術として、インクカートリッジ10の下面に密閉用のシーリングシート22が接着された構成が、2頁左上欄5ないし6行には、「受給口15にはブレークピン26 が設けられているので、 シーリングシート2 2 も開口せしめられる。」と、5頁の第1図には、インク供給路43の開口部を密閉するシーリングシート47の構成が、3頁右下欄18ないし20行には、「インク供給通路43の開口部は、使用する前は密閉部材の一例としてのシーリングシート47で密閉される」と、4頁左上欄1ないし7行には、「このシーリングシート47は、例えばアルミ箔で形成されている。このシーリングシート47は使用時に容易に破断可能である。
 シーリングシート47としてアルミ箔が用いられているが、これに限らず装着の際に容易に開口することが可能であれば他の金属、樹脂を用いてもよい。」と各記載されている。
(キ) 文献乙61の記載内容
 文献乙61の9頁の第12図には、従来の技術として、インクカートリッジ10の下面に密閉用のシーリングシート22が接着された構成が、2頁右上欄5ないし6行には、「受給口14にはブレークピン24が設けられているので、シーリングシート22も開口せしめられる。」と、7頁の第1図及び8頁の第5図には、インク供給路33の開口部を密閉するシーリングシート36の構成が、3頁右下欄6ないし8行には、「インク供給通路33の開口部は、使用前は密閉部材の一例としてのシーリングシート36で密閉される」と、3頁右下欄9ないし12行には、「このシーリングシート36は、例えばアルミ箔で形成されている。このインクカートリッジ30は使用時には容易に破断せしめられる。シーリングシート36としてアルミ箔が用いられているが、これに限らず装着の際に容易に開口することが可能であれば他の金属、樹脂を用いてもよい。」と各記載されている。
イ 検討
(ア) 本件発明1について
 文献乙10ないし文献乙14には、本件発明を特定する事項である@インクを収容する容器を有する点、Aインク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口を有する点、Bインク取り出し口に設けられ、インク供給針の外周に密着させてインクの漏れ出しを防止するシール材を用いる点、Cインクの漏れ出しを防止する環状のシール材を用いる点、及びDインク取り出し口にフィルムを接着する点が記載されており、これらの点において同一である。
 一方、文献乙10ないし文献乙14には、@形状が環状で、インク取り出し口に設けられ、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するシール材、及びA上記シール材のインク供給針の挿通側を封止し、かつインク取り出し口に接着されたフィルムが記載されていない点で、本件発明と相違する。
 しかし、インク取り出し口に、インク供給針の外周に弾接するようにインクの漏れ出しを防止する環状のシール材を設ける構成は、文献乙10(第1図、第2図、10頁20行ないし11頁4行)、文献乙11(第2図、3頁左上欄4ないし7行)、文献乙14(第3ないし第5 図、 3 頁左下欄1 2 ないし1 6 行、 4 頁左上欄1 6 ないし1 9行)に記載されているから、従来のゴム栓に換えて、形状が環状で、インク取り出し口に設けられ、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する本件発明の「環状シール材」を採用することは、格別の困難性を伴わずに当業者なら容易に想到し得たことである。
 また、インク取り出し口の外側に、先鋭度の低いインク供給針でも貫通できるフィルムを接着することは、文献乙12(第1図、2頁左下欄9ないし12行、2頁右下欄)、文献乙13(第2図、2頁右下欄12ないし14行、)、文献乙60(第1図、第4図、2頁左上欄5ないし6 行、 3 頁右下欄1 8 ないし2 0 行、 4 頁左上欄1 ないし7行)、文献乙61(第1図、第6図、第12図、2頁右上欄5ないし6行、3頁右下欄6ないし8行、3頁右下欄9ないし12行)に示すように、本件特許の出願時に既に公知であったと認められるから、本件発明の「環状のシール材」の封止に「フィルム」を用いることは、格別の困難性を伴わずに当業者なら容易に想到し得たことである。
 また、上記相違点により得られる本件発明の効果は、被告引用文献に記載された事項から予測できる効果以上のものでもない。
(イ) 本件発明2について
 本件発明2は、本件発明1の前提条件として、「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え」た点と、「メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンク」である点を特定した(構成要件2A)ものであるが、「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え」た点は、文献乙17に先端部20aが円錐状に形成されていて、先端部20aから後方に隔たった位置において半径方向に延びる複数の放射状インク通孔22、23が円周方向に等間隔に形成されているインク供給針20が公知となっており、インク供給針に筒胴部の内径よりも小さいインク供給孔を設けること自体は、文献乙17の第1図及び第2図並びに文献乙18の第3図によって公知となっており、また、メニスカスによりインクを保持できるようにインク供給孔の直径を調整することは、文献乙18にインク供給孔においてメニスカスを考慮することが記載されているから、当業者であれば容易になし得たことである。
(ウ) 被告引用文献に係る発明は、いずれもインクカートリッジ、インク供給装置、インクジェット記録装置などに関する発明であり、技術分野が一致し、当業者も共通している。
(エ) したがって、本件発明は、被告引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(原告)
 以下のとおり、本件発明は、被告引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできず、本争点についての被告の主張は失当である。
ア 被告引用文献の記載内容
(ア) 文献乙10の記載内容
 文献乙10には、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2D及び2Eが開示されていない。
 被告は、文献乙10には、挿入した中空針44の外周にゴム栓33が密着した状態が図示されていると主張するが、このような構成は、本件発明の従来技術として示された特開平3 − 9 2 3 5 6 号公報の「インク取り出し口をゴム栓で封止」する構成と全く同様の構成にすぎない。本件発明は、このような構成では、インク供給針の先端が注射針状に鋭く加工されており、安全性の面から問題であるとして、その課題を解決するため、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2D及び2Eの構成を採用したものであるから、被告の上記主張は失当である。
(イ) 文献乙11の記載内容
 文献乙11には、本件発明1の構成要件1B、1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2C、2D及び2Eが開示されていない。
 被告は、文献乙11には、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「Oリングのような封止部材(シール部材)」が開示されていると主張するが、文献乙11においては、そもそもインク供給針がなく、上記Oリングは、「インク供給受部9へインク供給管8を挿入したとき」のインク漏洩を防ぐためのものにすぎないから、被告の上記主張は失当である。
(ウ) 文献乙12の記載内容
 文献乙12には、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明1の構成要件2A、2D及び2Eが開示されていない。
 具体的には、文献乙12においては、インク取り出し口がインク保存袋の一部開口部に差し込まれるものであって、また、インク供給針が挿通するか否かが開示されていない。
 文献乙12において、仮に、インク供給針がインクゴム栓に突き刺さって貫通すると仮定すると、インク供給針が貫通する衝撃は大きく、また、インク供給針によって異物をインクタンク内に混入させ、又はインク供給針のインク供給孔を目詰まりさせる可能性がある。さらに、この貫通する際に、インク供給針の太さによっては、インクゴム栓にダメージを与え、予期しない割れが生じる可能性がある。このような割れが生じると、その割れ目を通じて、収容されたインクが表面ににじみ出すおそれが生じ、確実なシールが行えない可能性がある。
 また、文献乙12には、環状シール材を用いることは記載されていない。
(エ) 文献乙13の記載内容
 文献乙13には、本件発明1の構成要件1B、1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2C、2D及び2Eが開示されていない。
(オ) 文献乙14の記載内容
 文献乙14には、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2D及び2Eが開示されていない。
 被告は、文献乙14には、「内側のピストンノズル122の摺動面にはインク封止用のOリング124B」を設ける構成が開示されていると主張し、文献乙14には、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dの「前記インク取り出し口に設けられ」に相当する構成及び「インクの漏れ出しを防止する環状のシール材」に相当する構成が記載されている、と主張する。しかし、文献乙14の構成においては、インク供給針が存在しない以上、文献乙14に「インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材」を示す構成が開示されているということはできない。
(カ) 文献乙16の記載内容
 文献乙16には、本件発明1の構成要件1B、1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2C、2D及び2Eが開示されていない。
 被告は、文献乙16には、インク供給針の外周に密着させるゴム栓が開示されていると主張するが、文献乙16は、本件発明において従来技術として引用されているものであるから、被告の上記主張は失当である。
(キ) 文献乙17の記載内容
 文献乙17には、本件発明1の構成要件1B、1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2C、2D及び2Eが開示されていない。
 被告は、文献乙17には、インク供給針に筒胴部の内径よりも小さいインク供給孔を設ける構成が開示されていると主張するが、文献乙17に記載されたインク供給孔は、「メニスカスによりインクを保持することができる直径」のものであるか否かについての開示がないから、被告の上記主張は失当である。
 また、被告は、文献乙18にメニスカスの記載があるとして、文献乙17の発明において、メニスカスによりインクを保持できるようにインク供給孔の直径を調整することは、当業者が容易になし得たことであると主張するが、文献乙18に記載された凹状のメニスカスは、気泡がインク経路に浸入することが不可避なものとして理解され、凸状メニスカスは、保持体5のピストン移動によって形成されるものであり、いずれにしても、このメニスカスによってインクを保持するようなインク供給孔が穿設されたものとすることは何ら開示されておらず、被告の上記主張は失当である。
(ク) 文献乙18の記載内容
 文献乙18には、本件発明1の構成要件1B、1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2C、2D及び2Eが開示されていない。
(ケ) 文献乙60の記載内容
 文献乙60の第4図のブレークピン26は、単なる穿孔用のピンにすぎず、本件発明のインク供給針に相当するものではない。また、文献乙60の第1図及び第2図の繊維束部材49は、インク供給針ではないから、同図には、インク供給針を挿通してインクを供給するものは記載されていない。
 このように、文献乙60には、インク供給針が存在せず、また、文献乙6 0 の「シーリングシート」も、「インク供給針の挿通側を封止」するものでもなく、かつ、インク供給針の挿通を想定したものではない。
(コ) 文献乙61の記載内容
 文献乙61の第12図のブレークピン24は、単なる穿孔用のピンにすぎず、本件発明のインク供給針に相当するものではない。また、文献乙61の第1図、第5図及び第6図の繊維束部材41は、インク供給針ではないから、同図には、インク供給針を挿通してインクを供給するものは記載されていない。
 このように、文献乙61には、インク供給針が存在せず、また、文献乙6 1 の「シーリングシート」も、「インク供給針の挿通側を封止」するものでもなく、かつ、インク供給針の挿通を想定したものではない。
イ 検討
(ア) 文献乙10ないし文献乙18のいずれの文献にも、本件発明1の構成要件1C及び1D並びに本件発明2の構成要件2A、2D及び2Eが全く開示されていない上、これらを組み合わせることも容易とはいえないから、本件発明の進歩性が否定される余地は全くない。
 また、文献乙60及び文献61には、インク供給針が存在しない以上、インク供給針を挿通した場合にインク漏れ出しを防止するという本件発明の技術課題がまったくなく、これらと文献乙10等のインク供給針が存在する他の文献の発明の構成とを組み合わせる発想そのものが生じない。
(イ) なお、被告引用文献の組み合わせの困難性について、以下、補足する。
a 文献乙11及び文献乙14においては、インク供給針を挿通した場合にインクの漏れ出しを防止するという本件発明の技術的課題がまったくなく、上記各文献からは、文献乙10等のインク供給針が存在する構成と組み合わせるという発想そのものが生じない。
b 文献乙14には、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eにいう「フィルム」はなく、上記ア(オ)のとおり、インク供給針もないから、文献乙14のOリング124Bから、本件発明のように環状のシール材のインク供給針の挿通側を封止するようにフィルムを設けるという構成に至ることは不可能である。
c 文献乙17には、「環状のシール材」及び「インク取り出し口に接着されたフィルム」は存在しない。仮に、文献乙17の封止用部材16を環状のシール材としたとすれば、インクが漏れ出してしまう。また、文献乙17の構成においては、インク取り出し口が存在しないから、フィルムを貼る余地もない。
 したがって、文献乙17を他の被告引用文献と組み合わせる余地もない。
e 文献乙18においては、「環状のシール材」及び「インク取り出し口に接着されたフィルム」は存在しない。また、本件特許についての特許異議の申立て(異議2002−72022)に対する異議の決定(甲3)が述べるように、文献乙18の弾性部材4を環状にしたのでは、インクが漏れ出すことは明らかである。更に、文献乙18においては、「インク取り出し口」が存在しないから、「インク取り出し口を封止するフィルム」も存在し得ない。
 したがって、文献乙18を他の被告引用文献と組み合わせる余地もない。
(11) 本件特許1は、特許法29条の2により無効となるか(争点(2)カ)について
(被告)
ア 本件特許の出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された
特開平4 − 1 1 0 1 5 7 号( 乙1 5 。以下「特開1 5 7 号公報」という。)には、@インクを収容する容器を有する点、Aインク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口を有する点、Bインク取り出し口に設けられ、インクを供給する部材の外周に密着させてインクの漏れ出しを防止する環状シール材を用いる点、C前記シール材を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムを有する点が記載されており、特開157号公報の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明( 以下「先願発明」という。)と本件発明1とは同一である。もっとも、先願発明ではインク供給針は使用されておらず、インク受給部42、142がインク取り出し口に挿入される点が異なっているが、先願発明のインクタンクは、インクタンクの構成としては、本件発明1と実質的に同一と評価されるものである。
イ これに対し、原告は、先願発明のシーリングシート41は、繊維束部材49の端面49aによって破断されるものではなく、インクカートリッジを使用する際に使用者によってはぎ取るなどして開口される対象であると主張する。しかし、特開157号公報の3頁右下欄19行ないし4頁左上欄6行には、「使用する前のインクカートリッジ30のインク路33の開口は、例えばアルミ箔で形成されたシーリングシート41によって密閉されている。このシーリングシート41は、使用時には容易に破断せしめられるように構成されている。シーリングシート41としては、アルミ箔以外に装着の際に容易に開口することが可能である他の金属や樹脂が用いられる。」と記載されており、同記載から、装着の際に容易に開口することが可能な素材として他の金属や樹脂を例示しているように理解できるので、シーリングシート41が使用前に人手によってはぎ取られる対象のものと断定することはできない。
ウ したがって、本件発明1は、先願発明と同一であり、しかも、両発明の発明者が同一ではなく、また、両発明の特許出願人も同一でないので、本件特許は、特許法29条の2、同法123条1項2号により、無効とされるべきものである。
 したがって、原告は、本件発明1に係る本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求等をすることはできない。
(原告)
 まず、先願発明においては、インク供給針は使用されていない。
 また、被告は、特開157号公報には、「前記シール材を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムを有する点」が開示されていると主張する。しかし、同公報のシーリングシート41は、その第1図及び第2図に記載されているように、空気導入路37及びインク供給路を形成する端部の両者からなる部分を密閉しているにすぎず、本件発明1のように、インク取り出し口に接着されているものではない。また、シーリングシート41は、繊維束部材49の端面49a(平坦に形成されている)によって破断されるものではなく、インクカートリッジを使用する際に使用者によってはぎ取るなどして開口される対象である。したがって、シーリングシート41は、本件発明のフィルムに相当するということはできない。
 また、先願発明の開口部は、インク供給針を挿通せず、また、インク受給部を装着するが同時に空気導入部37と連通して空気を導入するものである点で本件発明1と異なる。
 さらに、本件発明1の環状のシール材は、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するのに対して、先願発明のパッキン40は、インク受給部42の外周に弾接して外部の空気がインク路33へ直接的に侵入するのを防止するものである点で異なる。
 したがって、本件発明1と先願発明とが同一であるとはいえず、被告のこの点に関する主張は失当である。
(12) 消尽の有無(争点(3))について
(原告)
ア 前提
 被告製品が原告又は原告から実施許諾を受けた第三者が製造販売したインクカートリッジ(以下「原告製品」という。)に由来するものであるか否かについて、原告は、不知であるが、本訴においてこの点は争点としない。
イ 被告製品に関し、本件特許権が消尽しないことについて
 仮に、被告製品が使用済みの原告製品を回収して、リサイクルしたものであるとしても、以下のとおり、被告製品については、本件特許権は消尽していないというべきである。
(ア) まず、被告製品は、以下のとおり、本件発明の本質的部分を構成する部材を交換しているから、被告製品について、本件特許権は消尽しない。
 すなわち、本件発明の本質的部分は、@インク取り出し口に、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材(パッキン)を設け、A環状のシール材(パッキン)のインク供給針の挿通側を、インク取り出し口に接着されたフィルムによって封止するという点にあるところ、被告製品は、原告製品中のフィルムが被告により加工又は交換されたものであり、上記のように、フィルムは本件発明の本質的部分を構成する部材の一部に当たるから、本件特許権は消尽しないというべきである。
(イ) また、使用済み後の原告製品は、以下のとおり、特許製品としての効用を喪失しているから、原告製品をリサイクルした被告製品について、本件特許権は消尽していない。
a すなわち、特許権者が特許発明に係る製品を譲渡した場合に、当該特許製品について、その効用を終えたとして、消尽を否定する理由は、@特許製品は、その作用効果を奏しなくなった場合にまで、再使用や再譲渡を想定しているものではないので、作用効果を奏しなくなった場合に特許権の効力が及ぶとしても、市場における商品の自由な流通を阻害しないこと、A特許権者は、特許製品の譲渡に当たって、当該製品が効用を終えるまでの限度での対価しか取得していないことの2点にあるから、消尽の有無を判断するための「効用喪失」があったか否かについては、@’特許製品として、特許の作用効果を奏しなくなったか否か、A’特許権者が特許製品の譲渡に当たって、どの状態の使用までを念頭に置いて対価を設定しているかによって判断すべきである。
b 上記の基準を前提とすると、以下の理由から、原告製品はその効用を喪失したといえ、被告製品について本件特許権は消尽しないというべきである。
(a) 原告製品のユーザーは、原告製品をインク使用後に無価値物として処分していること等からも明らかなように、原告製品の中に入っているインクを目当てに原告製品を購入しているのであるから、原告製品におけるインクは、その経済的価値の重要性や量的割合からして、原告製品の「主要な部材」ないし「大部分の部材」に該当する。
(b) 原告製品は、その性質・構造において、使い捨て商品として設計されている。すなわち、原告製品において、使い切ったインクを補充するためには、フィルムを交換するとともに、インクカートリッジの複雑な内部構造を認識して、本体の適切な位置を特定して孔を開けるなどし、更には、インクカートリッジ内部の所定の部分を減圧するなどしてからインクを充填するなどし、記憶素子のデータをリセットする必要があり、相当の技術や設備を要するから、一般のユーザーにとってインクの補充をすることは困難であり、一般のユーザーがインクの補充をすることは想定されていないのである。
(c) 消費者に対する調査結果(甲7)によれば、原告製品を購入したユーザーは、その約98%が、原告製品を使用した後、それを廃棄し、新品の原告製品を購入していることが認められ、この事実は、ユーザーが、原告製品を1回の使用限りの製品であると認識していること、原告製品が1回限りの使い捨てのものであるという社会通念が形成されていることを物語っている。
(d) ユーザーは、使用済みの原告製品を廃棄するか、回収ボックスに無償で投入しており、使用済みの原告製品は、経済的に無価値となる。
 この点、被告は、使用後の原告製品をユーザーに対して1個10円で買い取るケースもあると主張するが、そのようなケースは希有であり、また、10円という価格は、原告製品の価格(1000円程度)の1%であり、無価値に等しいことは変わりない。
(e) そもそも、インクカートリッジは、インクと一体となって初めて、プリンタにインクを供給する機能を果たすのであり、ユーザーがインクを消費し切った時点で、インクカートリッジ全体としての機能は喪失するのである。
(f) 原告も、1回限りの使用を前提として原告製品の対価を設定しており、原告製品がリサイクルされることは想定していない。
 したがって、被告製品に対して原告の権利行使を認めても、原告が二重に利得するということにはならない。
(g) ある製品が1回限りの使用ではなく、修理を施して何度も使用する形態の製品であるならば、ユーザーが修理のために製品を販売者に持ち込み、販売者に修理をしてもらって、再度使用するという取引の実体が生まれるはずであるところ、インクカートリッジの場合は、ユーザーがこれを使用した後に、インクカートリッジメーカーに修理(インクの詰め換え)を依頼をするという実態もなければ、同依頼に対してインクカートリッジメーカーが対応するという実態もない。したがって、インクカートリッジは、市場において、使い捨てカメラや乾電池と同様に、1回限りの商品として認識されているというべきである。
(ウ) なお、被告は、リサイクル製品の製造、販売に対して知的財産権の効力が及ぶか否かを判断するに当たっては、環境保護の観点を十分に考慮した判断がされるべきであると主張する。
 しかし、リサイクル品の製造、販売が環境保護に適うこと等は特許権行使に対する抗弁とはならない。また、原告も使用済みの原告製品を回収し、これを原材料として再資源化して利用しており、一方で、リサイクルが環境に悪影響を与えることもあり得ることであるから、原告製品をリサイクルする被告の行為が必ずしも環境保護に適うということはできない。
 したがって、被告の上記主張は失当である。
(被告)
ア 前提
 被告は、原告製品を販売店等から正規に購入したエンドユーザーから、インクを消費した原告製品の譲渡を受け、これにインクを充填して、リサイクル品として販売しており、被告製品はすべて原告製品に由来するものである。
イ 被告製品に関し、本件特許権が消尽することについて
(ア) 被告のリサイクルの内容
 まず、前提として、被告は、使用済みの原告製品を販売店を通じて回収し、検品・クリーニングを行い、原告製品のインクタンクに新しいインクを充填し、品質確認を行い、インク取り出し口をフィルムで覆い、インクカートリッジの回路基板上のチップのインク使用データを書き換え、包装して、被告製品として販売しており、被告が原告製品に新たに部材を付加しているのは、本件発明とは関係のない原告製品の消耗品部分であるインクを充填していることと、インク取り出し口を覆うフィルムを取り付けていることだけである。
(イ)a 消尽の原則、消尽したか否かの判断基準
 特許権者が我が国において特許発明に係る製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し、又は貸し渡す行為等には及ばないとされている( 最高裁平成7 年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照・「BBS並行輸入事件」)。このような特許権の消尽は、特許権者等がひとたび特許製品を市場に流通させた以上、適法にその特許製品の所有権等を取得した者がこれを業として使用し、譲渡等する行為に対し、特許権者等が当該特許権を行使することができるとしたのでは、既に特許製品の譲渡により実施対象に対して十分な利益を得ている特許権者等に二重の利益を与えることになるだけでなく、そもそも市場における商品の自由な流通を阻害し、もともと所有権制度と衝突する側面を有する特許権に対し、必要の限度を超えた過度の権利を与えることになり、社会公共の利益にも反し、本来の特許法の目的に反する結果となるからであるとされている(東京高裁平成13年11月29日判決・「アシクロビル医薬品抽出精製事件」)。
 したがって、特許製品を譲り受けた者は、当該特許製品を使用するために、製品の寿命を維持し、又は保持するのに必要な修理をすることができるし、消耗品部分は、これを交換したり、補充したりすることができる。また、使用を開始した当該特許製品を中古品として譲渡することも、特許消尽の原則によって認められている。
 上記の特許消尽の原則からすると、中古品であるリサイクル品の売買も特許権の効力が及ばず自由になし得ることとなるが、特許権の効力のうち生産する権利については、もともと消尽はあり得ないから、特許製品を適法に購入したものであっても、新たに別個の実施対象を生産するものと評価される行為をすれば、特許権の侵害を構成する可能性がある。
 そして、本件のようなリサイクル品について、新たな生産として特許侵害となるのか、それに達しない修理又は補充の範囲内として特許消尽が成立するかについては、当該製品の機能、構造、材質や、用途、使用形態、取引の実情、他の法令による要請、諸外国での取扱い等を総合的に考慮して、特許製品がその効用を終えたといえるか否かを基準に判断すべきである。
b そこで、検討するに、以下で指摘する事情を総合考慮すれば、原告製品は、エンドユーザに使用されてインクを費消した時点で特許製品としてその効用を終えたと解すべきではなく、被告のリサイクル行為は、前記(ア)のとおり、本件発明の作用効果とは関係のない原告製品の消耗品部分であるインクの補充とフィルムの補修をしたにすぎず、新たな生産に該当しないことは明らかであるから、原告製品をリサイクルした被告製品については、本件特許権の消尽の成立が認められるべきである。
(a) 原告製品の構造等
 原告製品をインクジェットプリンタで使用すると、インク取り出し口から適宜インクが供給され、インクを使い切ると、本件インクカートリッジ本体が残る状態となる。本件インクカートリッジ本体は、消耗品であるインクと比べれば耐用期間が長く、インクが消費されても、その形状や性質は特に変化せず、物理的に再利用することが十分可能であって、その機能、用途に何ら損耗はない。
 また、ユーザーも、詰替用インクを用いるなどして、容易にインクを詰め替えできる構造となっている。この点、原告は、一般のユーザーにとってインクの補充をすることは困難であり、一般のユーザーがインクの補充をすることは想定されていない旨主張する。しかし、記憶素子のインク使用データの書き換えについては、ICチップ・リプログラマセットが付いた詰め替えインクキットが販売されていたり、家電量販店でリプログラマが販売されていることから、一般のユーザーがこれを行うことは決して困難ではない上に、下記(c )のとおり、原告が1回限りの使用を目的としてインク使用データの書き換えを困難にすることは独占禁止法に違反する。また、インクのリフィル行為についても、付属器具のついたリフィルキットも販売されており、一般のユーザーにとって困難なものではない。
(b) 株式会社BCNの市場調査部門であるBCN総研の実施したアンケート調査によれば、使用後のインクカートリッジの処理について、家電量販店等に設置されているインクカートリッジの回収箱に入れると回答した者は、過半数である51.3%に達しており、インクカートリッジのリサイクルが相当程度浸透していることが分かる。また、上記調査によれば、インクジェットプリンタの利用者の3人に1人は、リサイクル品を利用したいと考えているという結果が出ている。また、官公庁においても、環境保護の観点から、リサイクル品の調達が推進されている。これらの事実から、ユーザーは、インクカートリッジを1回限りの使い捨て商品とは認識していないこと、インクカートリッジについてリサイクルが認められているのが社会通念であることが分かる。
 この点、原告は、原告製品を購入したユーザーは、その約98%が、原告製品を使用した後、それを廃棄している旨主張するが、株式会社BCNの平成17年5月2日から同月8日の1週間のマーケットデータによれば、販売数量において、リサイクルメーカーのシェアが4.04%、リフィルインクメーカーのシェアが2.02%であること(乙62 )、同社のデータによると、平成17年1月から同年12月の被告のインクジェットプリンタ用インクの販売数量シェアは、2.77%から4.36%の間で推移していること(乙80)から、インクカートリッジを再利用する割合は相当程度あり、98%のものが実際に使い捨てられているということはない。
(c) 公正取引委員会は、キヤノン株式会社がキヤノン製カラーレーザープリンタに使用されるトナーカートリッジにICタグを搭載し、ICタグに搭載されたICチップに記録された情報の解析や書き換えを困難にし、当該カートリッジの再生品が作動しないようにすることにより、再生業者が当該カートリッジの再生品を販売することを困難にさせていた事件について、独占禁止法の規定に基づいて審査を行い、平成16年10月21日付報告書「キヤノン株式会社に対する独占禁止法被疑事件の処理について」において、その内容を公表している。
 同報告書では、カートリッジには、プリンタメーカーが販売するいわゆる純正品のほか、被告製品のような再生事業者によって販売される再生品があり、コンピュータ利用の増大に伴い、カートリッジの再生品に対する需要も高まっている状況にあると認定した上で、レーザプリンタのメーカーが、その製品の品質・性能の向上等を目的として、カートリッジにICチップを搭載すること自体は独占禁止法上問題となるものではないが、例えば、技術上の必要性等の合理的理由がないのに、あるいは、その必要性等の範囲を超えて、ICチップに記録される情報を暗号化し、その書換えを困難にして、カートリッジに再生利用できるようにする等の行為によりユーザーが再生品を使用することを妨げる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあるとの判断が示されている。
 このように、市場における有力なプリンタメーカーが再生業者の再生品販売を合理的理由がないのに困難にした場合は、独占禁止法に違反することが明らかにされていることから見ても、プリンタカートリッジのリサイクルが社会的に認められている状況にあることは明らかというべきである。
(d) 家電量販店である株式会社ヨドバシカメラ等において、被告製のリサイクルインクカートリッジが販売されており、昨今では被告のリサイクル品の専用コーナーを設置する家電量販店も登場するなど、被告のリサイクル品は、大きなシェアを持って消費者に支持され、順調に浸透している状況にある。
 また、現在、他の多くの会社も、被告のリサイクル品と同種のリサイクル品をインターネット等で販売している。
(e) 環境保護法制による要請
 近年、大量の廃棄物による環境破壊や資源浪費が地球規模の深刻な社会問題・環境問題を引き起こしているが、リサイクル可能な物品のリサイクルを行うことは、社会全体にとって極めて有用であり、かつ、重要である。このような観点から、平成3年には、資源の有用な利用の促進に関する法律(平成3年法律第48号)が制定され、平成14年改正後の同法は、再生資源及び再生部品の使用は企業を含む国民の責務である旨を定めている。
 また、平成10年には、家電リサイクルを定めた特定家庭機器再商品化法(平成10年法律第97号)が、平成12年には、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)が、平成14年には、使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号)が、それぞれ制定され、事業者は、廃棄物や一度使用した物品などの循環資源のうち循環的な利用を行うことができるものについては、適正に循環的な利用を行う責務を有するとされている。
 このような状況においては、使用済みインクカートリッジを回収してリサイクルすることは、法令に基づく社会の要請ともいえる。
 こうした環境保護法制に基づいて、国、事業者及び国民にリサイクル促進のための各種の責務が求められていることにかんがみれば、リサイクル製品の製造販売に対して知的財産権の効力が及ぶか否かを判断するに際して、これらの法令の要請を解釈の指針として、環境保護の観点を十分考慮した判断がされるべきである。
(f) 諸外国においても、使い捨てカメラ、インクカートリッジ、トナーカートリッジのリサイクルが判例により是認され、リサイクル品の市場が確立されているが、環境保護が地球規模で取り組むべき課題であって、特許権の保護の範囲は国際的な調和が求められることからすれば、上記の海外における実情は、我が国におけるリサイクル品と特許権の問題を判断するに際しても、十分に考慮されなければならない。
(g) 原告は、使用済みの原告製品は無価値であると主張するが、ユーザーは、使用済みの原告製品を、一般量販店や通販業者において、1個当たり10円ないし20円で買い取ってもらえることから、決して無価値ではない。
(h) 原告は、1回限りの使用を前提として原告製品の対価を設定している旨主張するが、そもそも、効用を喪失したか否かを判断するにあたっては、特許権者の意思とは無関係に、機能、材質、取引実情など特許製品から客観的に把握できる要素を基にすべきであるから、上記の原告の価格設定に関する意図は考慮されるべきでない。
(ウ) なお、以下のとおり、被告製品は、本件発明との関係で、知的財産高等裁判所平成18年1月31日判決(知的財産高等裁判所平成17年(ネ)第10021号事件)の第2類型にも当たらない。
a 本件発明の本質的部分について
従来技術には、@インクタンクのインク取り出し口をゴム栓で封止し、このゴム栓に金属製のインク供給針の先端を貫通させていたため、インク供給針は比較的厚いゴム栓に突き刺さってこれをスムーズに貫通する必要上、ステンレス製の直径1mm程度のパイプの先端を斜めにカットした注射針状のものとなり、安全性の面からの問題があり(第1の問題)、Aこの第1 の問題を解消するために、インク取り出し口の内周面に多孔質弾性体からなる環状のシール材を配置し、かつインク収容領域側をフィルムで封止した構成が提案されたが、同構成では、シール材が多孔質弾性体で構成されているため、シール材の細孔を通して表面にインクがにじみ出るという問題(第2の問題)や、Bフィルムがインク収容領域側に位置するため、インク供給針の挿通により破損したフィルムがインク供給針に接触してインクの流れを阻害するという問題(第3の問題)があった。
 本件発明は、上記の第1の問題点を解決するため、インク取り出し口がゴム栓に比較して簡単に挿通することができるフィルムにより封止されるようにした構成(構成要件1D、2E)を採用したが、例えば、特開昭63−9545号公報(乙87)に見られるような、インクカートリッジのインク取り出し口の内周面に多孔質弾性体からなる環状のシール材を配置し、かつインク収容領域側をフィルムで封止した構成を採用したことにより、先鋭度の低いインク供給針に対応できることは本件明細書中に記載されていることから、上記構成は、それ単独では本件発明の本質的部分とはなり得ない。また、本件発明は、上記の第2の問題点を解決するために、インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材という構成(構成要件1C、2D)を採用したが、例えば、文献乙11には、インク供給管受部9へインク供給管8を挿入したときにインクの漏洩を防ぐOリングのような封止部材7を、インク供給管8の外周に設ける構成が開示されており、文献乙11の構成によれば、シール材の細孔を通して表面にインクがにじみ出ることがないことは明らかであるから、上記構成は、それ単独では本件発明の本質的部分とはなり得ない。また、本件発明は、上記第3の問題点を解決するために、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口(構成要件1B、2C)に設けられた環状のシール材(構成要件1C、2D)と、その環状のシール材のインク供給針の挿通側を封止し、かつインク取り出し口に接着されたフィルムという構成(構成要件1D、2E)を採用したが、文献乙13には、弾性部材14の外側にインク供給針9が挿通されるプラスチックのシート等の封止膜19を貼着する構成が開示され、また、文献乙12には、インク取り出し口2に圧入したインクゴム栓1とインク取り出し口2の上端面にフィルム部材を取り付ける構成が開示され、さらに、文献乙60や文献乙61には、ブレークピンによって開口される密閉用のシーリングシートをインクカートリッジ10の下面に接着した構成が開示されていることからすると、環状のシール材に相当する部材の内外何れでフィルムを封止するかは、当業者なら容易に思いつく設計事項にすぎないというべきであるから、上記構成は、それ単独では本件発明の本質的部分とはなり得ない。
 なお、本件明細書には、インク供給針が挿通された時点では、インク取り出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができるように、フィルムを取り付けるという効果が記載されているが、前記(2)で主張したように、この効果が本件原明細書には記載されていなかった事項である以上、この効果を追加した本件分割出願は不適法というべきであるから、この点は本件発明の本質的部分にはなり得ない。
 以上からすると、本件特許に進歩性が認められるとすると、本件発明の本質的部分は、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口(構成要件1B、2C)に設けられた環状のシール材(構成要件1C、2D)と、その環状のシール材のインク供給針の挿通側を封止し、かつインク取り出し口に接着されたフィルムという構成(構成要件1D、2E)の組み合わせと位置関係ということになるというべきである。
b 前記(ア)のとおり、被告製品は、使用済みの原告製品に、インクを充填して、フィルムを貼り換え、インクカートリッジの回路基板上のチップのインク使用データを書き換え、包装しただけであり、その他の変更は一切ない。
 本質的部分を構成する部材の交換がされたかについては、被告の上記行為のうち、フィルムの貼り換えが問題となるが、本件発明の本質的部分は前記aで主張したとおりであり、消尽を否定するには、この本質的部分を構成する部材のすべてを交換又は加工することを要するものと解すべきところ、フィルムを貼り換える行為は、本件発明の本質的部分を構成する部材の一部を交換するにすぎず、本件発明の本質的部分である構成要件1B(2C)、1C(2D)については加工も交換も行われていないから、被告製品について、本件特許権は消尽したというべきである。
(13) 損害額(争点(4))について
(原告)
ア 特許法102条2項に基づく主張
(ア) 平成15年9月から平成18年3月までの被告製品の販売個数a 平成17年の1年間に被告が販売したリサイクルインクカートリッジの個数は、93万8141個である(乙80の2)から、被告が1年間に販売したリサイクルインクカートリッジの個数は約94万個であると推測できる。
b 被告は、遅くとも平成15年9月から被告製品を販売しているところ、平成15年9月から平成18年3月までの31か月間に、被告が販売したリサイクルインクカートリッジの個数は、243万個である(94万個×31か月÷12か月=243万個)。
c 被告が販売しているリサイクルインクカートリッジには、原告製品をリサイクルしたものと株式会社キヤノンが製造、販売したインクカートリッジをリサイクルしたものとがあり、その割合はほぼ同じである。
 したがって、被告が販売したリサイクルインクカートリッジの約半数が原告製品となるから、被告が上記期間内に販売した原告製品のリサイクルインクカートリッジの個数は、 1 2 1 万5 0 0 0 個(243万個÷2=121万5000個)となる。
d 被告のホームページ(甲27)によれば、被告が販売する原告製品のリサイクルインクカートリッジの種類は34種である。そして、本件で対象となっている被告製品は32種であるから、平成15年9月から平成18年3月までの間に被告が販売した被告製品の個数は114万個(121万5000個×32÷34=114万3529個。1万未満四捨五入)となる。
(イ) 被告製品の販売価格
 被告製品1個の最低実売価格は780円、最高実売価格は1180円、平均実売価格は849円である(甲28、29)。
(ウ) 被告製品の利益率
 被告製品の利益率は35%を下らないと推測される。
(エ) 原告の被った損害額の試算
a 被告製品の実売価格の平均を基準とした試算
(a ) 利益率を3 5 % とすると3 億3 8 7 5 万1 0 0 0 円となる(114万個×849円×35%=3億3875万1000円)。
(b) 利益率を10%とすると9678万6000円となる(114万個×849円×10%=9678万6000円)
b 被告製品の最高実売価格を基準とした試算
(a) 利益率を35%とすると4億7082万円となる(114万個×1180円×35%=4億7082万円)。
(b) 利益率を10%とすると1億3452万円となる(114万個×1180円×10%=1億3452万円)。
c 被告製品の最低実売価格を基準とした試算
(a) 利益率を35%とすると3億1122万円となる(114万個×780円×35%=3億1122万円)。
(b) 利益率を10%とすると8892万円となる(114万個×780円×10%=8892万円)
d 以上のとおり、利益率を10%とし、被告製品の価格を最低実売価格である780円として計算しても原告の被った損害額は500万円を下らない。原告は、一部請求として500万円を請求する。
イ 特許法102条3項に基づく主張
 前記アのとおり、被告が平成15年9月から平成18年3月までの間に販売した被告製品の個数は114万個、被告製品の最低実売価格は1個当たり780円である。そして、本件発明の実施料率は少なくとも10%は下らないというべきであるから、実施料相当額は、少なくとも8892万円(114万個×780円×10%=8892万円)を下らない。
 原告は、そのうち、一部請求として、500万円を請求する。
(被告)
 争う。
 仮に、原告に損害賠償請求権が認められる場合、特許法102条2項及び3項に基づく損害額が少なくとも500万円を下らないことは認める。ただし、原告の主張する計算過程における個々の数字については否認する。
第3 当裁判所の判断
1 本件については、事案の内容にかんがみ、本件分割出願の適法性(本件特許の出願日は平成12年12月21日となるか。)のうち、まず、インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出させた構成を含まないものも対象となるようにした点(争点(2)ア(ウ))について判断する。
(1) 本件原明細書の特許請求の範囲は、後記(2)のとおり、「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出している」構成が記載されていたが、甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば、本件分割出願における特許請求の範囲からは同構成が削除されていることが認められる。ところで、分割出願が行われた場合、新たな特許出願(分割出願)はもとの特許出願(原出願)の時にしたものとみなされる(特許法44条)ところ、このように出願日の遡及が認められるためには、分割出願に係る発明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか、同明細書等に記載した事項から自明な事項であることを要するといわなければならない。そこで、本件分割出願において上記構成が削除されたことが適法であるかが問題となる。
(2) 本件原明細書には、以下の記載があることが認められる(乙6)。
ア 特許請求の範囲
(ア) 【請求項1】
 「インクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とするインクジェット記録装置。」
(イ) 【請求項2】
 「インク取り出し口外縁の最大内径あるいは最長対角線長さをdとすると、(インク取り出し口外縁の突出量)≧d/10であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」
(ウ) 【請求項3】
 「インク取り出し口に配したフィルムに薄膜を用いたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」
イ 従来技術、発明が解決したようとした課題
(ア) 段落【0002】
 「・・・従来のインクタンクからインクを抽出する技術としては、特開平3−92356号公報(原文では「広報」)に記載されたものがある。これは図7に示すようにインクタンク30下部のインク取り出し口34にゴム栓31を具備し、このゴム栓31に金属製のインク供給針32を挿入しインクを抽出していた。インク供給針32はゴム栓31に貫通させるため、ステンレス製のパイプを先端が鋭い針となるように絞り加工を行い、さらにインクの流路としてパイプの側面に直径1mm程度のインク供給孔33を設けていた。」
(イ) 段落【0004】
 「しかし前述の従来技術では、インクタンクの交換時にインク供給孔は大気と接触するために、凹形状のメニスカスが生じるが、従来のステンレス製のインク供給針はインク供給孔が1mm程度と大きく、従ってメニスカスの体積が大きく、インクタンク交換時に記録ヘッドに流れる気泡の量が多く、 印字不良を発生させる要因となっている。」
(ウ) 段落【0005】
 「またインク供給針は先端が鋭く加工されており危険のため、安全性を確保するためにはシャッタ等の安全装置の設置が必要であった。」
(エ) 段落【0006】
 「本発明はかかる従来技術の課題を解決するものであり、その目的とするところは、インクタンクの交換時に流路に侵入する気泡が少なく、また接続部のシールを確保した信頼性の高い、かつ低コストで安全なインク供給装置を装備したインクジェット記録装置を提供するものである。」
ウ 課題を解決するための手段
(ア) 段落【0007】
 「本発明はインクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とする。」
(イ) 段落【0008】
 「さらにインク取り出し口外縁の最大内径あるいは最長対角線長さをdとすると、(インク取り出し口外縁の突出量)≧d/10であることを特徴とする。」
(ウ) 段落【0009】
 「またインク取り出し口に配したフィルムに薄膜を用いたことを特徴とする。」
エ実施例
(ア) 段落【0012】
 「図2はキャリッジ12上に配した記録ヘッド10とインクタンク1の設置状態の実施例を示した図である。記録ヘッド10はキャリッジ12に固定され、インクタンク1はキャリッジ12に作られたガイド13に沿って上方より挿入する。インクタンク1を度当たるまで挿入すると、インク供給針9がフィルム4を破り、インク供給針9の先端部のインク供給孔9aは空間8内へ突出する。それと同時にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保される。」
(イ) 段落【0014】
 「フィルム4はアルミ、ポリスチレン、ナイロンの3層構造である。フィルム4にはインクタンク1内に空気が侵入するのを防ぐためのガスバリア性に優れた膜層が設けられており、本実施例ではアルミを用いている。アルミの代わりにステンレス、ポリプロピレン等を用いることも可能である。インクタンク1はポリスチレンで成形されており、フィルム4のポリスチレン面とインクタンク1のポリスチレンで熱溶着されフィルム4は固着している。フィルム4の総厚みは50μm程度で十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針9であっても容易に貫通できる。しかし一方では、使用者のハンドリングによりフィルム4を不用意に破る危険性がある。そこでインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にすることで、図4に示すように使用者の指16等が直接フィルム4に強く触れることがなく、インクタンク1を交換する時に不用意にフィルム4を破るのを防止している。またこのような構造にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造、即ち低コストでフィルム4を保護することができる。」
(ウ) 段落【0015】
 「インク取り出し口外縁3aの突出量について、本発明者が種々実験を重ねた結果、インク取り出し口外縁3aの最大内径(d)に対し、インク取り出し口外縁3aの突出量(h)を、
 h≧d/10
 とするのが好ましいことが判明した。この時、使用者が通常の取り扱いをする限り、例えば故意に指の爪先をフィルム4に立てるようなことをしなければ、フィルム4が破れることはない。ここで突出量を大きくすればするほどフィルム4をより安全に保護することはできるが、それに伴いインクを抽出する位置、即ち空間8がノズルに対し高くなりインクの供給圧に影響したり、また高さ方向のレイアウトに影響する等の問題が発生するため、より好ましくは、
 d/4≧h≧d/10
 である。なおインク取り出し口3の形状が多角形の場合は、最長対角線長さをdとする。」
(エ) 段落【0016】
 「ここでインクタンク1が40℃を超える(原文では「越える」。)ような場所に放置された場合を考える。インクタンク1がまだ熱い状態のうちにインクタンク1をインク供給針9に接続すると、インク供給針9がフィルム4を破る時にフィルム4は通常より伸びる。そして図5に示されるように、伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合がある。そこでインク取り出し口3に配するフィルム4には、例えばポリスチレン層さらにナイロン層を配した(原文は「廃した」。)ような、より薄く伸びにくい膜を用い、フィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込む前に確実に破れるようにする。・・・」
(エ) 段落【0017】
 「インク取り出し口3に配したフィルム4に薄膜を用いた場合、フィルム4をより確実に保護する必要がある。まず前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、単純な構造で目的を達成できる。さらに図6に示すように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。なお、第2のフィルム20とパッキン6の距離を十分確保することで、図5に示したようなシール不良が発生することはない。また第2のフィルム20をインクタンク交換時に剥すようにして使用することでも、シール不良を防止し、かつフィルム4を保護することができることは言うまでもない。」
オ 発明の効果
 段落【0018】
 「本発明によれば、インク供給針に微小径のインク供給孔を設けたことによりインクタンク交換時の気泡の侵入が少ないインク供給装置を提供できる。またインクタンクのインク取り出し口外縁をフィルムより突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる。さらにフィルムに薄く伸びにくい膜を用いることにより、インクタンクとインク供給針間で発生するシール不良を防止することができる。」
カ 図面
 本件原当初発明の実施例を示す図1ないし図5では、いずれも、インク取り出し口の外縁はフィルムより外側に突出した状態が記載されており、本件原当初発明の実施例を示す図6では、図1ないし図5と同様の位置にフィルムが接着されているインク取り出し口の外縁にさらにフィルムが接着されて、フィルムが二重になっている状態が記載されている。
 また、図4では、指の第一関節より先端部の腹の部分がインク取り出し口の外縁に接触しているが、フィルムには接触していない状態が記載されている。
(3) 前記(2)によれば、本件原明細書には、インクジェット記録装置について、従来技術では、@インク供給針のインク供給孔が1mm程度と大きかったことから、メニスカスの体積が大きく、インクタンクの交換時に記録ヘッドに侵入する気泡の量が多く、これが印字不良を発生させる要因となっていた、Aインク取り出し口を封止する部材はゴム栓であったため、インク供給針の先端は、ゴム栓を貫通できるよう鋭く加工されており危険であった、という二つの課題があったところ、本件原当初発明は、@の課題については、インク供給孔を微小径とすることにより解決し、Aの課題については、インク取り出し口を封止する部材を、先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとすることにより解決したことが記載されている。そして、本件原明細書からは、上記Aの課題解決のための対応、すなわち、インク取り出し口を封止する部材を厚さの薄いフィルムとしたことにより、新たに、インク供給針をフィルムに挿通した後のインクの漏れ出しの問題のほか、使用者の過誤により当該フィルムが破れる危険性があるという問題が生じることが示されており(本件原明細書には、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込むことにより、インクタンクとインク供給針との間のシール不良が生じることが考えられ、これを防止するため、フィルムをより薄く、伸びにくいものにして、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込む前に確実に破れるようにするのが好ましいこと、このようにフィルムを薄くした場合、フィルムの保護の必要性がより強まるが、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成とすることにより、上記目的を達成できること、インクタンクが40℃を超えるような場所に放置され、インクタンクが熱くなっているときでも、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込み隙間が形成されるというシール不良が生じないように、より薄く伸びにくいフィルムを用いる方法が記載されているところ、このようにフィルムをより薄くした場合は、フィルムが破れる危険性という上記問題点はより大きなものとなる。)、フィルムが破れる危険性という後者の問題は、本件原明細書では、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成を採用することにより解決されたことが示されている。
 さらに、本件原明細書には、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成の意義、効用及び実施例について、上記の点のほかに、上記構成にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造でフィルムを保護することができ、低コスト化が図れること、インク取り出し口外縁の突出量は、インク取り出し口外縁の最大内径の10分の1以上、4分の1以下とすることが好ましいことが記載されている。
 本件原明細書の以上の記載からすると、本件原明細書は、インク取り出し口を封止する部材をフィルムとすると、そのままでは使用者の過誤によりフィルムが破損される危険性があることを前提としているものと認められる。また、本件原明細書には、使用者の過誤によるフィルムの破損の危険性は、本件原当初発明の実施にとって支障とはならないという趣旨の説明は一切なく、上記の危険性を除去することは本件原当初発明にとって極めて重要であるということができる。本件原明細書では、この危険性を除去するために、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成を採用したことが記載されているが、同構成以外の構成については一切記載がなく、前記(2)のとおり、本件原当初発明の実施例である本件原出願の図面にも、インク取り出し口の外縁がフィルムの接着面よりも突出した構成のインクタンクのみが図示されており、インク取り出し口がフィルムの接着面よりも突出していない構成のインクカートリッジはどこにも開示されていない(なお、図6では、インク取り出し口の外縁にフィルムが接着されているが、前記(2)によれば、図6の実施例は、インク取り出し口の外縁がフィルムの接着面よりも突出した構成のインクタンクにおいて、より確実にフィルムを保護するためにインク取り出し口の外縁に更にフィルムを接着させたものであることが認められ、インク取り出し口の内側のフィルムの存在を当然の前提として、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成を示すものであるといえる。)。そうすると、本件原明細書における本件原当初発明にとって、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成は、不可欠のものであるとともに、インク取り出し口の封止部材をフィルムにする構成と一体としてとらえるべきものであると解するのが相当である。
 そして、上記のとおり、本件原明細書及び図面には、本件原当初発明において、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させていない構成を採用することは一切記載されておらず、上記判示内容からすれば、その示唆もないというべきであり、また、本件原明細書及び図面において、上記構成を採用しないことが自明の事項であると認めることもできない。
(4) これに対し、原告は、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成は、フィルムを保護するという目的のために採用されたものであり、本件原当初発明の本来の目的を達成させるための構成ではないから、付加的な構成にすぎず、同構成を削除したことにより分割出願が不適法となることはない旨主張する。
 確かに、前記(3)のとおり、本件原当初発明の目的は、@インクタンクの交換時に記録ヘッドに侵入する気泡の量が多かったこと、Aインク供給針の先端が鋭く加工されており危険であったこと、という課題を解決するものであるが、本件原当初発明は、Aの目的を達成するために、インク取り出し口を封止する部材を、先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとしたのであり、このことから、必然的に当該フィルムの保護の問題が生じた以上、フィルムを保護するための構成が本件原当初発明の目的達成のための構成ではないということはできない。そして、本件原明細書において、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成が本件原当初発明にとって不可欠のものであると見なしていたことは、前記(3)で判示したとおりである。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
(5) そうすると、本件分割出願は、平成6年法律第116号改正前特許法44条1項の分割要件を満たしているとは認められない不適法なものであるから、出願日の遡及は認められず、本件特許の出願日は現実の出願日となる。そして、前記争いのない事実等で判示したとおり、本件特許は、平成4年2月19日にされた本件原出願につき、平成12年12月21日に分割出願されたものであるから、本件特許の出願日は、平成12年12月21日となる。
2 次に、本件特許の出願日が平成12年12月21日であることを前提として、本件発明が新規性又は進歩性を欠くか(争点(2)エ)について判断する。
(1) 文献乙9の内容
 前記1で判示したように、本件特許の出願日は平成12年12月21日となるところ、文献乙9は平成4年9月11日に頒布されたから(乙9)、文献乙9は本件特許の出願前に頒布された刊行物である。
 文献乙9には、次のとおりの記載がある。
ア 特許請求の範囲
(ア) 【請求項1】
 「インクジェット記録装置において、インクを注入したインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出する樹脂成形のインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に融着したフィルムと、前記インク取り出し口と、前記フィルム間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に複数個の微小径からなるインク供給孔を設けたことを特徴とするインクジェット記録装置」
(イ) 【請求項2】
 「インク供給針の先端に直径がφ0.1〜φ0.4mmの範囲の複数個のインク供給孔を設けたことを特徴とする請求項1のインクジェット記録装置」
イ 従来技術、発明が解決しようとした課題
(ア) 段落【0002】
 「・・・従来、インクタンクからのインク抽出方法は図6に示す如く、インクタンク30下部のインク流出口にゴム栓31を具備し、このゴム栓31に金属製のインク供給針32を挿入しインクを抽出していた。インク供給針32は、ゴム栓31に貫通させるため、ステンレス製のパイプを先端が鋭い針となるように絞り加工を行い、更にインクの流路として、パイプの側面に直径が1mm程度のインク供給孔33を設けていた。」
(イ) 段落【0005】
 「更にインクタンクの交換時にインク供給孔は大気と接触するために、凹形状のメニスカスが生じるが、従来のステンレス製のインク供給針はインク供給口がφ1mm程度と大きく、従ってメニスカスの体積が大きく、インクタンク交換時にインクジェットヘッドに流れる気泡の量が多く、印字不良を発生させる要因となっている。」
(ウ) 段落【0006】
 「また従来のインク供給針は先端が鋭く加工されており危険のため、安全性を確保するためには、シャッタ等の安全装置の設置が必要であった。」
(エ) 段落【0007】
 「本発明はかかる従来技術の課題を解決するものであり、その目的とするところは、・・・インクタンクの交換時に流路に侵入する気泡の少ない、且つ低コストで安全なインク供給装置を装備したインクジェット記録装置を提供するものである。」
ウ 実施例
(ア) 段落【0010】
 「図中1はインクタンク、2はインクタンクに挿入したインク含浸体のフォーム、3はインクタンク1に設けたインク取り出し口、4はインク取り出し口4に熱融着したアルミラミネートフィルム(以後フィルムと称する)、5はインク取り出し口4に貼られたフィルタ、6は樹脂成形のインク供給針、7はキャリッジ、8はインクである。また9はインク供給針6とヘッドを接続する供給パイプ、10はインクジェットヘッド(以後ヘッドと称す)、11はインク供給針6とインクタンク1のシールを確保するパッキンである。インク供給針6の先端は円錐形状をしており、円錐面には直径φ0.3mmのインク供給孔6−aが多数個あけられている。フィルム4はアルミとポリエチレンとナイロンの3層構造をしており総厚みは50μmである。従って十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針6であっても容易に貫通できる。」
(イ) 段落【0011】
 「次に図1、図2、図3を用いて動作の説明を行う。・・・インクタンク1を上から下に装着すると、インク供給針6がフィルム4を破る。その直後インクタンク1のインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン11の内周とインク供給針6の外周が密着しインクタンク1とインク供給針6の接続部のシールが確保される。」
(ウ) 段落【0012】
 「このメニスカス12の持つ毛細管力はインク供給孔6−aの直径がφ0.3mmの場合−50mmAq程度である。一方インクタンク1の内部の負圧はインク8が満たんの初期状態で−30mmAq程度であり、従ってインク供給孔6−aに形成したメニスカス12でインク8を保持できる。」
(エ) 段落【0014】
 「図4は通常のインクタンク1の交換時のインク供給針6の詳細を示す図であり、図1においてヘッド10内にインク8が充填されている状態を示す。インク供給針6のインク供給孔6−aには図で示すようにメニスカス13が形成されている。しかしインク供給孔6−aは上記のよう直径0.3mmと小さい為、メニスカス13の体積は大径のインク供給孔の場合と比較しても十分に小さい。従ってインクタンク1の交換時にインク供給孔6−aより浸入する空気は微少量に抑えることができる。」
エ 図面
 図1、図2及び図3は、文献乙9に記載された発明(以下「文献乙9発明」という。)の実施例を示しており、文献乙9の上記記載内容を併せ考慮すると、その内容は次のとおりである。
 インクタンク1、キャリッジ7、インクジェットヘッド10が記載され、インクタンク1がキャリッジ7に装着されている状態が示されているが、インクタンク1の底面にはインク取り出し口3が設けられ、キャリッジ7にはインク供給針6が設置され、このインク供給針6がインク取り出し口3の底面に接着されているフィルム4を突き破ってインク取り出し口3内に進入している。インク供給針6はインクジェットヘッド10に連通し、インクタンク1内のインクはインク供給針6を通してインクジェットヘッド10のノズル10−aに達するようになっている。
 インク供給針6には、先端を上向きにした場合に、左右に突出している部材(以下「横突出部材」という。)が付いている。インク取り出し口3には、フィルムの内側部分に、インク供給針6の先端から横突出部材までの部分の外周にその内周が密着し、かつ、インク取り出し口の内周にその外周が密着しているパッキン11が配置されている。インク供給針6は、先端が円錐面として形成されており、先端にはインク供給孔6−aが複数個穿設され、同インク供給孔6−aにはメニスカス12が形成されている。
(2)ア(ア) 文献乙9においては、インク供給針6が筒胴部を備えていること、パッキン11が環状のものであること、インク取り出し口3が筒状のものであることについては明記されていない。
 しかしながら、前記(1)のとおり、インク供給針6の先端は、円錐形状であることが明記されているのであるから、インク供給針6自体も、先端部分から少なくとも突出部材までは円柱形状をしているものと推認され、また、前記(1)のとおり、パッキン11の内周は、インク供給針6の先端部分から突出部材までの部分の外周に密着しているところ、上記のとおり、インク供給針6の上記部分が円柱形状と推認される以上、このインク供給針6の外周に密着したパッキン11の形状も環状であると推認するのが合理的である。また、前記(1)のとおり、インク取り出し口3の内周は、パッキン11の外周に密着しているところ、上記のとおり、パッキン11の形状は環状と推認されるから、このパッキン11の外周に密着したインク取り出し口3も筒状となるものと推認される。
(イ) 次に、文献乙9においては、パッキン11がインク供給針6に弾接しているかについては明記されていないので、この点を検討する。
 前記(1)の記載からすると、文献乙9発明が解決しようとした課題の一つは、従来、インクタンク下部のインク流出口を封止していた部材はゴム栓であったため、インク供給針は、ゴム栓を貫通することができるように、ステンレス製のパイプで、先端を鋭い針となるように絞り加工を施したものとしていたが、このようなインク供給針は危険であり、安全性を確保するために、シャッタ等の安全装置の設置が必要であったというものである。文献乙9発明は、この課題を解決するために、インク取り出し口を封止する部材を先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとして、インク供給針の先端を円錐形状にするなどして安全なものとしたものと認められる。ところで、インク取り出し口を封止する部材をフィルムとした場合、インク供給針をフィルムに挿通すると、フィルムが破れ、インクタンク内のインクが漏れ出してしまうという問題が生じるが、前記(1)の記載からすると、文献乙9発明は、インク取り出し口内にパッキンを設け、インク供給針がフィルムに挿通されると、上記パッキンに嵌り、インク供給針の外周とパッキンの内周が密着して、インク供給針とパッキンの接触部のシールが確保されるようにしたことにより、上記の問題を解決したものと認められる。
 このように、文献乙9発明においては、パッキンがインク供給針の外周に密着してインクの漏れ出しを防止するものであるが、仮に、上記密着状態を弾接の状態ではないとした場合、パッキンの内径をインク供給針の外径とを完全に一致させたとしても、挿通に当たって多少の軸ズレが生じるから、インクの漏れ出しを完全に防止することが困難となることは当業者にとって容易に理解されることである。また、前記(1)のとおり、インク供給針6は、樹脂成形されたものであり、一般的に弾性があるものと理解されるから、パッキンがこれに密着すると、その密着状態が弾接の状態となるということも容易に理解できる。
 したがって、パッキンとインク供給針との密着状態を弾接の状態とすることは、文献乙9に実質的に記載されているものと解するのが相当である。
イ したがって、文献乙9発明は、以下の構成のものと認められる。
@ キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
A インクを収容する容器であるインクタンクと、
B インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口と、
C 前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状の供給針シール部材と、
D 前記供給針シール部材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなる
E インクジェット記録装置用インクタンク
(3) 本件発明との対比
 本件発明2の構成要件2Aは文献乙9発明の上記構成@と、本件発明1の構成要件1A及び本件発明2の構成要件2Bは文献乙9発明の上記構成Aと、本件発明1の構成要件1B及び本件発明2の構成要件2Cは文献乙9発明の上記構成Bと、本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Dは文献乙9発明の上記構成Cと、本件発明1の構成要件1D及び本件発明2の構成要件2Eは文献乙9発明の上記構成Dと、本件発明1の構成要件1E及び本件発明2の構成要件2Fは文献乙9発明の上記構成Eと、それぞれ同一であるから、本件発明1及び本件発明2はいずれも文献乙9発明と同一である。
 したがって、本件発明は、文献乙9により新規性を欠くものといわなければならない。
3 以上のとおり、本件特許は、特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法123条1項2号の規定に基づき、特許無効審判により無効にされるべきものである。したがって、原告は、同法104条の3第1項の規定により、被告に対し、本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。
第4 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 佐野信


物件目録1
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E05B PM−790PT、等1−1
 ECI−E12B CC−500L、等1−2
 ECI−E13B PM−860PT、等1−3

物件目録2
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E05C PM−790PT、等2−1
 ECI−E06C PM−3300C、等2−2
 ECI−E12C CC−500L、等2−3
 ECI−E13C PM−860PT、等2−4

物件目録3
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E02B PM−770C、等3−1
 ECI−E07B PM−750C、等3−2

物件目録4
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E02C PM−770C、等4−1
 ECI−E01C PM−750C、等4−2

物件目録5
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E21C PM−980C、等5−1
 ECI−E21B PM−980C、等5−2
 ECI−E21DY PM−980C、等5−3
 ECI−E21LC PM−980C、等5−4
 ECI−E21LM PM−980C、等5−5
 ECI−E21M PM−980C、等5−6
 ECI−E21Y PM−980C、等5−7
 ECI−E23B PM−4000PX 5−8
 ECI−E23C PM−4000PX 5−9
 ECI−E23GY PM−4000PX 5−10
 ECI−E23LC PM−4000PX 5−11
 ECI−E23LM PM−4000PX 5−12
 ECI−E23M PM−4000PX 5−13
 ECI−E23MB PM−4000PX 5−14
 ECI−E23Y PM−4000PX 5−15

物件目録6
下記型番のセイコーエプソン株式会社製下記プリンタ対応のインクタンク
 記
 型番対応プリンタ物件番号
 ECI−E32Y PM−G700、等6−1
 ECI−E32C PM−G700、等6−2
 ECI−E32LC PM−G700、等6−3
 ECI−E32LM PM−G700、等6−4
 ECI−E32M PM−G700、等6−5
 ECI−E32B PM−G700、等6−6

被告製品1の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタのキャリッジは、搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、前記キャリッジのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図1−1、斜視図は別紙図1−2のとおりである。前記パッキン5は、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図1−3及び別紙図1−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図1−1
図1−2
図1−3
図1−4

被告製品2の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタのキャリッジは、搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針6と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、キャリッジのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図2−1、斜視図は別紙図2−2のとおりである。前記パッキン5は、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図2−3及び別紙図2−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図2−1
図2−2
図2−3
図2−4

被告製品3の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタのキャリッジは、搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針6と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、キャリッジのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図3−1、斜視図は別紙図3−2のとおりである。前記パッキン5は、環状に形成され、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図3−3及び別紙図3−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図3−1
図3−2
図3−3
図3−4

被告製品4の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタのキャリッジは、搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針6と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、キャリッジのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図4−1、斜視図は別紙図4−2のとおりである。前記パッキン5は、環状に形成され、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図4−3及び別紙図4−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図4−1
図4−2
図4−3
図4−4

被告製品5の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタのキャリッジは、搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針6と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、キャリッジのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図5−1、斜視図は別紙図5−2のとおりである。前記パッキン5は、環状に形成され、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図5−3及び別紙図5−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図5−1
図5−2
図5−3
図5−4

被告製品6の構成
1 インクタンクが装着されるインクジェットプリンタは、キャリッジに搭載された記録ヘッドと前記記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備えたインク供給針6と、前記キャリッジに形成されたインクタンク収容部を備えている。
2 前記インクタンクは、インクを収容する容器2、インク供給口3、薄膜4及びパッキン5とからなり、インクジェットプリンタのインクタンク収容部に着脱可能であり、インクタンク収容部に装着された際には、前記インク供給針6を介して前記記録ヘッドにインクを供給可能なように形成されている。
3 前記インク供給口3は、インク供給針6が挿通可能で、かつ前記容器2の底面から突出するように筒状に形成され、前記容器2に収容されたインクが流入するように構成されている。
4 前記パッキン5の断面図は別紙図6−1、斜視図は別紙図6−2のとおりである。前記パッキン5は、環状に形成され、前記インク供給口3の前記インク供給針6の挿通側に設けられており、かつ、別紙図6−3及び別紙図6−4のように、その中央部を孔状にして前記インク供給針6の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するように設けられている。
5 前記薄膜4は、前記パッキン5の前記インク供給針6の挿通側を封止するように前記インク供給口3に接着され、かつ前記インク供給針6の先端の円錐面により破断されるようになっている。
6 インク供給針6には、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔7が設けられている。
図6−1
図6−2
図6−3
図6−4
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