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【事件名】「キューピー」不正競争事件
【年月日】平成18年9月26日
 東京地裁 平成17年(ワ)第2541号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成18年7月28日)

判決
原告 株式会社ローズオニールキューピー・インターナショナル
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波朋子
同 永田玲子
同訴訟復代理人弁護士 木坂尚文
同 田場眞理子
被告 ジャス・インターナショナル株式会社
東京都世田谷区(以下、略)
被告 a


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して金100万円及びこれに対する平成17年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して金550万円及びこれに対する平成17年2月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告ジャス・インターナショナル株式会社は、原告に対し、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領で同目録記載の各新聞に掲載せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者等
ア 原告は、キャラクターの企画、開発及び販売等を主たる目的とする株式会社である。b(以下「b」という。)は、原告の代表取締役である。
イ 被告ジャス・インターナショナル株式会社(以下「被告会社」という。)は、海外企業と日本国内企業との提携の斡旋業務等を主たる目的とする株式会社である。
ウ 被告a(以下「被告a」という。)は、被告会社の代表取締役である。
エ 原告はキューピーに関する著作権のライセンス業務を現に行う者であり、被告会社は当該ライセンス業務を行おうとする者であって、原告と被告会社とは、当該ライセンス分野において競争関係にある。
(2) ローズ・オニールの著作物に係る著作権
ア ローズ・オニールは、1874年6月25日、米国ペンシルバニア州ウイルケス・バレ市で生まれ、1944年4月6日死亡したイラストレーターである。ローズ・オニールは、1889年ころから雑誌にイラストを寄稿するなどしたことから、その画才が注目されるようになり、1896年ころから本格的にイラストレーターとしての活動を始めた。
イ ローズ・オニールは、1909年、従来のキューピッドのイラストとは異なる独創的な「キューピー」のイラストを創作し、自作のイラストを付した詩「The KEWPIE'S Christmas Frolic」において発表した。その後も、ローズ・オニールは、多数の「キューピー」のイラスト等を創作した。
ウ ローズ・オニールの著作物であって、1906年5月11日以降に創作されたものについては、我が国において平成17年(2005年)5月6日まで著作権が存続する。
エ 原告は、日本におけるキューピーの著作物に係る著作権のうち、ローズ・オニールの著作物に係る著作権を有している。
オ 米国法人JESCO IMPORTS、INC.(以下「JESCO社」という。)は、ジョセフ・カラスの相続人であるcとの間で、平成14年10月11日、同人が有すると主張するローズ・オニールの著作物に係る著作権を譲り受けるとの合意をした。
(3) 被告会社の告知行為
 被告会社は、平成16年12月上旬ころから、別表のとおり、原告のライセンシーその他取引先に対し、次の内容等を記載した書面を郵送するなどして告知した。
ア JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有している旨の内容(以下「告知事実1」という。)が記載された別表の1−1ないし1−4に掲げる書面(以下、別表の番号に従って「本件文書1−1」などという。)
イ JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有していることが、別件訴訟判決に説明されている旨の内容(以下「告知事実2」という。)が記載された別表の2に掲げる書面(以下「本件文書2」という。)なお、「キューピー事件」の判決とは、東京地方裁判所平成10年(ワ)第13236号同11年11月17日判決、東京高等裁判所平成11年(ネ)第6345号同13年5月30日判決、東京地方裁判所平成10年(ワ)第16389号同11年11月17日判決及び東京高等裁判所平成12年(ネ)第7号同13年5月30日判決をいう(以下「別件訴訟判決」という。)。
2 事案の概要
 本件は、原告が、被告会社の上記1(3)の行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当すると主張して、被告会社に対しては同法4条に基づき、被告aに対しては、その代表取締役として悪意又は重過失により原告に損害を与えたとして、会社法429条に基づき、損害賠償を請求するとともに、被告会社に対し、不正競争防止法14条に基づき、営業上の信用を回復するのに必要な措置として新聞への謝罪広告の掲載を請求する事案である。
3 争点
(1) 被告会社による告知事実1及び2の告知行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか否か。
(2) 損害額
(3) 謝罪広告の要否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(不正競争行為の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 告知された事実が虚偽の事実に該当するか否かは、告知された事実について、その受け手となる者が真実に反する誤解をするか否かにより判断されるべきである。このような場合には、当該告知行為がどのような状況下においてされたか、受け手となる者が、告知者又は被侵害者とどのような関係にあり、告知された事実の分野における予備知識又は分析能力を有するか等の事情が考慮されるべきである。
(2) 本件文書1−1ないし1−4により、告知事実1(JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有しているという事実)を告知された場合には、その受け手は、原告がキューピーの著作権について無権利者であると理解して、客観的事実に反する誤解をしてしまうことは明らかである。
(3) 本件文書2により、告知事実2(JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有していることが、別件訴訟判決に説明されているという事実)を告知された場合には、その受け手は、JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を所有しているという事実が判決に説明されていると理解して、客観的事実に反する誤解をしてしまうことは明らかである。
 これに対し、被告らは、上記記載内容のうち、「経緯」とは、ジョゼフ・カラスへの権利の譲渡等の経緯を意味するものであると主張するが、文理上、受け手は、「経緯」とは、その直前に記載された事実、すなわち、JESCO社が全世界の「キューピー」商品化事業を含めた商業活動のすべての権利を所有していることを意味するものであって、このような事実が判決に説明されていると理解して、客観的事実に反する誤解をしてしまうことは明らかである。
(4) このようなことは、原告のキューピーに関する著作権が東京地裁又は東京高裁によって否定され、原告のライセンス業務が著作権の裏付けなく行われていることを示すものであるから、原告の営業上の信用を害することは明らかである。
〔被告らの主張〕
(1) 被告らは、本件文書1−1ないし1−4により、告知事実1を告知したものの、これは、米国における事実を伝えたものにすぎず、日本における事実を伝えたものではない。このことは、文面において日本国内での事実であると特定していないことからも明らかである。
 具体的には、被告らは、キューピーのライセンス分野において原告と競争関係にある会社として、あくまでも被告会社のライセンサーである米国のJESCO社の主張を取引先に説明したまでであり、このような場合には、被告らは、「原告に日本国内での著作権が無い」と発言するなどして、今まで一度も、原告が日本においてローズ・オニールの著作物に係る著作権を有することを否定したことはない。
 そうすると、被告らによる告知行為によって、原告が日本におけるローズ・オニールの著作物に係る著作権を有するという事実が否定されるものではないから、被告らの告知した内容は虚偽の事実ではない。
 なお、原告は、ローズ・オニールの遺族であるデビット・オニールを代表者に仕立て上げて遺産財団を再開させて、JESCO社の貴重な財産であるローズ・オニールの著作物に係る日本における著作権を原告に譲渡させた。
 その結果、JESCO社は貴重な財産を理由なく奪われてしまったものであり、誠に遺憾である。
(2) 被告らは、本件文書2により告知事実2を告知したものである。
 しかしながら、この内容は、JESCO社がキューピーのすべての著作権を有することが裁判記録に説明されているという意味ではない。すなわち、被告らは、「経緯」が説明されていると告知したのであって、「経緯」とは、JESCO社の主張に関する記載ではなく、本件文書2のうち、「御承知のように、「キューピー」は1909年にアメリカの「ローズ・オニール女史」により創作され、日本でも大正時代から「セルロイド人形」等で有名になっております。ローズ・オニール女史が亡くなった後は、甥のポール・オニール氏が全てを相続しました。その後ポール・オニール氏は1947年に、かつてのローズ・オニール女史の共同事業者であったジョゼフ・カラス氏にオニール女史の遺志に従って「キューピー」の人形制作を含めた「著作権」「商標権」「商業活動権」の全てを譲渡し、その後数々の経緯を経て、その権利の全ては上記「JESCO社」に譲渡されております。オニール女史の遺志で、生前自分の事業に誠心誠意尽くしてくれたカラス氏の貢献に報いる為の譲渡であったと伝えられています。」の部分を示すものである。
 そうすると、このような経緯が当事者の主張として別件訴訟判決の中に説明されていること自体は事実であるから、被告らの告知した内容は虚偽の事実ではない。
 なお、被告らは、原告が主張するような誤解を避けるために、あえて読み手に対して、別件訴訟判決を著作権センターのホームページで確認するように勧めている。
2 争点(2)(損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告らが株式会社ポピーに対して虚偽の事実を告知したことにより、原告は、同社との間におけるライセンス契約の締結に至らず、150万円の損害を被った。
(2) 原告は、信用毀損として300万円、弁護士費用として100万円の損害を被った。
〔被告らの主張〕
(1) 株式会社ポピーの従業員は、被告aに対して、原告との間のライセンス契約の締結を中止したことについて、「自分達がライセンス契約を中止したのは、著作権の存在が不明瞭であるからだ」と述べた。このように、ライセンス契約の締結が中止になった原因は、被告らの告知行為によるものではなく、原告が、ライセンス契約の対象とされた著作権が消滅することを隠していたことによるものである。
 結局のところ、ライセンス契約が成立しなかったのは、原告の努力不足であり、被告らの告知行為が原因とは思われない。
(2) 本件文書1−1ないし1−4については、被告らは、原告の競争会社として、自己の取引先6社に対して、営業活動の一環として、キューピーの著作権に関する事実関係を告知したにすぎない。したがって、このことによる原告の損害はない。なお、被告らは、キューピーの著作権の保護期間などの事実関係を告知したことにより、これらの取引先から感謝されている。
(3) 本件文書2については、被告らは、インターネットで公開されている別件訴訟判決の内容を参照するように促したり、又はこれを引用したにすぎない。したがって、このことによる原告の損害はない。
3 争点(3)(謝罪広告の要否)について
〔原告の主張〕
 被告会社による告知行為により、原告は、その営業上の信用を著しく傷つけられたから、原告の営業上の信用を回復する措置が必要である。
〔被告会社の主張〕
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 事実関係
 前記争いのない事実等に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(1) 当事者等の関係
ア 原告と被告会社は、いずれも著作権等のライセンス業務等を業とする株式会社であって、ローズ・オニールの著作物に係る著作権(以下「キューピー著作権」という。)のライセンス業務については、原告が先発会社、被告会社が後発会社の関係にあり、両社の間には、競争関係が存在する。
イ 告知行為の相手方のうち、株式会社オオイケ(以下「オオイケ」という。)、株式会社長谷部(以下「長谷部」という。)、株式会社エイコー(以下「エイコー」という。)、加藤工芸株式会社(以下「加藤工芸」という。)及び株式会社ファイブフォックス(以下「ファイブフォックス」という。)は、いずれもキューピー著作権に関する原告のライセンシーである。
(2) キューピー著作権等の使用許諾契約の申込み(甲61、101の1及び2、102、127、128、乙70)
ア 株式会社セントワークス(以下「セントワークス」という。)は、平成12年ころから、原告の代理人として、キューピー著作権に関するライセンス業務の営業を担当していた。このような営業活動により契約が成立した場合には、同社は、原告から、契約代金の25パーセントの金員を手数料として受領することとされていた。
イ セントワークスの代表取締役であるdは、株式会社ポピー(以下「ポピー」という。)のキャラクター第1部のゼネラルマネージャーのe及びリーダーのfと以前の勤務先における同僚であったことから、セントワークスは、ポピーに対して、キューピー著作権に関するライセンス業務の営業活動を行っていた。
ウ セントワークスは、ポピーとの間で、平成16年11月ころから、キューピー著作権及びキューピーに関する商標権(以下「キューピー商品化権」という。)の使用許諾契約の締結に向けて、交渉を始めた。
エ ポピーは、セントワークスに対して、平成16年12月6日、次の条件で、キューピー商品化権の使用許諾契約の申込みをした。
(ア) ミニマムロイヤルティ50万円
(イ) 対象商品ポーチ類及び手提げバック等
(ウ) 契約期間平成17年1月1日から平成18年3月末まで
(エ) サブライセンシーヤング産業株式会社
オ セントワークスは、原告に対して、平成16年12月6日、上記申込みがあったことを伝えた。
カ ポピーは、セントワークスに対して、平成16年12月9日、次の条件で、キューピー商品化権の使用許諾契約の申込みをした。
(ア) ミニマムロイヤルティ100万円
(イ) ロイヤルティ4パーセント
(ウ) 対象商品キッズ・アパレル
(エ) 契約期間平成17年1月1日から同年12月31日まで
(オ) サブライセンシーマルタ布帛株式会社
キ セントワークスは、原告に対して、平成16年12月9日、上記申込みの条件を確認するように伝えた。
ク セントワークスは、後日、原告の代理人として、ポピーとの間で、上記エ及びカの申込みに対して承諾することを予定していた。
(3) 文書の作成及びその内容
ア 被告aは、次のとおりの内容等を記載した「ローズ・オニール「キューピー」権利の推移」と題する書面(本件文書1−1。甲4の4、6の4、10の2、12の4)を作成した。なお、上記文書に作成名義人に関する記載はない。
(ア) 「最近(平成10年頃)キューピーの作者ローズ・オニール女史の新しい「著作物」が発見されたと言われていますが、そのことはアメリカや日本で大々的に報道されてはいません。またそうだとしても、1946年に創設され1964年に解散した「旧ローズ・オニール遺産財団」のものであり、その経緯をたどれば、ローズ・オニール女史が死去した後、1945年甥の「ポール・オニール」氏が全ての遺産を相続したのですから、その「著作物」は旧財団の遺産計上漏れであり「旧ローズ・オニール遺産財団」から最終的に全ての権利(著作権、商標権)を譲渡された現在のJESCO社にあると思われます。」
(イ) 「やはり全てのキューピーの権利(著作権、商標権)は正式な「譲渡契約」等を経て現在のJESCO社が所有していると言わざるを得ません。」
(ウ) 「A氏、著作権を所有していると称して各企業に使用料を請求し、受け取る。「自ら著作権侵害をしておいて、他人の侵害を追求するのは権利の乱用である」とキューピー鰍フ東京地裁判決文で指摘される。」
イ 被告aは、次のとおりの内容等を記載した「キューピーには正統的な血脈があります」と題する書面(本件文書1−2。甲5の2、9の3)を作成した。なお、上記文書に作成名義人に関する記載はない。
 「キューピーは「ローズ・オニール」女史が絵を描き「ジョゼフ・カラス」氏が人形を制作し共同で創作したプロパティーです。日本では「キューピー人形」として知られています。
 @ローズ・オニール女史の死後(1994年)、甥のAポール・オニール氏がその遺産を引き継いで「ローズ・オニール遺産財団」を設立し、彼女の共同制作者だったBジョゼフ・カラス氏に1947年11月1日と1962年1月20日の2回に分けて彼女の全ての権利(著作権、商標権)を譲渡しました。
 その後カラス氏が死去(交通事故で死去、1982年)し、その後継者であり娘であるCc女史がその権利と事業を引き継ぎ、最終的には共同経営者であったロスアンゼルスのDJESCO社が現在全ての権利を継承しています。」
ウ 被告aは、次のとおりの内容等を記載した「Kewpie NEWS(2005年冬号VOL.2)」(本件文書1−3。甲6の6)の原案を作成し、編集人をgとする世界キューピー協会日本支部がこれを発行した。
 「P・オニール氏とカラス氏の間には1947年11月7日付と1962年1月20日の2回に分けた譲渡契約書が存在する。1964年1月16日に解散した「ローズ・オニール遺産財団」が40年後に再び設立されたことに疑問が多い。現在ジョゼフ・カラス氏の相続人で、娘である「c」女史を経て、現在ロスアンゼルスの「JESCO社」がR・オニール女史の全権利(著作権・商標権)を譲渡され、所有している。新しい財団の設立については各方面で興味を持たれており、ミズーリ州での設立の経緯や現在の財団の活動について、徹底的な調査が行われている。」
エ 被告aは、次のとおりの内容等を記載した「Kewpie NEWS(2005年冬号VOL.3)」(本件文書1−4。甲7)の原案を作成し、編集人をgとする世界キューピー協会日本支部がこれを発行した。
 「イラク戦争後、「テロ事件」の恐怖をきっかけに、アメリカ人が何か昔の「のどかなアメリカ社会」を思い出し始めたかもしれません。不安と混乱する社会は、あの「キューピー」の愛らしさと優しさを懐かしみ、今「キューピー」の大ブームとなっています。その「キューピー」のブームをリードしているのがロスアンゼルスにある「JESCO社」です。「JESCO社」は現在「キューピー」の全ての権利(著作権・商標権)を、その作者「ローズ・オニール」女史から継承した会社です。「キューピー」は最初の創作者R・オニール女史が1944年に死去された後、その甥の「ポール・オニール」氏が全ての彼女の遺産と権利を継承し、「ローズ・オニール遺産財団」を設立しました。日本では「キューピー」は一人の作家が全て創造したように考えられがちですが、実際はイラストをR・オニール女史が制作し、それを人形という立体物にしたのは「ジョゼフ・カラス」氏です。彼の才能と協力が無ければ「キューピー」はこの世に存在しませんでした。ここ日本では「キューピー」はあくまで人形であり、イラストではありません。逆に、人形を作ったのはカラス氏であり、「キューピー」の著作権を所有する人であるとも言えます。この遺産財団から権利を譲渡されたのがカラス氏であり、その娘「c」女史を通じて最終的に「JESCO社」に権利の全てが譲渡されています。その為、現在は「JESCO社」が全ての権利(著作権・商標権)を所有しています。」
オ 被告aは、被告会社名義で次のとおりの内容を記載した「お願い「キューピー」商品化事業の開始の件」と題する平成16年12月4日付けの書面(本件文書2。甲3の1、8の1、11、13)を作成した。
 「拝啓貴社益々ご清祥の事とお慶び申し上げます。当社は「海外ブランド導入事業」を専門に行っている会社であり、30年前に日本で最初に「キャラクター・ブランド」を導入確立した会社です。当社は数年前より日本国内で「スマイル・フェース」の商品化事業を行っています。最近アメリカの「スマイル財団本部」より米国の「JESCO社」の「キューピー」の商品化を日本国内で実施するよう要請を受けました。
 そこで当社は「ローズオニールキューピー・インターナショナル株式会社」に協力を申し出たところ一蹴されました。そのため仕方なくアメリカの「JESCO社」の申し出を受け、同社と契約し、「キューピー」のライセンス事業を開始することにしました。
 御承知のように、「キューピー」は1909年にアメリカの「ローズ・オニール女史」により創作され、日本でも大正時代から「セルロイド人形」等で有名になっております。ローズ・オニール女史が亡くなった後は、甥のポール・オニール氏が全てを相続しました。
 その後ポール・オニール氏は1947年に、かつてのローズ・オニール女史の共同事業者であったジョゼフ・カラス氏にオニール女史の遺志に従って「キューピー」の人形制作を含めた「著作権」「商標権」「商業活動権」の全てを譲渡し、その後数々の経緯を経て、その権利の全ては上記「JESCO社」に譲渡されております。
 オニール女史の遺志で、生前自分の事業に誠心誠意尽くしてくれたカラス氏の貢献に報いる為の譲渡であったと伝えられています。現在「JESCO社」は全世界の「キューピー」商品化事業を含めた商業活動の全ての権利を所有していると主張しています。
 それらの経緯は一般に言う「キューピー事件」として「東京地裁」「東京高裁」での「銀行と食品会社」を相手とする「10億円損害賠償事件」の「裁判記録」に説明されています。
 それらの記録はインターネットの「著作権センター」のサイトで誰でも自由に閲覧する事が出来ます。
 その「キューピー」事件とは、大阪の「キューピー愛好家」が、東京の「銀行と食品会社」に対して、自分が著作権を所有しているとして、10億円の損害賠償を請求した事件です。しかしそれらの裁判は、それぞれ「東京地裁」〔平成11年11月17日(ワ)第16389号〕と〔平成11年11月17日(ワ)13236号〕、「東京高裁」〔平成12年12月6日(ワ)第2533号、(ワ)第16389号〕と〔平成13年5月30日(ネ)第6345号〕で結審し「食品会社」の分は最高裁〔平成14年10月29日〕で「不受理」となって終了しており、結果的にその請求の全ては認められませんでした。
 その裁判の過程で、ローズ・オニール女史の著作権は死後50年に、戦時特例を加算した結果平成17年5月21日まで存在すると判断されておます〔ママ〕。さすれば「JESCO社」も同様の「著作権」がそれを継承した日本人宛に存在することとなります。しかも「JESCO社」は権利を継承したカラス氏著作の「著作権」を含めると、今後30年近く日本国内で「著作権」を所有することになると主張しています。
 以上の経緯が当社が日本での商品化事業を引き受けた理由です。尚、現在の日本国内の商標権は食品会社「キューピー株式会社」がファッション商品を含めて200件近く殆どを所有しています。また当社は既に先行する企業グループが「キューピー」の商品化をされている事を知っておりますので、後発としてそれらに影響のないよう充分注意して行うつもりです。つきましては後発の微力である当社等に対して、暖かい目で将来を見守って頂けますよう強くお願い申し上げます。」
(4) 添付書類及びその内容
 被告会社は、次のとおりの内容等が記載された書類等の一部を上記(3)の文書を送付する際に添付した。
ア 新聞記事の切抜きの写し(以下、併せて「添付文書@」という。甲3の2、8の2)
(ア) 平成10年2月10日付けの新聞記事
 日本興業銀行が宣伝用のマスコットに「キューピー」を無断で使用しているのは著作権の侵害であるとして、キューピーを創作した米国人の遺産を管理するローズ・オニール遺産財団が10日、同銀行を相手どり、10億円の損害賠償と使用禁止等を求める訴えを東京地裁に起こしたこと及び同財団が食品会社キユーピーに対しても、同様の訴訟を提起したこと等の内容が記載された日本経済新聞(夕刊)(「「キューピー」使用無断と興銀を提訴」等の見出し)、毎日新聞(夕刊)(「キューピーちゃん「コピーしないで」」等の見出し)、産経新聞(夕刊)(「興銀に10億円賠償請求」等の見出し)及び読売新聞(夕刊)(「米財団、興銀を訴え」等の見出し)の記事
(イ) 平成10年2月11日付けの新聞記事
 (ア)と同趣旨の内容が記載された日刊スポーツ(「キューピーちゃんコピーNO」等の見出し)及びスポーツニッポン(「興銀泣きっ面にハチ」等の見出し)の記事
(ウ) 平成10年6月17日付けの新聞記事
 キューピーの創作者の遺産を管理する米国法人「ローズ・オニール遺産財団」から日本での著作権を譲り受けたと主張する大阪市内の企画会社経営者が16日、キューピー人形の無断使用で著作権を侵害されたとして、大手食品会社「キユーピー」にキャラクターの使用禁止と約11億円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴したこと等の内容が記載された毎日新聞(「キューピーちゃん使わんといて」等の見出し)、日本経済新聞(「著作権侵害されたとキユーピーを提訴」等の見出し)、産経新聞(「キューピーキャラクター無断使用は著作権侵害!」等の見出し)及び朝日新聞(「「キューピー使うな」提訴」等の見出し)の記事
(エ) 平成10年6月22日付けの新聞記事
 b氏は、イラストや商標の使用禁止と損害賠償額10億円を求めていること等の内容が記載された日本食糧新聞(「毅然として臨むキユーピー鰍ェ表明」等の見出し)の記事
(オ) 平成11年11月18日付けの新聞記事
 キユーピーが商号・商標などで使用している「キューピーマーク」が著作権を侵害しているとして、大阪市北区の男性が同社に著作権侵害差止めや十億円の損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁が原告の主張を退ける判決を言い渡したこと等の内容が記載された日経産業新聞(「著作権訴訟でキユーピー勝訴」等の見出し)、スポーツニッポン(「人形使用OK」等の見出し)、産経新聞(「キューピーさん「似てません」」等の見出し)、日本経済新聞(「キユーピー側勝訴」等の見出し)及び朝日新聞(「「キューピー」差し止め棄却」等の見出し)の記事
(カ) 平成13年6月4日付けの新聞記事
 キユーピーは大阪市在住の個人から、「キューピー人形の著作権」を侵害しているとして東京高裁に訴えられていた控訴審で、控訴棄却となり、勝訴したことを明らかにしたこと等の内容が記載された日経産業新聞(「著作権問題控訴審キユーピーが勝訴」等の見出し)の記事
イ 大阪地方裁判所平成15年(ワ)第6255号同16年4月27日判決の全文(以下「添付文書A」という。甲3の3、8の3)
 bが、キユーピー株式会社に対して、ローズ・オニールの著作に係る著作物のうち、米国の雑誌である「Ladies'Home Journal」1909年12月号に自作の詩「The KEWPIES'Christmas Frolic」と共に掲載されたもの(以下「1909年作品」という。)、米国の雑誌である「Woman's Home Companion」1910年9月号に自作の詩「DOTTY DARLING AND THE KEWPIES」と共に掲載されたもの(以下「1910年作品」という。)及び1912年ころ創作したキューピー人形用のデザイン画の各著作権を有することの確認を求めると共に、これらの著作権等に基づき、被告のイラストの複製行為等の差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得返還を請求した事案において、bが上記各著作権のうち1909年作品及び1910年作品の各著作権を有することを確認したものの、その余の請求についてはいずれも却下又は棄却した判決である。
 同判決には、被告の主張及び裁判所の判断として、次のとおりの記載がある。
(ア) 被告の主張(第3の8【被告の主張】(1)ア)
 「RO遺産財団の財産管理人であったBは、遅くとも1948年6月5日までに、キューピーに関するすべての権利を、Eに売却していた。
 1964年には多くのキューピーに関するイラストや人形の写真が掲載されている「The One Rose」の第一版が出版されているが、同出版物にはEが著作権を有する旨、RO遺産財団の財産管理人であったBが協力した旨明記されていることからしても、「The One Rose」掲載のキューピーに関する著作物の著作権がEに譲渡されたことが推察される。そのほか、RO遺産財団が、キューピー人形の製造者から年500ドルという「カドル・キューピー」のみに関するライセンス契約としか考えられないような契約を締結していたことからも、Eへの著作権譲渡契約の存在が推認される。
 そして、RO遺産財団が、1964年1月16日に、612.47ドルの資産しか有しないとして、遺産配分確定の判決を受け、同年3月18日に清算手続が完了されたことは、当時、同財団にキューピーに関する著作権が帰属していなかったことを示すものである。」
(イ) 裁判所の判断(第4の7(3)ア)
 「被告は、RO遺産財団管理人Bが遅くとも1968年6月5日までにキューピー作品に係るすべての著作権をEに譲渡したのであるから、新RO遺産財団管理人がこれを原告に対して譲渡することはできないと主張し、Eへの譲渡の証拠として、Bの手紙…やJ(Eの相続人)の手紙…を提出する。これらの手紙の中で、Bは、キューピーの抱き人形を除いて、すべてのキューピーの権利を、E氏に売却した旨…述べ、また、Jは、ローズ・オニールがキユーピー人形に関して有していたすべての権利はEに譲渡した旨述べている。
 しかしながら、仮にRO遺産財団管理人BがEに対しキューピーに関する著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、前記のとおり、新RO遺産財団から原告に対する著作権譲渡の有効性については、著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、キューピーに関する著作権について、Eに対する譲渡と原告に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、原告に対するキューピーに関する著作権の移転が効力を失うものではない。
 そして、被告は、キューピー著作権について譲渡を受けあるいは利用許諾を受けるなど、原告がキユーピー著作権の譲渡を受けたことについて対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しない。したがって、原告は、被告に対して、対抗要件の具備を問うまでもなく、その著作権を行使することができる。
 なお、原告は、新RO遺産財団から別紙著作物目録1の(1)記載の著作物、同目録2の(1)記載の著作物及び1913年作品の著作権の譲渡を受けたことについて我が国著作権法77条1号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10年8月25日に登録を受けた結果…、対抗要件を具備していることとなるから、この点においても、被告の主張は理由がない。」
ウ 次のとおりの内容等が記載されている被告会社名義の「御報告「キューピー」商品化の件」と題する書面(以下「添付文書B」という。甲4の1、12の1)
 「さて、過日は当社関連の商品化事業について、後発の当社が先発の皆様方に御挨拶を申し上げ、容認して頂きたいとの懇願のお手紙を差し上げました。
 同様に「株式会社ローズ・オニール・キューピー・インターナショナル」(以下同社という。)に対しても同様にお願いしたところ、同社は弁護士を通じて「法人、個人」に対して「刑事、民事」両方にて「法的手段」を取ると「脅迫的対応」をされました。
 当社の「競争自由」の原則に従っての「新事業開始」に対しての懇願につき、弁護士を使っての「脅迫的態度」を同社がされた事に困惑しております。
 同社関連の「キューピー社」の「東京高裁」の判決でも一応「キューピー」の著作権は「二重譲渡された可能性が否定出来ない」とされていますが、1944年に死去した「ローズ・オニール氏」が最近になって二重譲渡する筈がありません。
 又、企業の皆様方からも「事情を詳しく報告すべきだ」「無責任だ」と当社を非難される連絡が続出しており、当社も貴社等の中には契約先、交渉先が多数含まれている事情もあり、仕方なく事実関係を説明せざるを得ないと考えました。
 何分貴社等は大量の「キューピー」商品を消費者に提供される立場なので重大な責任があると思われますので、当社も「情報公開」の義務があるのではないかと考えました。
 その事が今回の貴社等への御報告の理由です。
 一部には同社が現在継続している「キューピー社」宛の「大阪高裁」の裁判に当社が参加して、アメリカから得た大量の関係資料を提出して事実関係を明確にし、原告及び弁護士に対し法的責任を追及すべきだとの意見もありますが、当社は現段階ではそれを考えておりません。ただ貴社等の「キューピー」事業展開が来年5月まで、問題無く展開される事を願っております。
 当社の微々たる新しい事業活動について、貴社等が暖かく見守って頂ける事をお願いも仕〔ママ〕上げます。」
エ 次のとおりの内容等が記載されている書面(以下「添付文書C」という。甲4の2、12の2)
 「キューピーの著作権は来年5月で消滅
 国内登録商標権はキューピー鰍ェ所有」
オ 次のとおりの内容等が記載されている「「キューピー著作権侵害」の理由で20億円の請求著作権わずか150万円で買収して1200倍の要求」と題する書面(以下「添付文書D」という。甲4の3、6の3、10の1、12の3)
 「あの日本人に慣れ親しまれたセルロイド人形の「キューピー」を食品メーカー(A社)と銀行(B社)が「著作権侵害」したということで、10年間の使用料10億円、計20億円を支払えとの要求をされたものです。
 訴えたのは大阪のキューピー愛好家です。しかしその結果A社B社に対してはそれぞれ平成11年11月17日「東京地裁」、平成13年5月30日「東京高裁」の判決で敗訴しています。
 結局、愛好家の請求は否定されています。A社については最高裁に上告されたが不受理となっています。しかし愛好家は場所を大阪に移し、「大阪地裁」で裁判を継続し平成16年4月27日「敗訴」となり、現在「大阪高裁」に控訴中です。
 それらの裁判記録はインターネットの「裁判所のホームページhttp://www.courts.go.jp」の「知的財産権」判例集検索ページで誰でも見られます。
 愛好家の「東京地裁」で「敗訴」の理由を判決文で見てみると、原告(愛好家)は昭和54年ごろから20年にわたり、実際はそうではないのに自分が「著作権を所有している」と称して多くの企業より使用料を受け取り、自分自身でも「著作権侵害」を行っていたようです。
 一方では逆に大手企業A社B社に対して「著作権侵害で提訴するのは権利の乱用である」との理由が「敗訴」の大きな理由になっています。
 150万円でアメリカ人から買収した著作権を1200倍の20億円で請求をするのはあまりにも金額が大き過ぎるようです。愛好家とアメリカ人関係者とは利益を折半、山分けする事が決められているようです。争いの最初はB社が愛好家から年間1億数千万円相当のキューピー関連商品を購入していたがそれを中止したところ、逆に愛好家から年間1億円の使用料支払いを要求されたからだそうです。(東京地裁判決文より)
 また、東京地裁から東京高裁への控訴は別として、「最高裁」で「不受理」になると引き続き大阪に場所を移し、「大阪地裁」「大阪高裁」と裁判を継続する事は「裁判権の乱用」との意見もあります。
 愛好家の1998年7月22日付の「ジャパン・キューピー・クラブ・ニュース」(No.9)では、「ローズ・オニール女史の偉業を踏みにじる悪しき企業2社を懲らしめる為に20億円を請求する」「著作権の乱用時代から、著作権保護の時代へ」と得意気に表明されていますが、現実に「著作権」については財団から愛好家個人が150万円で買収していますので、20億円の請求は社会正義ではなく、あくまで愛好家個人の金銭的要求に過ぎないと思われます。
 裁判で敗訴した以上、その責任は重大なことと言われています。その「営業妨害」と「信用毀損」等での損害額はA社B社にとっては数十億円を軽く超えるものと推測されます。」
カ 次のとおりの内容等を記載した「Kewpie NEWS(2005年冬号VOL.1)」(以下「添付文書E」という。甲4の5、5の4、6の5、10の3、12の5)
 なお、同書面は、その原案を被告aが作成し、gがこれを編集し、世界キューピー協会日本支部により発行されたものである。
 「日本人に大正時代から「セルロイド人形」として親しまれた「キューピー」は、ローズ・オニール女史によって1909年頃に創作されました。その愛くるしい人形は長らく日本女性の印象に深く刻まれたものです。
 その流行は世界中で日本が大きな部分を占めたようですし、戦前・戦後に人形を制作し、全世界に輸出したのも日本の工場だったようです。これほど日本人に大きなインパクトを与えたキャラクターはありません。
 しかしローズ・オニール女史は1944年に死去されました。その間、共同経営者であり共同制作者であった「ジョゼフ・カラス」氏の協力関係が大きく、彼女の彼への尊敬と貢献に対する感謝は想像以上のものがあったと言われています。ローズ・オニール女史の死後、その遺産の全ては甥の「ポール・オニール」氏が相続し、同時に彼は「ローズ・オニール遺産財団」を設立し、その偉業を守る為に努力しておりました。
 しかし世界的なキューピーの流行に陰りが見えると、彼はその権利の全てを「ジョゼフ・カラス」氏に譲渡し、同時に「ローズ・オニール遺産財団」は清算し、1964年に解散しました。その時の残金は612.47ドルだったと記録されています。1982年のカラス氏の死後、娘であり後継者である「c」女史が権利を相続し、その後2002年10月11日に全ての権利をJESCO社に譲渡しました。」
キ 次のとおりの内容等を記載した「皆様方の御支援をお願いします」と題する書面(以下「添付文書F」という。甲5の1、9の1)
 「私達は「キューピー」商品化をスタートしたいと「ローズ・オニール・キューピー・インターナショナル」にお願いしたところ、同社は弁護士を通じて「法人、個人」に対して「刑事、民事」両方にて「法的手段を取ると脅されました。
 私達一般人には大変精神的負担になる言葉です。
 私達は微々たる新しい事業をしたいだけです。
 どうか皆様方の御支援で、その様な事が無いようにお願い致します。
 出来る限り私達を御理解して頂きたいと思い、資料をお送りさせて頂きます。
 今後とも宜しく御指導の程お願い申し上げます。」
ク 次のとおりの内容等を記載した書面(以下「添付文書G」という。甲5の3、6の2、9の2)
 「著作権キューピーローズ・オニール1944年4月7日死去2005年5月迄
 著作権キューピージョゼフ・カラス1982年5月1日死去2032年6月迄
 キューピーはローズ・オニールが絵を描きジョゼフ・カラスが人形を制作し共同で創作したプロパティーです。
 商標権キューピー国内登録商標権約280件キユーピー鰍ェ所有」
ケ 東京地方裁判所平成10年(ワ)第16389号同11年11月17日判決の全文(以下「添付文書H」という。甲5の5)
コ 次のとおりの内容その他キューピー人形の図柄等を記載した被告会社名義の「企画書」と題する書面(以下「添付文書I」という。甲6の7)
 「世界最大のキャラクター日本での100年の歴史は偉大Lovely Kewpie U.S.A ラブリー・キューピー」
(5) 被告会社による書面の送付
ア オオイケに対する告知(甲3の1ないし4、4の1ないし6、5の1ないし6)
 被告会社は、次の各号に掲げる日時ころに、それぞれ当該各号に定める文書を被告名義の封筒に同封してオオイケに送付した。
(ア) 平成16年12月4日本件文書2並びに添付文書@及びA
(イ) 平成16年12月14日本件文書1−1及び添付文書BないしE
(ウ) 平成16年12月18日本件文書1−2及び添付文書EないしH
イ エイコーに対する告知(甲8の1ないし3、9の1ないし3)
 被告会社は、次の各号に掲げる日時ころに、それぞれ当該各号に定める文書をエイコーに送付した。
(ア) 平成16年12月4日本件文書2並びに添付文書@及びA
(イ) 平成16年12月27日本件文書1−2並びに添付文書F及びG
ウ ファイブフォックス(甲13)
 被告会社は、平成16年12月4日ころ、本件文書2をファイブフォックスに送付した。
エ 加藤工芸に対する告知(甲11、12の1ないし5)
 被告会社は、次の各号に掲げる日時ころに、それぞれ当該各号に定める文書を加藤工芸に送付した。
(ア) 平成16年12月6日本件文書2
(イ) 平成16年12月15日本件文書1−1及び添付文書BないしE
オ ポピーに対する告知(甲10の1ないし3、61)
 被告会社のh部長は、ポピーに対し、平成16年12月14日、本件文書1−1並びに添付文書D及びEを持参して、これらの文書の内容を告知した。
カ 長谷部に対する告知(甲6の1ないし7、7)
 被告会社のh部長は、長谷部に対し、平成16年12月17日ころ、本件文書1−1、1−3及び1−4、添付文書D、E、G並びにIを持参して、これらの文書の内容を告知した。
(6) 使用許諾契約の申込みの撤回等(甲22、61、127)
ア ポピーのfは、本件文書1−1の告知を受けて、平成16年12月中旬ころ、セントワークスのdに対し、原告がキューピー著作権を有するか否かにつき問い合わせをした。
イ セントワークスのdは、ポピーのfに対し、平成16年12月中旬ころ、電話で、原告がキューピー著作権を有すると回答した上で、前記(2)エ及びカの申込みを撤回しないように依頼したものの、fは、dに対し、キューピー著作権が原告又は被告会社のいずれに帰属するかが明らかにされるまで契約を締結することはできないと述べた。
ウ セントワークスは、ポピーに対し、平成17年2月上旬ころ、キューピー著作権について事情説明をした際に、ポピーは、同社の顧客に迷惑をかける可能性があることを理由として、前記(2)エ及びカの申込みを撤回した。
エ セントワークスは、原告に対し、平成17年2月5日、上記ウの申込みの撤回の事実を伝えた。
オ 被告aが、平成18年1月13日にポピーを訪れた際に、同社の担当者は、被告aに対し、上記ウの撤回の理由について、「キューピーの著作権等の権利の帰属・所在が明確でない以上、話を進めることができなかった。」と説明した。
カ 被告会社は、ポピーに対し、平成18年3月1日、次の内容等を記載した「ご協力のお願い」と題する書面(乙72)を送付した。
 「大変お手数ですが、貴社が同社と契約中止になった経緯について、当社が貴社にどのような不法行為を行ったのか、その実態を具体的に文書にてご説明頂きたくお願いします。必要でしたら直接訪問して、説明させて頂きます。
 尚、当社と貴社との関係を説明させて頂きますと、平成16年12月9日、貴社の「eゼネラルマネージャー」と「fリーダー」より「キューピーに関する当社が知り得た情報」を是非聞かせて貰いたいとの要請がありました。その為平成16年12月10日、当社を訪問された上記お二人に、当社が知り得る情報を善意を以て説明したに過ぎません。その内容は当社のアメリカのライセンス元JESCO社の主張を説明したに過ぎません。
 その後、貴社「f様」は、貴社が同社と契約中止した理由は、キューピーの著作権が「不明瞭」だった、「裁判での証言」を進んで行うとの回答を頂きました。しかし、裁判所の方で今回の訴訟では「証人尋問」は行わないとの事ですので、是非簡単な文書で結構ですのでその内容をお送り下さい。」
キ カの書面に対し、ポピーは、被告会社に対して、平成18年3月2日、次の内容等を記載した書面(乙73)を送付して回答した。
 「貴社は、貴社と株式会社オニールキューピー・インターナショナルとの訴訟に関して、弊社に対し、弊社が上記株式会社オニールキューピー・インターナショナルと契約を締結しなかった理由につき、書面での回答を求めておられます。
 しかし、この件につきましては、平成18年1月13日に貴殿ご来社の際に、弊社担当者より、「キューピーの著作権等の権利の帰属・所在が明確でない以上、話をすすめることができなかった」旨ご説明し、またお電話にても貴殿に対し同様のご説明差し上げております。
 弊社と致しましては、既に再三述べてきた通り、この件につき、裁判所から要請があればいつでも証人として弊社担当者を出頭させ、公判廷において証人尋問に応じさせて頂く用意がございます。」
(7) 別件訴訟判決について
ア 東京地方裁判所平成10年(ワ)第13236号同11年11月17日判決(甲42)
 bが、キユーピー株式会社によるキューピーの図柄等の複製行為等がbのキューピー人形について著作権を侵害すると主張して、また、同社による「キューピー」の商品等表示の使用行為が不正競争行為に当たると主張して、同社に対して、各行為の差止め等及び損害賠償等を請求する事案である。
 判決の第二の二7(著作権の喪失の有無)には、被告の主張として、次のとおりの記載がある。
 「遺産財団の三代目の管財人であるポール・イー・オニールは、遅くとも一九四八年六月五日までに、布製のキューピーの抱き人形以外のキューピーに関する著作権を、ペンシルバニア州ポートアレガニーにあるカメオ・ドール・プロダクツのジョセフ・エル・カラスに譲渡した。したがって、遺産財団は、本件著作権を喪失した。
 右譲渡がされたことは、以下の事実から明らかである。すなわち、@当時の遺産財団の管財人ポール・イー・オニール自身が手紙の中で明言していること、A遺産財団が一九六四年一月一六日に清算されたときには、現金六一二・四七ドル以外財産的価値のあるものは何一つ存在しなかったこと、B同時期に発行された「ワン・ローズ」に掲載されているキューピーのイラスト及び人形等の著作権者としてジョセフ・エル・カラスが表示されていること、C「Kewpies-Dolls & Art 」が、ジョセフ・エル・カラスに対する著作権の譲渡の存在を明記していること等の事実から明らかである。」
 同判決は、bの請求をいずれも棄却した。
イ 東京高等裁判所平成11年(ネ)第6345号同13年5月30日判決(甲43)
 上記アの判決に対する控訴審判決であり、bは、控訴審においてキューピーの人形に係る著作物の著作権者であることの確認を求める請求を追加した。
 判決の第2の3(8)(本件著作権の第三者への譲渡)には、被控訴人の主張として、次のとおりの記載がある。
 「遺産財団管財人ポール・オニールは、遅くとも1948年6月5日までに、布製のキューピーの抱き人形以外、本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権をジョゼフ・カラスに譲渡したから、これにより、遺産財団は、本件著作権を喪失した。
 上記著作権譲渡がされたことは、@当時の遺産財団管財人ポール・オニール自身が1948年6月5日付けの手紙…の中で明言していること、A遺産財団が1964年1月16日に清算されたときには、現金612.47ドル以外に財産的価値のあるものは何一つ存在しなかったこと、B同時期に発行された「The One Rose」…に掲載されているキューピーのイラスト及び人形等に、著作権者としてジョゼフ・カラスが「<C>JLK」と表示されていること、C「Kewpies-Dolls & Art」…はジョゼフ・カラスに対する上記著作権の譲渡が1947年にされたことを明記していること等の事実から明らかである。」
 同判決は、控訴を棄却するとともに、bがキューピーの人形に係る著作物の著作権者であることを確認した。
ウ 東京地方裁判所平成10年(ワ)第16389号同11年11月17日判決(甲40)
 bが、株式会社日本興業銀行によるキューピーの図柄等の複製行為がbのキューピー人形について著作権を侵害すると主張して、同社に対して、複製行為の差止め等及び損害賠償等を請求する事案である。
 判決の第二の二5(著作権の喪失の有無)には、被告の主張として、次のとおりの記載がある。
 「ローズ・オニールの相続人は、一九四七年ころ、キューピーのイラスト等に係るすべての権利を第三者であるジョゼフ・カラス(Joseph Kallus)に譲渡した(なお、一九四七年の段階では、米国において著作権登録されていた「キューピー」イラスト等の多くが既にパブリック・ドメインに入っていたのであるから、右において譲渡されたとする権利は、それらの著作権を除く主として商標権や意匠権を指すものと推測される。)。」
 同判決は、bの請求をいずれも棄却した。
エ 東京高等裁判所平成12年(ネ)第7号同13年5月30日判決(甲41)
 上記ウの判決に対する控訴審判決であり、bは、控訴審においてキューピーの人形に係る著作物の著作権者であることの確認を求める請求を追加した。
 判決の第2の2(7)(本件著作権の第三者への譲渡)には、被控訴人の主張として、次のとおりの記載がある。
 「ローズ・オニールの相続人は、1947年ころ、キューピーのイラスト等に係るすべての権利を第三者であるジョゼフ・カラスに譲渡した。」
 同判決は、原審の手続に違法があるとして原判決を取り消した上で、bの差止請求等をいずれも棄却するとともに、bがキューピーの人形に係る著作物の著作権者であることを確認した。
(8) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告及びbは、被告会社に対し、平成17年1月28日、被告会社が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したとして、不正競争防止法3条に基づく差止めを請求する仮処分命令を申し立てた(平成17年(ヨ)第22006号)。
イ 上記仮処分命令申立て事件につき、原告及びbと被告会社との間で、平成17年2月3日、次のとおりの内容の和解が成立した(乙1)。
(ア) 被告会社は、第三者に対して、次の事実を告知又は流布しない。ただし、その内容について、裁判で争う権利は留保する。
a JESCO社がキューピーのすべての著作権を所有している。
b JESCO社がキューピーのすべての著作権を所有しているという事実が、東京地裁及び東京高裁での裁判記録に説明されている。
c ローズ・オニール遺産財団は、1964年に解散した。
d bが、昭和54年ごろから20年間にわたり、実際はそうでないのに自分が著作権を所有していると称して多くの企業より使用料を受け取っていた。
(イ) 原告らは被告会社に対する本件仮処分命令の申立てを取り下げる。
(ウ) 申立費用は各自の負担とする。
ウ 原告は、被告らに対して、平成17年2月10日、本件訴えを東京地方裁判所に提起した。
2 争点(1)(不正競争行為の成否)について
(1) 不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知等する行為をいう。他人の営業上の信用を害するか否かは、対象となる文言のみならず、告知文書の他の部分や添付された文書の記述をも併せて読むことにより、全体として虚偽といえるかどうか検討すべきであり(最高裁平成6年(オ)第1082号同10年7月17日第二小法廷判決・裁判集民事189号267頁参照)、告知文書の形式・趣旨、告知の経緯、告知文書の配布先の数・範囲、告知の相手方のその後の行動等の諸般の事情を総合して判断すべきである。そして、虚偽の事実であるか否かは、告知内容について告知の相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 よって、告知の相手方がどのような者であって、どの程度の予備知識を有していたか、当該告知がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ、相手方が告知された事実について真実と反するような誤解をするか否かによって決すべきである。
(2) 被告会社による告知行為の内容
ア オオイケに対する告知
 前記1(5)ア認定のとおり、被告会社は、オオイケに対し、(@)本件文書2並びに添付文書@及びA、(A)本件文書1−1及び添付文書BないしE、(B)本件文書1−2及び添付文書EないしHを、それぞれ被告会社名義の封筒に同封して別の日時に3回に分けて送付したものである。そして、2回目の封筒には添付文書Bが、3回目の封筒には添付文書Fが、それぞれ同封されており、これらの書簡において被告会社がその他の文書を同封した理由を説明している。なお、本件文書1−1及び1−2に作成名義人に関する記載がないが、全体として、被告会社が告知事実1及び2を告知したものと認められる。
イ エイコーに対する告知
 前記1(5)イ認定のとおり、被告会社は、エイコーに対し、(@)本件文書2並びに添付文書@及びA、(A)本件文書1−2並びに添付文書F及びGを、それぞれ別の日時に送付したものである。そして、アと同様に、2回目には添付文書Fを併せて送付しており、当該書簡において被告会社がその他の文書を添付した理由を説明している。なお、本件文書1−2に作成名義人に関する記載がないが、全体として、被告会社が告知事実1及び2を告知したものと認められる。
ウ ファイブフォックスに対する告知
 前記1(5)ウ認定のとおり、被告会社は、本件文書2をファイブフォックスに送付して、告知事実2を告知したものと認められる。
エ 加藤工芸に対する告知
 前記1(5)エ認定のとおり、被告会社は、加藤工芸に対し、(@)本件文書2、(A)本件文書1−1及び添付文書BないしEを、それぞれ別の日時に送付したものである。そして、アと同様に、2回目には添付文書Bを併せて送付しており、当該書簡において被告会社がその他の文書を送付した理由を説明している。なお、本件文書1−1に作成名義人に関する記載がないが、全体として、被告会社が告知事実1及び2を告知したものと認められる。
オ ポピーに対する告知
 前記1(5)オ認定のとおり、被告会社のh部長が、ポピーに対し、本件文書1−1並びに添付文書D及びEを持参したことにより、被告会社が告知事実1を告知したものと認められる。
カ 長谷部に対する告知
 前記1(5)カ認定のとおり、被告会社のh部長が、長谷部に対し、本件文書1−1、1−3及び1−4、添付文書D、E、G並びにIを持参したことにより、被告会社が告知事実1を告知したものと認められる。
(3) 告知事実1の告知の不正競争行為該当性について
ア 上記のとおり、告知行為の相手方は、いずれも日本国内に本店が所在する会社であって、ポピーはキューピー著作権等の使用許諾契約の締結に向けて原告と交渉をしていた者であり、その余はキューピー著作権に関する原告のライセンシーである。もっとも、キューピー著作権は約100年前に米国民により創作された著作物に関するものであって、その権利の帰属も米国内における譲渡等が主として問題とされていること等に照らすと、これらの相手方は、キューピー著作権に関する詳細な予備知識を有していなかったものと認められる。
 このように、キューピー著作権について詳細な予備知識を有しない日本の会社が、JESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有している旨記載されている本件文書1−1ないし1−4を読んだ場合には、原告が日本においてキューピー著作権を有していないと理解するものと解される。
 これに加えて、これらの文書は、上記(2)のとおり、その他の文書を添付して送付等されているところ、添付された文書の内容は、被告会社がキューピー著作権等のライセンス業務を開始したことを知らせると共にその支援を求めるもの(添付文書B、F、I)、キューピー著作権が平成17年5月で消滅することを説明するもの(添付文書C、G)、別件訴訟判決等の写し又はその判決を説明するもの(添付文書D、H)、又はJESCO社がローズ・オニールの著作物に係るすべての著作権を有していることその他当該著作権のいきさつを説明するもの(添付文書E)にそれぞれ区分される。これらの内容は、いずれも、原告が日本においてキューピー著作権を有していないという内容を修正するものではなく、全体として考察すれば、むしろ、被告会社が原告と同一のキューピー著作権を有することを前提として、同一のライセンス業務を開始したことを知らせることを内容とするものであり、この点において、文書を送付した主眼があると認められる。
 そうすると、告知行為の相手方は、文書1−1ないし1−4を他の書面と併せて読んだ場合には、被告会社がJESCO社から譲り受けてキューピー著作権を有するのであって、それゆえ、全体としても原告が日本においてキューピー著作権を有していないと理解するものと解される。
 そして、原告は、正にキューピー著作権を有していることを前提として、これらの権利のライセンス業務を行っていることから、これを否定されることにより、原告の営業上の信用が害されることになることは、明らかである。現に、告知を受けた後、ポピーは、使用許諾の申込みを撤回したものである。
イ 被告らは、本件文書1−1ないし1−4記載の内容は米国における事実であって、日本における事実ではないから、これを告知しても、原告が日本においてキューピー著作権を有していることを否定することにはならないと主張する。
 しかしながら、前記1(3)アないしエ認定のとおり、本件文書1−1ないし1−4において「全ての権利」という文言が使用されている以上、当該文言の通常の読み方によれば、日本の会社である告知行為の相手方は、これには日本における権利も含まれると理解するというべきである。
ウ 以上の次第で、被告会社の本件文書1−1ないし1−4による告知事実1の告知行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当する。
(4) 本件文書2の告知の不正競争行為該当性について
ア 前記1(3)オ認定のとおり、本件文書2には、告知事実2の記載があり、原告は、この記載部分が虚偽の事実である旨主張する。
イ 告知事実2のうち、まず、「現在「JESCO社」は全世界の「キューピー」商品化事業を含めた商業活動の全ての権利を所有していると主張しています。」の部分は、JESCO社の主張として記載されており、それ自体は虚偽の事実とはいえない。
ウ また、告知事実2の「それらの経緯は一般に言う「キューピー事件」として「東京地裁」「東京高裁」での「銀行と食品会社」を相手とする「10億円損害賠償事件」の「裁判記録」に説明されています。」の記載部分の「それらの経緯」のうち、「経緯」とは、物事がこれまで展開してきたすじ道、すなわち、いきさつを意味し、「それら」の「ら」とは、体言の下に付いて複数を表すものであるから、「それらの経緯」とは、直前のJESCO社の主張についての記載部分のみに限らず、キューピー著作権のいきさつに関する記載部分をも示すものと解される。すなわち、「それらの経緯」は、具体的には、本件文書2のうち、「御承知のように、「キューピー」は1909年にアメリカの「ローズ・オニール女史」により創作され、日本でも大正時代から「セルロイド人形」等で有名になっております。ローズ・オニール女史が亡くなった後は、甥のポール・オニール氏が全てを相続しました。その後ポール・オニール氏は1947年に、かつてのローズ・オニール女史の共同事業者であったジョゼフ・カラス氏にオニール女史の遺志に従って「キューピー」の人形制作を含めた「著作権」「商標権」「商業活動権」の全てを譲渡し、その後数々の経緯を経て、その権利の全ては上記「JESCO社」に譲渡されております。オニール女史の遺志で、生前自分の事業に誠心誠意尽くしてくれたカラス氏の貢献に報いる為の譲渡であったと伝えられています。」の部分をも示すものと解するのが相当である。
 前記1(7)認定のとおり、別件訴訟判決には、キューピー著作権のいきさつが、当事者の主張として説明されている。
 そうすると、このようないきさつが判決に説明されていること自体は、客観的事実に反しないことであるから、告知事実2が虚偽の事実であるということはできない。
エ なお、仮に、告知行為の相手方が、JESCO社においてキューピー著作権をすべて有しているという事実が判決に説明されていると理解した場合であっても、このような記載を読んだ者は、本件文書2の記載自体から、JESCO社がキューピー著作権をすべて有しているという事実としてではなく、JESCO社の主張として、これを理解するにとどまり、このような主張がされていること自体は客観的な事実に反するものではない。
 また、本件文書2全体の記載からすると、被告会社が当該書面を送付した趣旨は、被告会社が、原告その他の先発企業のキューピー著作権のライセンス業務に影響がないよう留意しつつ、後発企業として、同種のライセンス業務を開始したことを取引先等に伝えることにある。
 このような書面全体の趣旨に加えて、被告会社が、告知行為の相手方においても、別件訴訟判決を閲覧するよう勧めており、とりわけ、オオイケ及びエイコーに対してはbがキューピー著作権のうち1909年作品及び1910年作品の各著作権を有することを確認した判決の写し(添付文書A)まで添付していることをも併せ考えると、仮に、相手方が、JESCO社においてキューピー著作権をすべて有しているという事実が判決に説明されていると理解した場合であっても、原告が日本においてキューピー著作権を有することが客観的事実として否定されるものではない上、このような主張が判決に説明されていないことは容易に確認し得るものであるから、これにより、原告の営業上の信用を害するとまでいうことはできない。
オ 以上の次第で、被告会社の告知事実2の告知行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為には該当しない。
3 争点(2)(損害)について
(1) 過失の有無
 被告会社もライセンス業務を業とする者である以上、JESCO社がすべてのキューピー著作権を有している旨告知されれば、その告知の相手方が、原告は日本のキューピー著作権を有していないと誤解し、これにより、競業者である原告の営業上の信用を損ねる結果となることは、被告会社において容易に認識することは可能である。したがって、被告会社が虚偽の事実を告知する行為をするにあたり、過失が存するのは明らかである。なお、被告らは、この点について争っていない。
(2) 逸失利益について
 前記1(6)認定のとおり、ポピーは、原告との間の使用許諾契約の申込みを、許諾の対象とされたキューピー著作権の権利の帰属が明らかではなくなったこと等を原因として撤回し、原告は、これにより使用許諾契約が締結されていれば得られたであろうミニマムロイヤルティ150万円を得ることができなくなったものである。もっとも、ポピーが申込みを撤回したその余の原因として、使用許諾契約の交渉の際に許諾の対象とされた著作権が当該契約期間の半ばで消滅することが明らかにされていなかった事情がうかがわれる。すなわち、実際には申し込まれた契約期間が満了するより半年以上前に上記著作権は保護期間を満了するものであった。
 そうすると、被告会社がポピーに告知事実1を告知したことを原因の一つとして、ポピーが使用許諾の申込みを撤回し原告が上記損害を被ったものであり、原告の主張する損害の一定部分は、被告会社の告知行為と相当因果関係を有する損害であると認めることができる。
 そこで、これらの事情に許諾の対象とされた権利には著作権の外に商標権が含まれていたこと、セントワークスの手数料が25パーセントと定められていたこと(甲128)、米国においてJESCO社がキューピー著作権の譲渡を受けたことを前提として、同社がキューピーに関するすべての著作権を有していると主張していること自体は客観的事実に反するものではないこと、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、逸失利益の額としては、申込みが撤回されることなく使用許諾契約を締結した場合に得られたであろうミニマムロイヤルティ150万円の3分の1である50万円をもって相当と認める。
(3) 信用毀損による損害について
ア 原告は、主としてキューピー著作権のライセンス業務を業とするものであるから、原告がキューピー著作権を有しているという信用は、業務の根幹に関わるものである。
 それにもかかわらず、被告会社は、いずれもキューピー著作権のライセンシー4社(オオイケ、エイコー、加藤工芸及び長谷部)及びその交渉相手1社(ポピー)に対して、原告がキューピー著作権を有していないとの誤解をさせたのであるから、このことが、原告の営業上の信用を損ねたことは明らかである。
 したがって、原告は、被告会社の行為により信用を毀損されたものと認められる。
イ 他方で、ポピー以外の、少なくとも原告の上記ライセンシー4社については告知によりライセンス契約が解除されたとする事情はうかがわれず、また、キューピー著作権は告知行為の半年後には結局消滅することになっていた上、原告はキューピー著作権の外にも、キューピーに関する商標権についても広くライセンス業務を行っているという事情がうかがわれる。
 そこで、これらの事情にその他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば、原告に対する信用毀損による損害としては、30万円をもって相当と認める。
(4) 弁護士費用について
 原告が本件訴訟を遂行するに当たり、その訴訟活動を弁護士に委任したことは記録上明らかである。原告の請求の一部が認容されたこと、本件訴訟の事案の性格、知的財産権訴訟であることによる難易度その他の訴訟に現れた一切の諸事情を総合勘案すると、原告が負担すべき弁護士費用等の訴訟追行に必要な費用のうち、20万円をもって、原告による不正競争行為と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。
(5) 被告aの損害賠償責任について
 被告会社の代表取締役である被告aは、上記1(3)認定のとおり、本件文書1−1及び1−2を作成し、本件文書1−3及び1−4の原案を作成するなど被告会社による告知行為において代表取締役として中心的な役割を担っていたことが認められるところ、このような書面が原告のライセンシー等に告知されれば、原告のキューピー著作権が否定され、もって、原告の営業上の信用を害することになることは、被告aにおいて容易に認識することができるから、被告aに重大な過失があったことは明らかである。
 したがって、被告aは、会社法429条1項の規定により、原告に生じた損害を被告会社と連帯して賠償する責任を負う。
4 争点(3)(謝罪広告の要否)について
 原告は、被告会社による告知行為により、自ら被った業務上の信用を回復するためには謝罪広告が必要であると主張するが、前記1(8)認定のとおり、原告と被告会社との間には、仮処分において被告会社は告知事実1及び2を告知しないとする和解が成立していること及びキューピー著作権は現在では既に消滅していること等の事情を考慮すると、損害賠償のみでは填補できない業務上の信用の低下があるとはいい難い。
 よって、被告会社による謝罪広告の必要性を認めるに足りない。
5 結論
 したがって、原告の請求のうち、100万円の損害賠償請求の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 平田直人
 裁判官 中島基至
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