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【事件名】ファイル交換ソフト事件(WinMX)B
【年月日】平成18年9月25日
 東京地裁 平成18年(ワ)第9264号 発信者情報開示請求事件

判決


主文
1 別紙主文目録の各番号に記載された被告は、同目録の同じ行に記載された原告に対し、それぞれ、同目録の同じ行に記載された日時に同目録の同じ行に記載されたIP アドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名及び住所を開示せよ。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、氏名不詳者らが、原告らの製作したレコードをmp 3方式(ファイル圧縮形式の一種)により圧縮して複製した電子ファイルを、ファイル交換共有ソフトであるWinMX を利用してインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にし、原告らの各レコードに関する送信可能化権を侵害したとして、レコード会社である原告らが、当該氏名不詳者らのコンピュータとインターネットとの通信を媒介したインターネット接続プロバイダである被告らに対して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項の発信者情報開示請求権に基づき、当該氏名不詳者らの発信者情報である氏名及び住所の開示を求めた事案である。
 なお、以下原告らを冒頭に掲記した順に「原告ビクター」、「原告キング」、「原告テイチク」、「原告ユニバーサル」、「原告EMI」、「原告クラウン」、「原告徳間ジャパン」、「原告ポニーキャニオン」、「原告ワーナー」、「原告BMG」、「原告ジェネオン」、「原告キューン」、「原告エイベックス」、「原告バーミリオン」、被告らを順に「被告テクノロジー」、「被告ソフトバンク」、「被告NTT」という。
1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は末尾に証拠を掲記する。)
(1) 当事者
ア 原告らは、いずれも大手レコード会社であり、多数のレコードを制作の上、これらを複製してCD等として発売している株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告らはいずれも、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。
(2) 原告らの送信可能化権
 原告らは、別紙送信可能化権目録実演家欄記載の各実演家が歌唱する同目録楽曲欄記載の各楽曲を録音したレコード(以下これらのレコードを同目録記載の順に上から番号を付して、それぞれ「原告レコード1」などという。)のレコード製作者であり、原告らは、それぞれレコード製作者として著作権法96条の2の送信可能化権を有する(甲1の1の1ないし1の14)。
(3) WinMX について(弁論の全趣旨)
ア WinMXの機能
 WinMX は、マイクロソフト社のWindows を搭載したパーソナルコンピュータ上で作動するファイル交換共有ソフトウェアの一種であり、WinMXをインストールしているコンピュータ間において、各コンピュータ内の共有フォルダに記録されている電子ファイルの検索及び送受信を可能とするものである。
 WinMX は、ピア・ツー・ピア型ソフトウェア(パーソナルコンピュータ同士を対等な立場で直接接続するソフトウェア)の一種であり、WinMXの利用者は、他の利用者との間で、プロバイダが提供するサーバへのデータの蓄積及び同サーバへのアクセスを経ることなく、直接自己のコンピュータ内に保有する情報を送受信することができる。
 WinMX においては、特段の設定変更を行わない限り、ファイルの送信を要求する利用者に対して、区別なくファイルを送信する行為を行う。
イ WinMX の利用手順
(ア) WinMX の送信側ユーザーがWinMX をインターネットに接続されたパーソナルコンピュータにおいて起動させると、当該パーソナルコンピュータ内の共有フォルダに蔵置された電子ファイルに関する情報(ファイル名及び容量等)が自動的に公開される。他のWinMX ユーザー(受信側ユーザー)が、WinMX の検索ウィンドウに任意の文字列を入力して検索を行うと、送信側ユーザーの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイル名が当該文字列を含んでいれば、受信側ユーザーのWinMX の表示画面上に当該電子ファイルのファイル名、容量、同時にダウンロードすることが可能な人数及び現在当該ファイルをダウンロードをしている人数等が検索結果として表示される。
(イ) 受信側ユーザーが当該電子ファイルのダウンロードを希望する場合には、当該電子ファイルを選択して、WinMX 上のダウンロードボタンをクリックすれば、当該電子ファイルのダウンロードの要求が自動的に送信側ユーザーに送信され、受信側ユーザーのWinMX の画面は自動的に転送画面に切り替わる。同時にダウンロードすることが可能な人数以上の者がダウンロードを希望している場合には、受信側ユーザーはダウンロード待ちの状態となり、自分の順番になると当該電子ファイルが送信側ユーザーのパーソナルコンピュータから送信側ユーザーが利用している接続プロバイダの電気通信設備を経由して、受信側ユーザーに向けて自動的に送信され、ダウンロードが開始される。
(4) A又はBによる調査(甲2の1の1ないし2の14及び弁論の全趣旨)
ア A及びBは、株式会社メディアインタラクティブの代表取締役であり、インターネット関係の調査業務に従事する者である。
イ A及びBは、別紙調査目録日時欄記載の各年月日に、インターネットに接続したパーソナルコンピュータを使用してWinMX を起動し、検索ワードを同目録検索ワード欄記載の各検索ワード、検索対象ファイルを「mp3」と指定して検索を行ったところ、同目録ユーザー名欄記載のユーザー名の各氏名不詳者(以下同目録ユーザー名欄記載の各氏名不詳者を、上から順に番号を付して「本件ユーザー1」などという。)が、同目録ファイル名欄記載の各電子ファイル(以下同目録ファイル名欄記載の各電子ファイルを、上から順に番号を付して「本件ファイル1」などという。)を公開していることが判明し、同目録日時欄記載の各日時ころ、それぞれ本件ファイル1ないし19のダウンロードを行ってダウンロードを完了させた(以下AないしBによる当該調査を「本件調査」という。)。
ウ 本件調査において、A及びBは、時刻の正確性を維持するため、Windowsの「日付と時刻のプロパティ」を起動させてインターネット上のタイムサーバーである「time.windows.com」と同期させた(同目録日時欄の各日時は、このような時間調整を経た上で記録されたものである。)。
エ 同人らは、本件ファイル1ないし19をダウンロードしている間、送信側ユーザーコンピュータのIP アドレス(インターネットプロトコルアドレス、インターネットに接続された個々の電気通信設備を識別するために割り当てられる番号をいう。)を調査するため、当該IP アドレス及び接続ホスト名(当該電子ファイルをアップロードしている者がインターネットに接続しているインターネットプロバイダ)を表示させる機能を有するフリーソフトウェアである「MX 調査隊」を起動させていた。また、同人らは、同じくIP アドレスを表示させる機能を有する、Windows に組み込まれているソフトウェアである「netstat」も同時に起動させ、これによっても接続先のIP アドレスを確認していた。
 本件調査の結果、同目録日時欄記載の各日時における送信側ユーザーのIP アドレスは、MX 調査隊によってもnetstat によっても、同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスであった。
オ 同人らは、本件調査でダウンロードした本件ファイル1ないし19をそれぞれCD-R に複製した。
(5)ア 被告らは、同目録日時欄記載の各日時において、同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスを管理していた。
イ 各原告は、各原告レコードの送信可能化権を侵害したと主張する本件ユーザー1ないし19のコンピュータとインターネットとの通信をそれぞれ媒介していた各被告に対して、本件ユーザーのうち該当する者の発信者情報の開示をそれぞれ請求したが、当該各被告からは、それぞれ開示できない旨の回答がなされた。
2 争点本件各開示請求の可否
(原告らの主張)
(1) 送信可能化権侵害の明白性
 別紙権利侵害目録ユーザー欄記載の各本件ユーザーは、同目録原告レコード欄記載の各原告レコードを、mp 3方式により圧縮して複製した電子ファイルの形態で、同人らのコンピュータ内の記録媒体に記録及び蔵置した。
 そして、各本件ユーザーは、当該コンピュータを、同目録被告欄記載の各被告のインターネット接続サービスを利用して、各被告から同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同目録日時欄記載の各日時において、WinMX により、前記各電子ファイルをインターネットに接続している他の不特定のWinMX 利用者からの求めに応じて、インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にした。
 したがって、原告らが各原告レコードについて有する送信可能化権が、各本件ユーザーによって侵害されたことは明らかである。
(2) 開示の必要性(正当理由)
 原告らは、原告レコード1ないし19に関する送信可能化権侵害に基づき、本件ユーザー1ないし19に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、同人らの氏名及び住所等は不明であるため、原告らが本件ユーザー1ないし19に対して何らかの請求を行うことが実際上できない状態であるから、原告らには各本件ユーザーに関する発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(3) 開示関係役務提供者該当性
 各本件ユーザーからすれば、他のWinMX 利用者は不特定な者であるということができ、各本件ユーザーは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信のために被告らの電気通信設備を利用していた。被告らは、このような特定電気通信の用に電気通信設備を供していたのであるから、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者であり、同法4条1項にいう開示関係役務提供者に当たる。
(被告テクノロジー及び被告ソフトバンクの主張)
(1) 送信可能化権侵害の明白性について
ア 原告ら(原告バーミリオンを除く)が原告レコード1ないし18について有する送信可能化権が、本件ユーザー1ないし18によって侵害されたことは否認する。
イ 本件調査結果の正確性には疑問があり、原告らが主張する各日時に、各IP アドレスを利用してインターネットに接続していた者が、原告らの送信可能化権を侵害したことが明らかであるとはいえない。
(2) 開示の必要性(正当理由)
 不知ないし争う。
(3) 開示関係役務提供者該当性
 被告テクノロジー及び被告ソフトバンクが、同被告らの会員一般との関係で、プロバイダ責任制限法2条にいう特定電気通信役務提供者に該当することは認める。同被告らがプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当することについては争わない。
(被告NTT の主張)
(1) 送信可能化権侵害の明白性について
ア 原告バーミリオンが原告レコード19について有する送信可能化権が、本件ユーザー19によって侵害されたことは否認する。
イ 本件調査の信用性を争う。
(2) 開示の必要性(正当理由)について
 否認ないし争う。
(3) 開示関係役務提供者該当性
 被告NTT がプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当することについては争わない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲3の1の1ないし3の14)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(1) 被告らは、別紙権利侵害目録日時欄記載の各日時において、同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスを使用していた者の氏名及び住所に関する情報を保有している。
(2) 本件調査によってCD-R に記録された本件ファイル1ないし19の各データは、パーソナルコンピュータで再生されることが可能なmp3 形式のサウンドの電子ファイルであるが、それぞれ、原告らが送信可能化権を有している別紙送信可能化権目録楽曲欄記載の各楽曲と同一の音楽であり、当該各楽曲のレコードを複製したものである。
(3) 原告らは、同目録楽曲欄記載の各楽曲のレコードについて、ファイル交換ソフトで交換、公開及び送信等をすることを何人にも許諾したことはない。
2 被告らの開示関係役務提供者該当性(プロバイダ責任制限法4条1項)
 被告らが、同法4条1項の開示関係役務提供者に該当することについては当事者間に争いはないところ、当裁判所も、一般の利用者に対してインターネット接続サービスを提供するいわゆる経由プロバイダを通じて行うWinMX 通信が、同法2条1号の特定電気通信に該当し、その通信を媒介している被告らの電気通信設備は特定電気通信の用に供されているといえるのであるから、被告らは、本件において、同法4条1項の開示関係役務提供者(特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)に該当するものと解する。
3 権利侵害の明白性(プロバイダ責任制限法4条1項1号)
(1) 前記のとおり、本件ファイル1ないし19は、原告レコード1ないし19をそれぞれmp 3形式で圧縮し複製した電子ファイルであることが認められるが、被告らは、本件調査の正確性について争い、各原告レコードに関する送信可能化権が侵害されたことが未だ立証されていないなどと主張する。
ア 証拠(甲8ないし10、14の1、14の2及び弁論の全趣旨)によれば、MX 調査隊は、WinMX を利用する際に使用されるポートを経由して、当該ポートのアクセス記録からWinMX 使用時の相手方接続先のIP アドレス等を検索して表示するフリーのソフトウェアであること及びnetstatも同様にローカルコンピュータのIP アドレスの表示機能を有することが認められる。また、前記争いのない事実等のとおり、AないしBは、本件調査において、それぞれ本件各ユーザーのパーソナルコンピュータからダウンロードしている最中にMX 調査隊を起動したところ、MX 調査隊は各ダウンロード先のIP アドレスとして、別紙調査目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスを表示した。
 そして、証拠(甲10ないし13)によれば、@原告ら代理人CがWinMXを用いて公開したファイルを、Bが別のパーソナルコンピュータからWinMX を用いてダウンロードし、その際に同人がMX 調査隊を用いてダウンロード先のIP アドレスを確認するという調査を3回行ったところ、3回ともその時点で前記原告ら代理人のパーソナルコンピュータに割り当てられたIP アドレスが正確に表示されたこと、ABが、MX 調査隊とその他3種類の接続先のIP アドレス表示機能を有するソフトウェアを同時に起動して、WinMX への接続を繰り返し、その都度表示されるダウンロード先のIP アドレスを確認するという調査を100回行ったところ、100回とも同一のIP アドレスが表示されたことがそれぞれ認められる。以上の事実に前記Aの調査で使用されたMX 調査隊以外の3種類のIPアドレス表示機能を有するソフトウェアの信頼性について特段疑問を呈する証拠がないことも併せ考えれば、本件調査においてMX 調査隊が接続先として表示したIP アドレスは正確であると認められる。
イ これらの事実に加え、証拠(甲15の1ないし4)によれば、本件調査で時刻の同期に用いられたtime.windows.com が正確であることが認められ、これを覆すに足りる証拠はないこと等にかんがみれば、本件調査は信用することができ、各本件ユーザーが別紙調査目録日時欄記載の各日時に各本件ファイルをそれぞれ送信した際に、同人らに割り当てられていたIPアドレスは、同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスであったことが認められる。
(2) 以上によれば、各本件ユーザーは、別紙権利侵害目録日時欄記載の各日時において、各本件ファイルを、それぞれインターネット回線を通じて自動的に送信し得る状態に置いていたことが認められる。
 したがって、各本件ユーザーによって、各原告レコードについて原告らが有する送信可能化権がそれぞれ明らかに侵害されたことが認められ、この点に関する被告らの主張は採用できない。
4 発信者情報開示を受ける正当な理由の有無(同法4条1項2号)
 同目録IP アドレス欄記載の各IP アドレスを使用していた者(各本件ユーザー)の氏名及び住所が原告らの差止請求権及び損害賠償請求権の行使のために必要であることは弁論の全趣旨から明らかであり、これを覆すに足りる証拠はない。
 したがって、原告らには発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第17部
 裁判長裁判官 荒井勉
 裁判官 竹内浩史
 裁判官 吉田豊
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