判例全文 line
line
【事件名】テレビ番組送信サービス事件(まねきTV)
【年月日】平成18年8月4日
 東京地裁 平成18年(ヨ)第22022号 著作隣接権仮処分命令申立事件

決定
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。

事実及び理由
第1 申立て
 債務者は、債務者が運営する放送番組送信サービス「まねきTV」において、別紙放送目録記載の放送を送信可能化してはならない。
第2 事案の概要等
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 債権者は、放送事業者である。
 債務者は、コンピュータ及びコンピュータ付属機器の製造、販売、保守、管理及び修繕、放送設備の開発、設計、運用及びコンサルティング並びに電気通信事業法に基づく一般第二種電気通信事業及び特別第二種電気通信事業等を目的とする株式会社である(審尋の全趣旨)。
(2) 債権者の著作隣接権
 債権者は、別紙放送目録記載の放送(以下「本件放送」という。)につき、送信可能化権等の著作隣接権を有している。
(3) 債務者の行為
 債務者は、「まねきTV」という名称で、利用者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるようにするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供している。本件サービスは、ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)製の商品名「ロケーションフリーテレビ」の構成機器であるベースステーションを用い、インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコンを有する利用者が、インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるものである(甲1の4)。
2 事案の概要
 本件は、債権者が債務者に対し、債務者が行う本件サービスが、本件放送に係る債権者の送信可能化権を侵害していると主張して、本件放送の送信可能化行為の差止めを求める事案である。
 なお、債権者のほか5社のテレビ放送会社(以下、まとめて「債権者ら」という。)も、本件と同様の仮処分命令申立てを行っている。
3 争点
(1) 本件サービスにおいて、債務者が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か
(2) 保全の必要性
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(債務者の送信可能化行為の有無)について
〔債権者の主張〕
 次のとおり、債務者は、本件サービスにおいて、本件放送の送信可能化行為を行っている。
(1) 著作権法2条1項9号の5の解釈
ア 「自動公衆送信装置」等の意義等
 著作権法2条1項9号の5にいう「自動公衆送信装置」は、公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を「自動公衆送信」する機能を有する装置をいうところ、「自動公衆送信」は、「公衆送信」のうち、公衆からの求めに応じて自動的に送信するものをいい、「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行うことをいう。そうすると、「自動公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行うことのうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものをいうことになる。
 そして、かかる送信行為は、著作物の利用行為の一つであって、上演、演奏及び口述等と著作権法上同等に取り扱われている上、「公衆によって直接受信される」「目的」という「目的」を有するのは人のみであるから、かかる送信行為は人の行為であって、単なる装置の動作ではない。そうすると、「自動公衆送信」とは、不特定の者によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行うことのうち、不特定の者からの求めに応じて自動的に行うものをいう。
 したがって、「自動公衆送信する機能を有する装置」とは、当該装置を用いて人が送信を行った場合、当該送信が自動公衆送信に当たり得るような機能を有する装置をいう。
 そして、ある装置が「自動公衆送信する機能を有する装置」に当たるか否かは、当該装置の客観的機能によって決すべき事項であり、当該装置が自動公衆送信機能を有している限り、他のいかなる用途に用いられていようと、「自動公衆送信する機能を有する装置」に当たる。
イ 「公衆」の意義等
 そもそも著作権法にいう「公衆」は、「不特定」ないし「特定多数」の者をいうが、ここで「特定」の者とは、行為者との間に個人的結合関係がある者をいう。
 本件サービスは、申込みさえすれば何人も加入することができるものであって、債務者(行為者)との間に個人的結合関係があることを要しないから、本件サービスの利用者は「不特定」の者に当たる。
 そうすると、あるベースステーションがそれに対応する利用者の専用モニター又はパソコンに対して送信行為を行っているのみだとしても、債務者から見て不特定の者の専用モニター又はパソコンに対して送信行為を行っているものであるから、「公衆」に対する送信に当たる。
 そうすると、ベースステーションは、「自動公衆送信する機能を有する装置」に当たるものである。
(2) 送信可能化行為の主体
ア 債務者は、物理的に、(a) 既に電気通信回線たるインターネット回線に接続されている、「自動公衆送信する機能を有する装置」たるベースステーションに、放送波を入力し、同時に、(b) 既に放送波が入力されている、「自動公衆送信する機能を有する装置」たるベースステーションを電気通信回線たるインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしている。上記(a)は著作権法2条9号の5イの「情報を入力すること」に当たり、(b)は同ロに当たる。
 上記のとおり、債務者は自ら物理的にベースステーションをアンテナ端子及びインターネット回線に接続することにより、放送波の入力行為等を行っているのであって、自然的観察の下では利用行為を行っているとはみられない者の行為を規範的に評価して行為主体と認定する、いわゆるカラオケ法理を用いる必要はない。
イ 実質的にみても、送信可能化の主体は債務者である。
(ア) 目的・本質
 本件サービスの本質は、単なるベースステーションという物の寄託にあるのではなく、海外又は放送区域外に居住する、本来当該放送を視聴できない利用者に対し、債権者らの放送を再送信することでこれを視聴することができるようにすることを本質とするサービスであって、かかる海外及び放送区域外での放送の視聴ができることをうたい文句として、加入を積極的に勧誘しているものである。
(イ) 支配・管理性
 債務者は、別紙1のとおり、自己のデータセンター内にベースステーションを設置し、分配機を介してベースステーションとテレビアンテナとを接続して、債務者が受信した放送波を現実に入力し、@ したがって、本件サービスにおいて視聴可能な放送波は債務者がデータセンターで受信するものに限定されているとともに、A 放送波の入力並びにインターネット回線との接続及び送信可能化が生じている場所は債務者のデータセンター内にあり、放送波のベースステーションへの入力に必要な分配機やケーブル等の機器並びにベースステーションからインターネット回線への出力に必要なハブ、ルーター及び光ファイバー等の機器もすべて債務者の所有及び管理に係るものであり、B 送信可能化に必要なベースステーション等の機器全般につき、債務者においてポート番号の変更や電源供給等を含む必要な接続及び設定の作業が行われ、C 債務者において、利用者の問い合わせに応じて適宜サポートを行う体制がとられ、かつ債務者において継続的に管理が行われているのであって、これらは送信可能化のために必要とされる行為をすべて包摂している。
 このように、債務者の行為は、単なる設備の管理及び運営の枠に止まるものではなく、送信可能化と評価するのにふさわしい実質を備えているものである。
(ウ) 図利性
 債務者は、上記各行為を行って、利用者に対してサービスを提供することで、利用者から、イニシャルコスト(初期費用)3万1500円及び月額利用料5040円(いずれも消費税を含む。)の支払を受けている。
 上記利用料も、単なるベースステーションの保管料に止まるものではなく、放送の同時再送信サービスの対価であることは明らかである。
(エ) そうすると、債務者は放送の送信可能化の主体であって、債権者らの送信可能化権を侵害しているものである。
(3) 債務者の主張に対する反論
ア 〔債務者の主張〕(1)について
 債務者が本件サービスにおいてブースターを使用しているか否か及びIPアドレスを付与しているか否かは、債務者による送信可能化権侵害の有無とは無関係であるが、債務者は、少なくともベースステーションのポート番号の変更は行っているはずである。ポート番号の変更を行わないと、各ベースステーション相互間でポート番号の競合が生じ、通信に支障があるからである。
イ 〔債務者の主張〕(3)ア(ア)について
 利用者がベースステーションの所有権を有していることは争わず、利用者への所有権移転が仮装のものであるとの主張はしない。
 ベースステーションの所有権の帰属の問題と、ベースステーションを用いたサービスが「自動公衆送信」に当たるか否かの問題とは、全く独立した問題である。利用者がベースステーションの所有権を有しているとしても、これを用いたサービスが「自動公衆送信」に当たらないということはできない。
ウ 〔債務者の主張〕(3)ア(キ)について
 ソニー等の業者が行うベースステーションの設定サービスにおいては、サービスを行う業者が管理する場所にベースステーションを設置するわけではなく、ベースステーションに入力される放送波を受信するのは、あくまでも当該業者ではなく利用者個人であり、債権者らの著作隣接権の侵害は行われていない。また、同サービスを提供している業者は、放送波の選択に全く関与しておらず、放送波の入力及び送信可能化が生じる場所も当該利用者個人の自宅等の中である。つまり、ベースステーションに放送波を入力しているのは当該利用者個人であって、業者ではない。さらに、当該業者の提供するサービスは、接続設定作業が終われば終了するのであって、以後の入力作業を行うものではない。
 また、放送波の入力に必要な分配機等の機器やインターネット回線への出力に必要なハブ等の機器を所有及び管理しているのは当該利用者個人であって、当該業者はこれを所有することも管理することもない。
 さらに、かかるサービスの目的も、当該業者から利用者に対して放送データを送信して提供することにあるわけではなく、利用者個人がその支配領域(私的領域)内で自ら行い得る作業を、技術的な観点から代替しているにすぎない。これは利用者が本来なし得ない行為を業者において実現しているものではない。
エ 〔債務者の主張〕(3)ア(ケ)について
 ロケーションフリーテレビは家電であって、通常のデータ・ストレージサービスないしハウジングサービスで用いられる業務用サーバー・コンピュータ等(以下「サーバー等」という。)のように特別慎重な取扱いが要求されるものでも、重要性や機密性が高い情報が蔵置されるものでもなく、利用者においてベースステーションを債務者に預かってもらうこと自体によるメリットは小さい。債務者も、データ・ストレージサービスないしハウジングサービスのように、耐震設備等の安全性をうたったり、空調設備やセキュリティシステム等の具備をメリットとして本件サービスをアピールしているわけでもない。
 また、通常のデータ・ストレージサービスないしハウジングサービスでサーバー等から利用者の手元のパソコン等に移動されるデータは、利用者が自ら作成したデータ等であって、サービスを提供するハウジング業者の行為とは無関係に利用者が保有しているデータ等であり、ハウジング業者が提供するデータ等ではない。すなわち、通常のデータ・ストレージサービスないしハウジングサービスの場合、サービスを行う業者は、インターネット回線に接続されたサーバー等を利用者に対して提供し、利用者においてデータ媒体に情報を記録するのであって、業者自体がデータ媒体に情報を記録するのではない。当該サーバー等が情報の自動送信を行うことができるのは、利用者がデータ媒体に情報を記録した時点以降であるから、情報の自動送信を行い得るようにしている主体は利用者であって業者ではない。そうすると、通常のデータ・ストレージサービス等が直ちに公衆送信に当たるということはできない。
 しかし、本件サービスにおいては、利用者は債務者から本件サービスの提供を受け、本来取得できなかった放送データを取得しているのであって、債務者から利用者に放送データが移動しているとみるべきであって、本件サービスは、通常のデータ・ストレージサービス等とは全く異なるサービスである。本件サービスの本質は、本来放送コンテンツに接し得なかった利用者に対し、有償で放送コンテンツを提供するものにほかならない。
オ 〔債務者の主張〕(3)イについて
 著作権法2条5項は、その規定の体裁から、不特定の者についてはその人数の多寡にかかわらず「公衆」に当たることを当然の前提としている。また、「公衆送信」には、「放送」や「有線放送」のように多数の者に対して同一内容の情報を同時に発信する態様だけでなく、利用者の求めに応じて逐次情報を送信することが含まれるものである。したがって、送信行為者にとって受信者が不特定である限り、「公衆送信」に当たることは明らかである。
 ここで、債務者にとって本件サービスの利用者は不特定の者に当たるから、債務者による放送データの送信行為は不特定の者に対する送信行為であって、「公衆送信」に当たるものである。
〔債務者の主張〕
 次のとおり、債務者は、本件サービスにおいて、本件放送の送信可能化行為を行っていない。本件サービスの利用者が自らテレビ放送をデジタル化して送信しているにすぎず、それ自体は何ら違法な著作隣接権侵害行為ではなく、これに債務者が関与しても違法ではない。
(1) 本件サービスの内容
ア 債務者は、利用者が入手したベースステーションの預託を受け、これを保管し、必要に応じてメンテナンスをするサービスを提供しているにすぎず、利用者の手足となって作業を行っているにすぎない。利用者は、債務者による認証その他の特別な行為を介さずに、専用モニター又はパソコンからインターネット回線を通じて、自らのベースステーションに直接アクセスし、操作することができる。
 利用者は、ベースステーションを預託し、専用モニターの電源を入れたり、又はそれに代わるパソコンを起動するだけで放送を視聴できるようになるわけではなく、利用者において、高速インターネット接続の確立並びにソニー製のロケーションフリーテレビ専用ソフトウェア「ロケーションフリープレイヤー」の購入(後記パソコン型の場合)及び環境設定(MTUの変更等)を行う必要がある。
イ 本件サービスは、利用者が個人としてベースステーションを利用する際に、その利用の便宜を図っているにすぎないものであって、テレビメーカー等が安価なテレビ受信機を提供して街頭テレビの前に集まらなくても見たいテレビ番組を見ることができるようにしたり、家庭用ビデオ機器を提供して好きな時間にテレビ番組を見ることができるようにしたのと同等の事柄である。
ウ なお、債務者が保管するベースステーションがテレビ用アンテナに接続されている事実は知らない。ブースターは使用していない。
(2) ベースステーションが「自動公衆送信装置」に当たらないこと
ア 著作権法2条1項9号の5にいう「自動公衆送信装置」というためには、公衆からの求めに応じて自動的に、公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有するものでなければならない。
 なお、「公衆」とは、「不特定」又は「特定多数」の者をいうところ、「特定」については、他の法律における意義と同様に、個人的結合関係までは必要でないと解すべきである。
イ ベースステーションは、同装置と1対1の関係にある専用モニター又はパソコンとの間でしか通信を行うことができない。すなわち、利用者AはA所有のベースステーションとA所有の専用モニター又はパソコンとの間でのみ通信を行うことができるにすぎず、他の利用者はA所有のベースステーションとの間で通信を行うことができない。特定のベースステーションで受信された放送が、当該ベースステーションの所有者と無関係の人物が使用する専用モニター又はパソコンに転送されることはない。つまり、A所有のベースステーションはAの専用機であって、他人において利用できないものである。
 利用者Aのベースステーションと利用者Bのベースステーションは、それぞれその所有者、販売された経路が異なる、独立した商品なのであって、他のベースステーションがなければ独立して機能しないことなどのない、独自の完結した機能を発揮し得るものである。また、複数のベースステーション全体を不可分一体の装置と考えることはできない。
 そうすると、債務者が預託を受けたベースステーションは、「公衆」に対して送信するものではない。同ベースステーションは、このとおり、特定の1人の利用者のみにおいてその利用が可能な装置であるから、「不特定」にも「特定多数」にも当たらず、「公衆」に対して送信可能な装置ではない。
 したがって、同ベースステーションは、「自動公衆送信装置」に当たらず、送信可能化権の侵害はない。
(3) 債務者が「自動公衆送信」し得るようにしていないこと
 債務者が委託を受けて管理しているベースステーションから所有者の専用モニター又はパソコンへの放送データの転送は、当該ベースステーションの所有者から同一人物に対してなされているものであるから、「送信」に当たらない。仮に、これを債務者から当該所有者に向けての送信であるといってみたところで、当該ベースステーションによりなされる放送データの送信に関していえば、転送の相手方である当該ベースステーションの所有者は「公衆」ではない。したがって、当該ベースステーションによりなされる放送データの転送は「自動公衆送信」に当たらない。
ア 転送の主体
(ア) 債務者は、ロケーションフリーテレビを利用希望者に販売しておらず、調達すら行っていない。利用者は、債務者を介さずに、同テレビの種類を選定し、これを購入する。利用者はいつでも債務者との間の契約を解除することができ、契約終了後、ベースステーションの返還を受けることができる。
 そうすると、ベースステーションの所有権は完全に利用者にあり、債務者にはない。
(イ) ロケーションフリーテレビに用いられているハードウェア、内蔵ソフトウェア及び専用ソフトウェアは、ソニーが開発し、一般に市販しているものであり、ベースステーションの所有者が自らが現在する場所とは異なる場所にベースステーションを置き、そこから専用ソフトウェアがインストールされているパソコンにテレビ放送を転送して、同パソコンで放送を視聴するという、ロケーションフリーテレビの使用法は、債務者が考案したものではなく、ソニーが推奨している使用法の1つにすぎず、そこに債務者独自のノウハウは使用されていない。
 債務者は、ソニーの操作マニュアルやQ&A集等をそのまま使用している。また、債務者は、受信可能なテレビチャンネルの数及び種類等について何ら変更を加えておらず、債務者の事務所において受信可能なテレビ放送がそのままベースステーションに入力されているにすぎない。
(ウ) ベースステーションの保管場所についての制約はない。かかる保管場所が債務者の事務所である必要はない。
(エ) ベースステーションから、いつ、どの番組を転送するのかを決定するのは本件サービスの利用者であって、債務者はこの意思決定に関与できないし、ベースステーションの所有者がいつ、どの番組についての放送を転送したのかを把握できない。また、ベースステーションは同時にはただ1つの放送のみを転送できるにすぎない。
(オ) ベースステーションが利用者に対して放送を転送するのは、専用モニターを使用する場合でいえば、利用者がモニターの電源をオンにし、画面の「接続」ボタンをクリックした時点から、画面の「切断」アイコンをクリックするまでの間のことであって、ベースステーションが常に放送を転送し続けているわけではない。パソコンを使用する場合、ベースステーションが利用者に対して放送を転送するのは、利用者がパソコンで専用ソフトウェアを起動し、ベースステーションを選択して「接続」ボタンをクリックした時点から、画面の「切断」アイコンをクリックするまでの間である。
 なお、ベースステーションにアンテナから伝送されているアナログ信号は、ベースステーションから常時デジタル信号に変換されて出力されているわけではなく、利用者がベースステーションに指令を送った場合に限られるし、この場合であっても、ベースステーションに入力され、デジタル信号に変換されて出力されるテレビ放送波のアナログ信号は、利用者が選択した放送番組に係るもののみである。
(カ) ロケーションフリーテレビを利用してテレビ番組を視聴したい者にとって、債務者によるベースステーションの保管等は不可欠のものではなく、本件サービスを利用しなくても、自ら接続及び設定を行って機器を使用すれば、ロケーションフリーテレビの機能を実現することができる。また、債務者以外の業者にベースステーションの管理を委託することも可能である。
(キ) ソニーは、「海外在住者向けサポート」として、ロケーションフリーテレビを購入した者に対し、2万6250円で(基本出張料を含む。)、ベースステーションの取付作業や環境設定等を行っている。ロケーションフリーテレビを販売する家電量販店等も、同様のサービスを有償で提供している。これらの環境設定(ポート番号の変更を含む。)は、ロケーションフリーテレビがもともと有している仕様に基づくものであって、本件サービスにとって本質的な行為ではなく、債務者も本件サービスにおいて、利用者の環境設定を代行しているにすぎない。
(ク) 通常の地上波放送に関しては、集合住宅の屋上部分にアンテナを設置したり、自己の占有部分以外の場所にアンテナを設置することが広く行われており、債権者は受信用アンテナの設置場所ないし設置形態を理由に、特定人に対して放送の視聴を禁じていないが、本件サービスは受信用アンテナを他の場所に設置しているのに等しい。
(ケ) 今日、利用者が所有するサーバー等を預かって保守及び管理を行い、この保守等を行う者においてサーバー等に電気を供給し、サーバー等をインターネット回線等に接続する、いわゆるハウジングサービスが行われている。サービスを提供する業者によって管理されるサーバー等に利用者のデータが蓄積されるから、このサーバー等と利用者のコンピューターとの間でデータが送受信されることになる。一般に、かかるデータの送受信は利用者自身が自らのサーバー等と自らのパソコンとの間でされるものと理解されており、当該業者と利用者との間でデータが送受信されるものとは理解されていない。その実体は、利用者が自宅外に設置したサーバー等に自らのデータを蓄積し、同サーバー等からデータを自宅内でダウンロードするのと何ら変わりがない。
(コ) 債務者が利用者から得ている入会金3万1500円及び利用料月額5040円は、ベースステーションの保管料にすぎない。
 この金額は、コンピュータ機器等のハウジングサービスの対価としてはかなり低額であり、放送の入力に対する対価とはなり得ない。また、債務者は入力によって広告料収入等を得ているわけでもない。むしろ、利益を得るのは、本来視聴されないテレビCMが視聴された同CMのスポンサー企業である。
イ 転送の相手方
(ア) 日常用語例からすると、「公衆」には少数を含まない。著作権法においても、3条1項等の「公衆」のうちの「衆」の部分のみに着目して規定された条項がある。著作物等の公の利用というに足りるか否かを決する基準として「公衆」という語を用いる場合には、著作物等の利用による経済的な効用を認めるに足りる程度の人数に著作物等が提示又は提供されているか否かが重要なのであって、提示又は提供の相手方が多数人であることが予定されていることは明らかである。
 著作権法2条1項7号の2にいう「公衆送信」は、「放送」(同項8号)、「有線放送」(同項9号の2)及び「自動公衆送信」(同項9号の4)を包括する概念であって、「公衆送信」における「公衆」の意義は「放送」等における「公衆」の意義と同一に解されるべきところ、上記のとおり、「放送」等における「公衆」は相当程度多数の者をいうと解されるから、「公衆送信」における「公衆」の意義においても相当程度多数の者をいうと解すべきである。そうすると、「公衆送信」においても、「自動公衆送信」においても、受信者が相当程度多数である構成、すなわち1対多数の構成が予定され、送信者と受信者が1対1で対応する排他的伝送は含まれないというべきである。
 しかるに、本件サービスにおいて、債務者が管理するベースステーションから利用者への放送データの転送の主体は当該ベースステーションの所有者たる利用者であって、転送の相手方はかかる利用者である。これは自分から自分自身への転送行為(送信行為)であって、「公衆送信」に当たらないことは明らかである。仮に、ベースステーションからする送信行為の主体が債務者であるとしても、放送データの転送の相手方は当該ベースステーションの所有者たる利用者1人に限定されているから、多数人に向けて送信されておらず、「公衆」に直接受信されることを目的とした電気通信の送信に当たらないことは明らかである。
(イ) なお、著作物の使用行為が「公衆」に対する使用行為に当たるか否かを、当該著作物の種類、性質や利用形態を前提に、著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点を加味して判断することは、判断をする裁判所に白紙委任を与え、法的安定性及び予測可能性を失わせるもので適切でない。
 また、仮にかかる観点を加味したとしても、@ 債務者の管理するベースステーションがその構成機器となっているロケーションフリーテレビは2005年度ネットKADEN大賞を受賞した、社会的に好意的に受け止められている商品であり、A 1台のベースステーションから転送される放送データを受信できるのは、当該ベースステーションに登録された1台の専用モニター又はパソコンに限定されており、B 今日、利用者等の委託を受けてコンピュータ等の情報機器の設置、保守及び管理等を行うハウジングサービスが広く行われているが、上記情報機器により処理される情報の知的財産権に基づいて、これらのサービスを行う者に対して禁止権を付与すべきとは社会的にいい難い状況にあること、C ロケーションフリーテレビにはテレビCMをカットする機能がなく、債権者らのCMスポンサーの利益を損なうおそれがないこと、D 放送法1条1号では「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障する」としているところ、本件サービスは債権者らの放送を受信できない地方の住民や難視聴地域に居住する住民、海外に居住する者に広く受信を可能にするサービスであること、E 本件サービスの利用者への放送データの転送行為を禁止するときは、利用者の受信の機会を失わせるという大きな不利益を与える一方、債権者らには格別の利益は生じないことからすれば、テレビ番組という著作物の種類、性質や利用形態を前提に、著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切であるとはいい難く、本件サービスにおけるベースステーションから利用者への放送データの転送は「公衆」に対する送信行為に当たらないというべきである。
(4) 債務者が本件放送を自動公衆送信装置に入力していないこと
 単に通信設備ないし自動公衆送信装置を設置、管理又は運営する者は、上記通信設備等において送信可能化がされたとしても、送信可能化権の侵害の責任を問われるものではない。
 債務者は、ベースステーションの所有者たる利用者の委託を受けて、ベースステーションを事務所に設置し、アンテナ端子と接続する等の作業を機械的に行い、ベースステーションを管理しているにすぎないのであって、単に通信設備ないし自動公衆送信装置を設置、管理又は運営しているにすぎない。
 そうすると、ベースステーションへの放送を入力している主体は、本件サービスの利用者であって、債務者ではない。
 また、ベースステーションに障害が生じた場合に、ベースステーションをリセットしても、著作権法2条1項9号の5ロの送信可能化行為を行ったとはいえない。
 仮に債務者がかかる入力を行っている主体であるとすると、ハウジングサービスを行っている事業者等は、管理下にあるサーバー等内に第三者の著作権ないし著作隣接権を侵害するような電子ファイル等が蔵置されていないことを確認した上でなければ、当該サーバー等がシステムダウン等を起こしても、これを再起動させることができなくなるが、かかる結果は不合理である。
(5) ロケーションフリーテレビの社会的有用性等
 ソニーが開発・製造しているロケーションフリーシステムは、社会的に好意的に受け止められている商品であり、海外や地方などに居住しているために放送を受信できない者や、電波障害等のために放送を適切に受信できない者に対して放送の視聴を可能にするものである。
 他方、公共財産である電波を利用し、公共の利益に沿って事業を遂行すべき性格を有する債権者ら放送会社において、本件サービスのようなハウジングサービスを差し止めることが、社会通念上適切であるとはいい難い。
 そして、債務者は、ソニーの販売する商品を、何ら商品の仕様を変更することなく、ソニーが提案する使用法どおりに使用して本件サービスを提供しているものであって、何ら新たな機能を追加するなどしていない。本件サービスは、ソニーが提供するロケーションフリーテレビの社会的有用性を活用しているにすぎないものである。
2 争点(2)(保全の必要性)について
〔債権者の主張〕
(1) 日々損害が生じていること
 債務者は、債権者らの本件サービスの差止めを求める警告にもかかわらず、現在も本件サービスを継続している。そして、本件サービスによって、債権者らの著作権及び著作隣接権は日々侵害されている。
 このとおり、債権者は、債務者による債権者の権利へのただ乗りにより日々大きな損害を被っており、本案判決を待つことなく、一刻も早く本件サービスを差し止める必要性があることは明らかである。
(2) 本案判決後の損害賠償請求では被害が回復できないこと
 本件サービスが存続するときは、債権者らがコンテンツの供給を受けている権利者との関係に重大な悪影響を及ぼす。
 すなわち、債権者らが放送する番組には、債権者ら以外の権利者から許諾を受けて放送しているものも多数存在する。その中には、海外の権利者も多いが、債権者らに放送を許諾するにあたって、契約条件の中で、必ず放送地域を日本国内に限定している。これらのコンテンツは、各国ごとに個別にライセンスが付与されるため、権利者にとっては、放送地域が限定されていることが、ライセンスを与える不可欠の前提となっている。しかしながら、仮に本件サービスのような事業が日本法上適法とされてしまうと、このような前提は根底から崩れる。
 このような状況に至れば、海外の権利者としては、日本の放送事業者に放送を許諾すること自体を躊躇せざるを得なくなる。すると、債権者らは、これまで問題なく許諾を受けられていたコンテンツについても許諾が受けられなくなり、日本の視聴者は、海外の多数の優良なコンテンツを視聴できなくなってしまう。
 このような被害は、事後的な損害賠償請求で修復できるものではない。
 よって、本案判決を待つことなく、直ちに本件サービスを差し止める必要がある。
(3) 利用者の増加の防止の必要性
 債務者は、自ら本件サイトを開設し、現在も新規利用者を広く募集している。このまま本件サービスを放置すれば、本件サービスを適法なものと誤解して新規に加入する利用者が現れることは必至である。また、サービスの低価格化が進めば、当然これに加入する外国人も増加するのであって、そうなれば、海外へのコンテンツの漏出による悪影響も飛躍的に増大する。
 そうなれば、債権者らの被る損害はますます拡大することになるから、一刻も早く本件サービスを差し止める必要がある。
〔債務者の主張〕
 保全の必要性を争う。
 本件サービスが存続することによって、債権者にいかなる性質及び内容の損害が生じるのか、またその金額が全く明らかでない。
 本件サービスにおいては、放送中のコマーシャルをカットしていないから、債権者の収入が実際に減少したことも、近い将来減少することも考え難い。債権者の主張する被害は、ひっきょう、将来の損害の可能性にすぎず、仮にこれが発生したとしても、その金額はわずかなものである。なお、本件サービスの存続によって、債権者が海外のコンテンツ権利者から、許諾を受けられなくなることなどはあり得ない。
 以上のとおり、債権者の損害は事後的な損害賠償によっても十分填補可能である。
 他方、本件仮処分が認容されると、債務者は重大な不利益を受け、後に本案訴訟で勝訴したとしても回復し難い、致命的なものとなるおそれがある。
 結局、債権者の本件仮処分申立ては、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためにこれを必要とする」ものであるとはいえず、保全の必要性がない。
第4 当裁判所の判断
1 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。
(1) ロケーションフリーテレビの機能等
ア ロケーションフリーテレビの機能・種類
 ソニー製「ロケーションフリーテレビ」は、製品を購入した消費者の自宅内ではLANを用い、自宅外ではインターネット回線を用いることで、外出先や海外においてもテレビ放送の視聴を可能にする機能(このうち、外出先及び海外においてテレビ放送の視聴を可能にする機能を「NetAV機能」という。以下、NetAV機能を利用する場合について判断する。)を有する装置である。ロケーションフリーテレビを構成する装置であるベースステーションは、テレビチューナーを内蔵し、テレビアンテナから入力されたアナログの放送波をデジタルデータ化し、対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて、インターネット回線を通じて当該モニター又はパソコンへ上記デジタルの放送データを自動的に送信する機能を有する。
 ロケーションフリーテレビには、現時点で、次のとおり2系統の商品がある(甲1の5、甲5、乙1、5)。
(ア) 商品型番LF−X1及びLF−X5
 ベースステーションと対応する専用のモニターがセットになっており、利用者がこのモニターでテレビ放送を視聴する商品(以下「専用モニター型」という。)
(イ) 商品型番LF−PK1
 ベースステーションと対応するパソコン用の専用ソフトウェアのお試し版がセットになっており、利用者において別売りの正規の専用ソフトウェアを自己のパソコンにインストールし、専用モニターの代わりに自己のパソコンでテレビ放送を視聴する商品(以下「パソコン型」という。)
イ 利用のための準備作業
 ロケーションフリーテレビを使用するためには、専用モニター型でも、パソコン型でも、まず、ロケーションフリーテレビの機器を購入し、必要な電源及びテレビアンテナを確保するほか、インターネット回線と接続するためのADSL回線等の利用契約及びインターネットのプロバイダーとの間の契約を締結し、ルーター等を用意する等の高速インターネット接続が可能になる環境を確保する必要がある(甲5〔4頁〕、乙1〔25頁〕、審尋の全趣旨)。
ウ 専用モニター型の利用のために必要な設定作業等
 専用モニター型を用いて外出先でユーザーがテレビ放送を視聴するためには、前記イの準備作業のほか、次の作業をする必要がある(乙1)。
(ア) ベースステーションに、商品に付属するACパワーアダプター等を介して電源コンセントにつないで電源が供給されるようにし、また、背面のアンテナ接続端子と自宅のテレビアンテナ端子とをアンテナ接続ケーブルで接続する。専用モニターについても、付属するACパワーアダプター等を介して電源コンセントにつなぐ〔18、19頁〕。
(イ) ベースステーション及び専用モニターの電源を入れ、専用モニターからテレビチャンネルの設定を行う〔20ないし24頁〕。
(ウ) ベースステーションのLAN端子と、ルーター(ルーター内蔵モデム及びADSLモデム等を含む。以下同じ。)のLAN端子とをLANケーブルで接続する。その後、専用モニターから、ベースステーションの回線設定(環境設定。DHCPによる自動設定ないし手動設定等でIPアドレス等を設定する。)を行う〔25ないし36頁〕。
(エ) ユーザーが契約しているSo−net等のプロバイダーにダイナミックDNSサービスの利用を申し込み、ベースステーションの所在を示すドメイン名を取得し、インターネット上から当該ベースステーションをドメイン名で参照できるようにする〔141、142頁〕。
(オ) 専用モニターからNetAV機能の使用環境設定を行う。具体的には、使用環境設定の「NetAV有効/無効設定」画面で、画面上段の「有効にする」のチェックボックスを選択し、画面下段の「NetAV時につなぐベースのドメイン名」に前記(エ)で取得した自己のベースステーションのドメイン名を入力し、画面左下隅の「OK」ボタンを押す。
 なお、この設定の際、必要に応じ、上記画面上でベースステーションのポート番号を変更することができる〔142、143頁〕。エパソコン型の利用のために必要な設定作業等パソコン型を用いて外出先でユーザーがテレビ放送を視聴するためには、前記イの準備作業のほか、次の作業をする必要がある(甲5)。
(ア) パソコンを用意すると共に、パソコン用のロケーションフリーテレビ専用ソフトウェア「ロケーションフリープレイヤー」(使用期間が限定されていない正規のもの。商品型番LFA−PC2)を購入して、同専用ソフトウェアを上記パソコンにインストールする〔6、35、36頁〕。
(イ) ベースステーションに、商品に付属するACパワーアダプター等を介して電源コンセントにつないで電源が供給されるようにし、また、背面のアンテナ接続端子と自宅のテレビアンテナ端子とをアンテナ接続ケーブルで接続する〔7、8、13頁〕。
(ウ) ベースステーションのLAN端子と、ルーターのLAN端子とをLANケーブルで接続し、ベースステーションの電源を入れる。その後、パソコンとベースステーションとの間を、無線ないし有線のLAN回線で接続する〔14ないし16頁〕。
(エ) パソコンとベースステーションが無線LAN回線で接続されている場合には、パソコンの所定のソフトウェア(パソコンの基本ソフトウェアがWindowsXPの場合には「ワイヤレスネットワーク接続」)を起動し、ベースステーション側面に記載されているWEPキーを入力する。
 パソコンとベースステーションが有線LAN回線で接続されている場合で、ルーターのDHCP機能によってパソコンがIPアドレスを自動的に取得するようパソコンを設定している場合には、既にされているパソコンとルーターとの間のLANケーブルによる接続作業で足り、別段設定作業を要しないが、ここで、必要に応じ、パソコン上で専用ソフトウェアを起動し、専用ソフトウェアの「ベースステーション設定」画面でIPアドレス等を手動で入力して設定することもできる。
 これらの作業により、パソコンとベースステーションとが交信できる状態になる〔15、16、40頁〕。
(オ) ベースステーション背面のセットアップモードボタンを押し、ベースステーションをセットアップモードにする。他方、パソコンの専用ソフトウェアを起動し、「ベースステーションの選択」画面で「接続」ボタンを押して、当該パソコンをベースステーションに登録させる〔16、17頁〕。
(カ) パソコン上で専用ソフトウェアを起動した後、再度「ベースステーションの選択」画面で「ベースステーションの設定」ボタンを押し、その後数次進んだ画面で「かんたん設定」ボタンを押し、画面に示される手順に従って所定のボタンを押し、パソコンからベースステーションのNetAV機能の設定を自動で行う。
 なお、かかる「かんたん設定」ボタンによる設定を行う代わりに、パソコンの専用ソフトウェアの該当する画面上において、手動でIPアドレス等を入力し、NetAV機能の設定等を行うこともできる。この場合には、ベースステーションのポート番号を入力して既定値の5021から変更することができる〔18ないし21頁、41ないし43頁〕。
オ 外出先からのテレビ放送視聴の手順
 ユーザーは、専用モニター型を使用する場合には専用モニターのLAN端子とインターネット回線に接続されている外出先のルーターのLAN端子とをLANケーブルで接続するなどし、パソコン型の場合にはパソコンのLAN端子と上記の外出先のルーターのLAN端子とをLANケーブルで接続するなどして、専用モニター又はパソコンがインターネット回線と接続された状態にする。
 その後、ユーザーは、専用モニター型の場合には、専用モニターの電源を入れ、画面下部の「NetAV接続」ボタンを押す。パソコン型の場合には、パソコンの電源を入れ、専用ソフトウェアを起動し、最初に現れる「ベースステーションの選択」画面で「接続」ボタンを押す。
 そうすると、外出先の専用モニター又はパソコンと自宅のベースステーションとの間でインターネット回線を通じて交信が行われ、ソフトウェアによる接続作業が完了すると、ベースステーションからデジタル化された放送データがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンに送信され始めるようになり、テレビ放送を視聴することができる。この際、専用モニター又はパソコンの画面の一部に視聴可能なチャンネルを示す子画面が表示されるので、同子画面中の任意のチャンネルを選択して、好きな放送局に切り替えることができる。
 なお、これらのようにして外出先からユーザーが随時テレビ放送を視聴することができるようにするためには、外出前に予めベースステーションの電源を入れておく必要がある(甲5〔4、25、26頁〕、乙1〔143、144頁〕)
(2) ソニーが提供するロケーションフリーテレビの取付け及び設定サービス
 ソニーは、ロケーションフリーテレビを購入したユーザーに対し、機器の取付け及び設定を有償で行う以下のようなサービス(以下「ソニーの設定サービス」という。)を提供し、自社のインターネット・ホームページで同サービスの申込みを受け付けている(乙2の1ないし4)。
ア 専用モニター型の場合、ソニーの設定サービスの内容は、機器の取付け並びにADSL設定及びNetAV機能設定等であり、前記(1)ウ(ア)ないし(ウ)及び(オ)の設定作業等に対応するものである。NetAV機能設定も行われる場合のこのサービスの利用料金は、最低1万5750円(ルーターを使用せず、ユーザーにおいてADSLケーブルを設定済みの場合。以下、料金にはいずれも消費税を含む。)、最高2万3100円(ルーターを使用し、インターネット回線の設定、ダイナミックDNSの設定及びルーターの設定が必要な場合。)である。
イ パソコン型の場合、ソニーの設定サービスの内容は、ベースステーションの取付け、パソコンのネットワーク設定、パソコンへの専用ソフトウェアのインストール及び同ソフトウェアの設定並びにNetAV機能設定である。このサービスは、前記(1)エの設定作業等に対応するものである。このサービスの利用料金は、ベースステーションの取付け及び設定、パソコンのネットワーク設定、パソコンへの専用ソフトウェアのインストール及び設定並びにUPnP対応ルーター(ソニーによる検証作業が終了しているものに限る。)を使用する場合のNetAV機能設定作業を行うサービスで1万5750円である。
ウ ソニーは、パソコン型の場合には、海外の在住者向けに、国内でベースステーションの取付け、パソコンのネットワーク設定、パソコンへの専用ソフトウェアのインストール及び同ソフトウェアの設定並びにNetAV機能設定を行うサービス(海外在住者向けサポート)も提供している。このサービスも、前記(1)エの設定作業等に対応するものである。このサービスの利用料金は、国内のベースステーション設置場所への基本出張料込みで2万6250円である。
(3) 本件サービスについて
ア 目的ないし意義
 本件サービスの目的ないし意義は、債務者において、ベースステーションに所要の接続をし、債務者の事務所で保管及び管理することで、海外や、本来であれば放送波が届かない地域に居住している利用者等でも、任意に希望するテレビ放送を視聴することができるようにすることにある(甲1の4)。
イ 本件サービスの仕組み
 次の機器類が概ね別紙2のとおり接続されて、本件サービスのシステムが構築されている。
 なお、本件サービスにおいては使用されるソフトウェアは、いずれもソニーが開発したものであり、債務者が独自に準備したソフトウェアは使用されていない。また、以下の機器類のうち、ベースステーションは利用者の所有に係り、それ以外の機器類は、すべて汎用品であり、本件サービスに特有のものではない(甲1の4、甲5、審尋の全趣旨)。
(ア) ベースステーション
 ベースステーションは、インターネット回線に接続されて、放送波をデジタルデータ化してインターネット回線に送信することができる機器であり、デジタルデータ化された放送データはインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンへ送信される。利用者は専用モニター又はパソコンの操作を通じてベースステーションに指令を行い、ベースステーションから送信された放送データを受信して、専用モニター又はパソコン画面で視聴する。
(イ) 分配機
 分配機は、一方において、テレビの放送波(地上波)を受信するアンテナ端子にケーブルを用いて接続されており、他方において各ベースステーションにも接続されている。放送波を各ベースステーションに供給するための分岐点の役目を果たす。
(ウ) ハブ
 各ベースステーションとルーターとの間に介在して、1つ以上のLAN回線を束ねる役割を果たす機器である。
(エ) ルーター
 ハブとインターネット回線との間に介在して、相互の信号やデータの割振りを行う機器である。なお、ルーターとインターネット回線とは、LANケーブル等のケーブル類を用いて接続されている。
ウ 本件サービスの利用手順(甲1の2、5、審尋の全趣旨)
(ア) 本件サービスへの加入手順
 利用希望者は、本件サービスのホームページ(http://■■■■■■■■)にアクセスして、本件サービスの内容を確認した上、登録予約フォームに氏名等の必要事項を記入して送信することにより本件サービスの利用申込みを行う。
 債務者から申込みを受けた事実の確認及びサービス開始時期等を通知する電子メールを受信した申込者は、後に債務者へ発送するロケーションフリーテレビの種類を指定する内容の電子メールを返信する。
 債務者から機器の受入準備が整った旨の電子メールを受信した申込者は、ロケーションフリーテレビを購入し又は既に購入済みのロケーションフリーテレビを債務者のデータセンターに送付し又は自ら持参する。
(イ) 入会金及び月額利用料の支払等
 申込者は債務者に対し、入会金3万1500円及び初回分の月額利用料5040円を支払う。
 なお、上記入会金の内訳は、本件サービスへの加入の対価、ベースステーションの設置及び設定に要する費用、設備料、インターネットの接続料金並びに専用モニターの発送手数料であり、上記月額利用料の内訳は、ベースステーションの保管場所代、電気代、通信回線代及び諸設備利用代であるとされている。
(ウ) ベースステーションの設置及び設定並びに専用モニターの発送債務者は、申込者から送付されたロケーションフリーテレビのうち、ベースステーションを債務者の事務所(データセンター)内に設置し、ポート番号を割り当てる等の必要な設定を行い、分配機を介してアンテナ端子に、ハブ等を介してインターネット回線に接続する。
 債務者は、ベースステーションに専用モニター又はパソコンからの指令さえあれば自動的に放送を送信できる状態となったことを確認するテストを実施した上、専用モニター型の場合は、ロケーションフリーテレビのうち専用モニターを申込者に発送する。パソコン型の場合には、専用モニターの発送は行われない。
(エ) 専用モニター型の場合の利用手順(甲1の5、審尋の全趣旨)
 利用者は、専用モニターを操作し、インターネット回線を通じてベースステーションに指令を行う。指令を受けたベースステーションは、自動的に放送をインターネット回線を通じて利用者のモニター部分に送信し、利用者は、当該放送を受信して視聴する。
 専用モニター型の場合には、事前に所要の手続及び設定を経て高速インターネット接続を確立する必要があるものの、専用モニターの電源を入れ、「NetAV接続」ボタンを押すと、インターネット回線を通じてベースステーションに指令を送信し、この指令を受けたベースステーションから送信される放送を受信して専用モニターで視聴することができる。
(オ) パソコン型の場合の利用手順(甲1の5、甲5、審尋の全趣旨)
 パソコン型の場合も、上記の高速インターネット接続の確立作業のほかに、事前に専用ソフトウェアを購入し、これを自己のパソコンにインストールし、専用ソフトウェアの環境設定を行う必要がある(なお、必要に応じて、MTUの設定の変更を行う。)ものの、これらの作業が終了した後は、パソコン上で専用ソフトウェアを起動し、ベースステーションの選択画面で「接続」ボタンを押すことにより、インターネット回線を通じてベースステーションに指令が送信され、その指令を受けたベースステーションから放送が送信され、利用者はパソコンで放送を受信して視聴することができる。
エ 債務者と利用者との契約の内容
 債務者が本件サービスの利用者との間で締結する契約「まねきTV 有料サービス」の約款には、次の規定がある(甲1の5)。
(ア) 4条(契約の単位)
 「1.サービス契約加入申し込みごとに、当社では本約款に基づきサービスを提供します。このサービスはサービス契約加入申し込みをした御本人(以下「加入者」といいます)が単独あるいは同一世帯内で個人的に住居生計を共にする方々と御一緒に有料サービスを受ける為のものであり、業務目的乃至その他目的如何を問わず不特定多数の視聴の用に供する事は出来ません。有料サービスの業務目的使用もしくは同時再送信ないし再分配をすることは禁止します。
 2.次条に基づく契約成立後、前項の規定に違反して不正に使用していたことが判明した場合は、当社は、サービス契約を直ちに解除することが出来る。」
(イ) 5条(契約の成立)
 「サービス契約は、(中略)成立します。但し、当社は、サービス契約の申し込みがあった場合でも、以下の場合には承諾しないことがあります。
 1.(略)
 2.加入申込者が放送番組の著作権および著作隣接権を侵害する恐れがあると当社が判断する場合。
 3.(略)」
(ウ) 8条(料金の支払い義務)
 「1.加入者は別表に定めるイニシャルコストおよび利用料を当社の指定する方法により当社にお支払いいただきます。利用料はサービス契約成立の日の属する月の翌月分からとします。
 2.イニシャルコストはサービス契約の成立後は返還されません。」
(エ) 12条(中途解約)
 「1.加入者は契約期間中であっても当社所定の書式により当社または代理店に解約希望月の27日迄に通知したうえでサービス契約を解約することができます。解約は、当社が27日迄に文書を受領した月の末日に成立します。
 2.ないし4.(略)」
(オ) 13条(契約の解除等)
 「1.当社は加入者が利用料などの支払い義務を怠った場合、その他本約款またはサービス契約に違反した場合には、書面による通知のうえサービスを停止してサービス契約を解除できます。(以下略)」
(カ) 19条(著作権及び著作隣接権侵害の禁止)
 「加入者は個人的にまたは家庭内またはこれに準ずる限られた範囲内において利用することを目的とする場合を除き、著作権および著作隣接権を侵害する行為をすることはできません。」
(キ) 20条(NHK視聴契約)
 「NHK視聴契約については、加入者各自で契約する事とする。当サービスでは契約、集金業務は行いません。」
(ク) なお、債務者が利用者との間で契約を解除した後のベースステーション等の処理につき、次の2通りの方法が定められている。
a パターン1
 債務者が利用者の指定する場所にベースステーション等を送付し、利用者から取外し手数料及び梱包料として合計5000円並びに送料実費を徴収する。
b パターン2
 利用者がベースステーション等の所有権を放棄して、債務者においてベースステーションを廃棄処分し、利用者から取外し手数料及び廃棄手数料として合計5000円並びにリサイクル法に基づく実費を徴収する。
オ 債務者の本件サービスの提供にあたっての準備等(審尋の全趣旨)
(ア) 債務者は、東京都文京区内にデータセンターと称する事務所を賃借し、契約時に63万円を、その後は月額10万5000円の賃料を支払っている。また、債務者は、高速インターネット回線を準備し、月額2万7000円の回線代を支払い、プロバイダーと契約して月額1万2000円の料金を支払っている。
(イ) そして、債務者は、147万円をかけて本件サービスのホームページのシステムを作成した。
 本件サービスのホームページでは、利用者において不明な点があれば、「サポートデスク」に問い合わせることにより債務者から直接回答を得ることもできる。また、同ホームページで、本件サービスの利用が可能な高速インターネット接続環境にあるか否かについて確認することができる他のウェブサイトを紹介している。
 なお、債務者のホームページのうち、本件サービスの内容に係る部分には、利用希望者がロケーションフリーテレビを購入できる店舗の名称として、ビックカメラ等が列挙され、同店舗のホームページへのリンクが張られている。
(ウ) さらに、債務者は、ベースステーションを載置するラックや、ルーター、ハブ、ケーブル及び分配機等を購入した。
カ 債務者の契約実績
 債務者が本件サービスの利用者から送付を受けて保管及び管理を行っているベースステーションは、専用モニター型(ただし、LF−X1のみ)が現在35台(国内の利用者に発送ないし手渡ししたものが26台、海外の利用者に発送したものが20台の合計46台に上るが、うち11台分については契約を解除され、ベースステーションは利用者に返却された。)、パソコン型が現在12台ある(審尋の全趣旨)。
(4) ハウジングサービスについて
 日本ユニシス・エクセリューションズ株式会社等では、利用者のタワー型、ラック型又はユニット型のサーバーを預かり、電源及び空調を完備した管理室内で管理し、利用者のパソコン等とインターネット回線で同サーバーと接続して、利用者がいつでも同サーバーとデータの送受信ができるようにするいわゆるハウジングサービスを提供している。
 このハウジングサービスでは、業者の従業員が24時間同サーバーの監視を行ったり、データのバックアップを行うサービスや、ファイアーウォールを設定・維持するサービス等がオプションとして設けられており、サービスの内容に応じて異なる利用料金が設定されている。
 ハウジングサービスの利用料金は、ラック型のサーバーを預かる簡易かつ低額のサービスには、1ユニット当たり月額利用料が1万0500円のものや初期費用が0円、月額利用料が2万9400円のものがあり、比較的高額のサービスには1キャビン当たり初期費用が40万円、月額利用料が120万円のものがある(乙3、4、13ないし20)。
2 争点(1)(債務者の送信可能化行為の有無)について
(1) 本件サービスの内容及び利用される機器
ア 本件サービスにおいては、ソニーが製造販売している「ロケーションフリーテレビ」が使用されている。前記1(1)認定のとおり、ロケーションフリーテレビ自体は、本件サービスとは無関係に、外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を可能にする社会的に見ても有用な装置であって、債権者も、その利用が著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。
 ロケーションフリーテレビを利用するにあたっては、必ずしも利用者自身が必要なベースステーションの取付け及び設定作業を行うのではなく、前記1(2)認定のとおり、ソニーの設定サービスにおいて、かかる作業を代行してもらうこともできる。しかも、ソニーの設定サービスについては、海外在住者向けサポートを含め、債権者は、それが著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。
イ 本件サービスにおいて放送データの送信を行う機器は、ベースステーションである。すなわち、ベースステーションは、テレビチューナーを内蔵し、アンテナ端子からの放送をデジタルデータ化し、対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて、インターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンへ自動的に送信する機能を有するものである。
 しかしながら、まず、前記アのとおり、債権者においても、ベースステーションの利用行為一般が著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。
 ロケーションテレビは、前記1(3)ウ認定のとおり、本件サービスの利用者において購入するものであり、本件サービスの利用者は、いつ、どの販売店から、どの種類のロケーションフリーテレビを、いくらで購入するかにつき自由に意思決定をなし得る立場にあり、債務者による購入先の指定等はされていないし、債務者においてロケーションフリーテレビの購入の仲介ないしあっせんを行ってはいない。また、利用者はいったん債務者にベースステーションの保管及び管理を依頼した後も、前記1(3)エ認定のとおり、本件サービスの利用契約を解除して、ベースステーションの返還を受けることができる。なお、債務者は、前記1(3)オ(イ)認定のとおり、自らのホームページ中でロケーションフリーテレビの販売業者の紹介の項目を設けるなどしているが、これはあくまで利用者に対する最低限の便宜を図る域を出るものではなく、購入自体は申込者が単独で行ったものと評価せざるを得ない。
 そうすると、本件サービスにおいて、ベースステーションの所有権が債務者にあると解する余地は全くなく、利用者への所有権移転が仮装であるとみる余地もない。債権者においても、これを争っていない。
 また、前記1(3)イ認定のとおり、その余の機器類は、すべて汎用品であり、本件サービスに特有のものではない。
ウ さらに、前記1(3)イ認定のとおり、本件サービスにおいては、ソニーが作成したソフトウェアが用いられているのであって、ベースステーションから利用者の専用モニター又はパソコンへの送信につき、債務者が独自に作成したソフトウェア等が利用されている事情は、全く存しないものである。
エ そして、本件サービスにおいては、1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する同一の利用者が所有する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず、1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることはない。したがって、特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立している。
 また、本件サービスにおいては、あくまでも、特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はない。
 さらに、債務者は、ベースステーションとは別個のサーバー等を設置してはおらず、また、利用者によるベースステーションへのアクセスに同サーバー等の認証手順を要求するなどして、利用者による視聴を管理することもしていない。すなわち、利用者はインターネット回線を通じて自己のベースステーションに直接アクセスし、必要な指令を送って、ベースステーションから選択した放送データのみの送信を受けているのであって、債務者が管理する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものである。
オ 本件サービスは、ソニーの設定サービスと対比して、ベースステーションを債務者の事務所に設置保管して、分配機を経由してアンテナ端子から放送波が流入するようにし、かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違するが、その余は、利用者がソニーの設定サービスを利用してロケーションフリーテレビのNetAV機能を使用するのと同じであり、本件サービスを利用しなければ、本件放送を視聴できないというものではない。
(2) 本件サービスにおける債務者の役割
ア 本件サービスにおいて債務者が利用者に対して提供しているサービスの中核は、@ ベースステーション等とアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと、A ベースステーションを債務者の事務所に設置保管して、放送を受信できるようにすることである。
イ しかし、このうち、まず前記@は、利用者がテレビ視聴を行う場所以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば、本件サービスを利用しなくても可能になることであり、利用者自身が必要なベースステーションの取付け及び設定作業を行うこともできるし、利用者が用意したアンテナ端子及びインターネット回線を利用し、ベースステーションとアンテナ端子等を接続してベースステーションが稼働可能な状態にすること自体は、ソニーの設定サービスにおいても行われることである。そして、ベースステーションの設置場所が東京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所であれば、本件サービスを利用したのと同様の結果を得ることができる。
 しかも、ソニーの設定サービスについては、債権者はそれが著作隣接権を侵害するわけではない旨主張している。
ウ さらに、前記Aについても、ベースステーションの所有権は、名実ともに利用者にあり、それを債務者に寄託しているもの、すなわち、利用者において債務者の事務所にあるアンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。いわゆるハウジングサービスにおいても、利用者のサーバーを預かり、利用者のパソコン等とインターネット接続によりデータの送受信ができるようにされているが、債権者は、それが本件サービスとは異なるとして、送信可能化権を侵害する旨主張していない。
 そして、本件サービスにおいては、あくまでも、特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はない。
(3) 送受信の主体
ア 以上によれば、本件サービスは、利用者の所有するベースステーションを債務者の事務所に設置保管して、放送波を受信するものではあるが、それに使用される機器の中心をなすベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であって、特別なソフトウェアも使用していないものであるから、放送波は、利用者が各自の所有するベースステーションによって受信しているものといわざるを得ない。
イ 本件サービスにおいては、@ それに使用される機器の中心をなし、そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であり、本件サービスに特有のものではなく、特別なソフトウェアも使用していないこと、A 1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず、1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと、B 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立しており、債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものであること、C 特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はないこと、D 利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして、利用者による放送の視聴を管理することはしていないことに照らせば、ベースステーションにおいて放送波を受信してデジタル化された放送データを専用モニター又はパソコンに送信するのは、ベースステーションを所有する本件サービスの利用者であり、ベースステーションからの放送データを受信する者も、当該専用モニター又はパソコンを所有する本件サービスの利用者自身であるということができる。
 そうすると、本件サービスにおけるベースステーションがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンに放送データを送信することを債務者の行為と評価することは困難というべきであって、かかる送信は、利用者自身が自己の専用モニター又はパソコンに対して行っているとみるのが相当である。
ウ 以上のとおり、本件サービスにおいては、利用者が、自己の所有するベースステーションによって、放送波を受信し、自己の専用モニター又はパソコンから視聴したい放送を選択し、当該放送を上記ベースステーションによってデジタルデータ化した上、上記専用モニター又はパソコンに対し、デジタルデータ化した放送データを送信しているものである。
 これを利用者の立場からみれば、ソニー製のロケーションフリーテレビを債務者に寄託することにより、その利用が容易になっているにすぎない。
(4) 自動公衆送信装置について
ア 債権者は、ベースステーションが自動公衆送信装置に当たる旨主張する。
 しかしながら、まず、「自動公衆送信装置」とは、「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」である(著作権法2条1項9号の5イ)。
 そして、「自動公衆送信」とは、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」であり(同項9号の4)、また「公衆送信」とは、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(中略)を除く。)を行うこと」をいう(同項7号の2)。
 ここで、同法2条5項は、「公衆」には、「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めているから、送信を行う者にとって、当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば、「公衆」に対する送信に当たるということができる。
イ 前記(3)のように、本件サービスにおけるベースステーションからの放送データの送信の主体を債務者と評価することはできないから、ベースステーションによる放送データの送信は、1主体(利用者)から特定の1主体(当該利用者自身)に対してされたものである。そうすると、ベースステーションによる送信は、不特定又は特定多数の者に対するものとはいえず、これをもって「公衆」に対する送信ということはできない。
 したがって、本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」には当たらない。
 よって、債務者がインターネット回線に接続されているベースステーションを分配機に接続して放送波が入力されるようにすることは著作権法2条1項9号の5イに当たらないし、同分配機に接続されているベースステーションをインターネット回線に接続することは同ロに当たらないというべきである。
(5) 債権者の主張(2)アについて
ア 債権者は、債務者が、(a) 既にインターネット回線に接続されているベースステーションに放送波を入力し、同時に、(b) 既に放送波が入力されているベースステーションをインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることが、物理的に、それぞれ著作権法2条1項9号の5イの「情報を入力すること」及びロの行為に当たる旨主張する。
イ しかしながら、まず、前記(4)のとおり、本件サービスにおけるベースステーションは、「自動公衆送信装置」に当たるとはいえない。
ウ また、送信可能化とは、著作権法2条1項9号の5イ又はロの行為により「自動公衆送信し得る」ようにすることをいう(同号柱書)。よって、送信可能化について権利侵害に問われるべき者は、「自動公衆送信し得る」状態にない放送を「自動公衆送信し得る」状態にしたといえることが必要である。
 上記(a)について検討すると、「自動公衆送信し得る」のはデジタルデータ化された放送データのみであり、アナログのままの状態ではインターネット回線を通じて「送信」することができないから、仮にアナログの放送波がベースステーションに流入しているとしても、その放送波の流入によっては、同号柱書の「自動公衆送信し得る」ようにしたものとはいえない。また、放送データは、利用者の選択があった場合のみ送信し得る状態になり、デジタルデータ化するのは利用者が所有するベースステーションであることからすれば、債務者が利用者の選択によることなく放送データをベースステーションに入力しているということはできない。そして、利用者が選択しない限り本件放送がデジタルデータ化されていることを認めるに足りず、仮にそれがデジタルデータ化されているとしても、利用者から選択がされない以上、その放送データは送信されることのないものであるから、「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。
 上記(b)については、ベースステーションをインターネット回線に接続した結果、利用者が選択した放送データのみを当該利用者自身が所有するベースステーションから自己の専用モニター又はパソコンに送信しているのであって、特定の1主体に送信しているといわざるを得ないから、「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。なお、債務者がベースステーションをインターネット回線に接続することは、利用者に代わって、その手足として行っているものである。
エ そして、ベースステーションから専用モニター又はパソコンへの放送データの送信が「公衆」に対するものとはいえないことも、前記のとおりであるから、債務者が「自動公衆送信し得る」ようにしたということはできない。
オ 以上のとおり、債務者が送信可能化を行っているとの債権者の主張は、理由がない。
(6) 債権者の主張(2)イについて
ア 債権者は、本件サービスの本質が、海外及び放送区域外でのテレビ番組視聴ができることにある旨主張する。
 しかしながら、そのことは、ソニーのロケーションフリーテレビのNetAV機能そのものであって、債権者自身、それを著作隣接権侵害とは主張していないものである。
イ 債権者は、放送波の範囲が債務者によって限定されている旨主張する。
 なるほど、本件サービスにおいては、債権者らが提供する地上波がベースステーションから送信されるのみであるが、送信される放送波の範囲が限定されるのは、ベースステーションの設置場所が東京都内の債務者の事務所(データセンター)内である結果にすぎず、債務者がかかる限定について関与したとはいえない。なお、かかる放送波の範囲の限定があることをもって、放送波の受信が債務者においてされているとみることはできない。
ウ 債権者は、放送波の入力やインターネット回線への接続行為が債務者の事務所で行われ、そのための機器を債務者が所有し管理している旨主張する。
 なるほど、債務者は、自己の事務所内にベースステーションを設置し、アンテナ端子及びインターネット回線に接続しているところ、放送波のベースステーションへの流入に必要な分配機及びケーブル類や、ベースステーションからインターネット回線への出力に必要なハブ、ルーター及びケーブル類等の機器ないし機材は、いずれも債務者の所有及び管理に係るものである。
 しかしながら、前記1(3)イ認定のとおり、本件サービスに利用する機器のうち、中心となるベースステーションの所有権は名実ともに利用者にあり、各ベースステーション同士はそれぞれ別個独立のものであって一体の機器を成すものではない。その余の分配機やケーブル類、ハブ及びルーター等の機器ないし機材は、本件サービスに特有のものではなく、一般的に利用される汎用品である。
 そして、本件サービスにおいては、ソニーが作成したソフトウェアがそのまま用いられ、ベースステーションから専用モニターないしパソコンへの送信につき、債務者が独自に作成したソフトウェア等が利用されることはない。
 なお、ベースステーションは債務者の事務所に設置されているが、その所有権を有する利用者がこれを債務者に寄託しているものであり、利用者において債務者の事務所にあるアンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。そして、利用者自身が所有するベースステーションを他人に寄託して、直接占有する以外の場所において受信した放送を視聴することは、著作権法上禁止されていない。そもそも、通常の地上波放送に関しては、集合住宅の屋上部分にテレビアンテナを設置して複数の居住者のテレビ放送視聴の用に供したり、自己の占有部分以外の場所にテレビアンテナを設置することが行われており、債権者は受信用アンテナの設置場所ないし設置形態を理由に放送の視聴を禁じていないが(審尋の全趣旨)、本件サービスはそれに近いものである。
 また、債務者が有償でベースステーションを設置する場所を賃借しているとしても、そのことをもってベースステーションによる送信の主体を債務者とみるのは困難である。
エ 債権者は、債務者においてベースステーションのポート番号の変更の作業が行われ、債務者がベースステーションを管理している旨主張する。
 しかしながら、ポート番号の設定作業は、同一のLAN回線上に複数のベースステーションが接続されているために、ポート番号が競合して機器の動作上不都合が生じるという事態を避けるためのものにすぎず(甲5〔41頁〕)、ベースステーションの設定作業の1つにすぎないところ、ソニーに設定作業の代行を依頼した場合にも行われる作業であると推認できる。
 そうすると、債務者がベースステーションのポート番号の変更作業を行っているとしても、この作業のゆえにベースステーションを債務者が管理しているとはいい難い。
オ 債権者は、さらに、債務者がサポート体制を採って管理している旨主張する。
 確かに、前記1(3)オ認定のとおり、債務者は、本件サービスの案内をするホームページを作成及び公開して、利用希望者が本件サービスの内容等を容易に知ることができるようにした上、利用希望者が容易に本件サービスの申込みをすることができるよう、登録予約フォームを用意したり、利用希望者が本件サービスの利用が可能な高速インターネット接続環境を有しているかチェックできる他のウェブサイトを紹介し、サポートデスクと称する質問窓口を設けて、利用希望者の疑問に答えるなどしている。
 しかし、これは、本件サービスの利用者がベースステーションから自己の専用モニター又はパソコンへの送信を行う上での便宜を図っているにすぎず、利用者に対する付随的なサービスと解される。なお、債務者による継続的な管理行為も、利用者の管理行為を代行しているにすぎないものと評価することができる。
カ 債権者は、また、債務者が利用料の支払を受けており、それが放送波の送信の対価である旨主張する。
 しかしながら、債務者が利用者から徴収する利用料金も、最初に徴収する入会金が3万1500円、その後に徴収する利用料金が月額5040円であって、前記1(2)認定のソニーの設定サービスの利用料金や、前記1(4)認定のハウジングサービスの料金水準に比し、にわかに高額すぎるとはいい難く、このうちに放送の送信の対価が含まれているということは困難である。
キ そして、本件サービスにおいては、前記(3)イ判示のとおり、@ それに使用される機器の中心をなし、そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であり、本件サービスに特有のものではなく、特別なソフトウェアも使用していないこと、A 1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず、1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと、B 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立しており、債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものであること、C 特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はないこと、D 利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして、利用者による放送の視聴を管理することはしていないことに照らせば、債務者は、物理的にみても、実質的にみても、送信可能化行為の主体とはいい難い。
 利用者がソニー製のロケーションフリーテレビのNetAV機能を利用することが債権者の送信可能化権を侵害するものでない以上、ベースステーションの寄託を受け、これを設置保管してその利用を容易にしているにすぎない債務者の行為をもって、送信可能化権の侵害と評価することは困難である。
(7) 小括
 したがって、本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」に当たらず、債務者の行為は、著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当たらないというべきである。
 そうすると、債権者には、著作権法112条1項に基づき、債務者の本件放送の送信可能化を差し止める請求権がない。
3 結論
 以上の次第で、その余の点につき判断するまでもなく、債権者の本件仮処分申立てには理由がないから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 中島基至
 裁判官 田邉実


(別紙) 22022号
当事者目録
債権者 株式会社フジテレビジョン
同代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
債務者 株式会社永野商店
同代理人弁護士 藤田康幸
同 志村新
同 水口洋介
同 小倉秀夫

(別紙) 22022号
放送目録
債権者株式会社フジテレビジョンが、次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像193.25MHz、音声197.75MHz
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/