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【事件名】プロ野球選手の肖像権侵害事件(野球カード)
【年月日】平成18年8月1日
 東京地裁 平成17年(ワ)第11826号 肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求事件
 (口頭弁論終結日 平成18年6月23日)

判決
 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らが、別紙関係目録記載においてそれぞれ対応する各原告らとの間において、プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードについて、同各原告らの氏名及び肖像を第三者に対し使用許諾する権限を有しないことを確認する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、プロ野球選手である原告らが、所属球団である各被告らとの間において、プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードにつき、各被告らが第三者に対して各原告らの氏名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないことの確認を請求する事案である。
 これに対し、被告らは、野球選手契約に用いられる統一契約書16条(以下「本件契約条項」という。)により、原告らの氏名及び肖像の商業的利用権(パブリシティ権)が被告らに譲渡され又は被告らに独占的に使用許諾されている旨主張する。
2 争いのない事実等
(1) 当事者等
ア 原告橋由伸、原告上原浩治、原告二岡智宏及び原告阿部慎之助は、いずれも被告株式会社読売巨人軍(以下「被告巨人軍」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告宮本慎也、原告度会博文、原告五十嵐亮太及び原告古田敦也は、いずれも被告株式会社ヤクルト球団(以下「被告ヤクルト」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告鈴木尚典、原告三浦大輔及び原告相川亮二は、いずれも被告株式会社横浜ベイスターズ(以下「被告ベイスターズ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告井端弘和、原告岩瀬仁紀、原告福留孝介及び原告森野将彦は、いずれも被告株式会社中日ドラゴンズ(以下「被告ドラゴンズ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告今岡誠、原告赤星憲広、原告福原忍及び原告濱中治は、いずれも被告株式会社阪神タイガース(以下「被告タイガース」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告黒田博樹、原告新井貴浩及び原告小山田保裕は、いずれも被告株式会社広島東洋カープ(以下「被告カープ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告小笠原道大、原告金子誠、原告金村曉及び原告木元邦之は、いずれも被告株式会社北海道日本ハムファイターズ(以下「被告ファイターズ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告松坂大輔及び原告星野智樹は、いずれも被告株式会社西武ライオンズ(以下「被告ライオンズ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告小林雅英、原告福浦和也及び原告渡辺俊介は、いずれも被告株式会社千葉ロッテマリーンズ(以下「被告マリーンズ」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
 原告川越英隆、原告阿部真宏及び原告高木康成は、いずれも被告オリックス野球クラブ株式会社(以下「被告オリックス」という。)に所属する現役のプロ野球選手である。
イ 被告らは、それぞれ野球競技の興業等を目的とする株式会社であって、いわゆるプロ野球球団を運営している。
 被告巨人軍、被告ヤクルト、被告ベイスターズ、被告ドラゴンズ、被告タイガース及び被告カープはセントラル野球連盟(以下「セ・リーグ」という。)を、被告ファイターズ、被告ライオンズ、被告マリーンズ、被告オリックス、株式会社楽天野球団及び福岡ソフトバンクホークス株式会社はパシフィック野球連盟(以下「パ・リーグ」という。)をそれぞれ構成している(以下、被告ら並びに株式会社楽天野球団及び福岡ソフトバンクホークス株式会社の各社を単に「球団」、これらの球団を併せて「プロ野球12球団」ということがある。)。そして、セ・リーグ、パ・リーグ及びこれらを構成する上記プロ野球12球団は、日本プロフェッショナル野球協約(以下「野球協約」という。)1条に基づいて設立された、法人格なき社団である日本プロフェッショナル野球組織(以下「NPB」という。)を構成している(弁論の全趣旨)。
 社団法人日本野球機構(以下「野球機構」という。)は、我が国における野球水準を高め、これを普及して国民生活の明朗化と文化的教養の向上を図るとともに、野球を通してスポーツの発展に寄与し、我が国の繁栄と国際親善に貢献することを目的として昭和23年3月1日に設立された社団法人であって、球団間の試合日程の編成や野球試合の主催等の事業を行い、プロ野球12球団がその会員となっている(乙52)。
ウ 原告らは、我が国のプロ野球12球団に所属する日本人選手全員と一部の外国人選手から構成される労働組合である日本プロ野球選手会(以下「選手会」という。)に加入している。
(2) 野球協約の定め等
 野球協約は、前記(1)イのとおり、セ・リーグ、パ・リーグ及び各構成球団がNPBを結成するに当たり、これらの団体の間で、@ 我が国の野球を不朽の国技にし、野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって、野球の権威及び技術に対する国民の信頼を確保すること、A 我が国におけるプロフェッショナル野球を飛躍的に発展させ、もって世界選手権を争うこと、B 所属団体及び個人の利益を保護助長することを目的として(3条)、定められた協約である。
 野球協約は、球団が所属する選手との間で野球選手契約を締結する場合には、実行委員会が定める統一契約書によること(45条1項、46条)及び統一契約書の条項は契約当事者間の合意によっても変更することはできないこと(47条1項)を定め、参稼報酬額や特約条項を除いて、球団が選手と基本的に同一の約定で契約することを確保している(乙50、51)。
 そして、統一契約書29条では、球団及び構成する選手が、野球協約を諒承しかつ従うことをうたっている(甲5、乙51)。
 なお、同契約書2条は、各球団と所属選手の間の契約の目的は、選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行なうことにある旨を定めている(甲5、乙51)。
(3) 本件契約条項(統一契約書16条)
 本件契約条項は、次のとおりの規定である(甲5、乙51)。
ア 1項
 「球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。」
イ 2項
 「なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる。」
ウ 3項
 「さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。」
(4) プロ野球ゲームソフトにおける原告らの氏名及び肖像の使用許諾
ア 使用許諾契約
 被告らは、プロ野球ゲームソフト(以下「野球ゲームソフト」という。)につき、野球機構を通じて、ゲームソフトメーカーに対し、別紙関係目録において対応する各原告ら選手の氏名及び肖像の使用を許諾しているが、原告らの許諾は得ていない。
イ 使用料の支払
 野球機構から球団名、球団マーク並びに選手の氏名及び肖像の使用許諾を受けたゲームソフトメーカーは、野球機構及び各球団に対し、使用料を支払っている。球団は、氏名及び肖像が使用された所属選手に対し、上記使用料の一部を分配している(乙16)。
(5) プロ野球カードにおける原告らの氏名及び肖像の使用(乙2、弁論の全趣旨)
ア カルビー「プロ野球カード」
(ア) 使用許諾契約
 カルビー株式会社(以下「カルビー」という。)は、被告巨人軍が9年連続の日本一を達成した昭和48年以降30年以上にわたって、選手の写真等を使用したおまけのカード(カルビープロ野球カード。以下「本件野球カード1」という。)を本体のポテトチップスとともに同梱した菓子「プロ野球チップス」を販売してきた。
 プロ野球12球団は、本件野球カード1につき、カルビーに対し、別紙関係目録において対応する各原告ら選手の氏名及び肖像の使用を許諾しているが、カードを作成するごとに選手らの許諾を得ているわけではない。
(イ) 使用料の支払
 本件野球カード1については、カルビーからプロ野球12球団に対し、所属選手の肖像使用料として、所属選手の野球カード掲載(カード化)の回数に応じて一定金額を支払うこととされている。
 なお、過去には自球団所属選手の宣伝や人気アップになるという理由から、カードに使用する写真をカルビーに対して無償供与する球団も存在した。また、時折、販売促進企画として、カルビーとプロ野球12球団がタイアップし、カルビーがプロ野球12球団のために制作したオリジナル野球カードをペナントレース期間中の球場で配布することがある。このような販売促進企画については、カルビーはプロ野球12球団に対し特別に肖像使用料を支払わない。
イ ベースボール・マガジン社「BBM ベースボールカード」(乙1、弁論の全趣旨)
(ア) 使用許諾契約
 株式会社ベースボール・マガジン社(以下「ベースボール・マガジン社」という。)は、平成3年以降15年以上にわたり、プロ野球及び選手に対する一般の興味を広く振興させることを目的として、選手の写真等を使用したカード(BBM ベースボールカード。以下「本件野球カード2」といい、本件野球カード1と併せて「本件野球カード」という。)を販売してきた。
 ベースボール・マガジン社は、平成3年、本件野球カード2の販売に当たり、プロ野球12球団との間で、所属選手の氏名及び肖像に関する契約を締結し、以降、各契約を更新してきた。プロ野球12球団のうち多数は、この契約を5年ごとに更新しているが、1年又は3年ごとに更新している球団もある。なお、被告らは、カードを作成するごとに原告ら選手の許諾を得ているわけではない。
(イ) 使用料の支払
 ベースボール・マガジン社は、プロ野球12球団に対し、上記各契約に基づいて、本件野球カード2の総売上額の6パーセントに当たる氏名及び肖像の使用料を支払っているが、毎年4月及び7月に、それぞれ一定額の金員を支払い、さらに毎年12月、売上額の6パーセントから既払額を控除した額の金員を支払っている。
 各球団で枚数に差が生じる特別なカードについては、異なる取扱いがとられ、ベースボール・マガジン社と各球団との間で交わされた覚書に基づいて、各球団に対し、1種類当たり一律2万円が別途支払われている。
 なお、ベースボール・マガジン社が各球団のためにオリジナルで製作した本件野球カード2を球場内でファンのために配布している球団もある。
ウ 球団は、氏名及び肖像が使用された所属選手に対し、上記使用料の一部を分配している。
3 本件の争点
(1) 本件契約条項の解釈(氏名及び肖像の使用権の譲渡又は使用許諾の有無)
(2) 本件契約条項の有効性
ア 本件契約条項は不合理な附合契約として無効といえるか
イ 本件契約条項は独占禁止法違反として無効といえるか
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件契約条項の解釈)について
〔被告らの主張〕
 原告ら各選手の氏名及び肖像の商業的利用権たるパブリシティ権は、次のとおり、本件契約条項に基づいて、被告らに譲渡されているか、又は独占的に使用許諾されている。これまで、かかる同条の趣旨に基づいて、長期間にわたって選手の氏名及び肖像の商業的利用の運用がされ、選手らも上記趣旨を十分に認識している。
(1) 条項の文言
 本件契約条項1項は、球団が指示する場合に、所属選手が写真等に撮影されることを承諾する旨を定めているが、ここでいう「球団が指示」には、球団の一般的な指示(練習風景の撮影等の場合)と個別的な指示(カレンダー、コマーシャル・フィルム等の製作のためにする撮影等の場合)とがあり得る。
 そして、同項は、球団の指示により撮影された所属選手の写真、映画、テレビジョンに「かんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し」ていることを所属選手において承認する旨を定めているが、ここで「属し」というのは、あたかも原始的に一方の契約当事者が支配権を持つような態様で、つまり、個別の譲渡等の意思表示を必要とすることなく、一方契約当事者が権利を取得するという趣旨で用いられるものである。そうすると、かかる「属し」という文言からしても、同項は、選手らの肖像権のうち財産権としての商業的利用権(パブリシティ権)を、少なくとも野球選手契約期間中について、球団に譲渡する趣旨のものと解すべきである。
 仮に同項の文言解釈から肖像権のうち財産的な権利(パブリシティ権)を契約の存続期間の範囲で球団に譲渡したといえないとしても、本件契約条項1項には、「選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に帰属し、また球団が宣伝目的のためいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承諾する。」と規定しているのであるから、同項は、選手が球団の指示に従い写真、映画、テレビジョン等に撮影されることを契約上義務付けるとともに、当該契約の存続期間、選手に帰属する氏名及び肖像の財産的価値に関する権利、すなわちパブリシティ権を球団が球団の宣伝目的という営利目的のために独占的に使用することを許諾したものであることは明らかである。
(2) 「宣伝目的」の意義
 本件契約条項1項は、球団が所属選手の肖像等を「宣伝目的のためにいかなる方法で」も利用できることを定めているが、ここで、「宣伝」とは、球団を公衆に周知させ、広く球団に関心を持ってもらうような行為を指すものということができる。
 さらに、球団はプロ野球組織に属することを当然の前提とし、プロ野球が普及し発展することをその存立基盤とするものであるから、プロ野球組織の一員としての球団、並びに球団に属する選手、更にプロ野球組織そのものを広く公衆に訴求し、認知させ、プロ野球の人気を高めることを目的とする行為はすべて同項にいう「球団」のための「宣伝目的」の行為であり、このために利用することが、同項にいう、球団の「宣伝目的のため」の「利用」である。
 なお、本件契約条項は、メジャーリーグの統一契約書3条(c)を部分的に翻訳したものといってよいが、このメジャーリーグの規定ではこの「宣伝目的」に当たる語として「publicity purposes」という語が用いられている。我が国においてパブリシティという語が普及したのは近々20年ほど以前からのことであり、それまでは、適当な訳語がなかったので、「宣伝目的」としただけのことである。現在通用しているパブリシティに当たる語として「宣伝」と表現したものであり、宣伝という日本語の辞書的な意味からみても、これをことさら狭く解釈しなければならない理由はない。
(3) 本件契約条項の解釈の合理性
ア 1項の文言に限定がないこと
 本件契約条項1項では、「宣伝目的」について述べる前に、「肖像権(中略)のすべてが球団に属し」と無制限に広く規定されているところからみて、「宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」という部分が、球団の権利の行使を「目的」の点から制限しようとしたものとみることはできない。
 同項は、選手の肖像を利用することにより、球団ひいてはプロ野球の人気を高め、もって、球団及び選手双方の利益を図るというところにその趣旨がある。したがって、球団やプロ野球の人気を高め、球団及び選手の双方の利益を図る目的であれば、商業化であろうがなかろうが、「宣伝目的」に当たると解するのが合理的である。
イ 2項の存在
 仮に、本件契約条項1項にいう「宣伝目的」を狭義に解すると、宣伝をしてもらう側(球団)が、第三者に対し金員を支払うのが通常であり、第三者から金員の支払を受けるという事態は本来ないはずである。ところが、同2項は、「なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な配分金を受けることができる。」と定めており、同1項に規定する肖像の利用について、金銭を受けることがあり得ることを前提にしている。
 そうすると、同1項は、選手の肖像が、「写真、映画、テレビジョン」に撮影された結果、それが広く商業的に利用されることを認めた条項であると解すべきである。すなわち、ここでいう宣伝目的の利用とは、パブリシティ権の活用をも当然に含む意義のものであって、このような利用により、球団及びプロ野球組織の存在を公衆に周知させ、広く球団プロ野球組織に関心を持ってもらったり、プロ野球の人気を高めることに資する限り、「宣伝目的」である。
ウ 3項の存在
 統一契約書では、球団が選手の肖像権に関して有する権利を確実なものとするために本件契約条項3項が規定されている。これは、選手が自由に、商品の広告に自らの肖像を利用し得るとすれば、同1項に定めた球団の選手の肖像権の球団への譲渡又は独占的使用許諾及び球団によるその「宣伝目的」のための利用権は空洞化し、無意味なものとなることは確実であるので、かかる行為については、球団からあらかじめ承諾を得ることとしているものである。これは、選手の利益を尊重するとともに球団の利益や信用が不当に害されることのないよう、調整を図る趣旨に出たものである。
 同3項は、このように、球団の承諾なく、選手が商品の広告に関与することを禁じているから、選手が、その肖像についても、その経済的価値に基づき(少なくとも商品に関連した)商業的な利用を行うことを禁じている。
 したがって、仮に、原告らが主張するように、球団が、同1項の規定に基づき、選手の肖像について商業的利用ができないとすると、球団も選手も、肖像について、商品に関連した商業的利用ができないことになってしまうから、そのような解釈が誤りであることは明らかである。
 本件契約条項3項は、このように、同1項と表裏一体となって、選手から、球団に肖像権が譲渡されていること(又は少なくとも肖像権につき独占的な使用許諾がされていること)を規定している。
エ 他に契約が存しないこと
 本件契約条項は、各球団と所属選手らとの間の、後者の肖像等の使用に関する唯一の継続的な契約であって、両者の間には他に肖像等の使用に関する契約が存しない。
オ 本件契約条項の採用当時の理解
 本件契約条項の規定が初めて採用されたのは昭和20年代ころのことであるが、このころには、所属選手の肖像等を使用して、その顧客吸引力を利用することも、球団が「宣伝目的」で行うことと理解されていた。「肖像」の「商品化」ないし「商業化」という用語が使用されるようになったのは、比較的近年のことであり、それまでは上記の理解がされていた。
カ 長期間にわたる慣行
 被告らは、本件契約条項1項に基づいて自らに所属選手等の氏名及び肖像を使用する権利があると解釈して、現在に至るまで、極めて長年にわたり(本件野球カード1で30年以上、本件野球カード2で15年。)、所属選手の氏名及び肖像を商業的に利用してきており、社会の広い範囲にわたって、様々なかかる商業的利用に関する権利関係が蓄積されている。被告らのかかる解釈は確立したものであって、選手らをも含め、球界関係者の誰もが、適法に商業的利用を行い得るものと理解している。
 加えて、プロ野球においては、各球団がそれぞればらばらな契約条件で所属選手と契約すると必然的に混乱が生じるから、プロ野球12球団が報酬額や特約事項を除く一般的条件について同一の約定で所属選手と契約することが、その運営上必要不可欠である。
 そして、選手らは、このような状況を理解して、毎年契約を更改している。原告らは、本件野球カードが、長年にわたって滞りなく発行されてきている事実を熟知しながら、格別異議を述べることなく、自らの氏名及び肖像の使用許諾に係る分配金や本件野球カードの現物を受領してきたものであって、今日に至ってにわかに被告らの使用許諾権限を争うことは信義則に反し、許されない。
キ 球団の莫大な投資及びリスク負担
 選手の肖像権の価値は、球団がプロ野球組織の一員として、莫大な投資をし、かつ多大なリスクを負担している結果として生じたものである。したがって、所属選手の氏名及び肖像の管理を各球団が行うことには合理性がある。
 すなわち、魅力のある試合を提供するためには優れた選手を獲得しなければならない。そのためには全国から高い潜在的な能力を有する選手を見出し、契約するために、常時、いわゆるスカウト活動を活発に行わなければならない。こうして獲得した選手といえども、直ちに1軍でプレイできるような選手は稀であり、多くは2軍(ファームチーム)において養成しなければならない。また、1軍で故障者等があった場合に備えるためにも、1軍に引き上げられた際、すぐにそれなりの活躍が期待できるような選手たちを2軍において常時トレーニングさせ、その技能を向上させるようにするため、2軍を維持していかなければならない。その結果として、一部の選ばれた選手が1軍において活躍することとなるが、彼らに充分な技能を発揮させるためには、単に試合に出場させればよいというわけではない。いわゆるスプリング・キャンプや秋期のキャンプ等も球団の費用で行わなければならないし、また、試合のための移動、宿泊等も球団の費用で手配しなければならない。より魅力ある選手を各球団が獲得しなければならないため、技能の優れた選手には彼らの納得する参稼報酬を支払わなければならない。このため、年々参稼報酬の額は上昇し、参稼報酬が1億円を超える選手は、平成17年には60名を超えており、これはプロ野球12球団の1球団当たり平均5名以上が1億円以上の参稼報酬を得ていることを意味している。このような状況であるから、選手権試合を行うには、フロントや業務処理スタッフの経費、2軍を維持するための経費、球場関係の費用、プロ野球組織としては審判員等の費用をはじめプロ野球組織を維持していくための費用の分担金、その他の莫大な投資を球団は継続的に行っているのである。
 実際問題としては、プロ野球12球団のほとんどが経営的には赤字であり、黒字になっている球団はむしろ例外的な少数球団にすぎない。選手の肖像権の価値はこのような球団の投資と負担の上で生じている。
 選手の知名度、これに伴い生じる肖像権の価値は、歌手や俳優のような、いわば個人技の要素が強い人々とは異なり、プロ野球という集団を成り立たせている各球団の多大な投資と負担により築かれたものである。また、プロ野球は、選手1人や1球団のみでは成立しない。多数の球団が選手を有し、野球試合を行い、チームとして競い合うことで初めて成立するという特殊性を有している。肖像権も、このような他球団、他の選手、NPB、野球機構といったものの上に(これらの共同作用として)初めて成立するものであり、その帰属についてもこのような点を踏まえて考える必要がある。
ク 使用の管理
 仮に、選手に自由にその氏名及び肖像の利用を許すとするならば、球団にとって好ましくないような態様でその氏名及び肖像が利用されるおそれがある。
 すなわち、選手の氏名及び肖像の価値の多くは球団名の明示されたユニフォームを着用していることから生じるものである。もし、選手の氏名及び肖像の利用を選手の自由に委ねるならば、選手自身は十分に注意していたとしても、なお、万一にでも、選手の名声を利用する目的のみで接近してくる者に一部の選手の氏名又は肖像が不当に利用されるようなことにでもなれば、その選手の名誉及び声望のみならず、球団、球団の親会社及び所属選手全体の名誉、声望が傷つけられるおそれがある。あるいは、球団の親会社と競争関係にある会社のために選手の氏名及び肖像を利用されるおそれもあり(実際に、選手会により、ある菓子に関し、選手の氏名及び肖像の使用許諾がされたことがあり、被告らが抗議したことがある。)、そのような競業避止義務に違反するような場合においてさえ、球団が何らの制限もできないこととなる。仮にユニフォームを着用していない場合でも、一流の選手とその所属球団は深く結びついてファンに認識されているから、球団の名誉、声望が傷つけられたり、親会社に迷惑をかけたりするような事態が発生し得ることには変わりはない。それゆえ、球団がこれらの氏名及び肖像の使用を管理しなければならない。
ケ 分配金の支払
 本件契約条項2項に従い、肖像等の利用により球団が利益を得たときには、選手に配分されることになっており、原告らを始めとする選手らは、長年にわたり、本件野球カード及び野球ゲームソフト等について同項にいう適当な分配金を異議なく受領してきている。
 選手の氏名及び肖像の価値はプロ野球という集団を成り立たせている各球団の多大な投資と負担により築かれたものであるが、なおかつ、各個々の選手の技量、そのための各選手の努力等の成果であることも事実であり、こうした事実に見合うものとして配分が行われているわけであるから、このことからみても、本件契約条項は充分な合理性を有する。
 なお、選手会の野球機構に対する書面(甲6)は、選手会の意思を表示するものであって原告ら選手の意思を表示をするものではないが、本件契約条項に基づく選手らの氏名及び肖像の使用許諾並びにその結果たる選手らに対する分配金の支払は、本件契約条項の解釈及びそれに基づく契約実務として確立しており、原告らの分配金受領は、被告らの実務を容認しているものとみざるを得ない。
コ 氏名及び肖像の使用の促進(ライセンシーの便宜)
 仮に、各選手に氏名及び肖像の使用を自由に委ねるとすると、ライセンシーである各業者は、選手一人一人に個別に許諾を得なければならないことになり、不都合である。
 選手の氏名及び肖像が商業的に使用されるほとんどの場合、球団マーク、球団ユニフォームなどとともに使用され、球団の商標権等の財産的な権利の処理が必要になるが、球団が、選手の氏名及び肖像につき使用許諾権を有することにより、各業者がライセンシーとなるためには、球団の許諾のみを得ればよいことになり、著しく選手の氏名及び肖像の商業化が促進される。
 したがって、所属選手の氏名及び肖像の管理を各球団が行うことには合理性がある。
(4) 原告らの主張について
ア 「宣伝目的」の解釈一般について
 球団の指示に基づくテレビ及び雑誌の取材等のみを想定して、本件契約条項2項が規定されたと理解しなければならない理由はない。球団の指示に基づく選手のテレビ局、雑誌社らの取材への協力も、純粋に報道目的のものから、利用媒体の利用態様により商業的な目的のものまで、様々なものがある。純粋に報道目的の無償の取材であっても、やはりプロ野球ないし球団の宣伝に大いに役立つのが通常であり、逆に商業的利用のための取材協力であっても、プロ野球ないし球団の宣伝に大いに効果があるのがごく普通である。どのような場合にどれほどの対価が支払われるか、あるいは無償であるか等はすべて球団側の期待する宣伝普及効果とこれを利用する媒体の側の選手の肖像の利用価値の評価とを考慮して、球団と利用者(テレビ局、雑誌社等)とが協議し、合意することによって定まるものであり、これらのすべてを同項は想定して規定している。
 なお、選手が取材に応じた場合には、選手がインタビューに応じて話をすることに最大のポイントがあり、肖像が使用されなくても対価が支払われることがあり得るから、取材の応諾に対する謝礼が必ずしも肖像の利用の対価であるとはいい難い。
イ 広告宣伝型利用と商品化型利用を区別して、本件契約条項1項における使用許諾が前者に限られるとする点について
(ア) 本件契約条項1項にいう「宣伝目的」は、対象商品の「宣伝」を意味するのではなく、球団やプロ野球の認知度及び人気を高める活動を意味するから、被告らの解釈は、同項の文言解釈として合理的なものである。
(イ) 広告宣伝型利用であっても、商品化型利用であっても、氏名及び肖像が使用された商品の販売に際し、氏名及び肖像の顧客吸引力が利用される点には変わりがないし、本件契約条項1項は、これら2つの利用形態をその文言上区別していない。
 すなわち、仮に、本件契約条項において、「宣伝目的」のほかに、「商業化目的」といった用語を用いていれば、その「宣伝目的」は、主として球団やプロ野球の人気を高めることを目的とする場合に限定されると解すべき余地があるが、現実の本件契約条項では、「宣伝目的」以外の用語は用いられていないから、このように解することはできない。
 そして、選手の氏名及び肖像を、商品の販売力を向上させるために使用する場合であっても、商品そのものの価値を創出するために使用する場合であっても、球団やプロ野球の認知度及び人気を高めることとは両立する。
 そうすると、各球団に広告宣伝型利用のための使用許諾権が付与されているが、商品化型利用のための使用許諾権は付与されていないと解することはできない。
 商業的な利用目的の下での使用許諾権がないとすると、同項では宣伝目的のために所属選手の肖像等をいかなる方法でも利用できると定めているのに、商業的な利用目的と宣伝の目的が併存している場合に所属選手の肖像等を利用できなくなって不合理である。
(ウ) 商品の広告は、商品がよく売れるように商品を広く知らしめようとする行為であり、商品の広告は、商品の販売促進と、実質はかなりの程度重なるものである。本件契約条項3項において、商品の広告への関与が禁止されている趣旨には、顧客吸引力を利用した商品の販売促進への関与を禁止することを含むものと解され、商品の販売を促進する、氏名及び肖像の商品に関する商業的利用も当然に禁止される。
 氏名及び肖像をプリントしたTシャツも、Tシャツという商品の広告(ないしは販売促進)に氏名及び肖像を利用しているだけのことで、これらの間に本質的な違いがあるわけではない。また、YとGとを組み合わせた被告巨人軍のロゴマークを付した野球帽の販売が、野球帽という商品の広告目的の使用であるともいえると同時に、このロゴマークの商業的利用であるともいい得るのと同様であって、いわば、時代の変化に伴って広告宣伝活動が多様化し、広告というよりも商業的利用という方がより分かりやすいような態様の広告宣伝活動が展開されるようになってきたというだけのことである。
 いずれにせよ、原告らのいう氏名及び肖像の商業的利用の核心は、氏名及び肖像を利用した商品の販売促進にあると解されるところ、本件契約条項3項により、選手は、肖像の利用の有無を問わず、商品の広告への「関与」すら禁じられているから、契約上、選手は、氏名及び肖像の商業的利用の大半を禁じられていると解さざるを得ない。
(エ) 各球団と所属選手との間の契約は、毎年昔の用語法に従って同一の内容で更改されてきており、本件契約条項1項にいう同用語法に従った「宣伝目的」には、所属選手の氏名及び肖像の商品化型利用も含まれる。
 現在において新たに契約書を起案するのであれば、現代一般化している「商業化」あるいは「商品化」といった用語を用いるのが自然であろうが、上記のように、統一契約書は昔の用語法に従って継続的に締結され、かつ選手の氏名及び肖像の商業的利用が大々的になされているから、「宣伝目的」の意義が上記のように解釈されるのは当然である。
 のみならず、我が国のプロ野球においては、統一契約書が作成される以前から、選手のブロマイド等が販売されており、「商業化」ないし「商品化」的肖像使用が行われていた。
 なお、選手会が野球機構に対して通知書を送付して選手の氏名及び肖像の球団による使用許諾につき異議を述べた後も、本件契約条項の内容は変更されることなく、球団は所属選手らとの間で野球選手契約を更新され続けている。
(オ) 被告らは、本件契約条項1項を各球団の選手の氏名及び肖像への支配権の根拠としており、同3項をその根拠としているわけではないから、同3項で選手らによる商品の広告が禁じられていることをもって各球団にかかる支配権があると主張しているものではない。同3項に照らし、同1項を解釈しているにすぎない。
ウ メジャーリーグ等における取扱いとの比較について
(ア) 米国メジャーリーグとわが国のプロ野球組織とでは、歴史も違い、組織も違い、経営形態も違うので、米国の事情はそのまま本件契約条項の解釈の指針となり得るものではない。
(イ) 原告らの主張に従うと、メジャーリーグの統一契約書3条(c)(以下「大リーグ契約条項」という。)の「publicity purposes」の語の意義が不明確になる。大リーグ契約条項は、原告らの主張に従うと全く無意味な実効性のない規定になってしまい、我が国の本件契約条項も無意味な実効性のない条項として解釈すべきであるというに等しい。そうであるとすれば、大リーグ契約条項は、到底、参考とされ得るようなものではない。
 なお、「publicity」は、publicであること、周知の状態、名声ないしは評判等を意味するものであり、通常我が国で理解されている「宣伝」よりは広く、「publicity」の「目的」には、周知化を図り、知名度を高めるあらゆる行為をする目的が含まれる。
 また、統一契約書作成当時、パブリシティという用語になじみがなかったので、大リーグ契約条項の「publicity purposes」に相当する用語として、「宣伝目的」という語を用いたにすぎない。
(ウ) 大リーグ契約条項においては、我が国の本件契約条項2項の利益分配規定に相当する規定がない。
 大リーグ契約条項は、広く選手の氏名及び肖像の商業化を念頭に置いた条文ではないと見る余地があるのかもしれないが、統一契約書においては、利益分配の規定があるから、そのような解釈を採る余地はない。
(エ) メジャーリーグと我が国のプロ野球とでは、少なくとも、@ 球団に属する権利が、「このような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべて」(日本)か、単に「当該写真におけるすべての権利」(“all rights in such pictures”)で肖像権やパブリシティ権についての明示の言及がないと記載されているか(米国)、A 選手が、球団の同意なく商品の広告に関与等をすることを禁じられるのが、シーズン中に限られるか(米国)、限られないか(日本)、B 商品の広告に関与等をすることについて球団が同意を与えるか否かについて、制限があるか(米国)、無制限か(日本)、C 球団が「宣伝目的」のために選手の肖像を利用した場合に、対価を支払う義務が契約上あるか(日本)、ないか(米国)、D (契約を解釈する背景事情として)選手のパブリシティ権を行使してきたのは球団か(日本)、各選手ないしはそこから委任を受けた選手会か(米国)が異なる。
 そうすると、大リーグ契約条項と本件契約条項とでは、契約の文言及びその背景事情等が異なっており、前者における解釈を後者の解釈に持ち込むことはできない。
エ Jリーグにおける取扱いとの比較について
(ア) Jリーグの統一契約書の規定は、プロ野球の統一契約書よりもはるか後の比較的最近になって定められたものであるから、プロ野球における球団に対応するJリーグのクラブの選手の肖像等の支配権が極めて明確にされており、これが統一契約書の規定の解釈を左右するものではなく、本件契約条項の解釈に関して原告らが主張しているような疑義を生じるおそれはない。しかし、規定の趣旨においてはJリーグの規定も本件契約条項の規定も本質的に異なるものではない。むしろ、プロ野球選手の場合、対価の分配を受けることが権利として認められているという意味で優遇されている。
 Jリーグの場合、クラブの義務として広報宣伝活動等の場合の対価の分配を規定しているものではなく、Jリーグの広告宣伝等のために選手の権利が制限され、一定の場合に選手に対価の分配が予定されているからといって、本件契約条項1項にいう「宣伝目的」が純粋な広告宣伝の目的を意味するとはいえない。
(イ) Jリーグにおいて選手の肖像等を使用する場合、必ず選手の顧客吸引力を利用しており、それが、主として、クラブやJリーグ(プロ野球でいえば、球団やプロ野球)の人気を高めることを目的としている場合と、主として、選手の肖像等が使用された物の販売促進を目的としている場合とに分かれるということだけである。すなわち、後者の場合であっても、クラブやJリーグ(プロ野球でいえば、球団やプロ野球)の人気を高める目的を完全に否定することはできない。
 クラブの宣伝目的で、かつ、クラブが金銭を取得する場合として原告らが挙げているのは、わずかな(しかも最近における、適切とはいえない)例のみである。
(ウ) Jリーグのクラブチームである横浜マリノス株式会社(以下「横浜マリノス」という。)の統一契約書の契約書別冊7条1項では、選手が「クラブの定める広報宣伝ならびに販促活動」に無償で協力することが定められ、この「販促活動」は、他社の商品等の販促活動も含むから、Jリーグの例でも、クラブの広報宣伝と他社の販促活動が同じ規律(無償協力義務)に従うことになっている。そうすると、同項は、本件契約条項1項が、球団やプロ野球の宣伝と他社の商品等の販売促進活動の両方について規定していると解釈するのが自然であることを裏付けるものである。
オ 韓国における取扱いとの比較について
 韓国のプロ野球は、我が国のプロ野球の場合とは異なって、昭和57年に始まったにすぎず、韓国のプロ野球において選手らの氏名及び肖像がどのように取り扱われているのか明らかでない。
 原告らの指摘する韓国の事件においては、球団や韓国野球委員会(KBO)が被告となっているわけでもなく、同事件の被告であるゲームソフト会社が原告たる選手らに肖像権等がない旨を主張したのに対して、具体的な理由を一切示すことなく、原告たる選手らが球団に対して自己の肖像権等が球団に属することを承諾したことを認めるに足りる証拠がない旨が判示されたにすぎず、本件と異なって、球団による選手の氏名及び肖像の使用許諾の目的に商業的使用目的が含まれ得るか否かが争われたわけではない。
 また、同事件の判決においては、球団から被告に対する選手らの氏名及び肖像の使用の権限の付与が摘示されておらず、同事件の被告らは球団から選手らの氏名及び肖像の使用を許諾されていなかったものと考えられる。そうすると、韓国のプロ野球における統一契約書の条項の解釈をするまでもなく、被告らによる選手らの肖像等の無断使用がされたものと判断したと考えられる。
 そうすると、韓国の上記事件における判決は、本件の参考になるものではない。
〔原告らの主張〕
 本件契約条項1項にいう「宣伝目的」には、野球ゲームソフト及び本件野球カードのような商品に氏名及び肖像を使用する「商品化型利用」は含まれない。
(1) 条項の文言
 本件契約条項1項は、被告らが所属選手に対し指示をして、写真撮影、映画撮影及びテレビ撮影に応じさせた場合に、当該写真等の肖像権及び著作権等が被告らに帰属し、被告らが当該写真等を宣伝目的のために利用できる旨を定めているのみであって、所属選手らが肖像権を被告らに対して譲渡するとか、本件野球カードのような商品に利用すること(商品化使用)について許諾するとは記載されていない。
(2) 「宣伝目的」の意義
ア 本件契約条項1項が各球団の権利行使を利用目的の点から制限しないというのであれば、同項第2文は、「なお、選手は(中略)、また球団がいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承諾する。」とすれば足りたはずであるのに、わざわざ、「なお、選手は(中略)、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承諾する。」と定められており、「宣伝目的のために」という限定が付加されている。
 そうすると、上記「宣伝目的」を利用目的の点から権利行使を制限するものではないと解釈することはできない。
イ 「宣伝目的」に、「プロ野球組織そのものをひろく公衆に訴求し、認知させ、プロ野球の人気を高めることを目的とする行為」がすべて含まれ、野球ゲームソフトへの肖像の商業的利用もこれに含まれるとの解釈も、「宣伝目的」という言葉を結局のところ形骸化させるに等しく、解釈論として、およそ成り立ちえない主張である。この点、Jリーグ規約(甲9)及びJリーグクラブと選手との間で締結されている統一契約書(甲10)においても、広告宣伝と商品化は明確に区別して規定されており、「ゲームソフトも宣伝媒体の一つ」などといった論理は、「宣伝」という言葉の意味をいかに最大限に拡張しても導き得ない、およそ無理極まりないものである。
ウ そもそも、本件契約条項のような肖像権(パブリシティ権)における商業的利用については、広告へ利用する場合(広告宣伝型利用)と商品へ利用する場合(商品化型利用)の2つの場合があり、パブリシティ権に関する契約において「宣伝目的」とのみ定められている場合には、前者のみを指し、後者は含まれないものというべきである。
 このようにパブリシティの「広告宣伝型利用」と「商品化型利用」とを峻別することは、パブリシティの商品化の契約実務において一般的に行われており、日本商品化権協会の「商品化権に関する標準契約書」(甲30)においても、かかる区別を用いた契約条項が設けられている。
 ところで、「広告宣伝型利用」と「商品化型利用」とが区別されるのは、その利用の性質が異なることに基づく当然の事柄である。
 すなわち、「広告宣伝型利用」とは、商品そのものの価値を創り出すことを目的とするものではなく、商品の販売力向上を目的として肖像の持つ価値(顧客吸引力)が利用される場面であるのに対し、「商品化型利用」とは、商品そのものの価値を創り出すことを目的として肖像の持つ価値(顧客吸引力)が利用される場面である。
 例えば、ある電機メーカーが製造及び販売するプラズマテレビのCMに有名なスポーツ選手の肖像が使用されている場合、この肖像使用は、同選手の肖像が持つ顧客吸引力をどれだけ利用しても、プラズマテレビそのものの価値(映像の美しさや音響の臨場感等)を高めることにはならない。この場合、広告されているプラズマテレビそのものの価値を作り出すことを目的として、同選手の肖像が持つ顧客吸引力が利用されているわけではなく、プラズマテレビの販売力向上を目的として、選手の肖像が持つ顧客吸引力が利用されている場面である。これは、この電機メーカーが販売促進(広告)目的で同選手の肖像を利用する場合、すなわち広告宣伝型利用の場合である。
 他方、同選手の肖像管理者が、同選手の肖像をプリントした通常の素材のTシャツを販売する場合、同選手の肖像がプリントされたTシャツの価値のほとんどは、同選手の肖像が持つ顧客吸引力にある。無地のTシャツには特段の価値があるわけではなく、プリントされた同選手の肖像にほとんどすべての価値があるといっても過言ではない。その意味で無地のTシャツは、同選手の肖像が持つ顧客吸引力を物質化する媒体にすぎず、商品そのものの価値のために同選手の肖像が持つ顧客吸引力が利用されている。この場合、商品そのものの価値を創り出すことを目的として、選手の肖像が持つ顧客吸引力が利用されているケース、すなわち選手の肖像を商品化する場合(商品化型利用)である(何もプリントされていない無地のTシャツの販売力向上を目的として、選手の肖像が持つ顧客吸引力が利用されているとはいえない)。
 このように商品化を目的とした利用(商品化型利用)と販売促進(広告)を目的とした利用(広告宣伝型利用)における顧客吸引力の利用場面の違いがあるからこそ、被許諾者は、許諾者に対して、それぞれの場面において、権利の利用許諾を得る必要があり、前記のように、一般的な契約実務においても、販売促進(広告)目的の場合と商品化目的の場合とを分けて規定している。
エ 本件契約条項1項において想定される「宣伝目的」のための球団の「指示」による「写真、映画、テレビジョン」の撮影とは、試合の最中及びその前後にされるテレビ放映のための撮影や、新聞及び雑誌等による取材のための撮影、球団の販売目的でないポスター及びカレンダー等の製作のための撮影、球団のコマーシャル・フィルム等の製作のための撮影を意味する。
 これらの通常の態様での宣伝目的での撮影であっても、撮影された選手に対する対価が伴うことが少なくないが、選手がその肖像を利用させているのに何ら対価を分配しないのも不合理であることから、同2項では、撮影された選手に対する分配金について規定している。
(3) 「宣伝目的」に関する上記解釈の合理性
ア メジャーリーグにおける取扱いとの比較
(ア) 米国のプロ野球であるメジャーリーグも、プロスポーツの1つであるが、メジャーリーグの球団においても、選手との間で統一契約書を締結している。
 我が国のプロ野球における統一契約書は、メジャーリーグの統一契約書をモデルにして定められたものである。メジャーリーグの統一契約書3条(c)(大リーグ契約条項)第1文の内容は、我が国のプロ野球の本件契約条項1項の内容と全く同一である。
 そして、メジャーリーグでは、選手の肖像権がメジャーリーグ選手会(MLBPA)において管理されており、球団はこれを管理していない。過去には、選手個人が野球カードを商品化する者に対し、肖像等の使用を許諾していたことがあったが、現在では、上記のようにMLBPAが一括して管理し、ライセンス先に対して選手の氏名及び肖像の使用許諾を行い、他方球団の商標については、球団側の管理会社が使用許諾を行っているから、選手の氏名及び肖像並びに球団のロゴマーク等の双方を使用しようとする者は、MLBPA及び球団の双方から使用許諾を受けなければならない。
 現在に至るまで、メジャーリーグの球団が大リーグ契約条項を根拠に選手の肖像権を管理したことはないから、大リーグ契約条項第1文の直訳である本件契約条項1項も、選手の肖像権が球団に譲渡されたことの根拠とならないのは当然である。
(イ) 大リーグ契約条項第2文と本件契約条項3項とは、公衆の面前に出演する等の行為を行うのに球団の承諾が必要なのは、シーズン期間中に限られ、球団の承諾が必要な場合であっても、承諾を拒絶し得る場合に制限があることが異なる外は、全く同一である。なお、大リーグ契約条項では、本件契約条項2項のような選手に対する利益分配の規定が設けられていない。
 そして、これらの相異点があるとしても、本件契約条項は大リーグ契約条項と同様に解釈されるべきであり、現在に至るまで、メジャーリーグの球団が大リーグ契約条項を根拠に選手の肖像権を管理したことはないから、本件契約条項に基づいて球団に対し選手らの肖像権が譲渡されたことはないと解すべきである。
 なお、米国の裁判所も、大リーグ契約条項にいう「宣伝目的」には商業的使用目的が含まれず、選手らは球団に対し、統一契約書によりその肖像の商業的使用に関する権利を譲渡していない旨を判示した。
(ウ) 被告らの主張に対する反論
a メジャーリーグと我が国のプロ野球とがその歴史、組織及び経営形態において異なるとしても、これらの違いがどのように本件契約条項の解釈に影響を及ぼすのか明らかでなく、同じく野球というプロスポーツを対象としており、我が国の統一契約書の作成にあたってベースとした米国の統一契約書の規定(しかも内容も上記のようにほぼ直訳といってよいもの)が、解釈にあたって参考にならないはずはない。
 したがって、これらの違いがあるとしても、大リーグ契約条項の解釈と同様に、本件契約条項を解釈しても差し支えない。
b 大リーグ契約条項における「publicity purposes」は、本件契約条項1項の「宣伝目的」に対応するもので、球団の権利行使を目的の点から制限する非常に意味のある規定である。
 大リーグ契約条項と我が国の本件契約条項とでは、相当に類似しているのに、なぜ前者における「publicity purposes」を後者における「宣伝目的」よりも広く解釈できるのか疑問である。
 仮に、前者における「publicity purposes」を後者における「宣伝目的」より広く解釈し得るとしても、だからといって選手の肖像の商業的利用一般が含まれるという解釈はおよそ不可能である。
c 大リーグ契約条項に我が国の本件契約条項2項に相当する定め(対価支払請求権の規定)がないことは、球団の使用権限に商品化のための使用の権限が含まれていないとの趣旨を明確に示すものではあるが、だからといって、対価支払請求権が規定されている我が国の本件契約条項には商品化も含まれているという逆の解釈が直ちに成り立つわけではない。すなわち、広告宣伝目的の使用の場合にも、対価を伴う場合があり得るから、対価支払請求権が規定されているからといって、商品化型使用が予定されているとはいい難い。
 また、球団が所属選手に氏名及び肖像の広告宣伝活動を禁止することと球団自身が氏名及び肖像の商業的目的使用ができることとは次元が異なるから、前者の禁止から後者の使用権を導くことはできない。
d 大リーグ契約条項にいう「当該写真におけるすべての権利」には、被写体となった選手の肖像権が含まれることは当然である。したがって、大リーグ契約条項に「当該写真におけるすべての権利」とあり、我が国の本件契約条項1項における「このような写真出演等に関する肖像権、著作権のすべて」とは異なる表現がされているとしても、選手の氏名及び肖像の使用に関する結論は左右されないというべきである。
e 選手の広告への関与につき球団の承諾が必要な期間がメジャーリーグにおいては大リーグ契約条項によりシーズン期間中に限られ、我が国のプロ野球においては何ら限定が付されていないとしても、球団による所属選手の氏名及び肖像の使用権限には何ら影響がない。
f 我が国のプロ野球における球団による所属選手の氏名及び肖像の使用に係る慣行は、球団側がした一方的な決定によって築いてきたものであるから、これを根拠にして本件契約条項を解釈するのは相当でない。
イ Jリーグにおける取扱いとの比較
(ア) プロサッカーの社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)も、プロ野球と同様にプロスポーツであるが、Jリーグにおいては、Jリーグ規約136条に基づいて選手の肖像等の使用を管理している。
 すなわち、Jリーグ規約は、136条(肖像等)で、選手の肖像等を無償で使用することができる旨を定めている。
 そして、Jリーグ規約の97条(選手の肖像等の使用)2項では、所属選手はJリーグのクラブチームから指名を受けた場合にクラブやJリーグの広告宣伝に無償で協力しなければならないことが定められている。
 プロ野球においては、このうち後者のみしか定められておらず、前者については定められていないから、本件契約条項は、商品化に所属選手の肖像等を利用することまで規定していないと解すべきである。
(イ) Jリーグのクラブチームにおいても、全クラブチームで共通の統一契約書が用いられているところ、その8条(選手の肖像等の使用)では、広告宣伝等への協力と、商品化とが明瞭に峻別されて取り扱われているが、Jリーグにおける定め方に照らせば、プロ野球の本件契約条項においても「宣伝目的」の中には商品化目的が含まれないと解すべきである。
(ウ) 横浜マリノスは、選手の肖像等の利用について、所属選手との間で、統一契約書とは別に、「契約書別冊」と題する書類(甲11)を交わし、クラブ側が行う、多種多様な選手肖像等の利用のそれぞれにつき、クラブから選手に対して金銭の分配があるか否か(有償か無償か)、分配する場合にはいくら分配するかについて詳細に定めている。
 これらの定めの中には、選手の肖像等の使用について、主としてクラブの宣伝目的のために行われる肖像等の使用と、主として商業的目的のために行われる肖像等の使用の2つが存在することが示されており、@主としてクラブの宣伝目的のものは、原則無償だが有償の場合もあり得ること、A主として商業的目的のものは原則有償だが、クラブの宣伝目的をも具有する関係で無償とされる場合もあることが定められている。
 このように、Jリーグのクラブの「宣伝目的」での肖像等の使用は、原則的には無償とされるのが通常であるものの、有償の場合も予定されている。クラブの「宣伝目的」を主とするものであっても、選手の肖像が付された商品が販売されることによってクラブに収入が発生することがあり、選手の肖像の使用態様の大小如何によって、選手に対し肖像使用の対価を分配すべき場合がある。そして、基本的には、クラブの「宣伝目的」の性質を比較的強く有する取材関連につき、無償の場合を多く定めているが、有償の場合も定めており、「宣伝目的」であれば無償であるという図式で定められていない。
(エ) 被告らの主張に対する反論
 Jリーグとプロ野球とがその歴史、組織及び経営形態において異なるとしても、これらの違いがどのように本件契約条項の解釈に影響を及ぼすのか明らかでなく、これらの違いがあるとしても、本件契約条項の解釈に際して同じくプロスポーツを対象とするJリーグの統一契約書の規定を参考にしても差し支えない。
 Jリーグの統一契約書の規定が、肖像の使用の目的が商品化目的であるか否かを問わず、Jリーグによる無償の使用権につき定めているにすぎないとしても、Jリーグでは先行するプロスポーツであるプロ野球の統一契約書等を十分吟味した上で「広告宣伝等」と「商品化」とを分けて規定したものであるから、本件契約条項の解釈においてもJリーグの統一契約書の規定が参考になる。
ウ 韓国における取扱いとの比較
 韓国のプロ野球選手と球団との間で締結されている統一契約書16条は本件契約条項と同一内容であって、本件契約条項をモデルにして作成されたものであることが明らかである。しかるに、韓国の裁判所は、「韓国の統一契約書16条の文言からは韓国選手らの肖像権が球団に属することを選手らにおいて承諾したと認めることはできない」旨を判示した。
エ 球団や野球機構が選手に対する分配金の根拠を本件契約条項に基づくものと理解していなかったこと
 そもそも過去のプロ野球12球団による選手の氏名及び肖像の商業的使用の開始それ自体、選手との事前交渉もなく球団が一方的に決定してきたものであるが、野球機構や各球団は、ゲームソフトメーカーとの間の使用許諾契約に基づいて野球ゲームソフトにつき使用料を取得し始めて以降、しばらくの間、選手に対して何らの支払も行っていなかった。統一契約書の規定に基づいた分配であればゲームソフトメーカーから使用料を取得した当初から選手側に分配が行われていなければならなかったはずであるが、それを行っていない。これはそもそも野球機構が、選手への分配を統一契約書に基づくものとして認識していなかったことを示すものである。
 そして、平成7年ないし同8年当時も、選手の氏名及び肖像の商業的使用(ゲームソフトへの使用を含む。)は、選手側に何の事前通知又は交渉もなく行われており、各球団や野球機構が選手の氏名及び肖像の使用を事実上管理している状態ではあったが、そもそも球団によって所属選手への分配金額が違ったり、所属選手に分配さえ行わない球団も多数あるなど球団自身の取扱いさえ一定していなかった。そこで、選手側は、かかる管理状態を覆して選手会が自ら管理するという以前に、まずは12球団すべてから最低限の金銭の分配を得ることを最優先課題としていた。これは、事実上球団側が選手の氏名及び肖像の使用を管理して氏名及び肖像の使用の対価を含む金銭を受領している現実の中での善後策として行ったことにすぎず、当時、それ以上に本件契約条項の解釈について、球団と議論したり、選手会として確定した見解を述べたことはなく、選手らが本件契約条項に基づく分配金を受領したことを示すものではない。
 原告らが所属する選手会は、平成12年11月20日、野球機構に対し、通知書を送付し、同年4月以降に発売されるプロ野球ゲームソフトに関し、野球機構が球団を通じて選手らに分配する肖像権使用料を、損害賠償金の一部として受領する旨を通知した。選手会は、その後も、球団が選手らに対して分配する肖像権使用料を損害賠償金の一部として受領する旨を繰り返し主張している。このように、原告ら選手は、球団から分配される金員につき、これを氏名及び肖像の使用に係る損害賠償金の一部として受領しており、球団の氏名及び肖像の使用許諾権を認めてはいない。
 また、選手会との選手の肖像の使用料の分配率の交渉をした際、選手らにおいて肖像権が自己に帰属している旨の主張をしていなかったとしても、それは長年にわたって球団側が選手側との事前交渉なしに一方的に氏名及び肖像の許諾を決定し、選手側は交渉の自由を奪われてきた結果にすぎない。
 なお、選手らは、球団から氏名及び肖像の使用許諾を受けた企業と球団との間の契約内容につき全く知らされていない。選手らが球団から知らされているのは、使用する商品が野球ゲームソフトか野球カードかといった大まかな分類にすぎず、特に野球ゲームソフトについては、どのようなゲームソフトに使用されるのか全く知らされていない。
(4) 被告らの主張について
ア 前記〔被告らの主張〕(3)イについて
(ア) Jリーグのクラブと選手との間で締結されている統一契約書の8条2項(甲10)では、広告宣伝活動であっても有償の場合には、選手への対価の分配が行われる場合があり得ることが予定されている。
 このように、本件契約条項2項で金銭の分配が定められていることは、同1項が「宣伝目的」での選手の肖像等の利用についての規定であるとの解釈の妨げとはならない。
(イ) 選手に対して本件契約条項2項に基づいて利益を分配しているとしても、この一事をもって選手の承諾なく利用してもいいという論理は成り立たない。利益の分配を受けても、選手の意思として使用を許諾したくない商業的利用もあり得る。
イ 前記〔被告らの主張〕(3)ウについて
 選手の肖像を使用した商品の広告は、選手の肖像の商業的使用一般よりも狭い概念であって、かかる商業的使用の一形態にすぎないものである。
 そうすると、選手が本件契約条項3項により球団の承諾なく商品の広告に関与することを禁じられているとしても、肖像を使用した商品の広告より広い概念である肖像の商業的使用一般が禁じられるということにはならない。
 球団の宣伝に供するために選手がその肖像の使用を許しているからといって、球団の宣伝以外の商業的使用についても禁止されるのは極めて不合理である。
 また、ある行為が禁止の対象となっているということと、その行為を禁止者自らが行い得るかどうかは別次元の問題であって、球団が選手に球団の承諾なくして他者の商品の広告へ関与することを禁止しているとしても、球団自身が自己の宣伝以外の商業的使用を行い得ることを意味するものではない。
ウ 前記〔被告らの主張〕(3)オについて
 本件契約条項1項にいう「宣伝目的」を現代の用語法によって解釈すれば、これは文字どおり「宣伝目的」と解されるのであって、「商品化」が含まれると解することはできない。被告らのように、「宣伝目的」が「球団、所属選手及びプロ野球組織の公衆に対する訴求及び認知並びにプロ野球の人気向上の目的」を意味すると広く解するのは不合理である。
 少なくとも、Jリーグの規定が設けられた1990年代前半以降においては、パブリシティの利用を「広告宣伝型利用」と「商品化型利用」とに峻別して理解するのが一般になっているから、1990年代前半以降に入団した選手(原告らがすべて含まれる。)の氏名及び肖像の利用については、「宣伝目的」を上記のように文字どおり解釈すべきである。
エ 前記〔被告らの主張〕(3)キについて
 肖像権の価値が、球団による莫大な投資の結果であるという認識自体が妥当でない。
 例えば、原告松坂大輔投手は、高校時代から甲子園大会などにおける活躍で、プロ入り前の時点ですでに著名であり、かつ、1年目から1軍で即戦力として活躍しているが、このようなケースにおいて同原告の肖像権の価値が、球団の莫大な投資と多大なリスクの結果のものといえるかは極めて疑問である。
 そのような場合のみならず、選手の中には、選手としての成績如何に関わらず、選手個人のキャラクターとして著名になる選手も存在するが、これはその選手個人のもって生まれた資質に依存するところが大きく、球団による莫大な投資の結果であるという因果関係は存在しないといってよい。
 また、歌手や俳優のような個人技の要素が強い人々とは異なるという点も、具体的に何がどのように異なりそれが解釈にどのような影響を及ぼすのか説明がなければ趣旨が不明である。
 また、ほとんどの球団が経営的に赤字であり、選手の肖像権の価値はこのような球団の犠牲の上で生じているというのも、実態に反する主張である。実際は、税制上プロ野球球団の赤字は親会社の宣伝費として補填することが認められており、例えばかつての大阪近鉄バファローズは年間15億円の赤字を親会社である電鉄本社が宣伝費として補填している結果、黒字決算となっている。逆にそうでなければ、年間10億円以上の赤字を出しながら、何十年も球団経営を存続していけるはずがない。
 そのようなプロ野球ビジネスの実態に言及することなく、ことさらに単体としての球団の赤字のみを取り出して強調するのは、事実を歪曲した主張である。
オ 前記〔被告らの主張〕(3)クについて
 選手に自由に氏名及び肖像の利用を許した場合に球団にとって好ましくない態様でその肖像が利用されるおそれがあるとの主張は、選手の人権に配慮しない極めて不当な主張である。
 定型的に球団に著しい損害を及ぼすおそれのある行為を類型化し、それに関してのみ球団の許可が必要であると定めるのであればともかく、肖像の利用行為すべてを管理する根拠として「球団にとって好ましくない態様でその肖像が利用されるおそれがある」という点をあげることは、憲法によって保障される基本的人権をふみにじる前近代的な主張といわざるを得ない。
2 争点(2)ア(不合理な附合契約)について
〔原告らの主張〕
 選手の氏名及び肖像に係る本件契約条項による球団と選手との間の契約は、次のとおり、法律上原告ら選手個人に帰属するものとされている肖像権を一方的に奪うものであって、著しく不公正であるから、不合理な内容の附合契約であって、民法90条に違反し、無効である。
(1) 一般に、附合契約や約款における個別の条項の効力が否定される根拠は、契約の前提状況として、@情報(知識)、経験及び交渉力の格差並びにA交渉による変更可能性の欠如が存在するからであるとされる。
 原告らを含む選手は、NPBを構成する球団と野球選手契約を締結する場合は、統一契約書によらなければならず(野球協約45条)、その統一契約書の条項は、契約当事者の合意によっても変更することはできない(同47条)。
 加えて、統一契約書には、選手も、選手会も、その制定、改廃に関与していない野球協約の内容に、選手が無条件で従うことを承諾する旨の条項が置かれている(統一契約書29条。ちなみに契約時、契約更改時においては、通常野球協約は選手には提示も説明もされない。)。
 しかも、選手は、所属球団との野球選手契約の期間が終了した後も、フリーエージェント(FA)資格を取得した場合を除き、契約を締結していた球団の承諾なしに選手自らの意思で他の球団(日本球団のみならず米国メジャーリーグ球団などの外国球団も含む。)に移籍することはできない。また、入団時においても、ドラフト制度の存在により球団選択の交渉力が限定されている。
 したがって、選手としては、統一契約書の内容に不満な場合に他の球団に移籍するという手段もとることができず、統一契約書の定めに従って契約をするか、引退するかの選択肢しか与えられていない。
 野球選手契約は、上記のように、極度に選手の交渉力が著しく奪われた状態(契約相手を選べず、かつ、契約条項についての交渉の自由も与えられていない状態)で行われているのが実態である。
 そうすると、原告ら選手と被告ら球団との間には、情報(知識)、経験及び交渉力の格差があり、肖像の利用に関する本件契約条項の内容を交渉によって変更する可能性が欠如している。
 以上のとおり、第1に、球団と選手間の情報(知識)・経験・交渉力の格差の存在は、選手契約において両者が契約内容を対等に交渉して決めるということを不可能ないし困難にする。球団がその優越的な地位を利用して締結した契約が、選手にとって不当に不利益である場合には、その条項の効力を主張することは信義則に反するという説明が可能である。
 第2に、不当条項は、実際には球団が一方的に作成する野球協約及び統一契約書において用いられる。野球協約及び統一契約書においては、選手はすべての条項を十分に検討することなく(検討する余裕もない。)契約を締結することが通常である。その意味で野球協約及び統一契約書を用いる契約では、選手のそれに合意する意思表示は、熟慮された意思表示ではない。また、野球協約及び統一契約書に対しては選手は交渉によってその内容を変更する自由がない。それを包括的に承諾するか、契約をそもそもしないかの選択しかない。このような意味で、選手は野球協約・統一契約書の条項のすべてを積極的に承諾しているわけではない。したがって、内容が公平かつ合理的であればよいが、それが不当である場合には、それを是正することが正当化される。
 なお、野球協約や統一契約書の作成については、選手らは全く関与しておらず、その内容は、毎年選手らに何の予告もなく、一方的に変更されることも多い。しかも、統一契約書、野球協約の規定の中で、「選手契約に関係ある事項」に関してこれを変更する場合には、野球協約自体が特別委員会という選手側の代表の一部の同意を得なければ行うことができない手続となっているが(野球協約19条)、選手側が再三その開催を求めているにもかかわらず、この手続は開催されたことがない。とすれば、統一契約書の内容に選手らの意思が反映されているとはいえないから、選手らが統一契約書に合意することは、熟慮された意思表示ではない。
(2) 後記〔被告らの主張〕(1)について
ア 参稼報酬及び氏名及び肖像の利用に関する分配金の点について交渉の余地があるからといって、統一契約書が附合契約であることを否定する理由にはならない。これらの点について当事者が自由に決め得るとしても、それでもなお十分に制約があり、附合契約に当たる。
 すなわち、肖像権は本来選手個人に帰属しているものであるところ、本来個人に属しているはずの権利を利用するかしないかは、個人の自由に委ねられているのが大原則である。個人の肖像権をどのように行使するのかは個人の自由なのであり、何者かに左右されるものではない。
 にもかかわらず、NPBは、選手らがその作成に関与することができず、また、選手と球団の間で特約を結ぶこともできない統一契約書中の条項として、選手らの肖像権の利用を制限する規定を設け、それに基づいて肖像権の利用を大きく制限する運用を行っている。
 選手らは、たとえそのような運用に不満が残るとしても、統一契約書31条、野球協約68条により、所属する球団以外の球団と契約に関する交渉を行い、又は他の球団のために試合あるいは合同練習等、すべての野球活動を禁止されているため、選手であり続けるためには、所属する球団と契約せざるを得ないという状況に追い込まれている。
 選手らは、選手であり続けるために人生を賭けてきており、安易に選手を辞めるとの選択を取ることはできないのであるから、このような状況に追い込まれた場合、たとえどのような不利な条件でも野球選手契約を締結せざるを得ない。
 このような状況下で契約している選手らは、選手であり続けるために、自己の肖像権の行使について、一切の意思決定の自由を失っている。
イ 本件契約条項3項に基づいて球団が氏名及び肖像の使用を個別に承諾する場合があり得るとはいえ、どのような場合に承諾がされるのかの基準は不明確であり、球団が個別に承諾するのはどのような場面なのか具体的に想定することはできない。
 被告らが認めなければ、選手個人が氏名及び肖像を使用することは不可能なのであり、選手個人が氏名及び肖像を利用することに関して、意思決定の自由を失っていることに変わりはない。
(3) 後記〔被告らの主張〕(2)について
 現行のFA制度は、制約が厳しいため、そもそもFA資格を取得する選手自体が少ない上に、FA資格を取得したとしても、FA権を行使して移籍する選手は、補償金制度の存在故に、著しく少数にとどまっている。したがって、FA資格取得を背景にした有力選手の交渉力が極めて強くなっているという事態はない。
 すなわち、選手がFA資格を取得するためには、入団して初めて出場選手登録された後、出場選手登録日数がシーズン中145日を満たし、これを9シーズン(9年間を意味する)積み重ねなければならない(野球協約197条1項)。このような長期間の出場選手登録を満たすことができるのは、ほんの一握りの選手のみであり、実際FA資格を取得できる選手は極めて少数にとどまっている。
 また、最初のFAの権利を行使することにより、他の球団に移籍しようとする場合、当該FA宣言選手と新しく契約する球団(以下「新球団」という。)は、その選手が元所属した球団(以下「旧球団」という。)に対して、選手及び金銭を補償しなければならない(野球協約205条1項本文及び2項)。具体的には、新球団は、旧球団に対して、旧年俸の120パーセント(選手による補償を行った場合は旧年俸の80パーセント)という高額な補償金を支払わなければならない。
 このようなFA制度にまつわる日本プロ野球独自の補償金制度により、新球団は選手獲得のため、選手及び金銭の補償という多大な負担が課せられているため、選手らは、現実的には、容易に他の球団には移籍できない。
 そして、球団が、他の球団に在籍していたFAの権利を行使した選手らと次年度の野球選手契約を締結する場合、その契約締結選手数は2名までと限られており、この点でも、選手らは、容易に他の球団には移籍できない(野球協約206条1項)。
 なお、このような移籍制限自体が、合理性を有するものではない。日本の選手は、世界基準に比しても、明らかに不合理な移籍制限制度により、選手らは、容易に他の球団には移籍できない状況にある。
 このように選手らは容易に他の球団に移籍することはできないことから、統一契約書の内容に不満がある場合に他の球団に移籍するという手段も取ることができず、統一契約書の定めに従って契約するか、契約せず引退するかの選択肢しか与えられていない状態に変わりはない。
 したがって、原告ら選手らに対して、被告ら球団が優越的地位にあることに変わりはない。
 なお、仮にFA制度により、他の球団に移籍することができたとしても、移籍先の球団との間の契約についても、また統一契約書によって契約するから、選手が自己の肖像権の行使について意思決定の自由を奪われたままである状況に変わりはない。実際にも、FA移籍により、選手が肖像権に関する管理の自由を獲得した例はない。
 とすれば、この意味でも、FA制度があるとしても、選手らに対して、被告らが「優越的地位」にある状況に変化はない。
(4) 後記〔被告らの主張〕(3)について
 ストライキ権の行使は、選手らもその収入を失うため、選手会が選手らの収入減を考慮せずに、容易に行使できるものではない。
 選手らがストライキ権を行使するということは、我が国屈指の人気スポーツであるプロ野球の試合が開催されなくなることを意味し、同時に選手自身が自らの参稼報酬を失うことを意味する。
 よって、選手会は、安易にストライキ権の行使により、野球協約や統一契約書について、強い影響力を及ぼすことなど到底できるものではない。
(5) 後記〔被告らの主張〕(4)について
 プロ野球ゲームソフトについて各球団から所属選手に対する金銭の分配が行われ始めたのは、ほんの数年前のことであるし、球団側が対価を取得しているにもかかわらず、所属選手に対する分配金が全く行われなかった時期も存在した。
 本件野球カードについても、被告ベイスターズのように平成16年まで金銭の分配を行っていなかった球団があるなど、各球団で取扱いがバラバラで、かつその決定も極めて一方的である。
 これらのような現在までの氏名及び肖像の利用に関する分配の状況からすれば、適切な金額を選手らに分配しているとは到底いえない。
 のみならず、利益を分配しているからといっても、そもそも選手らの氏名及び肖像をどのように利用するかは、その氏名及び肖像が帰属する各選手らが自由に意思決定できることが大原則なのであって、選手らの承諾を得たケースのみ、選手らの氏名及び肖像が利用できるのが原則である。選手らの意思として許諾したくない商業的利用のケースもあり、このようなケースにおいては、選手らの意思決定は完全に失われている。
 そうすると、選手らの氏名及び肖像を、選手らの承諾なく利用することに関して合理性があるとはいえない。
〔被告らの主張〕
 本件契約条項は、次のとおり、全体としてみれば合理的なものであって、附合契約に当たらず、公序良俗に反するものでもないから、有効である。
(1) 附合契約とは、「契約当事者が一方的・定型的に決定する約款について相手方が包括的に承認するより他にしようのない契約」とか「相手方当事者(多くは大企業)の作成した契約条件をそのまま飲むか、契約しないかの自由しかない契約」をいい、典型的には、保険契約や賃貸借契約などにおける普通取引約款がこれに当たる。
 附合契約は、通常、各当事者と交渉して内容を決することは想定されていない。
 しかし、統一契約書は、3条の参稼報酬の金額の欄が空欄とされ、毎年度、球団と選手とが交渉して「契約更改」を行うものである。
 すなわち、野球選手契約においては、有償契約において最も重要な事項である金額の点について、選手にも契約交渉の自由及び契約内容決定の自由が与えられているのであり、そのため、内容について交渉の余地のない、いわゆる「附合契約」とは異なる。
 さらに、野球協約47条ただし書によれば、参稼報酬以外の点についても、「ただし、この協約の規定ならびに統一契約書の条項に反しない範囲内で、統一契約書に特約条項を記入することを妨げない。」とされている。
 しかも、本件契約条項は、2項において選手は適当な分配金を受けることができると規定され、しかも、分配率は特に固定されていないため、「適当な分配金」は、選手と球団との交渉によって決定することが可能であり、実際にも、これまで、選手らないしは選手会と野球機構とが、分配率を巡り交渉をしてきた。
 また、同3項には、肖像等の使用の際には球団の承諾を必要とすることが規定され、選手らは、球団に対し肖像等の使用を申し出、承諾を得て、使用することができる。
 これらの事実からみても、本件契約条項は、内容について交渉の余地のない、いわゆる「附合契約」ではない。
(2) 野球協約上FA制度があり、選手は、その意思により、他の球団はもとより、外国のプロフェッショナル野球リーグに移籍することも可能である(野球協約196条以下。また、所属球団の協力が必要であるが、日米間選手契約に関する協定により、ポスティング制度でFA資格取得前であっても米国のメジャーリーグの球団に移籍することも可能である。)。
 統一契約書の条項は実際には変更可能なものであるところ、FA制度により有力選手の交渉力(バーゲニング・パワー)は極大化している。
 FA制度導入後、参稼報酬が高騰し、1億円を超える参稼報酬を得ている選手が66名に達し球団の経営を圧迫していることからみても、有力選手の交渉力の強さは明らかである。少なくとも、いずれも有力選手である原告らに対しては、球団が「優越的な地位」にあるということはない。
(3) 野球協約及び統一契約書については、選手会が、その強大なストライキ権の行使により、強い影響力を及ぼすことが可能である。
 また、統一契約書及び野球協約は、毎年ほとんど内容が変わらないし、本件契約条項は、数十年間実質的に内容は変わっていないから、原告ら選手において検討する余裕もないことはありえず、意思表示が熟慮されているかどうかは、本人の問題である。
(4) 本件契約条項は、公序良俗に違反するものではない。
 肖像権の帰属(ないしは独占的使用許諾)を定めるのは本件契約条項1項であるが、本件契約条項には、このほかに2項及び3項が存在し、同2項によれば、肖像等の利用に対し、選手は「適当な分配金」を受けることができ、しかも、分配率は特に固定されていない。その分配率を巡り交渉をしてきた経緯からも明らかなとおり、「適当な分配金」は、選手と球団との交渉によって決定することが可能である。
 また、同3項は、肖像等の使用の際には球団の承諾を必要とすることを規定する。すなわち、球団が球団の宣伝目的に反しないと判断するような場合であれば、球団が個別に承諾することにより、選手らにおいて、自らの肖像等を使用することが可能である。
 本件契約条項に、上記のような2項及び3項が存在せず、又は2項において分配金が不当な廉価に固定されていたり、あるいは3項において承諾に当たり、被告らに一方的に有利な不当な条件が付されていたりするなどの事情がある場合であればともかく、同条項は、選手の権利を一方的に制限するものではない。
 実際の運用としても、被告らは氏名及び肖像の利用の実態につき、各選手に知らしめ、また、各選手の意向が反映されるよう努力している。
 よって、本件契約条項の規定やその解釈により、選手に著しく不公平な状態は生じ得ず、同条項が公序良俗に違反することはあり得ない。
(5) 野球協約上、統一契約書の条項は、契約当事者の合意によっても変更することはできないとされ(47条)、特約条項は、統一契約書に記入されなければ無効であるとされているが(48条)、プロ野球12球団がそれぞれ独自の条件を定めた契約を選手との間で締結するとすれば、混乱を生じることは必至であり、プロ野球12球団が統一契約書により報酬額や特約事項を除く一般的条件については、同一の規程を定めることはプロ野球の運営上必須不可欠である。
 なお、選手が野球協約の制定、改廃に関与していないにもかかわらず野球協約の定めに拘束されるとしても、セ・リーグ及びパ・リーグが野球協約を締結してNPBを構成し(野球協約1条)、この野球協約の定めに従い、各球団が野球選手と契約を締結するのであるから、選手が「野球協約およびこれに附随する諸規程を諒承」するというのは、むしろ当然のことである。
(6) 現在使用許諾がされている本件野球カード及び野球ゲームソフトは、完全にプロ野球界において問題なく定着しており、選手らから苦情が寄せられることもなく、かえって選手らから歓迎されている。
 被告らは、選手の人格を傷付けるような使用法がされないように注意を払っているし、仮にそのような事態が生じた場合、ライセンシーの契約違反の問題が生じたり、使用許諾権の個別的な濫用の問題が生じるとしても、被告らの使用許諾権限が消滅するものではない。
 原告らにおいて自らの氏名及び肖像の使用の許諾を拒絶すべき本件野球カード及びプロ野球ゲームソフトは考え難い。
3 争点(2)イ(独占禁止法違反)について
〔原告らの主張〕
 各球団が本件契約条項に基づいて原告ら選手の肖像権を一方的に奪うことは、次のとおり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条9項5号に基づいて公正取引委員会が定めた一般指定(以下、単に「一般指定」という。)14項の優越的地位の濫用に当たる行為であるか、又は一般指定13項の拘束条件付取引に当たる行為であって、健全な取引秩序を乱し、かつ、公正な商慣習の育成を阻害するものとして公序良俗に反し、無効である。
(1) 選手の「事業者」性
 独占禁止法が適用される「事業者」とは「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定義されているが(同法2条1項)、ここでいう「事業」は、何らかの経済的利益に対応し、反対給付を継続して受ける経済活動を意味する。しかるに、選手も、球団に対して野球選手としての特殊な技能を試合に参稼して提供するという「経済的利益の供給」をし、球団から参稼報酬という「反対給付を受け」ているから、独占禁止法が適用される「事業者」に当たる。
 なお、選手が労働組合法上の「労働者」であるとしても、その取引上の地位についても、常に必ず労働者としての従属性を備えているとはいえないし、球団が選手の身分の拘束や選手が提供するサービスの受領を統制することを目的として、専らその主導の下に球団同士で協定を行う行為については、選手の事業者性を認めてよいものと解される。
 なぜなら、独占禁止政策の立場からいえば、望ましくないのは競争制限行為自体であって、何人が競争制限行為を行うかは問題でなく、独占禁止法にいう「事業者」の範囲も、一般的・抽象的に定めるのではなく、当該行為を独占禁止法によって処理することが必要かつ妥当であるか否かの観点から、具体的事例に則して決定すべきだからである。
 なお、実際にも、プロスポーツ法の先進国である米国では、プロスポーツ選手の契約に独占禁止法を適用した判例が多数存在し、米国プロスポーツの選手は、労働組合を組成する「労働者」でありながら、同時に独占禁止法の適用を受けてきた。
(2) NPBの「事業者団体」性
 NPBを構成する球団である被告らが「事業者」であることは明らかである。
 そして、本件で問題となっている本件契約条項は、プロ野球12球団の組合的集合体であるNPBが制定し、被告ら各球団にそれを遵守させているものであるところ、独占禁止法2条2項にいう「事業者団体」とは、「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体または連合体」と解されており、また、事業者団体の形態は、2以上の事業者の継続的な組織であって、構成事業者の存在とは別個独立の社会的存在として認めるに足るものであればよく、社団、財団、組合、契約による結合体(同法2条1号ないし3号)にとどまらず、法人格の有無、団体の名称なども問わないと解されている。また、独占禁止法にいう「事業者」は、経済事業を行う者として客観的に評価できればよく、その目的や主体の法的性格が問われることはないし、必ずしも営利を目的とするものに限られないと解されている。そうすると、セ・リーグ及びパ・リーグとこれらを構成するプロ野球12球団が野球協約を締結し、その下に結成された法人格なき団体であるNPBも事業者団体に該当する。
 そうすると、独占禁止法8条1項5号により、NPBが「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」が禁止される。
(3) 優越的地位の濫用(行為類型1)
 事業者団体の活動について独占禁止法違反となる場合については、公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(平成7年10月30日公正取引委員会)」(以下「事業者団体ガイドライン」という。)により、ガイドラインが示されている。
 球団が本件契約条項に基づいて、選手に対し、法律上個人に帰属するものとされている肖像権を一方的に奪うという拘束をする行為について、最もこれによくあてはまる不公正取引の類型は、独占禁止法2条9項5号に基づいた一般指定14項の優越的地位の濫用である。
 一般指定14項にいう優越的地位の濫用の要件は、@ 自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)、A それを利用して、正常な商慣習に照らして不当に(公正競争阻害性)、B 同項1号ないし5号のいずれかの行為をすること(行為要件)であると解される。
ア 優越的地位の有無
(ア) 一般指定14項に関して要求される取引上の優越的地位は、取引の相手方に対する相対的優越性で足り、当該市場において支配的地位にあることを要しないと解されている。
 そして、そのような優越的地位は、濫用行為を拒否すると、取引の継続を拒否され、企業経営が著しく困難になる場合に典型的に現れ、その意味で「取引先転換の容易性」があるか否かで、同地位の有無を決定するのが通常である。
 原告ら選手は、所属球団との野球選手契約の期間が終了した後も、所属球団にその身分を拘束され、野球協約の定めに従ってFA資格を取得しない限り、選手自らの意思で他球団に移籍できない。
 したがって、原告ら選手に「取引先転換の容易性」は全くなく、統一契約書の定めに従って契約をするか、引退するかの選択肢しか与えられていないから、被告らが原告らに対して優越的地位に当たることは明らかである。
(イ) 被告らの主張に対する反論
 前記2〔原告らの主張〕(3)のとおり、現状のFA制度は、非常に制約が厳しく、FA資格取得を背景にした有力選手の交渉力は極めて強くなっているという事態はない。
 また、FAにおいては、前所属球団が多額の補償金か又は代替選手による人的補償を受け得る仕組みになっており、それによって同等の選手を獲得するケースも多い。
 さらに、仮にFA権を行使したとしても、日本で選手として働く以上、野球協約に縛られない球団に移籍することはできないのであり、かつ野球協約47条によれば、統一契約書の規定に反する特約を締結することは許されないのであるから、結局、いかにFA移籍選手であっても、選手らの氏名及び肖像の利用について、選手らの意思決定の自由を認め、選手らの自由な意思決定に基づく運用にする形で相応の譲歩を勝ち取ることは不可能である。
 FA制度により、仮に「取引先転換」の可能性が生まれたとしても、移籍した先の球団との間においても、統一契約書にて契約が締結されるのであり、選手らの氏名及び肖像の利用に関する意思決定の自由は奪われたままなのであるから、各球団が所属選手に対して優越的地位にあることに変化はない。
イ 公正競争阻害性の有無
(ア) 優越的地位の濫用に当たるためには、かかる優越的地位を正常な商慣習に照らして不当に利用することが必要であると解されているが、一般に、取引上の優越的地位がなければ行われなかったであろうことが合理的に認められれば、正常な商慣習に照らして不当に利用されたと評価すべきである(逆に対等な当事者間において通常付せられる取引条件等であれば一般指定14項の問題は生じない。)。
 原告ら選手は、被告ら所属球団やNPBから、本件契約条項の趣旨は、選手の氏名及び肖像の経済的な支配権(少なくとも独占的使用許諾権)をすべて球団に帰属させるという点にあると主張され、選手の氏名及び肖像に関する使用許諾権は所属球団に独占的に帰属するとの取扱いを強制されている結果、原告らを含む選手が、球団の承諾なく、@ その肖像を自ら商業目的に使用すること、A その肖像を第三者に使用許諾すること、B 肖像使用の管理を選手会やマネジメント会社に委託することをすべて禁止されている。
 また、本件で問題となっている野球ゲームソフトに対する選手の氏名及び肖像の使用許諾についても、選手会はNPBよりも低率の使用料を提案しているにもかかわらず、ゲームソフトメーカーは選手会と使用許諾契約を締結するという選択を阻害されている。
 このような球団側による選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為は、明らかに、「通常付せられる取引条件」ではない「不当」なものである。
 つまり、「選手の氏名及び肖像に関する使用許諾権が独占的に所属球団に帰属する」という取引条件は、「通常付せられる取引条件」ではなく、これ以外の選択肢を全く与えない(統一契約書47条)ことは、明らかに「正常な商慣習に照らして不当」なものである。
 なお、「選手の氏名及び肖像に関する使用許諾権が独占的に所属球団に帰属する」という取引条件を正当化させる根拠を、被告らが主張するように、好ましくない態様でその氏名及び肖像が利用されるおそれ等があるという理由に求めるのは、極めて抽象的であって、この理由に基づいて選手による肖像の利用を全部禁止することは、過度に広範で全く不合理である。
 選手が他人に氏名及び肖像を利用させることが球団の名誉、声望が傷つけるという事態そのものが容易に想定し難いし、仮にそのような事態が現実に発生したならば、個別に民法709条などにより名誉毀損等の責任を追及すればよいだけの話である。
 なお、球団の親会社の競業会社に使用されて球団と利害衝突が生ずるおそれについては、選手が親会社の競業会社の広告に出演することのみを規制すれば足り、かつ、それについては本件契約条項3項が選手の「広告の関与」について球団の承諾を必要としていることによって対処できるはずのものである。
 それ以上に、球団の独占的使用許諾権を主張し、本件野球カードへの選手の氏名及び肖像の使用許諾を、球団の関与なく、選手が自ら又は選手が選択する第三者(選手会など)を通じて行うことを否定する理由は全くない。
 以上のとおり、NPB構成球団たる被告らが本件契約条項に基づいて、「選手の氏名及び肖像に関する使用許諾権が独占的に所属球団に帰属する」と主張し、選手の氏名及び肖像の使用・管理を制限し、又はそのような行為をNPBがさせている行為は、優越的地位を「正常な商慣習に照らして不当に」利用するという要件にも該当する。
 なお、優越的地位にある者の行為の不当性を判断する際の「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習をいい、委託者の行為が、現に存在する商慣習に合致していることの一事をもって、直ちに正当化されるものではない。したがって、NPBないし被告らその構成球団が、長い間、肖像権の独占を「慣習」として行ってきたことによって、NPB及び被告らその構成球団の行為が正当化されるものではない。
(イ) 被告らの主張に対する反論
 財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)における取扱い及び米国メジャーリーグにおける取扱いと対比すると、我が国のプロ野球における取扱いは、「通常付せられる取引条件」であるとはいえない。
 20世紀後半におけるスポーツビジネスの進展と、スポーツ選手らの世界的な権利意識の高まりの中で、世界の各スポーツ団体が、それぞれ所属するスポーツ選手の肖像権の取扱いについて、本来肖像権はスポーツ選手個人のものであるという認識に立った上で、選手の肖像権を尊重する取扱いを行うようになってきている傾向にある。
 長らく問題視されていたJOCによる肖像権の一括管理の制度は法律的に無理があるとの理由により廃止され(甲26)、また、同じプロ野球である米国のメジャーリーグでも、選手は、コンピュータゲームソフトや野球カードのような使用については、メジャーリーグ選手会(MLBPA)にその肖像の管理を委託し、それ以外の氏名及び肖像の使用については自ら又はマネジメント会社等に委託して管理している。
 米国メジャーリーグにおけるような管理方法は、同じく米国でメジャースポーツとされている米国プロアメリカンフットボールリーグ(NFL)、米国プロホッケーリーグ(NHL)などでも採用されており、我が国のJOCの近時の傾向から見ても、むしろ、選手に肖像権管理の主導権を持たせる方が「通常付せられる取引条件」である。
ウ 行為要件
 本件契約条項に基づく、選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為は、氏名及び肖像の「独占的使用許諾権」(選手に一切の使用権限を認めない球団の独占的な権利)の提供という意味では、一般指定14項2号「継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」に該当し、そうでなくても3号「相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること」、又は4号「前三号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること」に該当する。
エ 役務の委託取引ガイドラインとの関係
 公正取引委員会が役務の委託取引における優越的地位の濫用の考え方について公表している「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(以下「役務の委託取引ガイドライン」という。)第1の1では、「役務の委託取引において継続的な取引が行われ、受託者側が取引先を変更することが困難であって、委託者が取引上優越した地位にある場合に、当該委託者が、受託者に対し、役務の委託取引の条件又は実施について、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるような行為を行うことは、受託者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、また正当な条件で受託しようとする者や当該委託者の競争者を競争上不利にさせるおそれがあるものである。」と記述されており、そのような観点から、「第2 委託者による優越的地位の濫用行為」の一類型として「7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」がとりあげられている。
 そこでは「独占禁止法上問題となる場合」として、「ア情報成果物の権利の譲渡」という類型が定められており、「受託者に権利が発生するにもかかわらず、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に当該成果物に係る著作権、特許権等の権利を委託者に譲渡させる場合」は、独占禁止法上問題であるとされている。
 しかるに、被告らは、球団がプロ野球組織の一員として、莫大な投資をし、かつ多大なリスクを負担している結果として選手の氏名及び肖像の価値が生じた旨を主張し、一方的にかかる成果物たる選手の氏名及び肖像に係る権利の譲渡を受けたものであるから、役務の委託取引ガイドラインにいう「独占禁止法上問題となる場合」に当たり、前記ウの結論は同ガイドライン中の記述によっても裏付けられるものである。
(4) 拘束条件付取引(行為類型2)
 NPBないし被告らその構成球団による、本件契約条項に基づく、選手の氏名及び肖像の使用及び管理を制限する行為は、選手が自らの肖像の管理を球団以外の取引先に委託し得ないという意味で、一般指定13項の拘束条件付取引にも該当する。
(5) 独占禁止法違反の私法上の効果
 前記(1)ないし(4)のとおり、本件契約条項に基づく各球団による所属選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為は、独占禁止法19条に違反する行為である。
 したがって、NPBが事業者団体としてこれを構成各球団に行わせる行為は、独占禁止法8条1項5号に違反する(なお、事業者団体ガイドラインにおいても、違反行為の類型「6−8」として優越的地位の濫用が掲げられている)。
 本件契約条項の附合契約性(契約締結に当たっての一方的な手続)も併せて考えれば、契約の効力を否定しない限り、選手らの救済は不可能であって、同条の定めは民法90条に違反し無効である。
〔被告らの主張〕
 本件契約条項は、次のとおり、独占禁止法に違反するものではなく、無効とはならない。
(1) 選手の「事業者」性
 一般に、選手は、独占禁止法の対象にならないと解されており、公正取引委員会も同様の見解を表明している。
(2) NPBの「事業者団体」性
 原告ら選手と被告ら球団との間で締結されている本件契約条項の独占禁止法違反の有無を判断するのに、NPBが事業者団体性を有するか否かは無関係である。
(3) 優越的地位の濫用(行為類型1)
ア 優越的地位の有無
 FA制度の存在により、被告ら球団は、実績のある有力選手の要求については、相応の譲歩をする場合もあり(FA権を行使され、他球団に移籍された場合、同等の選手が獲得できる仕組みにはなっておらず、実際同等の選手が獲得できた例は見当たらない。)、被告ら球団が原告ら有力選手に対して優越的な地位にあるということはない。
イ 公正競争阻害性の有無
 本件契約条項に基づき、選手の氏名及び肖像の経済的支配権(少なくとも独占的使用許諾権)をすべて球団に帰属させる取扱いは、次のとおりの理由で合理的であり、公正競争阻害性を有しない。
(ア) 球団の莫大な投資及びリスク負担
 選手の肖像権の価値は、球団がプロ野球組織の一員として、莫大な投資をし、かつ多大なリスクを負担している結果として生じたものである。
 肖像権も、このような他球団、他の選手、NPB、野球機構といったものの上に(これらの共同作用として)初めて成立するものであり、その帰属についてもこのような点を踏まえて考える必要がある。
 実際問題として、プロ野球12球団のほとんどが経営的には赤字であり、経営的に黒字になっている球団はむしろ例外的な少数球団にすぎない。
 選手の肖像権の価値はこのような球団の犠牲の上で生じている。
(イ) 使用の管理
 仮に、選手において自由にその氏名及び肖像の利用を許すとすれば、球団にとって好ましくないような態様でその肖像が利用されるおそれがある。
 なお、各球団は、最大70名の支配下選手を抱えており、有名選手の人気に着目して近づいてくる者にはさまざまな者がいて、たとえ各選手自体は用心していても、万一にも一部の選手でも何らかの問題に巻き込まれた場合には、球団及び所属全選手の名誉及び声望に影響することから、肖像についても、一元的な管理を行わないと、問題のある氏名及び肖像の利用の仕方がされる場合も十分想定される。
 そして、一度、問題のある露出がされると、その選手と所属球団の名称が出て、必然的に当該球団の社会的な評価が下がることになる。プロ野球は、人気商売であり、球団の社会的イメージが低下すると、ファンが球場に来なくなったり、テレビ視聴率が低下したり、スポンサー離れが起こったりして、当該球団はもちろん、その所属する選手、ひいては、プロ野球界全体に対し悪影響があるのは見やすい道理であり、その程度によっては、取り返しのつかない事態も想定される。
 同様に、ある選手が、競争事業者の商品の宣伝に(双方の競争事業者の同意なく)登場するようなことは、極めて不適切な行為であり、そのような事態を回避するためには窓口を一つにする必要がある。
 したがって、球団が、選手の氏名及び肖像を一元的に管理することには、少なくともそれなりの合理性がある。
 また、選手や球団のイメージを害せず、利益衝突がない場合には、球団は、選手及び球団の露出が増えるとともに、収入増が期待されるから、同意を与える可能性が高いのであって、選手による氏名及び肖像の使用をすべてにわたって禁じるものではない。
(ウ) 分配金の支払
 本件契約条項2項に基づいて、肖像の利用により球団が利益を得たときに、選手に配分されることになっているところ、この配分は実行されてきている。
(エ) 氏名及び肖像の使用の促進(ライセンシーの便宜)
 仮に、各選手に氏名及び肖像の使用を自由に委ねるとすると、ライセンシーは、選手一人一人に個別に許諾を得なければならないことになり、不都合である。
 各球団が窓口になって各球団の商標とともに一元的に管理すれば、ライセンシーにとって極めて便宜であるとともに、統一的なライセンス方針を採用することができる。
(オ) 原告らの主張(公正競争阻害性)について
 JOCやメジャーリーグにおいて選手の氏名及び肖像に関する使用許諾が選手自らによって行われたり、選手が選手会や管理会社に管理を委託することができるとしても、それは他のスポーツ団体においてかかる取扱いがされているということだけであり、本件契約条項の公正競争阻害性を基礎付けることにはならない。のみならず、JOCに属する各競技団体に属する選手は、基本的にアマチュア選手であって、必ずしも各競技団体と契約を締結しているわけではないし、氏名及び肖像の利用の対価の取扱いの点において、原告らプロのスポーツ選手とは大きく異なるから、原告ら選手と同列に論じることはできない。
 また、選手会がNPBよりも有利な条件でゲームソフトメーカーに選手の氏名及び肖像の使用許諾ができ得るということも、同様に、本件契約条項の公正競争阻害性を基礎付けることにはならない。
 なお、本件契約条項においては、肖像等の使用から「球団が金銭の利益を受けるときは、選手は適当な分配金を受けることができる」とされているから、原告らは、具体的な金額が同2項にいう「適当な分配金」かどうかを争うことができる。
 分配金の額等については原告らと被告らとの間でいくらでも交渉ができるのであって、本件契約条項の枠組みが不当であることの理由にはならない。
ウ 行為要件
 本件契約条項に基づく、選手から氏名及び肖像の商業的利用権たるパブリシティ権の譲渡ないし独占的使用許諾を受け、各球団が選手らの氏名及び肖像を独占的に管理し、受けた利益を選手らに分配する行為は、一般指定14項2号ないし4号に該当しない。
 なお、原告らがするような、本件契約条項に基づく選手らに対する拘束のみをもって本件契約条項が独占禁止法の規定に反するか否かを問題にするやり方は相当でない。
エ 役務の委託取引ガイドラインとの関係
(ア) 役務の委託取引ガイドラインは、アウトソーシング(社内業務の外部委託)される場合が念頭に置かれており、同ガイドラインの考え方が、会社の内部の役務提供に適用されるわけではない。
(イ) 役務の委託取引ガイドラインでは、具体的に、「代金の支払遅延」「代金の減額要請」「著しく低い対価での取引の要請」「やり直しの要請」「協賛金等の負担の要請」「商品等の購入要請」「情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」の7つの類型を採り上げて、検討している。
 しかしながら、球団と選手との関係は、アウトソーシングの関係ではない。また、選手が提供する役務は、結局のところ、出場した試合において、ルールに従い、全力を尽くすということと、そのための練習であり、原告らのような超一流選手の場合その役務の仕様等の具体的内容は、選手自らが決定するものであって、役務の委託取引とはいえない。
 また、選手の氏名及び肖像は「情報成果物」ではないし、選手と球団との契約は、選手の氏名及び肖像が「取引の対象となる役務の委託取引」でもない。
(ウ) 役務の委託取引ガイドラインでは、「考え方」として、「このような場合に、成果物等に係る権利の譲渡又は二次利用の制限に対する対価を別途支払ったり(中略)、当該対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められるときは、優越的地位の濫用の問題とはならない」としているが、本件では、本件契約条項により、「適当な分配金」を支払うこととされているから、「分配金」の額が適当かどうか、という問題は残ったとしても、同条が独占禁止法違反であるということにはならない。
(4) 拘束条件付取引(行為類型2)
 選手の氏名及び肖像の使用に係る本件契約条項の定めは不当なものではなく、各球団は選手に対し、不当な条件を付して野球選手契約を締結しているものではない。したがって、本件契約条項を付して野球選手契約を締結することは、拘束条件付取引に当たらない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件契約条項の解釈)について
(1) 前記第2の2の各事実に証拠を総合すれば、次の各事実が認められる。
ア 本件契約条項制定の経緯
(ア) 前記第2の2(1)イのとおり、被告巨人軍らのセ・リーグ所属球団及び被告ファイターズらのパ・リーグ所属球団は野球協約を締結してNPBを構成しているが、同(2)のとおり、野球協約45条ないし47条に基づいてNPBを構成するプロ野球12球団が報酬金額及び特約事項を除いては同一内容の統一契約書を用いて選手と野球選手契約を締結することが予定され、参稼報酬額及び特約条項を除いては、当事者間の合意によっても約定の内容を変更することができず、各球団及び選手が野球協約を諒承し、かつこれに従うことが要求されている。
 そして、昭和26年にNPBの前身たる全国プロフェッショナル野球機構が結成された際に、球団と選手との間の野球選手契約につき統一契約書書式が作成され、この際に同書式中に本件契約条項に相当する規定が制定された。
 それ以来、球団と選手との間の選手の肖像等の使用に係る定めは、その実質的な内容が50年以上にわたって変更されることなく現在まで継続的に置かれ続け、現在の本件契約条項の定めとなっている(弁論の全趣旨)。
(イ) 原告ら選手の肖像の使用に関して定める統一契約書の規定(本件契約条項)は、以下のとおりのものである。
a 1項
 「球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。」
b 2項
 「なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる。」
c 3項
 「さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。」
(ウ) 昭和26年に統一契約書書式が作成された際、当時米国のプロ野球リーグであるメジャーリーグにおける加盟球団と選手との間の野球選手契約に用いられる統一契約書の規定が参考にされた。現在の本件契約条項に相当する、選手の肖像等の使用に関する規定の起案に当たって、メジャーリーグの統一契約書3条(c)(大リーグ契約条項)が参考にされた(弁論の全趣旨)。
(エ) 大リーグ契約条項の内容
 大リーグ契約条項は、昭和22年(1947年)、初めて球団が試合のテレビ放映権を販売するのに伴って設けられた規定であり、同項の内容は現在に至るまで変更されていないところ、その文言は、次のとおりである(甲37、弁論の全趣旨)。
 「The Player agrees that his picture may be taken for still photographs,motion pictures or television at such times as the Club may designate andagrees that all rights in such pictures shall belong to the Club and may beu s e d b y t h e C l u b f o r p u b l i c i t ypurposes in any manner it desires.The Player further agrees that during the playing season he will notmake public appearances, participate in radio or television programs orpermit his picture to be taken or write or sponsor newspaper or magazine articles or sponsor commercial products without the written consent of the Club, which shall not be withheld except in the reasonable interests of the C l u b o r professional baseball.」
 (選手は、球団が指示する場合、写真、映画若しくはテレビジョンに撮影されることを承諾し、そのような写真に関するすべての権利が球団に属し、球団がそれらをパブリシティの目的のために球団が望むあらゆる方法で使用できることを承諾する。さらに選手は、シーズン期間中、球団の書面による同意なく、公衆の面前に出演し、ラジオ若しくはテレビジョンのプログラムに参加し、写真撮影を認め、新聞若しくは雑誌の記事を書き、これらを後援し、又は商品の宣伝をしないことを承諾する。ただし、球団は、このような同意を合理的な理由なく拒絶してはならない。)
 なお、当時、我が国においては、「パブリシティ」という概念及び用語になじみがなく、大リーグ契約条項を参考に本件契約条項に相当する規定を起案するに際し、英語の「publicity purposes」を「宣伝目的」と翻訳したものと推認される(弁論の全趣旨)。
イ 選手の氏名及び肖像の使用状況
(ア) 統一契約書作成前の状況
 統一契約書が初めて作成された昭和26年以前において、次のとおり、選手の氏名及び肖像を用いた商品が販売されたが、これらの販売については球団ないし日本野球連盟(NPBの前身)から選手の氏名及び肖像について許諾がされていた(乙15、弁論の全趣旨)。
a 昭和21年から25年ころにかけて、別所毅彦(巨人)ら当時の選手の氏名及び肖像が使用されたブロマイドが販売された。
b 原色版印刷社は、昭和23年ころ、坪内道則(金星)ら当時の選手44名の氏名及び肖像を使用した玩具「新野球いろはかるた」を発行した。
c 昭和23年から25年ころにかけて、別所昭(南海)ら当時の選手の氏名及び肖像が使用されたメンコが販売された。
d 集英社は、昭和26年、「おもしろブック」新年号を販売する際、その付録として、藤村富美男(阪神)ら当時の選手40名の氏名及び肖像を使用した玩具「新野球かるた」を添付した。
(イ) 野球ゲームソフトについて
 ゲームソフトメーカーは、昭和63年以前は、実在する球団名や選手名等をもじった名称を使用した野球をテーマにしたゲームソフトを制作・販売していたが、株式会社バップは、昭和63年、プロ野球12球団から球団名、球団マーク及び所属選手の選手名等の使用許諾を受けて、実在する球団名等を初めて公式に使用する任天堂製ファミリーコンピュータ用野球ゲームソフト「スーパーリアルベースボール’88」を発売した。
 その後、被告らは、平成2年ころ以降、野球機構に球団名、球団マーク並びに所属選手の氏名及び肖像の使用許諾事務を委任し、野球機構において、コナミ株式会社等の累計154社の各ゲームソフトメーカーに対し、累計296タイトルのゲームソフトに球団名、球団マーク並びに所属選手の氏名及び肖像を使用を許諾してきた。
 上記野球ゲームソフト「スーパーリアルベースボール’88」では、球団名、球団マーク及び所属選手の氏名が使用されていたが、所属選手の肖像については、パッケージで似顔絵が使用されていた外は、ゲーム中でアニメ化されたものが使用されるに止まっていた。しかし、平成7年ころ以降に登場したゲームソフトでは、より精巧な、選手の肖像写真やコンピュータ・グラフィックスが用いられるようになってきている。
 なお、野球ゲームソフトに使用される選手の写真及び動画は、球団の指示に基づいて撮影されたものである(乙16、弁論の全趣旨)。
(ウ) 本件野球カード1について
 カルビーは、昭和48年以降、プロ野球12球団から許諾を受けて、本件野球カード1を販売してきた。
 本件野球カード1は、根強いファンの声に支えられて売上げを伸ばし、現在ではカルビーの人気商品となっている。
 現在、「プロ野球チップス」は、スーパーマーケットやコンビニエンス・ストアの80パーセント以上の店舗が扱っている最も身近なプロ野球関連グッズであり(ただし、後記スペシャルボックスはインターネット上でのみ販売されている。)、プロ野球人気に貢献している。
 ところで、「プロ野球チップス」には、1袋当たり60円で販売される通常のものと1箱当たり275円で販売されるスペシャルボックスとの2種類があるが、前者には本件野球カード1が1袋当たり1枚付属し、後者には本件野球カード1が1箱当たり6枚付属する。
 「プロ野球チップス」は、例年、プロ野球のペナントレース期間と期を同じくして、3月下旬から11月中旬までの間に販売されるが、その期間内で概ね第1弾ないし第3弾がそれぞれ版を異にして発売される。
 1球団当たりの本件野球カード1の種類は、年間30種ないし40種程度であり、1球団当たり年間15ないし20選手程度が同カードに掲載される。
 本件野球カード1には、最も一般的な形態であるレギュラーカードの外、日本シリーズを素材とした日本シリーズカードやタイトル獲得選手を取り上げたタイトルホルダーカード等の企画カード、表面をホログラム加工した美麗な「スターカード」がある。いずれの種類においても、カード表面に、選手の競技中の写真が大きく掲載され、カード裏面に主として選手の顔写真、プロフィール及びコメント等が掲載されている。
 カルビーは、本件野球カード1の表面用の写真に、プロ野球12球団のうち4球団についてはこれらが撮影して提供した写真を、うち2球団についてはこれらが指定業者に撮影させた写真を、他の6球団については新聞社が新聞報道用に撮影した試合や練習中の写真をそれぞれ掲載している。また、カード裏面の写真には、各球団が撮影したものをそのまま掲載している。
 カルビーは、カード裏面の選手のデータ及びコメントについては、カルビーが独自に収集し、作成したものを掲載している(乙2)。
(エ) 本件野球カード2について
 ベースボール・マガジン社は、平成3年以降、プロ野球12球団から許諾を受けて、本件野球カード2を販売してきた。
 本件野球カード2は、現在、全国の書店、玩具店、スポーツカードを取り扱うカードショップ及び野球場等で販売されている。1つのパックに4枚の本件野球カード2が入ったものが1パック当たり100円で、1つのパックに8枚の本件野球カード2が入ったものが1パック当たり200円で、8枚入りパックが30個入ったボックスが1個当たり6000円でそれぞれ販売されている。これらのパックには、様々な選手のカードがアットランダムに入っており、本件野球カード2がパックに封入される際、同一のパックに全く同一のカードが入ることのないよう配慮して、封入作業が行われている。カードの購入者が、友人や他のカード収集家とカードを交換し、未入手のカードを収集することがよく行われており、また自分が贔屓にしている球団や選手のカードを購入すれば、それ以外の球団や選手のカードも必然的にその手元に集まってくる構造になっており、自然とプロ野球全体やプロ野球全選手に対する興味が喚起されるようになっている。
 本件野球カード2は、概ね4月及び7月の年2回、版(バージョン)を異にして販売されるが、例年は1年間で合計800種類程度のカードが販売され、平成17年についてみると、4月版(ファーストバージョン)では603種類のカードが、8月版(セカンドバージョン)では359種類のカードが販売された。
 カードの表一面に選手の競技中の写真が大きく掲載され、カード裏面に小さな選手写真(主として正面写真)及び選手のプロフィール紹介、コメント等が掲載されている。特別な種類のカード(プレミアムインサートカード)として、カード上に各選手直筆サインが付されたものや、アンダーシャツ、バット及びジャージー等の各選手が使用した野球用具の一部がカードに貼り付けられているもの(メモラビリアカード)もある。平成17年8月版のカードでは、前記359種類のカード中23種類のカードがプレミアムインサートカードであり、このプレミアムインサートカードは1種類当たり50枚ずつ作成された。なお、このような直筆サイン入りカードや「メモラビリアカード」等のプレミアムインサートカードを企画するにあたっては、各選手の協力が必要となる。
 ベースボール・マガジン社は、自社の週刊ベースボール等の雑誌取材用に、球団の了承の下で同社が撮影した写真中から選択してカード表面に使用しており、また選手名鑑の写真又は同社が雑誌取材用に撮影した写真中から選択してカード裏面に使用している(乙1)。
ウ 野球ゲームソフトについての使用料の分配の実績
 被告らは、野球機構を通じて、ゲームソフトメーカーに対し、野球ゲームソフトにつき、選手の氏名及び肖像の使用を許諾している。
 野球ゲームソフトにおける選手等の氏名及び肖像の使用料は、球団名等の使用料と併せて、プロ野球12球団に対して支払われている。なお、ゲームソフトメーカーからプロ野球12球団に対して支払われる使用料については、野球機構が一定割合を留保した後に各球団に対する支払がされている。平成8年度ないし同17年度の間にプロ野球12球団に対して支払われた使用料は別表「野球ゲームソフト使用料実績表」の「球団への配分額総額」欄記載のとおりであり、うち1球団につき球団及び所属選手が受けた配分額は同表の「1球団当たりの配分額総額」欄記載のとおり、同配分額から球団及び所属選手が受けた配分額はそれぞれ同表の「1球団当たりの球団の留保額」及び「1球団当たりの選手への配分額総額」欄記載のとおり、1球団当たりの配分額に同球団の所属選手への配分額総額が占める割合は同表の「1球団当たりの選手への配分額/1球団当たりの配分額」欄記載のとおり、使用料総額に12球団の選手への配分額の合計額が占める割合は同表の「12球団全体の選手への配分額/使用料総額」欄記載のとおりであった(なお、概ね、プロ野球12球団は、所属選手に対し、選手の氏名及び肖像を使用する野球ゲームソフトについて、球団が配分を受けた使用料のうち、平成8年度第1四半期は20パーセントを、同年度第2四半期ないし平成11年度第2四半期は30パーセントを、同年度第3四半期以降は40パーセントを配分してきた。)。
 したがって、平成8年度ないし同17年度において、野球ゲームソフトに対する球団名、球団マーク並びに所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾したことに対する使用料のうち、選手らが配分を受けた金額は、1球団当たり約600万円ないし約2000万円であり、1球団当たりの配分額に所属選手への配分額総額が占める割合は年平均で約26ないし約40パーセント、使用料総額に12球団の選手への配分額の合計額が占める割合は年平均で約21ないし約32パーセントであった。
 平成9年及び同17年に、ゲームソフトメーカーから各球団に対して支払われた使用料のうちから、各原告に対してその氏名及び肖像の使用料として配分された金額は、別表「野球ゲームソフト使用料配分表」の「各選手への配分額」欄記載のとおりであり、平成9年においては、当時在籍していた各原告に対し、年間約4000円ないし約26万円が配分され、平成17年においては、各原告に対し、約22万円ないし約28万円が配分された(乙16)。
エ 本件野球カード等(野球ゲームソフトを除く。)に対する選手の氏名及び肖像の使用許諾に関する被告らの運用
(ア) 被告巨人軍における運用(乙5、53)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告巨人軍は、昭和36年に、所属選手15名の氏名を使用したゆかたを製造販売することについて使用許諾し、昭和39年にも、長嶋選手及び王選手の図柄を使用した衣類などの繊維製品を製造販売すること並びに長嶋選手、王選手及び柴田選手の写真を用いた運動靴等の製造販売について、それぞれ使用許諾した。これ以降、コマーシャルへの出演、広告での利用、ポスター又はキャラクターグッズについての使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大し、現在に至っている。
 カルビーとの間では、最も古いものでは、昭和47年11月14日に、当時のいわゆるV9ナインである、長嶋選手、王選手、堀内選手、高田選手、森選手、高橋選手、柴田選手、土井選手及び末次選手等合計16名の氏名及び肖像の使用について契約がされた。それ以来、カルビーとの契約は、指定される選手の範囲にも変更がされながら、今日まで更新されている。
 ベースボール・マガジン社との間の契約は、平成3年に始まり、今日まで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告巨人軍は、必要に応じ、所属選手の意見を聴くなどして、使用する写真について所属選手の希望を反映させている。選手の写真が使用されたグッズについても、選手にサンプルを交付したりしている。
 本件野球カードについては、カルビー及びベースボール・マガジン社の両社から本件野球カードのサンプル提供を発売時に受けることが慣例となっているが、それを選手にも交付し、選手の氏名及び肖像の使用が適正になされていることを、同被告及び所属選手において確認している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 カルビーとの間の昭和47年の契約においては、長嶋選手以外の選手には、総額から被告巨人軍のマーク使用料(商標権の使用許諾料)を控除した金額の約75パーセントに相当する分配金を所属選手に対し支払った。
 現在は、所属選手に対し、本件野球カードにつき、使用料から被告巨人軍のマーク使用料を控除した金額の8割に相当する分配金を所属選手に対し支払っている。
 選手の氏名及び肖像の使用許諾料については、コマーシャルへの出演、新聞の広告、テレビ番組、ポスター等への写真又は映像の使用などにつき、被告巨人軍が契約したものは、原則として8割の分配金を選手に対し支払っている。
 なお、被告巨人軍がコマーシャルへの選手出演などに関して許諾したものにつき8割の分配金を選手に支払う運用は、以前から行われていたが、同被告は、平成6年1月及び平成7年、それまでの運用を踏まえ、所属選手に対し、氏名及び肖像の使用許諾料の分配割合について「お知らせ」と称する文書を作成して配付した。
(イ) 被告ヤクルトにおける運用(乙6、41)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告ヤクルトは、昭和56年、若松選手等14名について、親会社であるヤクルトの飲料のCMに出演させ、同選手らの肖像の使用を許諾した。
 また、被告ヤクルトは、カルビーに対し、本件野球カード1について、所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾してきている。
 さらに、被告ヤクルトは、ベースボール・マガジン社に対し、本件野球カード2について、所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾してきている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告ヤクルトでは、基本的に同被告が所属選手の肖像の使用について判断している。
 本件野球カードに関し、被告ヤクルトは、カードに登場する選手の写真を選択しており、一々所属選手の承諾を得ているわけではないが、必要に応じ、所属選手の希望ないし意見を聴き、本件野球カードに使用する肖像の明暗及び鮮明度等について、所属選手の希望ないし意見を反映させている。
 なお、本件野球カード2の場合、ベースボール・マガジン社のカメラマンが撮影した写真を野球カードに使用しているが、本件野球カード1については、球団指定業者がカルビーに支給している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 被告ヤクルトは、昭和56年、若松選手等14名に対し、親会社であるヤクルトの飲料のCM出演に対する肖像使用料の分配を行い、また、遅くとも平成6年から、本件野球カード1についての氏名及び肖像の使用につき、少なくとも原告古田選手ら12名の所属選手に対し、肖像使用料の分配を行った。
 その後、被告ヤクルトでは、球団が選手の肖像を使用して使用料収入を得た場合、基本的に球団と選手が5対3の割合で収入を分配している。
 本件野球カード1については、使用料収入のうち、3割を球団に、7割を選手に分配している。
 本件野球カード2については、球団と選手が1対1の割合になるよう分配している。
 なお、スポーツメーカー等とのアドバイザー契約については、契約金額のうち2割を球団に、8割を選手に分配している。
(ウ) 被告ベイスターズにおける運用(乙7、弁論の全趣旨)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告ベイスターズは、平成7年ころ以前は自ら、同年ころ以降はその100パーセント子会社である株式会社ベイスターズサービスを介して、第三者に対し、その所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾してきた(以下、株式会社ベイスターズサービスが介在する場合を含む。)。
 被告ベイスターズは、平成10年ころ、ネスレ・ジャパン・グループに対し栄養・機能食品「ミロ」(飲料)の広告宣伝のため、また日清食品株式会社に対し生タイプめん「ごんぶと」の広告宣伝のため、球団の商標権及び佐々木主浩選手の肖像の使用許諾を行った。
 コマーシャルへの出演、広告での利用、ポスター又はキャラクターグッズについて、選手の氏名及び肖像の使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大を続けている。
 被告ベイスターズは、昭和48年以来、カルビーとの間で、本件野球カード1に所属選手の氏名及び肖像の使用許諾を行ってきており、指定される選手の範囲にも変更がされながら、今日まで更新されている。
 被告ベイスターズと本件野球カード2についての所属選手の氏名及び肖像の使用許諾契約も、平成3年に締結して以降現在まで更新されてきている。
 これ以外の選手の氏名及び肖像の使用許諾契約として、テレビCM、交通機関のプリペイドカード、ポスター掲出及び顧問契約(アドバイザー契約)等がある。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告ベイスターズでは、球団が本件野球カードに登場する選手を選定し、使用する写真についても、カルビーの本件野球カード1の場合には、球団発行の月刊誌「月刊ベイスターズ」のカメラマンが横浜スタジアムで撮影したものを貸与し、本件野球カード2については、ベースボール・マガジン社において、同社取材陣がキャンプ地や球場で撮影したものを使用している。
 特別な種類のカードの場合(バットカード等)を除いて、被告ベイスターズが本件野球カードに使用する写真について対象選手の了解を得ることはないが、サンプルとして、本件野球カードの現物を対象となる所属選手に1人当たり30枚ずつ支給している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 被告ベイスターズは、平成16年度までは、前記bのとおり、本件野球カードに関して対象となる所属選手への分配金を支払うのでなく、本件野球カードを30枚ずつ現物支給してきた。
 さらに、選手会に対し、協力金という名目で、分配金を上回る支払を行ってきた。
 もっとも、被告ベイスターズは、平成17年度から、選手個人に対し、球団8割、選手個人2割の割合で、肖像使用料の分配金を支払っている。
 これ以外の場合の選手の氏名及び肖像の使用料については、本件契約条項に基づく被告ベイスターズの内規に従い、選手と同被告との間で分配を行っている。すなわち、一定額以下の場合は選手が使用料全額を受領することとし、一定額を超えるときは、20パーセントを被告ベイスターズが受領し、80パーセントを選手に分配している。
(エ) 被告ドラゴンズにおける運用(乙8)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
(a) 被告ドラゴンズは、昭和53年2月13日、株式会社CBCミュージックに対し、音楽レコード「熱血大島ぶちかませ」の製作販売に関し球団商標、球団マーク並びに大島康徳選手の肖像、写真及び筆跡等の使用を許諾した。
(b) 被告ドラゴンズは、同年3月、株式会社創通エージェンシーとの間で覚書を交わし、鈴木孝政選手ら3人の所属選手の肖像の使用を許諾した。
(c) 被告ドラゴンズは、同年3月22日、二川株式会社に対し、球団マーク、ペットマーク及び大島康徳選手ら2人の所属選手のサインを使用した洋傘の製造販売について許諾した。
(d) 被告ドラゴンズは、昭和54年3月16日、日本ハム株式会社に対し所属選手5人の肖像のハム及びソーセージに対する使用を許諾した。
(e) 被告ドラゴンズは、カルビーとの間で、所属選手につき、本件野球カード1について選手の氏名及び肖像の使用を許諾する契約を締結し、以降、被告ドラゴンズとカルビーとの間の契約は、指定される選手の範囲等にも変更がなされながら、今日まで継続している。
(f) 被告ドラゴンズは、平成3年1月、ベースボール・マガジン社と間で、本件野球カード2につき所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾するとの契約を締結し、以降この契約は更新されながら、今日に至っている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 本件野球カードについては、被告ドラゴンズは直接製作に関与していない。ただし、本件野球カードに使用される写真は、記者会に所属するスポーツ新聞社やベースボール・マガジン社からのものに限定して選択されている。また、両社から本件野球カードのサンプル提供を受けた上、選手に渡している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 前記a(a)の大島康徳選手の肖像等の使用に関しては、使用料のうち3割を被告ドラゴンズが取得し、大島選手に残りの7割を支払った。
 前記a(b)の鈴木孝政選手ら3名の肖像の使用に関しては、ライセンシーからカラー写真及びデラックスカードの製造販売使用料が支払われ、被告ドラゴンズは、受領した使用料のうち2割を取得し、残りをこの3選手で等分した。
 前記a(c)の大島康徳選手ら2人のサインの使用に関しては、被告ドラゴンズはこれによって得た使用料の2分の1を取得し、残りをこの2選手で等分した。
 前記a(d)の日本ハム株式会社に対する所属選手5人の肖像の使用に関しては、被告ドラゴンズはこれによって得た使用料の2分の1を取得し、残りをこの5選手で等分した。
 前記a(e)のカルビーとの間の契約のうち、昭和53年の契約においては、肖像権使用料として選手15名分を一括して現金で支払うこととされており、使用料の2分の1を球団が取得し、残り2分の1を出演した星野選手ら合計15名で等分した。
 現在、本件野球カード1については、被告ドラゴンズがロゴ、マスコット及びキャラクターの使用料として一定額の最低保証料を受け取り、カード化対象選手に対してはカード化1回ごとに一定額を支払っており、このカード化1回ごとの支払については、球団に取り分がない。
 本件野球カード2については、基本的に総売上額の6パーセントを12等分した金額が、ロゴ等の許諾料及び肖像権料としてベースボール・マガジン社から被告ドラゴンズに支払われ、同被告は、個々の対象選手に対し、ベースボール・マガジン社から受領した金員の半額を対象選手数で割った金額の金員を、それぞれ分配している。
 なお、被告ドラゴンズは、コマーシャルへの出演などに関し、昭和55年11月1日付で、収入総額が10万円未満の場合は選手に全額を支払い、同総額が10万円以上50万円未満の場合は、球団に10パーセント、選手に90パーセント、同総額が50万円以上の場合は、球団に20パーセント、選手に80パーセントそれぞれ分配するとの文書を作成した。
 その後、被告ドラゴンズは、カード(選手の取り分50パーセント)及びグッズ(選手の取り分10パーセントないし100パーセント)等、商品の種類により分配割合の相違はあるが、時代に即した商品が登場するごとに分配割合を取り決め、使用料のうちの相当割合を選手に対して分配している。
(オ) 被告タイガースにおける運用(乙9)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告タイガースにおける、所属選手のコマーシャルへの出演並びに所属選手の氏名及び肖像の広告、ポスター及びキャラクターグッズへの使用は、対象商品及び対象選手ともに年々拡大し、今日に至っている。
 例えば、平成16年度の実績では、監督、コーチ及び選手の氏名及び肖像を使用した商品、広告並びにCM出演等の被告タイガースに対する申請が合計497件あった。
 被告タイガースは、昭和48年、カルビーとの間で、本件野球カード1についての選手の氏名及び肖像の使用許諾契約を締結し、それ以来、対象となる選手の範囲等は変わっているものの、今日まで契約が更新されてきた。
 被告タイガースは、平成3年、ベースボール・マガジン社との間で、本件野球カード2についての所属選手の氏名及び肖像の使用許諾契約を締結し、以後この契約は現在まで更新されてきた。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告タイガースは、必要に応じ、所属選手に本件野球カードに使用される写真を見せ、意見を聴いている。また、同被告は、本件野球カードを含む選手の写真が使用されたグッズについては、所属選手に対し、できる限りサンプルを交付している。
 本件野球カードについても、被告タイガース自体は直接その製作に関与してはいないものの、各社から必ずカードのサンプルの提供を受け、これを選手に交付し、選手の氏名及び肖像の使用が適正になされていることを同被告及び選手の双方で確認している。
 なお、上記各社が写真を被告タイガース(実際は、選手写真の撮影及び管理を受託している株式会社阪神コンテンツリンク)から購入するケースもある。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 被告タイガースでは、現在、氏名及び肖像の使用許諾料について、一般商品化の場合には、原則として、ロイヤリティ総額を同被告と氏名及び肖像が使用された選手の間で折半し、さらに折半されたものを対象選手で等分して各選手に分配している。
 本件野球カードについても、原則として、上記の一般商品化の場合と同様である。ただし、契約の相手方と協議の上、選手分配金を決定する場合もある。
 以上のようにして算出された選手の分配金については、被告タイガースから各選手へ振り込む際、それが分配金の支払であることが分かるように支払っている。
(カ) 被告カープにおける運用(乙10)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告カープは、昭和53年ころ、森永乳業などとの間で、山本選手及び池谷選手等の氏名及び肖像について使用許諾契約を締結した。
 これ以降、数多くの選手の氏名及び肖像についての使用許諾契約が締結されているが、いずれも契約の相手方から被告カープに対し契約申入れがなされ、契約の交渉及び締結を同被告が行っている。なお、被告カープは、選手に対し、契約の相手方と協議した契約内容及び選手に対する分配金等の説明をし、選手の了解を得ている。
 被告カープとカルビーとの間における本件野球カード1についての選手の氏名及び肖像の使用に関する契約は、昭和48年に開始され、ベースボール・マガジン社との本件野球カード2についての選手の氏名及び肖像の使用に関する契約は、平成3年に開始され、それぞれ現在に至るまで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 本件野球カードに氏名及び肖像を使用される選手が誰になるかということや、本件野球カードの数量及び種類に関しては、カルビー、ベースボール・マガジン社がそれぞれ決定し、被告カープに申込みがなされる。商品の校正、監修等の商品のチェックに至るまでの一切は同被告によってなされ、選手がこれらの過程に関与することはない。
 本件野球カード2については、主としてベースボール・マガジン社のカメラマンがキャンプ、オープン戦又は公式戦で撮影した写真を、被告カープで審査した上使用している。本件野球カード1については、新聞社からカルビーが借用した写真が使用されている。
 被告カープでは、本件野球カードの試作品ができた段階で、各社から試作品の提供を受け、写真を使用された各選手に当該試作品が必要か否かを確認し、必要と答えた選手に当該試作品を提供している。そのため、各選手は、当然どのような写真が本件野球カードに使用されているのか認識することが可能である。また、新たに本件野球カードに登場する選手については、本件野球カードが出来上がった時点で本件野球カードの内容と分配金等について説明している。そのため、選手は自分の氏名及び肖像が本件野球カードに使用されていることを十分に認識している。
 また、これまでに、所属選手が被告カープに対して、本件野球カードに自己の写真が使用されたことについて異議等を唱えたことはない。選手からはむしろ、「次のカードはいつ出るの」や「僕のカードはないのですか」といったような、本件野球カードへの自己の氏名及び肖像の使用を希望するような声がよく聞かれる。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 本件野球カード1の分配金については、カルビーと被告カープ間の契約において所属選手の肖像がカード化されるごとに支払われる一定金額を同被告から選手に対し支払っている。
 また、本件野球カード2について、被告カープでは、通常のカードについては、契約金額の6割を選手に分配金として支払っている。ただし、オールスターゲーム、交流戦及びプロモーション用等の、通常のカード以外のカードについては対象選手に対し使用料全額を支払っている。
 なお、被告カープでは、本件野球カードのような複数選手を対象とした契約以外の、例えば特定選手についてのコマーシャル契約、アドバイザリー契約又は映像使用契約等の契約については、原則として使用料の8割を分配金として対象選手に支払っている。
(キ) 被告ファイターズにおける運用(乙11)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告ファイターズにおいては、昭和58年ころ、西崎幸広、田中幸雄、松浦宏明、島田直也及び芝草宇宙の5選手につき、氏名及び肖像を使用したキーホルダー並びにマグカップの製造・販売がされていた。
 以来、コマーシャルへの出演、広告宣伝活動への利用並びにグッズ製造及び販売についての選手の氏名及び肖像の使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大し、今日に至っている。
 カルビーとの間の本件野球カード1に関する選手の氏名及び肖像の使用許諾契約は、昭和48年に開始された。同年には日拓ホームフライヤーズとして張本勲、大杉勝男、千藤三樹男及び新美敏ら4選手についての氏名及び肖像の使用許諾契約がされた。なお、被告ファイターズは、昭和49年にも、カルビーとの間で、前年と同じく4選手についての使用許諾契約をした。それ以来、カルビーとの契約は、指定される選手の範囲等にも変更がされながら、今日まで更新されている。
 被告ファイターズとベースボール・マガジン社との間の本件野球カード2に関する選手の氏名及び肖像の使用許諾契約は、平成3年に始まり、以後今日まで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 本件野球カードについては、基本的には被告ファイターズの全選手が登場するが、一部の選手の写真素材のみを使用する場合には、各社の希望に応じて同被告が選手を選択している。なお、氏名及び肖像の使用料の支払については、被告ファイターズの選手会(北海道日本ハムファイターズ選手会)役員も承知しており、対象選手を選出するに当たり、選手個人から事前の承諾は得ていない。
 また、本件野球カードに使用される写真素材は、特に野球カード用に撮影されたものではない。本件野球カード1の場合には、被告ファイターズと撮影について業務委託契約を交わしている球団専属のオフイシャルカメラマンが撮影し、球団が管理している写真素材を使用し、本件野球カード2の場合には、ベースボール・マガジン社のカメラマンが「週刊ベースボール」編集用に撮影したものを使用しているが、一部同被告保有の写真素材を貸与している。
 また、被告ファイターズでは、カルビー及びベースボール・マガジン社から、完成した本件野球カードのサンプル品提供を受けており、カードのために写真素材を使用された各選手に対して当該サンプル品を配布している。したがって、同被告に所属する選手は、当然どのような写真素材が本件野球カードに使用されているのかを認識している。
 そして、このように、本件野球カードに選手の氏名及び肖像が使用されていることは、当然のこととして選手から受け容れられている。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 被告ファイターズにおいては、10年以上前から、本件野球カードについて同被告が受領した使用許諾料の3割を選手に対し分配している。かかる扱いについては、被告ファイターズの選手会の役員も承知している。
 また、この分配金の支払割合が選手によって異なることはなく、全選手に対して一律上記割合で分配を行っている。そして、氏名及び肖像の使用料は、被告ファイターズから各選手に対して明細書を添付して分配しており、問題なく受領されている。
(ク) 被告ライオンズにおける運用(乙12)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告ライオンズにおける、野球選手契約に基づく選手の氏名及び肖像の商業的使用については、本件野球カード以外では、球団創設時の昭和54年より、田淵選手、東尾選手及び土井選手等について、サインボールや色紙などについて氏名及び肖像の使用許諾がされている。
 それ以来、選手のコマーシャルへの出演、選手肖像の広告での利用並びにポスター又はキャラクターグッズについての選手の氏名及び肖像の使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大し、今日に至っている。
 被告ライオンズは、カルビーとの間で、本件野球カード1につき、所属選手の氏名及び肖像の使用許諾契約を締結してきた。被告ライオンズとカルビーとの間の契約は、指定される選手の範囲等にも変更がありながら、今日まで更新されている。
 被告ライオンズは、平成3年、ベースボール・マガジン社との間で、本件野球カード2について所属選手の氏名及び肖像の使用許諾契約を締結し、この契約は今日まで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告ライオンズは、運用として、本件野球カードのカード化対象となる選手から承諾を受けるようにしており、また必要に応じて使用する写真についても、選手の希望を反映させており、選手の写真が使用されたグッズについても(レギュラークラスになると相当な種類になる。)、なるべく選手にサンプルを交付している。
 本件野球カードについても、被告ライオンズが直接その製作に関与するわけではなく、選手の写真もスポーツ新聞などが撮影したものが多いが、カルビー及びベースボール・マガジン社から必ず本件野球カードのサンプル提供を受けて、選手に交付し、選手の氏名及び肖像の使用が適正になされていることを、同被告及び選手において確認している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 昭和54年の被告ライオンズとカルビーとの間の契約においては、総ライセンス料から同被告のマーク使用料(商標権の使用許諾料)を控除した額のうち、約80パーセントに相当する分配金が同被告から各選手に対して支払われていた。
 現在、被告ライオンズでは、氏名及び肖像の使用許諾料として、運動具メーカーとのアドバイザリー契約、CM出演料などについては、原則として8割の分配金を、本件野球カードについては5割の分配金を、それぞれ各所属選手に対して支払っている。
 また個人を特定できない団体写真等については、被告ライオンズから西武ライオンズ選手会に上記と同額の支払を行なっている。
 なお、被告ライオンズから選手への分配金振込みの際には、分配金の支払であることが分かるようにして支払っている。
(ケ) 被告マリーンズにおける運用(乙13)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告マリーンズは、昭和60年12月、有藤選手、落合選手及び村田選手の氏名及び肖像をテレホンカードに使用することを許諾した。
 それ以来、選手のコマーシャルへの出演、選手肖像の広告での利用並びにポスター又はキャラクターグッズについての氏名及び肖像の使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大し、今日に至っている。
 被告マリーンズとカルビーとの間の、本件野球カード1についての選手の氏名及び肖像の使用許諾契約は、指定される選手の範囲等が変更されながらも、今日まで更新されている。
 被告マリーンズとベースボール・マガジン社との間の本件野球カード2に関する契約は、平成3年に始まり今日まで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 被告マリーンズでは、必要に応じて使用する写真について、選手の希望を反映させており、選手の写真が使用されたオリジナルグッズについては、選手にサンプルを交付するようにしている。
 本件野球カードについても、被告マリーンズ自体が直接その製作を行うわけではないが、カードに登場する選手の選定に関しては、同被告における球団担当者が各社と相談して決めている。
 また、本件野球カードの写真については、ベースボール・マガジン社については同社が、カルビーについては被告マリーンズがそれぞれ撮影した写真を使用している。
 被告マリーンズでは、両社から必ず本件野球カードのサンプル提供を受け、選手にサンプルを30枚ないし100枚程度を交付し、選手の氏名及び肖像の使用が適正になされていることを、同被告及び選手において確認している。
 サンプルの確認に際しては、所属選手から「もっと良い写真をカードに使用してほしい」といった声が聞かれることもあり、被告マリーンズでは、必要に応じて使用写真について選手の希望を聞き、かつ本件野球カードのサンプルを交付している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 平成9年のカルビーとの契約については、被告マリーンズは、総額から同被告のマーク使用料(商標権の使用許諾料)を控除した額を10名の所属選手で等分した額の分配金を、各選手に支払った。
 また、被告マリーンズは、現在、氏名及び肖像の使用許諾料について、所属選手に対し、コマーシャルへの出演、新聞の広告又はテレビ番組若しくはポスター等への写真若しくは映像の使用などについては、原則として、8割の分配金を支払っている。
 本件野球カード1については、被告マリーンズとカルビーとの間の契約で、同被告の所属選手がカード化されるごとに一定額が球団に支払われることとなっており、球団から選手に対しては当該金額が分配金として支払われている。なお、球団のマーク等の使用料についてはカルビーから被告マリーンズに別途支払われている。
 また、本件野球カード2については、ベースボール・マガジン社から被告マリーンズが受ける契約金額のうち2割の分配金が選手に支払われている。
 なお、被告マリーンズから各選手へ分配金を振り込む際には、分配金の支払であることが分かるように支払われている。
 このように、被告マリーンズでは、遅くとも昭和61年ころから、所属選手の氏名及び肖像の使用許諾料について、選手の利益を尊重し、相当割合の分配をしている。
(コ) 被告オリックスにおける運用(乙14)
a 所属選手の氏名及び肖像の使用許諾
 被告オリックスは、平成元年ころ、本件契約条項に基づいて、神戸市営地下鉄Uラインカードなどに所属選手の氏名及び肖像の商業的使用を許諾した。
 以来、コマーシャルへの出演、広告での利用又はポスター若しくはキャラクターグッズについての選手の氏名及び肖像の使用許諾は、対象商品及び対象選手ともに拡大し、現在に至っている。
 被告オリックスは、カルビーに対し、本件野球カード1への選手の氏名及び肖像の使用を許諾してきており、その内容(指定される選手、人数、許諾料等)が変更されながら、今日まで更新されている。
 被告オリックスとベースボール・マガジン社との間の本件野球カード2への選手の氏名及び肖像の使用に関する契約は、平成3年に始まり今日まで更新されている。
b 氏名及び肖像の使用における選手及び球団の関与
 本件野球カードに氏名及び肖像を使用される選手の選定に関しては、制作・販売会社が希望選手を被告オリックスに申請し、同被告がその時点におけるチーム状況(選手の成績等を含む。)を考慮した上で、当該選手の氏名及び肖像をカード化することの可否を決定している。
 本件野球カードに使用される写真は、本件野球カード1の場合、球団契約カメラマンが球団広報誌又は日程告知ポスター等に利用することを目的として撮影した写真の中から、カード化にふさわしいものを、被告オリックスがカルビーに対して有償で貸与している。
 本件野球カード2については、被告オリックスから撮影許可を受けた、ベースボール・マガジン社カメラマンが「週刊ベースボール」編集用に撮影したものを使用している。
 本件野球カードに使用する写真について、被告オリックスが逐一対象選手の了解を得ることは原則として行っていない。ただ、近年は販売促進のため選手に対して本件野球カードへの直筆サインを依頼することが多く、この場合該当選手は発売前に本件野球カードに自己の氏名及び肖像が使用されていることを当然認識している。また、被告オリックスでは、各社から必ず本件野球カードのサンプル提供を受けて対象選手に交付し、その際に、肖像使用料の分配金振込日を選手に通知している。そのため、カード化対象選手は全員が、カードに自分の肖像が使用されていることを認識している。
c 氏名及び肖像の使用料の分配
 被告オリックスは、所属選手に対し、カルビー及びベースボール・マガジン社との間の本件野球カードに関する契約で得た使用料の総額から75パーセントの分配金を支払っている。この分配率は、同被告が平成4年度に実施した、「選手肖像権分配の改定」に沿ったものである。なお、平成元年ないし同3年には、使用料の約80パーセント相当の分配金が対象選手に支払われていた。
 なお、本件野球カード以外のアドバイザリー契約、コマーシャル出演又は球団グッズ(カレンダー等、球団販促物は除く)等に関しても被告オリックスが契約したものについては、選手の氏名及び肖像の使用料の約80パーセント相当の分配金が対象選手に支払われている。
 選手への分配金は、1月ないし6月の契約のものについては7月末日、7月ないし10月の契約のものについては11月末日、11月ないし12月の契約のものについては翌年2月末日に支払われており、その際、「選手肖像権使用許諾明細(肖像が使用された期間、契約先、対象商品名、配分額、振込総額、振込日を記載)」を振込日までに各選手へ通知している。
オ 原告らの態度
 原告らのうちの一部の選手等は、平成14年8月26日ころ、野球ゲームソフトに同選手らの氏名及び肖像を使用したコナミ株式会社及び同社に使用を許諾した野球機構に対し、野球ゲームソフトの販売の差止め等を求める訴えを東京地方裁判所に提起したが(当庁平成14年(ワ)第18466号)、後にコナミ株式会社に対する訴えを取り下げた。原告らは、本件に関し、本件野球カードにつき、原告ら選手の氏名及び肖像を使用したカルビー及びベースボール・マガジン社に対して氏名等の使用の差止めを求めてはいないし、また、原告ら選手の氏名等を使用したゲームソフトメーカーに対して氏名等の使用の差止めを求めてもいない。
 平成12年ころ、選手会ないし選手らのうちの一部の者が、各球団による氏名及び肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは、選手側からかかる管理に対する明示的な異議はなく、原告らも、異議なくその氏名及び肖像を使用させ、分配金を受領してきた(甲8、弁論の全趣旨)。
(2) 以上認定の事実を前提に、判断する。
ア 前記1(1)ア認定のとおり、統一契約書が初めて作成された当時の本件契約条項に相当する規定は、メジャーリーグの大リーグ契約条項を参考にして起案されたものであった。なお、当時、我が国においては、そもそも「パブリシティ」(選手の氏名及び肖像が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利)という概念及びその用語になじみがなく、大リーグ契約条項を参考に本件契約条項に相当する規定を起案するに際し、英語の「publicity purposes」を「宣伝目的」と翻訳したものである。
 そして、前記1(1)イ(ア)認定のとおり、統一契約書が制定される以前から、球団ないし日本野球連盟が他社に所属選手の氏名及び肖像を商品に使用すること(商業的使用ないし商品化型使用)を許諾することが行われていたから、本件契約条項に相当する当初の規定も、かかる実務慣行のあることを前提にして起案されたものと解される。したがって、統一契約書が制定された昭和26年当時、選手の氏名及び肖像の利用の方法について、専ら宣伝のために用いる方法と、商品に付して顧客吸引に利用する方法とを明確に峻別されていたとは考え難く、「宣伝目的」から選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用の目的を除外したとする事情を認めることはできない。
 しかるに、本件契約条項は、その後のパブリシティ利用に対する理解の変化にもかかわらず、その内容が変更されないまま、球団と所属選手との間で毎年同一内容で締結し直され(更改)、今日に至っているものである。
 前記1(1)イないしエ認定のとおり、各球団においては、本件契約条項に基づいて、各球団が所属選手の氏名及び肖像の使用を第三者に許諾し得るとの理解の下に、古くは被告巨人軍の昭和36年の例にもあるとおり、長期間にわたり、野球ゲームソフト及び本件野球カードを始めとする種々の商品につき、所属選手の氏名及び肖像の使用許諾を行ってきたものである。とりわけ、カルビーに対する使用許諾は昭和48年にも遡り、かつ、相当長期間にわたるものである。また、野球ゲームソフトにしても、昭和63年にまで遡ることができる。
 このように、野球ゲームソフト及び本件野球カードについては、長きにわたり選手において自らの氏名及び肖像が使用されることを明示又は黙示に許容してきたのであって、また、前記1(1)イ(イ)ないし(エ)認定のとおり、これらの商品は消費者の定番商品として長らく親しまれてきたものであり、プロ野球の知名度の向上に役立ってきたものである。
 ところで、このようにして制定された本件契約条項2項では、所属選手の肖像の利用に基づいて球団が受けた金銭につき、選手が適当額の分配金を受ける旨が規定され、利用行為が有償でされる場合のあることが予定されているが、同項の実質的内容も、その前身である当初の条項から変わっていないものである。
 そして、前記1(1)ウ及びエ認定のとおり、各球団は、許諾先から受領した使用料の全部又は一部を氏名及び肖像の使用がされた選手に対して分配してきたが、前記1(1)オ認定のとおり、選手会ないし選手らのうちの一部の者が各球団による氏名及び肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは、選手側から明示的な異議はなかったものである。
イ 以上の事情を総合的に勘案し、本件契約条項1項に「球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」とあって利用の態様に限定が付されていないことにもかんがみると、同項にいう「宣伝目的」は広く球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的をいい、「宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」とは、球団が自己ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的でする利用行為を意味するものと解される。
 そして、選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用の場合においても、球団ないしプロ野球の知名度の向上に役立ち、顧客吸引と同時に広告宣伝としての効果を発揮している場合があるから、選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用も、それが球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する限り、これに含まれるというべきである。なお、「いかなる方法で」という文言は、あくまで上記のような「宣伝目的のため」にされるものでなければならない。また、球団が第三者に対して使用許諾することも含まれる。
 本件契約条項1項にいう「球団が指示する場合」についても、このように球団が自己ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的で行う場合を意味するものであるから、球団の指示も、従前の運用に照らし、一般的・包括的なもので足り、撮影の内容、日時及び場所等につき具体的な指示がされることまでは要しないというべきである。
 そして、本件契約条項が選手の肖像の利用に関する、球団と所属選手との間に存する唯一の定めであり、前記1(1)イ(ア)認定の統一契約書制定前に販売された玩具の例をみても明らかなように、選手の肖像を広告宣伝に利用する場合でも、販売する商品に商業化目的で利用する場合でも、肖像に当該選手の氏名を付して利用する形態が多く存在することにかんがみると、本件契約条項1項の「肖像権、著作権等」のうちに、選手の氏名を利用する権利も含まれると解すべきである。また、本件契約条項1項にいう「写真、映画、テレビジョン」は、例示にすぎないものと解される。
 そして、本件契約条項3項は、明文をもって、選手が所属球団の承諾なしに公衆の面前に出演すること等をしない不作為義務を定めている。なお、氏名及び肖像が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利が元来選手の人格権に根ざすものであることにかんがみれば、球団において合理的な理由なく承諾しないことがあってはならない。
ウ 以上によれば、本件契約条項は、その1項において、具体的であれ包括的であれ球団が指示する場合に所属選手の撮影の応諾義務があることを定めるとともに、それにより撮影された選手の写真の肖像及び選手の氏名について、球団において、球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的である限りいかなる方法によって使用したとしても、選手は異議を述べない義務を定めたものと解される。また、その2項において、球団がライセンシーから使用の対価を受けた場合に選手が適当な対価の分配を受け得る権利を定め、その3項において、選手が球団の承諾なく公衆の面前に出演しない等の不作為義務を定めたものである。
 よって、本件契約条項により、商業的使用ないし商品化型使用の場合を含め、球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的の下で、選手が球団に対してその氏名及び肖像の使用を独占的に許諾したものと解するのが相当である。
 そして、このように解することで、球団が多大な投資を行って自己及び所属選手の顧客吸引力を向上させている状況に適合し、投資に見合った利益の確保ができるよう、かかる顧客吸引力が低下して球団又は所属選手の商品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手の氏名及び肖像の使用態様を管理するという球団側の合理的な必要性を満たし、交渉窓口を一元化してライセンシーの便宜を図り、ひいては選手の氏名及び肖像の使用の促進を図ることができるものである。
エ ところで、本件野球カードに使用される選手の写真は、球団の指示に基づいて撮影されたものである。また、野球ゲームソフトに使用される選手の写真及び動画も、球団の指示に基づいて撮影されたものである。
 本件野球カードは、長い歴史があり、一般の消費者が容易に入手することができる身近な商品であり、また、野球ゲームソフトも消費者が応援する球団の選手の立場になってプロ野球を疑似体験し得るものであって、いずれも被告ら球団ないしプロ野球の知名度の向上に役立っていることは明らかである。よって、被告ら球団において、所属選手の氏名及び肖像をこれらに使用許諾することは、本件契約条項1項にいう「宣伝目的のため」の「利用」に当たるということができる。
(3) 被告らの主張について
 被告らは、本件契約条項1項の「肖像権、著作権等のすべてが球団に属し」との文言及び同3項を根拠に、選手から球団への氏名及び肖像の商業的利用権の譲渡があった旨主張する。
 しかし、氏名及び肖像の商業的利用権の譲渡がされているのであれば、利用の目的がいかなるものであったとしても、選手が異議を述べる余地はないはずであるにもかかわらず、本件契約条項1項は、宣伝目的のための利用に関して選手が異議を述べないことを定めているのみである。また、同3項の不作為義務は、逆に球団の承諾があれば選手は主体的に商品の広告等に関与することができることを定めたものといえるところ、球団が所属選手から氏名及び肖像の商業的利用権の譲渡を受けた場合よりも、球団が使用許諾を受け、債権的権利を有するにすぎない場合の方により親和的である。後者のように解する場合には、独占的許諾という強い意義を有する根拠規定となるものである。なお、同3項の規定は、球団にとって不都合な態様による選手の氏名及び肖像の利用の排除を確保するための定めであると推認できるところ、球団にとって不都合な態様による選手の氏名及び肖像の利用を排除するためには、その譲渡ではなく、その独占的使用許諾でも十分目的を達成することができる。
 そうすると、本件契約条項は、選手が所属球団に対し、その氏名及び肖像につき、独占的に使用許諾することを定めるものにすぎず、選手が氏名及び肖像の商業的利用権を所属球団に譲渡することを定めるものとはいえない。
(4) 原告らの主張について
ア 原告らは、氏名及び肖像の広告宣伝型利用と商品化型利用の性質の違い等を指摘して、両者を峻別し、本件契約条項においては前者のみが予定され、後者は予定されていないと主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕(2))。
 しかしながら、そもそも両者を明確に区別することは難しく、氏名及び肖像の商品化型利用の場合においても、球団等の知名度の向上に役立ち、顧客吸引と同時に広告宣伝としての効果を発揮している場合がある。このように、氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用と広告宣伝型使用とは、互いに排斥し合う関係にあるとはいえない。また、統一契約書の文言上も、両者は明確に区別されているとまではいえないし、前記1(1)イ(ア)及び(2)認定のとおり、統一契約書制定前にも商品化型利用の実績があり、同条はこの実績を踏まえて両者を区別することなく起案されたものである。そして、同条にいう「宣伝目的」の意義も前記1(2)のとおり広く解することが可能である。加えて、前記1(2)のとおり、野球ゲームソフト及び本件野球カードは、商品に原告ら選手の氏名及び肖像が使用されているもの(商業的使用ないし商品化型使用)ではあるが、これらが球団ないしプロ野球の知名度の向上に役立っていることは明らかであり、本件契約条項1項にいう「宣伝目的」を充足するものである。
 したがって、原告らの主張する上記の違い等は、前記判断を左右するものではない。
イ (ア) 原告らは、メジャーリーグにおける取扱いとの比較をもって、選手らの氏名及び肖像に係る権利は各球団に譲渡されることはなく、本件契約条項にいう「宣伝目的」には「商品化利用」の目的が含まれないなどと主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕(3)ア)。
(イ) 米国では、メジャーリーグの選手の肖像のパブリシティ使用に関し、ニューヨーク・メッツの選手アート・シャムスキー(Art Shamsky)らが、ギャラン社(Garan,Inc.)に対し、同選手らの集合写真をプリントした衣料の販売が同選手らのパブリシティ権を侵害すると主張して、ニューヨーク州ニューヨーク郡の最高裁判所に訴えを提起した事件がある。
 平成7年(1995年)、同裁判所は、同事件において、ギャラン社が衣料(ジャージー)を販売すること等を禁止し、アート・シャムスキーらが引き続いて損害賠償の審理を受けることができる旨等の裁判(Summary judgement)をしたが(167 Misc.2nd 149,632 N.Y.S.2nd 930)、同裁判中で、マーチン・ショーンフェルド判事(MartinSchoenfeld,Justice)は、ギャラン社がニューヨーク・メッツから選手の氏名及び肖像について使用許諾を受けていなかったことを認定した一方で、大リーグ契約条項に関して、次のとおり判示した(甲14)。
a 「原告らが1969年メッツチーム写真についてのすべての権利を統一契約書第3条(c)によりメッツ球団に譲渡している故に本即時訴訟は却下されるべきであるとする被告の主張は、いくつかの理由で認めることはできない。まず、球団は選手の写真を宣伝目的でのみ使用することができると考えられ、本件での使用はその範疇ではないと考えられることである。(中略)実際、バルチモア・オリオールズ対大リーグ選手会事件判決(中略)において、裁判所は、(『球団は、試合での選手のプレイのテレビ放送について排他的な権利を保有する』としつつ)、統一契約書第3条(c)について次のように述べている。『(冒頭略)1947年に、第3条(c)の規定が統一契約書に付加された(中略)第3条(c)は、球団に対して、選手の肖像を写真、映画及びテレビに撮影し、そして、それらを宣伝目的のために利用する権利を与えているに過ぎない。』」(英文3頁右欄、訳文6頁)
b 「次に、第3条(c)の第2段落は、各選手が自己のアイデンティティーの商業的利用権を保有することを明確に規定している(『シーズン中』に限っての規定であるとしても)。スポーツ選手に関しては、彼等が商業的推薦を行う等の権利を保有しており、これをチームに譲渡していないというのが共通の認識である。」(英文4頁左欄、訳文6頁)
c 「契約解釈の問題として、原告らは1969年メッツチーム写真を使用する権利をメッツ球団に譲渡しておらず、その結果依然としてその写真についての彼らそれぞれの個人的なパブリシティ権を保有している。裁判所は、上記バルチモア・オリオールズ事件で次のように述べている。『選手のパブリシティ権は、彼らが球団のテレビ放映に関する権利の行使による場合にのみ先占されるに過ぎない。(中略)会社が、選手の同意を得ることなく、自社の製品の宣伝のために選手の名前を使ったり、ベースボールカードに選手の写真を載せたり、また選手の記録に基づくゲームを販売したりすれば、このような行為は選手のパブリシティ権の侵害を構成するであろう。』」(英文4頁左欄、訳文7頁)
d 「被告は、『プレイに関する選手のパブリシティ権は制限を免れることはできない』とする上記バルチモア・オリールズ対大リーグ選手会事件判決(中略)に依拠する。しかし、(特定の)プレイについてのパブリシティ権は、選手固有のアイデンティティーの商業的利用権とは異なっている。バルチモア事件の判決は、球団が選手の同意を得ることなくその選手の氏名や肖像を商業的に利用したなら、その選手は『自己のアイデンティティーについてのパブリシティ権を行使することを否定されない』と明確に述べている。」(英文5頁左欄、訳文8頁)
(ウ) 米国メジャーリーグの選手会元初代事務局長マーヴィン・J・ミラー(Marvin J. Miller)の陳述書(甲15)中には、昭和41年(1966年)に選手会が発足した当時、ごく少数のスーパースターの選手のみが肖像の使用を許諾していただけであったこと、同年以前では、球団が選手の同意を得ることなく、かつ選手に使用料を支払わずに、選手の氏名及び肖像を商業的に使用する権利を許諾していたが、選手会の活動によってかかる取扱いが変更されたこと、同年ころ、野球カードについては、大部分の選手との間の個別の許諾契約によっていたが、この取扱いも選手会の活動によって変更されたことが記載されている。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)認定のように、米国においては、大リーグ契約条項は、球団に対して、選手の肖像を写真、映画及びテレビに撮影し、そして、それらを宣伝目的のために利用する権利を与えている規定にすぎず、選手は自己の氏名及び肖像を商業的に利用する権利を球団に譲渡しておらず、球団は選手の許諾なく選手の氏名及び肖像を商業的に利用したり、他人にかかる商業的利用を許諾したりすることができないものと一般に解されている。
 しかしながら、米国のメジャーリーグと我が国のプロ野球12球団とでは、いずれもプロの野球興業を行う点では共通するものの、そもそも両者は全く別個の団体ないし組織であるから、メジャーリーグにおいて上記のような理解がされているとしても、直ちに我が国の本件契約条項の解釈においても同様に解されなければならないというものではない。
 そして、大リーグ契約条項と本件契約条項とでは、@ 球団に属する権利につき、前者においては単に「当該写真におけるすべての権利」とあり、肖像権やパブリシティ権についての明示の言及がないが、後者においては「このような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべて」とあって、肖像権が明示されている点、A 選手が、球団の同意なく商品の広告に関与等をすることを禁じられる期間につき、前者においてはシーズン期間中に限られるが、後者においては特段限定がない点、B 選手が商品の広告に関与等をすることについて球団が同意を与えるか否かにつき、前者においては球団又はプロ野球の合理的な利益がない場合には同意権が留保されないとしているのに、後者においては特段の制限が付されていない点、C 球団が「宣伝目的」のために選手の肖像を利用した場合の対価支払義務につき、前者においては契約上の義務として定められていないのに対し、後者においては契約上の義務として定められている点がそれぞれ異なるものである。少なくとも、上記B及びCの相異点は、契約条項の解釈に影響を与え得る重要なものである。
 そして、本件契約条項は、大リーグ契約条項を参考にして起案されたものではあるが、本件契約条項が制定される以前から商品化型使用の許諾がされており、かかる実務慣行があることを前提に本件契約条項が制定され、選手においても球団による商品化型使用の許諾をその後も長期間にわたり許容してきたという事情があることは、前記(2)のとおりである。
 よって、大リーグ契約条項の解釈と同様に我が国のプロ野球の本件契約条項を解釈しなければならないものではなく、両規定の解釈の内容は相互に異なり得るものである。
ウ (ア) 原告らは、Jリーグにおける統一契約書の規定を参酌して、本件契約条項によって商業化目的による選手の氏名及び肖像の使用権限が定められていない等と主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕(3)イ(ア)及び(イ))。
(イ) この点、Jリーグの日本サッカー協会選手契約書(プロA契約書)8条では、選手の肖像等の使用に関する定めとして、次のとおりの規定がある(甲10)。
「1項 クラブが本契約の義務履行に関する選手の肖像、映像、氏名等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。
2項 選手は、クラブから指名を受けた場合、クラブ、協会およびリーグ等の広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下「広告宣伝等」という)に原則として無償で協力しなければならない。
3項 クラブは、選手の肖像等を利用してマーチャンダイジング(商品化)を自ら行なう権利を有し、また協会、リーグ等に対して、その権利を許諾することができる。
4項 選手は、次の各号について事前にクラブの書面による承諾を得なければならない。
(1) テレビ・ラジオ番組、イベントへの出演
(2) 選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)
(3) 新聞・雑誌取材への応諾
(4) 第三者の広告宣伝等への関与
5項 第3項において、選手個人単独の肖像写真を利用した商品を製造し、有償で頒布する場合、または前項の出演もしくは関与に際しての対価の分配は、クラブと選手が別途協議して定める。」
(ウ) 前記(イ)認定のとおり、Jリーグの選手契約書においては、選手の氏名及び肖像について、広告宣伝と商品化とを分けて規定しているが、商品化の場合にもクラブが権利を有するとされている。また、そもそもJリーグとプロ野球とではプロスポーツとしての分野及び歴史が異なり、選手の氏名及び肖像を利用するのに適当な方法・態様も異なるものである。そして、プロ野球の統一契約書が最初に制定され、したがって、本件契約条項に相当する規定が設けられた昭和26年の時点から数十年が経過した後、比較的最近になって、Jリーグの統一契約書が定められたものである。
 他方、前記1(2)のとおり、本件契約条項の規定は、同規定に相当する規定が設けられた当時からその内容が変更されずに現在にまで至り、それに基づく商品化型の使用許諾がされている。これらのとおり、Jリーグとプロ野球とでは、規定の解釈の基礎となる事情が異なるのであって、本件契約条項の解釈に当たっては、起案の当時の事情及びその後の実情を勘案する必要がある。
 そうすると、Jリーグの統一契約書において選手の氏名及び肖像を広告宣伝に用いる場合と商業化の目的で用いる場合とを区別して取り扱っているとしても、両者を区別することなく起案され、それが今日まで変更されずに来たプロ野球における統一契約書の規定においても同様に解釈しなければならないというわけではない。
(エ) この結論は、原告らの横浜マリノスの「契約書別冊」(甲11)に係る主張(前記第3の1〔原告らの主張〕(3)イ(ウ))についても同様である。
(オ) なお、JOCにおいて、アマチュアスポーツ選手の氏名及び肖像を集中的に管理することを中止したこと(甲26)や、平成13年に提示された野球日本代表選手覚書(甲16)等も、統一契約書の規定の解釈において参考とすることはできない。
エ (ア) 原告らは、韓国の裁判所の判決をもって、我が国の本件契約条項においても、選手らの氏名及び肖像の使用に係る権利は球団に属しない旨を主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕(3)ウ)。
(イ) 韓国においては、球団から権利の委任を受けるなどして野球ゲームソフトの製作、供給及び販売を行うゲームソフト会社に対し、同国のプロ野球選手123名が携帯電話用野球ゲームソフトの製作、供給及び販売の差止め並びに損害賠償を請求する訴えを提起した。ソウル中央地方裁判所は、平成18年4月19日、原告らの請求を一部認容して、ゲームソフト会社に当該選手らの氏名の使用、氏名を使用したゲームソフトの製作、供給及び販売の停止並びに損害賠償等を命じる判決をし、その理由中で、原告となった選手らが球団と野球選手契約を締結するに当たって自己の肖像権及び著作権等の権利が球団に属することを認めた事実を認めるに足りる証拠はないと判断した(甲36)。そして、球団と選手らとの間で結ばれている統一契約書のうち、選手らの肖像等の使用について定めた16条の内容は、本件契約条項の内容とほぼ同一である(弁論の全趣旨)。
(ウ) しかし、韓国のプロ野球球団と我が国のプロ野球12球団とでは、いずれもプロの野球興業を行う点では共通するものの、そもそも両者は全く別個の団体ないし組織であるから、前者において選手の氏名の使用につき前記(イ)のような判断がされたとしても、直ちに我が国の本件契約条項の解釈においても同様に解されなければならないことにはならない。
 のみならず、同判決は、肖像権等の帰属について判断しているものの、球団が選手らから氏名等の使用許諾をする権利を受けていたか否かについての判断はされていない。そして、同事件における被告らが球団等から明示的に選手の氏名等の使用許諾を受けていたか否かが明らかでなく、統一契約書の約定の文言の吟味を行った上で結論を導いたのか不明である。
 また、前記判決は第一審におけるものであって、同判決が確定したか否か、あるいはこのような判断が韓国のプロ野球界において一般的なものか否かは全く不明なものである。
 そうすると、韓国の裁判所において前記のとおりの判決がされたからといって、前記判断を左右するに足りない。
オ 原告らは、各球団が当初選手らに対し、氏名及び肖像の使用料の分配を行っていなかったことなどを理由として、野球機構や各球団は、選手の氏名及び肖像の使用を本件契約条項に基づくものと理解していなかった旨主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕(3)エ)。
 しかし、被告ら球団が本件契約条項に基づいて選手の氏名及び肖像につき第三者に使用許諾してきたことは前記(1)ウ及びエ認定のとおりであり、被告ベイスターズ以外の被告らは、従前から現実に分配金を支払ってきた。
 そして、選手らにおいても、これを異議なく受領し、本件野球カード等への氏名及び肖像の使用状況を認識しながら、選手会ないし選手らのうちの一部の者が各球団による選手の氏名及び肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは、長きにわたり自らの氏名及び肖像が使用されることを明示又は黙示に許容してきたものである。
 よって、原告らの上記主張は採用することができない。
(5) 小括
 以上のとおり、本件契約条項は、商業的使用ないし商品化型使用の場合を含め、球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的の下で、選手が球団にその氏名及び肖像を独占的に使用許諾することを定めたものと解される。
 野球ゲームソフト及び本件野球カードへの選手の氏名及び肖像の使用は、球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的で行われ、本件契約条項1項の「宣伝目的」に含まれるから、被告らは、野球ゲームソフト及び本件野球カードにつき、原告らの氏名及び肖像を第三者に使用許諾する権限を有するものである。
2 争点(2)ア(不合理な附合契約)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 各球団と選手との契約関係
 野球協約45条ないし47条に基づき、NPBを構成するプロ野球12球団は、同一の体裁の統一契約書を用いて選手と野球選手契約を締結することが要求され、参稼報酬及び特約条項を除いては、当事者間の合意によっても約定の内容を変更することができない(乙50、51)。従前、特約条項を挿入した例はあるが、肖像権に関する特約を締結した事例はない(乙53、弁論の全趣旨)。
 そして、統一契約書29条では、各球団及び構成する選手が、野球協約を諒承しかつ従うことが要求されている(甲5、乙51)。
イ 野球協約の規定の内容(乙50、51)
(ア) 49条(契約更新)
 「球団はこの協約の保留条項にもとづいて契約を保留された選手と、その保留期間中に、次年度の選手契約を締結する交渉権をもつ。」
(イ) 52条(支配下選手)
 「選手契約を締結した球団は、所属連盟会長に統一契約書を提出し、その年度の選手契約の承認を申請しなければならない。(中略)連盟会長が選手契約を承認したときは、契約承認番号を登録し、その選手がその球団の支配下選手となったことをただちに公示するとともに、コミッショナーへ通告しなければならない。」
(ウ) 53条(契約の効力)
 「支配下選手の公示手続きを完了したとき、選手契約の効力が発生する。また、選手は年度連盟選手権試合およびその他の試合に出場することができる。」
(エ) 58条(自由契約選手)
 「選手契約が無条件で解除され、またはこの協約の規定により解除されたと見做された選手あるいは保留期間中球団の保留権が喪失しまたはこれを放棄された選手はその選手、球団、所属連盟会長のいずれかの申請にもとづいて、コミッショナーが自由契約選手として公示した後、いずれの球団とも自由に選手契約を締結することができる。」
(オ) 66条(保留の手続き)
 「球団は毎年十一月三十日以前に、所属連盟会長へその年度の支配下選手のうち次年度選手契約締結の権利を保留する選手(以下、契約保留選手という)、任意引退選手、(中略)を全保留選手とし、全保留選手名簿を提出するものとする。契約保留選手の数は七十名を超えてはならない。(以下略)」
(カ) 68条(保留の効力)
 「保留球団は、全保留選手名簿に記載される契約保留選手(中略)にたいし、保留権を持つ。
 全保留選手は、外国のいかなるプロフェッショナル野球組織の球団をも含め、他の球団と選手契約にかんする交渉を行ない、または他の球団のために試合あるいは合同練習等、全ての野球活動をすることは禁止される。
 ただし、保留球団の同意のある場合、その選手の費用負担によりその球団の合同練習に参加することができる。(以下略)」
(キ) 69条(保留されない選手)
 「支配下選手が契約保留選手名簿に記載されないとき、その選手契約は無条件解除されたものと見做され、(以下略)」
(ク) 70条(球団の契約更新拒否)
 「契約保留選手が、全保留選手名簿公示の年度の翌年一月十日以後この協約の第九十二条(参稼報酬の減額制限)に規定する参稼報酬減額制限額以上減額した参稼報酬を契約条件として選手契約の更新を申し入れ、球団がこれを拒否した場合、球団はその選手にたいする保留権を喪失し、その選手はコミッショナーに自由契約選手指名を請求することができる。」
(ケ) 71条(契約保留手当)
 「契約保留選手にたいする保留が翌年一月十日以後におよぶときは、一月十日から第七十四条(契約保留期間の終了)に規定する保留期間の終了、または第九十四条(参稼報酬調停)による参稼報酬調停申請の日まで、その選手の前年度の参稼報酬の三百六十五分の一の二十五パーセントを一日分として、契約保留手当が経過日数につき日割計算で一か月ごとに支払われる。(以下略)」
(コ) 73条(保留を侵す球団)
 「全保留選手が、他の球団から契約にかんする交渉を受け、または契約を締結し、そのために保留球団との公式交渉を拒否する疑いのある場合、保留球団は他の球団およびその選手を相手とし、所属連盟会長に事実の調査を文書により請求を行った上で、コミッショナーへ提訴することができる。
 (第2項略)
 違反の事実が確認されたとき、コミッショナーは違反球団ならびに違反選手にたいして制裁金を科し、かつ、その球団とその選手との契約を永久に禁止し、その交渉に関係した球団の役職員にたいして、その善意を挙証しない限り適当な期間その職務を停止させる。」
(サ) 74条(契約保留期間の終了)
 「(1)契約保留が全保留選手名簿公示の年度の翌々年一月九日まで継続されたとき、その選手は資格停止選手となる。
 (2)球団が契約保留選手の保留権を喪失、あるいは放棄した場合、契約保留期間は終了する。(以下略)」
(シ) 196条(FAの定義)
 「日本プロフェッショナル野球組織にフリーエージェント(以下FAという)制度を設ける。FAとは、同組織が定める資格条件を満たした選手のうち、いずれの球団とも選手契約を締結できる権利を有する選手をいう。」
(ス) 197条(資格取得条件)
 「(1)選手は入団して初めて出場選手登録された後、その日数がセントラル野球連盟およびパシフィック野球連盟の同じ年度連盟選手権試合期間中(以下シーズンという)に百四五日を満たし、これが九シーズンに達したときに、FAとなる資格(以下FA資格という)を取得する。((2)略)」
(セ) 200条(資格取得の反復)
 「FA宣言選手は、その後日本プロフェッショナル野球組織に所属するいずれかの球団で選手として稼働して、一シーズン出場選手登録百四五日を満たし、これが四シーズンに達したときに、FA資格を反復して取得できるものとする。(以下略)」
(ソ) 205条(球団の補償)
 「日本プロフェッショナル野球組織に所属する他の球団に在籍していたFA宣言選手と選手契約を締結した球団は、当該選手の旧球団にたいし金銭および選手を補償しなければならない。
 (1)金銭による補償は、当該FA宣言選手が最初のFAの権利行使の場合は旧球団と契約した統一契約書に明記された前参稼報酬年額の八〇%、反復のFAの権利行使の場合は旧球団と契約した統一契約書に明記された前参稼報酬年額の四〇%とする。
 (2)選手による補償は、当該FA宣言選手と選手契約した球団が保有する支配下選手のうち、外国人選手および同球団が任意に定めた二八名を除いた選手名簿から旧球団が当該FA宣言選手一名につき各一名を選び、獲得することができる。(中略)ただし、旧球団が選手による補償を求めない場合は、前記1号の金額に五〇%を加算した金額の補償をもって、選手による補償にかえることができる。
 [補償例▽最初のFAに対するもの・人的補償あり=旧年俸の80% ・人的補償なし=旧年俸の120% ▽反復のFAにたいするもの・人的補償あり=旧年俸の40% ・人的補償なし=旧年俸の60%]
 (3号及び4号略)」
(タ) 206条(球団の獲得選手数)
 「球団がFA宣言選手のうち直前シーズンまで日本プロフェッショナル野球組織に所属する他の球団に在籍していた選手と次年度の選手契約を締結できるのは二名までとする。
 ただし、公示されたFA宣言選手数が二十一名から三十名の年度は三名まで、同三十一名から四十名の年度では四名まで、同四十一名以上の年度では五名まで選手契約を締結することができる。」
ウ 統一契約書の規定(甲5、乙51)
(ア) 19条(試合参稼制限)
 「選手は、本契約期間中、球団以外のいかなる個人または団体のためにも野球試合に参稼しないことを承諾する。ただし、コミッショナーが許可した場合はこの限りでない。」
(イ) 20条(他種のスポーツ)
 「選手は、相撲(中略)その他のプロフェッショナル・スポーツと稼働について契約しないことを承諾し、また球団が同意しない限り、蹴球(中略)その他のスポーツのいかなる試合にも出場しないことを承諾する。」
(ウ) 25条(選手による契約解除)
 「選手は次の場合解約通知書をもって、本契約を解除することができる。
 (1) 本契約による参稼報酬、その他の支払いが約定日から十四日を超えて履行されない場合。
 (2) 球団が選手の所属するチームを正当な理由なく、年度連盟選手権試合に引き続き六試合以上出場させることができなかった場合。」
(エ) 28条(解約と報酬)本文
 「本契約が解除された場合は、稼働期間中一日につき、第三条に約定された参稼報酬の金額の三百分の一に相当する金額が報酬として支払われ、(以下略)。」
(オ) 31条(契約の更新)
 「球団が選手と次年度の野球選手契約の締結を希望するときは、本契約を更新することができる。
 (1) 球団は、日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きにより、球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り、明後年一月九日まで本契約を更新する権利を保留する。(以下略)
 (2) (略)」
(カ) 35条(任意引退選手)
 「選手が参稼期間中または契約保留期間中、引退を希望する場合、所属球団にたいし引退したい理由を記入した申請書を提出する。(中略)その選手の引退が正当なものであるとコミッショナーが判断する場合、その選手の引退申請は(中略)受理され、(中略)選手契約は解除される。」
エ 選手の氏名及び肖像の使用状況
 選手会が成立した昭和60年以降、選手らが所属球団の指示に基づくのではなく自らの発意でテレビ番組に出演し、所属球団に対しては選手会を通じて報告をしたことがあった。その際、球団から異議はなかった。
 また、被告ドラゴンズの立浪和義選手が、平成8年、自らの発意でアサヒビールのCMに出演したが、所属する被告ドラゴンズには依頼者側から出演依頼がされ、同被告の承諾を得たことがあった(乙23)。
(2) 以上の事実を前提に、判断する。
ア 原告らは、選手と球団との間には、情報(知識)、経験及び交渉力の格差があり、肖像の利用に関する本件契約条項の内容を交渉によって変更する可能性が欠如している旨主張する。
 なるほど、前記2(1)認定のとおり、選手は、最初の入団時はドラフト制度によって、その後は契約更改を拒絶して野球選手契約が終了したとしても球団の保留制度によって、野球選手契約の相手方たる球団を選択する自由が制限されている。
 また、FA制度も、年間の出場選手登録日数(一軍登録日数)が145日以上となるシーズンを9シーズン経た場合に初めて利用資格を得ることができるものであり、最低でも最初の入団時から9年間を経る必要がある。
 加えて、移籍後の新球団は代替選手と有力選手の場合には得てして高額に上る補償金を提供する必要があり、新球団の運営に与える影響が大きい。
 そうすると、選手がFA制度を利用して、野球選手契約の相手方たる球団を選択することは、必ずしも容易ではない。
 そして、原告ら選手が労働組合たる選手会を結成しているとしても、ストライキ権の行使は、ファンのプロ野球に対する人気を削ぐ結果を招き、ファンの人気を維持して初めて興業が成り立つプロ野球の特質に反することは明らかであるから、選手らがストライキを行って本件契約条項の改正を実現することは、一般企業の労働組合がストライキを行って労働協約等の改正を実現する場合に比し、容易ではない。
 さらに、前記2(1)ア認定のとおり、野球協約45条ないし47条に基づいてNPBを構成するプロ野球12球団は同一の体裁の統一契約書を用いて選手と野球選手契約を締結することが要求され、参稼報酬及び特約条項を除いては、当事者間の合意によっても約定の内容を変更することができないから、選手が野球選手契約の相手方たる球団を選択することができたとしても、入団後に本件契約条項の定めに拘束される状況には変わりがない。もっとも、特約条項を挿入した事例があることに照らせば、氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することも不可能とはいえない。
 そうすると、野球選手契約の一方当事者たる選手による契約の相手方の選択の可能性は制限されており、選手の側から氏名及び肖像の使用に係る規定の変更を求めることは、必ずしも容易なものとはいえない。
イ しかしながら、本件契約条項3項では球団の承諾がある場合に選手が商品の広告に関与することができる旨が定められているところ、前記2(1)エ認定のとおり、実際に、選手が球団から明示又は黙示に承諾を得てテレビに出演したり、商品の広告に関与する等の事例があった。
 本件契約条項2項では球団が所属選手の氏名及び肖像の使用を許諾したことにより受けた使用料の当該選手への分配を定めているところ、前記1(1)ウ認定のとおり、野球ゲームソフトに関しては、使用料の分配をする実務が確立されており、その分配率も年々増加している。また、前記1(1)エ認定のとおり、本件野球カードに関しても、被告ベイスターズ以外の被告らにおいては、選手に対して使用料の分配をする実務が確立され、使用料の分配率は球団によって異なるものの、現実に分配金が支払われている。なお、被告ベイスターズにおいても、従前は、選手に対し、本件野球カードの現物を支給するに止め、分配金を支払っていなかったが、平成17年度から、本件野球カードに係る使用料の2割に相当する額の金員を支払うようにライセンス実務を変更した。
 さらに、前記1(1)エ認定のとおり、各球団においては、選手の肖像等を使用許諾するに際し、対象選手から希望ないし意見を聴いたり、サンプルを配付したりして、使用を許諾された商品に選手の意向が可及的に反映されるよう配慮し、選手においても本件野球カード等への氏名及び肖像の使用状況を認識しているものである。また、前記1(1)オ認定のとおり、平成12年ころに選手会ないし選手らのうちの一部の者が各球団による選手の氏名及び肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは、選手側から明示的な異議はなかったものである。
 そして、前記2(1)ア認定のとおり、実際に統一契約書に特約条項を挿入した事例があることに照らせば、氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することも不可能とはいえない。また、選手らが球団と個別に又は集団で交渉することにより、球団と選手らとの間の使用料の分配率の増額変更を実現する余地もあり得るものと解される。
 なお、プロ野球の野球選手契約において統一的な取扱いがされているのは、球団の間で資金力に強弱のある状況の下で、プロ野球の発展と球団及び個人の利益の保護ないし助長を図る点にあるが(野球協約3条)、プロ野球全体の発展のためには一定程度の集合的処理が望ましい。本件契約条項の定めは、球団が多大な投資を行って自己及び所属選手の顧客吸引力を向上させている状況に適合し、投資に見合った利益の確保ができるよう、かかる顧客吸引力が低下して球団又は所属選手の商品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手の氏名及び肖像の使用態様を管理するという球団側の合理的な必要性を満たし、交渉窓口を一元化してライセンシーの便宜を図り、ひいて選手の氏名及び肖像の使用の促進を図るものであるから、各球団において本件契約条項を適用し、これに従った運用を行うことには、一定の合理性がある。
ウ 以上のとおり、本件契約条項は、選手による契約の相手方の選択の可能性は制限され、かつ選手が氏名及び肖像の使用に係る規定の変更を求め得る余地は小さいものではあるが、選手が主体的に商品広告等へ関与する途が開かれており、かつ現に球団から使用料の分配が行われており、交渉により球団と選手らとの間の使用料の分配率の増額変更を実現する余地もあり得るものである。そして、本件契約条項全体を前記1認定のとおり解釈する限り、これが不合理であるとまではいい難い。
 そうすると、本件契約条項は、球団と選手との間の野球選手契約において付款たる地位を占めているとしても、不合理な内容の附合契約であるとはいえない。
エ 原告らが援用する早稲田大学の浦川道太郎教授の論文「プロ野球の選手契約−民法学の立場から」ジュリスト1032号(平成5年10月15日発行)21頁(甲22)においては、本件契約条項につき、「商議の余地なく附合契約の形で極めて価値の大きい選手の肖像権を一方的・無制限に球団に帰属させる契約条項については、その有効性が疑われよう。(中略)慣行上も、CM出演について、選手はCM料の一部を球団に納めねばならないようであり、肖像権の帰属と副業の規制については、時代に即したルールに改める方向で、球団と選手代表が協議すべきである。」と述べられている。
 しかし、前記1のとおり、本件契約条項は、肖像権を被告らに帰属させるものではなく、球団が独占的な使用許諾権を有するものと解釈すべきであるから、上記見解はその前提を欠く。
(3) 小括
 以上のとおり、本件契約条項の規定が公序良俗に反し民法90条により無効であるとの原告らの主張は理由がない。
3 争点(2)イ(独占禁止法違反)について
(1) 独占禁止法違反の契約の有効性
 原告は、各球団が本件契約条項に基づいて原告ら選手の肖像権を一方的に奪うことは、独占禁止法2条9項5号に基づく一般指定14項の優越的地位の濫用に当たる行為であるか、又は一般指定13項の拘束条件付取引に当たる行為であって、健全な取引秩序を乱し、かつ、公正な商慣習の育成を阻害するものとして公序良俗に反し、無効である旨を主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕)。
 しかしながら、そもそも、独占禁止法19条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。けだし、独占禁止法は、公正かつ自由な競争経済秩序を維持していくことによって一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものであり、同法20条は、専門的機関である公正取引委員会をして、取引行為につき同法19条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し、その違法状態の具体的かつ妥当な収拾、排除を図るに適した内容の勧告、差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによって、同法の目的を達成することを予定しているのであるから、同法条の趣旨に鑑みると、同法19条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである(最高裁昭和48年(オ)第1113号同52年6月20日第二小法廷判決・民集第31巻4号449頁参照)。
 本件契約条項が公序良俗に反するとはいえないことは前記2のとおりであるが、念のため、原告らの主張する独占禁止法違反の有無について、以下判断する。
(2) 独占禁止法の規定
 独占禁止法2条9項は、同項各号に該当する行為で、公正な競争を阻害するおそれがあるもので(公正競争阻害性)、公正取引委員会が指定するものを「不公正な取引方法」としており、同項4号は「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。」を、同項5号は「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」をそれぞれ「不公正な取引方法」として挙げている。
 そして、公正取引委員会は、昭和57年6月18日告示第15号により、同項を受けて「不公正な取引方法」を定めているが(いわゆる一般指定)、一般指定13項は独占禁止法2条9項4号を、一般指定14項は独占禁止法2条9項5号をそれぞれ受けて規定されたものである。
 一般指定13項は、「拘束条件付取引」として、「前二項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。」と定め、一般指定14項は、「優越的地位の濫用」として、その柱書で「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。」と定め、その3号で「相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること。」と、その4号で「前三号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること。」とそれぞれ定めている。
(3) 一般指定14項について
 まず、被告ら球団は、原告ら選手に対して優越的な地位にあり、前記2のとおり、選手がFA制度を利用したり、選手会においてストライキをすることができるとしても、その優位性は左右されるものではない。
 しかしながら、仮に原告ら選手が独占禁止法2条1項にいう「事業者」に当たるとしても、本件契約条項の規定はその内容が不合理とはいい難いものであって、前記2(2)で判示した同規定の合理性を支える事情の内容にかんがみると、氏名及び肖像を使用する正常な商習慣に照らして不当であるということはできない。
 よって、一般指定14項にいう「正常な商習慣に照らして不当」にも、同法2条9項5号にいう「自己の取引上の地位を不当に利用し」にも当たるとはいえず、また同法2条9項柱書にいう「公正な競争を阻害するおそれがある」に当たるとはいえない。
 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件契約条項の規定及びこれに従った運用は、一般指定14項に当たらず、したがって独占禁止法2条9項5号に当たらない。
 結局、一般指定14項及び独占禁止法2条9項5号を根拠とする原告らの無効主張は理由がない。
(4) 一般指定13項について
 次に、一般指定13項に該当し、独占禁止法上違法と評価される(同法19条)には、一般指定13項にいう「相手方の事業活動を不当に拘束する条件」を付して取引をする必要があるが、前記2と同様、本件契約条項は不合理とはいい難く、相手方(選手)の事業活動を不当に拘束する条件であるとまではいうことができない。
 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件契約条項の規定及びこれに従った運用は、一般指定13項に当たらず、したがって独占禁止法2条9項4号に当たらない。
 結局、一般指定13項及び独占禁止法2条9項4号を根拠とする原告らの無効主張は理由がない。
(5) なお、原告らが援用する早稲田大学の奥島孝康教授の論文「プロ野球協約と独禁法」ジュリスト1032号(平成5年10月15日発行)29ないし33頁(甲25)は、主として選手保留制度が独占禁止法に違反する違法なものである旨言及するものであって、選手の氏名及び肖像の使用について定める本件契約条項の違法性については何ら言及されていないから、同論文によって前記(3)及び(4)の結論が左右されるものではない。
4 結論
 以上の次第で、被告ら球団は、野球ゲームソフト及び本件野球カードについて、本件契約条項1項に基づいて所属選手の氏名及び肖像を第三者に使用許諾する権限を有しており、かつ同項は無効とはいえない。そうすると、原告らの本件請求は、理由がないから、これを棄却することととして、主文のとおり判決する。
 なお、長年にわたって変更されていない本件契約条項は、時代に即して再検討する余地のあるものであり、また、分配金についても各球団と選手らが協議することにより明確な定めを設ける必要があることを付言する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 中島基至
 裁判官 田邉実


(別紙)
当事者目録
原告 橋由伸
原告 上原浩治
原告 二岡智宏
原告 阿部慎之助
原告 宮本慎也
原告 度会博文
原告 五十嵐亮太
原告 古田敦也
原告 鈴木尚典
原告 三浦大輔
原告 相川亮二
原告 井端弘和
原告 岩瀬仁紀
原告 福留孝介
原告 森野将彦
原告 今岡誠
原告 赤星憲広
原告 福原忍
原告 濱中治
原告 黒田博樹
原告 新井貴浩
原告 小山田保裕
原告 小笠原道大
原告 金子誠
原告 金村曉
原告 木元邦之
原告 松坂大輔
原告 星野智樹
原告 小林雅英
原告 福浦和也
原告 渡辺俊介
原告 川越英隆
原告 阿部真宏
原告 高木康成
上記原告ら訴訟代理人弁護士 冨島照男
同 山崎卓也
同 石渡進介
同 辻哲哉
同 鎌田真理雄
同 金沢淳
同 松本泰介
被告 株式会社読売巨人軍
被告 株式会社ヤクルト球団
被告 株式会社横浜ベイスターズ
被告 株式会社中日ドラゴンズ
被告 株式会社阪神タイガース
被告 株式会社広島東洋カープ
被告 株式会社北海道日本ハムファイターズ
被告 株式会社西武ライオンズ
被告 株式会社千葉ロッテマリーンズ
被告 オリックス野球クラブ株式会社
上記被告ら訴訟代理人弁護士 中村稔
同 富岡英次
同 吉田和彦
同 相良由里子
同 奥村直樹
被告 株式会社読売巨人軍訴訟代理人弁護士 竹田稔
同 川田篤

(別紙)
関係目録
1 原告橋由伸と被告株式会社読売巨人軍
2 原告上原浩治と被告株式会社読売巨人軍
3 原告二岡智宏と被告株式会社読売巨人軍
4 原告阿部慎之助と被告株式会社読売巨人軍
5 原告宮本慎也と被告株式会社ヤクルト球団
6 原告度会博文と被告株式会社ヤクルト球団
7 原告五十嵐亮太と被告株式会社ヤクルト球団
8 原告古田敦也と被告株式会社ヤクルト球団
9 原告鈴木尚典と被告株式会社横浜ベイスターズ
10 原告三浦大輔と被告株式会社横浜ベイスターズ
11 原告相川亮二と被告株式会社横浜ベイスターズ
12 原告井端弘和と被告株式会社中日ドラゴンズ
13 原告岩瀬仁紀と被告株式会社中日ドラゴンズ
14 原告福留孝介と被告株式会社中日ドラゴンズ
15 原告森野将彦と被告株式会社中日ドラゴンズ
16 原告今岡誠と被告株式会社阪神タイガース
17 原告赤星憲広と被告株式会社阪神タイガース
18 原告福原忍と被告株式会社阪神タイガース
19 原告濱中治と被告株式会社阪神タイガース
20 原告黒田博樹と被告株式会社広島東洋カープ
21 原告新井貴浩と被告株式会社広島東洋カープ
22 原告小山田保裕と被告株式会社広島東洋カープ
23 原告小笠原道大と被告株式会社北海道日本ハムファイターズ
24 原告金子誠と被告株式会社北海道日本ハムファイターズ
25 原告金村曉と被告株式会社北海道日本ハムファイターズ
26 原告木元邦之と被告株式会社北海道日本ハムファイターズ
27 原告松坂大輔と被告株式会社西武ライオンズ
28 原告星野智樹と被告株式会社西武ライオンズ
29 原告小林雅英と被告株式会社千葉ロッテマリーンズ
30 原告福浦和也と被告株式会社千葉ロッテマリーンズ
31 原告渡辺俊介と被告株式会社千葉ロッテマリーンズ
32 原告川越英隆と被告オリックス野球クラブ株式会社
33 原告阿部真宏と被告オリックス野球クラブ株式会社
34 原告高木康成と被告オリックス野球クラブ株式会社
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