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【事件名】類似ロレックス事件
【年月日】平成18年7月26日
 東京地裁 平成16年(ワ)第18090号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成18年5月10日)

判決
原告 ロレックスソシエテアノニム
同訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 町田健一
同 木村育代
同訴訟代理人弁理士 フェリックス=ラインハルト・アインゼル
同補佐人弁理士 山崎和香子
被告 ケントレーディング有限会社(以下「被告有限会社」という。)
被告ケントレーディングブレイン株式会社(以下「被告株式会社」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 森徹


主文
1 被告有限会社は、別紙被告製品目録記載1ないし7、9及び10の各商品を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸出してはならない。
2 被告有限会社は、原告に対し、1398万6910円及びこれに対する平成16年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社は、原告に対し、4万6000円及びこれに対する平成16年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告の被告有限会社及び被告株式会社に対するその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、原告と被告株式会社との間においては、各自に生じた費用を各自の負担とし、原告と被告有限会社との間においては、原告に生じた費用の3分の1を被告有限会社の負担とし、その余は各自の負担とする。
6 この判決の第1項ないし第3項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙被告製品目録記載1ないし10の各商品を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸出してはならない。
2 被告らは、別紙被告製品目録記載1ないし10の各商品を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、2億2817万7600円及びこれに対する平成16年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、@原告が製造販売する腕時計の形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであり、被告らの製品である腕時計の形態はこれと類似し、原告の製品との混同のおそれがある、A原告の製品の形態が、原告の商品等表示として著名であり、被告らの製品の形態がこれと類似していると主張して、不正競争防止法2条1項1号又は2号、3条に基づき、製造販売等の差止め及び商品の廃棄を求めるとともに、主位的に同法4条に基づく損害賠償金の、予備的に不当利得金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実
(1) 原告は、腕時計の製造、販売を業とする会社である。
(弁論の全趣旨)
(2) 被告有限会社は、平成12年10月3日設立され、時計とその部品の輸出入販売等を目的とする有限会社であり、R・X・Wというブランド名で時計を製造、販売している。
 被告株式会社は、昭和62年2月2日設立され、食料品、香辛料の輸出入及び販売、日用品雑貨の輸出入及び販売等を目的とする株式会社である。
 Aは、両社の代表取締役である。
(争いのない事実、乙22、弁論の全趣旨)
(3) 原告は、別紙原告製品目録記載1ないし10の腕時計(以下、各製品を「原告製品1」のようにいい、原告製品1ないし10を併せて「原告各製品」という。)を製造、販売している。ただし、原告は、原告製品3及び8〜10については、現在、製造、販売をしていない。
(争いのない事実)
(4) 別紙被告製品目録記載1ないし10の製品(以下、各製品を「被告製品1」のようにいい、被告製品1ないし10を併せて「被告各製品」という。)の形態は、同目録に記載のとおりである。
 被告有限会社は、被告各製品を製造し、被告有限会社の銀座ケントレーディング店舗(東京都中央区銀座一丁目所在、以下「被告店舗」という。)及び被告有限会社のウェブサイト「RXW」(以下、自分で運営する日本語表記のもの及び英語表記のもの、並びに「楽天銀座ケントレーディング」をまとめて「被告ウェブサイト」という。)上において、被告有限会社の販売する商品として譲渡又は引渡しのために展示し、被告店舗及び被告ウェブサイトを通じて譲渡し、引き渡し、及び輸出していた。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 原告各製品の形態は、周知又は著名な商品等表示といえるか。
(2) 被告各製品の形態は、原告各製品の形態と類似するか。
(3) 被告各製品は、原告各製品との間で、混同を生じるおそれがあるか。
(4) 被告株式会社の不正競争行為
(5) 消滅時効の成否
(6) 故意過失
(7) 損害額
(8) 不当利得返還請求権の成否
(9) 差止め及び廃棄の必要性
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(周知又は著名性)
(原告の主張)
ア 商品等表示性
(ア) まとめ
 ベゼル(ケースの風防を取り囲む部分)、文字盤のレイアウト、インデックス等の形状、針の形状、ケースの形状、リューズの形状、風防及び時計バンドの形状の組合せからなる次の形態は、原告が長期間継続的かつ独占的に使用し、又は短期間であっても商品形態について強力な宣伝等とあいまって使用したことにより、原告の製品であることを示す出所表示機能を有し、不正競争防止法2条1項1号及び2号所定の「商品等表示性」を有するに至った。
@ 原告製品1、4、6及び7に共通する形態(以下「共通形態A」という。)
A 原告製品5及び8に共通する形態(以下「共通形態B」という。)
B 原告各製品の全体の形態
(イ) 共通形態Aの特徴
a 共通形態Aの特徴は、次のとおりである。
@ 文字盤は、丸い面の上に白いインデックスを配し、それぞれのインデックスは、12時の位置に大きめの逆三角形、6時、9時の位置に棒状のバーインデックス、その他の3時以外の時刻の位置に円状のドットインデックス、3時の位置にデイト表示窓が付けられている。
A 短針は、針の先にメルセデス・ベンツのエンブレムのような円形のデザインが施されていて、先がくさび形で鋭く尖っており、別色で縁取られた白色、長針はペンシル形で、先の尖った部分が辺の長い二等辺三角形のようになっていて、別色で縁取られた白色、秒針は細長い針であり、先端から3分の1ほどのところに縁取りされた白色の円形が配され、針の後端が更に小さい円形になっている。
B 風防のデイト表示窓の部分に数字を拡大するサイクロップレンズが取り付けられている。
C ブレスレットは、コマがほとんど隙間なく3列に配置され、両端のコマの幅は中央のコマのものより狭く、中央のコマの中心が両端のコマの端に位置するよう互い違いに配列されている。
b 原告は、共通形態Aを、昭和28年にサブマリーナー(原告製品7の前身)に採用して以来現在まで、長期間継続して、独占的に使用している。
(ウ) 共通形態Bの特徴
a 共通形態Bの特徴は、次のとおりである。
@ 文字盤は、黒色の面に白色のインデックスが配置され、それぞれのインデックスは、12時の位置に大きめの逆三角形、3時、6時、9時の位置にアラビア数字、その他の時刻の位置にバーインデックスが配置されている。
A 針及びブレスレットの形状の特徴は、上記(イ)aと同じである。
b 原告は、共通形態Bを、昭和28年に原告製品5に採用して以来、現在まで長期間継続して独占的に使用している。
(エ) 原告製品1(GMTマスター)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品1の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
i ベゼルの縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されている。
ii ベゼルの0(24)時の位置に逆三角形、2から22までの偶数時刻の位置にアラビア数字、奇数時刻の位置にドットが文字盤寄りに配されている。
iii ベゼルに色が付けられていて、黒一色のものと、赤と青の2色に色分けされ、数字の6と18の位置で色が切り替えられているものがある。
A 文字盤
 12時の位置に逆三角形、3時の位置にデイト表示窓、6時、9時の位置にバーインデックス、その他の位置にドットインデックスが配置されている。
B 針
i 短針は、針の先にメルセデス・ベンツのエンブレムのような円形のデザインが施されていて、先がくさび形で鋭く尖っており、別色で縁取られた白色で、「ベンツ針」又は「メルセデス針」と呼ばれている。
ii 長針は、軸受けに接する部分がやや細く、そこから先端に向かって2倍ほどの太さに広がり、その幅を保ったまま先端に向かってまっすぐ伸び、先端が、鋭くとがっているペンシル形状になっていて、別色で縁取られた白色である。
iii 秒針は、ごく細い形状で、先端から3分の1ほどのところに白い円形のデザインが施され、秒を指し示す側と反対の端に秒針と同色の小さな円形が施されている。
iv 24時間針は、文字盤ぎりぎりの長さの赤色の針で、先端に別色で縁取られた白色の三角形が付けられている。
C ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、直径約40oのスチール製である。
ii リューズの大きさは、約6oと大きめであり、リューズを上下から挟むような形で、リューズガードという台形の部分がある。
D 風防
 デイト表示窓の部分に、数字を拡大するサイクロップレンズが取り付けられている。
E ブレスレット
 コマをほとんど隙間なく3列に配置し、両端のコマの幅は中央のコマのものより狭く、中央のコマの中心が両端のコマの端に位置するよう、互い違いに配列されている。
b 原告は、昭和30年に「GMTマスター」としてRef.6542を発売して以来、現在まで、Ref.1675(発売開始昭和41年)、16750(同昭和56年)、16760(同昭和58年)、16700(同平成元年)、16710(同平成元年)の各モデルを販売してきた。
 原告製品1は、これらから、ベゼルが赤と黒であるRef.16760及び16710の一部を除いたものである。
 なお、ベゼルの素材やリューズガードの有無、ベゼルの色等細かい部分について変遷があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(オ) 原告製品2(コスモグラフデイトナ)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品2の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
 時速や生産率を読み取るための数字と目盛り(時速や生産率を読み取るためのベゼルを「タキメーター」という。)及び「UNITS PER HOUR」の文字が黒色で直接金属で作られたベゼルに刻み込まれている。
A 文字盤
i 12時の位置に王冠マーク、3時、6時及び9時の位置に角が丸みを帯びた正方形のインデックス、その他の時刻の位置に内側に向いた側が尖ったロケット形になっているインデックスが配置され、文字盤の外周に、分を表す目盛りが300分割で表されている。
ii 3時、6時及び9時の位置に同じ大きさの「インダイヤル」と呼ばれる小さな文字盤が配置され、インダイヤルの外周は、文字盤とは別の色で半径の4分の1ほどの幅に着色され、その着色された帯状の部分に、数字及び目盛りが表されている。
iii 6時の位置のインダイヤルの上部に原告の製品名である「DAYTONA」の文字が表されている。
B 針
i 短針と長針は、軸受けからまっすぐに伸び、ごくわずかに先端が軸受け部分よりも細くなっている「バーハンド」と呼ばれる形状で、針の中央に黒い線が施され、先端にわずかに黒い部分を残すが、先端約2分の1が白色になっている。
ii クロノグラフ針(スタートボタンで操作する針)は、細い針状で、先端が矢印状の形状になっており、針が指し示す側と反対の端に、リーフ形のデザインが施されている。
C ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、直径約40oのスチール製である。
ii リューズは、約6oと大きめで、リューズを上下から挟むような形で、リューズガードという台形の部分がある。
 リューズガードの上下には、クロノグラフ針を操作するためのプッシュボタンが1つずつ備え付けられている。
D ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告は、昭和63年に「コスモグラフデイトナ」としてRef.16520を発売して以来、現在まで、Ref.116520(発売開始平成13年)の各モデルを販売してきた。
(カ) 原告製品3(コスモグラフデイトナエキゾチックダイヤル)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品3の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
 タキメーター及び「UNITS PER HOUR」の文字が黒色で直接金属で作られたベゼルに刻み込まれているものと、タキメーター等の文字が白色で、黒色のプラスチック素材のベゼルに表されているものがある。
A 文字盤
i 外周に文字盤と反対色のサークルと呼ばれる帯状の部分があり、この部分に金属製の正方形に近い小さな四角形の形状のインデックスと、300分割の分を表す赤色の目盛りが配置されている。
ii 12時の位置に王冠マーク、3時、6時及び9時の位置に同じ大きさのインダイヤルが配置されている。
iii インダイヤルは文字盤と反対色で、インダイヤルの数字は丸みを帯びた太い書体であり、目盛りはインダイヤルの半径の3分の1ほどの長さのラインをインダイヤルの縁に配置して表され、文字盤の中心側の先端に四角いポイントが付いた形状である。
iv 6時の位置のインダイヤルの上部に原告の商標である「DAYTONA」の文字が表されている。
v 文字盤の色が黒色で白いサークル及び白いインダイヤルのものと、文字盤の色が白色で黒いサークル及び黒いインダイヤルのものがある。
vi この文字盤は、「エキゾチックダイヤル」又は「ポールニューマンダイヤル」と呼ばれている。
B 針
i 短針と長針は、「バーハンド」と呼ばれる形状のもので、軸受けからほぼまっすぐに伸びている。
 色は、シルバーで、先端にわずかにシルバーの部分を残すが、先端約2分の1が白色になっている。
ii クロノグラフ針は、細い針状で、先端が矢印状の形状になっており、秒を指し示す側と反対の端に、リーフ形のデザインが施されている。
C ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、直径約36oのスチール製である。
ii リューズは、約6oと大きめで、原告の王冠マークが浮き彫りされている。
 リューズの上下には、クロノグラフ針を操作するためのプッシュボタンが1つずつ備え付けられている。
D ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告は、1960年代初期に「コスモグラフデイトナ」としてRef.6239を発売して以来、Ref.6241(発売開始1960年代初期)、6262(同1960年代後半)、6264(同1960年代後半)、6263(同昭和45年ころ)、6265(同昭和45年ころ)の各モデルを販売してきたが、現在は、製造、販売をしていない。
(キ) 原告製品4(ヨットマスター)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品4の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
i べゼルは、回転式で、ケースと同色の金属製で、つや消し加工がされていて、縁はつやのある金属からなり、小さな半円状の切れ込みが連続して施されている。
ii 0(12)時の位置に逆三角形、この逆三角形とアラビア数字の10、20、30、40、50が等間隔に配置され、数字と数字の間にベゼルの幅一杯にバーインデックス各1つが、12時の位置から3時の位置までの間は1分刻みの目盛りがベゼルの幅の半分ほどの長さに配置され、いずれもベゼルにつやのある浮き彫りで表されている。
A 文字盤
 文字盤の形状は、原告製品1と同じであるが、6時の位置のバーインデックスの上に、原告の製品名である「YACHTーMASTER」の文字が赤で表されている。
B 針
 短針、長針、秒針の形状は原告製品1と同じであるが、秒針は、鮮やかな赤色である。
C 風防
 原告製品1と同じ形状である。
D ケース及びリューズ
 原告製品1と同じ形状である。
E ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告製品4は、平成4年に発売開始されたヨットマスターの製品の中のうち、平成11年に発売されたRef.16622である。
(ク) 原告製品5(エクスプローラー)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品5の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
 ベゼルは、ケースと同素材の金属でできていて、その表面がつやがありなめらかであり、文字盤側から外側に向けて緩やかに傾斜し、ブレスレットとの一体感を出している。
A 文字盤
i 黒色の文字盤に、白色で、12時の位置に逆三角形、3時、6時、9時の位置にアラビア数字、アラビア数字については、角張った形になっている現行モデル(原告製品5−1)と、丸みを帯びた形状でやや太めの線で表されている旧モデル(原告製品5−2)があるが、その他の時刻の位置にバーインデックスが配されている。
ii 12時の位置の逆三角形の下には、原告の商標である王冠マークと「ROLEX」の文字が配されている。
iii 分を表す目盛りが、文字盤の外周に白色で1分刻みに付されている。
B 針
 短針、長針及び秒針の形状は、原告製品1と同じである。
C ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、直径約36oのスチール製である。
ii リューズは、約6oと大きめで、原告の王冠マークが浮き彫りされている。
D ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告は、昭和28年に「エクスプローラー」としてRef.6350を発売して以来、現在まで、Ref.6150(発売開始昭和28年)、6610(同昭和30年)、5500(同昭和33年)、5504(同1950年代後半)、1016(同昭和46年ころ。以上、旧モデル(原告製品5−2))、14270(同平成3年。以下、現行モデル(原告製品5−1))、114270(同平成13年)の各モデルを販売してきた。
(ケ) 原告製品6(エクスプローラーU)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品6の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
 ベゼルは、ケースと同素材の金属でできていて、2から24(0)までの偶数時刻の位置にやや直線的な字体のアラビア数字が、奇数時刻の位置に数字の3分の1くらいの高さの逆三角形がベゼルの文字盤寄りの位置に配置されている。
A 文字盤
 原告製品1と同じ形状であるが、黒色のものと白色のものがある。
B 針
 原告製品1と同じ形状である。
C ケース及びリューズ
 原告製品1と同じ形状である。
D 風防
 原告製品1と同じ形状である。
E ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告は、昭和46年に「エクスプローラーU」の発売を開始したが、昭和59年にモデルチェンジをしてRef.16550の発売を開始し、平成元年にRef.16570の発売を開始した。
(コ) 原告製品7(サブマリーナー「青サブ」)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品7の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
i ベゼルの縁は、小さな半円状の切れ込みが連続して施されている。
ii 0(12)時の位置に逆三角形、この逆三角形の中に白いドットが付されている。この逆三角形とアラビア数字の10、20、30、40、50が等間隔に配置され、数字と数字の間にベゼルの幅一杯にバーインデックス各1つが、12時の位置から3時の位置までの間に1分刻みの目盛りがベゼルの幅の半分ほどの長さに配置されている。
iii ベゼルは、文字盤と同じ深みのある鮮やかな青色で、インデックスと縁の色が金色である。
A 文字盤
 形状は、原告製品1と同じであるが、文字盤の色は深みのある鮮やかな青である。
B 針
 形状は、原告製品1と同じであるが、白色以外の部分は金色である。
C ケース及びリューズ
 形状は、原告製品1と同じであるが、リューズの色は金色である。
D 風防
 原告製品1と同じ形状である。
E ブレスレット
 形状は、原告製品1と同じであるが、両端のコマはスチール、中央のコマはゴールドで色分けされている。
b 原告製品7は、サブマリーナーのうち、「青サブ」と呼ばれるモデルであり、原告は、昭和59年にRef.16803を、平成元年にRef.16613を発売し、現在まで製造、販売している。
(サ) 原告製品8(サブマリーナー初期型モデル−Ref.6200)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品8の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
i 黒色のベゼルの縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されている。
ii 0(12)時の位置に逆三角形が、この逆三角形と10、20、30、40、50のアラビア数字が等間隔で配置され、数字と数字の中間にベゼルの幅一杯にバーインデックス各1つが付されている。色は、いずれも白色である。
A 文字盤
 原告製品5と同じ形状である。アラビア数字の字体は原告製品5の旧モデル(原告製品5−2)と同じである。
B 針
 短針、長針及び秒針の形状は、原告製品1と同じである。
C ケース及びリューズ
 ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、スチール製である。リューズは大きめで、表面に原告の王冠マークが浮き彫りで施されている。
D ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告製品8は、サブマリーナーモデルの1つであり、昭和29年にRef.6200として販売開始され、昭和33年ころまで製造販売されていた。
(シ) 原告製品9(ミルガウス)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品9の全体の形態は、独特の形態である。
@ ベゼル
i 原告製品9−1のベゼルは、縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されている。0(12)時の位置に逆三角形、この逆三角形と1、2、3、4、5のアラビア数字が等間隔で配置され、その中間にくさび形のインデックス各1つが付されている。1分刻みでバーインデックスが、白色で、小さく、文字盤寄りに表されている。
ii 原告製品9−2のベゼルは、ケースと同素材の金属でできており、文字や記号、装飾等が一切されていない。
A 文字盤
i 文字盤の色は黒色で、12時の位置に王冠マーク、3時、6時、9時の位置にくさび形のインデックス、その他の時刻の位置にはドットインデックスがそれぞれ白色で配置されている。
ii 12時の位置の下には、王冠マーク及び「ROLEX」の文字が配されている。
iii 分を表す目盛りは、文字盤の外周に、白色で、1分刻みに付されている。
B 針
i 短針と長針は、軸受け部分が最も太く、先端は鋭く尖った「ドルフィン針」と呼ばれる形状のものである。
ii 秒針は、「イナズマ針」と呼ばれるジグザグの形状のもので、先端は三角形になっていて、秒を指し示す側と反対の端には小さな菱形のデザインが施されている。
C ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、スチール製である。
ii リューズは大きめで、表面に原告の王冠マークが施されている。
D ブレスレット
 原告製品1と同じ形状である。
b 原告は、昭和29年ころ、「ミルガウス」の製品名で主として医師やエンジニアなど磁場の強い場所で働く人々を対象に、原告製品9−1の販売を開始し、昭和30年ころに原告製品9−2のベゼルにモデルチェンジをして、昭和55年ころまで原告製品9−2を製造、販売した。
(ス) 原告製品10(ムーンフェイズ)の形態の特徴
a 次の各要素を組み合わせた原告製品10の全体の形態は、独特の形態である。
@ 文字盤
i 曜日及び月を表示する2つの横長の長方形をした小窓が、12時の位置の「ROLEX」の文字の下に配置されている。
ii 分を表す目盛りは、文字盤の外周に1分刻みに表されていて、その外側に日付を表す1から31までの数字が表されている。
iii 6時の位置に、ムーンフェイズと呼ばれる月齢表示がある。ムーンフェイズには、月に顔が描かれていて、月の背面の夜空に当たる部分に星が描かれ、秒を表示するための目盛りが刻まれている。
iv 12時の位置に王冠マーク、3時、9時の位置にくさび形のインデックス、6時の位置のムーンフェイズの下に小さな三角形、その他の時刻の位置に星形のインデックスが配置されている。星形のインデックスを持つダイヤルは、通称「スターダイヤル」と呼ばれており、ムーンフェイズと組み合わされたものは、「ムーンスター」と呼ばれている。
A 針
i 短針、長針ともに軸受け部分が最も太く、先端は鋭く尖った「ドルフィン針」と呼ばれる形状のものである。
ii 日付を表すための針は細く、文字盤の外周ぎりぎりまでまっすぐに伸びて、先端は三角形になっている。
iii ムーンフェイズ表示がスモールセコンドを兼ねていて、秒はそこで表示されている。
B ケース及びリューズ
i ケースは、ラウンド形と呼ばれる丸い形状で、直径約34oである。
ii リューズはやや大きめで、縦に溝が刻まれている。
b 原告製品10は、1940年代から1950年代にかけて製造販売された。
イ 周知性、著名性
(ア) まとめ
 次の事実によれば、原告各製品の前記の形態上の特徴は、遅くとも被告らがこれに対応する被告各製品をそれぞれ製造販売するまでには、全国の高級腕時計の取引者及び需要者だけでなく、一般の人々の間でも、原告の製造販売に係る商品であることを示す商品等表示として周知性及び著名性を有していたことは、明らかである。
(イ) 販売期間・販売数量
a 原告各製品の販売開始時期、販売期間は、前記ア(エ)ないし(ス)の各bのとおりである。
b 原告各製品の販売数量は、次のとおりである。
i 原告製品1
 原告製品1のRef.16710の平成12年から平成16年までの販売数量は、5708本である(甲38)。
ii 原告製品2
 原告製品2は、昭和63年から平成12年までの間に5000本以上が販売された。
 原告製品2のRef.116520の平成13年から平成16年までの販売数量は、3547本である(甲38)。
iii 原告製品3
 原告製品3は、16年間で300本以上が販売され、アンティーク市場でプレミア付きで取引がされている(甲3の10)。
iv 原告製品4
 原告製品4は、平成12年から平成16年までの間に4774本販売された(甲38)。
v 原告製品5
 原告製品5のうちRef.114270(現行モデル(原告製品5−1)の一部)は、平成13年から平成16年までの間に1万7695本販売された(甲38)。
 旧モデル(原告製品5−2)は1000本以上販売されたが、今なお中古市場で人気商品となっている(甲5の22)。
vi 原告製品6
 原告製品6のRef.16570は、平成12年から平成16年の間に1万1946本販売された(甲38)。
vii 原告製品7
 原告製品7は、33年間で3万5000本以上販売され、ロングセラー商品として高い人気を博している。
 平成12年から平成16年までのRef.16613の販売数量は2835本である(甲38)。
viii 共通
 上記の数字は正規販売代理店を通じて販売した数字である。
 それを大幅に上回る数が、並行輸入店において販売されている。
 また、原告各製品は、新品のみならず、中古品も大量に取引され、国内の時計店等において販売されている。
(ウ) 宣伝広告
 原告は、原告各製品について、各発売開始以来、世界規模で強力な宣伝活動を行っている。
 また、原告各製品は、パン・アメリカン航空やアメリカの著名なサーキットで公式時計に採用されたり、著名人が愛用したりするなど、その性能の高さやデザイン性のみならず、話題性が豊富なことから世間の人々に知られている。
(エ) 雑誌での紹介
 各発売開始以来、原告各製品を紹介した書籍や雑誌は、数多く存在する。
(オ) 被告らの主張に対する反論
a 後記被告らの主張イ(オ)(希釈化による商品等表示性の消滅)は否認する。
b 希釈化により商品等表示性が失われたというためには、同一形態の同種商品が、希釈化を生ずるに足りる程度の数量及び長期間、販売されることが必要である。
 本件において、原告製品3及び8ないし10は、販売停止後も中古市場においての人気は高く、現在まで雑誌で紹介され、実際に取引されて、需要者の目に触れており、商品等表示性は消滅していない。
 被告らが指摘する原告各製品に類似する商品は、いずれもわずかな数の時計製造業者によって原告各製品と比して極めて短い期間販売されたにすぎず、希釈化を生ずるに足りる程度の数量及び長期間販売されたという事実はない。
 また、被告らが原告各製品と同一の形状を有する製品として挙げた物(乙1〜11)の中には、原告各製品の模倣品が含まれており、これらの他社製品の存在は、商品等表示性の消滅を裏付けるものではない。
c 原告は、侵害品に対して厳しい姿勢で臨んでおり、侵害品を製造販売する第三者に対して警告書を送付し、侵害訴訟の提起をする等その案件に応じた措置を講じ、原告製品の形態が希釈化することを防止するため、できる限りの努力をしている(甲39〜48)。
(被告らの主張)
ア 商品等表示性
(ア) 原告の主張ア(ア)(まとめ)は否認する。
 共通形態A、共通形態B及び原告各製品の形態は、いずれもありふれた形状又は機能的に通常選択され得る形状であり、同種製品と識別し得る特徴はなく、周知性や著名性もない。
(イ)a 同ア(イ)(共通形態A)a(特徴)のうち、@は認める。しかし、インデックスに白色を用いることは腕時計の機能上視認性を高めるために通常選択されるありふれた形状である。また、円状、逆三角形、棒状はありふれた形状であり、12時、6時及び9時の位置に他と異なる形状のインデックスを配置したり、3時の位置にデイト表示窓を配置することは、他社製品にもみられるありふれた形状である。
 Aのうち、短針は認める。しかし、時針に円を設けその中をY字型に区切るのは、夜光塗料がたれないようにという機能的な理由から選択されたものであり、他社製品にもみられるありふれた形状である。
 Aのうち、長針は認める。しかし、白色で縁取られた点は、視認性を高めるため機能的な理由から通常選択されるありふれた形状であり、先が尖った形状になることも時刻を指し示す針の機能から通常選択される形状である。
 Aのうち、秒針は認める。この形状も、視認性を高めるために採用されているものであり、秒針の機能から通常選択される形状である。
 Bは認める。しかし、凸レンズによりデイト表示窓が拡大表示されるのは、機能的に選択されるありふれた形状である。
 Cは認める。ブレスレットの機能は、腕にしっかりと巻き付き、ずれることなく腕時計本体を支えることにある。巻き付ける部位が手首であるため、上下左右方向に柔軟に可動しつつ腕にフィットする必要がある。原告各製品のブレスレットの形状は、ブレスレットの機能から通常選択される形状である。
b 同ア(イ)b(使用開始時期)は知らない。
(ウ)a 同ア(ウ)(共通形態B)a(特徴)のうち、@は認める。しかし、文字盤の面に黒色を配することは、他社製品にも見られるありふれた形状である。黒色に白色という反対色を組み合わせることは、視認性を高めるためのものであり、機能から通常選択されるありふれた形状である。3時、6時、9時の位置のアラビア数字、その他の時刻の位置のバーインデックスも通常有するありふれた形状である。
 ii は認める。
b 同ア(ウ)b(使用開始時期)は知らない。
(エ)a@ 同ア(エ)(原告製品1)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ベゼルの縁の形状は、ベゼルを指先で把握し、回転操作の操作性を高めるためのものであり、機能から通常選択される形状である。
 ベゼルの数字の配列は、2つの時間帯の時間を同時に表すという機能を達成するために回転可能なベゼルに数字等を配列したものにすぎず、機能から通常選択される形状にすぎない。奇数時刻の位置にドットが文字盤寄りに配置されているのは、24時間針が指し示す第2時間を誤認しないために、24時間針の先端に付された三角形の矢印の頂点に近接したところに付されたものであり、機能から通常選択される形状である。
 0時の位置に逆三角形が表されているのは、「0」と「24」の二つの数字を表記することができないことと、第2時間帯を表示するため、ベゼルを回転させて時差分の回転操作を誤らないようにするために逆三角形という記号を用いたものであり、機能的に選択される通常想起しやすい記号である。
 ベゼルの色は、黒色に何ら特徴はない。また、ベゼルの色を2色に色分けするのは、24時間のうち、昼間の時間帯を赤色で表示し、夜間の時間帯を青色で表記したもので、通常採用され得る形態である。
A 同A(文字盤)は認める。
B 同B(針)は認める。
 原告製品1の24時間針の形状は、第2時間の視認性を高めるためのものである。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
 ラウンド形のケースは他社製品にも採用されているありふれた形状である。
 リューズは通常ありふれた形態であり、約6o程度で形態的特徴があるとすることはできない。リューズガードの形状はリューズが破損することを防ぐという機能から必然的に選択された形状で、他社製品にも見られるありふれた形状である。
D 同D(風防)は認める。
E  E(ブレスレット)は認める。
b 同ア(エ)b(使用開始時期)は知らない。
(オ)a@ 同ア(オ)(原告製品2)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ベゼルがケースと同素材の金属でできていることは特徴的な形状ではない。
 時速や生産率を読み取るための数字と目盛り及び「UNITS PER HOUR」の文字が黒色で直接金属で作られたベゼルに刻み込まれている点も、時速や生産率を読み取る機能を有するクロノグラフという時計の機能から通常選択される形状であり、文字の色も特徴的とはいえない。
A 同A(文字盤)は認める。
 12時の位置に商標が配置されるのは、腕時計一般に見られる配置である。3時、6時及び9時の位置の正方形のインデックスの形状はありふれたものであり、その他の時刻の「ロケット形」のインデックスもバーインデックスにやじり状のものを付したことによるものであって、現在指している時間が正確にわかるようにするため機能的に選択された形状にすぎない。300分割の目盛りは、5分の1分単位まで正確に計測するというクロノグラフの性格上、通常選択される形状である。
 インダイヤルの形状、配置の位置は、クロノグラフという時計一般に共通してみられる一般的な形状であり、文字盤とは別の色で着色されるのも、インダイヤルで計測する時間の目盛りの視認性を高めるためのものであり、機能から通常選択される形状である。
 インダイヤルの上の「DAYTONA」の文字は商標としての使用であり、商品形態ではない。
B 同B(針)は認める。
 短針と長針の「バーハンド」と呼ばれる形状は、他社製品にも使用されているありふれた形状である。針の中央に黒い線が施されており先端約2分の1が白色で塗り分けられているのは、蛍光塗料を塗り、視認性を高めるためのもので、機能から通常選択される形状にすぎない。また、いずれの形状も、きわめて細かな形状であり、看者の目を惹くものではない。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
 リューズガードは、リューズの破損を防ぐために設けられたものであり、リューズの操作をも可能とするために、リューズをケースに沿って上限から挟むような形となること及びそれが台形状の形状をとることは、通常容易に想起される形状である。リューズガードの上下にプッシュボタンが設けられているのも、クロノグラフという機能上必要なものであり、操作の利便性から2時、4時の位置に配することも、機能的に通常選択される形状である。
D 同D(ブレスレット)は認める。
b 同ア(オ)b(使用開始時期)は知らない。
(カ)a@ 同ア(カ)(原告製品3)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ベゼルの素材や形状、色彩は、原告製品3として共通する形状はなく、タキメーターや「UNITS PER HOUR」の文字が刻まれている点は、クロノグラフという時計の機能から通常選択される形状にすぎない。
A 同A(文字盤)は認める。
 サークルの色が文字盤と反対色であるのは、視認性を高めるものであり、この部分にインデックスと目盛りが配置されているのは、時計の一般的機能から当然に選択される形状である。分又は秒を表す目盛りに赤色が配されているのは、視認性を高めるためのもので、機能から通常選択される形状である。300分割の目盛りも、この時計の機能からすると通常選択される形状である。
 インダイヤルの形状は、クロノグラフという時計一般に共通して見られる形状である。インダイヤルの大きさ、配置は、いずれも一般的なありふれたものであり、インダイヤルの色や数字や目盛りなどの形状も、視認性を高めるため通常ありふれたものである。
 インダイヤルの上部の「DAYTONA」の文字は、商標としての使用であり、商品形態ではない。
B 同B(針)は認める。
 「バーハンド」と呼ばれる形状は、他社製品にも使用されているありふれた形状である。色がシルバーで先端約2分の1が白色になっているのは、視認性を高めるためのものにすぎない。また、いずれの形状も、きわめて細かな形状であり、看者の目を惹くものではない。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
 リューズの上下にあるプッシュボタンは、クロノグラフ針の操作をするために機能的に必要なものであり、操作の利便性から2時、4時の位置に配することが機能的に通常選択される形状である。
D 同D(ブレスレット)は認める。
b 同ア(カ)b(使用開始時期)は知らない。
(キ)a@ 同ア(キ)(原告製品4)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 つや消し加工は腕時計一般に採用されており、特異性はない。ベゼルの縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されているのは、回転操作のため通常選択される形状である。
 ベゼルが回転式であることは、ベゼルの機能から通常選択される形状であり、数字の配列も、機能から通常選択される形態である。インデックスや目盛りの形状も、機能から通常選択される形状またはありふれた形状である。
 つや消しベゼルの上につやのある浮き彫りで表されているのは、視認性を高めるため機能から通常選択される形状又はありふれた形態である。
A 同A(文字盤)は認める。
 製品名である「YACHTーMASTER」の文字が赤で表されている点は、商品形態ではなく商標としての商品表示である。
B 同B(針)は認める。秒針に鮮やかな赤が用いられているのは、視認性を高めるために採用される通常ありふれた形態である。
C 同C(風防)は認める。
D 同D(ケース及びリューズ)は認める。
E 同E(ブレスレット)は認める。
b 同ア(キ)b(使用開始時期)は知らない。
(ク)a@ 同ア(ク)(原告製品5)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ケースと同素材でできている点は、通常の形態である。緩やかに傾斜している点は、腕時計がカフスに引っかかることがないように採用される通常の形状である。
A 同A(文字盤)は認める。
 黒色の文字盤に、分を表す目盛りが外周に1分刻みで白色で付されていることは、時間を表示するためのインデックスの視認性を高めるものであり、時計の機能からすると当然有する形態である。文字盤上のアラビア数字の形状にも、形態的特徴はない。
B 同B(針)は認める。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
D 同D(ブレスレット)は認める。
b 同ア(ク)b(使用開始時期)は知らない。
(ケ)a@ 同ア(ケ)(原告製品6)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ケースと同素材でできている点は、通常の形態である。ベゼルの数字の配列は、第2時間帯を表示するための機能から通常選択される形状又は通常有する形状である。また、ベゼルに付された数字の形状や数字の間に配された逆三角形は、機能から通常選択される形状である。
A 同A(文字盤)は認める。
B 同B(針)は認める。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
D 同D(風防)は認める。
E 同E(ブレスレット)は認める。
b 同ア(ケ)b(使用開始時期)は知らない。
(コ)a@ 同ア(コ)(原告製品7)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 逆三角形の中にドットが付されているのは、視認性を高めるためのものにすぎない。
 ベゼルの縁に金色を使用して他の色と組み合わせることは、ブレスレットの中央に金色を配したり、針やリューズなどに金色を使用することと同様に、他社製品にも多く採用されているありふれた形態である。
 青色の使用だけで特徴的ということはできない。ダイバーズウオッチにおいては、海のイメージから青という色彩に想到することはありふれた形態である。
A 同A(文字盤)は認める。
B 同B(針)は認める。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
D 同D(風防)は認める。
E 同E(ブレスレット)は認める。
b 同ア(コ)b(使用開始時期)は知らない。
 平成6年には、原告製品7と同じ形態で、ベゼルの縁が金色でベゼルは文字盤と同じ青色の他社製品(乙7の2及び5)が販売されており、鮮やかな青と金との組合せは、商品等表示となり得ない。
(サ)a@ 同ア(サ)(原告製品8)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ベゼルの縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されている点は、前記(エ)a@に記載のとおり機能から通常選択される形状である。ベゼルの数字の配置、字体、色、インデックスの形状も、機能上通常選択されるありふれた形状である。
A 同A(文字盤)は認める。
 前記(ク)aAに記載のとおり、時計の機能からすると当然有する形態である。文字盤上のアラビア数字の形状にも、形態的特徴はない。
B 同B(針)は認める。
 黒色の文字盤に対して白色、シルバーといった色彩を使用することは、視認性を高めるという機能から通常選択される組合せである。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
D 同D(ブレスレット)は認める。
b 同ア(サ)b(使用開始時期)は知らない。
(シ)a@ 同ア(シ)(原告製品9)aのうち、@(ベゼル)は認める。
 ベゼルの縁に小さな半円状の切れ込みが連続して施されているのは、回転操作のために機能から通常選択される形状である。
 ベゼルの表面上の数字の配列や色は、機能から通常選択される形状であり、くさび形のインデックスも、特徴的な形状ではない。
 原告製品9−2のベゼルは、何ら特徴的な形態はない。
A 同A(文字盤)は認める。
 文字盤の色、3時、6時、9時の位置にくさび形のインデックス、その他の時刻の位置にドットインデックスを配置する構成は、通常見られるありふれた形状である。12時の位置に王冠マーク及び「ROLEX」の文字を配することは、一般的に見られる形態である。分を表す目盛りの形状も、時計の機能から通常選択される形状である。
B 同B(針)は認める。
 ドルフィン針は、一般的に用いられてきたありふれた形状である。
 イナズマ針は、耐磁性を備えている製品において容易に想到される形状である。
C 同C(ケース及びリューズ)は認める。
 王冠マークの使用は、商標としての使用であり、形態ではない。
D 同D(ブレスレット)は認める。
b 同ア(シ)b(使用開始時期)は知らない。
(ス)a@ 同ア(ス)(原告製品10)aのうち、@(文字盤)は認める。
 i の点は、トリプルカレンダーという機能を備えた腕時計では通常見られる形状である。ii の点は、時計の機能及び日付表示という機能から通常選択される形状である。iii の点も、トリプルカレンダーという機能を備えた腕時計では他社製品にも見られるありふれた形状である。月に顔が描かれていることや夜空に当たる部分に星が描かれていることは、他社製品にも見られる形状である(乙10の1〜4)。iv のインデックスの形状も、特徴的な形状ではなく、ムーンフェイズに対して星形のインデックスを選択することは、容易に想起される形状である。
A 同A(針)は認める。
 短針及び長針の形状は通常ありふれた形状であり(乙9の3、乙10の4)、ムーンフェイズがスモールセコンドを兼ねていることも、通常容易に想起し得る形状である。
B 同B(ケース及びリューズ)は認める。
 ケースの形状はありふれたものであり、リューズの大きさに特徴はなく、溝が刻まれていることも、機能から通常選択される形状である。
b 同ア(ス)b(使用開始時期)は知らない。
イ 周知性、著名性
(ア)a 原告の主張イ(ア)(まとめ)は否認する。
 「商品等表示」として周知性を獲得するためには、少なくとも特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別し得る「特別顕著性」を有していなければならない。原告各製品は、前記のとおり、いずれも「特別顕著性」を具備しておらず、周知性又は著名性はない。
b 原告製品3及び8ないし10は、各販売期間は短く、販売数量も、極めて少ないか、不明であるから、出所表示機能を獲得していない。
c 原告製品4の販売期間は短期間であり、販売総数も多いとはいえない。雑誌掲載数も、原告製品4の形態を需要者が認識できるものは年間8回程度であり、強力な宣伝が行われたとはいえない。したがって、原告製品4は出所表示機能を獲得していない。
 原告製品1、2及び5ないし7の形態の特別顕著性は弱いものであり、原告が主張する広告掲載回数や販売本数では、出所表示機能を獲得していない。
(イ) 同(イ)b(販売数量)は知らない。
(ウ) 同(ウ)(宣伝広告)は知らない。
(エ) 同(エ)(雑誌での紹介)は知らない。
(オ) 希釈化による商品等表示性の消滅
a 原告製品3及び8ないし10は、販売を終了してから長期間が経過し、中古品として流通する数量はわずかであり、雑誌等に掲載されていても、実物が流通していなければ需要者が商品形態を特定の出所表示として認識することはできない。
b また、原告各製品の類似品が多数販売されており(乙1〜11)、原告はこれらの類似品に対して何ら希釈化を防止するための措置を執っていない。
 原告が我が国で執った措置(甲40〜48)は、商標権を侵害する偽造品に対する措置にすぎず、本件のような類似品に対するものではない。
(2) 争点(2)(類似)
(原告の主張)
ア 原告各製品に対応する被告各製品は、別紙原告被告製品対照表に記載のとおりである。
イ 被告各製品が、それぞれに対応する原告各製品に類似することは、明らかである。
ウ 類似についての個別的主張に対する反論
(ア) 原告各製品と被告各製品に共通する相違点に対する反論
a 後記被告らの主張ウ(ア)aは認める。
b 同bは否認する。
 商標の図形も、商標の付けられる位置、大きさ、それを付す方法によっては商品等表示性を判断する際の特徴となり得る。
 原告商標の「王冠マーク」と被告商標の「三叉鉾のマーク」とは、共に上が開いた放物線状の輪郭を持ち、原告商標の「ROLEX」と被告商標の「R・X・W」とは、アルファベットのRとXが共通し、離隔的に観察した場合には、いずれも類似しており、少なくとも全体の類似性を否定するほどの相違ではない。
(イ) 原告製品1と被告製品1との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点は認める。
b ベゼルの縁の切れ込みの大きさ、材質及び配色の違いは、いずれも離隔観察を行った場合には認識しにくい相違である。
c 文字盤のインデックスの大きさ、24時間針の先端の矢印の三角形の大きさ及びリューズの大きさの相違、リューズガードの有無の相違は、いずれも些細な相違であり、類似性を左右するものではない。
(ウ) 原告製品2と被告製品2との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点は認める。
b 被告らが主張する相違点は、いずれも離隔観察によった場合には感知し得ないほど微細なものである。
(エ) 原告製品3と被告製品3との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点は認める。
b 原告製品3は、ダイヤルの外周に文字盤と反対色の帯状の部分があり、そこにインデックス及び分を表す目盛りが配置されていることに特徴があり、被告らが主張する相違点は、いずれも離隔観察によった場合には感知し得ない微細なものである。
(オ) 原告製品4と被告製品4との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点は認める。
b 被告ら主張のベゼルの形状等の違いは、離隔観察によって感知できるものではなく、類似性の判断に影響を与えるものではない。
(カ) 原告製品5と被告製品5との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点a及びbは認め、cは否認する。
b 被告ら主張のベゼルの幅等の相違点は、離隔観察によっては感知し得ない相違であり、類似性の判断に影響を与えるものではない。
(キ) 原告製品6と被告製品6との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点bは認め、a及びc は否認する。
b 被告ら主張の相違があるとしても、離隔観察によっては感知し得ない相違であり、類似性の判断に影響を与えるものではない。
(ク) 原告製品7と被告製品7との相違点に対する反論
a 被告ら主張の相違点は認める。
b  の色彩の濃淡の相違は離隔観察を行った場合にほとんど感知できないものである。さらに、雑誌等に掲載された場合には、実際の色を正確に反映しているとは限らない。したがって、色彩の濃淡は両者の類似性を否定する要素とはならない。
(ケ) 原告製品8と被告製品8の相違点に対する反論
a 被告ら主張a(ベゼル)のうち、素材の相違は知らず、その余は認める。
 同b(文字盤)及びc(針)は認め、d(リューズ)は知らない。
b 被告製品8−1(ベゼルに10、20、30、40、50の数字が配されているもの)は、原告製品8と酷似している。
c 秒針の形状が異なることは、他の要素の類似性及びそれらを組み合わせた全体の類似性に鑑みると、両者の類似性を否定する要素にならない。
(コ) 原告製品9と被告製品9との相違点に対する反論
a 被告ら主張a(ベゼル)のうち、1分刻みの目盛りの長さが異なることは否認し、その余は認める。
 同b(文字盤)及びc(リューズ)は知らない。
b 被告ら主張の相違点は、仮に存在するとしても、離隔観察によっては感知し得ない相違であり、類似性の判断に影響を与えるものではない。
(サ) 原告製品10と被告製品10との相違点に対する反論
a 被告らの主張a(文字盤)@は認める。色のバリエーションの違いは類似性を否定するものではない。
 iiは認める。
 iiiは否認し、iv は認める。
 v及びviは認める。
 同b(針)は認める。
 同c(ケース及びリューズ)は知らない。裏蓋がシースルーバックになっていたとしても、需要者の印象には残らず、類似性を判断する際の要素にはならない。
b 被告ら主張の相違点は、仮に存在するとしても、いずれも些細な違いであり、離隔観察を行った場合、需要者の印象を左右するものではない。
(被告らの主張)
ア 原告の主張ア(対応関係)は認める。
イ 同イ(類似)は否認する。
ウ 類似についての個別的主張
(ア) 原告各製品と被告各製品に共通する相違点
a 文字盤の12時の位置の下やリューズの頭、ブレスレットのバックル部分に表示される商標又はマーク等の標章、並びに文字盤の6時の位置の上に表記される製品名が異なる。
b 仮にこれらも形状の1つであるとすると、原告各製品と被告各製品とは、これらの点の形状の差異によって、明確に区別される。
(イ) 原告製品1と被告製品1との相違点
a ベゼル
 被告製品1のベゼルの縁の切れ込みが原告製品1よりも小さくなっている点、材質(被告製品1はアクリル樹脂)及び配色(原告製品1では赤、青とも鮮やかな色彩であるのに対し、被告製品1ではワインレッド、紺色となっている。)が異なる。
b 文字盤
 被告製品1のドットインデックスの大きさは原告製品1よりも小さく、バーインデックスは原告製品1よりも少し長く細めである点が異なる。
c 針の形状
 被告製品1の24時間針の先端の矢印の三角形の大きさが原告製品1よりも少し小さい点が異なる。
d 被告製品1にはリューズガードがなく、被告製品1のリューズの方が原告製品1よりも若干大きめである点が異なる。
(ウ) 原告製品2と被告製品2との相違点
a ベゼル
 ベゼル上に表示された文字が、原告製品2は「60」から始まり「400」で終わるのに対し、被告製品2は「50」から始まり「200」で終わっている。
 「UNITS PER HOUR」の文字の位置が、原告製品2は1時の位置であるのに対し、被告製品2は3時の位置である。
b 文字盤
 3時、6時、9時の位置以外の他の時刻のインデックスは、被告製品2では内側に向いた側が尖ったロケット形の形状で一体的に形成されているが、原告製品2は正方形状のものの先端にやじり状のものを付したもので2つの形状の組み合わされた形状となっている点、インダイヤルの文字盤相互の間隔が被告製品2の方が原告製品2に比べて少し離れている点、インダイヤルの外周の帯状の幅が被告製品2の方が少し狭く、白色の文字盤の場合に帯状の色は原告製品2がシルバーであるのに対し、被告製品2は黒色を使用している点、インダイヤルの文字盤の6時、9時の位置の数字の形状等が異なる。
(エ) 原告製品3と被告製品3との相違点
 インダイヤルの外周の帯状の幅が被告製品3の方がやや狭い点及び3時、9時の位置のインダイヤルの文字盤の数字が異なる。
(オ) 原告製品4と被告製品4との相違点
 原告製品4のベゼルは、ベゼル自体が円柱状で外周に向かって下がる度合いが低く、側面から見るとベゼルに厚みがあり文字も凸凹があり立体的であるのに対し、被告製品4のベゼルは、なだらかに外周に向かって下がっていて、側面から見ると平板で、浮き彫りとなる文字も平板になっている。
 ベゼル上の文字は、被告製品4は12時の位置の逆三角形と2時の位置の10の間の1時の位置に5の数字があるが、原告製品4にはない。
 原告製品4は、12時の位置から3時の位置まで1分刻みの目盛りがベゼルの半分ほどの長さで棒状に刻まれているのに対し、被告製品4は、目盛りはドット状であり、12時の位置から4時の位置まで付されている。
 原告製品4は、ベゼルの部分に特徴があり、この部分が異なっている以上、両者は非類似である。
(カ) 原告製品5と被告製品5との相違点
a ベゼル
 両者は、ベゼル幅に相違がある。
b リューズ
 両者は、リューズの大きさに相違がある。
c 全体
 原告製品5の形態は何ら特徴を有しないものであり、看者は微差にも着眼するものであり、これらの差異から、両者は類似していない。
(キ) 原告製品6と被告製品6との相違点
a ベゼル
 ベゼルの数字の字体は、原告製品6の数字は丸みを帯びているのに対し、被告製品6のそれは角張っている。
 奇数の数字の代わりに付された逆三角形は、被告製品6では、原告製品6に比し、やや縦に長いため、ベゼルの幅の中央の位置にあるように見える。
b リューズ
 リューズの厚みは、被告製品6では、やや厚めで、円柱状に近いのに対し、原告製品6では、横から見ると薄く見え、頭部と底部がドーム状の形をしていて、丸みを帯びている。
c 全体
 原告製品6の形態は、何ら特徴を有しないものであり、看者は微差に着眼するところ、上記a及びbのほか、文字盤及びリューズに付されたマークの差異の相違により、両者の類似性は否定される。
(ク) 原告製品7と被告製品7との相違点
a ベゼル
 原告製品7は、明るい青色であるのに対し、被告製品7は、群青色に近い青である。
b 文字盤
 原告製品7は、明るい青色であるのに対し、被告製品7は、群青色に近い青である。
 6時の位置のバーインデックスの太さが異なる。
(ケ) 原告製品8と被告製品8との相違点
a ベゼル
 ベゼルの色、素材(被告製品8はアクリル樹脂)、数字の表示、色、字体、幅などが異なる。
b 文字盤
 文字盤のインデックスの色、字体、12時の位置の逆三角形のインデックスの下の表示、6時の位置の数字の上の表示が異なる。
c 針
 秒針の形状は、被告製品8は、イナズマをかたどったような針で、先端には三角形が施され、原告製品8は、まっすぐに伸びた細い針、先端から3分の1のところに縁取りがされた白色の円形が配され、針の後端に更に小さい円形がある。
 針の色が異なる。
d リューズ
 リューズの厚みが異なる。
(コ) 原告製品9と被告製品9との相違点
a ベゼル
 原告製品9−1と被告製品9−1については、ベゼルの素材、12時の位置の逆三角形の形状、ベゼル上の「1、2、3、4、5」の数字の字体、1分刻みの目盛りの長さが異なる。
 原告製品9−2と被告製品9−2については、ベゼルの幅が異なる。
b 文字盤
 被告製品9の文字盤はメッシュ状になっており、原告製品9とは、表面の素材感が異なる。
c リューズ
 リューズの形状が異なる。
(サ) 原告製品10と被告製品10との相違点
a 文字盤
i 原告製品10には、文字盤が白のものと黒のものがあるが、被告製品10には、ブルーのものとアイボリーのものもある。
ii インデックスの色が異なる。
iii ムーンフェイズの月の顔の表情が異なる。
iv ムーンフェイズの外周には、原告製品10では、何も数字が記載されておらずスモールセコンドとなっているが、被告製品10では、1から31までの数字が記載され、日付を表すカレンダー機能を兼ね備えている。
v 文字盤の外周は、原告製品10では、分を表す目盛りの外側に、日付を表す1から31までの数字が配されているのに対し、被告製品10では、分を表す目盛りが1分刻みで表され、その外側に2から60の偶数の数字が表されている。
vi 分を表す目盛り、その円周、その外側の数字の色は、原告製品10では、白地のものでは黒、黒地のものでは金という配色であるのに対し、被告製品10では、白及びアイボリーのものでは紺、黒及びブルーのものでは銀色である。
b 針
i 秒針は、原告製品10では、金色であるのに対し、被告製品10では、銀色で、先端部の小さな三角形の色は赤色である。
c ケース及びリューズ
 被告製品10のリューズは、やや厚めで、円柱状に近いのに対し、原告製品10のそれは、横から見ると薄く、頭部と底部がドーム状の形をしており、丸みを帯びている。
ii 被告製品10は、シースルーバックといわれる透明の裏蓋を採用している。
(3) 争点(3)(混同のおそれ)
(原告の主張)
ア 形態の類似性
 前記(2)のとおり、被告各製品の形態は原告各製品のそれに類似しており、誤認混同を生じるおそれがあることは、明らかである。
イ 誤認混同を増大させる要因
(ア) 販売場所の同一性
 被告らは、被告店舗及び被告ウェブサイトにおいて、原告の真正商品と被告各製品とを販売し、雑誌の中において、原告各製品と被告各製品とを同じ頁に並べて宣伝などしているものがある。
(イ) 名称の類似性
a 被告各製品に付せられた名称は、別紙原告被告製品対照表のとおりである。
b このように、被告各製品は、それと対応する原告各製品の名称と称呼又は外観において類似する名称が付けられており、混同のおそれを増大させている。
ウ 混同を減少させる要因について
(ア) 異なる商標
 後記被告らの主張ウ(ア)aは認め、b及びcは否認する。
 離れて観察すると、「王冠マーク」と「三叉鉾のマーク」から受ける印象は近似している。また、文字盤に付されている位置や大きさが共通していて、文字盤全体を見た場合、これらのマークが付されていることによって原告各製品と被告各製品の類似性を看者に印象づけるものとなっている。
(イ) 価格の開き
a 同ウ(イ)a(新品)は認める。価格差を考慮しても、形態の類似、需要者層の同一、代替品としての販売などに照らすと、両者の間に出所の混同が生じないということはできない。
b 同ウ(イ)b(中古品)は否認する。
(被告らの主張)
ア 原告の主張ア(形態の類似性)は否認する。
イ 同イ(ア)(販売場所の同一性)は明らかに争わない。
ウ 混同を減少させる要因
(ア) 異なる商標
a 原告各製品には「王冠マーク」及び「ROLEX」の商標が付され、被告各製品には「三叉鉾のマーク」及び「R・X・W」の商標が付されている。
b 「王冠マーク」は、王冠の形状を形取ったもので、5本の線の先が下から上に向けて外側に広がる形状で、5本の線の先端には丸状の突起が付されているのに対し、「三叉鉾のマーク」は、三叉鉾を形取ったもので、3本の線の先が一定の角度を持って上部に直線上に又は内側に湾曲するように伸びており、その先端部もやじり状の突起が付されており、外観上明らかに異なる。
c 被告各製品に付された「R・X・W」が原告各製品に付された「ROLEX」に類似しないことは、明らかである。
(イ) 価格の開き
a 新品の場合、被告各製品と原告各製品との価格の相違は、極めて大きい。
b 中古品の場合でも、原告各製品は高価品であるから、需要者はその出所表示に強く着目し、出所不明なものを原告各製品と混同して購入することはない。
(4) 争点(4)(被告株式会社の不正競争行為)
(原告の主張)
ア 次のイの事実によれば、被告らの実態は代表者であるAの個人事業であり、被告株式会社は被告有限会社と共同して被告各製品を製造販売しているものと認めるべきである。
イ (ア) 被告有限会社の設立日である平成12年10月3日以降も、「R・X・W」ブランドの腕時計の広告に「PRESENTED BY KEN TRADING BRAIN」と記載され、被告株式会社が販売していることを宣伝している(甲13の1及び2、12の1及び16)。
(イ) 「R・X・W」ブランドの腕時計について、平成13年当時、発売3周年とされているが(甲13の5)、平成10年当時、被告有限会社はまだ存在せず、自社製の腕時計の販売を行っていたのは、被告株式会社である。
(ウ) 東京都港区南青山に所在した「ケントレーディングブレイン」は、被告株式会社が経営主体であった。平成12年9月22日、「ケントレーディングブレイン」は、東京都中央区銀座に移転し、「銀座ケントレーディング」と名称を変更した。
(エ) また、平成13年ころ、「銀座ケントレーディング」は創業15年と称しているが(甲13の4)、当時被告有限会社は創業1年であり、15年にわたって時計販売事業を行っているのは、被告株式会社である。
(オ) 被告らの代表取締役は共通であり、取締役は家族で構成されている。
(カ) 被告店舗である「銀座ケントレーディング」と被告ウェブサイトの1つである「楽天銀座ケントレーディング」を運営する被告有限会社とは、住所、FAX番号が同一であり、特定商取引に関する法律による表記において、公安委員会の許可番号、事業者が被告らの代表者A個人とされている。
(被告らの主張)
ア 原告の主張アは否認する。
イ 同イ(ア)は明らかに争わない。
 同イ(イ)は明らかに争わない。
 同イ(ウ)は認める。
 同イ(エ)は明らかに争わない。
 同イ(オ)は認める。
 同イ(カ)は明らかに争わない。
(5) 争点(5)(消滅時効の成否)
(被告らの主張)
ア 被告製品1、5及び9については、平成13年2月10日発行の雑誌(甲12の1)に、被告製品1、4、5、7、9及び10については、平成13年7月30日発行の雑誌(甲12の2)にそれぞれ被告各製品の形態及び価格が分かるような形で掲載された。
イ したがって、平成13年8月25日までに行われた被告各製品の販売については、原告は、上記雑誌の発行以後各発売ごとに、損害及び加害者を知り又は知り得る状態にあった。したがって、平成13年8月25日までに行われた被告各製品の販売による不法行為による損害賠償請求権は、3年の経過により時効消滅した。
ウ 被告らは、平成17年12月5日の第8回弁論準備手続期日において、被告製品1、4、5及び7ないし10について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(原告の主張)
ア 被告らの主張ア(雑誌掲載)は明らかに争わない。
イ 同イ(認識)は否認する。原告が被告らの指摘する雑誌(甲12の1及び2)が発売された当時、被告各製品の販売を知ったとしても、被告らに対し損害賠償を請求できる程度に被告らの行為が違法である蓋然性を認識することはできなかった。
ウ 同ウ(意思表示)は認める。
(6) 争点(6)(故意過失)
(原告の主張)
 被告らには、被告各製品が原告各製品に類似しており、誤認混同のおそれがあることについて、故意又は過失があった。
(被告らの主張)
 原告の主張は、否認する。
(7) 争点(7)(損害額)
(原告の主張)
ア 不正競争防止法5条2項
(ア) まとめ
 不正競争防止法5条2項により、被告各製品(被告製品8を除く。以下、この項で同じ。)について、被告らの利益を計算すると、別紙原告損害額算定表のとおり、3787万9574円となる。
(イ) 売上高、製造個数及び販売個数
 平成17年5月までの被告各製品の売上高、製造個数及び販売個数は、別紙原告損害額算定表の各該当欄のとおりであり、その内訳は、別紙単価・数量明細表1ないし9のとおりである。これから消費税相当額を差し引いた額を別紙原告損害額算定表の「売上高」欄に記載した。
(ウ) 製造原価
a 後記被告らの主張ア(ウ)に対する認否は、別紙各被告製品の原価のとおりである。
b 被告らは、被告製品2のムーブメントの仕入価格が5万5000円である旨主張する。
 しかしながら、被告らが主張する他の製品のムーブメントの金額は、それぞれ9500円(被告製品1及び6)、4000円(被告製品4及び7)、5100円(被告製品5)であり、これらと比較すると、被告製品2のムーブメントの5万5000円という金額は、合理的な根拠があるとはいえない。
(エ) 広告費
a 後記被告らの主張ア(エ)aのうち、支払総額は不知。
b 被告らは、同一の雑誌に複数回宣伝広告を出しており、また、被告代表者は、被告らが宣伝広告を出した雑誌に時計などの資料を提供したり、インタビューに応じていたりするのであるから、広告費は、被告が主張するより低額であったはずである。
c さらに、被告ら主張の単価を前提としても、各広告の被告各製品への割り振りについては、誤りがあり、平成13年8月27日以降の被告各製品ごとの広告費は、次のとおりである。
 被告製品1 48万9088円
 同2 11万7500円
 同3 846万8651円
 同4 49万2659円
 同5 282万5833円
 同6 22万2659円
 同7 26万2500円
 同9 33万1944円
 同10 274万1706円
d 別紙原告損害額算定表の製品1個あたりの広告費欄に記載した額は、被告各製品の広告費を製造個数で除したものである。
(オ) 箱単価
 被告各製品の箱単価は、別紙原告損害額算定表の該当欄のとおりである。
(カ) 人件費及び店舗家賃
a 後記被告らの主張ア(カ)a、b及びdは知らず、cは否認する。
b 被告各製品の販売を行わなくても必要であった販売費及び一般管理費は費用として除くべきではない。
 被告らは、被告各製品以外にも原告各製品、原告のその他の製品、被告のオリジナル時計、雑貨等の製品を多数販売しており、被告各製品の販売のために新たに店舗を賃借したり、新たな雇用を行うことなく被告各製品を販売することが可能であった。
 したがって、被告らの主張する人件費及び被告店舗家賃を経費として控除すべきではない。
(キ) 推定を覆す事実
 後記被告らの主張ア(キ)否認する。
イ 不正競争防止法5条3項
(ア) 仮に、不正競争防止法5条2項の適用がないとしても、平成4年から平成10年までの精密機械器具の実施料率の平均値は、イニシャルペイメント有りの場合は5.3%、なしの場合は6.8%と他の技術分野と比較して高めである。
 また、ブランド指向が強い製品についてはさらに高率となる傾向が強い。
(イ) 原告は、製品の品質の維持と商品等表示の希釈化の防止のため、第三者とライセンス契約を結んで使用許諾を認めることは行っていない。
(ウ) 仮に使用許諾契約を結ぶとした場合、原告は1905年に創業して以来、100年にわたって最高品質の製品を供給することで世界各国の顧客の信用を獲得し、我が国の高級腕時計の市場において常にトップブランドとして君臨し、別格ともいうべき名声を得ており、その原告の営業上の信用が化体した原告各製品の形態は、高い顧客吸引力を有していることからすると、その使用料率は高率となる。
(エ) 被告らは、原告各製品と形態の類似した被告各製品を販売しており、被告製品の販売利益のほとんどは、原告各製品の顧客吸引力によって得られたものである。
(オ) したがって、不正競争防止法5条3項を適用する場合、相当な商品等表示の使用料率は、被告各製品の定価の15%が相当である。
(カ) 後記被告らの主張イ(カ)(長期間経過)は否認する。
(被告らの主張)
ア 不正競争防止法5条2項
(ア) 原告の主張ア(ア)(まとめ)は否認する。
(イ) 売上高、製造個数及び販売個数
 原告の主張ア(イ)は認める。
(ウ) 製造原価
a 被告各製品の製造原価は、別紙被告原価一覧表記載の各「1個あたりの単価」欄のとおりである。
b 被告製品2のムーブメントの仕入価格は5万5000円である(乙23)。
(エ) 広告費
a 被告各製品の広告宣伝費は、合計3064万5754円(消費税抜き)であり、その計算経過は、別紙被告広告宣伝費計算表1記載のとおりである。このうち、平成13年8月27日以降の被告各製品の広告費は、別紙被告損害額算定表の「広告宣伝費」欄のとおり合計1713万8254円(消費税抜き)であり、その計算経過は、別紙被告広告宣伝費計算表2記載のとおりである。
b 長期広告掲載契約による割引があったとしても、10%程度である。
(オ) 箱単価
 原告の主張ア(オ)は認める。
(カ) 人件費及び店舗家賃
a 被告店舗には、ショーケースが4本あり、そのうち2本が被告各製品販売のための特設のケースであった。ショーケース以外の店舗の部分及び店舗付設の事務所部分は、被告各製品の製造販売のためにも使用されていた。
b 被告有限会社は、青山から銀座に店舗を移転して被告各製品の販売を開始することとし、従来3人であった販売員を6人に増やした。うち2名は、主として被告各製品の販売に従事していた。
c したがって、被告有限会社の人件費及び被告店舗家賃のうち、少なくとも被告有限会社の総売上げに対する被告各製品の総売上げが占める割合を乗じた金額を、被告各製品の費用として控除すべきである。
d 平成13年8月27日から平成17年5月までの間の被告各製品の販売のために要した費用を計算すると、人件費が合計292万2221円、店舗家賃が合計258万5417円となる。
(キ) 推定を覆す事実
 前記(3)(被告らの主張)ウで主張した事実は、不正競争防止法5条2項の推定を覆す事実でもあり、被告有限会社が得た利益を原告が得ることはできなかった。
イ 不正競争防止法5条3項
(ア) 原告の主張イ(ア)は知らない。
(イ) 同イ(イ)は知らない。原告各製品と形態が同一又は類似の商品は、被告各製品以外にも多数流通しており、原告は、このような他社製品の流通を放置している。
(ウ) 同イ(ウ)は知らない。
(エ) 同イ(エ)は否認する。
(オ) 同イ(オ)は否認する。
(カ) また、原告製品3は昭和45年以降、原告製品9は昭和53年以降、原告製品10は遅くとも昭和35年以降、製造販売されていない。このように不使用の期間が長い形態の使用料率は、原告主張のように高率になることは考えられず、精密機械器具の平均使用料率の6.8%を下回る。
(8) 争点(7)(不当利得)
(原告の主張)
ア 仮に、消滅時効が成立するとしても、被告らは、被告各製品の販売開始から平成13年8月25日まで、原告の許諾を得ることなく原告の商品等表示を使用してその使用料相当額の支払を免れ、その結果、原告に使用料相当額の損失を与えた。
 よって、原告は被告らの本件不正競争行為について、予備的に使用料相当額の不当利得返還を請求する。
イ その使用料率は、前記(7)(原告の主張)イに記載の事情からすると、売上高の15%を下らない。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認する。
(9) 争点(8)(差止め及び廃棄の必要性)
(原告の主張)
ア 被告株式会社は、平成12年10月3日以降も、被告各製品の製造、販売を行っていたものであり、一時的にその販売等を停止したとしても、本訴における侵害を認めない同被告の態度等からすれば、将来同被告が再び被告各製品を販売するなどし、原告の利益を侵害するおそれは十分にある。
イ 被告有限会社は、被告各製品の製造、販売を行っていたものであり、一時的にその販売等を停止したとしても、本訴における侵害を認めない同被告の態度等からすれば、将来同被告が再び被告各製品を販売するなどし、原告の利益を侵害するおそれは十分にある。
 同被告主張の在庫商品の分解の事実は、知らない。
(被告らの主張)
ア 原告の主張アは否認する。被告株式会社は、平成12年10月3日以降、時計の製造、販売を行っていない。
イ 被告有限会社は、平成17年5月以降、被告各製品の販売を停止し、在庫商品を分解した。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(周知又は著名性)
(1) 形態の商品等表示性
 不正競争防止法2条1項1号及び2号が他人の周知又は著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することを不正競争と定めた趣旨は、同使用行為により周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為又は著名な商品等表示に化体された他人の顧客吸引力への只乗り行為を防止し、もって周知又は著名な商品等表示が有する営業上の信用を保護し、事業者間の公正な競争を確保することにある。
 商品の形態は、商標等と異なり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が特定の商品と密接に結びつき、その形態を有する商品を見ればそれだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には、当該形態が出所表示機能を獲得し、特定の者の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものということができる。
 ある商品の形態が極めて特殊で独特な場合には、その形態だけで商品等表示性を認めることができるが、形態が特殊とはいえなくても、特徴ある形態を有し、その形態が長年継続的排他的に使用されたり、短期であっても強力に宣伝されたような場合には、当該形態が出所表示機能を獲得し、その商品の商品等表示になっていると認めることができる場合がある。
 以下、これらの観点から、原告各製品の形態が商品等表示に該当するか否か等につき検討する。
(2) 事実認定
 各項に掲記の証拠によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない(一部は、当事者間に争いがない。)。
ア 原告各製品の形態の特徴
 原告各製品の形状は、別紙原告製品目録記載のとおりであり、これらの事実によれば、原告各製品の形態は、前記第2、3、(1)(原告の主張)アの(エ)ないし(ス)のとおりである。
(前提事実、弁論の全趣旨)
イ 原告各製品の広告、雑誌での紹介及び販売状況等
(ア) 原告製品1
a 原告は、昭和30年に「GMTマスター」(Ref.6542、赤青ベゼル、リューズガードなし)の販売を開始し、昭和41年に「GMTマスター」のセカンドモデルとしてRef.1675(黒ベゼル、赤青ベゼル)を発売し、昭和56年にRef.16750に、平成元年にRef.16700にそれぞれモデルチェンジをし、平成10年に「GMTマスター」の生産を中止した。
 短針を独立して動かすことができる「GMTマスターU」として、昭和58年にRef.16760(赤黒ベゼル)の発売が開始され、平成元年には、Ref.16710(黒ベゼル、赤青ベゼル及び赤黒ベゼル)の販売を開始し、現在も販売している(甲22の9、28)。
 原告製品1の形態は、昭和41年に発売された「GMTマスター」のセカンドモデル(Ref.1675)以来、ベゼルの色やインデックスの形状など細かな部分については変遷があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(甲28、弁論の全趣旨)
b 原告は、原告製品1の広告を多数の雑誌や新聞、週刊誌等に掲載したが、昭和35年ころ、原告製品1がパン・アメリカン航空の公式時計として採用されたことから(甲1の72)、多くの広告中に、「ROLEXで飛ぶ…パン・アメリカン」等のキャッチフレーズを付したり、パイロット用又は探検家用の時計として愛用されている旨を記載した(甲31の1〜103)。
 原告製品1の紹介記事は、腕時計の専門誌だけでなく、一般情報誌やファッション誌等にも、多数掲載されている(甲1の1〜92、11の1〜3及び8、35の1〜3、36)。掲載年代別では、平成2年から平成11年までの間に少なくとも47回(甲1の5〜51)、平成12年から平成16年までの間に少なくとも41回(甲1の52〜92)、雑誌に掲載されている。
 雑誌の記事においては、パイロット用時計としての機能的特徴に着目したものが多く見られ、その優れた利便性とデザイン性が高く評価され、人気ランキングでは常に上位にランキングされている。また、Bや初めて超音速飛行を達成したパイロットであるCが愛用した時計として紹介されたものもある(甲1の7、1の36)。
 これらの雑誌の記事や広告においては、説明と共に、原告製品1を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲1の1〜92、31の1〜103、35の1〜3、36)
c 原告製品1は昭和46年ころから日本においても輸入販売され(甲21、37)、Ref.1675、16750、16700、16710(ただし、赤黒ベゼルのものを含む。)のモデルは、日本において、昭和44年から平成15年までの間に、少なくとも1万5000本以上販売され(甲21)、現行モデルであるRef.16710は、平成12年から平成16年までの間に5708本販売された(甲38。ただし、赤黒ベゼルのものを含む。)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が、多数販売されている。
(甲21、37、38、弁論の全趣旨)
(イ) 原告製品2
a 原告は、昭和63年に原告製品2の形態を有するRef.16520を発売し、平成13年にモデルチェンジをしてRef.116520を発売して現在まで販売している。
 原告製品2の形態は、平成13年発売開始のRef.116520では、インダイヤルの内容が異なり、全体として上に移動している点で相違があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(甲2の46、28、弁論の全趣旨)
b 原告製品2の紹介記事は、Ref.16520が発売された昭和63年から平成12年まで、雑誌に少なくとも46回掲載され、Ref.116520が発売された平成13年から平成15年の間に、少なくとも22回掲載された(甲2の2及び4〜69、11の7。ただし、黒文字盤のものを含む。)。これらの記事には、「クロノグラフの最高峰」(甲2の15)、「憧れのデイトナ」(甲2の16)などその高級感が強調されて記載されたものや、F1ドライバーが愛用する時計として紹介されているもの(甲2の17)があり、平成2年ころには品薄状態になるほど人気が高かった(甲2の7、12及び29)。
 これらの雑誌の記事には、説明と共に、原告製品2を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲2の2及び4〜69、11の7)
c 原告製品2は、平成元年から平成15年までの間に、5000本以上が販売され(甲21。ただし、黒文字盤のものを含む。)、Ref.116520は、平成13年から平成16年の間に、3547本販売された(甲38。ただし、黒文字盤のものを含む。)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が多数販売されている。
(甲21、38、弁論の全趣旨)
(ウ) 原告製品3
a 原告製品3は、1960年代初期にRef.6239及び6241が発売され、1960年代後半にモデルチェンジされてRef.6262及び6264が、昭和45年ころにRef.6263及び6265が発売され、1970年代まで製造販売された(甲3の10、11及び50、弁論の全趣旨)。
 原告製品3の形態は、リューズの厚みやプッシュボタンの形状が変遷しているなど細かな点で相違があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(甲3の10、11及び50、28、弁論の全趣旨)
b 原告製品3は、米国フロリダ州にあるサーキット「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」の公式時計として採用され、映画でポール・ニューマンが着用したことから「ポールニューマンダイヤル」と呼ばれ、文字盤の雰囲気等から「エキゾチックダイヤル」と呼ばれる(甲3の49)。
 原告製品3は、製造販売中止後も、アンティーク市場で人気があり、原告製品3の紹介記事は、平成2年から平成12年の間に少なくとも23回雑誌等に掲載され、平成13年から平成16年の4年間に少なくとも29回掲載された(甲2の3、3の1〜51)。
 これらの雑誌の記事においては、説明と共に、原告製品3を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲2の3、3の1〜51)
c 原告製品3のうちRef.6265は、日本においても輸入販売され、昭和47年から昭和63年までの間に300本以上が販売され(甲21)、アンティーク市場では、プレミア付きで取引がされている(甲3の10)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が多数販売されている。
(甲3の10、21、弁論の全趣旨)
(エ) 原告製品4
a 原告は、平成11年に原告製品4(Ref.16622)の発売を開始し、現在も製造販売している。
(甲28、弁論の全趣旨)
b 原告製品4は、平成11年から平成15年までの間に、腕時計の専門誌を始めとする雑誌だけでなく、女性向けのファッション雑誌においても多数紹介され、人気ランキングの上位にあり、腕時計の愛好家だけでなくファッションに敏感な女性の間でも、その高級感あるデザインが注目されている(甲4の1〜38及び40〜53)。
 原告は、平成15年に、少なくとも5回、ゴルフ専門誌や旅行販売誌に原告製品4の広告を掲載した(甲32の1〜5)。
 これらの雑誌の記事や広告においては、説明と共に、原告製品4を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲4の1〜38及び40〜53、32の1〜5)
c 原告製品4は、平成12年から平成16年まで4774本販売された(甲38)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が、多数販売されている。
(甲38、弁論の全趣旨)
(オ) 原告製品5
a 原告は、昭和28年に「エクスプローラー」として、Ref.6350を発売し、6150(発売開始昭和28年)、6610(同昭和30年)、5500(同昭和33年)、5504(同1950年代後半)、1016(同昭和46年ころ。
 以上、旧モデル(原告製品5−2))、14270(同平成3年。以下、現行モデル(原告製品5−1))、114270(同平成13年)の各モデルを販売してきた。
 旧モデル(原告製品5−2)と現行モデル(原告製品5−1)とは、文字盤のインデックスの数字の形態及びバーインデックスの縁取りの有無等に変遷があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(甲5の64及び98、28、弁論の全趣旨)
b 原告は、昭和62年以降、雑誌に原告製品5の広告を掲載し(甲33の1〜9)、人気が高まるにつれ、原告製品5の紹介記事は、腕時計の専門誌やファッション誌に、数多く掲載されるようになり、平成元年から平成11年までの間に少なくとも54回(甲5の1〜34及び36〜54、11の4)、平成12年から平成15年までは少なくとも38回(甲5の55〜92)掲載され、平成15年以降も著名な雑誌に掲載されている(甲5の93〜98)。
 これらの雑誌の記事や広告においては、説明と共に、原告製品5を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲5の1〜34及び36〜98、11の4、33の1〜9、弁論の全趣旨)
c Ref.1016は、昭和46年には日本に輸入販売され(甲21、37、弁論の全趣旨)、昭和44年から平成4年までの間に、1000本以上販売された(甲21)。
 Ref.14270及び114270(現行モデル−原告製品5−1)は、平成3年から平成13年までの間に、2万本以上販売され(甲21)、Ref.114270は、平成13年から平成16年までの間に、1万7695本販売された(甲38)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が、多数販売されている。
(甲21、37、38、弁論の全趣旨)
(カ) 原告製品6
a 原告は、昭和59年に、「エクスプローラーU」として、Ref.16550を発売し、平成元年にRef.16570を発売した。
 原告製品6の形態は、ベゼル上の数字の形状など細かな点で変遷があるが、その特徴的な部分についての変更はない。
(甲6の73、28、弁論の全趣旨)
b 原告は、昭和59年から平成3年まで、Ref.16550につき、探検家の愛用する時計として、少なくとも22回著名な雑誌に広告を掲載し(甲34の1〜16、33の1〜6)、Ref.16570については、平成4年から平成11年まで、少なくとも41回(甲34の17〜54、35の1〜3)、平成12年以降少なくとも11回(甲34の55〜57、59〜62、35の4〜7)、雑誌に広告を掲載した。
 また、原告製品6の紹介記事は、昭和63年から平成11年まで、少なくとも63回(甲6の1〜62、11の5、22の7、8)、平成12年以降少なくとも31回(甲6の63〜93)、雑誌に掲載され、機能性が高く評価され、人気の高さが報じられている。
 これらの雑誌の記事や広告においては、説明と共に、原告製品6を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲6の1〜93、11の5、33の1〜6、34の1〜62、35の1〜7)
c Ref.16550及び16570は、昭和59年から平成15年までの間に、合計1万5000本以上販売され(甲21)、Ref.16570は、平成12年から平成16年までの間に、1万1946本販売された(甲38)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が多数販売されている。
(甲21、38、弁論の全趣旨)
(キ) 原告製品7
a 原告製品7は、サブマリーナーのうち、「青サブ」と呼ばれるモデルであり、昭和59年にRef.16803が、平成元年にRef.16613が発売された。
 原告製品7の形態は、特徴的な部分についての変更はない。
(甲28、弁論の全趣旨)
b 昭和59年から平成12年まで、原告製品7を含むサブマリーナーの紹介記事は、数多く雑誌において掲載されているが(甲7の1〜44及び46〜57)、そのうち原告製品7の紹介記事は、少なくとも11回、雑誌において掲載され(甲7の16〜18、28〜31、40及び42〜44)、原告製品7の広告は、少なくとも27回、船舶関連の雑誌や一般情報誌等に掲載された(甲7の87〜110、35の1〜3)。
 平成13年以降も、原告製品7を含むサブマリーナーの紹介記事は、他のRef.番号のものを含め、数多く雑誌において掲載されているが(甲7の45及び58〜86)、そのうち原告製品7の紹介記事は、少なくとも5回雑誌に掲載され(甲7の45、58、61、71及び72)、原告製品7の広告は、少なくとも9回行われた(甲7の111〜113、29、30、35の4〜7)。
 これらの雑誌の記事や広告においては、説明と共に、原告製品7を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲7の1〜113、29、30、35の1〜7)
c Ref.16613は、平成元年から平成15年までの間に、7000本以上販売され(甲21。ただし、黒文字盤のものを含む。)、平成12年から平成16年までの間に、2835本販売された(甲38。ただし、黒文字盤のものを含む。)。
 これ以外に、並行輸入品や中古品が多数販売されている。
(甲21、38、弁論の全趣旨)
(ク) 原告製品8
a 原告製品8は、Ref.ナンバーを6200とするサブマリーナーの初期型モデルであり、昭和29年ころに発売開始され、昭和33年ころまで販売された。
(甲8の19、24、28、弁論の全趣旨)
b 原告製品8は、ダイバー用時計として人気を博したが、販売終了後も、原告製品8を含むサブマリーナーの初期モデルの紹介記事は、平成4年から平成16年の間に数多く紹介され(甲8の1〜23)、原告製品8を紹介する記事は、少なくとも14回雑誌に掲載され(甲8の1〜10、12、15〜17及び19〜23)、中古品の取引がされている。
 これらの雑誌の記事においては、説明と共に、原告製品8を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲8の1〜23)
c 原告製品8の販売数量を認めるに足りる証拠はない。
(ケ) 原告製品9
a 原告製品9は、1950年代後半に「ミルガウス」の製品名(Ref.6541)で、磁力の厳しい環境で働く技師や医師向けに販売が開始され、昭和53年ころまで販売された。
(甲9の26及び29、28、弁論の全趣旨)
b 原告製品9については、販売中止後も、平成4年から平成16年の間に、耐磁性能という機能的特徴や「イナズマ針」に注目した紹介記事が少なくとも31回雑誌に掲載され(甲9の1〜31)、耐磁性を有するプロ仕様の特殊な時計である「ミルガウス」のファーストモデルとして、高級腕時計の愛好家の間で高い関心を集め、アンティーク市場において数百万円で取引されている。
 これらの雑誌の記事においては、説明と共に、原告製品9を正面や側面から写した写真が掲載されている。
(甲9の1〜31)
c 原告製品9は、その用途から生産本数は少ないが、上記bのとおり、中古市場での人気は高い。
(甲9の10、12及び13、弁論の全趣旨)
(コ) 原告製品10
a 原告製品10は、1940年代から1950年代にかけて、当時の天文時計の人気に答える形で販売された。
(甲10の2、26、27、弁論の全趣旨)
b 原告製品10は、市場に出回る数は少ないが、現在の時計には見られない機能とデザインを有する時計として、製造中止後も、知名度は高く、原告製品10の紹介記事は、平成4年から平成16年までの間に、少なくとも18回雑誌に掲載され(甲10の1〜4及び6〜19。ただし、一部に、文字盤のインデックスが星形でないものがある。)、現在の時計にはみられない機能とデザインを有する優れた腕時計として人気が高く、アンティーク市場において数百万円で取引されている。
(甲10の1〜4及び6〜19)
c 原告製品10は、その用途及び価格から生産本数は少ないが、上記bのとおり、中古市場での人気は高い。
(甲10の2、弁論の全趣旨)
ウ 被告各製品の形態
被告各製品の形態は、別紙被告製品目録記載1ないし10に記載のとおりである。
(前提事実)
エ 他社製品の販売状況
(ア) 原告製品1
a 平成12年にエルジン社が(乙1の1及び2)、平成9年にインキピオー社が(乙1の3)、平成14年にバペックス社が(乙1の5)、平成17年にエスカム社が(乙1の6)、それぞれ原告製品1に類似する製品を販売した。
 インキピオー社の広告(乙1の3)には、原告製品1のコピーであることを自認する記載がある。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない(一部の広告には、限定数百本等の記載があるが、これらが実際に完売したことを認めるに足りる証拠はない。以下、この項で同じ。)。
b 乙1の4の製品は、文字盤のインデックスが異なっており、原告製品1に類似しているとはいえない。
(乙1の1〜6、12の1)
(イ) 原告製品2
a 平成6年にセントジョイナスが(乙2の1、2及び5、検乙2の5)、平成11年にエースウオッチジャパン社が(乙2の3)、エルジン社が(乙2の4、検乙2の3及び4)、リッチボーイ社が(乙2の6)、バペックス社が(乙2の8)、他社が(検乙2の2)、それぞれ原告製品2に類似する製品を販売した。
 セントジョイナスの広告(乙2の1)及びリッチボーイ社の広告(乙2の6)には、原告製品2のコピーであることを自認する記載がある。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b テクノス社の製品(乙2の7、検乙2の7)は、クロノグラフ針の形状が異なっており、乙2の9(検乙2の6)の製品は、3時及び9時の位置にインデックスがない点が異なっており、原告製品2に類似しているとはいえない。
(乙2の1〜9、12の2、検乙2の2〜2の7)
(ウ) 原告製品3
a 平成8年にエースウオッチジャパン社が(乙3の2)、平成12年にエスカム社(セントジョイナス)が(乙3の3、検乙3の6)、平成13年にアメリカ等でGEVRIL ブランドで(乙3の4、検乙3の5)、平成13年にエスカム社(セントジョイナス)が(乙3の5及び6)、エルジン社が(乙3の7及び8、検乙3の3及び4)、それぞれ原告製品3に類似する製品を販売した。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b 乙3の1の製品(オメガ社)は、文字盤のインデックスの形状、インダイヤルの文字盤の形状、ベゼルの数字、ブレスレットの形状等が異なっており、原告製品3に類似しているとはいえない。
(乙3の1〜8、12の3、検乙3の3〜6)
(エ) 原告製品4
a 平成12年及び平成15年にエルジン社が、原告製品4に類似する製品を販売した(乙4の2及び3、検乙4の5)。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b 乙4の1の製品(セントジョイナス)は、文字盤のバーインデックスの太さ及び秒針の色が、乙4の4の製品は文字盤及び秒針等が、乙4の5の製品は、ベゼル、文字盤のインデックス及び針の形状等が、検乙4の6の製品は、デイト表示窓がなく、文字盤の外周の分を表す目盛りが大きく、そのためドットインデックス及びバーインデックスが内側に位置している点、ケースの大きさが小さい点で異なっており、原告製品4に類似しているとはいえない。
(乙4の1〜5、12の4、検乙4の5及び6)
(オ) 原告製品5
a 平成6年にインキピオー社が(乙5の1、検乙5の6)、平成9年にエースウオッチジャパン社が(乙5の2)、平成10年にエースウオッチジャパン社が(乙5の3)、平成10年にインキピオー社が(乙5の4)、平成14年にインキピオー社が(乙5の5)、平成15年にインキピオー社が(乙5の6)、平成16年にエスカム社(セントジョイナス)が(乙5の7)、それぞれ原告製品5に類似する製品を販売した。
 インキピオー社の広告(乙5の1、5の4)には、原告製品5のコピーであることを自認する記載がある。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b 乙5の8(検乙5の7)の製品は、デイト表示窓を有し、秒針の形状が異なっており、原告製品5に類似しているとはいえない。
(乙5の1ないし7、12の5、検乙5の6及び7)
(カ) 原告製品6
a 平成8年にセントジョイナスが(乙6の1)、エルジン社が(検乙6の2)、原告製品6に類似する製品を販売した。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b 乙6の2及び3の製品(セイコー)は、ベゼルの形状、文字盤のインデックスの形状及び針の形状などが異なっており、原告製品6に類似しているとはいえない。
(乙6の1〜3、12の6、検乙6の2)
(キ) 原告製品7
 テクノス社が(乙7の1、検乙7の2)、セントジョイナスが(乙7の2及び3)、平成8年にエテルナが(乙7の4)、平成6年にエースウオッチジャパン社が(乙7の5)、他社が(検乙7の3)、それぞれ原告製品7に類似する製品を販売した。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
(乙7の1〜5、12の7、検乙7の2及び3)
(ク) 原告製品8
 乙8の1及び2の製品(ロンジン社)は、デイト表示窓を有し、文字盤の3時、6時及び9時の位置に数字によるインデックスがない点で、乙8の3の製品(インキピオー社)は、文字盤の3時、6時及び9時の位置の外側に三角のインデックスを有し、12時の位置の三角のインデックスが小さく、その下に「12」と記載され、その余の各時のインデックスが長い点で、それぞれ異なっており、原告製品8に類似しているとはいえない。
(乙8の1〜3、12の8)
(ケ) 原告製品9
a 平成10年にインキピオー社が(乙9の1、検乙9の3)、原告製品9−1に類似する製品を販売した。
 平成15年にインキピオー社が(乙9の2)、原告製品9−2に類似する製品を販売した。
 インキピオー社の広告(乙9の1)には、原告製品9のコピーであることを自認する記載がある。
 上記の類似する製品が販売された期間及び量を認めるに足りる証拠はない。
b 乙9の3の製品(オメガ社)は、原告製品9に類似していない。
(乙9の1〜3、12の9、検乙9の3)
(コ) 原告製品10
 乙10の1〜6の製品は、いずれも文字盤のインデックスの形状などが異なっており、原告製品10に類似しているとはいえない。
(乙10の1〜6、12の10)
(サ) 各要素の使用状況
 12時の位置に逆三角形、3時の位置にデイト表示窓、6時、9時の位置にバーインデックス、その他の時刻の位置にドットインデックスという特徴をもつ文字盤や、ベンツ針、ドルフィン針の形状は、各要素だけを取り出せば、他社の製品にも使用されている(乙9の3、10の4、11の1〜9)。
 また、原告各製品中にある他の文字盤のレイアウト、文字盤上の数字等の形状、短針、長針等の形状、風防、ブレスレット、ケース及びリューズの形状は、各要素だけを取り出せば、他社製品においても多く使用されている(乙1〜11、弁論の全趣旨)。
(シ) 原告の侵害品排除の努力
 原告は、昭和55年4月に日本において日本ロレックス株式会社を設立し、平成13年11月に社内に専任の知財担当者を置き、商標を始めとする原告各製品の形態に類似する製品を製造販売する業者に対して、警告書を送付したり、告訴したりするなどの対処をしてきた。
 原告の有する「ROLEX」等の商標の侵害は、数が多く、侵害の成否の判断も容易であり、上記知財担当者は、警告書の発送、訴え提起等により、その処理を行ってきた。
 これに対し、本件のような不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の事案については侵害の成否の判断が微妙な面があり、これまで、弁護士等に相談し、警告書を送るまではしても、万が一の敗訴の危険を考え、提訴に踏み切れない面があった。そのため、不正競争防止法2条1項1号又は2号違反事案のかなりの部分が、結果として放置されてきた。
 本件は、原告が、不正競争防止法2条1項1号又は2号違反事案についても積極的に法的手段を執る必要があると考えるに至り、提訴に至ったものである。
(甲39〜48、弁論の全趣旨)
(3) 判断
ア 原告各製品の商品等表示性について
(ア) 前記認定の事実によれば、原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態は、形態自体が極めて特殊で独特であり、その形態だけで商品等表示性を認めることができる場合には当たらないが、同種製品と区別し得る形態的特徴を有しており、これに前記の原告各製品の販売状況及び雑誌等での紹介の実情等を考慮すると、上記の各要素の組合せからなる全体の形態は、原告各製品が原告の製造販売に係るものであることを示す商品等表示に該当するということができる。
(イ) 原告は、原告各製品の形態のうち、共通形態A及び共通形態Bについても、原告の出所を示す商品等表示に当たる旨主張する。
 しかし、前記(2)エに認定した事実を考慮すると、共通形態A及び共通形態Bのみでは、いまだ原告の商品等表示に当たると認めることはできない。
(ウ) 被告らは、原告各製品の各要素の形状はありふれた形状又は機能上通常選択される形状であり、特別顕著性がなく、各要素の組合せによる全体の形態も特徴がないので、商品等表示性がない旨主張する。
 しかしながら、ある機能を達成するために、いくつかの選択肢があるのが普通である。例えば、針には、時刻を示すという機能から形態に制約があるといっても、いくつかの選択肢があるし、塗料がたれないようにするためには、ベンツ針以外の形態も選択が可能である。
 また、原告各製品から各要素を取り出せば、他社製品の中にそれと同一又は類似の形状を見いだすことができること(前記(2)エ(サ))からすると、原告各製品の各要素の形態はありふれた形状であるといわざるを得ないが、原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態と同一又は類似の組合せからなる他社製品はさほど見いだせないこと(前記(2)エ)からすると、数ある形状の中から選択された各要素の組合せからなる原告各製品の全体の形態は、形態的特徴を有するものというべきである。
(エ) また、被告らは、原告各製品の商品等表示性は販売中止後長期間の経過、類似品の販売等により消滅した旨主張する。
 しかしながら、原告製品3及び8ないし10は、販売中止後も広く雑誌等に掲載され、需要者に人気が高く、中古市場などで取引が継続されていること(前記(2)イ)、原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態と同一又は類似する他社製品はさほど見いだせないこと(前記(2)エ)、これらの類似品が原告各製品の商品等表示性を失わせるほど長期間かつ大量に販売されていたことを認めるに足りる証拠はないこと(前記(2)エ)、原告は、類似品に対して、手をこまねいていたわけではなく、警告書を送付するなど希釈化を防止するための努力をしていたこと(前記(2)エ(シ))からすれば、原告各製品の上記の各要素の組合せからなる全体の形態の出所表示機能は失われたとは認められない。
(オ) 以上によれば、原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態は、不正競争防止法2条1項1号及び2号の商品等表示性を有する。
イ 周知性又は著名性
(ア) 原告各製品は、前記(2)イのとおり、@雑誌での紹介記事及び広告の掲載回数が多く、時計専門誌だけでなく、ファッション誌などにも掲載され、人気のある商品として紹介されていること、A雑誌に掲載される際には、該当する原告各製品の写真が掲載され、原告各製品の形態が看取できていたこと、B原告各製品の販売数量等に照らすと、原告各製品の形態的特徴は、需要者の間で広く認識され、遅くとも被告各製品の販売が開始されるまでに、周知の商品等表示になっていたことが認められる。
(イ) 他方、本件各形態が原告の商品等表示として著名となっていたとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば、原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態は、不正競争防止法2条1項1号の周知な商品等表示に当たるというべきである。
2 争点(2)(類似)
(1) 法律論
不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」の類似性とは、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁、最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) 事実認定
各項の掲記の証拠によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない(一部は、当事者間に争いがない。)。
ア 被告製品1
 原告製品1と被告製品1とは、次の点で異なる。
 被告製品1のベゼルの縁の切れ込みが原告製品1よりも小さくなっている点、材質(被告製品1はアクリル樹脂)及び配色(原告製品1では赤、青とも鮮やかな色彩であるのに対し、被告製品1ではワインレッド、紺色となっている。)が異なる点、
 被告製品1のドットインデックスの大きさは原告製品1よりも小さく、バーインデックスは原告製品1よりも少し長く細めである点、
 被告製品1の24時間針の先端の矢印の三角形の大きさが原告製品1よりも少し小さい点、
 被告製品1にはリューズガードがなく、被告製品1のリューズの方が原告製品1よりも若干大きめである点
(争いのない事実)
イ 被告製品2
 原告製品2と被告製品2とは、次の点で異なる。
 ベゼル上に表示された文字が、原告製品2は「60」から始まり「400」で終わるのに対し、被告製品2は「50」から始まり「200」で終わっている点、
 「UNITS PERS HOUR」の位置が、原告製品2は1時の位置であるのに対し、被告製品2は3時の位置である点、
 3時、6時、9時の位置以外の他の時刻のインデックスは、被告製品2では内側に向いた側が尖ったロケット形の形状で一体的に形成されているが、原告製品2は正方形状のものの先端にやじり状のものを付したもので2つの形状の組み合わされた形状となっている点、
 インダイヤルの文字盤相互の間隔が被告製品2の方が原告製品2に比べて少し離れている点、
 インダイヤルの外周の帯状の幅が被告製品2の方が少し狭く、白色の文字盤の場合に帯状の色は原告製品2がシルバーであるのに対し、被告製品2は黒色を使用している点、
 インダイヤルの文字盤の6時、9時の位置の数字の形状等が異なる点
(争いのない事実)
ウ 被告製品3
 原告製品3と被告製品3とは、次の点で異なる。
 インダイヤルの外周の帯状の幅が被告製品3の方がやや狭い点、
 3時、9時の位置のインダイヤルの文字盤の数字が異なる点
(争いのない事実)
エ 被告製品4
 原告製品4と被告製品4とは、次の点で異なる。
 原告製品4のベゼルは、ベゼル自体が円柱状で外周に向かって下がる度合いが低く、側面から見るとベゼルに厚みがあり文字も凸凹があり立体的であるのに対し、被告製品4のベゼルは、なだらかに外周に向かって下がっていて、側面からみると平板で、浮き彫りとなる文字も平板になっている点、
 ベゼル上の文字は、被告製品4は12時の位置の逆三角形と2時の位置の10の間の1時の位置に5の数字があるが、原告製品4にはない点、
 原告製品4は、12時の位置から3時の位置まで1分刻みの目盛りがベゼルの半分ほどの長さで棒状に刻まれているのに対し、被告製品4は、目盛りはドット状であり、12時の位置から4時の位置まで付されている点
(争いのない事実)
オ 被告製品5
 原告製品5と被告製品5とは、次の点で異なる。
 ベゼルの幅やリューズの大きさに若干の違いがある点。
(争いのない事実)
カ 被告製品6
 原告製品6と被告製品6とは、次の点で相違する。
 ベゼルの数字の字体は、原告製品6の数字は丸みを帯びているのに対し、被告製品6のそれは角張っている点(ただし、被告製品6には、この点で変遷があるようであり、被告製品目録の写真では、被告ら主張のとおりであるが、検乙6の1では、数字の形状の差はほとんどない。)、
 ベゼルの奇数の数字の代わりに付された逆三角形は、被告製品6では、原告製品6に比し、やや縦に長いため、ベゼルの幅の中央の位置にあるように見える点(被告製品6には、この点でも変遷があるようであり、被告製品目録の写真では、被告ら主張のとおりであるが、検乙6の1では、この点の差はほとんどない。)、
 リューズの厚みは、被告製品6では、やや厚めで、円柱状に近いのに対し、原告製品6では、横から見ると薄く見え、頭部と底部がドーム状の形をしていて、丸みを帯びている点
(争いのない事実、乙12の6、検乙6の1)
キ 被告製品7
 原告製品7と被告製品7とは、次の点で相違する。
 原告製品7のベゼル、文字盤の色は、明るい青色であるのに対し、被告製品7のベゼル、文字盤の色は、群青色に近い青である点、
 6時の位置のバーインデックスの太さが異なる点
(争いのない事実)
ク 被告製品8
 原告製品8と被告製品8とは、次の点で相違する。
 ベゼルの色、素材(被告製品8はアクリル樹脂)、数字の表示、色、字体、幅などが異なる点、
 文字盤のインデックスの色、字体、12時の位置の逆三角形のインデックスの下の表示、6時の位置の数字の上の表示が異なる点、
 秒針の形状は、被告製品8は、イナズマをかたどったような針で、先端には三角形が施され、針の後端に小さい四角形があるのに対し、原告製品8は、まっすぐに伸びた細い針、先端から3分の1のところに縁取りがされた白色の円形が配され、針の後端に更に小さい円形がある点、
 針の色が異なる点、
 リューズの厚みが異なる点
(争いのない事実、乙12の8、検乙8の1及び2)
ケ 被告製品9
 原告製品9と被告製品9とは、次の点で相違する。
 原告製品9−1と被告製品9−1については、ベゼルの素材、12時の位置の逆三角形の形状、ベゼル上の「1、2、3、4、5」の数字の字体、1分刻みの目盛りの長さが異なる点、
 原告製品9−2と被告製品9−2については、ベゼルの幅が異なる点、
 被告製品9の文字盤はメッシュ状になっている点、
 リューズの形状が若干異なる点
(争いのない事実、乙12の9、検乙9の1及び2)
コ 被告製品10の形態
 原告製品10と被告製品10とは、次の点で相違する。
 文字盤は、原告製品10には、文字盤が白のものと黒のものがあるが、被告製品10には、ブルーのものとアイボリーのものもある点、
 インデックスの色が異なる点、
 ムーンフェイズの月の顔の表情がわずかに異なる点、
 ムーンフェイズの外周には、原告製品10では、何も数字が記載されておらずスモールセコンドとなっているが、被告製品10では、1から31までの数字が記載され、日付を表すカレンダー機能を兼ね備えている点、
 文字盤の外周は、原告製品10では、分を表す目盛りの外側に、日付を表す1から31までの数字が配されているのに対し、被告製品10では、分を表す目盛りが1分刻みで表され、その外側に2から60の偶数の数字が表されている点、
 分を表す目盛り、その円周、その外側の数字の色は、原告製品10では、白地のものでは黒、黒地のものでは金という配色であるのに対し、被告製品10では、白及びアイボリーのものでは紺、黒及びブルーのものでは銀色である点、
 針については、秒針は、原告製品10では、金色であるのに対し、被告製品10では、銀色で、先端部の小さな三角形の色は赤色である点、
 ケース及びリューズについては、被告製品10のリューズは、やや厚めで、円柱状に近いのに対し、原告製品10のそれは、横から見ると薄く、頭部と底部がドーム状の形をしており、丸みを帯びている点、
 被告製品10は、シースルーバックといわれる透明の裏蓋を採用している点
(争いのない事実、検乙10の1〜4)
サ 原告各製品と被告各製品に共通する相違点
 文字盤の12時の位置の下やリューズの頭、ブレスレットのバックル部分に表示される商標又はマーク等の標章、並びに文字盤の6時の位置の上に表記される製品名が異なる。
 原告商標の「王冠マーク」と被告商標の「三叉鉾のマーク」とは、共に上が開いた放物線状の輪郭を持ち、原告商標の「ROLEX」と被告商標の「R・X・W」とは、アルファベットのRとXが共通している。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
(3) 判断
ア 被告製品8を除く被告各製品
(ア) 上記(2)に認定の事実によると、被告製品1ないし7、9及び10については、これに対応する原告各製品の形状と相違点があるが、全体からみるといずれも些細な相違であり、被告製品1ないし7、9及び10は、これに対応する原告各製品に類似するというべきである。
(イ) 被告らは、付されている商標等の相違を主張するが、製品に付されている商標や製品名は商品全体の大きさに比して、小さく表されており、全体的に観察した場合には、原告各製品に付されている「王冠マーク」や「ROLEX」と被告各製品に付されている「三叉鉾マーク」や「R・X・W」の相違は微細なものというべきであるから、付されている商標や製品名等の相違は、上記判断を左右するものではない。
イ 被告製品8
 被告製品8−1と原告製品8とは、被告製品8はイナズマ針であり、6時の位置の数字の上に赤色と白色で大きく文字等が記載されている点の違いがあり、そのため、原告製品8の有するシンプルでオーソドックスな雰囲気と異なる雰囲気を醸し出しているといわざるを得ないから、被告製品8−1が原告製品8に類似しているとは認められない。
 被告製品8−2と原告製品8とは、更にベゼルの違いが加わっているから、被告製品8−2が原告製品8に類似しているとは認められない。
 したがって、被告製品8が原告製品8に類似するとは認められない。
3 争点(3)(混同のおそれ)
(1) 前記2のとおり、被告製品8を除く被告各製品は、これに対応する原告各製品に類似していることからすれば、取引者又は需要者において、被告製品8を除く被告各製品とこれに対応する原告各製品との出所の混同を生じるおそれがあると認められる。
(2)ア 被告らは、原告各製品と被告各製品の商標、製品名の相違、価格差、販売形態の相違、営業表示の相違があり、原告各製品と被告各製品とでは需要者が異なるので、誤認混同が生ずるおそれがない旨主張する。
イ しかしながら、前記2(3)ア(イ)のとおり商標や製品名の相違は全体的に観察した場合には些細な相違であると認められる。
ウ 価格については、一例として、証拠(甲12の6)によれば、平成14年6月ころ、被告有限会社は、原告製品6(エクスプローラーU。Ref.16570)の新品を41万8000円で販売していたが、被告製品6(エクスパートタイマーU)を6万8000円で販売していたこと、原告製品4(ヨット−マスター・ロレジウム。Ref.16622)の新品を76万8000円で販売していたが、被告製品4(セイルマスター)を4万8000円で販売していたことが認められ、この事実によれば、被告各製品の価格は、原告各製品の価格に比し極めて安いといわざるを得ない。
 また、証拠(甲1〜11)及び弁論の全趣旨によれば、原告各製品は価格も高く、ブランド製品であり、需要者が購入を検討する際、他の生活用品の購入の際との比較において、商標や製品名に注目する割合が高いと認められる。
 しかしながら、これらの事情は、後記の損害の推定規定の適用に当たって考慮される事情ではあるとしても、混同のおそれを失わせるほどのものではないといわなければならない。
エ さらに、証拠(甲12の1〜8、10、12、16及び17、13の1、4及び5)及び弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、原告各製品と被告各製品とを同じ被告店舗及び被告ウェブサイトで販売し、被告有限会社の広告の中には、原告各製品と被告各製品と同じ広告で紹介しているものがあることが認められ、これらの事実からすると、販売ルートの違いから、混同のおそれがないと認めることはできない。
4 争点(4)(被告株式会社の不正競争行為)
(1) 原告は、平成12年10月3日以降も、被告株式会社は被告有限会社と共同して被告各製品を製造販売した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(2)ア 原告は、平成12年10月3日以降も、被告株式会社名で被告各製品を販売する旨の広告があること(甲13の1及び2、12の1及び16)を根拠として主張する。
 しかし、被告株式会社の名称が表示されているのは、甲13の1(平成12年12月20日発行)、甲13の2(同年11月1日発行)、甲12の1(平成13年2月10日発行)、甲12の16(平成12年10月9日発行)及び甲12の17(平成12年11月発行)であるところ、雑誌の実際の発行日は、週刊誌、月刊誌、臨時増刊に応じてもっと早いこと(弁論の全趣旨)及び広告の発注締切りは更に早いことを考慮すると、上記証拠から、被告株式会社が被告有限会社の設立後も、被告各製品の製造、販売を行っていたと認めることはできない。
イ 原告は、被告有限会社の創立何周年かの記載、南青山当時の経営主体等をその根拠として、主張する。
 しかしながら、銀座移転を契機に、別会社を設立し、その会社に時計の製造、販売を行わせること、元の会社から分社化された会社や個人から法人成りした会社が、元の会社又は個人時代の営業年数を通算して、自己の信用を高めるようなことは、十分あり得ることであるから、原告主張の事情をもって、被告株式会社が被告有限会社の設立後も、被告各製品の製造販売を行っていたと認めることはできない。
ウ 原告は、被告らの代表取締役はいずれもAであること等を主張するが、個人が事業の目的別に複数の会社を有することはよくあることであり、公安委員会の許可が個人名で得られていること等も、それだけでは、被告株式会社が被告有限会社の設立後も、被告各製品の製造販売を行っていたことを示すものではない。
エ そうすると、平成12年10月2日以前の被告各製品の製造、販売行為については被告株式会社が、平成12年10月3日以降の被告各製品の販売行為については被告有限会社が、それぞれ不正競争防止法2条1項1号に基づく責任を負うべきである。
5 争点(5)(消滅時効の成否)
(1) 後記のとおり、本訴提起日から3年以前の販売の主張がある被告製品1、5、7、9及び10の一部の期間につき、3年の消滅時効が完成したか否かについて検討する。
(2) 証拠(甲12の1及び2、40〜48)及び弁論の全趣旨によれば、平成13年2月10日発行の雑誌(甲12の1)に被告製品1、5及び9の写真と価格が、同年7月30日発行の雑誌(甲12の2)には被告製品1、5、7、9及び10の写真と価格がそれぞれ掲載されていること、これらの雑誌の実際の発売日は、上記雑誌に記載された日よりも少なくとも1か月程度早いこと、原告は、ブランドイメージの維持のため、商標法、不正競争防止法違反の調査を継続して行っていたことが認められるが、これらの事実に、不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の成否の判断のためにはある程度の検討期間を要することを考慮すると、原告は、被告製品1、5、7、9及び10について、平成13年8月25日までに被告製品の販売による損害及び加害者を知ったものと認めることはできない。
 上記雑誌の発行により原告は平成13年8月25日までに損害及び加害者を知った旨の被告らの主張は、採用することができない。
(3) 本訴の提起は平成16年8月26日であるから、上記各知った日から3年以内に時効中断措置が執られたものである。
 よって、被告らの消滅時効の抗弁は理由がない。
6 争点(6)(故意過失)
 前記2のとおり、被告製品8を除く被告各製品が対応する原告各製品に類似し、侵害が多くの製品にわたっていること、被告らは、被告各製品に「三叉鉾のマーク」及び「R・X・W」を使用しているが、原告の「王冠マーク」及び「ROLEX」との類似の程度からすると、原告の上記商標を意識し、それに類似した商標を選択したとみなされてもやむを得ないことを考慮すると、被告らには、不正競争を行って原告の営業上の利益を侵害することにつき、少なくとも重大な過失があったものと認めるべきである。
7 争点(7)(損害額)
(1) 製造個数、販売数量及び売上金額並びにその帰属主体
ア 争いのない事実
 被告製品1ないし7、9及び10について、平成12年9月から平成17年5月までの間の売上等が、別紙原告損害額算定表の「売上高」「製造個数」「販売個数」欄記載のとおりであること、その内訳が別紙単価・数量明細表1ないし7、9及び10(8は欠番)のとおりであることは、当事者間に争いがない。
イ 被告製品1
 被告製品1の発売開始時期は平成12年12月ころであるから(甲12の16、乙15の1(2枚目)、弁論の全趣旨)、被告製品1の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
ウ 被告製品2
 当事者間に争いのない被告製品2の販売時期からすると、被告製品2の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
エ 被告製品3
 被告製品3が平成12年10月2日以前に販売されたことを認めるに足りる証拠はないから、被告製品3の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
オ 被告製品4
 当事者間に争いのない被告製品4の販売時期からすると、被告製品4の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
カ 被告製品5
 被告製品5の発売開始時期は早くても平成12年10月31日であるから(甲12の16、乙15の1(4、5枚目)、弁論の全趣旨)、被告製品5の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
キ 被告製品6
 当事者間に争いのない被告製品6の販売時期からすると、被告製品6の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
ク 被告製品7
 当事者間に争いのない被告製品7の販売時期からすると、被告製品7の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
ケ 被告製品9
 被告製品9の発売開始時期は平成12年9月ころであるから(甲12の16、乙15の1(1枚目)、弁論の全趣旨)、被告製品9の売上等のうち、平成12年9月から同年10月2日までの売上等は被告株式会社に、その余はすべて被告有限会社に帰属する。平成12年9月から平成13年5月までの被告製品9の販売個数は83個、売上は414万4067円である(別紙単価・数量明細表9)。
コ 被告製品10
 当事者間に争いのない被告製品10の販売時期からすると、被告製品10の売上等は、すべて被告有限会社に帰属する。
(2) 不正競争防止法5条2項による計算
ア 原告による実施
 前記のとおり、原告は、被告製品3、9及び10が販売された平成12年10月以降、原告製品3、9及び10を製造、販売していないから、不正競争防止法5条2項は適用されないと解すべきである。
イ 被告製品1、2及び4ないし7
(ア) 変動費
 不正競争防止法5条2項により、被告らの受けた利益の額が原告の受けた損害の額と推定されるところ、被告らが受けた利益の額とは、売上金額から、侵害品である被告各製品の販売のみのために直接要した費用(以下「変動費」という。)を控除した額とするのが相当である。
 そこで、以下、被告有限会社が被告製品1、2及び4ないし7の販売行為により受けた利益を算定する。
(イ) 被告製品1
a 開発費205万7000円(合計)
 被告有限会社は、原告が認める合計205万7000円(乙17の4〜8、13、19、26、27、29〜31及び33)のほかに、60万円の開発費が生じた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 不正競争防止法5条2項による計算に当たっては、販売されなかった数量を含めて1個当たりの開発費を算定すべきではなく、その全額を変動費として差し引くべきである。
b 製品代2万2000円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
c ムーブメント代9500円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
d ベゼル1610円(1個当たり)
 証拠(乙16の1、17の42、46及び81)及び弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、ベゼルを次のとおり仕入れたことが認められ(一部の仕入値は判明していない。)、1個当たりの額は1378円となるから、原告の認める1610円を採用することとする。
 プラベゼル(赤・青) 67個1865円
 プラベゼル(黒) 102個975円
 ベゼル(黒) 10個1800円
 ベゼル(赤・青) 10個1800円
e ブレスレット5300円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f 広告費52万4554円
 後記(ク)のとおりである。
g 箱代735円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h まとめ
 被告製品1の変動費は、904万0479円となる。
 205万7000円+52万4554円+(2万2000円+9500円+1610円+5300円+735円)×165個=904万0479円
(ウ) 被告製品2
a 開発費42万0140円(合計)
 この点は、当事者間に争いがない。
 前記(イ)aのとおり、全額を変動費として差し引くべきである。
b ケースとブレスレット3万3000円(1個当たり)
 弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、被告製品2のケースとブレスレットを1個当たり3万3000円で仕入れたことが認められる。
c ムーブメント代5万5000円(1個当たり)
 証拠(乙23)及び弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、被告製品2のムーブメントを1個500USドルで仕入れたこと、それを日本円に換算すると、1個当たり5万5000円となることが認められる。証拠(乙19の5及び6)によれば、被告製品2の販売価格は12万8000円と高く、ムーブメントとしてバリュージュ社製Cal.7750を搭載していることをセールスポイントとして宣伝していることが認められ、これらの事実からすると、1個当たり5万5000円との価格がバランスを失し、信用できないものと認めることはできない。
d ベゼル3300円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
e リューズメッキ560円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f 加工1200円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
g ダイヤル2900円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h 広告費10万5750円
 後記(ク)のとおりである。
i 箱代2200円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
j まとめ
 被告製品2の変動費は、160万5650円となる。
 42万0140円+10万5750円+(3万3000円+5万5000円+3300円+560円+1200円+2900円+2200円)×11個=160万5650円
(エ) 被告製品4
a 開発費77万8715円(合計)
 この点は、当事者間に争いがない。
 前記(イ)aのとおり、全額を変動費として差し引くべきである。
b ケースとブレスレット2万7500円(1個当たり)
 弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、被告製品4のケースとブレスレットを1個当たり2万7500円で仕入れたことが認められる。
c ムーブメント代4000円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
d ダイヤル3000円(1個当たり)
 証拠(乙17の58、63及び64)によれば、被告有限会社は、5種類のダイヤルを4種類は3400円、1種類は1400円で仕入れたことが認められるから、1個当たりの仕入値を3000円と認めるべきである。
e ベゼル1380円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f 加工費2000円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
g リューズマークメッキ560円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h バックルスジ目加工とセンターミラー加工430円(1個当たり)
 被告有限会社は、1個の時計にバックルスジ目加工とセンターミラー加工の双方が必要である旨主張するが、証拠(乙17の41及び56)によれば、1個の時計にいずれかの加工で足りるようにも考えられ、双方の加工が必要であることの立証はないといわざるを得ない。
 証拠(乙17の41及び56)によれば、これらの加工費には395円と465円のものがあるから、1個当たりの加工費を430円と認めるべきである。
i カレンダーディスク加工900円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
j リューズ600円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
k 広告費52万7768円
 後記(ク)のとおりである。
l 箱代735円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
m まとめ
 被告製品4の変動費は、866万4278円となる。
 77万8715円+52万7768円+(2万7500円+4000円+3000円+1380円+2000円+560円+430円+900円+600円+735円)×179個=866万4278円
(オ) 被告製品5
a 開発費146万1000円(合計)
 この点は、当事者間に争いがない。
 前記(イ)aのとおり、全額を変動費として差し引くべきである。
b ケース組立一式1万5000円(1個当たり)
 証拠(乙16の4及び7〜16、17の51及び54)によれば、ケース組立代として、1万6000円のものと1万4000円のものがあることが認められるから、1個当たりの組立代を1万5000円と認めるべきである。
c ムーブメント代5100円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
d ダイヤル3000円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
e ブレスレット5300円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f 広告費262万7625円
 後記(ク)のとおりである。
g 箱代452円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h まとめ
 被告製品5の変動費は、2656万4333円となる。
 146万1000円+262万7625円+(1万5000円+5100円+3000円+5300円+452円)×779個=2656万4333円
(カ) 被告製品6
a 開発費25万8500円(合計)
 被告有限会社は、原告が認める合計25万8500円(乙17の55、59及び74)のほかに、52万0215円の開発費が生じた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 前記(イ)aのとおり、全額を変動費として差し引くべきである。
b ケースとブレスレット2万7500円(1個当たり)
 弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、被告製品6のケースとブレスレットを1個当たり2万7500円で仕入れたことが認められる。
c ムーブメント代9500円(1個当たり)
 証拠(乙17の80)によれば、被告有限会社は、被告製品6のムーブメントを1個当たり9500円で仕入れたことが認められる。
d ダイヤル2800円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
e ベゼル3900円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f リューズマークメッキ560円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
g 組立加工費1800円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h つつ車280円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
i 広告費20万0393円
 後記(ク)のとおりである。
j 箱代735円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
k まとめ
 被告製品6の変動費は、380万1218円となる。
 25万8500円+20万0393円+(2万7500円+9500円+2800円+3900円+560円+1800円+280円+735円)×71個=380万1218円
(キ) 被告製品7
a 開発費17万0500円(合計)
 被告有限会社は、原告が認める合計17万0500円(乙17の37、38、44、47及び66)のほかに、14万2980円の開発費が生じた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 前記(イ)aのとおり、全額を変動費として差し引くべきである。
b ケースとブレスレット3万3000円(1個当たり)
 弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、被告製品7のケースとブレスレットを1個当たり3万3000円で仕入れたことが認められる。
c ムーブメント代4000円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
d ダイヤル3900円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
e 巻芯とパイプ460円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
f ガラスパッキン60円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
g サポートリングSS 150円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
h バックル磨き430円(1個当たり)
 証拠(乙17の65)によれば、これらの加工費には395円と465円のものがあるから、1個当たりの加工費を430円と認めるべきである。
i リューズメッキ560円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
j 加工2800円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
k 広告費32万0625円
 後記(ク)のとおりである。
l 箱代735円(1個当たり)
 この点は、当事者間に争いがない。
m まとめ
 被告製品7の変動費は、491万6245円となる。
 17万0500円+32万0625円+(3万3000円+4000円+3900円+460円+60円+150円+430円+560円+2800円+735円)×96個=491万6245円
(ク) 広告費
a 証拠(甲12の2、乙18の1〜6、19の1〜24)及び弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、雑誌の発行日ベースで、別紙被告広告宣伝費計算表1のNo.10ないし34のとおり、合計25回雑誌に被告各製品の広告を掲載したこと、並びにその額は、定価ベースでは別紙被告広告宣伝費計算表1及び2のとおりとなり、合計額は2690万円(消費税抜き。同計算表2の2615万円に同計算表1の第10行の75万円を加えた額)であることが認められる。その他の被告の広告宣伝費を認めるに足りる証拠はない。
b 証拠(甲12の2、乙19の1〜24)によれば、定価ベースでの各広告費を被告製品8を除く被告各製品に割り振ると、次のとおりとなることが認められる。
 被告製品1 58万2838円
 被告製品2 11万7500円
 被告製品3 846万8651円
 被告製品4 58万6409円
 被告製品5 291万9583円
 被告製品6 22万2659円
 被告製品7 35万6250円
 被告製品9 42万5694円
 被告製品10 283万5456円
c 弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、同一の雑誌に複数回宣伝広告を出したり、被告代表者Aが資料を提供し、インタビューに応じたりすることにより、広告料の値引きを受け、その額は、平均して1割程度であることが認められるから、被告各製品ごとの広告費は、上記bの額に0.9を乗じた次の額となる。
 被告製品1 52万4554円
 被告製品2 10万5750円
 被告製品3 762万1786円
 被告製品4 52万7768円
 被告製品5 262万7625円
 被告製品6 20万0393円
 被告製品7 32万0625円
 被告製品9 38万3124円
 被告製品10 255万1910円
d 原告は、被告各製品の広告費について、製造数で除した金額のみを費用として認めるべきである旨主張するが、被告各製品の販売のために要した費用として広告費全額を控除すべきであり、原告の上記主張は、採用することができない。
(ケ) 店舗家賃
 被告有限会社は、店舗家賃についても、被告各製品の売上げが総売上げに占める割合に応じて、変動費と認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲12の1〜6、9、10、12、14、17及び19)及び弁論の全趣旨によれば、別紙人件費・店舗家賃充当額一覧表のとおり、被告有限会社は、被告各製品以外のオリジナルの商品や原告の製品等を被告店舗や被告ウェブサイトで販売していること、被告製品8を除く被告各製品の売上げが被告の総売上げに占める割合は、最も多い平成14年5月期で、10.2%程度であること(平成17年5月期は、本訴の提起その他の事情で総売上げ、被告製品8を除く被告各製品の売上げとも大幅に減少していることが看取される。)が認められ、売上げの増減に応じて賃借面積を適宜増減できるとの事情も窺われないことを併せ考慮すると、被告店舗の家賃を変動費と認めることはできない。
(コ) 人件費
 証拠(乙22)及び弁論の全趣旨によれば、被告有限会社は、平成12年9月に南青山から銀座店舗に移転した際、販売に携わる従業員を3名から6名に増やしたこと、前記のとおり、被告各製品は原告各製品に比し値段が安いため、売上げの割には、顧客への説明、発送に手間が取られ、2名程度が被告各製品の販売にかかりきりになること、総売上げに占める被告製品8を除く被告各製品の売上げの割合で、総給与に占める被告製品8を除く被告各製品に係る人件費を算出すると、別紙人件費・店舗家賃充当額一覧表の充当給与欄のとおりであること(平成13年5月期を含む。)が認められる。
 以上の事実によれば、被告有限会社は、被告製品8を除く被告各製品の販売を行わなければ、当然、従業員の数を減らすか、パートタイム勤務にする等の方法で、人件費を減らしたものと予想されるから、別紙人件費・店舗家賃充当額一覧表の充当給与欄合計313万0712円(平成13年5月期を含む。)は、変動費と認めるべきである。
 被告製品8を除く被告各製品には、売上額に応じて割り振るのが相当である。
(カ) 小括
 以上によれば、平成13年8月27日以降に被告製品1、2及び4〜7の販売により被告有限会社が受けた利益は、以下のとおりとなる。
@ 被告製品1 28万7448円
 957万3818円−928万6370円=28万7448円
A 被告製品2 −3万2129円
 161万5000円−164万7129円=−3万2129円
B 被告製品4 −41万3767円
 846万8000円−888万1767円=−41万3767円
C 被告製品5 1026万7070円
 3780万2304円−2753万5234円=1026万7070円
D 被告製品6 74万7870円
 466万9005円−392万1135円=74万7870円
E 被告製品7 123万7426円
 631万5886円−507万8460円=123万7426円
(キ) 推定の覆滅
a 前記3(2)に説示の原告各製品と被告各製品との間に大きな価格差があり、需要者が原告各製品のようなブランド品の購入に当たっては、他の生活用品の購入の際との比較において、商標や製品名に注目する割合が高いことなどの事実によれば、被告らが、同一の店舗において原告の製品と被告各製品の双方を販売していて、「10万円以下モデルも豊富なショップ」「ロレックスの10万円以下のお手軽モデルも豊富に揃えているのは見逃せない。」(甲12の19)等と原告の製品を被告各製品と同一の価格設定で販売している旨を積極的に宣伝していることなどの事実を考慮しても、被告製品8を除く被告各製品の販売による侵害者利益の4分の3については、原告がこれを得ることができなかったことの立証があったものとして、推定の覆滅を認めるべきである。
b その結果、被告各製品ごとの不正競争防止法5条2項による利益は、次のとおりとなる(同条3項による利益額が上回ることが明らかな被告製品2及び4を除く。)。
@ 被告製品1 7万1862円
 28万7448円×0.25=7万1862円
A 被告製品5 256万6767円
 1026万7070円×0.25=256万6767円
B 被告製品6 18万6967円
 74万7870円×0.25=18万6967円
C 被告製品7 30万9356円
 123万7426円×0.25=30万9356円
c 後記(3)で算出した不正競争防止法5条3項による損害額と比較すると、被告製品2及び4に加え、被告製品1についても、同条3項による利益額が同条2項による利益額を上回るので、被告製品1、2及び4については、同条3項による利益額を採用することとする。
(3) 不正競争防止法5条3項による計算
ア 前記認定事実並びに証拠(甲49)及び弁論の全趣旨によれば、精密機械器具の技術分野における平成4年度から平成10年度の実施料率の平均は、イニシャル・ペイメントの条件がない場合は6.8%であること、時計については、商標のみの使用に対する実施料率が8%を超えるものがあること、原告は、高級腕時計の分野でトップメーカーの地位を占め、一貫して、原告の商標やデザインを他に使用許諾しないとの方針を採ってきたこと、特に、原告が、被告有限会社のようなコピーメーカーに対して原告各製品のデザインを使用許諾することは、あり得ないこと、原告各製品の形態は、広く知られたものであるが、原告各製品のような高級腕時計の需要者は、その選択に当たり、商標だけでなく、デザインを大いに考慮すると考えられることが認められ、その他本件に現れたその余の事情を併せ考慮すると、本件において、原告各製品の商品等表示の使用に対して受けるべき金銭の額は、現在製造が中止されている物を含め、被告各製品の箱代等を含む売上げの10%と認めるのが相当である。
イ 製造中止分
@ 被告製品3 224万8973円
 2248万9738円×0.1=224万8973円
A 被告製品9 合計66万0098円
 660万0985円×0.1=66万0098円
 このうち、平成12年9月から平成13年5月までの販売個数83個、売上414万4067円のうち、月割計算で約9分の1に当たる46万円に対する使用料相当額4万6000円は被告株式会社が、その余の売上合計614万0985円に対する使用料相当額61万4098円は被告有限会社が負担すべきである。
B 被告製品10 243万6030円
 2436万0302円×0.1=243万6030円
ウ 不正競争防止法5条3項による損害額が同条2項による利益額を上回るもの
C 被告製品1 95万7381円
 957万3818円×0.1=95万7381円
D 被告製品2 16万1500円
 161万5000円×0.1=16万1500円
E 被告製品4 84万6800円
 846万8000円×0.1=84万6800円
エ 不正競争防止法5条2項による推定が覆滅された部分
F 被告製品5 283万5172円
 3780万2304円×0.75×0.1=283万5172円
G 被告製品6 35万0175円
 466万9005円×0.75×0.1=35万0175円
H 被告製品7 47万3691円
 631万5886円×0.75×0.1=47万3691円
(4) まとめ
 以上をまとめると、次のとおりとなる。
@ 被告製品3 224万8973円
A 被告製品9 66万0098円
 内被告株式会社分4万6000円
 内被告有限会社分61万4098円
B 被告製品10 243万6030円
C 被告製品1 95万7381円
 957万3818円×0.1=95万7381円
D 被告製品2 16万1500円
 161万5000円×0.1=16万1500円
E 被告製品4 84万6800円
F 被告製品5 540万1939円
 256万6767円+283万5172円=540万1939円
G 被告製品6 53万7142円
 18万6967円+35万0175円=53万7142円
H 被告製品7 78万3047円
 30万9356円+47万3691円=78万3047円
I 合計1403万2910円
8 争点(9)(差止め及び廃棄の必要性)
(1) 被告株式会社が平成12年10月3日以降被告各製品を製造、販売していたことの立証はないから、同被告に対する差止め及び廃棄請求は必要性が認められないので、理由がない。
(2) 被告有限会社に対する被告製品8の製造、販売等の差止め及び廃棄請求は、理由がない。
 証拠(乙21の1〜7、9及び10、22)によれば、被告有限会社は、現在、被告製品8を除く被告各製品の製造、販売を中止し、残った在庫品については、他の製品の製造に使用する目的で分解し、部品として保管していること、しかし、被告有限会社は、被告製品8を除く被告各製品の侵害の事実を争っており、しかも、製造、販売を再開することは容易であると考えられることが認められ、これらの事実によれば、被告有限会社に対する被告製品8を除く被告各製品の製造、販売等の差止請求は理由があるが、同製品に対する廃棄請求は理由がない。
9 結論
 以上によると、原告の本訴請求は、主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、仮執行宣言については、相当と認め、これを付することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 大竹優子
 裁判官 杉浦正樹
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