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【事件名】映画製作補助金をめぐる名誉棄損事件
【年月日】平成18年6月7日
 東京地裁 平成16年(ワ)第15623号 謝罪広告等請求事件

判決


主文
1 被告は、原告らに対し、別紙1記載の内容の謝罪広告を、被告が発行する「a1」及び被告が管理する「a2ホームページ」にそれぞれ掲載せよ。
2 被告は、原告らに対し、中日新聞に別紙1記載の謝罪広告を別紙2記載の条件で1回掲載せよ。
3 被告は、「a2ホームページ」から、別紙3記載の各部分を削除せよ。
4 被告は、原告株式会社x1に対し、50万円及びこれに対する平成16年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、原告x2に対し、50万円及びこれに対する平成16年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告らのその余の請求を棄却する。
7 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
8 この判決は、第4項及び第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、「a2ホームページ」から、別紙3記載1ないし3の各部分及び別紙3記載4のウェブページに掲載された別紙5「主張一覧表」記載の番号5の「具体的名誉毀損行為(記事内容)」欄の各記載全部をそれぞれ削除せよ。
3 被告は、原告x1に対し、100万円及びこれに対する平成16年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告x2に対し、100万円及びこれに対する平成16年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、映画「折り梅」の製作資金について愛知県豊明市が同映画製作実行委員会を通じて原告会社に対してした補助金の返還に関して、被告が市議会の一般質問内容等を被告が編集発行する広報誌及びウェブサイトに掲載したことが原告らの社会的評価を低下させるものとして、原告らが、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料(一部請求)及び不法行為日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告の掲載を求めた事案である。
2 前提となる事実(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。)
(1) 当事者
ア 原告関係
(ア) 原告株式会社x1(以下「原告会社」という。)は、広告の企画・製作・実施及び広告代理業、テレビ・ラジオ放送番組・映画の企画・製作、演劇・音楽・録音・録画物の企画・制作・販売及び輸出入、音声・映像のソフトウェア(ディスク・テープ及びフィルム)の企画・制作・製造・販売・賃貸及び放送・上映、作詞家・作曲家の著作権又は実演家の著作隣接権の取得及び譲渡・使用許諾、書籍・雑誌・楽譜の出版・販売等を目的として昭和60年8月6日に設立された株式会社である(争いのない事実、甲1)。
(イ) 原告x2(以下「原告x2」という。)は、原告会社の代表取締役である(争いのない事実、甲1)。
イ 被告関係
 被告は、愛知県豊明市に居住し、現在、豊明市議会議員である(争いのない事実)。
 被告は、市民向けの市政情報誌として「a1」を、豊明市議会開催月以外、毎月発行している。また、「議会の報告、議会で得た最新情報、議会の裏話、a1など、身近な政治、議会の透明性を目的に、さまざまな情報を積極的に公開することを目的として、インターネット上にウェブサイト「a2ホームページ」(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し、随時更新している。(争いのない事実)
(2) 原告会社による映画「折り梅」の製作
 映画「折り梅」は、自らの介護の手記である小菅もと子原作の「忘れてもしあわせ」を、原告x2が製作・脚本・監督を務めて映画化したものである(争いのない事実、甲5)。
(3) 被告による「a1」及び本件ウェブサイトへの記事掲載(以下「本件行為」という。)
ア 「a1」への記事掲載
 被告は、平成16年1月23日発行の「a1 第47号」に「映画『折り梅』補助金返還について」と題する記事を掲載して愛知県豊明市内の市民に頒布した(争いのない事実)。
イ 本件ウェブサイト上への記事掲載
(ア) 被告は、上記「映画『折り梅』補助金返還について」と題する記事が掲載された「a1 第47号」を、画像化した上で本件ウェブサイト上にそのまま掲載した(争いのない事実、甲2)。
(イ) 被告は、平成16年1月ころから同年4月ころまでの間に、本件ウェブサイトのうち次の各ページにそれぞれ次の各内容の文章等を掲載した(争いのない事実)。
a 「a2の活動アラカルト」との記載が冒頭にあるページ(甲3の2)
 次の文章
 「映画「折り梅」の返還金について一般質問しようと思った数々の疑惑、議会質問・答弁の要約、映画会社の反論、私の主張など、すべてをみなさまに公開し判断を仰ぎたいと思います。《名誉毀損に関するHP はここから》」
b 「平成15年12月議会a2一般質問」との記載が冒頭にあるページ(甲3の3)
 次の各文章
 「質問
 資料としてお配りした映画会社が提出した損益計算書の管理費の給料手当2260万円に役員給与、経費に結婚式の祝い金、香典、監督の市民税までが含まれていたが、映画製作に補助したのであって、会社の経営補助ではない。おかしいのではないか?」
 「映画製作という無形の物への5000万円補助、その大ヒット、さらには補助金の返還、その返還金の活用という何重のも(裁判所注;原文ママ)成果は、市長の英断からはじまったと、褒めたたえる質問になるはずが、トンだことになった。これから、会計監査をしっかりと行ってください。そして、映画という未知への挑戦を受けてくれた市民にお返しをして欲しい。」
c 「映画「折り梅」一般質問のその後「a2の質問が名誉毀損?」」との記載が冒頭にあるページ(甲3の4)
 上記表題に関する経緯等を紹介した文章(その内容は、別紙5の番号4、「具体的名誉毀損行為(記事内容)」欄に記載のとおりである。)
d 「◆◇映画「折り梅」返還金に関し、不信感・疑惑を抱かせた要因◇◆」との記載が冒頭にあるページ(甲3の5)
 上記表題に関する表形式の記載(その内容は、別紙5の番号5、「具体的名誉毀損行為(記事内容)」欄に記載のとおりである。)
3 争点
(1) 本件行為により原告らの社会的評価を低下させるか否か(請求原因)
(2) 本件行為が公共の利害に関する事実に係り、公益目的を有してされ、かつ、その内容が真実であるか否か(抗弁)
(3) 被告が本件行為をする際、掲載する記事内容が真実であると信じたことが相当であるといえるか否か(抗弁)
(4) 損害の内容(請求原因)
4 争点についての当事者の主張
(1) 別紙4「主張要約書」及び別紙5「主張一覧表」記載のとおりである(なお、別紙5「主張一覧表」は、平成17年3月14日の本件第3回弁論準備手続期日において当事者双方が陳述した一覧表を基本とし、その後の当事者の主張を付加し、字句等を修正したものである。)。
(2) なお、別紙5「主張一覧表」において原告らが特定する具体的名誉毀損行為(記事内容)について、以下、「記事番号1(番号欄の記載)−1(枝番欄の記載)」のようにして特定して示すこととする。
第3 当裁判所の判断
1 事実認定
 証拠及び弁論の全趣旨等によれば、次の事実が認められる(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した証拠のページ番号を〔〕内に示す。)。
(1) 映画「折り梅」の制作に関わる経緯
ア 映画「ユキエ」の制作
 原告会社は、昭和59年10月に製作した「裁かれしもの」をはじめとして、テレビドラマを製作していたところ(甲7)、原告x2は、平成9年、映画「ユキエ」を製作した。同作品は平成10年に公開され、映画祭や海外上映会においても上映され、日本映画製作者協会フィルムフェスティバル97最優秀新人監督作品賞や文化庁1998年度優秀映画作品賞などを受賞した。(甲4、6、67、弁論の全趣旨)。
イ 資金調達と豊明市に対する打診
 原告x2は、その後、小菅もと子作『忘れても、しあわせ』を映画化することを決意した(甲88〔162ないし165〕)。
 原告x2は、『忘れても、しあわせ』を映画化するための製作費を1億5000万円と見積もり、製作資金の調達を始めた。その際、原作者である小菅もと子を通じて豊明市市長を紹介されたので、豊明市からの資金援助の可能性について打診した。しかし、資金援助については、豊明市長から断られた。(甲90〔3〕)
 これに対し、愛知県海部郡b1村のb2村長から資金面で応援したいとの申し出があったことから、原告x2はb1村との話合いをしていたが、b2村長が健康を害し、次の村長選に出馬しないこととなったため、b1村からの資金援助についても白紙撤回された。しかし、b1村からの資金援助の話について関心を持っていた豊明市民が、「『忘れても、しあわせ』の映画化を応援する豊明市民の会」を結成し、署名運動を展開した。同会は、同署名運動により1万2000人の署名が集まったことから、平成12年5月26日、豊明市役所に対し、総製作費1億5000万円のうち5000万円について市として出資をするよう陳情した。(甲90〔3、4〕、乙18)
ウ 豊明市議会における資金補助の議決及び豊明市による資金補助
(ア) 豊明市長は、『忘れても、しあわせ』の映画製作資金の援助について議会に諮った。その後、豊明市議会において審議がされた。その間、一般市民向けと議会向けの2度にわたり説明会が行われ、原告x2は、その場において、映画製作と資金調達についての具体的説明を行った。(甲90〔4〕)
 豊明市議会は、平成12年第3回の定例会及び第4回定例会において、審議がされ、第4回定例会においては、議案第70号として一般会計補正予算案について質疑応答をし、その中で上記映画製作資金としての債務負担行為についても質疑応答がなされた(甲84、乙7の1)。
(イ) 一方で、この間において、映画の題名が『折り梅』と決定され、また、平成12年12月、豊明市映画製作実行委員会(以下「実行委員会」という。)が結成された(甲5〔29〕、71)。
(ウ) 豊明市議会は、平成12年12月19日、上記債務負担行為を含む一般会計補正予算案を可決した(乙7の1、弁論の全趣旨)。これに基づき、実行委員会は、豊明市に対し、平成13年1月30日、事業等計画書を付して補助金の交付を申請し(乙19の1)、さらに、実行委員会は、原告会社との間で、同年2月23日、「映画『折り梅』製作事業に関する覚書」を締結した(甲72)。これを受けて、豊明市は、実行委員会に対し、同年2月15日、補助金等交付決定をした(乙19の2)。
エ 覚書(甲72)及び補助金等交付決定通知書(乙19の2)の記載
(ア) 覚書(甲72)には、実行委員会を甲とし、原告会社を乙とする記載が冒頭にあるほか、次の記載がある(数字の全角・半角の別は原文のままである。)。
 「(補助金)
 第4条 事業の補助金は映画製作費の3分の1とし、金50,000,000円を限度とする。
 限度額の場合の支払い方法は、映画の進捗状況及び他の資金の見通しを確認したうえ、4月に17,000,000円、5月に17,000,000円、7月に16,000,000円を支払うものとする。
 (第2項、第3項省略)
 (実績報告書)
 第5条 乙は、事業が完了したときは、速やかに事業実績報告書及び収支決算書を甲に提出しなければならない。
 (経理状況報告)
 第6条 乙は、第7条の興行に関するものも含め、収支に関する帳票、その他事業に係る諸記録を整備し、常に経理状態を明らかにしておくとともに、甲が必要と認めるときは、その状況を報告しなければならない。
 (補助金の返還)
 第7条 乙は、映画の興行により平成17年3月31日までの期間において、利益が生じたときは、毎年その3分の1相当額を甲に返還するものとする。」
(イ) 補助金等交付決定通知書(乙19の2)には、次の旨の記載がある。
 ● 「交付の方法」を記載した表内
 「2 事業等完了前全部又は一部支払」
 「第1期17,000,000円13年4月支払予定」
 「第2期17,000,000円13年5月支払予定」
 「第3期16,000,000円13年7月支払予定」
 ● 上記表の下の記載(数字の全角・半角の別は原文のままである。)
 「条件1 この補助金等は申請書に記載された目的及び内容以外に使用してはならない。
 また、委員会において集めた寄附金から、会の事務費等必要経費を差引いた後に剰余金額が生じた場合は、豊明市に寄付すること。
 2 補助金が映画『折り梅』製作事業に関する覚書第7条により返還された時は、速やかに豊明市に寄付すること。
 3 株式会社x1との覚書にあたっては市と充分協議すること。」
オ 残りの製作資金の調達に関する経緯
(ア) 原告x2は、実行委員会からの上記補助金5000万円を除く製作資金1億円について、当初は訴外c1からの出資金5000万円及び製薬会社からの協賛金5000万円によって賄うこととし、訴外c1とは、平成13年4月27日、出資金の105%を返還した上で利益に応じた配当を行うとの借入れと出資との融合した合意をした(甲74、77〔4〕)。
(イ) しかし、映画の撮影がクランク・インした直後、上記製薬会社から協賛金の提供を断わられたため、その余の製作資金5000万円については、c2株式会社及びc3株式会社からそれぞれ1500万円ずつ協賛金の拠出を、文化庁からの芸術文化振興基金2000万円の拠出をそれぞれ得られることとなった(甲77〔4〕)。
(ウ) 原告会社は、実行委員会に対し、平成13年4月4日付で上記の出資者及び出資金の内訳について報告した「確約書」と題する書面を提出し、同書面は同月6日に同実行委員会が受け付けた(乙9)。
(エ) 以上のほか、原告x2は、一時的なつなぎ資金を得るため、訴外c4から1000万円を借用することとし、原告会社と訴外c4は、平成13年8月8日、翌9日に1000万円の貸与を受け、同年10月10日までに500万円及び2か月分の利息として12万5000円(元金の2.5%)、平成14年5月31日までに500万円及び9か月分の利息として25万円(元金の5%)を返済する旨の覚書を交わした(甲75、77〔4〕)。
カ 映画「折り梅」の制作と完成
(ア) 映画「折り梅」は、平成13年3月上旬に撮影がクランク・インし(甲5〔30〕、甲93の2〔1〕)、同年6月3日にクランク・アップした(甲93の3〔2〕)。
(イ) その後、原告らにより映画フィルムの編集作業が行われ、平成13年7月21日、いわゆるダビング作業が終了し(甲93の3〔3〕)、同年7月31日、映画「折り梅」の「0号試写会」が行われた(甲91〔3〕)。その後、映像の色調、フィルムの焼き具合の確認等の調整が行われ、同年11月22日、映画「折り梅」の完成披露試写会が行われた(甲91〔3〕)。
キ 映画「折り梅」の公開・上映
 映画「折り梅」は、平成14年3月16日に東京及び名古屋の映画館で上映開始がされたのを皮切りに全国各地でロードショー、自主上映会等がされたほか(甲24ないし26、30ないし32、93の4−1)、映画祭や海外上映会においても上映された(甲6)。
ク 映画「折り梅」に関する収支監査
 豊明市役所市長公室長は、原告会社に対し、平成15年2月4日付で、覚書(甲72)第7条に基づいて帳簿等を確認させてもらいたい旨の依頼文書を発送した(甲86)。
 これに対し、原告会社は、豊明市役所市長公室長に対し、取りあえず、公認会計士に平成13年7月1日から平成14年6月30日までの損益計算書を作成させ、これを同月13日に送付した(甲78、91〔2、3〕、乙11)。
 豊明市市長公室長は、原告会社に対し、平成15年2月28日、上記損益計算書を同月26日に税理士に検査してもらったところ、書類不備があったため、収入支出の裏付けとなる資料の送付を、資料が多くなってもかまわないからすべて送るよう要求した(乙11)。
 原告会社は、上記の要求に応じて平成15年3月28日に請求書原本を含む会計報告資料を市に送付し、平成15年4月14日に市がこれを受け付けた(乙2の1。被告は、乙12を根拠に、原告会社が4月ころになっても上記追加書類の送付をしなかったと主張する。しかし、乙12については、それが原告会社に発送されたと認めるに足りる証拠がないばかりか、それ自体、上部に「(案)」と手書きで記されていることや、「平成15年4月日」と、日付が埋められていないことからして、送付されたとは認め難いし、乙2の1の受付日の記載と併せて考えれば、催促文書を作成送付しようとしていたところ、4月14日に原告会社から市に送付されてきたと推認するのが相当である。)。
ケ 覚書(甲72)の変更の合意
(ア) 原告x2は、実行委員会の会長、豊明市長及び助役等との間で、平成15年9月9日、豊明市の市長公室Aにおいて会談した。原告x2は、その席上、覚書(甲72)第7条に基づく返還金について、これを一括で返還したいこと、次の映画作成の資金にするため、利益の3分の1ではなく一定額の返還にしてほしいこと、毎年の返還ではなく平成17年3月に一括で返還することにして欲しい旨を申し出た。これに対して、市側は、金額については覚書どおり処理されたい旨を述べるとともに返還方法については平成17年3月の一括返還でよいとの意向を示し、実行委員会会長は、会計はきちんとやって欲しい旨を述べた(乙14の1及び2)。
 これに対して、原告らは、上記内容は不正確と主張し、原告x2は同旨を述べるが(甲91〔1、2〕)、乙14の1及び2は市職員が職務上作成した公文書であって、その信用性を疑わせるに足りる事情も見当たらないことからすると、これに反する原告x2の上記陳述は採用できない。
(イ) 平成16年2月20日、実行委員会と原告会社とは、覚書(甲72)の第7条について、「毎年その3分の1相当額を実行委員会に返還する」との趣旨の部分を「すみやかにその3分の1相当額を一括して実行委員会に返還するものとする」との趣旨に改める旨を合意した(甲73、乙15)。
(2) 被告による疑念と調査、回答
ア 映画補助事業に対する質問のための準備
 被告は、豊明市の市議会議員として、豊明市の財政を監視する職責を担う立場にあるとの認識の下、原告会社の収益報告に従って計算された利益相当額は豊明市に対する寄付金の額に影響すると考えていた。そのため、被告は、平成15年12月の定例議会に先立ち、豊明市映画製作補助事業について質問をしようと考え、同年11月21日、豊明市議会議長に対し、「折り梅」補助金の返還金に関する一般質問をする旨の一般質問通告書を提出した(乙6)。他方、同年11月18日付けで映画「折り梅」補助金に関する文書及び実行委員会覚書等契約に関する文書の開示を請求し、同月28日付で上記各文書(乙2、3の各1、2を含む14枚)の開示を受けた。(乙1、26〔2〕)
イ 損益計算書の記載と疑念
 開示を受けた損益計算書については、実行委員会はもとより豊明市もそれまで何ら問題としていなかったが、被告は、次の点に着目し、次のとおり疑問を抱き、この疑問を明らかにする必要があると考えた。
(ア) 平成13年7月1日から平成14年6月30日までの1年間の給与手当の金額が103万6360円であったのに対し、平成13年7月1日から平成15年6月30日までの期間の同金額は2266万6611円と、前者と比べて2059万3891円増加していた(乙2の2、3の2、26〔2〕)。
 そこで、被告は、当時の原告会社の収益は映画「折り梅」の上映等による売上げの上昇によるところがほとんどであると考えられたにもかかわらず、突然2000万円強もの役員給与が発生しており、これがすべて原告x2に対する役員報酬であるとは考えられず、他の役員の給与が含まれており、しかもその中には事業に携わっていない者がいるのではないかと考えた(乙2の2、3の2、26〔2〕)。
(イ) 旅費交通費や一般経費が、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの期間のものと平成13年7月1日(乙3の2は、2か年分の収支をまとめたものである(乙3の1)。)から平成15年6月30日までの期間のものと比べると、後者の金額が前者のそれに比べていずれも大幅に増加していた(乙2の2、3の2、26〔3〕)。
(ウ) 平成13年7月1日から平成14年6月30日までの期間では管理費として挙げられていなかった支払利息が、平成13年7月1日(乙3の2は、2か年分の収支をまとめたものである(乙3の1)。)から平成15年6月30日までの期間の損益計算書に突然現れ、その金額が292万5000円に上っていた(乙2の2、3の2、26〔2、3〕)。
 豊明市が原告会社に対して5000万円を補助するに際しては、映画会社が1億円を確保することが条件となっていたことから、被告は、映画「折り梅」の製作は他からの借入金なしで行われることが当然の前提となるはずだと考えた。そうであるにもかかわらず、開示を受けた損益計算書には映画「折り梅」の経費として支払利息が上げられていたことから、被告は、映画「折り梅」に関係のない利息が計上されているのではないかと疑問を持った。(乙26〔3〕)
ウ 豊明市企画課における質問と説明
 そこで、上記の疑問を解消するため、被告は、豊明市企画課に赴き、約30分間、職員から説明を受けた。その際、職員が原告会社の総勘定元帳を所持していたことから、被告がこれを見せてもらったところ、同総勘定元帳の役員報酬科目(「740 役員報酬」の項)の中に「市民税」との記載があり(平成13年7月以降毎月、「相手科目」欄に「預り金源泉所得税」、「預り金市民税」、「現金」、「摘要」欄に「x2」と月名、「借方」欄にそれぞれの額が、それぞれ記載されている。)、交際費科目(「753 交際費」の項)の中に「贈答品」、「d1 花代」、「d2葬祭社」、「d3葬祭花代」、「香典」、「d4贈答品」、「出産祝い」、「陣中見舞い」、「謝礼」、「結婚祝」、「祝儀」等の記載(平成13年7月以降、「摘要」欄に、「贈答品」、「花代」、「d2葬儀社」、「香典」、「d5出産祝い」、「d6陣中見舞い」、「謝礼」、「d7結婚祝」、「祝儀」、「d8家花」等、「借方」及び「貸方」欄にそれぞれ金額が、それぞれ記載されている。)があった(乙10の1・2、26〔3〕)。
(3) 被告による豊明市議会における発言、回答
ア 被告は、定例議会において、上記のように急激に増加した経費について、実行委員会からの返還金から控除されることの是非について質問をした。
 すなわち、原告会社から提出された書類の内容が一企業の会計としては妥当なものであったとしても、それをそのまま返還金の額の算定根拠として用いることが妥当かどうかについて質問をした(乙26〔3〕)。
イ これに対して、当時の市長公室長が回答したところ、その要旨は次のとおりである(乙7の2〔41〕)。
(ア) 映画「折り梅」製作(乙7の2〔41〕には「政策」とあるが、「製作」の誤記と認める。)事業に関する覚書第7条により、映画興行の利益のうち3分の1は毎年実行委員会に返還され、その後速やかに豊明市に寄付されることになっている。
(イ) 原告会社から実行委員会に送付された平成13年7月1日から平成15年(乙7の2〔41〕には「平成15日」とあるが、「平成15年」の誤記と認める。)6月30日までの2か年分の損益計算書によれば、約600万円の営業利益が生じている。
 平成15年9月9日に、原告x2と実行委員会会長、市長の三者で、平成17年3月に一括返還する旨、覚書の変更がされた。
(ウ) 映画「折り梅」の配給会社としてeという会社があるが、製作会社である原告会社の収入は配給会社であるeを通じて入ってくることとなっているため、原告会社に対する入金に関しては時間的にずれがある。
(エ) 平成15年9月19日に実行委員会の依頼した公認会計士が原告会社の収支状況等を監査したが、適正であったとの報告が豊明市にされた。
ウ これに対し、被告は、管理費の中に利息支払約300万円の計上がある点を指摘し、答弁を求めたため、市長公室長は、支払利息については、借入金があるため、その利息であると聞いている旨を回答した(乙7の2〔43、44〕)。
エ 被告は、上記回答に対して、映画製作費に対する借入れであるはずはないと述べ、全く他の事業のための借入れについての支払利息が経費として計上され、それを豊明市が認めてよいのか質し、これに対して市長公室長は本件補助金の外に協賛金収入が1億600万円あったと指摘するのみで借入れの性格については明確な答弁をしなかった(乙7の2〔44、45〕)。
オ 被告は、eに電話で問い合わせたところ、フィルム貸出料は1回25万円であったとし、それを前提として計算すると、原告会社が報告した収益をかなり上回る旨指摘し、市長公室長は、上記イ(ウ)の入金のずれに加え、フィルム貸出料は最高の場合25万円ということもあると聞いていると答弁した。
カ 上記回答について、被告は、的はずれな答弁に終始して何ら明確な回答が得られなかったとの認識を持った(乙26〔3〕)。
(4) 被告による本件行為
 被告は、豊明市は映画製作の補助をしたのであって原告会社の経営の補助をしたのではないから、映画「折り梅」の製作に関連すると認められるものに限って費用として収益から控除することを認めるべきであるとの考えを有しており、この考え方からすれば豊明市の補助事業の在り方には疑問があるとして、前記第2−2(3)のとおり、「a1」47号に所定の記事を掲載し、これを自己が管理運営するウェブサイト上にも掲載し、その後、ウェブサイト上へ記事を追加掲載した(第2−2(3))。
(5) 原告らと被告とのやりとり
 原告ら代理人であるf弁護士は、被告に対し、平成16年3月10日、被告のウェブサイトや広報誌の記載を受けて、被告が指摘している問題点に関して説明をした文書を送付した(甲76、77)。
(6) 原告会社の会計処理及び映画「折り梅」の損益計算書の作成方法
ア 企業における会計処理方法等
 企業の会計においては、企業の全取引を計算単位で勘定(資産、負債、資本、収益、費用)ごとに記載した帳簿である総勘定元帳が作成される。上記勘定のうち、費用については、製造原価と、販売費・一般管理費(この二者を併せて「販管費」という。)との2つに大別されるところ、製造原価は特定の製品を製造するために支出する費用であり、販管費は当該企業の販売促進のための支出又は当該企業の維持管理のための支出である(甲102)。
イ 映画「折り梅」に関する会計処理書類上の記載
(ア) 原告会社の総勘定元帳の作成
 原告会社は、交通費等の支出のうち、映画「折り梅」の制作に関して発生したものについては製造原価としての費用の項目に、その余は販管費としての費用の項目にそれぞれ分類し、各支出を総勘定元帳に記載した(甲102、103、104)。
(イ) 映画「折り梅」事業に関する損益計算書の記載
 原告会社は、原告会社の平成13年度の収支、すなわち総勘定元帳のうち一部を平成13年度の映画「折り梅」事業の損益計算書に計上せず、他方、同年度の収支のうち契約料全額、並びに、支出のうち、役員報酬全額、旅費交通費(裁判所注;この項目にいう旅費交通費は、製造原価としてのそれと販管費としてのそれを含む。)の一部、一般経費(交際費、会議費、通信費、映写料、消耗品費及び管理諸費)の一部を平成14年度の会計として、実際に平成14年度において発生した収支と併せて計算し、これを損益計算書に計上した。また、平成14年度の会計に当たっては、旅費交通費について約11%を、一般経費について約22%をそれぞれ支出合計から削減して、これを支出合計として損益計算書に計上した。(甲78、83の3・4)
 また、原告会社の総勘定元帳には、原告会社の総勘定元帳に記載されている収支のうち、「764 新聞図書費」、「765 諸会費」、「781 地代家賃」、「782 賃借料」等、上記に示した費目に含まれないものが存在するところ(甲103、104)、公認会計士は、映画「折り梅」事業の損益計算書の作成に当たっては、同事業に直接関係する費用に限定して計上した(甲78)。
2 争点(1)(本件行為により原告らの社会的評価を低下させるか否か)について
(1) 上記認定事実に対する評価
ア 前記第2−2(3)のとおり、被告は、「a1」47号及び自己の管理運営するウェブサイト上に記事を掲載しているところ、原告は、同記事の内容について、具体的名誉毀損行為を特定して主張しているので、これらについて判断することとする。
イ 記事番号1
 被告が頒布した「a1」47号に記載されている記事内容である記事番号1のうち、「事業に携わっていない役員の給与、香典や結婚祝金、今映画と関係のない借金の利息が経費として計上されていました。企業会計は適正であっても、市は「折り梅」の製作補助を行ったので、それらの経費を認めることに反論しました。」との記載については、原告x2らが不当に多く経費を計上しているとの事実を指摘し、これを非難する趣旨のものと理解するのが素直な読み方である。そうであれば、これを読んだ者は、原告らが本来返還しなければならない補助金について経費を多く計上することで返還を免れることにより市の税金を不当に利得するための詐欺行為を行っているという印象を抱き、それによって原告及び原告会社の社会的評価が低下することは明らかである。
ウ 記事番号2
 被告のウェブサイト上の記載である記事番号2は、それ自体としては、「疑惑」なる文字、すなわち、原告x2ないし原告会社に対して否定的な印象を与える言葉が使われてはいるものの、全体としてみれば、被告が疑惑の内容と議会の質問及び答弁、原告会社の反論等を別のページに公開してある旨を告知する文章にすぎない。したがって、それ自体としては、原告x2ないし原告会社の社会的評価を何ら低下させるものではない。
 しかしながら、記事番号2の記載は記事番号4の記載を含むウェブページに対する告知文章となっており、記事番号4と併せて評価すべきところ、記事番号4については後述のとおり原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させるものと認められるから、これと併せて考えれば、記事番号2についてもまた、原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させるものと認められる。
エ 記事番号3
 記事番号3の記載は、「管理費の給料手当2260万円に役員給与、一般経費に結婚式の祝い金、香典、監督の市民税までが含まれていたが、……おかしいのではないか?」、「褒め称える質問になるはずが、トンだことになった。これから会計監査をしっかりと行ってください。」というものであり、これらの記載により、原告らが自身の個人的経費を映画「折り梅」の会計項目として計上したとの事実を摘示するものである。そうすると、上記記事番号1と同様に原告らが個人的経費を不当に計上して詐欺行為を行っており、しかも会計監査がずさんであるといった印象を読者に抱かせるものであるから、原告らの社会的評価が低下するものであるというべきである。
オ 記事番号4
(ア) 記事番号4については、その周辺に、被告が、事業に携わっていない役員の給与が計上してあると指摘した点及び監督の市民税までが含まれていたと指摘した点について、役員給与がすべて原告x2のものであったことを明らかにする文章が記載され、それに続けて、なお、豊明市が役員給与全額を必要経費として認めるかどうかについては別の問題である、すなわち、妥当性に疑問がある旨、及び、監督の市民税については預かり金であって納得したことを明らかにする旨の文章が記載されている。もっとも、そのほかには、これらの誤解が生じたのは市が帳簿等の詳細の公開を躊躇し、また、説明責任を十分に果たしていなかったからであり、市が説明責任を十分に果たせなかったのは原告会社の収支報告等が十分でなかったからであると推測するとの記載等がある。
(イ) これらのうち、「市が役員給与(月額70万円/年額840万円)を映画上映のための必要経費として全額認めることが妥当かどうかについては別の問題であると考えています」との文については、その主格が豊明市となっており、豊明市の判断の妥当性について疑問があること、ないし妥当ではないことを指摘しているにとどまっているかのように理解できないでもないが、そのことは、結局、この帳簿を基として役員給与を必要経費として計上した事実を摘示して原告らの行為の不当性をも指摘することとなり、記事番号1及び3と同様、読者に原告らが経費を不当に計上して詐欺行為を行っているとの印象を与え、原告らの社会的評価を低下させるものといわざるを得ない。
(ウ) 他方、「これらは、……市が帳簿等の詳細な公開を躊躇していたため、また、市が説明責任を十分に果たしていないため、このような解釈をせざるを得なかったことを申し添えておきます」との文章については、豊明市の対応を批判するにとどまるものであって、読者が原告x2ないし原告会社の帳簿管理等に不当な点があるとの印象を抱かないと考えられるから、原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させるものとは認められない。
 しかしながら、「市が躊躇した理由、説明責任を果たせなかった理由は、映画会社から提出された収支報告等が十分でなかったからと推測します」との記載、原告x2について、「市内企業や市民からの寄附金を含む5000万円の補助交付をもってはじめて映画製作にのぞめたという状況にありながら原告会社及び原告x2が行ってきた会計や決めごとに対するルーズで無頓着な対応」、とする記載、及び、「すばらしい映画を創ることと適正な経理や事務手続を行うこと(正しく返還すること)は別の問題だということです」、との記載については、原告らが必要経費として認められるか否か疑いのあるものを計上し、かつ、収支報告等を適切にしてなかったばかりか、会計や決めごとに対して不適切な対応をするなど、「補助金を正しく返還しない」ことにより不当な利得を得ているとの事実を摘示し、それにより同様の印象を読者に与えるものであって、原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させるものというべきである。
カ 記事番号5
 記事番号5のうち、同5−8までは、映画「折り梅」返還金に関して被告が不信感・疑惑を抱いた要因について、「被告が一般質問“前”の情報公開等で疑惑と感じたこと(質問したものも含む)」、「一般質問の答弁」、「後日わかったこと&a2の見解」の3項目を表形式でまとめたものであり、同5−9以降は、「一般質問“後”の調査、映画会社の委任された弁護士等から送付された文書から疑惑と感じたこと」、「a2の見解」の2項目を同じく表形式でまとめたものである。
 これらのうちには、映画収入について「収入はもっと多いと思われる」との記載があり、この記載からは、原告らが映画「折り梅」による収入額を実際よりも低く報告して利益の返還を免れるという詐欺行為を行っているのではないかとの疑いを読者が抱くものと考えられるし、「2年目になって経費が一挙に増やされていることへの疑惑は解けていない」、「当初より「覚書」を遵守する意志がないと思える」、「平成15年9月10日の復命書(職員の記録)によると、x2監督が「次回作の資金にするため返還金は毎年ではなく一括で、利益の1/3ではなく一定額でお願いしたい。1/3の返還はかわいそすぎる、心細い」などと言い、「覚書」の変更を強く希望していた」、「市の補助金交付規則では事業完了後30日以内に補助金実績報告書を提出するよう定めているが、映画会社は平成13年7月31日に補助金交付を受けた後、企画課の再三の催促を放置し同年11月30日にやっと提出した。また、収入支出の裏付けとなる資料の提出は一部にすぎない」、「公認会計士の報酬が平成13年7月〜14年8月の14ヶ月間は月額5万円、平成14年9月〜12月の4か月間は月額7万6192円、平成15年1月〜6月は月額8万円とどんどん値上げされていた」などとの記載も、これを素直に読む限り、上記各事実をいわば間接事実として原告らが本件の補助金に関わる経理を不正に管理して詐欺行為を行って覚書の履行を懈怠しているとの事実を摘示し、これにより読者に対して同様の印象を抱かせるに十分であって、記事番号5は全体として原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させるものであるというべきである。
 なお、記事番号5−1は表題であり、5−2及び5−9は見出しであることから、それ以降の記載と併せて評価すべきものである。
(2) 被告の主張に対する判断
 これに対して、被告は、各記事番号の記載について個別的に主張しているので、これらの点についても判断することとする。
ア 記事番号1
 被告は、記事番号1について、これを全体としてみれば被告が議会において一般質問をする動機となった疑惑を述べたにすぎないし、疑惑を追及する以上、その根拠を示すことは当然であって、これを見た読者が被告と同様の疑惑をもとに原告x2ないし原告会社を評価するとは考えられないと主張する。しかし、上記のとおり、質問をする動機となった疑惑を読めば、読者が、原告x2ないし原告会社に対して会計関係に不正があったのではないかとの印象を抱くことがむしろ通常であると評価できるから、被告の主張は採用できない。
イ 記事番号3
 被告は、記事番号3のうち、「映画製作という無形の物への5000万円補助、その大ヒット、さらには補助金の返還……市民にお返しをして欲しい。」という記載について、これは豊明市ないしは実行委員会に対して返還金の確保についての要望を述べたものであって、それ自体原告らの社会的評価を何ら低下させないし、原告会社に対する監査の要望を述べたものであるととらえても、読者をして原告会社らに対する評価を低下させないと主張する。しかし、確かに、同記載の最終部分は、豊明市ないし実行委員会に対して会計監査をしっかり行うことを要望する内容となっているものの、その周辺の記載と併せて考えれば、原告会社の会計に関する疑惑を呈し、その上で、「褒め称える質問になるはずが、トンだことになった」と記載されているのであるから、原告らに対する会計関係の疑惑を読者に持たせるものであるといわざるを得ないのであって、被告の主張は採用できない。
ウ 記事番号5
 被告は、記事番号5−3、5−4、5−5については、疑問ないし疑惑を有していることを示したにすぎないとか、根拠事実を下に被告の感想を率直に述べたものにすぎないから、いずれも原告らの社会的評価を低下させないと主張し、同5−17についても、報酬金額の上昇という客観的事実に基づいた被告の推測を述べたにとどまるから、原告らの社会的評価を低下させないと主張する。
 しかしながら、これらの記事は、いずれも、収入はもっと多い、2年目になって経費が一挙に増やされていることには不正の疑いがある、約300万円の支払利息にも不正があるとの指摘をする趣旨であると考えられ、原告らが会計について不正を働いているとの印象を読者に抱かせるものであるから、これらの記載は、やはり、事実の摘示として原告らの社会的評価を低下させるものというべきであって、被告の主張は採用できない。
(3) 以上のとおり、本件各記事は、原告らの社会的評価を低下させるものである。
 なお、本件各記事は主として直接的には原告会社の行為に不正があったかのように指摘して、その社会的評価を低下させるものであるが、そのような指摘を受けた行為は、いずれも原告x2が原告会社の代表者としての行為であり、原告会社の規模からして、本件各記事を読む者も容易にそのことに想到しうることからすると、上記の指摘は原告x2の社会的評価をも低下させるものと評価でき、結局、本件各記事を公にすることは原告両名に対する名誉毀損行為に該当することとなる。
3 争点(2)(本件行為が公共の利害に関する事実に係り、公益目的を有してされ、かつ、その内容が真実であるか否か)について
(1) 公共の利害に関する事実
 前記第2−2(3)のとおり掲載された「a1」47号及び自己の管理運営するウェブサイト上の記事内容は、いずれも、豊明市の行った映画「折り梅」に対する補助金に関するものであり、市の財政という公共の利害に関わる事項であると認められる。したがって、上記各記事内容は、公共の利害に関わる事項であると認められる。
(2) 公益目的
 上記1(2)において認定したとおり、被告は、豊明市議会議員として、豊明市の財政を監視する職責を担う立場にあるという認識を有しており、これに加えて、上記記事内容2に「すべてをみなさまに公開し判断を仰ぎたい」との記載があることに鑑みると、被告は、被告自身が疑惑を有していたことについてこれを豊明市議会において質問をし、さらにその内容等を市民に公開して市民からの判断を仰ぎたいという目的を有していたものと認められる。
 このような目的は、豊明市の財政という豊明市民一般が関心を有するべき事項について、これを市民に公開するというものであるから、公共目的があると認められる。
(3) 真実性
 被告は、記事番号1、同3、同4、同5−3、5−4、5−5、5−6、5−7、5−8、5−11、5−12、5−14、5−16、5−17について、これらの内容がいずれも真実であると主張するので、これらについて個別に判断する。
ア 記事番号1
 被告は、「事業に携わっていない役員の給与が計上されていたこと」、「帳簿等に香典や結婚祝い金が計上されていたこと」及び「この映画と関係のない借金の利息が計上されていたこと」が真実であると主張し、これを根拠に豊明市の補助事業について疑惑を追及する前提としたことは何ら違法ではないと主張する。
 これらのうち、事業に携わっていない役員の給与が計上されていたことが真実でないことについては、すでに被告自身が認めるところである(甲3の4)。
 また、香典等については、確かに、上記1(2)ウにおいて認定したとおり、原告会社の総勘定元帳に「香典」等の費目が掲載されている。しかし、被告の記載した文章の趣旨は、要するに、補助金の用途に関する帳簿等に香典や結婚祝い金が計上されていたことを指摘するものと解されるところ、原告会社の総勘定元帳は、映画事業に直接関連するか否かを問わず、原告会社の経済活動の一切が表示されている書面であって(乙10の1・2)、補助金の用途に関する帳簿とはいえない。そればかりか、上記1(6)において認定したとおり、映画「折り梅」の損益計算をする際、担当した公認会計士は、一般経費については事業に直接関連する費用に限定して計上してあり、しかも全額計上するのではなく、会社を通常維持するのに必要な費用も含まれているとの認識の下、年間費用から一定割合の額を控除した額を計上しているのである。したがって、これらの事実からすれば、「補助金の用途に関する帳簿等に香典や結婚祝い金が計上されていたこと」が真実であるとは認められない。
 さらに、映画事業と関係のない利息が計上されたという点については、前記1(1)オにおいて認定したとおり、原告会社は本件映画製作のために訴外c1との間で借入れと出資の融合契約を締結し、さらに訴外c4からもつなぎ資金を借り入れているのであるから、損益計算書に利息が計上されているのは上記貸金に基づく利息であると評価するのが相当であって、映画事業と関係のない利息が計上されているとは認められない。
イ 記事番号3
 被告は、「映画会社の損益計算書の管理費の給与手当2260万円に役員給与、一般経費に結婚式の祝い金、香典、監督の市民税までが含まれていた」ことは真実であると主張する。しかし、上記アにおいて認定説示したとおり、給与手当2260万円に役員給与が含まれていたことは真実ではあるものの(甲77)、一般経費に結婚式の祝い金等が含まれていたとまでは認められない。
ウ 記事番号4
(ア) 記事番号4のうち、前記2(1)オ(ウ)において説示した部分は、そもそも原告らの社会的評価が低下しないのであるから、真実性について判断する必要はない。
(イ) 他方、被告は、会計やきめごとに対するルーズで無頓着な対応と記載について、これが真実であると主張する。しかし、上記において認定したとおり、豊明市が原告会社に対して、平成15年2月28日、書類に不備があったために追加送付を要請したものの、その追加書類の送付が同年4月に入ってからになったのではあるが、これのみをもって会計やきめごとに対して「ルーズで無頓着」な対応をしているとは認められず、上記摘示が真実であるとは認められない。
 この点に関して、被告は、第1に、原告会社が実行委員会に対して提出した損益計算書によれば、平成13年7月1日から平成15年6月30日までの期間のものに、支払利息として292万5000円が記載されているが、この点についての原告ら代理人弁護士による説明と議会における答弁内容が食い違っていたこと、第2に、原告x2が実行委員会会長らに対して覚書を変更して欲しい旨申し出た際、実行委員会会長が原告x2に対して会計はきちんとやって欲しいと述べたことも根拠として主張する。しかし、第1の点は、確かに各人の説明内容が異なるが(甲77〔3、4〕、乙7の2〔44〕)、このことが原告会社によるルーズで無頓着な対応であることを基礎づけるとはいえないし、第2の点についても、上記1(1)ケにおいて認定したとおり、実行委員会会長により上記発言がされたものであるところ、確かに実行委員会会長が上記のとおり述べたことは認められるが、これは覚書の変更に際して会計に不正がないよう述べたものであって、それに先立って会計についてルーズで無頓着な対応がされていたことを示すものではない。他方、原告x2は、すでに合意された覚書について変更を申し出てその承諾を得ようとしているものであるから、きめごとについても、ルーズで無頓着な対応であることを基礎づけるものではない。
 したがって、この点が真実であるとは認められない。
エ 記事番号5−3
 被告は、1回の上映当たり25万円の収入があるとし、上映回数を1000回とすると、収入が2億5000万円となることを根拠に、「収入はもっと多いと思われる」との記載も真実であると主張する。しかし、原告会社の収入については、上記において認定したとおり、平成13年7月1日から平成15年6月30日までの映画収入は約1億6000万円(1億6398万8278円)であるところ(甲94の2〔2〕)、1回の上映当たりの収入は25万円に満たないものも多数あるのであって、上記約1億6000万円の数字の信用性を疑うに足りる証拠が見当たらない以上、収入がこれよりも多いとする根拠は見当たらず、よって収入がもっと多いと指摘したことが真実であるとは認められない。
オ 記事番号5−4
 被告は、疑惑の根拠が真実であるから、名誉毀損には当たらないと主張する。しかし、記事番号5−4において原告x2ないし原告会社の社会的評価を低下させる記載は「2年目になって経費が一挙に増やされていることへの疑惑は解けていない」との記載であるところ、その趣旨は、疑惑との文言が用いられていることからして、客観的に経費の額が増加していることを指摘するにとどまらず、その増加が実体に合致しないのではないかとの疑惑があること、すなわち、経費を不正に水増しするなど不正な会計処理がされたのではないかとの指摘をしているものと理解するのが素直な読み方である。
 そうすると、記事が真実であるためには、客観的に経費額が増加していることのみでは足りず、経費の水増しがされたこと自体が真実であることが必要となる。しかし、上記1(6)において認定したとおり、平成14年度の損益計算書における経費の額が増加しているのは、損益計算書の作成に際し、平成13年度分の収入及び支出の一部が平成14年度分に併せて計上されたためであり、それらの収入及び支出は、同認定で用いた証拠によると、それぞれの年度において現に生じたものと認められる。原告会社としては、これらの収支を豊明市や実行委員会に報告するに当たって、各年度ごとに計算し、平成13年度の赤字額を平成14年度に繰り越して同年度自体の黒字額を減額するのが事業のあり方であったと考えられ(当初の覚書もこのような場合に赤字を次年度に繰り越さず単年度の黒字額を基準に返還額を決定する趣旨であったとは認めがたい。)、上記のように平成14年度の損益計算書に平成13年度の収入及び支出の一部を計上することは誤解を招くものといわざるを得ない。しかし、上記損益計算書に記載された経費が前年度と二度に計上されたり、支出の実体を欠くものであるとは認められず、これらについて、上記のように各年度ごとに収支を計算し、それを通算して平成14年度の損益を計算したとしても、同年度の黒字額に影響を及ぼすものではなかったと認められ、これをもって不正な会計処理とも評価できないのであって、豊明市や実行委員会がこれらの報告を特に問題としなかったのはこの点を考慮したことによるものと推認できる。その上、平成14年度の会計においては、経費等について一定の減額を行っていることに鑑みれば、原告会社が経費を不正に水増しするなどして不正な会計処理をしたものとは認められない。
 したがって、記事番号5−4の記載に基づき摘示される経費の不正な水増しをしたとの事実は、真実であるとは認められない。
カ 記事番号5−5
 被告は、摘示した事実が真実であると主張する。
 確かに、「市は5千万円の補助に際し、映画会社が製作費1億5千万円の2/3(1億円)を確保することを条件とした」ことは当事者間に争いがない。
 しかしながら、「議会は資金調達はできたと説明を受けていたことからも、映画製作に借入は考えられず、約300万円の支払利息に疑問を感じる」という記載は、映画製作のために借入れがあるはずはないとの前提の下に約300万円の支払利息があることは不当であるという指摘であると解されるところ、その前提自体が何ら根拠のない被告の思い込みにすぎず、現に前記1(1)オにおいて認定したとおり、原告会社は映画製作資金を調達するための借入れをしており、そのために支払利息が発生しているから、この記載は真実であるとは認められない。
キ 記事番号5−6
 被告は、記事番号5−6の記載を真実であると主張する。
 しかしながら、「映画実行委員会の事務局である市の企画課……収入支出の裏付けとなる資料……を追加請求していたが、未提出の部分がある」とする記載については、上記認定のとおり、原告会社は平成15年4月14に至るまでに追加資料を提出したのであるし、更に進んで未提出の資料があれば豊明市から提出を求められると考えられるところ、そのような事実を裏付ける証拠は見当たらないから、未提出の部分があるという事実摘示が真実であるとは認められない。
ク 記事番号5−7
 被告は、記事番号5−7の内容を真実であると主張する。しかし、上記1(1)クにおいて認定したとおり、実行委員会と原告会社が毎年利益の3分の1を返還する覚書を交わしたこと、原告会社が実行委員会に対して決算月である6月から約8か月後の平成15年2月13日に1年目の決算に伴う収支報告がされたこと、平成15年6月決算に伴う収支報告が同年8月21日付けでされたこと、原告会社と実行委員会において、同年9月9日ころ、覚書の内容が変更される旨の合意がされたことが認められ、確かに、1年目の収支報告が2年目のそれに比して遅れていると評価できるものの、覚書の変更自体は、原告会社からの申し出によるものであるとはいえ、原告会社と実行委員会において協議をし、合意に至ったものであって、これらのことから原告会社が当初より覚書を遵守する意思がなかったということはできない。したがって、これに関する記載が真実であるとは認められない。
ケ 記事番号5−8
 この記載に関しては、上記において認定したとおり、原告x2が、次回作の資金にするため返還金は毎年ではなく一括で返還することとしたい旨、利益の3分の1ではなく一定額を返還することにして欲しい旨、3分の1の返還はかわいそすぎる旨を述べたのであって、これらの指摘はいずれも真実であるし、これらの事実はいずれも返還金を少なくしたい意向の現れであるということもまた容易にうかがえるところである。
 したがって、この指摘は真実であると認められる。
コ 記事番号5−11
 この記事は、市が原告会社に対して覚書にいう「利益」の考え方について確認書の提出を求めたのに対し、原告会社からの回答が3か月後にされ、その時、原告x2が「失念しておりました」と述べたというものであるところ、これらの事実経緯自体については、原告らも強く争うものではないから、これを被告が指摘するように横着と評価し得るか否かはともかく、その評価の前提事実自体は真実であると認められる。
サ 記事番号5−12
 この記事は、実績報告書の記載と弁護士への説明を紹介して、それが一致していないことを指摘するものであるところ、その趣旨は、上記記載と説明が同一事項に関するものとの前提に立つものと理解できる。しかし、これらが同一事項に関するものと認めることはできず、前提において誤りを含む点で真実であるとは認められない。
シ 記事番号5−13
 この記事は、市が映画製作資金の一部に借入金があることを知らなかったとの事実を指摘するものであるところ、原告会社が平成13年4月4日付けで市に提出した確約書(乙9)には、第三者からの出資金が記載されており、しかも、その末尾には、「相手先との……いたします。」との記載があることからすると、市も映画製作資金の一部に借入金が含まれることは認識していたものとうかがわれるところであり、少なくとも上記指摘が真実であるとは認められない。
ス 記事番号5−16
 被告は、記事番号5−16の記載が真実であると主張する。
 しかしながら、確かに、原告会社の総勘定元帳(乙10の1・2)には摘要欄が空白になっているものが複数見られ、また、交際費についても、物品購入先及び飲食店の屋号のみの記載となっている欄も見られるものの、上記1(7)において認定したとおり、原告会社は、総勘定元帳の取引のうち一部のみを必要経費として計上したのである。
 したがって、これらがすべて映画上映のための必要経費であること前提として、映画上映のための必要経費であることを確認するにはあまりにも不十分であるという記載は、真実であるとは認められない。
セ 記事番号5−17
 確かに、原告会社の総勘定元帳(甲100の8、101の10)によれば、原告会社に関する公認会計士の報酬が、平成13年7月から平成14年8月までは月額5万1円、同年9月から同年12月までは月額7万6192円、平成15年1月から同年6月までは月額8万1円と、順次増額されている。しかしながら、総勘定元帳(甲103、104)上、取り扱うべき収入支出が増加したことが認められるほか、上記1(1)クにおいて認定したとおり平成15年2月以降に豊明市に対する損益計算書の提出等の会計報告業務を行っているのであるところ、このことに伴い、会計士としての仕事量が増加したことがうかがえるから、上記の報酬の増加のみを以て必要経費をつり上げるための行為であるとは推認できないのであって、必要経費をつり上げるためであると指摘した部分については、真実であるとは認められない。
(4) 小括
 以上によれば、記事番号5−8及び同5−11についてはいずれも真実と認められ、その余については真実であるとは認められない。したがって、原告x2が返還金を少なくしたい意向を有していたことや、覚書に関する市からの照会に対する原告らからの回答が遅延したことについては真実と認められるが、他の事実摘示が真実とは認められない以上、結局、原告らが映画「折り梅」の会計に関し、不当に経費を計上した詐欺行為を働いているとの摘示事実については、それが真実であるとは認められない。
4 争点(3)(被告が本件行為をする際、掲載する記事内容が真実であると信じたことが相当であるといえるか否か)について
(1) いわゆる相当性の抗弁一般について
 一般に、公共の関心事について、公共目的を有してされた名誉毀損行為につき、その内容が真実であるとは認められない場合であっても、行為者が真実であると信ずるにつき相当の理由があるときは、上記行為に故意又は過失がないというべきである。そして、相当の理由があるときというのは、一応真実であると思わせるだけの合理的な資料又は根拠があることをいうと解するべきである。
(2) 公共の関心事について公益を図る目的を有していたか否かこれを本件についてみるに、まず、被告による各行為が、公共の関心事について、公益を図る目的を有してされたものであることは、上記3(1)及び(2)において認定説示したとおりである。
(3) 相当の理由があるか否か
ア 被告は、記事番号1、4、5−3、5−4、5−5、5−7、5−10、5−12、5−14及び5−16について、いずれも相当な根拠に基づくものであると主張する(被告は、記事番号5−8及び5−11についても同旨の主張をしているが、これらはいずれも前記のとおり被告の指摘が真実であると認められ、既に不法行為を構成しないものと認められるから、判断を要しない。)。
 上記記事のほとんどのものについては、被告の掲げた根拠事実を前提としても、記事において摘示された事実を推認することができず、被告の主張はその前提を欠くといえないでもない。もっとも、記事番号5−4及び5−17については、損益計算書上、旅費交通費や一般経費が大幅に増加していること(上記1(2)イ(ウ))や公認会計士に対する報酬額が順次増加していること(甲100の8、101の10。上記3(3)セにおいて認定説示したとおりである。)をみれば、被告が疑念を持ったこと自体はもっともであるとも考えられるところである。そこで上記記事全部について、一応真実であると思わせるだけの合理的な資料又は根拠があるか否かを判断する。
イ まず、上記において認定したとおり、被告は、「a1」47号を執筆し、これを豊明市において配付したりウェブサイト上に掲載したりするに当たり、豊明市に対して原告会社の帳簿等の開示請求を行い、その内容を閲覧し、さらに同市企画課に対して説明を求め、同市議会において質問をしたものである。しかしながら、それによって解消されなかった疑問について、それまでに豊明市企画課が被告からの説明に応じていたことからすれば、改めて説明を求めることも可能かつ容易であり、それをしていれば、上記記事の内容が自己の誤解や思いこみによることが容易に判明したものと考えられる。
 しかし、被告は、更なる資料の要求も、説明の要求もせず、総勘定元帳の性質や公認会計士が行った会計監査の内容について調査することもしていない。また、上記認定からすれば、被告は、総勘定元帳が原告会社のした取引全般について記載されたものであって、補助金にかかわる記載に限られたものでないことについての理解が不足しており、この点について被告としては更なる説明の要求ないし自己による調査をすべきものであったというべきであるが、被告は、これらのことを何らしていない。
 以上によると、被告は、自己の疑問について更なる調査が必要かつ可能であったにもかかわらず、これを怠り、いまだ疑問にとどまる事項について、それが真実であるかのように理解できる記事を公表したものであるから、それについて一応真実であると思わせるだけの合理的な資料又は根拠があると認めることはできない。
ウ また、上記記事のうち、映画配給収入がもっと多かったと思われるとの指摘は、経費の額のように評価によって異なる余地のあるものではなく、単純な数値に関するものであって、しかもそれ自体が原告らが詐欺行為という犯罪を行っていると思われるという重大な指摘であるから、慎重な調査をして初めて許されるべき指摘である。そうであるにもかかわらず、被告は、配給会社の1つに対して同社が自主上映会にフィルムを貸し出す際の標準的な料金を問い合わせたのみで、映画製作会社と配給会社との一般的関係や、同社と原告会社との具体的な契約内容について何ら調査をしていないのであるから、少なくともこの点については、ほとんど根拠もなく言いがかりをつけているものと評価せざるを得ない。
 さらに、被告は、ウェブサイト上に記事を追加掲載するに当たっても、何ら新たに調査等をしていないところ、上記において認定したとおり、それ以前に原告ら代理人弁護士からの説明文書が被告の下に届き、被告は、これによって一部について自らの誤認であったことを認めたのであるから、その余の点についても原告ら代理人弁護士や公認会計士に誤認がないかどうかを確認する等の調査をするのが通常人として採るべき態度であると考えられるし、しかも、そのことを容易に行えたにもかかわらず、これを怠っている。このように通常人が行うべき調査をしないまま誤認に基づく記事を公表し続けていることからして、その記事に一応真実であると思わせるだけの合理的な資料又は根拠があるとは認められないというべきである。
エ したがって、被告による本件行為(記事番号5−8及び5−11の掲載行為を除く。)について、被告が真実であると信ずるにつき相当の理由があるとは認められないから、同行為について被告に故意又は過失がないとはいえない。
5 争点(4)(損害の内容)について
 以上によれば、記事番号5−8及び5−11の掲載行為以外の本件行為はいずれも名誉毀損行為であると認められるから、同名誉毀損行為によって生じた権利侵害及びこれに基づく損害の内容について検討する。
(1) 慰謝料額等について
 上記のとおりの名誉毀損行為によって、原告らについて、会計ないし経理関係に不正があり、詐欺行為を行っているのではないかとの印象を一般に抱かせ、いわば犯罪人呼ばわりされたに等しく、原告らの社会的評価が著しく低下したものと認められる。そして、上記において認定したとおり、原告らは、自ら資金を集めて映画を製作しており、次回作についても考えていることがうかがえるところ、上記のような社会的評価の低下があれば、映画の製作のために資金を集めるに当たり不当な影響が及ぶことは容易に推認されるところであり、原告らの活動に対する制約となりかねないものである。
 これらによって生じた原告x2の精神的苦痛や原告会社の信用喪失等による損害の額は、映画「ユキエ」及び「折り梅」の評価が高いこと、原告らの今後の活動に対する影響が大きいこと、被告が豊明市議会議員という公的地位にあり、その発言の影響力が大きく、愛知県豊明市のみならずその周辺区域にも及ぶものであること、本件ウェブサイト上の記事が「折り梅」及び「補助金」の語によりインターネット上を検索した場合において検索結果の上位に掲載されること(甲89(枝番号を含む。))が認められることからすると、本来、原告x2及び原告会社のそれぞれについて、金100万円であると認められるものの、後記のとおり謝罪広告がされることによりこれらのかなりの部分は償われるものと認められるから、本判決によって支払を命ずべき額は、原告らそれぞれについて金50万円にとどめるのが相当である。
(2) 謝罪広告の掲載等について
ア 上記に加えて、原告らの毀損された名誉を回復するためには、被告が自己の発行する媒体によって原告らの名誉を毀損したのであるから、被告に対し、謝罪広告を被告が発行する媒体に掲載させることが適当であるし、さらに、被告による言説の重大性、本訴提起に至るまでに被告が原告代理人らの指摘により「a1」の記事に誤りがあったことを認識しながら、その後もウェブサイト上にこれを掲載したままにするなど反省と謝罪の態度が不十分であること、及び本件記事が愛知県豊明市内やその周辺地域に流布されたと考えるのが相当であることなどからすると、中日新聞に謝罪広告を掲載させることも相当である。
イ また、媒体に記載された名誉を毀損する内容の情報については、媒体に接することができる限り常に第三者に流布する可能性を秘めているものであるところ、一般の媒体については削除等、名誉を毀損する内容の情報を消去することが困難であるのに対して、自己のウェブサイト上の記載であれば、これを消去するのは容易であることに鑑みると、被告に対し、名誉を毀損する部分を削除させることが相当である。
6 当事者のその余の主張(地方議会の議員と免責事由)について
(1) 被告は、被告が豊明市の市議会議員、すなわち地方議会の議員であり、地方議会の議員については、憲法51条のような明文の規定がないものの、憲法21条及び92条によって議員の活動として議会における発言の自由が最大限に保証されなければならないとして、被告の発言がいずれも議員活動の一環として行われたものであることから適法であるとの主張をしている。
(2) しかしながら、憲法上、国権の最高機関たる国会について、広範な議院自律権を認め、ことに、議員の発言について憲法51条にいわゆる免責特権の定めがあるからといって、その理をそのまま直ちに地方議会にあてはめ、地方議会議員の発言についてもいわゆる免責特権を憲法上保障しているものと解すべき根拠はない。そうであれば、地方議会の議員が議会内でした発言についてさえ免責される法的根拠がないのであるから、地方議会の外でなされた行為であって、しかも議会における発言を忠実に報告したともいえない内容の記事を掲載した行為が問題となっている本件においては、単に被告が地方議会の議員であることを以て免責される余地はないのであって、被告の主張は採用できない。
(3) また、一般に地方公共団体の議会は当該団体の財務状況を監督すべきものであるから、その構成員である議員もまた地方公共団体の財務上の行為に誤りがある場合にはこれを糺すべき職責を有しており、その前提として疑問点を質すことも職責の一つであると考えられる。
 しかし、それらの職責があるとしても、第三者の名誉を毀損することが直ちに許されるものではなく、議員が疑問点を質すに当たっては、既に相当な根拠に基づいて違法行為の存在が認められる場合でない限り、非公開の形式で行ったり、公開する場合には質問内容を単に対象となっている行為の内容とその根拠を問うものにとどめ、自らの判断を交えないものにするなどして、第三者の名誉が害されないように配慮すべきであり、このような配慮をすることと上記の議員の職責とは十分に両立しうるものである。被告の本件行為は、前記4で認定説示したとおり、疑問点について十分な資料や根拠がない段階で、それらの調査検討を怠ったまま、上記のような配慮をも怠り、原告らの社会的評価を低下させる事実を摘示したというものであるから、被告が議員としての職責を有することを考慮しても、その不法行為責任は否定し得ず、その程度も重大なものといわざるを得ない。
7 結論
 以上によれば、原告らの請求は、名誉毀損部分の削除、謝罪広告の掲載及び原告らに対してそれぞれ50万円の支払を認める限度で理由があるから、この限りで認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第34部
 裁判長裁判官 藤山雅行
 裁判官 金光秀明
 裁判官 萩原孝基


(別紙1)
 謝罪文
 私は、貴社及び貴殿が豊明市映画製作実行委員会からの補助金を得て、映画『折り梅』を製作、興行したことに関して、平成16年1月23日発行の「a1 第47号」及びインターネット上の「a2ホームページ」に、補助金の返還に関わる経費として、@事業に携わっていない役員の給与、A香典や結婚祝金、B監督の市民税、C上記映画と関係のない借金の利息が計上されていたとするなど、不正な経理処理を行ったとの事実に反する内容の記事を掲載したうえ、その後、貴社からの申入れに応じなかったばかりでなく、新たにホームページを利用して、会計処理がルーズであるなどと掲載し、貴社及び貴殿の名誉、信用を不当に毀損し、これら侮辱的内容の記事により貴殿に対して著しい苦痛を与えました。貴社及び貴殿に対して多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。
 上記記事は私の不用意によるものであったと認め、ここに謹んでお詫び申し上げます。
 年月日
 a2
 株式会社x1 御中
 x2 殿

(別紙2)
 掲載条件
1 大きさ2段抜き
2 掲載場所社会面広告欄

(別紙3)
1 「a2の活動アラカルト」との記載が冒頭にあるページのうち、次の文章「映画「折り梅」の返還金について一般質問しようと思った数々の疑惑、議会質問・答弁の要約、映画会社の反論、私の主張など、すべてをみなさまに公開し判断を仰ぎたいと思います。《名誉毀損に関するHP はここから》」
2 「平成15年12月議会a2一般質問」との記載が冒頭にあるページのうち、次の各文章
 「質問
  資料としてお配りした映画会社が提出した損益計算書の管理費の給料手当2260万円に役員給与、経費に結婚式の祝い金、香典、監督の市民税までが含まれていたが、映画製作に補助したのであって、会社の経営補助ではない。おかしいのではないか?」
 「映画製作という無形の物への5000万円補助、その大ヒット、さらには補助金の返還、その返還金の活用という何重のも(裁判所注;原文ママ)成果は、市長の英断からはじまったと、褒めたたえる質問になるはずが、トンだことになった。これから、会計監査をしっかりと行ってください。そして、映画という未知への挑戦を受けてくれた市民にお返しをして欲しい。」
3 「映画「折り梅」一般質問のその後「a2の質問が名誉毀損?」」との記載が冒頭にあるページのうち、次の各文章
(1) 「ただし、市が役員給与(月額70万円/年額840万円)を映画上映のための必要経費として全額認めることが妥当かどうかについては別の問題であると考えています。」
(2) 「☆ これらは、11月21日に議長に提出した「一般質問の通告書」に記したとおり、市が帳簿等の詳細な公開を躊躇していたため、また、市が説明責任を十分果たしていないため、このような解釈をせざるを得なかったことを申し添えておきます。
 尚、市が躊躇した理由、説明責任を果たせなかった理由は、映画会社から提出された収支報告等が十分でなかったからと推測します。」
(3) 「x2監督は、市や議会とやり取りを重ねる中でこのことを十分ご承知のはずです。市内企業や市民からの寄付金約1600万円を含む5000万円の補助交付をもって、はじめて映画製作にのぞめたという状況にありながら、映画会社及びx2監督が行ってきた会計や決め事に対するルーズで無頓着な対応は、協力した市、企業、市民ボランティアに対する感謝と誠意にかける態度と言わざるを得ません。
 映画会社と市や議会との間には補助事業(公金)に対する大きな意識のずれがあったという印象も拭えません。
 忘れてはならないのは、すばらしい映画を創ることと適正な経理や事務手続き行う(裁判所注;原文ママ)こと(正しく返還すること)は別の問題だということです。
 議員が議会で疑惑を指摘することは本来の職務です。仮に名誉を毀損したとしても、議員が公共の利益のため行う場合は名誉毀損の免責事由にあたり、法で認められています。わたしへの名誉毀損の訴えは議員活動に対する抗議であり、表現の自由を否定するものです。
 この意味からも、議員・市民の両活動において、公共の利益に関する事柄について、不明点・疑惑を指摘することは当然許されるべきこと。今回の事件は、議会や市民チェックの是非を問う、大きな問題といえます。
 また、文化や福祉・環境などNPOや民間への委託が一層増えることを願う上でも、会計や事業報告、情報公開のあり方を考える重要な問題でもあります。
 映画「折り梅」の返還金について一般質問しようと思った数々の疑惑要因、議会質問・答弁の要約、映画会社の反論(弁護士の説明書・会計士の報告書、通知文その1・その2)、私の主張など、これまでのすべてをみなさまに公開し判断を仰ぎたいと思います。」
4 「◆◇映画「折り梅」返還金に関し、不信感・疑惑を抱かせた要因◇◆」との記載が冒頭にあるページのうち、別紙5「主張一覧表」記載の番号5−枝番1ないし7、9、10、12ないし17の各記載

(別紙4)
 主張要約書
第1 争点(1)(本件行為により原告らの社会的評価を低下させるか否か)について
(原告らの主張)
 別紙5「主張一覧表」の「具体的名誉毀損行為」欄に記載のとおりの記事内容は、原告らの社会的評価を低下させるものである。
(被告の主張)
 別紙5「主張一覧表」の「被告の反論」のうち、「否認」欄に記載のとおり。
第2 争点(2)(本件行為が公共の利害に関する事実に係り、公益目的を有してされ、かつ、その内容が真実であるか否か)について
(被告の主張)
1 本件行為の対象が公共の利害に関わる事項であること
(1) 本件における被告の各発言は、いずれも、豊明市が同市映画制作実行委員会(以下「実行委員会」という。)を通じて原告会社に対して行った映画制作補助事業に関するものである。
(2) そもそも、この映画制作補助事業は、原告らが豊明市在住者の原作を映画化することを理由として、豊明市に5000万円の補助金の出資を要請したことをきっかけとしている。豊明市は、原告らからの要請を受け、同市が主体となって映画制作を行うことを決定し、実行委員会も豊明市が主体となって組織した。その上で、5000万円の補助金の交付は、豊明市議会の債務負担行為の議決を経て、実行委員会を通じて原告会社に対して行われた。
(3) 上記補助金の交付に際しては、平成13年2月23日付けで、平成17年3月まで毎年、映画「折り梅」の上映等によって原告会社が得た収益の3分の1を実行委員会に対して返還するとの覚書が交わされた。上記返還金については、実行委員会が豊明市に対して速やかに寄付するものとされた。
(4) 映画「折り梅」は、平成13年9月に完成した。覚え書きに従えば、本来、平成14年、15年、16年、17年の各3月に、それぞれ得た利益の3分の1を原告会社が実行委員会に返還しなければならなかった。
 ところが、原告会社が上記利益の返還を一度もしない段階であった平成15年9月9日、原告らは、豊明市に対し、当初の覚え書きの内容を変更し、平成17年3月末日に一定額を一括で返還することとしたい旨の要請がされた。これに対し、交渉の後、平成16年2月20日付けで、当初の覚え書きのうち「平成17年3月まで毎年、原告会社が得た利益の3分の1を返還する」との内容を「速やかにその利益の3分の1相当額を一括して実行委員会に支払う」という内容に変更する新たな覚書が原告らと実行委員会との間で交わされた。
(5) 以上から明らかなように、被告の質問は、原告会社の収支報告に従って計算された利益相当額が豊明市に対する寄付金の額に影響するという状況にあったことに加え、一度も利益が分配されないままに当初の覚書の内容が変更されたことの可否が争点となっていた状態でなされたのであるところ、被告が原告会社の収支の適法性や支出の合理性に関心を持つことは、豊明市が支出した補助金の回収可能性に関わるものであって、強い公共性がある。
2 被告が公共目的で本件行為をしたこと
 そして、被告は、豊明市の市議会議員として、豊明市の財政を監視する職責を担う立場にある者として、原告会社の会計処理に対して関心を寄せざるを得ないものであったのであって、本件行為は、被告が、もっぱら豊明市の財政の健全化という公益を図る目的を持ってされたものである。
3 本件行為に係る記事内容がいずれも真実であること
 別紙5「主張一覧表」番号1、3、4並びに同5の枝番3、4、5、6、7、8、11、12、14、16及び17の「被告の反論」欄に記載のとおり。
(原告らの主張)
1 公共性及び公益目的がないこと
(1) 記事において問題となっているのは役員の給与等企業体として当然の支出であったり、映画製作費用の一部の借入れという事業の遂行に不可欠な活動である。このような企業体としてのあるべき収支については、公共の利害に関する事実にはならない。
(2) 記事の内容はいずれも明白な虚偽であり、虚偽であることをわずかな注意を以て認識し得たものであることに照らすと、被告がわずかな注意も払わずに記事番号1の掲載したことには、被告の悪意を強く推認させ、公益を図る目的もない。
2 真実性について
 別紙5「主張一覧表」番号1、3、4並びに同5の枝番3、4、5、6、7、8、11、12、14、16及び17について、被告は、その内容が真実であると指摘する。
(1) 記事番号1について
 被告の指摘する「事業に携わっていない役員の給与」は、経費として計上されていないし、これは被告も後に認めるところである。
 香典や結婚祝い金も、経費として計上していない。すなわち、原告会社は、旅費交通費や交際費等の関連費用については、原告会社の経営利益にも寄与する点に配慮し、交際費のうち22%を控除して計上したのであるから、関連費用の5ないし7%を占める香典や結婚祝い金などが含まれないように配慮した。被告は、原告会社の総勘定元帳に香典等の摘要があったことから、「帳簿等」に香典や結婚祝い金が計上されていたことが真実であるというが、この記事でいう「帳簿等」は、補助金の市とを記載した帳簿等を指すものと理解すべきものであるから、補助金の使途とは無関係に作成されている原告会社の総勘定元帳はこれに含まれない。
 映画と関係のない借金の利息をいう点も、映画製作に不可欠の借入れをしたことによるのであるから、真実ではない。
(2) 記事番号3について
ア 役員給与の点、結婚式の祝い金等の点は前述のとおりである。
イ 市民税についても、総勘定元帳には「預り金市民税」と記載があるとおり、経費には含まれていないから、記事内容は虚偽である。被告は、極めて初歩的な誤読をあえて行った点で、原告らに対して悪意を有しているとうかがうことができる。
(3) 記事番号4について
ア まず、役員給与が月額70万円、年額にして840万円であることについては、問題となっているのは原告らが不正経理をしているという事実の方であるから、上記の点は真実性の証明の対象ではない。
イ 次に、豊明市が帳簿等の公開を躊躇していたとする点についても、この言説が真実だからといって真実性の抗弁が成立するものではない。
ウ さらに、会計や決めごとに対するルーズで無頓着な対応とする点についても、被告が指摘する根拠からルーズで無頓着という結論を導くことは、一般の社会通念では到底考えられないし、被告は、覚書改訂の際、実行委員会のg会長から原告x2が「会計はきちんとやって欲しい」と言われたと主張するが、そのような事実はない。乙第14号証の1及び2は、記載内容に齟齬があるし、いずれも極めて不正確であって、実際の会談内容を反映したものではない。
エ 原告会社の提出書類や説明の不備をいう点についても、原告会社は豊明市からの求めに応じて帳簿等を送付し、これを承け、豊明市が追加提出を求める書類のリストを示して送付を求めたため、原告会社が平成15年3月28日付で追加書類を送付したのであって、書類の不備や書類提出の懈怠はないし、説明については、原告ら代理人弁護士がした説明のとおりである。
(4) 記事番号5について
ア 記事番号5−3
 この記事には、「思われる」という表現方法が使用されてはいるが、被告は自らの考える映画収入の概算を明示しているのであるから、原告の収入が「もっと多い」か否かについて読者の判断に委ねる言説ではなく、断定的に誤った事実を指摘する言説である。
イ 記事番号5−4
 この記載の問題点は「2年目になって経費が一挙に増やされていることへの疑惑」という言説であって、この点について真実性の抗弁が成立する余地はない。
ウ 記事番号5−5
 支払利息については、前述のとおり、映画制作に不可欠の借入れをした結果なのであって、虚偽の記載である。
エ 記事番号5−6
 この点に関する経緯は、[1]平成15年2月4日付で、豊明市役所市長公室長から帳簿等の確認を求める連絡があった、[2]原告x2は「帳簿等」がいかなる書類を指すのか判然としなかったので、とりあえず同日13日付で、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの損益計算書のみを送付し、税理士の派遣や実行委員会からの連絡を待った、[3]平成15年2月28日付の書面が届いたので、原告会社は、同書面に記載があった書類を平成15年3月28日付で送付した、というものであり、不正の意図も事実も存在しないから、被告の言説は事実を歪曲したものである。
 しかも「未提出の部分がある」という事実も存在しない。被告が根拠とする乙第12号証は実際には発送されていないから、根拠がない。
オ 記事番号5−7
 被告は、言説の根拠として、[1]原告会社が平成15年2月13日付で送付した書類に不備があったから、同月28日付で再度書類送付を依頼したが、原告会社は同年4月になっても書類を送付しなかったこと、[2]原告会社による1年目の収支報告が決算日の7か月余り後の翌年2月13日にされていること、[3]平成15年9月9日ころ、覚書が原告会社の有利に変更されたこと、を挙げる。
 しかし、[1]については、前述のとおり、そもそも乙第12号証が原告らに送付されておらず、それ以前にも原告会社は要請に誠実に対応している。
 [2]については、決算後直ちに収支報告書を提出すべきとの義務はなく、被告の立論の前提が誤っている。
カ 記事番号5−8
 原告x2は返還金を少なくした意向を有していないし、そのような意向をうかがわせる言動を示したこともないから、返還金を少なくしたいとの言説は真実はない。
 その他の部分については、乙第14号証は不正確なものであるから、上記言説の根拠とはならない。
キ 記事番号5−11
 この言説は明らかに事実に反するものである。覚書の利益の考え方についての確認書の提出についてもこれを怠った事実はない。
ク 記事番号5−14
 c1氏からの借入れについては豊明市が了解しており、c4氏からの借入れについても、原告会社は収支報告のなかで明らかにしており、実行委員会から派遣された公認会計士による監査も受けたものであるが、実行委員会や豊明市からはこれに対する何らの問題点の指摘も受けていないから、市が承知していないとの被告の言説は真実ではない。
ケ 記事番号5−17
 「必要経費をつり上げるためではないかと想像させる」との言説について、違法性を阻却されるために必要な真実性の証明の対象は、原告x2が必要経費をつり上げるために公認会計士の報酬が値上げされたという事実であって、被告が掲げた事実だけでは記事番号5−17についての違法性は阻却されないから、主張自体失当である。
第3 争点(3)(被告が本件行為をする際、掲載する記事内容が真実であると信じたことが相当であるといえるか否か)について
(被告の主張)
 別紙5「主張一覧表」の「被告の反論」のうち、番号1、4並びに同5の枝番3、4、5、7、8、10、11、12、14及び16の「抗弁」欄に記載のとおり。
(原告らの主張)
1 記事番号1について
(1) 公共性及び公益を図る目的がないことについては第2のとおりである。
(2) 事業に携わっていない役員の給与の点については、議会質問をして明確な回答を得られなかったとしても、原告会社は既に平成15年8月21日付で映画「折り梅」に関する平成13年7月1日から平成15年6月30日までの事業収支を実行委員会に報告しているし、同年10月8日には公認会計士による監査報告がされているから、公認会計士や原告x2に対して問い合わせることができたはずである。
 複数の役員の給与が含まれており、その中には事業に携わっていない者もいるのではないかという点は、被告が損益計算書を見て推測をしたというものの、損益計算書には役員数や役員が事業に携わっているかどうかの記載はない。また、平成13年7月1日から平成14年6月30日の収支と平成14年7月1日から平成15年6月30日の収支とを比較したとき、役員給与が大幅に増加していると被告はいうが、初年度は映画「折り梅」事業による収益が出なかったため、原告x2の給料は計上しなかったものである。
 香典等についても、被告は、総勘定元帳の性質に注意して調査すべきなのに、これを怠っているのであって、真実と誤信したことに相当な理由はない。
 映画と関係のない利息についても、調査をすれば借入れの事実は事前に把握できたはずであるから、やはり真実と誤信したことに相当な理由はない。
2 記事番号4について
 被告は、覚書変更が合意に基づくものであり、かつ、変更内容が補助金返還時期に関するものであることを敢えて無視し、原告らが経費分を不当に過大計上する懸念があるなどと即断した上で、書類送付については、乙第2号証(損益計算書の記載)を敢えて無視し、乙第12号証(起案段階の催促文書)を特に取り上げていること、支払利息については、原告ら代理人弁護士の説明があったにもかかわらず、これを無視して市長公室長の趣旨不明の答弁を奇貨として名誉毀損行為を継続したのであるから、相当性の抗弁が成立する余地もない。
3 記事番号5について
(1) 記事番号5−3
 被告が主張する根拠は、映画配給会社であるeに問い合わせて結果、1回当たり25万円であったことから、上映回数を1000回として単純計算すると収入が2億5000万円であるとするものである。しかし、被告は、映画の製作上映という事業活動についての理解が欠けている。
 原告は、配給会社の1つとしてeを利用したが、配給料金は上映規模や一日の上映会数等により異なるものである。また、配給料金は、配給手数料等が差し引かれた残りが原告会社の収入となるのであって、上記単純計算は映画興行活動の実体を全く考慮していない。
 しかも、原告ら代理人弁護士が書面により説明をし、同書面には映画興行の仕組み等に関する説明も付記されていたにもかかわらず、被告は、その後の確認及び調査は一切行わなかったのであるから、相当の注意を払ったとは到底いえない。
(2) 記事番号5−4
 この点についても、原告ら代理人弁護士からの説明書面が送付された後のことであるから、経費の増加の理由についての同書面に記された説明内容を無視したものであって、相当の注意を払わなかったことは明らかである。
(3) 記事番号5−5
 支払利息については、前述のとおりであるから、相当性の抗弁は成立しない。
(4) 記事番号5−6
 被告は、収支のとらえ方に行政との乖離があると断言することを合理化するだけの根拠はなく、調査もされていないから、相当性の抗弁は成立しない。
(5) 記事番号5−7
 乙第12号証を見れば、これが起案段階の文書であって原告らに送付されていないことが容易に認識し得るし、覚書第6条をみれば、実行委員会が原告会社に収支報告を求めた時期を確認しない限り原告会社の対応の当否を評価できないことも明白である。そうであれば、被告が「当初から『覚書』を遵守する意思がない」と信ずるにつき相当な理由はない。
(6) 記事番号5−8
 この記事が原告ら代理人弁護士からの通知によって自らの摘示事実の誤りを修正する契機が与えられた後のものであることからすると、「返還金を少なくしたい監督の意向がうかがえる」との部分について相当性の抗弁は成り立たない。もっとも、その余の部分については、乙第14号証の1・2が相当の根拠となるようにも思われるが、乙第14号証の1・2については内容に齟齬があり、不自然な内容や全く意味不明な発言も散見されるから、相当の注意をもって読めば、これらをもって言説の相当の根拠とはなしえないことは容易に把握し得るのであって、乙第14号証の1・2が相当な根拠とならないことは明らかである。
(7) 記事番号5−10
 被告の言説は、前提事実に対する誤解ないし無理解が基礎となっており、相当性の抗弁は成立しない。
 原告会社は豊明市から補助金の交付を承けたものではないから、豊明市補助金交付規則の適用はない。また、原告会社は、実行委員会に対して、覚書第5条に基づいて実績報告書等を提出しており、同条項違反の問題はない。
 また、実行委員会の実績報告書の作成が原告会社からの報告を前提とせざるを得ないことは、原告らの関知するところではない。
 さらに、覚書第6条は、利益の返還にかかわる収支報告の問題であって、被告がここで問題とする実績報告書とは関係がない。
(8) 記事番号5−11
 上記第2−5(7)に述べたとおり、明らかに事実に反するもので、真実と信ずる根拠が見当たらない。
(9) 記事番号5−12
 被告は、相当の注意を以てすれば、出資金が弁護士の説明と一致しないなどと誤解する余地はなく、同様に、宣伝費が制作費と異なることを認識できたはずである。したがって、収入を少な目に報告したとの点や一貫性がないとの言説を展開したことについて相当の根拠はない。
(10) 記事番号5−14
 被告が行った一般質問に対する回答については、原告らとしても趣旨不明であるところ、趣旨不明の答弁に対してはむしろ市当局の理解不足を推定すべきであって、再答弁や再調査の上での報告を求めるのが議員としての適切な活動である。また、被告が「豊明市に確認した」点は、その手段等詳細が明らかでないが、再調査の必要を自覚すべきであって、そうであるにもかかわらずむしろ断定的な言説を展開するに至ったのであるから、相当の注意を払ったとはいえない。
(11) 記事番号5−16
 被告は、原告ら代理人弁護士による説明書面の内容(「折り梅」に関連した費用のみ計上しているとの説明)を提出資料は映画「折り梅」製作上映の会計報告として作成されたとの意味にすり替え、提出された総勘定元帳は「折り梅」の会計報告資料だと理解できるという結論を導出したようであるところ、総勘定元帳の性質からすれば、これが「折り梅」の会計報告のためだけに作成されたという理解は著しい曲解である。被告は、総勘定元帳の会計資料としての常識的な意味を理解せず、誤解しているのであるから、事業活動に対する基本的理解を書いたものであって、相当な根拠はない。
(12) 記事番号5−17
 そもそも、映画完成後、公認会計士に対する報酬金額が上がっているのは、実行委員会、出資者に対する会計報告業務など、会計業務の内容が大幅に増えたため、顧問料の増額要求に応じたものである。経費のつり上げとは、必要がないにもかかわらず、特定の経費を増やす行為であるし、上記のような事情に基づく顧問料の増加が通常あり得る事態であることからすれば、被告には相当の根拠がない。
第4 争点(4)(損害の内容)について
(原告らの主張)
1 原告らの負った損害
 原告会社及び原告x2に対する社会的評価は極めて高いものであるところ、本件行為による原告らの営業上の不利益はきわめて甚大である。
 映画「折り梅」は、独立プロの製作した映画であって、原告会社の営業努力によってのみ興行を成功させ、収益を得ることができる。そして、全国各地での上映会の実現は、新作としての扱いを受ける2ないし3年の間が勝負であると考えられるところ、本件行為は、こうした最中に敢行されたのであり、社会的評価に深刻な影響を与える行為である。
 原告らとして、今後映画を制作するに当たっては、当然、資金集めが必要であり、個人投資家や協賛会社などの協力を求める活動が不可欠である。被告による本件行為は、今後、原告らがこうした活動をするのに重大な支障ともなる。
 原告x2は後ろめたさのない生き方をモットーとし、これは当然に映画作品として高い評価を得た「ユキエ」、「折り梅」にも反映し、原告x2に対する評価の一部ともなっている。したがって、経理の不正があったと疑わせる本件行為によって受けた原告x2の精神的苦痛は、生き方の根源に関わるまさに甚大な苦痛である。
2 慰謝料及び弁護士費用(一部請求)
 以上の精神的苦痛を金銭的に慰謝するには、1000万円を下らない額が必要である。また、弁護士費用として、原告会社、原告x2のそれぞれにつき100万円、合計200万円が相当である。
 原告らは、被告に対し、上記額のうちそれぞれ100万円の支払を求めるものである。
3 謝罪広告及びウェブサイトからの記事の削除
 本件行為は、真実でない内容の言説を展開したものであるから、事実に反する旨の謝罪広告がなければ、原告らの名誉回復は困難である。したがって、原告らの受けた損害たる名誉及び信用を回復するには、その適当な処分として、被告に対し、謝罪広告を「a1」、「a2ホームページ」及び中日新聞に掲載させるべきである。
 さらに、原告らの名誉及び信用を回復するには、「a2ホームページ」から、記事を削除させるべきである。
(被告の主張)
1 慰謝料額について
 争う。
2 原告x2の損害についての謝罪広告の掲載が不当であること
 原告らは、原告x2について、本件行為により原告x2の名誉感情を侵害した旨主張し、謝罪広告の掲載が必要であると主張する。
 しかしながら、民法723条の「名誉」には、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないから、原告x2について謝罪広告を掲載する必要はない。
3 中日新聞に対する謝罪広告の掲載が不当であること
 そもそも謝罪広告は侵害された名誉の回復措置として行われるものであり、原状回復という点から見ると、名誉毀損事実の情報伝播力と謝罪広告の情報伝播力とは対等であるべきである。そうすると、謝罪広告の掲載媒体についても、名誉を侵害した媒体の大きさに対応した謝罪広告の掲載媒体が選択されるべきである。
 ところで、被告が豊明市内で配布した「a1」は、その性質上、読者層が豊明市民にほぼ限定される上、発行は豊明市議会開催月以外の毎月の発行である。これに対し、中日新聞は、東海地方全域及び北陸地方の一部において発売される日刊新聞である。
 そうすると、a1と中日新聞とでは、後者の方が情報伝播力がはるかに強く、原告らの申立ては原状回復の程度をはるかに超えた過剰な給付を求めるものであって、明らかに不当である。
 以上
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