判例全文 line
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【事件名】旅行ガイドブックの「空港案内図」事件(2)
【年月日】平成18年5月31日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10091号 請負代金等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成16年(ワ)第10223号)
 (平成17年12月6日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(被告) 株式会社昭文社
訴訟代理人弁護士 本山信二郎
同 大川宏
被控訴人(原告) 有限会社博天社
訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 大井法子
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 杉浦尚子
同 雪丸真吾
同 田部井宏明
同 大藏隆子
同 吉田朋


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人に対し、620万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じこれを6分し、その5を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本判決においては、原判決と同様の意味において又はこれに準じて、「本件基本契約」、「本件制作委託契約」、「K&B」、「控訴人書籍」(被告書籍)、「本件写真」、「第9版本件空港案内図」、「本件空港案内図」、「OFC」、「OFC空港案内図」、「第9版対応OFC空港案内図」との略称を用いる。
 なお、上記の「第9版」との表記につき、控訴人は、控訴人として「第9版」というような表現は使っていない旨主張する。確かに、証拠(甲1、2。枝番の表示は省略する。以下、同じ。)及び弁論の全趣旨に照らせば、「第9版」は被控訴人独自の表記法である可能性が高いが、その表記法が厳密にみて適切か否かはともかく、被控訴人が本訴請求で請負契約の対象として主張している空港案内図の特定自体については、控訴人、被控訴人及び原判決との間で齟齬はみられない。そうとすれば、表記法の問題に尽きることであるので、本判決においても、上記控訴人指摘の趣旨に注意した上で、原判決と同様に、「第9版本件空港案内図」との表記を用いる。
 また、控訴人は、OFC空港案内図と対比すべき被控訴人制作にかかる案内図が「第9版」でいいのかについても後記のとおり主張するが、この点については、表記法の問題にとどまらない点があるので、判決理由の部分で判断する。
1 本件は、被控訴人(原告)が、控訴人(被告)に対し、本件制作委託契約に基づく報酬863万1000円及び本件写真の売買契約に基づく対価157万5000円の合計1020万6000円の債権のうち、750万円が未払いであると主張して、その支払いと遅延損害金(年6分)の支払いを求めた事案である。
(1) 原判決の骨子は、次のとおりである。
(a) 原判決は、本件制作委託契約は、原告(被控訴人)と被告(控訴人)との間で締結されたものであると認定した(争点1)。
(b) そのうえで、原判決は、「第9版本件空港案内図」が「第9版対応OFC空港案内図」に係るOFCの著作権を侵害してはいないと判断し、著作権を侵害しているとして、原告(被控訴人)による本件制作委託契約の債務の履行がその本旨に従った履行であったとはいえない、という被告(控訴人)の主張を排斥した(争点3)。
(c) そして、原判決は、一般的に、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない義務があるとはいえず、また、本件制作委託契約上、同様の使用をしない旨の合意があったともいえないとして、本件制作委託契約の債務の本旨に従った債務の履行があったとはいえない、という被告(控訴人)の主張を排斥した(争点4)。
(d) 次に、原判決は、被告(控訴人)が、OFCから、「本件空港案内図」が「OFC空港案内図」に極めて類似しているとの指摘を受け、被告(控訴人)からOFCに対し解決金として750万円を支払う旨合意した上で支払ったものであるところ、その金員を原告(被控訴人)が負担する旨の合意があったとする被告(控訴人)の主張についても、そのような合意があったとは認められないとした(争点6)。
(e) また、原判決は、「本件空港案内図」が「OFC空港案内図」に係るOFCの著作権を侵害しているとはいえないとし、著作権侵害があったことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権又はこれと同旨の理由による本件基本契約の条項に基づく支払済み報酬返還請求権を各自働債権とする相殺の抗弁をいずれも排斥した(争点7、12)。
(f) そして、上記(c)と同様の義務があったことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権による相殺の抗弁も排斥した(争点8)。
(g) さらに、原判決は、原告(被控訴人)の「本件空港案内図」を掲載して控訴人書籍を制作・納品したことが被告(控訴人)ないしOFCに対する不法行為となり、これに基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁についても、著作権侵害に該当しないような表現行為については、当該表現行為がことさらに相手方に損害を与えることのみを目的としてなされるような特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為に該当しないというべきであると判示した上で、上記原告(被控訴人)の行為は一般不法行為に該当するということはできないとして、上記相殺の抗弁も排斥した(争点13)。
(h) 以上のようにして、原判決は、原告(被控訴人)の請求を全面的に認容した。
(2) 本件控訴は、被告から提起されたものであるところ、当事者の主張は、次の2、3のとおり当審における当事者の主張の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)
(1) OFC空港案内図の著作物性
 原判決は、OFC空港案内図の著作物性につき、「一応、著作物に当たる」とした上、「創作性は、限定的な範囲においてのみ認めることができる」とした。しかし、「一応、著作物」という法律上の概念は存在しないし、著作物性の判断において、創作性を「限定的な範囲」に狭める必要はない。
 空港の案内図を作成することは、単に設計図を入手して客観的に縮小し、存在する諸施設を明示すれば足りるものではない。<1>ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供するか、<2>建物の形状及び輪郭をどのように表現するか、<3>日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、<4>矢印や色分けを含め、どのような説明を加えるか、<5>これらの点が1つの案内図としてデザインされた全体の「見た目」(見やすさ)などに、作成者の創意と個性が表出される。
 OFC空港案内図は、「極めて一般的な手法であり、誰が作っても同じになる」とか「どこにでもあるありふれた表現」にとどまるものではない。各空港案内図が、作成者のノウハウや見識・経験によって個性を有する表現となることは、後記のとおりである。
 なお、 原判決が依拠性を認めた点は、正当である。しかし、被控訴人が、OFC案内図をどの程度「参考」にしたかは、依拠要件のみならず、類似性判断、債務不履行の有無との関係で重要である。
(2) 空港案内図の類似性
(a) 原判決は、OFC空港案内図の著作物性を認め、被控訴人が同図面を「参考」にしたことを認めつつ、表記内容の一部や図面の色使いに違いがあり、本質的部分の類似性がないとして著作権侵害を否定したが、誤りである。
 原判決の判断は、創作性の範囲を限定的に理解することによって、デッドコピーといえる類似性がない限り、制作業者による図面の模倣・無断使用を自由に認めるものに等しく、到底容認できない。
 類似性判断においては、OFC空港案内図の本質的特徴である上記の<1>〜<5>の点を感得し得るかを検討することになる。
 その中でも、案内図を見た人が一見して強い印象を受けるのは、<1>及び<2>のターミナル建物の形状や輪郭である。巨大かつ複雑な建築物の形状や輪郭がどのように表現されているのかという点に、空港案内図の本質的特徴が表れるのであって、原判決のいう「極めて一般的な手法」というのは事実を誤認するものである。これをベースに色や文字などを変えたり削除したりしたものであっても、OFC空港案内図を想起させる(感得させる)ものであれば、複製権ないし翻案権の侵害となる。
 また、本来、単色系で無機的な空港建物内部を色分けで表現して見やすくしたところに創作性があるのであって、何色を使うかに本質的特徴があるわけではない。色の違いは重要な相違点ではない。建物の形状及び輪郭という本質的部分における類似性は、色彩部分をモノクロ化して、形状と内容を凝縮した場合には顕著となる。
 なお、控訴人においては、「個人旅行シリーズ第9版」として認識している「控訴人書籍」や「空港案内図」は存在しない。当時、控訴人においては、「個人旅行」を毎年発行し、2002 年版、2003 年版という年単位の表記で呼んでいた。「第9版」は、発注書(甲1)にも注文書(甲2)にも見当たらない表記であって、控訴人が想像するに、これは被控訴人内部における版数であろう。
 そもそも、OFCが控訴人に対して著作権侵害を主張してきたのは、「2001 年度版」以前についてであり、「第9版」なるものについてではない。控訴人において著作権侵害を検討する比較対象と考えた案内図は、OFC「エアポートインデックス’96」(乙7)掲記の空港案内図とその後に発行された「個人旅行」シリーズ掲記の空港案内図ということになる。本訴において、類似性判断のために比較対照すべき図面は、4空港については、乙8ないし11である。原審は、その点の確認も実質審理もしなかった。
(b) スイスのチューリヒ・クローテン空港についての検討
 原判決は、OFC空港案内図との相違点については、十分審理していない上、全体的な視点を有さずに一部の表記や掲載情報の違い、色使いの違いを重視しており、説得的ではない。
 原判決は、第9版(乙21の1)のみを比較し相違点として取り上げているが、本来、OFCが著作権侵害を主張していたのは前の版(乙8の2)であって、第9版のみと比較し類似性を論じるだけでは十分でない。
 類似性判断のため、@OFC空港案内図(乙8の1)、A被控訴人の案内図(乙8の2)、B空港旅行案内(オフィシャル)、C「pocket guide」(洋書)、D スイスエアーの時刻表、Eラテラネットワーク「ハンディワールドマップ」、FJTB「ワールドガイドスイス」、G実業之日本社「わがまま歩き…スイス」、H近畿日本ツーリストを比較検討の対象とする。
 これらを見比べると、ターミナル建物全体を斜めから見て各階を重ねる手法(BCDEFG)と真上からの各階平面図で描く手法(@AH)とに分かれる。前者のBDなど公共的刊行物は、建物内部の間仕切りや施設の表記が全くなく、CEFGも建物内部の掲載情報は詳細でない。これは@AHと全く異なる特徴である。OFC担当者は、空港内部を実地歩測し、距離・諸施設の配置等を独自に図面化した。
 また、建物の輪郭の切り取り方も、ターミナル上部にある搭乗ゲート部分まで描くものが多い(BCDEG)が、@は不要との考えから大きく省略している特徴がある。
 掲載情報についても、@は、Bのオフィシャルガイドやその系列の案内図CE〜Gとは、質量とも圧倒的な差がある。
 他方、Aは、建物の切り取り方、輪郭、内部の間仕切りについて、@と完全に一致する。掲載情報についても、微細な不一致があるとしても、ほぼ同一である。
 このように、@とA及び他の案内図と見比べた場合、細部に修正が加えられているが、Aのみが同一といえるほどに著しく類似していることは一目瞭然であって、@の本質的部分を感得し得る。
(c) スペインのマドリッド・バラハス国際空港についての検討
 原判決は、色使いの違い、一部掲載情報の違いなど些細な点を過大評価するものであって、説得的でない。また、原判決cEの認定は、OFC空港案内図の同じ位置に「IB(=イベリア航空)遺失物事務所」と掲載されていることを見落としている。
 類似性判断のため、@OFC空港案内図(乙9の1)、A被控訴人の案内図(乙9の2)、B空港時刻表ガイド(オフィシャル)、CJTB「ワールドガイドスペイン」、D実業之日本社「わがまま歩き…スペイン」を比較検討の対象とする。
 本空港ターミナルの特徴は、極めて横に長いことにある。Bは、見開き2ページ×3つに切断して表現している。建物全体の形状を1枚の図面に忠実に再現したものがCである。BとCは、ターミナルを斜めに立体的に表現している点でも同じ発想である。他方、@ADは、真上から平面図を描く手法という差異がある。Dは建物全体のどの部分なのか全くわからず、掲載情報の選択も少ない。これらをみれば、OFC空港案内図は、誰が作っても同じになるありふれた図面であるという認識が誤りであり、創作性が存在することは明らかである。
 そこで、Aと@を見ると、建物の切り取り部分は同一であること、@では1階上部に台形の「島」を記載し、Aでも角の凹みを取ったまま同様に記載していること、@とAは、出発階(2階)チェックイン後の台形上のスペースにトイレの表記があるが、他の案内図には表記がないこと、その他、@とA、その余の案内図を比較すれば、細部の修正が加えられていても、Aが@と類似し、複製ないし翻案したことは明らかであって、その本質的部分を感得し得る。
(d) スペインのバルセロナ・プラット国際空港についての検討
 原判決は、c@のように指摘するが、乙10の2から明らかなとおり、乙23の289頁部分は、2階部分を掲載するはずのところ、288頁の1階部分と同一の図面を掲載したという単純な編集ミスである。その他も前同様に説得的でない。例えば、原判決cFのように判示するが、OFC空港案内図には、バルセロナ行きの電車の駅についての説明があり、国鉄のことをレンフェ(RENFE)というので、被控訴人の案内図の「レンフェ乗場」との情報は、OFC案内図の上記説明を取り込んだものと推認できる。
 類似性判断のため、@OFC空港案内図(乙10の1)、A被控訴人案内図(乙10の2)、B空港時刻表ガイド(オフィシャル)、Cダイヤモンド・ビッグ社「地球の歩き方スペイン」、DJTB「ワールドガイドスペイン」、E実業之日本社「わがまま歩き…スペイン」を比較検討の対象とする。
 これらは、ターミナルを斜めに立体感を表現する手法(BDE)と真上からの平面図で描く手法(@AC)に分けることができる。また、本空港ターミナルは、4つの巨大な搭乗サテライトが横一列に並ぶ2階建ての形状であるが、Bは建物の中間部で切断して表現しているのに対し、その他の案内図は@と同じく横一列で表現している。しかし、Cでは、建物1階部分につき波線で一部省略している。このように、建物の外形・輪郭の表現方法及び掲載部分については、それぞれ差異がある。
 他方、Aは、建物全体の輪郭及び建物内部の線まで@と同一である。また、Aの掲載情報も@とほぼ同一であり、特に道路表記をし、バス・タクシー乗り場を記号化した点も同一であり、Aには@と無関係に独自に収集した情報といえるものがない。
 @ないしEを総合的に見比べた場合、@とAの案内図の類似性のみが著しく高く、本質的部分を感得し得る。
(e) ドイツのベルリン・テーゲル国際空港についての検討
 原判決は、前同様に説得的でない。例えば、原判決cEのように判示するが、OFCから著作権侵害との指摘を受けた被控訴人の案内図(乙11の2)にもカフェ、税払戻しの記載がない。
 類似性判断のため、 @OFC空港案内図(乙11の1)、A被控訴人案内図(乙11の2)、B空港オフィシャル・ホームページを比較検討の対象とする。
 Bと@Aは、全体の表記が比較的類似しており、@もBをも参考にして作成したものと推測できる。もっとも、Bは、あまりに詳細すぎ、一般的日本人旅行者にとっては利便性を欠くものであるのに対し、@は、掲載情報を見やすく取捨選択してある。建物の輪郭表記自体、Aは、@と寸分違わず一致している。しかも、@は、六角形の建物主要部及び「20〜40ゲート」が表示されている亀甲状の建物部分を選択し、60度時計方向に回転させた状態で表現しているが、Aも全く同様の形状である。Bは、各搭乗口を三角の先端に○を付して表記しているが、@では搭乗口の形状は不要として削っている。Aは、この点でも@と全く同一の表現となっている。建物内部の表記も、Aは、@とほぼ同一である。また、Aに掲載された「ホテル予約電話」「授乳室」「バスチケット売場」「警察」「搭乗手続・出入国審査・税関は各ゲートにて」などの数少ない言語表記は、ほとんど@に掲載された情報を書き写したものと思われる。逆に、Aの独自情報が全く記載されていない。@とAは、類似性を有するものであって、Aは@の本質的部分を感得し得る。
(f) 控訴人は、上記(b)〜(e)の4空港に限って権利侵害があると主張しているのではない。OFCが控訴人に対し著作権侵害等の異議を申し入れてきた空港数ははるかに多く、双方の担当者が協議して、権利侵害の可能性が強い、又は、借用したことが明らかで版権使用料を払うべきものとされた空港数は、31空港にも上った(乙17)。
 上記(b)〜(e)の4空港とインドネシア・ジャカルタ空港に関して、控訴人が比較対照すべきものと考えるOFC空港案内図と控訴人書籍空港案内図との詳細な類似性の主張は、別紙「各空港案内図の類似性に関する控訴人の具体的主張」に記載のとおりである。
(3) 翻案権侵害
 空港案内図は、日本国内においては、それほど多く刊行されているものではない。
 被控訴人の空港案内図がOFC空港案内図を容易に想起させ、原作を感知させるような作品であることは明らかである。
(4) 原判決の法令違反及び主張整理の誤り
(a) 原判決は、争点の摘示において、同一の争点を争点3と争点7に2つに分けているが、法的意味は不明である。同様に、争点4と争点8、争点5と争点9も重複している。
(b) 原判決は、争点4及び8は「本件制作委託契約上、原告(被控訴人)が、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を利用してはならない義務を負っていたか」としている。しかし、控訴人が主張したのは、単に「利用しない義務」ではなく、「他人の出版物を模倣・複製しない義務」である。しかも、原判決は、19頁において「委任契約上の善管注意義務の内容として、他人の出版物を複製・模倣しない義務を負っており」と主張整理しながら、控訴人の主張及び争点につき、53頁においては、「他人の出版物を使用してはならない」旨の合意の存否というように、ずれが生じている。制作物の委任契約上の義務内容として、「他人出版物を使用しない」ということと、「他人の出版物を複製・模倣しない」ということでは、全く内容が異なる。要するに、判決理由中の主張整理と判断の間に、重大かつ明白な不一致がある。
 上記の誤りが生じたのは、原審が、弁論準備手続を終了するにあたり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認する手続を行わなかったためである。
(5) 債務の本旨に従った履行でないこと
(a) 地図・案内図の制作に関して、控訴人は、それ自体が著作権法等の保護の対象となるわけではない基礎データ・客観的データの収集及び維持修正に多大な費用と労力をかけている。他社の成果物をトレースして使用すれば非常に安価であるが、地図制作業界の適正な商慣習には反するものである。また、控訴人が他社の成果物を著作権侵害と疑義を受ける程度に複製・模倣して出版することは、一般消費者・国土地理院等の公的機関・取引先及び業界内その他に対する控訴人の社会的信用を著しく損なうものと考えられる。そうであれば、契約の合理的解釈及び常識的経験則として、下請け制作業者との契約内容として「結果的に著作権侵害に当たらない限り、模倣・複製を容認する」はずがない。
 被控訴人は、制作委託契約上の義務として、他社の成果物を模倣・複製しない義務を負っており、この義務に違反して制作したものを控訴人に納品したことは明らかである。
 合意書(乙6)は、下請け制作業者としての基本的な業務内容を確認的に明示したものであり、OFCから指摘を受けた後に作成されたからといって、影響を与えるものではない。
 いずれにせよ、被控訴人は、控訴人が予定した成果物を納品していないのであり、債務の本旨に従った履行がなされたとはいえない。
(b) 社団法人日本地図調整業協会(控訴人もその会員である。)の倫理規程6条、この規定を受けた倫理規程マニュアル、測量法30条3項の規定によれば、前記協会の会員が翻案に当たるような地図を調整する場合、国土地理院の承認を得、あるいは刊行物に基本測量を使用している旨を明示しなければならない。このことは、他社の成果物を使用した場合にも基本的には適用されるものである。本件では、本件空港案内図は、OFC空港案内図の成果を使用して作成されたことは明らかであって、上記協会の会員である控訴人名義の出版物に掲載されるものであるから、本来、刊行物にその旨を明示する必要があった。受託した業務につき他人の成果物を利用した場合、被控訴人にはその旨を控訴人に報告すべき契約上の義務がある。
 しかし、被控訴人は、その旨を控訴人に報告せず、その結果、OFCから損害賠償請求を受ける事態に立ち至ったのであって、債務の本旨に従った履行とはいえない。
(6) 遅延損害金の起算日
 乙26が処分証書としての意味をもつにもかかわらず、「河村は、正木からの支払期限延期の申出を承諾していないから」、合意があったとは認められないとした原判決の認定は、誤りである。
(7) 一般不法行為
 表現活動の自由を侵害されたのはOFCであり、被控訴人は、相手方に損害を与え、自ら不当な利益を得ることを目的としていたのであって、一般不法行為に十分該当するものである。
3 当審における被控訴人の主張の要点
(1) OFC空港案内図の著作物性をいう主張に対して
 OFC空港案内図には、一部の説明的な文章の記載を除き、著作物性はない。OFC空港案内図は、いずれも日本人旅行者が空港施設を利用する場合に必要とされる情報が、ごくありふれた方法によって記載されているからにすぎないためである。
 原判決がOFC空港案内図に「限定的」にであれ、著作物性を認めた点は不服ではあるが、少なくとも、OFC空港案内図と被控訴人作成の空港案内図との類似性ある部分については、OFC空港案内図の記載に創作性はないとの点は正当である。
 控訴人は、地図・案内図の制作において工夫する点に創作性が認められると主張するが、工夫された点自体ではなく、工夫された点に創作性があるか否かこそが著作物の判断基準である。控訴人は、地図・案内図であればすべて創作性が認められるかのような誤った認識に陥っている。
 仮に控訴人が主張する<1>〜<5>の点において創作性が判断されるべきだとしても、これらは、あくまでも手法であって、そのように作成したすべての案内図に創作性が認められるわけではない。それらの点についてOFC空港案内図の具体的表現のどの部分に創作性が認められるかという点である。控訴人はこの点を主張しない。
 類似性の判断は、あくまでも表現それ自体の比較において判断されるべきものであり、依拠性とは別の問題であって、控訴人の依拠性についての主張は、誤っている。また、控訴人は、被控訴人がOFC空港案内図を参照したこと自体を批判しているが、実際には、地図の制作において、各空港施設の管理している見取り図や他の空港地図を参照することは一般に行われているのが通例であり、OFC空港案内図とても例外ではない。その点につき非難されるいわれはない。いずれにせよ、OFC空港案内図と本件空港案内図との類似性がないから、依拠性について議論するまでもなく、控訴人の主張は排斥されるべきである。
(2) 空港案内図の類似性をいう主張に対して
(a) 控訴人は、類似性判断において「他社作成の複数の図面を比較検討し、全体の中で当該2図面の類似性を判断する方法」という独自の方法論を展開しているが、類似性の判断と創作性の判断とを混同している。
 著作権侵害の成否が問題となる場合の類似性を判断する対象は、あくまでも侵害とされる物とその元とされている物の2つの図面である。
 本件空港案内図が他の案内図と比較してよりOFC空港案内図に似ているからといって、それが著作権侵害の根拠となるわけではない。類似している部分が創作的か否かの議論を抜きに、著作権侵害の有無を判断することはできない。つまり、仮に本件空港案内図が「OFC空港案内図」を想起させるとしても、OFC空港案内図の創作性ある部分が類似していない以上、複製権侵害はもちろんのこと翻案権侵害にもならない。
 本件空港案内図は、個人旅行者にとって目にとまりやすいように表示してあり、旅行業者や航空業界関係者用に作成されているOFC空港案内図とは、その印象が全く異なるため、「OFC空港案内図」を想起させることはない。
 空港建物内部の色分けについても、色分けをすること自体は極めて一般的な表現方法であり創作性はない。
(b) スイスのチューリヒ・クローテン空港について
 控訴人は、第9版のみで類似性を論じるのでは十分でないというが、第9版の類似性を判断するに当たって、前の版との類似性を論ずる必要がないことは、明らかである。
 「似ていること」が著作権侵害となるという控訴人の理解は誤りである。
 乙8の2を対象とする主張についても、ターミナル建物を斜めから見て各階を重ねる手法と真上から各階平面図で描く手法は、いずれもごく一般的な手法であっていずれを選択するかに創作性があるわけではない。また、建物内部の間仕切りや施設の表記をどこまで詳細に記載するかは、その案内図の用途やスペース等に応じて自ずと簡略化の程度が限られてくるのであり、時刻表などの刊行物に施設の表記が全くないからといって、空港案内図に施設表記をしたことに創作性が認められるわけではない。作成に当たって空港内部を実地歩測したからといって、創作性があることにはならない。建物の輪郭の切り取り方も、旅行者向けの空港内部の案内図であれば用途に応じて不要な部分を省略することはごく一般的なことである。掲載情報の取捨選択についても、旅行者にとって有益な情報は通常想起し得るものに限られており、それをどこまで詳細に記載するか省略するかという選択の範囲は限られたものであり、仮に創作性が認められるとしてもデッドコピーでない限りは類似とはいえない。
 乙8の2と乙8の1は、2階と3階の配置が異なっており、一致はしない。また、客観的に同一の建物を平面図にすればその輪郭や内部の間仕切りが一致することは当然であり、創作性があることを前提として類似性があるとはいえない。掲載情報については、明らかに掲載情報量や記載の仕方に違いが生じているのであり、似ているとさえいえない。
 以上のように、控訴人が類似すると述べる部分はいずれも空港案内図においてごくありふれた表現であって創作的表現部分といえないか、あるいは一致さえしていないのであって、乙8の2が乙8の1の本質的特徴を感得し得るとはいえない。
(c) スペインのマドリッド・バラハス国際空港について
 本件は、乙9の1と乙22の1との対比であって、原判決に「IB(=イベリア航空)遺失物事務所」との記載の見落としはない。
 乙9の2を対象とする主張についても、空港案内図の全体を掲載するか、一部を掲載するかについては、紙面上の制約等によっていずれかを選択するしかないのであるから、その選択に創作性はない。OFC空港案内図の掲載範囲に創作性があるとはいえない。また、OFC空港案内図において、一番情報が集まっているつまり利用頻度が多い部分をとりあげて掲載することは、空港案内図の掲載範囲として、ごくありふれた選択にすぎない。ターミナル建物を斜めに立体的に表現する手法と真上から平面図にする手法の選択については、前記のように、創作性はない。また、掲載情報の量によって創作性が認められるわけではない。
 乙9の1と乙9の2の比較においても、空港案内図において空港利用者が案内を必要とする重要部分を切り取って表示することはごくありふれた表現である。隣のターミナルへの接続ロビーの掲載を省略したからといって、創作性が認められるわけではない。建物の輪郭がほぼ同じように記載されることは、前同様、同一の建物を表現する以上当然のことであって、むしろ、台形に突出した部分については、乙9の2は通路を省略し形状もより簡略な表現となっている。1階の台形部分についても、他社の空港案内図(甲7 の1、甲12)も同じ形状に表現されている。掲載情報の取捨選択も前同様に創作性の認められる余地は極めて少ない。空港案内図において旅行者の便宜からトイレのある場所にトイレの記載をすることは、あまりにもありふれた表現である。
 以上のように、控訴人が類似すると述べる部分は、いずれも空港案内図においてごくありふれた表現であって、創作的表現部分とはいえないか、一致していないかのいずれかであり、乙9の2が乙9の1の本質的特徴を感得し得るとはいえない。
(d) スペインのバルセロナ・プラット国際空港について
 控訴人は、第9版本件空港案内図(乙23)が1階部分のみを掲載しているのは編集ミスであるというが、乙23の空港案内図に2階部分の掲載がない事実に変わりはなく、原判決の認定に誤りがあるわけではない。「レンフェ乗場」の記載についての控訴人の主張は趣旨不明であり、仮に説明文を参考にして「レンフェ乗場」との記載をしたとしても、その記載がOFC空港案内図にないという原判決の認定に誤りはない。
 乙10の2を対象とする主張についても、ターミナルを斜めに立体感を表現する手法と真上からの平面図で描く手法の選択については、前記のように、創作性はない。横に長いターミナルを、横一列に表現すること、中間部で切断して2段に表現すること、波線で一部省略することは、いずれもごくありふれた表現であってその差異をもって創作性が認められるものではない。建物の輪郭がほぼ同じように記載されることは、同一の建物を平面図で表現する以上当然のことである。両者は、明らかに掲載情報量や記載の仕方に違いが生じているのであり、似ているとさえいえない。以上のように、控訴人が類似すると述べる部分はいずれも空港案内図においてごくありふれた表現であって創作的表現部分とはいえないか、あるいは似ていないのであって、乙10の2が乙10の1の本質的特徴を感得し得るとはいえない。
(e) ドイツのベルリン・テーゲル国際空港について
 控訴人の原判決批判は、まったく的外れである。原判決cEの判示は、乙24についてのものであり、「カフェ(のマーク)、税払戻し」の掲載があるのであって、原判決の認定に誤りはない。
 乙11の2を対象とする主張についても、甲9という別の図面と比較して、それよりも乙11の1に似ているといったところで、共通する部分に創作性がなければ、創作的表現部分の特徴を感得し得るとはいえない。建物の輪郭がほぼ同じように記載されることは、同一の建物を平面図で表現する以上当然のことであるし、空港前の道路を省略して建物のみを切り取って表示することも、ごくありふれた表現である。亀甲状の建物部分の記載も、この形状の平面図を縦長の長方形のスペースに効率的に記載するためには通常考えられる方法である。搭乗口の形状を簡略化することも、空港案内図としてごくありふれた表現であり、建物内部や駐車場部分の線も、ありふれた表現であって、特に創作性のある表現とはいえない。掲載情報の取捨選択も、そもそも選択の余地が限られているところ、乙11の2の方が取り上げた情報が絞られていて、乙11の1と共通する掲載情報は少ない。以上のように、控訴人が類似すると述べる部分は、いずれも空港案内図においてごくありふれた表現であって創作的表現部分とはいえず、乙11の2が乙11の1の本質的特徴を感得し得るとはいえない。
(f) 控訴人は、インドネシア・ジャカルタ空港についても、縷々述べるが、前記と同様に、生の事実として似ていることを、直ちに著作権侵害における類似性と判断する誤りを犯している。創作的部分が類似しているとの主張は何らされていない。
 なお、控訴人は、OFC空港案内図におけるターミナル図の著作物性を主張するが、OFC空港案内図のターミナル外形図の切取り部分は、航空写真で映し出される形状に即し、ほぼ事実に忠実に記載されているのであって、その形状は、「事実」であり、創作性はない。わずかな縮尺程度の違いやわずかな形状の簡略化は、創作性のある創意工夫とはいえない。また、どの部分を切り取るかについても、案内図の機能上、過不足なく必要な情報を残し、不要な情報を排除するのは当然であって、切り取り方一般を論じること自体が失当である。OFC空港案内図の切り取り部分は、いずれも容易に思いつく、ありふれた少ない選択肢の中から選択されたものであって、創作性が生ずるというものではない。さらに、空港案内図を真上から表示するか、立体的に表示するかについては、表現方法としてごくありふれており、その表現方法に創作性はない。
(3) 翻案権侵害をいう主張に対して
 いずれの地図においても、本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的表現における特徴を感得し得るということはできないのであって、「有形的再生」としての複製権侵害に該当しないことはもとより、翻案権侵害にもならない。
 既に主張したとおり、第9版を含め、本件空港案内図は、OFC空港案内図の創作的表現部分における特徴を感得することができないものであるから、翻案権侵害にもならない。
(4) 原判決の法令違反及び主張整理の誤りをいう主張に対して
 原判決が摘示した争点1ないし争点5は、「(1)原告の被告に対する報酬支払請求権の有無」に関するものであり、報酬支払請求の対象となる「第9版」そのものが債務の本旨に従った履行といえるか否か、「第9版」自体がOFC案内図の著作権侵害を構成するかなどが審理の対象となる。一方、争点6ないし争点13は、「(2)被告の原告に対する反対債権の有無」に関するものであり、反対債権である損害賠償請求権に関しては、「第9版」のみならず、それ以前に被控訴人が控訴人に納品した案内図も含めて判断の対象となる。そのため、原判決は、(1)については報酬支払請求の対象となる第9版のみを取り上げて判断し、(2)については債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求権の判断のため、控訴人の主張した他の本件空港案内図に関しても判断したものであり、何ら誤りはない。
 控訴人が主張する「他人の出版物を模倣・複製しない義務」とは、そもそもその具体的な内容や根拠が全く明らかでない。控訴人自身、「利用し原稿に取り入れたこと(複製ないし模倣)」、「無断利用(複製ないし模倣)」、「模倣・無断引用」と一貫しない記載をし、その根拠として、合意書(乙6)を挙げるが、そこには「他の著作物の著作権を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使用したりすること」と記載されている。原判決の説示に不一致があるなどとはいえない。
(5) 債務の本旨に従った履行でないことをいう主張に対して
(a) 著作権侵害に該当しない限り複製が自由なのは、著作権法の基本理念からして当然である。もちろん、その複製行為が他の法令や契約に違反するならその規律に従って制限される。
 控訴人は、地図・案内図の制作に多大な費用と労力がかかることを力説するが、そのことと著作権侵害とが直接関係するわけではない。旅行案内書の制作は、可能な限り数多くの資料を収集して分析・検討して行うのが通常であり、著作権侵害に至らない態様であっても、他人の出版物を使用しない義務を負うことなど法律上も契約上もあり得ない。したがって、著作権侵害でない正当な複製等が「適正な商慣習に反する」ことはないし、「社会的信用を著しく損なう」こともない。控訴人は、「契約の合理的解釈及び常識的経験則として」「著作権侵害に当たらない限り、模倣・複製を容認するはずがない」というが、「模倣・複製」とはどのような行為を指しているのか、容認されるはずがないという根拠は何か、全く不明である。
(b) 控訴人は、社団法人日本地図調整業協会倫理規程や測量法に関して縷々述べるが、随所で論理が飛躍しており、それらが本件に適用される根拠が見出せない。被控訴人から控訴人に対して他人の成果物を利用したことの報告義務を生じさせるような合意は、口頭でも書面でも一切されたことはない。
(6) 遅延損害金の起算日の主張に対して
 乙26の1項に、承諾等の記載がないことは明白であり、原判決の認定に誤りはない。
(7) 一般不法行為の主張に対して
 本件で、被控訴人に「ことさら相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情」があるはずがない。
 仮に、OFC空港案内図が法的保護に値する利益の対象となるとしても、本件において、不法行為は成立しない。
 本件空港案内図は、OFC空港案内図のデッドコピーではない。地図の作成に当たり、他社作成の地図を参照することは、社会通念上許容されている行為であり、それによって一部情報が同一となっても、事実を記載するという案内図の性質上当然生じ得ることであって、違法性を有しない。本件空港案内図は、いずれもOFC空港案内図とは全体として異なる情報を掲載し、異なる色分けをしており、OFC空港案内図の法的利益を侵害してない。
 加えて、OFC空港案内図は、利用想定者が旅行業者などであり、個人旅行客ではなく、実際、一般書店では販売されていない。他方で、本件空港案内図は、個人旅行客を対象にしたものであり、旅行ガイドブックとして常備される書籍である。両者は、競合関係に立たず、OFC空港地図の法的保護に値する利益があるとしても、利益は何ら侵害されていない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、争点1(被控訴人と控訴人との間で、控訴人書籍第9版の制作委託契約が締結されたか)については、同契約は、被控訴人と控訴人との間で締結されたものと認定し、争点6(被控訴人と控訴人との間で控訴人書籍の出版に関してOFCに対して支払うべき金員を被控訴人が負担する旨の合意があったか)については、そのような合意があったとは認められないと認定し、争点12(本件基本契約第8条第2項イに基づく支払済み報酬返還請求権の有無)については、控訴人は、そのような請求権を有しないものと認定判断するものであり、その理由は、原判決が、「第4 当裁判所の判断」として、30頁12行ないし31頁17行、58頁14行ないし63頁9行、63頁19行ないし64頁3行において説示するとおり(更正決定後のもの)であるから、これらを引用する。
2 OFCの著作権侵害について
(1) 当裁判所も、争点3(控訴人書籍第9版に掲載された第9版本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているといえるか)については、OFCの著作権を侵害しているとはいえないと判断し、争点7(被控訴人の制作した本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているといえるか)についても、OFCの著作権を侵害しているとはいえないと判断する。その理由は、下記の(2)ないし(5)のとおり付加又は訂正するほかは、原判決が、「第4 当裁判所の判断」として、31頁18行ないし53頁4行、63頁10ないし14行(別紙「空港案内図対比表」を含む。)において説示するとおり(更正決定後のもの)であるから、これらを引用する。
(2) 控訴人は、上記争点3、7は同一であり、原判決が2つに分けた意味が不明であるとし、また、類似性の比較対象も、第9版(乙21の1、22の1、23、24の1)のみでは十分でなく、それ以前に制作され、OFCから著作権侵害の主張がされた案内図(乙8の2、9の2、10の2、11の2)とも対比すべきであるのに、原審は審理判断をしなかった旨主張するので、この点から検討する。
 上記控訴人の主張は、いずれも原判決を正解しないでする非難であり、失当である。すなわち、争点3は、本件報酬支払請求権の対象とされた「第9版本件空港案内図」が、OFCの著作権を侵害するために債務の本旨に従った債務の履行とはいえず、報酬支払請求権が発生しないのではないかという点にある。したがって、「第9版本件空港案内図」がOFCの著作権を侵害するか否かが審理判断の対象とされたものであり、原判決に何ら違法はない。一方、争点7は、上記報酬支払請求権に対する相殺の抗弁において、自働債権として、「本件空港案内図」がOFCの著作権を侵害したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権が存在するかという点にある。したがって、争点7におけるOFCの著作権侵害は、前記「第9版」に限られず、「本件空港案内図」(原判決は、「被告書籍に掲載された空港案内図を、第9版本件空港案内図を含め、「本件空港案内図」と総称する。」と定義付けている。)を対象として審理判断されたものであり、原判決に何ら誤りはない。なお、原判決の争点7についての判断は、原判決の別紙「空港案内図対比表」の中で示されているのであり、そこでは、控訴人が判断対象とすべしと主張する乙8の2、9の2、10の2、11の2、43の2が判断対象として掲げられている。
 以上のとおり、争点3と7は、法的性質を異にするものであり、その審理判断の対象も異なるものであって、この点において、原判決に何ら誤りはない。
(3) 控訴人は、原判決がOFC空港案内図につき、「一応、著作物」とした上、創作性を「限定的な範囲」においてのみ認め得ると判示した点を非難する。
 しかし、創作性が認められるといっても、創作性の程度には、高いものもあれば、辛うじて著作権法上の保護を認め得る程度に低いものもある。そして、創作性は肯定し得るもののその程度が低いものは、創作性が高いものに比べて、著作権法上の保護の範囲も自ずと限界があるものというべきであり、原判決もこれと同旨のことを上記の表現で説示したものと解されるのであって、是認し得るものである。
(4) 争点3について
(a) 争点3においては、被控訴人作成の案内図「第9版」(乙21の1、22の1、23、24の1)を検討対象とすることに誤りがないことは、前判示のとおりである。したがって、控訴人が被控訴人の案内図(乙8の2、9の2、10の2、11の2。なお、乙43の2も含む。)との対比により主張する部分は、争点7において意味のある主張であるので、後に検討する。
 そこで、ここでは、原判決の争点3についての判示に対して控訴人が非難する点を検討する。
(b) 控訴人は、原判決が、一部の表記等の違いや色使いの違いを重視し、些細な点を過大評価しているなどと非難するが、原判決掲記の証拠に照らし、原判決の認定判断は是認し得るものであり、控訴人の主張は採用し得ない。
(c) 控訴人は、原判決45頁のcE中の「遺失物取扱所」についての判示を非難するが、証拠(乙9の1、22の1)によれば、本件空港案内図に記載された「遺失物取扱所」の位置には、OFC空港案内図では、その記載がないのであって、原判決に誤りはない(「IB Domestic Flight Connection Desk Lost & Found Office」との説明的記載はあるが、表現が異なることに違いはない。なお、乙9の1と乙9の2を対比しても同様である。)。確かに、OFC空港案内図にも控訴人主張の「IB遺失物事務所」と記載された部分があるが(乙9の1)、これに対応する位置には、本件空港案内図では「遺失物」という記載が存在しないのであって、両者が異なることは明らかである。なお、より厳密に説示するため、原判決45頁14ないし16行を、「E 本件空港案内図には、ATM、イベリア航空のインフォメーション、遺失物取扱所が掲載されているが、OFC空港案内図のこれらに対応する位置には同様の記載はない。」と改めた上で、引用することとする。
(d) 控訴人は、原判決48頁のc@の判示を非難するが、失当である。確かに、本件空港案内図(乙23)では、1階部分の図を2つ掲載し、2階部分の掲載がないのであり、控訴人主張のとおり、単純な編集ミスと推察されるが、ミスであっても本件空港案内図の表現としては、1階部分の図を2つ掲載して2階部分の掲載が欠落しているというものであることは事実であるので、1階部分と2階部分を掲載したOFC空港案内図の表現とは明らかに異なるというべきであり、原判決の判示に何ら問題はない(表現の類似性を判断する際には、現実にされている表現を対比すべきであって、理由は何であれ、これに修正を加えた上で対比すべきものではない。)。
 控訴人は、原判決48頁のcFの判示も非難するが、OFC空港案内図(乙10の1)に「バルセロナ行きの電車の駅」についての説明が書かれているとしても、本件空港案内図のように「レンフェ乗場」との記載がないことが明らかであって、その記載の情報源が何であるかにかかわらず、両者が上記の表現において相違することに変わりはない。控訴人の主張は失当である。
(e) 控訴人は、原判決51頁のcEの判示について、カフェ、税払戻しの記載は、OFC空港案内図だけでなく、乙11の2の被控訴人案内図にも存在しないと主張するが、前判示のとおり、争点3においては、被控訴人案内図は、乙24の1のものが検討対象となるべきものであって、これによれば原判決の判示は正当である。控訴人の上記主張は、争点3に関するものとしては前提を欠くものである。
(5) 争点7について
(a) 控訴人の主張中には、OFC空港案内図との類似性を比較し判断すべき被控訴人の案内図として、具体的に乙8の2、9の2、10の2、11の2、43の2を挙げて主張する部分がある(前記第2、2(2)の一部と別紙「各空港案内図の類似性に関する控訴人の具体的主張」)が、前判示のとおり、これらの主張は、争点7についての主張であると解すべきものである。
(b) 前判示のとおり、争点7についての原判決の認定判断は、63頁10ないし14行及び原判決別紙「空港案内図対比表」の「当裁判所の判断」欄に記載(更正決定後のもの)のとおりであり、これらについては、原判決掲記の証拠に照らし、是認することができる。ただし、次の説示を付加する。
 すなわち、原判決は、チューリヒ・クローテン空港(乙8の1、2)、マドリッド・バラハス国際空港(乙9の1、2)、バルセロナ・プラット国際空港(乙10の1、2)、ベルリン・テーゲル国際空港(乙11の1、2)の案内図については、争点3についての認定判断部分の判示を引用する形式をとっている。しかし、厳密にいえば、争点3については、「第9版本件空港案内図」(乙21の1、22の1、23、24の1)と「OFC空港案内図」(乙8の1、9の1、10の1、11の1)との対比による検討がされたものであるので、争点7についての検討としては不十分ではないかとの指摘もあり得ないではない。そこで、当審における控訴人の主張にかんがみ(上記指摘と同旨に善解し得る。)、以下、補足して理由を説示しておく。
 まず、控訴人は、前記第2、2(2)のとおり、被控訴人の案内図とOFC空港案内図のほか、他社の案内図をも加えて検討し、前二者の類似性を主張する。しかし、類似性の認定判断は、あくまで類似性が争われているもの同士の類否が判断され、その余の案内図との比較検討はその参考にとどめるべきものであり、各種ある案内図中における相対評価によって結論付けられるべきものではないのであるから、控訴人主張の類否判断の手法は、直ちに採用することができない。
 判断手法の点をおいて控訴人の上記主張の実質を考慮し、また、控訴人が別紙「各空港案内図の類似性に関する控訴人の具体的主張」の1ないし4として主張するところを考慮し、さらに、争点3において検討した被控訴人制作に係る「第9版本件空港案内図」(乙21の1、22の1、23、24の1)とそれ以前に被控訴人によって制作された案内図(乙8の2、9の2、10の2、11の2)との違いにも留意しつつ、乙8の1と2、9の1と2、10の1と2、11の1と2をそれぞれ対比検討しても、控訴人の主張に対しては、争点3について説示したところと同旨のことがいえるのであって(原判決が争点3についての認定判断部分の判示を引用する形式をとったのも、これと同旨をいうものと解される。)、被控訴人が制作した「本件空港案内図」(「第9版本件空港案内図」を含め、控訴人書籍に掲載された空港案内図の総称)は、「OFC空港案内図」に係る複製権を侵害するものとはいえないし、また、前者の表現から後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができず、「OFC空港案内図」に係る翻案権を侵害するものともいえないのであり、結局、著作権侵害があったことを理由とする控訴人の主張は、採用することができない。
 なお、控訴人は、チューリヒ・クローテン空港の案内図に関し、「旅行代理店KUONI」等の表記は当初の図面(乙8の2)には見当たらないというが(もっとも、控訴人が当審で案内図の比較として提出した乙59の1の「2.」には表記が存在する。)、仮に控訴人の主張どおりとして、この点を両案内図の相違点から除外しても、上記認定判断を左右しない。また、バルセロナ・プラット国際空港の案内図について、「本件空港案内図」で1階部分と2階部分も記載されたものを対象に検討しても(乙61の1、2)、上記著作権侵害の認定判断を覆すべきものとはいえない。同空港案内図に関し、控訴人は、「カフェ」の表記は当初の図面(乙10の2)にはないというが、控訴人の主張どおりとして、「カフェ」の表記の点を両案内図の相違点から除外しても、上記認定判断を左右しない。さらに、控訴人は、ベルリン・テーゲル国際空港の案内図に関し、「カフェ」、「税払戻し」の表記は当初の図面(乙11の2)にはないというが(もっとも、控訴人が当審で案内図の比較として提出した乙62の1の「2.」には「税払戻し」の表記が存在する。)、仮に控訴人の主張どおりとして、この点を両案内図の相違点から除外しても、上記認定判断を左右しない。
 なお、上記四空港の案内図のほか、控訴人は、当審において、インドネシア・ジャカルタ空港についても詳細な主張をした(別紙「各空港案内図の類似性に関する控訴人の具体的主張」の5)。しかし、この点については、原判決がその別紙「空港案内図対比表」中の「ジャカルタ・スカルノ・ハッタ国際空港」の「当裁判所の判断欄」において説示したとおりであり、この認定判断は、証拠(乙43の1ないし3)に照らして是認し得るものであり、著作権侵害をいう控訴人の主張は、採用することができない。
3 争点4及び争点8について
(1) 控訴人は、まず、原判決の主張整理及び理由説示における記載の不一致があると非難する。確かに、原判決においては、「他人の出版物」について、「利用」「複製・模倣」「使用」というように、必ずしも統一のとれた判示とはなっていない。しかし、弁論の全趣旨によれば、控訴人自身が原審において統一のとれた主張をしておらず、しかも、これらの主張内容が証拠(乙6)上の表現とも厳密に合致していなかったことに主な原因があると認められる。
 いずれにしても、控訴人は、当審において、被控訴人には「他人の出版物を模倣・複製しない義務」があると主張する(さらに、控訴人は、「控訴人が他社の成果物を著作権侵害と疑義を受ける程度に複製・模倣して出版することは、…社会的信用を著しく損なうもの…」とも主張しており、被控訴人に対し、「著作権侵害との疑義を受ける程度に他人の出版物を模倣・複製しない義務」をも主張するものと解される。)。以下、この主張を前提に判断する。
(2) 上記義務が書籍の制作委託契約上当然に生じる一般的義務であるとする控訴人の主張については、当裁判所も採用し得ないものと判断する。その理由は、原判決53頁10ないし14行のとおりであるので、これを引用する(ただし、「使用しない義務」とあるのを「模倣・複製しない義務」と訂正する。)。
(3) そこで、本件制作委託契約における合意内容に照らし、被控訴人に上記のような義務があることを肯認することができるか否かについて、検討する。
(a) 本件制作委託契約にまつわる事情としては、原判決が53頁17行ないし56頁1行までに認定するとおりであるから、これを引用する。なお、便宜として、引用にかかる原判決の該当部分をそのまま以下に掲げる。
(原判決の認定内容)
 「ア証拠(甲1の1ないし9、2の2ないし10、10、乙4、5、6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、一般旅行者向けガイドブックである「個人旅行」をシリーズ化して出版することを企画した(被告書籍)。
(イ) 被告は、K&Bとの間で、平成6年ころ、被告書籍について、K&Bが被告書籍の企画・構成・デザイン等編集に関連する一切の業務を行い、被告がこれに対して報酬を支払う旨の制作委託契約(本件基本契約)を締結した。
 K&Bは、本件基本契約に基づいて、本件空港案内図を作成、掲載して被告書籍を制作、納品し、被告は、遅くとも平成8年ころから、被告書籍を販売した。
(ウ) 被告とK&Bは、平成9年3月28日、本件基本契約等において、被告がK&Bに対して支払うべき報酬額について覚書きを作成した(乙4)。当該覚書きには、被告書籍の再版について「取材は2年目から原則として毎年行い(3年目から反映)、年額とする」旨の記載がある。
(エ) 被告とK&Bは、平成10年9月1日付で、被告書籍のうちハワイ、グアム、サイパン等42タイトルについて、制作委託に関する契約書を作成した(乙5)。
 同契約書には、K&Bの債務の内容として、初版については、「取材、企画・編集」等の記載がなされ、再版・改訂版制作については、「被告は、本書の再版・改訂版の企画・構成・デザイン・編集等、編集制作に関連する一切の業務をK&Bに委託する」旨の記載がなされた。上記初版の「取材」については、注意書きとして、「交通費、宿泊費、資料代、入場料など必要経費を含む。また、K&Bは、取材したデータの名称、所在地等別途様式に基づいたチェックをし、その時点において最新かつ正確な物件リストを作成、また被告の指示した地図へのプロット作業を施すものとする。」旨の記載がなされた(乙5)。
(オ) 被告は、従来、K&Bに委託していた被告書籍の制作を、その後、K&Bの関連会社である原告に委託することとし、平成13年4月20日、原告に対し、被告書籍第9版のうちバリ島、オーストラリア、ニュージーランド等9タイトルについて、報酬863万1000円で企画・編集を発注した(甲1の1ないし9)。原告は、K&Bに対し、被告書籍第9版の制作を委託した。
(カ) 被告は、同年6月ころ、OFCから、OFC書籍に掲載されているOFC空港案内図に極めて類似しているとの指摘を受けた。
(キ) K&Bは、原告の下請として被告書籍の制作を行なっていたが、K&Bと被告の関係は円満ではなかった。Dは、平成14年ころ、被告書籍の制作業務を継続し難いと考え、原告、被告と話合い、同年限りで被告書籍に関する契約を終了させたいと考えるようになった(甲10)。
(ク) 原告、K&B及び被告は、平成14年9月30日、被告書籍、まっぷるマガジン等の被告出版物に関し、次のとおり合意書を作成した(乙6)。
a 被告の原告及びK&Bへの今後の発注内容は次のとおりとする。
@ 被告書籍平成15年ないし平成16年版「ハワイ・韓国・サイパン等」26点の再版
A マガジン国内版平成15ないし平成16年版「伊豆箱根・金沢」2点
b 原告及びK&Bは、被告出版物の再版等の制作にあたって、他人の著作物の著作権を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使用したりしないものとする。
c 既に制作した商品及び上記の今後制作する商品について、マガジンの販売期限を次年度版出版までとし、被告書籍は、平成15年4月以降は増刷せず、平成16年4月以降休刊していく。
d 被告は、今後、被告書籍及び海外マガジンに使用された写真及び記事を使用しない。被告は、今後、国内マガジンに使用された写真及び記事を使用する場合は、原告に対し、1巻につき150万円を支払う。原告及びK&Bは、被告出版物に使用した写真を他社の出版物に記載ないし転用しない。
e 原告及びK&Bは、OFC著作権侵害問題の解決につき、被告の求めに応じて必要な協力を行う。
(ケ) 原告は、平成15年3月31日、被告に対し、前記(オ)記載の被告書籍第9版を完成させて納品し(甲2の2ないし10)、被告は、被告書籍第9版を出版した。」
(b) 以上の事実関係に立って検討するに、控訴人とK&Bとの合意内容は、被控訴人に引き継がれているものと認められるところ、少なくとも初版については、被控訴人が現地取材を行い、その後も原則として取材を行って、本件委託に係る制作を行うことが合意されたものと認められる。そして、OFCから控訴人書籍について著作権に関する問題が指摘された後に作成された合意書(乙6)ではあるが、被控訴人は、「他の著作物の著作権を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使用したりすることをしない」との合意がされたことも認められる。
 もっとも、旅行案内書の制作は、可能な限り数多くの資料を収集して分析・検討して行うのが通常であり(乙52、弁論の全趣旨)、かつ、そのような分析・検討を行うことは、質の高いものを制作するために、社会的にみても有効適切な手段であり、望ましくもあるのであるから、上記のような事情があるからといって、直ちに、本件制作委託契約の合意内容としても、他人の出版物を利用ないし使用したり模倣・複製する行為が、程度のいかんを問わず一切禁止されるというほどの合意が成立していたものと推認することは合理的ではない。
 他方、旅行案内書の制作・発行の業務を含む出版業界においては、著作権の保護の問題は、業務の根幹に係わる問題であり、最終的に司法手続によって著作権侵害であるとの確定判断がされる事態に至らなくとも、他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を引き起こすこと自体、著作権を扱う業務であるだけに、出版業者としての信用が傷つくであろうことは容易に推察されるところであって、この業界に身を置く者としては、そのような事態を含めて、著作権紛争を未然に防止ないし回避しようとするのが合理的な行動であると認められる(乙51、52、56、弁論の全趣旨)。
 このような事情をふまえて、前記認定事実を検討するならば、確かに、現地取材を行うとの約定自体は、直ちに他社の案内図を参照することを禁ずることを意味するものではないが、現地取材を行うことにより、他社の案内図とは自ずと異なったものが制作されることが期待され、これによって、他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を回避し得る可能性が高まるのであって、現地取材の約定は、上記のような事態を回避しようという趣旨の一つの現れであると理解し得る(A社が独自の現地取材によって知り得た有用性の高い詳細情報を盛り込んだ案内図について、B社がこれを参照して当該詳細情報に基づいた案内図を制作したとすると、結果的に本件のように著作権侵害が成立しない場合であっても、著作権侵害の成否を巡ってAB間に紛議が生じ得る事態は回避し難いが、B社が独自の現地取材によってこれを調査確認して敷衍すれば、そのような事態の多くは回避することができるであろう。)。また、合意書(乙6)における「他の著作物の著作権を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使用したりすることをしない」との合意も、OFCとの紛争が生じた後の合意であり、かつ、他の著作物の掲載情報の一切の使用を禁じる合意が成立したというには、前記実情等に照らして無理があるとしても、そのような文言により、他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を回避しようという趣旨のものとして、従前からの認識が確認されたものと理解するのが相当である。
(c) 以上の諸事情を総合勘案するならば、本件制作委託契約には、被控訴人において、著作権侵害に至らない態様であっても、相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害との疑義を受けるような態様で、他人の出版物を模倣・複製しない旨の付随的な債務があったものというべきである。
(4) 進んで、被控訴人に上記の債務不履行があったか否かを検討する。
 既に掲げた本件空港案内図及びOFC空港案内図の内容を示す各証拠、乙51、52及び弁論の全趣旨に照らせば、被控訴人(現実の担当はK&Bの担当者)がOFC空港案内図に依拠して本件空港案内図を制作したことは明白というべきであり、しかも、既に認定したとおり、両者が共通する部分が多数に上るのであって(原判決の第4、2(2)ウのうち、(ア)〜(エ)の各b の部分等)、著作権侵害の成否を左右する創作性の有無は判断者によって微妙に異なることも少なくないことを考えると、結果的に著作権侵害は否定されるべきものではあるが、OFCから控訴人に対する著作権侵害の指摘は、相当程度に合理的な根拠に基づいてなされたものといわざるを得ず、これに対してとった控訴人の措置及びその結果がすべて控訴人の自己責任に帰するものということはできない。
 そうすると、被控訴人は、上記の本件制作委託契約に伴う付随的な債務に違反したものというべきであって、被控訴人は、控訴人に対し、債務不履行に基づき、相当な損害を賠償すべき債務がある。
(5) そこで、相当な損害額について検討するに、本件は、結局、著作権侵害はないものと判断される事案であり、被控訴人の債務不履行は、前判示のようなものであったといえる。したがって、被控訴人の債務不履行と因果関係のある損害とは、控訴人がOFCとの紛争解決の手続に要した費用の限度であるというべきである(控訴人が早期かつ円滑な紛争解決のために自らの判断に基づき著作権侵害を前提としてOFCに支払った金員は控訴人が負担すべきものである。)。そして、その費用相当額は、OFCへの現実の支払額が750万円であったこと、本件制作委託契約に基づくそもそもの報酬は863万1000円であったこと、被控訴人が本件空港案内図の制作に当たって基本的にOFC空港案内図に依拠したと推測可能な上記共通部分の数及び内容など、諸般の事情を勘案すると、前記報酬の約15パーセントに相当する130万円をもって相当な損害であると認めることができる。
 よって、控訴人の相殺の主張は、130万円の限度において理由があるものというべきである(なお、相殺の意思表示は、平成15年10月15日付けの書面でされた(甲3)。また、原判決を引用した部分に記載されているとおり、被控訴人による控訴人書籍第9版の納品日が同年3月31日、本件制作委託契約の報酬支払期日の翌日が同年5月1日である。)。
4 争点13について
 控訴人は、さらに、不法行為に基づく損害賠償請求権による相殺の主張をするが、前記3で検討した内容と実質的に同じであり(本件制作委託契約に基づく付随的債務と同様な債務は、特別な約定がされなくとも、事案によっては肯認することができるものである可能性があり、さらに、契約関係を別にしても、一定の取引関係にある当事者間においても、事案によっては信義則上の観点から、不法行為の注意義務として肯認することができる場合もあり得ないではない。)、不法行為責任が成立することも考えられないでもない。しかしながら、仮に不法行為責任を肯定し得たとしても、その相当損害の範囲及び額は、前記3で認めた130万円を超えるものとは認められない。
 よって、争点13の控訴人の主張は採用することができない。
5 結論
 以上によれば、本訴における被控訴人の請求は、620万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるものというべきであり、原判決のうち、これを超えて支払いを命じた部分は、是認し得ない。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 清水知恵子
 裁判官 田中昌利は、退官につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 塚原朋一


別紙「各空港案内図の類似性に関する控訴人の具体的主張」

1 スイス・クローテン空港についての類似性の詳細な検討
(1) 比較対照する図面
 OFC空港案内図については「エアポートインデックス’96」(乙7)掲記のもの(乙8の1)、控訴人書籍空港案内図については「個人旅行スイス1998 年8月初版」掲記のもの(乙8の2)を比較対照すべきである。原判決が「第9版」と指摘する「個人旅行スイス2003 年4月1版」(乙21の1)のみと比較しても意味がない。
(2) 乙8の1における創作的部分
<1> 巨大な空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断と表現について
 乙59の1を見れば、ゲート部分を省略せず全体を記載するもの(3、4、5、6、8)が主流であり、また、駐車場建物部分まで記載するものも多い(3、4、5、8)。
 これに対して、OFC空港案内図は、必要部分をばっさりと切り取っており、しかも創作当時、この空港について、そのような表記をした案内図は他になかった。この点に創作的表現がある。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 そもそも空港建物の形状及び輪郭の表現は、単に客観的事実を忠実に再現すれば足りるものではない。
 また、表現方法も、乙59の1を見れば、立体的に表現しているもの(3、4、5、7、8)、その中でもほぼ正面に配置しているもの(7)と左斜めに配置しているもの(それ以外)に分かれる。さらに、階層を重ねて表現しているもの(4、5)と分離して配置しているもの(3、6、7、8)とがある。
 OFCは、公表されていない建物内部につき、担当者が現地で歩測した結果をデザイン化したのであって、上下左右の縮尺は必ずしも一致しない。
 乙52によれば、手荷物受取所のターンテーブルや税関ブースの作図によって、混雑加減や通路の広狭を表現している。これらの輪郭及び間仕切り等の内部形状のデザインそのものが創作的部分である。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について控訴人は、個々の取捨選択、表記や配置、それらの全体的結果が創作的部分であり、その上での後記類似性判断となると考えている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 この点も同様である。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 結局のところ、案内図の創作性及び類似性判断において、総合的なデザインや全体的見やすさという視点は必要不可欠であり、そこにこそ創作的部分がある。図面全体を無視して個々的な差異のみを言い募るのは、「木を見て森を見ず」の悪しき例である。
 結局のところ、乙8の1と乙8の2は、似ているといえるかどうか、似ているといえるのであれば、それは「生の事実評価としての類似」というレベルを超えて、やはり創作的部分における類似、本質的特徴を感得させるといえるのである。
(3) 乙8の2における類似性の検討
<1> 巨大な空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断について、乙8の2は、乙8の1と全く同じ判断と表現をしている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について、乙8の2は、乙8の1と全く同じ判断をしている。
 しかも、その表現の程度は、先行著作物をそのままトレース(敷き写し)するか、画像として取り込む以外には作成できないほど一致している(乙8の3)。
 「参考」にするというレベルではなく、「複製・模倣」というレベルであり、それは法律上も契約上も問題・違法であると控訴人は主張している。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について試みに、各階層部分別に具体的な掲載情報を詳細に比較してみる。なお、上記(2)の<2>及び<4>の視点も記載する。
ア ターミナルB3階出発部分
・ 輪郭及び間仕切り等の内部形状まで一致する。
OFCが独自にデザインしたチェックインカウンターの数まで一致する。
・ 掲載情報の取捨選択
 乙8の1の掲載情報:(左側から)電話、トイレ、ショップ、バー、コインロッカー、両替、免税手続所、出国審査、警察、キオスク、トイレ、レストラン。
 乙8の2の掲載情報:(左側から)電話、トイレ、ショップ、バー、両替、免税手続所、出国審査、警察、キオスク、トイレ、レストラン。(コインロッカーの表示がない点以外すべて一致し、キオスクの下にショップマークを追加している)
・ 矢印の数と位置
 乙8の1:4カ所。
 乙8の2:全く同じ位置、コインロッカー表記部分に1本追加。
イ ターミナルB2階乗り継ぎ及びターミナルA部分
・ 極めて複雑に入り組んだ輪郭及び間仕切り等の内部形状はほぼ一致する。乙8の2は、上方ゲート接続部分を一部削除しているが、乙8の2には情報の記載がなく、記載する必要がない内部間仕切りまで一致している。
・ 掲載情報の取捨選択
 乙8の1の掲載情報:(左上から)実際は1階にある出発バスゲート、トイレ、セキュリティーチェック、ショップ、入国審査、乗り継ぎカウンター、Fクラスラウンジ*、育児室*、出発乗継ぎロビー*、トイレ、薬局、ショップ、両替、コーヒー、新聞スタンド*、カンファレンスセンタ*、空港駅/駐車場Bへ、トイレ*、バー、レストラン、(ターミナルAへ)ショップ、出国審査、免税手続き所、乗り継ぎカウンター、バー、レストラン、薬屋、ショップ、両替、チェックインカウンター、新聞スタンド*、ショップ、ショップ、チェックインカウンター、グループチェックイン。
 乙8の2の掲載情報:(左上から)バスゲート、トイレ、セキュリティチェック、ショップ、入国審査、乗り継ぎカウンター、トイレ、薬局、ショップ、両替、コーヒー、空港駅/駐車場Bへ、バー、レストラン、(ターミナルAへ)ショップ、出国審査、免税手続き所、乗り継ぎカウンター、バー、レストラン、薬局、ショップ、両替、チェックインカウンター、ショップ、ショップ、チェックインカウンター、チェックインカウンター(団体)、駐車場Aへ。
 (*部分の表記がない点以外一致し、乙8の2だけの追加掲載情報は「駐車場Aへ」という表記のみである。)
・ 矢印の数と位置
 乙8の1:到着・出発別に17カ所。
 乙8の2:ほぼ同じ位置に13カ所。
ウ ターミナルB1階到着及びターミナルA部分
・ 輪郭及び間仕切り等の内部形状まで一致し、OFCが独自にデザインしたチェックインカウンターの数まで一致する。
 内部間仕切りも一致するが、乙8の1で判明していない内部部分につき、乙8の2が新たに付け加える情報は一切ない。
 なお、原判決は、相違部分として、「敷地内道路のうちターミナル部分1階に隣接されている部分を、ターミナルA及びBの1階部分の図面の中に記載している」点をあげている(41頁c@)。この点が、創作的部分における相違なのか不明であるが、ターミナルが道路部分に隣接していることは空港全体図を見れば明らかではある。
・ 掲載情報の取捨選択
 乙8の1の掲載情報:(左側から)手荷物受取所、バー、コインロッカー*、トイレ、両替、税関、ニュースエージェント*、ミートポイント*、タクシー乗場、遺失物取扱所、インフォメーション、電話、手荷物一時預り、新聞スタンド*、トイレ、(ターミナルAへ)ホテルバス乗り場、タクシー乗場、インフォメーション、ホテル予約、トイレ、警察*、バー*、トイレ、トイレ*、ショップ、ショップ*、郵便局、両替、郵便局、ショップ、出国審査、手荷物受取所、税関、電話、トイレ、ショップ、花*、電話、遺失物取扱、両替、インフォメーション、トイレ、医務室、ミートポイント*、コインロッカー*、手荷物一時預り
 乙8の2の掲載情報:(左側から)手荷物受取所、バー、トイレ、両替、税関、タクシー乗場、インフォメーション、遺失物取扱所、電話、手荷物預かり所、トイレ、(ターミナルAへ)ホテルバス乗り場、タクシー乗場、インフォメーション、ホテル予約、トイレ、トイレ、ショップ、郵便局、両替、郵便局、ショップ、入国審査、手荷物受取所、税関、電話、トイレ、ショップ、電話、遺失物取扱所、両替、インフォメーション、トイレ、医務室、手荷物預かり所
 (*部分の表記がない点以外一致し、乙8の2だけの掲載情報はなし。なお、主な*は、コインロッカー、新聞スタンド、花、ミートポイントであり、乙8の2作成者の一定の判断により削除されたものと思われる。)
・ 矢印の数と位置
 乙8の1:到着用9カ所。
 乙8の2:ほぼ同じ位置に8カ所。向きや矢印の曲げ方もほぼ一致する。
エ 掲載情報の一致の程度
 乙8の1には、上記合計93の掲載情報がある。乙8の2には、このうち74の掲載情報が重複しており、逆に乙8の2のみの掲載情報は1カ所にすぎない。
 すなわち、乙8の1掲載情報の79・6%が乙8の2に掲載されており、逆に乙8の2掲載情報の98・7%は乙8の1と同一情報ということになる。取捨選択の結果が、これほど一致することは偶然にはあり得ない。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 <3>で指摘したとおり、ほぼ同じ位置に矢印が配置され、乙8の2には不要な部分を含め、同じように色分けで表現されている。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 以上の点を総合し、案内図全体を比較した場合(乙8の3、乙59の1)、2つの図面の類似性は一見して明らかである。案内図の場合、全体の見た目は重要な創作的部分であり、その見やすさの表現に創作性がある。
(4) 原判決の摘示への反論
 c@で、被控訴人作成の空港案内図は敷地内道路のうちターミナル隣接部分を図面の中に記載した点を差異として取り上げている。これは創作的部分における相違なのか不明であるが、空港全体図(乙8の1左ページ)を見ればターミナルが道路部分に隣接していることは明示されており、決定的な相違点とはいえない。
 cAで、各階の配置の順番が違うことを指摘している。図面自体を引き写したことを隠蔽することも配置替えの大きな理由であると控訴人は推測している。また、個々の図面が一致している以上、その配列の変更が決定的な相違点となるものではない。
 cBで、右斜めの方向から表示したことを指摘するが、原判決は、そもそも比較対照する図面を取り違えているのであって、この部分は全く説得的でない。
 cCDで、色使いの違いを指摘するが、何色を使うかということは本質的・創作的部分であるはずもなく、意味を持たない。モノクロ化して比較(乙59の2)すると、2つの図面の色分けそのものが一致していることがわかる。
 cEで、文字情報について、被控訴人案内図が英語併記をしていないこと、文字の大きさが違うことを指摘する。この程度の文字の大きさの違いは法的意味を持つのであろうか。
 英語併記をしていない点は差異であるが、併記していないからと言って、被控訴人の模倣
・ 類似が適法になるわけではない。
 cFで、掲載情報の差異について、被控訴人掲載情報の98・7%が、OFC空港案内図の掲載情報に依拠しているのであるから、わずかな差異のみを重視するのは誤りである。
 cGも同様である。「旅行代理店KUONI」等の表記は、当初の図面(乙8の2)には見当たらないものであり、その後の追加記載情報である。しかし、そのことが当初の図面の類似性を否定する理由となることはない。
 以上のとおり、原判決摘示の差異は、いずれも類似性を否定し得る差異ではなく意味を持たないもの、あるいは、事実関係を誤認した無意味な比較であり、全く説得力を有さないものであることは明らかである。

2 スペイン・マドリッド・バラハス国際空港についての類似性の詳細な検討
(1) 比較対照する図面
 OFC空港案内図は「エアポートインデックス’96」(乙7)記載のもの(乙9の1)、控訴人書籍空港案内図は「個人旅行スペイン1997 年3月初版」記載のもの(乙9の2)を比較対照すべきである。
 原判決が「第9版」と指摘する「個人旅行スペイン2003 年4月1版」(乙22の1)のみと比較しても意味がない。
(2) 乙9の1における創作的部分
<1> 横長の空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断と表現について
 乙60の1を見れば、横に長い建物全体を記載するもの(3、4)と必要部分を切り取るものとに判断が分かれている(1、2、5)。ただし、5の実業之日本社版は、どの部分かよく分からない。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について空港建物の形状及び輪郭の表現は、客観的事実を忠実に再現すれば足りるものではない。乙60の1の表現方法も、立体的に表現しているもの(3、4)と平面的に表現するもの(1、2、5)とに分かれる。
 OFCの空港案内図は、中心的部分の縮尺を変えて、幅広に表現する(乙63添付資料2)ことにより、必要情報を盛り込み易くし、ターンテーブルや税関ブースの形状を含め、輪郭及び間仕切り等の内部形状をデザインしている。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 控訴人は、個々の取捨選択、表記や配置、それらの全体的結果が創作的部分であり、その上での後記類似性判断となると考えている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて、この点も同様である。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 結局のところ、案内図の創作性及び類似性判断において、総合的なデザインや全体的見やすさという視点は必要不可欠であり、そこに創作性がある。
(3) 乙9の2における類似性の検討
<1> 巨大な空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断について、乙9の2は、乙9の1と全く同じ判断と表現をしている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について、乙9の2は、乙9の1とほぼ同じ判断をしている。
 しかも、その表現の違いは、先行著作物をそのまま取り込んだ上で、台形状の搭乗ゲートの角の凹みや通路入口部を消した程度にすぎない(乙9の3)。
 他方、作成者が独自の判断をしたのであれば、乙60の1の5図のように、形状や輪郭は全く変わるはずである
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 輪郭及び間仕切り等の内部形状はほぼ一致している。
 掲載情報の取捨選択について、乙9の2の基本的な掲載情報は、依拠した乙9の1と重なっている。
 ただし、乙9の2では、インフォメーションの種類及びチェックインカウンターの航空会社等において、乙9の1以外の依拠素材があるようにもうかがわれる。しかし、いくつかの素材に依拠して、それらを混ぜ合わせれば違法性が全くなくなるというものではない。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 両者の基本的な色分けは一致するが、乙9の2は矢印を記載していない。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
以上の点を総合し、案内図全体を比較した場合(乙9の3、乙60の1)、建物の切り
 取り方や輪郭などの形状が一致しており、2つの図面は類似していると評価できる。
(4) 原判決の摘示への反論
 c@で、右斜め上の方向から表示したことを指摘するが、これは、著作権侵害というOFCの指摘を回避するために、被控訴人が2003 年版から変形したものにすぎない。そもそも原判決は比較対照する図面を取り違えているのであって、この部分は全く説得的でない。
 cABで、色使いの違いを指摘するが、何色を使うかということは本質的・創作的部分であるはずもなく、意味を持たない。モノクロ化して比較(乙60の2)すると、2つの図面の色分けがほぼ一致していることがわかる。
 cCで、文字情報について、被控訴人案内図が英語併記をしていないこと、文字の大きさが違うことを指摘する。文字の大きさの違いに法的意味はないし、英語併記をしていない点の差異についても、被控訴人の模倣・類似が適法になるわけではない。
 cDで、掲載情報の差異について、乙9の2の基本的な掲載情報は、乙9の1に依拠しているのであって、乙9の1掲載情報のすべてが、乙9の2に掲載されている必要性はない。
 cEで、乙9の2には「ATM、イベリア航空のインフォメーション、遺失物取扱所が掲載されているが」、乙9の1には掲載されていないと指摘する。しかし、乙9の1の当該箇所にはそれぞれ「両替所/銀行、IB(=イベリア航空)遺失物事務所、Lost & FoundOffice(=遺失物取扱所)」と明記しているのであって、原判決指摘は失当である。
 cFで、乙9の2に矢印が記載されていないのは、指摘のとおりである。
 以上のとおり、原判決摘示の差異は、事実関係の誤認に基づくもの、または、類似性を否定するほど決定的でないものである。

3 スペイン・バルセロナ・プラット国際空港についての類似性の詳細な検討
(1) 比較対照する図面
 OFC空港案内図は「エアポートインデックス’96」(乙7)記載のもの(乙10の1)、控訴人書籍空港案内図は「個人旅行スペイン1997 年3月初版」記載のもの(乙10の2)を比較対照すべきである。
 原判決が「第9版」と指摘する「個人旅行スペイン2003年4月1版」(乙23)のみと比較しても意味がない。しかも、乙23は、左右ページの図面が同一となる重大な編集ミスがある。
(2) 乙10の1における創作的部分
<1> 横長の空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断と表現について
 乙61の1を見れば、横に長い2階建てのターミナル全体の細部まで記載するもの(3)、両端の部分を削ったり簡略化したもの(1、2、5、6)、部分的に記載するもの(4)とに判断が分かれている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 空港建物の形状及び輪郭の表現は、単に客観的事実を忠実に再現すれば足りるものではない。乙61の1の表現方法も、立体的に表現しているもの(3、5、6)と平面的に表現するもの(1、2、4)とに分かれる。
 OFCの空港案内図は、細長い通路部分を、実際の歩きやすさに合わせて幅広にデフォルメしてデザイン表現している点で、他社の図面に比して際立った特徴的表現がある。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 控訴人は、個々の取捨選択、表記や配置、それらの全体的結果が創作的部分であり、その上での後記類似性判断となると考えている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて、この点も同様である。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 結局のところ、案内図の創作性及び類似性判断において、総合的なデザインや全体的見やすさという視点は必要不可欠であり、そこに創作性がある。
(3) 乙10の2における類似性の検討
<1> 巨大な空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断について、乙10の2は、乙10の1と全く同じ判断と表現をしている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 乙10の2は、乙10の1をそのままコピーしたとしか思えないほど全く同一である(乙10の3)。
 特に、前記の通路幅を広げた部分、各ゲート2階のモミの木状のギザギザ表現、左側ターミナルC下部の壁の丸みまで完全に一致している。
 乙61の1の他の図面には、これほど一致しているものはない。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 輪郭及び間仕切り等の内部形状は、ゲート1階部の矢印的なデザインや通路内の動く歩道の形状まで、コピーしたとしか考えられないほど一致している。
 掲載情報について、乙10の2に掲載されている情報は、両替所の隣に「ATM」の表記がある点以外、すべて依拠した乙10の1に掲載された情報と重なっている。輪郭や内部形状等の線部までトレース(敷き写す)するなど、全面的に依拠している以上、掲載情報が重なるのは当然である。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 乙10の2には3カ所矢印が配置されているが、2つは乙10の1のとおり、残りの1つは乙10の1に「電車の駅はこの連絡橋で」と言語説明がなされている箇所である。
 建物内部の色分けの仕方は、両者完全に一致する。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 以上の点を総合し、案内図全体を比較した場合(乙10の3、乙61の1)、建物輪郭等のデフォルメ表現、掲載情報その他の点で、2つの図面は実質的にほぼデッドコピーと評価できるほど類似している。乙10の2は、乙10の1に依拠・模倣した点を除いてしまうと、全く成り立たず、特に付け加えた情報もない。
(4) 原判決の摘示への反論
 c@で、被控訴人案内図は「1階部分のみを掲載している」と指摘するが、前記のとおり、これは左右の図面が同一となる被控訴人による重大な編集ミスであって、2つの図面の類似性とは全く別の問題である。
 cAで、右斜め上の方向から表示したことを指摘するが、これは、著作権侵害というOFCの指摘を回避するために、被控訴人が2003 年版から変形したものにすぎない(乙18参照)。そもそも原判決は比較対照する図面を取り違えている。
 cBCで、原判決は、色使いの違いを指摘するが、何色を使うかということは本質的・創作的部分であるはずもなく、意味を持たない。モノクロ化(乙61の2)及び乙10の3で細部を比較すると、2つの図面の色の分け方がほとんど一致していることがわかる。
 cDで、文字情報について、被控訴人案内図が英語併記をしていないこと、文字の大きさが違うことを指摘する。文字の大きさの違いに法的意味はないし、英語併記をしていない点の差異についても、被控訴人の模倣・類似が適法になるわけではない。
 cEで、掲載情報の差異について、乙10の2の掲載情報は、すべて乙10の1に依拠している。
 cFで、乙23には「カフェ、ATM、レンフェ乗場、各インフォメーションの種類が掲載されているが」、乙10の1の1階部分には掲載されていないと指摘する。このうち、最初の乙10の2の段階では「カフェ」の表記はない。後に、OFC案内図の改訂版、その他の図面等により追記した情報であると思われる。「ATM」については、乙10の1でも「両替所/銀行」の表記がある。「レンフェ乗場」についても、乙10の1図面上に「バルセロナ行きの電車の駅はこの連絡橋(2階)で。」との文字説明がある。レンフェとはスペインの国鉄の呼び名である(乙10の1)。空港インフォメーションか観光インフォメーションかの種類につき、乙10の1には区別がないが、それぞれインフォメーション表示はあるので、特筆すべき差異ではない。
 cG、矢印の違いについては、前述した。
 以上のとおり、原判決摘示は、事実関係の誤認に基づくもの、又は、ほとんど意味を有さない差異にすぎない。

4 ベルリン・テーゲル国際空港についての類似性の詳細な検討
(1) 比較対照する図面
 OFC空港案内図は「エアポートインデックス’96」(乙7)記載のもの(乙11の1)、控訴人書籍空港案内図は「個人旅行ドイツ1997 年4月初版」記載のもの(乙11の2)を比較対照すべきである。
 原判決が「第9版」と指摘する「個人旅行スイス2003 年4月1版」(乙24の1)のみと比較しても意味がない。
(2) 乙11の1における創作的部分
<1> 六角形状の空港ターミナルとそれに附属する部分のどこを切り取って案内図として提供する必要があるかの判断と表現について
 この空港は、電車の駅建物と接続しており、乙62の1を見れば、空港オフォシャルの図面(3)は、それら接続部分を含めた広範囲を表記している。これに対し、図面1と2は、六角形と亀甲状の部分のみを表現している。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 オフィシャル図面(3)は、細部まで詳細に表現するが、OFCの図面は、各ゲートの突起を削り、六角形内部の駐車場入路を簡略化するなど、見やすくデザイン的に表現している。乙62の1の図面1と3を見比べれば、どちらがより見やすいかは明らかである。
 なお、図面1と3は建物の南北の向きが少しずれて違っている(向きが違うこと自体が創作的表現だと主張するわけではない)。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 控訴人は、個々の取捨選択、表記や配置、それらの全体的結果が創作的部分であり、その上での後記類似性判断となると考えている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて、この点も同様である。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 結局のところ、案内図の創作性及び類似性判断において、総合的なデザインや全体的見やすさという視点は必要不可欠であり、そこに創作性がある。
(3) 乙11の2における類似性の検討
<1> 空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断について、乙11の2は、乙11の1と全く同じ判断と表現をしている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 乙11の2は、乙11の1をそのままコピーしたとしか思えないほど全く同一である(乙10の3)。
 特に、前記の各ゲートの突起を削り、六角形内部の駐車場入路を簡略化したデザイン的表現、建物の向きなど完全に一致している。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 輪郭及び間仕切り等の内部形状は、壁の凹凸、通路上の什器その他のデザイン的表現を含め、トレース(敷き写し)しなければ作成しようがないほど完全に一致している。
 掲載情報について、乙11の2に掲載されている情報は、すべて依拠した乙11の1に掲載された情報と重なっている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 乙11の2には5カ所の矢印が配置されているが、乙11の1に同様の矢印がある。建物内部の色分けの仕方も、両者完全に一致する。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 以上の点を総合し、案内図全体を比較した場合(乙11の3、乙62の1)、建物輪郭等のデフォルメ表現、掲載情報その他の点で、2つの図面はほぼデッドコピーと評価できるほど類似している。
 少なくとも、乙11の2は、乙11の1に依拠・模倣した点を除いてしまうと、全く成り立たず、特に付け加えた情報もない。
(4) 原判決の摘示への反論
 c@で、右斜め上の方向から表示したことを指摘するが、これは、著作権侵害というOFCの指摘を回避するために、被控訴人が2003 年版から変形したものにすぎない(乙18参照)。そもそも原判決は比較対照する図面を取り違えているのである。
 cABで、色使いの違いを指摘するが、何色を使うかということは本質的・創作的部分であるはずもなく、意味を持たない。モノクロ化(乙62の2)および乙11の3で細部を比較すると、2つの図面の色の分け方がほとんど一致していることがわかる。
 cCで、文字情報について、被控訴人案内図が英語併記をしていないこと、文字の大きさが違うことを指摘する。文字の大きさの違いに法的意味はないし、英語併記をしていない点の差異についても、被控訴人の模倣・類似が適法になるわけではない。
 cDで、掲載情報の差異について、乙11の2の掲載情報は、すべて乙11の1に依拠している。
 cEで、原判決は、乙24の1には「カフェ、税払戻し」、乙11の1には掲載されていないと指摘する。しかし、類似性を判断すべき最初の乙11の2の段階で「カフェ、税払戻し」の表記はない。後に、他の図面等を参考にして追記した情報であると思われる。
 cG、矢印もほぼ一致していることは前述した。
 以上のとおり、原判決摘示は、事実関係の誤認に基づくもの、または、ほとんど意味を有さない差異にすぎない。
 乙11の2は、乙11の1の実質的デッドコピーと言うべきである。

5 インドネシア・ジャカルタ空港についての類似性の詳細な検討
(1) 比較対照する図面
 OFC空港案内図は「エアポートインデックス’96」(乙7)記載のもの(乙43の1)、控訴人書籍空港案内図は「個人旅行インドネシア」(2000 年初版)記載のもの(乙43の2)を比較対照すべきである。
(2) 乙43の1における創作的部分
<1> 空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断と表現について
 この空港は、半円形を描く2つのターミナルに分かれ、それぞれ7つのゲートを持つ3つのコテージ風の建物が中央部から突き出す複雑な構造となっている(空港全図参照)。
 このうち、乙43の1は、ターミナルDおよびEのうち、ゲート部分は省略した通路部分のみを切り取って表現している。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
 半円形の丸みを持たせ、平面的に表現している。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 控訴人は、個々の取捨選択、表記や配置、それらの全体的結果が創作的部分であり、その上での後記類似性判断となると考えている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて、この点も同様である。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 結局のところ、案内図の創作性及び類似性判断において、総合的なデザインや全体的見やすさという視点は必要不可欠であり、そこに創作性がある。
(3) 乙43の2における類似性の検討
<1> 巨大な空港ターミナルのどの部分を切り取って案内図として提供する必要があるかの判断について、乙43の2は、乙43の1と全く同じ判断と表現をしている。
<2> 建物の形状や輪郭をどのように表現するか、どのようにデフォルメしてデザインするか、平面図にするか立体的表現にするかの判断等とその表現について
乙43の2は、乙43の1を模倣したとしか思えないほど同一である。
<3> 日本人利用者の便宜等から、建物内部の各種施設や情報のうちどれを掲載しどれを外すか、表記や配置の判断、その結果としての全体的評価について
 輪郭及び間仕切り等の内部形状は、壁の凹凸、手荷物受取所のカウンターの形状等のデザイン的表現を含め、完全に一致している。
 掲載情報について、乙43の2に掲載されている情報のうち、「マクドナルド」「シルバーバード・タクシー・カウンター」という固有名表記以外、依拠した乙43の1に掲載された情報とほぼ重なっている。
<4> 進行方法の矢印の配置や建物内部を色分けすることを含め、案内図にどのような説明を加えるかについて
 乙43の2の24カ所の矢印については、同様の位置にあるものも多いが、完全なコピーかどうかはわからない。建物内部の色分けの仕方は、ほぼ一致する。
<5> これらの点が1つの案内図として総合的にデザイン表現された全体の見やすさについて
 OFC木村氏陳述書(乙51)5頁によれば、控訴人書籍の旧版図面は、ガルーダ・インドネシア航空発行の空港案内図(同添付資料8)と類似していたが、その後に作成された乙43の2では、OFC空港案内図(乙43の1)に酷似するようになったとのことである。
 以上の諸点を総合し、案内図全体の比較、OFCが指摘する作成経緯を考慮すると、2つの図面は類似していると評価できる。
6 各空港の類似性のまとめ
 以上のとおり、1のスイス・クローテン空港、3のスペイン・バルセロナ・プラット国際空港、4のベルリン・テーゲル国際空港については、輪郭・形状、掲載情報その他の点で、被控訴人がOFC空港案内図に全面的に依拠し、実質的にデッドコピーと言えるほど類似している。
 また、2のスペイン・マドリッド・バラハス国際空港、5のインドネシア・ジャカルタ空港については、OFC案内図以外からの記載情報が一部あるものの、輪郭・形状その他の点で、被控訴人案内図はOFC空港案内図の本質的部分を感得できる程度に類似しているといえる。

以上
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