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【事件名】死刑囚手記事件(2)
【年月日】平成18年2月28日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10110号  損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成16年(ワ)第26420号)
 (平成18年1月26日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 X
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
両名訴訟代理人弁護士 藤田謹也
同 小林豊


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審において拡張した金員支払請求のうち、被控訴人らに対し、連帯して1000万円に対する昭和55年4月20日から平成4年8月30日までの年5分の割合及び物価上昇分の金員の支払を求める部分を棄却する。
3 控訴人が当審において拡張したその余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
4 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らが、平成4年8月ころから、株式会社テレビ朝日と共謀して、控訴人に対し、契約もなく放送や出版等を勝手に、違法、不法、不当に行ったこと、及び、これについて控訴人が被控訴人らに対して請求権を有する地位にあることを確認する。
(3) 被控訴人らが上記(2)の行為を違法、不法、不当に行ったため、現在、控訴人がその被害者という立場(地位)にあることを確認する(当審における拡張請求)。
(4) 被控訴人らが、平成4年8月ころから、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権侵害等パテント侵害を行ったこと、及び、これについて控訴人が被控訴人らに対して請求権を有する地位にあることを確認する。
(5) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して200億円及びこれに対する昭和55年4月20日から支払済みまで年5分の割合及び物価上昇分の金員を支払え(1000万円及びこれに対する平成4年8月31日から支払済みまでの上記付帯金員を超える部分は当審における拡張請求)。
(6) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴人が当審において拡張した請求に係る訴えを却下し、又は同請求を棄却する。
(3) 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 控訴人は、昭和55年3月21日に埼玉県宮代町で発生した強盗殺人、放火事件(以下「本件刑事事件」という。)の被告人として死刑判決を言い渡された者である。
 控訴人は、被控訴人らが、控訴人の著作した小冊子「タイム・リミット魔の時間帯−その1−」(甲2、以下「魔の時間帯」という。)及び控訴人が作成した手紙(甲1の99頁に掲載されたもの。以下「本件手紙」という。)等を引用し、控訴人の顔写真(甲1の79頁に掲載されたもの。以下「本件顔写真」という。)を使用するなどして、本件刑事事件に関するテレビ番組(以下「本件番組」という。)を制作・放送し、本件顔写真、控訴人作成のイラスト(以下「本件イラスト」という。)、本件手紙等を掲載して、同番組に関する書籍(甲1がその抜粋。以下「本件書籍」という。)を制作・出版し、又は、本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供をした行為が、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を侵害するものであるとして、被控訴人らに対し、本件番組及び本件書籍に関係する情報データ等の使用差止め及び廃棄、損害賠償金1000万円及びこれに対する平成4年8月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、並びに、被控訴人らが違法に上記行為を行ったこと等の確認を求めた。
 原判決は、控訴人の上記請求のうち、被控訴人らによる違法行為等の確認を求める部分の訴えについて、過去の事実関係の存否を求める訴えであること及び確認の利益を欠くことを理由に却下し、その余の請求部分については、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等について、控訴人による少なくとも事後的な黙示の承諾があったとして、これを棄却した。
 控訴人は、原判決を不服として本件控訴をするとともに、当審において、請求を拡張し、@損害賠償請求については、請求金額を200億円とし、遅延損害金等の起算日を昭和55年4月20日とし、Aまた、確認請求については、被控訴人らの上記第1の1(2)の行為によって控訴人がその被害者という立場(地位)にあることの確認を求めた。
2 前提となる事実(争いのない事実、末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 昭和55年3月21日、埼玉県宮代町で、強盗殺人、放火事件(本件刑事事件)が発生し、同月31日には、栃木県日光市で強盗事件(以下「本件強盗事件」という。)が発生した。
 控訴人は、同年4月20日、本件強盗事件の被疑者として逮捕され、その後、本件刑事事件について自白したとして、本件刑事事件の被疑者として浦和地方裁判所に起訴された。
 浦和地方裁判所は、昭和60年9月、本件刑事事件について、控訴人に対し、死刑判決を言い渡し、控訴人は、これを不服として控訴した。(甲1)
(2) 控訴人は、本件刑事事件に関して原稿を作成し、平成3年3月30日付けで、Aがこれを小冊子(魔の時間帯)とし、定価800円で発行した。また、控訴人は平成4年8月ころまでに「ほとほと」と題する小説の原稿を作成した。(甲2)
(3) 平成4年7月ころ、株式会社テレビ朝日(以下「テレビ朝日」という。)は、「ザ・スクープ」という名称の番組を放送しており、被控訴人Y2(以下「被控訴人Y2」という。)は、その番組ディレクターであった。被控訴人Y2らは、控訴人の支援者から控訴人は無実である旨の手紙を受け取ったことを契機として、本件刑事事件について取材(以下「本件取材」という。)を開始した。(甲1)
(4) 東京高等裁判所は、同年7月29日、本件刑事事件について、控訴人の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、控訴人は、同日、上告した(甲1)。
(5) 同年9月5日ころ、「ザ・スクープ」において、本件刑事事件を扱った番組(本件番組)が放送された。被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)は、同番組のキャスターを務めた。(甲1、3)
(6) 平成6年ころ、本件番組の取材内容等をまとめた書籍(本件書籍)が出版された。
(7) 控訴人は、平成16年12月10日、本件訴訟を提起し、平成17年8月25日に敗訴判決を受け、これを不服として本件控訴をした。
(8) 控訴人は、控訴手数料及び当審における請求拡張部分に係る訴え提起手数料を納付せず、訴訟救助の申立てを行った。同申立てにつき、平成17年11月9日、控訴人に対し、上記第1の1(5)の金員支払請求中、1000万円の支払を求める部分について訴訟上の救助を付与し、その余の訴訟救助の申立てを却下する旨の決定がされ、同日、控訴人に対し、手数料の不足分3895万5000円を収入印紙をもって納付することを命ずる補正命令がされた。同補正命令は同月12日、控訴人に送達されたが、控訴人は上記手数料の不足分を納付しなかった。
3 争点
(1) 本件確認の訴えの適法性(争点1)
(2) 被控訴人らの本件番組の制作・放送行為若しくは本件書籍の制作・出版行為又は本件番組及び本件書籍の制作のための情報提供をする行為等が、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を侵害し、又は、その他の不法行為に該当するか(争点2)
(3) 控訴人が、被控訴人らに対して、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等を承諾した事実の有無(争点3)
(4) 損害の発生及び額(争点4)
第3 当事者の主張
1 争点1(本件確認の訴えの適法性)について
(1) 控訴人の主張
 控訴人は、本件において、過去の事実関係をまず認定し、そこから被害者としての損害が現在も続いていて、差止請求権等あらゆる請求権を有する地位にあること、並びに、被控訴人らが、平成4年8月ころからテレビ朝日と共謀して、控訴人に対し、契約もなく放送や出版等を勝手に、違法、不法、不当に行ったため、控訴人がその被害者という立場(地位)にあることの確認を求めているのであって、現在の権利ないし法律関係の確認を求めるものにほかならず、過去の権利等の確認を求めているのではない。また、給付請求は原判決において棄却されているので、上記請求権を有することの確認の訴えが給付請求と重複しているとはいえない。
(2) 被控訴人らの主張
 控訴人の確認請求は、過去の事実関係の存否の確認を求めるものか、権利に基づく給付請求と重複して当該権利を有することの確認を求めるものであるから、その訴えは不適法である。
2 争点2(本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をする行為等が、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を侵害し、又はその他の不法行為に該当するか)について
(1) 控訴人の主張
 被控訴人らは、控訴人が著作した「魔の時間帯」、「ほとほと」や控訴人が作成した本件手紙等を引用し、本件顔写真を掲載するなどして、本件刑事事件に関する本件番組を制作・放送し、本件書籍を制作・出版し、又は、本件番組ないし本件書籍の制作者に、控訴人に関する情報等を提供したが、被控訴人らの上記行為は、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を侵害するものである。
 被控訴人らは、控訴人が本件番組及び本件書籍のうち、いかなる部分が、控訴人のいかなる権利を侵害しているのか特定していない旨主張する。しかし、本件番組及び本件書籍における本件顔写真の掲載、本件手紙の引用、文等の1字1句残らず、全部が全部、控訴人の上記権利をすべてにおいて侵害している。
(2) 被控訴人らの主張
 控訴人は、本件番組及び本件書籍のうち、いかなる部分が、控訴人のいかなる権利を侵害しているのか特定していないから、控訴人の主張は失当である。
3 争点3(本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等を控訴人が承諾した事実の有無)について
(1) 被控訴人らの主張
 控訴人は、控訴人の母親、支援者、B弁護士等を通じて本件取材を知り、テレビ朝日に対して、自ら本件イラストを郵送した。
 控訴人の母親及び支援者は、本件番組を見て、非常に喜んでおり、被控訴人らの取材・報道活動、本件番組の放送、本件番組をまとめた本件書籍の内容について不満や苦情を口にすることはなかった。
 本件書籍に掲載された控訴人の本件顔写真は、昭和55年に、新聞報道で公表されたものである。
 控訴人は、本件番組放送後、被控訴人Y2から、本件番組のシナリオ(甲3)の送付を受けたが、被控訴人らの取材活動や本件番組の放送に対する不満や苦情は本件訴訟提起まで一切述べていない。また、控訴人は、平成6年ころ、支援者らの差し入れによって、本件書籍を入手して読んでいたにもかかわらず、その内容やこれが出版されたことについて、本件訴訟提起まで何らの不満も苦情も述べていない。
 これらにかんがみると、控訴人は、被控訴人らに対し、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすることについて、少なくとも事後的に黙示の承諾をしたことが認められる。
(2) 控訴人の主張 
ア 控訴人が、被控訴人らとの間で、本件番組を制作・放送すること、イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすることについて、契約を締結したこともなく(以下、控訴人の主張に従い、肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を「パテント」といい、その侵害を「パテント侵害」、パテントに係る契約を「パテント契約」という。)、それらについて、黙示的ないし事後的に承諾をしたことはない。
 控訴人は、本件番組及び本件書籍として公表するために、被控訴人らに対し、情報提供をしたものではなく、本件刑事事件等を知ってもらおうとして、本件取材に応じ、本件イラストを送付するなどの情報提供をしたのであって、被控訴人らによる転載を許すものではないし、パテント契約を承諾するとの前提で、執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることを承諾したものではない。控訴人が、被控訴人らに対し、取材上、情報提供をすることと、パテント契約に関して、執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとは法的意味が異なっているのであり、被控訴人らは、パテントに関する何らの法的権利も取得するものではない。仮に、控訴人から被控訴人らに対し、何らかの承諾を与えていたとしても、著作権侵害については、被控訴人らの行った本件取材や本件番組の放送及び本件書籍の出版は、控訴人の許諾に係る利用方法及び条件の範囲外の行為であるから、控訴人の本件イラストや本件手紙等に係る著作権を侵害するものである。
イ また、被控訴人らは、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが、本件番組、本件書籍制作のために情報提供をすること等について、控訴人に確認すべきであったのに、それをしていない。
ウ さらに、控訴人は、被控訴人Y1に対して小説「ほとほと」の添削者の紹介を依頼していたため遠慮していた上、本件番組の内容を知らず、だれが、どのように、控訴人のパテント侵害をしているか分からなかったのであるから、本件番組放送後約12年間、本件書籍発行後約10年間、控訴人が抗議しなかったことをもって、事後承諾があったということもできない。
エ そもそも、出版権や放映権に関しては、黙示の承諾ということはあり得ない。著作権等のパテント関係については、民法ではなく、特別法が適用され、出版権や放映権に関しては、必ず契約書を作成しなければならず、著作者による黙示の承諾のみでは足りない。そのように解さないと、契約書がなければ、その契約がいつからいつまで、だれがだれに対しどのように使えるのか全く決定できない。現に、本件において、控訴人は、本件刑事事件の控訴審に勝って釈放されるものと考え、そのときの勝利の放送の準備のために、被控訴人らの放送に協力しようと思い、被控訴人らの放送番組がどのようなものかと推測しているうちに、勝手に放送されてしまったのであり、いまだに、だれが本件番組及び本件書籍を制作したのかを特定することができないでいるのである。
オ 仮に、控訴人と被控訴人らとの間に、パテント契約が存在するとしても、著作権法では、契約書に取決めがない場合には3年で契約が終了するとされているところ、本件において、パテント契約は、現在まで12年を経過しているから、3年を超えた部分については、違法な侵害に当たるというべきである。
4 争点4(損害の発生及び額)について
(1) 控訴人の主張
 控訴人は、被控訴人らの各侵害行為によって、被控訴人らの各侵害行為がなければ控訴人が得られたであろう利益を得られない等の損害を被っており、この損害を金銭的に評価すると200億円を下らない。
(2) 被控訴人らの主張
 控訴人の損害に関する主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件確認の訴えの適法性)について
(1) 本件確認の訴えのうち、まず、@ 被控訴人らが、平成4年8月ころから、テレビ朝日と共謀して、控訴人に対し、契約もなく放送や出版等を勝手に、違法、不法、不当に行ったこと(前記第1の1(2)の前段)、A 被控訴人らが上記行為を違法、不法、不当に行ったため、現在、控訴人がその被害者という立場(地位)にあること(同(3))、B 被控訴人らが、平成4年8月ころから、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権侵害等パテント侵害を行ったこと(同(4)の前段)の各確認を求める訴えは、過去の事実関係又はそれを前提とする現在の事実関係の確認を求めるものにほかならない。しかしながら、確認の訴えは、争いのある私法上の権利又は法律関係の存否を確認判決の既判力をもって確定し、それによって当事者間の法律関係の安定に資することを目的とする訴えであって、現在の権利又は法律関係の確認を求めるのが原則であり、事実関係についての確認を求める訴えは、所定の例外的な場合に当たらない限り、確認請求の対象適格ないし確認の利益を欠き、不適法というべきである。
(2) 次に、C 被控訴人らが、平成4年8月ころから、テレビ朝日と共謀して、控訴人に対し、契約もなく放送や出版等を勝手に、違法、不法、不当に行ったことについて、控訴人が被控訴人らに対して、請求権を有する地位にあること(前記第1の1(2)の後段)、D 被控訴人らが、平成4年8月ころから、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権侵害等パテント侵害を行ったことについて控訴人が被控訴人らに対して請求権を有する地位にあること(同(4)の後段)の各確認を求める訴えは、控訴人が上記請求権を有することの確認を求めることにほかならないところ、これらの確認請求は、前記第1の1(5)の給付請求と重複しているから、確認の利益を欠くものといわざるを得ず、不適法である。この点について、控訴人は、給付請求が原判決において棄却されていることを理由に、確認の訴えが給付の訴えと重複しているといえない旨主張するが、同一の請求権に関する確認の訴えと給付の訴えとが重複しているかどうかは、口頭弁論終結時を基準として判断されるべきところ、当審の口頭弁論終結時において、上記確認の訴えと給付の訴えが客観的併合されていることは本件訴訟の経過に照らして明らかであって、控訴人の上記主張は、失当である。
2 争点3(本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等を控訴人が承諾した事実の有無)について
(1) 前記第2の2の前提事実と末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 控訴人の支援者のうちの一人は、平成4年7月ころ、テレビ朝日の番組「ザ・スクープ」の制作スタッフに宛てて、本件刑事事件の第1審において死刑判決を言い渡された控訴人は、無実である旨の手紙を送付した。そのころ、被控訴人Y2は、「ザ・スクープ」の番組ディレクターを担当しており、被控訴人Y1は、同番組のキャスターを務めていた。被控訴人らは、上記手紙を見て、本件取材を開始した。(甲1)
イ 被控訴人Y1は、本件取材開始後、控訴人に対し、本件刑事事件がえん罪事件であることを証明するための報道活動をしている旨の自己紹介や控訴人の生活状況等を尋ねる内容の手紙を送付した。これに対して、控訴人は、同年8月17日付けで、被控訴人Y1に宛てて、上記手紙に対する返事の手紙(本件手紙)を作成し、また、控訴人は、同月24日ころ、被控訴人Y1に宛てて、自らが作成した取調べ状況のイラスト(本件イラスト)を郵送した。なお、本件手紙では、控訴人自らが作成した「ほとほと」と題する小説の添削者の紹介を依頼するとともに、その原稿が同封されていた。(甲1、7)
ウ 被控訴人Y2ら「ザ・スクープ」の制作スタッフは、上記控訴人への取材とともに、本件刑事事件及び本件強盗事件の内容の調査、事件関係者へのインタビュー等を行い、このような本件取材に基づいて、本件番組を制作した上、同年9月5日ころ、本件番組を放送した。被控訴人Y1は、同番組のキャスターを務めた。
 本件番組は、控訴人の母親へのインタビュー、本件刑事事件及び本件強盗事件の内容、捜査の経緯、控訴人の生い立ち、控訴人が本件強盗事件に至った経緯、支援者らによる独自調査の結果、本件刑事事件の被害者の遺族へのインタビュー等で構成され、全体として、本件刑事事件をえん罪事件として扱い、控訴人が真犯人であることに疑問を呈する内容であった。(甲3)
エ 被控訴人Y1は、本件番組放送後の同年9月22日ころ、控訴人に対して、小説の添削者に心当たりがない旨の手紙を送付するとともに、上記「ほとほと」と題する小説の原稿を返送した。また、被控訴人Y2は、控訴人を応援する旨の手紙を作成して被控訴人Y1の上記手紙に同封した。(甲4、5)
オ 控訴人は、本件番組放送から数か月後、被控訴人らないしテレビ朝日に対し、本件番組に関する資料を求め、被控訴人らないしテレビ朝日は、控訴人に対し、本件番組のシナリオの抜粋(甲3)を送付した。
カ 本件番組の取材内容等をまとめた本件書籍は、平成6年ころ出版された。
 本件書籍は、本件番組と同様、控訴人の母親へのインタビュー、本件刑事事件及び本件強盗事件の内容、捜査の経緯、控訴人の生い立ち、控訴人が本件強盗事件に至った経緯、支援者らによる独自調査の結果、本件刑事事件の被害者遺族へのインタビュー等で構成され、控訴人の母親の顔写真、控訴人の顔写真(本件顔写真)、控訴人作成の本件イラスト、控訴人が被控訴人Y1に宛てた手紙(本件手紙)の抜粋等が掲載されていた。本件書籍も、全体として、本件刑事事件をえん罪事件として扱い、控訴人が真犯人であることに疑問を呈する内容であった。(甲1)
キ 控訴人の支援者は、本件書籍が出版された平成6年ころ、控訴人に対し、本件書籍のうち、本件刑事事件を扱った部分のコピー(甲1)を渡した。
ク 控訴人は、その後、平成16年12月10日の本件訴訟の提起まで被控訴人らないしテレビ朝日に対して、苦情の申入れや抗議等をすることはなかった。
(2) 上記認定の事実によれば、テレビ朝日の番組「ザ・スクープ」の制作スタッフは、本件刑事事件がえん罪事件であることを証明するための報道活動をしている旨の自己紹介をした上で控訴人に取材をしており、控訴人は、この取材に応じて、自己の生活状況等を述べ、併せて、自らが作成した取調べ状況のイラスト(本件イラスト)を渡して積極的に協力していたのであるから、将来、「ザ・スクープ」により本件刑事事件に関する報道がされ、控訴人の情報提供がその報道の一資料として用いられることを十分に理解した上で、取材に協力していたものというべきである。
 そして、報道活動の一環として、何らかの形で番組の内容が書籍に掲載されることは、通常、予想されることであるところ、上記認定のとおり、本件番組も本件書籍も、全体として、本件刑事事件をえん罪事件として扱い、控訴人が真犯人であることに疑問を呈する内容であり、控訴人は、控訴人の支援者から、出版された本件書籍を受け取っていたにもかかわらず、これに対して、被控訴人らないしテレビ朝日に対して何らの苦情の申入れや抗議等をすることもなく、本件訴訟の提起までの約10年間を経過したものである。
 以上のような事情の下においては、控訴人は、被控訴人らに対し、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが、本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等について、少なくとも事後的に黙示の承諾をしたものと認めるのが相当である。
(3) 控訴人は、被控訴人らに対して、取材上、情報提供をすることと、パテント契約に関して、執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとは法的意味が異なっているのであり、被控訴人らは、パテントに関する何らの法的権利も取得するものではないと主張する。
 しかしながら、上記(1)認定の事実から明らかなとおり、控訴人は、本件取材に対して積極的に協力し、自らが作成した本件イラストを渡すなどしていたのであるから、このような控訴人の言動から、控訴人が、本件取材を受けた当時、取材上、情報提供をすることと、控訴人のいうパテント契約に関して、執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとを区別して、被控訴人らに対応していたと認めることは困難である。
 また、控訴人は、被控訴人らは、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが、本件番組および本件書籍制作のための情報提供をすること等について、控訴人に確認すべきであったのに、それをしていないと主張する。
 しかし、上記(1)の事情の下で、あえて、控訴人に事前に確認しなかったからといって、控訴人が事後的に黙示の承諾をしたとの認定を左右するようなものとなるとはいえない。
 さらに、控訴人は、被控訴人Y1に対して小説「ほとほと」の添削者の紹介を依頼していたため遠慮していた上、本件番組の内容を知らず、だれが、どのように、控訴人のいうパテント侵害をしているか分からなかったのであるから、本件番組放送後約12年間、本件書籍発行後約10年間、控訴人が抗議しなかったことをもって、事後承諾があったということもできないと主張する。
 しかし、控訴人は、被控訴人らが、控訴人の小説である「ほとほと」を何らかの形で使用したことを前提とする主張をしているとも解されるが、被控訴人らが、「ほとほと」を本件番組、本件書籍又はその他の媒体等で使用したことを認めるに足りる証拠はない。加えて、控訴人は、平成4年9月には、被控訴人Y1から小説の添削者の紹介の依頼を断られたので、それ以降は、被控訴人Y1への遠慮はないはずであり、また、本件番組の放送の数か月後には、本件番組のシナリオの抜粋を入手し、平成6年には、本件書籍の本件刑事事件を扱った部分のコピーを受け取っているのであるから、本件番組の内容や、だれが本件書籍を発行したのか、本件書籍に自己の情報提供がどのように扱われているのかを十分に知り得たはずであって、控訴人の上記主張は、その前提を欠いているというほかない。
(4) 控訴人は、出版権や放映権に関しては、黙示の承諾ということはあり得ず、著作権等のパテント関係については、民法ではなく、特別法が適用され、出版権や放映権に関しては、必ず契約書を作成しなければならず、著作者による黙示の承諾のみでは足りないと主張する。
 しかし、出版権とは、著作者等の複製権者が、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対して設定される権利であるところ、本件は、本件手紙、本件イラスト等を本件書籍に使用(引用)したことが問題になっているのであって、本件手紙、本件イラスト等自体を一つの著作物として出版するということではないから、出版権を論ずる余地はない。また、著作者は、著作権法23条に基づく公衆送信権の一種としての放送権を有するが、控訴人のいう放映権が放送権の趣旨であるとしても、同権利に係る契約の成立要件は、複製権等の他の著作権と異なるところはない。そして、少なくとも、控訴人主張の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等に係る契約であれば、当事者の合意によって契約は成立し、契約書等の書面の作成は、契約成立の要件ではない。
 したがって、控訴人の主張は、失当というほかない。
(5) 控訴人は、仮に、控訴人と被控訴人らとの間に、パテント契約が存在するとしても、著作権法では、契約書に取決めがない場合には3年で契約が終了するとされているところ、本件において、パテント契約は、現在まで12年を経過しているから、3年を超えた部分については、違法な侵害に当たると主張する。
 控訴人は、本件のパテント契約に出版権に関する著作権法83条2項が適用されるべきことを主張する趣旨とも考えられるが、本件が出版権の問題でないことは、上記判示のとおりであるから、控訴人の上記主張も、その前提を欠き、採用できない。
3 以上によれば、原審における控訴人の請求のうち、確認請求に係る訴えは、いずれも不適法であり、その余の請求は、控訴人には、少なくとも、本件番組の制作・放送、本件書籍の制作・出版、本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供等について黙示の承諾が認められるため、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、確認の訴えに係る部分を却下し、その余の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。また、控訴人が当審において拡張した請求のうち、被控訴人らに対し1000万円に対する昭和55年4月20日(当審における遅延損害金起算日)から平成4年8月30日(原審における遅延損害金の起算日の前日)までの年5分の割合及び物価上昇分の金員の連帯支払を求める請求も、上記同様に理由がない。さらに、控訴人が当審において拡張したその余の請求のうち、被控訴人らに対し199億9000万円及びこれに対する昭和55年4月20日から支払済みまで年5分の割合及び物価上昇分の金員の連帯支払を求める部分に係る訴えは、同部分に係る手数料の納付がないので不適法であり、控訴人が被害者の地位にあることの確認を求める訴えは、確認請求の対象適格ないし確認の利益を欠き、不適法である。
4 よって、本件控訴を棄却し、控訴人が当審において拡張した金員支払請求のうち、被控訴人らに対し、連帯して1000万円に対する昭和55年4月20日から平成4年8月30日までの年5分の割合及び物価上昇分の金員の支払を求める部分を棄却し、控訴人が当審において拡張したその余の請求に係る訴えをいずれも却下することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 宍戸充
 裁判官 柴田義明
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