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【事件名】講習会資料の職務著作事件
【年月日】平成18年2月27日
 東京地裁 平成17年(ワ)第1720号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年12月19日)

判決
原告 A
被告 高砂熱学工業株式会社(以下「被告会社」という。)
被告 社団法人日本計装工業会(以下「被告工業会」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 岡邦俊
同 小畑明彦
同 近藤夏
同 沼本吉晃


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して、金600万円を支払え。
2 被告らは、連帯して、別紙2記載の新聞及び雑誌に、同記載の体裁にて、同記載の内容の謝罪広告を各1回掲載せよ。
3 被告工業会は、別紙1記載の各講習資料を廃棄せよ。
第2 事案の概要
 本件は、被告会社の従業員であった原告が、被告会社在職中に、被告工業会主催の講習において講師を務めた際、講習資料として作成した資料(「平成12年度計装士技術維持講習」のうち、「空調技術の最新動向と計装技術」に係る資料)について著作権を有するとして、被告会社において、原告の後任として上記講習の講師を務めた被告会社従業員をして、原告作成の上記資料の複製等を行って別紙1記載の各講習資料(以下、別紙1記載1の講習資料を「13年度資料」と、別紙1記載2の講習資料を「14年度資料」という。)を作成させ、被告工業会において、複製された資料を配布するなどして、共同して、原告の著作権(複製権、口述権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したと主張して、被告らに対し、民法709条、710条及び719条に基づき、著作権(財産権)の侵害による損害440万円及び著作者人格権の侵害による慰謝料160万円の合計600万円の連帯支払、著作権法115条に基づき、謝罪広告を、被告工業会に対し、著作権法112条2項に基づき、13年度資料及び14年度資料の廃棄を求め、さらに、原告が原告作成の前記資料についての著作権を有することを前提として、被告らが、同資料の複製等を行って収益を得ており、それが不当利得に当たると主張して、選択的に、民法703条に基づき、600万円の連帯支払を求めたのに対し、被告らが、原告作成の前記資料は、職務著作として被告会社が著作者となり、原告は著作者ではない、職務著作でないとしても、その複製について、原告の許諾を受けている等と主張して争っている事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 被告会社は、冷暖房、換気、衛生、水道、乾燥、蒸発、燃焼、冷凍、製氷、温湿度調整装置及び一般熱交換装置の設計、監督、工事並びに保守管理等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告工業会は、昭和49年に任意団体「計装工業会」として発足し、昭和55年12月13日に、「計装工事業に関する諸問題について調査研究、経営の合理化、技術の向上およびその交流に務め、計装工事業の健全な進歩発展を図り、もって公共の福祉の向上と産業界の発展に寄与すること」を目的とする社団法人として発足した(乙4の1、12、弁論の全趣旨)。被告工業会は、計装工事業の技術の総合的調査研究等の事業を行っている(乙12)。
ウ 原告は、昭和51年11月8日に被告会社に入社し、以来、被告会社東京本店技術部、同設計部、本社技術部、東京本店計装システム部等に所属し、平成17年7月31日、被告会社を退職した者である。
(2) 計装士技術維持講習
ア 昭和59年3月、建設大臣認定資格として計装士の資格制度が発足し、その後、平成13年4月から、同制度が建設業法施行規則17条の2等に基づいて変更され、以降、被告工業会が計装士の資格の認定(計装士技術審査)を行っている(乙4の1、12)。
イ 被告工業会は、計装士の知識及び技術の維持向上のため、被告工業会内部の規程に従って、毎年1回、全国数か所の会場において、計装士技術維持講習(平成13年の改定前の名称は「計装士技術維持講習会」、以下、いずれについても「維持講習」という。)を実施し、同規程により、計装士は、5年ごとに、維持講習を受講しなければならないとされている(乙1、4の1、10の1、12)。
 同規程により、維持講習の内容(範囲)が定められ、被告工業会の研修委員会が維持講習の実施を担当することとされている。被告工業会の研修委員会では、毎年、具体的な講習内容(テーマ)、会員企業各社の分担などを決定している。維持講習の講師は、被告工業会の依頼を受けて会員企業から派遣された者(概ね4、5社から1名ずつ)が務め、それぞれの講師が、原則として、同じテーマで5年間継続して講習を担当することとされている(乙4の1、12)。
(3) 平成10年度から平成14年度の維持講習における講師及び講習資料
ア 平成10年度から平成14年度までの維持講習では、5個(平成10年度は4個)のテーマの講習が実施された。このうち、「空調技術の最新動向と計装技術」というテーマの講習(以下「本件講習」という。)について、被告会社から講師が派遣され、平成10年度から平成12年度までは、当時、被告会社東京本店計装システム部(以下、「被告会社計装システム部」という。)に所属していた原告が、平成13年度及び平成14年度は、同部に所属していたBが、それぞれ講師を務めた(甲9〜11、17〜20、乙7の1、7の3、8の1、8の3、9の1、9の2、15)。
イ 維持講習における講習資料は、講師を務める者が準備して被告工業会に提出し、被告工業会において、同年度に行われる複数の講習に係る講習資料を合綴し(以下、合綴されたものを「講習資料集」という。)、受講者に配布している(甲9〜11、17〜20、乙7の1〜7の5、8の1〜8の6、9の1〜6、12、15)。
 原告は、講師を務めた平成10年度から平成12年度の本件講習について、講習資料を作成した(それぞれ、「10年度資料」、「11年度資料」、「12年度資料」という。なお、被告らは、これらの資料が編集著作物であるとの主張もするところ、これらの資料は、他の文献等の記載を引用する部分もあるが、編集著作物であるとは認められない。)(甲9、17、20、乙7の3、8の3、9の2)
 Bは、講師を務めた平成13年度及び平成14年度の本件講習の講習資料である13年度資料及び14年度資料の作成に当たり、本件講習の12年度資料を利用した。そして、12年度資料の大部分の記述をそのまま用いて、13年度資料を作成し、それを基に14年度資料を作成した。13年度資料及び14年度資料は、12年度資料の複製物である(甲17〜19、乙4の1、5の1)。
ウ 12年度資料作成時に、原告を著作者とする旨の原告及び被告会社間の契約や、従業員作成の著作物について当該従業員を著作者とする旨を定めた被告会社の勤務規則等は存在しなかった(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 12年度資料について、職務著作として被告会社が著作者となるか。(争点1)
(2) 原告は、12年度資料の複製について許諾していたか。(争点2)
(3) 被告らによる口述権侵害の有無(争点3)
(4) 被告らによる氏名表示権侵害の有無(争点4)
(5) 被告らによる同一性保持権侵害の有無(争点5)
(6) 原告の損害(争点6)
(7) 謝罪広告の可否(争点7)
(8) 不当利得返還請求権の有無(争点8)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(12年度資料について、職務著作として被告会社が著作者となるか。)について
(被告らの主張)
ア 被告会社の発意
 被告会社は、被告工業会から、平成10年度の維持講習の講師として原告を派遣することの打診を受けた。そこで、被告会社技術開発部長のCは、当時、原告の上司であった被告会社計装システム部長Dに原告の職務状況を確認した上で、原告を講師として派遣することが可能である旨を被告工業会に回答した。そこで、被告工業会は、平成10年5月18日、被告会社代表者宛てに講師派遣依頼状を送付した。
 これを受けて、被告会社内において原告が講師として派遣されることが内定し、Dの指示により、原告から、「社外用務応嘱承認願」(乙2)が提出された。同文書には、資料の作成が社外業務の内容として明確に記載されているところ、Dは、記載内容を確認し、人事部長の承認を得た上で、同年7月上旬、原告に対し、社外用務として維持講習の講師を務めること、講習資料を同年8月31日までに作成することを指示した。Dは、原告から、提出前の講習資料の原稿の交付を受け、テーマに適合しているか、素材として利用されている資料に被告会社の営業秘密等が記載されていないか、引用図表について引用先が明示されているかなどをチェックし、問題ないと判断して承認した。なお、同原稿は、被告会社の当時の技術開発部長であったCにも提出され、チェックを受けている。
 以上の経緯を経て、平成10年度の講師として派遣されることとなった原告によって、10年度資料が作成された。
 被告工業会が行う維持講習は、原則として同一の講師により同一のテーマについて5年間継続して行われるものであり、被告会社も原告に対し、5年間継続して講師として派遣することを前提に指示を行った。そして、平成11年度及び平成12年度も、平成10年度と同様に、原告を講師として派遣することとし、Dは、原告に対する同様の指示を行った。
 以上から、12年度資料は、被告会社の発意に基づいて作成されたものである。
イ 被告会社の業務従事者が職務上作成したこと
 維持講習において、原告が講師を務めた本件講習は、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとするものであるところ、被告会社の業務は、空調装置等の設計、監理、施工等を主たる目的とするものであるから、維持講習の講師を務めること、講習用の資料を作成することは、いずれも被告会社の業務に属する事項である。
 そして、当時原告の上司であった計装システム部長のDは、原告に対し、前記アのとおり、社外用務として、維持講習の講師を務めること、講習資料を期限までに作成することを指示した。
 したがって、講習資料は、被告会社の業務従事者である原告が、職務上作成したものであるといえる。
ウ 公表要件
 12年度資料の表紙に、講師名として「高砂熱学工業鞄結梹x店 計装システム部 部長 A」と表示されていることは、被告会社の著作名義を示したものといえる。すなわち、講師の所属社名を表示することによって、講習の内容については当該会社が最終的な責任を負うものであることを表示していることになる。
 仮に、12年度資料の前記表示が被告会社の著作名義を示すものではないとすれば、12年度資料には著作名義が付されていないことになり、被告会社は、著作者名を表示しないことを選択したことになるが、この場合でも、12年度資料は、著作者名を表示することを選択して公表するとすれば、被告会社の名義を付すような性質の資料であるから、公表する場合には被告会社の著作名義を付すことが予定されており、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」といえる。
エ 小括
 以上から、12年度資料は、職務著作として被告会社が著作者となる。
(原告の反論)
 原告は、12年度資料を、自発的に自ら創作し、著作名義を原告として発表しており、職務著作が成立する余地はない。
ア 被告会社の発意がないこと
 12年度資料の作成について、被告会社には発意がない。被告会社の関与は、原告が記載した「社外用務応嘱承認願」(乙10の2)の所属部長欄にDが押印したことのみであり、一切企画をしていないので、12年度資料が被告会社の発意に基づいて作成されたとはいえない。
 被告工業会の講師派遣依頼に対して被告会社内でとられた一連の手続は、講習資料の著作の企画ではなく、原告を指名して講師委嘱をさせるための社内の手続にすぎない。
 また、原告は、10年度資料の原稿をDに提出して確認を求めたことはない。原告は、自らの判断で、同原稿を、Cと、被告会社の当時の副社長であったEに提出して、著作権侵害がないかどうか、技術的内容に誤りはないかどうかの確認を受けたが、特に修正意見もなかったため、そのまま、自らの責任と判断で被告工業会に提出したものである。
イ 被告会社の業務従事者が職務上作成していないこと
 原告は、被告会社の業務に従事する者ではあるが、12年度資料の作成については、業務として指示されていない。したがって、12年度資料は、原告の職務上作成されたものではない。実際にも、原告は、勤務時間以外の時間を費やして12年度資料の作成を行った。
ウ 原告の著作名義で公表していること
 12年度資料は、原告の氏名が表示されており、原告の著作名義で公表したものである。維持講習では、講師が講習資料を作成することが前提であり、前例にならって「講師」という表示を付したにすぎない。
エ 小括
 以上から、12年度資料については、職務著作は成立せず、原告が著作者となる。
(2) 争点2(原告は、12年度資料の複製について許諾していたか。)について
(被告らの主張)
 仮に、12年度資料の著作者が原告であるとしても、12年度資料の作成経緯、講習資料としての性質その他の事情を考慮すれば、原告は、12年度資料を、平成13年度以降の維持講習に用いる限度で複製することを許諾したものであることが明らかである。
 また、原告の後任として講師を務めたBは、原告から12年度資料の「資料貸与料」を支払うことを要求され、講師謝金として被告工業会から支払われた金員の半額に相当する金員(平成13年度及び平成14年度、それぞれ10万円、合計20万円)を支払っている。
(原告の反論)
 原告は、12年度資料の複製を、平成13年度以降の維持講習に用いることを許諾したことはない。
 原告は、Bから、平成13年及び平成14年に、10万円ずつ、合計20万円を受領したが、平成13年については、Bが好意で持ってきたもので、12年度資料の貸与料として受領したものである。平成14年に受領した金員についても、維持講習の資料は毎年更新されることになっているので、Bに問い合わせて被告会社内で会って受領したものであり、同様に資料の貸与料である。
(3) 争点3(被告らによる口述権侵害の有無)について
(原告の主張)
 被告らは、平成13年度及び平成14年度の維持講習において、原告が著作権を有する12年度資料を複製した13年度資料及び14年度資料を、原告の許諾なく使用し、不特定多数又は特定多数の公衆に対して口頭で伝達したものであり、原告の有する12年度資料を公に口述する権利を侵害した。
(被告らの反論)
 原告の主張は否認する。
 維持講習における被告らの13年度資料及び14年度資料の使用行為は、他人の著作物をそのまま生で口述するものではないから、そもそも口述権の侵害行為に該当しない。
(4) 争点4(被告らによる氏名表示権侵害の有無)について
(原告の主張)
 被告らは、平成13年度及び平成14年度の維持講習において、原告が著作権を有する12年度資料を複製した13年度資料及び14年度資料を使用したが、その際、Bの氏名を表示して、原告の氏名を表示せず、原告の有する12年度資料の氏名表示権を侵害した。
(被告らの反論)
 仮に、原告が12年度資料の著作者であるとしても、12年度資料における「講師 高砂熱学工業鞄結梹x店 計装システム部 部長 A」との表示は、被告工業会の会員企業から講師として派遣された者(多くは従業員)の表示であり、著作名義を示すものではなく、原告は、著作者名を表示しないことを選択したものであるといえる。そうすると、13年度資料及び14年度資料において原告氏名を表示しなかったことは、原告の意思に合致するものであり、原告の氏名表示権を侵害するものではない。
(5) 争点5(被告らによる同一性保持権侵害の有無)について
(原告の主張)
 被告らは、13年度資料及び14年度資料を複製するに当たり、原告に無断で、別紙3「変更箇所一覧表」(以下「変更箇所一覧表」という。)の「13年度資料」、「14年度資料」の各欄下線部分記載のとおり(ただし、変更箇所一覧表の番号11については、「※」を付して示したとおり、記載内容は別添1及び2のとおりである。)、12年度資料の記載を改変し、原告の有する12年度資料の同一性保持権を侵害した。
(被告らの反論)
 原告の主張は争う。
 13年度資料及び14年度資料では、12年度資料の記載を一部改変しているが、改変箇所は、以下、その一部について述べるとおり、原告の創作に係るものではなく同一性保持権侵害を主張することができない部分であるか、又は、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められるものであるから、13年度資料及び14年度資料の作成に関し、12年度資料に係る同一性保持権の侵害はない。
ア 変更箇所一覧表の番号3記載の12年度資料の部分は、「電気と工事」1988年4月号103ページ記載の部分を転載したものである。
イ 変更箇所一覧表の番号5記載の(3)に係る12年度資料の部分は、被告会社の社内資料(顧客説明用技術資料)記載の部分を転載したものである。
ウ 変更箇所一覧表の番号6記載の12年度資料の部分は、被告会社の社内資料(顧客説明用技術資料)記載の部分を転載したものである。
エ 変更箇所一覧表の番号11記載の12年度資料の部分は、原告が第三者作成の図面を転載したものである。
オ 変更箇所一覧表の番号14記載の13年度資料の部分の改変は、Bが、空調技術の最新動向を内容とする本件講習のテーマに即し、最新の資料を用いて最小限の範囲で行ったものであり、本件講習の資料という著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないものである。
カ 変更箇所一覧表の番号15記載の13年度資料の部分の改変は、前記オと同様、Bが行ったものであり、著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないものである。
(6) 争点6(原告の損害)について
(原告の主張)
ア 原告は、被告らによる12年度資料に係る著作者人格権の侵害により、精神的な苦痛を受けた。それを慰謝するための金額としては、160万円が相当である。
イ 被告らによる原告の12年度資料に係る著作権(財産権)の侵害によって原告が受けた損害は、被告工業会が平成13年度及び平成14年度の維持講習によって得た収入と同額であり、その金額は、以下のとおり、440万円である。
 受講者1000人(1年当たり)×2年×(受講料1万3000円÷5テーマ)−諸経費80万円(講師1名当たり)=440万円
ウ 以上から、被告らが連帯して原告に支払うべき損害は、ア及びイの合計金額である600万円である。
(被告らの反論)
 原告の主張は否認する。
(7) 争点7(謝罪広告の可否)について
(原告の主張)
 被告らによる12年度資料に係る著作者人格権の侵害により毀損された原告の名誉又は声望を回復するためには、別紙1記載の新聞及び雑誌に、同記載の体裁にて、同記載の内容の謝罪広告を各1回実施する必要がある。
(被告らの反論)
 原告の主張は争う。
(8) 争点8(不当利得返還請求権の有無)について
(原告の主張)
 原告は、12年度資料の著作権を有するものであるから、被告らが、12年度資料を不法に利用したことによって得た収益及び講師報酬は、不当利得となり、原告は、600万円の不当利得返還請求権を有する。
(被告らの反論)
 原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(12年度資料について、職務著作として被告会社が著作者となるか。)について
 原告が12年度資料を作成したことは、当事者間に争いがない。被告らは、原告が、被告会社の業務に従事する者として12年度資料を職務上作成したものであり、職務著作としてその著作者は被告会社となる旨主張するので、以下、12年度資料の作成経緯、内容等の事実関係を検討した上、職務著作の成否を検討する。
(1) 事実認定
 争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告工業会
 被告工業会は、昭和49年に任意団体「計装工業会」として発足し、昭和55年12月13日に、「計装工事業に関する諸問題について調査研究、経営の合理化、技術の向上およびその交流に務め、計装工事業の健全な進歩発展を図り、もって公共の福祉の向上と産業界の発展に寄与すること」を目的とする社団法人として発足した(乙4の1、12、弁論の全趣旨)。被告工業会は、計装工事業の技術の総合的調査研究、計装士に関する技術審査等の事業を行っている(乙4の1、12)。
 被告工業会は、「本会の目的に賛同し、建設業法の規定に基づく電気工事業、管工事業、機械器具設置工事業及び電気通信工事業のいずれかの許可を受け、計装工事業を営む法人及び個人」を正会員とし、「本会の事業を賛助する者」を賛助会員としており、平成17年10月1日時点で、正会員が153法人、賛助会員が32法人となっている(乙12)。
イ 被告会社
 被告会社は、冷暖房、換気、衛生、水道、乾燥、蒸発、燃焼、冷凍、製氷、温湿度調整装置及び一般熱交換装置の設計、監督、工事並びに保守管理等を業とする会社である。
 被告会社は、昭和58年4月に被告工業会の会員となり、平成元年から被告会社の代表者が被告工業会の副会長を務めるほか、7委員会のうち5委員会の委員を応嘱している。
 また、被告会社は、計装士資格を業務上重要な資格と評価しており、資格試験の受験費用や維持講習の参加費用を負担し、維持講習の受講を業務と取り扱っている。そのため、被告会社の総合職技術系従業員の2割前後の者が、1級計装士の資格を有しており、原告も1級計装士の資格を有している(弁論の全趣旨)。
ウ 計装士技術維持講習
(ア) 昭和59年3月、建設大臣認定資格として計装士の資格制度(1級、2級)が発足し、その後、平成13年4月から、同資格制度が建設業法施行規則17条の2に基づく制度に移行し、以後、被告工業会が計装士の資格の認定(計装士技術審査)を行うこととされた(乙4の1、12)。
(イ) 被告工業会は、計装士の知識及び技術の維持向上のため、被告工業会内部の規程に従って、毎年1回、全国数か所の会場において、維持講習を実施し、同規程により、計装士は、5年ごとに、維持講習を受講しなければならないとされる(乙1、4の1、10の1、12)。
 同規程により、維持講習の内容(範囲)が定められるとともに、被告工業会の研修委員会が維持講習の実施を担当することとされ、同研修委員会では、毎年、具体的な講習内容(テーマ)や被告工業会の会員企業各社の分担などを決定している。維持講習の講師は、被告工業会の依頼を受けて会員企業から派遣された者(概ね4、5社から1名ずつ)が務め、それぞれの講師が、原則として、同じテーマで5年間継続して担当することとされており、講習資料についても、大幅な変更がされないことが前提とされている(乙4の1、5の1、12)。
(ウ) 維持講習の講習資料は、各テーマごとの資料を合綴した講習資料集が用いられる。講習資料集の表紙には、上部の囲み内に、当該年度と、「計装士技術維持講習」の文字とが2段で表示され、その下に、当該年度で行われる維持講習のテーマが箇条書きで表示され、下部に被告工業会の名称が表示されている(甲9〜11、17〜20、乙7の1、8の1、9の1、13の1〜13の4、14、15)。
 各テーマの講習資料は、それぞれ表紙が付され、表紙には、上部の囲み内にテーマが表示され、下部に「講師」という表示に続いて、講師の所属部署や役職とともに、氏名が表示されている。表紙に続いて目次が設けられているが、目次の体裁は、各テーマの講習資料によって異なっており、ページ数も、各テーマの講習資料内で完結しており、講習資料集としての通しページは、付されていない(甲9〜11、17〜20、乙7の2〜7の5、8の2〜8の6、9の2〜9の6、13の1〜13の4、14、15)。
エ 平成10年度の維持講習
(ア) 被告工業会は、平成10年度から、被告会社に維持講習の講師派遣を依頼することとし、被告会社計装システム部の担当課長であった原告に講師応嘱の打診をして、原告の内諾を得た。そして、原告から具体的なテーマの設定を受け、原告を講師として派遣することを被告会社にも打診し、内諾を得た上で、被告会社に対し、同年5月18日付の「平成10年度計装士技術維持講習会講師の派遣依頼について」と題する文書(乙1)を送付した(甲34、乙1、4の1、12)。同文書には、依頼テーマとして「空調技術の最新動向と計装技術」、依頼講師として原告、また、「講習テキスト」として、「平成10年度計装士技術維持講習テキストの原稿を8月31日までに当工業会事務局長まで送付方お願いいたします。」と、それぞれ記載されている(乙1)。
(イ) 被告会社では、従業員が社外の用務に応嘱する場合、直属の上司が本社の人事部長に対し、「社外用務応嘱承認願」を提出して決裁を得ることとなっており、承認の可否は、依頼先の要求、依頼先と被告会社との関係、応嘱者の業務量などを総合的に判断して決定される。承認された場合には、勤務時間内にその業務を行うこと、被告会社の人員、機材を用いること、国内出張に関する規程を適用して出張費・日当が支給されること(ただし、外部団体から支払われる場合には支給されない。)などが認められている(乙4の1)。
 被告工業会からの前記講師派遣依頼を受けて、原告の上司であったDは、原告に対し、人事部長宛ての「社外用務応嘱承認願」の作成を指示し、平成10年7月13日付けの社外用務応嘱承認願(乙2)が作成された。そして、同承認願によって人事部長の決裁を得て、原告の応嘱が承認された。Dは、これを受けて、原告に対し、被告工業会からの前記依頼文書に記載された講習テキストの作成の依頼に基づき、資料作成等の指示を行った(乙4の1)。
 同承認願には、応嘱業務として、「平成10年度計装士技術維持講習会講師『空調技術の最新動向と計装技術』」と、業務の頻度として、「講師:4日間(資料作成2H×1ヶ月間)」と、記載されている(乙2)。
(ウ) 原告は、平成10年8月31日までに、被告会社の社内資料、過去に雑誌等に掲載した自らの論文、他の文献等をも参考にして、10年度資料の原稿を作成した。原告は、同原稿を、被告会社の当時の技術開発部長であったCや、当時の副社長であったEに提出して、内容の吟味や、チェックを受けた(甲34、乙4の1)。同人らからの特段のコメント等はなく、原告は、同原稿を被告工業会に交付した(甲34)。被告工業会は、原告から送付された原稿を受領し、10年度資料として、他のテーマの講習資料と合綴して講習資料集を作成した(乙12)。
(エ) 平成10年度の維持講習では、4回の講演が予定されていたが、原告は怪我による入院治療のために、3回の講演を実施することができず、被告会社の業務命令により、大阪支店の従業員が関西地区での講演を担当し、Bが関東地区での講演(2回)を担当した(甲33、34、乙5の1)。
オ 平成11年度及び平成12年度の維持講習
(ア) 維持講習は、前記のとおり、概ね、5年間同一の講師及びテーマで実施されることとされているが、被告工業会からの講師派遣依頼は、毎年依頼先の会社に送付され、平成11年度の維持講習についても、平成10年度と同様の手続を経て、被告会社計装システム部の参事となっていた原告が講師として派遣された(甲34、乙12)。
(イ) 平成12年度も、平成10年度及び平成11年度と同様、被告工業会は、被告会社に対し、平成12年6月29日付けの「平成12年度計装士技術維持講習会講師の派遣依頼について」と題する文書(乙10の1)を送付し、被告会社計装システム部の担当部長となっていた原告を講師として派遣することを求める旨の依頼をした(甲34、乙10の1)。同文書には、「昨年に引続き下記のとおり講師をお願いいたしたく存じます。」と記載され、「講習テキスト」として、「平成12年度計装士技術維持講習テキストの内容の変更又は追加を要する場合は、変更又は追加原稿を8月10日までに当工業会事務局長まで提出してください。」と記載されている。
(ウ) 原告は、平成12年度の維持講習の講師を務めることについて、被告会社内の承認を得て、講習資料の作成を行った(甲34)。講習テーマとして、空調技術の最新動向が含まれているために、最新の論文等の内容を取り込むなどして、10年度資料及び11年度資料の改訂を行って原稿を作成し、被告工業会に提出した。原告の原稿は、12年度資料とされ、従前の年度と同様、他のテーマの講習資料と合綴されて講習資料集としてまとめられた(甲17)。
(エ) 原告は、平成12年度の維持講習の講師として、12年度資料に基づいて同年中に3回の講演を行った(甲34)。
(2) 職務著作の成否についての検討
 被告会社において、従業員の作成した著作物について、当該従業員を著作者とする旨を定めた勤務規則等がないこと、及び、原告の作成した12年度資料について、原告と被告会社間で原告を著作者とする旨の契約が締結されたものでないことは、当事者間に争いがない。そこで、12年度資料について、その作成が被告会社の発意によるものか、被告会社の業務に従事する者(原告)が職務上作成したといえるか、被告会社名義で公表され、又は、公表されるべきものであったかを検討した上、職務著作として被告会社が著作者となるか否かについて判断する。
ア 被告会社の発意
(ア) 著作権法15条所定の職務著作が成立するためには、当該著作物が法人等の発意に基づいて作成されたことが要件とされるところ、法人等の発意に基づくとは、当該著作物を創作することについての意思決定が、直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることであると解される。
(イ) この観点より検討すると、12年度資料は、以下のとおり、被告会社の発意に基づいて作成されたものであると認められる。
 すなわち、被告工業会の実施する維持講習の講師を務めることは、前記のとおり、被告工業会から被告会社に対する依頼を受けて、被告会社において社外用務応嘱として人事部長の承認を受けて行われるものである。平成12年度の維持講習の依頼に対する承認手続は、平成10年度及び平成11年度の場合と同様、社外用務応嘱承認願の文書を提出して行われており、同文書には、講演のテーマが明示されている。また、講習資料の作成は、被告工業会から被告会社に対する講師派遣の依頼文書に記載された講習テキスト作成の依頼に基づいて行われるものであり、前記社外用務応嘱承諾願にも、業務として、講習資料を準備する必要があることが示されている。そして、講演のテーマは、「空調技術の最新動向と計装技術」であり、原告が所属していた被告会社計装システム部の所掌業務に密接に関連するものであるところ、同テーマや、維持講習の趣旨からすれば、講習資料については、講師である原告の経験や、空調技術、計装技術の分野における最新動向に関する被告会社内の資料等を素材として作成されることが予想される性質のものであると解される(10年度資料には、被告会社の社内資料が用いられており、その内容は11年度資料及び12年度資料にも引き継がれているが、原告は、社内資料使用について担当部署の了解を得た旨主張しており、被告会社内で維持講習の講習資料に使用されることが了承されていたことが推認される。)。そして、原告が講師を務めることとなった初年度である平成10年度においては、原告の上司であったDが、原告に対し、被告工業会から被告会社に対する講習テキストの作成の依頼に基づき、期限までの講習資料作成を指示している。
 これらの事実によれば、維持講習のための講習資料作成は、被告会社において、維持講習の講師を務めることとともに用務の一つとして認識され、その内容や性質についても検討され、社外用務として承認されるということができる。したがって、被告会社が当該社外用務を承認し、それを原告に伝えることをもって、講習資料作成についての被告会社の判断がされたと解するのが相当であり、12年度資料の作成について、被告会社の発意を認めることができる。
(ウ) 原告は、テーマの設定や講習資料の具体的な構成の選択に被告会社が関与することはなく、社外用務応嘱承認願も原告自身が記載したものにDが押印をするのみで決裁に付されるのであって、講習資料の創作についての企画をしているとはいえない旨主張する。
 しかし、テーマの設定や講習資料の具体的な内容構成について、被告会社の関与や指示がないとしても、テーマの内容や維持講習の趣旨から、講習資料の性質やそこに盛り込まれる内容について想定できることは前記のとおりである。しかも、原告は、平成10年度の維持講習時には、被告会社計装システム部の担当課長、平成11年度は同部の参事、平成12年度は同部の担当部長の職にあった者であり(甲17、34、乙7の3、8の3、9の2)、具体的な指示がなくともテーマに沿った内容の資料を作成することができる者と被告会社内において認識されていたのは当然のことであるから、被告会社において、社外用務として講習資料作成を行わせることが相当であるかを検討して、これを承認することは、当該資料作成自体も被告会社の判断によるものであるということができる。したがって、原告の前記主張を採用することはできない。
イ 被告会社の業務従事者が職務上作成したものであること
(ア) 原告は、12年度資料の作成時、前記(1)オ(イ)のとおり、被告会社計装システム部の担当部長の職にあったものであり、被告会社の業務従事者であったということができる。
(イ) 前記(1)エ及びオのとおり、維持講習の講師を務める際には、被告工業会から被告会社に対して、講習資料の作成と数回の講演実施を担当する講師として派遣依頼がなされ、被告会社内で社外用務応嘱として内容等が検討されて承認されるという手続が履践されており、社外用務として承認された場合には、勤務時間内にその業務を行うこと並びに被告会社の人員及び機材を用いることが認められている。また、平成10年度の維持講習において、原告が怪我による入院治療のために自ら講演できない事態となった際には、被告会社の業務命令により、被告会社の他の従業員が原告に代わって講演を行っている。そして、平成12年度の維持講習は、平成10年度、平成11年度と引き続いて、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習を担当するものであったところ、同テーマの内容は、被告会社の業務と密接に関連するものである。さらに、前記(1)イのとおり、被告会社では総合職技術系従業員の2割前後の者が計装士の資格を有しており、計装士が被告会社において業務上重要な資格と評価されているところ、計装士に5年ごとに受講することが義務づけられている維持講習も、同様に、被告会社において重要なものと位置づけられていたと解される。
 これらのことからすれば、維持講習の講習資料作成は、講師として被告会社から派遣される者の職務として行われるものであるということができ、原告においても同様であって、12年度資料は、原告の職務上作成されたものと認めることができる。そして、このことは、原告が、講習資料の作成に当たり、現実には、勤務時間外の時間をも費やしていたとしても、左右されるものではない。
ウ 公表要件
 維持講習の講習資料集の体裁は、前記(1)ウ(ウ)のとおりであり、これによれば、12年度資料には、講師名として原告の氏名が表示されるのみであり、著作名義については、その表示がなされていないか、あるいは、講習資料集の表紙に表示されている被告工業会の著作名義と解すべきであり、被告会社の著作名義で公表されたと認めることはできない。
 この点、被告らは、12年度資料の表紙に講師名として原告の氏名が表示されているが、被告会社の名称も付されており、被告会社が講習資料の内容について最終的な責任を負うことが表示されているから、被告会社の著作名義と評価することができると主張するとともに、仮に、講師としての表示が著作名義と評価できない場合には、著作名義を表示しないことを選択したということができ、公表するとすれば被告会社の著作名義が表示されることが予定されているものであるから、職務著作の公表要件を充足する旨主張する。
 しかし、前記のとおり、12年度資料の表紙の講師名の記載は、講師と資料作成者とが異なることもあり得ることからすれば、講習資料の著作者を示したものとは認め難いし、加えて、講師名に付された被告会社の名称は、原告の所属する会社名を記載したにすぎないものと理解されるのが通常であって、被告会社が講習資料の内容について最終的に責任を負うことを表示したものと理解されるのは困難である。また、12年度資料は、被告会社の著作名義を付することなく平成12年度の維持講習の講習資料集としてまとめられて受講生に配布されており、既に公表されているのであって、被告会社の著作名義で公表されるべきものということもできない。したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。
エ 小括
 以上からすれば、12年度資料は、被告会社の発意のもと、被告会社の業務従事者である原告が、職務上作成したものであると認めることができるが、被告会社名義で公表されておらず、公表されるべきものであったということもできないから、被告会社の職務著作とはいえず、被告会社がその著作者となるとは認められない。
2 争点2(原告は、12年度資料の複製について許諾していたか。)について
 12年度資料は、前記1で検討したとおり、原告の著作物であると認められるところ、被告らは、12年度資料を複製して13年度資料及び14年度資料を作成したことについて、原告の許諾があった旨主張するので、以下検討する。
(1) 事実認定
 争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、平成13年4月に、被告会社東京本店品質・環境部に異動となり、それに伴い、原告の担当していた計装関係の業務は、計装システム部の他の部員に引き継がれ、維持講習の講師についても、計装システム部員であったBが充てられることとなった(乙4の1)。
イ 平成13年5月に、被告工業会から被告会社に対し、同年度の維持講習の講師として原告を派遣することの依頼と確認の連絡があり、被告会社では、原告の後任の講師として予定していたBが多忙であったために、講師の派遣を辞退したい旨を打診したが、講師を被告会社に依頼していること、5年間はテーマを変えられないことから、代わりの者を派遣してほしい旨の被告工業会の要望を受け、改めてBを講師として派遣することとした。その際、原告にも、講師を交替する旨が伝えられたが、特段の異存は述べられなかった。その後、被告工業会から講師派遣依頼の文書が送付され、被告会社内において、Bを講師として派遣することが承認されたので、Dは、同年6月ころ、原告に対し、後任の講師と決定されたBに講習資料を引き継ぐように依頼し、Bには、原告から講習資料を引き継ぐように命じた。その後、Bは、原告から、MOディスクに保存された12年度資料の電子データの交付を受けた(甲34、乙4の1、5の1)。
ウ Bは、平成13年7月ころ、最新技術の情報を取り入れて同年度の維持講習の講習資料を作成するため、Dや当時技術開発部長であったCとともに、12年度資料の変更部分について打合せを行い、それを踏まえて、Bのほか、他の部門の従業員も一部担当して、原告から提供を受けた12年度資料を用いて、13年度資料の原稿を作成した。13年度資料の原稿は、CとDのチェックを受け、同年8月ころに被告工業会に提出された(乙4の1、5の1)。なお、講習資料の変更については、被告工業会から、大幅な変更がないようにしてほしい旨の要望がされていた(乙5の1)。
エ Bは、平成13年度の維持講習の日程が終了した同年11月ころ、原告から、「原稿書くのは苦労したんだ」、「計装工業会から謝金があっただろう、いいアルバイトになっただろう」と言われたため、金銭の要求を受けたものと考え、維持講習の講師謝金として被告工業会から支払われた21万6000円のほぼ半額に相当する10万円を、原告に手渡した(甲34、乙5の1、11の4)。
オ 平成14年度の維持講習においても、Bが講師を務めることとなり、講習資料の原稿は、13年度資料の原稿作成と同様、Dから指示を受けて、Bが13年度資料の一部を変更して作成し、Dのチェックを経た後に被告工業会に提出された(乙4の1、5の1)。
カ Bは、平成15年7月8日、原告から、平成13年度は維持講習の講習資料貸与料の支払を受けたこと、平成14年度も講習資料の更新がされるはずであるがBからの連絡がないこと、13年度資料及び14年度資料のコピーを希望することが記載されたメールを受信した。そこで、Bは、13年度資料及び14年度資料の電子データをMOディスクに保存して、原告の席に持参したが、原告が不在であったため同ディスクを同人の席に残置した。そして、同月9日、原告に対し、13年度資料及び14年度資料の印刷物が手元にないため各資料の原稿を保存したMOディスクを持参したことを伝えるとともに、前年同様、講師謝金の一部から10万円を手渡した(甲34、乙5の1)。
 上記認定に反し、原告作成の陳述書(甲34)には、Bが原告に10万円の入った封筒を持って来た、業務上のことであればあり得ないと思いながらも、12年度資料の資料貸与料と考えてありがたく受け取った旨の記載があり、また、原告から被告代表者宛ての平成16年12月7日付けの「提訴事項(嫌がらせ事項含む)の再調査・再回答にあたって(原文は「あったて」)」(甲6)にも、これと同旨の記載がある。
 しかし、Bが、原告の要求もないまま、講師謝金のほぼ半額に相当する10万円もの金額の金銭を、自発的に、Bよりも高い地位にある原告に持参するとは通常考えられないし、原告が、何の説明もなく手渡された10万円を趣旨不明確のまま受け取るということも不自然である。
 したがって、原告作成の陳述書の上記記載及びこれと同旨の甲6の記載は、いずれも信用することができない。
 検討
 (1)で認定した事実に、1(1)で認定した事実を併せて検討すると、原告は、Bが被告会社における職務として維持講習を行うに当たり、12年度資料を複製して、13年度資料及び14年度資料を作成することを、黙示に許諾していたものと認めることができる。
すなわち、前記のとおり、原告は、上司であるDからの指示を受けて、平成13年度から維持講習の講師をBと交替するとともに、Bに対し、12年度資料の原稿の電子データを交付していること、原稿をBに交付すること自体も、Dにより、Bに引き継がせるものとして指示されたこと、維持講習のための講習資料作成は、同講習の講師を務めることとともに、職務上なされたものであること、維持講習は5年間同一のテーマで行われ、その間の講習資料の大幅な変更は予定されていないことが認められるところ、これらの事実に加えて、12年度資料を単に参照するのみであれば、原告に原稿の電子データの交付を求める必要はなく、原稿の引継ぎの指示に基づいて原告から何らの留保もなく電子データが交付されたことからすると、原告においても、12年度資料の原稿を複製して平成13年度以降の維持講習の講習資料を作成するものと認識していたと理解できる。これらのことを併せて考慮すれば、原告において、Bが、職務上、13年度資料及び14年度資料を作成するために、12年度資料を複製することを許諾していたと解するのが相当である。
さらに、原告は、平成13年11月、13年度資料の作成に関し、Bから10万円の交付を受け、平成15年7月には、14年度資料の作成に関し、Bから再度10万円を受領しており、また、原告は、13年度資料及び14年度資料を自己の著作物としてリストアップするために、これらの資料の閲覧をBに要求した旨述べている(甲34)のであって、これらの事情は、12年度資料の複製を2度にわたり許諾していたことと整合するものである。
原告は、12年度資料の電子データは参考に渡したのみであり、Bからの金員も資料貸与料として受領したとして、複製の許諾はしていない旨主張する。
しかし、12年度資料を単に参考にするのであれば、既に印刷されたものを参照することで足り、被告工業会から写しの交付を受けるなどの方法も考えられるから、Dが原告に引継ぎを指示する必要がないことは、前記検討のとおりであるし、他の文献や資料などと同様に12年度資料を参考にするためだけを目的として「貸与料」が支払われ、しかも、それが、平成13年度及び平成14年度の2回にわたり、合計20万円も授受されることも極めて不自然であるから、原告の主張を採用することはできない(なお、原告が、その後、被告会社と紛争を生じる段階に至って12年度資料の複製を許諾していないと述べることが、上記の認定判断を左右するものではないことは明らかである。)。
したがって、原告は、13年度資料及び14年度資料の作成について、12年度資料の複製を許諾していたと認められるのであるから、13年度資料及び14年度資料は12年度資料の複製物と評価できるものであるものの、これらの作成や交付は、12年度資料についての原告の複製権を侵害するものではないと認められる。
3 争点3(被告らによる口述権侵害の有無)について
 原告は、被告らにおいて、平成13年度及び平成14年度の維持講習の際に、12年度資料を複製した13年度資料及び14年度資料を、原告の許諾なく使用し、不特定多数又は特定多数の公衆に対して口頭で伝達したものであり、原告の有する12年度資料を公に口述する権利を侵害した旨主張する。
 しかし、維持講習の講習資料は、講演の内容を示し、解説しているものではあるが、その性質上、内容が朗読等によって口述されるものではないのであって、同資料をもとに講演をすることをもって、同資料を口述したということはできない(なお、13年度資料及び14年度資料が、維持講習において実際に口述されたことを認めるに足りる証拠はない。)。
 したがって、被告らが13年度資料及び14年度資料を原告の許諾なく使用したか否か等を検討するまでもなく、原告の主張する口述権の侵害は、到底認めることができない。
4 争点4(被告らによる氏名表示権侵害の有無)について
 原告は、被告らにおいて、12年度資料を複製した13年度資料及び14年度資料を使用した際、Bの氏名を表示して原告の氏名を表示しなかったものであり、原告の氏名表示権を侵害した旨主張する。
 しかし、前記1(2)ウにおいて検討したとおり、12年度資料の表紙に講師名として記載されている原告の氏名の表示は、あくまでも当該維持講習の講師名を表示するものであって、12年度資料の著作名義を表示するものとはいえず、氏名表示権の、著作者名を表示するかしないかを選択する権利であるという側面からみた場合、原告は、12年度資料について、少なくとも、原告の氏名を著作者名として表示しないことを選択しているものと解される。そうすると、13年度資料及び14年度資料に講師名としてBの氏名を付するとともに、その他は、12年度資料及び同資料を含む講習資料集と同様の表示をして、平成13年度及び平成14年度の維持講習の講習資料集を作成し、使用することは、著作者名を表示しないこととした原告の措置と同様の措置をとっていることになるから、著作者名の表示に関する原告の当時の意思に反するものではなく、原告の氏名表示権を侵害するものとはいえないと解するのが相当である。
 したがって、原告の主張する氏名表示権の侵害は認められない。
5 争点5(被告らによる同一性保持権侵害の有無)について
(1) 13年度資料及び14年度資料における変更箇所
 13年度資料及び14年度資料は、変更箇所一覧表の「13年度資料」、「14年度資料」の各欄下線部分記載のとおり(ただし、変更箇所一覧表の番号11については、「※」を付して示したとおり、記載内容は別添1及び2のとおりである。)、対応する「12年度資料」欄の記載に変更を加えている(当事者間に争いはない。)。
(2) 検討
 被告らは、前記(1)の変更箇所のうち、一部については、原告の創作に係るものではなく同一性保持権侵害を主張することができない部分であるか、又は、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められるものであるとし、他の部分についても、同一性保持権の侵害となる改変ではない旨主張するので、以下、検討する。
ア 著作者の有する同一性保持権は、著作物が、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり、それによって、著作者に対する社会的な評価が与えられることから、その同一性を保持することによって、著作者の人格的な利益を保護する必要があるとして設けられているものであり、「意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(著作権法20条1項)という文言でその趣旨が表現されているものと解される。そして、意に反するか否かは、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反するといえるかどうかという客観的観点から判断されるべきであると考えられる。そうすると、同一性保持権の侵害となる改変は、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反するといえる場合の変更がこれに当たるというべきであり、明らかな誤記の訂正などについては、そもそも、改変に該当しないと解されるところである。
 本件で同一性保持権侵害の有無が問題となっている12年度資料は、維持講習の「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする講習の資料であり、計装士の資格を有する者に対して、講習内容についての事実を正しく伝え、また、関連する最新の情報を伝えるとともに、講演者の個性ではなく当該分野での経験に基づく専門知識を伝達することが期待され、予定されている性質のものである。さらに、5年間同一のテーマで行われる維持講習の資料であって、合綴されて講習資料集としてまとめられるという性質上、他の年度の講習資料と分量的な差異がそれほど生じないようにすることも求められていると解される。そして、次年度の資料作成のために複製が許諾される場合には、講演の時期に合わせた修正がなされること、用語などについても、当該分野で一般的に用いられている最新のものを選択することが求められているものである。以上に加えて、著作者である原告も、同様に維持講習を受けた経験を有し、既に2年間維持講習の講師を務めているのであるから、上記のような客観的事情を十分認識して、講習資料を作成したものであると推認される。
イ また、アで検討した事情は、同一性保持権侵害の例外として認められる「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するか否かにおいても、同様に考慮されるべきものであると解される。
ウ そこで、このような、12年度資料についての性質、著作者である原告の立場を踏まえ、個々の変更箇所について検討する。
(ア) 変更箇所一覧表の番号1
 この部分は、目次の記載であり、目次の性質上、本文の内容を反映させるものであるから、この部分のみをもって改変であるということはできない。
 そこで、対応する本文の変更部分についてみると、後記(イ)、(ウ)及び(ク)のとおり、いずれも、同一性保持権を侵害するものではないから、目次の変更は、本文の変更に伴うやむを得ない改変に当たるというべきである。
(イ) 変更箇所一覧表の番号2
 この部分の変更のうち、「ハセップ」から「ハサップ」への変更は、一般的な読み方を示す言葉への置換えであり、「国際化・デジタル化」から「IT化」への変更についても、より一般的に用いられている用語への置換えにすぎず(乙5の1〜5の3)、いずれも、改変とはいえない。
 13年度資料及び14年度資料の「空調計装分野では」から始まる段落部分の変更については、抽象的、専門的な表現から、より平易な表現への置換えにすぎず(乙5の1〜5の3)、また、14年度資料の「深化を更に」の追加変更については、単に表現を分かりやすくしたものにすぎず、同様に、改変とはいえない。
(ウ) 変更箇所一覧表の番号3
 12年度資料の該当部分は、「電気と工事」1988年4月号(甲12)103ページの「ゼロエミッションとCOP3」の一部を転載したもので、原告の創作に係る部分ではないから、原告において同一性保持権侵害を主張することはできない(なお、変更が加えられている13年度資料及び14年度資料の該当箇所の前半部分は、単に表現を平易にしたものであるし、後半部分は、環境対策に関する最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、前記ア及びイで検討したとおり、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解されるのであるから、いずれにしても、同一性保持権を侵害するものではない。)。
(エ) 変更箇所一覧表の番号4
 この部分の変更は、地球温暖化に関する最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(オ) 変更箇所一覧表の番号5
 この部分の変更のうち、13年度資料及び14年度資料の「氷蓄熱システム製氷時と昼間追い掛け運転時では…氷蓄熱では蓄熱率40%(蓄熱40+昼間追い掛け60=100)となる。」の部分及び「それぞれの方式の一般的な特徴としては、…最適なシステムを選定することが肝要である。」の部分は、いずれも、当該分野における最新情報を加えたり、説明事項を追加しているものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
 その他の変更は、単に表現を平易にするものであり(乙5の1〜5の3)、改変には該当しない。
(カ) 変更箇所一覧表の番号6
 この部分の変更のうち、13年度資料及び14年度資料の「(1) CGSとは」の部分の記載、「現在、CGSに使われている原動機には@ガスタービン、Aガスエンジン、Bディーゼルエンジン、C燃料電池などがある。一般的には、発電主体の小・中規模施設にはエンジンを」の部分、「他方最近では、…表3.1にマイクロガスタービンのラインナップを示す。」の部分及び表3.1は、いずれも当該分野における最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
 その他の変更は、単に表現を平易にするものであり(乙5の1〜5の3)、改変には該当しない。
(キ) 変更箇所一覧表の番号7
 この部分の変更は、記述順序を変えて、重複する表現を一部省略したものであり(乙5の1〜5の3)、改変とはいえない。
(ク) 変更箇所一覧表の番号8
 この部分の変更は、「ハセップ」を「ハサップ」と変更するものであり、一般的な読み方を示す言葉への置換えであるにすぎないから、改変には当たらない。
(ケ) 変更箇所一覧表の番号9
 この部分の変更は、14年度資料についてのみ該当するところ、当該分野における最新情報を加えたものであり(乙5の1、5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(コ) 変更箇所一覧表の番号10
 この部分の変更は、空調設備と計装技術の整合性の確保に関して紹介する具体例を3つから2つに減少させたものであるが、資料の一部に最新情報を追加したことなどに伴い、資料全体のページ数を増やさないために行われたものである(乙5の1〜5の3)から、12年度資料の性質、12年度資料と分量的にもそれほど差異がないものを作成することが客観的に求められている本件講習の資料として作成するという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(サ) 変更箇所一覧表の番号11
 この部分の変更は、当該分野における最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3、16、17)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(シ) 変更箇所一覧表の番号12
 この部分の変更のうち、「ブロードバンド」の記載を追加した部分は、最新情報を追加したものであり、その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず(乙5の1〜5の3)、いずれも、改変とはいえない。
(ス) 変更箇所一覧表の番号13
 この部分の変更は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(セ) 変更箇所一覧表の番号14
 この部分の変更のうち、13年度資料の「2)BACnetTM」における「しかし、現時点においては…期待されている。」の部分並びに14年度資料の「2)BACnetTM」における「しかし、現時点においては…実際の現場でも多数の施工事例が進行中である。」の部分及び「3)その他」における「また、FA分野で使用されているINTOUCH、FIX等のSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)ソフト+OPC(OLE for Process Control)技術によるオープンシステムをBA分野に利用する試みも行われている。」の部分は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
 その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず(乙5の1〜5の3)、いずれも、改変とはいえない。
(ソ) 変更箇所一覧表の番号15
 この部分の変更のうち、13年度資料の「2)SIの課題」「C国内にオープン化対応品の品揃えが少ない」における「対応製品は日々増加しているが、今後国産品はもちろん海外製品の輸入が増えたり、国内ベンダと海外ベンダの技術提携・業務提携などが増えたりして価格競争が進むことが予想される。」、「対応製品は、インバータや自動弁などで開発が進みつつある。」、「また、LONMARK会員企業数は、2001年7月現在、全世界で310社以上となっている。(http://www.lonmark.org 英語のウェブサイト)」及び「BACnetまたはBAS標準インターフェース対応品は、メーカ各社で実際の製品が出荷されつつあり今後一層製品ラインナップが増加するものと思われる。」の各部分並びに14年度資料の「2)SIの課題」「Cオープン化対応品の品揃えがまだ少ない」における「前述のエシェロン社のWebページなどに情報がある。対応製品は日々増加しているが、今後国産品はもちろん海外製品の輸入が増えたり、国内ベンダと海外ベンダの技術提携・業務提携などが増えたりして価格競争が進むことが予想される。」、「対応製品は、インバータや自動弁などで開発が進みつつある。」、「また、LONMARK会員企業数は、2002年6月現在、日本企業が23社、外国企業は270社以上となっている。(http://www.lonmark.gr.jp/)」及び「BACnetまたはBAS標準インターフェース対応品は、多くの現場で施工中であり、今後一層製品ラインナップが増加するものと思われる。」の各部分は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり(乙5の1〜5の3)、12年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
 その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず(乙5の1〜5の3)、いずれも、改変とはいえない。
エ 小括
 したがって、変更箇所一覧表記載の各変更部分については、いずれも、同一性保持権の侵害とはならない。
6 争点8(不当利得返還請求権の有無)について
 原告は、12年度資料の著作権を有するものであるから、被告らが、12年度資料を不法に利用したことによって得た収益及び講師報酬は、不当利得となり、原告は、600万円の不当利得返還請求権を有する旨主張する。
 原告は、前記1で検討したとおり、12年度資料の著作権を有するものではあるが、前記2ないし5で検討したとおり、自ら12年度資料の複製を許諾しており、被告らによる、12年度資料について原告が有する著作権(複製権、口述権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害は認められないから、被告らにおいて、12年度資料の利用により、法律上の原因なく利益を受けたとは到底認められず、その利益の内容等を検討するまでもなく、原告の被告らに対する前記不当利得返還請求は認めることができない。
 したがって、原告の主張を採用する余地はない。
7 まとめ
 そうすると、他の点について論ずるまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないことになる。
第4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 東崎賢治
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