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【事件名】カラオケ無断使用事件(クラブ) 【年月日】平成18年2月6日 大阪地裁 平成17年(ワ)第7734号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結の日 平成17年12月26日) 判決 原告 社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護士 北本修二 同 七堂眞紀 被告 P1 訴訟代理人弁護士 得本嘉三 同 水戸守雅之 主文 1 被告は、別紙店舗目録記載の店舗において、別添楽曲リスト(「2004年10月1日発行」と記載されたもの及び「2005年6月24日発行」と記載されたもの)に記載された音楽著作物を、次のいずれかの方法により使用してはならない。 (1) 奏者をしてエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器により演奏させる方法 (2) 奏者による楽器の伴奏に合わせて客又は従業員をして歌唱させる方法 (3) カラオケ機器を操作して歌詞の文字表示を再生する方法 2 被告は、別紙店舗目録記載の店舗から、別紙物件目録記載の物件を撤去せよ。 3 被告は、別紙店舗目録記載の店舗内に、エレクトーン、シンセサイザーその他の楽器類並びにマイク、アンプ、スピーカー及びモニターテレビ等の組み合せからなるカラオケ機器を搬入してはならない。 4 被告は、原告に対し、482万1945円並びにうち別紙遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対するこれに対応した各起算日欄記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員及びうち60万円に対する平成17年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告に対し、平成17年8月1日から、別紙店舗目録記載の店舗において、別添楽曲リスト(「2004年10月1日発行」と記載されたもの及び「2005年6月24日発行」と記載されたもの)に記載された音楽著作物の演奏を停止するまで、毎月末日限り、1月及び3月ないし12月については1か月当たり10万2375円、2月については1か月当たり9万8280円(ただし、閏年であって2月1日が日曜日に当たらない年においては1か月当たり10万2375円)の割合による金員を支払え。 6 原告のその余の請求を棄却する。 7 訴訟費用はこれを50分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。 8 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項ないし第3項と同旨 2 被告は、原告に対し、508万1945円並びにうち別紙遅延損害金目録の元本欄記載の各金員に対するこれに対応した各起算日欄記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員及びうち86万円に対する平成17年8月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、平成17年8月1日から、別紙店舗目録記載の店舗において、別添楽曲リスト(「2004年10月1日発行」と記載されたもの及び「2005年6月24日発行」と記載されたもの)に記載された音楽著作物の演奏を停止するまで、毎月末日限り、1か月当たり10万2375円の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、被告が、その経営している店舗において、原告の許諾を得ないまま、その管理に係る音楽著作物を使用していると主張して、原告が、原告管理に係る音楽著作物の使用差止め等と損害賠償を請求した事案である。 1 原告の主張 (1) 各請求の前提となる事実 ア 原告は、著作権等管理事業法に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者であり、内国著作物については、管理委託契約により国内の多くの作詞者、作曲者、音楽出版者等の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、上映権、録音権等)につき信託を受け、外国の著作物については、日本国が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結するなどしてこれを管理し、国内の放送事業者を始め、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。 イ 別添楽曲リスト(「2004年10月1日発行」と記載されたもの及び「2005年6月24日発行」と記載されたもの)に記載された音楽著作物は、いずれも、原告がそれぞれの著作権者から著作権の信託等を受けて著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。 ウ 被告は、別紙店舗目録記載の店舗(以下「本件店舗」という。)を、平成14年2月から現在まで経営している。 エ 本件店舗は社交飲食店であり、店内には、エレクトーン、シンセサイザー、マイク、アンプ、スピーカー及びモニターテレビ等の組み合わせからなるカラオケ機器一式が設置されている。 オ 本件店舗では、日曜日を除く週に6日(ただし、平成14年ころは祝日も休業日であった。)、午後7時から午後12時までの営業時間中、終始継続的に奏者を出演させ、奏者にエレクトーン又はシンセサイザーを演奏させて、この演奏を来店した不特定多数の客に聞かせたり、あるいは、これら楽器の演奏とともにカラオケ機器を稼動させ、歌詞を文字表示させながら、客又は従業員に歌唱させている。 カ 本件店舗において、上記オの方法により使用されている楽曲のほとんどは管理著作物である。 キ 原告は、平成14年10月25日に、本件店舗の実態調査を行い、それ以降、被告に対し、原告との間で著作物利用許諾契約を締結するよう、再三にわたって促したが、現在まで、被告はこれに応じていない。 (2) 差止め等の請求 ア 本件店舗の営業の性質上、被告が、将来にわたって、反復継続して、上記(1)オの態様により、管理著作物を使用するであろうことは明らかである。 よって、原告は、著作権法112条1項に基づき、被告に対し、@奏者をしてエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器により演奏させる方法、A奏者による楽器の伴奏に合わせて客又は従業員をして歌唱させる方法、及び、Bカラオケ機器を操作して歌詞の文字表示を再生する方法による、管理著作物の使用の差止めを求める。 イ 上記(1)カのとおり、本件店舗において、上記(1)オの方法により使用されている楽曲のほとんどは管理著作物であるから、本件店舗内に設置されている別紙物件目録記載の物件は、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」にあたる。 よって、原告は、著作権法112条2項に基づき、被告に対し、別紙物件目録記載の物件の撤去を求める。 ウ 上記(1)キのとおり、原告が、再三にわたって著作物利用許諾契約の締結を促しても、被告が、これに応じなかった経緯からすれば、被告は、判決により差止めを命じられても、別のエレクトーン、シンセサイザー等の楽器類やカラオケ機器を搬入して、管理著作物の使用を継続するおそれが高い。 よって、原告は、著作権法112条2項に基づき、被告に対し、本件店舗へのエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器類並びにマイク、アンプ、スピーカー及びモニターテレビ等の組み合せからなるカラオケ機器の搬入の差止めを求める。 (3) 損害賠償の請求 ア 平成17年7月までの分(著作権法114条3項による損害額の計算) (ア) 被告による管理著作物の著作権の侵害行為により、原告は、少なくとも、使用料相当額の損害を被った。 (イ) 本件店舗においては、標準単位料金は2万円を超え2万5000円までであり、座席数は40席を超え80席までである。 (ウ) 平成14年2月5日時点では、平成13年10月2日施行の使用料規程が適用されており、その後、現在まで、上記使用料規程は4回にわたって変更されたが、これらの使用料規程のいずれにおいても、標準単位料金2万円を超え2万5000円までの店舗の場合の生演奏1曲1回5分までの使用料は、座席数40席を超え80席までは260円と定められており、これに消費税相当分が加算される。 (エ) 本件店舗においては、上記(1)オのとおり、営業時間中、終始継続的に奏者を出演させ、奏者にエレクトーン又はシンセサイザーの生演奏あるいは客が歌唱する場合の伴奏が行われていた。1営業日当たりの管理著作物の使用は、少なくとも15曲に及んでいた。 また、本件店舗は、上記(1)オのとおり、平成14年10月26日当時は日曜日と祝日を除き、平成16年7月21日当時は日曜日を除き営業していたから、平成14年2月5日の開店から平成16年7月までは祝日も休業していたとしても、本件店舗は、少なくとも、各月当たり、別紙使用料相当額一覧表の営業日数欄記載の日数は営業していた。 (オ) 上記(イ)ないし(エ)の各事実に照らせば、平成14年2月から平成17年7月までの各月当たりの使用料相当額は、別紙使用料相当額一覧表記載のとおり(その計算式は下記のとおり。)となる。 ○ 計算式:260円×15曲×(営業日数)×1.05=使用料相当額 (カ) よって、原告は、被告に対し、平成14年2月1日から平成17年7月31日まで(42か月)の損害賠償として、422万1945円及び各月分の損害額につきその翌月1日から法定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 イ 平成17年8月以降の分(著作権法114条3項による損害額の計算) (ア) 本件店舗の営業の性質上、被告が、将来にわたって、反復継続して、上記(1)オの態様により、管理著作物を使用するであろうことは明らかである。 (イ) 本件店舗は、上記(1)オのとおり、日曜日を除き週6日営業しているから、少なくとも、各月当たり、25日は営業している。 したがって、1か月当たりの使用料相当額は、下記の計算式のとおり、10万2375円となる。 ○ 計算式:260円×15曲×25日日×1.05=102,375円 (ウ) よって、原告は、被告に対し、平成17年8月1日から別紙店舗目録記載の店舗における管理著作物の演奏停止まで、その間の損害賠償として、毎月末日限り、1か月当たり10万2375円の割合による金員の支払いを求める。 ウ 弁護士費用相当額 86万円 2 被告の主張 被告は本件店舗を経営していない。 本件店舗の経営者はP2である。 したがって、原告の主張は全て否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 各請求の前提となる事実について (1) 甲第1、第2号証、第3号証の1・2によれば、前記第2の1(1)アの事実を認めることができる。 (2) 甲第3号証の1・2、第23号証及び弁論の全趣旨によれば、前記第2の1(1)イの事実を認めることができる。 (3)ア 甲第4ないし第7号証、第9、第18、第19号証の各1によれば、本件店舗についての大阪市保健所長の営業許可は、被告が申請し、平成13年12月12日にこれを受け、少なくとも平成16年7月14日時点までその内容が変更されていないこと、本件店舗についての風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく風俗営業(カフェー営業)の許可は、被告を営業者として、平成14年2月5日にこれを受け、少なくとも平成16年8月12日までその内容が変更されていないこと、本件店舗に設置された電話2本のうち、1本については、被告が契約者であり、もう1本については、被告他1名が契約者であることを認めることができる。 また、甲第8号証、第9、第18、第19号証の各1によれば、本件店舗において、「P1'」なる女性が、本件店舗の従業員らから「ママ」ないし「大ママ」と呼ばれ、「オーナー」の肩書の入った名刺を用いていること、本件店舗の従業員らの間では、「P1'」なる女性が本件店舗の経営者であると認識されていること、「P1'」なる女性が使用している携帯電話の契約者が被告であることを認めることができる。 以上の各事実に照らせば、本件店舗は、平成14年2月の開店当初から現在まで、継続して、「P1'」こと被告が経営しているものと優に推認することができる。 イ この点について、被告は、本件店舗の経営者はP2であり、被告は本件店舗を経営していないと主張し、これに沿う内容の被告の陳述書(乙1)を提出する。 また、甲第11ないし第15、第23号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成15年3月31日、被告及び被告が代表取締役を務めるK1有限会社を相手方として、本件店舗における管理著作物の使用により生じた損害の賠償等を求める調停を大阪簡易裁判所に申し立てたところ、調停期日にP2が出頭し、被告ではなく自分が本件店舗の経営者であり、自分が個人で調停の当事者となる旨述べたため、上記調停申立てを取り下げた上、同年9月ころ、P2を相手方として、ほぼ同旨の調停を大阪簡易裁判所に申し立てたこと、同月22日、同裁判所において、原告とP2との間で、本件店舗における管理著作物の使用料相当額として、P2が原告に対し、80万円を分割して支払う等の内容の調停が成立し、また、両名の間で、本件店舗における音楽著作物利用許諾契約が締結されたことが認められる。 しかしながら、甲第16号証、第17号証の1・2、第23号証によれば、P2は、その後現在まで、上記成立した調停に基づく支払いを全くせず、上記締結した音楽著作物利用許諾契約に基づく使用料の支払いも全くしていないことが認められる。もしP2が前記2回の調停の際に真実を述べていたとしたならば、このように自ら申し出て成立させた調停に基づく支払いや音楽著作物利用許諾契約に基づく使用料の支払いを全くしないとは考え難い。したがって、上記のとおりの調停及び音楽著作物利用許諾契約締結の経過があるといっても、P2が上記経過において述べていたことが真実とは認め難いから、上記経過を根拠として、直ちに本件店舗を経営していると認めることはできない。よって、上記の調停及び契約締結の経過は、被告が本件店舗を経営しているという上記アの認定を妨げるものとはいえない。 また、上記被告の陳述書(乙1)には、「私は『クラブ R』を経営していません。P2が経営についてすべてやっているのです。」との記載があるが、本件店舗の経営に関してこれ以上の記載はなく、本件店舗の経営の実態や、本件店舗と被告ないしP2との関係等について、何ら具体的な事実を述べるものではないから、にわかにその記載内容を採用することはできず、これも上記アの認定を妨げるものではない。 なお、被告は、P2の陳述書(乙2)も提出するが、これには、「K1有限会社を設立し、P1を代表取締役にしたのは、私が勝手にした事です。これで、調停においても私が責任を負い、支払いをする事にしたのです。」との記載はあるものの、本件店舗の経営の実態については何らの記載もなく、裏付けもないものであるから、これも上記アの認定を妨げない。 そして、他に、上記アの認定を左右するに足りる証拠はない。 ウ なお、本件店舗の営業開始日については、甲第9、第18、第19号証の各1により、平成14年2月5日であると認められる。 (4) 甲第5、第6号証、第9、第18、第19号証の各1によれば、前記第2の1(1)エの事実を認めることができる。 (5) 甲第9、第18、第19号証の各1によれば、前記第2の1(1)オの原告主張事実のうち、休業日及び営業時間を除く各事実を認めることができる。 上記各号証によれば、平成14年の開店当初は、本件店舗の休業日は日曜日及び祝日(国民の休日及び振替休日における営業の有無については後述する。)であり、営業時間は午後7時30分から午後12時までであり、その後、平成16年7月ころまでの間に、本件店舗の休業日は日曜日のみとなり、営業時間も午後7時から午後12時までと変更され、現在に至っているものと認めるのが相当である。 ただし、上記休業日及び営業時間の変更時期は、証拠上直ちに明らかではない。 (6) 甲第9、第18、第19号証の各1・2及び弁論の全趣旨によれば、@平成14年10月25日に原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約2時間45分の間に、26曲が演奏され、そのうち20曲が管理著作物であったが、そのうち2曲は調査員の求めにより演奏されたものであったこと(すなわち、調査員の求めによるものを除けば、24曲が演奏され、そのうち18曲が管理著作物であったこと)、A平成16年7月20日に原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約2時間57分の間に、24曲が演奏され、そのうち18曲が管理著作物であったが、そのうち2曲は調査員の求めにより演奏されたものであったこと(すなわち、調査員の求めによるものを除けば、22曲が演奏され、そのうち16曲が管理著作物であったこと)、B平成17年2月10日に原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約3時間50分の間に、44曲が演奏され、そのうち26曲が管理著作物であったが、そのうち4曲は調査員の求めにより演奏されたものであったこと(すなわち、調査員の求めによるものを除けば、40曲が演奏され、そのうち22曲が管理著作物であったこと)、が認められる。 このように、3回にわたる本件店舗の調査において、調査員が求めたものを除いて、演奏された楽曲に占める管理著作物の割合が55パーセントから75パーセントに及ぶことに照らせば、本件店舗において、使用されている楽曲の少なくとも過半数は、管理著作物であると推認することができる。 (7) 甲第11号証、第20ないし第22号証の各1・2、第23号証によれば、前記第2の1(1)キの事実を認めることができる。 2 差止め等の請求について (1) 前記1(4)のとおり、本件店舗は、社交飲食店であると認められるところ、その営業の性質と、被告が平成14年2月5日から継続して管理著作物を使用してきたことに照らせば、被告が、将来にわたって、前記1(5)の方法により、管理著作物を使用し続ける蓋然性は高いものと認められる。 よって、原告の、@奏者をしてエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器により演奏させる方法、A奏者による楽器の伴奏に合わせて客又は従業員をして歌唱させる方法、及び、Bカラオケ機器を操作して歌詞の文字表示を再生する方法による、管理著作物の使用差止めの請求は、理由がある。 (2) 前記1(6)のとおり、本件店舗において、前記1(5)の方法により使用されている楽曲は、少なくともその過半数が管理著作物であると認められ、本件店舗内に設置されている別紙物件目録記載の物件は、上記方法による管理著作物である楽曲の使用において用いられるものと認められ、また、別紙物件目録記載の物件が、楽曲演奏や歌唱時の伴奏、歌唱時の楽曲の歌詞の文字表示以外の用途に用いられていることは、主張上も証拠上もうかがわれない。 以上に照らせば、被告による管理著作物の使用による著作権侵害行為の停止及び予防に必要な措置として、別紙物件目録記載の物件の本件店舗からの撤去を求める原告の請求は、理由がある。 (3) 前記1(7)のとおり、原告が再三にわたって著作物利用許諾契約の締結を促しても、被告が応じてこなかったという経緯に照らせば、被告が、判決により管理著作物の使用を差し止められても、これに従わず、また、別紙物件目録記載の物件を本件店舗から撤去されても、別のエレクトーン、シンセサイザー等の楽器類やカラオケ機器を搬入して、管理著作物の使用を継続するおそれは高いものといわざるを得ない。 よって、原告の、本件店舗へのエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器類並びにマイク、アンプ、スピーカー及びモニターテレビ等の組み合せからなるカラオケ機器の搬入差止めの請求は理由がある。 3 損害賠償の請求について (1) 平成17年7月までの分(著作権法114条3項による損害額の計算) ア 被告による管理著作物の著作権の侵害行為により原告が被った損害の額については、著作権法114条3項により、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額とすることができる。 イ そこで、本件店舗における管理著作物の使用について支払うべき使用料相当額について検討する。 前記1(4)及び(5)で認定した事実並びに甲第9、第18、第19号証の各1によれば、本件店舗が社交飲食店、すなわち、酒類の提供を主たる目的とするものであって、ホステス等の社交員の接待が通常伴う店舗であること、本件店舗の座席数は、時期によって変動はしているものの、72席ないし73席であること、本件店舗における管理著作物の使用態様は、生演奏及び生演奏(生演奏とともにカラオケ装置による演奏をする場合もある。)を伴奏とした歌唱並びに歌唱時の歌詞の表示であること、平成14年10月25日、平成16年7月20日及び平成17年2月10日の3回にわたって、原告が依頼した調査員各2名が客として本件店舗に赴いて調査した際に支払った代金は、それぞれ、5万円、7万円及び7万円であったことが認められる。 ところで、甲第3号証の1・2によれば、平成14年2月5日から現在まで、原告の使用料規程において、酒類の提供を主たる目的とするものであって、ホステス等の社交員の接待が通常伴う店舗は社交場の業種2に分類され、包括的利用許諾契約を結ばない場合には1曲1回の使用料(別表16)により使用料を算出すべきとされていること、その際、管理著作物の使用態様が生演奏であるときには別表16の1により使用料を算出すべきとされていることが認められる。 したがって、本件店舗は業種2に属し、別表16の1により使用料を算出すべきものとなる。 別表16の1においては、座席数と標準単位料金の区分に応じて1曲1回の使用料を定めている。 ここで、上記のとおり、本件店舗の座席数は72席ないし73席である。なお、原告の使用料規程によれば、業種2においてホステスなどの常勤の社交員がある場合で、座席数が41席以上80席までのものは、その座席数の100分の10を限度として常勤の社交員数を控除した数を座席数とすることとされており、その上限とされる座席数の100分の10を控除しても、本件店舗の座席数は64席ないし65席となる。したがって、いずれにしても、本件店舗の座席数は、別表16の1における40席を超え80席までの区分に属するものとなる。 また、上記のとおりの、原告が依頼した調査員が客として本件店舗に赴いて調査した際に支払った代金の額に照らすと、本件店舗の標準単位料金は、少なくとも、別表16の1における2万円を超え2万5000円までの区分に属すると認めることができる。 以上に基づいて別表16の1により計算される本件店舗における管理著作物の使用に際して支払うべき使用料相当額は、1曲1回当たり260円及び消費税相当額である13円の合計273円となる。 ウ 前記1(6)のとおり、上記の3回にわたって、原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査した際に演奏された管理著作物の曲数は、それぞれ、20曲、18曲及び26曲であり、このうち調査員の求めにより演奏されたものを除いても、18曲、16曲及び22曲に上ったことが認められる。 以上の各事実によれば、本件店舗においては、1営業日当たり、少なくとも15曲の管理著作物が使用されていると推認するのが相当である。 したがって、本件店舗における管理著作物の使用について支払うべき使用料相当額は、1日当たり4095円と算定される。 エ 前記1(5)のとおり、本件店舗の休業日については、平成14年の開店当初は、日曜日及び祝日であったこと、その後、平成16年7月ころまでの間に、日曜日のみになったことが認められるが、その変更時期は証拠上明らかではない。 したがって、平成16年8月以降については、本件店舗は祝日にも営業していたと認めることができるが、平成14年から平成16年7月までの間については、本件店舗が祝日に営業していたことを認めることはできないことに帰する。また、国民の休日及び振替休日は、厳密にいえば祝日ではないが、これに準じるものということができるところ、平成16年7月までの間、これらの日に本件店舗が営業していたことを認めるに足りる証拠もないから、本件店舗がこれらの日に営業していたと認めることもできない(なお、原告も、これらと同様の前提に立って本件店舗の営業日数の主張をしている。)。 これらを前提として平成14年2月から平成17年7月までの各月における本件店舗の営業日数について検討するに、平成14年2月は、営業開始日は同月5日であり(前記1(3)ウ)、その日以降に3日の日曜日と1日の祝日が存在するから、営業日数は20日であり、同年5月は、4日の日曜日と3日の日曜日ではない祝日、国民の休日及び振替休日が存在するから、営業日数は24日であり、同年9月は、5日の日曜日と2日の日曜日ではない祝日及び振替休日が存在するから、営業日数は23日であり、同年11月は、4日の日曜日と2日の日曜日ではない祝日及び振替休日が存在するから、営業日数は24日であり、平成15年2月は、4日の日曜日と1日の祝日が存在するから、営業日数は23日であり、同年9月は、4日の日曜日と2日の祝日が存在するから、営業日数は24日であり、同年11月は、5日の日曜日と2日の日曜日ではない祝日及び振替休日が存在するから、営業日数は23日であり、平成16年2月は、閏年であるが、5日の日曜日と1日の祝日が存在するから、営業日数は23日であり、同年5月は、5日の日曜日と3日の祝日及び振替休日が存在するから、営業日数は23日であり、平成17年2月は、4日の日曜日が存在するから、営業日数は24日であると認められ、その余の月については、原告の主張のとおり、営業日数は少なくとも25日はあったものと認められる。 オ 以上を前提として、平成14年2月から平成17年7月までの各月について、本件店舗における管理著作物の使用について支払うべき1か月当たりの使用料相当額を計算すると、以下のとおりとなる(なお、その内容は別紙使用料相当額一覧表と同一である。)。 @ 平成14年2月(営業日数20日) 8万1900円(4,095円×20日) A 平成14年9月、平成15年2月、同年11月、平成16年2月、同年5月の各月(営業日数各23日) 9万4185円(4,095円×23日) B 平成14年5月、平成14年11月、平成15年9月、平成17年2月の各月(営業日数各24日) 9万8280円(4,095円×24日) C 上記以外の各月(営業日数各25日) 10万2375円(4,095円×25日) 以上を合計すると、422万1945円となる。 これが、平成17年7月までに、被告による管理著作物の著作権の侵害行為により原告が被った損害の額として賠償を請求することができる額である。 (2) 平成17年8月以降の分(著作権法114条3項による損害額の計算) ア 前記1(4)のとおり、本件店舗は、社交飲食店であると認められるところ、その営業の性質と、被告が平成14年2月5日から継続して管理著作物を使用してきたことに照らせば、被告が、将来にわたって、前記1(5)の方法により、管理著作物を使用し続ける蓋然性は高いものと認められる。 そして、前記1(7)のとおり、原告が再三にわたって著作物利用許諾契約の締結を促しても、被告が応じてこなかったという経緯に加えて、本件訴訟における被告の主張立証の態様に照らせば、本件の口頭弁論終結時以降に被告が管理著作物を使用することにより原告に生じる損害についても、将来給付の請求をする必要があるものと認めるのが相当である。 イ 被告による管理著作物の著作権の侵害行為により原告が被った損害の額について、著作権法114条3項により、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額とすることができることは前記(1)と同様である。 そして、前記(1)イウで検討したとおり、本件店舗における管理著作物の使用について支払うべき使用料相当額は、1日当たり4095円と算定される。 ウ 前記1(5)のとおり、現在における本件店舗の休業日は、日曜日のみであると認められるから、本件店舗は、2月を除く各月において、1か月当たり少なくとも25日は営業するものと認められる。 これに対し、2月については、閏年ではない年については、1か月が28日しかなく、そのうち日曜日は4日存在するから、1か月の営業日数は24日しかないものと認められる。 また、閏年の2月については、1か月が29日あるが、このうち、1日が日曜日に当たらない年は日曜日が4日、1日が日曜日に当たる年は日曜日が5日存在することになるから、1か月の営業日数は、それぞれ25日及び24日となる。 以上をまとめると、本件店舗の1か月当たりの営業日数は、1月及び3月ないし12月は少なくとも25日、2月については24日、ただし、閏年であって2月1日が日曜日に当たらない年においては25日となる。 エ 以上を前提として、本件店舗における管理著作物の使用について支払うべき1か月当たりの使用料相当額を計算すると、営業日数が少なくとも25日の月(1月及び3月ないし12月並びに閏年であって2月1日が日曜日に当たらない年における2月)は10万2375円(4,095円×25日)、24日の月(上記以外の2月)は9万8280円(4,095円×24日)となる。 これが、平成17年8月以降、被告による管理著作物の著作権の侵害行為により原告が被った、あるいは本件訴訟の口頭弁論終結時以降に被ることとなる損害の額として賠償を請求することができる額である。 (3) 弁護士費用相当額 原告が、本件訴訟の提起及び追行を弁護士である原告代理人らに依頼したことは当裁判所に顕著であり、本件訴訟の内容、その提起及び追行の困難性並びに上記のとおり認定される原告が被った損害額等に照らせば、原告が原告代理人らに支払う報酬等のうち、被告の不法行為と相当因果関係がある損害額としては、60万円と認めるのが相当である。 4 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は主文掲記の限度で理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田知司 裁判官 高松宏之 裁判官 守山修生 |
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