判例全文 line
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【事件名】類似薬剤の不正競争事件F
【年月日】平成18年1月31日
 東京地裁 平成17年(ワ)第5652号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年12月6日)

判決
原告 エーザイ株式会社
訴訟代理人弁護士 中村勝彦
同 長坂省
同 藤井基
同 柏健吾
同 太田知成
同 伊勢智子
同 宮下央
被告 株式会社陽進堂
訴訟代理人弁護士 浦崎威
同 久保精一郎


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を製造及び販売してはならない。
2 被告は、その占有に係る別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金20万4000円及びこれに対する平成17年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、PTPシートにカプセルが装填された形態の胃潰瘍治療剤を販売する原告が、原告商品と同一の有効成分を含有し、同様の形態を有する胃潰瘍治療剤を製造及び販売する被告に対し、被告商品のPTPシート及びカプセルの配色が原告商品と類似し、混同のおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号及び同法3条各項に基づき、被告商品の製造及び販売の停止並びに廃棄を求めるとともに、同法4条及び5条2項に基づき、被告の不正競争行為により原告の被った損害の賠償(遅延損害金については、不法行為の後である訴状送達の日の翌日から年5分の割合による。)を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は、医薬品等の製造、販売、輸出入等を業とする株式会社である。
イ 被告は、医薬品等の製造、販売、輸入販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告商品及び被告商品
ア 原告商品
 原告は、昭和59年12月6日から、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「セルベックスカプセル50r」。以下「原告商品」という。)を販売している。
イ 被告商品
 被告は、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「アンタゴスチンカプセル」。以下「被告商品」という。)の製造及び販売をしている。
ウ 原告商品及び被告商品は、患者への販売には医師の処方せんを必要とする、いわゆる医療用医薬品である。
(3) 原告商品と被告商品の配色の共通性
 原告商品と被告商品は、@銀色地に青色の文字等のデザインを付したPTPシートに、A緑色及び白色の2色からなるカプセルが装填された形態である(上記のPTPシート及びカプセルの配色を「本件配色」という。)という点において共通する。
2 争点
(1) 本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか。
(2) 本件配色が原告商品の商品等表示として周知性を有するか。
(3) 原告商品と被告商品との間に商品等表示の類似性があるか。
(4) 原告商品と被告商品との間に混同のおそれがあるか。
(5) 原告の被った損害の額
(6) 原告の被告に対する権利主張は信義則違反又は権利濫用に当たるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか)について
(原告の主張)
ア 商品の色彩が商品等表示に該当するかどうかの判断要素としては、@一定期間の独占的継続的使用、A強力な広告宣伝、B販売数量(売上額、市場占有率)、C表示の独自性(特異性)が挙げられるが、そのすべてが必要不可欠ではなく、当該商品等表示と相手方の商品等表示との関係、取引の実情等によって事案毎に相対的に判断すべきものである。これを本件に当てはめると、以下のとおりである。
a) 一定期間の独占的継続的使用
 原告は、昭和59年12月の原告商品の販売開始以来、現在に至るまで20年以上にわたって原告商品に本件配色を使用している。原告は、被告商品等の後発医薬品の販売が開始された平成9年ころまでの約13年間、胃潰瘍治療剤として本件配色を独占的継続的に使用してきた。また、後発医薬品の販売が開始された後も、原告商品の販売数や処方数からすれば、本件配色を使用した胃潰瘍治療剤においては、原告商品が本件配色を事実上独占している。
b) 強力な広告宣伝
 原告は、原告商品の販売開始以来、現在に至るまで20年以上にわたり、全国に多数の医薬情報担当者(医薬品の適正な使用に資するために医療関係者を訪問すること等により、安全管理情報を収集し提供を行うことを主な業務とする者。以下「MR」という。)を雇用し、そのMRを通じて、医師、看護士、薬剤師その他医療従事者(以下「医師・薬剤師等」という。)に対し、原告商品の写真が掲載されたパンフレットやチラシの配布等を伴う熱心かつ地道な情報伝達活動等を行ってきた。
 また、原告は、自社のホームページ上でも、原告商品の製剤写真を掲載し、医師・薬剤師等のみならず、患者を含む一般市民に対しても、原告商品の外観を認識することができる状態で原告商品に関する情報伝達活動を行ってきた。
c) 販売数量(売上額、市場占有率)
 原告商品は、その販売開始以来、胃潰瘍治療剤においては、圧倒的な処方数及び年間売上高を維持しており、胃潰瘍治療剤における原告商品のシェアは非常に高い。
d) 表示の独自性(特異性)
 胃潰瘍治療剤においては、本件配色を使用したカプセル及びPTPシートの組合せは、原告商品の販売開始以前には存在せず、その後も、被告商品等の後発医薬品の販売が開始された平成9年ころまでの約13年間、かかる配色のカプセル及びPTPシートの組合せを使用した胃潰瘍治療剤は原告商品しか存在しなかった。さらに、現時点においても、原告商品及び被告商品等の後発医薬品以外に、かかる外観の胃潰瘍治療剤は存在しない。以上の事実に鑑みれば、胃潰瘍治療剤においては、本件配色が独自性を有していることは明らかである。
e) 原告商品の商品等表示と被告商品の商品等表示との関係
 被告商品は、原告商品と同一の有効成分を含有し、同一の効能・効果を有するいわゆる後発医薬品であり、両者の性質、用途、目的における関連性の程度は極めて高い。したがって、両者の外観が類似する場合には、医師・薬剤師等又は患者が被告商品を原告商品又は原告と密接な関係を有する第三者が製造及び販売する商品であると誤認するおそれが非常に高く、被告は、かかる点を見越して、意図的に被告商品の外観を原告商品の外観に近づけている(カプセルの配色並びにPTPシートの色彩及び文字色は、たとえ同じ色であったとしても、色の濃淡も考慮すれば無数の組合せが可能であるにもかかわらず、被告は、あえて被告商品のカプセル及びPTPシートに原告商品と全くの同色ということができるような色彩を使用している。)。
f) 取引の実情
 新薬が次々と発売される中で、日常的に数多くの患者に接して様々な薬剤を処方・使用している医療の現場においては、医師といえども、外観の非常に類似した薬剤を誤って処方することは十分考えられる。また、医療機関の処方せんにより患者に対して最終的に医療用医薬品の調剤を行う調剤薬局においては、特定の医療機関のみではなく、複数の医療機関からの処方せんに対応する必要があるため、非常に多くの種類の医薬品を取り扱うことが多い。さらに、医療機関及び調剤薬局では、先発医薬品と後発医薬品を同時に取り扱うことも少なくない。
 かかる取引の実情のもとでは、医師・薬剤師等であっても、医薬品をその外観で識別することがあり、医薬品の外観が医薬品の識別の際に重要な指標となっている。
 また、患者については、医師により処方され、薬剤師により交付された医薬品を特段の注意を払うことなく受領することが多いものの、医薬品とともに薬剤師から交付される当該薬剤の写真が掲載された説明書や市販の書籍等によって医薬品の外観を記憶している場合もあり、かかる場合には、医薬品をその外観で識別することになる。
g) 小括
 以上の諸事情を考慮すれば、本件配色が原告商品の商品等表示であることは明らかである。
イ 被告は、「銀色地に青色の文字等のデザインを付したPTPシート」及び「緑色及び白色の2色からなるカプセル」が、医療用医薬品ではいずれもありふれた形態であり、自他商品識別機能を有しないと主張する。しかし、本件配色が医療用医薬品全体の中で独自かつ特徴的である必要はない。不正競争防止法2条1項1号における「需要者の間に広く認識されている」商品等表示とは、類似表示の使用者(被告)の営業地域及び顧客層において認識されている商品等表示であれば足りる。本件においては、被告商品の顧客層、すなわち胃潰瘍治療剤の患者において原告商品の外観的特徴が認識されていれば足りるのである。
 なお、特に、患者が高齢者の場合には、視力の低下によってPTPシートに記載されている小さな文字を識別することはほとんど不可能であり、PTPシート自体の色やPTPシートに記載されている文字の色、又はカプセルの色だけで医療用医薬品を識別していることがほとんどであるから、原告商品の本件配色の出所表示機能が果たす役割は顕著である。
ウ 被告は、薬事法の下では、医療用医薬品は製造業者・卸売業者から医療機関及び調剤薬局に販売される際には封緘された外箱に収められて取引され、PTPシート装填カプセル剤そのものは外部から見えないのであるから、本件配色が不正競争防止法における商品等表示と認められることはないと主張する。しかし、原告は、かかる流通段階における本件配色の商品等表示性について問題としているわけではなく、医師・薬剤師等の医薬品の処方及び調剤時における本件配色の商品等表示性について問題としていることは前記アのとおりである。
 また、被告は、医療機関及び調剤薬局における医薬品選別行為や患者が医薬品を受領する行為は商取引とは無関係な調剤行為や誤飲の可能性を問題とするものであって、本件配色が不正競争防止法における商品等表示に当たるかどうかとは別異の問題であるなどと主張する。しかし、医師・薬剤師等が医療用医薬品を選別・給付する際に、本件配色の共通性により誤認混同が生じた場合には、医師・薬剤師等又は患者が原告商品を処方し又はその処方を受ける代わりに被告商品を処方し又はその処方を受けることとなるのであるから、本件配色が不正競争防止法における商品等表示に当たることは明らかである。
(被告の主張)
ア 「銀色地に青色の文字等のデザインを付したPTPシート」や「緑色及び白色の2色からなるカプセル」は、医療用医薬品ではいずれもありふれた形態であって、商品等表示としての自他商品識別機能を獲得していない。
a) 商品形態は、その形態が独特なものであるなどの特殊事情がある場合、長期的な継続使用や効果的な宣伝広告と相まって、二次的に出所表示機能を具備することはあり得る。しかし、通常の商品一般に見られるありふれた形状や色彩が用いられている場合には、保護されるべき商品等表示には該当しない。
b) 原告商品のPTPシートには、銀色地に青色で文字等が印刷されている。しかし、そもそもPTPシートは、プラスチックとアルミニウム箔とで構成されており、アルミニウム箔は素材自体が銀色であって、銀色地はPTPシートの最も基本的な色である。
 PTPシートに印刷する文字等に用いる色も、デザイン的配慮よりは印刷された文字等(商品名・識別コード・含量・ケアマーク・注意表示)自体の視認性を高くするための機能的配慮に重点があり、銀色地に対し視認性の高い色を色覚障害の人にも読みやすいように単色で用いるといった方法が大多数のPTPシートに採られている。銀色地に青色の組合せは、その最もシンプルな典型例であり、原告自身、原告が販売する別商品に銀色地に青色のPTPシートを使用している。また、銀色地に青色のPTPシートは、他社の製品にも数多く使用されている。すなわち、PTPシートの銀色地に青色で文字等が印刷されているというのは原告商品に特徴的なものではなく、極めてありふれたものである。
c) 薬剤本体であるカプセルについてみると、「2005年版 薬の事典 ピルブック」には、原告商品と同じ緑色と白色の組合せのカプセル例が掲載されており、緑色及び白色のカプセルもまた原告商品に特徴的なものではない。
 また、原告は、「セルベックスカプセル50r」をPTPシートに装填しないカプセル剤での販売もしている。しかし、原告が、「緑色及び白色のカプセル」自体を本件差止請求の対象としていないのは、原告自身、このようなカプセルの配色に商品等表示性を認めていないからにほかならない。
d) 以上のように、原告商品のPTPシートの配色もカプセルの配色もありふれたものであり、カプセル剤をPTPシートに装填したことにより、その配色がデザイン的に特徴的なものとなることはなく、したがって商品等表示性を有することもない。
イ 本件配色は、そもそも不正競争防止法における「商品等表示」には該当し得ない。
a) PTPシート及びカプセルの色彩やデザインにおいて類似の医療用医薬品が多数存在することは医師・薬剤師等の常識であるから、医師・薬剤師等は、販売名や識別コードによって医療用医薬品を識別するのであり、PTPシート及びカプセルの色彩(本件配色)によって患者に与えるべき薬剤を選別するといった危険なことはしないのであるから、本件配色に商品等表示性は認め得ない。
b) 医療用医薬品である原告商品及び被告商品のようなPTPシート装填カプセル剤は、薬事法の規定に従い、製造業者・卸売業者から医療機関及び調剤薬局に販売される際には封緘された外箱に収められて取引され、PTPシート装填カプセル剤そのものは外部から見えないのであるから、本件配色が不正競争防止法における商品等表示と認められることはない。
 また、医療機関及び調剤薬局から患者に交付する段階では、PTPシート装填カプセル剤だけを患者に交付することになる。しかし、患者に対する関係においては、患者が医療用医薬品を自由に選択できる取引市場は存在しないのであるから、不正競争防止法における出所の混同が問題とされることはなく、本件配色に商品等表示性が認められることもない。
c) 不正競争防止法2条1項1号にいう需要者とは、取引市場において当該商品を自由に選択・購入する場(機会)が与えられている者と解するのが相当であり、患者は、取引市場において医療用医薬品を自由に選択・購入する場(機会)が与えられていないものであるから、同号にいう需要者には当たらない。医療用医薬品において不正競争防止法が適用される取引市場とは、製造業者・卸売業者と医療機関及び調剤薬局との間の流通段階までに限られる。原告はこの流通段階は問題としないのであるから、そもそも本件は不正競争防止法上の争いとはいえない。
 原告は、医療機関及び調剤薬局が医薬品選別時にその外観で識別することがあることや、患者が医薬品を受領するときにその外観で識別することがあることをもって、本件配色が不正競争防止法における商品等表示に当たると主張している。しかし、これらは、商取引とは無関係な医療現場での調剤行為や誤飲の可能性を問題とするものであって、本件配色が不正競争防止法における商品等表示に当たるかどうかとは別異の問題である。
(2) 争点2(本件配色が原告商品の商品等表示として周知性を有するか)について
(原告の主張)
 前記(1)(原告の主張)アa)からd)によれば、本件配色は、医師・薬剤師等及び胃潰瘍患者において、それが原告の製造販売にかかる商品であると認識されるほどの自他商品識別力を獲得している。
 昨今においては、医薬品の概要を説明するために簡単な説明書が作成されることが多く、その説明書には当該医療用医薬品の写真が添付されていることがほとんどであることからも明らかなように、医薬品の識別性を高めるためにはその外観が重要視されている。
(被告の主張)
 原告は、長年にわたる販売実績及び処方実績により原告商品の本件配色が周知性を有するに至っている旨の主張をしている。しかし、原告商品のPTPシートに明示された「Selbex」及び「セルベックス」の商標と原告のハウスマークを抜きにした本件配色は、前記(1)(被告の主張)アのとおり、ありふれたもので、他社から区別されるべき優越的地位を獲得する程度に知られているとはいえない。
 また、前記(1)(被告の主張)イb)のとおり、PTPシート装填カプセル剤は、それ自体むき出しの状態で取引されることはなく、封緘された外箱の態様で販売されるから、外箱に表示された商品名(商標)を無視して、PTPシート及びカプセルの配色(本件配色)が周知性を獲得したということはできない。
(3) 争点3(原告商品と被告商品との間に商品等表示の類似性があるか)について
(原告の主張)
 本件配色は商品等表示に該当し、原告商品と被告商品はいずれも本件配色を使用しているから、両者の商品等表示は類似する。
(被告の主張)
ア 医療用医薬品の商品等表示として自他商品識別の基本となるのは販売名と識別コードであり、被告商品は、この販売名と識別コードにおいて、原告商品とは明らかに相違する表示がされている。
イ 被告商品のPTPシートは、原告商品のそれよりサイズが大きく、シート表面の耳部には被告商品の英文販売名「ANTAGOSTIN」が記載され、カプセル剤が収められているポケットとポケットの上下の間の太い横のライン内に識別コード「YD480」が抜き文字で印刷されている。一方、原告商品のPTPシートでは、表面の耳部に和文販売名「セルベックス」が含量及び原告のハウスマークと並んで印刷され、カプセルが収められているポケット上に細かい縦線をもったラインが配置されており、識別コードはシート表面には記載されていない。
 PTPシートの裏面を比較した場合、被告商品のシート裏面の耳部には和文販売名「アンタゴスチンカプセル」が記載され、耳部の下部には和文販売名「アンタゴスチンカプセル」と含量が5列連続的に多数記載されている。一方、原告商品のシート裏面の耳部には英文販売名「Selbex」と含量が記載され、耳部の下部には和文販売名「セルベックス」、含量、識別コード「SX50∈」が5列連続的に多数記載されている。
 被告商品のカプセル本体にも、被告のロゴマークと共に識別コード「YD480」が記載されている。
 このように、商品の外観全体が商品等表示性を有するとしても、被告商品の形態は、原告商品の形態とは相違する部分が多々存在し、類似とはいえない。
(4) 争点4(原告商品と被告商品との間に混同のおそれがあるか)について
(原告の主張)
ア 原告商品の需要者である医師・薬剤師等及び患者は、以下のとおり、被告商品を原告商品又は原告と緊密な営業上の関係を有する会社が製造又は販売する商品であると誤認混同するおそれがある。
a) 医師・薬剤師等は、多種多様な薬剤を日々相当数扱わなければならないため、取扱いの便宜上、医療機関及び調剤薬局に保管している同種、同薬効の薬剤は隣同士の棚や同一カテゴリーの棚に置いていることが通常であるから、そのような保管状況において、医師・薬剤師等が被告商品を原告商品と誤認するおそれが非常に高いことは明らかである。医師・薬剤師等が医療用医薬品を選別し、選別した医療用医薬品を患者に給付する際における誤認混同も、不正競争防止法2条1項1号における混同に該当する。
b) 原告商品は胃潰瘍治療剤である。胃潰瘍は一般的に再発する可能性が高いため、患者は、胃潰瘍を完全に治療するためには、胃潰瘍治療剤を長期にわたり反復継続して使用しなければならない。しかしながら、原告商品のような医療用医薬品は、医師の処方に基づき投与されるものであるため、患者が自ら積極的に薬剤を選別するのではない。したがって、原告商品を常用している患者が胃潰瘍治療剤であるとの説明を受けただけで被告商品を処方された場合、当該患者は、被告商品を、原告商品又は原告と緊密な営業上の関係を有する会社が製造又は販売する商品であると誤認するおそれがあることは明らかである。
イ 被告は、医師・薬剤師等は医療用医薬品を販売名や識別コードをもって識別するのであるから原告商品と被告商品との間に混同のおそれはないと主張する。しかしながら、原告商品の本件配色が自他商品識別力を有し、被告商品が本件配色を使用していることからすれば、両者の混同のおそれを否定することはできない。
 処方せんには「セルベックス」や「アンタゴスチン」という販売名ではなく、「テプレノン」という一般名(有効成分の一般的名称)を記載することも許されており、実際にそのような処方も行われている。原告商品の販売実績及び処方実績からすれば、「テプレノン」という記載だけを見た薬剤師が、「セルベックス」という販売名ではなく本件配色から原告商品を想起し、原告商品を処方しようとして原告商品と類似する外観を有する被告商品を処方してしまうことは十分考えられる。なお、処方せんに販売名が記載されている場合でも、薬剤師が原告商品を処方しようとして、原告商品と外観が類似している被告商品を処方してしまうおそれも否定できないのはもちろんである。
ウ 被告は、患者が自らの責任と判断で医療用医薬品を選択することができないと主張する。しかし、患者が処方される医薬品について関心を持ち、医師に対し、特定の医療用医薬品を処方してほしい旨の希望を伝えることも十分考えられるから、かかる意味では患者も当然に需要者となる。
 原告商品を反復して服用している患者であったとしても、「セルベックス」という販売名ではなく、本件配色のみをもって原告商品を識別、記憶することも十分考えられる。したがって、時と所を異にして被告商品を処方された場合に、被告商品を原告商品と混同するおそれは十分考えられる。特に、患者が高齢者の場合には、視力の低下によってPTPシートに記載されている小さな文字で薬剤を識別することはほとんど考えられず、PTPシート自体の色やPTPシートに記載されている文字の色又はカプセルの色だけで医療用医薬品を識別していることが多いから、被告商品を原告商品と誤認混同する可能性は非常に高い。
 なお、被告は、先発医薬品から後発医薬品に切り替える場合には、医師から当該患者にその旨十分な説明がされ、患者は明確に先発医薬品と後発医薬品の相違を認識すると主張する。しかし、実際には、すべての医師が、先発医薬品から後発医薬品に処方薬剤が変わった旨を明確に説明するわけではないし、今までと同一成分であることのみを説明する医師も多数存在するから、患者における混同のおそれを否定することはできない。
(被告の主張)
ア 前記(3)(被告の主張)のとおり、原告商品と被告商品の形態は非類似であり、混同のおそれはない。原告商品と被告商品にはそれぞれ「セルベックス」、「アンタゴスチン」と全く異なる商品名(商標名)が表示されているのであるから、これらの商品名をもって両者は明確に識別することができる。
イ 医療用医薬品においては、原告が主張するような医薬品の取り違えを防止するために、厚生省(当時)は平成12年9月19日付け医薬発第935号通知によりPTPシートの記載事項について規定している。同通知は、医療用医薬品の商品識別のために重要な表示は販売名や識別コードであることを明らかにするものであり、このことは医師・薬剤師等においても周知のことであるから、医師・薬剤師等は、自らが仕入れる医療用医薬品の識別を販売名や識別コードによって行うのであって、決してPTPシートやカプセルの配色をもって医療用医薬品を識別することはないから、誤認混同のおそれはない。
 原告が主張する医師・薬剤師等の誤認・混同は、取引過程における混同ではなく、医師・薬剤師等が患者に投与する医療用医薬品を選別・給付する際における誤認・混同であって、それは、医療事故防止といった医療機関及び調剤薬局内部の業務上の問題ではあっても、商取引における不公正な競争の排除を目的とする不正競争防止法上の問題ではない。また、原告が主張する選別・給付の際における誤認・混同のおそれも現実には存在しない。
ウ 原告は、処方せんには「テプレノン」という一般名を記載することも許されており、これを見た薬剤師が「セルベックス」という販売名ではなく本件配色から原告商品を想起し、原告商品を処方しようとして原告商品と類似する外観を有する被告商品を処方してしまうことが考えられると主張する。しかし、この一般名による処方せんは後発医薬品の促進策として理解されているものである。一般名による処方せんに対し調剤に当たる薬剤師は、患者に対し、一方が先発医薬品で他方が後発医薬品であること、両者の成分・効能は同一であること、価格は後発医薬品の方が廉価であることを説明した上で、患者にいずれかを選択させるのであるから、この場合、専門家である薬剤師は商品名によって医療用医薬品を確認し選別するものである。
エ 医療用医薬品は、最終消費者である患者が自ら使用する医薬品を自己の判断で選択する商品ではなく、医師の処方に基づいて商品を購入するのであるから、患者は、そもそも一般店舗や通信販売などの一般流通市場において自らの責任と判断で商品を見聞し、比較し、吟味し、購入するといった通常の商品における取引の場を有していない。したがって、患者は、不正競争防止法上の需要者ではない。
 原告は、原告商品(先発医薬品)から被告商品(後発医薬品)への切り替えを医師が患者に秘して行うことがあるかのごとき主張をしている。しかし、医師が先発医薬品から後発医薬品に切り替える場合は、医師から当該患者にその旨の十分な説明がなされることによって、患者は明確に先発医薬品と後発医薬品の相違を認識する。また、仮に医師が一般名による処方をした場合には、薬剤師は当然に先発医薬品の商品名と後発医薬品の商品名を最初に説明するから、患者が本件配色により原告商品と被告商品とを誤認・混同する可能性はない。
 したがって、患者による誤認混同のおそれがあるという原告の主張は、医療用医薬品の取引の実際を無視した主張である。
 さらに、原告が患者における混同のおそれと主張しているものは、患者の服用に際しての混同のおそれをいうものであって、これは不正競争防止法上の問題ではない。
(5) 争点5(原告の被った損害の額)について
(原告の主張)
ア 被告は、遅くとも平成14年3月には被告商品を医療機関及び調剤薬局に販売し、本件訴訟提起の日である平成17年3月24日までの被告商品の売上金額は、金40万8000円を下らない。
イ 被告による被告商品の販売による利益率は50パーセントを下らないから、本件行為により被告が得た利益の額は、金20万4000円を下らない。
ウ よって、被告は、故意又は過失により、不正競争行為を行って原告の営業上の利益を侵害したのであり、これにより原告が被った損害の額は、金20万4000円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
(6) 争点6(原告の被告に対する権利主張は信義則違反又は権利濫用に当たるか)について
(被告の主張)
 被告は、平成6年7月から被告商品を販売しているが、販売当初よりその外形に基本的な変更はなく、これまで原告からそれらの外形につき何らの異議申立てを受けたこともない。しかるに、原告は、被告商品の販売開始後10年以上も経て唐突に被告商品の販売を中止するよう通知をし、本件訴訟提起に至っているもので、原告は、不正競争防止法違反を口実にした本件訴訟提起により、医療関係者に対するアナウンス効果をもって後発医薬品メーカーの販売活動を阻み、先発医薬品(原告商品)の売上維持を図ろうとするものであるから、原告の請求は信義誠実の原則に反するのみならず、権利濫用に当たるものであって、許されない。
 原告は、被告が被告商品の販売を開始した時点において、原告が被告商品の外観について認識していなかったと主張する。しかし、被告と原告は、原告商品・被告商品の有効成分テプレノンについて平成6年に仮処分命令申立事件において係争し、平成7年3月14日付け仮処分命令に基づき、原告は被告に対し商品の販売差止めと共に被告在庫商品の保全執行をしているから、平成6年又は遅くとも平成7年において、被告商品を認識していたことは明らかである。
(原告の主張)
 被告が被告商品の販売を開始した時点において、原告が被告商品の外観について認識していたわけではない。また、本件において、原告は、被告に対し、過去において、被告商品の外観については法的措置を執らない旨をほのめかしたりしたことも黙示的に承諾したこともないことから、原告が被告に対し本件訴訟を提起することが信義則違反ないしは権利濫用に当たるとの被告の主張は失当である。
第3 争点に対する判断(証拠により認定した事実については、括弧書きで認定に用いた証拠を摘示する。)
1 争点1(本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか)について
(1) 配色の商品等表示性について
ア 不正競争防止法2条1項1号が他人の周知商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することを不正競争行為と定めた趣旨は、同使用行為により周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、周知な商品等表示が有する営業上の信用を保護することにある。
 医薬品としてのカプセル及びその容器又は包装としてのPTPシートは、同法2条1項1号にいう「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」として同号にいう「商品等表示」に当たり得るといえるものの、極めてありふれた形状又は色彩の商品それ自体又は容器若しくは包装については出所表示機能があるということができず、これらが同号にいう「商品等表示」に当たらないことは明らかであり、同号にいう「商品等表示」に当たるといえるためには、出所表示機能を備えた形状又は色彩の「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」であることが必要である。
イ 原告商品の医薬品としてのカプセルの形状自体及びその容器又は包装としてのPTPシートの形状自体は、医療用医薬品においてごくありふれた形状であって何ら特徴的なものではないことは明らかであり、原告が本件において原告商品の商品等表示であると主張する要素(本件配色)は、カプセルが緑色と白色の2色からなること及びPTPシートが銀色地に青色の文字等が付されていること(文字等の内容や配置は問わない。)である。そこで、そもそもこのような単純な色彩の組合せ(本件配色)についても商品等表示と認めることができるかを判断する。
ウ 一般論としては、単純な配色であっても、それが特定の商品と密接に結合し、その配色を施された商品を見たり、その配色の商品である旨を耳にすれば、それだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には、当該商品に施された配色が、出所表示機能を取得し、その商品の商品等表示になっているということができるのであるから、商品の配色に商品等表示性を認めることができる場合があること自体は否定できない。
 しかしながら、色彩は、古来存在し、何人も自由に選択して使用することができるものであって、単一の色彩を使用した場合はもちろん、ある色彩と別の色彩とを単純に組み合わせて同時に使用したという程度の単純な配色であれば、そのこと自体には特段の創作性や特異性が認められるものではないから、それによって出所表示機能が生じ得る場合というのは、極めて限定されると考えられる。
 また、仮に、単純な配色が出所表示機能を持つようになったと思われる場合であっても、色彩はもともと自由に使用できるものである以上、色彩の自由な使用を阻害するような商品等表示の保護は、公益的見地からみて容易に認容できるものではない。こうした点からすれば、単純な配色が不正競争防止法において保護すべき出所表示機能を取得したということができるかどうかの判断に当たっては、その配色を商品等表示として保護することが、上記の色彩使用の自由を阻害することにならないかどうかという点も含めて慎重に検討されなければならないというべきである。
 さらに、商標法においては、色彩は、文字、図形、記号等と結合して商標となるとされていること(商標法2条1項)との比較からすると、文字、図形、記号等と結合することのない商品の単純な配色を不正競争防止法において商品等表示として保護することが、商標法における保護との均衡を失するものとならないかどうかという点も考慮に入れる必要があると考えられる。
エ 以上からすると、単純な配色が特定の商品に関する商品等表示として不正競争防止法上保護されるかどうかについては、@当該配色をその商品に使用することの新規性又は特異性、A当該配色とそれが施された商品との結びつきの強さ及び当該配色の使用の継続性、B当該配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び当該商品の売上げ、C取引者や需要者である消費者が商品を識別、選択する際に当該配色が果たす役割の大きさ等を十分検討した上で決せられなくてはならない(大阪高判平成9年3月27日知的裁集29巻1号368頁参照)。
(2) 本件配色の商品等表示性について
ア 本件配色の新規性又は特異性
 原告は、胃潰瘍治療剤においては、本件配色を施したカプセル及びPTPシートの組合せは、原告商品の販売開始以前には存在しなかったこと等を強調する。
 しかしながら、医療機関及び調剤薬局においては、胃潰瘍治療剤だけではなく、多種多量の医療用医薬品を同時に取り扱うのが通常であることは公知の事実といってよいから、このような医療用医薬品の取引の実情に鑑みれば、医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中で、本件配色が新規性又は特異性を有するものであるかどうかを判断するのが適切である。
 この点、「2005年版 薬の事典 ピルブック」(乙2)に写真が掲載された医療用医薬品のうち、緑色と白色の2色からなるカプセル剤には、「インスミン15」、「アタラックス−P(50r)」及び「ケフレックスカプセル」があり、このうち「インスミン15」は、原告商品の販売開始以前に販売が開始されているものである(乙9)。
 さらに、上記書籍に写真が掲載された医療用医薬品のうち、銀色地に青色の文字等が付されたPTPシートを使用するものは、カプセル剤に限っても「ナイキサンカプセル」、「ナボールSRカプセル37.5」、「ドプスカプセル200」、「アボビスカプセル50」、「チアトン5」等、多数のものを挙げることができる。
 これらの事実に鑑みると、カプセルに緑色と白色の2色を使用し、カプセルを装填するPTPシートに銀色地に青色の文字等を配するという原告商品の本件配色は、医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中でみれば、原告商品の販売開始当時において新規性を有するものであったとは認め難いし、特異性を有するものであるとも認め難いというべきである。
イ 本件配色と原告商品との結びつきの強さ及び本件配色の使用の継続性
 証拠(甲3の1から4、甲5から7)によれば、原告は、昭和59年12月の販売開始以来、一貫して原告商品について本件配色を使用してきたことを認めることができる。
 ただし、原告は、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤として、原告商品である「セルベックスカプセル50r」のほかに「セルベックス細粒10%」という細粒剤を販売しており(甲1、乙8)、原告が医師・薬剤師等に向けて作成したリーフレット(甲4の1から3)においても、「セルベックス」の名称でカプセル剤である原告商品とほぼ白色の上記細粒剤の両方を表示している。原告が、原告商品と同一の有効成分を含有し、同一の効能・効果を有する医療用医薬品を、「セルベックス」という共通の名称を付した上で、原告商品と同時並行的に販売してきたとの事実は、本件配色と原告商品との結びつきを弱める方向に働くものであるということができる。
ウ 本件配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び原告商品の売上げ
a) 証拠(甲2、甲3の1から4、甲4の1から3)によれば、原告は、継続的に多数のMRを雇用し、医師・薬剤師等に対して、原告商品の写真が掲載されたパンフレットやチラシの配布等を行って広告宣伝を行ってきたことが認められる。また、原告は、自社のホームページ上においても、製品情報として、医療用医薬品製品一覧の中において原告商品の写真を掲載して原告商品を紹介している(甲14)。
 さらに、証拠(甲12、15)によれば、原告商品の年間売上高は平成2年以降は毎年数百億円規模になっており、平成12年から平成16年までの5年間にわたり、「セルベックス」の年間処方ランキングは、A2B抗潰瘍剤において第1位を維持し続けていることが認められる。前記のとおり、「セルベックス」には原告商品のほかに細粒剤があるので、この処方ランキングは、原告商品のみの処方を反映したものであるとはいえないものの、このような売上実績及び処方実績は、原告商品の広告宣伝が相当程度医師・薬剤師等に浸透していることを示唆しているということができる。
b) もっとも、原告商品のパンフレットやチラシは、本件配色をもって原告商品の識別のポイントとすべきことをアピールする内容のものではないし、前記のような売上実績及び処方実績も、医師・薬剤師等が原告商品の効能・効果を評価した結果であるということはできても、医師・薬剤師等が原告商品を本件配色により識別していることを示唆するものということはできない。
 また、原告商品の最終需要者である消費者(患者)に対する広告宣伝の方法としては、原告が作成し医療機関及び調剤薬局を通じて患者に配布されることを予定した「くすりのしおり」(乙6)があるものの、これには、カプセルの色を「灰青緑色、淡橙色」とする記載があるだけであり、PTPシートのデザインについては何ら触れるところがない。前記ホームページについても、医療関係者向けの画面からは原告商品の写真にたどり着くことはできるが、患者やその家族向けの画面からは原告商品の写真にたどり着くことができないようになっており(乙10の1から12)、消費者(患者)に対する情報伝達の方法として原告商品の外観をアピールするものにはなっていない。
エ 原告商品の識別、選択の動機
a) 証拠(甲5、甲7、甲16)によれば、近年、医師・薬剤師等を対象として処方薬を写真で紹介する専門書や、消費者(患者)を対象として処方薬を写真等から検索できるようにして紹介する書籍が発行されていることが認められる。
 こうした書籍の存在に鑑みれば、取引者たる医療機関及び調剤薬局の医師・薬剤師等又は最終需要者たる消費者(患者)が、原告商品を本件配色を一つの手がかりとして識別することがあり得るということができる。
b) しかしながら、専門家である医師・薬剤師等にとっては、一見すると外観的特徴の似通った医療用医薬品が複数存在することは、むしろ周知の事実であるというべきである。また、厚生省医薬安全局長名で各都道府県知事宛に発された「医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて」と題する通知(平成12年9月19日医薬発第935号。乙1)においても、「医薬品の誤投与を防止するためには、調剤時、投薬時及び患者の服用時に容易に本来投与すべき医薬品が確認できるよう、PTPシートに販売名、規格等が記載されていることが重要である」との認識が示されていることからも明らかなように、医師は、「セルベックスカプセル50r」とか、「アンタゴスチンカプセル」というように、処方せんに販売名を記載して医療用医薬品を処方するのが通常であり、処方せんに本件配色を記載してこれを処方するものではないし、薬剤師もこのような医師の処方せんに基づき医療用医薬品を選択するものであり、本件配色によってこれを選択するものではない。
 これらの事情に鑑みると、少なくとも専門家である医師・薬剤師等においては、販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということは到底想定し難いことというべきである。
c) 他方、消費者(患者)においては、専門家である医師・薬剤師等とは異なり、多種多量の医療用医薬品を常時取り扱うことはないから、販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということも考えられる。
 もっとも、原告商品のような医療用医薬品は、本来その効能・効果によって患者の症状に最も適したものが医師により選択され、それを患者が受け入れているのであって、患者にとっても配色その他の商品のデザインが医療用医薬品の選択の動機となることは通常考え難いところである。
オ 総括
 前記アからエまでにおいて検討したところを総合考慮すれば、本件配色は、原告商品の販売名等の表示とは別に、独立して原告の商品であるとの出所表示機能を取得するに至っていると認めることはできず、本件配色が原告商品の商品等表示となっているということはできない。
2 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂驤
 裁判官 杉浦正典
 裁判官 吉川泉
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