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【事件名】類似薬剤の不正競争事件E
【年月日】平成18年1月31日
 東京地裁 平成17年(ワ)第5650号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年12月6日)

判決
原告 エーザイ株式会社
訴訟代理人弁護士 中村勝彦
同 長坂省
同 藤井基
同 柏健吾
同 太田知成
同 伊勢智子
同 宮下央
被告 シー・エイチ・オー新薬株式会社
被告 メルク・ホエイ株式会社
両名訴訟代理人弁護士 萩原新太郎
同 工藤英知
同 柳誠一郎
同 池田竜郎
同 小川朗
同 志摩美聡


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告シー・エイチ・オー新薬株式会社(以下「被告CHO」という。)は、別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を製造及び販売してはならない。
2 被告CHOは、その占有に係る別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を廃棄せよ。
3 被告メルク・ホエイ株式会社(以下「被告メルク」という。)は、別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を販売してはならない。
4 被告メルクは、その占有に係る別紙被告標章目録1記載の形態を有するPTPシート及び同目録2記載の形態を有するカプセルを用いた胃潰瘍治療剤を廃棄せよ。
5 被告らは、原告に対し、連帯して、金2166万円及びこれに対する平成17年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、PTPシートにカプセルが装填された形態の胃潰瘍治療剤を販売する原告が、原告商品と同一の有効成分を含有し、同様の形態を有する胃潰瘍治療剤を製造及び販売する被告らに対し、被告商品のPTPシート及びカプセルの配色が原告商品と類似し、混同のおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号及び同法3条各項に基づき、被告商品の製造及び販売の停止並びに廃棄を求めるとともに、同法4条、5条2項及び民法719条1項に基づき、被告らの不正競争行為により原告の被った損害の賠償(遅延損害金については、不法行為の後である訴状送達の日の翌日から年5分の割合による。)を求めた事案である。
1 前提となる事実(争いがないか、証拠により容易に認定し得る事実。証拠により認定した事実については、括弧書きで認定に用いた証拠を摘示する。以下同じ。)
(1) 当事者
ア 原告は、医薬品等の製造、販売、輸出入等を業とする株式会社である。
イ 被告CHOは、医薬品等の製造、販売等を業とする株式会社である。
ウ 被告メルクは、医薬品等の製造、販売、輸入販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告商品及び被告商品
ア 原告商品
 原告は、昭和59年12月6日から、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「セルベックスカプセル50r」。以下「原告商品」という。)を販売している。
イ 被告商品
 被告CHOは、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「セルパスカプセル」。以下「被告商品」という。)を製造して、被告メルクに販売している。被告メルクは、被告商品を医療機関及び調剤薬局に販売している。
ウ 原告商品及び被告商品は、患者への販売には医師の処方せんを必要とする、いわゆる医療用医薬品である。
(3) 原告商品と被告商品の配色の共通性
 原告商品と被告商品は、@銀色地に青色の文字等のデザインを付したPTPシートに、A緑色及び白色の2色からなるカプセルが装填された形態である(上記のPTPシート及びカプセルの配色を「本件配色」という。)という点において共通する。
 なお、被告らは、平成17年7月より、被告商品のPTPシートを金色地に、文字色を緑色に変更して製造販売している(検乙4)。
2 争点
(1) 本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか。
(2) 本件配色が原告商品の商品等表示として周知性を有するか。
(3) 原告商品と被告商品との間に商品等表示の類似性があるか。
(4) 原告商品と被告商品との間に混同のおそれがあるか。
(5) 原告の被った損害の額
(6) 原告の被告らに対する権利主張は権利濫用に当たるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか)について
(原告の主張)
ア 商品の色彩が商品等表示に該当するかどうかの判断要素としては、@一定期間の独占的継続的使用、A強力な広告宣伝、B販売数量(売上額、市場占有率)、C表示の独自性(特異性)が挙げられるが、そのすべてが必要不可欠ではなく、当該商品等表示と相手方の商品等表示との関係、取引の実情等によって事案毎に相対的に判断すべきものである。これを本件に当てはめると、以下のとおりである。
a) 一定期間の独占的継続的使用
 原告は、昭和59年12月の原告商品の販売開始以来、現在に至るまで20年以上にわたって原告商品に本件配色を使用している。原告は、被告商品等の後発医薬品の販売が開始された平成9年ころまでの約13年間、胃潰瘍治療剤として本件配色を独占的継続的に使用してきた。また、後発医薬品の販売が開始された後も、原告商品の販売数や処方数からすれば、本件配色を使用した胃潰瘍治療剤においては、原告商品が本件配色を事実上独占している。
b) 強力な広告宣伝
 原告は、原告商品の販売開始以来、現在に至るまで20年以上にわたり、全国に多数の医薬情報担当者(医薬品の適正な使用に資するために医療関係者を訪問すること等により、安全管理情報を収集し提供を行うことを主な業務とする者。以下「MR」という。)を雇用し、そのMRを通じて、医師、看護士、薬剤師その他医療従事者(以下「医師・薬剤師等」という。)に対し、原告商品の写真が掲載されたパンフレットやチラシの配布等を伴う熱心かつ地道な情報伝達活動等を行ってきた。
 また、原告は、自社のホームページ上でも、原告商品の製剤写真を掲載し、医師・薬剤師等のみならず、患者を含む一般市民に対しても、原告商品の外観を認識することができる状態で原告商品に関する情報伝達活動を行ってきた。
c) 販売数量(売上額、市場占有率)
 原告商品は、その販売開始以来、胃潰瘍治療剤においては、圧倒的な処方数及び年間売上高を維持しており、胃潰瘍治療剤における原告商品のシェアは非常に高い。
d) 表示の独自性(特異性)
 胃潰瘍治療剤においては、本件配色を使用したカプセル及びPTPシートの組合せは、原告商品の販売開始以前には存在せず、その後も、被告商品等の後発医薬品の販売が開始された平成9年ころまでの約13年間、かかる配色のカプセル及びPTPシートの組合せを使用した胃潰瘍治療剤は原告商品しか存在しなかった。さらに、現時点においても、原告商品及び被告商品等の後発医薬品以外に、かかる外観の胃潰瘍治療剤は存在しない。以上の事実に鑑みれば、胃潰瘍治療剤においては、本件配色が独自性を有していることは明らかである。
e) 原告商品の商品等表示と被告商品の商品等表示との関係
 被告商品は、原告商品と同一の有効成分を含有し、同一の効能・効果を有するいわゆる後発医薬品であり、両者の性質、用途、目的における関連性の程度は極めて高い。したがって、両者の外観が類似する場合には、医師・薬剤師等又は患者が被告商品を原告商品又は原告と密接な関係を有する第三者が製造及び販売する商品であると誤認するおそれが非常に高く、被告は、かかる点を見越して、意図的に被告商品の外観を原告商品の外観に近づけている(カプセルの配色並びにPTPシートの色彩及び文字色は、たとえ同じ色であったとしても、色の濃淡も考慮すれば無数の組合せが可能であるにもかかわらず、被告は、あえて被告商品のカプセル及びPTPシートに原告商品と全くの同色ということができるような色彩を使用している。)。
f) 取引の実情
 新薬が次々と発売される中で、日常的に数多くの患者に接して様々な薬剤を処方・使用している医療の現場においては、医師といえども、外観の非常に類似した薬剤を誤って処方することは十分考えられる。また、医療機関の処方せんにより患者に対して最終的に医療用医薬品の調剤を行う調剤薬局においては、特定の医療機関のみではなく、複数の医療機関からの処方せんに対応する必要があるため、非常に多くの種類の医薬品を取り扱うことが多い。さらに、医療機関及び調剤薬局では、先発医薬品と後発医薬品を同時に取り扱うことも少なくない。
 かかる取引の実情のもとでは、医師・薬剤師等であっても、医薬品をその外観で識別することがあり、医薬品の外観が医薬品の識別の際に重要な指標となっている。
 また、患者については、医師により処方され、薬剤師により交付された医薬品を特段の注意を払うことなく受領することが多いものの、医薬品とともに薬剤師から交付される当該薬剤の写真が掲載された説明書や市販の書籍等によって医薬品の外観を記憶している場合もあり、かかる場合には、医薬品をその外観で識別することになる。
g) 小括
 以上の諸事情を考慮すれば、本件配色が原告商品の商品等表示であることは明らかである。
イ 被告らは、実際の原告商品の外観には、販売名や会社名、ロゴマーク、識別コード(以下これらを併せて「販売名等」という。)が記載されているのであって、これらの記載を捨象した外観は実際には存在せず、そのような存在しない外観が商品等表示性を有することはあり得ない旨主張する。しかし、一つの商品に複数の商品等表示が併存する場合もあるから、原告商品のPTPシートと被告商品のPTPシートに異なる販売名等が記載されているからといって、本件配色の商品等表示性が否定されるものではない。
ウ 被告らは、医師・薬剤師等との関係においても、患者との関係においても、取引の誘因となり得ない本件配色は商品等表示ではあり得ないと主張する。しかし、不正競争防止法2条1項1号は、行為者と需要者との間に直接商取引が存在することは要求しておらず、他人の商品等表示と類似する商品等表示を使用した結果、需要者に混同のおそれが生じるのであれば、それが直接商取引の誘因とならない場合であっても、不正競争行為に該当する。
(被告らの主張)
ア 厚生労働省の通達によって、医薬品のPTPシート上には、販売名等を記載すべきことが定められており、実際の原告商品の外観には、本件配色のほか、販売名等の記載がなされているのであるから、販売名等の具体的な記載のない原告商品は存在しない。原告商品の商品等表示というべきは、販売名等であって、これらの記載内容を捨象した状態での外観(本件配色)は、商品等表示ではあり得ない。
イ 医療用医薬品は、メーカー又は問屋から医療機関及び調剤薬局に販売される際には封をされた外箱に収められた状態で販売されるのであり、原告商品のPTPシートは封をされた外箱の中にあって露出していない。このように、取引の際に需要者である医師・薬剤師等の目に触れることがなく、したがって取引の誘因となり得ない本件配色は、商品等表示ではあり得ない。
 医師・薬剤師等から患者に提供される医療用医薬品は、医師の処方によって指定され患者に交付されるものであって、市販薬のように患者がその外観で商品を識別して自由に選択するものではない。このように、患者に対して取引の誘因となり得ない本件配色は、患者との関係でも商品等表示ではあり得ない。
ウ 商品のデザインも、それが特定の出所を示す表示として需要者の間で周知となれば商品等表示となり得るとしても、本件配色は、以下のとおり、特定の出所を示す表示として需要者の間で周知となっていないから、やはり商品等表示に当たらない。
a) 銀色地に青色の文字等のPTPシートも、緑色及び白色の2色からなるカプセルも、原告商品の販売開始以前から、世に流通する多種多数のカプセル型医薬品に採用されているものであり、何ら特徴的なものではないから、需要者に特定の出所を表示するものとして認識され得ない。
 また、ある商品のシェアが高くとも、その外観に着目して購入されているわけではない場合には、その外観は商品等表示に該当しないのであって、本件における原告商品のシェアと本件配色の商品等表示該当性についても、同様のことがいえる。
b) 医師は、それぞれの医療用医薬品の販売名、製造者、有効成分、効能・効果、用法・用量、副作用及び薬価などの情報を入手し、これらの情報から購入及び処方する医薬品を選択し、選択した医薬品を販売名又は成分名によって特定して処方するのであって、購入及び譲渡(すなわち処方)の際には、販売名等の記載内容を捨象した医薬品の外観を特定の出所を示す表示として認識していない。
 また、医師が処方した医療用医薬品を患者に提供する薬剤師も、商品名処方であれば医師が指定した販売名に従って、また一般名処方であっても当該成分を有する複数の医薬品の中から専門家としての知識に基づいて販売名をもって選択し患者に提供するのであり、やはり販売名等の記載内容を捨象した医薬品の外観を特定の出所を示す表示として認識していない。
 したがって、原告商品の本件配色は医師・薬剤師等の間で特定の出所を示す表示として周知となっていない。
c) 本件配色が患者の間で特定の出所を示す表示として周知となっているとは、胃潰瘍患者の多くが、販売名等の記載内容を捨象した状態の原告商品の外観をもって胃潰瘍治療剤に限らずあらゆる薬効のカプセル型医薬品の中から原告商品を識別することができることを意味する。しかし、本件配色は、カプセル型医薬品の中で何ら特徴的ではないから、胃潰瘍患者に対してもそのような識別力を有していない。
(2) 争点2(本件配色が原告商品の商品等表示として周知性を有するか)について
(原告の主張)
 前記(1)(原告の主張)アa)からd)によれば、本件配色は、医師・薬剤師等及び胃潰瘍患者において、それが原告の製造販売にかかる商品であると認識されるほどの自他商品識別力を獲得している。
(被告らの主張)
 前記(1)(被告らの主張)ウのとおり、本件配色は特定の出所を示す表示としては需要者の間に広く認識されていない。
(3) 争点3(原告商品と被告商品との間に商品等表示の類似性があるか)について
(原告の主張)
 本件配色は商品等表示に該当し、原告商品と被告商品はいずれも本件配色を使用しているから、両者の商品等表示は類似する。
(被告らの主張)
ア 前記(1)(被告らの主張)アのとおり、原告商品の商品等表示として自他商品識別力を有するのは本件配色ではなくその販売名等であり、被告商品についても同様である。被告商品の販売名等は原告商品の販売名等に全く類似していないから、両者の商品等表示は類似しない。
イ また、販売名等以外の外観においても、PTPシート表面に記載されている模様が、被告商品ではカプセルと重ならない位置で「MH134」の文字と交互に描かれた2本の横棒の直線であるのに対して、原告商品では短い縦縞を横に並べて構成する線をカプセルと重なるように配置したものであること 、PTPシートの形・大きさも、被告商品の方が原告商品よりも縦に短く横に長いことといった明らかな違いがあるから、商品の外観全体が商品等表示性を有するとしても、原告商品と被告商品の商品等表示は類似しない。
(4) 争点4(原告商品と被告商品との間に混同のおそれがあるか)について
(原告の主張)
ア 原告商品の需要者である医師・薬剤師等及び患者は、以下のとおり、被告商品を原告商品又は原告と緊密な営業上の関係を有する会社が製造又は販売する商品であると誤認混同するおそれがある。
a) 医師・薬剤師等は、多種多様な薬剤を日々相当数扱わなければならないため、取扱いの便宜上、医療機関及び調剤薬局に保管している同種、同薬効の薬剤は隣同士の棚や同一カテゴリーの棚に置いていることが通常であるから、そのような保管状況において、医師・薬剤師等が被告商品を原告商品と誤認するおそれが非常に高いことは明らかである。
b) 原告商品は胃潰瘍治療剤である。胃潰瘍は一般的に再発する可能性が高いため、患者は、胃潰瘍を完全に治療するためには、胃潰瘍治療剤を長期にわたり反復継続して使用しなければならない。しかしながら、原告商品のような医療用医薬品は、医師の処方に基づき投与されるものであるため、患者が自ら積極的に薬剤を選別するのではない。したがって、原告商品を常用している患者が時と所を異にして被告商品を処方された場合、当該患者は、被告商品を、原告商品又は原告と緊密な営業上の関係を有する会社が製造又は販売する商品であると誤認するおそれがあることは明らかである。
 特に、高齢者の場合には、視力の低下によってPTPシートに記載されている小さな文字で薬剤を識別することはほとんど考えられず、PTPシート自体の色やPTPシートに記載されている文字の色、又はカプセルの色だけで医療用医薬品を識別していることが多い。
イ 被告らは、医療用医薬品において患者は需要者に該当しないと主張するようである。しかし、本件においては、患者自らが同一効能・同一成分の医療用医薬品について、先発医薬品と後発医薬品のいずれかを選択し決定する余地が十分考えられることから、患者は需要者に該当しないとする被告らの主張は失当である。
(被告らの主張)
ア 前記(1)(被告らの主張)ウa)のとおり、本件配色は何ら特徴的なものではなく、医師・薬剤師等や患者は、銀色地に青色の文字等のPTPシートと緑色及び白色の2色からなるカプセルが数多の製薬会社によって多種多数の医薬品に採用されていることを知っているから、銀色地に青色の文字等のPTPシートと緑色及び白色の2色からなるカプセルの医薬品を、PTPシートやカプセルに印字されている販売名等を確認せずに原告商品だと誤認することはあり得ない。
イ 不正競争防止法2条1項1号にいう「混同のおそれ」とは、取引過程において需要者が意思決定する際に「混同」するおそれを指すものである。しかし、前記(1)(被告らの主張)イのとおり、医師・薬剤師等が医療用医薬品を購入する際には、カプセルが装填された状態のPTPシートは露出していないから、そもそも混同のおそれは問題となり得ない。
 原告は、購入後における医師・薬剤師等の取り違いを問題とするが、医療事故防止について厚生労働省が指導を行っていることもあり、専門家である医師・薬剤師等は販売名を確認するから、そのような取り違いが実際には生じないことはもとより、取引過程における需要者の意思決定と無関係なそのような取り違いは、そもそも不正競争防止法の対象とならない。
ウ 不正競争防止法2条1項1号にいう「混同のおそれ」とは、取引過程において需要者が意思決定する際に「混同」するおそれを指すものである。しかし、前記(1)(被告らの主張)イのとおり、医師・薬剤師等から患者に提供される医療用医薬品は、医師の処方によって指定され患者に交付されるものであって、患者が自由に意思決定して選択するものではないから、患者による混同のおそれの有無は、そもそも問題となり得ない。
 原告は、購入後の患者が被告商品を原告商品と誤認するとも主張する。しかし、原告商品の外観と被告商品の外観は販売名等の記載など識別力ある部分が全く異なっていること等により、これに患者が気付かないということはあり得ないから、そのような誤認が実際には生じないことはもとより、取引過程における需要者の意思決定と無関係なそのような取り違いは、そもそも不正競争防止法の対象とならない。
(5) 争点5(原告の被った損害の額)について
(原告の主張)
ア 被告らは、被告商品を製造し、これを医療機関に販売するという共同の目的(意思)の下に、被告商品の製造から医療機関及び調剤薬局への販売に至るまでの一連の行為(以下「本件行為」という。)を共同して行ったというべきである。
イ 被告メルクは、遅くとも平成14年3月には被告商品を医療機関及び調剤薬局に販売し、本件訴訟提起の日である平成17年3月24日までの被告商品の売上金額は、金4332万円を下らない。
ウ 被告メルクによる被告商品の販売による利益率は50パーセントを下らないから、本件行為により被告らが得た利益の額は、金2166万円を下らない。
エ よって、被告らは、故意又は過失により、共同して不正競争行為を行って原告の営業上の利益を侵害したのであり、これにより原告が被った損害の額は、金2166万円を下らない。
(被告らの主張)
 原告の主張のうち、イについては認めるが、その余は否認ないし争う。
(6) 争点6(原告の被告らに対する権利主張は権利濫用に当たるか)について
(被告らの主張)
 被告らは、被告商品を、その販売開始から平成17年7月まで6年近くにわたって銀色地に青色の文字等のPTPシートと緑色及び白色の2色からなるカプセルというデザインで販売してきた。しかし、原告は、この間、原告商品の後発医薬品である被告商品の発売及び販売を知っていたはずであるにもかかわらず、平成17年3月2日付け内容証明郵便を被告らに送付するまで、被告商品のデザインについてのクレームを一切述べることはなかった。被告商品の販売を知りつつそれを放置してきた原告が、被告商品が被告らの長年の努力の結果として市場において一定の認知を得るに至った後に自己の権利を主張してくるのは、権利の濫用であり許されない。
(原告の主張)
 被告らが被告商品の販売を開始した時点において、原告が被告商品の外観について認識していたわけではない。また、仮に、相当長期間にわたって差止請求権が行使されないまま混同招来行為が放任されたような状態になっていたとしても、かかる事実から安易に権利濫用を肯定するべきではなく、原告の権利濫用を基礎付ける具体的な主張及び立証がない本件が、原告の本件請求を権利濫用であると認定し得る事案ではないことは明白である。
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか)について
(1) 配色の商品等表示性について
ア 不正競争防止法2条1項1号が他人の周知商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することを不正競争行為と定めた趣旨は、同使用行為により周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、周知な商品等表示が有する営業上の信用を保護することにある。
 医薬品としてのカプセル及びその容器又は包装としてのPTPシートは、同法2条1項1号にいう「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」として同号にいう「商品等表示」に当たり得るといえるものの、極めてありふれた形状又は色彩の商品それ自体又は容器若しくは包装については出所表示機能があるということができず、これらが同号にいう「商品等表示」に当たらないことは明らかであり、同号にいう「商品等表示」に当たるといえるためには、出所表示機能を備えた形状又は色彩の「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」であることが必要である。
イ 原告商品の医薬品としてのカプセルの形状自体及びその容器又は包装としてのPTPシートの形状自体は、医療用医薬品においてごくありふれた形状であって何ら特徴的なものではないことは明らかであり、原告が本件において原告商品の商品等表示であると主張する要素(本件配色)は、カプセルが緑色と白色の2色からなること及びPTPシートが銀色地に青色の文字等が付されていること(文字等の内容や配置は問わない。)である。そこで、そもそもこのような単純な色彩の組合せ(本件配色)についても商品等表示と認めることができるかを判断する。
ウ 一般論としては、単純な配色であっても、それが特定の商品と密接に結合し、その配色を施された商品を見たり、その配色の商品である旨を耳にすれば、それだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には、当該商品に施された配色が、出所表示機能を取得し、その商品の商品等表示になっているということができるのであるから、商品の配色に商品等表示性を認めることができる場合があること自体は否定できない。
 しかしながら、色彩は、古来存在し、何人も自由に選択して使用することができるものであって、単一の色彩を使用した場合はもちろん、ある色彩と別の色彩とを単純に組み合わせて同時に使用したという程度の単純な配色であれば、そのこと自体には特段の創作性や特異性が認められるものではないから、それによって出所表示機能が生じ得る場合というのは、極めて限定されると考えられる。
 また、仮に、単純な配色が出所表示機能を持つようになったと思われる場合であっても、色彩はもともと自由に使用できるものである以上、色彩の自由な使用を阻害するような商品等表示の保護は、公益的見地からみて容易に認容できるものではない。こうした点からすれば、単純な配色が不正競争防止法において保護すべき出所表示機能を取得したということができるかどうかの判断に当たっては、その配色を商品等表示として保護することが、上記の色彩使用の自由を阻害することにならないかどうかという点も含めて慎重に検討されなければならないというべきである。
 さらに、商標法においては、色彩は、文字、図形、記号等と結合して商標となるとされていること(商標法2条1項)との比較からすると、文字、図形、記号等と結合することのない商品の単純な配色を不正競争防止法において商品等表示として保護することが、商標法における保護との均衡を失するものとならないかどうかという点も考慮に入れる必要があると考えられる。
エ 以上からすると、単純な配色が特定の商品に関する商品等表示として不正競争防止法上保護されるかどうかについては、@当該配色をその商品に使用することの新規性又は特異性、A当該配色とそれが施された商品との結びつきの強さ及び当該配色の使用の継続性、B当該配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び当該商品の売上げ、C取引者や需要者である消費者が商品を識別、選択する際に当該配色が果たす役割の大きさ等を十分検討した上で決せられなくてはならない(大阪高判平成9年3月27日知的裁集29巻1号368頁参照)。
(2) 本件配色の商品等表示性について
ア 本件配色の新規性又は特異性
 原告は、胃潰瘍治療剤においては、本件配色を施したカプセル及びPTPシートの組合せは、原告商品の販売開始以前には存在しなかったこと等を強調する。
 しかしながら、医療機関及び調剤薬局においては、胃潰瘍治療剤だけではなく、多種多量の医療用医薬品を同時に取り扱うのが通常であることは公知の事実といってよいから、このような医療用医薬品の取引の実情に鑑みれば、医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中で、本件配色が新規性又は特異性を有するものであるかどうかを判断するのが適切である。
 この点、カプセルが緑色と白色の2色からなること及びPTPシートが銀色地に青色の文字等が付されていることを特徴とする医療用医薬品としては、原告商品の販売開始以前に、「セファレキシン・C『トーワ』」が昭和51年9月から販売されている(検乙7、乙8)。
 また、カプセル剤の配色についてだけみるならば、緑色と白色の2色からなるカプセル剤には、「インスミン15」(検乙8、乙9)、「セブンイー・P」(検乙9、乙10)、「シンクルカプセル」(検乙10、乙11)等があり、これらの医療用医薬品は、いずれも原告商品の販売開始以前に販売されているものである。
 さらに、銀色地に青色の文字等が付されたPTPシートを使用する医療用医薬品には、「アシノンカプセル150」(検乙3、乙5)、「アテミノンカプセル150r」(検乙6、乙7)がある。
 これらの事実に鑑みると、カプセルに緑色と白色の2色を使用し、カプセルを装填するPTPシートに銀色地に青色の文字等を配するという原告商品の本件配色は、医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中でみれば、原告商品の販売開始当時において新規性を有するものであったとは認め難いし、特異性を有するものであるとも認め難いというべきである。
イ 本件配色と原告商品との結びつきの強さ及び本件配色の使用の継続性
 証拠(甲3の1から4、甲5から7)によれば、原告は、昭和59年12月の販売開始以来、一貫して原告商品について本件配色を使用してきたことを認めることができる。
 ただし、原告は、テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤として、原告商品である「セルベックスカプセル50r」のほかに「セルベックス細粒10%」という細粒剤を販売しており(甲1、乙4)、原告が医師・薬剤師等に向けて作成したリーフレット(甲4の1から3)においても、「セルベックス」の名称でカプセル剤である原告商品とほぼ白色の上記細粒剤の両方を表示している。原告が、原告商品と同一の有効成分を含有し、同一の効能・効果を有する医療用医薬品を、「セルベックス」という共通の名称を付した上で、原告商品と同時並行的に販売してきたとの事実は、本件配色と原告商品との結びつきを弱める方向に働くものであるということができる。
ウ 本件配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び原告商品の売上げ
a) 証拠(甲2、甲3の1から4、甲4の1から3)によれば、原告は、継続的に多数のMRを雇用し、医師・薬剤師等に対して、原告商品の写真が掲載されたパンフレットやチラシの配布等を行って広告宣伝を行ってきたことが認められる。また、原告は、自社のホームページ上においても、製品情報として、医療用医薬品製品一覧の中において原告商品の写真を掲載して原告商品を紹介している(甲15)。
 さらに、証拠(甲13、16)によれば、原告商品の年間売上高は平成2年以降は毎年数百億円規模になっており、平成12年から平成16年までの5年間にわたり、「セルベックス」の年間処方ランキングは、A2B抗潰瘍剤において第1位を維持し続けていることが認められる。前記のとおり、「セルベックス」には原告商品のほかに細粒剤があるので、この処方ランキングは、原告商品のみの処方を反映したものであるとはいえないものの、このような売上実績及び処方実績は、原告商品の広告宣伝が相当程度医師・薬剤師等に浸透していることを示唆しているということができる。
b) もっとも、原告商品のパンフレットやチラシは、本件配色をもって原告商品の識別のポイントとすべきことをアピールする内容のものではないし、前記のような売上実績及び処方実績も、医師・薬剤師等が原告商品の効能・効果を評価した結果であるということはできても、医師・薬剤師等が原告商品を本件配色により識別していることを示唆するものということはできない。
 また、原告商品の最終需要者である消費者(患者)に対する広告宣伝は、前記ホームページ以外に行われていると認めるに足りる証拠はない上、前記ホームページについても、「セルベックスカプセル50r」という販売名から原告商品の写真にたどり着くことはあっても、原告商品の写真から逆に「セルベックスカプセル50r」という販売名や商品説明にたどり着くことはできない構造になっているから、これを閲覧する者に対して、本件配色をもって原告商品の識別のポイントとすべきことをアピールする内容のものにはなっていない。
エ 原告商品の識別、選択の動機
a) 証拠(甲5、甲7、甲17)によれば、近年、医師・薬剤師等を対象として処方薬を写真で紹介する専門書や、消費者(患者)を対象として処方薬を写真等から検索できるようにして紹介する書籍が発行されていることが認められる。
 こうした書籍の存在に鑑みれば、取引者たる医療機関及び調剤薬局の医師・薬剤師等又は最終需要者たる消費者(患者)が、原告商品を本件配色を一つの手がかりとして識別することがあり得るということができる。
b) しかしながら、専門家である医師・薬剤師等にとっては、一見すると外観的特徴の似通った医療用医薬品が複数存在することは、むしろ周知の事実であるというべきである。また、厚生省医薬安全局長名で各都道府県知事宛に発された「医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて」と題する通達(平成12年9月19日医薬発第935号。乙3)においても、「医薬品の誤投与を防止するためには、調剤時、投薬時及び患者の服用時に容易に本来投与すべき医薬品が確認できるよう、PTPシートに販売名、規格等が記載されていることが重要である」との認識が示されていることからも明らかなように、医師は、「セルベックスカプセル50r」とか、「セルパスカプセル」というように、処方せんに販売名を記載して医療用医薬品を処方するのが通常であり、処方せんに本件配色を記載してこれを処方するものではないし、薬剤師もこのような医師の処方せんに基づき医療用医薬品を選択するものであり、本件配色によってこれを選択するものではない。
 これらの事情に鑑みると、少なくとも専門家である医師・薬剤師等においては、販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということは到底想定し難いことというべきである。
c) 他方、消費者(患者)においては、専門家である医師・薬剤師等とは異なり、多種多量の医療用医薬品を常時取り扱うことはないから、販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということも考えられる。
 しかし、原告商品のような医療用医薬品は、本来その効能・効果によって患者の症状に最も適したものが医師により処方され、それを患者が受け入れているのであって、患者にとっても配色その他の商品のデザインが医療用医薬品の選択の動機となることは通常考え難いところである。
オ 総括
 前記アからエまでにおいて検討したところを総合考慮すれば、本件配色は、原告商品の販売名等の表示とは別に、独立して原告の商品であるとの出所表示機能を取得するに至っていると認めることはできず、本件配色が原告商品の商品等表示となっているということはできない。
2 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂驤
 裁判官 杉浦正典
 裁判官 吉川泉
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