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【事件名】講演録の複製権侵害事件 【年月日】平成17年12月26日 東京地裁 平成17年(ワ)第11855号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成17年11月14日) 判決 原告 ジー・エル・エー総合本部 同訴訟代理人弁護士 村松靖夫 被告 A 主文 1 被告は、別紙著作物目録記載の講演の録音・録画及び論文を、CD・ROM、電子ブック、その他の記憶媒体に複製し、その複製物を譲渡し、又は譲渡のための広告・展示をしてはならない。 2 被告は、被告所有の前項の複製物を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、金10万9809円及びこれに対する平成17年6月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項及び第2項と同旨。 2 被告は、原告に対し、金131万7708円及びこれに対する平成17年6月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、故Bの相続人から、Bの著作物等に関する著作権の信託を受けた原告が、別紙著作物目録記載TのBの講演(以下「本件各講演」という。)の録画又は録音をCD・ROMに複製し、別紙著作物目録記載UのBの論文(以下「本件各論文」といい、本件各講演と併せて「本件各講演等」という。)を電子ブックに複製し、当該複製物(以下「本件各複製物」という。)の販売を行っている被告の行為は、Bの著作物に関する著作権を侵害しているとして、著作権法112条1項に基づいて、複製等の差止め、同条2項に基づいて、本件各複製物の廃棄、民法709条に基づいて、損害の賠償及びこれに対する遅延損害金(本訴状送達の日の翌日である平成17年6月24日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合)を、それぞれ求めている事案である。 1 原告の主張(請求原因) (1) 原告は、釈迦及びイエス・キリストの根本原理を源流として、B、Cの教えに学ぶこと等を主たる目的とする宗教法人である。 (2) Bは、原告の創始者であるが、昭和51年6月25日に死亡した。Bの相続人は、妻であるD並びに子であるC及びEの3名である。 (3) D、C及びEは、平成16年8月1日、原告との間で、相続したBの著作権をすべて原告に信託する旨を合意した。 (4) 被告は、Bの本件各講演の録音又は録画をCD・ROMに複製し、また、本件各論文を電子ブックに複製し、これらの複製物である本件各複製物を、遅くとも平成14年6月から、インターネット上で販売している。 (5) 本件各複製物の価格は、別紙著作物目録の「被告販売価格」欄記載のとおりであり、その合計は4万0670円である。 被告は、本件各複製物を、少なくとも1か月3部ずつ販売しており、その利益率は3割であるから、前記平成14年6月から平成17年5月までの36か月間に、以下のとおり、131万7708円の利益を得ている。 40、670円×3部×36か月×0.3=1、317、708円 (6) よって、原告は、被告に対し、@本件各講演等の複製等の差止め、A本件各複製物の廃棄、及びB131万7708円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成17年6月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告の主張 (1) Bの講演記録は、世界の宝であり、一宗教法人が独断で封印すべきものではない。 (2) 著作権法30条により、私的使用のための複製は許されているから、本件各複製物の廃棄を請求することは法律違反となる。 (3) 本件各複製物の取引数は、平成16年10月13日から平成17年5月17日までの216日間において24品であり、これを3年間に換算すると122品となる。本件各複製物の1品当たりの価格は1261円となり、3年間の売上げは15万3842円となり、利益率3割を乗じた利益額は4万6153円となる。 そして、送料(1品当たり330円)、郵便局持込みのための車両使用等による費用(1品当たり500円)、オークションサイトにおける成約手数料(売上げの3パーセントに消費税を加えた金額)及びオークションサイトの会費(1か月当たり300円)を経費として控除すると、以下のとおり、利益は存在しない。 46、153円−40、260円(330円×122品)−61、000円(500円×122品)−4、846円(153、842円×0.03×1.05)−10、800円(300円×36か月)=△70、753円 したがって、被告から原告に対して金員を支払う根拠は存在しない。 第3 当裁判所の判断 1 甲1及び2並びに弁論の全趣旨によれば、原告の主張(請求原因)(1)及び(2)の事実が認められる。 2 甲1によれば、原告の主張(請求原因)(3)の事実が認められる。 3 甲3によれば、平成16年10月13日の時点で、被告が、別紙著作物目録記載Tの番号1、8、9、10、16、17、19、22、24及び27並びに同目録記載Uの番号1、3及び4の複製物を、それぞれインターネット上で販売していたことが認められ、また、甲2によれば、平成17年5月17日の時点で、被告が、別紙著作物目録記載Tの1ないし26及び同目録記載Uの1ないし4の複製物を、それぞれインターネット上で販売していたことが認められる。そして、甲2及び3によれば、本件各複製物の価格(送料を含む。)として被告が設定したものは、別紙著作物目録の「被告販売価格」欄記載の各価格であることが明らかである。 これらの事実に加え、被告が、平成16年10月の時点で、本件各複製物を出品しているインターネットのオークションサイトにおいて、すでに47通の、落札者による評価を受けていること(甲3)や、被告において、複製の事実、販売期間、本件各複製物の価格等について特に争うものとは認められないこと(弁論の全趣旨)を併せて考慮すると、被告は、平成14年6月から平成17年5月まで、本件各講演等について複製物を作成し、その複製物を、インターネット上で、別紙著作物目録の「被告販売価格」欄記載の各価格(送料を含む。)で販売していたと認めるのが相当である。 4 上記1ないし3の各事実によれば、被告は、本件各講演等を複製し、その複製物を販売していたこととなり、それらの行為について原告あるいはBの相続人の承諾を得ていたことも認められないので、被告の行為は、Bの著作物に関する著作権(複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2))を侵害するものであると認められる。 以上の侵害による損害について、原告は、著作権法114条2項の規定に基づいて、被告が本件各複製物の販売により得た利益の額をもって原告の受けた損害額と推定されると主張しているものと解されるので、平成14年6月から平成17年5月までの間に被告が受けた利益の額について検討する。 本件各複製物の販売価格は、別紙著作物目録記載のとおり、合計4万0670円であるところ、甲2及び3において、入札残り時間がわずかとなっても入札がされていないものがいくつも見受けられること等の事情も併せると、本件各複製物は4か月に1部ずつ販売される程度であると推認するのが相当であり、3年間の売上金額は、36万6030円(4万0670円×3回×3年)となる。そして、利益率については、本件各複製物の販売価格が送料を含んだ金額であること等の事情を考慮して、3割であると推計され、被告の利益の額は、10万9809円であるとするのが相当である。 被告は、販売数量について3年間に122品であると主張するが、この根拠とするのはオークションサイトにおける出品者に対する評価数であり、評価数は販売数より少なくなるものであると考えられる上、平成16年10月13日から平成17年5月17日までの7か月余の期間の評価数に基づいて計算された数値であるから、これに基づいて販売数量が合理的に推認されるとみることはできず、被告の主張は採用できない。 また、被告は、本件各複製物の送料や郵便局に持ち込む際にかかる費用などを経費として控除すべきである旨主張するが、これらの費用については、利益率を3割とした点において(すなわち、7割を経費と考えることによって)、既に計算上考慮されているものであり、それ以上に経費が必要となることをうかがわせる事情も認められないので、この点に関する被告の主張も採用することができない。 そうすると、被告の受けた利益の額10万9809円が原告の損害額であると認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 5 なお、被告は、本件各講演等を複製することは、著作権法30条によって許されているので、本件各複製物の廃棄を求めることは法律に違反するものである旨主張するが、被告が、本件各複製物を作成して販売しているという前記認定の事実に照らせば、被告による本件各複製物の作成は、著作権法30条の「私的使用」には当たらないことが明らかであり、この点に関する被告の主張を採用することはできない。 第4 結論 以上の次第で、原告の請求は、本件各講演等について複製すること、複製物の譲渡及び譲渡のための広告・展示をすることの各差止め、本件各複製物の廃棄、10万9809円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成17年6月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法64条及び61条、仮執行宣言について、同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 清水節 裁判官 山田真紀 裁判官 片山信 |
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