判例全文 line
line
【事件名】商標“CARTIER”侵害事件
【年月日】平成17年12月20日
 東京地裁 平成17年(ワ)第8928号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年11月8日)

判決
原告 カルティエ インターナショナルビー ブイ
同訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 町田健一
同 木村育代
同訴訟代理人弁理士 アインゼル フェリックス ラインハルト
同補佐人弁理士 山崎和香子
被告 株式会社とらや


主文
1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を譲渡し、引き渡し又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
2 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金3498万2467円及びこれに対する平成17年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。
6 この判決は、第1、3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、原告に対し、金2億円及びこれに対する平成17年5月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
ア 原告は、オランダ王国の法人であり、腕時計その他の身飾品の製造及び販売等を目的とする会社である。
イ 被告は、時計、宝石又は貴金属等の輸出入及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の権利
 原告は、次の各商標権を有している(以下、各商標権を「原告商標権1」などといい、各登録商標を併せて「原告商標」という。)。
ア 原告商標権1
 商標登録 第0867760号
 出願年月日 昭和43年12月12日
 商品の区分 (昭和34年法区分)第23類
 指定商品 時計、その他本類に属する商品
 登録年月日 昭和45年8月3日
 登録商標 CARTIER(別紙商標目録1記載のとおり)
イ 原告商標権2
 商標登録 第1270458号
 出願年月日 昭和48年3月14日
 商品の区分 (昭和34年法区分)第23類
 指定商品 時計、眼鏡、これらの部品及び附属品
 登録年月日 昭和52年5月16日
 登録商標 CARTIER(別紙商標目録2記載のとおり)
ウ 原告商標権3
 商標登録 第4508663号
 出願年月日 平成12年11月22日
 商品の区分 第3類、第9類、第14類、第16類、第18類、第25類、第34類
 指定商品 別紙指定商品目録記載のとおり
 登録年月日 平成13年9月21日
 登録商標 CARTIER(別紙商標目録3記載のとおり)
エ 原告商標権4
 商標登録 第1357886号
 出願年月日 昭和48年3月14日
 商品の区分 (昭和34年法区分)第21類
 指定商品 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具
 登録年月日 昭和53年11月28日
 登録商標 CARTIER(別紙商標目録4記載のとおり)
オ 原告は、原告商標又はこれに類似する商標を付した腕時計その他の身飾品(以下「原告製品」という。)を製造し、これを販売している。
(3) 被告の行為
ア 被告は、遅くとも平成15年5月ころから現在まで、東京都中央区(以下略)所在の店舗、東京都台東区(以下略)所在の店舗及び大阪市西成区(以下略)所在の店舗において、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を販売した。
イ 被告は、アの期間に、「ブランドジョイ」(株式会社ネコ・パブリッシング発行)、「ブランズオフ」(株式会社成美堂出版発行)及び「メンズブランド」(同社発行)等の雑誌に被告製品の広告を掲載した。
2 事案の概要
 本件は、原告が、上記1(3)の被告の行為が原告商標権を侵害すると主張して、被告に対し、商標法36条に基づき、原告商標を付した被告製品の譲渡等の差止め及び廃棄を請求するとともに、民法709条に基づき、損害賠償を請求する事案である。被告は、事実関係を認め、和解による解決を希望した。
3 原告の主張の要旨(損害額について)
 被告は、第2の1(3)の行為により利益を受けているから、その利益の額が原告が受けた損害の額と推定される(商標法38条2項)。被告が受けた利益とは、被告製品の売上金額から、仕入原価、広告費用及び加工費用(ダイヤモンド等の仕入原価を含む。以下同じ。)を除いた金額であるというべきであって、その内訳の詳細は、別表記載のとおりである。
(1) 売上金額
 被告が販売した被告製品の数は、少なくとも157個であり、その売上金額は、1億4363万4000円である。
(2) 仕入原価
 仕入原価の合計額は、8854万8638円である。
(3) 広告費用
 広告費用の合計額は、以下のとおり計算すると、729万8555円となる。
ア 雑誌の広告料金は、次の各号に掲げるスペースの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額である。被告製品は、(ア)以外のスペースに掲載されていたから、その広告料金は、下記(イ)ないし(カ)の平均価額である32万円となる。
(ア) 表四(裏表紙のことをいう。) 50万円
(イ) 表二(表表紙の裏側のことをいう。) 40万円
(ウ) 表三(裏表紙の裏側のことをいう。) 35万円
(エ) 目次対向(目次の反対側スペースをいう。) 30万円
(オ) 記事対向(記事の反対側スペースをいう。) 30万円
(カ) (ア)ないし(オ)以外のスペース 25万円
イ アのスペースには、被告製品の他にも、他社の同種製品が多数掲載されているから、被告製品1個当たりの広告費用は、アの32万円をスペースに掲載されている製品数で除した金額となる。
(4) 加工費用
 加工費用の合計額は、以下のとおり計算すると、1280万4340円となる。
ア ベゼル
(ア) タンクフランセーズ
a ダイヤモンドの仕入原価
 被告製品に付されたダイヤモンドは、いずれも寸法が約1.7ミリメートル、重量が0.019ないし0.029カラットである。このようなダイヤモンドの平均価額は、1614円である。
b 石留め料
 石留め料は、ダイヤモンド1個につき590円である。
c まとめ
 タンクフランセーズのベゼルに24個のダイヤモンドを付する加工費用は、aのダイヤモンドの仕入原価とbの石留め料の合計額に24を乗じた額である5万2896円となる。
(イ) パシャ
 被告は、パシャのベゼルのダイヤ加工料金(ダイヤモンドの仕入原価を含む。以下同じ。)を35万円に設定している。この料金は、(ア)のタンクフランセーズの1.4倍であるから、パシャのベゼルの加工費用は、(ア)の1.4倍である7万4054円となる。
(ウ) ミニパンテール及びミニベニュワール
 被告は、ミニパンテール及びミニベニュワールのダイヤ加工料金をそれぞれ(ア)のタンクフランセーズと同額に設定している。そうすると、ミニパンテール及びミニベニュワールの各ベゼルの加工費用は、(ア)と同額である5万2896円となる。
(エ) その他の製品
 (ア)ないし(ウ)以外の製品のベゼルのサイズは、(イ)のパシャよりも、(ア)のタンクフランセーズ並びに(ウ)のミニパンテール及びミニベニュワールに近いことから、その他の製品のベゼルの加工費用は、(ア)及び(ウ)と同額である5万2896円となる。
イ グリッド 
 被告は、グリッドのダイヤ加工料金をア(ア)のタンクフランセーズのベゼルのダイヤ加工料金と同額に設定している。そうすると、グリッドの加工費用は、ア(ア)と同額である5万2896円となる。
ウ 文字盤
 被告は、文字盤にダイヤモンドを付するダイヤ加工料金をア(ア)のタンクフランセーズのベゼルのダイヤ加工料金と同額に設定している。文字盤にダイヤモンドを付する作業は、これをベゼルに付する作業と差異はないから、文字盤の加工費用は、ア(ア)と同額である5万2896円となる。
エ ブレスレット
(ア) ブレスレットにダイヤモンドを付する加工費用は、ダイヤモンドの数等に照らし、ベゼル(パシャのものを除く。)にダイヤモンドを付する加工費用と同額となる。
(イ) 被告は、原告の製造に係る革製ストラップ又はブレスレットに替えて金属製ブレスレットを付している。この金属製ブレスレットの仕入原価は、次の各号に掲げる製品の区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額である。
a パシャ 2460円
b パンテール又はミニリュバン 3020円
c ベニュワール(ミニベニュワールを含む。dにつき同じ)のホワイトゴールド 2170円
d ベニュワールのイエローゴールド 4340円
e タンクフランセーズ又はタンクアメリカン 1750円
f トノーラニエール 2320円
オ 身飾品
 身飾品にダイヤモンドを付する加工費用は、上記ア(ア)aのダイヤモンドの仕入原価と同bの石留め料の合計額である2204円にダイヤモンドの個数を乗じた金額となる。  
(5) まとめ
 以上によれば、(1)の売上金額から(2)ないし(4)の費用を除いて被告の利益額を算出すると、別表のとおり、原告の損害額は、少なくとも3498万2467円となる。
第3 当裁判所の判断
1 本件訴訟の経緯等
(1) 原告は、被告に対し、平成17年5月9日、本件訴訟を提起した。
(2) 被告は、原告に対し、@被告は前記第2の1(3)の販売及び広告を中止する、A原告において同種の販売をしている被告以外の店舗に対して警告をするように依頼する、B被告代表者は、原告製品の愛好家であるなどの内容を記載した手紙を送付し、これが平成17年6月10日原告に到達した。
(3) 被告は、平成17年6月21日の第1回口頭弁論期日において、事実関係を認め、今後前記第2の1(3)の販売をしないことを約した。そのため、裁判所は、弁論準備手続に付し、被告に対して、被告の売上帳簿から前記第2の1(3)の売上金額を明らかにするように求めた。
(4) 上記(3)の釈明に基づき、被告は、平成17年7月19日の第1回弁論準備期日において、前記第2の1(3)の売上金額の合計は、1億4318万7672円であり、被告製品の在庫はほとんどないと述べた。そこで、裁判所は、本件訴訟につき和解勧告をした上で、原告は、被告に対し、同年8月5日までに和解案を送付することとし、被告は、原告に対し、同月19日までにこれに回答する旨の審理の計画を定めて、第2回弁論準備期日を同年9月5日に指定した。
(5) 上記(4)の審理の計画に基づき、原告は、裁判所に対して、平成17年8月5日、和解案を送付したことから、裁判所は、被告にこれを送付し、同月19日までに回答するように求めた。
(6) それにもかかわらず、被告は、平成17年8月19日までに和解案に対する回答をしなかった上、第2回弁論準備期日に無断で欠席した。
(7) 平成17年9月5日の第2回弁論準備期日において、裁判所は、第3回弁論準備期日を同年9月20日に、第4回弁論準備期日を同年10月4日にそれぞれ指定し、その期日呼出状を被告に送達した。
(8) 上記期日呼出状に対し、被告は、裁判所に対し、平成17年9月13日、次回期日は出頭すると記載した書面を郵送した。
(9) それにもかかわらず、被告は、第3回弁論準備期日に無断で欠席した。そのため、裁判所は、被告が第4回弁論準備期日に出頭しない場合には、和解勧告を打ち切り弁論準備手続を終結することとし、口頭弁論期日を同年11月8日に指定した。
(10) 裁判所は、平成17年9月20日、上記(9)に係る期日呼出状を被告に送達した。裁判所は、これと併せて、被告に対し、原告の和解案に対する回答を再度求めるとともに、被告が第4回弁論準備期日に出頭しない場合には、期日呼出状に記載のとおり口頭弁論を開いた上で、弁論を終結し、判決を言い渡すことになるが、現在のままでは原告の主張がそのまま認められることになるなどと記載した書面を送達した。
(11) 被告は、第4回弁論準備期日を無断で欠席したため、裁判所は和解勧告を打ち切り、弁論準備手続を終結した。
 なお、裁判所は、平成17年9月19日、同月20日(3回)、10月3日、同月4日の合計6回にわたり、被告代表者の携帯電話に電話をしたものの、留守番対応状態であり、これに裁判所に連絡するように伝言を残したものの、被告代表者からの連絡はなかった。
 また、裁判所は、同年9月20日、10月3日、同月4日の合計3回にわたり、被告の店舗に電話をしたものの、被告の従業員は被告代表者が現在外出していると述べるにとどまりその所在を明らかにしない上、その際、被告代表者に裁判所に連絡するように伝言をしたものの、被告代表者からの連絡はなかった。
(12) 被告は、平成17年11月8日の第2回口頭弁論期日に出頭し、前記(5)の原告の和解案に対して、被告の和解案を示した。裁判所は、口頭弁論を終結し、同年12月20日に判決言渡期日を指定するとともに、同月1日に和解期日を指定した。原告は、期日間に被告の和解案を検討したが、その後、裁判所に対し、今となっては、上記被告の和解案を受け入れることはできないと回答したことから、裁判所は、上記和解期日を取り消した。
2 商標権侵害の成否
(1) 被告製品の加工行為
ア 被告製品は、前記第2の1(3)のとおり、次の各号に掲げる製品の区分に応じてそれぞれ当該各号に定める原告製品にイの部品を付し、これを加工したものである。
(ア) 腕時計 パシャ、パシャC、タンクフランセーズ、タンクアメリカン、タンクアロンジェ、タンクディヴァン、ミニタンクディヴァン、ベニュワール、ミニベニュワール、ベニュワールアロンジェ、パンテール、ミニパンテール、サントスドゥモワゼル、サントスガルベ、ラニエール、ミニリュバンドゥカルティエ及びサンチュール
(イ) 身飾品 ビスモチーフのイヤリング、ブレスレット及び指輪、パンテールモチーフのネックレス、ブローチ、指輪及びチャーム(ブレスレット又はネックレスに付する飾りをいう。)、ネクタイピン、ドルフィンモチーフのピンバッジ、指輪及びブローチ、象をモチーフにしたチャーム、ラニエールシリーズの指輪並びにC-2の指輪(2個の「C」を向かい合わせに配置してデザインされたシリーズをいう。)
イ アに規定する部品とは、次の各号に掲げる製品の区分に応じてそれぞれ当該各号に定めるものをいう。
(ア) 腕時計のベゼル、文字盤、ケース、グリッド、ブレスレットその他の外装部分ダイヤモンド、ダイヤモンドが付された金属製の格子状部品又は原告の製造に係る革ベルト若しくはブレスレットに替えて付する被告の製造に係るダイヤモンドを付したブレスレット
(イ) 身飾品の表面 ダイヤモンド
(2) 被告製品のうち、腕時計は、原告商標権1ないし3の指定商品と同一であり、身飾品は原告商標権3及び4の指定商品と同一である。また、被告製品は、原告製品を加工したものであり、原告商標又はこれに類似する商標が付されている。よって、被告製品の譲渡、引渡し又は譲渡若しくは引渡しのための展示は、原告商標権1ないし4を侵害する(商標法25条、2条3項2号)。
 なお、被告製品は、原告製品を加工したものであるが、以下のとおり、原告製品の品質にも影響を及ぼす改変を施したものであり、原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害するものといわざるを得ない。
ア 原告製品は、原告独自の品質管理に関する基準に基づき、製造されている(弁論の全趣旨)。
イ 上記(1)イの部品には、いずれもダイヤモンドが付されているが、このダイヤモンドは、原告製品よりも小さいものである(甲16の1ないし25及び甲37)。
ウ 上記イのダイヤモンドには、一見して傷が見られることから、品質が良くないものである(甲37)。
 よって、被告製品の譲渡等の行為は、原告製品を加工したことをもって違法性を欠くことにはならない。
 また、被告製品の広告には、「アフターダイヤ」などの表示があるが(甲10の1ないし21)、真正な原告製品として、ダイヤモンドを付したものが販売されており、被告製品がこれと混同を生じるおそれのある形態であること(甲11)に照らせば、上記表示があるとしても、原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することに変わりはない。
(3) 被告の商標権侵害行為は過失によるものと推定されるから(商標法39条、特許法103条)、被告は、上記侵害行為により原告が被った損害を賠償すべきである。
3 損害額について
(1) 被告は、第2の1(3)アのとおり、被告製品を販売して利益を受けているから、その利益の額が原告が受けた損害の額と推定されるところ(商標法38条2項)、被告が受けた利益の額とは、売上金額から、侵害品である被告製品の販売のみのために直接要した費用(以下「変動費」という。)を控除した額とするのが相当である。
(2) 売上金額
ア 「ブランドジョイ」、「ブランズオフ」及び「メンズブランド」(第2の1(3)イ参照)の平成15年5月号から平成17年3月号までの各雑誌の広告に被告製品が掲載されている(甲10の1ないし22)。このうち、上記各雑誌の平成17年3月号に未だ掲載されているものは、販売されなかったものと認めるのが相当であるから、これらを除いて計算すると、被告製品の個数は、のべ574個であると認められる。
 また、これらの被告製品のうち、次の(ア)ないし(ウ)に掲げる同一形状の製品は、同一製品が雑誌に重複して掲載されていたものと認めるのが相当であるから、これらを同一の被告製品として計算すると、被告製品の販売個数は、別表の「個数」欄のとおり、合計157個であると認められる。
(ア) 同年同月の複数の雑誌に掲載されている製品
(イ) 数か月連続して雑誌に掲載されている製品
(ウ) (イ)以外の場合であっても、掲載時期が近い製品
 上記の被告製品157個は、少なくとも平成17年3月号までに掲載されなくなったものであるから、これらは、既に販売されたものと認めるのが相当である。このことは、被告が、第1回弁論準備期日において、被告製品の在庫はほとんどないと述べたことからも裏付けられる。
イ 被告製品の販売価格は、別表の「販売価格」欄のとおりである(甲10の1ないし21)。
ウ そうすると、被告製品の売上金額の合計額は、別表の「販売価格」の合計である1億4363万4000円である。
 なお、被告は、第1回弁論準備期日において、売上金額は1億4318万7672円であると述べている。この額は、上記の額にほぼ一致するものであって、上記の額が平成17年3月以降の売上金額を除いていることを考慮すると、このような被告の陳述は、上記認定を裏付けるものである。
(3) 変動費
 被告製品の販売に要した変動費としては、以下の原告製品の仕入原価、広告費用及び加工費用があり、これらの費用は、被告製品の販売のみのために直接必要となったものと認められる。なお、被告において他に変動費として控除すべき費用の主張立証をしていない。
ア 原告製品の仕入原価
 前記(2)アの被告製品が加工される前の原告製品の他社の販売価格は、別表の「仕入原価」欄のとおりである(各被告製品についての証拠は、別表の「証拠(原価)」欄記載のとおりである。甲24の1、3、4及び6ないし8、甲25の1及び2、甲26の1ないし4、甲27の1ないし7、9及び10、甲28の1ないし4及び6ないし8、甲29の1、甲30の1及び2、甲31ないし甲33、甲34の1ないし5)。被告製品に加工するために必要な原告製品の仕入価格は、少なくとも、これら他社の販売価格を超えることはないから、別表の「仕入原価」の合計額である8854万8638円とするのが相当である。
イ 広告費用
(ア) 前記第2の1(3)イ記載のブランドジョイの広告料金は、次の各号に掲げるスペースの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額である(甲14)。なお、上記第2の1(3)イ記載のその他の雑誌の広告料金についても、同種同類の広告であるから、ブランドジョイの広告料金と同額とするのが相当である。
a 表四(裏表紙のことをいう。) 50万円
b 表二(表表紙の裏側のことをいう。) 40万円
c 表三(裏表紙の裏側のことをいう。) 35万円
d 目次対向(目次の反対側スペースをいう。) 30万円
e 記事対向(記事の反対側スペースをいう。) 30万円
f aないしe以外のスペース 25万円
(イ) 被告製品が掲載されているスペースには、いずれも雑誌の価格及び発行者の記載等がない(甲10の1ないし21)から、被告製品の広告は少なくとも(ア)a以外のスペースに掲載されていたことが認められる。そうすると、その広告費用は、上記(ア)bないしfの平均価額である32万円とするのが相当である。
(ウ) (ア)のスペースには、別表の「掲載個数」欄のとおり、被告製品の他にも、他社の同種製品が多数掲載されているから(各被告製品についての証拠は、別表の「証拠(広告)」欄記載のとおりである。甲10の1ないし21)、被告製品1個当たりの広告費用は、当該スペースに掲載されている掲載個数で除した金額である。
 そうすると、販売された被告製品の広告費用は、別表の「広告費用」の合計額である729万8555円であると認められる。
ウ 加工費用
 販売された被告製品は、それぞれ別表の「加工区分」欄に記載されたとおり、加工されている。なお、「加工区分」欄に記載された記号は、以下の加工を意味する。
 A 腕時計(パシャ)のベゼルにダイヤモンドを付する。
 B 腕時計(パシャ以外のもの。)のベゼルにダイヤモンドを付する。
 C 腕時計(パシャ)のグリッドにダイヤモンドを付する。
 D 腕時計の文字盤にダイヤモンドを付する。
 E 腕時計のブレスレットにダイヤモンドを付する。
 FないしK 腕時計のブレスレットを金属製のブレスレットに交換する。
 LないしO 身飾品にダイヤモンドを付する。
(ア) ベゼル
a タンクフランセーズ
(a) 被告製品に付されたダイヤモンドの形状
 タンクフランセーズのベゼルには、24個のダイヤモンドが付されているところ、被告製品に付されたダイヤモンドは、いずれも寸法が約1.7ミリメートル、重量が0.019ないし0.029カラットである(甲16の1ないし25)。
(b) ダイヤモンドの仕入原価
 ダイヤモンドの販売価格は、以下のとおりであるから(甲17、甲18)、被告のダイヤモンドの仕入原価は、これらの平均価額である1614円とするのが相当である。
@ 株式会社アサオ工芸は、寸法が1.7ミリメートル、重量が0.02カラット(甲17記載の「1/50」とは、1カラットの50分の1である0.02カラットのことをいう。)であるダイヤモンド1個を、上質のものについては1522円、並質のものについては1155円でそれぞれ販売している。
A K1は、寸法が1.7ミリメートル、重量が0.019カラットであるダイヤモンド1個を1522円、寸法が1.9ミリメートル、重量が0.028カラットであるダイヤモンド1個を2257円でそれぞれ販売している。
(c) ダイヤモンドの石留め料
 ダイヤモンド1個当たりの石留め料は、次の各号に掲げる会社について、当該各号に定める額である(甲17、甲19ないし甲23)。
 上記(a)のとおり、被告製品に付されたダイヤモンドは、0.02カラット前後のものであるが、このようなダイヤモンドは、一般にメレーダイヤといわれるものであって(甲22、甲23、弁論の全趣旨)、ダイヤモンドの中でも極めて小さな部類に属するものである。
 このようなダイヤモンドの大きさ等を考慮すると、ダイヤモンド1個当たりの石留め料は、下記@ないしEの平均価額である590円とするのが相当である。
@ 株式会社アサオ工芸 525円以上
A 有限会社セルビー 300円以上 
B 有限会社喜宝 1000円以上
C ジュエリーアベニュー 1000円以上
D 株式会社ジュエリー三華(メレ−ダイヤ) 300円
E 太田彫金(メレーダイヤ) 420円以上
(d) まとめ
 タンクフランセーズのベゼルに24個のダイヤモンドを付する加工費用は、(b)のダイヤモンドの仕入原価と(c)のダイヤモンドの石留め料の合計額に24を乗じた5万2896円(別表(注)B)であると認めるのが相当である。
b パシャ
 被告は、パシャのベゼルのダイヤ加工料金(ダイヤモンドの仕入原価を含む。以下同じ。)を35万円としている(甲10の7)。この料金は、タンクフランセーズの1.4倍であるが、一般に、ダイヤ加工料金はその加工原価に比例して設定されるものであるから、パシャのベゼルの加工費用は、a(d)の額を基準としてこれに比例させるものとして、その1.4倍である7万4054円(別表(注)A)とするのが相当である。
c ミニパンテール及びミニベニュワール
 被告は、ミニパンテール及びミニベニュワールのダイヤ加工料金をタンクフランセーズと同額としている(甲10の7)。そうすると、ミニパンテール及びミニベニュワールの各ベゼルの加工費用は、a(d)と同額である5万2896円(別表(注)B)とするのが相当である。
d その他の製品
 aないしc以外の製品のベゼルのサイズは、bのパシャよりも、aのタンクフランセーズ並びにcのミニパンテール及びミニベニュワールに近いと認められることから(弁論の全趣旨)、その他の製品のベゼルの加工費用は、a(d)及びcと同額である5万2896円(別表(注)B)とするのが相当である。
(イ) グリッド 
 被告は、グリッドのダイヤ加工料金をタンクフランセーズのベゼルのダイヤ加工料金と同額としている(甲10の7)。そうすると、グリッドの加工費用は、(ア)a(d)と同額である5万2896円(別表(注)C)とするのが相当である。
(ウ) 文字盤
 被告は、文字盤にダイヤモンドを付するダイヤ加工料金をタンクフランセーズのベゼルのダイヤ加工料金と同額としている(甲10の7)。文字盤にダイヤモンドを付する作業とこれをベゼルに付する作業とは本質的に異なるところはないから、文字盤の加工費用は、(ア)a(d)と同額である5万2896円(別表(注)D)とするのが相当である。
(エ) ブレスレット
a ダイヤモンドを付する費用
 ブレスレットにダイヤモンドを付する加工費用は、弁論の全趣旨により、高くても、(ア)のベゼル(パシャを除く。)、(イ)のグリッド又は(ウ)の文字盤の加工費用である5万2896円を超えることはないと認められるから、これらにダイヤモンドを付する加工費用と同額である5万2896円(別表(注)E)とするのが相当である。
b 金属製ブレスレット
 被告は、原告の製造に係る革製ストラップ又はブレスレットに替えて金属製ブレスレットを被告製品に付している。
 これらの金属製ブレスレットの仕入原価は、次の各号に掲げる製品の区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額(別表(注)FないしK)である(甲36)。
(a) パシャ 2460円
(b) パンテール又はミニリュバン 3020円
(c) ベニュワール(ミニベニュワールを含む。(d)につき同じ)のホワイトゴールド 2170円
(d) ベニュワールのイエローゴールド 4340円
(e) タンクフランセーズ又はタンクアメリカン 1750円
(f) トノーラニエール 2320円
c したがって、ブレスレットの加工費用は、別表の「加工費用」欄のとおり、aのダイヤモンドを付する費用にb(a)ないし(f)の金属製ブレスレットの額のいずれかを加えた費用の合計額である。
(オ) 身飾品
 身飾品にダイヤモンドを付する加工費用は、別表の「加工費用」欄のとおり、上記ウ(ア)a(b)のダイヤモンドの仕入原価と同(c)の石留め料の合計額である2204円にダイヤモンドの個数を乗じた額(別表(注)LないしO)とするのが相当である。
(カ) 小括
 以上のとおり、(3)ウの被告製品の加工費用は、別表の「加工費用」の合計額である1280万4340円であると認められる。 
(4) まとめ
 以上によれば、前記(2)の売上金額1億4363万4000円から前記(3)の控除すべき変動費(仕入原価8854万8638円、広告費用729万8555円、加工費用1280万4340円)を差し引いて、被告が第2の1(3)アの行為により利益を受けた額を算出すると、3498万2467円となる。
 よって、被告は、原告に対し、損害賠償金として、3498万2467円を支払う義務がある。
4 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は、主文の限度で理由がある。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 中島基至


(被告製品目録)
 別紙商標目録記載1ないし4の商標と同一又は類似の商標を付した製品(パシャ、パシャC、タンクフランセーズ、タンクアメリカン、タンクアロンジェ、タンクディヴァン、ミニタンクディヴァン、ベニュワール、ミニベニュワール、ベニュワールアロンジェ、パンテール、ミニパンテール、サントスドゥモワゼル、サントスガルベ、ラニエール、ミニリュバンドゥカルティエ、サンチュール、ビスモチーフのイヤリング、ブレスレット、指輪、パンテールモチーフのネックレス、ブローチ、指輪、チャーム(ブレスレットやネックレスに付ける飾り)、ネクタイピン、ドルフィンモチーフのピンバッジ、指輪、ブローチ、象をモチーフにしたチャーム、ラニエールシリーズの指輪、C-2(2個の「C」を向かい合わせに配置してデザインされたシリーズ)の指輪)のうち以下のもの
1 ダイヤモンドを付す加工を施した製品
2 原告の製造にかかる製品に、金属製の格子状部品を付す加工が施された製品
3 原告の製造にかかる革製ストラップ又はブレスレットに替えて金属製ブレスレットが付された製品
(商標目録)
 商標目録1 略
 商標目録2 略
 商標目録3 CARTIER(標準文字) 略
 商標目録4 略
(指定商品目録)
 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
3 せっけん類、香料類、化粧品、かつら装着用接着剤、つけづめ、つけまつ毛、つけまつ毛用接着剤、歯磨き、家庭用帯電防止剤、家庭用脱脂剤、さび除去剤、染み抜きベンジン、洗濯用柔軟剤、洗濯用でん粉のり、洗濯用漂白剤、洗濯用ふのり、つや出し剤、研磨紙、研磨布、研磨用砂、人造軽石、つや出し紙、つや出し布、靴クリーム、靴墨、塗料用剥離剤
9 理化学機械器具、測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、拡大鏡、その他の光学機械器具、サングラス・その他の眼鏡、眼鏡ケース、その他の眼鏡の部品及び附属品、加工ガラス(建築用のものを除く。)、救命用具、電気通信機械器具、レコード、電子応用機械器具及びその部品、オゾン発生器、電解槽、ロケット、遊園地用機械器具、スロットマシン、運動技能訓練用シミュレーター、乗物運転技能訓練用シミュレーター、回転変流機、調相機、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気ブザー、鉄道用信号機、乗物の故障の警告用の三角標識、発光式又は機械式の道路標識、火災報知機、ガス漏れ警報器、事故防護用手袋、消火器、消火栓、消火ホース用ノズル、消防車、消防艇、スプリンクラー消火装置、盗難警報器、保安用ヘルメット、防火被服、防じんマスク、防毒マスク、磁心、自動車用シガーライター、抵抗線、電極、溶接マスク、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、ガソリンステーション用装置、自動販売機、駐車場用硬貨作動式ゲート、金銭登録機、計算尺、硬貨の計数用又は選別用の機械、作業記録機、写真複写機、手動計算機、製図用又は図案用の機械器具、タイムスタンプ、タイムレコーダー、電気計算機、パンチカードシステム機械、票数計算機、ビリングマシン、郵便切手のはり付けチェック装置、ウエイトベルト、ウエットスーツ、浮袋、エアタンク、水泳用浮き板、潜水用機械器具、レギュレーター、アーク溶接機、家庭用テレビゲームおもちゃ、金属溶断機、検卵器、電気溶接装置、電動式扉自動開閉装置、メトロノーム
14 貴金属、貴金属製食器類、貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ、貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て、貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布、貴金属製喫煙用具、身飾品、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、時計、記念カップ、記念たて、キーホルダー
16 紙類、紙製包装用容器、家庭用食品包装フィルム、紙製ごみ収集用袋、プラスチック製ごみ収集用袋、衛生手ふき、型紙、紙製テーブルクロス、紙製テーブルナプキン、紙製タオル、紙製手ふき、紙製のぼり、紙製旗、紙製ハンカチ、紙製ブラインド、紙製幼児用おしめ、裁縫用チャコ、荷札、書籍、雑誌、カタログ、その他の印刷物、書画、写真、写真立て、遊戯用カード、万年筆、鉛筆、ボールペン、しおり、インキ、その他の文房具類、事務用又は家庭用ののり及び接着剤、青写真複写機、あて名印刷機、印刷用インテル、印字用インクリボン、活字、こんにゃく版複写機、自動印紙はり付け機、事務用電動式ホッチキス、事務用封かん機、消印機、製図用具、装飾塗工用ブラシ、タイプライター、チェックライター、謄写版、凸版複写機、文書細断機、封ろう、マーキング用孔開型板、郵便料金計器、輪転謄写機、観賞魚用水槽及びその附属品
18 皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口口金、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、乗馬用具、愛玩動物用被服類
25 スカーフ、ネクタイ、帽子、その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴
34 紙巻きたばこ、葉巻たばこ、その他のたばこ、紙巻きたばこ用紙、喫煙用具(貴金属製のものを除く。)、マッチ
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/