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【事件名】出会い系サイトの顔写真使用事件
【年月日】平成17年12月16日
 東京地裁 平成16年(ワ)第19075号 損害賠償請求事件

判決
原告 甲野花子
同訴訟代理人弁護士 三木昌樹
同訴訟代理人弁護士 木原右
同訴訟代理人弁護士 楠慶
同訴訟代理人弁護士 小川隆史
被告 株式会社 イー・ジャパン
同代表者代表取締役 乙山松夫<ほか一名>
上記両名訴訟代理人弁護士 木村敢
被告 丙川竹夫
同訴訟代理人弁護士 清水勉


主文
一 被告株式会社イー・ジャパンは、原告に対し、被告丙川竹夫と連帯して一二〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告丙川竹夫は、原告に対し、一二〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員(一二〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の限度で被告殊式会社イー・ジャパンと連帯して)を支払え。
三 原告の被告株式会社イー・ジャパン及び被告丙川竹夫に対するその余の請求並びに被告乙山松夫に対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の八、被告株式会社イー・ジャパン及び被告丙川竹夫に生じた費用の各五分の四並びに被告乙山松夫に生じた費用を原告の負担とし、原告に生じた費用の一〇分の一及び株式会社イー・ジャパンに生じた費用の五分の一を被告株式会社イー・ジャパンの負担とし、原告に生じた費用の一〇分の一及び被告丙川竹夫に生じた費用の五分の一を被告丙川竹夫の負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1)被告株式会社イー・ジャパン及び被告乙山松夫は、原告に対し、被告丙川竹夫と三者連帯して五五〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(2)被告丙川竹夫は、原告に対し、五五〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月二日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員(五五〇万円及びこれに対する平成一六年一〇月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の限度で被告株式会社イー・ジャパン及び被告乙山松夫と三者連帯して)を支払え。
(3)訴訟費用は被告らの負担とする。
(4)仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(1)みだりに自己の容貌、姿態を撮影されず、撮影された写真を公表されることのない権利ないし利益は、肖像権として法的に保護される。
(2)ア 被告丙川竹夫(以下「被告丙川」という。)は、原告の姉である甲野梅子(以下「梅子」という。)が原告をモデルとして作ったメイクのサンプルを、梅子の依頼により、写真撮影した。
イ 被告丙川は、平成一五年七月ころ、上記撮影にかかる写真数枚(以下「本件写真」という。)を出会い系サイトの広告用の写真として提供し対価を得る目的で、本件写真を被告株式会社イー・ジャパン(以下「被告会社」という。)に持ち込み、被告会社は本件写真を受け取った。
ウ 被告丙川は、イに際し、原告の承諾を得ていなかった。
エ 被告丙川は、イに際し、本件写真の利用につき原告の承諾を得る義務があったにもかかわらず、その義務を怠った。
(3)ア 被告会社は、原告の承諾を得ることなく、ユニオンネット名義で、原告の本件写真を用いていわゆる出会い系サイトの広告を作成し、その広告をいわゆるアダルト雑誌に掲載した。
イ 被告会社は、アの際、原告の承諾の有無を確認すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った。
(4)被告乙山松夫(以下「被告乙山」という。)は、被告会社の代表取締役であるところ、本件写真の被写体である原告の肖像権を侵害しないよう、原告の承諾を得るべく従業員等を指導、管理、監督すべき義務があったにもかかわらず、被告乙山はその義務を怠った。
(5)ア 被告らの上記行為により、原告は、多大なる精神的苦痛を被った。原告の上記精神的苦痛は、金五〇〇万円をもって慰謝するのが相当である。
イ 原告は、本訴原告訴訟代理人弁護士らに対し、本訴の提起を委任したものであり、それに伴う弁護士費用のうち、被告らの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害額は、五〇万円を下らない。
(6)よって、原告は、被告らに対し、不法行為(民法七〇九条、七一九条)に基づき、損害金五五〇万円及びこれに対する被告丙川について不法行為の日の後である平成一六年一〇月二日(訴状送達の日の翌日)、被告会社及び被告乙山について不法行為の日の後である平成一六年一〇月一四日(訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(1)被告丙川
ア 請求原因(2)のうち、アないしウは認める。エは否認する。
 被告丙川は、請求原因(2)イの際、被告丙川が原告の了承を得ることが被告会社が本件写真を利用する前提条件となることを述べた。
 また、被告丙川は、請求原因(2)イの一ないし二時間後、被告会社に対し、原告の了承を再度得た上で出会い系サイト用の写真を改めて撮ってくる旨を述べ、被告会社から本件写真の返却を受けた。
イ 請求原因(3)は、いずれも知らない。
ウ 請求原因(5)は、いずれも否認する。
(2)被告会社及び被告乙山
ア 請求原因(2)のうち、アは知らない。イは認める。ウ、エは知らない。
イ 請求原因(3)のうち、アは認める。イは否認する。
 被告会社は、請求原因(2)イの際、被告丙川が本件写真を出会い系サイトに利用することにつき原告の了承を得ていると述べたことから、原告が了承しているものと信じた。
 また、本件写真は、プロカメラマンである被告丙川によって撮影されたものであり、明らかに商業写真として撮影されたものであったため、被告会社が上記のごとく信じたことには相当の理由がある。
ウ 請求原因(4)は否認する。
 被告乙山が代表取締役に就任したのは、平成一五年九月三〇日であり、被告乙山は、被告丙川による被告会社への本件写真の交付に何ら関与する立場にはなかった。
エ 請求原因(5)は、いずれも否認する。
理由
一 請求原因(2)イの事実は、全当事者間に争いがない。
二 請求原因(2)ア、ウの事実は、原告及び被告丙川の間に争いがなく、原告及び被告会社・被告乙山との間においても、<証拠略>により認められる。
三 請求原因(3)アの事実は、原告及び被告会社・被告乙山の間に争いがなく、原告及び被告丙川との間においても、<証拠略>により認められる。
四 次に、請求原因(2)エ及び(3)イについて、すなわち被告丙川及び被告会社に本件写真の利用について原告の承諾を得る義務があったか否か及び当該義務の懈怠があったか否かについて判断する。
(1)前記争いのない事実に括弧内に記載した各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。
ア 被告丙川は、平成一五年七月ころ生活費に因っていたところ、有限会社フライヤーズスクエアの専務である訴外丁原から、「出会い系サイトの広告用の女の子の写真を欲しがっている会社があるから、行ってみたらどうか」と声をかけられ、訴外丁原に案内されて、被告会社の事務所に、本件写真を含めて二〇枚程度の写真の入ったファイル(以下「本件ファイル」という。このファイルは、被告丙川がカメラマンとして勤務していたデジタル写真スタジオ『PIX―DO』において被告丙川が撮影した、『PIX―DO』の従業員及び原告を含む客の合計六ないし七名の写真を綴ったものである。)を持参した(乙イ第六号証、乙口第一号証、被告丙川本人)。
イ 被告丙川は、被告会社の事務所において、当時被告会社の通信事業部課長であった訴外戊田春夫(以下「戊田」という。)から、本件ファイルの写真を使っても問題がないのかを聞かれたため、本件ファイルの中から、被写体等の連絡先が分かる写真を選んだ上、本件写真を含む写真六枚を交付した(乙イ第一号証の一ないし六、乙イ第六号証、乙口第一号証、証人甲田、被告丙川本人)。
ウ 被告丙川と戊田が本件写真等をめぐって交渉する過程において、戊田は、被告会社が被告丙川に対し、一か月同一写真の使用の謝礼として一万五千円を支払うという申し出をし、被告丙川も一応これを了承した(乙イ第四号証の一、被告丙川本人)。
エ 被告会社は、被告丙川から受領した本件写真のコピーをとり、直ちに本件写真を雑誌の広告に使用する手配をした(乙イ第四号証の一)。
オ 被告丙川は、戊田との交渉を終えて、一旦被告会社の事務所を離れた後、出会い系サイト用ではなく撮った写真を出会い系サイトの広告に転用すること自体に心理的抵抗を感じ、事務所を離れてから数時間後、再度被告会社の事務所を訪れ、戊田に対し、本件写真を含む本件ファイルの写真の使用を見合わせるよう申し入れ、戊田から本件ファイルの写真の返却を受けた(乙イ第四号証の一、乙口第一号証、被告丙川本人)。
(2)被告会社に原告の承諾を確認する義務及びその違反が認められるか否かについて判断を加える。
 上記(1)イの際、被告丙川から戊田に対し、本件写真を出会い系サイトの広告に利用することにつき原告から承諾があったとの説明があったか否かについて、被告ら相互の間に食い違いがある。
 被告丙川が、戊田に対し、本件写真は使用しても問題ない写真であると説明したという事実に沿う証拠としては、甲第四号証、乙イ第四号証の一、乙イ第六号証、証人甲田の供述があるところ、甲第四号証、乙イ第四号証の一については、十分な証明力を有しているとはいえない。また、その余の証拠は、いずれも甲田の供述を内容とするものであるが、甲田は、戊田と被告丙川の交渉の場に立ち会っていたにもかかわらず、その証人尋問において、(1)ウの事実について記憶が曖昧である旨供述するなどしており、甲田の供述をそのまま採用することはできない。
 そして、上記の証拠の他に、被告丙川が戊田に対し本件写真は使用しても問題がないと言ったことを認定するに足りる的確な証拠はない。
 以上の検討結果に加え、(1)オの事実及び被告丙川本人の供述を総合すると、被告丙川は戊田に対し本件写真は使用しても問題ない写真であるという説明はしなかったことが認められる。そうすると、被告会社としては、本件写真につき、被写体である原告の承諾が得られていないのではないかとの疑いを差し挟むべきであったというべきであるから、被告会社には、原告が本件写真を利用することを承諾するか否かを確認する義務があったと認められる。そして、自身の肖像を出会い系サイトの広告に利用されることには通常人であれば、特段の事情のない限り、同意しないはずであるから、(1)エの事実があったとしても、手配を中断して原告の承諾を確認する義務があったといえる。
 被告会社は、被告丙川をプロカメラマンだと思ったため本件写真の著作権は被告丙川にあると考えたこと、また本件写真は明らかに商業写真として撮影されたものだと考えたことを理由に、被告会社には原告の承諾を確認する義務がなかったと反論する。
 しかし、写真の著作権が誰に帰属するかということと、写真の被写体についての肖像権が誰に帰属するかということは別問題であり、著作権が被告丙川にあるからといって直ちに原告の承諾が不要となるわけではなく、このことは、出会い系サイトの運営等を業とする被告会社にとっては容易に想起し得ることである。さらに、被告会社の主張は、写真の外観のみから商業写真であることを推測したというものにすぎず、このような事実があったからといって、被告会社の義務が減殺されるものではない。
 以上によれば、被告会社に、本件写真を出会い系サイトの広告に利用することについて原告が承諾しているかを確認する義務があったことを優に認定することができ、被告会社に上記義務の違反が認められることは明らかである。
(3)被告丙川に原告の承諾を得る義務及びその違反が認められるか否かについて判断する。
 前述したとおり、被告丙川が、(1)イの際、既に原告の承諾を得ているかのような発言をした事実は認められない。
 しかし、そもそも、被告丙川は、出会い系サイトの広告に利用する目的で本件写真を撮影したわけではなく、被告丙川が撮影した本件写真をもらったのも単なる記念の趣旨であった(甲第六号証、乙口第二号証、被告丙川本人)のだから、被告丙川が、出会い系サイトの広告用に本件写真を提供して対価を得る目的で被告会社の事務所を訪れ、戊田に本件写真を提供した行為自体が、通常原告の同意の範囲外にある事柄であるというべきである。そうすると、被告丙川は、本件写真を被告会社に提供することについて、原告の承諾を得る義務があったというべきであり、被告丙川がその義務に違反したことは明らかである。
 もっとも、被告丙川は被告会社の事務所を離れて数時間後に、戊田から本件写真の返却を受けているが、そもそも一旦本件写真を被告会社に提供したこと自体が義務違反となるのであるし、一旦提供されれば被告会社がコピーを取りそれを使用する事態も容易に想定されるのであるから、被告丙川が事後的に本件写真の返却を受けたことをもって、被告丙川の上記義務違反が解消されるものではないことは当然である。
五 さらに、被告乙山に原告の承諾を得るべく指導、管理、監督をする義務があったか否か及び当該義務の僻怠があったか否か(請求原因(4))について判断する。
 <証拠略>によれば、被告乙山が被告会社の代表取締役に就任したのは平成一五年九月三〇日であって、本件で提出された全証拠によっても、本件写真が交付された平成一五年七月当時、被告乙山が本件会社の業務に関与していたことは認められない。また、被告乙山が被告会社の代表取締役に就任して以降、被告乙山が本件写真について原告が承諾しているか否かを確認すべき状況があったことを示す証拠もない。したがって、被告乙山に原告の承諾を得るべく指導、管理、監督する義務があったということはできない。
六 以上の検討結果に照らせば、被告丙川及び被告会社は、原告の肖像権を侵害しないよう事前に本件写真の利用につき原告の承諾を得る義務があったにもかかわらずそれを怠った過失により、原告の肖像権を侵害したものであり、また、本件写真を被告会社に提供した被告丙川の行為と被告丙川から提供を受けた本件写真を公表した被告会社の行為との間には、共同不法行為の成立を認めることができる。
七 最後に、被告丙川及び被告会社の不法行為によって原告に生じた損害について判断する。
(1)原告の被った精神的損害について
 本件不法行為の態様は、原告が公表の意図なく撮影に応じた際の本件写真を、原告に無断で、約五か月間にわたって出会い系サイトの広告に用いたというものであり、かかる用法は、通常人がおよそ承諾しないものである。<証拠略>によれば、このような被告丙川及び被告会社の行為により、原告は、今後控えている就職において不利益を被るのではないか、原告の同級生が本件写真のアダルト雑誌への掲載を知っているのではないかなどという不安にかられるなどの精神的打撃を被ったばかりでなく、多数のアダルト雑誌に原告の顔写真が大きく掲載され、大勢の人に原告の顔を見られたことによる精神的苦痛も被ったことが認められる。調査嘱託の結果によれば、本件写真の掲載された雑誌の合計実売部数は、証拠上明らかになっているだけでも一五万部を下らないことを考えると、原告の被った上記精神的苦痛は相当に大きなものであると言うべきである。
 この他、本件に現れた一切の事情を斟酌し、原告の被った精神的損害は一〇〇万円と認定するのが相当である。
(2)弁護士費用について
 被告丙川及び被告会社による不法行為によって、原告が、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、そのために弁護士に対する委任をしたことは当裁判所に顕著な事実である。そして、本件事案の内容、訴訟の経過、認容額等を考慮すると、上記弁護士に委任するための費用のうち、二〇万円が被告による不法行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
(3)以上より、被告丙川及び被告会社の不法行為によって生じた損害は合計一二〇万円であると認めるのが相当である。
八 よって、本訴請求は、被告会社及び被告丙川に対し一二〇万円並びにこれに対する被告丙川について平成一六年一〇月二日から、被告会社について平成一六年一〇月一四日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員について連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告会社及び被告丙川に対するその余の請求並びに被告乙山に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所第32民事部
 裁判官 井上哲男
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