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【事件名】類似アイディア家電の不正競争・取扱説明書事件(2) 【年月日】平成17年12月15日 大阪高裁 平成17年(ネ)第742号 不正競争行為差止等請求控訴事件 (原審・大阪地裁平成15年(ワ)第12778号) (当審口頭弁論終結日 平成17年9月27日) 判決 控訴人(1審原告) 株式会社パアグ 同代表者代表取締役 X 同訴訟代理人弁護士 浅井健太 同 田口公丈 同 新原一世 同 浜口卯一 同訴訟代理人弁理士 山田茂樹 被控訴人(1審被告) 株式会社津田商事 同代表者代表取締役 Y 同訴訟代理人弁護士 井垣弘 同 工藤満生 同訴訟代理人弁理士 西良久 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙被告商品目録記載の商品を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。 3 被控訴人は、前項記載の商品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、原判決別紙取扱説明書記載の取扱説明書を頒布してはならない。 5 被控訴人は、前項記載の取扱説明書を廃棄せよ。 6(1) 主位的請求 被控訴人は、控訴人に対し、410万円及びこれに対する平成15年12月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 予備的請求 被控訴人は、控訴人に対し、410万円及びこれに対する平成16年12月8日(平成16年11月30日付け原告準備書面の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 (1) 本件は、控訴人が、 ア 被控訴人が製造販売する商品名を「風呂ポット」という商品(原判決別紙被告商品目録記載の商品。以下「被控訴人商品」という。)の商品形態及び商品名が、控訴人の製造販売している商品名を「風呂バンス」という商品(原判決別紙原告商品目録記載の商品。以下「控訴人商品」という。)の周知となった商品表示である商品形態及び商品名と類似し、控訴人商品と混同を生じさせるおそれがあり、被控訴人による被控訴人商品の製造販売行為等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たると主張して、被控訴人に対し、同法3条1項、2項に基づき被控訴人商品の製造販売等の差止め、廃棄を求める(控訴の趣旨2、3)とともに、同法4条に基づき損害賠償(上記不正競争行為による損害金300万円及び弁護士費用100万円。ただし、弁護士費用は後記ウ分も含む。)を求め(控訴の趣旨6(1))、 イ アの損害賠償請求の予備的請求として、被控訴人商品が従前テレビ放送で紹介されたことがないのに、「TVでおなじみの」などとする不当な宣伝文句を用いて控訴人商品と類似する被控訴人商品を販売する等した行為は、控訴人に対する不法行為を構成すると主張して、被控訴人に対し、民法709条の不法行為に基づく損害賠償(上記不法行為による損害金684万6000円の内金410万円)を求め(控訴の趣旨6(2))、 ウ 被控訴人商品に添付された取扱説明書(原判決別紙取扱説明書記載の取扱説明書。以下「被控訴人取扱説明書」という。)及びその一部のものに用いられたイラスト(原判決別紙被告イラスト目録1ないし3記載の各イラスト。以下「被控訴人イラスト」といい、区別の必要があるときは「被控訴人イラスト1」などという。)が、控訴人商品に添付された編集著作物たる取扱説明書(以下「控訴人取扱説明書」という。)及びその一部のものに用いられたイラスト(原判決別紙著作物目録1ないし3記載の各イラスト。以下「控訴人イラスト」といい、区別の必要があるときは「控訴人イラスト1」などという。)を複製したものであり、これらについて控訴人の有する著作権を侵害すると主張して、被控訴人に対し、著作権法112条1項、2項に基づき被控訴人取扱説明書の頒布の差止め、廃棄を求めるとともに(控訴の趣旨4、5)、民法709条に基づき損害賠償(上記著作権侵害行為による損害金10万円)を求めた(控訴の趣旨6(1)) 事案である。 (2) 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が本件控訴を提起した。 2 争いのない事実等(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。) (1) 当事者 ア 控訴人は、オリジナルアイデア商品の製造・販売を業とする株式会社である。 イ 被控訴人は、日用品雑貨の卸し・販売を業とする株式会社である。 (2) 取扱商品 ア 控訴人は、平成11年8月から、控訴人商品を製造・販売している。控訴人商品は、浴槽内に自立させた状態で、内蔵する電気ヒーターによって浴湯を加熱し、加熱した浴湯の上昇流によって生じる浴槽内対流を利用して浴湯を均一に保温させるものである。 イ 被控訴人は、平成15年10月ころから、控訴人商品と同種商品である被控訴人商品を販売している。 (3) 取扱説明書 ア 控訴人は、控訴人商品に控訴人取扱説明書を添付している。 イ 被控訴人は、被控訴人商品に被控訴人取扱説明書を添付している。 3 争点 (1) 不正競争防止法に基づく請求(同法2条1項1号)について ア(ア) 控訴人商品の商品形態は、控訴人の商品表示として周知性を有するか。 (イ) 被控訴人商品は、その商品形態が控訴人商品の商品形態と類似し、控訴人商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。 イ(ア) 控訴人商品の商品名は、控訴人の商品表示として周知性を有するか。 (イ) 被控訴人商品は、その商品名が控訴人商品の商品名と類似し、控訴人商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。 (2) 民法709条に基づく請求(予備的請求)について 被控訴人が、控訴人商品と類似する被控訴人商品を「TVでおなじみの」などの宣伝文句を用いて販売等したことが、控訴人に対する不法行為を構成するか。 (3) 著作権法に基づく請求について ア 控訴人イラストについて (ア) 控訴人イラストは、著作物性を有するか。 (イ) 仮に著作物性を有する場合、被控訴人イラストは、控訴人イラストを複製したものであるか。 イ 編集著作物について (ア) 控訴人取扱説明書は、編集著作物性を有するか。 (イ) 仮に編集著作物性を有する場合、被控訴人取扱説明書は控訴人取扱説明書の編集を複製したものであるか。 (4) 損害額 第3 争点に関する当事者の主張 次のとおり、訂正し、当審主張を付加するほかは、原判決4頁18行目から53頁2行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決の訂正 (1) 原判決中、本判決第2の略称に係る部分は、いずれも本判決第2の略称に読み替える(以下同じ。)。 (2) 20頁22行目の「不当景品類及び不当表示防止法4条3項」を「平成15年法律第45号による改正前の不当景品類及び不当表示防止法4条3号」と改める。 (3) 30頁18行目の「左側」を「右側」と改める。 (4) 35頁23行目末尾の次に改行して、次のとおり加える。 「 もっとも、控訴人取扱説明書では『注意』扱いとなっている7点(同書12頁)については、被控訴人取扱説明書では『警告』扱いとなっている(同書3頁)が、これは被控訴人が本来『注意』とすべきところを『警告』と誤って記載したものにすぎない。なぜなら、被控訴人があえて『警告』と記載しているのであれば、被控訴人取扱説明書においても注意事項を『警告』と『注意』とに分けて説明している(同書1頁)にもかかわらず、同書には『注意』に該当する事項がなくなってしまうことになる。このことから、被控訴人は、明らかに控訴人取扱説明書を写したのであり、上記『警告』、『注意』の写し間違いは、被控訴人がオリジナリティを持たないことの証左である。」 (5) 36頁24行目の「左側」を「右側」と、同行目の「図」を「平面図」とそれぞれ改める。 (6) 38頁21行目の「商品」を削る。 (7) 40頁13行目から14行目の「LEDランプは本体がお湯に完全につかっている状態で点灯を確認して下さい」を「LEDランプの点灯を確認して下さい」と、同16行目の「矢印き」を「矢印の向き」とそれぞれ改める。 (8) 42頁19行目の「左側」を「右側」と改める。 (9) 52頁4行目の「争点(5)」を「争点(4)」と改める。 2 当審主張 (1) 不正競争防止法に基づく請求 【控訴人の主張】 平成13年1月以降平成17年3月までの間に、控訴人の販売代理店による展示会が20回以上開催されているが、そこでも、控訴人の主力商品として「風呂バンス」(控訴人商品)が展示紹介されている。また現在でも、インターネットの検索エンジン(インターネットショッピング)で検索すれば、控訴人商品が上位でヒットする(甲22)。これらは、控訴人商品及びその形態が周知性を有することを示す事実である。 【被控訴人の主張】 控訴人主張の展示会における展示商品が、控訴人商品であったことを示す証拠はない。 検索エンジンでの検索結果は、入力するキーワードの選択によって大きく変わるものである(乙22の1〜3、乙23の1・2)から、控訴人主張の検索結果(甲22)は、控訴人商品の周知性を証明するものではない。 (2) 民法709条に基づく予備的請求 【控訴人の主張】 ア 積極的債権侵害(得意先の奪取) 被控訴人は、控訴人商品の類似品を製造販売する計画を立て、平成15年5月ころから、控訴人商品の販売店や代理店に対し、「『風呂バンス』と同じ物を作る。」、「中国で作るから半値以下だ。」、「販売開始したら購入してほしい。」、「パアグ(控訴人)の特許(特許第3101263号)はかわす。」、「不正競争防止法は3年で効力がなくなるから、クリアできる。」、「最悪裁判になっても双方痛み分けの判決になり、安い商品が残る。」、「裁判所は和解の方向に指導するから心配しなくていい。」などとして、これを売り込んだ後、同年10月ころ、被控訴人商品の製造販売を開始した。 すなわち、被控訴人は、@控訴人商品を模倣した商品を製造し、A控訴人取扱説明書に酷似した被控訴人取扱説明書を作成、添付し、B控訴人の永年の努力によって開拓した取引先に対し、被控訴人商品の製造販売の計画段階から、「風呂バンスと同じ物を作るので、代理店として売ってほしい。」などとして営業活動を行っていたのであるから、被控訴人が、控訴人の取引先を奪取するという不正競争的意図を有することは明らかである。 したがって、被控訴人による被控訴人商品の製造、これに係る営業、販売行為は、自由競争の範囲を逸脱し、民法上の不法行為(債権の積極的侵害)を構成する。 イ フリーライド(ただ乗り) 被控訴人は、控訴人商品がよく売れていることを知るや、前記ア@ないしBの行為に及んだ。そして、同Bの営業活動にあたっては、前記のように、不正競争防止法2条1項3号の期間満了を待っていた旨、特許をかわす旨、司法制度を無視する旨の言動をし、さらに、本訴の原審係属中に、控訴人商品の上位機種たる「スーパー風呂バンス」を模して「ハイパワー風呂ポット」を商品化し、これを販売している。 これらは、控訴人の費用、労力、時間を掛けた商品開発、資本投下等による成果にフリーライド(ただ乗り)を行うものであって、取引界における公正かつ自由な競争として許されている範囲を著しく逸脱し、民法上の不法行為を構成する。 【被控訴人の主張】 ア 積極的債権侵害(得意先の奪取)に対し 被控訴人は、控訴人の主張するような営業行為はしていない。仮に、控訴人の主張するような営業行為があったとしても、被控訴人は、取引先の自由意思に働きかけ、自由競争の範囲内で営業を行おうとしたにすぎない。 したがって、積極的債権侵害に係る控訴人の主張は失当である。 イ フリーライド(ただ乗り)に対し 被控訴人は、控訴人商品を模倣するものではなく、控訴人取扱説明書を複製するものでもない。また、控訴人が独自に開拓確立した販売経路をねらって営業活動をしたものでもない。 不法行為が成立するためには、不法行為の各要件を充足する必要があり、フリーライドの観点から不法行為を構成するとの主張は成り立たない。 (3) 著作権法に基づく請求 【控訴人の主張】 ア イラストの著作物性 控訴人商品と同種商品である「ユーフィー」や「湯美人」の取扱説明書中には、説明すべき内容が控訴人商品と共通しているにもかかわらず、表現は種々のものを採っており、控訴人イラストと同一ないし似通ったイラストは全くない。このことは、控訴人イラストと被控訴人イラストとの共通部分が「ありふれた」表現方法を使用したものではなく、創作性のあるものであることを如実に示している。 そうすると、被控訴人イラスト1ないし3は、それぞれ控訴人イラスト1ないし3の創作性のある部分と実質的に同一であって、「描かれているものが控訴人商品であるか、被控訴人商品であるかといった点」(控訴人及び被控訴人イラスト1ないし3)、「風呂蓋の枚数」(同イラスト1)、「湯気の状況、浴室の床模様」(同イラスト2)、「スイッチ固定台やトレーのイラストの有無」(同イラスト3)といった、両者の相違点こそありふれた表現上の微差にすぎず、これらの相違点によって上記の創作的部分の同一性は何ら損なわれるものではない。 したがって、被控訴人イラストが、控訴人イラストを複製したものであることは明らかである。 イ 編集著作物性 控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書は、使用方法や特徴点、生じうる問題とその対処方法、手入れの方法、各部の名称等、安全上の注意事項、警告事項などの記載内容の配列及び各記載内容に対する相当部分の同一という構成の類似性からみて、具体的な素材の選択及び配列に強度の共通性があり、これを単なるアイデアの共通性にすぎないというべきではないから、両取扱説明書の間には、編集著作物としての同一性が存在する。 前記のとおり、同種商品である「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書には、控訴人取扱説明書と同じ文章やイラスト、絵文字の配列は全く見当たらない。そうすると、控訴人取扱説明書における文章やイラスト、絵文字の配列は「ありふれた」配列ではなく、創作性を有することは明らかである。 本件の場合、編集著作物としての「素材」は、「浴湯保温器という商品の各種情報」であり、控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とで素材は共通している。素材の配列に関しては種々の工夫の仕方があるところ、被控訴人取扱説明書では、素材の配列までもが、似なくてもよい程に控訴人取扱説明書と共通している。このことは、編集著作物としての控訴人取扱説明書の創作的表現が、被控訴人取扱説明書において再生されていることを如実に示している。 したがって、控訴人取扱説明書は、素材の選択又は配列に創作性を有するものであって著作物に該当し、被控訴人取扱説明書は、著作物たる控訴人取扱説明書を複製したものであるから、控訴人の著作権を侵害している。 【被控訴人の主張】 ア イラストの著作物性に対し 説明内容が共通している場合に、ありふれた表現で説明を行ったときには、表現として「同一又は似通ったものとなることがある」からといって、説明内容が共通している場合に、ありふれた表現で説明を行うと、必ず「同一又は似通ったものとなる」とはいえない。 したがって、仮に、「ユーフィー」や「湯美人」について、説明すべき内容が控訴人取扱説明書と共通しているにもかかわらず、表現が控訴人イラストと異なっていたとしても、そのことから、控訴人イラストの当該表現がありふれた表現ではないとはいえない。 イ 編集著作物性に対し 編集著作権において、保護の対象となるのは、素材の選択、配列方法という抽象的なアイデア自体ではなく、素材の選択、配列についての具体的な表現形式である。編集著作権における保護の対象としての具体的な素材に着目するときは、控訴人取扱説明書における素材は控訴人商品についての情報である一方、被控訴人取扱説明書における素材は被控訴人商品についての情報であり、異なる商品(商品)に関する情報であるから、両者は、素材を異にするというほかない。このように、明らかに異なる素材を選択、配列した結果としての実在の編集物どうしの間で、著作権侵害は問題となり得ない。 ありふれた配列であれば、必ず配列は同じになるとはいえない。そうすると、仮に、「ユーフィー」や「湯美人」の取扱説明書と控訴人取扱説明書とで、説明文、イラスト、絵文字の配列が異なっていたとしても、そのことは、直ちに、控訴人取扱説明書における説明文、イラスト、絵文字の配列が「ありふれた」配列ではないこと(創作性を有すること)を意味しない。 したがって、被控訴人取扱説明書は、控訴人取扱説明書の編集著作権を侵害するものではない。 第4 当裁判所の判断 1 不正競争防止法に基づく請求について 次のとおり、原判決を訂正し、当審主張に対する判断等を付加するほかは、原判決53頁5行目から66頁19行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決の訂正 ア 53頁7行目冒頭から同11行目末尾までを、次のとおり改める。 「ア 本判決第2、2の争いのない事実等、証拠(甲1、甲2の1の1〜8、甲2の2の1〜12、甲2の3の1〜6、甲2の4の1〜6、甲3、6、8〜10、13、15、16、17の1・2、甲18〜20、26〜28、検甲1、2、乙1、2、6、11〜16、20)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。」 イ 53頁13行目及び20行目の各「碗状部」をいずれも「椀状部」とそれぞれ改める。 ウ 54頁14行目冒頭から55頁17行目末尾までを、次のとおり改める。 「(イ) 控訴人商品の販売実績、広告宣伝等の内容 a 控訴人は、平成11年8月から控訴人商品の販売を開始し、平成16年1月末までの間に2万6000台以上を販売した。その間、控訴人商品の上位機種である「スーパー風呂バンス」(控訴人商品と同じ形態であるが、追い焚き及び水から沸かす機能を有する。)も、1万9000台以上販売された。 b(a) 控訴人商品は、国内大手の通信販売会社の各種通信販売カタログや、国内大手の新聞社の広告欄に通信販売業者が掲載する広告において、取扱商品として取り上げられる方法で広告宣伝されている。 (b) 控訴人商品が、国内大手の新聞社等(讀賣新聞、朝日新聞、日本経済新聞、産経新聞、その他)の広告欄に取り上げられたのは、平成11年に5回、平成12年に10回、平成13年に44回、平成14年に48回、平成15年1月ないし10月(被控訴人商品の販売開始時前)に33回、平成15年11、12月に17回、平成16年に4回である。 控訴人商品が国内大手通信販売者等(エヌ・ジー・シー、千趣会、日本直販、ニッセン、その他)のカタログ・雑誌に掲載されたのは、平成11年に5回、平成12年に6回、平成13年に16回、平成14年に36回、平成15年に37回、平成16年に14回である。 控訴人商品が百貨店等(近鉄、大丸、阪急、その他)の通信販売者の折り込みチラシに掲載されたのは、平成12年に1回、平成13年に23回、平成14年に76回、平成15年に41回、平成16年に51回である。 控訴人商品が国内民放あるいはケーブルテレビの宣伝番組や情報番組において取り上げられたのは、平成11年が2回、平成12年が3回、平成13年が1回、平成14年が1回、平成15年が1回(被控訴人商品の販売開始前)、平成16年が7回である。 (c) 控訴人商品が広告宣伝される際には、同商品を使用すれば追い焚きや差し湯をしなくても風呂の湯加減が適温に常時保たれること、その結果として同商品を使用すると追い焚きや差し湯をする場合と比較してガス代や水道代が年間で相当額節約されることになることを大々的にうたう宣伝文句が付され、色々とその説明がなされている。それと同時に、控訴人商品の商品全体を示す写真等も掲載あるいは放映されているが、商品の機能や効用(経済性)のほかに、特段、控訴人商品の形態上の特徴を取り上げて文章で説明したり宣伝したりしたものは見当たらない。 」 エ 55頁22行目の「乙11」の前に「甲26、」を加える。 オ 56頁23行目の「浮き部及び受け皿部は、上記bとほぼ同様である。」を「浮き部及び受け皿部は、上記bとほぼ同様であるが、いずれも本体部よりも大径である。」と改める。 カ 57頁9行目の「乙16」の前に「甲27、」を、同14行目末尾の次に「下部の外側面には4つの縦長の脚部がある。」をそれぞれ加える。 キ 58頁2行目冒頭から同11行目末尾までを、次のとおり改める。 「(イ) 控訴人商品は、平成11年8月から販売開始され平成16年1月末までの4年6か月の間に、日本全国において2万6000台程度、その上位機種と合わせても4万5000台程度が販売されたにすぎない。 控訴人商品は、被控訴人商品販売前には、通信販売業者が国内大手新聞社等の発行する新聞に載せる広告や、国内大手通信販売業者等の発行する商品カタログ等において、平均して月6、7回程度、通信販売業者の他の取扱商品と共に広告宣伝されており、他の取扱商品と比較してとりわけ頻繁に広告宣伝されたということはできない。また、平成11年に2回、平成12年に3回、平成13年に1回、平成14年に1回、平成15年に1回程度、国内民放テレビ局かケーブルテレビによって控訴人商品が広告宣伝等されたことがあるにすぎない。 」 ク 61頁19行目の「外側」を「内側」と改める。 ケ 65頁23行目の「促音」を「閉塞音」と、同24行目の「閉塞音」を「促音」とそれぞれ改める。 (2) 争点(1)ア(ア)(控訴人商品の商品形態は、控訴人の商品表示として周知性を有するか。)について 引用にかかる原判決及び前記認定、説示のとおりであって、控訴人商品は、浴湯を電気により常時適温に維持するための商品であること、適温維持のための差し湯や追い焚きが不要であること、電気代等が追い焚き等をした場合と比較して低額で済むこと等の商品の機能あるいは効用によってそれなりに人気を博し、販売数を増加させていったということはできるものの、控訴人商品の商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等が行われて大量に販売されたとまではいえず、被控訴人商品販売開始当時、控訴人商品の商品形態が、商品の出所を表示するものとして消費者等に広く認識されるに至っているとは認められない。 もっとも、控訴人が、その主張の展示会に参加していることはうかがえる(甲21)が、上記展示会における控訴人商品及びその上記機種に係る宣伝、販売活動の詳細を明らかにする資料の提出がない。また、控訴人の主張に沿うインターネットの検索エンジンによる検索結果が存する(甲22)ものの、検索エンジンによる検索の結果は、入力するキーワードの選択によって変わるものである(乙22の1〜3、乙23の1・2、弁論の全趣旨)。 したがって、控訴人主張の展示会やインターネット上での検索結果を考慮に入れても、上記認定判断は左右されない。 (3) 争点(1)ア(イ)(被控訴人商品は、その商品形態が控訴人商品の商品形態と類似し、控訴人商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。)について 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、控訴人商品は、全体として、下から上に向けて伸びていくような爽やかでスマートな印象を与えるのに対し、被控訴人商品は、全体として、暖かな安定感を醸し出しているということができ、印象が大きく異なり、控訴人商品の商品形態と被控訴人商品の商品形態とは類似しない。 したがって、被控訴人商品と控訴人商品の商品形態の類似を理由とする控訴人の不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は理由がない。 (4) 争点(1)イ(イ)(控訴人商品は、その商品名が控訴人商品の商品名と類似し、控訴人商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。)について 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、被控訴人商品の商品名「風呂ポット」は、外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等のいずれの点においても控訴人商品の商品名「風呂バンス」と著しく異なるから、控訴人商品の商品名とは類似しない。 そうである以上、争点(1)イ(ア)(控訴人商品の商品名は、控訴人の商品表示として周知性を有するか。)について判断するまでもなく、被控訴人商品の「風呂ポット」なる商品表示が、控訴人商品の周知商品表示である「風呂バンス」と類似することを理由とする控訴人の不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は理由がない。 (5) 控訴人主張の誤認混同例について 控訴人は、形態類似と商品名類似とが相まって、被控訴人商品を控訴人商品と同一出所のシリーズ商品あるいはモデルチェンジ商品であると消費者に誤認混同させるおそれがある旨主張し、その例(甲5、16、甲17の1・2)を挙げている。 しかしながら、控訴人商品と被控訴人商品の形態及び商品名が類似するといえないことは既にみたとおりであるし、また、上記証拠に記載された案件は、いずれも両商品の誤認混同に関する消費者からの苦情というよりも、むしろ、同種商品間の価格差(控訴人商品が1万9800円であるのに対し、被控訴人商品が1万2800円であること)についての苦情であるとみるのが相当であるから、上記証拠も、前記認定判断を左右するものではない。 2 民法709条に基づく請求(予備的請求)について 次のとおり、原判決を訂正し、当審主張に対する判断を付加するほかは、原判決66頁24行目から67頁22行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決の訂正 ア 67頁3行目末尾の次に、「そして、被控訴人は、『いい湯加減!!』、『TVでおなじみ』、『追い焚き不要で手間もムダも解消!!』、『予約受付中!!』、『お届けは(平成15年)11月10日からになります。』などどして、被控訴人商品の販売活動をしたこと(甲3、弁論の全趣旨)、その後、平成15年12月3日、控訴人が本件訴訟を提起したこと(記録上明らかな事実)、被控訴人が、平成16年2月12日、同年4月27日に、『風呂ポット』なる商品名の下に被控訴人商品をテレビ放送で宣伝広告していること(乙17の1〜3)が認められる。」を加える。 イ 67頁15行目の「(ちなみに」から同17行目の「1・2〕。)」までと、同21行目冒頭から同22行目末尾までを削る。 (2) 積極的債権侵害(得意先の奪取) 控訴人は、被控訴人による積極的債権侵害(得意先の奪取)の不法行為が成り立つ旨主張し、被控訴人の営業担当者が、控訴人の販売代理店等に対し、「風呂バンスと同じ物を作るので、代理店として売ってほしい。」などとの営業活動を行った旨の証拠(甲13、23、24)がある。 しかしながら、控訴人商品と被控訴人商品が、その商品形態においても商品名においても類似していないことは、前記説示のとおりである。 また、被控訴人取扱説明書が控訴人取扱説明書を複製したものであるといえないことなどは、後記説示のとおりである。 さらに、上記証拠によっても、被控訴人の上記営業活動の対象となった控訴人の販売代理店等の社名は1社しか明らかにされていない上、同社は、被控訴人商品の売込みに応じておらず、現在も控訴人商品の取扱いを継続していることが認められる(甲23)。そして、他に、控訴人主張の被控訴人の営業活動によって、控訴人の販売代理店等が、控訴人商品の取扱いを止めて、被控訴人商品を取り扱うに至ったために、控訴人が取引先を失ったことを認めさせる証拠はない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) フリーライド(ただ乗り) 控訴人は、被控訴人によるフリーライド(ただ乗り)の不法行為が成り立つ旨主張する。 しかしながら、控訴人商品と被控訴人商品が、その商品形態においても商品名においても類似していないことや、被控訴人取扱説明書が控訴人取扱説明書を複製したものであるといえないことなどは、前記のとおりである。また、控訴人主張の被控訴人の営業活動が、実際にいかなる範囲で行われたのかを明らかにする証拠もない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (4) まとめ 以上のとおりであって、控訴人の民法709条の不法行為に基づく予備的請求は、いずれも理由がない。 3 著作権法に基づく請求について 次のとおり、原判決を訂正等し、当審主張に対する判断を付加するほかは、原判決67頁24行目から80頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決の訂正等 ア 67頁25行目及び68頁3行目の各「の一部」を削る。 イ 69頁24行目から25行目にかけての「吸盤で固定されている様子が描かれている」の次に、「(ただし、被控訴人商品は吸盤を備えている〈検甲2〉が、被控訴人取扱説明書として控訴人から提出された甲12の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラストには、吸盤は描かれていない。)」を加える。 ウ 70頁15行目の「浴槽内の湯の表示の有無」の次に、「(ただし、被控訴人イラスト1には、浴槽内の湯は表示されていないが、被控訴人取扱説明書として控訴人から提出された甲12の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラストには、控訴人イラスト1と同様に、浴槽内の湯が表示されている〈甲12〉。)」を加える。 エ 75頁17行目の「スイッチを入れる」の次に「→「入」へ」を加える。 オ 76頁6行目の「左側」を「右側」と改める。 (2) 争点(3)ア(控訴人イラストの著作物性と複製の有無)について ア 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、商品の取扱説明書の場合、商品の使用方法、機能、生じ得る問題点とその対処方法、部品や部分の名称、注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが、説明すべきこれらの内容が共通し、その説明内容等がありふれた表現でなされる限り、別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし、著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(著作権法2条1項1号)からすれば、仮に上記のような点に共通性が認められたとしても、そのことをもって、創作性ある部分が実質的に同一であるとか、表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。 そうすると、控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして、被控訴人イラストと控訴人イラストは、それぞれが共通する部分は、結局、控訴人商品と被控訴人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないし、また、ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ、被控訴人イラストが、控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか、控訴人イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから、被控訴人イラストが控訴人イラストを複製したものであるとはいえない。 したがって、争点(3)ア(ア)(著作物性の有無)を判断するまでもなく、控訴人イラストの著作権侵害を理由とする控訴人の請求は、いずれも理由がない。 イ もっとも、控訴人が主張するように、控訴人商品と同種商品である「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書には、控訴人イラストと同一ないし似通ったイラストは見当たらない(甲4、26、27)。 しかしながら、説明内容が共通している場合に、これをありふれた表現で説明すると、同一又は似通った表現になることがあるからといって、必ず同一又は似通った表現になるとまではいえない。 そうすると、控訴人商品と同種商品であって、その説明内容に共通する点もあると考えられる「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書中のイラストが、いずれも控訴人イラストと異なっているからといって、直ちに、控訴人イラストの当該表現がありふれた表現ではないとはいえない。 したがって、上記同種商品の取扱説明書の存在は、前記認定判断を左右するものではない。 (3) 争点(3)イ(控訴人取扱説明書の著作物性と複製の有無)について ア 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、編集著作物は、「素材の選択又は配列によつて創作性を有するもの」に限り著作物として保護される(著作権法12条1項)ところ、商品の取扱説明書は、当該商品に関する各種情報という素材を扱うものであるから、控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とは対象とする商品が異なっており、「素材」となる情報も異なるから、既にこの点において、被控訴人取扱説明書が控訴人取扱説明書の編集著作権を侵害するものということはできない。 また、この点をおいて、控訴人の主張する説明文(文章内容及び文字の大小・太細、下線の有無など)、イラスト、絵表示自体を著作権法12条1項の「素材」ととらえて、その編集著作物性の有無を検討しても、控訴人主張にかかる、@控訴人商品の使用方法、特徴点、生じ得る問題とその対処方法、手入れ方法、各部の名称等、安全上の注意事項及び警告事項等の章立て、使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列していること、A生じ得る問題点とその対処方法の説明において、問題点を頁の左に、対処方法を頁の右に配置していること、禁止事項についてはイラストに「×」印を付していること、B注意事項と警告事項を分け、各事項の説明においては頁の左側に絵表示を、その右側上段に各事項を、その右側下段に説明文を配置していること、C説明文に沿って適宜イラストをその横や下に配置していること、D注意事項等の前には絵表示を置いて注意事項等であることの注意喚起を促していることは、いずれも、商品の取扱説明書における、章立て、文章、イラスト、絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ないから、「配列」の創作性を肯定することはできない。 したがって、いずれにせよ、控訴人取扱説明書には編集著作物性を認めることはできないから、争点(3)イ(イ)(複製の有無)について判断するまでもなく、控訴人取扱説明書の編集著作権侵害を理由とする請求は、いずれも理由がない。 イ これに対し、控訴人は、本件の場合、編集著作物としての「素材」は、「浴湯保温器という商品の各種情報」であり、控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とで素材は共通していると主張する。 しかし、控訴人商品と被控訴人商品は、「浴湯保温器」という点では同じであるが、既にみたとおり、商品の形態及び商品名とも類似するものとはいえず、別個の会社の製造販売する別個の商品であることは否定できないから、「素材」となる情報は異なるといわざるを得ない。 また、控訴人が主張するように、同種商品である「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書と控訴人取扱説明書とで、説明文、イラスト、絵文字の配列が異なっている(甲4、26、27)としても、同種商品の取扱説明書における、説明文、イラスト、絵文字のありふれた「配列」がたった一つしか存在しないとはいえないから、上記同種商品の取扱説明書の存在も、前記認定判断を左右するものではない。 4 結論 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すほどのものはない。 以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 長井浩一 裁判官 中村心 |
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