判例全文 | ||
【事件名】「超時空要塞マクロス」の標章事件(2) 【年月日】平成17年10月27日 知財高裁 平成17年(ネ)第10013号 不当利得返還請求控訴事件 (旧事件番号・東京高裁平成16年(ネ)第3992号) (原審・東京地裁平成15年(ワ)第19435号) (口頭弁論終結日 平成17年9月1日) 判決 控訴人 株式会社竜の子プロダクション 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 大野幹憲 同 内田公志 同 鮫島正洋 同 玉井真理子 同 後藤正邦 同 中原敏雄 同 大川原紀之 被控訴人 株式会社ビックウエスト 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 新保克芳 同 國廣正 同 村田真一 同 五味祐子 同 青木正賢 同 芝昭彦 被控訴人 バンダイビジュアル株式会社 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 柳瀬康治 同 山本昌平 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、連帯して控訴人に対し、5000万円及びこれに対する平成15年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、昭和57年10月から昭和58年6月にかけて毎日放送を中心に放映されたテレビ映画「超時空要塞マクロス」(以下「本件テレビアニメ」という。)につき著作権を有し、かつ、昭和59年に全国の劇場で公開された劇場用映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」(以下「本件劇場版アニメ」という。)の共同製作者の一人である控訴人が、その後被控訴人株式会社ビックウエスト(以下「被控訴人ビックウエスト」という。)や被控訴人バンダイビジュアル株式会社(以下「被控訴人バンダイビジュアル」という。)を中心にして映画の題名(タイトル)に「マクロス」を含む映画が製作販売されたことから、これらの被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当すると主張し、主位的に民法703条の不当利得返還請求として、予備的に不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求として、連帯して6億8500万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、マクロスの表示は控訴人の商品等表示に該当せず、また、被控訴人らの行為は商品等表示の使用に該当しないとして、被控訴人らにつき不正競争行為の成立を否定し、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。ただし、控訴人は、原判決に対する不服申立ての範囲を5000万円及び遅延損害金の支払を求める部分に限定した。 なお、これまでの株式会社竜の子プロダクション(控訴人)と株式会社ビックウエスト(被控訴人)・株式会社P(訴外人)間の民事訴訟において、本件テレビアニメについての著作権(ただし、著作者人格権は除く。)は株式会社竜の子プロダクションが、本件テレビアニメの基本となる「アニメ設定画」(設定画)及びこれに基づく「原画」・「動画」(アニメカット)の著作権は株式会社Pと株式会社ビックウエストが共同して、それぞれ有していることが確定している。 第3 当事者の主張 1 当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の第3及び第4に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決3頁12行目の「2日」を「26日」と、13行目の「甲5、6」を「甲2、5、6、11」とそれぞれ改める。)。 なお、以下においては、原判決にいう「本件表示」等の略語表示は、当審においてもそのまま用いる。 2 当審における当事者の主張 (1) 控訴人 ア 本件表示の商品等表示の該当性についての判断の誤り 原判決は、「映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではない」(23頁22行〜24行)と判示(以下「原判決判示事項@」という。)し、本件表示(「マクロス」)が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の商品等表示に該当しないと判断したのは、以下に述べるとおり、誤りである。 (ア) 原判決は、原判決判示事項@において「商品」が何を指しているかを明らかにしていない点においてそもそも不適切であり、「商品」に「映画それ自体」を含む趣旨であれば、「商品」である著作物を「商品」ではないと説示する矛盾を来している。 (イ) 原判決判示事項@は、不正競争防止法における「商品」が有体物に限られることを前提としている点において法令解釈を誤っている。この点、平成5年法律第47号による改正前の不正競争防止法1条1項1号の「商品」に無体物たる書体が該当するか否かが争われた事件において、東京高裁平成5年12月14日決定(判例時報1505号136頁)は、無体物であっても、その経済的な価値が社会的に承認され、独立して取引の対象とされている場合には、「商品」に該当すると判示している。 そして、原判決は、映画という本質的に著作物の複製物を、一般公衆に対して広く上映・流通販売・賃貸することによって経済価値の最大化を図る性格の財産権として、独特の地位を有している現実についての検討を十分に尽くさないまま、著作物の題号でありさえすれば一般公衆がその表示から特定の「商品群」ないしその特質を認識するかどうかを吟味するまでもなく、常に当然に不正競争防止法が定める「商品等表示」に該当しないと安易に判断した審理不尽の違法を犯している。 なお、産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止小委員会の報告書「不正競争防止法の見直しの方向性について」(平成15年2月)には、「現在の情報社会においては、無体物も有体物と同様、独立した取引の対象として認知されていることから、「商品」に無体物を含めて解釈することが適当である。」との記載がある。 加えて、原判決が、「特定性」すなわち「表示が特定の者の商品ないし営業を識別していること」の要件について何ら検討することなく、原判決判示事項@において「映画の題名は商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではない」と判示したのは、明らかに誤った判断である。 (ウ) 原判決は、著作物の題名には、一般の商品(著作物を固定・収録したもの以外の商品)の場合における商品名と全く同様に、当該著作物を固定・収録したものを他と識別する自他商品識別機能や出所表示機能があることを看過している。そもそも、映画の題名は、映画製作者のQが化体されたものであって、これを表示主体以外の第三者が自由に利用できるとすれば、表示主体ばかりか一般消費者が誤認混同により損害を被ることは火を見るより明らかである。 (エ) 「マクロス」の表示は、映画の題名そのものではなく、映画から派生した略称ないし愛称として使用された名称である。映画の題名としては、控訴人が製作したものは「超時空要塞マクロス」(本件テレビアニメ)、「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」(本件劇場版アニメ)であり、被控訴人側が製作したものは「マクロスU」、「マクロスプラス」、「マクロス7」、「マクロスダイナマイト7」、「マクロスゼロ」であって、1作として、「マクロス」との題名の映画は存在しない。しかるに、原判決は、映画の題名ではない「マクロス」を、単純に「被告ビックウエストにおいては・・・アニメの題名を「マクロス」と名付けた」(19頁12行〜13行)と事実誤認をしている。 また、「マクロス」の表示は、映画の題名ではないが、映画の題名の要部として、一連の映画について、一般公衆に対し、それらの映画が、同じクリエーター・グループによって作成され、共通ないし類似のモチーフ・内容・質の娯楽を提供していることを保証する表示として機能し、かかる表示を見る一般公衆も、映画の題名に「マクロス」の表示が含まれていることを通して、当該映画が、同じクリエーター・グループによって作成され、共通ないし類似のモチーフ・内容・質の娯楽を提供していることを期待し、ヒットした前作と同じモチーフ・内容・質の娯楽を提供しているとの一般公衆の信頼を呼び起こすものである。 このように「マクロス」の表示は、不正競争防止法が予定している「商品等表示」における公益的な機能及び私益的な機能を担保し得るほど周知となった表示であるから、「商品等表示」に該当することは明らかである。 イ 被控訴人らによる商品等表示の使用についての判断の誤り 原判決は、「被告らが製作ないし販売に関与する被告各映画は、劇場版映画かあるいは映画を収録したビデオ又はDVDソフトであり、それらに付された「マクロス」を含むタイトル(被告表示)はいずれも当該映画ないし当該媒体に収録された映画の題名として表示されているものであるから、被告表示が商品等表示として使用されているものではない」(24頁19行〜23行)と判示(以下「原判決判示事項A」という。)している。 しかしながら、そもそも不正競争防止法上の「使用」とは、「商品等表示をその商品又は営業との関連においてその業務に用いること」であって、かかる「使用」の意義からすると、被控訴人らは、控訴人の商品等表示である本件表示を、抽象的な著作物の題名に付して利用しているだけでなく、それを素材とした「商品」にも付して利用しているのであるから、「使用」に該当することは当然であり、原判決判示事項Aは誤りである。 ウ 商品等表示の他人性についての判断の誤り 原判決は、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメに関連する商品化事業は、控訴人のみならず、被控訴人ビックウエスト、訴外P等をも含めた共同事業であるとした上で、仮に本件表示が当該商品化事業等における商品等表示に該当し得るとしても、「被告ビックウエストないし同被告から許諾を受けてアニメーションDVDソフトを販売している被告バンダイビジュアルとの関係において、原告がこれを自己の「商品等表示」と主張することはできない」(25頁17行〜19行)と判示(以下「原判決判示事項B」という。)し、被控訴人らとの関係においては、本件表示が他人(控訴人)の商品等表示に該当しないと判断したが、次の理由により、誤りである。 (ア) 不正競争防止法2条1項1号、2号の規定の趣旨は、他人が費用・労力を投下する等の営業努力を払ったにもかかわらず、第三者が何ら努力をすることなく周知あるいは著名表示の有する顧客吸引力にただ乗りすることによって、当該周知・著名表示の持つ良いイメージを希釈化し、汚染することを防止することにある。 したがって、「商品等表示」の営業主体を特定するに当たっては、当該商品等を市場において周知せしめ、あるいは著名なものとするため払った費用・労力等の営業努力を考慮する必要があり、単に費用や労力を僅かでも分担すれば「他人」性が否定されるわけではない。 この点、控訴人は、アニメ映画事業において最も本質的で重要な作業である「アニメーション映画制作・製作」の場面において、自ら多額の金員を負担した上、制作義務を履行し、完成度の高いアニメーション映画を作り上げた。また、控訴人は、本件テレビアニメのオープニング及びエンディングの各テロップに「製作 タツノコプロダクション」という表記をもって全国ネットで放映させ、これにより、本件テレビアニメは、昭和57年10月当時、既に全国的に周知・著名なアニメ番組となった。かかる結果は、ひとえに控訴人が多大な費用と労力をかけて本件テレビアニメをクオリティの高いアニメーション映画に仕上げたことと、控訴人のアニメーション製作会社としての高い信用力をもって全国ネットでのテレビ放送を実現させたことによるものである。 したがって、「マクロス」という商品等表示は、控訴人の商品等表示であって、仮に被控訴人ビックウエストが費用と労力を僅かに負担していたとしても、被控訴人ビックウエストにとっては「他人」の商品等表示であり、本件テレビアニメの製作等に全く関与していない被控訴人バンダイビジュアルにとっては、当然に「他人」の商品等表示である。 (イ) 仮に「マクロス」が被控訴人ビックウエストを含めた共同事業体の商品等表示であるとしても、同時に控訴人の商品等表示である。 控訴人は本件テレビアニメの映画の著作権者として、映画著作物を自由に公表することができる(著作権法29条、18条)にもかかわらず、当該映画著作物の商品等表示である映画のタイトルが自己の「商品等表示」でないとすれば、著作権者として自由に映画を公表することは可能であるが、そのタイトルの利用については「他人」の商品等表示の利用に当たる可能性があるということととなり、極めて不合理である。 そもそも、不正競争防止法3条における「営業上の利益を侵害されるおそれがある者」とは、当該営業の業務主体のみならず、当該商品等表示の商品化事業に携わる周知・著名表示の使用許諾者及び許諾を受けた使用権者であって、同法2条1項1号又は2号に該当する行為により、再使用権者に対する管理統制、周知表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれのある者も含まれるものと解されているのであり(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)、控訴人がマクロスという名称を周知せしめ、著名化するにあたり払った営業努力や、その結果として控訴人が本件テレビアニメの映画の著作権者と認定されたことに鑑みれば、単なる共同事業体の構成員にすぎない被控訴人ビックウエストにとって「マクロス」は「他人」の商品等表示であり、共同事業体の構成員ですらない被控訴人バンダイビジュアルにとっては、「他人」の商品等表示であることはより一層明白であるから、原判決判示事項Bは誤りである。 加えて、商標法35条が準用する特許法73条3項は、共有に係る商標に関して第三者に対する使用権を許諾する場合には、他の共有者の許諾を要するとし、商標法31条4項は、特許法73条1項を通常使用権に準用しているので、共有されている商標については、他の共有者の承諾なく第三者への使用許諾を行うことができない。さらに、一般的な民法の共有理論でも、共有物の第三者への賃貸等の行為は、共有物の処分行為等として、共有者の単独でなしえないものとされている。 かかる知的財産権関係法あるいは財産法の諸規定を前提(商標法35条が準用する特許法73条3項の類推適用ないしその趣旨の斟酌等)とすると、少なくとも、「共同事業体」と全く関係のない被控訴人バンダイビジュアルとの関係においては、控訴人は差止請求権を具備するというべきであるから、被控訴人バンダイビジュアルにとって、控訴人は不正競争防止法2条1項1号の「他人」に該当するというべきである。 そして、一般私法である民法の共有理論においても、各共有者が、単独で、保存行為としての妨害排除請求をすることができ(民法252条ただし書)、また持分権に基づく損害賠償請求権を行使しうることに鑑みても、「共同事業体」の一構成員としての地位に基づいて、契約外の責任追及として、第三者による商品等表示の不正利用に対する権利行使が当然に認められるべきであって、被控訴人らにとって、控訴人は「他人」である。 (2) 被控訴人ビックウエスト ア 控訴人の主張アに対し 原判決は、「商品等表示」の「商品」が有体物に限定されるかどうかについては特に述べておらず、また、著作物の題号と同一の表示が商品の出所や営業主体を表示する態様で使用されていると認識される場合に、「商品等表示」に該当する可能性のあることまで否定しているわけではないから、著作物の題号でありさえすれば、常に当然に不正競争防止法が定める「商品等表示」に該当しないと安易に判断している旨の控訴人の批判は当たらない。 また、著作物の題名(題号)は、著作者を示し作品を他と区別する機能を持つものであっても、著作者の名前を超えてその複製物を誰が商品として販売しているかについて何ら示すものではない。ある題名の小説がA出版社でベストセラーになった後で、何らかの事情で著者とA出版社の出版契約が解消され、B出版社が発売することになっても、それが著作権を侵害しない限り許されるのであるから、著作物の題号には、当該題名の作品をいかなる主体が出版しているかという出所表示機能も自他商品識別機能もない。 さらに、控訴人は、「マクロス」は、映画の題名そのものではないから、原判決が「マクロス」を映画の題名として取り扱ったことに事実誤認がある旨主張するが、一方で、控訴人は、「マクロス」は映画の題名の要部であることを認めているから、原判決の判断に誤りはない。 イ 控訴人の主張イに対し 被控訴人らが製作ないし販売に関与する各映画に付された「マクロス」を含むタイトルは、当該映画あるいは当該媒体に収録された映画の題名を表示するものであって、商品や営業主体を表示するものではないとの原判決の判断に誤りはない。 ウ 控訴人の主張ウに対し (ア) 本件表示(「マクロス」)が本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメに関する共同事業体の商品化事業の表示と仮に認められるとしても、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメとは別の作品については、控訴人は、もはや共同事業者でもなく、本件表示を共有する権利が、当然に別の共同していない作品まで及ぶことはない。 これに対し控訴人は、映画著作物の商品等表示である映画のタイトルが自己の「商品等表示」でないとすれば、著作権者として自由に映画を公表することは可能であるが、そのタイトルの利用については「他人」の商品等表示の利用に当たる可能性があるということとなり、極めて不合理である旨主張するが、控訴人は、本件テレビアニメの著作者ではなく、その著作権者にすぎないから、控訴人の有する権利が、その後の控訴人が全く関与しないマクロス関連作品にまで及ぶとすることこそ不合理である。 したがって、被控訴人ビックウエストはもとより、被控訴人ビックウエストから許諾を受けて別の作品のアニメーションDVDソフトを販売している被控訴人バンダイビジュアルとの関係においても、控訴人は何ら権利を主張できるものではない。 (イ) 控訴人が本件テレビアニメの映画製作者とされたのは権利の調整のための帰属主体として映画の著作権を有することが認められただけであって、著作者人格権は控訴人にないこと、「マクロス」という題名をつけたのが被控訴人ビックウエストの前代表者Rであることからすれば、被控訴人ビックウエストらが原作者として、「マクロス」を使用して新たな作品を作成できるというべきであり、仮に「マクロス」が「商品等表示」たり得るとしても、それは被控訴人ビックウエスト及びPの「商品等表示」であって、控訴人の「商品等表示」でないことは明らかである。 多数の作品を発表して個々の作品を超えてアニメーション制作会社そのものとしての営業表示(「タツノコプロ」「竜の子プロ」「竜の子」「タツノコ」等)が有名な控訴人のような場合には、マクロスシリーズのごく一部に関与しただけで、それが控訴人の「商品等表示」になることなどない。 (3) 被控訴人バンダイビジュアル ア 控訴人の主張アに対し 不正競争防止法上、商品等表示が保護されているのは、それぞれ商品を販売したり、営業を遂行するに際して、その商品又は営業を他の事業者のものと区別するための機能(自他商品識別機能)や、商品又は営業が自己のものであることを明示するため(出所表示機能)の機能を有することからである。 本件で問題となっている「超時空要塞マクロス」等という映画の題号(題名)は、あくまで、「超時空要塞マクロス」等のアニメーション映画を特定し、その内容を示すものであって、この「超時空要塞マクロス」等という映画の題号それ自体に、他の事業者のものと区別するための機能や(自他商品識別機能)、自己のものであることを明示するため(出所表示機能)の機能はない。このことは、商標権に関する判例上も、書籍やCD等に付された題号・タイトルは、そもそも題号・タイトルという性質上からいって、自他商品識別機能や出所表示機能を有するとはいえないなどとされていることからも明らかである。 そして、本件は、「マクロス」という映画の題名が自他商品識別機能及び出所表示機能を有しているか否かという見地から考察されるべき事案であって、「商品」概念等の解釈で帰結されるべき問題ではそもそもないから、原判決が「商品」の概念を明らかにしていないことが不適切であるとか、「商品」概念を有体物に限るとの前提にたっているとか、「商品」概念の法的評価を誤っているなどという控訴人の批判は全く当たらない。 イ 控訴人の主張イに対し 原判決は、映画の題名が「商品等表示」に該当しないことを踏まえ、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為をいう控訴人の主張は理由がないと判断しているのであるから、原判決の判断に誤りはない。 ウ 控訴人の主張ウに対し 控訴人は、「マクロス」が控訴人の商品等表示であることを前提に「他人」性を論じているが、そもそも、控訴人は本件テレビアニメの映画著作権を有するのみで(著作者人格権を有しない。)、「マクロス」が控訴人の商品等表示でないことは明らかであり、控訴人の主張に根拠はない。 また、一般に、共同事業体においては、商品化の企画、構想の段階から、市場調査や資金の拠出、スポンサー探し、実際の製作、労力の提供等といった様々な役割分担を行い、共同事業者がそれぞれ相互に協力・補完しながら一体となって商品化を展開していくものであり、かかる共同事業体によって商品化されたものは、まさに共同事業体の商品であり、仮に共同事業体によって商品化された商品の名称が「商品等表示」に該当する場合があったとしても、「商品等表示」の出所は共同事業体でしかあり得ず、共同事業体の個々の構成員の「商品等表示」になることはないから、共同事業体内部においては、不正競争防止法上の「他人」にそもそも該当しない。 さらに、控訴人は、特許法の規定や民法の共有法理等に基づき、被控訴人バンダイビジュアルとの関係において控訴人が差止請求権を有する結論になる旨主張しているが、共同事業者間において、不正競争防止法上の「他人」に該当しない以上、控訴人と被控訴人ビックウエストとは相互に「他人」に該当せず、被控訴人ビックウエストから許諾を得た被控訴人バンダイビジュアルの行為が、不正競争に該当しないことは当然である。本件で問題となっているのはあくまで被控訴人らの行為が不正競争になるか否かということであって、権利を共有している場合にいかに権利行使をするのかという議論は、本件とは次元の異なる議論である。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり訂正付加するほか、原判決「第5 当裁判所の判断」を引用する。 2 訂正 (1) 原判決20頁6行目の「2日」を「26日」と改める。 (2) 原判決21頁17行目の「締結し」の後に「(甲9)」を加える。 (3) 原判決23頁13行目の「OVAマクロス製作委員会」を「OVAマクロス7製作委員会」と改める。 (4) 原判決24頁4行目の「超時空要塞/マクロス」を「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」と改める。 (5) 原判決24頁末行から25頁20行までを削除する。 (6) 原判決25頁21行目の「(5)」を「(4)」と改める。 3 当審における控訴人の主張に対する判断 (1) 本件表示の商品等表示の該当性についての判断の誤りの有無 ア 控訴人は、原判決が「映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではない」(23頁22行〜24行)と判示(原判決判示事項@)し、本件表示が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の商品等表示に該当しないと判断したのは、誤りである旨主張する。 しかしながら、原判決第5の1(本件の事実関係)によれば、「マクロス」という本件表示は、本件テレビアニメ、本件劇場版アニメ等により、映画を特定する題名の一部として社会一般に広く知られるようになったことは認められるものの、それ以上に、本件証拠によっても本件表示が事業者たる控訴人の商品又は営業を表示するものとして周知ないし著名になったとまで認めることができず、本件表示は控訴人の商品等表示に該当しないというべきであるから、被控訴人らが「超時空要塞マクロスU」、「マクロスプラス」等の題名の映画を製作・販売する行為が不正競争防止法2条1項1号・2号に該当するとする控訴人の主張は失当である。 イ これに対し控訴人は、(ア) 原判決判示事項@において、「商品」が何を指しているかを明らかにしていない点において不適切である、(イ) 原判決は、不正競争防止法における「商品」が有体物に限られることを前提として判断しているのは誤りであり、また、原判決は、「特定性」すなわち「表示が特定の者の商品ないし営業を識別していること」の要件について何ら検討をしていない、(ウ) 原判決は、著作物の題名には、一般の商品(著作物を固定・収録したもの以外の商品)の場合における商品名と全く同様に、当該著作物を固定・収録したものを他と識別する自他商品識別機能や出所表示機能があることを看過している、(エ) 「マクロス」の表示は、映画の題名そのものではなく、映画から派生した略称ないし愛称として使用された名称であり、「マクロス」との題名の映画は存在しないから、原判決に事実誤認があり、また、「マクロス」の表示は、不正競争防止法が予定している「商品等表示」における公益的な機能及び私益的な機能を担保しうるほど周知となった表示であるから、「商品等表示」に該当する、などと主張する。 しかしながら、先に説示したとおり「マクロス」なる本件表示は、著作物である映画を特定するものであって、その表示から直ちに当該映画の放映・配給事業を行う営業主体としての控訴人が認識されるものではないと認められるから、原判決に控訴人主張の上記(ア)及び(イ)にいう不適切、判断の誤りがあるということはできない。 また、本件テレビアニメの題名は「超時空要塞マクロス」、本件劇場版アニメの題名は「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」であり、その後製作発表されたアニメーション映画の題名は「超時空要塞マクロスU」(ビデオ)、「マクロスプラス」(ビデオ、劇場版)、「マクロス7」(劇場版、テレビ放送、ビデオ。乙5の1・2)、「マクロスダイナマイト7」(DVDソフト)、「マクロスゼロ」(DVDソフト)であって、「マクロス」との題名の映画はないが(原判決第5の1(1)、(3)、(4))、「マクロス」が製作発表された上記各映画の題名の要部に該当することは控訴人も認めていることに照らすと、「マクロス」が映画の題名であることを前提として判断した原判決に結論に影響を及ぼすべき事実誤認があるということはできないし、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメの題名の一部である本件表示が社会一般に広く知られたとしても、それ以上に本件表示が控訴人の商品又は営業を表示するものとして周知ないし著名となったものと認めることができないことは先に説示したとおりであるから、控訴人の上記(エ)の主張も採用することができない。 (2) 被控訴人らによる商品等表示の使用についての判断の誤りの有無 控訴人は、原判決が「被告らが製作ないし販売に関与する被告各映画は、劇場版映画かあるいは映画を収録したビデオ又はDVDソフトであり、それらに付された「マクロス」を含むタイトル(被告表示)はいずれも当該映画ないし当該媒体に収録された映画の題名として表示されているものであるから、被告表示が商品等表示として使用されているものではない」(24頁19行〜23行)と判示(原判決判示事項A)しているが、被控訴人らによる上記各映画の製作販売は、商品等表示の使用に該当するなどと主張する。 しかしながら、原判決も認定するように、「マクロス」を含むタイトル(被告表示)はいずれも当該映画ないし当該媒体に収録された映画を特定する映画の題名として表示されているものであるから、被控訴人らによって本件表示が商品等表示として使用されているものではないというべきであり、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 商品等表示の他人性についての判断の誤りの有無 控訴人は、原判決が、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメに関連する商品化事業は、控訴人のみならず、被控訴人ビックウエスト、P等をも含めた共同事業であるとした上で、仮に本件表示が当該商品化事業等における商品等表示に該当し得るとしても、「被告ビックウエストないし同被告から許諾を受けてアニメーションDVDソフトを販売している被告バンダイビジュアルとの関係において、原告がこれを自己の「商品等表示」と主張することはできない」(25頁17行〜19行)と判示(原判決判示事項B)し、被控訴人らとの関係においては、本件表示が他人(控訴人)の商品等表示に該当しないと判断したのは誤りである旨主張する。 しかしながら、先に説示したとおり、本件表示は、控訴人の商品等表示に該当せず、また、被控訴人らの行為は商品等表示の使用に該当しないのであるから、原判決判示事項Bにつき控訴人主張の誤りの有無を検討するまでもなく(前記2(5)で述べたとおり、原判決24頁末行から25頁20行までを削除した。)、被控訴人らの行為が不正競争行為に該当しないことは明らかである。 4 結論 以上によれば、その余について判断するまでもなく、被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項1号、2号に該当することを理由とする控訴人の本訴請求は理由がないことに帰する。 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所 第2部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 大鷹一郎 裁判官 長谷川浩二 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |