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【事件名】広告バーナー無断コピー事件
【年月日】平成17年6月30日
 名古屋地裁 平成16年(ワ)第3697号(甲事件)、同第4834号(乙事件) 著作権侵害行為差止等請求各事件
 (口頭弁論終結の日 平成17年6月22日)

判決


主文
1 被告は、原告に対し、金56万円及びうち4万円に対する平成16年11月1日から、うち52万円に対する平成17年2月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、甲、乙両事件を通じて5分し、その4を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
1(甲事件)
 被告は、原告に対し、85万7500円及びこれに対する平成16年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(乙事件)
 被告は、原告に対し、630万円及びこれに対する平成17年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙目録1及び2記載の各バナー(以下、別紙1記載のバナーを「本件バナー1」、別紙2記載のバナーを「本件バナー2」といい、これらを併せて「本件各バナー」という。)の著作者であると主張する原告が、本件各バナーを原告に無断でコピーした上、公衆送信した被告に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求として、本件バナー1については85万7500円(甲事件)、本件バナー2については630万円(乙事件)及びこれらに対する不法行為の後の日(本件バナー1については平成16年11月1日、本件バナー2については平成17年2月3日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実、証拠により容易に認定できる事実等)
(1) 当事者
ア 有限会社アイコムは、平成16年2月26日、それまでA(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)の両名が行っていた、インターネット上に開設するウェブサイト等を利用したいわゆる出会い系サイトに関する情報提供事業などを目的とし、両名の有する営業に関する全権利を承継して、設立された。
 その後、有限会社アイコムは、平成17年2月17日、同様の業務を目的とする原告に組織変更され、A及びBの両名が代表取締役に就任した。
イ 被告も、インターネット上に開設するウェブサイトを利用して出会い系サイトに関する情報等を提供することなどを業としている。
(2) 本件各バナーの作成等
 AとBは、有限会社アイコムの設立前である平成15年6月ころ、「アイコム」の屋号をもって、「出会いDB(出会い学校)」という名称のウェブサイト(以下「原告サイト」という。)を開設し、これを運営する共同事業を始めたが、その際、Aが作成した本件バナー1を原告サイト内に掲載し、インターネットを通じて公衆送信した(甲A4の1)。
 さらに、有限会社アイコムは、平成16年3月14日ころ、Aが同社の事業のために作成した本件バナー2を原告サイトに掲載し、インターネットを通じて公衆送信した(弁論の全趣旨)。
(3) 被告による本件各バナーの使用
ア 被告は、平成16年5月ころから、被告が開設した「デアッチャマン」という名称のウェブサイト(以下「被告サイト1」という。)において、有限会社アイコムの承諾を得ることなく複写した本件バナー1を掲載して使用し、インターネットを通じて公衆送信していたが、6か月を経過した同年10月ころ、これを削除した。
イ 被告は、さらに、次のとおり、被告開設の各ウェブサイト(以下、被告サイト1を含めて「被告各サイト」と総称する。)において、有限会社アイコムの承諾を得ることなく複写した本件バナー2を掲載して使用し、インターネットを通じて公衆送信していたが、平成16年12月22日、これらの掲載を削除した(乙4の17ないし27、弁論の全趣旨)。
(ア)「出会いの虎」(以下「被告サイト2」という。)
 平成16年8月から
(イ)「パンパンマン」(以下「被告サイト3」という。)
 平成16年10月から
(ウ)「出会っちゃお」(以下「被告サイト4」という。)
 (なお、後記の通り、使用開始時期については争いがある。)
(4) 本件各バナーの構成と著作物性
ア 本件バナー1
 本件バナー1は、別紙1のとおり、全体が横長の長方形であって、その中に「サクラをサクッと見分けよう!!」という文章が記載され、そのうち「サクラ」の部分は濃いピンク色により、「をサクッと見分けよう!!」の部分は緑色により、それぞれ彩色されている。文章以外の地の部分は、全体の外枠を濃いピンク色の線によって囲み、その少し内側に白色の細い線を施しているほかは、淡いピンク色によって彩色されている。
 そうすると、本件バナー1は、言語と美術の複合的著作物である。
イ 本件バナー2
 本件バナー2は、次のとおり、写真及び言語の複合的著作物である。
(ア) 本件バナー2は、別紙2のとおり、ベッドに座った女性の写真(5コマ)とピンクの服を着た女性の顔写真(4コマ)によって連続的に構成されている横長の長方形の動画バナーである。
(イ) ベッドに座った女性の写真(5コマ)は、ベッドに座った女性を頭から足に向かって順次アングルを動かして撮影したものであり、5コマ目のアングルは膝下からのものとなっている。なお、1コマ目には、中央付近に横書き赤字で「セフレBANK」という広告サイト名が記載されている。
(ウ) 6コマ目以降は、女性の顔写真の横に、順次白字で「誰にも言えない」(顔の右側)、「恥ずかしいことも」(顔の左側)、「おねだりして」(顔の右側)、「いいですか?」(顔の左側)という台詞を付し、台詞の背景の一部分(バナーの左右の上角)に紫色を配色している。
(5) 本件各バナーの機能
ア 本件バナー1
 インターネット利用者が、原告サイト又は被告サイト1に掲載されている本件バナー1をクリックすると、第三者の相互サイトであるhttp://www.freepe.com/i.cgi?itachigokkoにリンクするが、これによって、原告(ないし、その前身である有限会社アイコム、さらには、A及びB)又は被告が広告料等を受け取ることはない。
イ 本件バナー2
 インターネット利用者が、原告サイト及び被告サイト2ないし4に掲載されている本件バナー2をクリックすると、株式会社M(以下「M」という。)が開設・運営する、セフレ(セックスフレンド)募集を目的とした「セフレバンク」という出会い系サイトにリンクするところ、原告及び有限会社アイコム並びに被告は、それぞれ、Mとの間で、広告掲載契約を締結し、広告料の支払を受けている。
2 本件の争点
 被告が本件各バナーを使用したことによる原告の損害額
(1) 被告サイト4において本件バナー2の使用を開始した時期についての自白撤回の可否
(2) 著作権法114条2項による損害額推定の可否
(3) 同条3項による使用料相当額
(4) 同法114条の5に基づく損害額
(5) 慰謝料請求の可否
(6) 弁護士費用額
3 争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
(1) 被告サイト4において本件バナー2の使用を開始した時期についての自白撤回の可否
 被告は、当初、平成16年8月及び9月についても、被告サイト4において本件バナー2を使用していた事実を自白していたところ、この自白の撤回は、真実に反し、許されない。すなわち、被告は、請求書(乙4)と陳述書(乙5)を提出するが、これらは、明らかに虚偽の内容のメールをMに依頼するなどの被告の訴訟追行態度に照らし、信用できない。
(2) 著作権法114条2項による損害額推定の可否
ア 本件バナー1について
 被告は、Aが作成し、有限会社アイコムが著作権を有していた本件バナー1を盗用することにより、少なくとも本件バナー1の制作費用相当額である15万7000円の利益を受けたところ、被告の受けた同利益が、原告がその地位を承継した有限会社アイコムの損害と推定される。
 この点について、被告は、原告主張額の15万7500円が高額にすぎると主張し、これに沿うものとして乙1号証の1及び乙2号証の1を提出するが、これらは、すでに本件バナー1のデザインが存在することを前提として電子データ化する場合の見積りであって、デザイン考案から制作に至るまでを対象とした見積りではない。しかも、被告は、上記見積りを依頼するに当たって、安い見積りが欲しいとの希望を述べており、信用できるものではない。デザインの考案から制作するには、リンク先サイト名だけではなく、原告サイト全体のイメージやバナー掲載ページのイメージにも適合するようデザインする必要があり、最低限15時間程度は必要である。
 また、被告は、1時間程度の作業であるから、制作費用は5000円を超えない旨主張しているが、趣味のレベルではなく、営利団体としての企業が請け負う場合には、直接間接の経費を要し、打合せ等の時間も必要であるから、単純に作業時間とその人件費だけで制作費が決まるわけではない。本件バナー1は、確かにバナーとしては最少の大きさであるが、小さい領域に必要な情報を分かりやすく織り込むことは、かえって難しい作業である。
イ 本件バナー2について
(ア) 有限会社アイコムは、原告サイトにおいて、平成16年3月1日から同月13日までの間、セフレバンクのバナーとして、Mから提供されたものを利用していたが、同月14日から、本件バナー2に交換したところ、交換前の平均クリック数が1日当たり1431回であったのに対し、交換後のそれは2121回と48パーセントも増加した。
 そうすると、本件バナー2の広告としての寄与率は、次の計算式のとおり、少なくとも30パーセントは下らない。
 48%/148%=0.324(以下切り捨て)
(イ) 被告は、Mとの間で、被告サイト2ないし4のそれぞれにつき、1か月各100万円は下らない金額の広告料を受け取る広告掲載契約を締結している。そうすると、被告サイト2ないし4における本件バナー2の使用期間は、被告サイト2につき平成16年8月から平成17年1月までの6か月間、被告サイト3につき平成16年10月から平成17年1月までの4か月間、被告サイト4につき平成16年8月から平成17年1月までの6か月間となり、次の計算式のとおり、その利益は480万円を下らない。
 100万円×0.3×(6+4+6)=480万円
(ウ) 仮に、被告が、Mとの間で、一定数のクリックが行われた場合に広告料が支払われるクリック保障形式で契約を締結しているとすれば、本件バナー2の顧客誘引力が、クリック数の維持向上に多大な貢献をしていることは明らかであり、被告は、本件バナー2がなければ、Mとのクリック保障形式による契約での広告料の利益を受けることはできないから、少なくとも30パーセントを下らない寄与率で、被告の広告料収入に貢献している。
 そうすると、被告が、Mとの間で、クリックに比例する契約を締結している場合には、次のとおり、被告の利益相当額である576万円が原告の損害額となる。
a クリック数を基準とする出会い系サイトの広告料は、通常1クリック当たり50円が相場であり、被告における契約でも40円を下らない。
b 被告は、被告サイト2ないし4のそれぞれにつき、本件バナー2の使用により1日当たり少なくとも1000クリックの成果を上げている。
c 本件バナー2の広告としての寄与率は30パーセントを下らない。
d そうすると、被告が本件バナー2で得た利益は、次の計算式のとおり、576万円を下らない。
 40円×1000クリック×0.3×30日×(6+4+6)=576万円
(3) 著作権法114条3項による使用料相当額
 被告が有限会社アイコムに無断で本件各バナーを使用した経緯を考慮すれば、その使用料相当額は、本件バナー1については1か月当たり1万円、本件バナー2については1か月当たり20万円を下らない。
 そうすると、被告は、本件バナー1を遅くとも平成16年5月ころから同年10月ころまでの約6か月間、本件バナー2を3つのサイトで延べ16か月間、それぞれ無断で使用したのであるから、使用料相当額は、少なくとも、本件バナー1については6万円、本件バナー2については320万円となる。
(4) 著作権法114条の5に基づく損害額
 本件各バナーの無断使用による損害額について認定が困難な場合には、著作権法114条の5に基づく相当な損害の認定を求める。
(5) 著作者人格権の侵害による慰謝料
 有限会社アイコムは、被告によって本件各バナーを故意に無断使用されたことによって、著作者人格権を侵害され、多大な精神的損害を被った。かかる有限会社アイコムの精神的損害を慰謝すべき慰謝料は、本件バナー1について30万円、本件バナー2について90万円を下らない。
 この点について、被告は、法人について慰謝料請求権は認められない旨主張するが、法人も社会的実在であるから、人格権を有し、その侵害について差止めや無形損害について慰謝料等の損害賠償を請求できることについて、自然人との差異はない。
(6) 弁護士費用相当額
 原告は、被告による著作権侵害行為の差止め及び損害賠償請求のために、弁護士である原告代理人に委任して本訴を提起することを余儀なくされたところ、被告が賠償すべき弁護士費用は、甲事件について40万円、乙事件について60万円を下ることはない。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。
(1) 被告サイト4において本件バナー2の使用を開始した時期についての自白撤回の可否
 被告は、平成16年8月ころから、被告サイト4において本件バナー2を原告の承諾を得ることなく使用したことを認めたが、これは、真実に反する陳述であり、錯誤に基づくものであるから、撤回する。
 すなわち、被告は、多数のサイトを運営しており、被告サイト4の開始時期について正確な記憶も記録もなかったが、原告には明確な証拠があるものと考えて自白した。しかし、Mにおいて保管されていた被告からの請求書によれば、被告サイト4について平成16年8月分と9月分の記載はなく、そのころ被告サイト4は存在していないのであるから、平成16年8月と同年9月については、被告サイト4において本件バナー2を使用したとの自白を撤回し、この期間の使用について否認する。
(2) 著作権法114条2項による利益相当額について
ア 本件バナー1について
 本件バナー1の制作費相当額が15万7500円であることは否認する。消費税込みでもこれが5250円を超えることはない。文章の長さ、バナーの大きさ等からみて、別途、考案料、デザイン料が必要であるとしても、数万円程度である。
 また、原告は、本件バナー1を作成するのに最低限15時間を要したと主張するが、常識的ではない。このように短く、小さく、営業上のメリットも大きくない1個のバナーの制作に15時間も要するようであれば、経営が成り立たない。しかも、外注した場合の金額(算定根拠も明らかでない。)をもって、自ら制作した場合の制作費相当額と評価するのは明らかに無理がある。
イ 本件バナー2について
 被告は、本件バナー2を公衆送信していた期間、Mとの間で、次のとおりの内容の広告掲載契約を締結しており、クリック数が増加したからといって、受け取る広告料が増えるものではない。
(ア) 被告サイト2
 平成16年8月 15万円
 同年9月 15万円
 同年10月 15万円
 同年11月 15万円
 同年12月 9万円  
(イ) 被告サイト3
 同年10月 11万3230円(日割り計算、27日分)
 同年11月 無料
 同年12月 9万円  
(ウ) 被告サイト4
 同年10月 13万円
 同年11月 13万円
 同年12月 13万円
(3) 著作権法114条3項による使用料相当額について
 本件バナー1の使用料相当額が月1万円であること、本件バナー2の使用料相当額が20万円を下らないことはいずれも否認する。このような事例は見当たらず、算定根拠に乏しい上に、バナーの使用料相当額が、当該サイトの広告料を上回ることは常識、経験則に反する。
(4) 著作権法114条の5に基づく損害額について
 著作権法114条の5に基づく損害額の認定に当たり、本件各バナーに、高度な芸術性や顧客誘引力があるわけではないことを考慮すべきである。
(5) 慰謝料について
 法人が社会的実在であっても、精神的損害を被るものではないから、慰謝料が発生する余地はないが、仮に慰謝料が生じ得るとしても、その金額が本件バナー1について30万円であること、本件バナー2について90万円であることはいずれも否認する。前者の30万円は、本件バナー1の制作費が原告主張によっても15万7500円であることからみても過大である。また、本件バナー2を掲載したサイトが3つであっても、侵害行為は1個と評価すべきである。
(6) 弁護士費用について
 原告の主張額は過大である。
第3 当裁判所の判断
1 被告サイト4において本件バナー2の使用を開始した時期についての自白撤回の可否について
 被告は、当初、平成16年8月ころから被告サイト4における本件バナー2の使用を開始した旨認め自白していたが、その後、撤回している。この点について、原告は、異議を述べるが、証拠(乙4の17ないし27)によれば、被告サイト4が平成16年9月までは存在していなかったと認められるから、上記自白は、真実に反し、錯誤に基づくものであると認められる。
2 著作権法114条2項による損害額の推定について
 著作権法114条2項は、「著作権者……が故意又は過失によりその著作権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者……が受けた損害の額と推定する。」と定めているところ、同項は、著作権侵害行為によって得た利益をもって著作権者が受けた損害額と推定するにとどまり、損害の発生自体を推定するものではない。
 ところで、前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、本件各バナーは、原告及び被告の開設に係る各サイトに掲載された長方形状のグラフィック表示であって、そのサイトにアクセスして開いた人が、サイト内の本件各バナーをクリックすることによって別のサイトが開くものであること(そのサイトを開設している者との間で広告掲載契約が締結されている場合には、広告料収入を得ることができる。)、したがって、被告各サイトに本件各バナーが掲載されて公衆送信されても、本件各バナーそれ自体が受信複製物として利用価値を有するものではなく、現に、原告サイト及び被告各サイトのいずれにおいても、本件各バナー自体をアクセスした人等に有料で利用させているものではないこと、しかも、原告サイト及び被告各サイトを開いて初めて、そこに掲載された本件各バナーを認識することが可能であること、以上の事実が認められる。
 そうすると、被告が、被告各サイトにおいて、本件各バナーを掲載することにより公衆送信したからといって、原告サイトにアクセスする人数や原告サイトに掲載された本件各バナーのクリック数が減少するという関係を認め難いから、得べかりし利益喪失による有限会社アイコムの損害発生はあり得ず、したがって、本条2項を適用する余地はないと解するのが相当である。
3 著作権法114条3項による使用料相当額について
(1) 前記前提事実に証拠(甲A4の1、A5ないし7、甲B2ないし12、乙1の1・2、2の1・2、4の1ないし27、5)及び弁論の全趣旨を総合すると、
ア 本件バナー1は、原告代表取締役であるAがデザインして創作したこと、同人は、その製作に約15時間を要したと述べていること、88(ピクセル)×31(ピクセル)サイズのバナーの制作費(デザイン及び制作を含む)一式で15万円(消費税別)である旨の原告提出に係る見積書が存在するが、これには、どのようなバナーであるかは明記されていないこと、他方、被告は、バナーの制作費(デザイン費用を含まない。)が3500円ないし5000円(いずれも消費税別)である旨の見積書を提出しているが、少なくとも1つの業者に対して見積りを依頼した際、被告は少額であれば望ましい旨の希望を申し述べていること、
イ 本件バナー1は、別紙1のとおり、全体が横長の長方形であって、その中に「サクラをサクッと見分けよう!!」という文章が記載され、そのうち「サクラ」の部分は濃いピンク色により、「をサクッと見分けよう!!」の部分は緑色により、それぞれ彩色されていること、文章以外の地の部分は、全体の外枠を濃いピンク色の線によって囲み、その少し内側に白色の細い線を施しているほかは、淡いピンク色によって彩色されていること、
ウ 本件バナー2は、別紙2のとおり、ベッドに座った女性の写真(5コマ)とピンクの服を着た女性の顔写真(4コマ)によって連続的に構成されている横長の長方形の動画バナーであること、ベッドに座った女性の写真(5コマ)は、ベッドに座った女性を頭から足に向かって順次アングルを動かして撮影したものであり、5コマ目のアングルは膝下からのものとなっており、1コマ目には、中央付近に横書き赤字で「セフレBANK」という広告サイト名が記載されていること、6コマ目以降は、女性の顔写真の横に、順次白字で「誰にも言えない」(顔の右側)、「恥ずかしいことも」(顔の左側)、「おねだりして」(顔の右側)、「いいですか?」(顔の左側)という台詞を付し、台詞の背景の一部分(バナーの左右の上角)に紫色を配色していること、
エ 原告サイト及び被告サイト1から、本件バナー1をクリックすると、第三者の相互サイトであるhttp://www.freepe.com/i.cgi?itachigokkoにリンクするが、これによって、原告(ないし、その前身である有限会社アイコム、さらには、A及びB)又は被告が広告料等を受け取ることはないこと、
オ 本件バナー2は、セフレ募集を目的とした「セフレバンク」という出会い系サイトの広告のためのリンクバナーであり、原告及び被告は、それぞれ、同サイトを開設運営しているMとの間で、広告掲載契約を締結しているところ、被告は、次のとおり、月決めの広告料(合計128万3230円)の支払を受けているが、被告自身は、他と比較して低廉であると考えていること、
(ア) 被告サイト2
 平成16年8月 15万円
 同年9月 15万円
 同年10月 15万円
 同年11月 15万円
 同年12月 9万円  
(イ) 被告サイト3
 同年10月 11万3230円(27日分の日割計算)
 同年11月 無料
 同年12月 9万円  
(ウ) 被告サイト4
 同年10月 13万円
 同年11月 13万円
 同年12月 13万円
カ 有限会社アイコムは、平成16年3月1日から同月13日までの間、セフレバンクのバナーとして、Mから提供されたものを掲載していたが、同月14日から本件バナー2に交換したところ、交換前の平均クリック数が1日当たり約1431回であったのに対し、交換後のそれは2121回と約48パーセントも増加したこと、
 以上の事実が認められる。
(2) 前記認定事実によれば、本件バナー1については、その制作費見積額、バナーの形状・機能、これ自体によって利益が発生するものではないこと、被告による侵害状況、侵害期間が約6か月間であること等を総合考慮すれば、原告が著作権の行使について受けるべき金銭の額は、総額で3万円であると認めるのが相当であり、本件バナー2については、そのバナーの形状・機能、収入状況、侵害状況、延べ侵害期間が約11か月間であること等を総合考慮すれば、原告が著作権の行使について受けるべき金銭の額は、総額で44万円と認めるのが相当である。
4 慰謝料について
 法人については、一般に、不法行為による精神的苦痛を想定することができないことから、慰謝料請求権の発生を観念することは困難というべきである。もっとも、法人についても、信用毀損による無形の損害の賠償請求権を肯定することはあり得るが、本件においては、被告の著作権侵害行為によって、有限会社アイコムの信用が低下したことを認めるに足る証拠はない。
5 弁護士費用について
 原告が、本訴の提起、遂行のため、弁護士である原告代理人に訴訟委任したことは記録上明らかであるところ、本訴請求の認容額、原・被告の主張立証状況、本訴提起によって被告が本件各バナーの使用を中止したこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、被告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、甲事件について1万円、乙事件について8万円とするのが相当である。
6 結論
 よって、原告の本訴各請求は、被告に対して合計56万円及びうち4万円に対する平成16年11月1日から、うち52万円に対する平成17年2月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余については失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条を、仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官 加藤幸雄
 裁判官 舟橋恭子
 裁判官 片山博仁
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日本ユニ著作権センター
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