判例全文 line
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【事件名】オフィスソフト「Webcell」の画面表示事件(2)
【年月日】平成17年5月26日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10055号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成15年(ワ)第15478号)
 (平成17年4月12日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) 株式会社マイクロラボ
訴訟代理人弁護士 佐藤恭一
同 田中秀幸
訴訟引受人 株式会社ナニワ計算センター
訴訟代理人弁護士 秦悟志


主文
 控訴人の訴訟引受人に対する請求を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 控訴人は、次のとおりの判決及び仮執行宣言を求めた。
1 訴訟引受人は、原判決別紙1目録記載のプログラムをフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体に格納し、有線ないし無線通信装置等によって送信し、又は送信可能の状態に置いてはならない。
2 訴訟引受人は、原判決別紙1目録記載のプログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を頒布してはならない。
3 訴訟引受人は、原判決別紙1目録記載のプログラムの使用許諾をしてはならない。
第2 事案の概要
1 控訴人は、訴え取下前被控訴人(国際頭脳産業株式会社。一審被告)に対して、原判決別紙1目録記載のプログラム(被告ソフトウェア)の画面表示は、控訴人の製造したソフトウェアの画面表示と同一又はその表現上の特徴を感得できるものであって、被告ソフトウェアを製造販売する一審被告の行為は、画面表示について控訴人が有する著作権を侵害すると主張して、著作権(複製権、翻案権)に基づき、被告ソフトウェアの使用差止め及び損害賠償を請求し、原審はこれを棄却した。
 これに対し、控訴人は、原判決の全部を不服として控訴し、原審におけるのと同旨の判決を求めた。しかるところ、一審被告は、当審係属後の平成16年8月25日破産宣告を受け、同年12月2日破産廃止となった。その間、一審被告の破産管財人は、被告ソフトウェアに関する権利義務を訴訟引受人に譲渡したので、当裁判所は、訴訟引受人に一審被告のために本訴の引受けを命じ、控訴人は一審被告に対する訴えを取り下げた。控訴人は、一審被告に対して請求していたうちの損害賠償請求を除く部分を訴訟引受人に請求している。
2 前提となる事実などの事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に摘示されているとおりである。
3 控訴人は、控訴理由として、原告ソフトウェアの画面表示の著作物性について、大要、次のとおり補足主張をした。
(1) 原告各画面表示(原告ソフトウェアの画面表示。原判決別紙2〜5の上段の画面表示)内の各構成要素の選択と配列、各画面表示の選択と配列、各画面表示相互の牽連性(操作手順、機能性)に、控訴人の創造的工夫が現れており、原告ソフトウェアの画面表示全体として創作性がある。
(2) コンピューターソフトウェアの設計上の制約等があってもなお、構成要素の選択と配列の各画面表示相互の関係には、何通りもの組合せがあり得るのであり、相当程度の自由度があり、相応の選択の余地がある。
 ソフトウェアは、想定されるユーザー、価格帯、使用目的、使用頻度、使用されるハードウェアのスペック等の諸事情により、機能、完成度、作り込みの度合いが多種多様である。数ある要素のうち、何を重視するかにより、ソフトウェアの出来上がりは異なり、画面表示の選択と配列にも違いが出てくる。
(3) 原告ソフトウェアのデータベースをインターネットで利用するために、表計算ソフト「エクセル」を利用し、表計算ソフト「エクセル」、データベースソフト、WEBブラウザソフト「インターネットエクスプローラー」とを相互に連動させるという機能は、控訴人代表者の独自の発想に基づいて研究開発されたものである。原告ソフトウェアの製品化に至るまで、同種のコンセプトに立ったソフトウェアの製品はなかった。
 控訴人代表者は、その発想を製品化するに当たって、画面表示の選択と配列、各画面表示相互の牽連性について、取捨選択、試行錯誤を重ねて、画面表示自体を作り込んできた。原告ソフトウェアの画面表示全体に、控訴人の思想、発想が感得し得る。「ありふれた表現方法」などと安易に評価されるものではない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所としても、原告各画面表示には、原告ソフトウェアの機能ないし操作手順を普通に表現したものにすぎないなどの理由から、創作的な表現があると認めることはできない。その理由内容の詳細は、原判決中「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」に示されているとおりである。
 当審において控訴人が強調するところは、原告ソフトウェアにおいて想定されるユーザー、価格帯、使用目的、使用頻度、使用されるハードウェアのスペック等を前提にして、各構成要素の選択と配列、各画面表示の選択と配列、各画面表示相互の牽連性を重視して、原告ソフトウェアの創作性を判断すべきであるというにあるが、著作物性を認めるに足りる創作性を肯定すべき表現内容が、原判決が上記判断において前提とした各画面の表示内容等を超えて、原告各画面表示にあるものと認めることはできない。
 よって、原告各画面表示は、いずれも創作的に表現したものということはできず、著作権法にいう著作物に該当するものということはできない。
第4 結論
 以上のとおり、控訴人の訴訟引受人に対する本訴請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 塩月秀平
 裁判官 高野輝久
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