判例全文 line
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【事件名】「パナウェーブ研究所」への名誉毀損事件
【年月日】平成17年5月13日
 東京地裁 平成15年(ワ)第27720号 損害賠償等請求
 (口頭弁論終結日 平成17年2月2日)

判決
原告 千乃正法会(以下「原告会」という。)
原告 AことB(以下「原告A」という。)
被告 株式会社文藝春秋


主文
1(1) 被告は、原告会に対し、200万円及びこれに対する平成15年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告会のその余の請求を棄却する。
2 原告Aの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、原告Aに生じた費用及び被告に生じた費用の3分の1を原告Aの負担とし、被告に生じたその余の費用及び原告会に生じた費用の5分の1を被告の負担とし、原告会に生じたその余の費用を原告会の負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実
第1 請求
1 被告は、原告会に対し、2000万円及びこれに対する平成15年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Aに対し、2000万円及びこれに対する平成15年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告らに対し、別紙謝罪広告目録1記載の謝罪広告を、同目録2記載の雑誌及び新聞に、同目録3記載の掲載条件で掲載せよ。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告会は、昭和52年12月に結成された宗教的団体であり、民事訴訟の当事者として訴え又は訴えられることができる権利能力なき社団である。
 原告会の下部組織としてパナウェーブ研究所がある。
イ 原告Aは、原告会の設立以降、原告会の会長である。
ウ 被告は、「週刊文春」等の雑誌の発行及び販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件掲載行為
ア 5月15日号
(ア) 新聞広告
a 被告は、平成15年5月7日、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞及び産経新聞の各朝刊に、「週刊文春」平成15年5月15日号(以下「5月15日号」という。)の新聞広告を掲載した。
b 上記新聞広告には、「小誌だけが知っている『白装束教団千乃正法』10の謎」との大見出しの下、次の見出しが記載され、原告Aの顔写真も掲載された。
(a) 「女教祖 Aにストリーキングの過去」(以下、この記述を「新聞広告ストリーキング」という。)
(b) 「捜査当局も注目 高圧鉄塔テロと教団の点と線」(以下、この記述を「新聞広告鉄塔」という。)
(イ) 5月15日号の記事
a 被告は、平成15年5月7日、5月15日号を発売した。
b 5月15日号の目次には、「小誌だけが知っている『白装束教団千乃正法』10の謎」との大見出しの下、次の見出し(a)及び(b)があった。
(a) 「女教祖 Aにストリーキングの過去」(以下、この記述を「目次ストリーキング」という。)
(b) 「捜査当局も注目 高圧鉄塔テロと教団の点と線」(以下、この記述を「目次鉄塔」という。)
c 5月15日号の本文26ないし31頁には、「小誌だけが知っている『白装束教団千乃正法』10の謎」との大見出しの下、次の見出し(a)及び(b)並びに別紙5月15日号記事目録@ないしH記載の記述があり(以下、同目録記載の各記述を、番号欄記載の番号により、「記述@」のように表示する。) 、原告Aの顔写真も掲載された。
(a) 「女教祖 Aにストリーキングの過去」(以下、この記述を「本文見出しストリーキング」という。)
(b) 「捜査当局も注目 高圧鉄塔テロと教団の点と線」(以下、この記述を「本文見出し鉄塔」という。以上の新聞広告から本文までのすべてを「本件掲載行為5月」という。)
イ 6月19日号
(ア) 新聞広告
a 被告は、平成15年6月12日、朝日新聞東京本社版、並びに読売新聞東京本社版及び大阪本社版の各朝刊に、「週刊文春」平成15年6月19日号(以下「6月19日号」という。)の新聞広告を掲載した。
b 上記新聞広告には「捜査進展 白装束集団 やはり四国鉄塔倒壊実行していた?!」との見出しが記載されていた(以下、この記述を「新聞広告鉄塔6月」という。)。
(イ) 6月19日号の記事
a 被告は、平成15年6月12日、6月19日号を発売した。
b 6月19日号の目次には、「捜査進展 白装束集団 やはり四国鉄塔倒壊実行していた!?」との記述があった(以下、この記述を「目次鉄塔6月」という。)。
c 6月19日号の本文38頁には、「捜査進展 白装束集団 やはり四国鉄塔倒壊実行していた!?」との見出し(以下、この見出しを「本文見出し鉄塔6月」という。)及び別紙6月19日号記事目録IないしN記載の記述があった(以下、同目録記載の各記述を、番号欄記載の番号により、「記述I」のように表示する。以上の新聞広告から本文までのすべてを「本件掲載行為6月」という。)。
(3) 名誉毀損該当性
ア 原告会に対する名誉毀損
(ア) 5月15日号
a ストリーキング、イエスの方舟等
 後記ストリーキング関係記述及びイエスの方舟等関係記述は、反社会的で破廉恥な行動を行う原告Aをその主宰者として信奉する原告会が、反社会的で破廉恥な団体であるとの印象を与え、原告Aと表裏一体の関係にある原告会の名誉も毀損する。
b 鉄塔
(a) 新聞広告鉄塔、目次鉄塔、本文見出し鉄塔及び記述DないしH(以下「鉄塔関係記述5月」という。)は、当該記事に接する一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、原告会が平成10年2月20日に香川県坂出市で起きた鉄塔倒壊事件(以下「平成10年鉄塔事件」という。)の犯人であるか、少なくとも原告会が同事件に関与した疑いが濃厚であるという事実を摘示するものであって、原告会の名誉を毀損する。
(b) 仮に上記記述が原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を摘示するにとどまるものであったとしても、そのような事実の摘示は、原告会の名誉を毀損する。
(イ) 6月19日号
a 新聞広告鉄塔6月、目次鉄塔6月、本文見出し鉄塔6月及び記述IないしN(以下「鉄塔関係記述6月」という。)は、当該記事に接する一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、原告会が平成10年鉄塔事件の犯人であるという事実を摘示するか、少なくとも原告会が同事件に関与した疑いが濃厚であるという事実を摘示するものであって、原告会の名誉を毀損する。
 特に、記述M及びNの警視庁関係者の談話は、一般読者に対し、原告会が平成10年鉄塔事件の犯人であるとの印象を強く与えるものである。
b 仮に上記記述が原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を摘示するにとどまるものであったとしても、そのような事実の摘示は、原告会の名誉を毀損する。
イ 原告Aに対する名誉毀損
(ア) 5月15日号
a ストリーキング
 新聞広告ストリーキング、目次ストリーキング、本文見出しストリーキング及び記述B(以下「ストリーキング関係記述」という。)は、原告Aが公然わいせつ罪に該当する行為を行ったとの事実を摘示するものであって、原告Aの名誉を毀損する。
b イエスの方舟等
 記述@(ファクス音)、A(ホットパンツ)及びC(イエスの方舟)(以下「イエスの方舟等関係記述」という。)は、原告Aが反社会的で非常識な行動をすることを意に介さない性格の持ち主であるとの印象を与える事実を摘示するものであって、原告Aの名誉を毀損する。
c 鉄塔
 前記鉄塔関係記述5月は、原告会と表裏一体の関係にある原告Aの名誉も毀損する。
(イ) 6月19日号
 前記鉄塔関係記述6月は、原告会と表裏一体の関係にある原告Aの名誉も毀損する。
(4) 故意又は過失
 被告は、本件掲載行為5月及び同6月が原告らに対する名誉毀損に該当することを認識していたか、少なくとも認識し得たにかかわらずこれを怠った過失がある。
(5) 損害
ア 原告会の損害
(ア) 週刊文春の発行部数は、約81万部である。
(イ) 本件掲載行為により、原告会と原告会につき反社会的な教団であるとの印象を持つに至った周辺住民との間に無用なあつれきが生じた上、原告会に500名程度所属していた会員が300名弱にまで減少し、原告会の宗教的活動に著しい支障が生じた。
(ウ) これらの事情を考慮すると、本件掲載行為により原告会の被った団体としての社会的評価の毀損という無形の損害を金銭をもって填補するには、本件掲載行為5月、同6月に係る不法行為につき、それぞれ1000万円が相当である。
イ 原告Aの損害
(ア) 本件掲載行為により、原告会の会員から崇高な指導者として尊敬を集めていた原告Aのイメージが損なわれた。被告が5月15日号の新聞広告及び本文記事に原告Aの顔写真を掲載したことは、原告Aの精神的苦痛を増幅させた。
(イ) さらに、前記ア(イ)のとおり、周辺住民との間にあつれきが生じた上、原告会の会員が減少し、原告会の宗教上の活動に著しい支障が生じた。
(ウ) これらの事情を考慮すると、本件掲載行為により原告Aの被った精神的損害を金銭をもって慰謝するには、本件掲載行為5月、同6月に係る不法行為につき、それぞれ1000万円が相当である。
(6) 謝罪広告の必要性
 原告らが被った損害を回復するためには、損害賠償だけでは不十分であり、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を掲載させる必要がある。
(7) まとめ
ア よって、原告会は、被告に対し、不法行為に基づく損害金合計2000万円及びこれに対する不法行為後である平成15年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、
イ 原告Aは、被告に対し、不法行為に基づく損害金合計2000万円及びこれに対する不法行為後である平成15年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、
ウ 原告らは、被告に対し、名誉毀損の原状回復処分として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を掲載することを求める。
2 請求原因に対する認否及び反論
(1) 当事者
 請求原因(1)は認める。
(2) 本件掲載行為
 同(2)は認める。
(3) 名誉毀損該当性
ア 原告会
(ア) 同(3)アのうち、(ア)(5月15日号)a(ストリーキング、イエスの方舟等)は否認する。
 ストリーキング、イエスの方舟等の記述は、いずれも原告Aの過去の行状についてのものであって、原告会に関するものではないから、原告会の名誉を毀損することはない。
 同b(鉄塔)(a)(犯人又は濃厚な疑い)は否認する。鉄塔関係記述5月は、平成10年鉄塔事件に関して、原告会に関心を持っているとの捜査当局の見解を紹介しながら、原告会が同事件に関与した可能性があるとの事実を摘示したにすぎない。
 同(b)(関与の可能性)は否認する。
(イ) 同(3)ア(イ)(6月19日号)a(犯人又は濃厚な疑い)は否認する。鉄塔関係記述6月も、捜索差押えという新たな事態が生じて捜査が進展したことを報じ、その結果、原告会が平成10年鉄塔事件に関与したのではないかという疑問があることを摘示したものにすぎない。記述M及びNの警視庁関係者の談話は、捜査当局者の中に記述M及びNにあるような見解を有する者が存在するという事実を摘示するものであって、一般読者に対し、原告会が平成10年鉄塔事件の犯人であるとか、関与した疑いが濃厚であるとの印象を与えるものではない。
 同b(関与の可能性)は否認する。
イ 原告A
(ア) 同(3)イのうち、(ア)(5月15日号)a(ストリーキング)は認める。
 同b(イエスの方舟等)は否認する。
 記述@(ファクス音)に類するような行為は、社会生活上、まま見られるものであり、原告Aの名誉を毀損しない。
 記述A(ホットパンツ)のファッションは、かつて若い女性によく見られたものであり、原告Aの名誉を毀損しない。
 記述C(イエスの方舟)は、具体的な事実を摘示するものではなく、原告Aの名誉を毀損しない。
 同c(鉄塔)は否認する。鉄塔関係記述5月は、原告会の行動について言及するものであって、原告Aに関するものではないから、原告Aの名誉を毀損するものではない。
(イ) 同(3)イ(6月19日号)(イ)(鉄塔6月)は否認する。
 鉄塔関係記述6月は、原告会の行動について言及するものであって、原告Aに関するものではないから、原告Aの名誉を毀損するものではない。
(4) 故意又は過失
 同(4)は否認する。
(5) 損害
ア 原告会の損害
 同(5)アのうち、(ア)(発行部数)は認め、(イ)(考慮すべき事情)は不知、(ウ)(損害)は争う。
 鉄塔関係記述5月及び同6月は、原告会が平成10年鉄塔事件を犯した可能性があることを報じたにとどまるものであったから、原告会の社会的評価に与える影響の程度は、同事件を引き起こしたとか、その嫌疑が濃厚であると報じた場合に比し、はるかに軽微である。
イ 原告Aの損害
 同イのうち、(ア)及び(イ)(考慮すべき事情)は不知、(ウ)(損害)は争う。
(6) 謝罪広告掲載の必要性
 同(6)は争う。
3 抗弁
(1) 5月15日号の真実性
ア 公共性及び公益目的
(ア) 宗教団体がどのような教義を持ち、どのような活動をしているかは、公共の利害に関する事実である。また、宗教団体の指導者がどのような人物であるかは、市民が当該宗教団体について適切な判断をするに当たって必要な情報であるから、これも公共の利害に関する事実である。ストリーキング関係記述、イエスの方舟等関係記述は、原告会を主宰する原告Aの人物像を明らかにするものであるから、公共の利害に関するものである。
 また、鉄塔関係記述5月は、宗教団体である原告会と犯罪行為との関連性に関する事実について述べるものであるから、公共の利害に関するものである。
(イ) 被告は、専ら公益を図る目的で、これらの事実を公表した。
イ 真実性
(ア) ストリーキング、イエスの方舟等の真実性
a 記述@(ファクス音)について
(a) 被告のC記者は、平成15年5月3日、原告Aの出身地である大阪府池田市の甲駅前商店街において、取材を行い(以下、この取材を「5月3日取材」という。)、ある「夫人」から、記述@摘示の事実を聴取した(乙31の3頁)。
(b) 「夫人」の供述は、原告Aを知る人物が原告Aの特異な行動を具体的に描写するものであり、5月3日取材の際に「夫人」が想像で作出できるようなものではないから、信用性が高い。
b 記述A(ホットパンツ)について
(a) C記者は、5月3日取材の際、ある「ご隠居」から、記述A摘示の事実を聴取した(乙31の4頁)。
(b) 「ご隠居」の供述は、原告Aを知る人物が原告Aの特異な行動を具体的に描写するものであり、5月3日取材の際に「ご隠居」が想像で作出できるようなものではないから、信用性が高い。
c 記述B(ストリーキング)について
(a) C記者は、5月3日取材の際、ある商店の「店主」及びその「夫人」から、記述B摘示の事実を聴取した(乙31の3頁)。
(b) 「店主」及び「夫人」の供述は、原告Aを知る人物が原告Aのストリーキングという極めて特異な行動を具体的に描写するものであり、5月3日取材の際に「店主」及び「夫人」が想像で作出できるようなものではなく、「店主」及び「夫人」以外にも原告Aのストリーキングを記憶していた者がいたから、信用性が高い。
d 記述C(イエスの方舟)について
(a) C記者は、5月3日取材の際、ある「店主」及び「ご隠居」から、記述C摘示の事実を聴取した(乙31の4頁)。
(b) 「店主」及び「ご隠居」の供述は、原告Aを知る人物が原告Aの特異な行動を具体的に描写するものであり、5月3日取材の際に「店主」及び「ご隠居」が想像で作出できるようなものではないから、信用性が高い。
e 「天国の扉」、「LR」等の検討
 さらに、記述@ないしCに摘示された事実は、原告Aが執筆した「天国の扉」、「LR」から認められる義父との関係を含め人間関係に悩み、悪魔との闘いに追われ、クリスチャンとして若い人の教導に努めていたという原告Aの生育歴、行動歴とも一致していた。
f(a) 後記原告らの主張(抗弁に対する認否及び反論(1)イ(ア)fのうち、(a)(供述者の不特定)は認める。
(b) 同(b)(原告会のイメージ)は認める。
(c) 同(c)(日時及び場所の不特定)は認める。
(d) 同(d)(パジャマ姿)は否認する。ストリーキングのように特異な行動を他の行動と混同することはあり得ないし、原告らの主張する原告Aがパジャマ姿で外出した理由も不合理である。
(e) 同(e)(他人のホットパンツ姿)は否認する。
(f) 同(f)(供述者の相違)は認める。被告が記述@及びAの供述者の立場と5月3日取材の際に供述した人物の立場とを違えて記載したのは、取材源を明らかにしないでほしいとの供述者らの要望に沿うためである。
(g) 同(g)は争う。
(イ) 鉄塔の真実性
a 真実証明の対象
 「〜の疑いがある」という形式の報道であっても、風評の報道の場合と犯罪捜査の報道の場合は、その意味合いが異なる。最高裁昭和43年1月18日決定(刑集22巻1号7頁)は、刑事事件において、この前者の場合についてのみ真実性立証の対象を風評の内容たる事実であると判示したものであり、その射程は、「犯罪行為の疑い」があるとする報道には及ばない。
 犯罪捜査に関する報道において、「捜査当局は〜ではないかと見ている」と報じた場合における真実性証明の対象は、次の理由により、「捜査機関が、報道当時、〜のような見方をしていたこと」であって、「〜が真実であること」ではないと解すべきである。
@ 犯罪ないし犯罪捜査に関する報道には、高い公益性が認められること、
A 犯罪捜査は捜査機関が行うものであり、捜査機関がある時点である見方をしているという事実は、それ自身報道価値があるニュースであること、
B 捜査機関の見方は、それ自体が「事実」であり、証拠により証明することが可能であること、
C 捜査機関の見方は、時の経過と共に変化していく可能性があるものであり、そのことは市民もよく理解していること、さらに、捜査機関の見方が変化したからといってそれ以前の見方を報じた報道機関が責任を取らなければならないとすることは不合理であり、報道の自由に反すること、
D 報道機関がある者を真犯人であることを証明し、あるいはこのように考えたことに合理性があると証明することは極めて困難であること、
E 上記の形式の記事を素直に読めば、報道されている内容は、「捜査当局は〜という可能性があるのではないかと考えている」というものであり、「〜は真実である」というものではないこと
b 原告会によるビラの配布
(a) 原告A及び原告会の会員は、平成10年3月上旬ころ、ワゴン等の車両の隊列(以下「キャラバン隊」という。)を組んで各地を移動していた。
(b) キャラバン隊は、同当時、広島県三次市近辺に滞在し、同市で「しのびよる超電磁波スカラー波」などと書かれたビラを配布した。
c 電磁波等に関する印刷物の存在
 また、原告会又はパナウェーブ研究所の発行した複数の印刷物に、電磁波、電線、鉄塔等によって、人体に重大な影響が出るとの主張が記載されていた。
d 原告会会員の逮捕歴等
(a) 5月15日号及び6月19日号の発売以前、捜査機関は、原告会又はパナウェーブ研究所の会員を被疑者とする被疑事実につき、次のとおり強制捜査を行った。
 平成3年12月 銃刀法違反の罪で逮捕
 平成9年9月 往来妨害罪で逮捕
 平成10年4月 強要未遂罪で捜索
(b) また、6月19日号の発売後、原告会の会員が傷害罪で逮捕され、その後、その会員は、暴行罪で有罪判決を受けた。
(c) さらに、平成15年5月14日、捜査機関は、電磁的公正証書不実記録及び同供用の容疑で、原告会に関連する施設につき、一斉捜索を行った。
e 平成15年鉄塔事件
 平成15年5月14日、何者かが朝日新聞社高松支局に「パナウェーブの報道を中止せよ。乙山頂電波塔のナットを外した」と書かれた書面を送付したが、その告知内容どおり、電波塔のボルトが抜かれていた。
f まとめ
 以上の事実からすると、平成10年鉄塔事件に関して、5月15日号発行当時、捜査当局が原告会に関心を持っていたこと、及び原告会が同事件に関与した可能性があったことは、真実である。
(2) 5月15日号の相当性
ア 公共性及び公益目的
 上記(1)アと同じ。
イ 相当性
(ア) ストリーキング、イエスの方舟等の相当性
a C記者は、ストリーキング及びイエスの方舟等の事実につき、前記(1)イ(ア)aないしdの各(a)(取材)のとおり、取材をした。
b そして、被告は、C記者が5月3日取材で獲得したストリーキング及びイエスの方舟等の取材結果は、いずれも前記(1)イ(ア)aないしdの各(b)(信用性)の事情から、信用性が高いと判断した。
c さらに、被告は、前記(1)イ(ア)eのとおり、原告Aの考え方や生育歴を示す「天国の扉」、「LR」を検討し、それらの資料に照らして、記述@ないしC摘示の事実が真実か否かという視点からの検討も行った。
d さらに、C記者は、5月3日取材の後、福井県丙町所在のパナウェーブ研究所へ行き、原告会の担当者に対し、取材を申し入れたが、取材を拒否された。
e 以上のとおり、被告は、取材、取材結果の検討及び反対取材の試みを行って、ストリーキング及びイエスの方舟等の事実を真実と判断したものであり、被告には、それらの事実を真実と信じるにつき相当の理由があった。
(イ) 鉄塔の相当性
a 被告は、5月15日号の編集の際、取材により、前記(1)イ(イ)b(ビラの配布)、c(電磁波等に関する印刷物)及びd(a)(強制捜査)の事実を把握し、これらを総合的に検討した。
b また、C記者は、(ア)dのとおり、原告Aに対する取材を申し込んだが、取材を拒否された。
c 以上のとおり、被告は、取材、取材結果の検討及び反対取材の試みを行って、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を真実と判断したものであるから、被告には、その事実を真実と信じるにつき相当の理由があった。
(3) 6月19日号の真実性
ア 公共性及び公益目的
(ア) 鉄塔関係記述は、原告会と犯罪行為との関連性に関する事実について述べるものであって、公共の利害に関する事実に係るものである。
(イ) 被告は、専ら公益を図る目的で、これらに関する事実を公表した。
イ 真実性
(ア) 前記(1)イ(イ)b(ビラの配布)、c(電磁波等に関する印刷物)、d(原告会の会員の逮捕歴等)、e(平成15年鉄塔事件)の事実が存在した。
(イ) さらに、平成15年鉄塔事件後、被告のD記者は、警視庁公安部の警部に取材し、「鉄塔倒壊事件等が起きた地域とパナウェーブ研究所の活動範囲は重なっているので、現在、関係があるかどうかの作業を進めている。あれだけ大規模なガサ入れをして道交法違反だけとはいかない。」との返答を得た。
(ウ) 以上の事実からすると、捜索差押えという新たな事態が生じて捜査が進展したこと、その結果、原告会が平成10年鉄塔事件に関与したのではないかとの疑問があるとの事実は、真実である。
(4) 6月19日号の相当性
ア 公共性及び公益目的
 上記(3)アと同じ。
イ 相当性
(ア) 被告は、6月19日号の編集の際、前記(1)イ(イ)b(ビラの配布)、c(電磁波等に関する印刷物)、d(a)(原告会会員の逮捕歴)、同(c)(捜索差押え)及びe(平成15年鉄塔事件)の事実を把握し、同(3)イ(イ)(公安部の話)を得ていた。
(イ) また、被告のE記者は、6月19日号の編集の際、パナウェーブ研究所のF代表に原告Aに対する取材を申し込んだが、取材を拒否された。
(ウ) 以上のとおり、被告は、取材、取材結果の検討及び反対取材の試みを行って、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を真実と判断したものであるから、被告には、それらの事実を真実と信じるにつき相当の理由があった。
4 抗弁に対する認否及び反論
(1) 5月15日号の真実性
ア 公共性及び公益目的
(ア) 抗弁(1)ア(ア)(公共性)は否認する。
(イ) 同(イ)(公益目的)は否認する。
 被告がストリーキング、イエスの方舟等及び鉄塔関係の記述を公表したのは、読者の好奇心をかき立てて、5月15日号の売上げを伸ばすためであって、公益を図るためではなかった。
イ 真実性
(ア) ストリーキング、イエスの方舟等の真実性
a a(ファクス音)のうち、(a)(取材)は不知、(b)(信用性)は否認する。
b b(ホットパンツ)のうち、(a)(取材)は不知、(b)(信用性)は否認する。
c c(ストリーキング)のうち、(a)(取材)は不知、(b)(信用性)は否認する。
d d(イエスの方舟)のうち、(a)(取材)は不知、(b)(信用性)は否認する。
e e(「天国の扉」等の検討)は不知。
f 上記aないしdの各(b)(信用性)に対する反論
(a) 本件訴訟において、被告は、供述者が誰であるかを特定しておらず、供述者の記憶の正確性等につき反対尋問を行う等の手続が執られていない。
(b) 取材の対象となった供述者は、5月3日取材の際、原告会につき気持ち悪いなどというイメージを持っていた。
(c) ストリーキングについて、それが行われた日時や場所についての特定がされておらず、具体性が欠けている。
(d) 原告Aは、過去に、サタン・ダビデの連日連夜のA殺しを企む攻撃から、カナリヤのかごを持って、天使ミカエルの霊や他の天界の善霊と共に逃げ回った際、薄色のパジャマ姿で外出したことがあった。高齢の供述者が原告Aのパジャマ姿を全裸と誤認した可能性が高い。
(e) また、ホットパンツについては、原告Aの下に通っていた女子高生の1人がホットパンツを着用していたことがあり、その女子高生と原告Aとが一緒に町中を歩くことがあったため、供述者が原告Aが着用していたものと誤認したものである。
(f) C記者のデータ原稿(乙31)によると、記述@(ファクス音)摘示の事実は、「夫人」を取材して得られた供述のはずであり、記述A(ホットパンツ)摘示の事実は、「ご隠居」を取材して得られた供述のはずであるが、記述@及びAは、いずれの事実も、町内会の役員をしていた人物の供述として紹介している。
(g) 以上より、記述@ないしCの信用性は、いずれも低い。
(イ) 鉄塔の真実性
a 同(イ)a(真実証明の対象)は争う。
b 同b(ビラの配布)は認める。
c 同c(電磁波等に関する印刷物)は認める。
d 同d(原告会会員の逮捕歴等)は認める。
e 同e(平成15年鉄塔事件)は認める。
f 同f(まとめ)は否認する。
(2) 5月15日号の相当性
ア 公共性及び公益目的
 同(2)アの認否は、前記(1)アと同じ。
イ 相当性
(ア) ストリーキング、イエスの方舟等の相当性
a 同イ(ア)a(取材)は不知。
b 同イ(ア)b(信用性判断)は不知。前記(1)イ(ア)f(b)(偏見)、(c)(具体性の欠如)の事実から、信用性が低いものと判断するのが普通である。
c 同c(「天国の扉」等の検討)は不知。
d 同d(取材拒否)は否認する。仮に取材申込みが行われたとしても、ストリーキング等についての取材であることを明示した取材申込みではないし、書面の郵送等による確認を行うこともできたものである。
e 同e(相当性)は否認する。
(イ) 鉄塔の相当性
a 同(イ)a(把握内容)は不知。
b 同b(取材拒否)の認否は、前記(ア)dと同じ。
c 同c(相当性)は否認する。
(3) 6月19日号の真実性
ア 公共性及び公益目的
(ア) 同(3)ア(ア)(公共性)は否認する。
(イ) 同(イ)(公益目的)は否認する。
 被告が鉄塔関係の記述を公表したのは、読者の好奇心をかき立てて、6月19日号の売上げを伸ばすためであって、公益を図るためではなかった。
イ 真実性
(ア) 同イ(ア)(関与の事実)の認否は、前記(1)イ(イ)b〜eと同じ。 
(イ) 同(イ)(公安部の話)は不知。
(ウ) 同(ウ)(真実性)は否認する。
 抗弁(1)イ(イ)b(ビラの配布)、c(電磁波等に関する印刷物)、d(原告会会員の逮捕歴等)、e(平成15年鉄塔事件)の事実が原告会と平成10年鉄塔事件との結びつきを推認させる力は極めて弱く、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚であるという事実はもちろん、関与した可能性があるとの事実が真実であると認めることはできない。
(4) 6月19日号の相当性
ア 公共性及び公益目的
 同(4)アの認否は、前記(3)アと同じ。
イ 相当性
(ア) 同イ(ア)(把握内容)は不知。
(イ) 同(イ)(取材拒否)は否認する。仮に取材申込みが行われたとしても、平成10年鉄塔事件についての取材であることを明示した取材申込みではないし、書面の郵送等による確認を行うこともできたものである。
(ウ) 同(ウ)(相当性)は否認する。
 被告は、平成10年鉄塔事件の犯人像について緻密な分析も行わず、推認させる力の弱いいくつかの断片的な事実から原告会が犯人であると判断しているものであるから、原告会が犯人であると信じたことに相当の理由があったとは到底いえない。
 すなわち、原告会のビラ配布は、電磁波の危険性とその規制のための市民運動を訴えるものであり、送電施設の破壊といった非合法活動の主張を何ら含むものではない。
 また、広島県三次市は、香川県坂出市とは直線距離でも120km離れ、その間に中国山地を挟んでいるものである。
 原告会会員の逮捕歴等も、何ら平成10年鉄塔事件に結びつくような性格のものではない。
 平成15年鉄塔事件における原告会を名乗った脅迫文も、便乗犯の可能性が高いものである。

理由
1 請求原因について
(1) 当事者
ア 原告会
 証拠(証人Gの証言(甲20を含む。以下「証人G」という。))及び弁論の全趣旨によれば、原告会は民事訴訟の当事者として訴え、又は訴えられることのできる社団であると認められ、請求原因(1)アの事実のうち、その余の事実は、当事者間に争いがない。
イ 原告A
 請求原因(1)イは、当事者間に争いがない。
ウ 被告
 請求原因(1)ウは、当事者間に争いがない。
(2) 本件掲載行為について
 請求原因(2)は、当事者間に争いがない。
(3) 名誉毀損該当性について
ア ストリーキング
(ア) ストリーキング関係記述が原告Aの名誉を毀損することは、当事者間に争いがない。
(イ) 原告会は、ストリーキング関係記述は原告会の名誉も毀損する旨主張するが、ストリーキングの事実は原告Aが原告会を結成する前に行われた個人的な行為であるから、ストリーキング関係記述が原告会の名誉も毀損するものと認めることはできない。
イ イエスの方舟等
(ア) 記述@(ファクス音)
a 記述@は、原告Aが非常識な行動を執り、社会性のない性格を有するとの印象を与えるから、原告Aの名誉を毀損するものと認められる。
b 原告会は、記述@は原告会の名誉も毀損する旨主張するが、ファクス音の事実は原告Aが原告会を結成する前に行われた個人的な行為であるから、記述@が原告会の名誉も毀損するものと認めることはできない。
(イ) 記述A(ホットパンツ)
a 原告Aは、記述Aは原告Aの名誉を毀損する旨主張するが、ホットパンツはかつて若い女性がよく身に付けていた服装の1つであり(裁判所に顕著な事実)、当時女性の服装についての社会の目が厳しかったことを考慮しても、ホットパンツ着用の事実が原告Aの社会的評価を低下せしめるものとは認められないから、記述Aは名誉毀損行為に該当しない。
b したがって、記述Aは、原告会との関係においても、名誉毀損行為に該当しない。
(ウ) 記述C(イエスの方舟)
a 記述Cが、宗教活動を開始した原告Aが無理な布教活動を行い、信者の親との間で問題を起こしたことを意味するのであれば、原告Aの名誉を毀損する行為であると考えられる。しかしながら、イエスの方舟事件は、信者が自分の意思で、聖書研究を中心とする信仰グループを主宰するおっちゃんことH氏の下に集まっていたものであり、無理な布教活動が行われた事件とは理解されていないところ(裁判所に顕著な事実)、記述Cは、「イエスの方舟みたいな騒ぎ」と簡単に記述するにとどまり、それ以上に無理な布教活動が行われたことを意味する具体的な記述を含まないから、名誉毀損行為には該当しない。
b したがって、記述Cは、原告会との関係においても、名誉毀損行為に該当しない。
ウ 鉄塔関係記述5月
(ア)a 鉄塔関係記述5月は、いずれも原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を摘示するものであって、原告会の名誉を毀損する。
b 原告会は、鉄塔関係記述5月は、原告会が平成10年鉄塔事件の犯人であるという事実又は平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚であるという事実を摘示するものである旨主張する。
 確かに、「捜査当局も注目 高圧鉄塔テロと教団の点と線」中の「点と線」の部分はやや高い嫌疑と受け取られる余地がないではないが、新聞広告や見出しには、簡潔に本文の内容を表現するという機能上、詳細で正確な説明ができないという制約がある上、新聞広告や見出しは、読者の興味を惹き付ける機能を果たすことから、ある程度誇張された表現が用いられているものと一般的に認識されていると考えられる。そして、鉄塔関係記述5月を全体的に考察しても、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実以上の事実を摘示するものとみることはできない。
 よって、この点の原告会の主張は採用することができない。
(イ) 原告Aは、鉄塔関係記述5月は原告会と表裏一体の関係にある原告Aの名誉も毀損する旨主張する。
 鉄塔関係記述5月が、原告会関係者による平成10年鉄塔事件の実行の可能性を指摘するだけでなく、その主宰者である原告Aの共謀、教唆等を含むものと認められる場合は、原告Aに対する関係でも名誉毀損を構成すると考えられる。
 しかしながら、5月15日号の本文中には、原告Aが平成10年鉄塔事件に関与したことを示唆する記載はなく、かえって「このとき、若手の研究者や医者を中心に、『科学班』ができました。それまでの精神世界の話を離れ、共産ゲリラによるスカラー波攻撃といった部分が、活動の中心になっていったんです」 元夫は、Aはそうした変質に「飲み込まれていった」のだと言(う)」(甲1の3の28頁5段目)、「・・・渦巻きのシールは当時からあったけど、車には貼ってませんでしたね。壁には電磁波除けに木綿の布を垂らしていたけど、白なんて決まってなかったですよ。白装束も着てなかった。そうした指示はA先生ではなく、科学班から出たものだったと思います」(同29頁1段目)と原告Aの指示がなくても活動を行う者の存在が記載されているものであり、これらの記述の存在も併せ考えると、鉄塔関係記述5月が原告Aの共謀、教唆等も摘示しているものと認めることはできない。
 よって、原告Aの上記主張は理由がない。
エ 鉄塔関係記述6月
(ア)a 鉄塔関係記述6月は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚になったという事実を摘示するものであって、原告会の名誉を毀損する。
b 被告は、鉄塔関係記述6月は、捜索差押えという新たな事態が生じて捜査が進展したことを報じ、その結果、原告会が平成10年鉄塔事件に関与したのではないかという疑問があることを摘示したものにすぎない旨主張する。
 しかしながら、引用する捜査当局の話も、「「四国の鉄塔事件で、近く立件の見通し」との情報も流れる。」(記述I)、「「鉄塔のボルトを抜く事件は九○年代半ばから多発しているが、山口や広島、兵庫など西日本に集中していて、パナウェーブの活動範囲と重なる。現在、彼らの移動の軌跡と事件の発生日時を照合する作業を進めています。・・・」(警視庁関係者)」(記述M)、「「・・・あれだけ大規模なガサ入れを行なって、道交法違反だけとはいかない」(警視庁関係者) 身柄拘束の対象まで具体的に言及する関係者もおり、この集団はまだまだ、「過去の事件」とはいえない。」(記述N)というものであり、その内容は、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚になったという事実と符合するものであり、他に引用する捜索差押え(記述I)も、それが電磁的公正証書不実記録及び同供用の被疑事実によるものであるとの断り書きもなく、「白いライトバン」(記述K)についても、それが香川ナンバーかどうかに触れず(乙30)、平成15年鉄塔事件(記述L)についても、便乗犯であるとの見方もあるのにそれについては触れていないものであるから(甲14)、単に可能性又は疑いを指摘したものを超え、疑いが濃厚になったことを摘示しているものとみるべきである。
 新聞広告鉄塔6月、目次鉄塔6月及び本文見出し鉄塔6月も、「捜査進展 白装束集団 やはり四国鉄塔倒壊実行していた!?」等というものであって、上記の内容に合致するものであるから、被告の上記主張は、採用することができない。
c 原告会は、鉄塔関係記述6月は、原告会が平成10年鉄塔事件の犯人であるという事実を摘示するものである旨主張するが、記述IないしNは、捜査関係者の話である記述M及びNを含めて全体として見ても、原告会が犯人であるとまで摘示しているものと認めることはできないし、本文見出し等も、「捜査進展」と記載され、末尾も「!?」又は「?!」で終わっていることからすると、同様に原告会が犯人であるとまで摘示しているものと認めることはできない。よって、原告会の上記主張は、理由がない。
(イ) 原告Aは、鉄塔関係記述6月は原告会と表裏一体の関係にある原告Aの名誉も毀損する旨主張する。
 鉄塔関係記述6月が、原告会関係者による平成10年鉄塔事件の実行の可能性を指摘するだけでなく、その主宰者である原告Aの共謀、教唆等を含むものと認められる場合は、原告Aに対する関係でも名誉毀損を構成すると考えられる。
 しかしながら、6月19日号には、原告Aが平成10年鉄塔事件に関与したことを示唆する記載はない(甲2の3)。しかも、6月19日号は、5月15日号の続報的なものと認められるところ(甲2の3)、5月15日号にも、原告Aが平成10年鉄塔事件に関与したことを示唆する記載はなく、かえって、原告Aの指示がなくても活動を行う者の存在が記載されているものである。
 よって、鉄塔関係記述6月が原告Aの共謀、教唆等をも摘示しているものと認めることはできないから、原告Aの上記主張は理由がない。
2 抗弁について
(1) ストリーキング及び記述@(ファクス音)について
ア 公共性及び公益目的
(ア) 宗教的団体を含む各種団体がその指導者の下、狂信的な行動に走れば、公共の秩序を害することとなるから、当該宗教的団体がどのような教義を持ち、どのような活動を行っているかは、公共の利害に関する事実であり、その指導者がどのような人物であるかも、市民が当該宗教的団体について適切な判断をするに当たって必要な情報であるから、公共の利害に関する事実であると考えられる。ストリーキング関係記述及び記述@(ファクス音)は、宗教的団体である原告会を主宰する原告Aが精神面での問題又は狂信的な考えを有し、それに基づく行動を行うおそれがあるか等を判断するために必要な情報であるから、公共の利害に関するものである。
(イ) 証拠(証人Eの証言(乙9を含む。以下「証人E」という。))及び弁論の全趣旨によれば、被告がストリーキング関係記述及び記述@(ファクス音)を公表した目的は、専ら公益を図ることにあったことが認められる。
(ウ) 上記認定に反する原告Aの主張は、採用することができない。
イ 真実性
(ア) ストリーキング
a 証拠(乙31、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、C記者の5月3日取材に対し、甲駅前商店街のある「夫人」は、「あぁ〜Iさんか。あそこの娘さんな。あー変わった子やったなぁ。」という印象を述べ、次いで「裸足で飛び出したり、それからなんや、アメリカで流行った、スト・・・ナンとか。」と言ったところ、C記者から「ストリーキングですか」と聞かれて、「そう、“ストリーキング”やったりしてな。」と言葉を思い出し、さらに、「違う違う、裸足じゃなくて何も着ないで。」と述べたこと、また、取材に同席した店主(主人)も「そうそう、お母さんがその後を“さーッ”と追いかけてな。捕まえたら“痛タタタタっ!!”って騒ぎになったなぁ」とストリーキングの状況を述べたことが認められる。
 この事実によれば、C記者が取材した「夫人」及び「店主」は、原告Aが甲駅前商店街に住んでいた当時の近所の人たちであり、「夫人」及び「店主」は、C記者の知らなかったストリーキングの事実を具体的に述べているものであり、さらに、ストリーキングという行動は、極めて特異な行動であり、昔の出来事であったとしても、「夫人」及び「店主」の記憶に鮮明に残っていたとしても不思議ではないから、原告Aのストリーキングについての「夫人」及び「店主」の話は、本訴において反対尋問を経ていない伝聞証拠であることなどを考慮しても、十分信用することができるものと認められる。
b 原告Aは、過去に、サタン・ダビデの連日連夜のA殺しを企む攻撃から、カナリヤのかごを持って、天使ミカエルの霊や他の天界の善霊と共に逃げ回った際、薄色のパジャマ姿で外出したことがあったところ、高齢の供述者が原告Aのパジャマ姿を全裸と誤認した可能性が高い旨主張する。
 しかしながら、供述者が高齢である点については、その目撃した時期が原告Aが30代後半のころ(甲1の3の27頁下段)であるとすれば、昭和50年以前の現在から30年前の出来事であり、「夫人」及び「店主」がそのころ高齢であったとは到底いえない。
 さらに、サタン・ダビデとの闘いがあったことを原告Aが述べている点(この点は、原告Aが著したJI平成8年9・10月号(乙20)の10頁にも記載されている。)は、かえって、ストリーキングという通常の精神状態では行い得ない行動を原告が採ったことを裏付ける面があるといわなければならない。
 よって、原告Aの主張は、採用することができない。
c よって、ストリーキング関係記述の摘示する事実は、真実であると認められる。
(イ) ファクス音
a 証拠(乙31、証人E)及び弁論の全趣旨によれば、C記者の5月3日取材に対し、甲駅前商店街のある「夫人」は、「あそこの娘さん、頭は良かった思いますけど、少し変わってたで。人嫌いでねぇ。洗濯物干してるときにお互い顔合わしたりしても、なぁんにも挨拶なしやしね。……お父さんがウチに予約入れてその時刻に遅れたとき、電話入れるでしょ?そのころお父さんの具合も悪かったりしてあまり動けなかったんやけど、そしたら娘さんが電話に出て“ウチに電話してこないで!”みたいなことを、うわーッと言うんです。一向にお父さんに取り次いでくれなくてねぇ。それで、その後にこんどは“ピィーッ”とか“ガーッ”っていう、ファックスで流れるような音を延々とやり返してきてね。エラい目にあったことがありました。」と述べたことが認められる。
 この事実によれば、C記者が取材した「夫人」は、原告Aが甲駅前商店街に住んでいた当時の隣人であり、「夫人」は、C記者の知らなかったファクス音の事実を具体的に述べているものであり、ファクス音の事実は、特異な事実であり、「夫人」の記憶に鮮明に残っていたとしても不思議ではないから、原告Aのファクス音についての「夫人」の話は、本訴において反対尋問を経ていない伝聞証拠であることなどを考慮しても、十分信用することができるものと認められる。
b しかも、原告Aは、J氏と知り合う前には、義父との関係を含め、対人関係に多くの問題があり、ゆがんだ性格と感じた人には真っ向から非難を浴びせるなどの行動を執ったことがあることを認めているところ(原告A著「天国の扉」(乙21)18頁等)、この事実も、上記認定を裏付けるものである。
c 原告Aは、C記者のデータ原稿(乙31)によると、記述@(ファクス音)摘示の事実は、「夫人」を取材して得られた供述のはずであるのに、5月15日号の本文では、町内会の役員をしていた人物の供述として紹介していることは、記述@の信用性が低いことを示すものである旨主張するが、証拠(証人E)及び弁論の全趣旨によれば、それは、情報提供者から取材源が明らかにならないようにしてほしいと頼まれ、それに沿うためであったことが認められるから、上記の供述者の相違から、記述@が信用性がないものと認めることはできない。
d よって、記述@の摘示する事実は、真実であると認められる。
(2) 鉄塔関係記述5月について
ア 公共性及び公益目的
(ア) 鉄塔関係記述5月は、原告会と平成10年鉄塔事件という犯罪行為との関連性に関する事実を記述するものであるから、公共の利害に関するものと認められる。
(イ) 証拠(証人E)及び弁論の全趣旨によれば、被告が鉄塔関係記述5月を公表した目的は、原告会が平成10年鉄塔事件を実行した可能性を指摘するものにとどまるものであることを考慮しても、専ら公益を図ることにあったことが認められる。
(ウ) 上記認定に反する原告会の主張は、採用することができない。
イ 真実性
(ア) 真実証明の対象
 前記1(3)ウのとおり、鉄塔関係記述5月は、いずれも原告会が平成10年鉄塔事件に関与した可能性があるという事実を摘示するものであるが、真実性の証明ありとして鉄塔関係記述5月が違法性を欠くためには、原告会が同事件を実行した可能性があることを立証しただけでは足りず、被告は、原告会が平成10年鉄塔事件を実行したことを立証すべきである。そのように解すべき理由は、次のとおりである。
a ある人がある犯罪行為を犯した可能性があると公然と摘示すること自体、その人の社会的名誉を毀損するものといわなければならない。さらに、犯罪行為を犯した可能性があるとの事実摘示は、多くの場合、人の口から口へ伝えられる過程で、可能性を超えてその人が犯罪を犯したものと受け取られ、犯罪を犯したと公然と事実摘示された場合に比肩すべき被害をもたらすおそれが大きいものといわなければならない。
b 犯罪の噂があるとの事実摘示と犯罪を犯した可能性があるとの事実摘示は、実際上その区別が困難であるといわなければならない。犯罪を犯した可能性があるとの事実摘示の場合は、可能性の立証で足りるとすることは、可能性に名を借りて、噂があるとの事実摘示による名誉毀損に手を貸すことにつながりかねない。
c さらに、可能性として事実摘示した場合は、真実性の立証の対象を可能性で足りるとすることは、法秩序全体の構造に反する結果となる。すなわち、民事不法行為法においては、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつその目的が専ら公益を図る目的にあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは、上記行為には違法性がなく、仮に上記行為が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるとの構造を採用しているところ、可能性の立証で足りるとすることは、少なくとも相当性の証明を要求し、それに達しない情報は名誉毀損となるとしている名誉毀損法の前記全体構造を崩す結果につながりかねない。
 また、犯罪の端緒の発見につながる告訴等が早い段階から捜査機関に提出されることは、望ましいことであるから、犯罪の可能性があると信じ、可能性があると述べてされた告訴、告発は、虚偽であることにつき未必的認識がなく、虚偽告訴等罪を規定する刑法172条には該当しないものと解される。
 これに対し、同じ情報が可能性にとどまる段階で広く世間に知れ渡ることが望ましいかは、別問題である。可能性にとどまる事実から世間に広まった疑いを消し去ることは容易ではなく、このような事態は、被害者の立場からは、到底容認することができることではない。
d 伝えられる情報の内容、例えば、国会議員の職務上の犯罪の疑い等の事実については、もっと早い段階で世間の目に触れることが民主社会の維持のために望ましい場合もあり得る。そのような調整は、犯罪に関する事実摘示であっても、その相手方が公務員か、公的存在か、私人か、職務上の犯罪か否か等によって、相当の理由の判断において必要とされる立証の程度を調整する方法により達成することができるものと解される。
(イ) 真実性の証明の有無
a 各項掲記の証拠によれば、次の事実が認められる。
(a) キャラバン隊の活動範囲
 原告A及び原告会会員は、平成10年3月上旬ころ、キャラバン隊を組んで、山陰、山陽地方を移動していた。
 (争いのない事実、証人G)
 記述Gには、丁インター入り口料金所での目撃情報が記述されているが、その内容自体、瀬戸大橋を渡ったかどうか分からないというものである。
 記述Kには、白いライトバンの目撃情報やUターンして走り去る不審車両について記述されているが、それが原告会関係者であることを示すものはない。
(b) 原告会によるビラの配布
 原告会は、上記(a)のキャラバンの際、「高圧送電線からの電磁波が体をむしばんでいる!!」や「しのびよる超電磁波スカラー波」といった見出しのビラを「市民生活を考える会」や「地球の未来を考える会」等の名義で作成し、広島県三次市近辺で配布した。原告会が配布したビラには、鉄塔及び送電線が描かれていた。
(争いのない事実、甲11の1・2、乙1、証人G)
(c) 電磁波等に関する印刷物の存在
 パナウェーブ研究所は、平成13年3月に発表した「New Century Report」等(乙2、4、6)で、地球温暖化の原因が「電柱に近接して設けられた約100万セットのループコイル型電磁波発生器」にあると紹介し、原告会は、平成15年1月に発行された原告会の機関誌「LR」(乙8)で、送電線関連の違法工事を問題視した記事を掲載した。
(争いのない事実、乙2、4、6、8)
(d) 原告会会員の逮捕歴等
@ 5月15日号及び6月19日号の発売以前、捜査機関は、原告会又はパナウェーブ研究所の会員を被疑者とする被疑事実につき、次のとおり強制捜査を行った。
 平成3年12月 銃刀法違反の罪で逮捕
 平成9年9月 往来妨害罪で逮捕
 平成10年4月 強要未遂罪で捜索
A また、6月19日号の発売後、原告会の会員が傷害罪で逮捕され、その後、その会員は、暴行罪で有罪判決を受けた。
B さらに、平成15年5月14日、捜査機関は、電磁的公正証書不実記録及び同供用の容疑で、原告会に関連する施設につき、一斉捜索を行った。
(以上、争いのない事実)
C しかしながら、上記@及びAの犯罪が平成10年鉄塔事件につながる性質のものであることの立証はない。
(e) 平成15年鉄塔事件
@ 平成15年5月14日、何者かが朝日新聞社高松支局に「パナウェーブの報道を中止せよ。乙山頂電波塔のナットを外した」と書かれた書面を送付したが、その告知内容どおり、電波塔のボルトが抜かれていた。
(争いのない事実)
A この事実については、地元の四国新聞は、平成15年5月18日付け紙面で、捜査当局が強制捜査に乗り出す時期に、わざわざ原告会が脅迫状を送ってボルトを抜くとは常識的に考えにくい、平成10年鉄塔事件と白装束団体の騒動を利用した愉快犯の仕業だろうとの見方を犯罪心理学者の分析を引用して紹介している。
(甲14)
(f) 反対取材
 C記者は、5月3日取材の後、福井県丙町所在のパナウェーブ研究所へ行き、原告会の担当者に対し、取材を申し入れたが、取材を拒否された。
 E記者は、6月19日号の編集の際、パナウェーブ研究所のF代表に原告Aに対する取材を申し込んだが、取材を拒否された。
 しかし、いずれの取材申込みも、取材事項を具体的に指摘し、原告らの言い分を聞きたいことを明示したものではなかった。
(証人E、弁論の全趣旨)
(g) 捜査状況
@ 警視庁公安部は、平成15年6月25日、市民の不安感を解消するため、原告会及びパナウェーブ研究所につき、「共産主義への被害者意識は強いが、他に危害を加える危険性はみられず、強引な会費集めの形跡もない」との捜査結果を公表し、捜査を終結した。
(甲10の2)
A 記述M及びNには、捜査当局がパナウェーブ研究所の移動の軌跡と発生日時を照合する作業を進めている旨の話や道交法違反だけとはいかない旨の話が記述されているが、前者は、単に地道な捜査を積み重ねている旨の話にすぎないし、後者も、具体的根拠を伴わない単なる捜査関係者の意気込みを伝える話にすぎないものである。
B 証人Eは、被告のD記者が警視庁関係者に対する取材で、捜査当局において、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚であるという見解があることを把握した旨証言するが、それがどのような根拠に基づくものであるのかについては何ら説明がないから、上記Aで指摘した単なる捜査関係者の意気込みを超えるものであることを認めるに足りる証拠はないといわなければならない。
b 以上のとおり、原告会が平成10年鉄塔事件を実行したことを認めるに足りる証拠はないといわなければならないから、真実性をいう被告の主張は、理由がない。
ウ 相当性
 原告会が単なる私的団体ではなく、宗教的団体として活動する公的存在であること及び摘示された事実が犯罪に関する事実であることを考慮しても、前記イ(イ)aの事実(ただし、5月15日号の発行前に存在しなかった(d)A及びB、(e)、(f)のうちE記者の反対取材拒否、(g)の事実を除く。)から、原告会が平成10年鉄塔事件を実行したと信ずるに足りる相当な理由があったものと認めることはできない。
エ まとめ
 以上によれば、5月15日号のうち鉄塔関係記述5月の公表は、原告会に対する名誉毀損に当たり、少なくとも被告担当者には過失があったものと認めるべきであるから、それによって原告会に生じた損害を賠償する義務がある。
(3) 鉄塔関係記述6月について
ア 公共性及び公益目的
(ア) 鉄塔関係記述6月は、原告会と平成10年鉄塔事件という犯罪行為との関連性に関する事実を記述するものであるから、公共の利害に関するものと認められる。
(イ) 証拠(証人E)及び弁論の全趣旨によれば、被告が鉄塔関係記述6月を公表した目的は、原告会が平成10年鉄塔事件を実行した疑いが濃厚になったことを指摘するものにとどまるものであることを考慮しても、専ら公益を図ることにあったことが認められる。
(ウ) 上記認定に反する原告会の主張は、採用することができない。
イ 真実性
 前記(2)イ(イ)で説示したとおり、原告会が平成10年鉄塔事件を実行したことを認めるに足りる証拠はないといわなければならないから、真実性をいう被告の主張は、理由がない。
ウ 相当性
 平成15年鉄塔事件につき愉快犯の可能性が大きいことは、前記(2)イ(イ)a(e)Aのとおりであり、D記者の警視庁関係者の取材なるものも、捜査担当者の単なる意気込みを超えるものとの立証がないことは、前記(2)イ(イ)a(g)Bのとおりであり、それをそのまま信じたことを相当性の根拠とすることは到底できないから、原告会が単なる私的団体ではなく、宗教的団体として活動する公的存在であること及び摘示された事実が犯罪に関する事実であることを考慮しても、前記(2)イ(イ)aの事実(ただし、6月19日号の発行前に存在しなかった(d)A、(g)@の事実を除く。)から、原告会が平成10年鉄塔事件を実行したと信ずるに足りる相当な理由があったものと認めることはできない。
エ まとめ
 以上によれば、6月19日号における鉄塔関係記述6月の公表は、原告会に対する名誉毀損に当たり、少なくとも被告担当者には過失があったものと認めるべきであるから、それによって原告会に生じた損害を賠償する義務がある。
3 損害
(1) 損害額の算定に当たり考慮すべき事情
ア 週刊文春の発行部数が約81万部であることは、当事者間に争いがない。
イ 証拠(証人G)及び弁論の全趣旨によれば、本件掲載行為により原告会が反社会的な教団であるとの疑いを持った周辺住民と原告会との間で、あつれきの度合いが増したことが認められる。
ウ 原告会は、本件掲載行為により、原告会に500名程度所属していた会員が300名弱にまで減少し、原告会の宗教的活動に著しい支障が生じた旨主張するが、証拠(乙22、24〜29、証人G)によれば、その原因の相当部分は、これまでの原告Aの多くの予言がはずれたこと、及び原告Aの言動がガンの進行のためか被害妄想の程度を増し、多くの信者やその一族郎党につき消滅宣告をするなどしたことにあることが認められる。
エ そして、前記2(2)イ(イ)(g)@のとおり、警視庁公安部は、原告会のことがマスコミで取り上げられるようになってからさほど日時の経過していない平成15年6月25日段階で、市民の不安感を解消するため、原告会及びパナウェーブ研究所につき、他に危害を加える危険性は認められない旨を公表し、捜査を終結しているものである。
オ さらに、被告の行為は、前記認定のとおり、原告会が平成10年鉄塔事件を実行した可能性を摘示するか(鉄塔関係記述5月)、続報的に原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚になったことを摘示するにとどまっていたものである(鉄塔関係記述6月)。
(2) 損害額
 これらの諸事情を考慮すると、本件掲載行為により原告会の被った社会的評価の毀損という無形の損害を金銭をもって填補するには、鉄塔関係記述5月、同6月に係る名誉毀損行為につき、それぞれ100万円、合計200万円が相当である。
4 謝罪広告掲載の必要性
(1) 前記認定のとおり、本件掲載行為は、原告会が平成10年鉄塔事件を実行した可能性を摘示するか(鉄塔関係記述5月)、原告会が平成10年鉄塔事件に関与した疑いが濃厚になったことを摘示するにとどまるものであった上(鉄塔関係記述6月)、警視庁公安部は、平成15年6月25日、市民の不安感を解消するため、原告会及びパナウェーブ研究所につき、他に危害を加える危険性は認められない旨を公表して、捜査を終結しているものである。
 したがって、原状回復処分として謝罪広告を掲載する必要性があるとまでは認められないから、謝罪広告の掲載を求める原告会の請求は、理由がない。
(2) なお、本件掲載行為は、前記のとおり、原告Aに対する関係では、名誉毀損を構成しないから、謝罪広告の掲載を求める原告Aの請求は、理由がない。
5 結論
 以上の次第で、原告会の請求は、主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、原告Aの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 杉浦正樹
 裁判官 高嶋卓


(別紙) 謝罪広告目録
1 謝罪広告
 謝罪広告
 当社発行の「週刊文春」平成15年5月15日号及び同6月19日号において、A氏の主宰する千乃正法会が、平成10年2月20日に香川県坂出市で発生した鉄塔倒壊事件の犯人であるとの印象を読者に与える記事を掲載しました。また、前記5月15日号では、A氏がストリーキングの前歴があるとの記事を掲載しました。しかし、これらはいずれも事実に反するものでした。
 これらにより、千乃正法会及びA氏の名誉を著しく傷つけ、多大のご迷惑をお掛けしました。ここに深くお詫び申し上げます。
 平成  年  月  日
  株式会社 文藝春秋
  代表者代表取締役 K
 千乃正法会 御中
 A 殿
2 雑誌及び新聞
(1) 被告発行に係る雑誌「週刊文春」
(2) 株式会社朝日新聞社発行に係る新聞「朝日新聞」の朝刊全国版社会面
(3) 株式会社読売新聞社発行に係る新聞「読売新聞」の朝刊全国版社会面
(4) 株式会社毎日新聞社発行に係る新聞「毎日新聞」の朝刊全国版社会面
(5) 株式会社日本経済新聞社発行に係る新聞「日本経済新聞」の朝刊全国版社会面
(6) 株式会社産経新聞社発行に係る新聞「産経新聞」の朝刊全国版社会面
3 掲載条件
(1) 上記2(1)の雑誌について
ア 活版1頁(217ミリメートル×145ミリメートル)
イ 字格
(ア) 見出し 62級活字、
(イ) 本文 20級活字、
(ウ) 氏名宛名 24級活字
ウ 回数 1回
(2) 上記2(2)ないし(6)の新聞について
ア 2段抜き、
イ 幅15センチメートル、
ウ 字格 5号活字、
エ 回数 1回
 以上

(別紙) 5月15日号記事目録 略
(別紙) 6月19日号記事目録 略
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