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【事件名】「ポロ」の商標登録事件Q(2)
【年月日】平成17年4月13日
 知財高裁 平成17年(行ケ)第10230号 審決取消請求事件
 (東京高裁平成16年(行ケ)第487号)
 (平成17年2月28日 口頭弁論終結)

判決
原告 ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ
訴訟代理人弁護士 松尾眞
同 兼松由理子
同 泰田啓太
同 向宣明
同 三谷革司
同 高田祐史
同 大堀徳人
同 森口倫
訴訟代理人弁理士 曾我道照
同 曾我道治
同 岡田稔
被告 ポログランドジャパン株式会社
訴訟代理人弁理士 梅村莞爾


主文
1 特許庁が無効2003−35336号事件について平成16年6月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、別紙商標目録記載1の構成からなる商標登録第3369985号商標(平成6年2月4日登録出願、同10年8月14日設定登録、指定商品第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児用おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)、げた、草履類、運動用特殊衣服、運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 原告は、本件商標が商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるとして、本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを無効2003−35336号事件として審理した結果、平成16年6月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月9日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりであり、要するに、本件商標は、猿が、必ずしも特定し得ない動物に乗り右腕を後上方にのばしている図形よりなるものであり、他方、別紙商標目録記載2の商標登録第2691725号商標(以下「引用商標」という。)は、ポロ競技者が疾駆する馬に乗りマレットを後上方に振り上げている図形よりなるものであるところ、両図形は、その表現方法、構図、描かれている対象において顕著な差異を有しているものであるから、全体として視覚的印象、記憶が全く別異のものとして看取されるものというべきであり、引用商標の周知著名性、ワンポイントマークとして使用される等の取引の実情等を考慮しても、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者、需要者が直ちに引用商標を連想、想起するものとはいえず、その商品が原告又は原告と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれはないから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものではない、とするものである。
第3 原告主張の取消事由の要点
 審決は、本件商標と引用商標との類似性及び取引の実情についての判断を誤り、本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとの誤った判断をしたものであるから、取り消されるべきである。
1 本件商標と引用商標の類似性についての判断の誤り
 審決は、本件商標と引用商標は「全体として、視覚的印象・記憶が全く別異のものとして看取されるもの」と判断しているが、これは次のとおり誤った判断である。
(1) 本件商標と引用商標の細部を対比すると、本件商標における正体不明の動物の右前脚の曲がり具合、その他の足の形状・位置・長さ、尻尾の長さ、頭部の向き等は、引用商標における馬のそれと寸分違わず一致している。
 本件商標における正体不明の動物の腹部の下方向への出っ張りの部分は、引用商標におけるポロ競技者の左足の先端部分とそのシルエットにおいて酷似している。
 また、本件商標における猿とおぼしき動物の上体の傾斜角度は、引用商標のポロ競技者の上体の傾斜角度と一致している。
 さらに、本件商標における猿とおぼしき動物の右腕は、後上方45度に振り上げている点に加えて、右腕が不自然な位置から伸びており、かつ、左腕に比べて不自然に長い点、その右手先端の形状が伸ばした腕に対して直角に広がっている点などに特徴が見い出せるが、それらの特徴は、引用商標におけるポロ競技者のマレットの振り上げ方やその形状と酷似している。
(2) 引用商標は、ポロ競技者が馬上にある姿の躍動感を強調するため、左斜め前方約45度からの視点で、馬脚の形状・位置・長さ・曲がり具合及びポロ競技者の形状・傾斜角度、マレットの振り上げ角度・長さがそれぞれ絶妙のバランスで配置された印象深い図形からなる商標であり、かかる全体的構図にも特徴がある。
 一方、本件商標は、確かに猿とおぼしき動物と白毛の正体不明の動物の組み合わせではあるが、それぞれの動物の身体の構成部位の長さや形状は、上記(1)のとおり本件商標と酷似しており、これらの配置等の全体的構図についても、引用商標と全く一致している。
(3) 本件商標の下側の動物は、直ちに「馬」を描いたものと認識させないとしても、被告が主張するように「山羊」を想起させるとは到底いい得ないこと、また、本件商標と引用商標が、その具体的構成において、上記(1)及び(2)記載のとおり共通する部分を多く有していることからすれば、両商標は外観上互いに相紛れるおそれがあるというべきである。
2 取引の実情についての判断の誤り
 審決は、「本件商標を「Tシャツ」等の商品に直接刺繍され常に鮮明に表示されるとは限らないワンポイントマークとして使用された場合をも考察するとしても」、出所について混同は生じない旨判断している。
 しかし、この判断は、本件商標と引用商標との外観上の単純な比較において、両者が非類似の商標であるという前提の判断のみから論拠づけられたものであり、取引の実情等を具体的に考慮した上でされたものということはできず、誤りである。
(1) ワンポイントマークとしての使用
 引用商標は、ポロシャツ、ボタンダウンシャツ、Tシャツ等の左胸にワンポイントマークとして比較的小さく刺繍されて使用されることが多く、引用商標それ自体はシルエット風に黒色で描かれているが、実際の商品に使用される場合は、単色で刺繍されるとは限らず、複数の色を用いて(「マルチカラー」と呼ばれる)刺繍されるものもある。
 他方、本件商標も、その指定商品が洋服等であることに鑑みると、同じくポロシャツ等の左胸にワンポイントマークとして比較的小さく刺繍されて使用する可能性が高いというべきである。現に、被告は、引用商標と極めて類似する商標を、引用商標と同様に商品の左胸にワンポイントマークとして直接刺繍した「ボタンダウンシャツ」を販売している。
 そして、本件商標をワンポイントマークとして使用する場合には、本件商標の正体不明の動物部分の白毛部分や猿の態様を写実的に描くことは不可能であり、引用商標との区別はますます困難になるといえる。
(2) 引用商標の周知著名性
 引用商標は、我が国において原告の商品を示す商標として周知著名性を獲得しており、特に、原告のポロシャツ、ボタンダウンシャツ、Tシャツ等の衣料品の左胸に刺繍されて付されることにより、原告の商品を表示するものとして、需要者及び取引者の間で高い周知著名性を獲得している。このような引用商標の高い周知著名性にフリーライドすることを企図して、引用商標と類似・混同する商標の出願が後を絶たないこともまた、周知の事実である。
(3) 被告によるフリーライド行為
ア 被告は、平成14年5月当時、襟首に「POLOGROUND」なる商標を付した織ネームを縫いつけ、左胸に引用商標と極めて類似する商標を刺繍したボタンダウンシャツを販売していた(検甲2)。この刺繍は、マルチカラーの引用商標に酷似しているとともに、本件商標にも外観上類似している。
イ 被告は、かねてより引用商標との混同を企図した商標の登録に腐心しており、引用商標と極めて混同する可能性の高い別紙商標目録記載3の商標(商標登録第2718785号商標。以下「参考商標」という。)を登録していたが、この参考商標については、引用商標と彼此相紛らわしいとして登録が無効とされた(平成9年審判第8720号審決。東京高等裁判所平成13年(行ケ)第468号、平成14年4月25日判決)。本件商標は、参考商標が無効とされた場合に備えて、出願、登録されたものである。
ウ 被告の商号は「ポログランドジャパン」であり、実際に、被告は、前記のように、「POLOGROUND」なる商標を被告商品に付して販売している(検甲2)。この「POLOGROUND」なる商標は、その一部に原告の周知著名な商標である「POLO」を含んでおり、このような商品に本件商標が使用された場合、それぞれが原告の周知著名な商標である「POLO」及び引用商標に対応して相紛らわしい結果、原告の商品との出所の混同が生ずる可能性がいっそう高まるといえる。
(4) 以上のとおり、本件商標は、原告の商品との出所の混同が生じやすい状況下で使用される蓋然性が極めて高く、本件における混同のおそれを判断するにあたっては、かかる事情をも取引の実情として考慮する必要があるところ、審決は、これを看過したものというべきである。
第4 被告の反論の要点
 本件商標が商標法4条1項15号に該当するものでないとした審決の判断は正当であり、誤りはない。
1 本件商標と引用商標との非類似性について
(1) 本件商標と引用商標とを、比較観察した場合でも、時と所を異にして離隔観察した場合でも、両商標が外観上互いに相紛れるおそれはなく、称呼、観念においても同様であるとした審決の認定判断は正当であり、本件商標と引用商標とは非類似であることは明らかである。
(2) 本件商標は、猿が白毛で覆われた動物(被告は山羊として描いたものであるが)に乗っている図形であるのに対し、引用商標はポロ競技者の図形であって、それぞれの商標が表そうとする「主題」が相違する点、本件商標が写実的に描かれた黒色の猿と本件商標の大部分を占める白毛の動物という特異な図形であるのに対し、引用商標はシルエット風の黒色の図形であり、それぞれの「描法」が相違する点において、両商標は決定的に相違しているものであり、両商標が類似するとの原告の主張は、上記の決定的な相違点を無視するもので、失当である。
(3) 本件商標と引用商標とは、「猿が白毛で覆われた動物(被告は山羊として描いたものであるが)に乗っている図形」と「ポロ競技者の図形」という着想の点でも、また全体的構成の点でも軌を一にするとはいえないものである。
2 取引の実情について
 本件の場合、本件商標と引用商標との非類似性は明白であり、取引の実情は無関係の要素である。すなわち、前記1のとおり、本件商標と引用商標とは、それぞれの図形が表そうとする主題と描法において明確な相違が認識され、混同が生じるおそれがないことが明らかであるから、ワンポイントマークとして使用された場合であっても、出所の混同を生じさせることはない。本件商標を見ても、引用商標を想起する余地は全くないのであり、原告が取引の実情として主張することは、本件商標と直接関連がないことである。
第5 当裁判所の判断
1 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
2 本件商標と引用商標の構成
(1) 引用商標は、別紙商標目録記載2のとおり、帽子と被服を身にした一騎のポロプレーヤーが、疾走する馬に乗り、ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方に構えている姿を斜め前方から表し、全体をシルエット風に黒色で描かれている図形から成るものである。
(2) 本件商標は、別紙商標目録記載1のとおり、白毛で覆われているかのように細かい線で描かれた正体不明の4つ足の動物の後頭部に、黒く塗られた猿とおぼしき動物がしがみついており、その頭部付近から意味不明の部分が斜め上方に向かって伸びているという図形から成るものである。
 審決は、本件商標の図形について、「猿が必ずしも特定し得ない動物に乗り右腕を後上方にのばしている」と認定し、被告は、「猿が山羊に乗っている」図形であると主張しているが、4つ足の動物を山羊と見ることはかなり困難であるし、これにしがみついている動物も、「猿だといわれればそのように見えなくはない」といった程度のものであり、一見して猿であるとまで認識できるというものではない。また、審決が「右腕を後上方にのばしている」と認定した部分も、左腕との対比においてその位置や長さの点で右腕を伸ばしているとみることは必ずしも自然ではなく、帽子様のものにも見えるなど、判別し難いものである。要するに、本件商標は、それ自体だけを見ると、実在する特定のものを表現したものとは解することができず、これを創作した者がいかなるものを表現しようとしたのかは必ずしも理解し難いというべきである。
3 引用商標の周知著名性
(1) 証拠(甲3〜18、19の1〜4、31、32)によれば、次の事実を認めることができる。
ア Aは、1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーであるが、1968年(昭和43年)、ポロ・ファッションズ社を設立し、ネクタイ、スーツ、セーター、靴、かばん等のデザインを手がけるなどファッション関連の商品についてトータルな展開を図り、1970年(昭和45年)と1973年(昭和48年)の2回にわたり、アメリカのファッション界で最も権威があるとされる「コティ賞」を受賞するなど高い評価を受け、さらに、1974年(昭和49年)に、映画「華麗なるギャツビー」の主演男性俳優の衣装のデザインを担当し、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立すると共に、世界的に知られるようになった。Aのデザインに係る一群の商品には、「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」などの文字のほか、Aのトレードマークとして引用商標と同じ図形が使用されている。
イ 我が国においては、西武百貨店が、使用許諾を受けて、昭和52年ころから、Aのデザインに係る商品の販売等を開始し、全国各地の店舗で販売されるようになり、昭和62年におけるポロ・ラルフローレンブランドの小売販売高は約330億円となり、Aのデザインに係る商品は、引用商標などと共に、各種雑誌等において一流ブランドの商品として紹介されてきた。
ウ 平成元年ころから、我が国で、「ポロ」の偽ブランド商品が出現し、摘発される事件が発生し、これを報道した平成元年5月19日付け「朝日新聞」には、「「ポロ」の偽 大量販売 「Polo(ポロ)」の商標で知られるラルフローレンブランド・・・米国の「ザ・ローレン・カンパニー」社の商標・デザインで西武百貨店が日本での独占製造販売権を持っている「Polo」の商標と、乗馬の人がポロ競技をしているマーク」、平成4年9月23日付け「読売新聞」には、「アメリカの人気ブランド「ポロ」(本社・ニューヨーク)のロゴ「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」」、平成5年10月13日付け「読売新聞」には、「ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド「POLO(ポロ)」」、という各記事が掲載されているように、引用商標を含むラルフローレンの標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標の名で知られ、一流ブランド品としてのAのデザインに係る商品と共に、我が国の需要者の間に定着していた。
エ また、平成4年、6年ないし8年に、原告は、繊研新聞紙上に、引用商標を大きく示し、「このポロレイヤーマークは、ラルフローレンがデザインした製品だけに使える商標です。」と付記した広告を出している。
(2) 以上認定の事実によれば、我が国において、引用商標は、その略称である「Polo」、「ポロ」の各文字標章と共に、ネクタイ、スーツ、セーター、靴、かばん等のファッション関連の商品について、Aのデザインに係る商品に付される商標ないしブランドとして広く知られ、強い顧客吸引力を取得するに至っていることが認められるのであって、本件商標の出願(平成6年2月4日)前に、既に需要者の間で周知・著名な商標となっていたということができる。そして、平成11年6月8日付け「朝日新聞」の「偽ブランドの販売で元社長に有罪判決」との記事において、「・・・昨年2月、・・・米国ブランド「ポロ」などのマークが入った偽物のセーターやポロシャツ」と記載されているように(甲18)、平成10年当時においても、「ポロ」ブランドの顧客吸引力に着目して「偽ポロ」商品を販売する者がいたなど、引用商標を含む「ポロ」標章の著名性は、本件商標の出願時以後も、その登録査定時を経てその後に至るまで継続しているということができる。
4 商標の使用の形態等に関する取引の実情
 証拠(甲20〜22の各1・2、23〜30、検甲1)によれば、引用商標は、スポーツシャツ、ベスト、パジャマ、靴下などについて、刺繍などによるいわゆるワンポイントマークとして付されていることが多いこと、また、引用商標だけでなく、他の著名な図形商標も、同様の商品などにワンポイントマークとして付されていることが多いことが認められ、また、証拠(甲36の1・2、検甲2)によれば、被告は、平成14年ころ、引用商標に類似したワンポイントマークを付したボタンダウンシャツを東京都内で販売し、原告から商標権侵害である旨の警告を受けていることが認められる。
 これらの事実によれば、本件商標が、その指定商品であるセーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、靴下等の被服類の商品分野において使用される場合には、ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる。
 また、本件商標が使用される商品であるセーター類、ワイシャツ類等の商品の主たる需要者は、老人から若者までを含む一般の消費者であり、必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない者も多数含まれていることに加え、商品の購入に際し、メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことは、経験則に照らして推認するに難くないところである。
 本件商標についての混同のおそれの有無の判断は、上記のような取引の実情における需要者の注意力及びワンポイントマークとして使用される可能性をも十分考慮に入れて、検討されるべきである。
5 混同を生ずるおそれの有無について
(1) 別紙商標目録記載2のとおり、本件商標における4つ足の動物は、白毛様のもので、その頭部、胴体部及び脚部が太く描かれており、これにしがみついている猿とおぼしき動物も、引用商標のようなポロ競技をしている様子にはみえない点で、引用商標とは相違しているものであり、両商標を対比すると、各商標の視覚的印象が別異のものであるということもできる。
 しかしながら、本件商標の全体的な構図をみると、その4つ足の動物は、引用商標の馬と同じく左向きの形で、足の位置・長さや頭部の向き、右前脚が少し「く」の字に折れている点など各部位の配置が引用商標とほぼ同じであり、また、引用商標のポロ競技者の左足の先端に相当する位置に、白毛の動物の腹部の出っ張り部分があるほか、猿とおぼしき動物の頭の位置、傾斜した姿勢が引用商標のポロ競技者のそれと類似し、さらにその動物の頭部付近から斜め上方に向かって伸びている部分は、引用商標のスティック(マレット)と太さは異なるものの、その位置、角度などが符合しているなど、本件商標の全体的な配置、輪郭は、引用商標と高い類似性を示しているものということができる。
 そして、本件商標がワンポイントマークとして使用される場合を考えると、そのようなワンポイントマークは、比較的小さいものであり、マーク自体に詳細な模様や図柄を表現することは実際上容易ではないから、例えば、ポロシャツに刺繍するときは、正体不明の4つ足の動物の白毛部分の細かな線や猿とおぼしき動物の顔等を写実的に描くことはかなり困難であり、むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き、内側における差異が目立たなくなることが十分に予想されるのであって、その全体的な配置、輪郭が引用商標と類似していることから、ワンポイントマークとして使用された場合の本件商標は、引用商標とより類似してくるとみるのが相当である(なお、本件商標それ自体が何を表現しているのか必ずしも理解し難いことや、引用商標の馬に対応する動物の足の形や位置、ポロ競技者の振りかざしたスティック(マレット)に対応する猿とおぼしき動物の頭部付近から斜め上方に向かって伸びた部分など、その全体の配置や輪郭が不自然に引用商標に似たものとなっていることからすると、あえて引用商標とその輪郭を似せることにより、類似のワンポイントマークとして使用する意図があるのではないかといわれてもやむを得ないものがあるといわざるを得ず、本件商標は、上記のような引用商標とより類似した態様で使用されるおそれが強いということができる。)。
(2) そうすると、前記のとおり、本件商標はワンポイントマークとして使用される可能性が高いこと、本件商標が使用される商品であるセーター類、ワイシャツ類等の商品(指定商品第25類)の主たる需要者が、商標やブランドについて詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり、商品の購入に際し、メーカー名などを常に注意深く確認するとは限らないことなどの実情や、引用商標が我が国においてポロブランドとして極めて高い周知著名性を有していることなどを考慮すると、本件商標が、特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合には、これに接した需要者(一般消費者)は、それが引用商標と全体的な配置、輪郭が類似する図形であることに着目し、本件商標における細部の形状や模様などの相違点に気付かずに、当該商品をラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
(3) 被告は、本件商標と引用商標とでは、「主題」や「描法」の点で決定的に相違しており、また、着想や全体的構成の点でも軌を一にするといえないとし、両商標の非類似性が明白であるから、ワンポイントマークとして使用された場合であっても、出所の混同を生じさせることはないと主張する。
 しかし、本件商標それ自体が何を表現しているのか必ずしも理解し難いことは前記のとおりであるが、たとえそれが被告主張のような主題、着想のものであり、また、その描法や全体的構成の点で引用商標と相違するとしても、その全体的な構図、輪郭が引用商標と客観的に類似したものとなっており、これをワンポイントマークとして使用した場合、一般消費者の注意力などをも考慮すると、出所の混同を生ずるおそれがあることは前記のとおりであって、被告主張のような主観的な意図やワンポイントマークにおいて注目を惹きにくい細部の描法等の点は、上記判断を左右するものとはいえない。
(4) 以上のとおり、本件商標は、本件商標の出願当時及び登録査定当時において、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものというべきであり、商標法4条1項15号に該当するものというべきである。したがって、これと異なる認定判断に基づいて、本件商標が同号に違反して登録されたものではないとした審決の判断は誤りである。
6 したがって、原告が主張する取消事由は理由があり、審決は取消を免れない。
 よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 佐藤久夫
 裁判官 若林辰繁
 裁判官 設樂驤黷ヘ、転補のため、署名押印することができない。

裁判長裁判官 佐藤久夫


(別紙)商標目録
1 本件商標 略
2 引用商標 略
3 参考商標 略
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/