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【事件名】「武富士」の言論抑圧事件(同時代社)
【年月日】平成17年3月30日
 東京地裁 平成15年(ワ)第9119号 損害賠償請求事件(甲事件)、
 平成16年(ワ)第696号 損害賠償反訴請求事件(乙事件)、
 同年(ワ)第700号 損害賠償請求事件(丙事件)

判決


主文
1 甲事件原告(乙事件被告)及び丙事件被告は、連帯して、甲事件被告ら(乙事件及び丙事件原告ら)に対し、それぞれ金120万円及びこれに対する平成15年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 甲事件被告ら(乙事件及び丙事件原告ら)のその余の請求及び甲事件原告(乙事件被告)の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、甲事件、乙事件及び丙事件を通じてこれを20分し、その1を甲事件被告ら(乙事件及び丙事件原告ら)の負担とし、その余を甲事件原告(乙事件被告)及び丙事件被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 甲事件
(1) 甲事件被告ら(乙事件及び丙事件原告ら)は、連帯して、甲事件原告(乙事件被告)に対し、金5500万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 甲事件被告(乙事件及び丙事件原告)A1及び同株式会社A2は、別紙物件目録記載の書籍の出版及び販売をしてはならない。
2 乙事件
 乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告ら(甲事件被告ら、丙事件原告ら)に対し、それぞれ金750万円及びこれに対する平成15年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 丙事件
 丙事件被告は、丙事件原告ら(甲事件被告ら、乙事件原告ら)に対し、それぞれ金750万円及びこれに対する平成15年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、甲事件被告(乙事件及び丙事件原告。以下単に被告と表示する。)A1、同A3及び同A4ほかが執筆し、被告株式会社A2が出版した「武富士の闇を暴く」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)につき、甲事件原告(乙事件被告。以下単に原告と表示する。)が、本件書籍中別紙名誉毀損部分等一覧表記載の各記述(以下「本件各記述」という。)が原告の名誉を毀損するものであるとして、名誉毀損の不法行為に基づき、損害賠償と出版差止めを求めて提訴した(甲事件)のに対し、被告らが、甲事件の提訴は不当訴訟であり違法であるとして、不法行為に基づき、原告及び甲事件提訴当時原告の代表取締役であった丙事件被告に対し、損害賠償を求めている(乙事件及び丙事件)事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者等
ア(ア) 原告は、消費者金融等を業とする株式会社である(争いのない事実)。
(イ) 丙事件被告は、原告の創業以来代表取締役の地位にあった者であるが、甲事件提起後の平成15年12月8日をもって、原告の代表取締役を辞任した(乙A78、争いのない事実)。
イ(ア) 被告A2は出版社であり、書籍の出版、販売等を業とする株式会社である(争いのない事実)。
(イ) 被告A1、同A3及び同A4は、いずれも弁護士であり、それぞれ、仙台弁護士会、釧路弁護士会及び宮崎県弁護士会に所属して弁護士業務に従事している(乙A36、107ないし109、争いのない事実)。
ウ 被告A2は、平成15年4月1日に、「武富士の闇を暴く」と題する書籍(本件書籍)を発行した。また、被告A1、同A3及び同A4は、本件書籍の執筆者である(乙A1、争いのない事実)。
(2) 本件書籍掲載の記述について
 本件書籍については、別紙名誉毀損部分等一覧表記載の各記述番号1ないし35の記述が存在している。以下においては、記述の特定に当たって、記述番号を用い、「本件記述○」という形で摘示することとする。また、問題とされている事件毎に別紙名誉毀損部分等一覧表の「事件名」欄記載の事件名を用いることがある。
2 争点
(1) 本件各記述(中山事件に関するものを除く。)の真実性ないし相当性の有無(甲事件について)
(2) 中山事件に関する記述の不法行為該当性の有無(甲事件について)
(3) 甲事件の提訴の違法性の有無(乙事件及び丙事件について)
(4) 本件書籍の出版による原告の損害(判断の必要がなかった争点)
(5) 甲事件提訴による被告らの損害
3 争点についての主張
(1) 争点(1)(本件各記述(中山事件に関するものを除く。)の真実性ないし相当性の有無)について
ア 宮坂事件について
(被告らの主張)
(ア) 記述の真実性について
a 平成8年3月15日、Cが原告に借金10万円を申し込んだところ、50万円を貸し付けられたことは真実である。
 当時Cが必要としていたのは長男の喘息の治療費用であるから10万円の借入れを申し出たというのは合理性がある。
 他方、貸付残高が多ければ多いほど、多額の利息が取れることから、貸金業者としては過剰融資をしがちであり、原告においても恒常的に行われていた。
 したがって、50万円押し貸し事件の存在とその内容は真実である。
b 原告の担当者がCの夫にCの借金を請求したことは真実である。
 Cは、この請求が行われた時期や請求の態様についても具体的に述べており、信用性がある。
 他方、原告においては夫等への第三者請求が常態化しており、この点からも偶然居合わせたCの夫に担当者が請求をしたのも何の不思議もない。
 また、原告は、銀行送金がされていることから訪問集金の事実を否定するが、原告の担当者は、日常的に、債務者や身内から集金してそれを債務者に代わって銀行送金していたのであり、送金用の銀行カードまで作成していた。
 したがって、銀行送金されていた事実は、記述の真実性を否定する事情とはならない。
c 原告の担当者がCの実家の母親に電話をして「何とかお願いします」などと請求していたことも真実である。Cの母親は、月末の立替払いを約束させられ、実際に入金のために原告に送金口座番号を問い合わせているのである。
d 原告の担当者がCの長男を学校で待ち伏せてCの携帯電話番号を聞き出したことも真実である。このことは、平成14年11月にジャーナリストのDの取材を受ける中で明確化されたものであり、事実判明の経過にも不自然な点はない。
 待ち伏せ事件の後から、Cの携帯電話に原告から電話がかかってくるようになったが、C自身や母親はこの番号を誰にも教えていないから、長男から聞き出したとしか考えられない。長男は、携帯電話の番号を見知らぬ男に聞かれており、これが原告の担当者であったことは容易に推認できる。
 原告は、この事件の前に、090−××××−××××という携帯電話番号を聞き出していたから、重ねて長男から携帯電話番号を聞き出す必要性はなかったとしているが、この携帯電話は、プリペイド式であり、平成13年6月26日をもって解約されているところ、原告は、その後もCの携帯電話に電話をかけているのであり、原告が上記プリペイド式携帯電話以外の携帯電話番号を何らかの方法で探知したことは疑いようがなく、原告の反論は成り立たないものである。
e 平成14年9月21日朝、原告の従業員EがC宅を訪問し、指の関節を鳴らしながら借金を取り立てたことは真実である。また、Cが3000円余り入った財布の中身を見せたところ、それを支払に充てるようEに要求されたことも真実である。
 この点のCの陳述には臨場感や迫真性があるほか、この取立行為の直後、現に母親に電話して1万1000円を代わりに支払ってもらっており、客観的事実とも整合する。
f 同年10月22日朝、EがC宅を訪問し、指の関節を鳴らしながら借金を取り立てたことも真実である。Cが3000円余り入った財布の中身を見せたところ、それを支払に充てるようEに要求されたことも真実である。
 この点のCの陳述には臨場感や迫真性があるほか、翌日5000円、給料日後に1万1000円を払う約束をさせられたが結局翌日には3000円しか用意できず銀行で3000円のみ送金したことも客観的事実にも符合している。
g 別件の和解内容は原告がCに対して12万円を支払うというものである。他方、過払金返還の計算額は10万8510円であった。よって、その差額分は慰謝料の趣旨が含まれている。したがって、原告の「過払い金の返還をすることだけで和解が成立した」との主張は正確でない。Cは、自身と長男の体調の関係から、早期の解決を希望したにすぎないのである。
(イ) 相当性について
 上記について執筆したのは被告A3であるが、被告A3は次のように適切な事実調査を行っており、真実を把握したものである。
a Cに対する過酷な取り立て事実を最初に把握したのは司法書士のFである。平成14年10月23日、Cが被害者の会に初めて相談したことから、Fがこれを察知したものである。FはこれをジャーナリストのDに情報提供し、Dはこの事件を被告A3に連絡したことから、被告A3はCに関する事件を知った。
 Cの事件を被告A3が知った同年11月ころ、被告A3は原告による第三者請求や過酷な取り立て等、他にも同種事案が多発していたことを把握しており、これらの情報の蓄積があった。その情報源は「G弁護士の部屋」というホームページへの内部告発メールや、普通に持ち込まれる個別事件等であった。特に、このホームページに寄せられる原告の従業員からの内部告発メールは、内部の者しか知り得ない情報を多数含むもので、信頼に値するものであった。
 そこで、被告A3はCの事件について調査を開始することにして、まず、F及びDから事件の概要の報告を受けた。この時点で、既に同年10月25日付でCがB1に対する行政処分の申立てをしていたので、同申立にかかる概要を把握することができた。また、同年11月20日には、Dが取材を行ってCから詳しい事情を聴取していたし、同月25日にもDがC及び長男に取材して、直接同人らからさらなる事情を聴取した。これらの取材結果の概要を知った被告A3は、同年12月12日には、F、Dほかと共に直接Cと面談して、原告による過酷な取り立てについて確認をした。
 このように、被告A3は、関係者から入念に事実を聴き取って調査をしていた。
b 上記事実を把握したDは、原告に電話で事実関係の確認等の取材を申し入れたが、原告の従業員は、結局、調査の詳しい結果や事実を否定する根拠、事後の対応等については詳しいことを一切述べず、それらを明らかにする予定もないと回答した。
 その後Dは、原告に対しファクシミリで原告の貸金回収の問題性を指摘した記述を雑誌に掲載する旨を伝え、その他関連する事項について質問をしたが、原告から回答はなかった。
 被告A3はこれらの事情をDから聞き、原告の取材拒否、回答拒否の態度からしてもCにかかる上記各事件は真実であると確信した。また、そのような原告の態度から、再度の原告への問い合わせは不要と判断した。
(原告の主張)
(ア) 記述の真実性について
a 原告の従業員が、10万円の借入れを申し込んだCに対し「規定で最初のお客さんには枠全部借りてもらうことになっている」と譲らず、強引に50万円を貸し付けたという事実はない。
 被告らの主張は、消費者金融機関では過剰融資がまかりとおっているからこれが真実であっても不思議ではないというものであるが、このようなことは真実性の裏付けにならない。
b 原告の従業員が、Cの夫に請求し、回収した事実もない。
 これが真実だという被告らの主張の根拠は、Cの陳述書のみである。被告らは、原告において第三者請求が常態化していたなどとも主張しているが、これも真実性の裏付けといえるものではない。
 さらに、Cの借金が初めて夫に発覚し、告白したということが事実であれば、その後に夫との間で返済や今後のことについて話したはずであるが、Cの陳述書にはそのような自然な流れが欠落しており不自然である。
 加えて、そもそも原告の従業員が、債務者であるCに送金カードを見せて使い方を説明することなどはあり得ない。
c 原告の従業員が、Cの母親に請求した事実はない。
 この点の被告らの主張も、Cの陳述書を真実性の根拠だというだけのものである。原告における第三者請求の常態化ということは、上記同様真実性の根拠としては意味がない。
 なお、被告らが指摘する2月21日欄のCの母親からの問合せは、母親がC本人の意向を受けて連絡してきたものである。
d 原告の従業員が、Cの長男を小学校校門前で待ち伏せし、職場及び携帯電話の番号を聞き出したという事実はない。
 平成12年9月20日ころ、原告がこのような手段を講じてまで督促する必要はなく、突然この時期に、子供の学校まで出向くというのは不自然にすぎる。
 原告の記録には090−××××−××××のプリペイド式携帯電話の番号が明記されており、ここに電話をかけていたことは事実である。したがって、この携帯電話がCのものではないとする被告らの主張には、疑問がある。なお、この携帯電話にも、原告は頻繁に連絡していたというわけではない。
 本件記述には、この待ち伏せ以降長男に突然の異変が起こり、夜尿、夜中の徘徊、自傷行為が見られるようになり、ADHDにまでなったとも記載してある。これが事実であれば、そのような状態の子供に、しかも子供の前では借金の話はしたくないと述べる母親であるにもかかわらず、消費者金融の会社名を出して、そこから電話がかかったことを話し、子供が抵抗なくこの問いに答え、さらに母親が叱り付けただけで、後日ジャーナリストからの取材を受けるまでことの経緯も聞かなかった、すなわち関心を持たなかったということは、およそあり得ないことというほかなく、被告らの主張は不自然である。
e 平成14年9月21日、EがC宅を訪問した事実はない。したがって、指の関節を鳴らしたり、財布の中身を探索したということもない。
 この点の被告らの主張も、Cの陳述書のみが真実性の根拠であり、客観的な裏付けはない。
f EがC宅を訪問したのは、同年10月24日であり、被告らの主張するような事実ではなかった。
 訪問したEは、インターホンを押し、ドア越しに出てきた女性と話をしただけである。会話の内容は、その女性がCの知り合いであると名乗り、CはH病院の精神科に入院していること、夫の携帯電話と職場を伝えたことであり、Eからは、C本人でないとわからないことだとして、手紙を渡してくれるよう依頼したというものである。結局手紙も受け取ってもらえず、EはC宛ての手紙をポストに投函して帰社している。
 これも真実性の根拠はCの陳述書だけであるところ、被告らはこれに臨場感、迫真性等があるというが、大声を出され指をぽきぽき鳴らされて恐ろしかったことが印象的であったというCは、平成16年3月中旬、同じ岐阜支店に融資依頼の電話をかけた上、直接来店して融資を依頼しているのであって、その陳述の信用性は疑問である。
g Cを原告として提起された損害賠償請求事件において、Cは本件記述に記載されている事実を主張したが、過払金の返還をすることだけで和解が成立したものである。このことは、Cが、本件記述に記載されているような事実はなかったと自認したことを示すものにほかならない。少なくとも、訴訟の経過において、これらの主張が認容される可能性が低いと判断してのことと評価するほかないものである。
(イ) 相当性について
 被告らにおいて、Cの長男の学校にまで行ったのが原告の従業員であったことを真実だと認識したことの相当性もない。本件の核心は、待ち伏せ事件の有無ではなく、そのようなことをしたのが原告の従業員であったという点にある。被告A3はこのケースを直接担当したわけではないのだから、事実の確認にはより一層慎重を期すべきであった。しかも、記述の核心となる根拠は、2年も前のことについての子供の話だけなのであるから、被告A3としては、待ち伏せをしたのが原告の従業員であることの核心を得るべき話を聞き取れない以上、このような記述をしてはならなかったはずである。取材経過のすべてをどのように解釈しても、Cの長男の「昨日来たおじさん(原告の従業員)」という発言が、待ち伏せのあった翌日のものだという根拠は全く示されていない。また、2年後に初めて語った「学校に来た」という者が、そのおじさんと同一人物であるとする根拠もない。被告A3が、Cの長男に直接話を聞く機会を持ったのであれば、その心情に配慮しつつであれ、「電話番号を教えたおじさん」「家に来たおじさん」「学校で待ち伏せをしたおじさん」が同一人物であるのか否かの確認をとるべきであった。しかるに、取材と称する被告らとC及びその長男との会話からは、被告らが慎重に真実を見極めようとする態度はおよそ見受けられないというべきである。被告A3は、真実を見極める努力をしないまま、具体性、迫真性もないCの話を信用したと言うことであり、相当性を認める余地はない。
イ 大川事件について
(被告らの主張)
(ア) 記述の真実性について
 原告の従業員IがJ居住のマンションを訪れたことは、後にかけつけたKがIを写真撮影しているのみならず、110番通報により警察官が現場に臨場し、Iからも事情聴取をしている。
 Iは、平成14年6月20日及び21日の訪問に際し、伝言メモをおいていった。それは、訪問による取立ての際不在の場合に留め置く用紙であって、定型書式に固有事項を記入するものであるが、末尾の担当者欄に「I」と記載されている。
 Kは、その後、同月26日午前9時ころと同日午前10時30分ころに、原告香林坊支店に電話をし、Iとの会話を求めたが、外出中とか他の通話中などと言われ、意図的に接触を回避された。
 以上の事実より、Iが取立てに訪れた事実は疑いなく真実である。
 また、Jはパソコンを老人会で覚えて、平成12年に本件マンションに引っ越してから、ノートパソコンを購入して練習していた。Jは、パソコン(ワープロ)の練習を兼ねて、その日の出来事を打ち込んではプリントアウトしていた。そして、特に大事な出来事については、プリントアウトしたものを保存していた。
 平成14年6月21日の出来事についても、翌日か翌々日に、一人でパソコンに打ち込んでプリントアウトしたものが、現存している。この文書の作成には、Kは全く関与しておらず、純粋にJの記憶のみによる覚書である。なお、このメモ書きの存在は、被告ら訴訟代理人弁護士Lが、平成15年12月9日に、Kとともに本件マンションにおいてJの聞取りをしていたときに、急に思い出したようにJが取り出してきたものであり、Kもこの文書の存在を知らなかった。Jは作成した文書ファイルは保存方法を理解していなかったため、プリントアウトしたもののみが保存され、データ自体は保存されていない。
 Jは、近年物覚えが悪くなり、その都度すぐにワープロに打ち込んではプリントアウトしているのが習慣であり、過去を遡って、いくつものことを打ち込むということではなく、出来事が起きた都度、打ち込んではプリントアウトしていた。
 このプリントに、上記事実関係が記載されているのであり、上記事実が真実でなければ到底このようなプリントなど存在し得ないものである。
(イ) 相当性について
 この件においては、Kの勤務先の上司であるMが被告A3を知っていたことから、本件事件発生を受けて、M及びKから被告A3に本件事件を知らせる連絡が入り、その後も、電話や電子メールで、事件概要がMを通じて被告A3に伝えられた。このように、被告A3は、全く無関係の人間からの又聞きではなく、事件の直接の当事者及びその上司からの連絡があって、初めてこの事件を認識したのである。よって、被告A3が、これを虚偽と疑うべき事情は全くない。
 次に、この事件は、まず新聞紙「赤旗」が、平成14年7月28日に報道したところ、赤旗は、K及びJから取材を行い、同年6月21日にKが撮影した写真の提供を受け、他方原告広報部に問い合わせた上、記事としたのであった。その後の同年10月1日付けで金沢弁護士会所属のN弁護士ら20名が、本件を理由として、関東財務局に対し、行政処分の申立てを行った。そして同月3日には、K自身が、金沢西警察署宛に、本件事実を告発事実として刑事告訴した。そして、この行政処分の申立てや告訴がされたという事実は新聞報道されている。このように、新聞記事にもなっているし、行政処分申立てと刑事告訴までしていることからすると、報道とそれに見合った取材が行われていること、そして行政処分や告訴を申し立てる者が真実であるとして申し立てているのであるから(事実が虚偽であれば、虚偽親告罪に問われるおそれがある以上、申立人は真実であると信じて申し立てているものである。)、被告らがそれを虚偽と疑う理由もない。
 さらに、Kは、Iや警察官の写真を撮影して証拠保存しており、また後日原告に電話を入れたときの内容をテープに録音するなどしており、自己に関する事実関係を明確にさせようとする姿勢が明瞭である。それに対して、原告は、Iの所在を隠すなどの行動に出たり、報道に対しては、違法行為がないとか、調査中でコメントできないなど、具体的な反論や正当性を明示しようとしない。そうであるならば、Kらと原告とで、その言い分の信用性のいずれが高いかは明らかであって、被告A3がKらの言い分が真実であるとの心証を抱いたのは当然である。
 これに、被告A3におけるいわゆるクレサラ問題についての豊富な経験や、原告の社員であったOの体験談等も併せ考えれば、本件記述について真実であると考えるのは、ごく自然なことである。
(原告の主張)
(ア) 記述の真実性について
 平成14年6月20日、IがJ宅を訪問したことは認めるが、取立てに行ったのではない。ドアを強く叩き、大声でJに請求したこともなく、何とかK本人に連絡がつかないか、携帯電話か勤務先を教えて欲しいとお願いしただけである。Jには社名すら出していないし、置いてきたメモはIの個人名で、封筒は「親展」で「ノリにて封印」していた。
 翌21日にIが訪問したこと、インターホンごしにJと話したことは認めるが、会話内容及びIの言動はすべて否認する。帰り際に1階でKと出会ったIが、何故連絡をくれなかったのかと聞いたところ、Kは、「不法侵入だ」などと言ってデジタルカメラでIの写真を数枚撮り、「裁判で使う」と言っていた。その後、金沢西署の刑事が来たので、Iは、暴力や傷害の事実などないこと、ドアを叩いたこともないこと、Jに請求をしていないこと、オートロックについては1階の奥のドアが開いていたので入れたことを伝え、刑事は納得し、その場で帰された。
 Iが違法な取立てなどしていないことは、Kが現場で現行犯逮捕を訴えても、警察官から相手にもされず、「民事の話のようだから、警察としてはこれ以上介入できない」と斥けた事実からも明らかである。
 なお、Iが駐車場の入り口から入ったときに、表の玄関がオートロックであったことを認識していたか否かには疑問が残るが、いずれにせよIは正当な目的を有して入ったのであるから住居侵入などになるはずがなく、だからこそ、現場の警察官も全く問題にしなかったものである。
(イ) 相当性について
 この件のような事実の存否を問題にする場合には、通常、J宅の両隣などの隣家に事情を聞き、そのことを記述中に提示するはずである(Kの立場・能力・性向からしてそのことを実行したことは十分推認される)。しかるに、マンション住人からの裏付け供述はまったく存在せず、裏付けがなかったことが示されている。さらに、50分もドアを叩き続けたなどという本件記述内容自体がきわめて不自然不合理なものであることも明らかであった。その上、この点は、同じ書籍に掲載されたK自身の文章にすら指摘されていないことであった。
 さらに、これを記述した被告A3が、その事件に直接関与したことがないことも明らかであり、また、本件書籍発行に先立って、被告A3らから、原告に対して事実の確認作業が行われたこともなかった。
 以上のとおりであるから、原告としては、この記述部分について、真実性もなく、また相当性もないと確信していたものである。また、以上の点からして、このように信じたことに過失があるはずがない。
ウ 徳田事件について
(被告らの主張)
(ア) 記述の真実性について
 この件については、Pが、平成14年10月、原告に対して損害賠償等請求訴訟を釧路地方裁判所に提起し、平成15年9月29日、P本人の尋問が実施されている。同尋問において、Pは陳述書(乙D5)と同内容の供述を行っている。
 また、本件については、P本人の供述を補強する証拠として、α町議会議員Qの陳述書がある。Qは、中学校の教え子であるRより借金の相談を受け、被告A3に相談依頼した。Qは、R及びその母親であるPが、被告A3の事務所を訪れて相談したときの状況について、Pの供述内容と符合する陳述をしており、原告からRの分について支払義務のないことを知らされないまま支払を続けていたというPの供述を裏付ける内容となっている。
 さらに、原告は、平成12年10月30日から平成14年3月7日までの間、数回にわたりPがRの借入分につき弁済をしたこと、しかもそれら弁済を受ける前に原告の従業員がP方に電話連絡ないし訪問をしていること自体は認めている。これについて、Rの借入分の返済をP自ら積極的に言い出し、支払義務のないことを説明してもなお支払うと言ったと解するのは、不自然である。Pは当時、生活が極めて困難な状態にあり、それにもかかわらず、原告の従業員より支払義務のないことを説明されてもなお、積極的にRの支払まで行ったとは到底考えられない。
 平成13年10月26日の弁済充当についてみると、原告は、平成13年10月17日にPが自分の返済分として支払った2万1000円を、一旦Pの借入分に対する返済として入金処理しておきながら、9日後の同月26日にその入金処理を取り消した上で、1万0500円ずつPの借入分とRの借入分に分けて入金処理している。原告はこれをPがこのような振り分けを指示したからであると説明するが、不自然である。Pは自分が借り入れた分の平成13年9月28日の支払を遅滞し、原告より再三にわたり督促を受けた末にようやく同年10月17日に支払を行ったもので、息子のためとはいえ振り分けに承諾するとは考えられない。むしろ、平成13年10月26日の経過により1箇月以上の延滞となってしまうRの借入分につき、原告の従業員がその回収ノルマ達成のために母親であるPの借入分の返済金の一部をRの借入分に対する返済に充てたと見るのが自然かつ合理的である。
 平成14年1月10日の弁済充当についてみると、原告は、同日、P方に集金に来た原告の従業員に対し、Pが支払った自身の借入分の返済金2万1000円とRの借入分の返済金4000円の合計2万5000円の返済について、Pの借入分の返済として1万2000円、Rの借入分の返済として1万3000円の入金処理を行っている。原告はこれについてもPの承諾を得たと説明するが、Pの苦しい生活状況からすれば、PがRの返済分を自身の返済分より多い1万3000円とすることを了承する理由は全く見いだし難い。原告は、PがR分の支払として1万3000円を支払ったことの根拠として、その旨記載された集金用領収証をあげるようであるが、この領収証には、本来弁済者であるPの署名が必要であるにもかかわらず署名がされていないばかりか、作成時刻が午後3時5分と記載されているところ、実際の弁済時刻は正午から午後1時ころまでの間であったことが明らかで、その記載内容にも誤りがあり、極めて不完全かつ不自然なものと言わざるを得ない。さらに、この領収証は、後日郵送されたものと考えられる。このように、R分の領収証がその場で作成されず、後日郵送されたのは、「Rの分として支払ったのは4000円だけで、領収証に記載された1万3000円は事実に反する」というPからのクレームを封じ込める目的のもとに行われたとしか考えられない。以上の事情に加え、Pが従前から自分の借入分に対する返済として、そのほとんどの場合に2万円ないし2万1000円を支払ってきたという取引経緯をも併せ考えると、Pが自分の借入分の返済として2万1000円を支払い、Rの借入分の返済については原告の従業員から3000円でも4000円でも良いと言われ4000円を支払ったというPの供述は極めて信憑性が高いといえる。他方、平成14年1月10日の時点でRの借入分が1箇月以上の延滞になっていることからすると、原告の担当者は、そのころ会社よりRの回収につき厳しく指導されていたと考えられ、その回収目的を達成すべく、母親であるPの返済の一部をRの返済に回したと考えても不自然ではない。
 加えて、平成14年8月にPが本件に関し関東財務局に行った行政処分の申立ての後、原告の従業員が被告A3の事務所を3度ほど訪問し、申立ての代理人である被告A3に申立てを取り下げるよう求めている。また、原告の従業員は、Pの自宅も訪れ、謝罪も行っているところ、原告の行為に全く問題がないのであれば謝罪を行う必要は全くない。ましてや、代理人が選任されているにもかかわらず、本人の自宅を2度にわたり訪問したというのは通常考えられないことである。こうした原告の行為は、本件執筆内容に該当する事実が存在したことを前提とし、謝罪により行政処分申立ての取下げを図ったものとしか考えられない。
(イ) 相当性について
 被告A3は、前記Qを通じて、Rの法律相談の依頼を受けたことがきっかけで本件の事実確認を開始している。その事実確認の端緒につき何ら不自然な点は認められない。
 また、被告A3は、被告A3の事務所において2回Pと面談し、同人の陳述書に記載された事実を確認している。
 さらに、被告A3は、P本人だけでなく、Pの次男であり、本件の状況につき直接体験しているRと、被告A3の事務所において2回面談し、上記陳述書に記載された事実を確認している。
 これに、被告A3におけるいわゆるクレサラ問題についての豊富な経験や、原告の社員であったOの体験談等も併せ考えれば、本件記述について真実であると考えるのは、ごく自然なことである。
(原告の主張)
(ア) 記述の真実性について
a 平成16年5月21日付け準備書面までの主張
 別件訴訟において、平成16年5月10日判決があり、同判決は、原告からPに対する第三者請求の事実は認定せず、平成13年10月26日の振り分けは、Pの承諾を得たものであり、同人に無断で行ったものではないことを認定し、平成14年1月10日に支払った2万5000円についてのうち1万3000円については、Pの承諾を得ることなく、Rの債務に振り分けたことを認定した。しかし、平成14年1月10日に関する認定は、事実誤認であり、原告は控訴審で争う予定である。
 Pの陳述書及び供述の信用性について、別件判決は、詳細に分析の上、証拠としての価値を認めず、原告の従業員から親に支払義務があると言われてその旨誤信したとの主張に対しては、明確に第三者請求の事実を否定している。また、Qの陳述書及び証言についても、この内容を採用していない。
 このように、別件訴訟判決は、PがRの債務を支払ったのは、原告と取引する以前から親には支払義務があると誤信していたことが原因であることを明確に認定している。
b 最終準備書面における主張
 当該記述は、@母親であるPに、息子であるRの債務について第三者請求をしたこと、A原告の従業員がPに第三者であるRの債務に関する情報を開示した、ということを内容とするものである。
 しかし、Pを原告、甲事件原告を被告とする釧路地方裁判所平成14年(ワ)第115号損害賠償請求事件についての判決は、上記@及びAの事実について、いずれもこれを明確に否定している。特にAについては、同居していたPがR宛に再三送付されてきた開示式のはがきを見て、Rの債務の存在を知ったことを認定しており、原告の従業員がRの債務の存在を開示した事実は認定していない。
c 上記a、bに共通する主張
 なお、被告らが問題視するお詫びのための訪問は、Pが何らかの理由で苦しい思いを感じていたのであれば、お詫びをしなければならないと思い、訪問したにすぎず、行政処分の取下げを図ったなどという趣旨ではない。
(イ) 相当性について
 本件についての重要な争点は、いわゆる第三者請求の存否であるところ、被告らの主張する「相当性」の根拠は、つまるところ、「被告A3が同人の事務所で2回Pと面談し、被告A3においてまとめた同人名義の陳述書」のみのようである。
 しかしながら、Pの陳述書と同人の本人尋問調書は、重要な点において、相違点が多く存在することは、別件訴訟判決において指摘されているとおりであり、陳述書自体において、信用性が低い。
 Pは、法廷の供述においては、被告A3の誘導的尋問にもかかわらず、原告の従業員から、親だから払ってもらわなければならない、と言われたということは一言も陳述していないのである。
 このように、Pの陳述書は、同人の法廷における供述と重要な部分において相違していたり、事実が隠蔽されており、この陳述書を主な根拠とする被告らの「相当性」は存在しない。
エ 浅野事件について
(被告らの主張)
(ア) 記述の真実性について
 まず、被告A3は、平成13年12月27日付けで、「ご質問」と題する書面を原告函館支店に送付している。そこには、原告の担当者より「月1万円でいいから、できれば支払ってほしい」旨話されたと記載されている。これは、被告A3がSから事情聴取したことに基づくものであり、ありもしない事実を脚色して記載する理由もない。
 次に、被告A3は、既に同様の案件の相談を相当数受けていたことから、被告ら訴訟代理人Tとともに、平成14年4月26日、浅野事件、鈴村事件及び中山事件について、原告に対する行政処分を求めて関東財務局に申立てをした。その中で、本件書籍記載の事実があった旨「申告の事実」欄でそのとおりに指摘している。これも、当時被告A3がSから聞き取った内容を行政処分申立書に正確に記載しているのであって、Uに対する第三者請求があった事実を証明している。
 さらに、被告A3がUから事情聴取し作成した陳述書によると、当時の生活状況が克明かつ詳細に述べられており、Uにおいて到底Sの返済を自主的に申し出る状況になかったことがわかる。にもかかわらず、原告に対してUが返済しているというのは、とりもなおさず、原告から請求を受けたからに他ならない。また、この事情聴取によって、Sが被告A3に対して供述した内容が裏付けられており、Sの供述が真実であることが証明されている。
 さらに、上記「ご質問」と題する書面に対して、原告は全く回答しなかった。このことは、原告において自己の非を指摘されて対応できなかったことを意味すると言わざるを得ない。
 なお、本件においては、被告A3及びTは、全国貸金業協会連合会(以下「全金連」という。)に対して苦情申立てを行い、全金連は、原告に対して事実確認の問合せをしたところ、原告は、同年5月16日付けでようやく、その立場を明らかにするにいたった。これは、被告A3が原告に「ご質問」と題する書面を送付してから約5箇月後のことである。
 この問合せに対し、原告は取立ての事実を否認する内容の報告書を提出した。それによると、請求の事実はなく、Uが支払義務がないことを承知で、Sの借金の返済を再三申し出たこと、利息を免除したこと、被告A3からの問合せの書面は確認していないということであった。この報告書における回答の内容はある程度具体的であるが、支払能力がないはずのきみ子が、Sに代わって支払をしたいという申込がされたとか、SがUに内緒で借り入れたにもかかわらず、Uが平成13年6月6日に自ら原告函館支店に電話したなどと、到底あり得ない事実を主張していた。また、Uが自主的に返済を申し出たのであれば、利息を免除するなどの特別な処理をする必要はない。
 さらに、被告A3が上記「ご質問」と題する書面を送付してからは、Sに対する請求もなければUへの連絡もない。これは被告A3からの書面が原告に届いていたから、原告は請求ないし連絡を控えたものと見るべきである。
 よって、この報告書記載の内容は全く信用できない。
(イ) 相当性について
 被告A3は、相談者の話を鵜呑みにしたのではなく、原告に対し弁明の機会を与えて、事実の問合せをしている。
 すなわち、平成13年12月13日にSが釧路弁護士会主催の法律相談に訪れた際、被告A3は、その話を聞いた上で、上記「ご質問」と題する書面を原告に送付し、Uへの取立の有無等の事実確認を求めたが、原告からの回答はなかったのである。
 また、被告A3は、同種事件を相談担当及び受任していたことから、原告が頻繁に第三者請求をしているとの疑いが濃厚になった。そこで、前述のとおり、被告A3は、関東財務局に行政処分の申立てを行うとともに、全金連に対して苦情の申立てをしたのである。それに対して、原告は上述の報告書を提出してきたが、その内容が信用できないことは既に述べたとおりであるから、被告A3は原告がUに請求したのは間違いないと考えるようになった。
 これに、被告A3におけるいわゆるクレサラ問題についての豊富な経験や、原告の社員であったOの体験談等も併せ考えれば、本件記述について真実であると考えるのは、ごく自然なことである。
(原告の主張)
(ア) 記述の真実性について
 Sと原告との最初の取引は平成7年10月8日であり、Sは、その時点では年収を170万円、利用限度額を25万円から30万円に増額した平成8年2月2日には220万円と自ら申告したのであり、平成13年10月の時点では、貸付残元本は43万4875円で50万円を超えてはいない。
 原告担当者がUに電話したのは、当時実家でUと同居していたSに電話した際、S本人とは連絡が取れなかったため、電話に出た母親、姉妹等の家族に担当者の電話番号等を伝言して折り返し電話を頼んだにすぎず、Uに対して「Sの借金を払ってほしい」などとは言っていない。したがって、Uが「パートで働いていて支払えない」と言うはずはないし、担当者が「払ってもらえないと困る」言ったはずもない。
 また、同年10月以降は、同月26日の1回について1万円の返済があったのみで、「毎月1万円を数回にわたって支払った」というのも虚偽である。
 被告A3作成の「ご質問」については、同年12月27日当時原告に送達されておらず、したがって、これに対する回答もあり得ない。被告A3がSの代理人となった事実は、平成14年1月4日、担当者VがSの自宅に電話をかけた時に、Uから知らされたのであり、その後、原告は、債務者本人には一切連絡禁止扱いとして、被告A3事務所に電話をかけた上、弁護士介入を確認し、同月8日に同事務所とファクシミリのやりとりをした。
 行政処分について、その申立てがあったことは事実であるが、その申立書に記載されている第三者請求の事実はいずれも真実ではなく、関東財務局の検査を経た上でなお、正式な処分を受けるに至っておらず、財務当局によって特に問題視されているものではない。
 加えて、Uの陳述書については、Uは、被告A3に債務整理を依頼している関係にあり、署名を頼まれれば断れる状況ではなく、その信用性は低いというべきである。
(イ) 相当性について
 以上に述べたところによれば、本件記述について、真実と信じたことについて相当性が認められる余地もない。
オ 鈴村事件について
(被告らの主張)
(ア) 記述の真実性について
 本件記述に関しては、平成13年3月8日に、借主Wの実兄Xのもとに、原告の従業員Y(当時札幌ブロック長、札幌琴似支店長)がかけてきた電話について、Xが自宅で録音したテープが残されている。
 これによれば、Yは、Xに対し、「お兄さん2千円か3千円で結構なんですが助けてもらえませんか」「お願いできたら今回助けてもらえませんでしょうか」などの表現で、Xには支払義務のない債務の支払を求めている。
 これは、「助けてもらえませんか」などという言い方をしてはいるものの、電話の相手がWの実の兄であり弟の返済未了分を肩代わりしなければならないとの道義的感情に訴えることを目的としていること、原告の従業員が以前から繰り返しXに電話をして支払を受けている実績があること、今回録音されている会話も支払を拒んでいるXに何度も翻意を促すという執拗なものであること、会話のやりとりの調子はYが「お願いする」という柔らかいものではなく「執拗に迫る」という調子であり、会話の後半のXの声は半ば涙声になっていることなどからして、同人に与える心理的圧力はかなり強度であり、Yの電話が請求行為であることは明白である。しかも、上の会話の中では、「前回の支払」として、XがWの名義で2万1000円を支払ったことが、直接Yの口から語られている。そして、その前回の支払が、原告の従業員から「今回限りだから何とか支払ってほしい」と言われて支払ったものであることもテープの内容より明らかである。
 したがって、以上のような会話の内容からして、本件の事実が現に存在したことは疑いを入れる余地はない。
(イ) 相当性について
 被告らは、本件記述を執筆するに当たり、被告A3において、Xから直接事情の聞き取りをして、原告の従業員から電話がかかって来るようになった経緯や、これまでの原告の従業員との一連のやり取りなどを確認している。また、被告らは、Xからの聞き取りが正しいかどうかを検証するために、上記の原告の従業員との会話が録音されたテープを繰り返し聞いたり、そのやり取りを文書化し会話の内容を確認するなどして、執筆内容に万全を期している。
 したがって、本件記述について真実と信じることについて相当の理由があることは明らかである。
(原告の主張)
(ア) 記述の真実性について
 この件では、従前、Xは継続して返済をしていたものである。返済の滞っている者の親族として、法律的に返済の義務のないことを承知の上、貸した側に迷惑をかけたくないという心情に基づき、任意に返済することがあるが、このことに特段の問題はない。Xにおいて、返済義務がないことを知らなかったとみることはできない。
 テープの内容についてみると、Yの話し方は丁寧なものであり、威嚇的要素も執拗さもない。
 Yの申し出の趣旨は、W本人にとって利息が軽減されるための処置を執りたいことを前提に、その範囲で兄が協力してくれたらありがたいというものであり、会話として不合理な内容はなく、不適切、不穏当な発言もない。
 さらに、Yは、Xが弁済の意思を示さなかったので、電話を切り上げている。
 Xは、継続して2万1000円の返済をしていたところ、平成13年12月の時点ではじめて「これ以上は難しい」との意向を示したものであり、原告はこの意向を受け入れ、その後平成14年1月及び2月に返済がなかったことについて、請求も催促もしていない。
 その後、「今後また何かあれば連絡を」ということで終わっている旨前任支店長から引継ぎを受けたYは、同年3月7日及び8日に、「その後本人との連絡はどうか」「2000ないし3000円程度入金してもらえれば利息軽減処理が可能」ということを確認し知らせるために電話したものである。
 テープに録音されている内容は、そのような前提でのやりとりと理解して何ら不合理な点はなく、被告らが主張するような違法な第三者請求などではない。
(イ) 相当性について
 Xに対する平成13年までの請求がどのようなものであったかについての証拠は皆無である。被告A3としては、直接Xないし母親から相談を受け、話を聞いたというのであるから、その時点で、返済義務がないことを承知していたのか否かの確認を取ることは容易であったはずであるのに、そのような確認は行われていない。ただテープを録るよう指示しただけで、それを聴いた上でさらに確認することもしていない。
 したがって、本件記述について真実であると信じるについて相当の理由は存在しない。
(2) 争点(2)(中山事件に関する記述の不法行為該当性の有無)について
ア 原告の社会的評価への影響等
(原告の主張)
 中山事件に関する記述は、原告の従業員が債務者の母親に対して、違法な取り立て行為をしたことがあった(少なくともその疑いがあった)かのような記述をしたものであり、原告の営業の根幹部分を非難するものであるから、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
(被告らの主張)
 当該記述の内容は、判決に対する被告らの論評であり、国民の重要な権利行使として公正な論評の法理に照らして高度の保護が要請されるし、全体としてみれば、原告の社会的評価を低下させてはおらず、たとえ社会的評価の低下があったとしても不法行為が成立する程の違法性は存しない。
(ア) 原告の社会的評価を低下させていないこと
 中山事件に関する記述は、概ね<Zの主張>−<B1の主張>−<判決>−<論評>との構造をとっており、論評の部分も一方的に原告を非難しているものではない。
 原告が名誉毀損と主張している論評部分は、原告側の主張を事前に述べた上で記載されており、被告らは原告側の言い分には触れずに同社を一方的に批判しているのではない。このような双方の言い分を盛り込んで論評を展開するという文章の構造を見れば、読み手は双方の見解を理解した上で被告ら著者の見解の当否を判断することになるのであるから、必ずしも原告の社会的評価を一方的に低下させるものとはいえず、名誉毀損による不法行為は成立しないというべきである。
(イ) 不法行為が成立するほどの違法性はないこと
 当該記述により、たとえ社会的評価の低下があったとしても、名誉毀損による不法行為が成立する程の違法性は存しない。すなわち、不法行為が成立するためには、侵害の態様と被侵害利益の性質を勘案し、両者の相関関係によって判断すべきと考えられているのであるから、名誉毀損による不法行為が成立するには、単に名誉を毀損されたと主張する者の社会的評価が低下したのみでは足りず、その低下の程度が社会的相当性を逸脱する程度に達していることが必要である。
 当該記述においては、上記のように、双方の言い分を盛り込んで論評を展開するという構成をとり原告側の主張にも一定の配慮をしていること、論評の内容が、東証一部上場企業であり、日本経団連にも加盟し、業界の頂点に立つ企業となった原告の問題を取り上げるものであり、一企業だけの問題にとどまらず多数の国民に大きな影響を及ぼす重要な事項に関するものであること、被告らの行動は出版行為という公明正大なものであり原告に言論出版等による反論の余地と機会を十分に保証する手段によっていること等を考えると、たとえ本件の論評により原告の社会的評価の低下を招いたとしても、被告らの出版行為は社会的に相当な範囲にとどまっていることは明らかである。
イ 公正な論評に該当するか否か
(被告らの主張)
 本件記述が原告の社会的評価を低下させるものであったとしても、当該記述は公正な論評にほかならず、違法性は存しない。
 本件記述は、我が国有数の大企業となった原告の問題を取り上げるものであり、公共の利害に関する事項でかつ一般公衆の関心事に該当することは明らかである。また、その内容が、公的活動とは無関係な私生活曝露や人身攻撃にわたっていないことは言うまでもない。
 本件書籍の出版をした被告らの意図するところは、巨大な社会的影響力を有する原告が、様々な問題点を抱えていることを世に知らしめることにより、原告がノルマ最重視の体質を改め、従業員に対する罵声や降格等の制裁を廃止し、従業員を血の通った人間として扱う体制を整えるとともに、過剰与信や第三者請求などの違法な業務を直ちに止め、健全な企業に生まれ変わることを促そうというものである。
 そして、出版という行為は、原告の過剰与信や第三者請求が原因で連日多くの多重債務者が生み出され、過酷な取立てを受けている現状を放置できないという緊急かつ重要度の高い必要性に応える最良の手段として選択されたものである。
 本件記述を具体的にみても、原告側の主張も紹介した上で、疑問の提起、読者への問いかけに留められており、一方的に自己の見解のみが正しいという記載にはなっていない。したがって、本件記述が客観的にも「公正」であることは明らかである。
(原告の主張)
 論評が許されるのは、その前提たる事実が真実の場合(少なくとも真実と信じるに足りる相当な理由があった場合)に限られる。すなわち、論評は、確固たる事実を前提として、その事実関係に対する自由な意見の表明が許されるという趣旨にほかならない。
 しかるに、被告らの主張しているのは、事実関係そのものに対する被告らの主張にほかならず、論評ではない。事実認定についての自己の主張を行うことを論評などと解する余地はない。
 本件記述は、決して、Z側の主張と原告の主張と判決とを公平に列挙して問題提起をしたようなものではないが、仮に被告らにそのような意図があったとしても、それは、論評ではなくて、事実の主張を形を変えて繰り返し行っているにすぎない。
 後述のとおり、真実ではないことがすでに司法の場で確定したにもかかわらず、相変わらず、原告の従業員が違法な取り立て行為を行った事実があるかのようなことを摘示しているものであり、これを公正な論評などということはできない。
ウ 記述内容の真実性ないし相当性について
(被告らの主張)
(ア) 前提事実の真実性
 この件については、釧路地方裁判所及びその控訴審の判決において、Zに対する原告の違法な取立ては認められないとの認定がされている。しかし、被告A3がZ及び本件関係者から事情を聴取し訴訟に至った経過及び訴訟における審理内容はいずれも本件が真実であることをうかがわせるものであり、上記各判決の事実認定は、当該訴訟における証拠評価を誤ったものと言わざるを得ない。
 すなわち、上記各判決の証拠の評価の当否を検討すると、Zが原告の従業員から支払を求められた事実を裏付ける資料として、Z自身の供述の他、娘a及び証人bの供述も存在しており、Z本人以外の者からもZの供述内容が補強されている。このようにZ本人の供述のみならず、複数の関係者の供述も存在している上に、上記関係者らの供述内容を見ても、原告の従業員からの請求内容が具体的かつ克明に述べられており、供述の信用性は高いと言うことができる。加えて、Zらの主張を裏付けるものとして、原告作成の領収証(領収証中「お客様署名欄」にZが署名している平成8年3月5日及び同年4月6日付けのもの)が存在している。また、aは無職であったのに対し、Zは毎月5日が給料日であったところ、原告は、Zの給料日当日あるいはその翌日に集金している。このような点も、第三者であるZの収入を原告があてにしていたことの現れである。上記訴訟における原告の従業員cらの供述によれば、原告社内においては第三者に対する請求をしないよう厳しく徹底されていたとのことであるが、第三者に請求しないことが徹底されていたのであれば、このようにaの債務について第三者であるZの署名押印が残されていること自体問題とされていたはずである。しかし、当該署名押印が原告社内で問題にされた形跡は全く存在しない。それどころか、上記訴訟における原告の管理カードには「支払義務なき承知」「協力の申し出」の横判が押印されている(乙G8)。このような横判が存在していること自体、原告社内においては、第三者請求が常態化していたことを窺わせるものである。
 また、上記各判決は平成10年に言い渡されたものであるが、その後、原告による同種の第三者請求事案が多数判明しており、さらに、原告の過酷なノルマ体質が明らかになっているのであるから、Zの主張の真実性を裏付ける事情が明らかになったと言うことができる。
 すなわち、近年、原告が、本来支払義務のない債務者の親族に対して請求を行っているという相談が、各地の弁護士に続々と寄せられており、原告が行っている第三者請求の実態が次々と明らかになり、併せて、原告における従業員に対する過酷なノルマの実態も明らかになったのである。
 以上のように、被告A3がZ及び本件関係者から事情を聴取し訴訟に至った経過、訴訟における審理内容及び本件判決後に判明した事情を総合すれば、Zに対する請求が違法な取立てと認定されてしかるべきものである。また、今日までに判明している原告社内の体質及び第三者請求等の被害実態が判決言い渡し当時に明らかになっていれば、判決内容は別のものであったと考えられる。
(イ) 前提事実を真実であると信じるについての相当性
 Zは、娘であるaの原告からの借入れについて、原告から直接取立てを受け続け、困惑した挙げ句、市役所の保護課の担当者にそのことを相談した。保護課の担当者は、弁護士に相談することを助言し、Zは市役所を介して釧路弁護士会の法律相談へ行き、そこで被告A3を紹介された。
 Zの供述については、記憶は新鮮であり、aやaの友人のbの供述内容とも合致していて信用性の高いものであった。
 さらに、Zらの主張を裏付けるものとして、原告作成による領収書が存在している。すなわち、Zがaの債務について原告に支払をさせられた平成8年2月5日、同年3月5日、同年4月6日のそれぞれについて、原告作成の集金用領収書が交付されているが、3月5日分及び4月6日分の領収書の「お客様署名欄」には、Z自身が署名させられている。かかる領収書の署名は、原告が、債務者ではないZに支払を請求した事実を強く裏付けるものということができる。さらに、被告A3は、この点についてaやbらからの供述も得ており、裏付けとして十分な資料や供述を確認している。
(原告の主張)
 Zは、被告A3を訴訟代理人として、原告(B1)を被告として、平成8年に釧路地方裁判所に、損害賠償請求訴訟を提起した。その内容は、本件名誉毀損記述とほぼ同様であり、原告の従業員がZに対して、その娘の借入債務について、大声で怒鳴ったり、執拗な請求をしたりして、その結果、シズエがその意思に反して4万円の支払をしたというものであって、4万円のほか200万円の慰謝料と弁護士費用の支払を求めるものであった。
 しかし、裁判所は、平成10年3月18日に、Z主張のような違法な取立行為を認めることはできないとして慰謝料請求を斥け、ただ、Zの債務支払は錯誤によるものとして4万円の返還のみを認める判決を下したものである。
 この判決に対しては、Z側のみが控訴したが、控訴審も違法な取立行為は認められないとして、同年10月9日に控訴棄却の判決を下した。
 以上によれば、被告らとしては、本件記述記載当時に、本件名誉毀損記載部分が真実でもなく、また、真実と信じるに足りる相当性のないことも熟知していたものである。被告は、Zらの事情聴取をしたり、領収書を検討したりしたというが、それらに基づいた主張立証をした結果、裁判所から、そのようなことでZ主張のような違法取立てを認めることはできないと明確に認定されたのである。したがって、被告の入手した資料では、到底「相当性」が認められないことを知らされていたものである。
 したがって、弁護士としては、その後、この事件に関する記述を公表する際には、Z主張のような事実はまったく存在しないことを前提とした書き方にすることが義務付けられていたものであり、Z主張のような事実があったのかもしれないと誤解されるような記述の仕方は厳に慎むべき義務が存したものと言うべきである。
(3) 争点(3)(甲事件の提訴の違法性の有無)について
ア 甲事件の提訴の違法性の有無について
(ア) 原告の責任について
(被告らの主張)
 原告は、ゴールデンタイムでのテレビCMや新聞、週刊誌等の多数の広告によって、健全かつ良好な企業のイメージ作りに努めてきたが、その裏では従業員を「目標」と称する厳しいノルマにより追いつめ、その結果、従業員は、第三者請求等不当な取立てを数多く行い、一般市民を苦しめてきた。本件書籍は、こうした原告の暗部を公表し、世に問うために発行されたものであって、正当な報道・言論活動である。ところが、原告はこれを名誉毀損であるとして、被告らに対し、販売差止めと5500万円もの損害賠償の支払を求める訴訟を提起した。
 訴えの提起は、裁判を受ける権利の保障との関係上、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が、事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに、あえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に違法になると最高裁判例で示されている。
 本件書籍の記述は、主要な点についてすべて真実であり、このことは原告においても十分認識しているものである。したがって、上記判例の要件に照らしても、甲事件において主張された権利は、事実的、法律的根拠を欠くものであり、原告はそのことを知りながら、あるいは当然知るべきであるのにあえて訴えを提起したものであって、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、違法である(なお、「権利の存在についての重大な不注意」は違法提訴の一類型であり、提訴者において被告の抗弁事実を知っていた場合には当然に、また、容易に知り得る抗弁事実を調査不足等により知らなかったようなときには「権利の存在についての重大な不注意あり」と評価されることになる。)。
 さらに、本件書籍のような出版物について、出版社と執筆者に対して差し止めや損害賠償を請求する訴えについては、表現の自由、報道の自由、国民の「知る権利」といった権利との関係においても違法性の有無が考察される必要がある。
 甲事件は、被告らの言論を弾圧すること及び原告の業務の運営の適正化を訴えて活動してきた被告A3に対しその業務を妨害することを目的として提起されたものである。しかも、その金額は5500万円と高額であって、弁護士や企業を畏怖せしめるに十分である。さらに、原告は、本件の外にも、自己に対し批判的な記事を掲載した出版社等に対し多数の名誉毀損訴訟を濫発しており、批判的な言論を行う者に対し、高額の賠償金の請求と応訴の負担を強いることによって、今後同種の報道・出版がなされないよう言論表現の牽制・弾圧に勢力を注いでいたのである。
 また、原告は本件訴訟以外にも、被告A3に対し、弁護士としての名誉を毀損し、業務を妨害する目的で、釧路弁護士会への懲戒請求申立て、釧路地方検察庁への横領罪での告訴、「A3弁護士被害者の会」と称する(実体のない)団体の設立と、上記の懲戒請求、被害者の会の設立についての記者会見、同会が開設したと称するホームページ上での被告A3への誹謗中傷の掲載その他様々な攻撃を執拗に繰り返している(なお、被告A3に対してされた懲戒申立てに対しては、いずれも釧路弁護士会で「懲戒不相当」との決定が出され、一部日弁連に対し異議の申立てがされたものについても、いずれも「異議却下」の決定が出されている。)。このような事情から、原告の甲事件提訴が、自己に批判的な言論の弾圧と被告A3に対する違法不当な攻撃の一態様であることは疑いの余地はないことから、その目的が裁判を受ける権利の名の下での保護に値しない、極めて悪質なものであることは明らかである。
 さらに、甲事件は、本書籍出版から僅か約3週間後に、被告らに対する抗議等がないままに突然提起されたものである。
 このような言論による被害を訴えるのであれば、まずは出版側に対し、その記事が正しくないことを指摘するとともに、自己の言い分を主張し記事の訂正を求める等、言論をもって対抗するのが筋の通った方法である。言論によって名誉が傷つけられたのであれば、その回復もその言論による訂正で実現するのが最も効果的であり建設的な解決を図ることができるとともに、相手方の言論表現を不当に制限しかねないという問題を避けられるからである。それにもかかわらず、原告は出版後僅かの期間内に上記のような不当な目的のもと提訴を決断し、それを実行したのである。この経過をみれば、原告が、本件の被告らに対し、言論によるやり取りを経ないで、いきなり高額賠償請求訴訟を提起し応訴の負担を強制していること及び本件提訴における請求が適正なものであるかどうかの検討を十分行うことなく(本書の内容の真実性・相当性についての調査を行うことなく)、拙速に提訴を決断していることがうかがえる。
 加えて、本件書籍61頁以下に記載されている「林田事件」については、林田(仮名)から原告に対し損害賠償請求訴訟が提起され、平成15年10月に原告が林田に対し解決金として100万円を支払うことで裁判上の和解が成立している。この解決金は、先に林田が原告に支払った63万4000円に弁護士費用10万円を加えた金額を36万6000円も上回る額であり、原告も違法な第三者請求があったことを認めた上で和解を成立させているのである。それ故、本件訴訟において、原告から「林田事件」は名誉毀損による損害賠償の対象からは外すことが明言されている。このように、原告が本件訴訟を提起してわずか半年後に、掲載内容(の一部)は虚偽ではなかったと主張を翻している。しかし、短期間の調査でそれまで判明していなかった第三者請求が判明したというのはいかにも不自然である。林田の陳述書にも記載されているとおり、林田には原告宮崎支店ばかりではなく東京本社からも、「3000円の追加」を求めたり、「30万円一括の支払」を求めるといった、林田の娘の借金の肩代わりを求める電話が何度もかかってきていたのであり、原告本社管理部が管理する債権を回収するために本社が率先して第三者請求を実行していた事案であって、一支店の従業員の行き過ぎによる第三者請求とはいえない。原告の幹部らは、当該事案における第三者請求の事実があることを十分承知していながら、敢えて甲事件の提訴に踏み切ったものにほかならない。
(原告の主張)
 他人の名誉・信用を毀損する事柄を内容とする書籍を公刊する場合には、名誉・信用毀損として損害賠償請求されることは当然覚悟していたはずのものである。表現の自由の保障が名誉毀損としての責任追及を免れるものであることまでも意味しないことは争いのないところである。また、法治国家においては、裁判を起こす権利は最大限に保障されるべきである。
 被告らは、原告が従業員に対して苛酷なノルマを課していたとか、そのために従業員らが広く第三者請求をしていたとか、そのことを原告が認識していたはずなどと主張する。原告としてはこれを強く否定するものである。被告らは、原告に対して、浅野事件、中山事件、鈴村事件及び徳田事件について、行政当局に申立てをしたが、行政当局は調査の結果、そのような事実はないと結論づけている。これまでに、原告について違法な第三者請求があったと認定されたことは一度もない。被告らが提出した各証拠ないし事情は、被告らの主張を裏付けるものではなく、逆に、本件の記述が事実とかけ離れたものであることを示しているとさえ言えるのである。
 また、被告らは、本件訴訟提起が被告A3をねらい打ちにしたものとの前提に立ち、違法な加害目的を主張しているが、そのような事実はあり得ない。すなわち、本訴提起は、当時、「週刊金曜日」の提訴を引き受けていた原告訴訟代理人d及びeが、f専務らから相談を受けたことに始まる。この相談内容は、専ら、本件書籍の記述内容が違法な名誉毀損になるのではないかということに尽きたのであり、「A3弁護士を叩きたい」などという話は全くなかった。そもそも、d及びeは、その時点で、被告A3がどのような人物であるかをまったく知らなかったのであり、したがって、被告A3について当該記述部分の執筆者の1人という以外に何の認識も抱かなかった。甲事件提起後の書類の交換の経過の中で、被告A3が一定の分野で有名な弁護士らしいということが段々分かってきたが、提訴当時にはそのことについてまったく知らなかったのである。そして、本件書籍で名誉毀損として最も問題の箇所が冒頭の具体的事例であることは、これまでの原告の主張からも明らかであるが、弁護士が中心となって検討した結果でも、専らその部分を取り上げるべきということになったものである。その結果として、当該部分の執筆者と編集者を被告とすることになったのであり、それ以上に被告A3を意識したことはまったくない。そのような基本的枠組みが決まった後に、g弁護士にも加わってもらうことになったのであり、したがって、g弁護士の意思が被告の選択に影響した事実もない。
 さらに、被告らは、本件書物の発行から提訴までの期間が3週間程度であったことを問題にしているが、具体的記述部分が名誉毀損になるか否かは一読すれば判断のつく問題であり、真実か否かについては記述内容と依頼者からの事情聴取ならびに提供資料でかなりの程度見当がつくことである。特に、本件の場合には、g弁護士が訴訟を担当していた事例が多かったこと、すでに着手していた上記「週刊金曜日」の事案と同一のものがあったことなどから、「記述内容が真実でないこと」「相当の根拠もなく記述したと考えられること」の判断は容易であった(なお、一般的にも、新聞や雑誌による名誉毀損の場合には、仮処分の必要があることも多く、したがって、名誉毀損の提訴(仮処分申立てを含む。)においては、一、二日程度の準備で行われていることが珍しくない。)。本件書籍の中で、たとえばh執筆の盗聴事件のことなどを取り上げずに、第三者請求の悪質具体例として記述された部分に限って問題にしたのも、原告訴訟代理人として、違法な名誉毀損であると確信の持てる部分に絞ったためである。これら第三者請求として取り上げられた部分は、それまでに訴訟案件として検討を重ねていたり、行政処分申立てに対する反論作業の中で整理されていた資料を検討することができたものである。これに比べて、盗聴問題などは、その時点では、原告訴訟代理人において、これを虚偽と決めつけるだけの調査もできなかったので、本訴の対象から外したものである。この点からも、本件が、他目的の濫訴などではなく、原告訴訟代理人として、慎重に検討を行い、違法な名誉毀損として確信の持てる部分のみを訴訟対象としたことの裏付けである。
(イ) 丙事件被告の責任について
(被告らの主張)
 甲事件の提訴は不法行為に該当し、原告は被告らに対し不法行為責任を負うものであるが、原告は、元代表取締役社長である丙事件被告が昭和41年に「i」の屋号で創業し、以降原告へと発展した会社であるところ、丙事件被告は、一貫して原告のオーナーかつ最高権力者として絶大な権力を振るってきた。
 原告においては、ありとあらゆる事項について丙事件被告が決定するのであり、甲事件の提訴も丙事件被告個人の意向により、その強力な指示に基づいてされたことは明白である。
 したがって、原告と丙事件被告は民法709条、719条により被告らの損害について連帯して賠償する責任を負うものである。
(丙事件被告の主張)
 原告は、大規模な企業であり、丙事件被告といえども、その隅々にわたってまで直接決裁をしているわけではない。
 本件で問題となるのは、甲事件の提訴を丙事件被告が指示命令したか否かであるところ、丙事件被告は本件書籍を読んだこともないのであり、原告訴訟代理人自身も、提訴に当たって丙事件被告と連絡を取ったこともない。
イ 丙事件被告が証拠調べ期日に出頭しなかったことについて
(被告らの主張)
(ア) 本人は訴訟の当事者であって、第三者である証人以上に訴訟に尽力する必要性と義務性があるのは当然の事理である。したがって、本人出頭の必要性、義務性の方が証人出頭のそれよりも重いことは明らかである。
(イ) 原告らは、本人の陳述拒否の正当理由がそのまま不出頭の正当理由になるかのように主張するが、独自の見解と言わざるを得ない。出頭義務は、陳述義務とは別に、それ以前の義務として独立に存在する。そのため、両者は民事訴訟法208条という同一の条文に規定されながらも、別々に議論されており、不出頭の正当理由と陳述拒否の正当理由についても同様である。刑事訴追を受けるおそれがある事項について本人が行使できるのは陳述拒否であって、出頭拒否ではない。出頭した上で、刑事訴追を受けるおそれのある事項について質問がなされたときに陳述を拒絶すれば足りるのであって、後記原告らの主張の論理は成り立たない。
(ウ) 原告らは、本件の予定尋問事項が丙事件被告の関与実態に関するものであり、答えようとすれば、結果として刑事訴追の危険を招くとしているが、本件の予定尋問事項の中心は、あくまでも甲事件提訴についての丙事件被告の関与実態である。それによって、ホームページ作成についての丙事件被告の関与が問題とされている名誉毀損事件について、刑事訴追の危険を招くというのは、論理の飛躍である。しかも、丙事件被告は、起訴された名誉毀損事件については事実関係をすべて認めており、ホームページ作成について同人の関与実態は既に明らかとなっている。よって、本件について同人が陳述を行うことで刑事訴追の危険性が高まるというのはあり得ない。
(エ) 以上より、本件においては、民事訴訟法208条所定の不出頭の正当理由はなく、その他、不出頭の正当理由に該当する事情は全く認められない。
(原告らの主張)
(ア) 民事訴訟法は、証人については、不出頭に対する過料、罰金、拘留に処すること、あるいは勾引を定めて、出頭が法に基づく強い義務であることを明らかにし、また、証言拒絶事由を法定し、その事由がないのに証言を挙した場合には過料、罰金に処することとしている。
 これに対し、本人については、過料、罰金等の制裁は一切なく、また勾引という方法も用意していない。僅かに、正当事由のない不出頭・証言拒絶に対して、「尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる」としているのみである。
 したがって、一般論として、本人の出頭の必要性あるいは義務性は、証人に比べて著しく低い。
(イ) 民事訴訟法196条が定めている証言拒絶正当事由は、本人質問において準用されるべきであり、具体的には同法208条の正当事由の一内容たり得るものと解すべきである。そもそも、自身の刑事訴追の危険を招く事柄について供述を拒否できるのは憲法38条1項により保障された基本的人権であるともいえる。
 また、予定されている質問の基本的部分についてこの証言拒絶正当事由が存するときには、そのことは不出頭の正当な理由に当たると言うべきである。
 したがって、予定された尋問事項の基本的部分のすべてが刑事訴追を受けるおそれがある事項に該当する場合には、すべての質問に対して答えを拒絶する正当事由があり、しかも、そのことが事前に判断可能であることになり、そのような場合に敢えて出頭させる現実的必要性ないし相当性がないことは明らかだからである。
(ウ) 丙事件被告は、原告が作成し、会社のホームページ上に掲載された記事について、名誉毀損として、現に刑事訴追され、また、同様の他の記事掲載について名誉毀損として告訴、告発され、受理された。
 それらの事件においては、いずれも、記事作成者は丙事件被告ではなく、またその記事をホームページに掲載する作業を行ったのも丙事件被告ではない。起訴された事件における検察官の主張によれば、ホームページに当該記事を掲載することが丙事件被告の意向に基づいたものであり、実際に、掲載前に決裁も行ったことというが刑事責任の根拠となっている。また、検察官は、他の大企業と異なり、原告においては、丙事件被告の指示及び命令が積極的、具体的であり、細かな点についても、専ら丙事件被告の意思に基づいて決定がされていることを強調している。
 したがって、一連の名誉毀損事件においては、原告において、丙事件被告が、どのように情報を集め、どのように決断し、どのように指示及び命令を下していたのかという実態がきわめて重要であり、そのことが刑事責任あるいは刑事訴追を決定づける事柄であった。
 ところで、本件の予定尋問事項のうち、人証申出書第2の4は、まさに、その指揮、命令の実態をテーマにするものである。また、第2の5及び平成16年7月28日付追加尋問は、「批判的記事に対する訴訟への関与」を素材にしているものの、問題にしている主要なテーマは、丙事件被告の情報収集、決断、指示命令の実体にほかならない。少なくとも、答えようとすれば、丙事件被告の情報収集、決断、指示命令の実態についても明らかにしつつ答える以外にないから、結果として、刑事訴追の危険を招くことに変わりはない。
(エ) 以上のとおりであるから、丙事件被告に予定された尋問事項の基本的部分は、すべて、丙事件被告において、「刑事訴追を受けるおそれがある事項に関するとき」に該当する。
(オ) なお、先に述べたように、当事者本人には出頭義務は存しないか、きわめて弱いものとしてしか認められていない。したがって、民事訴訟法208条も制裁的規定ではない。このことは、法令でも「不出頭等の効果」とされているにとどまることから明らかである。
 また、法文上、「裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることが『できる』」とされているにすぎないことからして、この規定は、当事者の不出頭により、争いある事実関係の中で、他の証拠では証明不十分な事項について、立証責任の分配の例外として、不利益を欠席側に負わせることとしたものと解すべきである。
 したがって、他の証拠により証明が行われている事項に関してまで、敢えて、証拠を無視して、不利益を欠席側に負わせることは許されない。
(4) 争点(4)(本件書籍の出版による原告の損害)について
(原告の主張)
 原告は、本件各記述を掲載した本件書籍を大量に頒布されたことにより名誉及び信用を著しく毀損された。
 その損害としては、5000万円を下らない。
 また、原告は、本訴提起を原告訴訟代理人らに委任したが、弁護士費用のうち500万円は本件不法行為と相当因果関係のある損害である。
 さらに、本件書籍は、B1被害対策全国会議の名を冠して、原告に対する一連の攻撃の手段として発行、販売されたものであり、被告らは、今後も本件書籍を継続的に頒布販売する可能性が高いところ、このような場合、既に行われた過去の名誉及び信用毀損についての損害賠償を求めるだけでは不十分であって、人格権に基づき、差止請求が認められるべきである。
 なお、法人が被害者の場合でも、個人の場合と同様、差止請求が認められるべきであり、その根拠は民法723条に求められる。
(被告らの主張)
 争う。
(5) 争点(5)(甲事件提訴による被告らの損害)について
(被告らの主張)
ア 被告A3、A1及びA4は、違法な甲事件の提起により、極めて正当な言論及び弁護活動を不当に非難されたものである。
 このような不当提訴に応訴するには、日常の多忙な業務の中、多くの時間を割いて対応しなければならず、その精神的苦痛及び経済的損失は甚大であって、金銭に見積もれば、それぞれ500万円を下らない。
 また、この応訴並びに乙事件及び丙事件の提訴について、弁護士である代理人に委任する必要があり、そのための費用として、それぞれ250万円を負担することとなったところ、これは原告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
イ 被告A2は、極めて正当な言論活動としての本件書籍の出版を名誉毀損であると決めつけられ、法人としての名誉及び信用を著しく毀損された。この損害を金銭に見積もれば、500万円を下らない。
 また、この応訴並びに乙事件及び丙事件の提訴について、弁護士である代理人に委任する必要があり、そのための費用として、それぞれ250万円を負担することとなったところ、これは原告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
(原告らの主張)
 争う。
第3 争点(1)(本件各記述(中山事件に関するものを除く。)の真実性ないし相当性の有無)についての当裁判所の判断
1 判断の基準
 名誉毀損行為が、公共の利害に関する事実にかかり、専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは(真実性の要件)、当該行為には違法性がなく、また、行為者において、摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があるときは(相当性の要件)、当該行為には故意又は過失がなく、結局不法行為は成立しないのであり、かつ、上記の事実の真実性等については、主要な部分又は重要な部分についての証明で足りるものである。
 そこで、上記の基準に照らし、本件各記述についての不法行為の成否を検討する。
2 宮坂事件の記述(本件記述4ないし12)について
(1) 本件記述5の真実性ないし相当性について
 被告は、Cは当初長男の医療費の不足を補うため10万円借りるつもりで原告岐阜支店を訪れたのに、原告の従業員に最初の借入れに際しては、貸し出し枠限度まで借りてもらわなければならないといわれて、仕方なく50万円を借りたものであると主張し、Cはこれに沿う陳述(乙B1、12、18)をする。
 確かに、当初の借入れの目的からすると、10万円程度を借りるつもりであったとの陳述は、自然であるということができる。また、この点に関し、原告はこれを明確に否定する証拠を提出していない。
 しかしながら、Cが取材に応じて答えている内容を検討すると、子供の治療費として一定の金員が必要であったこと、「買い物症候群」に罹っていたため、金員を必要としていたこと(乙B18・2頁)、他の金融業者への支払が滞っており、そちらへの支払へ充てる金員も必要としていたこと(乙B18・15頁)、C自身50万円の貸付について当初はありがたいとも思っていたこと(乙B18・17頁)などの事情が存在しており、これらの事実に加え、一般に負債が膨らんだことについては自己の責任をできるだけ軽く考えたいというのが自然の情であることなども加味して考えれば、たとえ当初10万円程度を借りるつもりであったとしても、原告の従業員から50万円までの借入れが可能である旨説明され、かえって好都合であると考えてそのまま限度額一杯の金員を借り入れた可能性も否定できない。これらのことからすると、本件記述5のうち、原告の従業員が50万円の枠一杯でなければ貸さないと発言したか否かについては、上記陳述のみをもって、その内容を真実であると断定することは困難である。
 もっとも、Cは三度にわたる取材、被告ら訴訟代理人j弁護士による陳述録取、別件訴訟における裁判所からの書面尋問を通じて、一貫して自らの意思に反して50万円を貸し付けられたと陳述しており(乙B1、12、18)、被告A3においてそれを積極的に虚偽であると疑うまでの事情は認められないこと、後記第6の1(1)エにおいて認定するとおり、原告においては厳しい貸付ノルマがあり、原告の従業員において、できるだけ多くの貸付を行おうとする強い誘因が存在していたことなどの事情に照らせば、本件記述5について、その内容を真実であると信じるに足りる相当の理由は、これを肯定することができるというべきである。
(2) 本件記述4及び6の真実性ないし相当性について
 Cは、平成9年4月上旬に、原告の従業員が自宅を訪れ、夫が在宅していることを知って夫に支払ってもらうよう要求したことを一貫して陳述しており(乙B1、18、19)、また、証拠(乙B2、8)によれば、Cは平成8年末ころから毎月の返済を遅滞するようになり、平成9年3月分の返済も同月29日の電話による請求に対して持参して支払う旨約束しながら直ちには支払わず、同月31日及び同年4月1日には原告が請求の電話をしたにもかかわらず、不在であったことから、同月初めには、原告の従業員がC方へ集金に赴く理由が認められること、同月3日には現に1万3000円の弁済がされていることが認められ、この事実も上記Cの陳述に符合するものである。
 他方、原告はこのような事実の存在を否定するところ、確かに交渉履歴明細(乙B2)には、このころそのような取立てがあったことの記載はないが、交渉履歴明細は、債務者方へ直接集金に赴いたことを記録するものではなく、債務者に電話をした場合又ははがきを発送した場合の記録であるから(甲E7)、ここに記載のないことから直接の集金がなかったものとはいえない。
 以上のとおり、確かに本件記述4及び6の真実性を裏付ける直接的な証拠は原告指摘のとおりCの陳述のみであるが、上記のとおり、この陳述に符合する客観的事実もあること、また、上記Cの陳述を否定する証拠の提出はないから、同記述の内容は真実であると認められる。
(3) 本件記述8及び9の真実性ないし相当性について
 C及びその長男は本件記述8及び9の内容に沿う陳述を一貫してしている(乙B1、12、16ないし19)のに対し、原告の従業員はこのようなことがあったことを否定する陳述をしており(甲B2)、双方の言い分が対立している。
 まず、Cの長男が、平成12年秋ころ、学校の帰りに何者かにCの勤務先や携帯電話の番号(090−△△△△−△△△△)を聞き出された事実は証拠(乙B1、16、17)に照らし、容易に認定でき、また、原告もこの点を強く争っているものではない。したがって、問題は、この何者かが原告の従業員であるか否かということになるが、この点については、その後、原告の従業員がC方へ取立てに行った際、Cの長男が「このおじさん見たことがある」と述べ、それが学校帰りに上記のことを聞き出した者であると述べていたことが認められ(乙B12、17、19)、これに反する直接的な証拠はない。
 原告は、平成15年10月16日付けの別件訴訟の準備書面において、C自身から090−××××−××××という携帯電話番号を確認してこれに連絡していたのであり、これ以外にCの携帯電話番号を確認した事実は存在しないと主張しているところ(乙B6)、証拠(乙B2)によれば、平成12年6月21日に、原告の従業員がCに連絡を取ったところ、Cが、自分の携帯電話番号として、090−××××−××××を告げたことが窺われ、これは一見原告の主張を裏付ける事実にみえないではない。しかしながら、証拠(乙B3)によれば、この携帯電話は、プリペイド式であって、その加入期間は平成11年10月25日から平成13年6月26日であるところ、証拠(乙B2)によれば、上記携帯電話の加入期間後の平成13年12月28日以降、原告の従業員は、たびたびCに対して携帯電話によって連絡をしており、仮に上記携帯電話の番号以外に携帯電話番号を確認していないとすれば、このような連絡は不可能なのであるから、原告においては、何らかの方法でCの携帯電話番号を別途確認していたといわざるを得ない。そうすると、Cの長男が何者かに番号を告げた携帯電話は、これに先立つ同年1月11日に既に解約されていたのであるから(乙B3)、上記の時期に原告の従業員がどの携帯電話を通じて連絡を取っていたかは不明であるといわざるを得ないものの、少なくとも上記の原告の主張は到底採用できないものといわなければならない。
 他方、証拠(乙B17・1頁)によれば、平成14年11月25日の取材において、Cの長男が、取材に応じて、見知らぬ男に教えた内容として、「お母さんの仕事場、連絡先とか…」と答えたのに対し、Cが「携帯も教えたの」と聞き、Cの長男が「たぶん」と答えると、Cが「うわあ…だれか携帯に電話くる…」と嘆いたという原告指摘のやりとりの存在が認められ、ここからすると、Cは、同日の取材において、初めて長男が携帯電話番号を他人に教えたという事実を知ったかのように考えられないではない。しかし、それに先立つ同月20日の取材においては、Cが、長男が学校帰りに待ち伏せされた事件に関して、「学校にも1回来られた。B1さんなんですけど」、「携帯の電話聞き出して、それからは携帯が鳴るようになった、仕事中でも」と明確に応答しており(乙B18・13頁)、Cはこの時点で長男が原告の従業員に自分の携帯電話番号を教えた事実を把握していたと明らかに認めることができるから、Cの陳述録取書(乙B1)の「同年10月初め頃だったと思いますが、私が家に帰って『何でB1から携帯に電話がかかってくるんやろ』と子供らの前で言ったところ、長男が『教えたんやけど、B1の人やったんやね』と言ったので、長男を叱りつけたことを覚えています」という陳述内容に矛盾があるとはいえない。確かに平成14年11月25日の取材におけるCの上記の発言はそれ自体においてはやや不可解な面があり、自己の被害をいささか誇張し、周囲の関心ないし同情を引こうとする傾向が見られるといわざるを得ず、発言の一貫性を損なう結果となっていることは否定し難いものの、これは、証拠(乙B14、15)によって認められるように、同人の精神的な不安定さに起因するところがあるのであって、ここから直ちに、同人の発言が全体として信用できないものとはいえない。
 そして、Cの長男が通う小学校では名字を記載した名札を胸に付けることとされており、第三者であっても、生徒の名字を確認することは十分可能であったこと(乙B4)、この待ち伏せ事件があった直後である平成12年9月22日には、現に原告からCの携帯電話に連絡がされていること(乙B2)、平成15年12月12日の取材中にCが原告岐阜支店に電話したところ、応答した支店長代理のkは、Cが、原告の取り立てがひどく、子供が学校で母親の職場等を聞かれたことすらあると述べたことに対し、先にCから子供がうつ病になった旨の手紙を受け取っており、ある程度Cの苦情内容を認識していたにもかかわらず、「ああ、そうなんでございますか」と答えるのみで、積極的に否定する態度を示していないことや(乙B19)、原告においては厳しい取り立てや身辺調査が日常行われていたことが推測されることなどの客観的事実も総合すれば、原告の従業員からCの職場や携帯電話番号を聞き出されたとするCの長男及びCの陳述は、これを十分信用できるというべきである。原告は延滞日数が短かったことからそのような身辺調査等をする理由はないと主張するが、採用できない。
 したがって、本件記述8及び9については、真実であると認められる。
(4) 本件記述7について
 本件記述7は、Cが支払えない場合や不在の場合に、実家の母親に電話して「何とかお願いします」と請求しているという内容のものであり、「第三者であっても単にお願いするのは違法ではない」とする原告の立場からすれば、違法な第三者請求がされていると明確に述べているものではなく、そもそも原告の名誉を毀損する内容であるといえるか否かには疑問もあるものである。
 したがって、当裁判所としては、本件記述7については、そもそも損害賠償請求権を発生させる程度の名誉毀損表現であるとは考えないものであるが、事案に鑑み、その内容の真実性及び相当性についても検討しておくこととする。
 この点についてCは、平成14年2月21日に母親が原告の従業員に支払を約束させられ、同月28日に原告に電話をして振込用の口座番号を聞き、その後支払ったと母親から聞いている旨陳述(乙B1)し、また、原告の従業員が、Cの母親に対し、支払義務があるから払って欲しいと告げて相当額を払わせていた旨も陳述(乙B18・16ないし17頁)している。他方、交渉履歴明細(乙B2)によれば、原告の従業員が、平成14年2月21日に、Cの携帯電話に連絡したところ、Cが「今回の分は母に頼んだ」と述べ、同月28日には、Cの母親から原告に電話があり、振込用の口座番号を伝えたとの記載があり、また、証拠(乙B7)によれば、同年3月1日に1万3000円の入金があった事実が認められる。
 さらに、交渉履歴明細(乙B2)によれば、原告は平成10年2月2日にCの実家に電話をかけているし、Cが原告に対し「母親に頼んだ」と告げたことが、上記認定のほかに3回(平成8年12月4日、平成9年3月5日及び平成12年12月22日)あり、また、Cの母親の方から原告に対して電話連絡があったことが、上記以外に平成9年7月1日及び平成11年3月17日にあり、また、Cの自宅に電話をかけたところ母親が出たことが平成10年11月17日及び平成12年5月18日(なおこの日はCの給料日が24日であることを聴取している。)にある。
 以上からすると、Cの母親は、Cの借金について、相当程度の関わり合いを有しており、上記同年3月1日の1万3000円のほか、何度かCの母親がCの借金について返済した事実を推認することができる。
 もっとも、それが原告の方からCの母親に対して協力依頼ないし請求されたのか否か及びその依頼ないし請求の具体的な態様については、Cの陳述は、母親からの伝聞にすぎず、そのほかこれを明らかにする証拠がないから、具体的にこれを特定することは困難である。
 したがって、本件記述7については、その内容を全面的に真実であると認めるまでには至らないが、上記のような事情を前提とすれば、その内容が真実であると被告A3らが信じたことについては相当性を十分に肯定することができる。
(5) 本件記述10ないし12について
 Cは、本件記述10ないし12の内容に沿う陳述(乙B1、12、17ないし19)をするのに対し、原告の従業員のEは、平成14年9月20日の件については事実の存在自体を否定し、また同年10月24日朝、C方に集金に行ったこと、その場でC本人とおぼしき女性に会いインターホン越しに会話をしたが、Cではないと否定され、手紙を渡すことを依頼したことはあるが、それ以上に財布の中の確認や指を鳴らしての取立てといった事実はないと陳述(甲B1)する。
 そこで双方の陳述の信用性を検討すると、まずCの陳述については、3度にわたる取材において一貫して、指をぽきぽき鳴らされての取立てがあり子供と一緒にいるときでも同様であったこと、財布の中身まで見せることを要求されたことなどを述べており、その内容は具体的かつ真に迫るものがあり、少なくとも、これを虚偽であると判断する根拠は何ら存しないといわなければならない。他方、Eの陳述については、C本人と推測される女性が、Cの知人であると名乗った上、CはH病院の精神科に入院していることを告げ、夫の携帯電話番号及び勤務先まで進んで教えたという内容であるが、C本人が取立てから逃れようとして一種の居留守を使っているのであるとすれば、夫の携帯電話番号や勤務先を積極的に教えるというのは、必要以上に協力的であるとの印象を拭いきれず、不自然であってたやすく信用することができない。むしろ、上記陳述のうち、EがC方に集金に訪れたことがあることと、Cが別人のふりをして居留守を使ったという部分については、Cの陳述と一致していることにかんがみれば、同陳述部分はCの陳述を補強するものであり、その余の不自然な部分は、本件記述10ないし12記載の事実について、真実を当たり障りのない形に脚色して述べているものとの疑いを生じさせるものである。
 以上によれば、本件記述10ないし12記載の事実については、これが真実であるとするCの陳述は信用性を否定する事情がないのに対し、その存在を否定するEの陳述は容易に信用することができず、結局、真実性を肯定することができる。
(6) 以上によれば、本件記述4ないし12については、その大部分について真実性を肯定することができ、また、そうでない部分についても、真実であると信じるにつき相当の理由は十分認められるものである。
3 大川事件の記述(本件記述13ないし16)について
(1) 証拠によれば、大川事件につき、以下の事実が認められる。
ア Iは、本件当時、原告の名古屋管理室内の金沢ブロックの担当社員であった(証人l)。
イ Kは、原告からの借入れがあり、本件当時も残高があるとされていた(乙C4)。
ウ Iは、平成14年6月20日午後6時30分頃、Kの母親で当時76歳であったJのマンションを訪れ、Kに面会したいと申し入れた。当該マンションは5階建てでいわゆるオートロック式となっており、Jの部屋は2階にあったところ、Iは、マンションの正面玄関ではなく、たまたま施錠されていなかった駐車場に面した非常口から入った(甲A1、C1、乙C4、18、証人l)。
エ Iは、翌21日午後8時過ぎにもJのマンションを訪れた。Iは、再三Kに面会したいと申し入れるなどしたため、Jは、警察に通報すると共に、Kにも連絡した(乙C4、5)。
オ Kが、同日午後8時50分ころJのマンションに到着したところ、同人の居室のある2階から1階のエントランスホールに降りてくるIに遭遇した。
 Kは、Iの写真を撮り、Iを詰問したところ、Iは、原告の従業員であることを特に名乗らず、Kに対し、「とにかくお支払いしていただけませんか」と借金を弁済するよう求めた。その際、Iは、マンションの住人の許可を得ることなくマンションに立ち入ったことを認めていた。
 両名が言い争っている間に警察官が到着し、警察官から事情を聴取されることとなった(乙C4、5)。
カ Kは、同日午後9時12分ころ、勤務先の上司であるmに連絡をして事情を説明し、mは、午後9時36分頃、金沢西警察署に連絡して、事情の説明を求めるとともに、Iの取立てが強引であり問題である旨の指摘を行った。
 応答した警察官は、現場に臨場した際、Jが腰を抜かし、怯えた様子で、立ち上がれない状態であったことを確認したと述べていた(乙C4、6)。
キ Kはその後、同月24日に1回、同月26日に4回、同年7月3日に1回、それぞれ原告の支店に電話をし、Iを電話口に出すよう要求したが、いずれも拒否された(乙C7ないし9)。
(2) 本件記述14ないし16について
 以上において認定したとおり、Iが平成14年6月20日と翌21日の2回にわたってJの居住するマンションに訪れて、同人と会話をしたことは認められるところ、これに下記アないしエの事情を加味して検討すれば、本件記述14ないし16の内容はいずれも真実であると認められる。
ア Iは本件マンションに正面玄関があることを知らず、駐車場に面した非常口が入口であると思い、2日ともそこから入ったと述べている(甲C1、証人l)。
 しかしながら、原告提出の写真(甲C2(枝番を含む。))を検討すると、Iが立ち入った出入口は、駐車場の奥にある簡易なドアがあるだけのものであって、通常の常識を有する人間であれば、マンションの住人だけが使用する通用口であると認識すべきものであって、そもそもこれを正式な出入口であると認識すること自体が不自然であるといわざるを得ない。
 さらに、前記(1)オにおいて認定したとおり、同月21日には、Iは、マンションから退去するに当たって、Jの居室がある2階から、1階の正面玄関に接するエントランスホールに向かっているときにKに遭遇したものであることからすると、Iは、同日の時点では、マンションの正式な出入口は1階正面玄関であることを認識していたことが明らかである。
 以上の事実からすると、Iの供述はこれを信用することができず、Iは、同日の訪問において、正面玄関があることを認識しながら、Jに拒絶されることなく、その居室前まで侵入するために、あえて正面玄関を避けて、施錠されていなかった駐車場奥の非常口からマンションに立ち入ったものと認められ、単にJにKの住所等を確認するためだけであれば、正面玄関のインターホンで会話をすれば足りると考えられるのに、あえてこのような挙に出ていることからすれば、Iには、単にインターホン越しの会話だけではなく、より直接的な働きかけを行う意図があったとみるのが相当である。
イ 前記(1)エにおいて認定したとおり、Jは、Iの訪問に対して、警察とKに連絡を取っており、Iの訪問時に、何らかの異常事態があったことが推認される。
ウ 前記(1)カにおいて認定したとおり、警察官が現場に臨場した際、Jは腰を抜かし、怯えた様子で、立ち上がれない状態であったのであり、Iの訪問時に、何らかの恐怖を感じる出来事があったことが推認される。
エ 以上に対し、原告の従業員であるlは、Iからの事情聴取等に基づいて、本件記述14ないし16が真実に反する旨の証言ないし陳述(甲C1)をしているが、前記(1)オにおいて認定したとおり、Iは、原告の従業員であることを名乗ることなく支払を請求していたものであるところ、証拠(乙C9)によれば、lは、Kに対し、原告の社員であることを名乗らずに支払を請求するようなことはあり得ないと返答しており、lがIから聴き取った事情の正確性には疑問がある。
 また、上記アにおいて認定したとおり、Iはマンションに正面玄関があることを認識しながら敢えて駐車場奥の非常口から立ち入ったものであると認められるところ、lは、非常口を正式の出入口であると誤解していたとのIの弁解を鵜呑みにして、その趣旨の陳述(甲C1)ないし証言をしている。
 さらに、lは、IがJの郵便受けに書類を受けた旨証言しているところ、証拠(乙C18)によれば、本件マンションは、1階の正面玄関前に全居室の郵便受けをまとめて設置する方式を採用しており、個別の居室のドアには郵便受けがないことが認められるから、上記証言は明らかに客観的事実に反するものである。
 以上の事情に照らせば、本件に関するlの陳述(甲C1)ないし証言は、信用性に乏しいといわざるを得ない。
 以上のように、Iはマンションに正面玄関があることを知りながら敢えて駐車場奥の非常口からマンションに立ち入っており、Jの居室の前まで行って直接的な働きかけを行う意図があったと推認されること、JがKや警察に連絡していることや警察官が臨場した際に怯えた様子で腰を抜かしていたことから、Iの訪問に伴って、Jが強い恐怖を感じたことが推認されること、強引な取立ての事実を否定するI及びlの陳述ないし証言の信用性は低いこと、前記(1)キにおいて認定したとおり、Iを電話口に出すようにという要求に対しこれを一貫して拒絶し、本件訴訟においてもIは証人として出廷しないことなどの事情を総合的に考慮すれば、本件記述14ないし16記載の事実は真実であると認められる。
(3) 以上のように、本件記述14ないし16の内容が真実であると認めることができることからすると、それらを含む文章の見出しとしての本件記述13もまた、概ね真実に合致するものと認めることができる。
4 徳田事件の記述(本件記述17ないし19)について
(1) 証拠によれば、徳田事件について、以下の事実が認められる。
ア Pは、平成7年に夫を亡くした後、長男n、次男Rと同居し、Pとnが漁業(昆布漁)を営んで暮らしていた(甲D1、乙D5、10)。
イ Rは、平成8年1月10日、原告から30万円を借り入れ、以後、継続的に借入れと弁済を繰り返すようになったが、平成11年1月からは新たな借入れができない状況となっていた(甲D1、乙D3、6)。
ウ Rは、平成11年3月15日ころ、Pに対し、自分が間違いなく払うから、原告から金員を借り入れてほしい旨依頼した。Pは、気が進まなかったものの、Rが間違いなく払うと誓約したことから、原告北大路支店に赴き、40万円を借り入れた(甲D1、乙D5、8、10)。
エ Rは、上記の約束にもかかわらず、Pに借り入れたもらった金員につき、自分から弁済のための金員を出して支払うことがなかった。そのため、Pは、自らの負担で上記の借入金の弁済をしていたが、その方法は、返済金額をRに渡し、Rを通じて原告に返済するというものであった。(甲D1、乙D5、10)。
オ そのうち、RがPから返済用に渡された金員をきちんと返済に充てていないことが分かったため、Pは、自分で借入金の弁済をすることとした(甲D1、乙D5)。
カ Pは、原告に対し、Rの債務の弁済として、以下の金額を支払った。
 なお、このうち、下記(ウ)ないし(オ)については、PがRから預かった金員で弁済をしたものであるが、下記(ア)、(イ)及び(カ)ないし(ケ)については、Pが原告の従業員との交渉の結果、自らの負担でRの債務を支払ったものである(甲D1、乙D1(枝番を含む。)、5、10)。
(ア) 平成12年10月30日、銀行送金により9000円
(イ) 平成13年2月2日、原告の集金により1万3000円
(ウ) 同年3月7日、銀行送金により9000円
(エ) 同年4月26日、原告の集金により1万9000円
(オ) 同年9月7日、銀行送金により2万1000円
(カ) 同年10月26日、原告のATMへの振込により9000円
(キ) 同日、1万0500円(支払方法については争いがある。)
(ク) 平成14年1月10日、原告の集金により1万3000円
(ケ) 同年3月7日、原告の集金により3000円
(コ) 同年5月20日、信用金庫からの送金により3000円
キ Pは、平成14年6月10日、Rとともに被告A3の事務所を訪れ、債務整理の依頼をした。その時点における債務額は、Pが5社合計192万9534円、Rが9社合計261万7462円というものであった。Pは、被告A3の話を聞き、初めて子供の借金について法律上は親が支払う必要のないことを理解した。被告A3は、同日、原告を含む消費者金融業者に対し、弁護士介入通知を発出したところ、その通知書には、「母親が、サラリーマン金融業者から支払ってもらわねば困ると言われたとのことです。母親は、自分も収入は少なく支払えないと言ったとのことですが、支払ってもらわねば困ると言われて支払をしたとのことです」と記載されていた(乙D2、15)。
ク Pは、平成14年8月、被告A3らを代理人として、関東財務局に対し、貸金業規制等に関する法律に基づく行政処分を求める旨の申告をした。
 これに対し、原告の従業員が、同年9月21日ころ、Pの居宅を訪れ、Pに対して謝罪した(乙D3、5、10)。
(2) 本件記述18について
 本件記述18の要旨は、原告の従業員が、支払義務のない母親に対し、第三者請求を行ったというものであるところ、原告は、この記述における名誉毀損につき、平成16年5月21日付け準備書面までは第三者請求の事実がない点のみを主張していたのに対し、最終準備書面ではこれに加えてRが債務を負っていることを第三者である母親に告げたことを記載している点が名誉毀損に該当するとの主張をしている。しかし、後者の点については、この記述自体の趣旨はその点を捉えて原告を非難するものではないと認められるし、客観的にみても、母親に息子が債務を負っていることを伝えることにとどまるならば、何ら非難に値しないのであって、その記載が原告の社会的評価を低下させるものとは認め難く、この点は不法行為を構成しないものである。
 そこで、以下第三者請求の点について検討すると、上記(1)カにおいて認定したとおり、Pは、Rの原告に対する債務につき、数度にわたって自己の負担で弁済しているから、問題は、その弁済が、原告の従業員から「母親だから払ってもらわないと困る」と申し向けられてされたものか否かということになる。
 まず、証拠(甲D1、乙D5、10)によれば、Pは、前記(1)キにおいて認定したとおり、被告A3に債務整理の相談をするまで、子供の借金は親が払わなければならないという観念を持っていたことが明らかに認められる。すなわち、別件訴訟(甲D1)においても認定されているように、Pは、自身も原告に対するものを含む多額の債務を負い(前記(1)ウ、ク)、返済も遅れがちであった上(乙D7、8)、前記(1)カの弁済も、一時しのぎの利払いにすぎず、抜本的な債務整理につながるものではなかったこと、Pが被告A3に債務整理の相談をした当日に発出された通知書においても、Pが母親だから支払ってもらわなければ困ると言われたので支払った旨の記載があること(前記(1)キ)などの事情に照らせば、Pが自らに支払義務のないことを理解していれば、あえてRの債務まで弁済することはなかったと考えるのが自然である。したがって、Pの前記(1)キ(ア)、(イ)及び(カ)ないし(ケ)の各弁済は、自分に支払義務があると誤信してされたものであると認めるのが相当である。
 この点、原告作成の交渉履歴(乙D7)においては、平成11年10月2日、平成12年6月1日、同月16日、同年8月25日、同年10月3日、同月30日、平成13年2月2日、同年4月24日、同月25日、同年9月27日、同年10月26日、平成14年1月10日、同年3月7日及び同年5月20日の14回にわたって、支払義務のないことを説明したという事実を意味する「義務なし承知」という記載が存在しており、概ね前記(1)カにおいて認定したPがRの債務を支払ったとされる日ないしそれに近い日については、上記「義務なし承知」との記載がみられている。
 しかしながら、原告の従業員が真に上記のごとく繰り返しPに支払義務のないことを告知していたのであれば、Pが上記のような誤信をする余地はないのであるから、上記乙D7の記載はにわかに信用することができず、原告は、Pに対し、支払義務のないことを積極的に告知はしていなかったと認めるのが相当である。
 なお、原告は、乙D4(陳述書)の「Rさんは、A3弁護士に最初に債務整理の相談をした際、同弁護士から、子供であるRの債務は親に支払義務はない、払う必要はない、という説明を受け、戸惑って、払わなくてもいいんですか、と聞き返した」という記載を援用し、ここから「原告社員の請求によって弁済に至ったのではなく、自身の考え方に基づき、その判断で支払ったということは容易に判明したはずである」(原告最終準備書面・14頁)と結論付けているが、上記において判示したとおり、原告の従業員がPに対し支払義務のないことを告げていれば、そもそも上記の相談時に支払義務があると誤信しているという状況が生じる余地はないのであって、原告の上記主張は、原告における、債務者の親族等に対する支払義務のないことの告知が不十分であることを自認するものというほかない。
 さらに、Pが上記のような誤信をしていた原因について検討する。この点、Pは原告の従業員に母親だから払ってもらわなければ困ると言われた旨陳述するのに対し(乙D5、10)、原告の従業員らはこれを否定している(乙D11)ところ、Pの陳述は、前記(1)キにおいて認定したとおり、被告A3に債務整理の相談をした段階から、既に、母親だから支払ってもらわなければ困ると言われたことがある旨述べているものであって供述に一貫性があり、さらに、前記(1)カにおいて認定したとおり、現に原告に対してもRの債務について自身の負担で弁済を幾度も繰り返しているから、原告の従業員から母親だから支払ってもらわなければ困る旨申し向けられたという供述内容には合理性が認められる。他方、そのような支払要求があったことを否定する原告の従業員の陳述(乙D11)については、支払義務のないことをきちんと告げていたと述べている点において、上記において判示したところに反し採用することができないものである。したがって、PがRの債務を自身の負担において弁済したのは、原告の従業員から、母親だから支払ってもらわなければ困る旨申し向けられたためであると認めるのが相当である。確かに、Pは、元々子供の借金について親に責任があるものと考えていたと推測されるが、上記のとおり、原告の従業員から同様のことを申し向けられてその誤信が助長されたものとみるべきものである。
 なお、原告は、別件訴訟におけるPの供述内容中、「そのときは、親だからお母さん払う必要があるんですよ、というふうには言われたんでしょうか」との質問に対して明確な回答をしていない点(乙D10・32頁)を捉え、「被告A3の誘導的尋問にも拘わらず、原告の社員から、親だから払ってもらわなければならない、と言われた、ということは一言も陳述していない」と主張している(原告第3準備書面・10頁)ところ、乙D10の記載から明らかに認められるように、このやりとりは原告(B1)のo代理人からの発問によるものであって、原告の上記主張はその前提において既に失当である。さらに、乙D10を子細に検討すると、上記のやりとりの前において、Pは、原告の従業員から親だから払わなければならない旨申し向けられたと供述しているところ(乙D10・29頁)、これに対し、その後、PがRの債務を初めて立替払いした時のことへと話題が移行している。上記のやりとりは、その時に親だから支払う必要があるかと質問されたときのものであって、Pは、その後のいずれかの時点で原告の従業員から親だから支払わなければならないと申し向けられたことは既に明確に述べているのであるから、原告の主張は、その内容においても失当というべきものである。
 以上によれば、本件記述18については、その内容を真実であると認めることができる。
(3) 本件記述17及び19について
 これらの記述は、Pが自分の債務の弁済として原告に交付した金銭を原告がPに無断でRの債務の弁済として取り扱ったことを指摘するものであり、原告は、平成16年5月21日付け準備書面まではこれが名誉毀損を構成すると主張し、上記無断振り分けを認定した別件訴訟判決には不服があるから控訴するとしていたが、結局控訴はせず、最終準備書面においては、この点が名誉毀損に該当するとの主張はしていない。
 そうすると、被告らの不法行為の成否に関する限り、これらの記述について検討する必要はないが、乙事件及び丙事件との関係においてはこれらの記述の内容の適否も問題となるので、以下これについて検討する。
ア 証拠(乙D6、8)によれば、原告において、平成14年1月10日、Rの債務として1万3000円、Pの債務として1万2000円の弁済がされているところ、これについて、Pは、自分の債務の弁済として2万1000円、Rの債務の弁済として4000円の合計2万5000円を原告に支払ったところ、原告側で勝手に上記のように振り替えたものであり、同日分の領収証(乙D1の6)は、後日原告から郵送で送付されてきたものである旨陳述する(乙D5、10)のに対し、原告の従業員であるpは、Pから2万5000円のうち1万2000円をPの債務に、1万3000円をRの債務に充当する旨の了承を得たものであり、領収証はその場で渡した旨陳述する(乙D12)。
 この点、別件訴訟判決(甲D1)においても指摘されているとおり、pの陳述は信用することができない。すなわち、pは、同日の午後0時1分から午後1時58分までの間にPを訪問し、2万5000円を集金したものであるところ(乙D10、12)、同日のRの債務に関する領収証には同日午後3時05分の集金である旨の記載があり(乙D1の6)、その場で領収証を作成したのにあえて時刻を違えて記載するのは不自然であるといわなければならない。なお、pは、反対尋問において、領収証に事実と異なる時間を記載したことを認めており(乙D12・27頁)、再主尋問においても当初はその旨の陳述を維持していたにもかかわらず(乙D12・29頁)、原告(B1)代理人からの再度確認されたのに応じて、これを訂正するなど陳述が変遷しており(乙D12・29頁)、その陳述は全体として信用性に乏しいものといわざるを得ない。
 他方、同日の領収証(乙D1の6)には、他の領収証(乙D1の2)においては記載のある顧客の署名がないという事実が認められるところ、集金の場で領収証を手渡すのであれば、署名を求めるのは容易であることからすると、同日の領収証は、後日別途送付されたものと認めるのが自然である。
 さらに、証拠(乙D6、8)によれば、Pは、平成12年4月ころから、平成14年3月ころまでは、ほぼ毎回、継続的に自己の債務の弁済として2万1000円ずつを支払っていること、Rは当時、支払が遅滞しており、その時点でPが1万3000円分の支払をすることに特段のメリットがあったとは考えられないことが認められ、この事実からすれば、Pが陳述するとおり、Pは自己の債務の弁済として2万1000円を支払い4000円分についてのみRの債務の弁済に充てる意思であったと認めるのが合理的である。
 以上によれば、平成14年1月10日の返済について、Pとしては、2万5000円のうち、自己の債務の弁済に通常とおり2万1000円を充て、残りの4000円についてRの債務の弁済の充てるつもりであったにもかかわらず、原告側で一方的にPの弁済分として1万2000円、Rの弁済分として1万3000円と振り替え、それに合わせた形の領収証を後日送付したものと認められる。
イ 以上判示したとおり、原告にPの弁済の一部を無断でRの弁済に充てた事実が存在したことが認められるところ、本件記述17及び19は、そのような無断の振り替えが複数回あったとは記述していないから、その余の弁済について検討するまでもなく、本件記述17及び19の内容を真実と認めることができる。
(4) したがって、徳田事件に係る本件記述17ないし19の内容は、いずれも真実であると認めることができる。
5 浅野事件の記述(本件記述21)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、浅野事件について、以下のとおり認められる。
ア S(昭和52年生)は、函館で勤務していた平成7年10月ころ、親に内緒で原告函館支店において、10万円を借り入れ、借入れと返済を繰り返したが、後々返済が滞るようになった。
 また、Uも、平成6年からいわゆるサラ金より金員を借り入れるようになり、平成13年には、数社から月々5万円程度の返済を必要とする程度の金額を借り入れている状態であった(甲E1ないし8、乙E1ないし3、6)。
イ 平成13年6月6日、Sの母親であるUと原告の従業員であるVとの間で交渉があり、毎月1万円を55回返済するという内容で、話し合いがまとまった(なお、この詳細については下記において判示する。)。
 これにより、Uは、原告に対し、同日以降同年10月26日まで、計6万円を支払った(甲E5、6、9ないし11、乙E6、8)。
ウ その後、Sは、平成13年12月13日、釧路弁護士会法律相談センターにおいて被告A3に債務整理の相談をし、被告A3は、同月27日、原告函館支店に向け、Sの借入等についての質問状を発出した。
 なお、その質問状においては、「貴社は、S氏の約定返済が遅れた際、母親であるU氏に電話をされ、『おかあさんが保証人として立て替えて支払をしてくれるのであれば、金利も何もなしにして、月1万円でいいから、できれば支払ってほしい」旨話されたため、U氏は、貴社に対して、月1万円を何回か支払ったとのことです」との記載があり、そういった事実についての回答を求める質問事項が付されていたが、原告からの回答はなかった(乙E1、2、7)。
エ 被告A3及び被告ら訴訟代理人T弁護士は、平成14年4月26日、原告を相手取り、関東財務局に対し、原告が支払義務のないUにSの借金の返済を求めたことなどを理由として、貸金業規制等に関する法律に基づく業務停止を求める行政処分の申告をした(乙E3)。
 これに対し原告は、同年5月16日付けの書面で、社団法人全国貸金業協会連合会に対し、調査の結果、事実関係としては以下のとおりであると報告した(乙E5)。
 すなわち、平成13年6月6日午前9時半にUから原告函館支店に電話があり、息子であるSが漁に出て支払ができない状態のため、自分が代わって支払いたい旨の申し出があり、これに対して原告の従業員は、Uに対し、支払義務がないことを伝え、Sの連絡先を確認したが、Uからは、連絡先は分かるが原告に教えることはできないとの回答があり、さらにUから再三Sに代わって支払をしたいとの申し出があったため、今後発生する利息を放棄する入金方法で支払を受けたものである。したがって、支払義務のない者に対して支払を請求した事実はない。
(2)ア 上記認定事実を基に、平成13年6月6日の返済の件について検討すると、まず、原告提出にかかるVが作成した各書証によれば、「毎月31日まで¥10,000×55回 総額¥550,000にて和解」「債務者 S」「支払者 U」との記載(甲E9)、「債務の支払に関する申入書(尊属)未取入理由書」と題する書面の存在(甲E10)及び「支払者 母 U」「(和解迄経緯)本人行方不明毎月母代払申出有り」との記載(甲E11)が存在していることが認められる。
 他方、証人Vは、本件について、SからUに毎月送金があり、それをUがSに代わって原告に対して送金するとの和解があったものであって、返済資金の負担者はあくまでSであってUではないと証言している。
イ この点、Vは、本件における和解の内容について、上記のとおり、返済資金の負担者はあくまでSであってUではないと繰り返し証言しているところではあるが、前記アにおいて認定したとおり、V自身が作成した書類(甲E9ないし11)において、支払者がUであり、本人(S)が行方不明なので母親から代払いの申し出があったとの記載が明確にされているのであるから、Vの証言内容は、自身の作成した書類の内容と整合していない。
 また、甲E10の「債務の支払に関する申入書(尊属)未取入理由書」という記載のうち、「(尊属)」という記載の意味についても、常識的に考えれば、尊属から取り立てをする際に用いている書面と解するのが相当であるところ、Vは、その記載の意味は分からない(証人V・15頁)、債務者本人と和解した場合でも同じ用紙を使う(同・20頁)などと証言し、その内容には説得力が乏しい。
 これらの事実に加えて、Vの証言は、反対尋問や補充尋問を通じて答えに詰まることが多く、その内容についても、合理性に乏しい点が少なくないことなどの事情も加味して考えれば、同人の証言は、信用性に乏しいといわざるを得ない。
ウ 他方、前記(1)エにおいて認定したとおり、原告は、社団法人全国貸金業協会連合会に対し、本件について、母親から任意で支払をしたいとの申し出を受けたと報告している。
 これは、Vが作成した上記各書証(甲E9ないし11)とは必ずしも矛盾しないものではあるが、他方、上記ア、イにおいて判示したとおり、V自身の証言とは完全に矛盾するものである。そうであるとすると、原告が上記報告をするに当たって、関係者であるV等から、事情を丁寧に聴き取ったか否かについては、多大な疑問があるものといわなければならない。Vは、上記報告書作成に当たっては、自らも事情を聴取され、報告書の内容と自分の言い分は一致していると証言しているが(証人V・20ないし21頁)、Vの説明と上記報告書の内容は明らかに齟齬しており、到底信用できるものではない。
エ 以上によれば、本件に関する証人Vの証言は、これを信用することができないばかりか、本件に関する原告の報告書(乙E5)についても、その前提としての内部調査の正確性、信用性に疑問があるというべきである。
 他方、原告の従業員から、Sの借金について、支払ってもらわなければ困ると言われたとするUの陳述(乙E6、8)については、当時Uの月収は10万円程度であったこと(乙E6、8。これに反する証拠は何ら提出されていない。)、前記(1)アにおいて認定したとおり、U自身当時はいわゆるサラ金数社への返済が必要な状況であったことからして、経済的には余裕のない状況であって、何らかの強い要因がなければ、Sの借金まで返済する合理的な理由は見出し難いことに鑑みれば、これを疑うべき事由はなく、その陳述内容を信用することができるというべきである。
(3) したがって、本件記述21については、その内容を真実と認めることができる。
6 鈴村事件の記述(本件記述20及び22)について
(1) 証拠(甲F1、乙F1、証人Y)によれば、原告の従業員であるYが、平成14年3月18日、Xに対し、弟のWの返済の件で電話し、「Yでございます。何回もすみません。お兄さんね、例のWさんの件なんですが、お兄さん2千円か3千円で結構なんですが助けて貰えませんか」、「金銭的な無理は一切かけません、ただ、どうしても事務的に入金が幾らか無いとですね、事故のほうが止められないものですから、お願い出来たら今回助けて貰えませんでしょうか」と依頼し、Xが「いや、僕ね、前回12月に『β』さんに言ったとおり、もう家族はどうすることも出来ないと言うことで言って、約束で、それでしたんですよ、だから、もう関わりたくないんですよね」と応答すると、なお「ああ、なるほどな、確かにおはなし伺いましたけどね…前回2万1千円ということですけれども、今回に関しては2千円でも3千円でも結構なんです」などと依頼し、Xが「前回も同じようなことを言われて、又こういうふうに電話こられて」と述べると、なお「なんとか助けて貰うわけにはいきませんか」などと懇願を繰り返していたことが認められる。
(2) 以上の認定事実からすれば、原告からWの家族に対し、度々同人の借金の件で連絡があったこと、前の年の12月にXが原告の従業員から懇願されて今回限りとの趣旨で2万1000円を支払ったにもかかわらず、再びWの借金につき支払ってくれるよう懇願され、その趣旨も今回限りと理解できるものであることなどの事実が認められるから、本件記述22については、優にその内容を真実であると認めることができる。
(3) 原告は、上記Yの要請は、任意の弁済を求めているものであって、何ら問題はないと主張するところ、原告が名誉毀損部分であるとして特定する本件記述22自体が上記(2)に判示した内容以上のものを明確に述べるものではないから、原告の上記主張自体採用できないものであるが、さらに、上記(1)において認定したやりとりをみれば、Yは、口調こそ丁寧であるものの、「助けてもらえないか」と執拗に兄Xの協力を求めており、支払義務がないことを前提として自由意思に基づく支払を受けるといった態度でなく、親族の道徳観念を巧みに利用して弁済を得ようという態度に基づくことは明らかであって、これを第三者請求が行われている例として挙げたとしても、不当な表現とはいえない。
(4) 以上によれば、本件記述22については、その内容を真実であると認めることができる。
 また、本件記述20は、浅野事件及び鈴村事件に共通する見出しであるところ、その本文の内容からすると、主として鈴村事件を示すものであって、鈴村事件について上記に判示したところからすると、この見出しも真実に基づくものであると認めることができる。
7 前書き及び後書き(本件記述1ないし3、34、35)について
 以上に判示したとおり、原告においては、原告が名誉毀損行為であると指摘した記述に記載されているとおり、親族等に対する第三者請求が行われていることが認められ、その内容は社会通念上非難に値するものと認められるから、本件記述1ないし3及び34ないし35(前書き及び後書き)についても、本文の内容と合致し、前書き及び後書きとしてふさわしいものとして、その内容を真実であると認めることができる。
第4 争点(2)(中山事件に関する記述の不法行為該当性の有無)についての当裁判所の判断
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、中山事件について、以下のとおり認められる。
(1) aは、Zの娘であるところ、平成8年1月ころ、同棲していた交際相手が暴力団員とのトラブルを起こしたうえ、その交際相手が覚せい剤を使用していたことから警察に逮捕されるなどし、a自身も暴力団員に脅される状況になったため、仕事も辞め、実家であるZの自宅で生活するようになった(甲G1、2、乙G1、2、8、9、11、12)。
(2) 原告においては、aの借金の支払が滞っていたため、aの住所に電話やはがき等による督促を行っていたが、その後、aの実家として住所等を把握していたZの自宅に電話をするようになった(甲G1、2、乙G1、2、8、9、11、12)。
(3) 平成8年2月3日夜ころ、原告の従業員であるcが、Zの自宅を訪問し、Z及びaと面談した。aは、現在暴力団員に脅されたり、交際相手の関係で警察に事情聴取を受けたりしており、現在仕事ができない状況なので支払えないと述べ、Zは、現在の生活は月収8万円程度で苦しく、3000円ないし5000円程度なら協力できるが、それ以上の協力は困難であると述べた。
 しかしcは、支払が1箇月以上遅れていることから、解約を止めるためには、最低でも1箇月分の延滞金利に相当する1万5000円を支払って欲しい旨を強く申し向けた(甲G1、2、乙G1、2、7ないし9、11、12)。
(4) cは、同月5日、Zの自宅を訪れ、Zが用意した500円硬貨30枚の計1万5000円を受領し、この支払についてaが集金用領収証に署名した(甲G1、2、乙G1、2、6ないし9、11、12)。
(5) 原告の従業員であるqは、同年3月5日、Zの自宅を訪問し、aの借金について、1万5000円を支払って欲しい旨、Zに申し向けた。Zは、現在の自分の収入は月額8万円程度であり、不足している部分については生活保護を受けていることもあるので、数千円といった額であればともかく、1万5000円の支払が困難である旨告げたが、結局1万5000円を支払い、これについてZが集金用領収証に署名した(甲G1、2、乙G1、2、6ないし9、11、12)。
(6) qは、同年4月4日、Zの自宅を訪問し、a及びZと面談した。その際、腎不全の持病を持つZが、貧血症状で倒れたことがあった(甲G1、2、乙G1、2、6ないし12)。
(7) 原告の従業員であるrが、同年4月6日、Zの自宅を訪問した。Zは、aが用意してZに預けていた1万5000円及びZ自身が用意した1万円の合計2万5000円を支払い、集金用領収証に署名した(甲G1、2、乙G1、2、6ないし9、11、12)。
(8) なお、Zは、上記(5)ないし(7)の弁済の際、娘の借金であっても親である自分に支払の義務があるものと誤信していた(甲G1、2、乙G1、2、8、12)。
(9) Zは、平成8年に原告に対し、上記の各支払が違法な第三者請求に当たるとして、弁済金4万円の返還と慰謝料200万円等の支払を求める訴訟を釧路地方裁判所に提起したが、当該訴訟では、一、二審ともに違法な取立行為があったとは認定されず、上記各弁済が自己に支払義務があるとの錯誤に基づくものとの認定に基づき、弁済金4万円の返還を求める部分のみが認容された(甲G1、2、乙G1、2)。
2 まず本件記述23ないし29が原告の社会的評価を有意に低下させることは明らかである。
 また、同記述が証拠等をもってその存否を決することが可能な事実の摘示に当たることも明らかであり、同記述が全体として意見ないし論評の表明に当たるとする被告らの主張も採用できない。
 したがって、以下においては、同記述が摘示する具体的事実についての真実性及び相当性を検討することとする。なお、前記第2の3(2)ウ(被告らの主張)記載の被告らの主張は、同記述が事実の摘示に当たる場合には、その具体的事実についての真実性及び相当性を主張しているものと解される。
3(1) 前記1(4)、(5)、(7)において認定したとおり、Zは、平成8年2月5日、同年3月5日、同年4月6日の3回にわたり、原告の従業員に対し、aの債務の弁済としてそれぞれ1万5000円、1万5000円及び2万5000円(これについてはZの負担自体は1万円である。)を支払った事実が認められるところ、前記1(3)において認定したとおり、Zは当時月収が8万円程度であり、生活保護を受けていることもあるという状況であったのだから、生活に余裕がなかったことは明らかである。
 この点、前記1(8)において認定したとおり、Zは、娘の借金であっても親である自分に支払義務があると誤信していたものであるところ、仮に原告の管理カード(乙G7)にゴム印で「支払い義務なき承知」と記載されているとおり、Zに対して、支払の義務がないことを明確に告知していたのであれば、Zにおいてこのような誤信をし続ける理由はない。そうすると、上記管理カードにゴム印で「支払い義務なき承知」と記載されているとしても、真実そのとおりに支払の義務がないことを告知していたものと推認することはできないものである(なお、このようなゴム印が存在していること自体、態様はどうであれ、原告における貸金の回収先として、親族等の第三者が想定されていることを裏付けるものといわなければならない。)。
(2) そうすると、上記のように生活保護を受けていることすらあったZが3回にわたり合計4万円の負担をしたことについては、何らかの強い要因が存在していると考えるのが合理的であるところ、その原因として、原告の従業員から、母親だから支払ってもらわなければ困ると申し向けられたとするZ、a及びaの友人であるbの陳述(乙G8ないし12)は、全体として、その信用性を疑うべき事情を見出し難いというべきである。
(3)ア さらに、個別の返済について検討するのに、まず、平成8年2月5日の返済については、Zが500円硬貨を30枚用意して支払ったものであるところ(この点については、Z、a及びbの各陳述は一致しており(乙G8ないし12)、別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決においても明確に認定されている(甲G1、2、乙G1、2)。)。このように硬貨を多数かき集めて返済したという事実自体から、この弁済が、親による通常の任意の協力といった程度を超えてされたものであると評価し得るものである。
 前記1(3)において認定したとおり、このときZは、3000円や5000円であれば協力できると申し出ていたものであるから、それにもかかわらず上記のような態様で1万5000円の支払がされたということは、cから相当強い働きかけがあったと推認するのに十分な事情というべきである。
イ 次に、同年3月5日の返済については、前記1(5)において認定したとおり、Zは、自己の月収が約8万円であることや不足がある場合に生活保護を受けていることすらあることをqに告げたにもかかわらず、結局前月と同様1万5000円の支払がされているのであり、これについても単なる任意の協力を超えて、qから強い働きかけがあったと推認するのが合理的である。
ウ さらに、同年4月6日の返済については、前記1(4)、(5)、(7)において認定したとおり、同年2月と3月においては1万5000円ずつZが支払っていたところ、今回はa自身1万5000円の弁済金を準備していたにもかかわらず、さらにZからも1万円が支払われている。このときは、Zとしてはaから預かった1万5000円を支払えば済むものと考えるのが当然であり、それにもかかわらず苦しい生活状況の中、Zが1万円を上乗せして弁済したということは、rからも強い働きかけがあったと推認するのが合理的である。
エ 以上のように、本件で問題とされている平成8年2月5日、同年3月5日及び同年4月6日の3回の弁済の内容を個別に検討しても、Zが全くの任意でaの借金の弁済に協力したとは考え難く、かえって、原告の従業員らにおいて、Zに対して強い働きかけがあったと考えるのが合理的である。
(4) 上記(3)において認定した諸事実からすると、前記各記述内容については、本件記述26のうちの原告の従業員がZに対して「払う義務がある」と発言した点を除いて、すべて真実であると認められる。
 そして、この「払う義務がある」との発言の有無については、別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決も指摘するとおり、原告の従業員からどのようにZに支払義務があると告げられたのかについて、Z、a及びbの各陳述には相当の曖昧さがあり、その存在を認定することは困難であるといわなければならない。
4 以上のとおり、本件記述23ないし29の内容は、本件記述26中の原告の従業員がZに対し「払う義務がある」と発言した部分を除き、すべて真実と認めることができるものの、同発言部分の存在は本件証拠上認定することが困難である。
 もっとも、上記各記述の趣旨とするところは、病弱で生活保護を受けている母親に対して娘の債務を支払うよう強く働きかけ、三度にわたって支払を受けたことが社会通念に照らして著しく不当な行為であると非難することにあり、支払義務があると発言したか否かは、その非難の根拠として重きを置かれていないと解すべきである。また、原告は、その従業員がZに対し支払義務のないことを説明したと主張し、これに沿う証拠(乙G7)もあるが、上記認定に照らすと、同証拠はにわかに信用できず、そのような説明がされたとは認められないし、上記1(9)の控訴審判決も「控訴人(注・P)自身が本件貸金について支払義務があるとの誤信をしていたか否かはともかく、被控訴人の従業員は、子供の借金である本件貸金を母親である控訴人が責任を受け止めて支払ってもらいたい、本件貸金を支払ってもらわないと被控訴人あるいは担当の従業員自身が困るので協力してほしいという趣旨の発言を繰り返したものと認められる」と認定しているように(甲G2、乙G2)、原告の担当者らは、Zの誤信とその道徳観念を巧みに利用して何度も弁済を求めていたというべきであり、それを法的に違法と評価すべきか否かは見解の分かれるところであるが、Zの生活状況等を考慮すると、それが社会通念上非難に値することは疑いを入れる余地がないものというべきである。
 そうであるとすると、上記各記述のうち、真実であると認められる部分が不法行為を構成しないのはもとより、真実とまでは認められない上記発言部分についても、その存在のみによって、その余の部分によって形成された原告に対する社会的評価をさらに引き下げるものとは評価できないから、やはり不法行為を構成しないというべきであり、このように判断することが別件訴訟(甲G1、2、乙G1、2)における判断と矛盾するわけではないのは、上記において判示したとおりである。
 したがって、本件各記述については、不法行為を構成しないものと認められる。
第5 甲事件についてのまとめ
 甲事件については、問題とされた31箇所の記述のうち、その大部分については真実であると認めることができ、さらに、真実であるとまでは認めることができない一部分についても、積極的に事実に反すると認められるわけではなく、それのみでは原告の社会的評価を低下させるものとは認め難く、不法行為の成立が否定されるか、少なくとも真実であると信じるについて相当の理由はこれを優に認めることができる。特に、本件書籍は、前書き及び後書き部分の記載から明らかなように原告の業務のあり方を批判するものであるところ、原告は、そのうち第三者請求に関する記述を主として採り上げ、それらが原告の名誉を毀損するものと主張しているが、前記第3及び第4において認定説示したとおり、原告が指摘する記述の第三者請求に関する部分はいずれもその記載の趣旨のとおり社会通念上十分非難に値する行為があったものと認められるところである。したがって、上記各記述についてはいずれも真実性ないし相当性の抗弁が認められ、原告の請求はいずれも理由がないものといわなければならない。
第6 甲事件提起の適否とそれによる損害についての当裁判所の判断(争点(3)及び(5))
1 争点(3)(甲事件の提訴の違法性の有無)について
 一般に、訴えの提起が違法な行為となる場合については、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為になるものというべきである(最高裁昭和63年1月26日第3小法廷・民集42巻1号1頁)。
 したがって、以下上記の基準に照らし、甲事件の提訴が違法であるか否かを検討する。
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、甲事件の提訴に至るまで及びその後の事実経過について、以下のとおり認められる。
ア 原告は、我が国有数の規模を持つ消費者金融業者であり、丙事件被告は、原告の創業当時から代表取締役として実権を把握してきたものであるが、後記ウの盗聴事件の責任を取り、平成15年12月8日、原告の代表取締役を退任した(乙A78、79、弁論の全趣旨)。
イ 甲事件の提訴及びその後の事情について
(ア) 被告らは、平成15年4月1日、「武富士の闇を暴く」と題する本件書籍を出版したものであるが、これに対し、原告(当時の代表取締役は丙事件被告である。)は同月24日、本件書籍の本件記述1ないし35が原告に対する違法な名誉毀損であるとして、出版差止めと各5500万円の損害賠償を求めて甲事件の訴えを提起した(甲A1、乙A1、当裁判所に顕著な事実)。
(イ) 甲事件の提訴に当たっては、当時執行役員であったfが中心となって、事実経過の確認等を行っていたとされるが、その事実確認の方法としては、担当の部長から口頭報告をさせるという形式であり、細かい報告書等の提出はなかった。
 また、甲事件の提訴に先立ち、執筆者である被告らとの間で、事前の説明要求、交渉等が行われた形跡はない(証人f、弁論の全趣旨)。
(ウ) 被告らは、平成16年2月24日、丙事件被告について当事者本人尋問を求める証拠保全の申立てをした。その際、被告らは、丙事件被告の健康状態が悪く、尋問に耐えられなくなるおそれがあることを証拠保全の必要性として主張していたが、原告は、丙事件被告は現に刑事裁判には欠かさず出廷しており、原告ら代理人との打ち合わせも幾度となく行っているのであって、健康状態に何ら不安はないから、同申立ては却下されるべきであると答弁していた(当裁判所に顕著な事実)。
(エ) 被告らは、平成16年5月21日の第6回口頭弁論期日において、丙事件被告の人証調べを求める旨の人証申出書を提出した。
(オ) 原告は、平成16年6月17日付け準備書面4において、本件記述30ないし33(林田事件)について、請求原因から撤回する旨述べた。もっとも、これに伴う請求額の減額はされていない(当裁判所に顕著な事実)。
(カ) 当裁判所は、平成16年8月30日、上記(エ)の申し出に対し、立証趣旨をB2の本訴提起への関与の有無及び程度、尋問事項を被告らの2004年5月21日付け人証申出書第1、第2の4及び第2の5記載の事項並びに被告らの2004年7月28日付け人証申出一部変更申出書第2のうち、「ところで」で始まる段落冒頭から同頁(2頁)末尾までに記載の事項に限った上で採用するとの決定をし、同年9月6日、丙事件被告を同年10月8日の口頭弁論期日において尋問することとした(上記2通の申出書の内容については別紙のとおり)(当裁判所に顕著な事実)。
(キ) 当裁判所は、平成16年9月15日に丙事件被告に対して当事者尋問呼出状及び尋問事項書を送達し、同年10月8日の口頭弁論期日において丙事件被告を尋問する予定であったが、丙事件被告が出頭しなかったため、結局尋問をすることができなかった(当裁判所に顕著な事実)。
(ク) その後、丙事件被告が上記期日に出頭しなかった理由につき、大要原告ら代理人から前記第2の3(3)イ(原告らの主張)において記載した内容の理由が書面において説明された。もっとも、この点について、丙事件被告自身の弁明等が提出されたことはない(当裁判所に顕著な事実)。
ウ 盗聴事件について
(ア) 平成14年12月1日発行の週刊誌において、原告が組織的にジャーナリストであるhを盗聴していたという記事が掲載された。
 他方、この報道に対し、原告は、s常務取締役、t取締役広報担当部長及びu法務担当部長が揃って疑惑を否定し、この疑惑を告発した元従業員に対し、刑事告訴をすると述べていた(乙A4)。
(イ) その後も、原告については、組織的に盗聴を行っているのではないかとの疑惑が投げ掛けられていた。
 これに対し、原告は自社のホームページ上で盗聴疑惑については事実無根、虚偽である旨を繰り返し発表し、虚偽告訴罪で刑事告訴を行うつもりであるとも述べていた(乙A5、8、24)。
(ウ) 丙事件被告は、平成15年12月2日、前記hについて盗聴を行ったとして、電気通信事業法違反の容疑で逮捕された。
 逮捕当時、丙事件被告は被疑事実を否認し、原告も自社のホームページ上で逮捕は青天の霹靂である旨の発表をしていたが、その後、丙事件被告は被疑事実を認め、起訴された。
 原告も上記ホームページ上で、丙事件被告が被疑事実を認めたことについて、厳粛に受け止めると発表した(乙A15ないし17、24、25、32)。
(エ) 丙事件被告は、平成16年1月22日、ジャーナリストのvの事務所を盗聴したとして、電気通信事業法違反の罪で、追起訴された(乙A33)。
(オ) 東京地方裁判所刑事第10部は、平成16年11月17日、丙事件被告に対する電気通信事業法違反の罪及び名誉毀損罪並びに原告に対する電気通信事業法違反の罪について、丙事件被告について懲役3年、執行猶予4年、原告について罰金100万円の有罪判決をした。
 丙事件被告に対する公訴事実の要旨は、@平成12年12月14日ころから平成13年2月24日ころまでの間、h方においてhが他人と通話した内容を盗聴録音した、A平成13年1月23日ころから同年2月14日ころまでの間、vが代表取締役を務める株式会社wの事務所付近において、vらが他人と通話した内容を盗聴録音した、B平成15年6月2日ころ、原告のホームページ上に、原告らの盗聴疑惑について告訴したhの行為について事実無根の誹謗中傷であるなどとした記事を掲載し、hの名誉を毀損した、というものである。
 上記判決の中で、盗聴の動機について、hやvが原告の名誉や信用を毀損する虚偽の風雪を流布し、又は流布しようとしているものと考え、これに対抗するためやむなく行ったものであるとする丙事件被告の弁解に対し、盗聴という手段に出ることに酌量の余地はなく、また、事件が明るみに出てもなお自らの非を省みることなく上記Bの名誉毀損行為に及んだことについても犯情悪質であるとして、厳しく非難されている。
 また、上記判決においては、丙事件被告はワンマン社長(会長)として原告の実権を掌握しており、上記盗聴や名誉毀損行為に係る決裁について責任の所在を曖昧にする公判廷の供述は信用性に乏しいことが指摘されている。
 上記判決については、控訴されることなく確定した(乙A113、弁論の全趣旨)。
エ 原告におけるノルマの存在等について
(ア) 原告においては、各支店に伝達内容を示す伝達画面が存在しており、「期首営業はなにがなんでも『全店達成』で全国支店長会議に参加」(乙A2・1頁)、「未達は絶対に許さない!」(同6頁)、「絶対に他ブロックに勝て」(同7頁)、「全店達成 あと4日 休んで未達など出来るか 執念命だ」(同15頁)、「B1の伝統、歴史の営業姿勢は、『配布』『接客』『再の掘り起こし』である」(同20頁。22、23頁等同旨の伝達多数)、「目標達成に対して『がむしゃら』に走ること」(同24頁)、「営業ライン(各支社設定)は絶対に達成すること!」(同40頁)、「絶対に絶対に絶対に10−16は未達させる訳には行かない!今週未達は本気で全店対策をやる!何があっても達成しかない!いいか、これは支社長として全店に最優先事項として要請する!」(同69頁)、「本部長に2000アンダーを公約!債権内容なんか関係ない、絶対クリアする執念だけだ!」(同73頁)、「不明金1000万!本部長のためにクリアーさせろ!」「アンダー2000万は絶対だ!」(同76頁)といった文言をはじめとして、とにかく目標(ノルマ)を達成せよとの厳しい伝達が様々な形で表示されている(乙A2)。
 なお上記伝達画面について、原告は甲A22を証拠申請し、当裁判所は平成17年1月19日の口頭弁論期日においてこれを却下したものであるが、仮に上記書証の内容を斟酌するとしても、上記に掲げたような内容は現実に画面上に映し出されているものであるから、原告において目標(ノルマ)達成について厳しい伝達があるとの上記認定を左右するものではない。
(イ) 本件書籍のうち、甲事件においては名誉毀損部分とされていない箇所において、原告の従業員であったOが、上記(ア)の伝達画面を引用し、原告において、実際には極めて厳しいノルマがあり、達成できなければ激しい叱咤を受け、従業員は精神的に追いつめられて過剰貸付や支払義務のない第三者への請求を行っているとの実態を告発しており、別件訴訟における証人尋問においても同旨を述べている(乙A1、46)。
(ウ) また、本件書籍のうち、やはり甲事件においては名誉毀損部分とされていない部分において、hが、前記ウの盗聴疑惑についての告発を行っている(乙A1)。
(エ) 丙事件被告の次男であるxは、原告に入社後、営業統轄本部長となっていたものであるが、上記(ア)のようなノルマを達成できない支店に対し、「じゃ、おまえ、2400じゃねえか、この野郎、ボケてんのか、この野郎」、「さっき、2000万だのほざいてるんだろう、てめえら」(以上乙A49、50)、「何でやらないんだ、オラー」(乙A88の2)、「熱湯風呂とかさ」(乙A88の3)などといった極めて激しい口調で罵倒するといったことを幾度となく繰り返していた(乙A1、49、50、88(枝番を含む。))。
オ 前記のhに対する名誉毀損事件については、h及びyが有限会社z出版が発行する月刊誌「z」に原告や丙事件被告がh宅を盗聴した旨の記事を掲載したことに対し、原告がこれを名誉毀損であるとしてh、y及びz出版を提訴し、hらが原告に対して反訴を提起していたという事件が存在していた。この事件については、原告側が、「この提訴は、当社前会長B2指示の下、h氏や有限会社z出版の言論活動を抑圧し、その信用失墜を目的に、虚偽の主張をもって敢えて行って違法なものでした」、「本件提訴は、当社が本件記事の内容が真実であると知りながら、貴殿が当社を批判するフリーのジャーナリストであることから、敢えて、これらの執筆活動を抑圧ないし牽制する目的をもってなされたものであり…」といった内容を含む全面的な謝罪文を月刊誌「z」に掲載し、訴えを取り下げるという結果に終わったものである(乙A44・添付資料12)。
(2)ア 前記(1)イ(キ)におけるとおり、丙事件被告は、当事者尋問の期日に出頭しなかったものであるところ、被告らは、民事訴訟法208条を適用して当該尋問事項に関する被告らの主張を真実と認めるよう主張している。
 しかし、当該尋問事項は、丙事件の請求原因のみならず、乙事件の請求原因にも関係するものであるから、同条適用の効果は丙事件被告との関係でのみ生じ、乙事件の被告である原告との関係では生じないものと解するのが相当であって、乙事件の請求原因の存否は、結局証拠によって認定せざるを得ないこととなる。
 そこで、同条を適用するか否かはさておき、丙事件被告不出頭の事実を乙丙両事件の請求原因の存否を認定するに当たっての弁論の全趣旨として考慮し得るか否かの前提として、当該不出頭が正当な理由によるものか否かを検討する。
イ 前記第2の3(3)イ(原告らの主張)のとおり、原告及び丙事件被告(以下この項では「原告ら」という。)は、丙事件被告が出頭しなかった理由について、原告が作成し、会社のホームページ上に掲載された記事について、名誉毀損として、現に刑事訴追され、また、同様の他の記事掲載について名誉毀損として告訴、告発され、受理されたことを挙げ、これら一連の名誉毀損事件においては、原告において、丙事件被告が、どのように情報を集め、どのように決断し、どのように指示及び命令を下していたのかという実態がきわめて重要であり、そのことが刑事責任あるいは刑事訴追を決定づける事柄であるところ、本件の予定尋問事項のうち、別紙人証申出書第2の4は、まさに、その指揮、命令の実態をテーマにするものである。また、第2の5及び人証申出一部変更申出書は、「批判的記事に対する訴訟への関与」を素材にしているものの、問題にしている主要なテーマは、丙事件被告の情報収集、決断、指示命令の実体にほかならない。少なくとも、答えようとすれば、丙事件被告の情報収集、決断、指示命令の実態についても明らかにしつつ答える以外にないから、結果として、刑事訴追の危険を招くことに変わりはないなどと主張している。
 しかし、本件における尋問事項は、あくまで甲事件の提訴に係るものが中心とされており、仮に、それに対して答える中で、上記名誉毀損事件について刑事訴追を受けるおそれのある事項に及んだ場合には、そこではじめて法定の証言拒絶権を行使すれば足りるものであるから、丙事件被告が、本件当事者尋問期日に出頭すらしない理由とは何らならないものである(なお、民事訴訟法は、証人や当事者に対し、出頭義務、宣誓義務及び証言義務を課しているところ(ただし、宣誓義務については証人と当事者で異なる規律が与えられている。)、民事訴訟法所定の証言拒絶権が認められる場合については、上記のうち証言義務は免除されるものの、出頭義務等については、何ら免除されるものではないのであって、この点からも、上記の原告らの主張は失当である。)。
 したがって、上記原告らの主張のほかに丙事件被告が当事者尋問に出頭しなかったことについて、正当な理由は見当たらないから、丙事件被告は正当な理由なく当事者尋問に出頭しなかったものというべきである。
(3) 以上のように、丙事件被告が正当な理由なく当事者尋問に出頭しなかったことを弁論の全趣旨として考慮することとし、以下、証拠に基づいて、甲事件提起の適否を検討することとする。
ア 訴えの提起が違法とされる基準は、前記1冒頭において判示したとおりであるが、これについては、提訴者が請求原因事実の不存在のみならず、抗弁事実の存在を認識し又は容易に認識し得た場合も、同様に訴え提起等が違法になる余地があるものと解される。もっとも、名誉毀損訴訟においては、事実が真実であると証明された場合には違法性が否定されるのに対し、真実であるとの証明はないが真実であると信じたことに相当な理由があるときには、違法性が否定されるのではなく故意過失、すなわち責任が否定されるとされていることからして、一般には、いわゆる相当性の抗弁が認められて請求が棄却された場合、表現自体の違法性は否定されていないのであるから、訴えの提起や訴訟遂行が違法と判断されることは考え難いものと一応いうことができる。しかし、記事の大部分について真実性の証明があり、一部に真実であるとまではいえないがそう信じたことに相当な理由があるというように、部分的に真実性の立証が欠けているにすぎず、かつその部分についても相当性の立証はされているような場合には、表現の自由が民主主義体制の存立と健全な発展のために必要な、憲法上最も尊重されなければならない権利であることに鑑み、全体的に見れば損害賠償請求権の不存在が明らかであって、訴えの提起等が違法となる余地があるものと解される。
 本件においては、これまでにおいて判示したとおり、本件記述1ないし35(本件記述30ないし33を除く。)については、その大部分が真実であると認められ、真実であるとまでは認められないごく一部についても、それ自体が原告の社会的評価を低下させるものとは認められず不法行為を構成しないか、少なくとも真実であると信じるについて相当の理由が認められるものである。特に本件書籍は、その前書き及び後書きの記載から明らかなように原告の業務のあり方を批判するものであるところ、原告はそのうち第三者請求に関する記述を主として問題としていることが明らかであり、その第三者請求に関する記述については、いずれの事件についても社会通念上十分に非難に値する行為があったものと認められるのであるから、原告が主として問題とする名誉毀損行為はすべて不存在であったと認められる。
 そうすると、本件書籍に係る名誉毀損に基づく損害賠償請求権等については、その不存在が明らかであって、甲事件の提訴が違法となる余地があるということができる。
イ 次に、原告における甲事件提訴前の調査等について検討する。この点において、たとえば、一私人がいわゆるゴシップ雑誌の出版社を訴える場合と異なり、大企業がいわゆる告発本の出版社や著者を訴えるときには、ややもすればそれが批判的言論の抑制を意図しているとみられかねないのであり、提訴することにより相手方が被告という立場に否応なしに立たされ、経済的及び精神的に多大な負担を余儀なくされることをも考慮すれば、このような提訴に当たっては、その表現内容が事実か否かについては極めて慎重に検討し、社内において関係者から事情を一通り聴取するのみならず、存在している客観的証拠とも照合し、場合によっては、相手方がどのような根拠に基づき記事を執筆したのかについても、ある程度は検討すべきものである。
 前記(1)イ(イ)において認定したとおり、甲事件提訴に当たっては、fが、自らが中心になって調査を行い提訴を決断した旨証言するが、その調査の内容は、同人の証言によれば、既に出された判決等を見て(証人f・29、31頁)、行政当局への報告書を参照し(同51頁)、担当部長の口頭の報告を受けて検討した(同54頁)というものであって、詳細な報告書に基づいて検討をしたというものではなく(同53頁)被告とするべき者の選定がどのような理由でされたのかについては、結局不明であり(同37頁)、どのような根拠に基づき記事が書かれたのかについても全く調査をした形跡はなく(同50ないし55頁)、また、本件書籍中Oによる過酷なノルマと第三者請求の実態を告発する記述やhによる盗聴疑惑についての告発文について、訴訟の対象から外された理由についても不明である。
 上記資料のうち、行政当局への報告書については、本件各記述の指摘する事件の多くが本件書籍出版前に行政当局への申立ての内容となっていたことによるものであるところ、その際に原告において誠意をもって調査していたならば、前記第3において認定説示したとおり、原告が社会通念上非難に値する第三者請求を行っていたことが容易に判明し、本件書籍の記載を甘んじて受け入れることができたと考えられるところである。それにもかかわらず、その際の不十分な報告書を基に甲事件提起に至ったことは、損害賠償請求権がないことを容易に認識し得たにもかかわらず、その調査を怠って訴え提起に至ったものと評価せざるを得ない。
 従前言い渡された判決を提訴の根拠としたという点についてみると、原告は、これらの判決(甲D1、G1、2)を引用して、「違法な第三者請求がないことが証明された」などと主張するが、これらの判決はその内容を子細に検討すれば、決して原告の主張を全面的に認めたものではなく、債務者の主張を認めなかった点についても、違法な第三者請求があったものとまでは認められないとして、債務者の主張を斥けているものにすぎず、その認定事実からは、当該第三者請求を違法と評価すべきか否かはともかくとして、当該第三者請求が社会通念上非難に値するものであったことは十分に読み取れるところであって、原告においては、この判決自体において自己の業務のあり方を反省すべきであったと考えられる。そうだとすると、この判決をもって本件各記述が真実でないことの根拠になると即断するのは、軽率であるし、むしろこの点については自己に損害賠償請求権が存在しないことを知りつつ訴え提起に至ったものと評価することも可能であると考えられる。
ウ 加えて、前記(1)イ(オ)において認定したとおり、原告は、当初本件記述30ないし33(林田事件)についても請求原因に加えていたところ、訴訟の途中において突然請求原因から除外したものであり、この事実からしても、原告における事前の調査が不十分であったことが裏付けられるものというべきである。
エ さらに、前記(1)ウ(ア)、オにおいて認定したとおり、従前原告らに対して投げ掛けられてきた様々な批判的言論に対し、原告らは、一貫して事実であっても否定してきたばかりではなく、対抗手段として提訴や刑事告訴という手段すら用いてきたものである。
 すなわち、前記(1)ウ(ア)、オにおいて認定したとおり、hらに対する盗聴疑惑については、一貫して否定し、これについて原告の自社ホームページ上でhを刑事告訴すると述べたり、現実に名誉毀損に基づく損害賠償等請求事件を提起さえしていたものである。前記(1)オにおいて認定したとおり、hや有限会社z出版を提訴した事件については、原告において言論抑圧ないし牽制目的があったことを認めて謝罪しているものであるが、原告にあっては、批判的言論については、内容の真偽にかかわらず、これを否定し、場合によっては訴訟等の対抗手段すら執るという方針を採用していたと評されてもやむを得ないものであり、甲事件の提訴に当たっても同様であった可能性があると疑われる。
オ 以上に判示したところによれば、原告は、本件各記述の内容が真実であるか否かについて、意に介すことなく、記事の中には真実の部分が含まれている蓋然性が多分にあるが、そうであったとしても一向に構わないとして、十分な調査を行うこともなく批判的言論を抑圧する目的を持ち、甲事件を提起したものと推認するのが相当である。
 なお、原告は、甲事件提起に当たっては、それまで特段顧問関係等がなかったd弁護士及びe弁護士が中心となり、それまでの訴訟事件や行政処分申立てに対する反論等の資料により検討が可能な第三者請求の具体例に関する記述に限定した旨主張する。確かに、上記両弁護士においては、原告から示された資料に基づき上記のような違法な意図なく本訴提起に加わったものと認められないでもないが、その基礎とされた資料が不十分なものであることは上記のとおりであり、原告がこれに先立って誠意ある調査をすれば自己に損害賠償請求権がないことを容易に認識し得たことも既に判示したとおりであるから、原告訴訟代理人の一部の意図いかんにかかわらず、原告に上記のような意図があったと推認すべきことはいうまでもない。
(4) 民事訴訟法208条の適用の有無について
 なお、丙事件被告についての民事訴訟法208条の適用の有無について念のため判示する。
 丙事件被告は、上記において判示したとおり、当事者尋問の期日に正当な理由なく出頭しなかったものである。民事訴訟法208条は、当事者が当事者尋問に正当な理由なく出頭しない場合、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる旨定めている。これは、相手方の主張を真実と擬制するという制裁によって出頭を間接的に強制しようとするものであり、その趣旨は、当事者にとって、相手方の主張を真実と擬制されることは、当該訴訟において敗訴する危険を孕むものであるから、最も直截かつ効果的な出頭強制のための制裁であると考えられるところにある。
 原告らが主張するように、民事訴訟法は、証人の正当な理由のない不出頭に対しては、過料(同法192条)、罰金又は拘留(同法193条1項)の制裁を加えることができることとし、さらには出頭しない証人を勾引することもできる(同法194条)としているのに対し、当事者本人に対しては、このような措置を執ることができるとの規定は存在していない。しかしながらこれは、上で説示したとおり、当事者本人に対しては、真実擬制という制裁が、出頭確保のために最も直截かつ効果的な方策であることに由来する差異であって、法が当事者の出頭義務について証人のそれより低いと位置付けているなどと解することは到底できない。
 前記において認定説示したとおり、本件においては証拠上、甲事件の提訴の違法性が認定できるところであり、民事訴訟法208条をあえて適用するまでもないところではあるが、「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」とする民事訴訟法2条の規定の趣旨もかんがみ、当裁判所は、同条を適用して、尋問事項に関する被告らの主張を真実と認めることとする。
 前記(1)イ(カ)のとおり、丙事件被告の尋問事項に関する被告らの主張は、丙事件被告が原告の運営権限を掌握しており、甲事件提訴についても丙事件被告の意向が働いていたこと(別紙人証申出書第2の4、第2の5参照)、丙事件被告は、甲事件についてその請求を基礎付ける根拠、理由がないことを知っていながら提訴を決断したこと(別紙人証申出一部変更申出書参照)である。
 そうすると、同条の真実擬制を適用した場合、甲事件の提訴については、当時の代表取締役であった丙事件被告の意向により、本件書籍について名誉毀損に基づく損害賠償請求権が成立しないことを知りながら、あえて提訴に踏み切ったものと認められるから、当然、丙事件被告の関係において、甲事件の提訴は違法であると認められることになる。
(5) 乙事件及び丙事件についてのまとめ
 以上に判示したとおり、本件各記述は、その枢要部分においては真実であり、ごく一部については、それらは原告の社会的評価を低下させるものではなく不法行為を構成しないものか、少なくとも真実であるとまでは認められないものの、そう信じるについては相当な理由があり、事実に反すると明らかに認められる部分は存在していないものである。原告は、このことについて既にされた確定判決の内容や行政当局への申立てに伴う調査によって、あらかじめ認識し、又は容易に認識することが可能であったにもかかわらず、本件書籍出版の直後に出版社と執筆者のうち3名の弁護士を被告として訴えを提起したのは、明らかに不相当な行為であり、本件は、そのような提訴のあり方を自戒すべき事案であったことは疑いがない。
 したがって、甲事件の提訴は、本件各記述の大部分について真実であり、その余の部分についても、原告の社会的評価を低下させるものではなく不法行為を構成しないか、少なくとも真実であることに相当の理由があって、請求が認容される余地のないことを知悉しながら、あえて、批判的言論を抑圧する目的で行われたものであり、裁判制度の趣旨目的に照らして不相当なものというべきであり、違法な提訴であると認められる。
2 被告らの損害(争点(5))
 そして、この原告及び丙事件被告の違法な訴え提起等によって被告らが被った精神的損害に対する慰謝料としては、被告A3、A1及びA4がいずれも東京から遠く離れた土地で弁護士業務に従事しており、本件訴訟遂行に当たっては、相当の時間的、経済的負担を余儀なくされたと認められること(乙A36、107ないし109、被告A3)、丙事件被告は甲事件を提訴した時点における原告の代表取締役であり、甲事件の提訴理由について説明すべき責任を負っているにもかかわらず、正当な理由なく当事者尋問期日に出頭しないという不誠実な態度を見せていることなどを総合考慮すれば、各100万円を認めるのが相当であり、また、このような違法な訴えに応訴せざるを得なかったこと並びに乙事件及び丙事件を提起せざるを得なかったことについての弁護士費用としては、各20万円を認めるのが相当である。
第7 結論
 以上によれば、甲事件については、本件各記述の真実性ないし相当性が認められるから、原告の請求をいずれも棄却することとし、他方、乙事件及び丙事件については、原告及びその代表取締役であった丙事件被告による甲事件の提訴が違法であると認められるから、被告らの請求は、それぞれ金120万円の支払を求める限度で理由があるのでその限度で認容し、その余は理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第34部
 裁判長裁判官 藤山雅行
 裁判官 金光秀明
 裁判官 熊代雅音


平成15年(ワ)第9119号 損害賠償等請求事件 名誉毀損部分等一覧表
記事番号  毀損部分
1  武富士は・・・・業界トップというのに、親族請求を行い各地でトラブルを発生させている。
2  やり方、回収ノルマ達成のために債務者の親族を含めた第三者請求。
3  過酷な労働環境が、ひいては債務者に過剰融資を迫り、第三者請求に及んでいる実態が、元従業員からの事情聴取で浮かび上がってきた。
4  内緒にしていた夫に払わせる
5  彼女は借入申込書に職業は主婦と記入し、医療費として必要だから、10万円貸してほしいと受付で話した。夫には内緒にしてほしいとも言った。ところが同社の社員は50万円まで融資枠があるので50万円借りてくださいと言う。「そんなに借りたら返せない」と宮坂さんは10万円でいいことを伝えたが、店員は「規定で最初のお客さんには枠全部借りてもらうことになっている」と譲らない。宮坂さんはお金が必要だったので、仕方なく50万円を借りた。
6  1998年4月上旬のある日の夜、自宅に武富士の社員が取立てに来た。宮坂さんはお金がないため支払えないと言うと、武富士社員は宮坂さんの夫がいることを確認し、「ご主人に払ってもらってくれ」と指示した。
7  宮坂さんが支払えないときや電話に出ないとき、武富士は実家の母親にも電話して「何とかお願いします」などと請求している。
8  小学校で子供を待ち伏せる
9  社員は、下校する長男を校門で待ち伏せて、「お母さんの友達だけど、お母さんに急用がある」と言って、勤務先や携帯電話の番号を聞き出していた。長男は他人には教えないように言われていたが、怖くて話したという。
10  宮坂さんは仕事を辞めているので金がない。だが,武富士の担当者は「本当は金があるのではないか。証拠はあるのか」と迫った。仕方なく、財布の中身を見せた。3000円と小銭が入っていた。武富士社員はその中を見て、「この分、払えるじゃないか」と言った。それは食費である。
11  子供と通りかかった宮坂さんを止めて、両手の指を組んでボキボキと鳴らしながら「宮坂さんですね。ぼく知ってますよ。隣近所の人に聞いてもいいんですよ」と大声で威圧した。12 学校から戻ってきてからも、その担当者は玄関で指の関節をボキボキと鳴らして、威圧を繰り返した。
13  高齢の母親に執拗な請求
14  借りた本人に請求するだけならまだいい。さらに武富士は支払義務のない親兄弟にまで請求している。2002年6月20日午後6時半ごろ、中部地方に住む大川剛志さん(仮名)の母親(76歳)が住むマンションにB1の「I」と名乗る男が訪れた。大川さんは1993年7月にB1から金を借りた。母親の家に将来同居する予定で住民票を移していたが、住んではいなかった。
15  この日I氏はインターホン越しに面会を求めた。大川さんはそこにいない。母親にそう言われても、携帯番号の番号を教えろなどと、なかなか帰らなかった。
16  ドアを何度も叩き、近所に響き渡るような大声で大川さんに会いたいから連絡先を教えろとわめいた。母親が帰ってくださいと言うと、「1万円だけ支払ってくれれば帰る」などと約50分間にも渡って執拗に迫った。
17  母親の支払いを勝手に息子の返済に回す
18  B1は幸江さんに「息子さんの分も支払ってほしい」と電話で言ってきた。徳田さんが借金していることすら初めて知ったのに、それを払えとは二重のショックだった。なぜ息子の分まで支払わなければならないのかとB1の担当者に聞くと、「母親だから支払ってもらわないと困る」などと言う。
19  さらにB1では、幸江さんが自分名義の借金で支払った金を、勝手に息子の支払いに回していた。
20  2度も「今回限りだから」と請求
21  2001年10月頃、B1の担当者は浅野さんの母親に「息子さんの借金を払ってほしい」と電話をした。母親は「パートで働いていて支払えない」と断ったが、「払ってもらわないと困る」と言われて払った。
22  北海道の鈴村幸夫さんは,2001年7月6日から行方不明になっている。彼は多数のサラ金や個人から借金をしていて,姿を消してから実兄の茂男さんのところに問い合わせの電話がかかってきて迷惑していた。同年12月10日,B1から今回限りだから何とか支払ってほしいと懇請する電話があった。繁夫さんは指示された2万1000円を幸夫さんの名前でB1に送金して支払った。
23  母親が8万円の給料から1万5000円を払わされた
24  それと同じころ、B1から電話がかかってきた。キミ子さんが出ると、娘に金を貸したので1万5000円を払ってほしいと言われた。
25  キミ子さんはB1の社員に3000円か5000円ぐらいなら払えると言った。パートの収入が月8万円で、生活保護を受けることもあるから、それぐらいが精一杯だ。しかし、B1の社員は「お母さんだって責任がある。子供さんが借りたのだから。お母さんに払ってもらわなければならない」と言い張った。自分が借りたわけでも、使ったわけでもないのにどうして払わないといけないのかと反発したが、しかし、B1の担当者は「お母さんの方からいくらかずつでも払ってもらわないと困る」と聞く耳を持たない。「いくらか」というのでキミ子さんは「3000円か5000円ぐらいならなんとか払える」と答えたが、「なんとしても1万5000円を払え」と埒が開かない。
26  担当者は「お母さんだから、払う義務がある。子どもさんが借りたものだから、お母さんに払ってもらわないと困る」と言った。尚美さんが自殺を図ったことも話すと、「わかります。辛いことはわかります」と多少の情を見せたが、結局は1万5000円を払ってもらわないと困るということだった。 仕方なくキミ子さんは、もらったばかりの給料から1万5000円を払った。同月中旬には、自宅にまたB1の社員が来て、「こないだ1万5000円払ってもらったが、あと1万5000円足らない。それはいつ払ってくれるのですか」と言った。キミ子さんは、2週間ほど前に1万5000円を払って、また1万5000円を出せと言われても無理。娘も仕事ができない状態だから、払えないと断った。かし、B1の担当者は「とにかく払ってもらわないと困る」などと繰り返し言い続けた。
27  手ぶらで帰ると、上の者に怒られる。借りたものは返すのが当たり前。娘さんが払えなかったら、お母さんに払ってもらわないと困る」などと言い、一向に帰ろうとしない
28  その日もB1の社員が来たので、キミ子さんは娘から渡された金を払い、弁護士に相談することを話した。するとその社員は「それならば1万円足して払ってもらわないと困る」と言い出した
29  しかし社員は弁護士に頼むのならあと1万円払ってくれと言い続けたので、キミ子さんは仕方なく、自分のお金を1万円足して支払った。
30  70歳の母親の無知につけ込んで4年間も支払わせた
31  B1の行為の問題は、まず、林田さんには悪い言い方だが、人の無知につけ込んだことである。B1は林田さんが娘の借金を自分が支払わなければならないと誤信していることを知りながら、あるいは、知ることができたにもかかわらず、支払義務がないことを告げずに請求した。
32  さらに違法性があるのは、借金額を十分に知らせなかったことだ。
33  B1は林田さんに借主の債務内容はもちろんのこと、どのような支払いをさせるのかを十分に説明し、理解してもらうべき責任があるはずだ。ところが、そのような説明は全くされず、70歳を過ぎた林田さんはいくら払うことになるのかわからず困惑し、いつまで払えばいいのか怯えてしまった。B1は1万円でよいと回答した後で、3000円増やすように林田さんに求めた。
34  サラ金業界最大手のB1が変わったのである。 業績第一主義の下に、社員を徹底したノルマ漬けにし、残業代も満足に支払わず、過剰融資に追い立て、第三者請求を強いるという構造がはっきりと見えてきた。
35  私たちは全力を挙げてB1の過剰融資や第三者請求を告発し、是正する運動を広げていく必要がある
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