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【事件名】取締役会議事録等HP公開事件
【年月日】平成17年3月17日
 大阪地裁 平成16年(ワ)第6804号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年2月8日)

判決
原告 株式会社ダスキン
原告 A
原告ら訴訟代理人弁護士 山上和則
同 四宮章夫
同 藤川義人
同 軸丸欣哉
同 高島志郎
同 藤本一郎
被告 B
訴訟代理人弁護士 松原弘幸
同 坂野真一
同 加藤真朗
同 壇俊光
同 東忠宏


主文
1 被告は、原告株式会社ダスキンに対し、55万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Aに対し、55万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告株式会社ダスキン及び原告Aのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告株式会社ダスキンに生じた費用の20分の19と被告に生じた費用の5分の3を原告株式会社ダスキンの負担とし、原告Aに生じた費用の10分の9と被告に生じた費用の10分の3を原告Aの負担とし、原告株式会社ダスキン、原告A及び被告に生じたその余の費用をいずれも被告の負担とする。
5 この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告株式会社ダスキンに対し、1100万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Aに対し、550万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、別紙文書目録記載1ないし11の文書を、電磁的記録に変換して公衆送信してはならない。
第2 事案の概要
1 本件は、被告がそのウェブサイトにおいて、平成16年3月4日から同年5月26日までの84日間、別紙文書目録記載1ないし11の文書(原告株式会社ダスキン代理人弁護士作成名義の意見書、同原告の取締役会議事録)を電磁的記録に変換して公衆送信したことにより、原告株式会社ダスキン(以下「原告ダスキン」という。)の名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用が毀損され(民法709条、710条)、原告ダスキンが上記文書について有する著作権が侵害され(著作権法21条、23条)、更に原告ダスキンの営業秘密が加害目的で開示されたと主張し(不正競争防止法2条1項7号)、また、原告A(以下「原告A」という。)の名誉、情報プライバシーが毀損された(民法709条、710条)と主張して、原告ダスキンの人格権、著作権又は不正競争防止法3条1項に基づき、上記文書の公衆送信の差止めを求めるとともに、名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)若しくは信用の毀損、著作権の侵害、又は不正競争による原告ダスキンの損害として1100万円、名誉、情報プライバシーの毀損による原告Aの損害として550万円と、最後の不法行為又は不正競争のあった日(被告サイトでの公衆送信の終わった日)である平成16年5月26日から支払済みまでの遅延損害金の賠償を求めた事案である。
2 基礎となる事実
(1) 当事者
ア 原告ダスキンは、清掃道具等のレンタルサービス、「ミスタードーナツ」という店舗名による食品小売販売業のフランチャイズビジネス等を業とする株式会社である。(当事者間に争いがない。)
 原告Aは、原告ダスキンの従業員である。(当事者間に争いがない。)
イ 被告は、原告ダスキンの株主であり、元従業員である。(当事者間に争いがない。)
 被告は、「ダスキンオンブズマン」を名乗り、「ダスキンオンブズマンのホームページへようこそ」という名称のウェブサイト(URLは<http:/-www1.odn.ne.jp/dusombs/>及びこの下位ディレクトリ。以下「被告サイト」という。)を開設し、管理していた。(当事者間に争いがない。)
(2) 被告サイトにおける文書の公開
ア 被告は、平成16年3月4日から同年5月26日までの84日間、被告サイトにおいて、別紙文書目録記載1ないし11の文書(以下、別紙文書目録記載の文書は、例えば「本件文書1」、「本件文書1ないし11」のように番号をもって特定する。)を電磁的記録の形式(いわゆるPDFファイル)に変換した上で、K1の管理する電気通信設備(サーバ)上に置いて公衆送信し、上記期間中、一般人が上記文書を閲覧することができるようにした(以下、被告のこのような行為を「被告サイトでの本件文書1ないし11の公開」などということがある。)。(当事者間に争いがない。)
イ 本件文書2には、「ミスタードーナツにおける不適正処理事案」として、原告Aが平成13年12月1日付けで戒告処分を受けることが記載されていた。(当事者間に争いがない。)
(3) 食品衛生法違反事件(大肉まん事件)
ア 原告ダスキンは、平成12年4月から同年12月20日ころまでの間、食品衛生法上使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれた「大肉まん」を日本全国のミスタードーナツ店頭で販売した(以下「別件販売」という。)。
 上記「大肉まん」は、原告ダスキンがK2から供給を受けたものであったが、K2は、K3にその製造を委託し、同社は、中国の子会社であるK4の中国工場で「大肉まん」を製造していた。TBHQは、K4が「大肉まん」の皮の部分の原材料として使用したショートニング(加工植物性油脂で、天然のパーム油に化学合成品の酸化防止剤を入れたもの。)に含まれていた。
イ K5の代表取締役であったP1は、原告ダスキンに対し、K5による「大肉まん」の製造を申し入れ、「大肉まん」のテスト製造をしていたが、その際に、K2が製造した「大肉まん」に、日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが含まれたショートニングが使用されていることを知り、平成12年11月30日、原告ダスキンを訪問し、そのことを告げた。
ウ(ア) 原告ダスキンは、P1に対し、平成12年12月13日に800万円、同月15日に2500万円をそれぞれ支払った。
(イ) 原告ダスキンの取締役ミスタードーナツフランチャイズ事業本部長であったP2は、平成13年1月18日、K6から3000万円を借り入れ、同日、P1に対して同額を支払った。
 (以下、上記(ア)、(イ)の各支払を総称して「別件支払」という。)
エ 原告ダスキンは、平成13年11月末ころまでに、別件販売に関するTBHQの混入について、自ら積極的に公表することをしないこととした。
オ 原告ダスキンの別件販売については、厚生労働省又は農林水産省への匿名による通報があり、平成14年5月15日、保健所が大阪府下のミスタードーナツ8店舗に立入検査をしたことをきっかけとして、同月20日、報道機関が原告ダスキンに対して取材を行い、原告ダスキンは、同日、記者会見をして別件販売の事実を公表した。
 別件販売及び別件支払は、平成14年5月21日以降、新聞等で報道された。特に、原告ダスキンが、食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ「大肉まん」の販売を故意で継続するという同法違反行為を行ったこと、その事実を指摘した業者に「口止め料」を支払ったことなどの疑惑が大きく報道された。
カ 大阪府は、平成14年5月31日、原告ダスキンに対し、食品衛生法に基づき、別件販売を理由に、中国で製造された「大肉まん」について、所定の処分解除の要件が確認できるまでの間、仕入れ及び販売の禁止を命じた。
 原告ダスキンは、平成15年9月4日、別件販売を理由に、食品衛生法違反の罪で罰金20万円に処せられた。
キ 原告ダスキンは、食品衛生法に違反して「大肉まん」を販売したことに関して、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで(第41期)の間に、次のとおり合計105億6100万円の出捐をした(以下「別件出捐」という。)。
(ア) ミスタードーナツ加盟店営業補償 57億5200万円
(イ) キャンペーン関連費用 20億1600万円
(ウ) CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか 17億6300万円
(エ) 新聞掲載・信用回復費用 6億8400万円
(オ) 飲茶メニュー変更関連費用 3億4600万円
 (上記アないしキにつき、乙第2号証、第7号証、第9号証、第10ないし第19号証、第21ないし第24号証、第26号証、第30、第31号証、第56号証(書証に枝番のあるものは枝番をすべて含む。以下、同じ。))
(4) 株主代表訴訟
ア 被告は、原告ダスキンの取締役兼代表取締役、取締役又は監査役であった者に対し、@「大肉まん」にTBHQが使用されたこと、A別件販売、B別件支払、C別件販売を認識した後、その事実を公表しなかったことについて、善管注意義務違反(商法254条3項、民法644条、商法280条)があったことなどを主張し、原告ダスキンに対して連帯して106億2400万円(拡張後の請求額)及び遅延損害金を支払うことを求めて、平成15年4月4日及び同年5月2日、株主代表訴訟を提起した(後に弁論が併合された。大阪地方裁判所平成15年(ワ)第3262号、第4262号損害賠償請求事件(株主代表訴訟)。以下「別件株主代表訴訟」という。)。(乙第1号証、第56号証)
イ 大阪地方裁判所は、平成16年12月22日、別件株主代表訴訟について一部認容判決を言い渡した。すなわち、同判決は、原告ダスキンの取締役であったP3(平成6年6月取締役ミスタードーナツ事業本部長就任、平成9年4月取締役生産本部長就任、平成12年6月専務取締役生産本部担当就任、平成13年4月代表取締役社長就任、平成14年11月退任)について、別件販売認識後の対応について善管注意義務違反があったことを認め、別件出捐相当額である105億6100万円及び別件支払のうち3000万円の合計額105億9100万円の5%に当たる5億2955万円の限度で責任を負うとし、P3に、原告ダスキンに対して5億2955万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ、その余の請求をいずれも棄却するものであった。(乙第56号証)
(5) 取締役会議事録謄写許可申請事件
ア 被告は、平成14年12月25日、大阪地方裁判所に、原告ダスキンに対する平成11年9月から平成14年11月までの間に開催された取締役会の議事録の謄写請求につき、許可を求めた(同裁判所平成14年(ヒ)第670号取締役会議事録謄写許可申請事件。以下「本件謄写許可申請事件」という。)。その許可申請書には、株主代表訴訟を提起すべく準備中であり、そのために、詳細な経営内容及び取締役ら個々人の経営への関与状況、取締役会における発言内容等を知る必要がある旨記載されていた。(甲第1号証、乙第4号証)
イ 原告ダスキンは、本件謄写許可申請事件について、代理人弁護士作成名義の平成15年1月9日付け意見書(本件文書1)を提出し、同事件において謄写請求の対象とされた取締役会議事録の中には、申請の理由からして謄写の必要性のないものが含まれており、同事件における謄写請求は、対象とする議事録の期間及び記載事項を限定していないから、謄写許可申請は却下されるべきである旨の意見を述べた。(甲第1号証)
ウ 原告ダスキンは、平成15年1月22日の審尋期日において、被告に対し、取締役会議事録の一部(本件文書2ないし11)を任意に開示し、被告は、本件謄写許可申請事件の申請を取り下げた。(当事者間に争いがない。)
 (なお、原告ダスキンは、上記事件の平成15年1月10日の第1回審尋期日において、原告ダスキンと被告の間で、株主代表訴訟の目的に必要な取締役会議事録を限定した上で原告ダスキンが任意に開示を行うという内容の合意が成立し、株主代表訴訟に必要な議事録がどれかについては、裁判所が取締役会議事録を閲覧して判断することとされ、取締役会議事録のうち本件文書2ないし11に該当する部分が、株主代表訴訟のために必要であるとされた旨主張する。これに対し、被告は、原告ダスキンとの間で、任意の開示に際して、取締役会議事録の開示の目的を限定する合意をし、又は使用方法に関して制限契約を締結することはなかった旨主張する。)
(6) 本件仮処分
ア 原告ダスキンは、平成16年3月12日、被告に対し、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報の被告サイトからの削除、及び本件文書1ないし11を電磁的記録に変換して公衆送信することの差止めを求める仮処分を大阪地方裁判所に申し立てた(同裁判所平成16年(ヨ)第460号情報削除等仮処分命令申立事件)。同裁判所は、同年4月22日、原告ダスキンに30万円を供託させる方法による担保を立てさせて、被告に対し、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトから削除すること、及び本件文書1ないし11を電磁的記録に変換して公衆送信してはならないことを命ずる仮処分決定を行った(以下「本件仮処分決定」という。)。(甲第15、第16号証、弁論の全趣旨)
イ 原告ダスキンは、平成16年5月6日、本件仮処分決定に基づいて間接強制を申し立てた(大阪地方裁判所平成16年(ヲ)第20014号保全執行(間接強制)申立事件)。被告は、同保全執行(間接強制)申立事件において、同月21日付けの意見書を提出し、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報は被告サイトから削除済みである旨の意見を述べた。しかし、実際は、被告サイト上の上記情報へのリンクが切断され、マウス操作のみによってはアクセスできない状態になっただけで、URLを改めて入力すれば上記情報が閲覧可能な状態にあった。(甲第17ないし第20号証、弁論の全趣旨)
 大阪地方裁判所は、平成16年5月26日、間接強制を認める決定を行い、被告に対し、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトから削除することを命じ、被告が同決定送達の日から2日以内に上記削除の債務を履行しないときは、被告は原告ダスキンに対し、上記期間経過の翌日から履行済みまで1日につき11万円の割合による金員を支払うことを命じた。被告は、同月27日、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトから削除した。(甲第21、第22号証、弁論の全趣旨)
3 争点
(1) 原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用の毀損の有無
(2) 原告Aの名誉、情報プライバシーの毀損の有無
(3) 原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権)の毀損に基づく差止請求の当否
(4) 原告ダスキンの著作権侵害の有無
(5) 原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求の当否
(6) 違法性阻却事由の有無
(7) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用の毀損の有無)
(1) 原告ダスキンの主張
 本件文書1は、本件謄写許可申請事件において提出された意見書であり、裁判所の許可がなければ閲覧、謄写できない。本件文書2ないし11は、原告ダスキンの取締役会議事録であり、商法260条の4第6項に基づき、株主等が権利行使のために必要であることを示して裁判所の許可を得た場合にのみ閲覧、謄写を行うことができる。取締役会議事録が公開されると、取締役会における自由な発言に対する萎縮効果、営業上の不利益のほか、秘密管理態勢に対する根本的かつ重大な疑問が生じる。
 原告ダスキンは、情報プライバシー(公開するか否かの判断を含め情報を管理する法的利益)の享有主体である。
 本件文書1ないし11が被告サイトで公開されたことにより、原告ダスキンは、名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用を毀損された。
(2) 被告の主張
 原告ダスキンの主張は争う。
 法人である原告ダスキンは、プライバシー権の享有主体ではない。
 原告の主張は、本件文書1ないし11のどの部分の公開が原告ダスキンの名誉、プライバシー(人格権を含む。)又は信用を毀損したのか特定されていない。
 被告サイトで公開された本件文書2ないし11は、食品衛生法違反事件に関係ない部分を削除し、同事件に関する部分のみが残されており、残された部分に記載された事項は、既に公開済みのものばかりである。
2 争点(2)(原告Aの名誉、情報プライバシーの毀損の有無)
(1) 原告Aの主張
 本件文書2には、「ミスタードーナツにおける不適正処理事案」として、原告Aが平成13年12月1日付けで戒告処分を受けることが記載されていたから、原告Aは、同文書を公開されたことにより、名誉、情報プライバシーを毀損された。
(2) 被告の主張
 原告Aの主張は争う。 
3 争点(3)(原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権)の毀損に基づく差止請求の当否)
(1) 原告ダスキンの主張
 被告が本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトで公開したことにより、原告ダスキンは、人格権としての性質を有する名誉、情報プライバシーを毀損されたから、原告ダスキンは、人格権に基づき、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換して公衆送信することの差止めを求めることができる。
 被告は、現在は、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトから削除しているが、本件仮処分決定の保全異議申立事件(大阪地方裁判所平成16年(モ)第51171号)において、削除義務の存在を争っており、本件仮処分決定についての保全執行(間接強制)申立事件において、実際は被告サイトから上記情報を削除していないにもかかわらず、削除した旨記載した意見書を提出した。したがって、被告は、再度、上記情報を被告サイトにおいて公開する意思と意欲を強く抱いており、上記文書を電磁的記録に変換して公衆送信することの差止めを求める必要性がある。
(2) 被告の主張
 原告ダスキンの主張は争う。
 被告が、本件仮処分決定についての保全執行(間接強制)申立事件において、実際はリンクを切断したのみであるにもかかわらず、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換した情報を被告サイトから削除した旨の意見書を提出したのは、被告のホームページ作成技術に関する知識の未熟さのためである。
4 争点(4)(原告ダスキンの著作権侵害の有無)
(1) 原告ダスキンの主張
ア 本件文書1を作成した弁護士は、本件訴訟の原告訴訟代理人であり、原告訴訟代理人が本件訴訟手続において一貫して本件文書1の著作権が原告ダスキンに属すると主張していることから、本件文書1の著作権は、本件文書1を作成した弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から原告ダスキンに黙示に譲渡された。
 本件文書2ないし11は、原告ダスキンの従業員が職務上作成したものであるから、法人著作として、原告ダスキンに著作権が帰属する。
イ(ア) 本件文書1は、原告ダスキンの主張を事実に基づいて要約したものであり、誰が書いてもこのような表現となるものではなく、相応の創作性が認められる。
(イ) 本件文書2ないし11は、取締役会議事録であり、一定の形式に従って作成されているが、その記載内容は、長い議論を適宜まとめて要約しており、単にモデル文集の文例に取締役の名称等だけを補充して作成したものではない。取締役会の議論を要約する際に、本件文書2ないし11と必然的に同じ記載になるとは考えられず、文言及び形態の全体をみれば、相応の創作性がある。
ウ 被告は、原告ダスキンの同意を得ることなく本件文書1ないし11をそのまま複製して被告サイトで公開し、故意に原告ダスキンの著作権(複製権又は公衆送信権)を侵害した。
(2) 被告の主張
ア 原告ダスキンの主張は争う。
イ 本件文書1ないし11に著作物性があるとしても、その著作権は、各文書を作成した担当者、担当弁護士若しくは弁護士法人に帰属するはずであり、原告ダスキンには帰属しない。
ウ(ア) 本件文書1は、弁護士作成のごくありふれた意見書であり、創作性がない。
(イ) 本件文書2ないし11は取締役会議事録であるが、取締役会議事録は記載事項が商法に定められていて創作的表現を採る余地はなく、また、実際に記載されている文章も、公刊されているモデル文集の文例と大差ないから、創作性がない。
 原告の主張は、どの部分にどのような創作性があるかを明らかにしていない。
エ 本件文書1ないし11は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道であり、著作物に該当せず(著作権法10条2項)、これらを被告サイトで公開することは、時事の事件の報道のための利用(同法41条)であり、違法ではない。
5 争点(5)(原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求の当否)
(1) 原告ダスキンの主張
ア 営業秘密
(ア) 秘密管理性
 取締役会議事録は、典型的な秘密文書であるから、アクセスした者はだれでも、それが会社の秘密に該当するものであると認識し得る。原告ダスキンにおいては、取締役会議事録を閲覧することができるのは、役員ほか一部の従業員に限られており、従業員に対してアクセスを制限しており、秘密として管理されている。
 本件文書2ないし11は、本件謄写許可申請事件において被告に示されたが、それによって秘密管理性は失われない。
(イ) 非公知性
 本件文書2ないし11は、本件謄写許可申請事件の審尋において被告に示され、また、別件株主代表訴訟において証拠として提出されたが、それによって非公知性は失われない。
(ウ) 有用性
 取締役会議事録には、取締役の出欠、取締役会の開催頻度、日時、場所、時間、議題、議事内容、発言が記載され、企業の意思決定のあり方が示されているから、競業他社がこれを用いれば有利な地位に立ち得る。
(エ) 営業秘密
 したがって、本件文書2ないし11は、営業秘密に該当する。
イ 加害目的
 被告は、別件株主代表訴訟を有利に展開するために本件文書2ないし11を公開したと主張するが、同訴訟の争点は、同訴訟の被告である取締役等の損害賠償義務の存否であり、本件文書2ないし11の公開は、同訴訟の帰趨に何ら影響しない。そして、被告は、原告ダスキンと利害が対立し、一部競業する食品衛生法違反事件の関係者と事実上連携して別件株主代表訴訟を追行している。したがって、被告は、原告ダスキンに損害を加える目的で、その営業秘密である本件文書2ないし11を開示した。
ウ 不正競争
 したがって、被告が被告サイトにおいて本件文書2ないし11を公開したことは、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当する。
(2) 被告の主張
ア 原告ダスキンの主張は争う。
イ(ア) 取締役会議事録に、重要な秘密情報が記載されていることはまれであり、これをインターネットで公開している会社も存在するから、取締役会議事録は典型的な営業秘密であるとはいえない。
(イ) 本件文書2ないし11の記載内容のうち、業務にかかわる重要部分は既に原告ダスキンがマスコミ等を通じて公表しており、また、取締役の出欠、取締役会の開催頻度、日時、場所、時間については、業務の過程で従業員や取引先に明らかにされているから、本件文書2ないし11は非公知性がない。
ウ 被告が本件文書2ないし11を公開したのは、別件株主代表訴訟を通じて原告ダスキンの隠蔽体質や経営陣の腐敗を明らかにし、取締役の責任を追及するとともに、世論を喚起するためであって、原告ダスキンに損害を加える目的はなかった。
エ したがって、被告が被告サイトにおいて本件文書2ないし11を公開したことは、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当しない。
6 争点(6)(違法性阻却事由の有無)
(1) 被告の主張
ア 他人の名誉などを毀損するような行為であっても、公共の利害に関し、専ら公益を図る目的でなされ、その内容が主要な点において真実であるか、若しくは真実と信じたことに相当な理由があるときは、その違法性は阻却される。
イ(ア) 公共の利害に関すること
 食品衛生法違反事件は、ミスタードーナツという市民が広く利用している飲食店において販売された肉まんに違法添加物が混入し、しかも原告ダスキンの取締役が同混入の事実を知りながら販売を継続し、部外者に口止め料を支払ったという、我が国の食品衛生や企業の遵法精神の根幹を揺るがせた事件であり、国民の重大な関心事であるから、公共の利害に関することである。
 国民は、添加物の安全性に関する情報だけではなく、食品衛生法違反事件の全体について関心をもっているから、本件文書1ないし11に、TBHQの危険性や不明朗な資金の流れに関する情報が含まれていないとしても、取締役会において、そのような重大な事柄を無視して内部の者の処分に没頭している原告ダスキンの態勢は、食品衛生法違反事件の背景として重要である。
(イ) 目的の公共性
 被告が本件文書1ないし11を公開した目的は、別件株主代表訴訟を通じて、食品衛生法違反事件の真相を明らかにし、原因を究明して責任を明確化し、他企業への警鐘とし、その再発を防止することにあり、これらは専ら公益を図ることを目的としたものである。食品衛生法違反事件は、原告ダスキンの隠蔽体質が原因であり、消費者事件でもあるから、世論喚起及び一般への情報提供が非常に重要である。
ウ したがって、被告の行為が名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用の毀損に該当するとしても、違法性は阻却される。
(2) 原告らの主張
ア 被告の主張は争う。
イ(ア) 本件文書1ないし11は、いずれも食品衛生法違反事件に関する事項を含むが、TBHQの危険性や食品の安全性に関する具体的情報、不明朗な資金の流れに関する情報は含まれていない。また、意見書(本件文書1)、取締役会議事録(本件文書2ないし11)という非公開の文書を公開することは、公共の利害に関することではないし、私企業の内部情報を公開することに公益性はない。
 したがって、本件文書1ないし11の公開は、公共の利害に関することではない。
(イ) 被告は、原告ダスキンと利害が対立する食品衛生法違反事件の関係者と事実上連携して別件株主代表訴訟を追行している。また、新聞記事の引用等他の方法による情報公開が可能であったにもかかわらず、取締役会議事録の公開という表現手法を採ったことは異例である。被告は、本件文書2ないし11の取締役会議事録を、別件株主代表訴訟を提起する目的と称して取得したが、株主代表訴訟の提起は、総株主の利益を図るものであるとしても、専ら公益を図るものではない。また、別件株主代表訴訟の進行は、本件文書2ないし11を公開することとは何ら関係がない。
ウ したがって、被告の行為の違法性は阻却されない。
7 争点(7)(損害額)
(1) 原告らの主張
ア 原告ダスキン
(ア) 被告が平成16年3月4日から同年5月26日までの84日間、被告サイトにおいて、本件文書1ないし11を電磁的記録に変換して公衆送信したことにより、原告ダスキンは、名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)を毀損されるとともに、著作権を侵害され、それによって無形的損害を被った。その損害は、金銭に換算すると、1000万円を下らない。
(イ) 原告ダスキンが本件訴訟のために被った弁護士費用としての損害は100万円を下らない。
(ウ) したがって、原告ダスキンの損害の合計は1100万円である。
イ 原告A
(ア) 被告が平成16年3月4日から同年5月26日までの84日間、被告サイトにおいて、本件文書2を電磁的記録に変換して公衆送信したことにより、原告Aは、名誉、情報プライバシーを毀損され、それによって無形的損害を被った。その損害は、金銭に換算すると、500万円を下らない。
(イ) 原告Aが本件訴訟のために被った弁護士費用としての損害は50万円を下らない。
(ウ) したがって、原告Aの損害の合計は550万円である。
(2) 被告の主張
 原告らの主張は争う。
 原告らは、経済的損失を被っていない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用の毀損の有無)について
(1) 本件文書1について
ア 本件文書1は、本件謄写許可申請事件において、被申請人であった原告ダスキンの代理人弁護士が作成し、裁判所に提出した意見書である。
 甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、本件文書1は、本件謄写許可申請事件の申請人であった被告が受領した副本を電磁的記録に変換して公衆送信したものであり、その正本は同事件の裁判記録の一部であると認められる。
イ 取締役会議事録謄写許可申請事件のような商事非訟事件の記録は、その公開について定めた規定がなく、運用により、裁判所の許可がなければ閲覧、謄写することができないものとされている。これは、商事非訟事件が訴訟のように公開の口頭弁論を経るものではなく、また、その事件の性質に照らし、記録を公開するのが相当でないと考えられることから、記録の公開について定めた規定を置かず、これを原則として非公開としているものと解される。そして、相手方から提出された意見書等の書面の副本を受領した一方当事者は、当該事件の手続を進める限りにおいて、相手方の提出した同書面を使用することができるにとどまり、それをみだりに公開したり、他の用途に使用する権限を有するものではないというべきである。したがって、商事非訟事件において意見書等の書面を提出する者は、その書面が、裁判所の許可がない限り閲覧、謄写されないことを前提とした上で、記載事項を検討し、これを作成しているものと推認される。
 そうであるとすると、商事非訟事件の手続において意見書の副本を受領した一方当事者が、その提出者である相手方当事者の承諾を得ないでこれをインターネット上で公開し、だれでも閲覧できるようにすると、提出者は、裁判所の許可がない限り閲覧、謄写されないことを前提として作成した意見書を意に反して公表されることになり、本来公表されるべきでない意見書が公表されるという意味において社会的評価が低められ、その信用が毀損されるものというべきである。
ウ 本件においても、原告ダスキンは、裁判所の許可がない限り閲覧、謄写されないことを前提として、本件謄写許可申請事件において意見書である本件文書1を提出し、その副本を被告に交付したというべきところ、被告によって、原告ダスキンの承諾のないまま本件文書1を被告サイトで公開されたものであり、被告の上記行為により、本来公表されるべきでない意見書を公表されたという意味においてその社会的評価が低められ、その信用が毀損されたものと認められ、それによって無形的損害を被ったものと認められる。
(2) 本件文書2ないし11について
ア 商法260条の4第6項は、株主等がその権利を行使する必要があるときは、裁判所の許可を得て取締役会議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができる旨規定している。
 このように、取締役会議事録は、当然に公開されるべきものではなく、株主等がその権利を行使する必要がある場合に限り、裁判所の許可を得て閲覧又は謄写をすることができるにすぎないものであることを前提として、作成されるものである。
イ そして、商法260条の4第6項の趣旨及び前記第2、2(5)アないしウ認定の経緯に鑑みると、本件謄写許可申請事件の平成15年1月22日の審尋期日において、原告ダスキンが取締役会議事録の一部である本件文書2ないし11を被告に開示するに当たり、原告ダスキンと被告との間で、本件文書2ないし11は株主代表訴訟の訴訟手続のためにのみ用いるという黙示の合意が成立したものと認められる。
 しかるに、被告は、原告ダスキンの取締役会議事録である本件文書2ないし11を同原告の承諾を得ないで被告サイトで公開し、だれでも閲覧できるようにしたものである。
 したがって、原告ダスキンは、裁判所の許可がない限り閲覧、謄写されないことを前提として作成された取締役会議事録を意に反して公表されたものであって、当然に公表されるべきものではない取締役会議事録が公表されたという意味において社会的評価が低められ、その信用が毀損されたものと認められ、それによって無形的損害を被ったものと認められる。
ウ 被告は、本件文書2ないし11に記載された事項は、既に公開済みのものばかりである旨主張する。
 しかし、甲第2ないし第11号証、乙第7ないし第40号証、第42号証によれば、本件文書2ないし11に記載された事項には、原告ダスキンの発表や報道等によって公開されていない事項も含まれていることが認められる。また、前記イのとおり、本件文書2ないし11が公表されたことにより、当然に公表されるものではない取締役会議事録が公表されたことそれ自体によって、原告ダスキンの社会的評価が低められ、その信用が毀損されたものであるから、本件文書2ないし11に記載された事項に公開済みの事項が含まれていたとしても、原告ダスキンの信用が毀損されたという上記判断を左右するものではない。
(3) 上記のとおり、原告ダスキンは、被告による本件文書1ないし11の公開によって、その信用を毀損されたものというべきである。その被侵害利益である原告ダスキンの「信用」は、営利企業である原告ダスキンに対する社会的評価であり、信用回復のために会社経営の公正さや透明性について議論されることがあるとしても、結局のところ、支払能力又はその財産的裏付けに対する信頼という経済的評価に帰着するものと解される。原告ダスキンは、これに加え、被告の上記行為により人格権としての性質を有する原告ダスキンの名誉、情報プライバシーも侵害された旨主張する。自然人のみならず、法人についても、名誉、情報プライバシーを観念し得るか否かは検討の余地があるが、仮にこれを観念し得るとすれば、被告の上記行為は、原告ダスキンの人格権としての名誉、情報プライバシーをも侵害したものであるといえる。もっとも、原告ダスキンのいう人格権としての名誉、情報プライバシーなる利益の侵害の意味は、必ずしも明確ではなく、結局のところ、本来当然に公表されるべきものではない文書がその意に反して公表されたこと、これにより原告ダスキンの社会的評価が低められたことを別の観点で法的構成したものにすぎないとも考えられる。また、これらは人格権的利益とはいえ、自然人の人格について保護されるべき利益とは異なるものであり、これを実質的に考えると、原告ダスキンが営利企業であることからすれば、経済的利益に帰着するものであって、不法行為の成否という観点からは、上記信用毀損とは別個の被侵害利益と観念することの実益に乏しいものというべきである(人格権としての名誉、情報プライバシー侵害による差止請求権の当否については後記3で検討する。)。したがって、被告の上記行為が原告ダスキンの名誉(「信用」とは区別された意味での)や情報プライバシーを侵害されたか否かについての検討にはこれ以上立ち入らないこととし、これらの事情は後記の信用毀損による無形的損害を算定する一事情として考慮するにとどめることとする。
2 争点(2)(原告Aの名誉、情報プライバシーの毀損の有無)について
 前記第2、2(2)イのとおり、本件文書2には、「ミスタードーナツにおける不適正処理事案」として、原告Aが平成13年12月1日付けで戒告処分を受けることが記載されていた。
 勤め先の会社から戒告処分を受けるという事実は、それが公表されると、戒告処分を受けるとされた者の社会的評価が低められることが明らかであるから、原告Aは、本件文書2が公開されたことにより、名誉を侵害され、精神的損害を被ったものと認められる。
 なお、原告Aは、被告の本件文書2の公開により、情報プライバシーも侵害されたと主張する。しかし、原告Aのいう情報プライバシー侵害なるものの内容は必ずしも明らかではなく、それが原告Aが戒告処分を受けるという情報が同原告の意に反して公開されたことを指すとすれば、上記名誉毀損行為を別の観点で法律構成したものにすぎないものというべきである。したがって、これらの事情は後記の名誉毀損による精神的損害を算定する一事情として考慮するにとどめることとする。
3 争点(3)(原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権)の毀損に基づく差止請求の当否)について
(1) 一般的に、表現行為によって、差止請求権を根拠付ける物権的な性質を有する人格権としての名誉、情報プライバシーが侵害されたとき又は侵害されるおそれがあるときに、表現行為の差止めが認められる場合があることは、否定し得ない。しかし、表現の自由の重要性に鑑みると、表現行為の差止めが認められるためには、単に当該表現行為によって人格権が侵害されるというだけでは足りず、当該表現行為によって、被害者が、事後の金銭賠償によっては回復が不可能か、著しく困難になる程度の重大な損害を被るおそれのあることが必要というべきである。
(2) 本件において、被告が被告サイトで本件文書1ないし11を公開したことによって、原告ダスキンは、前記1(1)ウ、(2)イのとおり信用を毀損されたものである。
 しかし、本件文書1ないし11の被告サイトでの公開も一種の表現行為といえるから、表現の自由の重要性に鑑み、その差止めの可否は慎重に判断されるべきであるところ、原告ダスキンは、法的に保護されるべき利益としての信用を毀損されたものとは認められるが、その性質、内容、公開の態様及びそれによって原告ダスキンが被った信用毀損の程度等、とりわけ、本件文書1ないし11は、本件謄写許可申請事件において提出された原告ダスキンの代理人弁護士名義の意見書及び原告ダスキンの取締役会議事録であり、その文書の内容自体に原告ダスキンの社会的評価を低下させるような表現がなされているものではなく、単に、本来当然には公表されるべきでない文書が原告ダスキンの意に反して公表されたという意味においてその社会的評価を低下させるにとどまるものであること、また、被告による本件文書1ないし11の公開によって被告ダスキンの被った損害は、後記7のとおり、金銭に換算することができ、その換算の結果等の事情に鑑みれば、原告ダスキンの被った損害は、事後の金銭賠償によっても回復し得る程度のものであると認められ、その性質上、これを差し止めなければ事後の金銭賠償によっては回復が不可能か、著しく困難になる程度の重大な損害を被るおそれがあるとは認め難い。他に、原告ダスキンが被告の本件文書1ないし11の公開により、事後の金銭賠償によっては回復が不可能か、著しく困難になる程度の重大な損害を被ったことを認めるに足りる証拠はなく、そのおそれがあることを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原告ダスキンは、人格権としての名誉、情報プライバシーが毀損されたことに基づいて、被告による被告サイトでの本件文書1ないし11の公開(公衆送信)の差止めを求めることはできないものというべきである。
4 争点(4)(原告ダスキンの著作権侵害の有無)について
(1) 本件文書1について
 原告は、本件文書1を作成した弁護士は本件訴訟の原告訴訟代理人であり、原告訴訟代理人が本件訴訟手続において一貫して本件文書1の著作権が原告ダスキンに属すると主張していることから、本件文書1の著作権は、それを作成した弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から原告ダスキンに黙示に譲渡されたと主張する。
 本件文書1の著作権は、元々はこれを作成した弁護士に帰属していたものと認められる。そして、弁護士が依頼者の依頼を受けて裁判手続上作成した文書の著作権が依頼者に譲渡されることは通常行われないところ、本件文書1を作成した弁護士である原告訴訟代理人が、本件訴訟手続において一貫してその著作権が原告ダスキンに属すると主張していたからといって、これを裏付ける客観的証拠は全くなく、また、本件訴訟追行上原告ダスキンに本件文書1の著作権を帰属させる必要があるという以外に、そのような譲渡行為が行われることを首肯させるに足りる合理的事情は証拠上全く窺えない。したがって、原告ダスキンの主張する上記事情のみから、本件文書1の著作権が作成者である弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から原告ダスキンに黙示に譲渡されたと認めることはできず、他に、そのような譲渡を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件文書1の著作権は、原告ダスキンに属するものとは認められない。
(2) 本件文書2ないし11について
 著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるところ(著作権法2条1項1号参照)、乙第45ないし第47号証によれば、本件文書2ないし11に記載された文章は、取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの、使用されている文言、言い回し等は、モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており、いずれも、日常的によく用いられる表現、ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ、作成者の個性が表れているとは認められず、創作性があるとは認められない。また、開催日時、場所、出席者の記載等を含めた全体の態様をみても、ありふれたものにとどまっており、作成者の個性が表れているとは認められず、創作性があるとは認められない。
 本件文書5には、「全体スケジュール(案)」、「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する表が付されているが、前者は、再生委員会の答申の予定時期等についてありふれた手法によって表現したものであり、後者も、再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列挙したものにすぎず、作成者の個性が表れているとは認められず、創作性があるとは認められない。
 本件文書6には、「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する表が付されているが、再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列挙したものにすぎず、また、「再生委員会」、「分科会委員」と題する書面も付されているが、目的、権限、役割、議案等をありふれた表現で記載して列挙したものにすぎず、さらに、「ミスタードーナツカンパニー組織図」と題する図が付されているが、これも、各部門とその構成員をありふれた構成図の形で表現したものにすぎず、いずれも、作成者の個性が表れているとは認められず、創作性があるとは認められない。
 したがって、本件文書2ないし11は、いずれも創作性があるとは認められず、著作物であるとは認められない。
(3) 前記(1)のとおり、本件文書1の著作権が原告ダスキンに属するものとは認められず、前記(2)のとおり、本件文書2ないし11は、いずれも著作物であるとは認められないから、原告ダスキンの本件文書1ないし11についての著作権に基づく請求は、いずれも理由がない。
5 争点(5)(原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求の当否)について
(1) 不正競争防止法2条4項の秘密管理性の要件を充足するためには、アクセスした者が営業秘密であることを認識し得ること、アクセスできる者が限られていることなどが必要である。
(2) 原告ダスキンは、取締役会議事録は典型的な秘密文書であるから、アクセスした者はだれでも、それが会社の秘密に該当するものであると認識し得ること、原告ダスキンにおいては、取締役会議事録を閲覧することができるのは、役員ほか一部の従業員に限られており、従業員に対してアクセスを制限しており、秘密として管理されていることを主張する。
 前記1(2)のとおり、取締役会議事録は、商法260条の4第6項により、株主等がその権利を行使する必要があるときに、裁判所の許可を得て閲覧又は謄写の請求をすることができるにとどまる。しかし、そのことから直ちに、取締役会議事録が常に営業秘密に該当すること、アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得ることは認められず、その他に、本件文書2ないし11について、アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。また、本件では、原告ダスキンにおいて、取締役会議事録を閲覧することができるのが、役員ほか一部の従業員に限られていたこと、及び従業員に対してアクセスを制限していたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件文書2ないし11が営業秘密として管理されていたことを認めるに足りる証拠はなく、不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に当たらないから、原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求は、理由がない。
6 争点(6)(違法性阻却事由の有無)について
(1) 被告は、被告の行為が名誉、情報プライバシー又は信用の毀損に該当するとしても、公共の利害に関し、専ら公益を図る目的でなされ、その内容が主要な点において真実であるか、若しくは真実と信じたことに相当な理由があるから、その違法性は阻却される旨主張する。
(2) しかし、原告ダスキンとの関係で被告の不法行為とされるのは、前記1(1)ウ及び(2)イのとおり、本来公表されるべきでない原告ダスキン又はその代理人弁護士作成の文書を原告ダスキンの意に反して公表し、それ自体によって原告ダスキンの社会的評価を低下させたというものであって、同文書の内容の真実性はそもそも問題にならないから、被告主張の事情は、原告ダスキンとの関係では違法性阻却事由となるものではない。
(3) また、乙第7ないし第32号証及び弁論の全趣旨によれば、原告ダスキンの食品衛生法違反事件及びその事後処理が国民の関心事であり、同様の事件の再発防止が社会的に要請されていたことが認められるものの、本件文書1ないし11の性質、記載内容等に鑑みると、上記の点について被告自らの意見を表明し、世論を喚起するために、本件文書1ないし11をインターネット上でそのまま公開することが有用であったとは考えられないし、意見の表明や世論の喚起を実現するためには、他に採り得るよりよい方法があったというべきである。また、前示のとおり、本件文書1ないし11は、本来当然に公開されるべきものではなく、これをインターネット上でそのまま公開することは、それ自体、当然に公開されるべきものではないものが公開されたという意味で、必然的に原告ダスキンの社会的評価を低下させるとともに、原告Aの名誉を毀損するものであって、このことは、被告も容易に認識し得ることであったというべきである。さらに、本件文書2ないし11は、前記1(2)イ認定のとおり、本件謄写許可申請事件の審尋期日における原告ダスキンと被告の間の、株主代表訴訟の訴訟手続のためにのみ用いるという合意の下に被告に開示されたものであるが、それにもかかわらず、被告は、その合意に反して本件文書2ないし11を被告サイトで公開したものであり、そのような行為は、商事非訟事件手続を利用しつつ、その手続上当事者間で形成された合意に従わず、同手続の潜脱を図るものであって、裁判手続上の信義則に反する行為ともいうべきものである。したがって、被告が本件文書1ないし11をインターネット上でそのまま公開したことについては、公益を図る目的のみならず、原告ダスキンの私企業としての信用をことさら毀損し、その社会的評価を低下させるとの意図があったことも推認し得るところである。
 上記事情に鑑みると、本件文書1ないし11は、原告ダスキンの食品衛生法違反事件やその事後処理という公共の利害に関する事項に係るものということはできるものの、その公開が専ら公益を図る目的でなされたとは認められない。
(4) したがって、被告による本件文書1ないし11の公開について違法性は阻却されないというべきである。
7 争点(7)(損害額)について
(1)ア 原告ダスキンは、被告による本件文書1ないし11の公開によって前記1(1)ウ、(2)イのとおり無形的損害を被ったものであり、本件文書1ないし11の性質、内容、被告による公開の態様、原告ダスキンの被侵害利益等諸般の事情を考慮すると、その損害は、金銭に換算して50万円と認めるのが相当である。
イ 被告による本件文書1ないし11の公開と相当因果関係にある弁護士費用としての原告ダスキンの損害は、本件の事案の性質、審理の経過等諸般の事情を考慮すると、5万円と認めるのが相当である。
ウ したがって、原告ダスキンの損害の合計は55万円と認められる。
(2)ア 原告Aは、被告による本件文書2の公開によって前記2のとおり精神的損害を被ったものであり、本件文書2の性質、内容、被告による公開の態様、原告Aの被侵害利益等諸般の事情を考慮すると、その損害は、金銭に換算して50万円と認めるのが相当である。
イ 被告による本件文書2の公開と相当因果関係にある弁護士費用としての原告Aの損害は、本件の事案の性質、審理の経過等諸般の事情を考慮すると、5万円と認めるのが相当である。
ウ したがって、原告Aの損害の合計は55万円と認められる。
8 結論
 よって、原告ダスキンの本件請求は、民法709条、710条の不法行為に基づき、無形的損害についての損害賠償55万円及びこれに対する最後の不法行為のあった日(被告サイトでの公衆送信の終わった日)である平成16年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告Aの本件請求は、民法709条、710条の不法行為に基づき、精神的損害についての損害賠償55万円及びこれに対する最後の不法行為のあった日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 中平健
 裁判官 大濱寿美
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