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【事件名】在宅介護本の著作権侵害事件(2)
【年月日】平成17年2月24日
 東京高裁 平成16年(ネ)第5468号 損害賠償請求控訴事件
 (差戻前一審・東京地裁平成14年(ワ)第3275号/差戻前二審・東京高裁平成15年(ネ)第582号
  /差戻一審・東京地裁平成16年(ワ)第4605号)
 (平成17年1月25日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 農林水産省共済組合
 代表者 農林水産大臣
控訴人 A
両名訴訟代理人弁護士 秋山昭八
同 田辺信彦
同 橋本裕幸
同 宝賀寿男
控訴人 共立速記印刷株式会社
訴訟代理人弁護士 津川哲郎
被控訴人 B
訴訟代理人弁護士 淵上貫之
同 中條嘉則


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 原判決主文第4項を次のとおり更正する。
 「訴訟費用は、差戻し前の第1審、第1次控訴審及び差戻し後の第1審を通じ、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。」

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
(控訴人農林水産省共済組合及び控訴人A)
1 原判決中、控訴人農林水産省共済組合及び控訴人Aの敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の同控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(控訴人共立速記印刷株式会社)
1 原判決中、控訴人共立速記印刷株式会社の敗訴部分を取り消す。
2 本件訴えのうち、被控訴人が控訴人共立速記印刷株式会社に対し、著作権(複製権)侵害に基づく損害賠償として2万8033円及びこれに対する平成14年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分を却下する。
3 被控訴人の同控訴人に対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 被控訴人は、@原判決別紙本訴目録(以下「本訴目録」という。)2記載の書籍(以下「被告書籍」という。)は、同目録1記載の書籍(以下「原告書籍」という。)を複製したものであり、A被告書籍の表紙及びはしがき部分は、原告書籍の表紙及びはしがき部分を改変したものであり、かつ、B被告書籍には、著作者として被控訴人の氏名が表示されていないから、控訴人らが被告書籍5500冊を印刷、製本、頒布した行為は、被控訴人が原告書籍について有する著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したものである旨主張して、控訴人らに対し、損害賠償として、174万円(一部請求、内訳は、著作権侵害分が144万円、著作者人格権侵害分が30万円である。)及び附帯金員の連帯支払を求めた。
 原判決は、被告書籍289冊について、控訴人農林水産省共済組合(以下「控訴人組合」という。)及び控訴人共立速記印刷株式会社(以下「控訴人共立」という。)による著作権侵害並びに控訴人らによる著作者人格権侵害を認め、被控訴人の控訴人らに対する請求を一部認容し、被控訴人のその余の請求を棄却したところ、控訴人らがその敗訴部分の取消しを求めて控訴した。
 本件の前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、以下のとおり訂正し、当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1〜3とおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決5頁7行目の「支払」の後に「等」を加える。
(2) 同5頁下から13行目の「控訴審判決」の次に「(以下「第1次控訴審判決」という。)」を加え、同8頁下から8行目の「控訴審での判決(以下「控訴審判決」という。)」を「第1次控訴審判決」に改め、10頁下から6行目、11頁下から12行目及び下から8行目並びに12頁6行目の「控訴審判決」を「第1次控訴審判決」に改める。
(3) 同9頁下から10行目の「原告」を「控訴人共立」に改める。
(4) 同15頁1行目の「以下のとおりの過失」を「以下のとおり過失」に改める。
(5) 同16頁6行目の「174万円」の後に「(内訳は、著作権侵害分が144万円、著作者人格権侵害分が30万円である。)」を加える。
2 控訴人組合及び控訴人A(以下控訴人組合及び控訴人Aを一括して「控訴人組合ら」という。)の主張
(1) 著作権(複製権)侵害の主体について(争点(2)関係)
 控訴人共立は、被告書籍と本文部分が共通する書籍1000冊の印刷、製本を**クラフト館から請け負い、その代金に代えて当該1000冊のうち700冊を販売する権利を譲り受けたのであって、販売に際し、購入者ごとに表紙の名入れや奥付の記載の変更等のサービスを実施することについても、あらかじめ**クラフト館の了解を得ていた。控訴人組合に被告書籍289冊を販売していなければ、その分は、他の買い手に販売することが予定されていたものであって、控訴人組合の発注により初めて複製行為が行われたというわけではない。
 したがって、控訴人組合は、被告書籍を控訴人共立から購入したにすぎず、控訴人組合と控訴人共立とが共同で被告書籍を複製したものではない。
(2) 同一性保持権侵害について(争点(4)関係)
 被告書籍のはしがき部分の記載は、控訴人組合が被告書籍の購入に当たり控訴人共立から見本として示された書籍(甲15−1〜3、以下「甲15書籍」という。)のはしがき部分の記載を一部改変したものであることが明らかである。したがって、控訴人組合らによるはしがき部分の改変は、甲15書籍のはしがきの改変ではあっても、原告書籍のはしがきの改変ではないところ、甲15書籍のはしがきの著作者が被控訴人でないことは、被控訴人の自認するところであるから、上記改変は、被控訴人の同一性保持権の侵害には当たらない。
(3) 過失について(争点(5)関係)
ア 本件では、現実の複製及び改変行為を行ったのは専ら控訴人共立であり、控訴人組合らは、いずれも直接には関与していない。このように、著作物の作成に直接携わっていない者については、権利関係の詳細な調査を自ら行うことを要求するのが酷である場合があり、そうした場合には、仮に、自ら権利関係の詳細な調査を行っていなくとも、そのことにつき過失はないものというべきである。
 控訴人組合は、出版関係の業務に携わる者ではなく、書籍の権利関係について専門知識を有するわけではない。専門業者である控訴人共立が表紙の名入れや奥付の変更を提案している以上、控訴人組合としては、その前提として、当然に権利者の了承を得ているものと信じて疑わなかったものであり、また、飽くまで被告書籍を購入するという認識しかなく、複製及び改変行為の主体としての認識はなかった。
 また、控訴人共立が控訴人組合の担当者に見本として提示した甲15書籍の奥付には、確かに、「編集」として「東京都在宅介護研究会」の記載があり、「監修・協力をいただいた方々」として被控訴人を含む11名の氏名の記載があるが、そもそも、原告書籍の著作権者がだれであるかは、前訴を経て初めて明らかになったものであり、それまで、**クラフト館は、原告書籍ないし甲15書籍について、便宜上、**クラフト館の代表者Cの妻である被控訴人が代表者を務める東京都在宅介護研究会を編集者としたにすぎないとの認識の下に行動していた。
 以上のような状況の下において、控訴人組合は、控訴人共立及び**クラフト館に確認する以外にも、個々の執筆者に問い合わせるなどして著作権侵害の有無を確認すべき義務があるとすることは、社会通念に照らし相当でないというべきである。また、控訴人Aは、名目上、被告書籍のはしがきの名義人となったにすぎず、このような者に著作権侵害の有無についての確認を要求するのは、余りに酷である。
イ 本件は、被控訴人と**クラフト館の代表者Cとの離婚に端を発した事件であるところ、被告書籍が発行された平成5年3月の時点では、両者は離婚するには至っておらず、著作権の帰属に関する争いは顕在化していなかった。このような経緯からすれば、被告書籍の発行の時点では、**クラフト館は、自らが著作権者であり、単独で複製・改変を許諾し得る立場にあると信じていたものと考えられ、その結果、控訴人共立において、**クラフト館の同意があれば権利侵害のおそれがないと誤信したとしても、やむを得ないものというべきである。
 そして、控訴人組合は、上記のとおり、被告書籍を購入するという認識を有していたにすぎないのであるから、控訴人組合において、控訴人共立の権限を疑い、控訴人共立に対し、著作権侵害の有無についての調査を促すことを要求するのは酷である。また、控訴人Aは、そもそも控訴人共立と直接接触する立場になかったのであり、控訴人共立に調査を促し得る状況にはなかった。
ウ 以上によれば、控訴人組合らには、被控訴人の著作権及び著作者人格権の侵害につき過失はない。
(4) 著作権(複製権)侵害に係る消滅時効について(争点(7)関係)
 原判決は、前訴289冊と被告書籍とが別個のものであるとの前提に立ち、本件における消滅時効の起算点は平成12年9月であると判断した。
 しかしながら、前訴289冊と被告書籍は同一であると認められるから、被控訴人は、遅くとも前訴の第1審判決がされた平成9年3月31日の時点では、少なくとも著作権(複製権)侵害について認識していたものである。
 したがって、著作権(複製権)侵害に基づく損害賠償請求権については、被控訴人による本件訴えの提起日(平成14年2月18日)前に、民法724条所定の3年の消滅時効が完成したものというべきである。
3 控訴人共立の主張
 控訴人組合らの上記2の主張を援用する。
4 被控訴人の主張
(1) 控訴人らの上記主張は、いずれも争う。
(2) 著作権(複製権)侵害の主体について(争点(2)関係)
 控訴人組合が被告書籍の作成主体であることは、被控訴人の行政文書開示請求に対し、農林水産省が、被告書籍は「農林水産省共済組合が厚生省関係補助事業を活用して作成し・・・配布したものである」旨回答し(甲11)、また、被告書籍のはしがきにおいて、控訴人A自身が、「この小冊子を作成、配布することにしました」と明記していること(甲2、丙5)からも明らかというべきである。
(3) 被告書籍の作成部数について(争点(3)関係)
 控訴人らは、社会保険診療報酬支払基金から交付を受けた平成4年度特別保険福祉助成金のうちの1100万9820円は在宅介護用給付に係る費用として支出したものであると主張し、売買契約書、納品書(丙7、8の各1〜3)等を援用する。しかしながら、上記のとおり、農林水産省は、被告書籍が当該助成事業を活用して作成されたものであることを認めている(甲11)ところ、一つの助成事業に対しその目的は一つに限定される(甲17参照)から、介護に関する書籍の作成、発行を目的とする当該助成事業の目的の中に、上記売買契約書等に記載されたような介護用品の購入などが含まれるはずはなく、控訴人らの上記主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 被告書籍を、前訴判決において審判の対象とされた前訴被告書籍(原判決別紙前訴目録1記載の書籍)と同一であるということはできず、被控訴人の控訴人共立に対する著作権(複製権)侵害に基づく本件損害賠償請求が、前訴判決の既判力に抵触するものではないことは、第1次控訴審判決の判示(9頁1行目〜12頁下から3行目)するとおりであり、本件訴訟の経緯(原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1(3))に照らすと、被告書籍が前訴被告書籍と同一であるということはできないとする第1次控訴審判決の上記判断については、差戻し後の審理において拘束力を生じているというべきである。
 これに対し、控訴人共立は、第1次控訴審判決の拘束力は、差戻し前第1審における証拠調べの結果を前提として、差戻し前第1審判決が前訴289冊と被告書籍との同一性を認めたことが誤りであるとの判断については生じるが、それを超えて、前訴289冊と被告書籍が別個のものであるとの判断については生じないとした上、被告書籍289冊が控訴人組合により控訴人組合の各支部に配布されたのであり、他に同一又は類似の書籍が配布された事実は存在しないから、前訴被告書籍は被告書籍と同一であると主張する。しかしながら、上記のとおり、第1次控訴審判決の拘束力は、被告書籍を、前訴判決において審判の対象とされた前訴被告書籍と同一であるということはできないとの判断について生じるというべきであるから、控訴人共立の上記主張は、その前提において失当である。
2 争点(2)について
(1) 本争点に対する当裁判所の判断は、下記のとおり、控訴人組合の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「2」のとおりであるから、これを引用する。
(2) 控訴人組合の当審における主張に対する判断
 控訴人組合は、控訴人共立が控訴人組合に対し被告書籍289冊を販売していなければ、その分は、他の買い手に販売することが予定されていたものであって、控訴人組合の発注により初めて複製行為が行われたというわけではないなどとして、控訴人組合は、被告書籍を控訴人共立から購入したにすぎず、控訴人組合と控訴人共立とが共同で被告書籍を複製したものではない旨主張する。
 しかしながら、控訴人組合及び控訴人共立が共同して被告書籍を作成したと認めるのが相当であることは、上記(1)において引用した原判決の判示(20頁6行目〜16行目)のとおりであり、控訴人組合に販売していなければ、他の買い手に販売することが予定されていた等の同控訴人主張に係る事情は、上記判断を何ら左右するものではないから、同控訴人の上記主張は採用の限りではない。
3 争点(3)について
 本争点に対する当裁判所の判断は、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「3」のとおりであるから、これを引用する。
4 争点(4)について
(1) 本争点に対する当裁判所の判断は、下記のとおり、控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「4」のとおりである(ただし、21頁9行目及び16行目の「被告Aはしがき」を「被告書籍はしがき」に、同頁下から9行目の「原告著作権」を「原告書籍」にそれぞれ改める。)から、これを引用する。
(2) 控訴人らの当審における主張に対する判断
 控訴人らは、被告書籍のはしがき部分の記載は、控訴人組合が被告書籍の購入に当たり控訴人共立から見本として示された甲15書籍のはしがき部分の記載を一部改変したものであるから、控訴人らによるはしがき部分の改変は、甲15書籍のはしがきの改変ではあっても、原告書籍のはしがきの改変ではない旨主張する。
 しかしながら、被告書籍のはしがき部分が、原告書籍のものと異なっていることは、上記第2において引用した原判決摘示(3頁下から2行目〜4頁4行目)のとおりであり、そうである以上、被告書籍のはしがき部分の記載内容が、直接には甲15書籍のものに基づくものであるか否かは、同一性保持権侵害の成否には影響しないというべきである。したがって、控訴人らの上記主張は採用の限りではない。
5 争点(5)について
(1) 本争点に対する当裁判所の判断は、下記のとおり、控訴人組合らの当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「5」のとおりであるから、これを引用する。
(2) 控訴人組合らの当審における主張に対する判断
 控訴人組合らは、@現実の複製及び改変行為を行ったのは専ら控訴人共立であって、控訴人組合らは、いずれも直接は関与していないこと、A控訴人組合は、出版関係の業務に携わる者ではなく、書籍の権利関係について専門知識を有するわけではなく、専門業者である控訴人共立が表紙の名入れや奥付の変更を提案している以上、控訴人組合としては、その前提として、当然に権利者の了承を得ているものと信じて疑わなかったものであること、B控訴人組合には、飽くまで被告書籍を購入するという認識しかなかったこと、C本件は、被控訴人と**クラフト館の代表者Cとの離婚に端を発した事件であるところ、被告書籍が発行された平成5年3月の時点では、両者は離婚するには至っておらず、著作権の帰属に関する争いは顕在化していなかったこと、D控訴人Aは、名義上、被告書籍のはしがきの名義人となったにすぎず、被控訴人共立と直接接触する立場になかったことなどを根拠に、控訴人組合らが、自ら又は控訴人共立を介して権利関係の調査を行わなかったことに過失はない旨主張する。
 しかしながら、控訴人組合らは、当審において、控訴人組合の担当者が、控訴人共立から見本として甲15書籍を提示されていたことを自認しているところ、甲15書籍の奥付には、「編集 東京都在宅介護研究会」、「発行 公立学校共済組合」との記載があり、「監修・協力をいただいた方々」として、被控訴人を含む11名の者の氏名の記載があることが認められるから、控訴人組合らは、控訴人共立の提案に係る被告書籍の発行には、控訴人共立又は**クラフト館のほかに、被控訴人を始めとする複数の著作権者の同意が必要であることを、むしろ、容易に認識し得たものというほかはなく、控訴人組合らには、自ら又は控訴人共立を介して権利関係の調査を行わなかったことにつき過失があったものというべきであり、このことは、控訴人組合の担当者が甲15書籍の奥付を現実に確認したか否かや、原告書籍をめぐる著作権の帰属に関する争いが顕在化していたか否かにはかかわらない。
 そして、上記引用に係る原判決の認定(原判決18頁下から7行目〜19頁2行目)のとおり、被告書籍の作成に当たっては、控訴人共立が表紙の名入れや奥付の変更を提案し、被控訴人組合はこれを了承したものであるところ、そうした行為が著作権人格権を侵害する危険性の極めて大きいものであることは自明であること、控訴人Aは、本件当時、農林水産省大臣官房厚生課長の地位にあり、その職務上、控訴人組合本部長代理として被告書籍の配布の責任者の地位にあったこと(弁論の全趣旨)等に照らせば、控訴人組合ら主張に係る事情は、いずれも、控訴人組合らに過失があったとの上記判断を左右するものではない。
 したがって、控訴人組合らの上記主張は採用することができない。
6 争点(6)について
 本争点に対する当裁判所の判断は、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「6」のとおりである(ただし、原判決23頁下から6行目の「原告の」の前に「そこで、」を加え、同頁下から4行目の「原告が被った損害額は」を「被控訴人の受けるべき相当対価額を算定すべきところ(なお、弁論の全趣旨に照らし、被控訴人は、著作権法114条2項所定の侵害者利益のほか、同条3項所定の相当対価額をも予備的に主張しているものと認められる。)、著作権使用料率は被控訴人の自認する10パーセントを採用し」に改める。)から、これを引用する。
7 争点(7)について
(1) 本争点に対する当裁判所の判断は、下記のとおり、控訴人組合及び控訴人共立の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の「7」のとおりである(ただし、原判決24頁下から5行目の「原告は、」の次に「平成14年2月18日、」を加える。)から、これを引用する。
(2) 控訴人組合及び控訴人共立の当審における主張に対する判断
 控訴人組合及び控訴人共立は、前訴289冊と被告書籍は同一であると認められるから、被控訴人は、遅くとも前訴の第1審判決がされた平成9年3月31日の時点では、少なくとも著作権(複製権)侵害について認識していたものであり、著作権(複製権)侵害に基づく損害賠償請求権については、消滅時効が完成した旨主張する。
 しかしながら、本件において、前訴289冊と被告書籍とが同一であるということができないことは、上記1のとおりであり、上記7(1)において引用した原判決の認定(24頁11行目〜下から4行目)のとおり、被控訴人は、平成5年7月7日、農林水産省大臣官房厚生課を訪れた際、同課の部屋の机の上に数冊の書籍が積まれているのを目にしたものの、その内容は確認しなかったため、当該書籍は前訴被告書籍であると考えて、前訴を提起したものであって、前訴被告書籍とは別の書籍である被告書籍が存在することは、平成12年9月6日に再び農林水産省大臣官房厚生課を訪れた際に、初めて知ったものであると認めるのが相当である。前訴の第1審判決がされた平成9年3月31日の時点では、被控訴人において、前訴289冊に係る書籍は前訴被告書籍であると認識していた以上、被告書籍の作成による著作権(複製権)侵害の事実を現実に認識し、控訴人組合及び控訴人共立に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を知ったものということはできないから、控訴人組合及び控訴人共立の上記主張は採用することができない。
8 以上によれば、被控訴人の本訴請求は、@控訴人組合及び控訴人共立に対し、それぞれ及び控訴人Aと連帯して、8万8033円(ただし、控訴人Aとの間では3万円の限度で連帯して)及びこれに対する、控訴人組合については平成14年2月26日から、控訴人共立については同月24日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、A控訴人Aに対しては、控訴人組合及び控訴人共立と連帯して、3万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容すべきである。
 よって、これと同旨の原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、原判決主文第4項には明白な誤りがあるから、これを本判決主文第3項のとおり更正することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第2部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 古城春実
 裁判官 早田尚貴
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日本ユニ著作権センター
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