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【事件名】類似アイディア家電の不正競争・取扱説明書事件
【年月日】平成17年2月8日
 大阪地裁 平成15年(ワ)第12778号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年12月7日)

判決
原告 株式会社パアグ
訴訟代理人弁護士 浅井健太
訴訟代理人弁理士 山田茂樹
被告 株式会社津田商事
訴訟代理人弁護士 井垣弘
補佐人弁理士 西良久


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告商品目録記載の製品を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
2 被告は、前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は、別紙取扱説明書目録記載の取扱説明書を頒布してはならない。
4 被告は、前項記載の取扱説明書を廃棄せよ。
5(1) 主位的請求
 被告は、原告に対し、金410万円及びこれに対する平成15年12月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
 被告は、原告に対し、金410万円及びこれに対する平成16年12月8日(平成16年11月30日付け原告準備書面の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、
(1) 被告が製造販売する商品名を「風呂ポット」という商品の商品形態及び商品名が、原告の製造販売している商品名を「風呂バンス」という商品の周知となった商品表示である商品形態及び商品名と類似し、被告製品と混同を生じさせるおそれがあり、被告の被告製品の販売行為等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たると主張して、被告に対し、同法3条1項、2項に基づき被告製品の製造販売等の差止め、廃棄を求めるとともに(請求1、2)、同法4条に基づき損害賠償を求め(請求5(1))、
(2) (1)の予備的請求として、被告製品の製造販売行為と被告製品が従前テレビ放送で紹介されたことがないのに、「TVでおなじみの」などとする不当な宣伝を用いて被告製品を製造販売した行為は、原告の得意先関係を故意に積極的に侵害するものであって、原告に対する不法行為を構成すると主張して、被告に対し、民法709条の不法行為に基づく損害賠償を求め(請求5(2))
(3) 被告製品に添付された取扱説明書及びその中のイラストが、原告製品に添付された編集著作物たる取扱説明書及びその中のイラストを複製したものであり、これらについて原告の有する著作権を侵害すると主張して、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき被告製品に添付された取扱説明書の頒布の差止め、廃棄を求めるとともに(請求3、4)、民法709条に基づき損害賠償を求めた(請求5(1))
 事案である。
1 争いのない事実等(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
ア 原告は、オリジナルアイデア商品の製造・販売を業とする株式会社である。
イ 被告は、日用品雑貨の卸し・販売を業とする株式会社である。
(2) 取扱製品
 原告は、平成11年8月から、別紙原告商品目録記載の製品(以下「原告製品」という。)を製造・販売している。原告製品は、浴槽内に自立させた状態で、内蔵する電気ヒーターによって浴湯を加熱し、加熱した浴湯の上昇流によって生じる浴槽内対流を利用して浴湯を均一に保温させるものである。
 被告は、平成15年10月ころから、原告製品と同種製品である別紙被告商品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を販売している。
(3) 取扱説明書
 原告は原告製品に取扱説明書(以下「原告取扱説明書」という。)を添付している。
 被告は被告製品に別紙取扱説明書目録記載の取扱説明書(以下「被告取扱説明書」という。)を添付している。
2 争点
(1) 不正競争防止法に基づく請求(同法2条1項1号)について
ア(ア) 原告製品の商品形態は、原告の商品表示として周知性を有するか。
(イ) 被告製品は、その商品形態が原告製品の商品形態と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。
イ(ア) 原告製品の商品名は、原告の商品表示として周知性を有するか。
(イ) 被告製品は、その商品名が原告製品の商品名と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。
(2) 民法709条に基づく請求(予備的請求)について
 被告が、原告製品と商品形態あるいは商品名において類似する被告製品を「TVでおなじみの」などの宣伝文句を付して販売等することが、原告に対する不法行為を構成するか。
(3) 著作権法に基づく請求について
ア 別紙著作物目録1ないし3記載のイラストについて
(ア) 別紙著作物目録1ないし3記載のイラストは、著作物性を有するか。
(イ) 仮に著作物性を有する場合、被告取扱説明書の一部は、別紙著作物目録1ないし3記載のイラストを複製したものであるか。
イ 編集著作物について
(ア) 原告取扱説明書は、編集著作物性を有するか。
(イ) 仮に編集著作物性を有する場合、被告取扱説明書は原告取扱説明書の編集を複製したものであるか。
(4) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 不正競争防止法に基づく請求(同法2条1項1号)について
(1) 争点(1)ア(ア)(原告製品の商品形態は、原告の商品表示として周知性を有するか)について
【原告の主張】
ア 原告製品の形態
(ア) 原告製品の全体構成の特徴
 原告製品は、本体のほか、スイッチ、漏電遮断器付きプラグ、本体の頭頂から延び出してスイッチに接続する耐熱コード、スイッチと漏電遮断器付プラグとを繋ぐコード、耐熱コードに移動可能に取り付けられた吸盤及び不使用時に本体を載置するためのトレーを備えている。
(イ) 原告製品の具体的構成の特徴
a 原告製品の本体は、その色分けと組立部品構成から、頭部(筒部、把手部及び本体上部)、本体部、脚部の構成部分からなる。
b 本体部は、下方が若干縮径された縦長円筒形状を有している。
c 頭部は、椀を上下反対にし上部を水平に切断して開口とした形状をしており、中心軸に対して対称な部分から中心軸を通るように延出された弓状の把手部と、この把手部の中央部に中心軸と同心円上に形成され、中心軸方向下方に垂下する、耐熱コードを支持する筒部とを有する。
d 脚部は、本体部の下部の外周に等角度に形成された、表面が凸状の曲面とされた4つの脚を有する。
e 上面からみると、頭部の開口内に、パイロットランプが視認可能に配設されている。
f 底面からみると、円形の底面には、中心軸を中心に45度間隔で周方向に8本の桟が形成され、それらの桟と桟の間に同心円上に複数の開口が形成されている。そして、底面の外周には90度間隔で外方に向かって凸状の曲面とされた脚が形成されている。
g トレーは、円盤状の基部と、基部の外周からやや外方に広がるように立ち上がった、上面を波形とした周壁とが一体成形されている。そして基部の底面中央部には同心円上に若干の凹みが形成され、上面中央には同心円上に若干の突起が形成されている。更に、トレーの底面には、周方向に等角度に3つの凸部が形成されている。
イ 原告製品の商品形態が原告の商品表示として周知性を有すること
 商品形態の周知性は、販売台数、商品形態が他の製品に比べて顕著な特徴を有するか、その製造・販売が独占的に行われているかという点に加え、宣伝広告の形態や頻度などを総合的に考慮し、判断されるべきである。
 この点、原告製品は、浴槽底に自立させた状態で、内蔵する電気ヒーターによって浴湯を加熱し、加熱した浴湯の上昇流によって生じる浴槽内対流を利用して浴湯を均一に保温させるという、従前にないコンセプトから生み出された画期的な商品であり、原告のオリジナルアイデア商品である。したがって、その形態は従前に類似のものがなく、極めて高い独創性を有しているといえる。更に、原告は、原告製品と類似する製品の市場を独占していた。
 そして、原告は、平成11年8月原告製品の販売を開始し、それ以降、通信販売や店頭販売を通じて合計約2万台以上の原告製品を販売している。その間、原告製品は、讀賣新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞などの国内大手新聞を始め様々な新聞広告にすべて写真入りで頻繁に掲載され、また、日本直販、ニッセン、千寿会、近鉄百貨店などの国内大手通信販売会社のカタログにもすべて写真入りで頻繁に掲載されている。これらの新聞及び通信販売カタログの販売・配布部数はそれぞれ数十万部ないし数百万部にも達している。また、原告製品は、国内主要民放やケーブル放送においてもたびたび取り上げられ、放送されている。原告製品を放映したケーブル放送の契約件数はおおよそ1700万所帯であり、かかる放送の視聴率が仮に1%であったとしても1回の放送につき17万所帯もの家庭において、テレビを通して原告製品が知られ得ることになる。国内主要民放による放送の場合は視聴世帯はこれよりも多い。
 以上のように、原告製品の商品形態は独創的であり、また原告製品は新しいアイデア商品であって、原告によって独占的に製造販売されていたことに加え、新聞広告や通信販売カタログ、テレビ放送などによって頻繁に宣伝広告がなされていたのであり、被告製品が販売されるころには約2万台を販売するに至っていたのであるから、原告製品の商品形態が被告製品の販売開始時において、原告の商品表示として既に周知であったことは明らかである。
 したがって、原告製品の商品形態は、原告の商品表示として周知性を有する。
ウ 被告は、原告製品の商品形態はその機能に由来し、あるいは同種製品が販売されていることを根拠に、商品表示性を有しないと主張する。
 しかし、原告製品の形態は、その機能に由来するものではない。また、被告の指摘する同種製品は、原告製品の発売前のものはいずれも浴湯の水面又は水中に浮かんだ状態で使用するものであって、浴槽底に自立させた状態で使用する原告製品とはコンセプトが異なっており、同じく浴槽底に自立させた状態で使用するものは原告製品発売後に発売されたものである。したがって、被告の主張は失当である。
【被告の主張】
ア 原告製品の構成について
(ア) 前記【原告の主張】ア(ア)は認める。
(イ) 原告製品の具体的構成の特徴について
a 原告製品は、頭部(筒部と把手部)、本体部、脚部からなる。
 原告は、色分けや組立部品構成を理由に、頭部(本体部の一部を含む。)、本体部、脚部に分けるが、色分けは模様であり製品の構成要素ではないし、組立部品構成は構造上の問題であって商品の外観形状を決定するものではない。
b 本体部
 本体部が筒形状であることは、浴槽を傷つけない構造とするための基本的な構造であって、ありふれた形状というべきである。したがって、問題となるのはその具体的な形状である。
 本体部は、上部が椀を伏せたような形状で徐々に大径となり、次いでこれに連なる中央部及び下部は、縦長に延びると共に、大径部分を最大の膨張部分として徐々に下方に向かって小径に縮んでいき、上部先端よりも下端の方が小径となっている砲弾状になっている。
 本体部が下方に向かって徐々に細くなる形状は、水中で起立させて使用する製品としては安定性を欠くため通常では用いられない形状であって、需要者の注意を強く喚起する。
c 頭部
 頭部は筒部と把手部からなる。浴槽内で使用する湯沸かし器等に、持ち運びし易いようにハンドル(把手)を設けることは公知の構造である。したがって、問題となるのは、筒部や把手部の具体的形状及びその配置である。
 本体部の中心線に沿って通電コードを通す大径の筒部は、本体部に内蔵されたヒーターやフロートスイッチに接続される電源コードを液密状に覆って真上にガイドする円筒状カバー(その構成は公知である。)で覆われている。
 そして、一方端が筒部の左右側壁に、他方端が本体部の上部に固着されている、一対の4分の1円弧状のアーム(把手部)がある。このアームの形状から、原告製品は、あたかも先端に雷管を突出させた魚雷のような形状になっている。
d 脚部
 製品の下部から浴槽内の湯を取り入れて対流させた後、浴湯を下部から出す構造を採るこの種の製品に、自立用の脚を設けることは公知であるから、脚部の具体的形状が問題になるところ、原告製品の脚部は、本体部の下部外周から外側へ羽根のように張り出している。その余については、前記【原告の主張】ア(イ)dを認める。
e 原告製品にパイロットランプが取り付けられたのは、平成14年9月以降である。
f 前記【原告の主張】ア(イ)f及びgは認める。
イ 原告は、原告製品が従来にない画期的な商品であると主張する。
 しかし、電気ヒーターを用いた投込み式湯沸かし器は原告製品の販売前に存在していた。原告が有する特許権の特許公報(特許第3101263号)によれば、原告製品の特徴は棒状電気ヒーターとこの棒状電気ヒーターと並んで縦長のフロートを用いたフロートスイッチをON−OFFする接点の構造にあるところ、この点に関する原告製品の形態は、その機能に由来する形態というべきであり、これをもって商品表示性を認めることはできない。
 また、原告製品のように、浴槽内に自立させた状態で、内蔵する電気ヒーターによって浴湯を加熱し、加熱した浴湯の上昇流によって生じる浴槽内対流を利用して浴湯を均一に保温させる点は、既に公知の技術思想であったし、これを製品化したものも存在する。
 原告は、(原告製品と類似する製品に関する)市場を独占している旨主張するが、そのような事実が認められるとしても、それは、原告が、何らの権利侵害等がないにもかかわらずそれがあるかのごとく装うという不当な手段を用いて第三者に警告等を行ったため、第三者が製品販売行為を実質的に中止した結果にすぎない。したがって、原告が(原告製品の)市場独占を理由として商品表示性を主張することはできない。
ウ 原告は、原告製品がその形態が原告の商品表示として周知性を有すると主張する。
 しかし、原告製品は、販売地域を限定せず、日本全国を販売エリアとして、平成11年8月から販売されているが、販売合計は2万台であって、世帯普及率からすれば0.043%にすぎない。
 また、原告は、新聞や雑誌に原告製品が頻繁に掲載されたと主張するが、証拠としては僅かな掲載例しか提出していない。原告の主張するTV放送なるものも、平成11年に2回、平成12年に3回、平成13年に1回、平成14年に1回、平成15年に1回にすぎず、平成16年には7回であるものの、平成15年までは年1ないし3回の範囲であるにすぎず、その中には宣伝番組ではなく、単なる情報番組にすぎないものも含まれている。
 以上からすれば、原告製品の商品形態が被告製品販売開始当時、原告の商品表示として周知であったということはできない。
 なお、原告は、原告製品のオリジナル性やアイデア性を強調する。しかし、この主張を前提とするならば、原告製品の顧客吸引力は、その商品形態にあるのではなく、そのオリジナル性やアイデア性の根拠となる省エネ(光熱費の節約)という効能や技術上の新規性にあると考えられる。
(2) 争点(1)ア(イ)(被告製品は、その商品形態が原告製品の商品形態と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか)について
【原告の主張】
ア 原告製品の構成
 前記(1)【原告の主張】ア記載のとおり。
イ 被告製品の構成
(ア) 被告製品の本体は、頭部、本体部、脚部の構成部分に分けられる。
(イ) 本体部
 被告製品の本体部は、上部と比べ下部を大きくした円筒形状を有している。
(ウ) 頭部
 被告製品の頭部は、椀を上下反対にし、上部を水平に切断して開口とした形状をしてなり、中心軸に対して対称な部分から中心軸を通るように延出した弓状の把手部と、この把手部の中央部に中心軸と同心円状に形成され、中心軸方向下方に垂下する、耐熱コードを支持する筒部とを有し、この筒部の一部に拡径した膨張部が形成されている。
(エ) 脚部
 本体部の下部の外周に等角度に、表面が凸状の曲面とされた4つの脚が形成されている。
(オ) 上面視
 被告製品を上面からみると、頭部の円形の開口内にLEDランプ(原告製品のパイロットランプに相当する。)が視認可能に配設されている。
(カ) 底面視
 被告製品を底面からみると、円に近い楕円形の底面に、中心軸を中心に45度間隔で周方向に8本の桟が形成され、それらの桟と桟の間に同心円上に複数の開口が形成されている。そして、底面の外周には略90度間隔で、外方に向かって凸状の曲面とされた脚が形成されている。
(キ) トレー
 トレーは、円盤状の基部と、基部の外周からやや外方に広がるように立ち上がった、上面を波形とする周壁とが一体成形されてなる。そして、基部の下面中央部には同心円状に若干の凹みが形成され、上面中央には同心円状に若干の突起が形成されている。更に、トレーの底面には周方向に等角度に3つの凸部が形成されている。
ウ 原告製品と被告製品の商品形態の比較
(ア) 全体構成の類似
 被告製品は、本体、スイッチ、漏電遮断器付きプラグ、本体の頭部から延び出してスイッチに接続する耐熱コード、スイッチと漏電遮断器付きプラグとを繋ぐコード、耐熱コードに移動可能に取り付けられた吸盤及び不使用時に本体を置くためのトレーとを備えている点で、原告製品と一致する。その結果、被告製品が原告製品と同一の出所からのシリーズ商品ではないかと見る者に誤った印象を強く与える。
 被告製品は、使用されているスイッチが防水式のものである点で原告製品と異なるが、スイッチが防水式か否かといった差異は、見る者に大きな印象を与えるものではない。
(イ) 具体的構成の類似性
a 被告製品の本体は、頭部、本体部、脚部の構成部分に分けられる点で原告製品と共通する。
b 本体部
 被告製品の本体部は、円筒形状である点で原告製品と共通している。
 被告は、正面から見ると、被告製品の本体部は下部を大きく広げた略正三角形状であるのに対し、原告製品の本体部は下部がややすぼまった縦長の円筒形状であるから、両者は外観上顕著な差異があり、この点は需要者の注意を惹きつけるので、原告製品と被告製品は商品形態において非類似であると主張する。しかしながら、原告製品や被告製品は浴槽底に自立させた状態で使用するものであるから、消費者は製品を上方あるいは斜め上方から観察するので、消費者の注意を惹きつけるのは本体部よりむしろ頭部であるところ、後述するように両製品は頭部等の形態において酷似しかつ本体部が円筒形状で共通している。本体部の下部がややすぼまっていたり広がっていたりする程度の形態上の相違により、見る者が両製品の出所を混同しないということはできない。
c 頭部
 本体部に内蔵されたヒーターに接続された電源コードを外部に引き出す形態は多種多様であって、本体上部に把手部と一部繋がった状態で電源コードを通す筒部を設けるという形態は、技術的機能に由来する必然的な形態ではない。にもかかわらず、原告製品と被告製品はこの点において共通している。また、被告製品は、頭部において、中心軸に対して対称な部分から中心軸を通るように延出した弓状の把手部と、この把手部の中央部に中心軸と同心円状に形成され、中心軸方向下方に垂下し、耐熱コードを支持する筒部とを有している点においても、電源コードを液密状に覆って真上にガイドする円筒状カバーが存在する点においても、原告製品と共通している。
 被告は、被告製品の筒部の長さ、形状及び配置が原告製品と異なる旨主張する。しかし、本体上部に把手部と一部繋がった状態で電源コードを通す筒部を設けた原告製品の特徴的形態を被告製品が具備している以上、筒部の長さや太さ、形状がわずかに異なっていても、形態としての類似性はなんら損なわれない。
d 脚部
 製品にいかなる脚部を取り付けるかは多種多様な選択が可能であるにもかかわらず、被告製品の脚部は、本体部の下部の外周に等角度に表面が凸状曲面の4つの脚が形成されている点で原告製品と共通する。
 被告は、脚の本体への取付形状や脚の形状の違いを主張するが、上記共通の形態を備える以上、かかる差異によって形態上の類似性は損なわれない。
e 上面視
 パイロットランプの配置は、機能に由来しない多種多様な選択が可能であるところ、被告製品は、上面からみると頭部の円形の開口内にパイロットランプを視認可能に配設していること、パイロットランプは、緑色であって、通電中に点灯することにおいて、原告製品と共通する。
f 底面視
 円形か楕円形かの微差はあるものの、被告製品の底面は、原告製品のそれに酷似している。また、被告製品の底面の外周に90度間隔で外方に向かって凸状曲面とされた脚が形成されている点は、原告製品と共通している。
 浴湯の取込方法は多種多様であるから、浴湯取込用開口部を底面に形成することは機能に由来する形態ではない。
g トレー
 被告製品のトレーは、その基本的形状(円盤形状の基盤と波形(周方向に30度ピッチで12個)の周壁)、中央部の若干の凹み、底面の周方向に等角度に3つの凸部を設けた点において、原告製品のトレーと共通している。
 被告はトレー底面に形成された凹みの大きさが相違していることやトレーが付属品であること、更には植木鉢用のトレーとしてありふれた形状であることを理由に、トレーの形態によって出所混同は生じないと主張する。しかしながら、原告製品の形態が、従前に類似のものがなく、高い独創性を有していることにかんがみれば、トレーが付属品として付いていること自体が一つの大きな形態上の特徴である。してみれば、原告製品のトレーと形状が酷似したトレーが付属品として被告製品に付いていることは、需要者に出所混同を生じさせる大きな要因となる。
(ウ) 以上のとおり、原告製品と被告製品との形態は共通点が多く、その相違点は微差にすぎない。したがって、被告製品の形態は、原告製品の形態に類似しているというべきである。そして、前記のとおり、原告製品の商品形態が従来類似のものがなく高い独創性を有していることを併せ考慮すれば、原告製品と被告製品の本体部外形の相違点、すなわち、本体部の下部がややすぼまった縦長の円筒形状か、正面視において略正三角形の円筒形状であるかに留意したとしても、被告製品が原告製品のシリーズ商品あるいはモデルチェンジと消費者が誤認し、その出所を誤認混同するおそれは十分に高いというべきである。
 そして、実際に被告製品を原告製品と誤認混同した消費者が複数いる。
【被告の主張】
ア 原告製品の構成について
 原告製品の構成については、前記(1)【被告の主張】ア記載のとおり。
イ 被告製品の構成について
(ア) 被告製品(本体)は、把手部と本体部と脚部とからなっている。
(イ) 本体部は、椀を伏せたような截頭円錐形状(正面からみると頭部を切断した正三角形状)からなっており、下方に向かって徐々に大径となる形態に特徴がある。
(ウ) 把手部が一つの倒立U字状のアームから形成されており、中途位置で分断されていない。この把手部の中央下端に、本体部の中央から起立した筒部の上端が固着されている。電源コードは筒部を通り把手部の中央を貫通して上方に延びている。
(エ) 脚部は本体部の最大外周から外にはみ出ることなく範囲内に収まっている。
(オ) 前記【原告の主張】イ(オ)及び(キ)は認める。
(カ) 脚部は本体部の最大外周から外へはみ出さない。
ウ 原告製品と被告製品の形態の比較
(ア) 相違点
a 被告製品(本体)は、その製品全体の8割弱を占め、需要者の注意を強く惹きつける部分である本体部の形状において原告製品と明瞭に異なっており、そのため需要者に異なる印象を与えている。
 すなわち、本体部は、機構部を内蔵したケーシング全体の形態として捉える必要があり、このような本体部について両者を比較すると、原告製品は、上部が大径で下部が徐々に小径となる砲弾状であって、細長く不安定な印象を与えるのに対し、被告製品は、逆に下方に向かって徐々に大径となる椀を伏せたような形状あるいは截頭円錐形状であって、短いが徐々に太くなる安定感のある印象を与えている。
b 原告製品では、本体内部のヒーターやフロートスイッチに接続された通電コードを真上に通してガイドすると共に、該コードをカバーして保護するための技術的な機能を実現するための具体的な形態として、通電コードに比して大径の筒体として本体部の上部中央に立設された筒部と、該筒部の中央から電源コードを外方へ延出し、該筒部の左右両側にそれぞれ円弧形状に設けられた把手部を有している。したがって、原告製品は、頭部の中央に立設する大径の筒部の印象が強く、把手部は短くかつ本体に接近した状態で筒部から左右の腕のように延びている形態として認識されるにすぎない。
 これに対して、被告製品では、把手部は分断されることなく、一連にかつ本体から離れて大きく略倒立U字形状に形成されている。そして、筒部は、上記把手部の中央下端に連なっており、電源コードは筒部からではなく把手部中央から外方へ引き出されている。更に、筒部は、把手部と同様に小径であって、筒部の上方の中途位置を膨出させた一種の浮子や独楽のような形状である。これにより、被告製品は、手の小さい女性でも筒部を指の間に挟みながら把手部を片手で握って浴槽内に出入れすることができるようになっている。
c 原告製品のトレーは底面中央に大径の凹み部が形成されているのに対して、被告製品の場合は小径の凹み部が形成されており、シンプルな形状のトレーにおいては大きな相違点となる。
(イ) 共通点
 被告製品は、本体上部に把手部と一部が繋がった状態でコードを通すための筒部を設けた構成において原告製品と共通している。ただし、この構成は、本体内部のヒーターやフロートスイッチに接続された通電コードを真上に通してガイドすると共に、該コードをカバーして保護するための技術的な機能に基づくものである。
 原告製品と被告製品は、いずれも下から本体内に水を取り入れてヒーターで加熱する構成となっているので、本体を中空に保持するために脚部を設けている。ただし、この構成は、機能に由来する形態にすぎない。
 原告製品と被告製品は、頭部の円形の開口内にパイロットランプが視認可能に配置されている点、パイロットランプが緑色で通電中に点灯する点も共通する。ただし、浴槽内に沈めて使用するこの種の製品において、上部から見える位置に安全を示す緑色のランプを配置することは機能に基づく形態にすぎない。原告は、パイロットランプが取り付けられたのは平成14年9月であり、取扱説明書に記載されたのが平成15年2月と説明しており、また広告や記事を見ても積極的な表示は見あたらないから、緑色のパイロットランプが類否判断の基準になることはない。
 なお、原告は、全体構成の共通性を主張する。しかし、本体以外の構成、すなわち、スイッチ、漏電遮断器付きプラグ、本体の頭頂から延び出してスイッチに接続する耐熱コード、スイッチと漏電遮断器付きプラグとを繋ぐコード、耐熱コードに移動可能に取り付けられた吸盤及び不使用時に本体を置いておくためのトレーは、いずれもこの種製品の機能上必要とされるものであり、また、公知の形状であって、需要者の注意を強く喚起するものではない。トレーの上面が開放された円筒形状という形態は、周壁の上面の波形状が類似するとしても、植木鉢用のトレーとしてありふれた形態にすぎない。
 その他、原告が被告製品が原告製品とその形態が類似すると主張して指摘する点は、いずれも機能等に由来する部分にすぎない。
(ウ) 以上のように、原告製品と被告製品は、その全体の主要部を占める本体部の形状において明瞭な差異があり、その他にも、該本体上の把手部と筒部の組合せ形状において差異が認められるから、需要者が明瞭に識別することのできる非類似の形態であるというべきである。
 原告製品と被告製品には形態上の共通点もあるが、それらは、いずれも機能に由来する形態か、ありふれた形態にすぎないから、これらの共通点(類似点)をもって、被告製品の商品形態が原告製品の商品形態と類似するということはできない。
(エ) 被告製品については、第三者により平成15年12月26日に意匠登録(意匠第1197252号)されている(被告は当該第三者から実施許諾を受けている。)。当該第三者は意匠登録出願に際し、先行意匠として原告製品を引用した上で審査を受けており、にもかかわらず被告製品の商品形態が意匠登録されたということは、特許庁においても被告製品の商品形態が原告製品の商品形態と類似しないことを認めたものというべきである。
(オ) 以上の点にかんがみれば、被告製品が原告製品と誤認混同することはないというべきである。
(3) 争点(1)イ(ア)(原告製品の商品名は、原告の商品表示として周知性を有するか)について
【原告の主張】
 前記1(1)【原告の主張】イのとおり、原告製品は、従前にないコンセプトから生み出された画期的な商品であり、原告のオリジナルアイデア商品であって、この種の製品の市場を独占していた。また、原告製品は、商品名「風呂バンス」の名称で、合計2万台以上販売され、その間新聞や雑誌、TVなどの各種の媒体に取り上げられて積極的に宣伝広告されている。
 以上の結果、「風呂バンス」の商品名は原告の商品表示として周知性を獲得している。
【被告の主張】
 原告製品の「風呂バンス」という商品名が原告の商品表示として周知性を獲得しているという原告の主張は争う。
(4) 争点(1)イ(イ)(被告製品は、その商品名が原告製品の商品名と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか)について
【原告の主張】
 原告製品と被告製品との商品名は、「風呂」という漢字2文字と、カタカナ3文字とからなる点で共通する。
 このことは、形態類似と相まって、被告製品を原告製品と同一出所のシリーズ製品あるいはモデルチェンジ製品であると消費者に誤認混同させる可能性を高める。
 加えて、原告製品と被告製品は、いずれも商品名を本体部の正面中央のやや上方に横向きに貼付された長い楕円形シールに印刷する方法を採用しており、消費者の出所混同が一層助長される結果となっている。
 これらの点を総合的に考慮すれば、少なくとも原告製品と被告製品との形態が類似している状況下においては、「風呂バンス」と「風呂ポット」は商品名として類似しているとみるべきである。
 そして、現に、被告製品を原告製品と誤認混同している消費者も複数存在する。
【被告の主張】
 原告製品と被告製品は、風呂の保温器という製品に使用されるものであるから、商品名中、「風呂」の部分の識別力は極めて希薄である。したがって、商品名の類似性を判断するに当たっては、原告商品名の「バンス」部分と、被告商品名の「ポット」部分とを比較すべきである。
 そうすると、「バンス」と「ポット」は、外観、称呼において異なることは明らかであるし、観念についても「バンス」はそれ自体特定の観念を想起させないのに対し、「ポット」は外来語としての小さな壺、かめ、あるいは魔法瓶という観念を想起させるという点において異なる。
 したがって、被告製品の商品名は、原告製品の商品名とその要部において非類似である。
 なお、仮に原告製品の「風呂バンス」と被告製品の「風呂ポット」という商品名全体として比較できるとしても、外観、称呼において異なる上、「風呂バンス」はプロバンス(フランスの地方名)を想起させるが、「風呂ポット」はそのような概念が想起されない、という点において異なる。
 したがって、「風呂ポット」との商品名を有する被告製品が「風呂バンス」との商品名を有する原告製品と誤認混同されるおそれはない。
2 民法709条に基づく請求(予備的請求)について
 争点(2)(被告が、原告製品と商品形態あるいは商品名において類似する被告製品を「TVでおなじみの」などの宣伝文句を付して販売等することが、原告に対する不法行為を構成するか)について
【原告の主張】
 被告は、風呂バンスの類似品を製造販売する計画を立て、これを原告製品の重要な取引先である代理店や通信販売業者に売り込んだ後、平成15年10月ころ、原告製品と商品形態及び商品名が類似する被告製品の製造販売を開始した。
 また、被告製品が従前テレビ放送で紹介されたことがないのに、「TVでおなじみの」などと不当な表示(不当景品類及び不当表示防止法4条3項)を用いて営業行為を行った。
 被告の被告製品の製造販売行為が仮に不正競争行為に該当しないとしても、同製造販売行為と不当表示を用いた営業行為は、原告の得意先関係を故意に積極的に侵害するものであって、原告に対する不法行為を構成する。
【被告の主張】
 原告の主張は争う。なお、被告が被告製品の宣伝広告をする際に「TVでおなじみの」などの表示を付したのは、被告製品を株式会社QVCジャパンの制作するテレビショッピングを利用して販売することを予定していたためである。上記のとおり、被告製品は、原告製品と商品形態においても商品名においても異なるのであり、不正競争行為に該当しないのであるから、被告が被告製品の宣伝広告をする際に「TVでおなじみの」などの表示を付して、被告製品の販売を行うことが原告に対する不法行為を構成すると解する余地はない。
3 著作権法に基づく請求について
(1) 争点(3)ア(ア)(別紙著作物目録1ないし3記載のイラストは、著作物性を有するか)
【原告の主張】
ア 原告取扱説明書は、原告がデザイナーにその作成を依頼したものであり、その完成と同時に原告取扱説明書に関する著作権は同デザイナーから原告に譲渡された。
イ 原告イラスト1
 別紙著作物目録1記載のイラスト(以下「原告イラスト1」という。)は、原告製品を浴湯に入れる際の注意事項を説明するためのものである。
 原告イラスト1では、浴室外のコンセントからコードを介して電気供給を受け得る状態の原告製品が、お湯を張った浴槽内に自立した状態で設置され、浴槽の上面が蓋で閉められている図Aと、浴槽内で原告製品が傾いた状態の図であってその左上方に使用方法が不適切であることを意味する「×」印が描かれている図Bとが上下方向中央部に並んで描かれ、それらの各図からそれぞれ上方向に吹出しが設けられ、そこに注意すべき事項が説明されている。そして、注意事項の中でも特に重要な蓋を閉めるという事項については吹出しの囲み線が太くされるとともに、大切であることを示す絵表示が説明文の先頭に描かれ、説明文の文字も大きく太くされている。
 したがって、原告イラスト1は、製品の使用方法や取扱い上の注意点などを製品購入者に容易に理解されるようにした点において創意と工夫を認めることができるから、「思想又は感情の創作的表現」ということができる。
ウ 原告イラスト2
 別紙著作物目録2記載のイラスト(以下「原告イラスト2」という。)は、入浴する際には原告製品を浴槽から出し、浴室外のトレー上に立てることを説明するためのものである。
 原告イラスト2では、浴室外のトレー上に立てられ、浴室内の浴湯から、入浴可能温度であることを表す湯気が立ち上っている様子が描かれ、更に原告製品が浴室内の浴槽から浴室外のトレー上に移動したことを表す「→」(矢印)が描かれている。
 したがって、原告イラスト2は、製品の使用方法や取扱い上の注意点などを製品購入者に容易に理解されるようにした点において創意と工夫を認めることができるから、「思想又は感情の創作的表現」ということができる。
エ 原告イラスト3
 別紙著作物目録3記載のイラスト(以下「原告イラスト3」という。)は、原告製品の各部の名称と付属品とを説明するためのものである。
 原告イラスト3では、紙面を上下方向に浴室外と浴室内とに分け、紙面下側の浴室内には、お湯を張った浴槽に原告製品が自立した状態で設置されている様子が描かれ、浴槽の右側に、パイロットランプが見えるように、原告製品を斜め上方から見た部分拡大図が描かれている。一方、紙面上側の浴室外には、上下方向やや下方中央にスイッチが、上下方向やや上方中央にプラグが、そして上下方向中央の右側にトレーが配置され、浴槽内の原告製品から延出したコードが曲線を描いてスイッチの右側部に接続し、スイッチの左側部から延出したコードが曲線を描いてプラグの下部と接続している様子が描かれている。そして、各部の名称が引出線によって示されている。
 したがって、原告イラスト3は、製品の使用方法や取扱い上の注意点などを製品購入者に容易に理解されるようにした点において創意と工夫を認めることができるから、「思想又は感情の創作的表現」ということができる。
【被告の主張】
ア 原告イラスト1
 原告が原告イラスト1の創作性ある部分として主張するのは、@不適切な使用方法であることを「×」印で示したこと、A注意事項を説明するのに吹出しを設けたこと、B蓋を閉めるという重要な注意事項については、吹出しの囲み線を太くし、大切であることを示す絵表示が説明文の先頭に描かれ、説明文の文字が大きく太くされていること、以上の3点と思われる。
 しかしながら、これらはいずれも取扱説明書に製品の使用方法等を説明ないし注意する場合に使用される通常ありふれた手法というべきであって、原告イラスト1に創作性を認める根拠とはならない。その他原告イラスト1においてその表現に創意工夫が認められる部分はない。
 よって、原告イラスト1が思想又は感情の創作的表現であるということはできない。
イ 原告イラスト2について
 原告が原告イラスト2の創作性ある部分として主張するのは、@湯気が立ち上がっている表示が入浴可能温度であることを示していること及びA矢印が浴室内の浴槽から浴室外のトレー上への製品の移動を表していること、の2点と思われる。
 しかしながら、これらの手法も、日常極めてよく目にするものであって、創作性が肯定されるようなものではない。その他原告イラスト2において、その表現に創意工夫が認められる部分はない。
 よって、原告イラスト2が思想又は感情の創作的表現であるということはできない。
ウ 原告イラスト3について
 原告が原告イラスト3の創作性ある部分として主張するのは、@製品を斜め上方から見た部分拡大図が描かれていること、及びA各部の名称が引出線によって示されていること、の2点と思われる。
 しかしながら、これらの手法もありふれたものであり、特に引出線で名称を記載することは、これ以外の方法がないともいえる手法であって、この点に何ら創意工夫は認められない。これ以外の点においても、原告イラスト3において、その表現に創意工夫が認められる部分はない。
 よって、原告イラスト3が思想又は感情の創作的表現であるとはいえない。
(2) 争点(3)ア(イ)(仮に著作物性を有する場合、被告取扱説明書の一部は別紙著作物目録1ないし3記載のイラストを複製したものであるか)
【原告の主張】
ア 被告イラスト1との対比
 被告取扱説明書5頁に掲載されているイラスト(別紙被告イラスト目録1記載のイラスト。以下「被告イラスト1」という。)と、原告イラスト1とを比較すると、浴室外のコンセントからコードを介して電気供給を受け得る状態の製品がお湯を張った浴槽内で自立した状態で設置され、浴槽の上面が蓋で閉められている図Aと、浴槽内で製品が傾いた状態の図であって、使用方法が不適切であることを意味する「×」印が描かれている図Bとが並んで描かれている点、これらの各図からそれぞれ上方向に吹出しが設けられ、そこに注意すべき事項が説明されている点、注意事項の中でも特に重要な、蓋を閉めるという事項については吹出しの囲み線を太くするとともに、大切であることを示す絵表示が説明文の先頭に描かれ、説明文の文字が太く大きくされている点、そして、各吹出しに記載されている注意事項の内容が同趣旨のものである点で共通している。
 一方、2つの図の並びが左右方向か、上下方向かという点、使用方法が不適切であることを意味する「×」印の位置が浴槽の左側か左上側かという点、注意事項の表現に異なるところがある点、商品形態が被告商品形態か原告商品形態かという点において、両者は相違している。しかし、かかる相違は著作物としての同一性を損なうほどの相違ではない。
 よって、被告イラスト1は原告イラスト1を複製したものというべきである。
イ 被告イラスト2との対比
 被告取扱説明書6頁に掲載されているイラスト(別紙被告イラスト目録2記載のイラスト。以下「被告イラスト2」という。)と、原告イラスト2とを比較すると、浴室外のコンセントからコードを介して電気供給を受け得る状態の製品が浴室外のトレー上に立てられている点、お湯を張った浴槽が浴室内に配置され、入浴可能温度であることを表す湯気が浴湯から立ち上がっている点、浴槽からトレー上に製品が移動したことを表す「→」(矢印)が描かれている点で共通する。商品形態が被告商品形態か、原告商品形態かという点で唯一相違するが、前記のとおり、原告商品形態と被告商品形態は類似の関係にある。
 よって、被告イラスト2は原告イラスト2を複製したものというべきである。
ウ 被告イラスト3との対比
 被告取扱説明書10頁の左上部分を除くイラスト(別紙被告イラスト目録3記載のイラスト。以下「被告イラスト3」という。)と、原告イラスト3とを対比すると、紙面を上下方向に浴室外と浴室内に分けている点、紙面下側の浴室内にお湯を張った浴槽に製品が自立した状態で設置されている点、パイロットランプが見えるように製品を斜め上方から見た部分拡大図が描かれている点、紙面上側の浴室外に上下方向やや下方中央にスイッチが上下方向やや上方中央にプラグが描かれている点、浴室内の製品から延出したコードが曲線を描いてスイッチの右側部に接続し、スイッチの左側部から延出したコードが曲線を描いてプラグの下部と接続している点、各部の名称が引出線によって示されている点で共通している。
 一方、製品を斜め上方から見た部分拡大図の配置が浴槽の左側か右側かという点、商品形態が被告商品形態か原告商品形態かという点で相違している。しかし、かかる相違は、著作物としての同一性を損なうほどの相違ではない。
 よって、被告イラスト3は原告イラスト3を複製したものというべきである。
【被告の主張】
ア 被告イラスト1について
 原告イラスト1と被告イラスト1を対比すると、以下のとおり、重要な事項について多くの相違点がある。
 すなわち、浴槽の大きさ及び形状、浴槽の蓋の形状、コンセントの形状、電源コードに中間省略を示すマークが示されているか否か、浴室外の壁の色、以上の諸点において相違がある。更に、正しい使用方法を示した図と、不適切な使用方法を示した図の並びが左右か上下かという点で構成を異にし、不適切な使用方法を示した図の「×」印の位置にも差異がある。そして、注意事項の文言中最も大きい文字で目を引く部分についても、原告イラスト1では「フタをしめる」、被告イラストでは「フタを閉めて下さい」と異なった表現が用いられている。それ以外の注意事項の文言にもそれぞれ差異がある。このように原告イラスト1と被告イラスト1との相違点は重大であり、かつ多数に及ぶ。
 一方、原告が主張するように、@浴室外に電源を取った製品が浴槽内に位置して自立し蓋が閉められているという図の構成、A製品を斜めに傾けて置くことが使用方法として不適当であることを示すのに、製品が斜めに傾いた図を記載して「×」印を付けていること、B蓋を閉めることに注意を喚起するに当たり、蓋を閉めるという内容の事項を囲む線を太くしたり、文字を大きくしたり、絵表示を付したりしていること、などの点において共通点が見られる。しかし、@蓋を閉めるという注意事項を示す図としては、ほぼこのような図以外の構成はあり得ないといってよく、製品の取扱説明書としての性質上当然に予測される類似性の範囲内にあることは明らかである。また、Aについても当然にこのような構成になるほかないという構成であって、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲内にある。更にBについては、取扱説明書のスタイルとしてほぼそれ以外に方法がないといえるようなありふれた手法であり、製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内にある。
 以上から原告イラスト1と被告イラスト1は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内にあるにすぎない。したがって、被告イラスト1は、本件イラスト1を複製したものということはできない。
イ 被告イラスト2について
 原告イラスト2と被告イラスト2を対比すると、以下のとおり、重要な事項について多数の相違点がある。
 すなわち、浴槽の形状、浴室の大きさ、浴槽内に湯があることが記載されているか否か、湯気を示すイラストの形状、浴室の床のタイルの表示の有無、浴室外の壁の色、コンセントの形状、電源コードに中間省略を示すマークが図示されているか否か、矢印と浴室内を示す文字の上下関係、以上の諸点において相違がある。
 原告が主張するように@コンセントから電源を取った製品が浴室外のトレーに立てられていること、A浴室内に浴槽があること、B浴槽から湯気が立っていること、C浴槽内から浴室外のトレーの方向に矢印が記載されていることの4点の共通点がある。しかしながら、入浴時の製品の取扱方法をイラストで示した場合、誰が図示してもほぼこのようになる構成であり、製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内にある。
 以上から、原告イラスト2と被告イラスト2は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて、製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内にある。したがって、被告イラスト2は原告イラスト2の複製ということはできない。
ウ 被告イラスト3について
 原告イラスト3と被告イラスト3とを対比すると、以下のとおり、重要な事項について多数の相違点がある。
 すなわち、浴槽の形状、パイロットランプないしLEDランプの部分拡大図の大きさ・位置、浴室内と浴室外の図の間に仕切り線があるか否か、「スイッチ」と「中間スイッチ」の用語の選択、スイッチの形状、スイッチ固定台(付属品)の文言の有無、トレー(付属品)の図の有無、トレー(付属品)の文字の有無、コンセントの形状及び向き、アース線の図・文字の有無の諸点において相違がある。
 原告が主張するように、@浴室外と浴室内を紙面の上下に分けていること、Aお湯を張った浴槽に製品が自立した状態で設置されていること、BパイロットランプないしLEDランプが見えるように製品を斜め上から見た部分拡大図が描かれていること、Cスイッチとプラグの概略の位置、D製品から出たコード曲線を描いてスイッチの右側部に接続し、スイッチの左側部から出たコードが曲線を描いてプラグの下部と接続していること、E各部の名称が引出線によって示されていることの6点の共通点がある。
 しかしながら、製品の名称等をイラストで示した場合、ほぼこのような構成となるから、製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内の共通性にすぎない。
 以上から、原告イラスト3と被告イラスト3は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて製品の取扱説明書として性質上当然予想される類似性の範囲内にある。したがって、被告イラスト3は、原告イラスト3を複製したものということはできない。
(3) 争点(3)イ(ア)(原告取扱説明書は、編集著作物性を有するか)について
【原告の主張】
 原告取扱説明書には、次のとおり、素材の選択や組合せ、配列において創意工夫が認められる。したがって、原告取扱説明書には編集著作物性が認められる。
ア 原告取扱説明書は、「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」、「次に入浴するとき」、「風呂バンスの特徴」、「トラブルQ&A こんなことが起こったら」、「お手入れのしかた」、「各部の名前と付属品」、「安全上のご注意」の順の章立てとなっている。
イ 「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」について
 この章では、原告製品の使用手順を時系列的に3段階に分けて説明している。
 まず@として、原告製品を浴槽に入れることを説明している。具体的には“お湯にいれる”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置し、この文章の下に前述の原告イラスト1を配置し、更にこの原告イラスト1の下に絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きしている。
 そして、Aとして、コンセントにプラグを差し込んでスイッチを入れることを説明している。具体的には“スイッチをいれる”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置し、この文章の下に入り状態としたスイッチの平面図を配置し、この平面図の下に絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きしている。
 Bとして、パイロットランプの点灯を確認することを説明している。具体的には“点灯を確認する”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置し、この文章の下に、原告製品の斜め上方から撮影しパイロットランプ部分を丸で囲んだ写真を配置し、この写真の下に小さな文字でヒーター通電中パイロットランプが点灯する旨の文章を配置している。
ウ 「次に入浴するとき」について
 この章では、入浴する場合の原告製品の取扱手順を時系列的に3段階に分けて説明している。
 まず@として、スイッチを切ることを説明している。具体的には“切る”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置し、この文章の左側に切り状態としたスイッチの平面図を配置し、これらの文章と平面図の下側に、特別に大きい絵表示を先頭に、スイッチを切ってから約1分ほどしてから本体を浴槽から出す旨の文章を配置している。この文章中“約1分”という部分は他の文字よりも特に大きく太くしている。
 次にAとして本体を浴槽から出して浴室外に置くことを説明している。具体的には、“浴槽から出し、浴室外に置く”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置し、この文章の下に小さな文字で記載された保温時以外は本体を浴室外のトレー上に立てる旨の括弧書き文章と、更に、この文章の下に前述の原告イラスト2を配置している。
 そして、Bとして、入浴可能であることを説明している。具体的には“さぁ、入浴!”という文字を大きく太くした文章を配置し、この文章の右横に浴槽に人が浸かり、浴室外に原告製品がトレー上に載置されている図が配置されている。
 そして、その下側に禁止事項と約束事項を記載している。禁止事項については、禁止を表す絵表示を先頭に、本体を浴槽へ入れたまま入浴しない旨の文章と、この文章の下に小さな文字で記載された、転倒による怪我ややけどの原因になる旨の文章と、これらの文章の右側に、浴槽に製品本体と人とが入っている図に「×」印が付されたものとを配置している。
 約束事項については、遵守を表す絵表示を先頭に、お湯を毎日取り替える旨の文章と、この文章の下に小さな文字で記載された、数日にわたるお湯の保温や使用が雑菌繁殖の原因となる旨の文章とを配置している。
エ 「風呂バンスの特徴」について
 この章では、原告製品が保温機能のみで湯沸かし機能を有しないこと、節電効果を奏すること、そのためパイロットランプが点灯・消灯することなどを説明している。
 具体的には、紙面の上から順に、原告製品が保温機能のみで湯沸かし機能を有しない旨の文章と、大きく太い文字による節電効果がある旨の文章と、四角の枠で囲まれた領域に、夏場など充分な湯温の時には節電のため通電が止まり、湯温が下がると自動的に通電し充分な湯温になるまで保温する旨を小さな文字で記載した文章と、パイロットランプが点灯したり消灯したりすることが故障でない旨を太い文字で記載した文章と、原告製品を斜め上方から見たときの、パイロットランプが消灯している状態の図と点灯している状態の図を左右に並べて配置したものと、大切であることを示す絵表示を先頭に、お湯に入れてスイッチをONにしても最初から全く点灯しない場合にはメーカーに問い合わせるようお願いする旨を小さな文字で記載した文章と、大切であることを表す大きな絵表示を先頭に、パイロットランプが消えている場合でも本体を浴槽から取り出す前にスイッチを切って約1分ほどしてから本体を浴槽から取り出す旨を太い文字で記載した文章とを配置している。
オ 「トラブルQ&A こんなことが起こったら」について
 この章では、よくあるトラブルを5つの症状に分けて、それぞれの症状ごとに製品購入者が確認すべき事項とその理由を説明している。
 具体的には、よくあるトラブルとして“機能しない”、“保温状態がよくない”、“本体を浴槽から出したとき、音がする”、“お風呂がわかない”、“本体が浴槽外にあるときこげ臭いにおいがする”の5つの症状を選択し、それぞれについて確認すべき事項を大きく太い文字で記載し、その下に理由又は説明を記載している。
カ 「お手入れのしかた」について
 この章では、製品本体の手入れの仕方を説明している。
 具体的には、本体表面と本体内部とに分け、それぞれ手入れの仕方を箇条書きにしている。 
 そして、その下側に、約束事項を示す絵表示を先頭に、手入れは電源を切って本体が冷めてから行う旨の文章と、その下に故障ややけどの原因となる旨を小さな文字で記載した文章と、その右横に、湯気が出ている製品本体を布で拭こうとしている図に「×」印を付したものが配置されている。
 そして、その下に、禁止事項を示す絵表示を先頭に、本体を分解しての掃除は禁止である旨の文章と、その下に、故障や事故の原因となる旨を小さな文字で記載した文章と、更にその下に※印付の当社以外での分解掃除等による故障は無償修理保証外である旨を更に小さな文字で記載した文章と、これらの文章の右横に製品本体をドライバーで分解している図に「×」印を付したものが配置されている。
キ 「各部の名前と付属品」について
 この章では、原告製品の各部の名称と付属品を原告イラスト3によって説明している。
ク 「安全上のご注意」について
 この章では、原告製品についての注意事項を「警告」と「注意」に分けて、それぞれの注意事項を左右方向に長い長方形の枠で囲み、それを箇条書きしている。
 具体的には、各長方形の枠の左側に略正方形状の領域を仕切り線で区分け、ここに注意事項に対応する絵文字を描き、仕切り線の右側領域を更に上下2段に区分けし、上段に注意事項を下段にその理由又は説明を記載している。
【被告の主張】
 原告取扱説明書は、挿絵、写真、文字、文章、図において、ありふれた素材を選択しており、各頁における素材の組合せや配列においても、頁の配列においても、製品の取扱説明書として極めてありふれたものにすぎない。したがって、編集物としての創作性を認めることはできない。
ア 原告取扱説明書「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」について
 原告は、@使用手順を時系列的に3段階に分けたこと、A「お湯にいれる」「スイッチをいれる」「点灯を確認する」という文字を太く大きくしたこと、B文章とイラスト・図・写真・絵表示と注意事項等の配置において、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかし、これらの点は、いずれも通常どこにでもある手法、当たり前の手法であって、創意工夫は認められない。
イ 原告取扱説明書「次に入浴するとき」について
 原告は、@使用手段を時系列的に3段階に分けたこと、A「切る」「約1分」「浴槽から出し、浴室外に置く」「さぁ、入浴!」という文字を大きくしたこと、B文章とイラスト・図・絵表示と注意事項等の配置、C禁止事項に絵表示及び「×」印を使用していることにおいて、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかし、これらの点は、いずれも通常どこにでもある手法、当たり前の手法であって、創意工夫は認められない。
ウ 原告取扱説明書「風呂バンスの特徴」について
 原告は、@小さい文字と大きい文字ないし大きく太い文字を使い分けていること、A文章中下線を施した部分があること、B文章とイラストや図、絵表示と注意事項等の配置において、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかしながら、これらの点も特段の工夫ではなく、当たり前の手法というべきであって、創意工夫は認められない。
エ 原告取扱説明書「トラブルQ&A こんなことが起こったら」について
 原告は、@トラブルとして5つの症状を選択したこと、A確認すべき事項を大きく太い文字で記載したこと、B文字と理由又は説明等の配置において、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかしながら、これらの点も、ありふれた手法、当たり前の手法にすぎず、創意工夫は認められない。
オ 原告取扱説明書「お手入れのしかた」について
 原告は、@本体表面と本体内部に分けて説明したこと、A禁止事項ないし不適切な事項を「×」印と絵表示で表現したこと、B重要度に応じて文字のサイズを変えたこと、C重要事項に※印を使用したこと、D文字や図等の配置において、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかしながら、これらの点も、通常ありふれた手法にすぎず、創意工夫は認められない。
カ 原告取扱説明書「各部の名前と付属品」について
 原告イラスト3は、上述したとおりであり、創意工夫が施された思想又は感情の創作的表現であるとはいえない。したがって、原告取扱説明書「各部の名前と付属品」の部分は創意工夫が施された思想又は感情の創作的表現であるとはいえない。
キ 原告取扱説明書「安全上のご注意」について
 原告は、@注意事項を「警告」と「注意」に分けたこと、A枠組みないし区分を設けたこと、B絵表示を使用したこと、C2段組の上段に注意事項を、下段に理由又は説明を記載したことにおいて、創意工夫があると主張するものと思われる。
 しかしながら、これらの点もありふれた当然の手法用法にすぎず、何ら創意工夫は認められない。
(4) 争点(3)イ(イ)(仮に編集著作物性を有する場合、被告取扱説明書は原告取扱説明書の編集を複製したものであるか)について
【原告の主張】
ア 被告取扱説明書「安全上の注意」について
 被告取扱説明書の「安全上の注意」の頁と原告取扱説明書の「安全上のご注意」の頁とを比較すると、製品についての注意事項を「警告」と「注意」に分けている点、一つの注意事項ごとに左右方向に長い長方形の左側に略正方形状の領域を仕切り線で区分け、ここに注意事項に対応する絵文字を描き、仕切り線の右側領域の上段に注意事項を下段にその理由又は説明を記載し、これを箇条書きに配列している点で共通している。そして、注意事項及びその理由又は説明の内容は、表現に若干の相違があるもののおおむね同一であり、注意事項の記載順序は完全に同一である。
イ 被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」について
 被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」の頁と原告取扱説明書「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」の頁とを比較すると、製品の使用手順を時系列的に3段階に分けて説明している点、製品を浴槽に入れることを説明するために“お湯にいれる”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置した点、この文章の下に前述の被告イラスト1を配置している点、同イラストの下に絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きしている点、コンセントにプラグを差し込んでスイッチを入れることを説明するために“スイッチを入れる”という部分を他の文字よりも大きく太くした点、同文章の下に、入り状態としたスイッチの平面図を配置した点、絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きした点、LEDランプの点灯を確認することを説明するために“点灯を確認する”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置した点と、同文章の下に、製品を斜め上方から見たときの図で、LEDランプ部分を丸で囲んだ図を配置した点、小さな文字でヒーター通電中LEDランプが点灯する旨の文章を配置した点で共通し、記載事項は表現が語尾において若干相違するもののおおむね同一である。
 一方、入り状態を示すスイッチの向きが上下方向か左右方向かという点、絵表示を先頭に箇条書きされた3つの注意事項の配置がスイッチ図の左側か下側かという点、製品が原告製品か被告製品かという点で相違している。しかし、かかる相違は編集著作物としての同一性を損なうほどの相違ではない。
ウ 被告取扱説明書「入浴する時の注意」について
 被告取扱説明書「入浴する時の注意」の頁と原告取扱説明書「次に入浴するとき」の頁とを比較すると、スイッチを切る旨の説明として“切る”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置している点、同文章の左側に切り状態としたスイッチの図を配置している点、これらの文章と平面図の下側に特別に大きい絵表示を先頭に、スイッチを切ってから約1分ほどしてから本体を浴槽から出す旨の文章を配置している点、文章中の“約1分”という部分を他の文字よりも大きく太くしている点、製品本体を浴槽から出して浴室外に置く旨の説明として、“浴槽から出し、浴室外に置く”という部分を他の文字よりも大きく太くした文章を配置している点、同文章の下に小さな文字で記載された保温時以外は製品本体をトレー上に立てる旨の文章を配置している点、同文章の下に被告イラスト2を配置している点、入浴可能である旨の文章として“入浴!”という文字を大きく太くした文章を配置した点、同文章の右横に、浴槽に人が浸かり、浴室外に製品がトレー上に載置されている図を配置した点、その下側に、禁止事項として、禁止を表す絵表示を先頭に、製品本体を浴槽に入れたまま入浴しない旨の文章を配置した点、同文章の下に小さな文字で記載された転倒による怪我ややけどの原因となる旨の文章を配置した点、これらの文章の右側に、浴槽に製品本体と人とが入っている図に「×」印を付したものを配置した点、約束事項として、遵守を表す絵表示を先頭にお湯を毎日取り替える旨の文章を配置した点、同文章の下に小さな文字で、数日にわたるお湯の保温や使用が雑菌繁殖の原因となる旨の文章を配置した点で共通し、記載事項は表現が語尾において若干相違するもののおおむね同一である。
 一方、掲載されているスイッチ図が側面図か平面図かという点、商品形態が原告製品か被告製品かという点で相違している。しかし、かかる相違は編集著作物としての同一性を損なうほどの相違ではない。
エ 被告取扱説明書「風呂ポットの特徴」について
 被告取扱説明書「風呂ポットの特徴」の頁と原告取扱説明書「風呂バンスの特徴」の頁とを比較すると、紙面の上から順に、製品が保温機能のみで湯沸かし機能を有しない旨の文章を配置している点、大きく太い文字による節電効果がある旨の文章を配置している点、枠で囲まれた領域に、夏場など充分な湯温の時には節電のため通電が止まり、湯温が下がると自動的に通電し充分な湯温になるまで保温する旨、小さな文字で記載された文章を配置している点、パイロットランプが点灯したり消灯したりすることが故障でない旨大きい文字で記載された文章を配置している点、製品を斜め上方から見たときのパイロットランプが消灯している状態の図と点灯している状態の図とを左右に並べて配置している点、大切であることを表す絵表示を先頭にお湯に入れてスイッチをONにしても、最初から全く点灯しない場合にはメーカーに問い合わせる旨、小さな文字で記載された文章を配置している点、大切であることを表す大きな絵表示を先頭に、パイロットランプが消えている場合でも、本体を浴槽から取り出す前に、スイッチを切って約1分ほどしてから本体を浴槽から取り出す旨の太い文字で記載された文章を配置した点、この文章中“必ず中間スイッチを切り、約1分”の部分には下線が施され、“約1分”の部分は他の文字より大きく太く記載されている点で共通し、記載事項は表現が語尾において若干相違するもののおおむね同一である。
 一方、両者の相違点は、製品が原告製品か被告製品かという点のみである。なお、商品形態としては原告製品と被告製品は酷似している。
オ 被告取扱説明書「トラブルQ&A こんなことが起きたら」について
 被告取扱説明書「トラブルQ&A こんなことが起きたら」の頁と原告取扱説明書「トラブルQ&A こんなことが起こったら」の頁とを比較すると、よくあるトラブルとして“機能しない”、“保温状態がよくない”、“製品本体を浴槽から出したとき、音がする”、“お風呂がわかない”、“本体が浴槽外にあるときこげ臭いにおいがする”の5つの症状を選択している点、それぞれの問題が発生した場合に確認すべき事項を大きく太い文字で記載し、その下に理由又は説明を記載している点で共通し、確認すべき事項及びその理由又は説明の内容及び記載の順序は全く同一であり、記載事項は表現に若干の相違が見られるもののおおむね同一である。
 一方、各症状の記載位置が両者で相違しているが、編集著作物としての同一性を損なうほどの相違ではない。
カ 被告取扱説明書「お手入れのしかた」について
 被告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁と原告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁とを比較すると、本体表面と本体内部とに分け、それぞれ手入れの仕方を箇条書きに配置している点、その下側に、約束事項を示す絵表示を先頭に、手入れは電源を切って本体が冷めてから行う旨の文章を配置し、その下に小さな文字で記載された故障ややけどの原因となる旨の文章を配置している点、その右横に湯気が出ている製品本体を布で拭こうとしている図に「×」印が付されたものを配置している点、更にその下に、禁止事項を示す絵表示を先頭に、本体を分解しての掃除は禁止である旨の文章を配置し、その下に小さな文字で記載された、故障や事故の原因となる旨の文章を配置した点、更にその下に、更に小さな文字で記載された※印付きの当社以外での分解掃除等による故障は無償修理保証外である旨の文章を配置した点、これらの文章の右側に、製品本体をドライバーで分解している図に「×」印が付されたものを配置している点において共通している。
 一方、手入れの仕方として原告取扱説明書にない事項が被告取扱説明書には記載されているが、これは原告取扱説明書にない事項を付加したものであって、編集著作物としての同一性を損なうものではない。
キ 被告取扱説明書「各部の名前と付属品」について
 被告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁と原告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁は、原告イラスト3と被告イラスト3のとおりであり、著作物として同一であることは前記のとおりである。
【被告の主張】
ア 被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」について
 被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」の頁と原告取扱説明書「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」の頁とを比較すると、重要部分に多数の相違点がある。
 まず、取扱順序を示す番号が異なる。次に、第1段階について、タイトルが「コンセントを抜いた状態で[風呂ポット]本体を浴槽のお湯の中に入れて下さい」(被告取扱説明書)、「[風呂バンス]本体を浴槽のお湯に入れる」(原告取扱説明書)となっており、異なる。タイトル以外の3つの注意事項の文言もすべて異なる。第2段階について、図のスイッチの向き、スイッチの図の「切」という文字の有無という差異がある。タイトル及びその他の注意事項の3つの文言がすべて異なる。「スイッチは防水式ですが安全のため浴室外に置いて下さい。」(被告取扱説明書)という文言と、「スイッチは防水型ではありません」(原告取扱説明書)という文言も異なる。第3段階について「LEDランプは本体がお湯に完全につかっている状態で点灯を確認して下さい」という文言(被告取扱説明書)と「パイロットランプの点灯を確認する」という文言(原告取扱説明書)も異なる。図の矢印きにも差異がある。このように、被告取扱説明書と原告取扱説明書には多数の重大な相違点がある。
 一方、原告が主張するように、@使用手順を3段階に分けたこと、A大きな文字の下にイラストを配置したこと(2か所)、B絵文字を先頭に3つの注意事項を箇条書きにしたこと(2か所)、C小さな文字でヒーター通電中パイロットランプが点灯する旨の文章を配置したことという共通点がある。
 しかしながら、@使用手順をいくつかの段階に分けて説明することは製品の取扱説明書本来の性質上当然であり、段階の数が3つであることが偶々共通していることも製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲に止まる。A各段階のタイトル部分に大きい文字を使うことは、ごく当たり前の手法であり、タイトルの下にイラストを配置することもどこにでもある手法であるから、両者の共通点は、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲に止まる。B絵文字を注意事項の先頭に付加することも注意事項を箇条書きにすることも、ごくありふれた手法であり、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似の範囲内に止まる。Cヒーター通電中にパイロットランプが点灯する旨の文章はパイロットランプの機能を説明する文言としてほぼ唯一の構成であり、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲内に止まる。
 そして、かかる構成や手法で表現された内容についても何ら特別なものではなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 以上から、被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」の頁と原告取扱説明書「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」の頁は、重大な相違点を含む一方で、その共通点はすべて製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲内にある。したがって、被告取扱説明書「使用方法入浴後お風呂から上がった後」の頁が、原告取扱説明書「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」の頁を複製したものということはできない。
イ 被告取扱説明書「入浴する時の注意」について
(ア) 被告取扱説明書「入浴する時の注意」の頁と原告取扱説明書「次に入浴するとき」の頁とを比較すると、重要部分について多数の相違点がある。
(イ) まず、タイトルが「入浴する時の注意」(被告取扱説明書)、「次に入浴するとき」(原告取扱説明書)と異なる。次に、第1段階について、タイトルが「[スイッチ]を切って下さい」(被告取扱説明書)、「スイッチを切る」(原告取扱説明書)と異なる。スイッチ図が被告取扱説明書では側面図、原告取扱説明書では平面図で異なる。矢印の向きも異なる。更に「約1分」の文字に下線が引かれているかいないかが異なる。また、被告取扱説明書では絵表示の左側に「重要」という文字が記載されているが、原告取扱説明書では、絵表示の内部に「大切!」という文字が含まれている点も異なる。第2段階についても、タイトルも注意書きも文言が異なる。本体という文字に[]が付いているかいないか、注意書きに()がついているかいないかも異なる。第3段階についても、タイトルも注意書きも文字が異なる。入浴中を意味するイラストも、イラスト全体のサイズ、人物の表情、鼻歌を歌っているかいないか、浴槽のサイズ、浴槽が側面から透けてみえるか否か、浴室床のタイルの有無、湯気を表すイラストの形状が異なる。「×」印のついたイラストについても、人物、浴槽の差異の他、「×」印のイラスト中での大きさに差異がある。更に、禁止を表す絵表示と禁止という文字の位置関係が異なる。また、イクスクラメーションマークを含む絵表示について、同マークの形状及び向きが異なり、かつ絵表示に添えられた文言が「守る」と「必ず守る」であって異なり、更にこれら文言と絵・表示の位置関係も異なる。
(ウ) 一方、原告が主張するように、第1段階について、@「切る」という文字を大きくした文章の配置、A大きな文字を含む文章の左側にスイッチ図を配置したこと、B図の下に特別大きい絵表示を先頭に同様の内容の注意を示す文章を配置していること、C「約1分」の文字が大きいこと、という共通点がある。
 しかし、@タイトル部分に大きい文字を含ませることは、どこにでもある手法であり、Aタイトルの下に図が配置されていることも、ごくありふれた配置にすぎない。そして、B図の下に注意書きが記載されることや、注意書きの先頭に注意喚起のための絵表示が付加されることも、どこにでもある手法である。C「約1分」というような重要な数値部分につき、文字を大きくするなどの方法で強調することも日常いたるところで目にする手法にすぎない。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしCのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても何ら特別なものではなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点は、製品の取扱いを説明する場合には必然的に類似せざるを得ないといえる範囲に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される範囲内の類似性にすぎない。
(エ) また、第2段階についても、@「浴槽から出し、浴室外に置く」という文字を大きくした文章の配置、A大きな文字の下におおむね同内容の注意が記載されていること、B更に、その下にイラストが配置されていること、という共通点がある。
 しかし、第1段階で述べたのと同様に、@タイトル部分に大きい文字を含ませることはどこにでもある手法であり、Aタイトルの下に注意書きが配置され、Bその下にイラストが配置されることもまた、ごくありふれた配置にすぎない。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしBのいずれも、極めてありふれた構成や手法が共通して用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点は、製品の取扱いを説明する場合には必然的に類似せざるを得ないといえる範囲に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される範囲内の類似性にすぎない。
(オ) 更に、第3段階においても@「入浴!」という文字を大きくした文章の配置、Aその文章の右横に浴槽に人が浸かり浴室外に製品がトレー上に置かれた図を配置したこと、B更にその下側に絵表示を先頭にした同様の禁止事項が配置され、かつ、小さな文字で括弧書きの文章を配置したこと、Cこれらの文章の右側に、浴槽に製品本体と人が入っている図に「×」印を付したものを配置したこと、D絵表示を先頭にした約束事項と、その理由をその下に配置したこと、という共通点がある。
 しかしながら、@タイトル部分に大きい文字を含ませることは、どこにでもある手法であり、AないしDの文章、絵表示、「×」印及び図の配置にも何ら着目すべき構成も手法もない。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしDのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点@ないしDは、製品の取扱いを説明する場合には必然的に類似せざるを得ないといえる範囲に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される範囲内の類似性にすぎない。
(カ) 以上から、被告取扱説明書「入浴する時の注意」の頁と原告取扱説明書「次に入浴するとき」の頁は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲内にあるから、前者は後者を複製したものに当たらない。
ウ 被告取扱説明書「風呂ポットの特徴」について
 被告取扱説明書「風呂ポットの特徴」の頁と原告取扱説明書「風呂バンスの特徴」の頁とを比較すると、重要部分について多数の相違点がある。
 まず、タイトル部分について、タイトル文字の背景が、被告取扱説明書では、円の弦と弧で囲まれる図形であるのに対し、原告取扱説明書では、帯状となっており、更に原告取扱説明書では、白丸の絵表示がタイトルの前に付されている点でも差異がある。また、機能の説明に関して、原告取扱説明書では「ムダな電気をセーブします。」という文言が使われているのに対し、被告取扱説明書では「節電機能があります。」という文言になっており、差異がある。イラストについても、被告取扱説明書では背景が白なのに対し、原告取扱説明書では背景に色がついており、差異がある。また、イラストの全体に占める割合にも大きな差異がある。下の部分の絵表示について、被告取扱説明書では、絵表示の外かつ左側に「重要」の文字が付加されているのに対し、原告取扱説明書では、絵表示の内部に「大切!」の文字が含まれており、差異がある。その他の注意事項の文言についても多数の差異を含む。
 一方、原告が主張するように、@上から順に、保温機能のみで湯沸かし機能を有しない旨の文字の配置、A大きく太い文字で節電効果がある旨の文章の配置、B小さな文字で、湯温が高いときと低いときの通電について記載があること、C大きい文字で記載されたランプの故障についての文章の配置、Dランプの点灯状態及び消灯状態の各図を左右に並べて配置していること、E絵表示を先頭に小さな文字で不点灯の場合の問合せについて記載された文章の配置、F大きい文字で浴槽から取り出す前に約1分待つと記載された注意書きの配置、この注意書き中の下線部分の一致と「約1分」の文字を大きくしたこと、という共通点がある。
 しかしながら、@Aのような機能、効果の記載が当該順序でなされることは極めてありふれた配列・配置にすぎない。BCのような通電についての記載の文字が小さく、ランプの故障についての記載の文字が大きいことも格別の表現手法とはいえない。Dランプについての2つの状態を書き入れることも、ありふれた手法である。E不点灯の場合についての文字が小さいことも格別の表現手法ではない。F約1分待つことについて大きな文字を使用したことも格別の表現手法ではなく、重要部分に下線を引いたり文字を一部拡大することも極めて平凡な手法にすぎない。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしFのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点@ないしFは、製品の取扱いを説明する場合に必然的に類似せざるを得ないといえる範囲にとどまっているから、被告取扱説明書「風呂ポットの特徴」の頁が、原告取扱説明書「風呂バンスの特徴」の頁を複製したものであるということはできない。
エ 被告取扱説明書「トラブルQ&Aこんなことが起きたら」について
 被告取扱説明書「トラブルQ&Aこんなことが起きたら」の頁と原告取扱説明書「トラブルQ&Aこんなことが起こったら」の頁とを比較すると重要な部分について多数の相違点がある。
 まず、タイトル部分について、被告取扱説明書では、タイトルは『「トラブル」Q&Aこんなことが起きたら』、原告取扱説明書では、タイトルは『|トラブルQ&A|こんなことが起こったら』であり、タイトルが異なる。
 また、全体の構成につき、原告取扱説明書では「症状」とそれに対する「チェック」、又は「症状」と直接それに対する対処法を示すという構成であるのに対し、被告取扱説明書では、症状という概念は全く使用されておらず、「Q」とそれに対する「a」という構成で一貫しており、差異がある。更に、原告取扱説明書では、症状が角の取れた長方形状の色のついた囲みの中に記載されて紙面の左側に位置し、そこから二等辺三角形の矢印様の記号に導かれて、右側に「チェック」ないし対処法が示されているのに対し、被告取扱説明書では「Q」が帯状の囲みの中に記載され、そのすぐ下に「a」が記載されている。そして、文章についても同一の部分はほとんど存在せず、相違点が多い。
 一方、原告が主張するように、@5つの症状の選択、A確認すべき事項を大きく太い文字で記載していること、Bその下に理由又は説明が記載されていること、C確認すべき事項及びその理由又は説明の記載順序が同一であることという共通点がある。
 しかしながら、@トラブルとして5つの例を挙げるということに格別の手法としての意味合いなどはなく、また、5つのトラブルの内容も、製品を取り扱う誰が考えても近似する内容になるというものにすぎず、何ら目新しさがないし、他の取扱説明書との比較において特筆されるべき要素も一切ない。AB確認すべき事項が大きく太くされていることや、その下に理由又は説明が記載されていることも、どこにでもあるありふれた手法にすぎない。C確認すべき事項及びその理由又は説明の記載順序が同一であることも、トラブルの例自体が極めて平凡である以上、当然予想される範囲内の類似性である。
 このように原告が共通点として主張する@ないしCのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点@ないしCは、製品の取扱いを説明する場合には必然的に類似せざるを得ないといえる範囲に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される範囲内の類似性にすぎない。以上から、被告取扱説明書と原告取扱説明書の対比は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲内にある。したがって、被告取扱説明書「トラブルQ&Aこんなことが起きたら」の頁が、原告取扱説明書「トラブルQ&Aこんなことが起こったら」の頁を複製したものということはできない。
オ 被告取扱説明書「お手入れのしかた」について
 被告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁と原告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁とを比較すると、重要部分について多数の相違点がある。
 まず、タイトル部分について、タイトル文字の背景が、被告取扱説明書は、円の弦と弧で囲まれる図形であるのに対し、原告取扱説明書では、帯状となっており、差異がある。また、被告取扱説明書では、本体表面、本体内部という文字が長方形の枠組みに囲まれているのに対し、原告取扱説明書ではそれらの文字に【】が付されているにすぎない。手入れの仕方について、被告取扱説明書では、洗浄後に洗剤が残らないように水洗いすべきことを2か所にわたって指摘しているが、原告取扱説明書では、そのような指摘はない。イラストの大きさ及び「×」印と製品との大きさの比率にも大きな差異がある。イクスクラメーション・マークの形状及び向きに差異があり、しかも「必ず守る」という文字の有無も異なる。同様に、「禁止」の文字の有無も異なる。
 一方、原告が主張するように、@本体表面と本体内部に分けたこと、A手入れの仕方を箇条書きにしたこと、Bその下に絵表示を先頭に、手入れを本体が冷めてから行う旨の文章が配置されていること、C更にその下に、故障ややけどの原因となる旨の小さな文字の文章が配置されていること、Dその右横に、湯気が出ている製品本体を拭こうとする図に「×」印のついたものを配置していること、Eその下に故障の原因となる旨の小さな文字の文章を配置していること、F更にその下に、※印付の無償修理保証外事項についての文章を更に小さな文字で配置していること、Gその右横に製品をドライバーで分解しようとする図に「×」印の付いたものを配置しているという共通点はある。
 しかしながら、@手入れの説明に当たり、表面と内部に分けるのは、当然のことであり、格別の手法ではない。A手入れ方法を箇条書きにするのも、それ以外の方法がないほどにありふれた手法である。BCの文章の配置にも格別の表現手法は見い出せない。Dの図に「×」印を付けて禁止を表す手法及び図を文章の横に配置することのいずれにも何ら目新しい点はなく、ごく当たり前の構成や手法にすぎない。Eで小さな文字を用いたことも格別の手法ではない。F文字のサイズを多数設けることも、注意事項に※印を付けることもどこにでもある手法にすぎない。GこれもDと同様であり、図に「×」印を付けて禁止を表す手法及び図の文章の横に配置することのいずれにも何ら目新しい点はなく、ごく当たり前の構成や手法にすぎない。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしGのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点@ないしGは、製品の取扱いを説明する場合には、必然的に類似せざるを得ないといえる範囲に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予想される範囲内の類似性にすぎない。
 以上から、被告取扱説明書と原告取扱説明書の対比は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて、製品の取扱説明書としての性質上当然に予想される類似性の範囲内にある。したがって、被告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁が、原告取扱説明書「お手入れのしかた」の頁を複製したものであるということはできない。
カ 被告取扱説明書「各部の名前と付属品」について
 被告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁において使用されている被告イラスト3は、原告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁において使用されている原告イラスト3を複製したものに当たらないことは前記(2)【被告の主張】ウのとおりである。
 なお、原告は、原告イラスト3と被告イラスト3以外の点についての比較に関する主張をしないが、被告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁には、被告イラスト3以外の構成が含まれているのであるから、他の頁と同様に比較すべきである。
 そうすると、被告取扱説明書には、原告取扱説明書には記載されていないところの付属品たるスイッチケースの説明が大きくスペースを割いてなされていること、両面テープ、ネジを使ったスイッチケースの取付方の説明もなされていること等の諸点で、両者は大きく構成を異にする。
 したがって、被告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁は、原告取扱説明書「各部の名前と付属品」の頁を複製したものではない。
キ 被告取扱説明書「安全上の注意」について
 被告取扱説明書「安全上の注意」の頁と原告取扱説明書「安全上のご注意」の頁とを対比すると、重要部分について多数の相違点がある。
 まず、タイトル部分について、タイトル文字の背景が被告取扱説明書では、円の弦と弧で囲まれる図形であるのに対し、原告取扱説明書では、帯状で左端が半円を描いた形状となっており、差異がある。また、被告取扱説明書では、「警告」、「注意」の文字が黒く記載されているのに対し、原告取扱説明書では逆に文字が白抜きになっている。原告取扱説明書では、絵表示に「分解禁止」「必ず守る」「横倒し禁止」「禁止」「ぬれ手禁止」「プラグを抜く」「スイッチを切る」「プラグを持つ」「お願い」という文字がすべての警告又は注意の絵表示に付加されているのに対し、被告取扱説明書では、絵表示に一切文字が付加されていない。原告取扱説明書では、注意書きの冒頭に二重丸が付けられているのに対し、被告取扱説明書では■印が付されている。原告取扱説明書では、注意書きの欄が横の仕切線で仕切られているが、被告取扱説明書ではそのような仕切線がない。注意書きの文言にも多数の相違点が存在するし、原告取扱説明書では「注意」扱いのものが被告取扱説明書では「警告」扱いとなっているものがある。更に、被告取扱説明書には、漏電防止(アース)にかかわるひときわ大きく扱われている警告があるが、原告取扱説明書にはそのような部分は存在しない。
 一方、原告が主張するように、@注意事項を警告と注意に分けたこと、A左右方向に長い長方形枠の左側に略正方形状の領域を仕切線で加え、ここに注意事項に対応する絵表示を描いたこと、B仕切線の右側領域に、上段に注意事項を下段にその理由又は説明を記載し箇条書きに配列したことという共通点がある。
 しかしながら、@注意事項を危険度により2分することは、製品の取扱説明書においてごくありふれた手法にすぎない。ABで語られているのは、罫線を使用した図表のうちで最も単純素朴な図表の一つの使用でしかなく、格別の表現手法は皆無である。
 このように、原告が共通点として主張する@ないしBのいずれも、極めてありふれた構成や手法が用いられているにすぎない。そして、かかる構成や手法で表現された内容についても、何ら特別なものはなく、製品の取扱いを極めて平凡な記載に基づいて説明しているにすぎない。
 したがって、原告が主張する共通点@ないしBは、製品の取扱いを説明する場合に必然的に類似せざるを得ないといえる範囲内に止まっており、製品の取扱説明書としての性質上当然予測される範囲内の類似性にすぎない。
 以上から、被告取扱説明書「安全上の注意」の頁と原告取扱説明書「安全上のご注意」の頁は、重大な相違点を多数含む一方で、その共通点はすべて製品の取扱説明書としての性質上当然予想される類似性の範囲にある。したがって、被告取扱説明書「安全上の注意」の頁は、原告取扱説明書「安全上のご注意」の頁を複製したものには当たらない。
4 争点(5)(損害額)
【原告の主張】
(1) 不正競争防止法及び著作権法に関して
ア 原告は、被告製品の販売により、同数の製品の売上分が減少した。その台数は1000台を下ることはなく、原告製品(卸売価格は約1万円)の粗利益は30%を下らないから、被告の不正競争行為に基づく原告の損害は、1台あたり3000円、合計300万円を下らない。
イ 被告は、原告取扱説明書における原告の著作権を侵害している。原告は、原告取扱説明書の制作に100万円程度要しており、その使用料は1部あたり100円を下らない。被告が被告製品1台に被告取扱説明書1部を付していることからすれば、被告は被告取扱説明書を1000部制作しているといえるので、その損害は合計10万円を下らない。
ウ 弁護士費用
 100万円
エ よって、原告は、被告に対し、損害賠償として合計410万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
(2) 不法行為に関して(予備的請求)
 被告の前記2【原告の主張】記載の不法行為により、原告製品の売上が減少した。直接確認できただけでも、合計2282台の原告製品の売上減少が生じている。この売上減少により、原告製品1台当たり3000円の粗利益がある原告には684万6000円の損害が生じたことになる。
 よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、上記損害の内金として410万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 不正競争防止法に基づく請求について
(1) 争点(1)ア(ア)(原告製品の商品形態は、原告の商品表示として周知性を有するか)について
ア 第2の1の当事者間に争いのない事実等、証拠(甲1、甲2の1の1ないし8、甲2の2の1ないし12、甲2の3の1ないし6、甲2の4の1ないし6、甲3、6、8ないし10、13、15、16、17の1及び2、甲18、検甲1及び2、乙1及び2、6、11ないし16)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告製品の商品形態
a 原告製品は、頭部(筒部、把手部及び本体上部〔碗状部〕)、本体部及び脚部から構成される。
b(a) 頭部は、全体が乳緑色であり、その上部は把手部と筒部とからなる。把手部は、正面視において、筒部上部から左右に略4分の1円弧状に延出し、頭部下部の椀状部の上部側面に接するように配置されている。筒部は、本体部に繋がる耐熱コードを支持する縦長円筒状であり、その頭頂部から耐熱コードが延び出ている。
 その下部の碗状部は、上面から側面中央部に向かうにつれて順次拡径し、側面中央部から下面に向かうにつれて僅かに拡径する椀形状である。椀状部の上面は、中央に円形孔があり、その中心部には上記筒部が配置されている。円形孔内には緑色のパイロットランプ(通電状況を示すもの)が設けられ、上方から円形孔をのぞき込むとパイロットランプが視認できるようになっている。椀状部の側面には、正面視と背面視に左右2つずつ、縦長水滴状の穴がある。
(b) 本体部は、乳白色で、上面から下面に向かって円の直径が順次縮径され、正面視平行に近い逆ハの字となるような、縦長略円柱形状である。
 本体部は、筒部上部から脚部下部までを全長とするとその約2分の1程度、頭部椀状部分の上面から脚部の横長略円柱部分下面までを全長とするとその3分の2程度の長さである。
(c) 脚部は、乳緑色であり、横長略円柱部分と、その外側面に90度間隔で配置された表面が凸状の曲面を有する4つの脚部分からなる。
 4つの脚部分は、本体部の最下面縁よりも外側に配置されている。
(d) 底面には、中心軸を中心に45度間隔で周方向に8本の桟が形成され、それらの桟と桟の間に同心円上に複数の浴湯取込用の開口が形成されている。
(イ) 原告製品の販売実績、広告宣伝等の内容
a 原告は平成11年8月から原告製品の販売を開始し、原告製品は平成15年末ころまでの間に約2万台以上販売された。
b(a) 原告製品は、国内大手の通信販売会社の各種通信販売カタログや、国内大手の新聞社の広告欄に通信販売業者が掲載する広告において、取扱製品として取り上げられる方法で広告宣伝されている。
(b) 原告製品が、国内大手の新聞社等(讀賣新聞、朝日新聞(夕刊を含む。)、日本経済新聞、産経新聞、その他)の広告欄に取り上げられたのは、平成12年に3回、平成13年に8回、平成14年に零回、平成15年1月ないし10月(被告製品の販売開始時前)に零回、平成15年11、12月に6回、平成16年に12回である。
 原告製品が国内大手通信販売者等(日本直販、ニッセン、近鉄百貨店、その他)のカタログに掲載されたのは(数年に亘って有効なカタログについては当初掲載された年を基準とする)、その年が証拠上明らかもののみについては、平成12年に2回、平成13年に2回、平成14年に5回、平成15年に3回、平成16年に4回である。
 原告製品が国内民放あるいはケーブルテレビの宣伝番組や情報番組において取り上げられたのは、平成11年が2回、平成12年が3回、平成13年が1回、平成14年が1回、平成15年が1回(被告製品の販売開始前)、平成16年が6回である。
(c) 原告製品が広告宣伝される際には、同製品を使用すれば追い焚きや差し湯をしなくても風呂の湯加減が適温に常時保たれること、その結果として同製品を使用すると追い焚きや差し湯をする場合と比較してガス代や水道代が年間で相当額節約されることになることを大々的に謳う宣伝文句が付され、縷々その説明がなされている。製品全体を示す写真等も同時に掲載あるいは放映されているが、特に原告製品の形態上の特徴を取り上げて文章で説明したり宣伝したりしたものは見当たらない。
(ウ) 浴槽内の浴湯の温度が低下しないように温度を維持しあるいは加熱する浴槽湯沸かし器等の発明及び考案は、原告製品発売前から存在した(乙1及び2、6)。また、原告製品販売後に製造販売されている同種製品等として、次のようなものがある。
a 1031−5000ユーフィー(乙11)
 本体部は、上部から中央部に向かうに連れ楕円径が順次大きくなり中央部から下部に向かうに連れ楕円径が順次小さくなるような、正面視楕円形の円盤体である。
 正面視左右上部に略半円状の把手が1つずつある。また上面から見ると上部は正面側から背面側に向けて細長い孔が約20本程度、縞状に見えるような配置で穿設されている。
 下部には、正面視左右に1つずつ脚があり、同脚は左右側面視略半円形である。
 本体上部には、同製品を浴槽内に投入しまた引き上げるためのひもが設置されている。
b BOUY1(ブイ1)(乙12)
 製品は、浮き部と本体部と受け皿部とからなる。
 浮き部は、横長円柱状、本体部は縦長円柱状であり、浮き部と本体部の円の直径はほぼ同じ長さである。
 浮き部には、上面中央に吊り輪と電源コードがある。
 本体部は正面視において上部から下部に亘り、縦長の円孔が横4列縦3段にわたり穿設されている。
 受け皿部は、本体部よりやや大径の円筒形状である。
c Bath−Hot mini(バスホット ミニ)(乙13)
 製品は浮き部と本体部からなる。
 浮き部は横長円筒状であって、上面中央に吊り輪と電源コードがある。
 本体部は中央部分がやや膨らんだ樽状円柱であり、その上部と下部にそれぞれ細長円孔が穿設されている。
d BOUY(ブイ)新製品(乙14)
 製品は浮き部分と本体部分と受け皿部とからなる。
 浮き部及び受け皿部は、上記bとほぼ同様である。
 本体部も上記bとほぼ同様であるが、更に、下部に循環ポンプが内蔵されている横長円柱状部と、浄化ユニットである横長円柱状(脚付)が追加して設置されている。
e 遊湯らっくす(乙15)
 製品は、大きく4つの構成に分けられる。
 最上部は円盤状であって、上面に略長方形状の把手がある。
 2段目は最上部の円盤径よりも小径の横長円柱状である。
 3段目は更に小径の縦長円柱状である。
 4段目は3段目よりは径の大きい横長円柱状である。
 なお、同製品は、浴槽に入れて、浴湯の軟水化や浴湯の洗浄等を目的とするもので、浴湯の温度を維持したり沸かしたりする機能はない。
f 湯美人(乙16)
 製品は把手部分と本体部分とからなる。
 把手部分は、本体部分の上部にあって、略半円弧状である。
 本体部分は横長円柱状の上部と、やや直径が小さい縦長円柱状の下部とからなる。上部の上面には、中央から電気コードが出ており、また、上部端には吸い込み口クリーンフィルターがある。
イ(ア) 商品の形態は、通常は、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるためなどの目的から適宜選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の同種製品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等が行われて大量に販売されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、その場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護されることがあると解される。
 そこで、この点を踏まえ、原告製品の商品形態が、原告の商品表示として周知であるといえるか否かについて、前記アで認定した事実を基に検討する。
(イ) 原告製品は、平成11年8月から販売開始され平成15年末までの4年4か月の間に日本全国において2万台程度販売されたにすぎない。
 原告製品は、被告製品販売前には、通信販売業者が国内大手新聞社等の発行する新聞に載せる広告や、国内大手通信販売業者等の発行する製品カタログ等において、平均して月1回程度、他の製品と共に広告宣伝されており、他の製品と比較してとりわけ頻繁に広告宣伝されたということはできない。また、平成11年に2回、平成12年に3回、平成13年に1回、平成14年に1回、平成15年に1回程度、国内民放テレビ局かケーブルテレビによって原告製品が広告宣伝等されたことがあるにすぎない。
 原告製品が広告宣伝等される場合には、その機能及び効用、すなわち、浴湯を電気により常時適温に維持するための製品であること、適温維持のための差し湯や追い焚きが不要であること、その結果原告製品を使用することによる電気代等が追い焚き等をした場合のガス・水道代と比較して低額で済むこと、などの特徴が強調されていた。原告製品は、カタログや新聞に掲載されあるいはテレビ放送において放映される際、正面からその全体を見るような角度で撮影されていたが、原告製品の商品形態が特に強調されるような広告宣伝等がなされたことはない。
 原告製品販売開始後、同種の機能を有する他社製品が製造販売されるに至っており、その中には、原告製品と同様、上部に把手部、中部に円筒形状の本体部、下部に脚部を有する構造のものも存在した。
(ウ) 以上の事実を総合すれば、原告製品は、浴湯を電気により常時適温に維持するための製品であること、適温維持のための差し湯や追い焚きが不要であること、電気代等が追い焚き等をした場合と比較して低額で済むこと、などの製品の機能あるいは効用によってそれなりに人気を博し、販売数を増加させていったということはできるものの、原告製品の商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等が行われて大量に販売されたとまでいうことはできず、被告製品販売開始当時、原告製品の商品形態が、製品の出所を表示するものとして消費者等に広く認識されるに至っていると認めることは困難であるといわざるを得ない。
(エ) 原告は、原告製品が従来になかったアイデアを実現させた商品であることから、その形態には独自性が認められる旨主張する。
 しかしながら、不正競争防止法2条1項1号が同条項3号と異なり製品の創作活動を保護するものではないことからすれば、仮に原告製品がそのアイデア等を実現した国内初の商品であったとしても、そのことからその商品形態が周知性ある商品表示性を有するということはできない。
ウ よって、被告製品の商品形態が原告の商品表示として周知性を有する原告製品と誤認混同させることを理由に、被告製品の製造販売行為等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとする原告の不正競争防止法に基づく請求は、争点(1)ア(イ)について判断するまでもなく失当というべきである。なお、民法709条の不法行為に基づく請求の判断に資するため、争点(1)ア(イ)について、次項で検討しておくこととする。
(2) 争点(1)ア(イ)(被告製品は、その商品形態が原告製品の商品形態と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか)について。
ア 原告製品の商品形態は、前記(1)ア(ア)で認定したとおりである。
イ 被告製品の商品形態
 甲第12号証及び検甲第2号証によれば、被告製品の商品形態は次のとおりと認められる。
(ア) 被告製品は、頭部(筒部、把手部及び本体上部)、本体部及び脚部から構成される。
(イ)a 頭部の筒部及び把手部は乳白色、本体上部はレモンイエロー色である。
 把手部は、倒立U字形状であり、その両端は正面視において本体上部の左右外側面に接している。把手部中央上から、耐熱コードが延び出ている。
 筒部は、耐熱コードを支持するためのものであり、本体部の上面中心部から把手部頭頂下部に接するように配置され、上部に膨らみを持つ略細長筒形状である。
 本体上部は、上面から下面に向かうに連れて順次拡径する截頭円錐形状である。截頭円錐形状部分上面には中央に円形孔があり、その中心部には上記筒部が配置されている。円形孔内には緑色のLEDランプ(通電状況を示すもの)があり、上方から円形孔をのぞき込むとLEDランプが視認できるようになっている。截頭円錐形状部分の側面には、正面視と背面視に左右2つずつ、縦長楕円形状の孔が設けられている。
b 本体部は乳白色であり、上面から下面に向かうに連れて順次拡径する正面視ハの字状となるような截頭円錐形の釣鐘形状である。
 本体部は、筒部上部から脚部下部までを全長とするとその約2分の1程度、頭部截頭円錐形状部分の上面から脚部の截頭円錐形状下面までを全長とするとその9分の8程度の長さである。
c 脚部は、レモンイエロー色であり、上面から下面に順次縮径する截頭円錐形状部分と、その外側面に90度間隔で配置された表面が凸状の曲面を有する4つの脚部分からなる。4つの脚部分は、本体部の最下層周縁よりも内側に配置されている。
d 底面には、円に近い楕円形に、中心軸を中心に45度間隔で周方向に8本の桟が形成され、それらの桟と桟の間に同心円上に複数の浴湯取込用の開口が形成されている。
ウ 類否判断
(ア) 相違点
 原告製品と被告製品は、その最も大きな部分(把手部から脚部までの全体の2分の1ないし頭部の上部上面から脚部の下面までの全体の3分の2あるいは9分の8)において、原告製品が上面から下面に向かうに連れて順次縮径する、正面視逆ハの字状の縦長略円柱形状であるのに対し、被告製品は上面から下面に向かうに連れて順次拡径する、正面視ハの字状で截頭円錐形の釣鐘形状であるという点において、大きく異なる。
 また、頭部においては、原告製品は略4分の1円弧状の把手が中央の筒部から頭部下部にある椀状部分に向けて左右に2つ配置されているのに対し、被告製品は倒立U字状の把手の両端が正面視ハの字状となる截頭円錐形状の側面に接しているのであり、把手部の形状とこれを受ける本体上部の形状においても異なる。
 更に、脚部において、原告製品は円柱形状の外側に脚部を配置しており、その結果本体部の下部周縁よりも外側になるような配置となっているのにに対し、被告製品は上面から下面に向かい順次縮径する截頭円錐形状の外側に脚部を配置しており、その結果本体部の下部周縁よりも内側になるような配置となっている点において異なる。
 原告製品は、乳緑色及び乳白色によって彩色されているのに対し、被告製品はレモンイエロー色と乳白色によって彩色されている。
(イ) 共通点
 原告製品及び被告製品は、頭部(筒部、把手部及び本体上部)と本体部と脚部からなる。
 原告製品及び被告製品は、頭部の中央最頭頂部から耐熱コードが出ている。
 原告製品と被告製品は、頭部において、本体上部上面に円形の孔を作り、その真中に筒部を配し、上部からのぞき込むと、その円形の孔の中の緑色のランプ(通電状況を示すもの)が視認できるようになっている。
 原告製品と被告製品の脚は4本で、表面が凸状曲面を有している。
 原告製品と被告製品の底面には、円あるいは楕円形の底面に、中心軸を中心に45度間隔で周方向に8本の桟が形成され、それらの桟と桟の間に同心円上に複数の浴湯取込用の開口が形成されている
(ウ) 評価
 前記(ア)記載の相違点、とりわけ本体部分の相違により、原告製品は、全体として、下から上に向けて伸びていくような爽やかでスマートな印象を与えるのに対し、被告製品は、全体として、暖かな安定感を醸し出しているということができ、印象が大きく異なる。その他にも、把手部の形状やこれを受ける頭部の形状、脚部の配置位置などの点においても著しく相違する。
 確かに原告製品と被告製品とには、前記(イ)記載のようないくつかの共通点が認められる。しかし、前記(1)ア(ウ)で認定したとおり、耐熱コードが製品全体の上部の中央部分から延び出ているとともに、製品の上部に把手部がある、といった構成を有している同種製品は存在していた。また、通電中を示すランプを、通常は注意や警告を示す色とされる赤色や黄色ではなく、平穏状態を示す色とされる緑色とし、これを浴槽に沈めた使用状態時に容易に視認可能な本体の上面部に配することは、両製品の使用方法や機能等からしてありふれた構成といえる。更に、底面に水を取り入れたり排出したりするための開口部を設けることは、冷水が浴槽の下に溜まり、温水が浴槽底部に排出されてもその後上昇して、浴槽内の浴湯の対流を起こさせ得るという科学常識からすれば、機能的な配置ということができる。その他の共通点を見ても、上記相違点を凌駕するほどの共通性を認めることはできない。
 したがって、原告製品の商品形態と被告製品の商品形態とは類似しないというべきである。
(エ)a 原告は、原告製品の本体部分と被告製品の本体部分は、円筒形状である点で類似であって、末広がりか末すぼみかは形態上の類似性を否定するものではない旨主張する。
 しかしながら、両製品の大半は本体部分が占めているのであるから、その形態は看者の注意を惹きやすいと解されるところ、上部より下部が細くなるような略円筒形状であるか上部より下部を太くする截頭円錐形状であるかによって、前記のとおり、これにより醸し出される印象が大きく異なることなるから、形態上無視できない大きな相違点というべきである。
b 原告は、原告製品と被告製品は、浴槽底に沈めた状態で使用するものであるから、製品は上方あるいは斜め上方から観察されるのであって、消費者の注意を惹きつけるのは頭部であると主張し、把手部の中心を通るような筒部を構成し、コードをこの筒部を通して筒部上面からあるいはその上にある把手部上面から出しているという共通点により、また、上面視において緑色の通電状態を示すランプが視認できるという共通点により、形態上の類似性が認められると主張する。
 しかしながら、不正競争防止法2条1項1号の行為が不正競争行為とされるのは、取引実情下において取引者や消費者が製品の出所表示を誤認混同して製品を購入等することを防止することを目的とするものであるから、商品形態が類似するか否かは、使用時よりも購入時の観察方法を基準に考察すべきである。
 この点、原告製品の広告宣伝等に掲載されている写真は、上面から観察すべきパイロットランプ等の説明をするような場合を除き、正面視全体を観察する角度から撮影されている。また、原告製品も被告製品も風呂の浴槽に出し入れする使用方法を採っているから、消費者が店頭にて購入する際には、これを持ち上げ、その全体が見えるような観察をすることも十分考えられる。したがって、上方あるいは斜め上方からの観察しかなされないことを前提として両製品の類否を判断すべきであるとの原告の主張は採用できない。
 そして、把手部や筒部、頭部における本体上部の相違点は、前記(ア)のとおりであり、パイロットランプに関する共通性は上記類否判断を左右するものではない。
 したがって、上記原告の主張は採用できない。
c 原告は、脚部が4本であり表面が凸状曲面であることの共通性から類似である旨主張するが、物の脚は安定性のために3本か4本であることが通常であるし、製品全体が丸みを帯びている場合に脚部も何らかの曲面を有する形にすることは、通常選択されうる形態であろうことが容易に推測されるから、脚部が4本であることやその表面が凸状曲面であることなどを、商品形態の類似性を肯定する根拠とすることはできない。
d 原告は、原告製品と被告製品が類似するとの主張の根拠として、いずれも、本体部分以外に、スイッチ、漏電遮断器付プラグ、各種コード、トレーなどが備えられている点を挙げる。
 しかしながら、不正競争防止法2条1項1号は商品の出所を表示するものを商品等表示として保護するものであるから、電気製品におけるスイッチ、プラグ、各種コードや、水中内で使用した後引き上げる必要がある商品の備品としての受け皿のような、通常商品の出所の表示として考慮されることがおよそ想定されないものを商品等表示として類否判断の対象とすることはできないし、仮にこれを対象とすることができるとしても、原告自身これらが通常ありふれた形態であることを認めているのであるから、被告製品のそれらの備品等が形態において共通するとしてもそのことをもって類否判断が左右されることにはならない。
(3) 争点(1)イ(イ)(被告製品は、その商品名が原告製品の商品名と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか)について
 争点(1)イ(ア)(原告製品の商品名は、原告の商品表示として周知性を有するか)についての判断はしばらくおき、まず、争点(1)イ(イ)の商品名の類似性と誤認混同のおそれの有無について判断する。
ア 商品名の類似性は、取引の実情の下において、取引者又は需要者が、両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。
イ これを本件についてみると、原告製品の商品名は「風呂バンス」であり、被告製品の商品名は「風呂ポット」であるが、その外観をみると、原告製品の商品名「風呂バンス」は漢字2文字とカタカナ3文字で構成され、被告製品の商品名「風呂ポット」は漢字2文字とカタカナ3文字で構成されているという点においては共通するが、カタカナ3文字はいずれも異なる文字である。原告は、「風呂」の2文字が共通し、その後カタカナ3文字が続くことをもって類似する旨主張するが、失当である。
 また、称呼をみると「風呂」の点は同じであるもの、それ以外の点は原告製品の商品名は濁音や促音を含むのに対し、被告製品の商品名は半濁音や閉塞音を含むなど、全く異なる。
 更に、観念についてみると、原告製品の商品名は「風呂」と「バンス」を分けた場合、「バンス」が日本語又は通常の日本人が理解する外国語として意味不明であるのに対し、「風呂バンス」と全体的に読めばフランスの保養観光地の地方名である「プロバンス」をもじったものであることが窺われ、そこから同地方のイメージを呼び覚ますことにもなり得る。これに対し、被告製品の商品名は、「ポット」という語が英語の「pot」の日本語における発音表記であり、その意味は、「@紅茶やミルクなどを入れて出す、つぎ口のついた壺形の容器。A魔法瓶」である(三省堂「大辞林」)ことは通常人であれば容易に発想でき、そのため、「ポット」の語のみでも液体を温めるものあるいは冷めないようにするものとの観念が、更に「風呂ポット」と全体的に読めば、浴湯を温めるものあるいは冷めないようにするものとの観念を生じさせる。したがって、原告製品の商品名と被告製品の商品名は、観念に基づく印象、連想等において著しく異なるというべきである。
 したがって、被告製品の商品名は、外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等のいずれの点においても原告製品の商品名と著しく異なるから、原告製品の商品名とは類似しない。
ウ よって、被告製品の「風呂ポット」なる商品表示が、原告製品の周知商品表示である「風呂バンス」と類似し、原告製品との誤認混同を生じさせる不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たることを理由とする同法に基づく請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
2 民法709条に基づく請求(予備的請求)について(争点(2)(被告が、原告製品と商品形態あるいは商品名において類似する被告製品を「TVでおなじみの」などの宣伝文句を付して販売等することが、原告に対する不法行為を構成するか(上記1の(1)及び(2)に対する予備的請求))について)
(1) 原告は、仮に被告製品を製造販売等する被告の行為が不正競争行為に該当しないとしても、被告製品が商品形態あるいは商品名において原告製品と類似することを前提として、被告が、被告製品についてテレビ放送で広告宣伝等を行っていないにもかかわらず、被告が被告製品を「TVでおなじみの」などの宣伝文句を付して販売したことが原告に対する不法行為を構成すると主張する。
(2) しかしながら、原告製品と被告製品が、その商品形態においても商品名においても類似しないことは、前記1で認定説示したとおりである。また、前示(1(1)ア(イ)b(b))認定のとおり、原告製品が被告製品販売開始前に国内民放あるいはケーブルテレビの宣伝番組で取り上げられたのは、平成11年から平成15年までの間において1年に1回ないし3回程度にすぎず、被告製品販売開始当時、原告製品が、テレビ放送による広告宣伝等によって需要者に広く知れ渡っていたとは到底認め難い。これらの事情を考慮すると、被告が被告製品にテレビ放送で広告宣伝等を行っていなかった段階において「TVでおなじみの」との宣伝を付して被告製品を販売したとしても(かかる広告宣伝活動を行うこと自体の当否には疑問があるが)、そのような広告宣伝に接した需要者が直ちに原告製品を想起し、被告製品を原告製品と誤認混同するなどとはにわかに認め難い(ちなみに、被告は、その後、「風呂ポット」なる商品名の下に被告製品をテレビ放送で広告宣伝している〔乙17の1・2〕。)。したがって、被告のした上記広告宣伝等を伴う営業活動等が、原告の営業上の利益を違法に侵害したものとはいまだ認められない。
 したがって、被告の上記行為が原告に対する民法709条の不法行為を構成すると解することはできない。
(3) したがって、原告の民法709条の不法行為に基づく予備的請求も理由がない。
3 著作権法に基づく請求(争点(3))について
(1) 争点(3)ア(ア)、(イ)(別紙著作物目録1ないし3記載のイラストは、著作物性を有するか。仮に著作物性を有する場合、被告取扱説明書の一部は、別紙著作物目録1ないし3記載のイラストを複製したものであるか)について
 争点(3)ア(ア)(別紙著作物1ないし3(イラスト)は、著作物性を有するか)についての判断はしばらくおき、まず、争点(3)ア(イ)(仮に著作物性を有する場合、被告取扱説明書の一部は、別紙著作物1ないし3を複製したものであるか)について判断する。
ア 原告イラスト1ないし3に何らかの創作性、そして著作物性が認められるとしても、更に被告イラスト1ないし3が原告イラスト1ないし3を複製したものと認められるためには、原告イラスト1ないし3の創作性のある部分が被告イラスト1ないし3と実質的に同一か、又は被告イラスト1ないし3が原告イラスト1ないし3の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得させることができなければならないと解される。
 製品の取扱説明書の場合、製品の使用方法、機能、生じ得る問題点とその対処方法、部品や部分の名称、注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが、説明すべきこれらの内容が共通し、その説明内容等がありふれた表現でなされる限り、別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし、著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(同法2条1項1号)からすれば、仮にそのような共通性が認められたとしても、そのことをもって、創作性ある部分が実質的に同一であるとか、表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
 そこで、以上の点を踏まえて、原告イラスト1ないし3と被告イラスト1ないし3を比較検討する。
イ 原告イラスト1と被告イラスト1について
(ア) 甲第4号証及び第12号証によれば、次の事実が認められる。
a 原告イラスト1と被告イラスト1は、その掲載頁の説明内容からすれば、製品を使用して浴湯を保温する場合、浴室外に電源とスイッチを置き、浴室内には耐熱コードを置くこと、製品は浴槽内に入れ、風呂の蓋は閉めておくこと、製品は直立させるべきであり、斜めに傾けた場合には作動しないこと、以上の説明のために描かれているイラストである。
b(a) 原告イラスト1
 原告イラスト1は、正常な使用方法と、作動しない使用方法とが描かれている。
 正常な使用方法を示すイラストは、左に浴室外の状況を、右に浴室内の状況を描いている。浴室外には原告製品の電源と原告製品のスイッチとが描かれている。浴室内には、2枚の風呂蓋が閉められ、浴槽内部に原告製品の本体が直立しており、吸盤で固定され、湯が波打っている様子が描かれている。説明すべき内容については、吹出しが付され、その中に文章が記載されている。
 作動しない使用方法を示すイラストは、正常な使用方法を示すイラストの右横に描かれ、蓋のない浴槽内部に、波打った湯の中で原告製品が斜めに傾いている様子が描かれ、これが作動しない場合であることを示すために左上に「×」印が描かれている。
(b) 被告イラスト1
 被告イラスト1は、正常な使用方法と、作動しない使用方法とが描かれている。
 正常な使用方法を示すイラストは、左に浴室外の状況を、右に浴室内の状況を描いている。浴室外には被告製品の電源と被告製品のスイッチとが描かれている。浴室内には、数枚の板状からなる風呂蓋が閉められ、浴槽内部に被告製品の本体が直立しており、吸盤で固定されている様子が描かれている。説明すべき内容については、吹出しが付され、その中に文章が記載されている。
 作動しない使用方法を示すイラストは、正常な使用方法を示すイラストの右下に描かれ、蓋の閉められた浴槽内部に、被告製品が斜めに傾いている様子が描かれ、これが作動しない場合であることを示すために被告製品左横で浴槽部分にかかる部分に「×」印が描かれている。
c 原告イラスト1と被告イラスト1は、正常な使用方法と作動しない使用方法が記載されていること、正常な使用方法については、左に浴室外の状況、右に浴室内の状況が描かれていること、浴室外には電源とスイッチがあること、浴室内には蓋が閉まった浴槽の中に製品が自立した状態で設置されていること、作動しない使用方法については、浴槽内で斜めに傾いた製品が記載され、その側に「×」印が描かれていること、絵のみでは表現しきれないことは吹出しを付してその中で文章で表現されていること、以上の点で共通する。
 しかしながら、描かれているものが原告製品であるか、被告製品であるかの点、風呂蓋、浴槽内の湯の表示の有無等において相違する。
(イ) 以上によれば、被告イラスト1は確かに前記(ア)c記載の共通点の範囲において原告イラスト1と共通する。しかし、これらの部分は、結局、原告製品と被告製品に共通する製品の使用方法やその際の注意事項をありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。そして、ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって、被告イラスト1が、原告イラスト1の創作性ある部分と実質的に同一であるとか、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから、被告イラスト1は、原告イラスト1を複製したものということはできない。
ウ 原告イラスト2と被告イラスト2について
(ア) 甲第4号証及び第12号証によれば、次の事実が認められる。
a 原告イラスト2と被告イラスト2は、その掲載頁の説明内容からすれば、入浴する際には製品を浴槽から取り出し、浴室外のトレーの上に置くことを説明するために描かれているイラストである。
b(a) 原告イラスト2
 原告イラスト2は、左側に浴室外を、右側に浴室内を描いている。
 浴室外には、原告製品の電源と、原告製品のスイッチと、原告製品の付属品であるトレーの上に置かれた原告製品本体が描かれている。
 浴室内には、タイル張りの床の上に浴槽が描かれ、浴槽内には浴湯とお湯が入浴可能な温度であることを示す湯気のようなものが描かれている。
 原告製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させたことを示すために、浴槽の左上部端から浴室外の原告製品に向けて、矢印が描かれている。
(b) 被告イラスト2
 被告イラスト2は、左側に浴室外を、右側に浴室内を描いている。
 浴室外には、被告製品の電源と、被告製品のスイッチと、被告製品の付属品であるトレーの上に置かれた被告製品本体が描かれている。
 浴室内には、無模様の床の上に浴槽が描かれ、浴槽内には浴湯が入浴可能な温度であることを示す湯気のような曲線が描かれている。
 被告製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させたことを示すために、浴槽の左上部端から浴室外の被告製品に向けて、矢印が描かれている。
c 原告イラスト2と被告イラスト2は、浴室外と浴室内とに分けられ、浴室外には電源とスイッチとトレーの上に置かれた製品が描かれていること、製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させることを示すために矢印が記載されていること、浴室内には浴槽があり、浴槽上部には浴湯が入浴可能であることを示す湯気のようなものが描かれていること、以上の点で共通する。
 しかしながら、描かれているものが原告製品であるか被告製品であるかの点、浴湯の表示の有無、湯気の状況、浴室内の床の模様において相違している。
(イ) 以上によれば、被告イラストは確かに前記(ア)cに記載した共通点の範囲において原告イラストと共通する。しかし、これらの部分は、結局原告製品と被告製品に共通する使用方法をありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。そして、ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって、被告イラスト2が、原告イラスト2の創作性ある部分と実質的に同一であるとか、原告イラスト2の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから、被告イラスト2は、原告イラスト2を複製したものということはできない。
エ 原告イラスト3と被告イラスト3について
(ア) 甲第4号証及び第12号証によれば、次の事実が認められる。
a 原告イラスト3と被告イラスト3は、その掲載頁全体からすれば、製品の使用時を例にとって、浴室外にあるアース線、プラグ、コード、スイッチ等の、浴室内にある耐熱コード、浴槽内にある本体、本体上部のパイロットランプ(被告製品の場合LEDランプ)等の各部分の名称を説明しているものである。
b(a) 原告イラスト3
 原告イラスト3は、上部を浴室外として、原告製品のプラグとコードと原告製品のスイッチ及びスイッチ固定台と耐熱コードの一部と、原告製品のトレーとを描いている。
 また、下部を浴室内とし、蓋の閉まった浴槽内に、浴湯の中に原告製品本体が自立した図と、その図の右横に、原告製品の上部を拡大してパイロットランプを指示した図が描かれている。
 各部の名称については、各部から引出線を引いて説明されている。
(b) 被告イラスト3
 被告イラスト3は、上部を浴室外として、被告製品のプラグとコードと被告製品のスイッチと耐熱コードの一部とを描いている。
 また、下部を浴室内とし、蓋の閉まった浴槽内に、被告製品本体が自立した図と、その図の左横に、被告製品の上部を拡大してLEDランプを指示した図が描かれている。
 各部の名称については、各部から引出線を引いて説明されている。
c 原告イラスト3と被告イラスト3は、上部を浴室外とし、下部を浴室内とし、上部には電源とプラグとコードとスイッチと耐熱コードの一部が描かれていること、下部には耐熱コードの残部と、蓋の閉まった浴槽と、浴槽内に自立している製品が描かれていること、通電状況を示すパイロットランプ(被告製品の場合LEDランプ)を説明するために、製品上部が拡大された図が描かれ、パイロットランプあるいはLEDランプが指示されていること、各部の名称が引出線を引いた上で説明されていること、以上の点において共通する
 しかしながら、描かれているものが原告製品であるか被告製品であるか、スイッチ固定台やトレーのイラストの有無、浴湯の有無等において相違する。
(イ) 以上によれば、被告イラスト3は確かに前記(ア)c記載の共通点の範囲において原告イラスト3と共通する。しかし、これらの部分は、結局、原告製品と被告製品の部品や製品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。また、ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって、被告イラスト3が、原告イラスト3の創作性ある部分と実質的に同一であるとか、原告イラスト3の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから、被告イラスト3が原告イラスト3を複製したものということはできない。
オ 以上のとおり、原告イラスト1ないし3が著作物性を有するか否かの点はともかく、被告イラスト1ないし3が、原告イラスト1ないし3を複製したものであるということはできない。
(2) 争点(3)イ(ア)(原告取扱説明書は、編集著作物性を有するか)について
ア 証拠(甲4、12)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 製品に添付される取扱説明書は、当該製品の購入者に対し、当該製品の使用方法、機能、生じ得る問題点とその対処方法、部品・部分名称、注意・禁止事項などを、文章やイラストで説明しているものである。
 その際、文章には、その説明内容の重要度に応じて、文字に大小や太細といった変化を付けたり、下線等の修飾を施したり、文章の冒頭に各種注意を促す絵表示を施したりする方法が採られる場合が多い。また、各頁に何が記載してあるのかを明らかにするために、頁上部にタイトルを付けたり、時系列的に説明したりする方法が採られることが多い。
 また、説明内容を理解しやすくするために、当該製品を簡単にデフォルメしたイラストや製品そのものの写真を使用することがある。その際、イラストや写真は、その説明文章に近接する上部、下部、横部などに配されるのが通常である。
(イ) 原告取扱説明書(甲4)について
a 原告取扱説明書は、原告製品に関する取扱説明書であり、@「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」、A「次に入浴するとき」、B「風呂バンスの特徴」、C「トラブルQ&A こんなことが起こったら」、D「お手入れのしかた」、E「各部の名前と付属品」、F「安全上のご注意」のほか、「定格・仕様」、「保証書・アフターサービスについて」、「無償修理規定」の順に章立てされている(以下、個々の章を示すときは、「原告取扱説明書@」などという。)。
b 原告取扱説明書@「使い方1:入浴後お風呂からあがったら」は、いったん入浴した後、原告製品を浴槽内に入れてから次に入浴する直前までの段階を使用手順を踏まえて時系列的に3段階に分けている。
 原告取扱説明書1頁では、「『風呂バンス』本体を浴槽のお湯にいれる」という説明文を配し、そのうち“お湯にいれる”という部分を他の文字よりも大きく太くしている。この文章の下に原告イラスト1を配置し、更に同イラストの下に絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きしている。
 原告取扱説明書2頁では、その上段を左右に分け、左側に「コンセントにプラグをさしこんでスイッチをいれる →「入」へ」という説明文を配し、このうち“スイッチをいれる”という部分を他の文字よりも大きく太くしている。そして、上記説明文の下に入り状態としたスイッチの平面図を配置し、この平面図の下に絵表示を先頭に3つの注意事項を箇条書きしている。
 2頁上段右側には、「パイロットランプの点灯を確認する」との説明文を配し、このうち“点灯を確認する”という部分を他の文字よりも大きく太くしている。上記説明文の下に、原告製品を斜め上方から撮影した写真でパイロットランプ部分を丸で囲んだ写真を配置し、この写真の下に小さな文字でヒーター通電中パイロットランプが点灯する旨の文章を配置している。
c 原告取扱説明書A「次に入浴するとき」は、入浴の際する際の使用方法を3段階に分けて、使用手順を踏まえて時系列的に3段階に分け、更にその下に禁止事項と遵守事項を配置している。
 具体的には、まず、「スイッチを切る」という説明文を配し、このうち“切る”という部分を他の文字よりも大きく太くしている。この文章の左側に切り状態としたスイッチの平面図を配置し(この平面図の上に「『切』へ←」との説明文が小さく太く記されている。)、上記説明文と平面図の下側に、特大の絵表示を先頭に、スイッチを切って約1分ほどしてから本体を浴槽から出す旨の文章を配置している。この文章中“約1分”という部分は他の文字よりも大きく太く記されるとともに、下線が引いてある。
 次に、「本体を浴槽から出し、浴室外に置く」との説明文を配し、このうち“浴槽から出し、浴室外に置く”という部分を他の文字よりも大きく太くしている。この文章の下に小さな文字で「保温時以外は、本体は浴室外のトレーの上に立てる」との小さめの注意書きが括弧書きで記され、更にこの注意書きの下に原告イラスト2を配置している。
 そして、“さぁ、入浴!”という文字を大きく太くした文章を配置し、この文章の右横に浴室内で人が浴槽に浸かり、浴室外に原告製品がトレー上に載置されているイラストが配置されている。
 そして、その下側に禁止事項と約束事項を記載している。禁止事項については、禁止を表す絵表示を先頭に、「本体を浴槽へ入れたまま入浴しない」との文章と、この文章の下に「転倒によるケガや、やけどの原因となります」と小さな文字で記載された文章と、これらの文章の右側に、人が原告製品と一緒に浴槽内に入っているイラストに「×」印が付されたものとを配置している。
 約束事項については、遵守を表す絵表示を先頭に、「お湯は毎日とりかえる」との文章と、この文章の下に「数日にわたるお湯の保温や使用は、雑菌繁殖の原因となります」と小さな文字で記載された文章とを配置している。
d 原告取扱説明書B「風呂バンスの特徴」では、原告製品の特徴が記載されている。
 紙面の上から順に、@原告製品が保温機能のみで湯沸かし機能を有しない旨の文章と、A節電効果がある旨の大きく太い文字による文章と、B四角の枠で囲まれた領域に、夏場など充分な湯温の時には節電のため通電が止まり、湯温が下がると自動的に通電し充分な湯温になるまで保温する旨の小さな文字で記載された文章と、Cパイロットランプが点灯したり消灯したりすることが故障でない旨の太い文字で記載された文章と、D左右に並んで配置された、原告製品を斜め上方から見たときの、パイロットランプが消灯している状態の図と点灯している状態の図と、E大切であることを示す絵表示を先頭に、お湯に入れてスイッチをONにしても、最初から全く点灯しない場合にはメーカーに問い合わせることとする小さな文字で記載された文章と、F大切であることを表す大きな絵表示を先頭に、パイロットランプが消えている場合でも、本体を浴槽から取り出す前にスイッチを切って約1分ほどしてから本体を浴槽から取り出す旨の太い文字で記載された文章とを配置している。
e 原告取扱説明書C「トラブルQ&A こんなことが起こったら」には、よくあるトラブルを5つの症状に分け、それぞれの症状ごとに、左欄に症状を記載した枠を、右欄にその解決方法を記載した枠を配し、2頁にわたり説明している。
 具体的には、よくあるトラブルとして“機能しない(湯温が下がる)”、“保温状態がよくない”、“本体を浴槽から出したとき、音がする”、“お風呂がわかない”、“本体が浴槽外にあるときこげ臭いにおいがする”の5つの症状が記載されており、それぞれについて確認すべき事項を大きく太い文字で記載し、その下に理由又は説明を記載している。“機能しない”、“保温状態がよくない”については原告取扱説明書5頁に、“本体を浴槽から出したとき、音がする”、“お風呂がわかない”、“本体が浴槽外にあるときこげ臭いにおいがする”については原告取扱説明書6頁に、それぞれ記載されている。
f 原告取扱説明書D「お手入れのしかた」は、「本体表面」と「本体内部」に分け、それぞれ手入れ方法を説明する文章を配している。
 そして、その下側に、約束事項を示す絵表示を先頭に、「お手入れは電源を切り、本体がさめてから」という説明文と、その下に「故障や、やけどの原因となります」との小さな文字の文章と、その右横に、湯気が出ている製品本体を布で拭こうとしているイラストに「×」印が付されたものが配置されている。
 更に、その下に、禁止事項を示す絵表示を先頭に、「本体を分解しての掃除は禁止」との文章と、その下に、「故障や事故の原因となります」との小さな文字で記載された文章と、更にその下に更に小さな文字で「※当社以外での分解掃除等による故障は、無償修理保証内の枠外となります」との文章と、これらの文章の右側に、原告製品本体をドライバーで分解しているイラストに「×」印が付されたものが配置されている。
g 原告取扱説明書E「各部の名前と付属品」は、原告イラスト3を用いて、原告製品の部分や部品の名称等に関する説明文を配している。
h 原告取扱説明書F「安全上のご注意」は、原告製品についての安全上の注意事項を「警告」と「注意」に分け、長方形の枠の左側に略正方形状の部分を設け、その中に注意事項に対応する絵文字を描き、その横の長方形部分に上段に注意事項を、下段にその理由又は説明を配置している。「警告」は原告取扱説明書9頁ないし11頁に、「注意」は原告取扱説明書12頁に記載されている。
イ(ア) 編集著作物は、「素材の選択又は配列によつて創作性を有するもの」に限り著作物として保護される(著作権法12条1項)。編集著作権において、保護の対象となるのは、素材の選択、配列方法という抽象的なアイデア自体ではなく、素材の選択、配列についての具体的な表現形式である。
 前記ア(イ)に認定した事実によれば、原告取扱説明書は、原告製品を購入した者に対して、その使用方法、特徴点、生じ得る問題とその対処方法、手入れ方法、各部の名称等、安全上の注意事項及び警告事項等を説明するものであるということができるから、原告取扱説明書は、その性質、目的からして、原告製品に関する各種情報という素材を選択し、これを配列している点の創作性が問題となるということができる。これに対し、被告取扱説明書は被告製品に関する各種情報という素材を扱うものであるから、素材となる情報が原告取扱説明書と被告取扱説明書とで異なる商品に関するものである。したがって、既にこの点において、被告取扱説明書が原告取扱説明書の編集著作権を侵害するものということはできないものというべきである。
(イ) また、この点をしばらくおくとしても、原告は、原告取扱説明書中の説明文、イラスト、絵表示を素材ととらえ、どのような説明文(文章内容及び文字の大小・太細、下線の有無など)、イラスト、絵表示を使用しているかを素材の選択と考え、説明文、イラスト、絵表示の相互の位置関係等を素材の配列と考えて主張を展開しているもの解され、これに対し被告は、上記選択や配列はいずれもありふれたものであると主張している。
 そこで、原告の主張する説明文、イラスト、絵表示自体が著作権法12条1項の「素材」ととらえられるとして、その編集著作物性の有無を検討する。原告取扱説明書中の個々の説明文や原告製品のイラストや絵表示自体は、著作物性における創作性を問題とすることはできても、編集著作物性を検討する場合は、個々の説明文、イラスト、絵表示の相互の位置関係の「配列」の創作性を検討する余地が考えられるにとどまる。
 この点について、原告が原告取扱説明書の配列における創作性と主張するところは、原告製品の使用方法、特徴点、生じ得る問題とその対処方法、手入れ方法、各部の名称等、安全上の注意事項及び警告事項等の章立て、使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列していること、生じ得る問題点とその対処方法の説明において、問題点を頁の左に、対処方法を頁の右に配置していること、禁止事項についてはイラストに「×」印を付していること、注意事項と警告事項を分け、各事項の説明においては頁の左側に絵表示を、その右側上段に各事項を、その右側下段に説明文を配置していること、説明文に沿って適宜イラストをその横や下に配置していること、注意事項等の前には絵表示を置いて注意事項等であることの注意喚起を促していること、以上の点と解される。しかしながら、これらの点は、製品の取扱説明書における、章立て、文章、イラスト、絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ない。
 したがって、仮に本件において素材の配列の創作性を検討する余地が考えられるとしても、原告の主張する点において創作性を肯定することはできない。
(ウ) 以上のとおり、原告取扱説明書には編集著作物性を認めることはできないから、争点(3)イ(イ)について判断するまでもなく、原告取扱説明書の編集著作権侵害を理由とする請求は理由がない。
(3) よって、原告の著作権法に基づく請求もいずれも理由がない。
4 以上の次第であって、原告の各請求は、争点(4)(損害額)について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 中平健
 裁判官 大濱寿美


別紙 被告商品目録
 商品名 風呂ポット
 品番 TSE−22−T
 定格電圧 100V
 定格Hz 50Hz−60Hz
 定格出力 300W
 表面プラスティック材質 ABS樹脂
 コード長さ 本体→中間スイッチ(3m) 中間スイッチ→漏電スイッチ(1.5m)・アース(1.5m)

別紙 取扱説明書
 商品名「風呂ポット」に添付されている「風呂ポットTSE−22−T」取扱説明書

別紙 原告商品目録
 商品名 風呂バンス
 品番 P99F07G
 定格電圧 100V
 定格Hz 50Hz−60Hz
 定格出力 280W
 コード長さ 本体→中間スイッチ(2m)中間スイッチ→漏電スイッチ(2.5m)
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/