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【事件名】商号“読売”の不正競争事件
【年月日】平成16年11月29日
 東京地裁 平成16年(ワ)第13859号 商号使用差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年11月1日)

判決
原告 株式会社読売新聞東京本社
原告 株式会社読売新聞大阪本社
原告ら訴訟代理人弁護士 田中克幸
同 村上泰
同 猪狩俊郎
同 鈴木仁史
同 塩谷崇之
同 浅野貴志
同 井上俊一
同 神田将
同 土橋博孝
同 山縣秀樹
同 松田大介
同 福田修三
同 常澤隆史
同 藤本清
同 飯田和宏
同 尾崎一浩
同 松本光右
被告 読売企画販売株式会社


主文
1 被告は、その営業上の活動に、「読売企画販売」、「讀賣企画販売」、「よみうり企画販売」、その他「読売」、「讀賣」又は「よみうり」の文字を含む表示を使用してはならない。
2 被告は、看板、店舗・事務所表示、広告その他の営業に使用する一切の施設又は物品に、「読売企画販売」、「讀賣企画販売」、「よみうり企画販売」、その他「読売」、「讀賣」又は「よみうり」の文字を含む表示を使用してはならない。
3 被告は、大阪法務局昭和54年5月30日受付をもってした被告の設立登記中、「読売企画販売株式会社」との商号の抹消登記手続をせよ。
4 被告は、その本店に所在する看板、店舗・事務所表示その他の営業物件から「読売企画販売」の表示を抹消せよ。
5 訴訟費用は、被告の負担とする。
6 この判決の第1項、第2項及び第4項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文と同旨
第2 事案の概要
 原告らは、被告による商号及び「読売企画販売」との表示の使用が不正競争防止法2条1項1号及び2号並びに商法21条1項1号に該当するとして、被告に対し、「読売企画販売」又は「読売」等の文字を含む表示の使用差止等を求めた。
1 争いのない事実
(1) 当事者
 原告株式会社読売新聞東京本社(以下「原告読売東京」という。)は、平成14年7月1日、株式会社讀賣新聞社(以下「読売新聞社」という。)及び株式会社よみうりから会社分割により設立された株式会社であり、日刊新聞、雑誌、図書の発行及び販売に係る業務を目的とし、「讀賣新聞」、その他「読売」、「Yomiuri」の名称を付した雑誌、書籍を発行・販売している。
 原告読売東京の前身である読売新聞社は、明治7年11月2日に読売新聞を創刊した合名会社日就社が、大正6年12月1日に合名会社読売新聞社と商号変更し、昭和25年6月1日に株式会社讀賣新聞社に組織変更したものであり、明治7年の創刊以来、読売新聞を発行・販売しており、原告読売東京は、その発行・販売業務を承継している。
 原告株式会社読売新聞大阪本社(以下「原告読売大阪」という。)は、日刊新聞、雑誌、図書の発行及び販売に係る業務を目的とする株式会社であり、「讀賣新聞」、その他「読売」、「Yomiuri」の名称を付した雑誌、書籍を発行・販売している。
 被告は、読売新聞社の発行する新聞及び刊行物の販売促進事業、環境整備に関する調査、研究、設計、施工、監理、事務所・店舗・住宅のリフォーム業、新聞販売送達業、折込広告、折込情報新聞の企画及び印刷、配布、不動産の売買、賃貸及びその仲介を目的とする株式会社であり、大阪市住吉区に本店を、東京都新宿区及び大阪府和泉市に支店を設置している。
(2) 営業表示「読売」、「讀賣」及び「よみうり」の周知性及び著名性
 原告らは、「讀賣新聞」を発行しているが、「讀賣新聞」は、一般に「讀賣」、「読売」又は「よみうり」と略称され、発行元である原告らも「讀賣」、「読売」又は「よみうり」と略称されている。「讀賣新聞」は、わが国最大の発行部数を有する代表的な日刊新聞として、需要者の間に広く認識され、全国的に著名である。また、原告らの商号及び略称についても、「讀賣新聞」の発行主体を示すものとして需要者の間に広く認識され、全国的に著名である。
(3) 被告の行為
ア 被告は、従前、訴外Aが代表取締役を務め、取締役もその親族が占めていた。
イ 平成15年9月5日、訴外Bは、訴外C、訴外Dとともに、原告読売大阪を訪れ、訴外Bが訴外Aから被告を譲り受けたこと、訴外Bが被告の代表取締役、訴外Cが被告の取締役、訴外Dが被告の庶務管理部長となり、被告が読売企画販売の名称で今後も営業を続けていく旨告げた。被告の役員登記は、平成15年8月27日、訴外A関係の役員が一掃され、訴外Bが代表取締役、訴外Cが取締役に就任する等の登記がされた。
ウ 平成15年9月19日、訴外Bらは、原告読売大阪を訪れ、今後は不動産売買や政治的な活動をやるかもしれない、支店も増やしていくと告げ、被告は、平成15年10月28日、同月23日付けで、東京都新宿区及び大阪府和泉市にそれぞれ支店を設置する旨登記をし、また、登記簿上の「目的」に、「読売新聞社の発行する新聞および刊行物の販売促進事業、環境整備に関する調査、研究、設計、施工、監理、事務所・店舗・住宅のリフォーム業」を追加した。
エ 被告は、その本店に「読売企画販売」との表示をしている。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
 被告がその商号又は「読売企画販売」の表示を使用する行為が、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為等に該当するか。
(原告らの主張)
(1) 原告らは、多数の関連会社を有し、新聞、出版、広告、放送、スポーツ・文化事業、レジャー、教育など多角的事業を行っており、一般不動産の賃貸及び売買並びに斡旋等を目的とする読売不動産株式会社も原告らの関連会社である。
 被告の前記1(3)の行為は、原告らの周知な営業表示と同一若しくは類似の表示を自己の営業表示として使用し、原告らと被告との間に経済的、組織的に何らかの関連があると誤信させ、又はそのおそれを生じさせるものであり、原告らの営業と混同を生じさせる行為であるから、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
(2) 被告の前記1(3)の行為は、原告らの著名な営業表示と同一若しくは類似の表示を自己の営業表示として使用するものであり、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
(3) 被告の前記1(3)の行為自体から、被告には不正の目的があることは明らかであり、被告の商号は原告らの営業と誤認せしむべき商号に当たるから、商法21条1項に該当する。
(被告の反論)
(1) 普通名称ないし慣用表示
ア 「読売」という語は、そもそも新聞一般を指していた普通名詞ないし慣用表示を普通に用いられる方法で使用し、表示するものである。例えば、広辞苑では「よみうり(読売)」は「江戸時代、社会の重要事件を瓦版1枚摺りとし、街上を読みながら売り歩いたもの。また、その人。今日の新聞の役目を果たしたが、のちには歌謡風に綴り、節をつけて読み歩くようになった。」とされている。
 このように、「読売」の語は、原告らグループ会社独自のものではなく、一般的な語、歴史用語にすぎない。
(2) 被告の商号使用の承認
 被告は、原告読売大阪との間で、被告が「よみうり情報」という情報誌を発行する件に関して覚書(乙5)を交わした。また、原告読売大阪は、上記情報誌の発行に関し、被告に対して題字使用に関する注意を促す書面(乙3)を送付した。
 原告読売大阪は、上記覚書及び書面において、題字使用の点について言及したが、被告の商号使用については何ら言及しなかった。これは、原告読売大阪が被告の商号使用について承認したことを示すものである。
 また、被告は、被告が発行主体であることを明らかにした上で、大阪市住吉区内において、情報誌「よみうり情報」を発行・配布した。すなわち、原告読売大阪が被告の商号使用を承認した後において、被告の商号は同区内において周知となり、保護されるべき商号となっている。
第3 当裁判所の判断
1 不正競争行為の有無及び承諾の有無等について
(1) 事実認定
 前記争いのない事実に証拠(甲3ないし5、乙3ないし5)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア 原告らは、いずれも日刊新聞、雑誌、図書の発行及び販売に係る業務を目的とし、「讀賣新聞」、その他「読売」、「Yomiuri」の名称を付した雑誌、書籍を発行・販売している。原告らの発行する「讀賣新聞」は、国内で最大の発行部数を有する代表的な日刊新聞であり、その名称は、略称である「讀賣」、「読売」又は「よみうり」とともに国内で広く認識され、著名である。
イ 「読売グループ」は、株式会社読売新聞グループ本社を持ち株会社として、その傘下に、原告読売東京、原告読売大阪その他3社を擁する企業グループであり、原告らは、同グループ中の代表的な会社である。「読売グループ」は、長年にわたり、「讀賣新聞」の発行を始めとする新聞・出版、放送、スポーツ・文化、レジャー、教育等の各分野において幅広い事業活動を展開している。「読売グループ」を構成する会社の名称に使用されている「読売」、「讀賣」又は「よみうり」の表示部分は、「読売グループ」又は同グループを構成する会社が発行する新聞等の商品又は役務の出所を示す表示として、全国的に広く知られ、著名となっている。
ウ 他方、被告は、昭和54年5月30日に新聞販売送達業等を目的として設立され、原告読売大阪が発行する「讀賣新聞」の販売を行っていた。被告と原告読売大阪(当時大阪読売新聞社)とは、昭和56年2月25日、被告が「よみうり情報」との誌名の情報誌を発刊することについて、原告読売大阪が被告に対し、特定の地域(大阪市住吉区(以下省略))に限定して「よみうり情報」との題字を使用して情報誌を発行することを認める旨の覚書を交わした。しかし、原告読売大阪は、被告に対し、昭和59年4月18日付け書簡により、被告が「読売情報−堺」と題する情報誌を発刊したことに関して、「よみうり情報」の題字のみを特定の地域に限定して許諾した覚書に違反すること、「読売育英塾添削道場」、「読売寿会」、「読売良縁情報センター寿会」などの表記を無断で使用したこと等を理由として、是正するよう求めた。
(2) 判断
ア 不正競争防止法2条1項1号について
(ア) 前記認定事実によれば、「読売」、「讀賣」又は「よみうり」との表示は、「読売グループ」が長年にわたり幅広い分野において継続して事業活動に使用してきたことにより、「読売グループ」又は同グループを構成する会社の商品又は役務の出所を示す表示として、顕著な識別力を獲得しているものと認められるから、原告らの周知著名な営業表示である。
 これに対し、被告は、「読売」の語は、原告らグループ会社独自のものではなく、一般的な語、歴史用語にすぎない旨主張する。しかし、前記のとおり、「読売」との表示は、「読売グループ」又は関連企業の行う営業表示として顕著な識別力を獲得している以上、被告の主張は採用する余地はない。
(イ) そして、被告の商号「読売企画販売株式会社」において、「株式会社」の部分は会社の種類を示し、「企画販売」の部分は業種又は業態を示すものと理解されるから、被告の商号の自他識別機能を有する部分は「読売」である。
 したがって、被告の商号は、原告らの周知著名な営業表示と類似する。また、原告らの属する「読売グループ」は幅広い分野で事業活動を展開していることから、被告がその商号を使用して会社の目的である事業活動を行えば、その需要者に対し、被告が「読売グループ」ないし原告らと経済的、資本的若しくは組織的に関連を有するとの誤認混同を生じさせるものと認められる。
(ウ) 以上のとおりであるから、被告の商号使用行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
 また、以上に判示したところと同様の理由により、被告の「読売企画販売」との表示の使用行為も不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
イ 原告らの許諾の有無について
 被告は、原告読売大阪が被告の商号使用について承認した旨主張する。
 前記(1)ウで認定した経緯に照らすならば、原告読売大阪は、被告が「読売企画販売株式会社」との商号を使用することについて、その使用を知りながら、異議を述べなかったことが窺われる。
 しかし、被告の「よみうり情報」の誌名の使用については、同原告と被告との間で、書面を作成し、使用条件を厳格に取り決めていることと対比すると、被告の商号の使用については、被告の業態のいかんにかかわらず、無条件で継続的に許諾する旨の合意が、同原告と被告間で、されたと解することは到底できず、せいぜい、被告の業務態様に変化がない限り、同原告は被告の商号の使用を黙認する趣旨の合意がされたにすぎないと解するのが相当である。
 しかるに、被告は、同原告に対して、新たな経営者の下で、新規の事業を展開する旨を告げているのであるから、そのような状況の変化を前提として、原告らが、被告に対し、不正競争防止法に基づいて商号の使用差止等を請求することは、何ら信義則違反ないし権利濫用に当たることはない。
 したがって、被告の前記主張は採用できない。
2 結語
 以上の次第で、原告らの請求は理由がある。よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 一場康宏
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