判例全文 | ||
【事件名】セキュリティプログラムの複製事件 【年月日】平成16年11月29日 東京地裁 平成15年(ワ)第14683号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成16年8月26日) 判決 原告 A 訴訟代理人弁護士 岡林俊夫 被告 B 被告 C 被告ら訴訟代理人弁護士 野間自子 同 江端重信 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告に対し、連帯して金2000万円及びこれに対する平成13年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 原告は、被告らが無断で原告の有する著作物の複製物を作成し、これを第三者に提供したこと、原告のMTテープを窃取したこと及び特許権を騙取しようと企てたことにより損害を被ったとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。 2 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠を末尾に記載する。) (1) 当事者 原告は、平成8年6月3日、コンピュータ及びネットワーク上のセキュリティ技術を商品化することなどを業とする町田技研株式会社(以下「町田技研」という。)を設立し、同社の代表取締役を務め、かつ、技術部門の業務を担当していた。 被告Bは、平成9年5月30日以降、町田技研の代表取締役を務め、かつ、営業部門の業務を担当していた(甲23、24、乙1)。 被告Cは、町田技研の従業員として技術部門の業務を担当していた。 (2) 本件各プログラム 以下の@ないしDの各プログラム(以下、順次「本件プログラム@」、「本件プログラムA」などといい、併せて「本件各プログラム」という。)は、コンピュータ及びネットワーク上の暗号化セキュリティソフトウェアに関するソースプログラムである。 @ Justice-1 SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:MACHIDA.H A Justice-1 SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:JST_KAC.H B KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:INTFC8.H C KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:AUTOSUB.C D KAGI_TARO for FILE SECURITY PROGRAM PROGRAM ID:SEQRTY.CPP 平成13年4月から同年7月ころの間、町田技研の渋谷営業所には、パソコン(DELL社製 PowerEdge2400 S/N:XRSWZ 86502 以下「パソコン<86502>」という。)が設置されており、本件各プログラムは、パソコン<86502>内に保存されていた。 第3 争点(不法行為の成否及び損害額)に関する当事者の主張 (原告の主張) 原告の要件事実に関する主張は、かならずしも明らかでないが、おおむね、以下のとおり、整理できる。 1 本件プログラムについての原告の著作権等の取得 原告は、平成4年1月1日に本件プログラム@を、平成5年1月7日に本件プログラムAを、平成6年12月1日に本件プログラムBを、平成11年4月12日に本件プログラムCを、平成11年11月3日に本件プログラムDを作成し、本件各プログラムの著作権を取得した(なお、同プログラムAについては平成7年3月10日に、同プログラムBについては平成9年5月25日に、それぞれ、アップデートされている。)。 2 被告らの不法行為 (1) 著作権及び著作者人格権侵害 ア 複製権侵害 (ア) 原告は、平成13年7月5日ころ、被告Cに、MTテープ1本にパソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取るよう指示した。ところが、被告Cは、被告Bと共謀して、更にもう1本のMTテープにパソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取り、そのMTテープを自ら保管し続けている(以下「本件MTテープ」という。)。被告らのバックアップ行為は、本件各プログラムについて原告の有する複製権の侵害に当たる。 (イ) 被告らは、共謀の上、平成13年7月5日から同月31日までの間に、被告らが本件MTテープにバックアップを取った本件各プログラム等を、原告らによってデータ等の消去されたパソコン<86502>にインストールした。被告らのインストール行為は、本件各プログラムについて原告の有する複製権の侵害に当たる。 (ウ) 被告らは、共謀の上、平成13年7月31日から同年11月23日までの間に、町田技研渋谷営業所において、パソコン<86502>の代わりにサーバーとして設置していたパソコン(DELL社製 PowerEdge2400S/N:XRSWZ 85882 以下「パソコン<85882>」という。)に本件MTテープにバックアップを取った本件各プログラム等をインストールした。被告らのインストール行為は、本件各プログラムについて原告の有する複製権の侵害に当たる。 イ 著作者人格権侵害 (ア) 公表権侵害 a 被告らは、原告の承諾を得ずに、本件プログラム@及びDを複製したパソコン<86502>を株式会社シールズ(以下「シールズ」という。)に引き渡した。シールズは、本件各プログラムにわずかな変形を加えて「skdk.dll」というプログラムを作成し、「Safety Key 21 Personal for Windows」というソフトウェア製品の製造・販売を始めた。 被告らが、シールズと共謀して、上記ソフトウェア製品を製造・販売した行為は、本件プログラム@及びDについて原告が有する公表権の侵害に当たる。 b 被告Bは、原告の承諾を得ずに、技研商事インターナショナル株式会社(以下「技研商事」という。)に対し、本件MTテープを引き渡すことによって本件プログラムCを提供し、その見返りとして同社の顧問となった。技研商事は、同被告と共謀の上、原告の承諾を得ずに、本件プログラムCに若干の変形を加え、「aaaabc.txt.exe」というプログラムを作成し、「秘文」というソフトウェア製品の製造・販売を始めた。 同被告が、技研商事と共謀して、上記ソフトウェア製品を製造・販売した行為は、本件プログラムCについて原告の有する公表権の侵害に当たる。 (イ) 氏名表示権侵害 被告らは、シールズと共謀の上、「Safety Key 21 Personal for Windows」というソフトウェア製品を販売した際、著作権者である原告の氏名を表示しなかった。被告らの上記行為は、原告の有する氏名表示権の侵害に当たる。 また、被告Bは、技研商事と共謀の上、「秘文」を販売した際、著作権者である原告の氏名を表示しなかった。同被告の上記行為は、原告の氏名表示権の侵害に当たる。 (ウ) 同一性保持権侵害 前記(ア)aのとおり、被告らは、シールズと共謀の上、原告の承諾を得ずに、本件プログラム@及びDに改変を加えた。被告らの行為は、原告の有する同一性保持権の侵害に当たる。 また、前記(ア)bのとおり、被告Bは、技研商事と共謀の上、原告の承諾を得ずに、本件プログラムCに改変を加えた。同被告の行為は、原告の有する同一性保持権の侵害に当たる。 (2) MTテープの窃取 原告は、自ら費用を出して、被告Cに対して、MTテープ(FUJIFILM社 DDS Data Cartridge DG4-150 1本5000円)を14本購入させ、パソコン<86502>内の各種データ及び本件各プログラムを含むソースプログラム等(以下「本件各プログラム等」という。)のバックアップを取るように指示した。原告は、バックアップを取ったMTテープ9本については、同被告から受け取って保管している。しかし、被告Cは、残りの5本のMTテープについては、被告Bと共謀して保管している。被告らの行為は、MTテープ5本の窃取に当たる。 (3) 特許権騙取の企て 原告は、「セキュリティ構築方法」(特願平7−044515)及び「電子認証方式」(特願平11−324712)の2件の特許を出願した。被告Bは、平成13年8月ころ、特許権を騙取しようと企て、原告名義の譲渡証書を偽造して弁理士Dに提出し、上記特許出願の出願名義人を町田技研に変更しようとした。 また、被告Bは、この企てが原告に知られることをおそれ、弁理士からの町田技研あての郵便物が株式会社テイクファイブ(以下「テイクファイブ」という。)に転送されるように、虚偽の転送届を渋谷郵便局に提出した。 3 原告の損害 (1) 本件プログラム@及びDの複製権侵害による損害額 シールズは、被告らから、本件プログラム等をインストールしたパソコン<86502>の引渡しを受けることにより、本件プログラム@及びDの提供を受け、被告らと共謀の上、ソフトウェア「Safety Key 21 Personal for Windows」を製造・販売し、多額の利益を得た。その金額は、1億円を下らない。 したがって、同金額は、本件プログラム@及びDの複製権侵害によって原告が被った損害であると推定される。 (2) 本件プログラムCの複製権侵害による損害額 ア 被告Bは、技研商事に対し、本件MTテープを引き渡すことによって本件プログラムCを提供し、その見返りとして同社の顧問となった。被告Bが平成13年10月以降、技研商事から受け取る顧問料は、年間1200万円を下らない。 したがって、平成13年10月以降、被告Bが技研商事から受け取っている年間1200万円を下らない顧問料が、本件プログラムCの複製権侵害によって被告Bが得た利益である。よって、同金額が本件プログラムCの複製権侵害により原告が被った損害と推定される。 イ また、被告Cは、本件プログラムCを本件MTテープに複製し、これを被告Bに渡したことの見返りとして、同被告から就職口を斡旋され、平成13年8月、株式会社ジンテック(以下「ジンテック」という。)に就職した。被告Cがジンテックから受け取る賃金は、年間700万円を下らない。 したがって、被告Cが平成13年8月以降、ジンテックから受け取っている年間700万円を下らない賃金が、本件プログラムCの複製権侵害行為によって得た利益である。よって、この金額は、原告の被った損害であると推定される。 ウ さらに、技研商事は、被告Bから本件プログラムCの複製された本件MTテープの提供を受け、被告らと共謀の上、「秘文」等のソフトウェアを製造・販売し、多額の利益を得た。その金額は1億円を下らない。 したがって、この金額は、原告の被った損害であると推定される。 (3) MTテープの窃取による損害額 前記のとおり、被告Cは、原告のMTテープ5本を窃取した。これにより、原告は、合計2万5000円の損害を被った。 (4) 特許権騙取による損害額 被告Bの前記2(3)の行為により、特許庁からの書類が原告の下に送達されず、原告は「セキュリティ構築方法」の特許権を取得することができなかった。この特許権の評価は、少なくとも1億円を下らない。また、この特許出願のために、200万円の費用がかかった。さらに、被告Bの上記行為により、原告は、「電子認証方式」の特許権を取得するのに1年程度の遅れを生じ、これにより、原告には、追加の弁理士費用及び精神的な慰謝料として、100万円の損害が生じた。被告Bの不法行為により、原告は、合計1億300万円の損害を被った。 (被告らの認否・反論) 1 本件各プログラムについての原告著作権等の取得 本件各プログラムの著作権者が原告であることは否認する。本件各プログラムは、被告C、原告及び訴外Eが、町田技研の技術担当者として、その職務上作成した著作物である。したがって、町田技研が、本件各プログラムの著作権を取得した。 2 不法行為の不存在 (1) 本件各プログラムのバックアップについて 被告Cが、パソコン<86502>内の本件各プログラム等について、MTテープにバックアップを取ったことは認める。パソコン内のデータやプログラム等は、突如失われる危険性があることから、バックアップは、そのような事態に備えて業務上不可欠な行為として、通常行われ、また行われるべきものであり、被告Cも業務遂行上の当然の義務としてバックアップを取ったにすぎない。 被告Cが本件各プログラム等のバックアップを取ったMTテープは、町田技研の所有するものであり、被告Cは、バックアップを取った後、そのMTテープを町田技研に返却した。 被告らが本件プログラム@及びDをシールズに提供した事実はない。また、被告Bが本件プログラムCを技研商事に提供した事実はない。 原告の有する複製権侵害、公表権侵害、氏名表示権侵害、同一性保持権侵害に関する主張はすべて争う。 シールズが製造・販売する「Safety Key 21 Personal for Windows」は、本件各プログラムを使用した「鍵太郎」とは全く異なるソフトウェア製品であり、本件プログラム@及びDを改変したものではない。また、技研商事が製造・販売する「秘文」は、技研商事が独自に開発したものであり、本件プログラムCを改変したものではない。 (2) MTテープの窃取について 被告Cが原告のMTテープ5本を窃取したことは否認する。 (3) 特許権騙取の企てについて 争う。 3 原告の損害 争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各プログラムの著作権の帰属及び各不法行為の成否 (1) 原告は、本件各プログラムの著作権を原告が取得したこと、被告らが共謀してパソコン<86502>内の本件各プログラム等をMTテープに複製し、このMTテープから本件各プログラム等を再びパソコン<86502>に複製し、さらに、このMTテープから本件各プログラム等をパソコン<85882>に複製した行為が、本件各プログラムについて原告が有する複製権を侵害することを主張する。この点について、判断する。 (2) 事実認定 前記争いのない事実、証拠(乙5ないし8、12、20。なお、枝番号の記載は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、町田技研は、コンピュータ及びネットワーク上の暗号化セキュリティソフトウェア製品である「鍵太郎」シリーズを製作し、販売することを主な業務とする会社であること、本件各プログラムは、「鍵太郎」シリーズのソースプログラムの一部であること、町田技研における技術担当者は、原告、被告C及び訴外Eの3名であり、これら3名の者が「鍵太郎」シリーズの開発に従事していたこと、平成13年4月から同年7月ころ、町田技研渋谷営業所にはパソコン<86502>が設置されており、同パソコン内に本件各プログラム等が保存されていたこと、被告Cは、同年7月5日ころ、MTテープにパソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを取ったこと、以上の事実が認められる。 (3) 判断 上記(2)の事実を基礎に判断する。 ア まず、原告は本件各プログラムの著作権を有する旨主張するが、本件各プログラムは、原告、被告C及びEが、町田技研の技術担当者として、その職務上作成した著作物である可能性を否定できないから、原告が本件各プログラムについて著作権を取得したとは認められない。したがって、被告らの複製行為が適法にされたか否かにかかわらず、原告の主張は失当である。 イ 次に、被告Cは、平成13年7月5日ころ、パソコン<86502>内の本件各プログラムをMTテープに複製したことが認められる。 しかし、被告Cは町田技研の技術担当者であり、自らが開発担当をしていた「鍵太郎」シリーズのソースプログラムの一部である本件各プログラムのバックアップを取るために上記MTテープへの複製行為を行ったものであること、パソコン内に保存された重要なデータやプログラム等について、不慮の事故に備えるため、バックアップを取ることは広く一般に行われていることであり、町田技研のようなソフトウェア製品の開発会社であれば、重要なデータやプログラム等のバックアップを取ることは当然に行われるべき業務行為であるといえること、原告は、原告が被告Cに対し、パソコン<86502>内の本件各プログラム等のバックアップを依頼した旨主張していること等の事実に照らすならば、被告Cが本件各プログラムをMTテープに複製した行為は、同被告の町田技研における担当業務の一環として行われた適法な行為であると認められるから、不法行為を構成しない。また、被告Cが上記MTテープへの複製行為を行った他に、被告らが本件各プログラムの複製行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。 (4) 原告の主張に対する付加判断 ア 上記(3)イの判断に関して、原告は、以下のとおり主張する。すなわち、 @ 技研商事の製造・販売する「秘文」の中のプログラム「aaaabc.txt.exe」の一部(甲25)と本件プログラムCの中の「kagidec.skg2.exe」の一部(甲26)とが全く同一であることから、被告らが本件プログラムCのバックアップを作成して技研商事に提供したことが推認される。 A シールズの製造・販売する「Safety Key 21 Personal for Windows」の中のプログラム「skdk.dll」の一部と本件プログラム@又はDの中の「newlib2.dll」の一部とが全く同一である(甲31の1ないし24)ことから、被告らが本件プログラム@及びDをインストールしたパソコン<86502>をシールズに提供したことが推認される。 イ しかし、原告の上記各主張は、以下のとおり失当である。 (ア) まず、原告は、本件プログラムCとして甲39を提出するところ、原告の主張によっても本件プログラムCとこれに含まれるとする上記「kagidec.skg2.exe」との関係が明らかでなく、上記「kagidec.skg2.exe」が本件プログラムCの中にあるのかどうか不明というほかない。また、「秘文」は暗号技術を用いた日立ソフト社のものであり(甲19)、原告ないし技研商事が開発したものではなく、同社は「秘文」を販売しているだけであるから、「aaaabc.txt.exe」と「kagidec.skg2.exe」とで一致する部分があるとしても、それが、被告らが本件プログラムCを技研商事に提供したことによるものとは考えられない。 以上によれば、原告の上記@の主張は採用できない。 (イ) また、甲6及び弁論の全趣旨によれば、シールズが平成13年7月31日ころ、町田技研渋谷営業所から約6台のパソコンを借り出したことが認められるが、この中にパソコン<86502>が含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。 また、原告は、本件プログラム@及びDとして、甲36及び甲40を提出するが、原告の主張によっても、本件プログラム@又はDとこれに含まれるとする上記「newlib2.dll」との関係が明らかでなく、上記「newlib2.dll」が本件プログラム@又はDの中にあるのかどうかも不明というほかない。さらに、原告が甲31の一部すると主張する部分も、プログラムの著作物といえる部分かどうかも不明である。 以上によれば、原告の上記Aの主張も採用できない。 (5) 以上のとおりであるから、原告が本件各プログラムの著作権を有するとは認められず、また、被告らの行為が、本件各プログラムを違法に複製したことを理由とする不法行為を構成するとは認められない。したがって、原告の複製権侵害を理由とする損害賠償請求は失当である。 また、原告は、被告らが本件各プログラムについての公表権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したとも主張する。しかし、原告の請求は、被告らの本件各プログラムのバックアップ行為等が違法であることを前提とするものであるから、上記判断したとおり、原告の公表権、氏名表示権及び同一性保持権の侵害を理由とする損害賠償請求は失当である。 2 その他の不法行為の有無について (1) MTテープの窃取について 原告は、被告Cが原告のMTテープ5本を窃取した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、被告CがMTテープを窃取したことを理由とする原告の損害賠償請求は理由がない。 (2) 特許権の騙取について 原告は、被告Bが原告の特許出願に係る特許権を騙取しようと企て、これにより原告は損害を被ったと主張する。 ア 事実認定 証拠(甲20ないし22、46ないし49、52、54ないし57)及び弁論の全趣旨によれば、被告Bは、町田技研の代表取締役社長として、平成13年8月8日、出願番号平11−324712に係る特許出願について、同日付の原告から町田技研に対する出願人名義変更届及び原告名義の譲渡証書を弁理士Dあてに送付し、出願人の名義変更を依頼したこと、町田技研は、同年8月ころより事業の継続が困難となり、事業活動を停止していたこと、そのため、被告Bは、同年10月から技研商事及びテイクファイブの顧問などの業務を行うようになったこと、被告Bは、渋谷郵便局に対し、平成13年12月10日、町田技研宛の郵便物を港区(以下省略)のテイクファイブに転送する旨の転送届を提出したこと、特許庁審査官は、特願平7−044515に係る特許出願について拒絶査定をし、これに対して原告は審判請求をしたが、特許庁審判官は、審判請求が成り立たない旨の審決をし、これが確定したこと、以上の事実が認められる。 イ 判断 上記のとおり、被告Bは、特願平11−324712に係る特許出願について、出願人名義変更届等を弁理士に送付して出願名義人の変更を依頼したことが認められるが、これにより原告に何らかの損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。 また、被告Bは、渋谷郵便局に対し、町田技研あての郵便物をテイクファイブに転送する旨の転送届を提出したが、町田技研は、平成13年8月ころより事業活動を停止しており、同被告は町田技研の代表取締役社長ではあったが、同年10月よりテイクファイブの顧問等の業務をしていたのであるから、町田技研あての郵便物を顧問先であるテイクファイブに転送するようにしたとしても、これが不法行為を構成するとは認められない。さらに、上記のとおり、特願平7−044515に係る特許出願は拒絶査定され、これが確定したことにより、原告は同特許出願について特許権を取得できなかったのであるから、被告Bが郵便物の転送届を提出したことと上記特許出願について原告が特許権を取得することができなかったことの間には何らの因果関係も存在しないというべきである。 以上のとおりであるから、被告Bが特許権を騙取しようとしたことを理由とする原告の損害賠償請求は、理由がない。 3 結語 以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 山田真紀は、差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 飯村敏明 |
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