判例全文 line
line
【事件名】市長選違反事件報道の名誉毀損事件(2)
【年月日】平成16年11月26日
 名古屋高裁 平成15年(ネ)第956号 謝罪広告等請求控訴事件
 (原審・岐阜地裁平成13年(ワ)第342号)

判決


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金100万円及びこれに対する平成13年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、a県内で発行される朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・a新聞の朝刊に、原判決別紙記載の謝罪広告を原判決別紙記載の条件で1回掲載せよ。
第2 事実関係
 事実関係は、原判決2頁20行目から3頁2行目までを次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」欄の第2記載のとおりであるから、これを引用する。
 「(3) a市では平成13年1月28日に市長選挙が行われたが、この市長選挙で、控訴人は新人のA候補を支援したのに対し、a市議会において民主党所属の4名を含む6名の市会議員で結成しているa市議会民主ネットクラブ(以下「民主ネットクラブ」という。)と民主党a県総支部連合会(以下「県連」という。)の関係団体である連合a及び自治労本部は現職で3選を目指していたB候補を推薦したため、県連は分裂状態となり、同市長選ではどの候補者も推薦せず、選挙運動は党員の自主判断に委ねられた。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決17頁11行目から22行目までを次のとおり改める。
 「する。
 しかしながら、本件記事の文面上、同記事は、ある市議が控訴人はB市長への個人的恨みから総支部を動かしている旨の発言をしたということ自体を報じたものであって、その発言内容を事実と摘示して報じたものではないといわざるを得ない。
 もっとも、控訴人が主張するように、記事等の中には、文面はある人の発言の形をとっているが、実質的にはその記事等の作成者が当該ある人の発言部分の内容を事実として摘示しているものと評価される場合もなくはないと考えられる。
 そこで、本件記事は、被控訴人がある市議の発言の形をとって、その発言部分の内容を事実として摘示したものと評価されるものであるかどうかという観点から、前掲各証拠によって検討してみると、以下の諸点を指摘することができる。」
(2) 同19頁2行目ないし4行目の「この程度の記述によっては、読者は必ずしも政治家としての原告に対する信頼感を低下させることになるか疑問というべきである。」を「本件記事の文面から、通常、読者がただちに市議の発言部分の内容は真実であると読み取るものとは容易に考え難い。」と改める。
(3) 同19頁12、13行目の「、その許容限度を」を削除し、14行目の「これが許容限度を超えるものとは解されない。」を「上記同様、通常、読者がただちに市議の発言部分の内容は真実であると読み取るものとは考え難い。」と改める。
(4) 同19頁15行目の冒頭「(4)」を「(3)」と改め、以後17行目までを次のとおり改める。
 「前項に指摘した諸点に照らして勘案してみると、本件記事について、これを被控訴人がある市議の発言の形をとって、その発言部分の内容を事実として摘示したものと評価することはできない。
 なお、控訴人は、市議の発言部分は第1区総支部と民主ネットクラブの対立と分裂の真の原因は何かという本件記事の報道目的の核心に触れた唯一のもので、その内容も政治家である控訴人の社会的評価に影響を与える具体性を持つものであるとし、本件記事は市議の発言という体裁をとりながら発言部分の内容を事実として摘示したものである旨指摘するが、前記(補正後の原判決「事実及び理由」欄の第3の1(2)ア、イ)のとおり、本件記事は、B市長の責任をめぐって民主党の第1区総支部と民主ネットクラブが分裂状態にあることを報道の趣旨、目的とするものであり、また市議の発言部分は、控訴人のB市長に対する個人的恨み等の具体的内容について一切言及していないものであり、本件記事全体の中で見るとき、市議の発言部分は主要なテーマとして取り扱われたものとは解されないのであって、この発言部分を総支部と民主ネットクラブの対立と分裂の真の原因は何かという報道目的の核心に触れた記事と捉えることには無理があるというべきであるから、控訴人の上記指摘は採用できない。
 また、甲第45号証の1ないし107、同第46号証の1ないし52、同第47号証の1ないし63は、控訴人側で実施した一部の市民に対するアンケート調査結果にすぎず、これをもって上記判断が左右されるものではない。」
(5) 同19頁17行目と18行目の間の冒頭に「(4)」を加えた上、次のとおり付加する。
 「 以上によれば、本件記事をもって市議の発言部分の内容を事実として摘示した記事ということはできないので、それを前提として控訴人の社会的評価の低下に関し被控訴人につき名誉毀損の責任を問題にすることはできないが、同記事は、ある市議が控訴人はB市長への個人的恨みから総支部を動かしている旨の発言をしたということ自体を報じたものと認められるところ、市議のこの発言部分が控訴人を批判、非難する内容のものであることは否定できないから、被控訴人がこのような市議の発言部分を記事として掲載したこと自体、控訴人がある市議から上記のような批判、非難を受けているということを報じたものといわざるを得ず、その限度において同記事は控訴人の社会的評価を低下させ、名誉を毀損するものというべきである。」
(6) 同19頁19行目から同21頁17行目までを次のとおり改める。
 「 そこでさらに、被控訴人が本件記事中に市議の発言部分を掲載したこと自体に関し、控訴人に対する名誉毀損の違法性阻却事由の有無を検討する。
 本件記事の市議の発言部分は、民主党a県第1区総支部という政党の支部と民主ネットクラブという市議会の会派の対立の一例として、同クラブ所属の市会議員が民主党a県第1区総支部の代表である控訴人に対して批判、非難していることを報じたものであるから、これが公共の利害に関する事実であることは明らかであるところ、市議の発言部分を含む本件記事は、前記(原判決「事実及び理由」欄の第3の1(1)オ、キ及びク)のようにして被控訴人の新聞記者であるC記者が取材し、被控訴人が自社の発行するD新聞に掲載したものであって、通常の新聞報道と考えられるから、被控訴人はこれを専ら公益を図る目的で報道したものと認めるのが相当である。
 なお、控訴人は、C記者は雑談の延長ともいうべき極めて短時間の取材で安易に第1区総支部の動きを控訴人のB市長に対する個人的な恨みによるものと断定し、これを一市会議員の言葉を借りて記事にしており、同市議の発言内容の真実性についての裏付取材も全くしておらず、a地方では著名な政治家である控訴人にとってこの上なく不名誉でその人格を侮辱する表現を行い、控訴人に事前の確認、反論の機会も与えなかったとして、市議の発言部分の報道に公益性はないと指摘するが、本件記事の市議の発言部分がその発言内容を真実と断定して摘示したものと認められないことは前記(補正後の原判決「事実及び理由」欄の第3の1)のとおりであるし、本件記事やその報道過程に特段被控訴人の控訴人に対する害意を窺わせるような事実は見当たらないのであって、控訴人の上記指摘は採用できない。
 次に、摘示された事実の真実証明についてであるが、前記のとおり、市議の発言部分は、民主ネットクラブ所属のある市会議員から控訴人はB市長に対する個人的恨みから総支部を動かしているとの発言があったという事実を指摘するものであり、これが控訴人の社会的評価を低下させ、名誉を毀損するのは、控訴人がある市議から上記のような批判、非難を受けているということを報じているという限度においてであるから、その違法性阻却事由としての真実性の証明も、上記発言の存在についてなされるべきである(なお、この点に関する被控訴人の主たる主張は、原判決10頁7行目から11頁20行目までに記載するとおりであるが、被控訴人は原審の第1回口頭弁論で陳述した平成13年8月6日付け準備書面(1)第2の2や当審の第1回口頭弁論で陳述した平成16年6月18日付け準備書面の5項(2)において、上記発言がなされたことが事実であることも主張している。)ところ、乙第13号証並びに証人C及び同Eの各証言によって、平成13年3月19日、C記者がa市議会の民主ネットクラブの会派控室で同クラブ所属の6名の市議に面会した際に、市議の1人が「控訴人はB市長への個人的恨みから第1区総支部を動かしている」旨の発言をしたことが認められるから、上記真実性の証明はあったというべきである。
 なお、控訴人は、控訴人がB市長に個人的な恨みを抱いており、その個人的恨みを晴らすために第1区総支部を動かしてB市長の辞任要求運動を行ったという事実はないとして、真実性の証明があったことを争うが、前記のとおり、市議の発言部分は、控訴人がB市長に対する個人的恨みから第1区総支部を動かしているとの事実を指摘して控訴人の名誉を毀損するものではないから、控訴人の上記主張は失当であり、これを採用することはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人が市議の発言部分を記事として掲載したこと自体によって控訴人の社会的評価を低下させたことによる名誉毀損は違法性を欠くものであるということができる。」
2 結論
 以上のとおりであるから、控訴人の請求はいずれも理由がなく、原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第2部
 裁判長裁判官 熊田士朗
 裁判官 川添利賢
 裁判官 多見谷寿郎
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/