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【事件名】食玩フィギュアの著作物性事件
【年月日】平成16年11月25日
 大阪地裁 平成15年(ワ)第10346号 違約金等請求本訴事件、平成16年(ワ)第5016号 不当利得返還請求反訴事件
 (口頭弁論終結日 平成16年9月9日)

判決
本訴原告(反訴被告) 株式会社海洋堂(以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 水戸重之
同 荻野敦史
本訴被告(反訴原告) フルタ製菓株式会社(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 中嶋俊作


主文
1 被告は、原告に対し、金1億6017万8278円及び内金167万2650円に対する平成14年11月28日から、内金1億5555万1593円に対する同年12月12日から、内金295万4035円に対する平成16年7月28日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを10分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
 被告は、原告に対し、金1億8011万7389円及び内金167万2650円に対する平成14年11月28日から、内金1億6292万5571円に対する同年12月12日から、内金1551万9168円に対する同年5月21日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は、被告に対し、金572万5048円及びこれに対する平成14年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本訴は、原告が被告に対し、被告の製造販売する菓子類のおまけとして各種のフィギュアの模型原型を原告が製造し、これを被告に提供するに当たり、両者の間で複数の著作権使用許諾契約を順次締結し、許諾料(ロイヤルティ)や違約金について定めていたところ、被告が原告に商品の製造数量について実際より過小の虚偽の報告をし、あるいは未払のロイヤルティがあるとして、これらの契約に基づくロイヤルティ及び約定違約金の支払並びに商事法定利率による遅延損害金の支払を求めている事案である。
 反訴は、被告が、原告に対し、上記複数の著作権使用許諾契約のうちの一部について、ロイヤルティ支払条項の料率が高額に過ぎ、錯誤あるいは公序良俗違反ゆえに無効であるなどとして、被告が原告に対して支払ったロイヤルティの一部を不当利得として返還請求している事案である。
1 前提事実(特に証拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、模型の製造販売等を業とする株式会社である。
 被告は、各種菓子類の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件契約
ア チョコエッグ
 被告は、卵形のチョコレートの中におまけを入れる商品シリーズを企画し、製造販売した(以下「チョコエッグ」という。)。
 原告と被告は、そのおまけに関し、原告が模型原型を製造して被告に渡し、被告が当該模型原型の複製品をおまけとして使用し、菓子と一体化した商品(以下「指定商品」という。)を製造販売することについて、次のとおり契約を締結した(以下、各契約を「本件契約@」等と表記し、後記イ、ウ及びエの契約と共に総称するときは「本件各契約」と表記する)。なお、本件各契約では消費税に関する規定はないが、ロイヤルティについては外税方式で別途消費税分が加算されることになっていた。
@ 日本の動物コレクション@(本件契約@)
a 契約日 平成11年9月
b 契約期間 平成11年9月〜同年12月
c 対象物 日本の動物コレクション第1弾のフィギュア24種類の模型原型
d ロイヤルティ
 被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の販売数量を集計し、
 ・希望小売価格(150円)×2.5%=ロイヤルティ単価
 ・ロイヤルティ単価×指定商品販売数量=ロイヤルティ
 の計算式で算出したロイヤルティを翌月20日までに支払う。
e 販売数量の報告
 被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の販売数量を集計し、翌月10日までに原告に書面で報告する。
A 日本の動物コレクションA(本件契約A)
a 契約日 平成11年12月頃
b 契約期間 平成11年12月〜平成12年2月
c 対象物 日本の動物コレクション第2弾のフィギュア24種類の模型原型
d ロイヤルティ @のdに同じ。
e 販売数量の報告 @のeに同じ。
B 日本の動物コレクションB(本件契約B)
a 契約日 平成12年2月頃
b 契約期間 平成12年2月〜同年5月
c 対象物 日本の動物コレクション第3弾のフィギュア48種類の模型原型
d ロイヤルティ @のdに同じ。
e 販売数量の報告 @のeに同じ。
C 日本の動物コレクションC(本件契約C)
a 契約日 平成12年10月1日(契約書は甲第1号証)
b 契約期間 平成12年9月25日〜平成13年9月24日
c 対象物 日本の動物コレクション第4弾のフィギュア24種類の模型原型
d ロイヤルティ
 被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の製造数量を集計し、
 ・希望小売価格(150円)×2.5%=ロイヤルティ単価
 ・ロイヤルティ単価×指定商品製造数量=ロイヤルティ
 の計算式で算出したロイヤルティを翌月20日までに支払う。
e 製造数量の報告
 被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の製造数量を集計し、翌月10日までに原告に書面で報告する。
f 違約金
 被告による指定商品の実際の製造数量が原告への報告数量を上回っていた場合には、被告は、原告に対し、上回っていた指定商品1個につきロイヤルティ単価3.75円の2倍=7.5円の違約金を支払う。
D 日本の動物コレクションD(本件契約D)
a 契約日 平成13年3月1日(契約書は甲第2号証)
b 契約期間 平成13年3月1日〜平成14年2月28日
c 対象物 日本の動物コレクション第5弾のフィギュア24種類の模型原型
d ロイヤルティ Cのdに同じ。
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 Cのfに同じ。
E ペット動物コレクション@(本件契約E)
a 契約日 平成12年10月1日(契約書は甲第3号証)
b 契約期間 平成12年9月25日〜平成13年9月24日
c 対象物 ペット動物コレクション第1弾のフィギュア20種類・41タイプの模型原型
d ロイヤルティ Cのdに同じ。
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 Cのeに同じ。
F ペット動物コレクションA(本件契約F)
a 契約日 平成13年3月1日(契約書は甲第4号証)
b 契約期間 平成13年3月1日〜平成14年2月28日
c 対象物 ペット動物コレクション第2弾のフィギュア14種類・30タイプの模型原型
d ロイヤルティ Cのdに同じ。
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 Cのfに同じ。
G レッド・データ・アニマルズ(本件契約G)
a 契約日 平成12年10月1日(契約書は甲第5号証)
b 契約期間 平成12年7月10日〜平成13年7月9日
c 対象物 絶滅のおそれのある動物をまとめた講談社の「レッド・データ・アニマルズ」の中から10種類の動物をフィギュア化した模型原型
d ロイヤルティ 基本的にはCのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=200円×3%=6円
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 基本的にはCのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価6円×2=12円
イ 妖怪シリーズ
 被告は、キャンデーに妖怪のフィギュアをおまけとして付ける商品シリーズ(以下「妖怪シリーズ」という。)を企画し、製造販売した。
 原告と被告は、そのおまけに関し、原告が模型原型を製造して被告に渡し、被告が当該模型原型の複製品をおまけとして使用し、菓子と一体化した商品(指定商品)を製造販売することについて、次のとおり契約を締結した(契約の表記方法はアに記載したとおりである。)。
H 百鬼夜行T(本件契約H)
a 契約日 平成12年10月1日(契約書は甲第6号証)
b 契約期間 平成12年7月10日〜平成13年7月9日
c 対象物 日本の妖怪のイメージを表現した百鬼夜行妖怪コレクション第1弾の8種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的にはCのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=300円×3%=9円
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 基本的にはCのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価9円×2=18円
I 百鬼夜行U(本件契約I)
a 契約日 平成13年3月1日(契約書は甲第7号証)
b 契約期間 平成13年3月1日〜平成14年2月28日
c 対象物 百鬼夜行妖怪コレクション第2弾の9種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的にはCのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=300円×3%=9円
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 基本的にはCのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価9円×2=18円
J 百鬼夜行総集編(なお、被告は、下記の内容による覚書の存在は認めているが、契約の有効性及び違約金の合意の有無については争っている。)(本件契約J)
a 契約日 平成13年10月1日(甲第8号証の覚書)
b 契約期間 平成13年10月1日〜平成14年2月28日
c 対象物 百鬼夜行妖怪コレクション総集編として選ばれた妖怪の17種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的にはCのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=300円×3%=9円
e 製造数量の報告 製造数量を書面にて報告
K 妖怪根付(本件契約K)
a 契約日 平成13年8月26日(契約書は甲第9号証)
b 契約期間 平成13年8月27日〜平成14年8月26日
c 対象物 百鬼夜行妖怪コレクション根付バージョンの陰陽25種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的にはCのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=200円×3%=6円
e 製造数量の報告 Cのeに同じ。
f 違約金 基本的にはCのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価6円×2=12円
ウ チョコエッグ・クラシック
(ア) 原告と被告は、チョコエッグにおいて使用した模型原型の中から24種類を選び出し、塗装の色や方法、型を変更したものをバージョンアップ版として使用し、被告において菓子(卵型チョコレート)と一体化した商品(指定商品)を製造販売するについて、次の契約を締結した(契約の表記方法はアに記載したとおりである。)(以下「チョコエッグ・クラシック」という。)。
L 日本の動物コレクション・バージョンアップ版(本件契約L)
a 契約日 平成13年9月10日(契約書は甲第11号証)
b 契約期間 平成13年9月10日〜平成14年9月9日
c 対象物 日本の動物コレクション・バージョンアップ版24種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的には契約Cのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=150円×3.2%=4.8円
e 製造数量の報告 本件契約Cのeに同じ。
f 違約金 基本的には本件契約Cのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価4.8円×2=9.6円
(イ) 原告は、被告に対し、平成14年8月30日付けで、重大な背信行為を理由として本件契約Lを直ちに解除する旨の意思表示をした通知書(甲第18号証の1)を送付し、同通知書は翌31日に被告に到達した。
エ アリス・コレクション(本件契約M)
 被告は、キャンデーに、ルイス・キャロルが制作した物語「不思議の国のアリスの冒険」、「鏡の国のアリスの冒険」に登場するキャラクターのフィギュアをおまけに付ける商品シリーズを企画し、製造販売した(以下「アリス・コレクション」という。)。
 原告と被告は、そのおまけに関し、原告が模型原型を製造の上、被告の指定する数量の複製品を被告に渡し、被告はこれと菓子を一体化した商品(指定商品)を製造販売することとし、平成13年ころ、フィギュアコレクション18種類の模型原型について、ロイヤルティを希望小売価格(200円)の3%である6円とする旨の契約を締結した(契約書は甲第15号証)。なお、契約日、契約期間、製造数量の報告義務、違約金の合意については争いがある。
(3) ロイヤルティ未払等
ア チョコエッグ及び妖怪シリーズ(本件契約@ないしK)に関する未払
 原告は、本件契約@ないしKに基づき、被告から各指定商品の販売・製造数量(別紙指定商品製造数量対比表の「原告への報告数量」欄記載の数量)について報告を受け、各契約所定の算定式によるロイヤルティを受領していた。
 ところが、原告が平成14年に大阪国税局から税務調査を受けた際、被告の実際の製造数量は、同表の「実際の製造数量」欄記載の数量であることが判明し、被告もこれを認めた。
 しかし、被告は、未報告分の製造数量についてのロイヤルティを支払わず、原告の違約金請求についても応じない。原告は、平成14年12月3日付け通知書(甲第10号証の1)をもって、違約金を同通知書送達後1週間以内に支払うよう催告し、同通知書は翌4日被告に到達した。
イ チョコエッグ・クラッシック(本件契約L)について
 被告は、本件契約Lに基づくロイヤルティの一部を支払っておらず、原告の違約金請求にも応じない。
ウ アリス・コレクション(本件契約M)について
 被告は、本件契約Mに基づき、平成14年5月までに304万個のアリス・コレクション(指定商品)を製造したが、ロイヤルティの一部159万3000円(別途消費税分7万9650円)については未だ原告に支払っていない。原告は、この分のロイヤルティ未払分の支払を、同年11月27日に被告に対し請求した(甲第16号証)。
2 争点
(1) 本件各契約における対象物である各種フィギュアの模型原型は著作物か。
(2) 本件各契約の違約金支払規定は、被告が模型原型が著作物であり原告がその著作権を有しあるいは管理しているとの錯誤に陥っていたことを理由として、無効となるか。
(3) 本件各契約の違約金支払規定は公序良俗違反か。
(4) 本件契約Jは有効に成立し、また違約金に関する合意がなされているといえるか。
(5) 本件契約Mは有効に成立しているか。
(6) 未払のロイヤルティ・違約金等の額
(7) 原告の不当利得の成否及び被告の損失
第3 当事者の主張
1 争点(1)(本件各契約における対象物である各種フィギュアの模型原型は著作物か)について
【原告の主張】
 本件各契約の対象物である、各種フィギュアの模型原型(以下「本件模型原型」という。)は、いずれも著作権法上の著作物性を有する。
(1) 原告は、フィギュアの世界では、我が国のみならず世界的に周知されたフィギュア造形集団である。多数の書籍、雑誌に紹介されているし、1991年には、その表現力が評価されて、世界的に著名な米国の自然史博物館に恐竜の骨格標本の復元モデル制作を依頼されて納品している。その他、原告の造形集団としての創作性、芸術性、技術力の高さ及び知名度を紹介する資料は枚挙にいとまがなく、単なる「おまけ」制作の域にとどまるものではない。
(2) 本件模型原型は、「動物」、「キャラクター」、「妖怪」等を題材としつつも、その構図、造形、彩色等の点で、高い芸術性、創作性を有しており、思想・感情の創作的表現物に該当し、著作物性を有する。
 本件契約@ないしGとLで対象とされている模型原型は、いずれも動物を題材としたものであり、本件契約Mは、既存の挿絵を基にしたものである。しかしながら、著作物性は創作性が存在すれば認められるのであって、創作性の高低は問われていないところ、模作するに当たっては思想、感情の働きが認められるから、本件契約@ないしG、L、Mの対象物たる模型原型においても創作性を肯定でき、著作物性が肯定される。写実的な人物画や写真についても著作物性が認められることからすれば、動物や既存の挿絵との比較における写実性は、作品としての評価を高めるものであっても、著作物性を否定するものではない。
(3) 本件模型原型が著作物であることは、その製造過程からも明らかである。
 模型原型については、原告においておおまかな商品企画が立てられ、担当すべき造形師が選定される。原告と担当造形師が中心となって、原型のサイズ、セールスポイントとなる特徴、数等を決め、造形師がラフ画を作成する。ラフ画については原告において検討・修正される。
 ラフ画確定後、造形師は模型原型を制作する(彩色されていない造形原型)。造形原型は、原告において商品価値があるかとの観点から、質、完成度、大きさ等を確認され、修正される。
 確定した造形原型には、原告従業員の塗装担当者が彩色する(オリジナルの完成版。本件模型原型はこの完成版を指す。)。
(4) 被告は、本件模型原型が量産を予定されているいわゆる応用美術であるから、著作権法上の「美術の著作物」に該当しないと主張する。しかし、「美術の著作物」には美術工芸品も含まれるし、仮に意匠権が成立するような場合であったとしても、そのことをもって著作権法上の保護が否定されるわけではない。また、量産品であることによって著作物性を否定されるものではない。上記(2)記載のとおり、本件模型原型が純粋美術と同視し得る創作性、芸術性を有することは、その構図、造形、彩色等からみて疑いのない事実である。
【被告の主張】
(1) 本件契約@ないしG、Lの対象物たる本件模型原型は、思想又は感情を創作的に表現したものとはいえない。
 これらの模型原型は、自然界に実在する動物等を実物に近い形で模型にしたものであって、抽象化された特徴を有するものではなく、図鑑等を参照しながら制作されているから、思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)ということはできない。よって、本件契約@ないしG、Lの対象物たる本件模型原型は、著作権法上の著作物ではない。
(2) 本件契約Mの対象物たる模型原型には、著作物性が認められない。
 アリス・コレクションにおけるフィギュアの模型原型は、「不思議の国のアリスの冒険」と「鏡の国のアリスの冒険」の挿絵を立体化したものにすぎないから、著作物性を認めることができない。
(3) 本件模型原型は、応用美術であって「美術の著作物」ではない。
 純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の制作に応用したもの、すなわち応用美術は、原則として「美術の著作物」ということができない。応用美術が「美術の著作物」といい得るのは、作品が形状、内容及び構成などに照らして純粋美術に該当し得ると認められる高度の美的表現を具有するときに限られる。
 本件模型原型は、被告の販売する菓子に付けるおまけの原型として制作されたものである。被告は、原告から、成形見本1個、彩色見本1個、保管用1個の合計3個の模型を受け取る。被告では、成形見本をカットして複数の部分とし、それぞれの部分について金型を作った後、大量の模型を製造し、彩色された後に、カプセルに入れて閉じる。これらの作業は熟練工ではない者も含めた1000人程度の工員によってなされ、また多いときには1日約50万個のおまけが製造されている。工場では1体当たり17ないし19円で出荷され、被告の仕入額は1体当たり25円である。このような製造工程及び製造価格からすれば、おまけの原型である本件模型原型に純粋美術に該当し得ると認められる高度の美術性を肯定することはできない。
 本件模型原型は「美術の著作物」に該当しない。
2 争点(2)(本件各契約の違約金支払規定は、被告が模型原型が著作物であり原告がその著作権を有しあるいは管理しているとの錯誤に陥っていたことを理由として、無効となるか)について
【被告の主張】
(1) 本件契約CないしI、KないしMは、ロイヤルティを支払う根拠となる使用許諾対象物である本件模型原型が著作物であること、及び原告が本件模型原型の著作権を管理又は有していることを、前文に明記した上で、締結されている。
 しかしながら、本件模型原型は著作物ではなく、原告はその著作権を管理又は保有していない。
 おまけの原型に関する契約は、通常、原型の制作の対価として1つの原型について数万円から十数万円の制作費を支払うとする請負契約である。本件各契約によって被告は原告に対し既に約4億円のロイヤルティを支払っているのであり、この金額は原型の制作費として対価を決定した場合と比較して、極めて高額である。そして、更に被告が違約金支払規定についてまで合意したのは、本件契約CないしI、KないしMにおいては契約書により模型原型が著作物であること及び原告がその著作権を管理し又は有していることが明記されたため、これを信じたからにほかならない。
 よって、模型原型が著作物ではなく、原告がその著作権を有しあるいは管理していない場合には、本件各契約、その中でも違約金支払規定に関し重要な要素に錯誤があるといえるから、違約金支払規定は無効である。
(2) 被告は、平成14年1月に、アリス・コレクションのおまけについて、第三者から著作権侵害であるとの指摘を受け、また平成14年5月に、本件契約HないしKの模型原型の制作者(造形師)が、被告と別の契約を締結していた造形師であり、かつ同人との間では請負契約を締結していることを知るに至り、原告が著作権を有し又は管理していること、本件各契約がロイヤルティ支払方式であることについて疑義を有するに至った。
【原告の主張】
(1) 本件模型原型はいずれも著作物であることは、前記1の【原告の主張】で述べたとおりである。
 また、前記1【原告の主張】(3)の方法により造形原型が完成した場合、造形師が原告の従業員であれば、法人著作として当初より著作権を有しているし、造形師が第三者である場合には、模型原型の引渡しと共に著作権の譲渡を受けている。なお、彩色については、原告従業員が行っている以上、原告が著作権者となる。したがって、原告は、本件模型原型の著作権を有し、管理している。
 本件模型原型が著作物であって、原告が本件模型原型の著作権を有し、管理している以上、本件各契約において、被告が錯誤に陥ったということはできない。
(2) 本件各契約は、本件模型原型に関し、複製品を製造し、これを使用して指定商品として販売するに当たり、被告が原告に対してロイヤルティを支払うこと、被告は指定商品の販売あるいは製造数量を毎月原告に報告すること、被告は報告した数量に基づいて所定の算定式により算出されるロイヤルティを毎月原告に対して支払うこと、及び仮に指定商品個数について虚偽の報告をした場合には未報告数量につきロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払うこと(なお、本件契約@ないしBにはこの違約金の合意はない。)を内容とする契約である。本件模型原型が著作物性を有するか否かなどが契約や合意の本質となっているわけではないから、仮に本件模型原型が著作物ではないとしても、そのことから本件各契約の違約金支払規定が錯誤無効となるものではない。
(3) 被告の主張のとおり、平成14年5月ころ、被告が著作物性について疑義を有し調査を行ったとしても、結局被告は原告に対して異議等を述べることもなく漫然と契約を継続している。このことは、むしろ被告においても本件模型原型の著作物性を肯定し、あるいは肯定しないとしても、本件模型原型を複製することについて原告にロイヤルティを支払う価値があると判断して、自由意思に基づいて契約を締結したというべきである。
 仮に著作物性、著作権者性について被告に錯誤があったとしても、以上の事情を踏まえれば、被告には重大な過失がある。
(4) 原告と被告は、平成11年以降、14回にわたって契約の締結を行っていたが、その間被告から本件模型原型の著作物性や、原告が著作権を有するか否かの点において疑義を述べられたことはなかった。
 被告は、製造数量について虚偽報告をしていたことが発覚し、違約金を支払わなければならなくなった段階において、初めて本件模型原型の著作物性を否定するなどの主張を行ったのであって、信義則違反(民法1条2項)や禁反言の原則にかんがみても、このような主張をすること自体許されない。
3 争点(3)(本件各契約の違約金支払規定は公序良俗違反か)について
【被告の主張】
 業界の通例では、商品に付されるおまけを複製するための原型を制作する場合、請負契約等を締結し、模型原型1体の制作費として数万円から十数万円を支払う。
 原告が本件模型原型は著作物であって原告が著作権の所有・管理者であると言い出したため、本件各契約はロイヤルティ支払契約となったが、その結果、被告は既に原告に対して4億円程度のロイヤルティを支払っている。この金額は、仮に本件各契約について通常と同様に模型原型の制作費を支払う場合の金額と比較すると、著しく高額である。
 また、原告が造形原型を外注した場合、原告は、制作者に対し、業界の通例と同様に原型1体を基準とした制作費を支払っているにすぎないはずであり、他方で被告から多額のロイヤルティを受け取っているから、差額として多額の利得をしているはずである。
 ここから更に原告が違約金を取得することを認めるならば、その結果は取引における対価の相当性を著しく逸脱することとなる。したがって、違約金支払規定は暴利行為というべきであって、公序良俗に反するから、民法90条により無効となるというべきである。
【原告の主張】
(1) 被告は、契約書のロイヤルティや違約金の規定を前提に、本件各契約に合意している。
(2) ライセンシーの報告数量の正確性、真実性を担保するために、ライセンス契約で虚偽報告の場合に2倍程度の違約金の支払規定を設定することには合理性が認められる。また、違約金やペナルティの料率を通常の金額の2倍とすることは、一般に見られるところである(民法557条1項、鉄道営業法18条2項及び鉄道運輸規定19条等参照)。したがって、ロイヤルティの2倍相当額を違約金とすることには合理性がある。
(3) 暴利行為が公序良俗違反となるためには、暴利行為を行う側が、相手方の弱者的地位故の窮迫、軽率、無経験に乗じて契約したことが要件とされている。
 しかるに、被告は、原告との関係において、弱者的地位にも、窮迫状態にも、軽率・無経験状態にもなかった。
4 争点(4)(本件契約Jは有効に成立し、また違約金に関する合意がなされているといえるか)について
【原告の主張】
 本件契約Jの覚書(甲第8号証。以下「本件覚書」という。)には、1条に「以前製造及び販売した指定商品の再発売に際し、本件著作物の中に一部契約終了しているものも含まれるため、今回の製造数量(54000個)に限り」許諾する、「販売期間は別紙記載の9から17までの9種類の著作物に対する本契約(注記:本件契約I(甲第7号証)を指す。)が終了する平成14年2月28日までとする」と記載されている。つまり、本件契約Jは、本件契約Hや本件契約Iの延長契約又は修正契約の性質を有するものである。このような場合には、本件契約H及びIで合意に達している条項はそのまま適用されるものと解すべきである。原告と被告の間で、本件契約Jにおいては違約金支払規定を排除するとの合意はない。
 なお、被告は、本件覚書に署名押印した者が被告の代表権等を有していなかったと主張する。しかし、被告は、本件覚書を踏まえて、その後、複製品の製造委託、指定商品の製造販売、原告に対するロイヤルティの支払等の行為をしており、これらの点からすれば、被告が本件覚書が有効であることを前提としていたことは明らかであるし、これが無権代理等であるというのであれば、その後の被告の行為により追認されたものというべきである。
【被告の主張】
 本件覚書には、違約金支払規定がなく、本件契約H及びIの違約金支払規定を適用する旨の規定もない。したがって、本件契約Jにおいて、違約金に関する合意がなされていたということはできない。
 また、本件覚書の乙欄の署名押印を見ると、被告代表取締役としてAの署名押印がなされているが、これは他の本件各契約の契約書の署名押印とは異なっており、署名はAのものではなく、その子のBのものであるから、被告は本件契約Jの成立自体を争う。本件覚書に記載されている年月日ころ、Aは病気で倒れ代表取締役としての業務をできなくなっていたものであり、当時の社内の事情からすれば、本件覚書は、何ら権限のないBが、被告の取締役らと相談することなく、独断で署名押印したものと考えられる。
 なお、原告は追認であるなどと主張するが、原告の指摘する事実で、被告が違約金支払規定まで追認したことにはならない。
5 争点(5)(本件契約Mは有効に成立しているか)について
【原告の主張】
(1) 本件契約Mの内容は、契約書(甲第15号証)によれば、正確には次のとおりである。
a 契約日 平成13年11月22日
b 契約期間 平成13年11月22日〜平成14年11月21日
c 対象物 人形の国のアリス〜アリスのフィギュアコレクション〜18種類の模型原型
d ロイヤルティ 基本的に本件契約Cのdに同じ。
 ロイヤルティ単価=希望小売価格(200円)×3%=6円
e 製造数量の報告 本件契約Cのeに同じ。
f 違約金 基本的に本件契約Cのfに同じ。
 違約金単価=ロイヤルティ単価6円×2=12円
(2) 被告は、契約書の署名押印の問題、当時の被告社内の事情(代表取締役の入院等)を根拠に、権限なき者によって契約されていると主張する。しかしながら、被告は、原告に異議も述べず契約を履行しているから、仮に本件契約Mが権限なき者によって締結されていたとしても、後日追認されているというべきである。
【被告の主張】
 原告と被告の間で、アリス・コレクションについて、原告が著作権を主張する模型原型についての使用許諾と、そのロイヤルティについて合意したが、その他の点について合意に達していない。
 契約書(甲第15号証)の署名押印を見ると、他の本件各契約の契約書とは異なり、代表取締役のAが記名押印したものではなく、Bが署名したものであるから、被告は本件契約Mの成立自体を争う。甲第15号証に記載されている年月日ころの社内の事情からすれば、本件契約Mの契約書は、何ら権限のないB(取締役も辞任していた。)が、被告の取締役らと相談することなく、署名押印したものと考えられる。
6 争点(6)(未払のロイヤルティ・違約金等の額)
【原告の主張】
(1) ロイヤルティ
ア 本件契約@ないしBについて
 本件契約@ないしDに関し、未報告数量が1086万4016個であることは被告も認めるところであるが、このうち本件契約@ないしBに関する未報告数量がいくらであるかは不明である。
 ところで、本件契約@ないしDに関し、被告から原告になされた報告数量においては、本件契約@ないしBに関する報告数量が642万1360個であり、本件契約@ないしD全体の報告数量は3403万3440個であったから、被告の報告による本件契約@ないしDの数量に占める本件契約@ないしBの数量の割合を算出すると、18.87%となる。
 そこで、これらの数値を本件契約@ないしB所定のロイヤルティ算定式に入れて算出すると、本件契約@ないしBに関して発生した未報告数量に関するロイヤルティは、768万7649円となる。
イ 本件契約Mについて
 原告は、本件契約Mに基づき平成14年5月までに304万個のアリス・コレクションを製造したが、そのうち、26万5500個についてはロイヤルティが支払われていないこと、未払ロイヤルティの金額は、本件契約Mの算定式に基づき、159万3000円であること、その消費税相当額が7万9650円であることについては被告も争っていない。
(2) 違約金
ア 本件契約C及びDについて
 本件契約@ないしDに関する未報告数量のうち、本件契約C及びDの未報告数量は、前記(1)アと同様の算定方法により81.13%に当たる。
 これらの数値を本件契約C及びD所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は6610万4822円となる。
イ 本件契約E及びFについて
 本件契約E及びFの未報告数量は847万9295個である。これを本件契約E及びF所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は6359万4712円となる。
ウ 本件契約Gについて
 本件契約Gの未報告数量は22万9536個である。これを、原告の主張する本件契約G所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は275万4432円となる。
エ 本件契約H及びIについて
 本件契約H及びIの未報告数量は36万1800個である。これを本件契約H及びI所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は651万2400円となる。
オ 本件契約Jについて
 本件契約Jの未報告数量は5万1910個である。これを本件契約J所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は93万4380円となる。
カ 本件契約Kについて
 本件契約Kの未報告数量は63万1568個である。これを本件契約K所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は757万8816円となる。
キ 本件契約Lについて
(ア) 被告は、原告に対し、平成14年8月5日付け「チョコエッグ・クラシックの再販に関して」と題する報告書(乙第7号証)により、同月2日現在、チョコエッグ・クラシックの在庫数が1万9245ケース(1ケースには、チョコエッグ・クラシックが80個入っている。)であると述べた。
 この1万9245ケースに入っていた合計153万9600個は、被告の本件訴訟における主張内容や他の本件各契約における被告の虚偽報告数量等にかんがみれば、いずれも被告から原告に報告されていないというべきである。したがって、この153万9600個が、違約金を算定するに当たり基準となる数量となる。
(イ) この個数を本件契約L所定の違約金算定式に入れて算出すると、違約金は1551万9168円となる。
(ウ) なお、被告は、本件契約Lについて未報告数量は契約終了後に製造したものであるなどの主張をする。しかし、この主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されたい。
(3) 本件各契約においては、被告が原告に対して消費税相当額を支払う旨の合意ができていた。そしてこの合意は違約金の算定の場合をも含むものであるから、原告は前記(1)及び(2)のそれぞれに消費税相当額も加算して請求する(ただし、前記(2)キ(イ)の本件契約Lに基づく違約金については消費税を加算していない。)。
(4) 遅延損害金の起算日
 本件契約@ないしKについては、前記第2の1の前提事実(3)アのとおり違約金の支払を催告したから、この分の遅延損害金の起算日は平成14年12月12日となる。
 本件契約Lについては、同契約の契約書(甲第11号証)によるロイヤルティ支払時期の翌日である、平成14年5月21日からとなる(違約金の支払時期もロイヤルティの支払時期と同じに解すべきである。)。
 本件契約Mについては、ロイヤルティの支払を請求した日(前記第2の1の前提事実(3)ウ参照)の翌日である平成14年11月28日からとなる。
【被告の主張】
(1) 本件契約@ないしBの未報告数量は、256万7056個であり、本件契約C及びDの未報告数量は、829万6960個である。本件契約EないしKの未報告数量及び本件契約Mのロイヤルティ未払金額については認める。また、本件契約Lの未報告数量については30万7712個である。
 ただし、本件各契約の違約金支払規定は無効であるから、被告の違約金支払義務は争う。
 また、本件契約Lの未報告数量分は、本件契約Lが解除された後に製造されたものであるから、そもそも報告義務がなく、したがって違約金支払義務もない。
(2) ロイヤルティに課される消費税について、原告と被告の間で外税方式で加算することが合意されていたこと、被告の数量報告書及びこれに基づく原告の請求書のいずれにも消費税が外税として記載されていたこと、被告はロイヤルティについて消費税を外税として支払っていたことは認めるが、違約金には消費税は課税されないから、被告には消費税相当額の支払義務はない。
7 争点(7)(原告の不当利得の成否及び被告の損失)
【被告の主張】
(1)ア 業界においては、本件各契約のようにおまけの原型の制作を依頼する場合は、請負契約を締結し、原型1体当たりの制作費として数万円から十数万円を支払うのが通常のやり方である。
イ ロイヤルティ支払規定の錯誤無効
 被告は、原告が模型原型が著作物であり、その著作権を原告が有しあるいは管理していると述べ、契約書にもその旨明記したため、これを信じて、ロイヤルティ方式による支払方法を採ることに合意した。しかしながら、本件模型原型は著作物ではなく、原告はその著作権を管理も所有もしていなかった。
 したがって、本件契約HないしK及びMのロイヤルティ支払規定は、通常の模型原型請負契約において支払われるであろう制作費の2倍相当額の範囲を超える部分の金銭支払部分において、錯誤により無効となる。
ウ ロイヤルティ支払規定が暴利行為として無効となること
 被告は、妖怪シリーズの模型原型の造形師に、別の模型原型の制作を依頼した際に1体当たり41万円強しか支払っていない。したがって、これを基準とすると、本件契約HないしK及びM(本件各契約のうち、造形原型を原告が第三者に外注したもの)については、本件契約HないしJで使用された模型原型17体の制作費は合計708万3333円、本件契約Kで使用された模型原型25体の制作費は1041万6666円となり、本件契約Mの対象物である模型原型の個数は18体であるから、同様に算定すると制作費は750万円となる。
 しかしながら、実際には被告は本件契約HないしK及びMのロイヤルティとして既に5500万円以上支払っている。これにより原告の得た利ざやは、制作費と比較して高額過ぎるといわざるを得ない。しかもこの利ざやは、原告の企業努力と知的財産権によるものではなく、仕入と販売で全く別の法律構成としたことにより発生したものである。
 以上によれば、本件契約HないしK及びMにおけるロイヤルティの利率は高額過ぎるから暴利行為というべきであって、原告が同契約に関し造形師に支払っていたであろう金額の2倍の額を超える金額部分は民法90条により無効というべきである。
(2) 本件契約HないしKに関して被告が既に支払ったロイヤルティの支払合計額は3748万5048円であり、制作費の2倍に相当する額は3500万円であって、その差額は248万5048円である。
 また、本件契約Mに関して被告が既に支払ったロイヤルティの支払合計額は1824万円であり、制作費の2倍に相当する額は1500万円であって、その差額は、324万円である。
 したがって、被告は、原告に対して、不当利得返還請求権に基づき、差額合計572万5048円及びこれに対する平成14年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。
【原告の主張】
 被告が、本件契約HないしKの対象物制作者との間でどのような契約を締結していたかは知らない。
 本件模型原型が著作物であり、原告はその著作権を有しあるいは管理していたことは前記1及び2の【原告の主張】で述べたとおりであるから、本件各契約に関して被告に錯誤があったということはできない。
 また、仮にその点について錯誤があったとしても、前記2【原告の主張】(2)で述べたとおり、模型原型が著作物であることなどは本件各契約において要素となっていなかったものであるから、錯誤の主張は認められない。
 さらに、被告はロイヤルティの支払条項があることを認識しながら本件各契約に合意しており、本件各契約におけるロイヤルティ支払条項が暴利行為であって公序良俗に反しているということもできない。
 したがって、被告の主張は失当であって、その請求に理由はない。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(本件各契約における対象物である各種フィギュアの模型原型は著作物か)について
(1) 前記第2の1の前提事実並びに証拠(甲第1ないし第8号証〔甲第8号証中被告作成部分についてはその存在のみ。以下同じ。〕、第29号証、第31ないし第33号証、乙第1号証、第3ないし第5号証、第22号証ないし第34号証、第36号証ないし第42号証、第47号証、第60号証の1ないし3、第61ないし第64号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 本件模型原型は、大量販売される菓子に、その複製物をおまけとして付することが予定されている立体物である。
 本件模型原型の制作過程は次のとおりである。
 原告は、被告との間で商品企画を検討した後、当該企画に適する模型原型造形師を選定し、原告の専務取締役であるCと当該造形師が中心となって、模型原型のサイズ、セールスポイントとなる特徴、数等を打ち合わせる。打合内容に従って、造形師が基となる画を作成し、原告が検討修正した後に造形にとりかかる。造形師が造形した原型(造形原型)は、原告のチェックを受けた後、原告従業員の塗装担当者によって彩色される。彩色された原型が本件模型原型である。
イ チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシック
 チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックは、様々な種目・科に属する実在の動物(本件契約Bの対象となった「ツチノコ」を除く。)を正確に模したフィギュアをおまけとして卵形チョコレートの中に入れる商品シリーズである。
 被告がおまけとして付していたフィギュアは、頭部、胴部、足部、尾部などの形状、大きさの比率、その姿勢はもとより、動物の毛並み、虫の足の突起、魚の鱗等に至るまで、可能な限り、実際の動物と同様に立体的に表現され、色彩も、複数の色彩を細かく用い、実際の動物と同様の色、模様が付されている。
 チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの発売に際しては、「タマゴの形をしたミルクチョコの中に青いカプセルを封入しました。カプセルの中にはリアルな動物コレクションが入っています。日本の固有種から今はもういなくなってしまった絶滅種にいたるまで様々な種類の動物たちを次々ご紹介いたします。」(本件契約@の対象であった「日本の動物コレクション@」、乙第22号証)、「フィギュアマニア垂涎の動物コレクション!動物・昆虫博物館などでも利用され、研究員もうならせるリアルな造形の本格フィギュア」(本件契約Cの対象であった「日本の動物コレクションC」、乙第25号証)、「チョコエッグに新しいシリーズが誕生。好評の日本の動物シリーズに加え、リアルなペット動物コレクションが誕生しました。身近なペットから憧れのペットまで様々な種類のペット動物たちを次々ご紹介いたします。」(本件契約Eの対象であった「ペット動物コレクション@」、乙第27号証)、「99年より発売が開始され、現在第5弾まで製品化されている『チョコエッグ日本の動物』シリーズ。今回は第1弾から第3弾に登場したラインナップの中から24種類をピックアップ、またそれだけではなく塗装色や塗装方法の変更、型自体の変更などを施したバーションアップ版として製品化しました。」(本件契約Lの対象であった「日本の動物コレクション・バージョンアップ版」、乙第29号証)などの謳い文句を記載したパンフレットも商品と合わせて配布された。
 チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックに付されていたおまけの模型原型は、原告の従業員であるDが、市販の動物図鑑、鳥類図鑑等を参照しながら、本件契約@ないしG及びLにおける原告の模型原型製造債務の履行の一環として制作し、原告従業員がこれに彩色し、原告の製品として公表されたものである。
ウ 妖怪シリーズ
 妖怪シリーズは、いわゆる百鬼夜行に示唆を得て制作されたフィギュアをおまけとして、キャンデーと共に箱詰めされる商品シリーズである。
 妖怪シリーズのうち、「妖怪コレクション」は、「昨今の京極夏彦氏の妖怪小説などに代表される妖怪ブームの中、昔の文献『百鬼夜行』の妖怪をモチーフに立体化しました。大人のコレクターを対象としたリアルで本格的なフィギュアに仕上げ、コレクション性を高めています。」(本件契約Hの対象であった「百鬼夜行T」、乙第30号証)、「話題作『妖怪コレクション』の第2弾。今回もE氏総指揮のもとリアルなフィギュア9体をリリース。河童や天狗、輪入道などの妖怪に加え、そのうち1体をシークレットにすることでミステリー性を向上。今回は通常彩色版の他に象牙風彩色版、金色彩色版を加え、コレクション性の高い商品に仕上げました。」(本件契約Iの対象であった「百鬼夜行U」、乙第31号証)などの謳い文句を記載したパンフレットと共に、「妖怪根付」(本件契約Kの対象であった。)は、「『妖怪』をテーマにしたフィギュアコレクション。今回は江戸時代から存在する『根付け』とよばれる、いわゆるキーホルダーをモチーフにフィギュア化」(乙第32号証)などとの謳い文句を記載したパンフレットと共に販売された。
 妖怪シリーズにおける造形原型は、いずれもEが製造した。Eは、造形原型を著作物と認識しており、原告に造形原型を納入し、代金を受領するに当たり、その著作権をすべて原告に譲渡する旨合意した。
 原告では、原告従業員がEから納入された造形原型に彩色して、模型原型として完成させた。
エ アリス・コレクション
 アリス・コレクションは、ルイス・キャロルが制作した物語「不思議の国のアリスの冒険」及び「鏡の国のアリスの冒険」に使用されていた、ジョン・テニエルの挿絵(線画)(ハリー・シーカーや英国マクミラン出版社がこれに彩色している。)に基づき、これを正確に立体化し彩色したフィギュアをおまけとして、キャンデーと共に箱詰めされる商品シリーズである。
 アリス・コレクションは、「女の子ならだれもが読んだことのあるルイス・キャロル原作の不朽のファンタジー物語『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』に登場するキャラクターをそのままフィギュアにしました。フィギュアのモデルとして、原作版に使用されていたジョン・テニエルの挿絵を起用、なじみのある姿にアリスの世界観をいっそう身近に感じられます。また、特定の2種類を組み合わせると、挿絵の風景をそのまま再現したジオラマに変身、運動性を持たせることでコレクション性を高めています。」(乙第34号証)との謳い文句を記載したパンフレットと共に発売された。
 アリス・コレクションにおける造形原型は、いずれもFが製造した。Fは、造形原型を著作物と認識しており、原告に造形原型を納入し、代金を受領するに当たり、その著作権をすべて原告に譲渡する旨の合意をした。
 原告では、原告従業員がFから納入された造形原型に彩色して、模型原型として完成させた。
オ 以上のチョコエッグ、チョコエッグクラシック、妖怪シリーズ、アリス・コレクションは、いずれもお菓子のおまけとして各種のフィギュアがチョコレートの中のカプセルに入れられたり、キャンデーと共に箱詰めされた商品シリーズであるが、例えば、チョコエッグ(バラのもの)では65×43×43(o)のサイズのチョコエッグの中にフィギュアが収納されているし、妖怪シリーズでは140×98×53(o)の箱にキャンデー4個(妖怪根付の場合は2個)と共に収納されている。このように、本件各契約に基づく各フィギュアは、被告が販売するお菓子のおまけとはいっても、手のひらに載るようなものではあるがそれなりの大きさがあり、被告も、商品の販売に際してフィギュアを需要者のコレクションの対象として強力に訴えており、商品としては、お菓子よりもむしろ主たる地位を占めていると評価することもできる。そして、原告は、フィギュアの製造会社として、この種のフィギュアのコレクターの間では高く評価され、根強い人気がある。本件各契約においても、原告と被告との間では、原告の提供するフィギュアの模型原型については著作物である旨記載された契約書が取り交わされている。
(2)ア 著作権法は、2条1項1号で著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し、10条の「著作物の例示」の規定では「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(1項4号)を著作物の例示として挙げている。一方、同法2条2項は、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と定めている。
イ 本件模型原型は、いわゆる美術の範囲に属するものであることは明白であって、当事者においても争いのないところである。そこで、本件模型原型が「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるか否かを検討する。
 「思想又は感情を創作的に表現」するというときの創作性とは、表現が当該作者の何らかの知的活動の成果によるものであって、著作者の個性が現れていることをいい、必ずしも独創性が要求されるわけではない。他人の創作を模倣するにすぎないものや、たとえ他人の模倣ではないとしても、表現としてありふれたものであったり、表現方法が限定されているために誰が表現しても同じような表現となったりする場合には、作者の個性が現れているということはできず、創作性が否定される。
 前記(1)の認定事実によれば、チョコエッグ(本件契約@ないしG)及びチョコエッグ・クラシック(本件契約L)に使用されているおまけの模型原型は、市販の図鑑等を参照して、実在する、あるいはかつて実在した動物(ツチノコを除く。)の形状、姿勢、毛並み、色彩、模様等を可能な限り細部まで実物に近づくように作成されたものであり、その制作過程では高度の模倣手段・技術を用いて作成されたものと認められ、出来上がった模型原型及びその複製物は、市販のお菓子のおまけとして頒布されるフィギュアとしては、実在し、あるいはかつて実在した動物(ツチノコもこれに準じて考えられる。)に極めて近いものになっていると認められる。しかしながら、このように、実在の動物の形状等を可能な限り写実的に模倣して制作される模型原型については、機械的に写真に撮影したとか、誰が作成してもほぼ同じような表現にならざるを得ないような類型的な表現方法によった場合と異なり、高度に写実的な動物の模型を制作するという表現手段の中に、様々な技術や工夫が用いられており、著作者の個性が現れた創作行為が存在することは否定できない。そうすると、本件契約@ないしG及び本件契約Lにおいて対象となった模型原型は、著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に」表現した成果物という面については、これを肯定することができる。
 また、妖怪シリーズ(本件契約HないしK)の造形原型は、Eにおいて、古くから存在する百鬼夜行の妖怪にも示唆を受けて、リアルな形態の立体的な妖怪を各種制作したものであるが、既存の特定の絵画等をそのまま模して作成されたものとは認められず(そのような事実を認めるに足りる証拠はない。)、古来我が国でいろいろな画家等が描いてきた妖怪とそれ程違いがあるわけではないにしても、制作者の個性が現れていないとはいえないから、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であること自体は、これを肯定することができる。
 一方、前記(1)エの認定事実によれば、アリス・コレクション(本件契約M)は、ルイス・キャロルの物語「不思議な国のアリスの冒険」「鏡の国のアリスの冒険」の挿絵としてジョン・テニエルが描いた線画を忠実に立体化させ、上記物語の内容に沿うように彩色されたものであって、出来上がった模型原型及びその複製物は、ジョン・テニエルの描いた挿絵(線画)を忠実に三次元の像としたものと認められる。なお、原告従業員が行った彩色と、ハリー・シーカーや英国マクミラン出版社の行った彩色との異同は不明であるが、アリス・コレクションはジョン・テニエルの描いた挿絵(線画)の雰囲気を三次元の像においても維持することを目的になされているため、その彩色はハリー・シーカー等のものと同様か、少なくとも挿絵の思想又は感情を超えて新たな思想又は感情を表現するようなものではなく、通常ジョン・テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろうありふれた彩色であると推測される。そうすると、アリス・コレクションにおける忠実な立体化やありふれた彩色によって制作された模型原型は、作者の何らかの個性が創作的に表現されているものと認めることはできない。
(3)ア ところで、先にも触れたように、「美術の著作物」については、著作権法2条2項が「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と定めている。同条項は、絵画、版画、彫刻等のような純粋美術のほかに、実用品であっても一品製作による手工的な「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれていることを明らかにしている。この点に関し、美術工芸品以外のいわゆる応用美術についても著作権法によって保護されるかどうかが問題になるところである。現行著作権法制定の経緯や、著作権法による保護と意匠法等の工業所有権法による保護との関係等に照らせば、著作権法上の前記条項は、実用に供され、あるいは産業上利用されることを目的とする美的な創作物、すなわち、実用品と結合された美術的著作物、量産される実用品のひな型として用いられることを目的とする美術的著作物、実用品の模様として利用されることを目的とする美術的著作物等、一般に応用美術の範疇に含まれるものについては、専ら美の表現のみを目的とするいわゆる純粋美術と同視できるような創作性、美術性を有するもののみを、「美術工芸品」に準じて、著作権法上の「美術の著作物」として著作権法による保護の対象とした趣旨であると解するのが相当である。
 チョコエッグ、チョコエッグ・クラシック及び妖怪シリーズの模型原型は、まさに、上記のような大量に生産されるある種の実用品(おまけないし玩具)の模型原型(ひな型)としての性格を有するものであるから、著作権法上保護される著作物に該当するかどうかを判断するためには、著作権法2条2項の観点からの検討が必要である。
イ そこで、本件のチョコエッグ、チョコエッグ・クラシックや妖怪シリーズの模型原型について、いわゆる純粋美術と同視できる創作性、美術性を有するかについて検討する。
 まず、チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は、上記のとおり、高度の技術が用いられて、実在の動物を写実的に模したものであり、お菓子のおまけとして安価で広く頒布されるフィギュアとしては美的な価値も備えており、この種のフィギュアの蒐集家にとっては、その精巧さや種類の豊富さもあって、それなりに美的鑑賞の対象ともなり得ることは否定できないところである。しかし、動物を写実的に模すのに、制作者の技術や工夫が見られるといっても、大量に製造され安価で頒布される小型のおまけであるから、純粋美術の場合のような美的表現の追求とは異なり、一定の限界の範囲内での美的表現にとどまっていることも否定できないのであり、客観的にみて、一般の社会通念上、美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえない。したがって、チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は、著作権法2条2項の規定の趣旨に照らして、「美術の著作物」には該当しないものというべきである。
 なお、本件契約Bの対象とされたツチノコについても、弁論の全趣旨によれば、未確認ではあるが日本の山野に棲息しているとして、だんだんその目撃談が紹介され絵にも描かれている「ツチノコ」を、これらの公刊物等を参照して制作された模型原型であると認められ、上記の動物の場合と同じく、大量に生産される小型のおまけの模型原型として制作されたものであり、その制作の内容に照らしてみても、純粋美術と同視し得るようなものとは評価できない。したがって、「ツチノコ」も、「美術の著作物」には該当しない。
 次に、妖怪シリーズで制作された妖怪の模型原型は、想像上のものであり、実在するものではないものの、被告の製造販売に係る菓子等のおまけにするために全く新たに創作されたものではなく、前記(2)イでも述べたように、旧来から人々の間に語り継がれ、絵画等に表されてきたものを参照して、立体化したものである(「百鬼夜行」については、過去の文献である「百鬼夜行」に掲載された妖怪を立体化したものであることも認められる。)。しかるところ、本件模型原型は、旧来、絵画等に表されてきた妖怪と比較して、それらをそのまま模したものではなく、創作者の個性がそれなりに現れたものであるとは考えられるが、やはり、前述のチョコエッグ等と同じく、大量に製造され安価で頒布される小型のおまけのために製造された模型原型であるから、制作者の技術や発想において優れたものがあり、創作的表現がされているとしても、純粋美術の場合のような美的表現の追求とは異なり、一定の限界内での美的表現にとどまっているといわざるを得ない。したがって、妖怪シリーズのフィギュアの模型原型についても、客観的にみて、一般の社会通念上、美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえないから、「美術の著作物」には該当しないものというべきである。なお、妖怪シリーズのフィギュアも、上記のチョコエッグの動物フィギュアと同じく、細部にわたるまで細かな成形、彩色が行われており、それらは、模型制作上の技術が高いことをうかがわせるが、そのことは、必ずしも、純粋美術と同視できるような創作性の存在に直結するわけではない。
ウ なお、量産品のひな型であっても、専ら美の表現を追求した純粋美術と同視できる創作性、美術性を有するものが存在することは否定し得ず、そのような創作性、美術性を有するものが存在したとすれば、それについて、量産品のひな型であるという理由によって、著作権法上の「美術の著作物」への該当性が否定されることはないというべきである。
 しかし、前記イのとおり、本件各契約の対象となったフィギュアの模型原型は、そのもの自体に、純粋美術と同視できる創作性、美術性を備えているとは認められず、その故に著作物に該当しないというべきであって、量産品の原型であることによって直ちに著作物であることが否定されるものではない。
 原告は、量産されるものであっても著作物性が否定されるものではなく、本件模型原型には純粋美術と同視し得る創作性、芸術性があると主張するが、原告の主張は、リアルな模型原型を制作する技術力について述べるものにすぎない。技術力と創作性や芸術性は異なるから、原告の主張は失当である。
(4) よって、本件模型原型は、いずれも著作権法上の著作物性を肯定することはできない。
2 争点(2)(本件各契約の違約金支払規定は、被告が模型原型が著作物であり原告がその著作権を有しあるいは管理しているとの錯誤に陥っていたことを理由として、無効となるか)について
(1) 前記第2の1の前提事実並びに証拠(甲第1ないし第9号証、第11号証、第12号証の1、2、第14、第15号証〔甲第15号証中被告作成部分についてはその存在のみ。以下同じ。〕、第18、第19号証の各1、2、第20号証、第22ないし第26号証、第29号証、乙第1号証、第6号証、第19号証、第43ないし第46号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。なお、本件契約J及びMについては、後記4及び5において詳述する。
ア 被告は、卵型のチョコレートの中におまけの入った商品が売れているという話を聞き、試験販売したところ好評であったので、原告に動物の模型の製造を依頼し、その複製物を卵形のチョコレートに入れて販売する企画を立てた。これがチョコエッグの企画である。
 チョコエッグの企画開発は、当時の被告の代表取締役であったAと、Aの長男で当時被告の常務取締役であったBを中心として行われた。原告と被告の間の交渉は、原告側はCが、被告側はBが担当した。
 Cは、「チョコエッグ」がこれまでにない新しい商品であるため、従来の子供向けのおまけではなく、大人も納得できるようなおまけにしたいと考え、模型の開発リスクを負担する代わりに、原告に自由に企画開発させて欲しいと申し出た上、模型原型を被告が買い取る方式ではなく、販売数に応じて被告がロイヤルティを支払う方式で行いたいと提案した。
 Bは、被告においては従前から菓子とおまけを一体化した商品を製造販売しており、その際にはおまけの原型を数万円から数十万円で買い取る方式を採っていたが、Cの提案を踏まえ、ロイヤルティ方式の方が原告も模型原型の制作に熱心になるであろうとの判断の下、ロイヤルティ方式を採ることに合意し、Aはこれを了承した。
 模型原型は、前記1(1)ア記載の方法で制作された後、彩色されていないものと共に被告に渡された。被告は、海外の工場にて金型を制作して複製物を製造し、卵形チョコレートの中に入れて、商品として完成し、販売した。
イ 原告と被告は、平成11年9月、「日本の動物コレクション第1弾」として、動物24種類の模型原型について、被告の報告する販売数量に応じたロイヤルティを支払う旨の契約(本件契約@)を口頭にて締結した。また、同年12月には、別の模型原型について同様の内容による本件契約Aを、さらに平成12年2月には別の模型原型について同様の内容による本件契約Bをそれぞれ口頭にて合意締結した。
 その後チョコエッグの売行きが好調で販売数量が多くなったため、本件契約C以降は、原告と被告の間で契約書を取り交わすこととした。契約書には、前文に「甲(注記:原告)が著作権を管理又は所有する別紙記載の著作物(以下「本件著作物」という)を使用した別紙記載の商品(以下「指定商品」という)の製造、販売、または頒布について、以下の通り契約を締結する。」と記載され、また、原告が被告に対し「本件著作物」を使用した指定商品を製造、販売又は頒布することを独占的に許諾すること、独占的許諾に対するロイヤルティとして、希望小売価格に一定のパーセンテージ及び指定商品の製造数量を乗じた金額を支払うこと、支払方法は毎月末に製造数量を集計の上、翌月20日に原告指定の金融機関口座に振り込む方法にて支払うこと、製造数量は集計した翌月10日までに原告に報告すること、仮に実際の製造数量が報告数量を上回っていた場合には、契約の解除の有無にかかわらず、被告は原告に対し、上回っていた指定商品1個につき、ロイヤルティ単価の倍額の違約金を支払うことなどが規定された。なお、本件契約C以降に締結された契約の契約書は、本件契約Jを除き、いずれも同様の条項が記載されている。
ウ 原告と被告は、さらに、妖怪や、ファンタジー物語で有名な「不思議の国のアリス」の登場人物等をおまけにして、菓子と一緒に箱に入れる商品シリーズ、すなわち妖怪シリーズやアリス・コレクションを企画した。
 妖怪シリーズについては、原告はその造形原型の制作をEに依頼し、彩色を原告において行った後、完成した模型原型を被告に渡した。被告は、複製物を制作し、キャンデーと共に箱詰めして販売した。妖怪シリーズに関する原告と被告の間の契約は、それまでのチョコエッグにおける契約と同様、原告が被告に対し模型原型の複製物を使用した商品の製造等を許諾する代わりに、被告は一定のロイヤルティ単価に製造数量を乗じた金額をロイヤルティとして支払うこと、被告が報告する製造数量よりも実際の製造数量が上回った場合には、上回った数量分についてロイヤルティの2倍相当の違約金を支払うことなどを内容とする契約であり、本件契約C等で使用された契約書と同様の条項が記載された契約書が取り交わされた。
 アリス・コレクションについては、原告はその造形原型の制作をFに依頼し、彩色を原告において行った後、完成した模型原型を元に複製品を製造し、被告の注文に応じて複製品を販売した。被告は、原告から渡された複製品をキャンデーと共に箱詰めして販売した。アリス・コレクションに関する原告と被告の間の契約にも、本件契約C等で使用された契約書と同様の条項が記載された契約書が取り交わされた。
エ Aは平成13年4月に病気のため入院し、Bは、同年11月に被告常務取締役の職を辞して退職した。その後、AやBは本件各契約に関与していない。
 被告では、A入院後からG及びHも代表取締役となって業務を担当するようになり、平成13年10月には、Aを会長、Gを社長、Hを副社長とする決議を行った。更に平成15年4月には、Aを相談役、Gを会長、Hを社長とする旨の決議がなされた。
 A及びBが本件各契約に関与しなくなった平成13年12月以降も、被告は、本件各契約に関し、指定商品の製造数量を報告し、平成14年3月までは毎月1000万円以上、その後も相応のロイヤルティを原告に対して支払っていた。
オ 平成14年1月、英国マクミラン出版社の著作権につき我が国で独占的実施権を許諾されていると主張する株式会社サンモアは、被告に対し、アリス・コレクションのフィギュアが英国マクミラン出版社の著作権と株式会社サンモアの商標権を侵害するという理由で、製造販売の中止を要求した(乙第1号証)。被告は、独自に調査しあるいは弁護士を雇うなどして、上記要求に対応した。
 また、平成14年5月ころ、Eは、被告との契約において模型原型制作費用の内金として受け取っていた250万円を、被告との制作請負契約を解約したことを理由に、返金した。被告は、被告とEの間の契約では著作権に基づくロイヤルティ支払方式が採られておらず請負契約による模型原型の買取方式が採られていたことを知り、また、内部調査の結果、Eが妖怪シリーズの模型原型の制作者であることを確認した。
 以上の過程において本件各契約における著作権の管理の問題や著作物性の問題が認識されたものの、被告は、原告に対し、本件各契約では、模型原型は著作物であり、原告に著作権あるいはその管理権があることを前提としていることについて改めて問い合わせたり、ロイヤルティ支払方式を採っていることや違約金支払規定について再考を促したりしていない。
カ 原告は、平成14年8月30日付け「契約解除通知書」(甲第18号証の1)により、被告が指定商品の製造数量を大幅に上回る数量のカプセル入りフィギュアを製造していることなどを理由として、本件契約Lを解除する旨の意思表示をした。これに対し、被告は、平成15年1月6日付け「ご回答書」(甲第20号証)で、原告の指摘する事実はないから、原告は本件契約Lを解除することはできず、本件契約Lは有効であるとの回答をした(なお、本件訴訟で被告は解除の効果を争っていない。)。このとき、被告は、本件契約Lについて、模型原型に著作物性が認められないことや原告が著作権を管理所有していないことなどの点について特に主張しなかった。
キ 原告が平成15年8月29日付けで製造数量を一部報告していなかったことなどを原因とする違約金支払請求を行ったところ(甲第12号証の1)、被告は、平成15年9月18日付けで、模型原型は著作物ではなく、原告は著作権を管理所有していないから、本件各契約は錯誤により無効である旨主張した書面(甲第14号証)を原告に送付した。
(2) 以上の認定事実によれば、原被告間の本件各契約において、ロイヤルティ支払方式が採られた理由は、模型原型が原告の著作物であることを前提に、その使用料を支払うという趣旨からそうなったものではなく、新たな商品開発を行うに当たり、いかなる模型原型を制作するか決する権限を原告に与え、販売数量の多寡による利益と不利益を原告へのロイヤルティに反映させ、原告に、より優れた模型原型を制作するように動機付けを与える趣旨であったというべきである。
 チョコエッグは予想以上に販売が伸び、そのため本件契約C以降は契約書を取り交わすことになり、当該契約書の前文には、模型原型が著作物であってその権利を原告が有していることが明記された。しかし、そうであるとしても、前記認定の契約当初からの経緯に照らすと、CとBが、模型原型が著作物であり、その著作権を原告が有し又は管理していることを前提として、著作物の使用料としてロイヤルティを支払う方式を採ったとは考えられない。むしろ、模型原型が著作権法上の著作物に該当するか否かにかかわらず、原告がより優れた模型原型を制作し、それによって被告の菓子等の売上が増加した場合に、被告のみならず原告もそれによる利益を享受し得るようにする点に、ロイヤルティ方式を採る趣旨があったとみる方が、前記認定の原被告間の契約をめぐる経緯に合致するというべきである。
 さらに、契約書には、虚偽の数量報告をした場合には、報告しなかった数量分についてロイヤルティの2倍に相当する違約金を支払う旨の規定(違約金支払規定)が入れられたが、その趣旨は、ライセンシーによる報告数量の真実性を担保するため、予めロイヤルティよりも多い金額を違約金として定めたものと認められ、原告に著作権が帰属することからそのような違約金支払規定を置いたとは認められない。
 以上によれば、本件各契約の違約金支払規定の合意において、模型原型が著作物であり、原告が著作権を有しあるいは管理していることが要素となっていたということはできない。したがって、本件模型原型に著作物性が認められないとしても、あるいは原告が著作権を有しても管理してもいなかったとしても、そのことをもって本件各契約、とりわけその中の違約金支払規定が、錯誤により無効となるものではない。
(3) 被告は、契約書において、模型原型を著作物とし、原告が著作権を管理所有していることが前文に明記されるとともに、違約金支払規定が加えられたことからすれば、本件各契約、その中でも違約金支払規定は、模型原型が著作物であって原告がその著作権を管理所有していることを、契約(合意)の本質(要素)とするものである、したがって、模型原型が著作物ではなく原告がその著作権を管理所有していない以上は、被告には契約(合意)の本質(要素)に錯誤があることとなるから、本件各契約、その中でも違約金支払規定は無効であると主張する。
 しかし、契約の本質(要素)は、契約書等の文言のみならず、当該契約が締結されるに至った過程等を踏まえて、当事者の合理的意思解釈から決定されるべきである(どんな些細な事柄であっても錯誤がある以上は無効が主張できるとすることは取引の安全性を著しく害することとなる。)。本件各契約における契約書において、模型原型が著作物であって、その著作権を原告が管理又は所有していることを根拠として、違約金支払規定が入れられたことをうかがわせる事情はない上、仮にこれが契約の本質(要素)となっていたのであれば、平成14年1月のアリス・コレクションに関して第三者から著作権等の侵害であるとの指摘を受けたときに、あるいは同年5月の妖怪シリーズの造形師が被告との間ではロイヤリティ方式ではなく買取方式を採っていることが判明したときに、この点について原告に問い合わせるなどするはずのところ、被告はそのような行動を一切起こしていない。
 したがって、被告の主張は失当である。
3 争点(3)(本件各契約の違約金支払規定は公序良俗違反か)について
(1) 証拠等により認定される事実は、前記2(1)記載のとおりである。
 なお、本件契約J及びMについては、後記4及び5において詳述する。
(2) 被告は、ロイヤルティ方式を採用したことにより原告が本件各契約によって多額の金員を得ていること、原告が造形原型を外注した場合には、外注先に支払う金額(制作費)と被告から受け取る金額との差額が大きいこと、にもかかわらず、更に原告が違約金としてロイヤルティの2倍相当額を受け取ることができるとするならば、その結果は暴利行為というほかないとして、本件各契約の違約金支払規定が公序良俗に反し無効である旨主張する。
 しかしながら、違約金支払規定は、被告が虚偽の報告をした場合に限り適用されるものであるから、被告が虚偽の報告をしない限りこれを支払う必要はない。また、数量が正確に報告されることを前提として成り立つロイヤルティ支払方式が採られる場合、報告数量の正確性を担保するために虚偽報告の事実が判明したときにはロイヤルティの2倍以上の違約金を支払うとの合意をすることは合理的であり、また通常行われているものと推測されるから、ロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払う旨の規定が暴利行為であるなどということはできない。なお、暴利行為として公序良俗に反すると評価されるのは、一方当事者の窮迫、無知、無経験などにつけ込んで、他方当事者が過度に不公正な取引を行う場合であるが、本件において被告は本件各契約締結前からおまけの原型に関する取引等を行っており、窮迫、無知、無経験等の状況にあったということはできないから、その点においてもロイヤルティ支払規定及びその適用が暴利行為であるということはできない。本件において原告が被告に対して膨大な違約金を請求しているのは、被告も認めるとおり被告が膨大な製造数量を原告に報告しなかった結果にすぎない。
 真実の数量を報告することを前提にするロイヤルティ支払方式に合意した上で、その真実報告義務に違反しながら、違約金支払規定及びその適用は公序良俗違反であるとする被告の主張は、到底採用できない。
4 争点(4)(本件契約Jは有効に成立し、また、違約金に関する合意がなされているといえるのか)について
(1) 前記第2の1の前提事実並びに証拠(甲第6ないし第8号証、第10号証の1及び2、第12号証の1及び2、第14号証、第29号証、乙第17、18号証、第45、46号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 本件各契約に関しては、被告においては当初よりAとBが中心となって企画開発しており、交渉担当窓口はBであった。被告のその他の取締役では、Hがその販売に関与していた程度であった。
 平成13年4月13日にAが入院した後は、本件各契約に基づくチョコエッグや妖怪シリーズはBを中心として企画開発され、契約はBが中心となってAの了解を得る形で締結されていた。
イ(ア) 被告は、本件契約H及びIに基づいて指定商品を販売したが、本件契約Iの契約期間内に被告の販売流通過程におけるペナルティとして販売が打ち切られたため、大量のおまけ(模型原型の複製品)が余ることとなった。
 原告は、被告が余ったおまけを使用して「総集編」と名付けて別の商品として販売することにつき許諾しようとしたが、本件契約Hについては契約が終了していたため、改めて、平成13年10月1日付けで、次の趣旨の内容の本件覚書を被告との間で取り交わすこととした。
 第1条(覚書の主旨)
 以前製造及び販売した指定商品の再販売に際し、本件著作物の中に一部契約終了しているものも含まれるため、今回の製造数量(5万4000個)に限り、これを販売又は頒布することを許諾する。なお、販売期間は、9種類の著作物に対する本契約が終了する平成14年2月28日までとする。
 第2条(許諾地域)
 被告が指定商品を製造販売又は頒布することができる地域は、日本国内に限るものとする。
 第3条(対価)
 原告は被告に対し、第1条の許諾に対するロイヤルティとして次の料率により計算した金額を支払う。
 ロイヤルティ=希望小売価格×3パーセント×指定商品の製造数量
 第4条(支払方法)
 被告は、製造数量を書面にて報告し、第3条に基づいてロイヤルティを計算し、これを翌月20日に、原告の指定する金融機関口座に振り込む方法により支払う。
 第5条(覚書の尊重)
 本覚書は、原告被告双方の信頼関係に基づいて締結されたものであって、本覚書に定めのない事項が発生した場合、原告と被告は誠意をもって協議し、解決に当たるものとする。
 なお、第1条の「指定商品」とは本件契約H及びIに基づき製造販売される商品(ただし商品名は異なる。)を、「9種類の著作物」とは本件契約Iの対象となった模型原型を、「本契約」とは本件契約Iを意味する。
(イ) 本件契約H及びIには、本件覚書の第1条ないし4条と同様の趣旨の規定のほか、製造数量の確認、希望小売価格の変更、著作権の表示、商標及び意匠登録、品質管理、責任範囲、通知義務、権利譲渡などの禁止、機密保持、違約金、契約解除、期限の利益の喪失、合意管轄についての規定が、合計19条ある。
 本件覚書には、本件契約H及びIの契約書にはあって本件覚書にはない規定の趣旨を排する旨の規定はない。
(ウ) 本件覚書の末尾には、甲欄に原告の本店所在地及び社名、代表取締役氏名が記名の上押印され、乙欄に被告の本件所在地及び社名、代表取締役氏名(A)が手書きされた上、押印されている。
 本件契約H及びIの契約書の乙欄と本件覚書の乙欄を比較すると、本件契約H及びIの契約書の被告の本店所在地、社名及び代表取締役氏名(A)がゴム印等による記名であるのに対し、本件覚書の被告の本店所在地、社名及び代表者氏名はいずれも手書きである、本件契約H及びIの乙欄の印影は、被告の社長印と思われる印章によるものであるのに対し、本件覚書の乙欄の印影は、社長印ではない個人の印章によるものである点で相違する。
(エ) Bが平成13年11月に被告を退職した後も、被告は、本件覚書に基づき、原告に対しロイヤルティとして5832円(648個分)を支払い、本件覚書が権限なき者によって作成されたから無効であるなどの主張をしなかった。
ウ Bは、平成13年11月10日付けで被告取締役を辞任して被告を退職し、同月22日に新たに株式会社エフトイズ・コンフェクト(以下「エフトイズ」という。)を設立した。エフトイズは、被告に対し、原告と被告の間の契約の仲介に入り、企画料の名目で金員をもらいたいと要求し、原告も、被告に対し、エフトイズに仲介させなければ、契約を続行しない旨述べた。
 これに対し、被告は、原告との契約はB個人が行ったものではなく、被告として行っていると主張し、原告及びエフトイズの要求を拒絶した。
エ 原告は、平成14年12月3日付け「御通知書」(甲第10号証の1)によって、チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシック(本件契約@ないしG、L)、妖怪シリーズ(本件契約HないしK)、アリス・コレクション(本件契約M)について、報告された以上の数量が製造されていることが判明したことを理由にその違約金を請求し、また、平成15年8月29日付け「御通知書」(甲第12号証の1)によって、再度違約金を請求した。これに対し、被告は、平成15年9月18日付けの「御回答書」と題する書面(甲第14号証)において、本件各契約が錯誤により無効であることを理由として原告のロイヤルティ支払請求を拒絶しているが、その際に本件契約Jが権限のない者によって締結されたから無効である旨の主張はしていない。
(2) 以上の認定事実によれば、次のようにいうことができる。
ア 本件覚書は、被告が本件契約H及びIの指定商品の販売を打ち切られたことにより残った大量のおまけを、本件契約Iの契約期間中、新しい商品として菓子と共に販売できるようにするために、対象となる模型原型とこれを使用した指定商品の製造販売期間を修正することを目的として、作成されたものである。Bは、この修正を行うことについて、特に被告から権限を得ていたわけでもないのに、Aに許可を得ることなく、独断で行った。
 本件覚書は、Bの独断で作成されたものであったが、被告はその後もこれが無効であるとの主張を行うこともなく、本件覚書に従って、製造数量を報告し、ロイヤルティを支払った。
 したがって、Bに本件契約H及びIを修正する権限が与えられていたということはできないが、被告は修正後の本件覚書の内容を追認したというべきである。
イ 本件覚書には、ロイヤルティ支払規定や数量報告規定は存在するものの、違約金支払規定も、違約金の支払については本件契約HあるいはIの条項を適用する旨の規定もない。
 しかしながら、本件覚書は、第1条「覚書の主旨」で、本件契約H及びIについての再発売であること、販売期間については「本契約が終了する平成14年2月28日まで」、すなわち本件契約Iを本契約としてこれと同じ契約期間であることが明記されている上、その他には許諾地域、対価、支払方法についてしか定めを置いていない。このような場合には、本契約とされた本件契約Iに合意されている規定は、これを排する旨の規定がない限り、本件覚書においてもそのまま適用することが前提とされていることが書面上も明らかというべきであって、本件覚書第5条の本件覚書に規定がない場合の誠実な協議とは、本件契約Iを前提とする協議をいうと解すべきである。特に、違約金支払規定は、ロイヤルティ支払方式を採る場合に被告の製造数量の報告の真実性を担保するために必要な規定であるから、本件契約C以降その旨合意されながら、本件契約Jにおいて特に排除すべき必要性も認められない。
 そうすると、本件覚書は、本件契約Iの違約金支払規定を含めた各規定の適用を当然前提としているというべきであって、被告は、そのような契約としてこれを追認したというべきである。
(3) 被告は、本件覚書の署名押印が本件契約HやIの契約書の記名押印と異なることを理由に、また、本件覚書には違約金支払規定がないことを理由に、契約の成立、とりわけ違約金支払規定の合意の成立、追認を否定し、本件覚書がBの偽造である旨、違約金支払規定は知らない旨述べる被告取締役らの陳述書(乙第45、第46号証)を提出する。
 しかしながら、被告が本件覚書に基づいて製造数量を報告し、ロイヤルティを支払っていることからすれば、Bに本件覚書を締結する権限がなかったとしても被告においてこれを追認したというべきであるし、本件覚書が本件契約Iを「本契約」と位置付け、本件契約HあるいはIが19条によって構成されているのに対して本件覚書がわずか5条によって構成されていることからすれば、本件覚書に記載されていない点については本件契約Iにおいて規定されている内容が当然前提とされているというべきである。
5 争点(5)(本件契約Mは有効に成立しているのか)について
(1) 前記第2の1の前提事実及び証拠(甲第1ないし第7号証、第9号証、第11号証、第15ないし第17号証、第29号証、乙第17、第18号証、第45、第46号証)によれば、次の事実が認められる。
ア 原告と被告は、「不思議の国のアリスの冒険」等の挿絵を立体化したフィギュアを菓子と共に販売するアリス・シリーズを企画した。なお、原告と被告の契約は、従前よりBが窓口となっていたが、Bは、入院等の理由によってAから社長の肩書きを外して会長とした平成13年10月3日の取締役会の決議に反対し、平成13年11月10日付けで被告の常務取締役を辞任の上退職し、同月22日付けでエフトイズを設立した。
イ 原告は、アリス・シリーズについて、ロイヤルティを1個当たり小売価格の3パーセント、契約期間を平成13年11月22日から平成14年11月21日、製造数量を毎月末に集計の上、翌月10日までに原告に報告し、翌月20日までにロイヤルティを算出の上支払うこと、仮に報告した数量よりも実際の製造数量が上回っている場合には上回った分についてはロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払うことを内容とする、平成13年11月22日付けの契約書(甲第15号証。以下「本件アリス契約書」という。)を作成し、被告に送付した。なお、同契約書の内容は、基本的には本件契約C以降で取り交わされた契約書の内容と同様である。
ウ 本件アリス契約書は、乙欄に、被告の本件所在地、社名及び代表取締役氏名(A)が手書きされ、押印された状態で、原告に返送された。
 本件アリス契約書の乙欄と、本件契約Cの契約書等(甲第1ないし第7号証、第9号証、第11号証)の乙欄を比較するならば、後者においては、被告の本店所在地、社名及び代表取締役氏名がゴム印等による記名であるのに対し、本件アリス契約書の被告の本店所在地、社名及び代表取締役氏名はいずれも手書きである、本件契約Cの契約書等の乙欄の印影は、被告の社長印と思われる印章によるものであるのに対し、本件アリス契約書の乙欄の印影は、社長印ではなく個人印と思われる印章によるものである、という点で相違する。
 本件アリス契約書の乙欄の署名押印と、本件覚書の乙欄の署名押印は、同じである。
エ 本件アリス契約書には、契約期間が平成13年11月22日から平成14年11月21日まで、とされていたが、平成14年5月までに、被告はアリス・コレクションを304万個製造し、原告に対し、ロイヤルティとしてその一部分を支払った。
 また本件契約Mでは、アリス・コレクションが新しい企画であったことから、原告において販売が伸びなかった場合のリスクを負うために、模型原型の複製物を原告が製造し、被告の注文に応じてこれを納品することとなっていた。原告は、複製物の製造について平成14年11月27日に796万5000円及びその消費税分を請求し、被告は平成15年3月31日に836万3250円を支払った。
 原告は、平成14年11月27日、被告に対し、ロイヤルティ159万3000円と消費税分7万9650円を請求したが、被告はこれに対してロイヤルティ等を支払おうとしなかった。被告は、原告に対し、本件訴訟提起前に、支払わない理由は本件アリス契約書(甲第15号証)が権限のない者によって作成されたからであるとの説明等をしたことはない。
(2) 以上からすれば、次のようにいうことができる。
 アリス・コレクションの企画は、従前どおり原告側はCが、被告側はBが担当して交渉を進めていたが、本件アリス契約書を取り交わす段階で、被告側の経営権問題等が生じBが被告を退職することとなった。
 Bは、アリス・コレクションに関する契約を締結する権限がないにもかかわらず、原告から送付されてきた、自らが被告常務取締役を辞任し被告を退職した後であるが契約期間開始日である平成13年11月22日付けの本件アリス契約書に、被告の本店所在地、社名及び代表取締役氏名を記載して押印した。
 被告は、Bが被告を退職した後も、本件アリス契約書が有効に成立していることを前提として、1664万7000円(304万個の製造個数のうち、被告がロイヤルティを支払った額)を支払い、また、アリス・コレクションに入れる複製物の製造制作費として836万3250円の金額を支払った。
 したがって、本件アリス契約書は権限のないBによって作成されたものの、被告はこれを追認したというべきである。
(3) 被告は、本件アリス契約書が権限なき者によって作成されたから無効であると主張し、本件アリス契約書はBによって偽造された旨述べる被告取締役らの陳述書(乙第45、第46号証)を提出している。しかしながら、その後の被告の言動からすれば、被告は、Bが独断で締結した本件契約Mを追認したことが明らかであるというべきである。
6 争点(6)(未払のロイヤルティ・違約金等の額)
(1) ロイヤルティについて
ア 本件契約@ないしB
(ア) 本件契約@ないしDに関し、被告が原告に対してその数量を報告していなかった個数は1086万4016個であることは当事者間に争いはないが、そのうち、本件契約@ないしBの個数がどれほどかについては証拠上必ずしも明らかではない。この点、甲第24号証によれば、本件契約@ないしBの報告数量は642万1360個(甲第24号証の「チョコエッグ1個入り」、「チョコエッグ2個入り」及び「チョコエッグバラ」の欄に記載されたものは、契約期間から本件契約@ないしBに基づくものと認められる。)であり、本件契約C及びDの報告数量は2761万2080個(甲第24号証の「チョコエッグ日本の動物」及び「チョコエッグ(パルコ)」欄に記載されたものは、契約期間から本件契約C及びDに基づくものと認められる。)であるから、本件契約@ないしDにおける、本件契約@ないしBの割合は、18.87%であると認めることができる。
 したがって、本件契約@ないしDにおける未報告数量1086万4016個のうち、本件契約@ないしBの未報告数量は205万0040個(小数点以下四捨五入。以下同じ。)というべきである。
 ところで、本件契約@ないしBの場合、ロイヤルティは販売数量を基準とするところ、上記未報告数量は製造数量であるから、その結果をそのまま本件契約@ないしBのロイヤルティ算定式に算入することに疑義がないわけではない。しかし、製造数量と販売数量は製造数量の方が多いことは明らかであるところ、被告は本件契約@ないしBに関し、製造した指定商品の在庫が残っている旨主張もせず、製造数量が販売数量となることについて争っていない。チョコエッグの売れ行きが良かったとのC及びHの陳述書等(甲第23号証、第29号証、乙第45号証)からすれば、製造したものはすべて販売されたものと推認することができる。
 したがって、本件契約@ないしBの前記未報告数量を基準として同契約のロイヤルティ算定式により算出した結果、本件契約@ないしBにおける未払ロイヤルティは768万7650円となる。
(イ) 被告は、本件契約@ないしBの未報告数量は256万7056個であると主張し、その根拠として生産数、申告数、実販売数の一覧表(乙第14号証)や確認の文書(乙第15、第16号証)を提出する。しかし、本件契約@ないしBについてはロイヤルティの請求しかされておらず、本件契約C及びDについては違約金の請求がなされていることからすれば、被告の主張は被告にとって有利な主張であるから、乙第14ないし第16号証の合計数等を導く根拠となった書類が提出されない以上、その内容を信用することはできない。
イ 本件契約Mについて
 原告が、本件契約Mに基づき平成14年5月までに304万個のアリス・コレクションを製造し、被告に引き渡したものの、被告がそのうち26万5500個についてはロイヤルティが支払われていないこと及びアリス・コレクションのロイヤルティは小売価格(200円)の3%であること、したがって、未払ロイヤルティは159万3000円であることについて、当事者間に争いはない。
ウ 合計
 上記アとイのロイヤルティの合計額は928万650円である。
(2) 違約金
ア 本件契約C及びDについて
 本件契約C及びDの未報告数量は、前記(1)ア(ア)によれば、1086万4016個−205万0040個(本件契約@ないしBの未報告数量)=881万3976個である。
 したがって、本件契約C及びDにおける違約金算定式により算出すると、違約金は6610万4820円となる。
イ 本件契約E及びFについて
 本件契約E及びFの未報告数量が847万9295個であること及び違約金算定式には争いがない。その結果、本件契約E及びFにおける違約金は6359万4712円となる。
ウ 本件契約Gについて
 本件契約Gの未報告数量が22万9536個であること及び違約金算定方式には争いがない。その結果、本件契約Gにおける違約金は275万4432円となる。
エ 本件契約H及びIについて
 本件契約H及びIの未報告数量が36万1800個であること及び違約金算定方式には争いがない。その結果、本件契約H及びIにおける違約金は、651万2400円となる。
オ 本件契約Jについて
 本件契約Jの未報告数量が5万1910個であることに争いはない。
 本件契約Jには本件契約H及びIと同様の違約金支払の合意がなされていると解されることは、前記4記載のとおりである。
 したがって、本件契約Jにおける違約金は93万4380円である。
カ 本件契約Kについて
 本件契約Kの未報告数量が63万1568個であること及び違約金算定方式には争いがない。その結果、本件契約Kにおける違約金は757万8816円となる。
キ 本件契約Lについて
(ア) 前記第2の1の前提事実((2)ウ(イ))及び証拠(甲第11号証、第18、第19号証の各1、2、第20号証、第29、第30号証、乙第7号証、第50号証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 本件契約Lにおいては、被告は、指定商品(チョコエッグ・クラシック)を製造した段階でその個数を原告に報告することとなっていた。
b 被告は、原告に対し、平成14年8月5日付け「チョコエッグ・クラシックの再販に関して」と題する報告書(乙第7号証)により、同月2日現在、チョコエッグ・クラシックの在庫数が1万9245ケース(1ケースには、チョコエッグ・クラシックが80個入っているため、153万9600個となる。)であると述べた上で、本件契約Lは平成14年9月9日で終了することとなっているが、その後も在庫のチョコエッグ・クラシックを販売したいとの意向を伝えた。
 これに対し、原告は、平成14年8月30日付け「契約解除通知書」(甲第18号証の1)によって、本件契約Lを解除する旨の意思表示をし、同通知書は翌31日に被告に到達した。
c なお、被告は、本件訴訟において、30万7712個に対するロイヤルティが発生している事実及びこれについてロイヤルティを支払う意思がある旨主張した。
(イ) 以上によれば、平成14年8月5日付け報告書に記載されていたチョコエッグ・クラシック153万9600個のうち、少なくとも30万7712個については製造されていながら原告に報告されていなかったものであり、違約金支払規定適用の対象となる個数ということができる。
 したがって、本件契約Lにおいて発生する違約金は、この個数を基に本件契約Lの違約金支払規定の式で算出した295万4035円であると認められ、これを超える違約金支払義務が発生したことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 原告は、被告の本件各契約における虚偽報告の実態等にかんがみれば、平成14年8月5日付け報告書に記載された在庫数はすべて未報告数量と考えるべきであると主張する。しかし、本件契約Lでは製造段階で数量を報告することになっているため、在庫品の中には既に原告に数量を報告し、そのロイヤルティを支払っているものが含まれることは充分考えられる上、被告の本件各契約における虚偽報告の実態等を前提とするとしても、製造数量を報告していないものについて、個数を明らかにした上で契約期間を延長してでも販売したい旨述べたとは考えられず、在庫数量がすべて未報告数量であるということはできない。
(エ) なお、被告は、当初より報告していないものはあるが原告の主張する数量とは異なること、原告の主張する根拠が明らかになれば一部認める余地があることを主張し(平成15年12月4日付け準備書面(1))、数量を明らかにするようにとの裁判所の度重なる求釈明に対しようやく30万7712個が未報告数量であると主張した(平成16年7月27日付け準備書面(12))。しかるに、平成16年9月9日の弁論準備手続期日において、乙第69ないし第72号証を提出し、これを根拠として本件契約Lに関しては製造数量はいずれも報告済みであり、ただ本件契約Lが解除された後に製造したものがあるにすぎない、しかし契約解除後である以上は報告義務がないとの主張をした。
 上記の訴訟経過にかんがみれば、被告が平成16年9月9日の弁論準備手続期日(この期日に弁論準備手続期日を終結することは、あらかじめその前の弁論準備手続期日でも確認し、調書にも記載しているところである。)においてなされた上記主張は、被告の故意又は重大な過失により時機に後れて提出された防御方法であり、訴訟の完結を遅延させることになるというべきであるから、民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。
ク 合計
 以上のアないしキの違約金の合計は1億5043万3595円となる。
(3) 消費税
ア ロイヤルティに関して消費税分が外税方式で加算されることとなっていたことは、当事者間に争いはない。しかし、違約金に関しては当事者間に争いがあるので、検討する。
イ 消費税とは、国内における事業者が行った資産の譲渡等に課されるところ(消費税法4条1項)、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸し付け並びに役務の提供」であり(同法2条1項9号)、「対価の額」とは「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」(同法28条1項)とされる。ロイヤルティの支払は「資産の譲渡」や「役務の提供」に対する対価に該当するが、本件各契約における違約金は、前記2(2)で認定したような違約金支払規定が置かれた趣旨に照らすと、資産の譲渡等に対する対価的性質を有するものとはいえないと解される。
ウ また、財産等の取引があった場合にどちらが消費税分を負担することになるかは、契約上の規定がない場合、契約当事者の合理的意思解釈によって定まるというべきである。
 本件各契約では消費税の負担に関する規定はないが、ロイヤルティの支払に関して規定がなくとも消費税分を外税方式で譲受人である被告が負担することに争いがないのは、消費税制度が周知されていることと、通常の取引では消費税相当額を譲受人において負担することが前提となっているとの慣行によるものと考えられる。しかしながら、本件各契約における違約金は、資産の譲渡ないし役務の提供の対価とはいえない性質のものであるし、仮に消費税が課される対象となり得るとしても、原告と被告の間で、それをどちらが負担するかについての合意がなされたとは認められない。
エ そうすると、本件各契約において、ロイヤルティについては消費税分を外税方式で加算することは認められるが、違約金について消費税分を加算することは認められない。
(4) 遅延損害金の起算日
ア 前記第2の1の前提事実及び証拠(甲第1ないし第9号証、第10号証の1、2、第11号証、第12号証の1、2、第14ないし第16号証)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 本件各契約では、被告は、販売あるいは製造数量を毎月末に集計し、翌月10月までに原告に書面で報告し、また翌月20日までに報告した数量を基に各契約所定の計算式で計算したロイヤルティを原告に支払うこととされていた。
(イ) 原告は、平成14年12月3日付け「御通知書」(甲10の1)において、国税庁の税務調査において被告が原告に対して虚偽の製造数量報告を行っていたことが判明したこと、原告において被告が税務署に対して提出した資料を精査した結果、チョコエッグ、妖怪シリーズ(本件契約@ないしK)ほかについて相当数の未報告数量があったことを記載し、各契約における違約金支払規定の算定式に基づいて算出された違約金1億6359万6628円について、同書面到着後1週間以内に通知人(原告)代理人の銀行預金口座に送金するよう求めた。
 上記「御通知書」は平成14年12月4日に被告に到達したが(甲第10号証の2)、1週間後である同月11日を過ぎても、被告から未報告数量分の違約金が支払われることはなかった。
(ウ) 原告は、平成15年8月29日付け「御通知書」(甲第12号証の1)において、前記(イ)のうち、アリス・コレクション分を引いた違約金1億6285万4860円の支払を求め、また、本件契約Lについてはロイヤルティ725万5680円の支払を請求し、違約金支払規定の適用については留保すると記載した。同「御通知書」は、平成15年9月1日に被告の訴訟代理人弁護士の元に到達した(甲第12号証の2)。
 被告はこれに対し、平成15年9月18日付け「御回答書」(甲第14号証)で上記の原告のロイヤルティ及び違約金の請求を拒絶した。
 原告は、平成16年7月27日の弁論準備手続期日において、本件契約Lについて違約金を請求する旨主張した(訴訟上顕著)。
(エ) 原告は、平成14年5月までに、アリス・コレクションについて模型原型を製造し、被告の発注数に応じて複製を作成し、被告に引き渡していた。被告はそのうち26万5500個分のロイヤルティを支払わなかった。原告は、平成14年11月27日を売上日とする、159万3000円及び消費税7万9650円の支払を求める請求書を、被告に送付した。
イ 以上の認定事実によれば、次のようにいうことができる。
 本件各契約は、ロイヤルティについては支払期限が契約上明らかにされている(販売・製造の翌月20日まで)から、当該期限の到来により、被告は遅滞に陥ることになる。しかし、違約金については、特にその支払期限が契約上明らかにされていないことから、期限の定めのない債務として、履行請求により遅滞に陥るというべきである。
 本件契約@ないしKについて発生したロイヤルティ及び違約金は、平成14年12月3日付け「御通知書」により到達後1週間内に支払うことが求められ、同通知書は翌4日に被告に到達しているから、ロイヤルティ支払債務については、平成14年12月より前の本件各契約の各履行日から遅滞に陥っており、違約金支払債務は同通知書に記載された期限である平成14年12月12日以降遅滞に陥ったということができる。そして、原告は、本件訴訟において、本件契約@ないしBのロイヤルティ(768万7650円及び消費税38万4383円の合計807万2033円)及び本件契約CないしKの違約金(合計1億4747万9560円)の合計1億5555万1593円について、平成14年12月12日以降の遅延損害金を請求している。
 本件契約Lについて発生した違約金(295万4035円)について、原告は平成16年7月27日の弁論準備手続期日において初めて請求の意思を明らかにした。したがって、被告は、平成16年7月28日より、違約金支払債務について遅滞に陥る。原告は、被告はロイヤルティ支払時期と同時期より遅滞に陥ると主張するが、支払期限の定まっているロイヤルティと定まっていない違約金とを同様に考えることはできない。
 本件契約Mについて発生したロイヤルティ(159万3000円と消費税分7万9650円の合計167万2650円)については、被告は遅くとも平成14年6月20日までに原告に対して支払うべきところ、原告はこのロイヤルティについて、平成14年11月28日以降の遅延損害金を請求している。
7 争点(7)(原告の不当利得の成否及び被告の損失)
 被告は、原告に対し、妖怪シリーズ及びアリス・コレクションについて、錯誤(被告は模型原型が著作物であり、原告が著作権者又は著作権の管理者であることを信じて契約を締結したが、模型原型が著作物ではなく、原告が著作権者又は著作権の管理者ではなかったことは、契約の錯誤に該当する)あるいは暴利行為(制作費の数倍のロイヤルティを取得し、また制作者と被告の間に立って多額の利ざやを稼いでいること)などから、既に被告が原告に対して支払った妖怪シリーズとアリス・コレクションに関するロイヤルティ金額から、模型原型について妖怪シリーズの造形師であるE及びアリス・コレクションの造形師Fに支払ったであろう制作費の2倍の金額を引いた残金について、原告の不当利得に該当するとして返還請求している。
 しかしながら、本件各契約では、模型原型が著作物であることや原告が著作権者又は著作権の管理者であることは契約の要素となっておらず、したがって、仮にこの点に何らかの錯誤があるとしても、そのことをもって本件各契約が無効となることはないことは、前記2で述べたとおりである。
 また、買取方式とするかロイヤルティ方式とするかは当事者の意思に原則として委ねられており、その他本件でロイヤルティ方式が暴利行為に該当するといえるような事情(原告が被告の窮迫、無知、無経験等につけ込み、過度に不公正な取引を行っていると認めるに足りる事情)は認められないことから、本件契約を暴利行為として民法90条により無効とすることができないことは、前記3で述べたとおりである。
 したがって、被告による不当利得の主張は理由がなく、被告の反訴請求は失当である。
8 よって、原告の本訴請求は、主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 中平健
 裁判官 大濱寿美


(別紙指定商品製造数量対比表は省略)
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