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【事件名】翻訳書籍の共同著作事件
【年月日】平成16年11月24日
 京都地裁 平成15年(ワ)第356号 書籍発行差止等請求事件

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 樺島正法
同 橋本有恒
被告 株式会社未来社
同代表者代表取締役 B
被告 C
被告 D
上記三名訴訟代理人弁護士 岡田宰


主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求
一 被告株式会社未来社は、別紙書籍目録記載一及び二の各書類の印刷、製本、発売又は領布をしてはならない。
二 被告株式会社未来社は、その占有する別紙書籍目録記載一及び二の各書籍を廃棄せよ。
三 被告らは、原告に対し、各自、一〇七六万円及びこれに対する平成一五年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告に対し、被告株式会社未来社が開設しているホームページにおいて、別紙「謝罪広告」記載の謝罪広告を掲載すると共に、謝罪文を送付せよ。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が被告らに対し、被告らが、原告が共同著作者である翻訳著作物について、原告の同意なく、被告C(以下「被告C」という。)及び被告D(以下「被告D」という。)を翻訳者として表示して上記翻訳著作物を発行し、原告の上記翻訳著作物についての複製権(著作権法<以下、単に「法」という。>二一条)、公表権(法一八条一項)及び氏名表示権(法一九条一項)を侵害したとして、被告株式会社未来社(以下「被告会社」という。)に対し上記翻訳著作物の印刷、製本、発売又は領布の差止め及び廃棄を、被告ら三名に対し不法行為による損害賠償並びに名誉回復措置としての謝罪広告の掲載及び謝罪文の送付をそれぞれ求めた事案である。
二 基礎となる事実(証拠の掲記のないものは、当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告
 原告は、京都産業大学名誉教授であり、法哲学を専門とする学者である(<証拠略>)。原告は、ドイツ語を母国語とする者であるが、来日して三〇年以上が経過している。
イ 被告ら
 被告会社は、図書雑誌の出版販売等を目的とする会社であり、被告会社の代表者は、B(以下「被告会社代表者」という。)である。
 被告Cは、京都大学教授であり、法制史を専門とする学者である。
 被告Dは、京都産業大学助教授であり、法哲学を専門とする学者である。
(2)本件各著作物
 被告会社は、被告C及び被告Dを翻訳者として、平成一四年一一月に別紙書籍目録記載一の書籍(以下「本件著作物一」という。)を、平成一五年五月に別紙書籍目録記載二の書籍(以下「本件著作物二」という。)をそれぞれ出版した(<証拠略>。なお、以下、本件著作物一及び本件著作物二をまとめて「本件各著作物」という。)。
三 原告の主張
(1)本件各著作物の共同著作物性
ア 原告は、平成一一年夏から、京都産業大学において、被告Dと共に、週に一、二回程度、本件各著作物の原著作物であるE(以下「本件原著作者」という。)著の(<書籍名略>)と題する書籍(ドイツ語により記述されたもの。以下「本件原著作物」という。)の共同翻訳作業(以下「本件共同翻訳作業」という。)を行ってきた。本件共同翻訳作業は、平成一一年夏から平成一三年八月九日まで行われ、その回数は一二〇回を超え、時間にして四〇〇時間以上に及ぶものであった。
イ 本件共同翻訳作業は、以下の要領で行われた。すなわち、原告及び被告Dが、本件共同翻訳作業のための打合せの際に、本件原著作物を文章毎に検討して分析を加え、本件原著作者が使用する独特の概念の使い方を明確にした上で、日本語として容易に理解できる概念を探すと共に、それぞれの文章において、文字通りの日本語訳よりもその意味を正確に伝える表現をどの程度優先すべきか等について議論するという方法により行われた。
 上記の本件共同翻訳作業の過程からすると、原告及び被告Dは、共同して本件原著作物の翻訳をしたものといえ、また、本件共同翻訳作業が相互の議論を通じての作業であることからすれば、本件各著作物を分離して利用できないことは明らかである。
ウ 以上によれば、本件各著作物は、原告と被告Dによる共同著作物であり、原告は、被告Dと共に、本件各著作物について著作権及び著作者人格権を有しているというべきである。
(2)著作権及び著作者人格権の侵害
 原告は本件各著作物の共同著作者の一人であるところ、著作権及び著作者人格権の行使は共同著作者全員の同意が必要であるにもかかわらず、本件各著作物を複製し、公表し、被告Cの氏名を翻訳者として表示し、また、原告自らの氏名を公表しないことについて、原告は何ら同意していない。
(3)被告らの責任
ア 被告会社は、原告の本件著作物一に関する著作権及び著作者人格権を侵害することを認識していたにもかかわらず、被告C及び被告Dを翻訳者として表示して本件著作物一を発行したことにより、原告の本件著作物一に関する複製権(法二一条)、公表権(法一八条一項)及び氏名表示権(法一九条一項)を侵害している。
イ 被告Cは、本件各著作物の翻訳作業に全く関わっておらず、本件各著作物を公衆に提示する権利や翻訳者として自己の氏名を表示する権利を有しておらず、自らに上記権利がないことを十分に認識していたにもかかわらず、上記権利を行使して、原告の本件著作物一に関する公表権(法一八条)及び氏名表示権(法一九条)を侵害した。
ウ 被告Dは、本件各著作物の共同著作者であるが、原告の同意がないのに、被告会社をして本件著作物一を勝手に出版させ、その上、翻訳者として被告Cの名前を記載させるなどしており、原告の複製権(法二一条)、公表権(法一八条一項)及び氏名表示権(法一九条一項)を侵害した。
エ 被告らは、原告の本件著作物一に関する著作権及び著作者人格権を侵害することを認識しながら、共同して、原告の本件著作物一に関する著作権及び著作者人格権に対する侵害行為をしたものであって、被告らの行為は共同不法行為を構成する(民法七一九条一項)。
(4)被告らに対する請求
ア 損害賠償請求
(ア)著作権侵害についての損害 七六万円
 原告は、過去において行った本件各著作物と同様の学術書の翻訳著作物について、一〇パーセントの印税を取得しており、本件著作物一は被告Dと二人で翻訳しているため、原告が取得すべき印税は五パーセントとなる。本件著作物一のような学術書は、四〇〇〇部以上出版されるので、原告が受けた損害は、少なくとも七六万円(三八〇〇円×〇・〇五×四〇〇〇部=七六万円)を下らない(法一一四条二項)。
(イ)著作者人格権侵害に対する慰謝料 一〇〇〇万円
 原告は、被告らの共同不法行為によって著作者人格権を侵害されたことにより、学者としての自尊心を傷つけられ、特に信頼していた被告Dに裏切られ、学者としての業績を奪われたに等しいのであって、著しい精神的被害を被っている。しかも、被告らは、原告の権利を侵害していることを十分認識しているにもかかわらず、現在に至るも何ら原状回復措置を採っていない。このような被告らの対応をも考慮すれば、原告の精神的被害を慰謝するには、一〇〇〇万円が必要である。
イ 差止請求
 被告らは、原告の本件各著作物に関する著作権及び著作者人格権を侵害しているので、その侵害を停止するため、原告は、被告会社に対し、本件各著作物の印刷、製本、販売及び領布の差止め並びにその占有する本件各著作物の廃棄を求める(法一一二条一項及び二項)。
ウ 名誉回復措置
 被告らの権利侵害の態様が非常に悪質であることから、原告が本件各著作物の共同著作者であることを明らかにするため、被告会社が開設しているホームページ上に別紙「謝罪広告」記載の謝罪広告を載せ、かつ、原告に対して謝罪文の交付をするよう求める(法一一五条)。
(5)時機に後れた攻撃防御方法却下の申立て
 平成一六年六月九日の本件第五回口頭弁論期日において、被告らから、被告会社代表者の陳述書(乙三一)、新聞記事(乙三二)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)が提出されている。
 被告会社代表者の陳述書(乙三一)については、尋問終了後に尋問内容を自ら説明する内容のものであり、尋問結果を湖塗するものであって許容できず、時機に後れたものである。
 新聞記事(乙三二)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)については、尋問前に提出できる内容のものであって、これらが証拠として採用されるのであれば、公平性に欠け、原告に対して反論の機会を設ける必要があるが、そうなると本件訴訟を遅延させることになる。
 よって、上記各書証の提出は、被告らの故意又は重過失に基づく時機に後れた攻撃防御方法の提出であり、訴訟を遅延させるものであることは明らかであるから、上記各書証の却下を求める(民事訴訟法一五七条一項)。
四 被告らの主張
(1)本件各著作物の共同著作物性について
 原告の主張は争う。
 被告Dと原告との間で、平成一一年夏からの約二年間に一〇〇回前後にわたり、「ある種の共同作業」が行われたことは認めるが、被告Dと原告が本件原著作物の共同翻訳作業なるものを行った事実はない。原告の日本語能力が不十分であったことから、本件原著作物の翻訳に対する原告の創作的寄与は全くなく、本件各著作物が原告と被告Dとの共同著作物であるということはない。
(2)時機に後れた攻撃防御方法却下の申立てに対する反論
 原告の主張は争う。
 平成一六年三月二四日の本件第四回口頭弁論期日において、被告D及び被告会社代表者の本人尋問が行われたが、同期日において、原告は、原告が最近翻訳したとする独文と翻訳文(甲四三の一・二)、被告Dがドイツに留学する際にフンボルト財団に提出した研究計画書(甲四二の一・二)を突然弾劾証拠として提出した。
 上記各甲号証(甲四二及び四三の各一・二)に対する反論や評価は、それを検討しなければ不可能であるところ、被告会社代表者の陳述書(乙三一及び被告Cの陳述書(乙三三)は、上記各甲号証について触れており、その提出以前に提出することはできないものである。
 また、被告Dの陳述書(乙三四)は、上記研究計画書(甲四二)の作成経緯について触れており、かつ、それを弾劾するものであるから、その提出以前に提出することはできないものである。
 以上によれば、平成一六年三月二四日の本件第四回口頭弁論期日以前に、被告会社代表者の陳述書(乙三一)、同陳述書の内容を補強する新聞記事(乙三二)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)を提出することは不可能であって、同年六月九日の本件第五回口頭弁論期日に、上記各乙号証を提出することは何ら時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当しない。また、被告らに故意又は重過失は存在しない。
第三 当裁判所の判断
一 本件各著作物の共同著作物性について
(1)認定事実
 上記第二の二の事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
ア 被告Cは、平成四年に本件原著作者から本件原著作物の寄贈を受けたが、そのころから、被告Cが指導者となって、被告Dを含む京都大学大学院の大学院生一二名を中心とする翻訳プロジェクトチームにより、本件原著作物の翻訳作業が開始された。
 本件原著作物は、ドイツ語による難解な法哲学の書籍であり、本件原著作者の代表作の一つとして高い評価を受けているものである。
イ その後、上記翻訳プロジェクトチームのメンバーであった大学院生の中で、遠方の大学に赴任したり、留学したりする者が出たことから、当初の予定どおりに翻訳作業を進めていくことが困難な状態となった。
ウ 被告Cは、平成一〇年六月、病気で倒れた。その後、平成一一年四月、被告Dが熊本大学から京都産業大学に赴任することになり、被告Cのところに挨拶に訪れた際に、同被告は、被告Dに対し、被告Cが病気によって以前のように先頭に立って本件原著作物の翻訳をすることができなくなったので、今までやってきたことを基にして、被告Dと一緒に本件原著作物の翻訳作業をやっていきたいという内容の話をした。
エ 被告Dは、平成一一年春ころ、当時京都産業大学教授であった原告から、被告Cが病気なので、本来は、原告、被告C及び被告Dの三人で翻訳をするはずであったが、当面は、原告と被告Dの二人で翻訳をしようという内容の申入れを受けた。
 被告Dは、被告Cと原告とが共同の名前で著書を出版していたことや原告が被告Cの名前を挙げていたことから、同被告と原告が学問上友好的な関係にあり、原告からの上記申入れについては、被告Cも了解しており、原告の上記申入れを断ることは被告Cの意思に反することになると考えて、原告からの上記申入れを了承した。
オ 被告Dは、平成一一年夏ころから平成一三年秋ころまでの間に、回数にして約一二〇回、時間にして約四〇〇時間をかけて、原告と次に述べるような「共同作業」を行った。
 上記「共同作業」は、京都産業大学の被告Dの研究室において、同被告が予め作成していた本件原著作物の翻訳原稿を事務机上のコンピューターの画面に呼び出し、原告が上記事務机の脇の応接セットで本件原著作物の該当箇所を見ながら、被告Dに対し、口頭で本件原著作物の翻訳を語るという方法で行われた。本件原著作物のような難解かつ複雑な書籍の翻訳を翻訳原稿の準備なしに行うことは極めて困難であるにもかかわらず、原告は翻訳原稿を紙に記載したものを何ら用意しておらず、また、原告の学術的な日本語の能力は十分なものではなく、被告Dにおいて原告が口頭で語った翻訳をそのままコンピューターに入力していくこと自体も困難な作業であったことから、被告Dは、原告が口頭で語った翻訳を上記画面に呼び出していた本件原著作物の翻訳原稿に反映させることはできなかった。
 そのため、被告Dは、自らが予め作成していた翻訳原稿を自らの判断において修正していった。なお、上記「共同作業」において、翻訳原稿の作成は、被告Dが同被告のコンピューターに入力して行っており、原告が自ら翻訳原稿を作成したことはなかった。
カ その後、被告Dは、本件原著作物のうち本件著作物一に該当する部分について推敲を行い、平成一四年三月ころ、原告に上記部分の翻訳原稿を交付した。
 原告は、上記原稿に修正等(甲三の手書きの書き込み部分)を加えたが、その内容は以下のとおりである。
 単語レベルや数文節の部分に対する指摘や修正は、稀に日本語のものもあるが、ローマ字又はドイツ語によるものがほとんどである。
 二行以上の部分に対する指摘は、下線が付されているだけのものがほとんどであり(すなわち、具体的にどのように修正するかについての指摘がないものがほとんどであり)、指摘がされていてもローマ字又はドイツ語によるものがほとんどである。
 語句や文章の挿入も、ローマ字又はドイツ語によるものがほとんどであり、また、該当部分について下線や丸を付したり、クエスチョンマークを付したり、文字の上に点を付すなどにより、注意喚起がされているのみで、具体的な指摘や修正がされていないものも多い。
 なお、本件原著作物と翻訳原稿の該当箇所にそれぞれ番号(数字を丸で囲ったもの)が付されて、翻訳原稿に対する指摘や修正と本件原著作物の該当部分との対応関係が示されている。
キ 被告Dと原告は、平成一四年三月から同年七月までの間、原告Dが同年三月ころに原告に交付した上記カの翻訳原稿について修正作業を行った。上記修正作業も、上記オの「共同作業」と同様、被告Dの京都産業大学の研究室において、被告Dが事務机上のコンピューターの画面に上記翻訳原稿を呼び出し、原告が上記事務机の脇の応接セットで上記翻訳原稿の該当箇所を見ながら、被告Dに対し、口頭で修正意見を語るという方法で行われた。上記修正作業は、一章当たり約一時間で、合計六ないし七回程度行われた。
 なお、上記修正作業の際、原告は、被告Dに対し、原告が上記翻訳原稿に加えた手書きの書き込みを見せなかったため、被告Dは、本件訴訟に至るまで、上記書き込みを見ていない。また、原告は、原告が加えた上記書き込みや原告が被告Dに口頭で語った修正がどのように翻訳に反映されたかについて、同被告から報告を受けていないし、その他の方法による確認もしていない。
ク その後、被告Dは、平成一四年一〇月にかけて、被告Cの指導や被告会社編集部の指示により、本件著作物一の翻訳原稿の推敲及び校正を行い、同月、最終的に本件著作物一の翻訳を完成させた。
 その後、被告会社は、同年一一月、被告C及び被告Dを翻訳者として、本件著作物一を出版した。
ケ その後、被告会社は、平成一五年五月、本件著作物一と同様、被告C及び被告Dを翻訳者として、本件著作物二を出版した。なお、原告は、本件著作物二の翻訳作業については、何らの関与もしていない。
(2)検討
ア 共同著作物とは、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別に利用することができないものをいう(法二条一項一二号)。
 本件各著作物について原告の共同著作権が認められるためには、原告が本件各著作物について著作権を取得できる程度の創作的活動をしたこと、すなわち、原告が本件各著作物の表現において自己の思想又は感情を創作的に表現したといえる程度に関与したことが必要である。
イ 上記(1)の認定事実によれば、@平成一一年夏ころから平成一三年秋ころまでの間に行われた上記(1)オの「共同作業」においては、本件原著作物がドイツ語による難解な法哲学の書籍であるにもかかわらず、原告は、紙に翻訳原稿を記載したものを用意することなく、被告Dが予め作成していた本件原著作物の翻訳原稿をコンピューターの画面に呼び出しているところに、同被告に対し、口頭で本件原著作物の翻訳を語るという方法で行われていたこと、A上記(1)オの「共同作業」の後に、同被告は原告に対し、本件著作物一に該当する部分の翻訳翻訳原稿を交付したが、同原稿に対する原告の手書きの書き込みは、単語レベルや数文節の部分に対する指摘や修正及び語句や文章の挿入についてはローマ字又はドイツ語によるものがほとんどであり、二行以上の部分に対する指摘については下線等による注意喚起のみで具体的な修正の指摘がないものがほとんどであるというような程度のものであること、B原告は、平成一一年夏ころから平成一三年秋ころまでの間に行われた上記(1)オの「共同作業」及び平成一四年春からの上記修正作業において原告が被告Dに対して口頭で語ったこと並びに上記Aの翻訳原稿に対する原告の手書きの書き込みがどのように翻訳に反映されたかについて確認をしていないこと、C翻訳という作業は、翻訳原稿を作成し、同原稿について推敲や校正を繰り返すことによって完成されるものであるところ、本件原著作物の翻訳原稿の作成、推敲及び校正の作業を行ったのは被告Dであり、原告自らが翻訳原稿の作成等の作業を行ったことはないことが認められ、以上によれば、平成一一年夏ころから平成一三年秋ころまでの間に行われた上記(1)オの「共同作業」においても、平成一四年春から行われた上記修正作業においても、原告の関与が、本件著作物一の表現において自己の思想又は感情を創作的に表現したといえる程度のものであったとは認められないし、他に原告が本件著作物一について著作権を取得できる程度の創作的活動をしたと認めるに足りる証拠はない。
ウ また、本件著作物二について、原告はその翻訳作業に何ら関与しておらず、本件著作物二について原告の共同著作権は認められない。
(3)まとめ
 以上によれば、本件各著作物が原告と被告Dとの共同著作物であるとの原告の主張は理由がない。
二 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
(1)<証拠略>を総合すると、平成一六年三月二四日の本件第四回口頭弁論期日において、被告D及び被告会社代表者の本人尋問が行われ、同期日において、原告が、原告が最近翻訳したとする独文及び翻訳文(甲四三の一・二)並びに被告Dがドイツに留学する際にフンボルト財団に提出した研究計画書(甲四二の一・二)を弾劾証拠として提出したこと、同年六月九日の本件第五回口頭弁論期日において、被告らが、被告会社代表者の陳述書(乙三一)、新聞記事(乙三二)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)を提出したこと、本件第五回口頭弁論期日は、当事者双方がいわゆる最終準備書面を提出して、裁判長が弁論を終結することが予定されていたこと、被告代表者の陳述書(乙三一)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)は、上記各甲号証(甲四二及び四三の各一・二)に対する反論や弾劾を含むものであること、新聞記事(乙三二)は、被告会社が発行する書籍の編集方法について記述されたものであることが認められる。
(2)上記(1)の認定事実によれば、上記各陳述書(乙三一、三三、三四)を提出するためには、上記各甲号証(甲四二及び四三の各一・二)の提出後にその内容を検討して分析することが必要であるところ、上記各甲号証が提出された期日である本件第四回口頭弁論期日以前に、上記各陳述書を提出することは不可能であったというべきである。
 よって、被告らが本件第五回口頭弁論期日に上記各陳述書(乙三一、三三、三四)を提出したことは、時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当するとはいえない。
(3)他方、新聞記事(乙三二)は、何ら上記各甲号証(甲四二及び四三の各一・二)に対する反論や弾劾とは関係がなく、本件訴訟の経過に照らすと、弁論準備手続が終結された本件第三回弁論準備期日以前に提出することが可能であったものと認められ、被告らが本件第五回口頭弁論期日において新聞記事(乙三二)を提出したのは、時機に後れたものであって、少なくとも被告らの過失によるものと認められるが、その提出を認めた場合であっても、新聞記事(乙三二)の証拠価値に照らすと、原告において、特段の反証が必要であるとは認められず、本件訴訟の完結を遅延させることになるとは認められない。
(4)以上によれば、被告会社代表者の陳述書(乙三一)、新聞記事(乙三二)、被告Cの陳述書(乙三三)及び被告Dの陳述書(乙三四)に対する原告の時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て(民事訴訟法一五七条一項)はいずれも理由がない。
第四 結語
 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

京都地方裁判所民事第二部
 裁判長裁判官 山下寛
 裁判官 梶浦義嗣
 裁判官 鈴木謙也は、転補のため、著名押印することができない。
裁判長裁判官 山下寛


別紙 書籍目録 <略>
別紙 謝罪広告 <略>
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日本ユニ著作権センター
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