判例全文 line
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【事件名】宮沢りえ、中田英寿のキス写真掲載事件B
【年月日】平成16年11月10日
 東京地裁 平成15年(ワ)第23221号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して120万円及びこれに対する平成15年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを7分し、その6を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して1200万円及びこれに対する平成15年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、平成15年9月8日当時、イタリアプロサッカーリーグ・セリエAのパルマに所属するプロサッカー選手であった。
イ 被告ら
(ア) 被告会社は、同当時、雑誌の出版等を業とする株式会社であった。
(イ) 被告Bは、同当時、被告会社の出版する週刊誌である「週刊現代」の発行人であった。
(2) 被告らの不法行為
ア 侵害の要件
(ア) 他人に知られたくない私生活上の事実、情報をみだりに公表されない権利ないし利益は、プライバシー権として法的に保護される。
 公表された内容が、@私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって、A一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、Bこれが一般にいまだ知られておらず、かつ、Cその公表によって被害者が不快、不安の念を覚えるものであるときは、プライバシー権を侵害する行為となる。
(イ) また、みだりに自己の容貌、姿態を撮影されず、撮影された写真を公表されることのない権利ないし利益は、肖像権として法的に保護される。
イ 本件雑誌の内容
(ア) 被告会社は、平成15年9月8日、「週刊現代2003年9月20日号」(以下「本件雑誌」という。)を発売した。
(イ) 本件雑誌の表紙には、「AとC「ディープキッス」写真法廷に」と記載され、50頁及び51頁には、「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」との大見出しが付された記事が掲載されている(以下、表紙の記載を含め、「本件記事」という。)。
ウ 侵害
(ア) 侵害箇所
 本件記事のうち別紙原告指摘箇所記載(1)〜(5)(以下「原告指摘箇所(1)」のように表記する。)は、原告のプライバシー権又は肖像権を侵害する。
 なお、別紙原告指摘箇所(3)のとおり、後記BUBKA10月号に掲載された原告がC(以下「C」という。)と濃厚なキスをしている写真を「キス写真」といい、キス写真を掲載したBUBKA10月号の3頁及び4頁の写真を「本件写真」という。
(イ) 私生活上の事実
 原告指摘箇所(1)〜(5)は、いずれも原告のプロサッカー選手としての活動に関する写真又は記述ではなく、私生活上の事実である。
(ウ) 公開を欲しない事実
a キス写真は、一般人が許可なくその中に立ち入ることができない会員制のクラブ内で、しかも、原告とその親しい友人以外の入場をシャットアウトした貸切パーティーという状況の下で、クラブ経営者によって撮影された。
b 濃厚なキスシーンを主な内容とする原告指摘箇所(1)〜(5)は、一般人の感受性を基準として、公開を欲しない事柄である。
(エ) 一般に知られていない事実
a 原告指摘箇所(1)〜(5)は、本件雑誌の発売当時、一般に知られていない事実であった。
b 請求原因に対する認否(2)ウ(エ)b(BUBKA10月号による公表)のうち、BUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号の発行部数は否認し、その余は認め、c(東京スポーツによる公表)は認める。BUBKA10月号の発行部数は13万3350部、別冊BUBKA10月号の発行部数は6万部弱にすぎない。
c BUBKA誌は、読者の平均年齢は10代〜30代、読者の男女比は男性80%、女性20%という主に若い男性を購読層とする雑誌である。
 また、キス写真は、BUBKA10月号において袋とじとされ、購入した者にしか見ることができない構造となっていた。
d(a) 東京スポーツは、キス写真そのものは掲載していない。
(b) また、本件雑誌の購読層と東京スポーツの購読層とは異なる。
e しかも、本件雑誌は、BUBKA10月号発売の9日後に発売された。
(オ) 不快の念
 原告は、本件雑誌でCとの親密な交際及び濃厚なキスの事実を写真付きで報じられたため、不快、不安の念を覚えた。
(3) 責任原因
ア 被告B
 被告Bは、本件雑誌の発行人として、故意により、又は原告のプライバシー権又は肖像権を侵害しないように配慮すべきであるのにこれを怠った過失により、原告のプライバシー権及び肖像権を侵害した。
イ 使用者責任
(ア) 被告会社は、被告Bの使用者である。
(イ) 被告Bによる本件雑誌の発行は、被告会社の事業の執行につき行われた。
(ウ) よって、被告会社は、本件雑誌の発行により原告に生じた損害を賠償する義務がある。
(4) 損害
ア 精神的損害
(ア) 原告指摘箇所(1)〜(5)は、原告の私生活上の事項を、のぞき見趣味的、かつ興味本位に公表するものである。
(イ) 本件雑誌は、発行部数約80万部の週刊誌であり、一般書店、コンビニエンスストア等で容易に入手することができ、その宣伝も新聞広告や電車の車両内の中吊り広告等により、大々的に行われており、本件雑誌が有する一般公衆に対する情報の伝播力は、極めて強い。
(ウ) これらの事情を考慮すると、原告指摘箇所(1)〜(5)の公表により原告が被った精神的損害を慰謝するには、1000万円をもってするのが相当である。
イ 弁護士費用
(ア) 原告は、本訴原告訴訟代理人山崎卓也弁護士らに対し、本訴の提起及びそれに先立つ仮処分の申立てを委任し、日弁連報酬基準規程に基づく報酬の支払を約束した。
(イ) そのうち、被告らの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害額は、200万円を下らない。
(5) 結論
 よって、原告は、被告らに対し、不法行為(民法709条、715条)に基づき、損害金1200万円及びこれに対する不法行為の日である平成15年9月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)(当事者)は認める。
(2)ア 同(2)(被告らの不法行為)ア(侵害の要件)は認める。
イ 同(2)イ(本件雑誌の内容)は認める。
ウ(ア) 同(2)ウ(侵害)のうち、(ア)(侵害箇所)は否認する。
(イ) (イ)(私生活上の事実)は否認する。本件記事は、後記抗弁(2)のとおり、公共的利害に関係する社会的紛争について報じ、その報道に必要な範囲内でBUBKA10月号の誌面を引用したものであるから、原告の私生活上の事実を記事にしたものではない。
(ウ)a (ウ)(公開を欲しない事実)のうち、a(撮影状況)は不知、b(公開を欲しないこと)は否認する。
b 本件記事は、後記抗弁(2)のとおり、公共的利害に関係する社会的紛争について報じたものであるから、原告指摘箇所(1)〜(5)は、一般人の感受性を基準として、他人への公開を欲しない事柄とはいえない。
c 仮に、本件記事が芸能人間の親密な交際を内容とするものであるとした場合であっても、原告とCは、人が多数出入りするクラブ内で開催された芸能人が多く参加する酒の席で、一時の遊び心で唇を交わし、この行為が第三者に撮影されていることを十分認識していたものであるから、原告指摘箇所(1)〜(5)は、当該立場にある一般人の感受性を基準として、他人への公開を欲しない事柄とはいえない。
(エ)a (エ)(一般に知られていない事実)aは否認し、c(BUBKA誌)は不知、d(東京スポーツ)のうち(a)(キス写真の不掲載)は認め、(b)(購読層の相違)は不知、e(本件雑誌の発売時期)は認める。
b 別冊BUBKA10月号は、本件雑誌の発売に先立つ平成15年8月28日ころ、キス写真を除く写真を掲載して、原告とCの親密な交際及び濃厚なキスの事実を報じ、同月30日発行のBUBKA10月号は、キス写真を含む写真を掲載して、原告とCの交際及び濃厚なキスの事実を報じた。
 BUBKA10月号の発行部数は30万部であり、別冊BUBKA10月号の発行部数は20万部である。
c また、平成15年8月30日発行の東京スポーツは、一面で、原告とCとの親密な交際、キス写真の存在及びキス写真の内容について報じた。
 東京スポーツの発行部数は、約250万部である。
(オ) (オ)(不快の念)は不知。
(3) 同(3)(責任原因)ア(被告B)は否認し、イ(被告会社)のうち、(ア)(使用者)及び(イ)(事業の執行)は認め、(ウ)(責任)は争う。
(4)ア 同(4)(損害)ア(精神的損害)のうち、(ア)(のぞき見趣味)は否認し、(イ)(発行部数等)は認め、(ウ)(損害額)は否認する。
イ 同イ(弁護士費用)のうち、(ア)(訴訟委任)は不知、(イ)(損害額)は否認する。
3 抗弁
(1) プライバシー権の放棄
ア 原告の公表容認
(ア) キス写真は、第三者のいるクラブ内で、第三者の見ている状況の下で、クラブ経営者により撮影されたものであるから、原告は、キス写真の撮影を容認していた。
(イ) したがって、原告は、キス写真につき、少なくとも公表を容認していた。
(ウ) 抗弁に対する認否(1)ア(ウ)(D編集長への架電内容)は認める。
イ 訴え提起によるプライバシー権の放棄
(ア) 原告は、本件雑誌の発売当時、株式会社コアマガジン(以下「コアマガジン社」という。)を相手方として、同社がキス写真等をBUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号に掲載した行為が原告のプライバシー権を侵害すると主張して、不法行為に基づく損害金の支払を求める訴えを提起しようとしており、平成15年9月29日、実際に訴えを提起した(以下、この訴訟を「別件訴訟」という。)。
(イ) このように、原告は、自らの意思で民事訴訟手続の利用を開始し、Cとキスした等の事実が裁判という公権力の行使に関連する事実として議論の対象となることを認容したのであるから、Cとキスした等の事実につきプライバシー権を放棄したものというべきである。
(2) 公共の利害に関する事実の報道
ア 事実の公共性
(ア) 原告の地位
a 原告は、本件雑誌の発売当時、世界的に有名なプロサッカー選手としての報酬を得ていたほか、多数の広告に出演して多額の広告料を得ていた。
b また、原告は、同当時、経営再建中の株式会社東ハトにおいて、Chief Branding Officerの地位にあり、社長と共同してリーダーシップを発揮し、社員の行動規範となる「ブランドブック」作りにリーダーシップを発揮することが期待されていた。
c さらに、原告は、同当時、ホームページを開設し、その中で、サッカーという分野を通じて自己の意見を公衆に開示する等していて、現代社会のオピニオンリーダーといえる存在であった。
d したがって、原告は、同当時、重大な社会的影響力を持っていたものであり、その行動全般が批判、論評の対象となってもやむを得なかった。
(イ) 社会的紛争
a 本件雑誌の発売当時、原告は、コアマガジン社を相手方として、同社がキス写真等をBUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号に掲載した行為が原告のプライバシー権を侵害すると主張して不法行為に基づく損害金の支払を求める訴えを提起しようとする社会的紛争が発生していた。
b 著名人のプライバシー権又は肖像権と自由な表現行為との衝突局面における利益衡量は、民主主義社会で重要な位置を占める表現の自由の限界を論じる上で最も難しい問題の1つであり、国民は、その判断に大きな関心を持っている。
c 殊に、原告には、別件訴訟以前にも、プライバシー侵害の有無等が争点となった訴訟(東京地裁平成12年2月29日判決・判例時報1715号76頁)の原告となり、スポーツ選手のプライバシー権について、訴えの提起という形で自分の主張を広く公衆に伝え、スポーツ選手とジャーナリズムの関係についての議論を進めてきた実績がある。
d したがって、このような社会的紛争の発生自体が、公共の利害に関する事実である。
(ウ) 裁判の監視
a 裁判制度は、国家意思による社会的紛争の解決を本質とするものであり、国民の監視の下に置かれるべきものである。殊に、現在の我が国の社会、文化において、自由な表現行為と有名人のプライバシー権との衝突局面における利益衡量は、表現の自由という民主主義社会で重要な地位を占める権利の限界を論じる上で最も難しい問題の1つであり、国民は、どのような裁判所の判断がされるかについて、大きな関心を抱いている。
b 国民が裁判制度が正当に運営されているか否かを監視するためは、裁判所がいかなる判断を下したかだけでなく、いかなる社会的紛争が法廷に持ち込まれたか、訴訟において当事者がどのような主張や証拠の提出を行い、訴訟手続がどのように進行しているかなどの様々な事項につき知る必要があり、それに応じて、報道機関は、これら様々な事項につき報道することが許されるべきである。
c したがって、裁判所に訴訟が提起されることが確実で、表現の自由の限界の問題に関係する原告とコアマガジン社との社会的紛争は、公共の利害に関する事実である。
イ 公共の利益を図る目的
(ア) 本件記事は、上記アのように公共の利害に関する事実を広く伝えるために作成され、公表されたものである。
(イ) 実際、本件記事の大見出しは「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」というものであり、また、記事冒頭のリードは「A(26歳)とC(30歳)の「ディープキッス写真」をめぐって、騒動が起きている。8月30日発売の投稿雑誌「BUBKA」10月号に掲載されたものだが、Aの事務所が激怒。裁判に訴えることも辞さない構えなのだ。」というものであり、また記事末尾の締めは「大物同士の「親密交際写真」流出を、裁判所はどう認定するのか。」というものである。
ウ 公表方法の相当性
(ア) 公共的利害に関係する事実の報道がその報道の態様・方法により不相当であるとされるのは、例えば、著しく差別的な表現を用いたり、著しく侮蔑的な表現を用いたりするような場合に限られる。
(イ)a 本件記事は、原告とコアマガジン社との紛争の元となったBUBKA10月号の記事がどのようなものであるかを写真として掲載した。この部分がなければ、コアマガジン社との紛争の内容も争点も、原告が提起した問題点の当否も、明らかとならない。
 もっとも、このような観点からは、BUBKA10月号の記事や写真をカラーで掲載したり、原寸大ですべての頁を掲載する必要もないことから、白黒で掲載し、問題の雑誌の頁と写真がどのようなものであるかが判明する程度にとどめ、その余の頁は写真としては掲載せず、本文中で描写するにとどめた(甲3の2の51頁の写真及び50頁第2段から第3段の本文)。
b 次に、本件記事は、BUBKA10月号の記事を撮影した本件写真を介して間接的に認識できるにすぎないキス写真について、読者が十分に周囲の状況を把握できないと思われることから、キス写真の撮影状況を説明し(同50頁第2段)、その上で、原告とCの各事務所に対して取材を行って、当該写真の撮影の状況を補足した(同50頁第3段から第4段)。
c そして、本件記事は、原告やCの交際が注目に値すること、両者の著名性や社会から関心を集める事情についてふれた上で(同50頁第4段から51頁第3段)、最後に原告とコアマガジン社との間の裁判が注目されると締めくくっている。
d 以上のように、本件記事は、原告とコアマガジン社との間の裁判において予想される重要な争点、争点に関する証拠及び当事者の主張を明らかにしたにすぎない。
4 抗弁に対する認否
(1)ア(ア) 抗弁(1)(プライバシー権の放棄)ア(原告の公表容認)のうち、(ア)(撮影状況)は認め、(イ)(公表容認)は否認する。
(イ) 写真の「撮影」の承諾と「公表」の承諾とは、別であり、被告ら主張の撮影状況から公表の承諾まで推定することはできない。
(ウ) しかも、原告代理人の山崎弁護士は、本件雑誌の発売に先立つ平成15年9月2日、被告会社のD編集長に対し、電話で、キス写真及びそれに関連する情報の掲載に同意しない旨を明確に伝えた。
イ(ア) 同(1)イ(訴え提起によるプライバシー権の放棄)中、(ア)(紛争の存在)のうち原告が平成15年9月29日別件訴訟を提起したことは認め、その余は否認し、(イ)(放棄)は否認する。
(イ) 被告らの主張が成り立つとすれば、プライバシー侵害の事件につき司法的救済を求めようとした瞬間に、当該プライバシー情報につきプライバシー権の保護を受けられなくなることになるが、そのような結論が不当であることは明らかである。
(2)ア(ア) 同(2)ア(事実の公共性)中、(ア)(原告の地位)のうち、a(広告)、b(東ハト)及びc(意見発信)は認め、d(社会的影響力)は否認する。原告の本業はプロサッカー選手であり、それから派生して広告に登場し、企業の役員となり、ホームページを開設していただけであり、そのような事情は、原告のプライバシー権を制約する理由とはなり得ない。
(イ) (イ)(社会的紛争)a(紛争の存在)は否認し、b(国民の関心)は不知、c(訴訟実績)は明らかに争うことをせず、d(公共の利害に関する事実)は否認する。
 原告が別件訴訟を提起したのは平成15年9月29日のことであるから、本件雑誌が発売された同月8日の時点では、社会的紛争と呼べるものは存在しなかった。
(ウ) (ウ)(裁判の監視)のうち、a(国民の関心)は不知、b(提訴情報の重要性)及びc(公共の利害に関する事実)は否認する。
イ(ア) 同(2)イ(公共の利益を図る目的)(ア)(公共目的)は否認し、(イ)(本件記事の内容)は認める。
(イ) 原告指摘箇所(1)(表紙)や広告は、「AとC「ディープキッス」写真法廷に」のように、「AとC「ディープキッス」」の部分を強調し、原告とCとが「ディープキッス」している写真が掲載されることを暗示して、のぞき趣味的・好事的興味に訴えかけて読者の購買意欲をそそる目的・効果を有していることは明らかである。
 また、本件記事の大部分は、@キス写真が「BUBKA10月号」に掲載されたことに関連する事実、Aキス写真の詳細な説明及び描写、B原告の異性との交際の伝聞情報等から構成され、裁判に関係する部分は、原告の事務所が裁判に訴えることも辞さない構えであること等を紹介する本件記事冒頭の8行及びG日大教授の談話を紹介する末尾17行の部分にすぎない。
 このように、本件記事は、見出しに「裁判に」という文言を用いて、本件記事が社会的紛争を対象としたものであるかのように体裁を取り繕い、読者ののぞき趣味的・好事的興味に訴えかけてその購買意欲をそそる目的で作成されたことは明らかである。
ウ(ア) 同(2)ウ(公表方法の相当性)のうち、(ア)(要件)は争い、(イ)(相当性)は否認する。
(イ) 仮に本件記事が公共の利害に関係する事実につき、公益を図る目的で掲載されたものだとしても、プライバシー権について社会的紛争が生じている本件においては、その問題となっているキス写真を掲載することによって更なる権利侵害を巻き起こしかねないのであり、報道機関としては、問題となっているキス写真の掲載を差し控えるべきであった。
(ウ) しかも、キス写真を掲載しなければ、被告らが主張する社会的紛争を伝えることが困難になるという事情があったわけではない。
(エ) したがって、原告指摘箇所(1)〜(5)の公表は、比較的小さな白黒写真によったこと等を考慮しても、公表方法として相当性を欠いている。

理由
第1 プライバシー侵害又は肖像権侵害について
1 当事者について
 請求原因(1)は当事者間に争いがない。
2 本件雑誌の内容について
 請求原因(2)イは当事者間に争いがない。
3 プライバシー侵害について
(1) プライバシー侵害の要件について
 他人に知られたくない私生活上の事実、情報をみだりに公表されない権利ないし利益は、プライバシー権として法的に保護され、公表された内容が、@私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であって、A一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、Bこれが一般にいまだ知られておらず、かつ、Cその公表によって被害者が不快、不安の念を覚えるものであるときは、プライバシー権を侵害する行為となる。
(2) 私生活上の事実及び公開を欲しない事実について
ア 原告指摘箇所(1)〜(5)は、原告がCと親密な交際関係にあり、原告がCと濃厚なキスをしている様子を内容とするものであるから、私生活上の事実に該当し、一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であると認められる。
イ これに反する被告らの主張は採用することができない。
(3) 一般に知られていない事実について
ア 争いのない事実、並びに証拠(甲11、乙19、20、23〜25、33)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 平成15年8月28日ころ、コアマガジン社は、別冊BUBKA10月号を発売し、原告がCと親密な交際関係にあることを報じ、原告がCとクラブで肩を寄せ合っている様子を写真と文章で報じたが、キス写真自体はBUBKA10月号に掲載することをほのめかしただけで、掲載しなかった。
 別冊BUBKA10月号の実販売部数は、5万8220部である。
(イ) 同月30日、コアマガジン社は、BUBKA10月号を発売し、原告がCと親密な交際関係にあることを報じ、原告がCとクラブで濃厚なキスをしたことをキス写真を含む7枚の写真と文章で報じた。
 この記事は、BUBKA10月号を購入しなければ読めないように袋とじとされた。
 BUBKA10月号の実販売部数は、13万3350部である。
(ウ) BUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号は、若い男性を主たる購読層とする雑誌である。
(エ) 同月30日、東京スポーツ新聞社は、東京スポーツ8月31日号を発売し、その一面で、BUBKA10月号で報じられた内容に独自取材を加えて、原告がCと親密な交際関係にあり、濃厚なキスをしたことなどを報じ、2人が肩を寄せ合っている3枚の写真を掲載したが、キス写真自体は掲載しなかった。
 東京スポーツの販売部数は、同じ内容の中京スポーツ、大阪スポーツ及び九州スポーツを含め、250万部である。
 スポーツ誌と定評のある週刊誌の違いから、東京スポーツと週刊現代の購読層は、相当異なっている。
イ(ア) 上記説示の事実によれば、キス写真は、発行部数13万部強で、主として若い男性を購読層とするBUBKA10月号に掲載されたのみであるから、明らかに一般に知られていない情報であったと認められる。
(イ) また、原告がCと親密な交際関係にあること、同人と濃厚なキスをしたこと及びキスに至る経緯や情況がどのようなものであったかに関する情報も、本件雑誌の発売当時、いまだプライバシー権による保護が可能な程度に一般に知られていない事実であったと認められる。
 被告らは、BUBKA10月号等や東京スポーツによる報道により一般に知られていない事実ではなくなった旨主張する。確かに、BUBKA10月号等だけでなく、250万部の部数を有する東京スポーツへの掲載により、国民のうち相当数の者がCとの交際の事実や濃厚なキスをしたことを知ったことはうかがわれるが、東京スポーツ等の掲載のみからは、立ち読み等があることを考慮しても、国民の半数を遙かに超える者は依然としてこれらの事実を知らなかったものと推認されるところであり、被告らの上記主張は採用することができない。
(4) 不快の念について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件雑誌でCとの親密な交際及び濃厚なキスの事実を写真付きで報じられたため、不快、不安の念を覚えたことが認められる。
4 肖像権侵害について
(1) みだりに自己の容貌、姿態を撮影されず、撮影された写真を公表されることのない権利ないし利益は、肖像権として法的に保護される。
(2) 原告指摘箇所(2)及び(3)中の原告の肖像は、肖像権として法的に保護される。
5 小括
 よって、原告指摘箇所(1)〜(5)は、プライバシー権の保護の対象になり、そのうち、原告指摘箇所(2)及び(3)中の原告の肖像は、肖像権としても法的保護の対象となり、違法性阻却事由が存在しない限り、被告らの公表行為は不法行為を構成するものとなる。
6 原告の公表容認について
(1) キス写真は、第三者のいるクラブ内で、第三者の見ている状況の下で、クラブ経営者により撮影されたものであり、原告がキス写真の撮影を容認していたことは、当事者間に争いがない。
(2) しかしながら、写真の「撮影」の承諾と「公表」の承諾とは別である。しかも、原告代理人の山崎弁護士が本件雑誌の発売に先立つ平成15年9月2日、被告会社のD編集長に対し、キス写真及びそれに関連する情報の掲載に同意しない旨を明確に伝えたことは、当事者間に争いがない。したがって、被告ら主張の撮影状況から公表の承諾もあったものと認めることはできず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
(3) よって、被告らの原告の公表容認の主張(抗弁(1)ア)は理由がない。
7 訴え提起によるプライバシー権の放棄について
(1) 原告が平成15年9月29日別件訴訟を提起したことは、当事者間に争いがなく、原告が所属する事務所「サニーサイドアップ」のE社長が、同月3日、被告会社のF副編集長の取材に対し、コアマガジン社を訴える準備をしている旨話したこと及び原告が、同月1日、コアマガジン社を相手方としてBUBKA10月号等の販売差止めを求める仮処分を申し立てたこと(甲3の2、乙35、弁論の全趣旨)からすると、原告は、本件雑誌の発売当時、コアマガジン社を相手方として、同社がキス写真等をBUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号に掲載した行為が原告のプライバシー権を侵害すると主張して不法行為に基づく損害金の支払を求める訴えを提起しようとしていたことが認められる。
(2) 原告がコアマガジン社を相手方として訴えを提起した場合、第三者が裁判手続を傍聴し、訴訟記録の一部となる同写真を閲覧することが可能となるが、弁論準備手続等は一般公開されておらず、訴訟記録の閲覧についても、それを実際に行う者は当該事件に関心や問題意識を有する少数の者に限られ、訴訟記録を閲覧することができる者を当事者に限ること(民事訴訟法92条1項1号)も可能である。
 したがって、原告が自らの意思で別件訴訟を提起し、又はその準備をしていたことを理由に、Cとキスした等の事実につきプライバシー権を放棄したものと認めることはできず、この点の被告らの主張(抗弁(1)イ)は理由がない。
8 抗弁(2)(公共の利害に関する事実の報道)について
(1) 要件について
 本件記事による原告のキス写真の公表等が違法性を欠くか否かは、Cとのキスの事実等を公表されない原告の利益と被告会社が原告のキスの事実等を報道する理由とを比較衡量して判断されるべきであるが、被告らが主張する@その事実が公共の利害に関する事項に関わるか、A専ら公益を図る目的でされたか、B当該公表の取材ないし報道の手段方法がその目的に照らして相当であるか否かの事情は、上記比較衡量の際の事情の一部として検討されるべきものである。
(2) 原告の地位について
ア 本件雑誌の発売当時、原告は、世界的に有名なプロサッカー選手としての報酬を得ていたほか、多数の広告に出演して多額の広告料を得、また、経営再建中の株式会社東ハトにおいて、Chief Branding Officerの地位にあり、社長と共同してリーダーシップを発揮し、社員の行動規範となる「ブランドブック」作りにリーダーシップを発揮することが期待されており、さらに、同当時、ホームページを開設し、その中で、サッカーという分野を通じて自己の意見を公衆に開示する等していて、現代社会のオピニオンリーダーといえる存在であったことは、当事者間に争いがない。
イ 被告らは、原告はこのように重大な社会的影響力を持っていたから、その行動全般が批判、論評の対象となってもやむを得ず、原告指摘箇所(1)〜(5)を公表しても違法ではない旨主張する。
 原告は、単なるプロサッカー選手ではなく、経営再建中の株式会社東ハトの役員を務めていたものであるから、そのような社会的影響の大きい活動に関係する限りで、その行動全般が批判、論評の対象となることは受忍せざるを得ないと解される。
 しかしながら、原告の有名女優であるCとの親密な交際やキスの事実、特に濃厚なキスの事実及びその状況は、極めて私的な事項であり、プライバシー保護が要求される程度が高いものである。これに対し、キスの事実は、不倫行為の一部である等の事情もうかがわれない以上、相当規模の企業の役員につき、経営能力、識見を含む行動全般の批判、論評のためにさほど必要な事実ではない。したがって、原告が公的存在又はそれに近い地位にあることを理由に、原告指摘箇所(1)〜(5)の公表につき違法性がない旨の被告らの主張(抗弁(2)ア(ア))は理由がない。
(3) 社会的紛争及び裁判の監視について
ア 公共の利害に関する事項及び公益目的について
(ア) 争いのない事実、及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 社会的紛争の存在
 本件雑誌の発売当時、原告は、コアマガジン社を相手方として、同社がキス写真等をBUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号に掲載した行為が原告のプライバシー権を侵害すると主張して不法行為に基づく損害金の支払を求める訴えを提起しようとする社会的紛争が発生していた。
 (前記7(1)のとおり)
b 社会の関心
 裁判制度は、国家意思による社会的紛争の解決を本質とするものであり、国民の監視の下に置かれるべきところ、現在の我が国の社会、文化において、自由な表現行為と有名人のプライバシー権との衝突局面における利益衡量は、表現の自由という民主主義社会で重要な地位を占める権利の限界を論じる上で最も難しい問題の1つであり、国民は、どのような裁判所の判断がされるかについて、大きな関心を抱いている。
 (弁論の全趣旨)
c 原告の実績
 原告には、別件訴訟以前にも、プライバシー侵害の有無等が争点となった訴訟の原告となり(東京地裁平成12年2月29日判決)、スポーツ選手のプライバシー権について、訴えの提起という形で自分の主張を広く公衆に伝え、スポーツ選手とジャーナリズムの関係についての議論を進めてきたという実績がある。
 (明らかに争わない事実)
d 本件記事の内容
 本件記事の大見出しは「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」というものであり、また、記事冒頭のリードは「A(26歳)とC(30歳)の「ディープキッス写真」をめぐって、騒動が起きている。8月30日発売の投稿雑誌「BUBKA」10月号に掲載されたものだが、Aの事務所が激怒。裁判に訴えることも辞さない構えなのだ。」というものであり、また記事末尾の締めは「大物同士の「親密交際写真」流出を、裁判所はどう認定するのか。」というものである。
 (争いのない事実)
(イ) 上記(ア)に説示の事実及び証拠(乙35)を総合すれば、本件雑誌による原告指摘箇所(1)〜(5)の公表は、公共の利害に関する原告とコアマガジン社との社会的紛争につき公益を図る目的をもってなされたものと認められる。
(ウ) 原告は、本件記事は、見出しに「裁判に」という文言を用いて、本件記事が社会的紛争を対象としたものであるかのような体裁を取り繕い、読者ののぞき趣味的・好事的興味に訴えかけてその購買意欲をそそる目的で作成された旨主張する。
 確かに、本件記事は、原告とCとの濃厚なキスの場面であると十分判別することができる写真を掲載し、文章でも、キスそのものやそれに至る経緯を微に入り細にわたり記述し、原告のこれまでの女性遍歴を記載するなどしており(甲3の2)、原告の事務所が裁判に訴えることも辞さない構えであること等を紹介する本件記事冒頭の8行及びG日大教授の談話を紹介する末尾17行の部分を除けば、ゴシップ記事として十分通用する内容を有しているものであるが、上記(ア)の諸事情を併せ考慮すれば、原告が指摘する事実の存在をもって、上記認定を左右することはできない。
イ 公表方法の相当性について
(ア)a 国民が裁判制度が正当に運営されているか否かを監視するためには、裁判所がいかなる判断を下したかだけでなく、いかなる社会的紛争が法廷に持ち込まれたか、訴訟において当事者がどのような主張や証拠の提出を行い、訴訟手続がどのように進行しているかを知る必要があるところ、原告指摘箇所(1)(本件雑誌の表紙)、同(2)(BUBKA10月号の表紙の写真)のうち原告とCとが寄り添って座っている場面を写した写真を掲載した部分を除く部分、同(3)(本件写真)のうち2枚の写真を除く部分、同(4)(本件雑誌本文の大見出し)及び同(5)(本件雑誌の本文)のうち最初の5行の部分は、どのような社会的紛争が法廷に持ち込まれようとしていたかを知らせるものであり、濃厚なキスの状況等を不必要に詳述したものでもないから、原告のCとの親密な交際や濃厚なキスの事実がプライバシーとして保護を要する程度が高いことを考慮しても、公表方法としての相当性を有しているものと認められる。
b なお、本来、裁判に持ち込まれる社会的紛争の報道における必要性の観点からは、原告の名前を匿名にして報じるべきであり、匿名にしていない上記原告指摘箇所は公表方法の相当性を欠くのではないかとの疑問も生ずるが、裁判所が表現の自由に関係する事件について適正な判断を行っているか否かを国民が批判、論評するためには、当該訴訟の原告の地位にある者はどのような理由で有名人であるのか、原告の地位にある者が自己の人気を確立するためにマスコミを利用した事情があるのか等の事実関係の理解が必要であるといわざるを得ず、そのような事実を報じた上で原告を匿名にしたとしても、原告が著名であり、欧州での活躍を含めその活動が広く知られていることからすると、そのような記事に接する一般人は原告が当該訴訟の原告の地位にある者であることを容易に想起することができるものと考えられる。よって、原告の名前を匿名にしなかったことをもって、公表方法の相当性を欠くものと認めることはできない。
(イ) これに対し、原告指摘箇所(2)(BUBKA10月号の表紙の写真)のうち原告とCとが寄り添って座っている場面を写した写真を掲載した部分、同(3)(本件写真)のうち2枚の写真を掲載した部分、及び同(5)(本件雑誌の本文)のうち、最初の5行を除く部分(以下、これらを「侵害部分」という。)は、公表方法の相当性を欠くものといわなければならない。
 すなわち、原告のCとの親密な交際やキスの事実、特に濃厚なキスの事実及びその状況は、極めて私的な事項であり、プライバシー保護が要求される程度が高いものである。しかも、写真は、その情景をそのまま伝えるものであるため、文章による場合に比し、被害者の受ける苦痛がより大きくなると考えられる。これに対し、国民が、原告とコアマガジン社との社会的紛争につき、裁判所が適正な判断を行っているか否かを批判、論評するために、キスの状況やキスに至る経緯を詳細に知る必要はさほどないものである。したがって、原告指摘箇所のうち、キスの状況やキスに至る経緯を写真や文章で詳述した侵害部分は、公表方法の相当性を欠くものである。
ウ 比較衡量
 以上の検討を踏まえ、Cとのキスの事実等を公表されない原告の利益と被告会社が原告のキスの事実等を報道する理由とを比較衡量すると、侵害部分については、公表されない利益が公表する理由に優越しているといわざるを得ない。
(4) 侵害についてのまとめ
 以上によれば、違法性阻却事由が存在しない原告指摘箇所を公表した被告らの行為については、プライバシー侵害の不法行為及びその一部については更に肖像権侵害の不法行為が成立する。
第2 責任原因、損害について
1 責任原因について
(1) 被告Bについて
 被告Bは、本件雑誌の発行人として、原告のプライバシー権又は肖像権を侵害しないように配慮すべき義務があったところ、被告Bがこれまでの裁判例等に照らしてプライバシー侵害等に当たらないと誤信したことにつき相当な理由があった等の事情も認められないから、被告Bには上記義務を怠った過失がある。
(2) 被告会社について
 被告会社は被告Bの使用者であり、被告Bによる本件雑誌の発行は、被告会社の事業の執行につき行われたものであることは、当事者間に争いがないから、被告会社は、民法715条により、被告Bの過失行為により原告に生じた損害を賠償する義務がある。
2 損害について
(1) 精神的損害について
ア(ア) 本件記事は、冒頭の8行及び末尾の17行を除けば、ゴシップ記事として十分通用する内容を有しているが、全体として見れば、公共の利害に関する社会的紛争を報道するものであることは、前記第1、8(3)ア(イ)及び(ウ)のとおりである。
(イ) 本件雑誌は発行部数約80万部を誇る週刊誌であり、一般書店、コンビニエンスストア等で容易に入手することができ、その宣伝も新聞広告や電車の車両内の中吊り広告等により大々的に行われており、本件雑誌が有する一般公衆に対する情報の伝播力は極めて強いことは、当事者間に争いがない。
イ これらの事実に、前記のとおり、原告とCとの親密な交際や両者がキスをした事実は、BUBKA10月号及び別冊BUBKA10月号だけでなく、発行部数250万部を有する東京スポーツにより既に公表されており、本件記事は、BUBKA10月号の続報的なものであること、キス写真の掲載に当たっては、白黒写真でさほど大きくなく掲載するなど、被告らとしてもそれなりの配慮をしていることを併せ考慮すると、侵害部分の公表により、原告が被った精神的損害を慰謝するには、100万円をもってするのが相当である。
(2) 弁護士費用相当の損害について
ア 弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴原告訴訟代理人山崎卓也弁護士らに対し、本訴の提起及びそれに先立つ仮処分の申立てを委任し、日弁連報酬基準規程に基づく報酬の支払を約束したことが認められる。
イ 本件訴訟の審理の経過、事件の難易、認容額等を考慮すると、被告らの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害額を20万円と認めるのが相当である。
3 損害についてのまとめ
 以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、民法709条、715条に基づき、損害金120万円及びこれに対する不法行為の日である平成15年9月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
第3 結論
 よって、原告の請求は、主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 市川正巳
 裁判官 頼晋一
 裁判官 高嶋卓


(別紙)原告指摘箇所
プライバシー権侵害を構成する具体的な記述・表現 掲載場所
(1)「AとC「ディープキッス写真」法廷に」という見出しが横書きされている。 本件雑誌の表紙(甲3の1)
(2)「BUBKA10月号」の表紙を撮影した写真。この写真には、原告とCとが寄り添って座っている場面を写した写真が写っているとともに、「信じられないッ! 超ビッグネームカップル A&C 超ディープキス写真」と横書きされている。 本件雑誌の51頁の上段左側
(3)「BUBKA10月号」の3頁及び4頁の紙面を撮影した写真(以下「本件写真」という。)。
 本件写真の左上には、原告がCとキスをしている様子を撮影した大きな写真(以下「キス写真」という。)が、右上には、原告とCとが寄り添って座っている場面を写した小さな写真が、それらの下には、「BUBKA10月号」の文章による記事が写っている。 本件雑誌の51頁の上段右側
(4)「AとC「深夜のディープキッス」が裁判に!」という見出しが見開き頁に横書きされている。 本件雑誌の50頁と51頁の見開き2頁
(5)「<こんな事実があっていいのか(信じられない!)超ビッグカップルの衝撃スクープ A&C 超ディープキス写真>と題した『BUBKA』の特集は、いきなり表紙裏から始まるカラーグラビア5ページ。袋とじつきだ。最初の見開きには3カット掲載されている。まず、AとCが隣同士で見つめ合う写真。場所はどこかのレストランかクラブのようだ。Cはノースリーブ、Aも半袖のTシャツの袖をまくり上げているので、暑い季節なのだろう。
 2枚目はCがAのほうに寄り掛かりながら、カメラのほうを見て微笑んでいる。目がとろんとしており、かなり酔っているようだ。3枚目ではなぜか、Cが左手で目を押さえて泣いている。AがそんなCの背中に手を回して慰めている。ガリガリにやせたCと、Aのたくましい腕が対照的だ。
 そして、3〜4ページ目の袋とじを開けると、右上に二人が見つめ合っている写真。Cの目元はますます怪しく、さらに酔いが回ってきたようだ。そして2ページにまたがる問題のディープキッス写真。目を閉じ、あごを上向き加減にしたCの唇に、Aの唇がベタッと吸いついている。これは誰が見ても正真正銘、ディープキッスだ。最後のページには、AがCにワインを注いでいるところと、Aがカメラを向いて笑っているショットが並んでいる。CはAの後ろで、満足そうな笑みを見せている……。」 本件雑誌の50頁の第1段目から第3段目まで(本文)
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