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【事件名】在宅介護本の著作権侵害事件
【年月日】平成16年9月29日
 東京地裁 平成16年(ワ)第4605号 損害賠償請求事件
 (差戻前一審・東京地裁平成14年(ワ)第3275号/二審・東京高裁平成15年(ネ)第582号)
 (口頭弁論終結日 平成16年7月30日)

判決
原告 X
訴訟代理人弁護士 淵上貫之
同 中條嘉則
被告 農林水産省共済組合(以下「被告組合」という場合がある。)
被告 Y(以下「被告Y」という場合がある。)
上記両名訴訟代理人弁護士 秋山昭八
同 泉義孝
同 田辺信彦
同 橋本裕幸
同 宝賀寿男
被告 共立速記印刷株式会社(以下「被告共立」という場合がある。)
訴訟代理人弁護士 津川哲郎


主文
1 被告農林水産省共済組合及び被告共立速記印刷株式会社は、原告に対し、それぞれ及び被告Yと連帯して、金8万8033円(ただし、被告Yとの間では、金3万円の限度で連帯して)及びこれに対する、被告農林水産省共済組合については平成14年2月26日から、被告共立速記印刷株式会社については同月24日から、各支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Yは、原告に対し、被告農林水産省共済組合及び被告共立速記印刷株式会社と連帯して、金3万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
5 この判決は、主文1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、各自金174万円及びこれに対する、被告組合については平成14年2月26日から、被告共立については同月24日から、被告Yについては同年3月6日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、@別紙本訴目録(以下「本訴目録」という。)2記載の書籍(以下「被告書籍」という。)は同目録1記載の書籍(以下「原告書籍」という。)を複製したものである、A被告書籍の表紙及びはしがき部分は、原告書籍の表紙及びはしがき部分を改変したものである、B被告書籍は著作者として原告の氏名を表示していないから、被告書籍5500冊を印刷、製本、頒布した被告らの行為が、原告書籍について原告の有する著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害に当たると主張して、損害賠償を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を示したもの以外は、当事者間に争いがない。)
(1) 原告書籍等(甲1、2、乙1、3、丙5及び弁論の全趣旨)
ア 原告は、原告書籍の著作者であり、著作権者である(ただし、後記3(6)のとおり原告書籍についての著作権を有するのは原告だけであるか否かについては争いがある。)。
イ 被告書籍は、被告共立により印刷、製本された。
ウ 原告書籍と被告書籍とは、目次及び本文は同一であるが、以下の部分において異なる。
@ 表紙及び背表紙部分
 表紙部分について、原告書籍には、その上部に、三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」、「だれでもできる在宅介護」、「−いざというときに−」と記載されているのに対し、被告書籍には、その上部に、三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」、「だれでもできる在宅介護」、「−いざというとき編−」と記載され、その下部に被告組合の名称が記載されている。
 背表紙部分について、原告書籍には、その上部に、「だれでもできる在宅介護」、「−いざというときに−」と記載されているのに対し、被告書籍には、その上部に、「だれでもできる在宅介護」、「−いざというとき編−」と記載され、その下部に被告組合の名称が記載されている。
A はしがき部分
 はしがき部分について、原告書籍には、「発刊にあたり」と題する、作成名義人の記載がない文章(以下「原告書籍はしがき」という。)が掲載されているのに対し、被告書籍には、「発刊にあたり」と題する被告Y名義の文章(以下「被告書籍はしがき」という。)が掲載されており、両者の記載内容は異なっている。
B 奥付部分
 奥付部分について、原告書籍には、同書籍を東京都在宅介護研究会が発行し、原告が編集したことを示す記載があるのに対し、被告書籍にはそのような記載はなく、その他の部分を含めても被告書籍には著作者として原告の氏名は表示されていない。
エ 被告書籍と別紙前訴目録(以下「前訴目録」という。)1記載の書籍(以下「前訴被告書籍」という。)との対比
 被告書籍と前訴被告書籍とは、目次及び本文はすべて同一であるが、表紙及び背表紙部分において、被告書籍には被告組合の名称が記載されているのに対し、前訴被告書籍には記載されていない点、はしがき部分及び奥付部分において、異なる記載がされている点で、相違する。
(2) 原告の被告共立及び株式会社大川クラフト館(以下「大川クラフト館」という。)に対する訴訟の経緯(甲8、9)
ア 原告は、被告共立及び大川クラフト館(以下「被告共立ら」という。)に対し、平成5年ころ、前訴被告書籍を印刷、製本した被告共立らの行為等が、前訴目録3、6及び7記載の書籍によってそれぞれ最初に公表された部分により構成される著作物(以下「本件著作物」という。)について原告の有する著作権を侵害するとして、損害賠償等を求める訴訟(東京地裁平成5年(ワ)第15527号書籍発行差止等請求事件。以下「前訴」という。)を提起した。
イ 前訴は、東京地裁平成6年(ワ)第19283号書籍発行差止等請求事件及び同庁平成7年(ワ)第2786号反訴請求事件と併合審理された。東京高裁(平成9年(ネ)第1885号書籍発行差止等、同反訴請求控訴事件、平成10年(ネ)第2451号同附帯控訴事件)は、平成10年11月26日、前訴被告書籍700冊を印刷、製本した被告共立らの行為等が、本件著作物について原告の有する共有著作権の持分(100分の48.52)の侵害に当たるとして、被告共立らに対し、各自損害金6万7928円及びこれに対する平成5年9月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる判決(以下「前訴判決」という。)をし、同判決は確定した。
ウ 前訴判決では、上記の前訴被告書籍700冊について、被告共立が、「前訴被告書籍を700冊、印刷、製本代金分として譲り受け、このうち289冊を被告組合に単価2000円、合計57万8000円で売渡し」たとの事実が認定されている(以下この289冊を「前訴289冊」という。)。
(3) 本件訴訟の経緯
ア 控訴審判決により差し戻される前の第1審(平成14年(ワ)第3275号損害賠償請求事件。以下「差戻前第1審」という。)の判決(以下「差戻前第1審判決」という。)の概要
 差戻前第1審は、平成14年2月27日、以下のとおり判断し、原告の請求のうち、原告が被告共立に対して金2万8045円及びこれに対する平成14年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分の訴えを却下し、その余の請求を棄却するとの判決をした。
(ア) 認定事実
 @原告は、原告書籍の著作者であり、著作権者の一人である、A被告Yは、被告書籍のはしがき部分に被告書籍はしがきを掲載した、B被告共立は、大川クラフト館の依頼に基づいて書籍合計1000冊を印刷、製本し、このうち700冊を大川クラフト館から印刷製本代金の代物弁済として取得した、C被告共立は、前記700冊のうち289冊の目次及び本文以外の部分を被告書籍の様式に印刷、製本して、平成5年3月、被告組合に1冊2000円、合計57万8000円で売り渡した、D前訴判決で認定された前訴289冊の売渡しに関する事実関係は、前記Cの事実関係と一致すること、前訴被告書籍と被告書籍では、目次、本文等が一致すること、被告らが他に被告書籍を印刷、発行、頒布した事実をうかがわせる事情は認められないことからすると、前訴289冊は被告書籍であり、これ以外に被告らが被告書籍を印刷、発行、頒布した事実はない、E本件著作物と原告書籍の内容は同一である、F前訴289冊分についての損害賠償請求権に関して、原告は、遅くとも前訴の第1審判決がされた平成9年3月31日までには、損害及び加害者を知っていたとの事実を認定した。
(イ) 被告共立に対する請求についての判断
@ 前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求
 同請求が前訴の請求と訴訟物が同一であるから、前訴判決が認容した部分に係る請求は訴えの利益がなく不適法である。
A 前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求のうち、前訴が認容しなかった請求部分
 前訴の確定判決の既判力により請求することができない。
B 前訴289冊分以外についての著作権侵害に基づく損害賠償請求
 前記(ア)Dのとおり前訴289冊以外には被告書籍の存在が認められないので、理由がない。
C 前訴289冊分についての著作者人格権侵害(表紙部分の改変、発刊にあたりの削除、氏名を表示しなかった点)に基づく損害賠償請求
 既に3年の消滅時効が完成した。
D 前訴289冊分以外についての著作者人格権侵害(表紙部分の改変、発刊にあたりの削除、氏名を表示しなかった点)に基づく損害賠償請求
 前記(ア)Dのとおり前訴289冊以外には被告書籍の存在が認められないので、理由がない。
E 著作者人格権侵害(被告Y名義のはしがき部分の挿入)に基づく損害賠償請求
 被告書籍はしがきは、他の部分とは明確に区別されて、被告Yの名を明示して掲載されているものと認められるので、原告の同一性保持権を侵害したということはできない。
F まとめ
 したがって、原告の被告共立に対する請求のうち、原告が被告共立に対して、前訴判決が認容した部分(「金6万7928円」の700分の289に当たる「金2万8045円」及びこれに対する平成14年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分)の訴えをは却下し、その余の請求は理由がない。
(ウ) 被告組合に対する請求についての判断
@ 前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求
 被告組合による知情頒布行為を理由とする請求については、既に3年の消滅時効が完成している。被告組合による複製を理由とする請求については、同被告が前訴289冊を複製したとは認められない。
A 前訴289冊分以外についての著作権侵害に基づく損害賠償請求
 前記(ア)Dのとおり前訴289冊以外には被告書籍の存在が認められないので、理由がない。
B 前訴289冊分についての著作者人格権侵害(表紙部分の改変、発刊にあたりの削除、氏名を表示しなかった点)に基づく損害賠償請求
 既に3年の消滅時効期間が完成した。
C 前訴289冊分以外についての著作者人格権侵害(表紙部分の改変、発刊にあたりの削除、氏名を表示しなかった点)に基づく損害賠償請求
 前記(ア)Dのとおり前訴289冊以外には被告書籍の存在が認められないので、理由がない。
D 著作者人格権侵害(被告Y名義のはしがき部分の挿入)に基づく損害賠償請求
 被告書籍はしがきは、他の部分とは明確に区別されて、被告Yの名を明示して掲載されているものと認められるので、原告の同一性保持権を侵害したということはできない。
(エ) 被告Yに対する請求についての判断
@ 前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求
 被告組合による知情頒布行為を理由とする請求については、被告Yは、公務員であって、その頒布に関与したとしても、それは公権力の行使に当たり、その職務の遂行として関与したものであるので、個人として損害賠償責任を負うことはない。
A 前訴289冊分以外についての損害賠償請求
 前記(ア)Dのとおり前訴289冊以外には被告書籍の存在が認められないので、理由がない。
イ 控訴審での判決(以下「控訴審判決」という。)の概要
 差戻前第1審判決に対して、原告が控訴したところ、控訴審(平成15年(ネ)第582号損害賠償請求控訴事件)は、平成15年9月29日、以下のとおり判断し、同判決を取り消して本件訴訟を当裁判所に差し戻すとの判決をした。
(ア) 原告の被告共立に対する前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求について
a @前訴判決が前訴目録1記載の書籍として特定した前訴被告書籍は、被告共立が前訴被告書籍の原本であるとして提出した乙3とは、特定のために引用された題号、編集者、発行・印刷者及び発行日のすべてが一致するが、原告が本件訴訟における訴状において被告書籍として特定した事項は、前訴被告書籍と題号が一致するものの、編集者、発行・印刷者及び発行日の記載は一致せず、原告が被告書籍の写しであるとして提出した甲2も、前訴被告書籍と題号は一致するものの、表紙及び背表紙の名入れ並びに奥付の記載は一致していない。A前訴判決は、「書籍一」から「書籍七」までを前訴目録1から7まで記載の各書籍として特定し、題号中の副題の部分、表紙の名入れ、編集者、発行人、印刷者及び発行日等の記載の相違によって区別している。したがって、題号以外の記載を異なったものとして特定した被告書籍を、前訴の審理の対象とされた前訴被告書籍に当たるものということはできない。
b 被告共立は、被告書籍と前訴被告書籍とは同一であって、前訴において、被告書籍の体裁が前訴被告書籍の体裁と相違することに気が付かなかったため、被告書籍の様式に印刷、製本した289冊を含めた合計700冊を、前訴目録1により特定したと主張するが、原告は、前訴289冊が被告組合に売り渡された平成5年3月当時から、被告書籍の存在を認識していたことが明らかである上、前訴において被告共立が提出した、同被告代表取締役E作成の陳述書(甲13)には、同被告が取得した700冊は前訴目録1と同一の事項で特定される書籍だけであると記載されていることから、同被告が取得した前訴被告書籍700冊は、被告組合に売り渡した前訴289冊を含め、いずれも前訴被告書籍の様式のものと認められるので、その主張を採用することはできない。
c したがって、被告書籍は、前訴被告書籍と同一であるということはできないから、差戻前第1審の前記ア(イ)@の判断は誤りである。
(イ) 原告の被告共立に対するその余の請求について
 差戻前第1審の前記ア(イ)AからDまでの判断は、被告書籍が前訴被告書籍と同一であることを前提としたものであるから誤りである。また、前記ア(イ)Eの判断は、被告書籍はしがきが他の部分と明確に区別されていても、これは被告書籍全体についてのはしがきであると認められるから、そのような理由によっては、その改変が原告の同一性保持権を侵害しないということはできず、誤りである。
(ウ) 原告の被告組合に対する請求について
 差戻前第1審の前記ア(ウ)@からCまでの判断は、被告書籍が前訴被告書籍と同一であることを前提としたものであるから誤りである。また、前記ア(ウ)Dの判断も、前記ア(イ)Eの判断について述べたのと同様の理由により、誤りである。
(エ) 原告の被告Yに対する請求について
 差戻前第1審の前記ア(エ)@の判断は、本件において、被告書籍を頒布する被告組合の行為が公権力の行使としての性質を有するものということはできないから誤りである。また、前記ア(エ)Aの判断は、被告書籍が前訴被告書籍と同一であることを前提としたものであるから誤りである。
ウ 上告審での決定の概要
 控訴審判決に対して、被告共立並びに被告組合及び被告Yが、それぞれ上告及び上告受理の申立てをしたところ、上告審(被告共立について、平成16年(オ)第8号、平成16年(受)第2号。被告組合及び被告Yについて、平成16年(オ)第9号、平成16年(受)第3号。)は、平成16年2月20日、これらの上告を棄却し、かつ、これらの申立てを上告審として受理しないとの決定をした。
2 争点
(1) 原告の被告共立に対する前訴289冊分についての著作権侵害に基づく損害賠償請求は、前訴判決の既判力に抵触するか。
(2) 被告らが被告書籍を印刷、頒布した行為は、原告の有する著作権(複製権)侵害に当たるか。
(3) 被告書籍の作成部数は、何冊か。
(4) 被告らが行った行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に当たるか。
(5) 被告らに過失があったといえるか。
(6) 損害額はいくらか。
(7) 原告の被告らに対する損害賠償請求権は時効により消滅したといえるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(被告共立の主張)
 控訴審判決の拘束力は、差戻前第1審における証拠調べの結果を前提として差戻前第1審判決が前訴289冊と被告書籍との同一性を認めたことが誤りであるとの判断については生じるが、それを超えて、前訴289冊と被告書籍が別個のものであるとの判断については生じない。すなわち、差戻審がさらに証拠調べをした上で、控訴審判決に示されたものとは異なる理由で前訴289冊と被告書籍とは、同一の書籍であると認定することは許されると解すべきである。
 そして、控訴審による差戻し後に提出された、被告書籍の配布を受けた被告組合各支部担当者の陳述書(丙11の1から46まで)によれば、被告書籍は、平成5年3月、平成4年度特別保険福祉事業の一環として被告組合からその各支部に配布されたものであり、他に同一又は類似の書籍が配布された事実は存在しないことが認められる。
 したがって、前訴289冊は被告書籍と同一の書籍であるから、原告の被告共立に対する損害賠償請求権のうち前訴289冊に係る部分は、前訴判決で認められた原告の被告共立に対する損害賠償請求権のうち前訴289冊に係る部分と同一であり、前訴判決の既判力に抵触する。
(原告の反論)
 控訴審判決における前訴289冊と被告書籍が別個のものであるとの判断には拘束力が生じているから、被告共立の主張は理由がない。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
ア 被告らは、共同して、原告書籍の目次及び本文をそのまま収録した被告書籍を5500冊印刷、製本し、原告が原告書籍について著作権を有することを知りながら、被告組合の組合員らに対し、被告書籍を頒布して、原告の有する著作権(複製権)を侵害した。
イ 被告書籍の表紙及び背表紙部分には被告組合の名称が記載され、かつ、はしがき部分には被告書籍はしがきが掲載されていることからすれば、被告組合及び被告Yが被告書籍の複製に関与したことは明らかである。
(被告組合及び被告Yの反論)
ア 被告書籍は、以下の経緯で発行された。すなわち、被告組合は、平成4年度特別保健福祉事業の一環として、介護に関する書籍の配布を検討していた。被告共立を含む複数の書籍販売業者等から、自社の取扱書籍を購入して欲しいとの申出があり、被告組合は、被告共立の提案した被告書籍を採用したが、被告書籍の原稿を用意し、印刷、製本の作業を行ったのは、すべて被告共立である。そして、表紙及び背表紙部分に被告組合の名称を入れ、はしがき部分や奥付部分の記載を変更することについても、被告共立から提案があったものであり、被告組合は何ら積極的な働きかけを行っておらず、その提案を受け入れて、最終的に完成した被告書籍の納入を受けたにすぎない。
 また、被告Yは、被告組合の本部長代理という立場にあったことから、形式的にはしがき部分に掲載された文章の名義人となっているにとどまり、その文章も被告共立が掲載を提案したのであって、被告Yから積極的に掲載を依頼したり、指示を出したりしたものではない。
イ したがって、被告組合は、被告共立から、被告書籍を購入したにすぎないのであって、これを作成したものではないし、原告の有する著作権侵害の事実を知らずに同書籍を頒布したものである。また、被告Yは、同書籍の作成には関与していない。
(被告共立の反論)
 争う。
(3) 争点(3)について
(原告の主張) 
 被告書籍は5500冊作成された。
 すなわち、被告組合は、平成4年度特別保健福祉事業の実施に当たり、社会保険診療報酬支払基金から、助成金として1818万6000円の交付を受けた。このうち1100万9820円については、在宅介護者への在宅介護用具給付に係る費用として支出されず、被告書籍の作成に流用された。したがって、1冊当たり2000円として算定すると、被告書籍は、少なくとも5500冊作成されたと推定される。
(被告らの反論)
 被告書籍は、289冊しか作成されておらず、5500冊も作成されたということはない。
 被告組合は、社会保険診療報酬支払基金から交付を受けた平成4年度特別保健福祉事業助成金のうちの1100万9820円は、在宅介護者への在宅介護用具給付に係る費用として支出したのであり、被告書籍の作成のために流用したことはない。被告組合は、同助成金から、別途、被告書籍289冊の配布費用として、冊子代金57万8000円(2000円×289冊)、発送代5万5665円、消費税1万9009円、合計65万2674円を支出した。
(4) 争点(4)について
(原告の主張)
 被告らは、被告書籍を印刷、製本するに当たり、原告書籍の表紙部分の「−いざというときに−」という記載を「−いざというとき編−」という記載に、はしがき部分(原告書籍はしがきの著作者は原告である。)を被告書籍はしがきに変更し、被告書籍に著作者である原告の氏名を表示しなかった。これらの行為は、原告の有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に当たる。
(被告らの反論)
 争う。
 原告書籍のはしがき部分は、他の部分と明確に区別することができるので、著作者人格権の侵害の有無は、原告書籍はしがきの著作者について問題とすれば足りるものであるところ、原告書籍はしがきの著作者は原告ではない(被告共立は、大川クラフト館の代表者であったOが著作者であると主張している。)から、はしがき部分の変更は、原告の有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものではない。
(5) 争点(5)について
(原告の主張)
 被告らは、被告書籍が他人の著作物によるものであることを認識していたから、権利関係の調査を怠ったことについて過失がある。書籍の製作を他人に一任したからといって出版に伴う義務が減免されるものではない。
(被告らの反論)
ア 被告組合には、以下のとおりの過失がない。被告組合は、被告書籍の購入に際して、被告共立から、大川クラフト館が著作権者であるとの説明を受けており、著作権が共有に係るものであるなどという説明は一切受けていなかった。しかも、被告共立は、被告組合に被告書籍の発行を提案するに当たって、大川クラフト館の担当者を伴って被告組合を訪問しており、同担当者も、被告書籍の発行について権利関係上の問題はないと明言している。そもそも、被告組合は、書籍に関する権利関係について専門知識を有するものではなく、専門業者である被告共立が権利関係の処理について全面的に請け負っていた以上、直接権利関係の確認をすべき立場にはなかった。
イ 被告共立には、以下のとおり過失がない。本件は、原告と大川クラフト館の代表者であるOとの離婚に端を発した事件にすぎない。被告書籍が発行された平成5年3月の時点では、原告は大川クラフト館の従業員であって、Oと離婚していなかったのであり、著作権の帰属に関する争いは顕在化していなかった。このような経緯からすれば、被告書籍の発行の時点では、大川クラフト館は、自らが著作権者であり、単独で複製・改変を許諾し得る立場にあると信じていたものと考えられ、その結果、被告共立において、大川クラフト館の同意があれば権利侵害のおそれがないと誤信したとしても、やむを得なかった。
ウ 被告Yには、以下のとおり過失がない。被告Yは、本件当時、農林水産省大臣官房厚生課長の地位にあり、その職務上、被告組合本部長代理として被告書籍の配布の責任者である立場にあったため、形式的に被告書籍はしがきの作成名義人になったにすぎず、書籍の出版に係る権利関係について専門知識を有するものではないので、個人で権利関係について調査を行うことは期待できなかった。また、被告組合と同様、被告書籍の作成につき被告共立が著作権者の同意を得ているものと信じていた。
エ したがって、被告らに過失はない。
(6) 争点(6)について
(原告の主張)
 原告は、被告らによる著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害により、以下のとおり、合計1130万9829円の損害を被ったが、本件訴訟においては、その一部である損害金174万円の支払を請求する。
ア 著作権(複製権)侵害による損害額
 原告書籍について原告は単独で著作権を有しているところ、前記(3)のとおり、被告らは、少なくとも1冊当たり2000円として被告書籍を5500冊作成し、1100万9829円の利益を得ているのであるから、被告らによる著作権侵害により原告が受けた損害額は、1100万9829円と推定される。
イ 著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害による損害額
 被告らによる著作者人格権侵害により原告が受けた損害額は、30万円が相当である。
(被告の反論)
 争う。
 原告の有する著作権は共有に係るものであるところ、原告は、100分の48.52の持分しか有していない。
(7) 争点(7)について
(被告らの主張)
 原告は、平成5年7月、被告組合を訪問した際に被告書籍の存在を認識したから、原告の被告らに対する損害賠償請求権については、3年の消滅時効期間が経過した。被告らは、原告に対し、本件訴訟において、前記時効を援用するとの意思表示をした。
(原告の反論)
 原告は、平成12年9月6日、被告組合の事務取扱担当である農林水産省官房厚生課に赴いた際、初めて被告書籍の存在を認識したのであり、3年の消滅時効期間は経過していない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
 本件訴訟においては、前記第2の1(3)イのとおり、控訴審判決により被告書籍が前訴289冊と同一であると認定した差戻前第1審判決の判断が誤りであるとの判断がされており、この判断は当裁判所を拘束する。したがって、差戻し後の一審裁判所である当裁判所において、被告書籍が前訴289冊と同一であると認定することはできない。
 これに対し、被告共立は、控訴審判決の拘束力は、差戻前第1審における証拠調べの結果を前提として、差戻前第1審判決が前訴289冊と被告書籍との同一性を認めたことが誤りであるとの判断については生じるが、それを超えて、前訴289冊と被告書籍が別個のものであるとの判断については生じないことを前提として、被告書籍289冊が被告組合により同被告各支部に配布されたが、他に同一又は類似の書籍が配布された事実は存在しないから、前訴被告書籍は被告書籍と同一であると主張する。そして、控訴審判決による差戻し後に提出された同被告各支部担当者の陳述書(丙11の1から46まで)には、これに沿う記載部分がある。
 しかし、被告共立の主張は、以下のとおり理由がない。すなわち、前記のとおり、控訴審判決は、差戻前第1審判決が、被告共立が被告組合に被告書籍289冊を売り渡したことを認定した上で、この事実関係と前訴判決で認定された前訴289冊の売渡しに関する事実関係とが一致すること、被告らが他に被告書籍を印刷、発行、頒布した事実をうかがわせる事情は認められないことなどを総合して、被告書籍は、前訴289冊と同一であると判断したのに対して、差戻前第1審判決の判断には誤りがあり、被告書籍と前訴289冊とは別個のものであると判示したのであるから、当裁判所は、判断の前提とした事実が変更した等の特段の事情のない限り、控訴審判決の認定、判断に拘束される。しかるに、当裁判所において、被告共立が主張する事実経緯は、結局のところ、控訴審判決が、その判断の前提とした事実関係と何ら異なることはないのであるから、当裁判所は、控訴審判決と異なる判断をすることはできないというべきである。
2 争点(2)について
(1) 事実認定
 前提となる事実、証拠(甲2、3、乙1、2、丙1から5まで、10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告組合は、平成4年ころ、家族に要介護者を抱える組合員から車椅子等の給付を求める要望が多く寄せられていたため、社会保険診療報酬支払基金の平成4年度特別保健福祉事業により交付される助成金を利用して、組合員に介護車等を給付し、かつ、在宅介護に関する手引書を配布することとした。
イ 被告組合は、平成5年2月ころ、被告共立を含む複数の業者の中から、在宅介護に関する手引書として2種類の書籍を選定したが、そのうちの一つが被告共立の前訴被告書籍であった。
ウ この書籍作成の発注に当たり、被告共立は、被告組合に対し、@表紙及び背表紙部分に被告組合の名称を入れること、Aこの書籍が要介護者に接している被告組合の組合員に配布するために作成されたものであることを明らかにするため、はしがき部分に掲載されている「発刊にあたり」と題する文章の一部を変更して被告書籍はしがきとすること、B奥付部分から、この書籍について、大川クラフト館及び東京都在宅介護研究会が編集し、被告共立が発行・印刷をしたことを示す記載を削除することとして、前訴被告書籍の体裁から被告書籍の体裁に変更することを提案し、被告組合は、これを了承した。
エ 被告組合は、被告書籍を、介護車等を給付した186名にそれぞれ1冊ずつ、全国49支部の共済事務担当者にそれぞれ2冊ずつ配布し、さらに組合本部の控えとして5冊置くため、同年3月、被告共立に対し、同書籍289冊の作成を発注した。
 被告組合からの発注を受け、被告共立は、前訴被告書籍の体裁から変更した部分については新たに作成した原版用フィルムを、その余の部分については既に大川クラフト館から交付を受けていた前訴被告書籍の原版用フィルムを使用して、被告書籍を289冊印刷、製本した。
オ 被告共立は、印刷、製本した被告書籍289冊を被告組合に引き渡すに当たり、同被告の指示に基づいて、同被告の全国各地の支部等に284冊、南青山会館及び同被告の本部に5冊を納品した。
カ 被告組合は、被告共立に対し、同年4月5日、被告書籍289冊の代金57万8000円(1冊2000円×289冊)、梱包発送代5万5665円及び消費税1万9009円、合計65万2674円を支払った。
(2) 判断
 上記認定した事実を基礎として、被告らの行為が原告の有する著作権を侵害するか否かについて判断する。
ア 被告組合及び被告共立について
 上記認定した事実に加え、前記第2の1(1)認定のとおり、原告書籍と被告書籍の目次及び本文は同一であることからすれば、被告書籍は、被告組合及び被告共立が、共同して、原告書籍の内容を複製したものであると認めるられる。
 したがって、被告書籍を作成した被告組合及び被告共立の行為は、原告の有する著作権(複製権)侵害に当たるということができる(なお、被告組合の知情頒布行為(著作権法113条1項2号)の有無について判断を要しない。)。
 これに対し、被告組合は、前訴被告書籍の体裁から変更した部分を含め、被告書籍の内容を用意し、その印刷、製本の作業を行ったのは被告共立であり、同被告から被告書籍を購入したにすぎないと主張する。
 しかし、被告書籍の内容を用意したのは被告共立であるものの、前訴被告書籍の体裁からの変更の内容(前記(1)ウ)からすれば、この変更により、被告書籍は被告組合がその組合員に配布するために作成されるものであって、それ以外の用途に用いることができないようになったことが明らかであること、被告組合は、前訴被告書籍の体裁から変更した部分を含めて被告書籍の内容を了承した上で発注していること、被告組合が発注した時点で既に被告書籍289冊が存在していたわけではなく、その発注によりはじめて印刷、製本されたものであることからすれば、被告組合は、被告書籍を購入したにすぎないということはできず、被告組合及び被告共立が共同して同書籍を作成したと認めるのが相当であるから、被告組合の主張は理由がない。
イ 被告Yについて
 上記認定した事実によれば、被告Yは、被告書籍の作成及び頒布には関与していない。
 したがって、被告Yが、原告の有する著作権(複製権)を侵害したということはできない。
3 争点(3)について
 被告書籍が289冊作成されたことは、前記2(1)で認定したとおりであるが、本件全証拠によっても、このほかに、被告書籍が作成された事実を認めることはできない。
 これに対し、原告は、在宅介護用具給付に係る費用として、被告組合が社会保険診療報酬支払基金から交付を受けた助成金のうち、1100万9820円が、被告書籍の作成に流用されているから、被告書籍の作成部数は5500冊であると主張する。しかし、これを裏付ける証拠は存在しない上、かえって、証拠(丙7、8)によれば、被告組合が在宅介護用具を購入し、1100万9820円を支出していることが認められるから、原告の主張は理由がない。
4 争点(4)について
ア 発刊にあたりの変更、氏名を表示しなかった点について
 前記第2の1(1)ウ認定のとおり、被告書籍のはしがき部分には、原告書籍にはない被告Yはしがきが掲載されており、かつ、被告書籍には著作者として原告の氏名が表示されていない。そして、証拠(甲1、2、8、9、15、乙1、3、丙5)及び弁論の全趣旨によれば、被告書籍、前訴被告書籍及び前訴目録7記載の書籍のはしがき部分に掲載されている「発刊にあたり」と題する文章の内容がほぼ同一であるのに対し、原告書籍はしがきはこれらと全く異なっていることが認められることからすれば、原告書籍はしがきを著作した者は、原告書籍を作成した原告であると推認することができる。
 したがって、被告らが被告書籍のはしがき部分に被告Yはしがきを掲載した行為、及び、被告組合及び被告共立が被告書籍に原告の氏名を表示しなかった行為は、いずれも原告著作権について原告が有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に当たるということができる。
イ 表紙部分の変更について
 前記第2の1(1)ウ認定のとおり、表紙部分に記載されている原告書籍の題号と被告書籍の題号の一部が異なる。
 もっとも、その差異は、原告書籍の題号のうち、「いざというときに」という文言の末尾の「に」が「編」となっているものであるにすぎない上、この差異があることによっても、両者の文言は、ともに、原告書籍又は被告書籍がいざというときのためのものであるという意味であると認めることができるから、原告書籍の題号を被告書籍の題号に改める行為が、著作権法20条1項の「改変」に当たるとすることはできない。
 したがって、原告書籍の表紙部分の「−いざというときに−」という記載を「−いざというとき編−」に変更した被告組合及び被告共立の行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に当たらない。
5 争点(5)について
 証拠(乙1、3、丙10)及び弁論の全趣旨によれば、@被告組合の担当者は、被告共立及び大川クラフト館の担当者から被告書籍の発行について権利関係には問題がないとの説明を受けていたこと、A前訴被告書籍の奥付部分には、大川クラフト館及び東京都在宅介護研究会が同書籍を編集したことを示す記載があり、かつ、「監修・協力をいただいた方々」として、原告を含む11名の氏名が掲げられていることが認められる。
 前記2(1)認定の事実に加え、上記認定した事実を基礎として、被告らの過失の有無について検討する。
 被告書籍の権利関係についての被告共立及び大川クラフト館の担当者からの説明は、具体性に乏しいこと、被告組合は、被告共立に、被告書籍を発注する際に、前訴被告書籍の体裁の一部を変更することを含めて検討していたのであるから、被告組合及び被告Yは、前訴被告書籍の奥付部分の記載を認識し得たといえること、そして、被告組合らは、奥付部分の記載から、前訴被告書籍には被告共立又は大川クラフト館のほかに原告をはじめとする複数の著作権者が存在することを容易に認識できたというべきであること等の事情に照らすならば、被告らは、被告書籍の作成に当たり、著作権者の許諾の有無を調査する義務があったものと認められる。
 したがって、被告らの著作権侵害及び著作者人格権侵害行為について、被告らは過失があったということができる。
 これに対し、被告らは、前記第2の3(5)のとおり、被告らには過失がないと主張するが、前記認定の事実に照らせば、いずれも理由がない。
6 争点(6)について
ア 著作権(複製権)の侵害による損害額
(ア) 原告の有する著作権の持分割合について
 証拠(甲8、9)及び弁論の全趣旨によれば、原告書籍は前訴目録2記載の書籍であって本件著作物と同一であり、本件著作物について原告の占める著作権の持分割合は100分の48.52であると認められることから、原告書籍について原告の有する著作権は、持分100分の48.52の共有であるということができる。
 したがって、原告は、被告らに対し、この自己の持分に対する損害賠償を請求することができる(著作権法117条2項)。
 これに対し、原告は、原告書籍について原告が単独で著作権を有していると主張するが、前記認定の事実に照らせば、理由がない。
(イ) 損害額
 原告は、被告組合及び被告共立が被告書籍1冊当たり2000円の利益を得ていると主張する。
 しかし、前記2(1)認定の事実によれば、被告共立は、被告組合から被告書籍289冊の代金として57万8000円(1冊2000円×289冊)の支払を受けているものの、被告書籍の作成に当たり、どの程度の経費を要したかは、明らかとはいえず、結局、被告組合及び被告共立が原告の有する著作権侵害により得た利益の額を認定することはできない。原告の損害額は、被告書籍の作成目的、内容、頒布先、冊数等の諸事情を総合考慮して、被告書籍の作成、販売によって原告が被った損害額は、1冊当たり97円(被告書籍の代金2000円×0.1×0.4852)とするのが相当である。
 したがって、被告組合及び被告共立による著作権(複製権)侵害により原告が受けた損害額は、2万8033円(97円×289冊)である。
イ 著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害による損害額
 被告らによる著作者人格権の侵害態様、被告書籍の作成部数等、一切の事情を総合考慮すると、被告らによる同一性保持権の侵害及び被告組合及び被告共立による氏名表示権の侵害により原告が受けた損害額は、それぞれ3万円が相当である。
7 争点(7)について
ア 事実認定
 証拠(甲18、乙3、丙10)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成5年7月7日、埼玉県の社会福祉協議会より、原告書籍と同じ書籍があるとの問い合わせを受け、前訴被告書籍を渡された。原告は、同書籍の奥付部分に、被告共立が同書籍を発行したことを示す記載がされていたので、同被告の担当者に同書籍の納品先を尋ねたところ、納品先は被告組合であるとのことであったので、原告は、同被告の事務取扱担当である農林水産省大臣官房厚生課を訪ねた。この際、原告は、同課の部屋の机の上に数冊の書籍が積まれているのを目にしたが、その内容は確認しなかった。そこで、原告は、同被告に納品された書籍は、前訴被告書籍であると考えて、前訴を提起した。
(イ) 原告は、平成12年9月6日、前訴判決がされたことを報告するために、再び農林水産省大臣官房厚生課を訪れ、原告書籍と同様の書籍がないか尋ねたところ、被告書籍を提示された。そこで、原告は、本件訴訟を提起した。
イ 判断
 上記認定した事実によれば、被告らの著作権侵害及び著作者人格権侵害について、原告は、平成12年9月6日以降に被告らが加害者であること及び損害が発生したことを現実に了したものということができるから、民法724条に基づく消滅時効は、平成12年9月7日から進行する。
 したがって、原告の被告らに対する著作権侵害及び著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求権について、民法第724条による消滅時効が成立したということはできない。
 これに対し、被告らは、原告が、平成5年7月、被告組合を訪問した際に被告書籍の存在を認識したと主張するが、上記認定した事実に照らせば、理由がない。
8 結論
 よって、原告の請求は、
(1) 被告組合及び被告共立に対しては、それぞれ及び被告Yと連帯して損害金8万8033円(ただし、被告Yとの間では3万円の限度で連帯して)及びこれに対する、被告組合については平成14年2月26日から、被告共立については同月24日から、各支払済みまで各年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、
(2) 被告Yに対しては、被告組合及び被告共立と連帯して損害金3万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、
 それぞれ理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 一場康宏


(別紙)本訴目録
1 題号 さしのべる手・ふれあう心 だれでもできる在宅介護−いざというときに−
 発行者 東京都在宅介護研究会
 編 集 X
 初版第1刷発行日 1993年1月15日
2 題号 さしのべる手・ふれあう心 だれでもできる在宅介護−いざというとき編−
 初版発行日 1993年3月25日
 表紙下部に「農林水産省共済組合」の表示がある。

(別紙)前訴目録
1 題号 だれでもできる在宅介護 いざというとき編
 編集 株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行・印刷 共立速記印刷株式会社
 発行日 1993年3月
2 題号 だれでもできる在宅介護 いざというときに
 編集 X
 発行 東京都在宅介護研究会
 初版第1刷発行日 1993年1月15日
3 題号 だれでもできる在宅介護 
 編集 東京都在宅介護研究会
 発行 公立学校共済組合
 発行日 1992年12月1日
4 題号 だれでもできる在宅介護 いざというとき編
 表紙の名入れ 公立学校共済組合秋田支部 (財)秋田県教育関係職員互助会
 編集・発行 株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行人 O
 印刷 共立速記印刷株式会社
 発行日 1993年3月10日
5 題号 だれでもできる在宅介護 いざというとき編
 編集・発行 株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行人 O
 印刷 共立速記印刷株式会社
 発行日 1993年3月10日
6 題号 だれでもできる在宅介護 ワンポイントアドバイス
 編集 社団法人長寿社会文化協会WAC板橋
 制作 株式会社大川クラフト館
 発行 東京都在宅介護研究会
 初版第1刷発行日 1990年5月30日
7 題号 だれでもできる在宅介護 介護のこころ・工夫編
 発行 東京都在宅介護研究会
 発行人 X
 初版第1刷発行日 1992年3月31日
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/