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【事件名】コンピュータプログラムのライセンス契約事件
【年月日】平成16年9月29日
 東京地裁 平成14年(ワ)第23838号 損害賠償請求事件(本訴)、
 平成15年(ワ)第27135号 不当利得返還請求反訴事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 平成16年6月23日)

判決
原告(反訴被告) 株式会社ノブ・システムズ(以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 日野修男
被告(反訴原告) 株式会社ビーコンインフォメーションテクノロジー(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 吉田正夫


主文
1 被告は、原告に対し、金110万2500円及びこれに対する平成14年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告に対し、金469万1174円及びこれに対する平成15年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求を棄却する。
4 被告のその余の反訴請求を棄却する。
5 訴訟費用は、本訴反訴を通じて20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
〔本訴〕
 被告は、原告に対し、金2億0730万5476円及び内金1億2262万0572円に対する平成14年11月12日から、内金8468万4904円に対する平成16年3月12日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔反訴〕
 原告は、被告に対し、金2478万8557円及びこれに対する平成15年12月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
〔本訴〕
 原告は、被告に対し、著作物のライセンス契約に基づく未払いロイヤルティの支払及び著作権侵害を理由とする損害賠償を求めた。
〔反訴〕
 被告は、原告に対し、著作物のライセンス契約に基づいて支払ったロイヤルティについて過払いがあったとして、不当利得返還請求権に基づき、過払いロイヤルティの返還を求めた。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は、コンピュータ・ソフトウェア並びにハードウェア製品の開発と販売、コンピュータ・システムの受託開発等を目的とする株式会社である。
 被告は、コンピュータ及びコンピュータソフトウェアに関する技術、製品の開発及び販売、コンピュータソフトウェアの使用権の許諾等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の有する著作権
 原告は、別紙著作物目録記載1、2の著作物(以下「原告著作物1」、「原告著作物2」という。)について著作権(以下「本件著作権」という。)を有する。
(3) 原告と被告の契約関係
ア Set'Graph Data Rendering System ライセンス契約書(甲6)
 原告と被告は、平成11年2月19日、「Set'Graph Data Rendering System ライセンス契約書」に関して、以下のとおりのライセンス契約(以下「旧ライセンス契約」という。)を締結した。
 同契約は、原告が被告に対して、原告著作物1(データベース検索処理のグラフィック・ユーザー・インタフェース・システム”Set'Graph Data-set Rendering System for MSW”、以下、内容に着目して、「Set'Graph Dares for MSW」という場合がある。)について、被告が自社のソフトウェア製品であるTimeCubeに組み込んだ応用ソフトウェア製品を開発し、第三者に販売(サブライセンス)することを許諾し、被告が原告に対して、所定のロイヤルティを支払うことなどを内容とする契約である。
イ Set'Graph Dares for Java 使用権許諾契約書(甲12)
 原告と被告は、平成13年1月、締結日を平成12年6月20日付として「Set'Graph Dares for Java 使用権許諾契約書」に係る、以下のとおりのライセンス契約を締結した。
 同契約は、原告が被告に対して、原告著作物2(Set'Graph Dares for MSWをインターネットに対応させたJava版の”Set'Graph Data-set Rendering System for Java”、以下、内容に着目して、「Set'Graph Dares for Java」という場合があり、これとSet'Graph Dares for MSWとを併せて「Set'Graph Dares」という場合がある。)について、使用許諾することなどを内容とする契約である。
ウ 覚書(甲13)
 原告と被告は、平成13年1月、締結日を平成12年7月1日付として以下のとおりの覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。
 同覚書は、前記アの旧ライセンス契約を、ロイヤルティ算定方法の改定、海外における販売、Java OS 版の使用など、契約要件の大幅な改定に伴い、後記エの「Set'Graph Dares for MSW 使用権許諾契約」及び後記オの「Set'Graph Dares 応用ソフトウェア製品使用権再使用許諾契約」に差替えることなどを内容とする覚書である。
エ Set'Graph Dares for MSW 使用権許諾契約書(甲14)
 原告と被告は、平成13年1月、締結日を平成11年2月19日付として「Set'Graph Dares for MSW 使用権許諾契約書」に係る、以下のとおりのライセンス契約を締結した。
 同契約は、前記ウの覚書に基づく前記アの旧ライセンス契約を改定したものであり、原告が被告に対して、原告著作物1(Set'Graph Dares for MSW)について、使用許諾することなどを内容とするライセンス契約である。締結日は、当事者双方合意の上、平成11年2月19日に遡るものとされた。
オ Set'Graph Dares 応用ソフトウェア製品使用権再使用許諾契約書(甲15)
 原告と被告は、平成13年1月、締結日を平成12年7月1日付として「Set'Graph Dares 応用ソフトウェア製品使用権再使用許諾契約書」に係る以下のとおりのライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。
 同契約は、原告が被告に対して、原告著作物1、2(Set'Graph Dares)の応用ソフトウェア製品について、被告が第三者に使用権ライセンスを販売(サブライセンス)することを許諾し、被告が原告に対して、所定のロイヤルティを支払うことなどを内容とする契約である。
(ア) 本件ライセンス契約の前文には、以下のとおりの条項がある。
a Set'Graph Daresは原告が著作権を有する。
b TimeCubeはデータベース管理システム商品で、被告が著作権を有する。
c 被告は、Set'Graph Daresを使用してTimeCubeにアクセスする応用ソフトウェア製品(以下「応用ソフトウェア製品」という。)を開発し、TimeCubeと一体の製品として、第三者に使用権ライセンスを販売(サブライセンス)する。
d 原告は、被告が日本国並びに指定した地域で、TimeCubeの使用権許諾契約に基づいて、「応用ソフトウェア製品」の使用権ライセンスを販売(サブライセンス)することを許諾する。
(イ) 本件ライセンス契約には、ロイヤルティの算定方法について、以下のとおりの条項がある。
 「第6条 ロイヤルティの算定方法
 6.1  「応用ソフトウェア製品」の使用権ロイヤルティをTimeCube使用権の対価の10%とする。
 6.2  「応用ソフトウェア製品」の保守ロイヤルティをTimeCube技術サービス料の10%とする。ただし、契約期間中の年間保守ロイヤルティの最小額を附属書に定めるものとする。」
 (以下、6条1項のロイヤルティを「使用権ロイヤルティ」、同条2項のロイヤルティを「保守ロイヤルティ」という。)
(ウ) 本件ライセンス契約には、使用権ライセンスの発注とロイヤルティの支払方法について、以下のとおりの条項がある。
 「第7条 使用権ライセンスの発注とロイヤルティの支払方法
 7.1  被告は、TimeCube 使用権許諾契約書の写しを添付して、原告に使用権ライセンスを発注し、報告することとする。
 7.2  原告は、発注ならびに報告を受領後、2週間以内に当該使用許諾に対応するプログラムを被告に電子メールで送付すると共に、第6条に定めるロイヤルティ算定方法に基づいて、支払うべき使用権ライセンス・ロイヤルティおよび保守ロイヤルティを算定して、被告に請求書を郵送する。」
(エ) 本件ライセンス契約の附属書
 本件ライセンス契約の附属書(以下「本件附属書」という。)には、Set'Graph Dares応用ソフトウェア製品の定義について、次のとおり定められている。
 「1. Set'Graph Dares 応用ソフトウェア製品の定義
 Set'Graph Dares 応用ソフトウェア製品とは、Set'Graph Dares for MSW のバイナリー・プログラム、またはSet'Graph Dares for Java のアプレット・クラスを使用して作成する被告が著作権を所有するバイナリー・プログラムまたはアプレット・クラスで、以下の要件を満足するものとする。
a. Set'Graph Dares for MSW の応用ソフトウェア製品は、内部関数を直接的に使用する機能、ならびにMicrosoft 社Windows のOLE ならびにActiveXなどの関数として直接利用可能な方法をユーザーに提供しないこと。
b. Set'Graph Dares for Java の応用ソフトウェア製品は、アプレット間交信機能などの内部メソッドを利用する方法をユーザーに提供しないこと。
c. 応用ソフトウェア製品の機能に特定のユーザーの要望に対応する業務要件を含まないこと。
d. 応用ソフトウェア製品のメニューや画面に業務要件を含むヘッダー、コメントを表示しないこと。
e. 応用ソフトウェア製品は、TimeCube以外のデータベース管理システムにアクセスしないこと。
f. 応用ソフトウェア製品のバージョン・アップに際して、カタログ、価格表、プログラムの実行画面のコピー、マニュアルを提出して承認を得ること。
 上記の要件を満たさない応用ソフトウェア製品は、ユーザー固有の適用プログラムとすることとし、別段で、「Set'Graph Dares使用権許諾契約」を締結する。」
カ Set'Graph Dares 使用権の販売代理契約書(甲16)
 原告と被告は、平成13年1月、締結日を平成12年7月1日付として「Set'Graph Dares 使用権の販売代理契約書」に係る、以下のとおりの販売代理契約(以下「本件販売代理契約」という。)を締結した。
 同契約は、原告が被告に対して、TimeCube使用権ライセンスについて被告から許諾を受けた第三者が、TimeCube以外のデータベース管理システム等にアクセスする専用の応用ソフトウェアを開発して使用するときに、被告において「Set'Graph Dares 使用権」の販売を代理することを許諾することなどを内容とする販売代理契約である。
 本件販売代理契約には、ロイヤルティ等について、以下のとおりの条項がある。
 「第4条 使用権ライセンス料と使用権ロイヤルティ料
 4.1  被告は、Set'Graph Dares使用権ライセンス料を、TimeCube使用権ライセンス料の50%とする。
 4.2  被告は、Set'Graph Dares使用権ライセンス料の60%を、使用権ロイヤルティとして原告に支払う。
 第5条 技術サービス料と保守ロイヤルティ料
 5.1  被告は、Set'Graph Dares技術サービス料を、Set'Graph Dares使用権ライセンス料の20%とする。
 5.2  被告は、Set'Graph Dares 技術サービス料の60%を、保守ロイヤルティ料として原告に支払う。」
キ 前記イ、エ、オ(本件ライセンス契約)及びカ(本件販売代理契約)の各契約は、平成14年6月30日の経過をもって終了した。
(4) 被告の行為
 被告は、別表1の「契約日」欄記載の日に、「顧客名」欄記載の顧客に対し、「プロダクト名」欄記載の被告製品を販売した。これについて、原告は、別表1の「原告の請求日」欄記載の日に、被告に対し、使用権ロイヤルティの支払を請求した。
 TimeCubeは、原告著作物1、2(Set'Graph Dares)を使用したTimeCube VISTAを構成要素として組み込んだ被告の製品であり、本件ライセンス契約に定める「応用ソフトウェア製品」に当たる。
 「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」(以下、両者を併せて「Proシリーズ」という。)は、TimeCubeと他の被告のソフトウェアパッケージ製品であるWaha ! Transformerをセットにした被告の製品である(乙1)。TimeCube及びWaha ! Transformerは、それぞれ単体の製品としても販売されているが、単体で販売される場合と、Proシリーズとしてセット販売される場合とで、各製品に含まれる内容が異なることはない。
(5) 被告の支払ったロイヤルティの金額
 被告は原告に対し、別表1の「プロダクト名」欄記載の被告製品を販売したことにより、本件ライセンス契約6条に基づくロイヤルティとして、「入金済みロイヤルティ」欄記載のとおり、使用権ロイヤルティ及び保守ロイヤルティを支払った。
2 争点
〔本訴〕
(1) 本件ライセンス契約に基づく未払いロイヤルティの請求について
ア 6条1項の「TimeCube使用権の対価」とは、TimeCubeの定価を指すか、TimeCubeの実売価格を指すか(争点1)
イ 未払いロイヤルティの額はいくらか(争点2)
(2) 著作権侵害に基づく損害賠償請求について
ア 被告によるProシリーズの販売は、原告の本件著作権の侵害に当たるか(争点3)
イ 原告の受けた損害額はいくらか(争点4)
〔反訴〕
(3) 被告が原告に支払ったロイヤルティの中に過払いにより、原告の不当利得となる部分が存在するかどうか(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
〔本訴〕
1 争点1(「TimeCube使用権の対価」は、定価か実売価格か)について
(原告の主張)
 本件ライセンス契約6条1項の「TimeCube使用権の対価」とは、TimeCubeの標準価格表(甲53。以下「TimeCube定価表」という。)の価格を意味し、TimeCubeの実売価格ではない。
 この点は、以下の経緯から明らかである。すなわち、原告は、別表1記載の甲号証番号26の株式会社日本交通公社(以下「日本交通公社」という。)、27の福田金属箔粉工業株式会社(以下「福田金属箔粉工業」という。)、28の株式会社アマダ情報サービス(以下「アマダ情報サービス(28)」という。)、29の三菱事務機械株式会社(以下「三菱事務機械」という。)及び30の凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)について、TimeCube定価表の価格によりロイヤルティを算定し、これを被告に請求した。被告は、上記各顧客へのTimeCubeの販売価格がTimeCube定価表の価格とは異なっていたにもかかわらず、原告の請求どおり、定価に基づいたロイヤルティ金額を支払った。この経緯によれば、被告が「TimeCube使用権の対価」はTimeCube定価表の価格であることを前提に、契約を締結したことを示している。
(被告の反論)
(1) 「TimeCube使用権の対価」は、TimeCube定価表の価格ではなく、TimeCubeの実売価格である。
 原告代表者A(以下「原告代表者A」ということがある。)は、本件ライセンス契約の内容が決められた会議の議事録(乙2の2)を作成したが、そこにはロイヤルティ算定の基礎が「販売契約金額」であることが明記されている。
(2) TimeCubeは、大量販売されるパッケージソフトウェア製品のように標準価格(定価)が製品に表示されて販売されることはなく、顧客との個別の交渉により、その販売契約金額が決められる。すなわち、TimeCubeの使用権の対価は、取引先の状況、競合製品との関係、将来の取引の拡大可能性等、具体的な取引の状況に応じて随時標準価格から値引きが行われて決定される。また、顧客が一括して異なる種類の被告製品を複数購入しようとする場合でその中にTimeCubeが含まれているようなときには、顧客は全体額としての値引きを要求し、被告も相応の値引きを行う。このような場合、その中の被告製品の一つであるTimeCubeに含まれるアクセスツールのさらにその部品として組み込まれているSet’Graph Daresの権利者に対し、TimeCubeの価格や一括販売における値引きについて、その都度承諾を要するとすることは不合理であるし、そのような取扱いもしていない。
 したがって、応用ソフトウェア製品販売のロイヤルティの算定基礎となる「TimeCube使用権の対価」は、TimeCubeの標準価格と解すべきではなく、販売契約金額と解すべきである。
(3) 被告は、原告から標準価格に基づくロイヤルティの支払を強く求められたため、事を穏便に処理しようとして、本件ライセンス契約の約定に反して標準価格を算定基礎とするロイヤルティを支払った事実がある。しかし、このような経緯によって、上記約定が変更されたとみることはできない。
2 争点2(未払いロイヤルティの額)
(原告の主張)
 被告は、別表2の「号証」欄記載の19、26、27、32及び37の各顧客に対し、TimeCubeを販売したから、原告に対し、本件ライセンス契約に基づきロイヤルティを支払うべきところ、以下のとおり、ロイヤルティ額の未払いがある。
(1) 株式会社ホテル小田急(以下「ホテル小田急」という。)
 TimeCube使用権の対価は、別表2の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、2461万4440円である。TimeCube定価表によれば、技術サービス料の年額はその20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、保守ロイヤルティは年額49万2289円となる。
 被告は、平成15年分の保守ロイヤルティを支払っていない。
 したがって、保守ロイヤルティとして、別表2の「甲第15号証に基づく未払い請求算定 請求額」欄記載の49万2289円が未払いである。
(2) 日本交通公社
 TimeCube使用権の対価は、別表2の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、800万円である。TimeCube定価表によれば、技術サービス料の年額はその20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、保守ロイヤルティは年額16万円となる。
 被告は、平成15年分の保守ロイヤルティを支払っていない。
 したがって、保守ロイヤルティとして、別表2の「甲第15号証に基づく未払い請求算定 請求額」欄記載の16万円が未払いである。
(3) 福田金属箔粉工業
 TimeCube使用権の対価は、別表2の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、800万円である。TimeCube定価表によれば、技術サービス料の年額はその20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、保守ロイヤルティは年額16万円となる。
 被告は、平成15年分の保守ロイヤルティを支払っていない。
 したがって、保守ロイヤルティとして、別表2の「甲第15号証に基づく未払い請求算定 請求額」欄記載の16万円が未払いである。
(4) ゼリア新薬工業株式会社(以下「ゼリア新薬工業」という。)
 TimeCube使用権の対価は、別表2の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、800万円であるから、使用権ロイヤルティはその10%の80万円となる。
 被告は、別表2の「入金済みロイヤルティ 使用権」欄記載のとおり、使用権ロイヤルティとして65万円しか支払っていない。
 したがって、使用権ロイヤルティとして、別表2の「甲第15号証に基づく未払い請求算定 請求額」欄記載の15万円が未払いである。
(5) アマダ情報サービス株式会社(以下「アマダ情報サービス(37)」という。)
 TimeCube使用権の対価は、別表2の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、3000万円であるから、使用権ロイヤルティはその10%の300万円となる。
 被告は、別表2の「入金済みロイヤルティ 使用権」欄記載のとおり、使用権ロイヤルティとして210万円しか支払っていない。
 また、TimeCube定価表によれば、技術サービス料の年額は使用権の対価の20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、保守ロイヤルティは年額60万円となる。技術サービス料は5年分を一括先払いする契約であるから、保守ロイヤルティは平成13年から平成17年までの5年分で300万円となる。
 被告は、5年分の保守ロイヤルティとして108万円しか支払っていない。
 したがって、別表2の「甲第15号証に基づく未払い請求算定 請求額」欄記載の282万(使用権ロイヤルティ90万円、保守ロイヤルティ192万円の合計)が未払いである。
(被告の反論)
 TimeCube使用権の対価は、TimeCubeの実売価格である。被告は、TimeCubeを単体で販売したものについては、実売価格に基づいて算定したロイヤルティを支払った。なお、後に主張するとおり、一部過払いのものがある。
 したがって、ロイヤルティの未払いは存在しない。
3 争点3(著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
(1) TimeCubeとProシリーズ
 被告は、TimeCubeを単体で販売する他に、「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」を販売している。
 本件ライセンス契約において、原告が被告に対して、使用許諾をしたSet'Graph Daresの「応用ソフトウェア製品」は、TimeCube VISTAを構成要素として組み込んだTimeCubeのみであり、同じTimeCube VISTAを構成要素として組み込んでいても、他のソフトウェアとパッケージにした「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」を含まない。
 被告は、「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」を、TimeCube単体で販売する場合とは異なる価格体系で販売しているのであるから、TimeCubeと「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」は、それぞれの製品に含まれるプログラムは同一であっても、「応用ソフトウェア製品」の内容を確定するに当たっては、別個の独立した製品であると解すべきである。したがって、被告がProシリーズを販売するためには、TimeCubeとは別にSet'Graph Daresの使用許諾を要する。
(2) 「応用ソフトウェア製品」の要件
 本件附属書には、「応用ソフトウェア製品」の定義として、「c. 応用ソフトウェア製品の機能に特定のユーザーの要望に対応する業務要件を含まないこと。」が要件とされているから、「特定のユーザーの要望に対応する業務要件を含む」機能を提供する応用ソフトウェアは、本件ライセンス契約の許諾対象の「応用ソフトウェア製品」ではない。
 被告は、TimeCubeと他の被告製品とを組み合わせ、特定のユーザーの業務目的を解決する製品としてProシリーズを販売している。したがって、「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」は、その機能に特定のユーザーの要望に対応する業務要件を含むから、「応用ソフトウェア製品」には当たらない。
 原告は、Proシリーズに含まれるTimeCube VISTAの販売を許諾していないから、被告によるProシリーズの販売は、本件著作権の侵害となる。
(3) 本件ライセンス契約の改定交渉
 原告は、被告がProシリーズのライセンス販売を始めたことから、Proシリーズが本件ライセンス契約の「応用ソフトウェア製品」に当たらないことを被告に説明し、被告の理解を得た上で、本件ライセンス契約の改定について被告と交渉を開始した。すなわち、原告と被告間の本件ライセンス契約の改定交渉は、Proシリーズの販売を許諾するために行われたのであり、被告もProシリーズの販売に原告の許諾を要すると認識していた。
 原告は、上記改定交渉中、本件ライセンス契約が改定されることを前提に、被告に対してProシリーズの販売を認め、そのロイヤルティを請求し、被告から受領していた。しかし、結局のところ、本件ライセンス契約は改定されなかった。したがって、原告がProシリーズの販売を認めた前提がない以上、Proシリーズについての販売許諾は存在しないことになる。
(4) ライセンス・モジュールの不発給
ア 原告は、本件ライセンス契約により応用ソフトウェアの使用権を再使用許諾(サブライセンス)する場合、被告に対し、ライセンス・モジュールを発給し、このようなライセンス・モジュール発給の仕組みを本件ライセンス契約締結前に被告に説明し、被告もこれを了解していた。すなわち、被告は、ライセンス・モジュールの発給がない限り、使用許諾が与えられないということを十分に認識していたといえる。
イ 前記(3)のとおり、契約改定の交渉中は、原告は、契約改定を先取りして、被告のために、Proシリーズの販売に対するライセンス・モジュールを発給していた。すなわち、原告は、別表3の「号証」欄31、33ないし36及び38の各顧客に対するProシリーズの販売に対して、ライセンス・モジュールを発給した。しかし、結局のところ、本件ライセンス契約は改定されなかったから、Proシリーズについての上記ライセンス・モジュールの発給は無効に帰した。
ウ 原告は、本件ライセンス契約を改定しないことに決したことから、平成13年12月末に被告に対し、今後はライセンス・モジュールを発給しないことを通知し、同月25日以降は、ライセンス・モジュールを一切発給していない。
エ このように、原告がライセンス・モジュールを発給していないもの、又は発給しても無効に帰したものは、原告の使用許諾がないのであるから、別表3の「顧客名」欄記載の各顧客に対するProシリーズ及びTimeCubeの販売は、本件著作権の侵害となる。
(被告の反論)
(1) Proシリーズの販売
 Proシリーズは、TimeCubeと他の被告のソフトウェアとをセットにした被告の製品である。原告はTimeCubeの販売を許諾しているのであるから、被告が、許諾されたTimeCubeと他のソフトウェアとをセットで販売することについて、別途、原告の許諾を要することはない。すなわち、Proシリーズの販売においても、原告が許諾したTimeCubeの販売がされているのであり、本件著作権の侵害には当たらない。
(2) 特定業務要件について
 ProシリーズとTimeCubeとの違いは、Proシリーズにおいては、TimeCubeとWaha ! Transformerがセットになっている点だけであり、Proシリーズに含まれるTimeCubeが特定顧客向けに改変された製品ではない。すなわち、顧客にとっては、Proシリーズを購入することと、TimeCube及びWaha ! Transformerを別個に購入することとの間に相違はない。
 また、被告がユーザー向けに、Proシリーズについての利用方法の説明をしたからといって、TimeCubeが特定の顧客の要望に対応するように改変されたことにはならないし、現にそのような改変もしていない。
(3) ライセンス・モジュール
 被告は、本件ライセンス契約に基づき、Set’Graph Daresを複製して、TimeCubeに組み込み販売する権限を有しているのであり、エンドユーザーとの個別の取引ごとに原告からの許諾を受けることを要するものではない。したがって、エンドユーザーとの個別の取引に関して原告がライセンス・モジュールを発給していないとしても、本件ライセンス契約に基づくSet’Graph Daresについての使用許諾があることに変わりはない。
4 争点4(原告の損害額)について
(原告の主張)
(1) 損害額の算定方法
 本件附属書には、所定の「応用ソフトウェア製品」の要件を満たさないSet'Graph Daresの応用ソフトウェア製品は、ユーザー固有の適用プログラムとすることとし、別段で、Set'Graph Dares使用権許諾契約を締結する必要がある旨定めている。
 被告によるProシリーズ販売による損害額については、本来、TimeCubeの販売には本件ライセンス契約によるロイヤルティの支払が必要であるから、当該ロイヤルティ相当額が本件著作権侵害による損害となる。また、上記のとおり、本件附属書の要件を満たさないSet'Graph Daresの応用ソフトウェア製品の販売には、本来、別途のSet'Graph Dares使用権許諾契約の締結を要するが、その販売は、Set'Graph Dares使用権を販売代理(再使用許諾)したことになり、その場合には本件販売代理契約によるロイヤルティの支払が必要となるから、当該ロイヤルティ相当額もまた本件著作権侵害による損害となる。
 したがって、被告がProシリーズを販売したことによる損害額は、本件ライセンス契約6条に基づくTimeCube使用権の対価に対する10%の使用権ロイヤルティ相当額及び2%の保守ロイヤルティ相当額(年額)と、本件販売代理契約4条に基づくTimeCubeライセンス価格に対する30%のロイヤルティ相当額の合計額によって算定されるべきである。
(2) 個別の損害額
 被告は、別表3の「顧客名」欄記載の各顧客に対し、TimeCube又はProシリーズを販売し、本件著作権を侵害した。これによる損害額は次のとおりである。
ア 凸版印刷分
(ア) 使用権ロイヤルティ相当額の損害
 TimeCube使用権の対価は、別表3の「甲53号証算定基礎」欄のとおり、1億3000万円であるから、使用権ロイヤルティ相当額の損害は、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲15号6.1条」欄記載の1300万円(TimeCube使用権の対価の10%)となる。
(イ) 保守ロイヤルティ相当額の損害
 TimeCube定価表によれば、技術サービス料の年額はTimeCube使用権の対価の20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、保守ロイヤルティは年額260万円となる。販売時から4年目に入っているので、4年分の保守ロイヤルティ相当額が損害となり、この金額は、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲15号6.2条」欄記載の1040万円となる。
(ウ) 本件販売代理契約4条の使用権ロイヤルティ(以下「販売代理ロイヤルティ」という。)相当額の損害
 販売代理ロイヤルティは、TimeCube使用権ライセンス料(使用権の対価)の30%であるから、1億3000万円の30%の3900万円となる。したがって、販売代理ロイヤルティ相当額の損害は、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲16号4条」欄記載の3900万円となる。
(エ) 小括
 以上の損害額を合計すると、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 算定合計」欄記載の6240万円となる。
 原告は、被告から、凸版印刷への販売によるロイヤルティとして、別表3の「入金済みロイヤルティ 入金合計」欄記載のとおり、112万円を受領した。
 したがって、原告は被告に対して、本件著作権侵害による損害賠償として、上記合計損害額から上記受領額を控除した、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 請求額」欄記載の6128万円に消費税相当額を加えた金員の支払を請求する。
イ 別表3の上記ア以外の「顧客名」欄記載の各顧客分
(ア) 使用権ロイヤルティ相当額の損害
 別表3の「顧客名」欄記載の各顧客に販売したTimeCubeの使用権の対価又はProシリーズに含まれるTimeCubeの使用権の対価は、それぞれ各顧客に対応する別表3の「甲53号証算定基礎」欄のとおりである。それぞれの使用権ロイヤルティ相当額の損害は、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲15号6.1条」欄記載の金額となる。
(イ) 保守ロイヤルティ相当額の損害
 各顧客に対応する別表3の「甲53号証算定基礎」欄記載の「TimeCube使用権の対価」により、保守ロイヤルティの年額を算定し、これに、各顧客に対する販売時からの経過年数により技術サービスが必要となる年数を乗じて保守ロイヤルティ相当額の損害を算定すると、その金額は、それぞれ別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲15号6.2条」欄記載の金額となる。
(ウ) 販売代理ロイヤルティ相当額の損害
 各顧客に対応する別表3の「甲53号証算定基礎」欄記載の「TimeCube使用権の対価」により販売代理ロイヤルティを算定すると、それぞれの販売代理ロイヤルティ相当額の損害は、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 甲16号4条」欄記載の金額となる。
(エ) 小括
 以上の損害額を合計すると、各顧客に対応する別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 算定合計」欄記載の金額となる。
 原告は、被告から、各顧客に対する販売によるロイヤルティとして、それぞれ別表3の「入金済みロイヤルティ 入金合計」欄記載の金額を受領した。
 したがって、原告は、被告がTimeCube又はProシリーズを各顧客に販売し、本件著作権を侵害したことによる損害賠償として、各顧客に対応する上記合計損害額から上記受領額を控除した、別表3の「甲第15、16号証に基づく著作権侵害賠償請求算定 請求額」欄記載の各金額に消費税相当額を加えた金員の支払を請求する。
(3) 弁護士費用
 弁護士費用相当額の損害は2100万円を下らない。
(被告の認否)
 原告の主張を争う。なお、販売代理ロイヤルティは、TimeCubeユーザーがTimeCube以外のデータベース管理システム等にアクセスするソフトウェアを開発して使用する場合に、被告が「Set’Graph Dares 使用権」の販売を代理したときに生じるものであるから、Proシリーズの販売による損害として販売代理ロイヤルティ相当額の損害が生じたとの主張は主張自体失当である。
〔反訴〕
5 争点5(不当利得の有無)について
(被告の主張)
(1) ロイヤルティ支払の約定
 争点1に関して主張したとおり、本件ライセンス契約により、被告は原告に対し、Set'Graph Dares を搭載したTimeCubeの販売について、TimeCubeの販売契約金額の10%の使用権ロイヤルティ及びTimeCube技術サービス料の10%の保守ロイヤルティを支払う旨を約した。
(2) 使用権ロイヤルティの過払い
ア 使用権ロイヤルティの支払
 被告は、別表4の3、10、11、13、14、15、17、18、19、20、22の各ユーザーに対し、TimeCube又はProシリーズを販売したことにより、各ユーザーに対応する別表4の「FBIT既支払額」欄記載の使用権ロイヤルティ及びその消費税相当額を原告に支払った。
イ 原告の不当利得
 別表4の3、10、11、13、14、15、17、18、19、20、22の各ユーザーに販売したTimeCubeの契約販売金額又はProシリーズに含まれるTimeCube部分の販売契約金額は、別表4の「契約販売価格 @TimeCube単体」欄及び「契約販売価格 BPro中のTimeCube部分」欄記載の各金額である。したがって、被告が原告に支払うべき使用権ロイヤルティの金額は、別表4の「使用権ロイヤルティ EBITが支払うべき使用権ロイヤルティ」欄記載の各金額となる。
 そうすると、被告が原告に支払った別表4の「FBIT既支払額」欄記載の各金額のうち、「使用権ロイヤルティ EBITが支払うべき使用権ロイヤルティ」欄記載の各金額を超える部分は、過払いである。
 各ユーザーごとの上記過払い部分の金額は、それぞれ別表4の「使用権ロイヤルティ G過払い分」欄記載の金額となる。
 原告は、上記過払い部分について、法律上の原因なくして利益を受け、被告に損失を与えているから、不当利得に当たり、上記過払い部分の金員を返還すべき義務がある。
ウ 小括
 したがって、被告は原告に対し、不当利得として、別表4の3、10、11、13、14、15、17、18、19、20、22の各ユーザーの「使用権ロイヤルティ G過払い分」欄記載の各金額の合計383万0844円及びその消費税相当額19万1542円の合計402万2386円の支払を求める。
(3) 保守ロイヤルティの過払い
ア 保守ロイヤルティの支払
 被告は、原告に対し、別表5の3、7、10ないし15、17ないし21の各取引について、保守ロイヤルティとして、別表5の「BIT既支払保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 年単位金額」欄記載の各金額に「BIT既支払保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 回数(年数)」欄記載の回数を乗じた「BIT既支払保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 既支払総金額」欄記載の各金額及びその消費税相当額を支払った。
イ 原告の不当利得
(ア) 別表5の3、7、10ないし15、17ないし21の各ユーザーに販売したTimeCube又はProシリーズについて、被告が原告に支払うべき保守ロイヤルティの年額及び回数(年数)は、別表5の「BITが支払うべき保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 年単位金額(年額)」欄記載の各金額及び「BITが支払うべき保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 回数(年数)」欄記載の回数(年数)であるから、被告が原告に支払うべき保守ロイヤルティの総金額は、「BITが支払うべき保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 総金額」欄記載の各金額となる。
(イ) そうすると、別表5の「BIT既支払保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 既支払総金額」欄記載の各金額のうち、「BITが支払うべき保守ロイヤルティ(技サロイヤルティ) 総金額」欄記載の各金額を超える部分は過払いである。
 これらの過払いの内訳は、以下のa及びbである。
a TimeCubeの技術サービス料(被告と各顧客との契約で現実に定められたロイヤルティ)の10%を超えるもの
b 本件ライセンス契約が平成14年年6月30日の経過により期間満了で終了となったため、終了後の期間(年単位)について前払いで支払われていたもの
(ウ) 各ユーザーごとの上記過払い部分の金額は、それぞれ別表5の「過払い分」欄記載の金額となる。
 原告は、上記過払い部分について、法律上の原因なくして利益を受け、被告に損失を与えているから、不当利得に当たり、上記過払い部分の金員を返還すべき義務がある。
ウ 小括
 したがって、被告は原告に対し、不当利得として、別表5の3、7、10ないし15、17ないし21の各ユーザーの「過払い分」欄記載の各金額の合計677万4805円及びその消費税相当額33万8740円の合計711万3545円の支払を求める。
(4) ライセンス・モジュール不発給による過払い
ア ロイヤルティの支払
 被告は、原告に対し、別表4の23ないし33の各取引について、使用権ロイヤルティとして、別表4の「FBIT既支払額」記載の各金額及びその消費税相当額を支払った。
 また、被告は、原告に対し、上記各取引について、保守ロイヤルティとして、別表4の「HBIT既支払額」欄記載の各金額及びその消費税相当額を支払った。
イ 原告の不当利得
 ところが、原告は、上記各取引に係るTimeCubeについてライセンス・モジュールを発給せず、上記各顧客のプログラムの使用を不能とした。
 したがって、原告は、別表4の23ないし33の各取引について被告が支払った前記使用権ロイヤルティ合計1130万2348円及びその消費税相当額56万5117円の合計1186万7465円を保持する法律上の理由はないから、不当利得として、被告に返還すべき義務がある。
 また、原告は、上記各取引について被告が支払った前記保守ロイヤルティ合計170万0154円及びその消費税相当額8万5007円の合計金178万5161円を保持する法律上の理由はないから、不当利得として被告に返還すべき義務がある。
ウ 小括
 したがって、被告は原告に対し、不当利得として、@使用権ロイヤルティの過払い分である、別表4の23ないし33の各ユーザーの「G過払い分」欄記載の各金額の合計1130万2348円及びその消費税相当額56万5117円の合計1186万7465円、及びA保守ロイヤルティの過払い分である、上記各ユーザーの「J過払い分」欄記載の各金額の合計170万0154円及びその消費税相当額8万5007円の合計178万5161円の各支払を求める。
(原告の反論)
(1) ロイヤルティの算定基礎について
 争点1に関して主張したとおり、本件ライセンス契約におけるロイヤルティの算定基礎は、TimeCube定価表の価格である。被告が原告に対して支払った使用権ロイヤルティ及び保守ロイヤルティは、TimeCube定価表の価格により算定したものであるから、被告に過払いはない。
 また、別表4の3の取引については、本件ライセンス契約の締結に向けた交渉過程において、新しいロイヤルティの算定方法により、差額を支払うことが合意されたが、その際、ロイヤルティの算定の基礎は、TimeCube定価表の価格ではなく、契約金額とすることが合意された。被告が別表4の3の取引に関して原告に対して支払った使用権ロイヤルティ及び保守ロイヤルティは、上記合意に基づき、契約金額を基礎として算定されたものであり、被告に過払いはない。
(2) 原告の利得の不存在について
 原告は被告に対し、本訴において、別表4の14ないし33の取引(但し、16、21を除く。)について本件著作権侵害を理由とする損害賠償請求をしているが、前記3(原告の主張)(2)のとおり、損害額から、被告から受領済みのロイヤルティ額を控除して請求しているから、原告には過払いによる利得はない。
(3) ライセンス・モジュールの不発給について
 ライセンス・モジュールにより使用期限が設定されたのは、原告著作物2のみであり、原告著作物1には使用期限が設定されておらず、現在も使用可能である。
 また、原告著作物2は、Webオプションに必要なプログラムであるところ、別表4の23ないし33の各取引の使用許諾契約書には、「Webオプション」等の記載がないから、顧客は原告著作物2を組み込んだプログラムを利用しておらず、プログラムを使用できない状況になっていない。
(4) 本件ライセンス契約終了後の保守ロイヤルティについて
 原告は、被告から本件ライセンス契約終了後も、既存のユーザーに関する保守ロイヤルティを支払うから保守契約を継続したいとの申込みを受け、これを承諾した。
 したがって、原告と被告との間では、本件ライセンス契約の終了と同時に、本件ライセンス契約のうちの保守契約に関する条項そのままの内容の保守契約が成立した。現に、本件ライセンス契約終了後において、被告から原告に対し、平成14年8月30日にはアマダ情報サービス(23)、同(28)、同(37)及び三洋電機株式会社の保守ロイヤルティが支払われ、同年9月2日には日本交通公社、福田金属箔粉工業の保守ロイヤルティが支払われた。被告によるこれらの支払は、上記保守契約に基づく履行に他ならない。
第4 当裁判所の判断
〔本訴及び反訴〕
1 事実認定
 争いのない事実等に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 本件ライセンス契約の締結までの経緯等
ア 原告と被告は、以前から原告の作成したデータベース関連のプログラムのライセンス契約等を締結していた。原告と被告とは、原告が被告に対し、平成11年2月19日、原告著作物1(Set'Graph Dares for MSW)を組み込んだ被告のソフトウェア製品であるTimeCubeの販売を許諾し、被告が原告に対し、所定のロイヤルティを支払うことなどを内容とする旧ライセンス契約を締結した。
イ その後、原告と被告は、平成12年5月ころから、TimeCubeをインターネットに対応させるためのJava版のSet'Graphの開発及びそのライセンスの条件等、旧ライセンス契約の改定に向けた交渉を始め、新たなライセンス契約書の策定のための協議を行った。
 協議の結果、旧ライセンス契約において採られていたロイヤルティの算定方法が変更されることになった。すなわち、旧ライセンス契約においては、販売したTimeCubeの製品数に定額を乗じてロイヤルティを算定していたが、新しいSet'Graph Daresの使用権ライセンス契約においては、TimeCubeの製品価格に一定の料率を乗じてロイヤルティを算定することとされた。
 また、協議の過程で被告は原告に対し、TimeCube定価表(甲53)を示した。
ウ ロイヤルティの算定方法が変更されることになったことに伴い、旧ライセンス契約の下で販売されたTimeCubeの契約分についても、新しいロイヤルティの算定方法によってロイヤルティを算定し直し、被告が原告に対し、差額を支払うことなどが協議された。その結果、既存のTimeCube契約ユーザーのうち、ホテル小田急及びアマダ情報サービス(23)については、新しいロイヤルティの算定方法で算定したロイヤルティの差額を被告が原告に支払うことになった。また、他の既存のTimeCube契約ユーザーについては、旧バージョンのTimeCubeにはSet'Graph Daresが組み込まれていなかったため、被告がユーザーに対し、TimeCubeの新バージョンを提供した時点で新しい算定方式によって算定したロイヤルティとの差額を支払うことになった。なお、このようなロイヤルティの差額支払については、後に締結された本件覚書の内容とされた。(甲13、50、51、52、90、91)
エ 原告は、被告に対し、平成12年7月12日、上記差額支払の合意に基づき、既存ユーザーのホテル小田急及びアマダ情報サービス(23)について、新しい算定方式によるロイヤルティの差額を請求をした。(甲93)
 また、原告は被告に対し、平成12年12月18日、同年7月1日以降に被告がTimeCubeを販売した日本交通公社、福田金属箔粉工業、アマダ情報サービス(28)について、使用権ロイヤルティの請求をした。(甲94)このうち、日本交通公社及びアマダ情報サービス(28)については、被告はTimeCubeを他の製品とともに販売し、その総額のみを原告に報告しており(甲26、28)、また、福田金属箔粉工業については、TimeCubeの標準価格800万円から500万円を割引し、300万円で販売したことを報告していた(甲27)が、原告は、上記3社への販売について、TimeCube定価表によりロイヤルティを算定し、被告に請求した。これに対して、被告は、平成13年2月13日、原告の請求どおりに上記ロイヤルティを支払った。(乙12)
オ 原告と被告は、平成13年1月、本件ライセンス契約、本件販売代理契約及び本件覚書を締結した。
(2) 契約改定に関する交渉の経緯
ア 契約改定の協議等
(ア) 被告の技術部長であるB(以下「B技術部長」という。)は、原告に対し、平成13年2月26日、平成12年10月から12月までのTimeCubeの販売実績の報告をした。この3か月間には、別表1の29ないし31の三菱事務機械、凸版印刷、ファインクレジットの3社分の売上実績があった。被告は、このうち、三菱事務機械及び凸版印刷にはTimeCubeを販売し、ファインクレジットにはThe eCRMarketing Proを販売した。
 被告は、三菱事務機械及び凸版印刷に対しては、拡販の目的から、TimeCubeを割引販売しており、そのため、B技術部長は、原告代表者Aに対し、上記販売実績の報告に際し、「ロイヤルティについても、実契約金額をベースにしていただきたく、お願いする次第です。」と実売価格によりロイヤルティを算定することを要望した。
 また、ファインクレジットに対するThe eCRMarketing Proの販売に関しては、その総販売価格は1500万円(甲31)であったが、契約金額を1000万円と報告し、平成13年3月13日付けの本件ライセンス契約に基づく「契約締結連絡書兼注文書」においても契約金額を1000万円と記載した(甲104)。なお、ファインクレジットに販売したThe eCRMarketing ProにはTimeCube(2.5万オブジェクト)が含まれていた。(甲54)
(イ) これに対し、原告代表者Aは、翌27日、B技術部長に対し、割引販売は原告の関知するところではなく、その結果、ロイヤルティの減額を要望するのであれば、事前に相談して欲しいと応え、また、ファインクレジット販売分については、The eCRMarketing Proの価格表の提出を求め、ロイヤルティを実績ベースにしてほしいとの被告の要望に対しては、後日検討する旨回答した。(甲55)
(ウ) B技術部長は、原告代表者Aに対し、平成13年3月6日、@三菱事務機械及び凸版印刷に対する割引販売の件については、事前の原告の了解を得ていないので、ロイヤルティの減額の要望は撤回する、Aファインクレジットの件については、The eCRMarketing ProにはWaha ! Transformerなどが含まれ、このうちTimeCubeの対価分は1000万円なので、この対価に対するロイヤルティを支払うことで了解願いたいと連絡し、併せて、今後、本件ライセンス契約関係の被告側の対応は、B技術部長に代わり被告の事業部長であるC(以下「C事業部長」という。)が担当することを伝えた。(甲76)
(エ) 上記連絡を受け、原告は、被告に対し、平成13年3月12日、三菱事務機械及び凸版印刷の2社分については、TimeCube定価表の最低価格である800万円によりロイヤルティを算定して請求し、ファインクレジット分については、被告の意向に従い、暫定的に、被告がTimeCubeの対価と主張する1000万円によりロイヤルティを算定して請求し、併せて、後日、差額を請求する権利を留保すると付記した。(甲57)
 また、上記請求の際に、原告代表者Aは、被告の当時の代表者であるD(以下「被告代表者D」という。)に対し、文書を送付した。同文書には、The eCRMarketing Proのロイヤルティ算定について、The eCRMarketing ProはSet'Graph Daresの応用ソフトウェア製品であるから、本件ライセンス契約により、その価格に基づいて6条のロイヤルティを算定する必要があること、仮に、The eCRMarketing Proが本件ライセンス契約の応用ソフトウェア製品でないとすると、被告はSet'Graph Daresの販売代理をしたことになるから、TimeCubeの販売による本件ライセンス契約に基づくロイヤルティに加え、本件販売代理契約に基づき、Set'Graph Daresの販売代理によるロイヤルティを支払う必要があることなどの原告の見解が記載された。(甲56)
(オ) 平成13年5月10日、原告代表者Aと被告代表者D、C事業部長及びB技術部長がファインクレジットに販売したThe eCRMarketing Proのロイヤルティの件などについて協議した。同協議において、被告は、The eCRMarketing Proの価格にはWaha ! Transformerとテンプレートの料金が含まれているので、ロイヤルティはこれらの料金分を除いたTimeCube分について支払うとの意見を述べた。これに対し、原告代表者Aは、@The eCRMarketing Proは、本来、本件ライセンス契約の附属書に規定された特定業務要件に向けた派生製品であるから、別途Set'Graph Dares使用権契約を締結する必要があること、仮に、The eCRMarketing ProをTimeCubeのバーションアップ製品と見なし、別途のSet'Graph Dares使用権を不要と考えるのであれば、The eCRMarketing Proの価格によりロイヤルティを算定するべきであることなどの意見を述べた。(甲59)
 結局、被告代表者Dは、ファインクレジットの件については、事前に原告に何も説明していないので、販売価格の1500万円によりロイヤルティを支払うこととし、ただ、The eCRMarketing Proのロイヤルティの算定について、Waha ! Transformerとテンプレートの料金を除いた価格とすることは譲れないので、C事業部長に対し、その点を原告に対して説明し、了解をもらうように指示した。(甲79)
(カ) 平成13年5月18日、C事業部長は、上記説明の一環として、原告に対し、Proシリーズの価格表を送付した。(甲124)また、その後、原告代表者AとC事業部長らの間で、Proシリーズのロイヤルティに関する約定を新たに明記するなどの本件ライセンス契約の改定に関する協議が行われた。
(キ) 平成13年8月6日、原告代表者Aは、C事業部長に対し、本件ライセンス契約の改定案を送付した。同改定案には、本件ライセンス契約の応用ソフトウェア製品としてProシリーズの販売を許諾すること、Proシリーズのロイヤルティは、実売価格の10%とすることなどが明記されていた。(甲61)
(ク) 平成13年10月9日、原告代表者AはC事業部長に対し、再度、本件ライセンス契約の改定案を送付した。これは、8月6日に送付した改定案を一部修正したものであるが、Proシリーズに関する前記約定の内容には変更がなかった。(甲62)
 さらに、同月10日、原告代表者AはC事業部長に対し、被告の要望に添って上記改定案を一部修正した契約改定案を送付した。この改定案においてもProシリーズに関する前記約定の内容には変更がなかった。(甲63、64)
(ケ) 平成13年10月15日、C事業部長は原告代表者Aに対し、送付を受けた契約書改定案は現在、稟議申請中であると連絡した。(甲65)
 また、本件ライセンス契約の改定に関する協議の結果、Proシリーズついて販売を許諾し、そのロイヤルティを実売価格により算定することなどについて合意ができたので、原告代表者Aは、上記(ク)のとおり、その内容を契約改定案に盛り込んで被告に送付した。なお、TimeCubeを単体で販売した場合に、ロイヤルティの算定に当たり、定価と実売価格のいずれを基礎とするかに関しては協議の対象とされていなかったため、契約改定案では、TimeCubeに関するロイヤルティの条項は変更されていない。被告側からも、この点について変更の要望はなかった。
(コ) 平成13年12月24日、C事業部長は原告代表者Aに対し、本件ライセンス契約の改定には調印しない旨の意思を伝えた。
 また、同月27日、C事業部長は原告代表者Aに対し、以下の内容を記載した文書を送付した。同文書には、ロイヤルティの支払について、現在の契約期間中は、TimeCube又はTimeCubeを含んだパッケージのTimeCube部分の使用権の対価の10%を支払うこと、パッケージについては、Waha ! Transformer等の料金が含まれているので、パッケージに含まれているTimeCubeの使用権の対価を明確にした上で支払うこと、従来、Proシリーズ全体の価格を基準として支払ったことは誤りだったので、その対処方法につき、改めて連絡することなどが記載されていた。(甲67)
イ 契約改定協議の不調後の経緯等
(ア) 本件ライセンスの改定交渉が行われていた期間は、原告と被告との間で、ProシリーズのロイヤルティをProシリーズ全体の実売価格により算定する旨の暫定的な合意が成立し、これに沿った取扱いが行われていた。契約改定の協議が不調となったため、原告は、被告に対し、平成14年1月24日、平成13年12月までのTimeCube及びProシリーズの販売について、TimeCube定価表によるロイヤルティの精算を請求した。(甲69)
(イ) 平成14年2月11日、C事業部長は原告代表者Aに対し、以下の内容を記載した文書を送付した。同文書には、ロイヤルティの支払について、「貴社へのロイヤルティに関しては、現契約では、契約時に締結されたTimeCube価格表に基づいて使用権の対価の10%を支払うということで」との記載があった。また、今後の原告との対応は、常務取締役のE(以下「E常務」という。)が担当すると記載されていた。(甲88)
(ウ) 原告代表者AとE常務は、平成14年2月22日及び3月22日、本件ライセンス契約を改定しないことを前提に、既契約分のロイヤルティの精算について協議した。原告代表者Aは、TimeCube定価表による定価を基礎として算定したロイヤルティの精算を求めたのに対して、E常務は、ProシリーズについてはProシリーズ全体の価格のうちのTimeCubeの価格の10%、TimeCube単体についても値引きがあった場合には、値引き後の販売価格の10%と主張したために、協議はまとまらなかった。
 平成14年3月27日、E常務は原告代表者Aに対し、ロイヤルティの精算に関する交渉は合意に至らず、ロイヤルティの追加支払には応じられない旨を伝えた。
(エ) 以上のような経緯を経て、本件ライセンス契約は更新されないことになった。
(オ) 平成14年5月23日、原告代表者AはE常務に対し、アマダ情報サービスの保守ロイヤルティの支払状況について調査を依頼した。(甲125)
 平成14年5月28日、E常務は原告代表者Aに対し、調査依頼のあったアマダ情報サービスの保守ロイヤルティについて、99年契約分は5年契約で毎年支払うことになっているが、2年分しか払っていないので、3年分請求してほしいこと(年30万円)、00年契約分も5年契約であり、2年分は支払ったが、残り3年分は請求されていないと説明した。(甲128)
(カ) 本件ライセンス契約は、平成14年6月30日の経過をもって期間満了により終了した。
(キ) 平成14年8月20日、原告は被告に対し、アマダ情報サービスの保守ロイヤルティを次のとおり請求した。(甲131)
 99年分 2001年から2005年までの5年分
 00年分 2002年から2005年までの4年分
 被告は原告に対し、平成14年8月30日、上記請求に係るアマダ情報サービスの保守ロイヤルティを支払った。(乙15)
〔本訴〕
2 争点1(「TimeCube使用権の対価」は定価か実売価格か)について
 前記1認定の事実に基づき、本件ライセンス契約におけるロイヤルティ算定の基礎とすべき「TimeCube使用権の対価」の意義について判断する。
 当裁判所は、本件ライセンス契約の「TimeCube使用権の対価」はTimeCubeの定価を意味するものと解釈する。
(1) 本件ライセンス契約の「TimeCube使用権の対価」について、TimeCubeの定価を意味すると解した理由は、以下のとおりである。すなわち、
ア 前記認定のとおり、原告と被告は、平成12年5月ころから本件ライセンス契約の締結に向けた交渉を行ったこと、交渉において、ロイヤルティの算定方法が旧ライセンス契約と変更され、それまでは販売した製品数に定額を乗じてロイヤルティを算定していたものが、TimeCubeの製品価格に一定の料率を乗じてロイヤルティを算定することになったが、協議の過程で被告は原告に対し、TimeCube定価表を示していること、原告は被告に対し、平成12年12月18日、同年7月1日以降に被告がTimeCubeを販売した3社について、使用権ロイヤルティを請求したこと、その際、TimeCubeの価格が分からなかったり、割引販売されたりしていたが、TimeCube定価表により算定したロイヤルティを請求し、被告は請求どおりに支払ったこと等の事実経緯に照らすならば、原告と被告は、被告が示したTimeCube定価表に基づきロイヤルティの算定方法を協議し、同定価表を前提として本件ライセンス契約におけるロイヤルティの算定方法及び料率を定めた(6条)と解するのが合理的である。
イ また、本件ライセンス契約が締結された平成13年1月の後に、被告は三菱事務機械及び凸版印刷について、割引販売をしたが、被告は原告に対して、当初、割引後の実売価格でロイヤルティを算定することを要請したが、原告がこれに応じなかったことから、ロイヤルティの減額の要請を撤回し、TimeCube定価表どおりのロイヤルティを支払っている。
ウ さらに、Proシリーズのロイヤルティの算定などに関して本件ライセンス契約の改定協議が行われていた際に、Proシリーズについてはロイヤルティを実売価格により算定することが一旦合意され、原告の作成した契約書改定案にもその旨の文言が盛り込まれたのに対して、TimeCubeのロイヤルティに関する算定の基礎を定価とするか実売価格とするかついては特に協議の対象とされなかった。また、改定協議が不調に終わった後、ロイヤルティの精算が協議されていた過程で、被告のC事業部長は、本件ライセンス契約のロイヤルティは「契約時に締結されたTimeCube価格表に基づいて使用権の対価の10%を支払う」ものであったとの認識を示している。
 以上の各事実に照らすならば、本件ライセンス契約にいう「TimeCube使用権の対価」とは、TimeCube定価表の価格を意味するものと解釈するのが相当である。
(2) これに対し、被告は、原告代表者Aが作成した平成12年6月20日の議事録には、「TimeCube販売契約金額の10%」との記載があるから、「TimeCube使用権の対価」とはTimeCubeの実売価格を意味する旨主張する。そして、乙2によれば、原告代表者Aと被告代表者Dらが平成12年6月20日に新しいライセンス契約の締結に向けて協議を行ったこと、原告代表者Aはその協議の議事録を作成し、被告に送付したこと、その議事録には、「サーバ単位のロイヤルティ料率について」の合意内容として「販売ライセンス・ロイヤルティ TimeCube販売金額の10%を支払う。保守ライセンス・ロイヤルティ TimeCube技術サービス料の10%を支払う。」と記載されていること、以上の事実が認められる。
 しかし、前記認定のとおり、上記協議においては、被告が示したTimeCube定価表を前提にロイヤルティの算定方法に関する協議が進められ、また、その過程でTimeCubeが上記定価表と異なる金額で販売されることを想定した協議が行われた形跡はないこと等の事実に照らすならば、当事者はTimeCubeが上記定価表に従って販売されることを前提にロイヤルティの算定方法に関する協議を進めたものと推認できる。そうすると、前記議事録に記載された「TimeCube販売契約金額」との文言は、上記定価表記載の価格を意味するものとして表記されたことも十分考えられる。現に、その後の経過を見ると、原告は、TimeCube定価表によりロイヤルティを算定して被告に請求し、被告も異議なくこれを支払っている。
 以上の各事実に照らすならば、原告代表者Aの作成した議事録に被告主張のような記載があることをもって、前記認定判断を左右することはできない。被告の上記主張は採用できない。
(3) また、被告は、ホテル小田急、アマダ情報サービス(23)、同(28)、同(37)、ゼリア新薬、鐘淵化学、清水建設については、TimeCube定価表の価格ではなく、実売価格によりロイヤルティが算定されているから、「TimeCube使用権の対価」は実売価格を意味する旨主張するので、以下、検討する。
ア まず、前記認定のとおり、本件ライセンス契約の締結交渉において、既存のTimeCube販売分についても新しい算定方法によるロイヤルティの算定を行い、ホテル小田急とアマダ情報サービス(23)の2社については差額を支払うことが合意され、これに基づき、原告は被告に対し、平成12年7月12日、ホテル小田急及びアマダ情報サービス(23)について、新しい算定方式によるロイヤルティの差額を請求をした。その際に、原告は、ホテル小田急について、TimeCube定価表の価格によらず、実売金額に基づいてロイヤルティを請求した(甲93)。
 前記のとおり、原告と被告は、被告が示したTimeCube定価表を前提に、すなわち、TimeCubeが上記定価表に従って販売されることを前提に、ロイヤルティの算定方法に関する協議を進めたが、協議の対象となったのは、あくまでも、本件ライセンス契約に基づき、被告が販売することにより、将来発生するロイヤルティについての算定方法である。これに対し、ホテル小田急等に係る差額請求は、上記定価表が作成される前の販売分に対するものであり、新たな算定方法によって、ロイヤルティ額を算定し直して、精算するに当たり、ロイヤルティの算定の基礎をどのようにするかに関する請求に係るものである。したがって、既存契約分の精算と本件ライセンス契約とは、対象が異なるのであるから、原告が被告に対して、既存契約分に関する上記差額支払につき、ロイヤルティの算定の基礎を実売金額を前提として請求したことがあったとしても、本件ライセンス契約における「TimeCube使用権の対価」を、同様に、実売価格と解釈しなければならいない合理的な根拠とはなり得ない。
 そうすると、原告がホテル小田急について実際の契約金額に基づいてロイヤルティを算定したとしても、「TimeCube使用権の対価」についての前記認定判断を左右することにはならない。
イ 次に、原告は、アマダ情報サービス(23)、同(28)について、それぞれ「TimeCube使用権の対価」が1500万円であるとしてロイヤルティを算定しているが、これらはいずれもオブジェクト数が5万である(甲23、28)から、TimeCube定価表の価格は1500万円となる。したがって、原告の請求は、上記定価表の価格によるものである。この点の被告の主張は、前提において採用できない。
ウ さらに、原告は、ゼリア新薬及びアマダ情報サービス(37)について、それぞれ「TimeCube使用権の対価」をTimeCube定価表の価格の800万円及び3000万円(既払い分3000万円を控除後)から割引した650万円(甲32)及び2100万円(甲37。既払い分3000万円を控除後)としてロイヤルティを算定している。
 原告が、ゼリア新薬のロイヤルティを請求したのは平成13年8月3日であり、アマダ情報サービス(37)のロイヤルティを請求したのは同年12月14日であるが、前記認定のとおり、この時期は原告と被告との間で本件ライセンス契約の改定交渉が行われ、Proシリーズのロイヤルティが暫定的にProシリーズ全体の実売価格により算定されていた時期である。被告がゼリア新薬及びアマダ情報サービス(37)へ販売したのは、TimeCubeであり、Proシリーズではないが、上記の暫定的な取扱いが行われていたため、Proシリーズに合わせ、TimeCubeについても実売価格によりロイヤルティが算定された可能性も十分考えられるところであるから、この2件の算定例があるとしても、直ちに「TimeCube使用権の対価」についての前記認定判断を左右するとまではいえない。
エ 原告は、鐘淵化学及び清水建設について、それぞれTimeCube定価表の価格によらず、被告の報告した実売価格によりロイヤルティを算定している。
 原告が、鐘淵化学のロイヤルティを請求したのは平成14年5月14日であり、清水建設のロイヤルティを請求したのは同年8月2日であるが、前記認定のとおり、この時期は、既に原告と被告との間の本件ライセンス契約の改定協議が不調に終わり、ロイヤルティの精算に関する交渉も決裂して、本件ライセンス契約の解消が決まっていた時期である。すわなち、原告と被告との間には、ロイヤルティの算定方法について見解の相違があり、原告はロイヤルティの追加支払を求めていたが、被告はこれを拒否していた。そして、被告は、鐘淵化学及び清水建設について、TimeCubeの価格を割引後の販売価格により原告に報告していた(乙16の9、11)。このような状況の下では、原告が上記2社について、被告の上記報告に係る金額ではなく、TimeCube定価表の価格によりロイヤルティを算定し、これを被告に請求したとしても、被告が請求どおりに支払うことは到底期待できなかったものと認められる。
 このように、TimeCube定価表の価格によるロイヤルティの支払が期待できない状況の下において、原告が鐘淵化学及び清水建設について、被告の報告に係る金額に基づいてロイヤルティを算定し、これを請求したとしても、この事実が「TimeCube使用権の対価」についての前記認定判断を左右するとはいえない。
オ 以上検討したとおり、被告の主張する、ホテル小田急、アマダ情報サービス(23)、同(28)、同(37)、ゼリア新薬、鐘淵化学及び清水建設についてのロイヤルティの算定例は、いずれも「TimeCube使用権の対価」についての前記認定判断を左右するものではないから、被告の前記主張は採用することができない。
3 争点2(未払いロイヤルティの額)について
(1) ホテル小田急について
 原告は、ホテル小田急との取引について、平成15年度の保守ロイヤルティ49万2289円が未払いであると主張する。
ア 本件ライセンス契約は、平成14年6月30日の経過をもって終了したのであるから、「応用ソフトウェア製品」であるTimeCubeの保守に関する原告・被告間の権利義務は、同契約の終了により消滅したものといえる。
 そして、被告は顧客に対し、原則として、年単位で技術サービスを提供し、顧客は被告に対して年単位で技術サービス料を支払う契約(技術サービス契約)を結んでおり、契約の更新も年単位で行われ、これに応じて、被告は技術サービス料に対する保守ロイヤルティを原告に支払う義務を負っている。技術サービス契約期間の途中で本件ライセンス契約が終了した場合には、被告は原告からSet'Graph Daresに関して保守サービスを受けられなくなるから、同契約の期間満了後は新たな保守ロイヤルティは発生しない(乙8)。
イ ホテル小田急については、契約日が平成11年4月8日であるから、被告は原告に対し、4年分の保守ロイヤルティを支払う義務があるが、それ以降の新たな保守ロイヤルティは発生しない。
 そして、原告が請求する平成15年度の保守ロイヤルティは、平成15年4月8日から1年間の技術サービス料に対する保守ロイヤルティであるから、この期間の保守ロイヤルティは発生しない。
 したがって、被告に、保守ロイヤルティに関する未払いはない。
(2) 日本交通公社について
 原告は、日本交通公社との取引について、平成15年度の保守ロイヤルティ16万円が未払いであると主張する。
 日本交通公社のと契約日は、平成12年7月31日であり、前記(1)で判示したのと同様の理由により、被告は原告に対し、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務があるが、それ以降、新たな保守ロイヤルティは発生しない。
 そうすると、原告が請求する平成15年度の保守ロイヤルティは、平成15年7月31日から1年間の技術サービス料に対する保守ロイヤルティであるから、この期間の保守ロイヤルティは発生しない。
 したがって、被告に、保守ロイヤルティに関する未払いはない。
(3) 福田金属箔粉工業について
 原告は、福田金属箔粉工業との取引について、平成15年度の保守ロイヤルティ16万円が未払いであると主張する。
 福田金属箔粉工業との契約日は、平成12年8月28日であり、前記(1)で判示したのと同様の理由により、被告は原告に対し、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務があるが、それ以降、新たな保守ロイヤルティは発生しない。
 そうすると、原告が請求する平成15年度の保守ロイヤルティは、平成15年8月28日から1年間の技術サービス料に対する保守ロイヤルティであるから、この期間の保守ロイヤルティは発生しない。
 したがって、被告に、保守ロイヤルティに関する未払いはない。
(4) ゼリア新薬について
 原告は、ゼリア新薬との取引について、使用権ロイヤルティ15万円が未払いであると主張する。
 被告がゼリア新薬に販売したTimeCubeは、オブジェクト数が1万である(甲32)から、TimeCube定価表によれば、その「使用権の対価」は800万円となる。
 本件ライセンス契約6条1項によれば、使用権ロイヤルティは、800万円の10%の80万円となるところ、65万円が入金済みである。
 したがって、使用権ロイヤルティの未払い額は15万円である。
(5) アマダ情報サービス(37)について
ア 被告がアマダ情報サービス(37)に販売したTimeCubeは、オブジェクト数が20万×2である(甲37)が、TimeCube定価表によれば、その「使用権の対価」は各3000万円、合計6000万円となり、既払分の3000万円を控除すると、合計3000万円となる。
 本件ライセンス契約6条1項によれば、使用権ロイヤルティは、3000万円の10%の300万円となるところ、210万円が入金済みである。
 したがって、未払いの使用権ロイヤルティの額は90万円である。
イ また、TimeCube定価表によれば、TimeCubeの技術サービス料は、使用権の対価の20%であるから、上記使用権の対価3000万円(既払分を控除後の金額)の20%である600万円となる。そして、本件ライセンス契約6条2項によれば、保守ロイヤルティは、600万円の10%の60万円となる。
 アマダ情報サービス(37)の契約日は平成13年11月26日であり、本件ライセンス契約は、平成14年6月30日に終了したから、原告が請求し得る保守ロイヤルティは、1年分の60万円である。
 アマダ情報サービス(37)については、保守ロイヤルティとして108万円が入金済みである。
 したがって、被告に、保守ロイヤルティに関する未払いはない。
(6) 小括
 以上によれば、原告の未払いロイヤルティの請求は、未払いロイヤルティの105万円及びその消費税相当額5万2500円の合計110万2500円の支払を求める限度で理由がある。
4 争点3(著作権侵害の有無)について
(1) 判断
ア 「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」は、いずれもTimeCubeとWaha ! Transformerとをセットにして販売する製品であるが、原告著作物が組み込まれているTimeCubeについては、本件ライセンス契約の「応用ソフトウェア製品」として原告が販売の許諾を与えているのであるから、被告が「The 仮説検証 Pro」及び「The eCRMarketing Pro」を販売する行為は、本件著作権の侵害とはならない。
イ この点について、原告は、ProシリーズはTimeCubeと価格体系が異なるから、使用権ライセンスの観点からはTimeCubeと別個の独立した製品といえ、したがって、Proシリーズの販売にはTimeCubeとは別にSet'Graph Daresの使用許諾を要すると主張する。
 しかし、Proシリーズに含まれるTimeCubeと単体で販売されるTimeCubeとは同一のプログラムであり、TimeCubeについて販売の許諾を得ている以上、販売する価格が異なるとしても許諾の効力がなくなる理由はないから、Proシリーズの販売について別途Set'Graph Daresの使用許諾を要するものとはいえない。
 このように解しても、前示のとおり、原告は、Proシリーズに含まれるTimeCubeついて、TimeCube定価表の価格によりロイヤルティを請求できるのであるから、価格体系が異なることによる不利益はなく、不合理とはいえない。
 したがって、原告の主張は理由がない。
ウ また、原告は、ProシリーズはSet'Graph Daresの応用ソフトウェア製品に当たるが、「応用ソフトウェア製品」の要件である「c. 応用ソフトウェア製品の機能に特定のユーザーの要望に対応する業務要件を含まないこと。」を満たさないから、本件ライセンス契約の許諾対象である「応用ソフトウェア製品」に該当せず、したがって、その販売は本件著作権を侵害する旨主張する。
 本件附属書によれば、Set'Graph Dares応用ソフトウェア製品とは、「Set'Graph Dares for MSWのバイナリー・プログラム、またはSet'Graph Dares for JAVAのアプレット・クラスを使用して作成する被告が著作権を所有するバイナリー・プログラムまたはアプレット・クラス」とされているが、Proシリーズは、「The 仮説検証 Pro」又は「The eCRMarketing Pro」という1つのプログラム製品が存在するわけではなく、TimeCubeとWaha ! Transformerとをセットにした商品に対し、そのような商品名を付しているにすぎないから、Proシリーズ自体をSet'Graph Dares応用ソフトウェア製品ということはできない。したがって、Proシリーズが原告の主張する上記要件を満たすかどうかを問うまでもなく、原告の主張は理由がない。
エ さらに、原告は、本件ライセンス契約により応用ソフトウェア使用権を再使用許諾する場合には、ライセンス・モジュールを発給しており、ライセンス・モジュールの発給がなければ、原告の使用許諾がないことになるから、ライセンス・モジュールの発給がないTimeCube又はProシリーズの販売は本件著作権を侵害する旨主張する。
 しかし、原告は被告に対し、本件ライセンス契約2条により包括的に「応用ソフトウェア製品」としてのTimeCubeの販売を許諾したものであり、ライセンス・モジュールの発給により使用許諾をする旨の約定は本件ライセンス契約上存在しないから、原告の上記主張は理由がない。
 その他、原告は、本件ライセンス契約の改定交渉において、被告がProシリーズの販売について使用許諾を要することを認識していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(2) 小括
 以上のとおりであるから、本件著作権侵害を理由とする原告の損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
〔反訴〕
5 争点5(不当利得の有無)について
(1) ロイヤルティの支払義務の範囲についての判断
ア 前記認定のとおり、本件ライセンス契約におけるロイヤルティの算定基礎は、TimeCube定価表の価格であり、被告は原告に対し、TimeCube定価表の価格により算定したロイヤルティを支払う義務がある。
 また、被告と顧客は、原則として、年単位で技術サービス契約を結び、期間が満了すれば年単位で契約が更新され、これに応じて、被告は技術サービス料に対する保守ロイヤルティを原告に支払う義務を負うが、契約期間の途中で本件ライセンス契約が終了した場合には、同契約の期間満了後は新たな保守ロイヤルティは発生しないから、被告は原告に対し、上記期間満了後に相当する保守ロイヤルティを支払う義務を負わない。
イ これに対し、原告は、本件ライセンス契約終了と同時に本件ライセンス契約における保守契約と同一の内容の保守契約が成立した旨主張する。
 証拠(甲99、126)によれば、被告は本件ライセンス契約の終了に伴い、原告から提供された資料等の破棄をしたが、既存のユーザーに発生するかも知れない保守作業に限定した目的でSet'Graph Daresを1セットCD−ROMに記録して保存したこと、これについては、平成14年6月25日に被告が原告から承諾を得ていたこと、以上の事実が認められる。しかし、被告が既存のユーザーに対する保守作業に使用する目的でSet'Graph Daresを記録し保存したとしても、それは被告と既存ユーザー間の関係に関する事項にすぎず、そのことから原告が被告に対し、本件ライセンス契約終了後も技術サービスを提供する義務を負担していたと解することは到底できないのであり、上記事実により、本件ライセンス契約終了後の保守契約が成立したことを認定することはできない。
 また、弁論の全趣旨によれば、原告代表者Aは、被告との契約交渉等において、自己の見解、確認事項、要望等の詳細を書面化し、被告に送付するなどしており、本件ライセンス契約の締結に向けた交渉やその改定のための交渉、ロイヤルティの精算等の交渉等に関しても、そのようにして作成した多くの書面を書証として提出しているのに対して、本件ライセンス契約終了後の保守契約についてはそのような書面は存在せず、上記のとおり、原告が被告に対して資料の一部保存を承諾した平成14年6月25日の通話記録(甲126)においても、保守契約の成立を窺わせる事実はない。
 以上の点に鑑みれば、本件ライセンス契約終了後の保守契約はそもそも存在しないと認めるのが相当である。
 なお、原告は、本件ライセンス契約終了後においても、被告から原告に対して保守ロイヤルティが支払われたことから、保守契約が成立したとも主張するが、前記のとおり、保守契約が成立したとされる時期に、その存在を窺わせる証拠が全く存在しないことに照らせば、上記支払の事実は前記認定を左右するに足りないというべきである。
(2) 過払いの有無及び額(別表4の1ないし22の各取引について)
 そこで、以下、前記アに認定したところに従い、ロイヤルティの過払いの有無及び額について判断する。
ア ホテル小田急
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ246万1444円のうち55万2700円及び4年分の保守ロイヤルティ196万9156円のうち97万1060円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティについて
 前記認定のとおり、ホテル小田急については、被告が原告に対し、契約金額を基礎として新しいロイヤルティ算定方法による差額を支払うことが合意された。
 被告がホテル小田急に販売したTimeCubeの契約金額は2461万4440円である(甲19)から、上記合意による使用権ロイヤルティは、その10%である246万1444円となる。
 被告が支払った使用権ロイヤルティは246万1444円である。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティについて
 上記合意によれば、技術サービス料は契約金額の20%であり、保守ロイヤルティは技術サービス料の10%であるから、2461万4440円の2%の年額49万2289円(円未満四捨五入)となる。
 被告は原告に対し、4年分の保守ロイヤルティ196万9156円を支払った。ホテル小田急との契約日は、平成11年4月8日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には4年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 4年分の保守ロイヤルティの金額は、49万2289円に4を乗じた196万9156円である。
 したがって、保守ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
イ アマダ情報サービス(23)
 被告は、原告に支払った7年分の保守ロイヤルティ210万円のうち120万円が原告の不当利得になると主張する。
 被告がアマダ情報サービス(23)に販売したTimeCubeのオブジェクト数は5万であるから、TimeCube定価表によれば、その価格は1500万円となり、技術サービス料は、300万円となる。したがって、保守ロイヤルティは、年額30万円となる。
 アマダ情報サービス(23)との契約日は、平成11年12月28日であり(甲23)、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、3年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 3年分の保守ロイヤルティの金額は、30万円に3を乗じた90万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ210万円のうち、120万円は過払いである。
ウ 日本交通公社
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ80万円のうち30万円及び3年分の保守ロイヤルティ48万円のうち26万円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が日本交通公社に販売したTimeCubeのオブジェクト数は契約書上不明である(甲26)から、TimeCube定価表の最低価格である800万円をもってその価格と認めるのが相当である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは80万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は800万円であり、技術サービス料は160万円となるから、保守ロイヤルティは、年額16万円となる。
 日本交通公社との契約日は、平成12年7月31日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、16万円に2を乗じた32万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ48万円のうち、16万円は過払いである。
エ 福田金属箔粉工業
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ80万円のうち50万円及び3年分の保守ロイヤルティ48万円のうち30万円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が福田金属箔粉工業に販売したTimeCubeのオブジェクト数は1万であるから、TimeCube定価表によれば、その価格は800万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは80万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は800万円であるから、技術サービス料は160万円となり、保守ロイヤルティは、年額16万円となる。
 福田金属箔粉工業との契約日は、平成12年8月28日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、16万円に2を乗じた32万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ48万円のうち、16万円は過払いである。
オ アマダ情報サービス(28)
 被告は、原告に支払った7年分の保守ロイヤルティ210万円のすべてが原告の不当利得になると主張する。
(ア) 被告がアマダ情報サービス(28)に販売したTimeCubeのオブジェクト数は5万であるから、TimeCube定価表によれば、その価格は1500万円である。
 これによれば、技術サービス料は300万円となり、保守ロイヤルティは、年額30万円となる。
 アマダ情報サービス(28)との契約日は、平成12年9月29日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、30万円に2を乗じた60万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ210万円のうち、150万円は過払いである。
(イ) これに対して、被告は、アマダ情報サービス(28)との間には技術サービス契約を結んでいないから、保守ロイヤルティは発生せず、原告に支払った保守ロイヤルティ210万のすべてが原告の不当利得になると主張し、被告社員の陳述書(乙8)には、被告の主張に沿う記述がある。
 前記認定のとおり、アマダ情報サービスの保守ロイヤルティについては、平成14年5月23日、原告代表者AがE常務に対し、その支払状況について調査を依頼したこと、これに対し、同月28日、E常務は原告代表者Aに対し、調査依頼のあったアマダ情報サービスの保守ロイヤルティについて、99年契約分(アマダ情報サービス(23))は5年契約で毎年支払うことになっているが、2年分しか払っていないので、3年分請求してほしいこと及び、00年契約分(アマダ情報サービス(28))も5年契約であり、2年分は支払ったが、残り3年分は請求されていないと説明したこと、平成14年8月20日、原告は被告に対し、アマダ情報サービス(23)の保守ロイヤルティを平成13年から5年分、アマダ情報サービス(28)の保守ロイヤルティを平成14年から4年分請求し、同月30日、被告は原告に対し、上記請求に係るアマダ情報サービスの保守ロイヤルティを請求どおり支払ったこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、被告は、アマダ情報サービス(28)について保守ロイヤルティに関する調査依頼を受け、その調査結果の回答として5年契約である旨回答し、原告から保守ロイヤルティの請求を受けてこれを支払っているのであるから、被告とアマダ情報サービス(28)との間には技術サービス契約があったものと認めるのが相当である。
 前記陳述書(乙8)の被告の主張に沿う記述部分は、上記認定に照らし、信用することができず、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
カ 三菱事務機械
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ80万円のうち40万2500円及び5年分の保守ロイヤルティ80万円のうち50万3000円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が三菱事務機械に販売したTimeCubeのTimeCube定価表による価格は800万円である(甲32)。
 これによれば、使用権ロイヤルティは80万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格が800万円であるから、技術サービス料は160万円となり、保守ロイヤルティは、年額16万円となる。
 三菱事務機械との契約日は、平成12年11月27日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、16万円に2を乗じた32万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ80万円のうち、48万円は過払いである。
キ 凸版印刷
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ80万円のうち35万円及び2年分の保守ロイヤルティ32万円のうち14万円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が凸版印刷に販売したTimeCubeのオブジェクト数は契約書上不明である(甲30)から、TimeCube定価表の最低価格である800万円をもってその価格と認めるのが相当である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは80万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格が800万円であるから、技術サービス料は160万円となり、保守ロイヤルティは、年額16万円となる。
 凸版印刷との契約日は、平成12年12月25日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、16万円に2を乗じた32万円である。
 したがって、保守ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
ク ファインクレジット
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ150万円のうち50万円及び2年分の保守ロイヤルティ60万円のうち20万7840円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告がファインクレジットに販売したTimeCubeのオブジェクト数は2.5万であるから、TimeCube定価表によれば、その価格は1000万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは100万円となる。
 したがって、被告の支払った使用権ロイヤルティ150万円のうち、50万円は過払いとなり得る。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は1000万円であるから、技術サービス料は200万円となり、保守ロイヤルティは、年額20万円となる。
 ファインクレジットとの契約日は、平成12年12月29日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、2年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 2年分の保守ロイヤルティの金額は、20万円に2を乗じた40万円である。
 したがって、被告の支払った保守ロイヤルティ60万円のうち、20万円は過払いとなり得る。
(ウ) 支払合意
 しかし、前記認定のとおり、ファインクレジットの件については、原告が一旦被告の主張を入れて使用権の対価を1000万円としてロイヤルティを算定し、被告に請求したが、その後の交渉において、被告代表者Dは、1500万円を基礎としてロイヤルティを支払う旨原告代表者Aと合意したと認められるから、結局、この合意により、被告の上記使用権ロイヤルティ及び保守ロイヤルティの支払は過払いとはならないと認められる。
ケ アールビバン株式会社
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ100万円のうち33万3333円及び1年分の保守ロイヤルティ20万円のうち6万0800円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告がアールビバン株式会社に販売したTimeCubeのオブジェクト数は10万である(甲33)から、TimeCube定価表によれば、その価格は2000万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは200万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は2000万円であるから、技術サービス料は400万円となり、保守ロイヤルティは、年額40万円となる。
 アールビバン株式会社との契約日は、平成13年7月17日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、1年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 1年分の保守ロイヤルティの金額は、40万円である。
 したがって、保守ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
コ 花王化粧品販売株式会社
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ120万円のうち21万0526及び1年分の保守ロイヤルティ24万円のうち4万2105円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が花王化粧品販売株式会社に販売したTimeCubeのオブジェクト数は25万である(甲34)から、TimeCube定価表によれば、その価格は4000万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは400万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は4000万円であるから、技術サービス料は800万円となり、保守ロイヤルティは、年額80万円となる。
 花王化粧品販売株式会社との契約日は、平成13年9月5日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、1年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 1年分の保守ロイヤルティの金額は、80万円である。
 したがって、保守ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
サ 株式会社日立ビルシステム
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ210万円のうち22万9091円及び1年分の保守ロイヤルティ53万円のうち6万円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が株式会社日立ビルシステムに販売したTimeCubeのオブジェクト数は7.5万である(甲35)から、TimeCube定価表によれば、その価格は2000万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは200万円となる。
 したがって、被告が支払った使用権ロイヤルティ210万円のうち10万円が過払いである。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は2000万円であるから、技術サービス料は400万円となり、保守ロイヤルティは、年額40万円となる。
 株式会社日立ビルシステムとの契約日は、平成13年9月28日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、1年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 1年分の保守ロイヤルティの金額は、40万円である。
 したがって、被告が支払った保守ロイヤルティ53万円のうち13万円は過払いとなり、原告の請求は、その主張に係る6万円の範囲で理由がある。
シ 日立建機ビジネスフロンティア株式会社
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ260万円のうち26万1785円及び1年分の保守ロイヤルティ65万6000円のうち6万6000円が原告の不当利得になると主張する。
(ア) 使用権ロイヤルティ
 被告が日立建機ビジネスフロンティア株式会社に販売したTimeCubeのオブジェクト数は10万である(甲36)から、TimeCube定価表によれば、その価格は2000万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは200万円となる。
 したがって、被告が支払った使用権ロイヤルティ260万円のうち60万円が過払いとなり、原告の請求は、その主張に係る26万1785円の範囲で理由がある。
(イ) 保守ロイヤルティ
 TimeCubeの価格は2000万円であるから、技術サービス料は400万円となり、保守ロイヤルティは、年額40万円となる。
 株式会社日立建機ビジネスフロンティアとの契約日は、平成13年11月26日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、1年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 1年分の保守ロイヤルティの金額は、40万円である。
 したがって、被告が支払った保守ロイヤルティ65万6000円のうち25万6000円は過払いとなり、原告の請求は、その主張に係る6万6000円の範囲で理由がある。
ス アマダ情報サービス(37)
 被告は、原告に支払った5年分の保守ロイヤルティ108万円のうち86万4000円が原告の不当利得になると主張する。
 被告がアマダ情報サービス(37)に販売したTimeCubeのオブジェクト数は10万×2であるから、TimeCube定価表によれば、その価格はいずれも3000万円となるが、3000万円が既払いである(甲37)から、ロイヤルティの算定基礎となるのは3000万円である。
 これによれば、技術サービス料は600万円となり、保守ロイヤルティは、年額60万円となる。
 アマダ情報サービス(37)との契約日は、平成13年11月26日であり、本件ライセンス契約が終了したのが平成14年6月30日であるから、被告には、1年分の保守ロイヤルティを支払う義務がある。
 1年分の保守ロイヤルティの金額は、60万円である。
 したがって、被告が支払った保守ロイヤルティ108万円のうち48万円は過払いである。
セ 東芝キャリア空調システムズ株式会社
 被告は、原告に支払った使用権ロイヤルティ70万円のうち19万909円が原告の不当利得になると主張する。
 被告が東芝キャリア空調システムズ株式会社に販売したTimeCubeのTimeCube定価表による価格は800万円である。
 これによれば、使用権ロイヤルティは80万円となる。
 したがって、使用権ロイヤルティについて被告の過払いは存在しない。
(3) ライセンス・モジュールの不発給(別表4の23ないし33の各取引について)
 被告は、別表4の23ないし33の各取引について、原告が各取引に係るTimeCubeのライセンス・モジュールを発給せず、各取引に係る顧客のプログラムの使用を不能にしたから、各取引について被告が原告に支払ったロイヤルティ及びその消費税相当額はすべて原告の不当利得になる旨主張する。
ア 事実認定
 弁論の全趣旨によれば、原告が被告に提供した平成13年9月7日付け「Set'Graph Dares for Java Release 2.2a」(原告著作物2の改良版)の使用期限は、平成14年9月1日までと設定されており、ライセンス・モジュールがないと使用期限後は動作しない仕組みとなっていたこと、原告は、別表4の23ないし33の各取引については、被告に対してライセンス・モジュールを発給していないこと、原告代表者Aは被告のB技術部長に対し、平成14年1月ころ、ライセンス・モジュールの発給を見合わせる旨通告したこと、以上の事実が認められる。
 「Set'Graph Dares for Java Release 2.2a」は原告著作物2の改良版で、TimeCube VISTAに組み込まれるプログラムであるから、上記認定事実によれば、被告が販売したTimeCube又はProシリーズに含まれるTimeCubeは、本件ライセンス契約が終了した後である平成14年9月2日以降には、使用不能となるものと認められる。
イ 判断
(ア) 本件ライセンス契約上、被告は原告に対して、@Set'Graph Dares応用ソフトウェア製品であるTimeCubeの販売について原告から許諾を受け、被告がTimeCubeを顧客に販売した場合には、Set'Graph Dares応用ソフトウェア製品の使用権をサブライセンスしたことに対するロイヤルティとして、使用権ロイヤルティを支払う義務を負い、また、ATimeCubeが適法にサブライセンスされたことを前提として、被告が顧客との間でTimeCubeの使用に伴う技術サービス契約を結んだ場合には、原告に対し、保守ロイヤルティを支払う義務を負う。このように、本件ライセンス契約のロイヤルティは、被告が第三者に対し、TimeCubeを適法にサブライセンスしたことを前提として、第三者から受けるTimeCubeの使用権の対価及びTimeCubeの使用に伴う技術サービス料について発生する。
(イ) そして、本件において、被告は、別表4の23ないし33の各取引により、各顧客に対してTimeCubeを適法にサブライセンスし、各顧客はTimeCubeに組み込まれた原告の著作物であるSet'Graph Daresを適法に使用する権限を取得したのであるから、被告が顧客から受けるTimeCubeの使用権の対価及びTimeCubeの使用に伴う技術サービス料については、本件ライセンス契約に従ってロイヤルティが発生し、被告はこれを原告に支払うべき義務を負うことになる。被告の原告に対する別表4の23ないし33の各取引に係るロイヤルティの支払は、上記支払義務の履行としてされたものであり、そのロイヤルティは原告の不当利得になることはない。
(ウ) この点について、被告は、別表4の23ないし33の各取引につき、原告がライセンス・モジュールを発給せず、各顧客のプログラムの使用を不能にしたと主張する。そして、前記認定によれば、各顧客のTimeCubeは、本件ライセンス契約が終了した後である平成14年9月2日以降は、使用不能になるものと認められる。
 しかし、そのような事実があったとしても、被告の行為は、本件ライセンス契約に基づき被告が各顧客に対して付与した(サブライセンスした)、Set'Graph Daresを組み込んだTimeCubeについて適法に使用することができるという法律上の権限を失わせることになるわけではないのであるから、被告の本件ライセンス契約に基づくロイヤルティの支払義務も遡及して消滅させるものではない。
 以上のとおり、原告のライセンス・モジュールの不発給は、原告と被告との間で締結された本件ライセンス契約に基づく原告の債務の不履行と評価される余地があるか否かはさておき、本件ライセンス契約に基づく被告のロイヤルティの支払義務に影響するものではないので、被告の主張は理由がない。
ウ 小括
 したがって、被告の別表4の23ないし33の各取引に係る不当利得返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(4) まとめ
 以上によれば、被告のロイヤルティの過払い額の合計は446万7785円となる。
 被告が原告にロイヤルティを支払う場合に、ロイヤルティ額に消費税相当額を加えて支払っていたことは争いがないから、上記過払い分を不当利得として返還する場合には、上記金額に消費税相当額22万3389円(円未満切り捨て)を加算することが相当である。
 したがって、ロイヤルティの過払いを理由とする被告の不当利得返還請求は、469万1174円の支払を求める限度で理由がある。なお、被告は、これに対する年6分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、遅延損害金は、民法所定の年5分の割合による金員を求める限度で理由がある。
6 結語
 よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は、本訴・反訴とも相当でないから付さない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 神谷厚毅は、海外留学のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 飯村敏明


(別紙)
著作物目録
1 著作物の題号 「Set'Graph Date-set Rendering System for Microsoft Windows」(略称「Set'Graph Dares for MSW」)
 最初に公表された日 平成10年(1998年)4月17日
 最初の公表の際に表示された著作者名 株式会社ノブ・システムズ
 著作物の種類 プログラムの著作物
 著作物の内容
 「Set'Graph Data-set Rendering System」(略称「Set'Graph Dares」)は、データベース検索処理のグラフィック・ユーザー・インタフェースを規定した技術設計書である「集合の図式化によるデータベース検索処理方法」を実行するコンピュータ・プログラムであって、応用プログラムが実行時に呼び出すことができ、Set'Graph Dares は、オペレーティング・システムに対応したバイナリー・プログラム、使用例を示すソース・プログラムおよび関連資料で構成される。
 「Set'Graph Date-set Rendering System for Microsoft Windows」(略称「Set'Graph Dares for MSW」は、「Set'Graph Dares 」をMicrosoft Corporation のWindows OS 下で実行するプログラムで、応用プログラムが実行時に呼び出すことができるアプレット・クラスと使用例を示すソース・プログラムおよび関連資料で構成される。

2 著作物の題号 「Set'Graph Date-set Rendering System for Java」(略称「Set'Graph Dares for Java」)」
 最初に公表された日 平成12年(2000年)8月15日
 最初の公表の際に表示された著作者名 株式会社ノブ・システムズ
 著作物の種類 プログラムの著作物
 著作物の内容
 「Set'Graph Data-set Rendering System」(略称「Set'Graph Dares」)は、データベース検索処理のグラフィック・ユーザー・インタフェースを規定した技術設計書である「集合の図式化によるデータベース検索処理方法」を実行するコンピュータ・プログラムであって、応用プログラムが実行時に呼び出すことができ、Set'Graph Dares は、オペレーティング・システムに対応したバイナリー・プログラム、使用例を示すソース・プログラムおよび関連資料で構成される。
 「Set'Graph Date-set Rendering System for Java」(略称「Set'Graph Dares for Java」)」は「Set'Graph Dares 」をSun Microsystems, Inc. のJava OS の下で実行するプログラムで、応用プログラムが実行時に呼び出すことができるアプレット・クラスと使用例を示すソース・プログラムおよび関連資料で構成される。
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