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【事件名】「一太郎」特許をめぐる不正競争事件
【年月日】平成16年8月31日
 東京地裁 平成15年(ワ)第18830号(本訴)、同年(ワ)第24798号(反訴)
 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求、特許権侵害行為差止反訴請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年5月21日)

判決
本訴原告(反訴被告) 株式会社ジャストシステム
同訴訟代理人弁護士 福島栄一
同 菅尋史
同 永田早苗
同 大向尚子
同補佐人弁理士 木村満
同 石井裕一郎
同 雨宮康仁
本訴被告(反訴原告) 松下電器産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 中道徹
同補佐人弁理士 田中久子
同 加藤真司


主文
1 本訴原告(反訴被告)の本訴請求のうち、差止請求権不存在確認請求を却下し、その余の請求をいずれも棄却する。
2 反訴原告(本訴被告)の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴ともにこれを2分し、その1を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を反訴原告(本訴被告)の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求
(1) 本訴原告(反訴被告)の別紙物件目録記載の製品の製造、譲渡等(譲渡、貸渡し、電気通信回線を通じた提供)及び譲渡等の申出につき、被告(反訴原告)が特許番号第2803236号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
(2) 本訴被告(反訴原告)は、別紙物件目録記載の製品の製造、譲渡等(譲渡、貸渡し、電気通信回線を通じた提供)及び譲渡等の申出が、特許番号第2803236号の特許権を侵害するとの事実を文書又は口頭で第三者に告知又は流布してはならない。
(3) 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金10万円及びこれに対する平成15年9月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴請求
(1) 反訴被告(本訴原告)は、別紙物件目録記載の製品を製造し、譲渡等(譲渡、貸渡し、電気通信回線を通じた提供)を行い、譲渡等の申出をしてはならない。
(2) 反訴被告(本訴原告)は、前項記載の製品を廃棄せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 本訴原告(反訴被告。以下単に「原告」という。)は、コンピュータシステムの開発及び販売等を目的とする株式会社である。
 本訴被告(反訴原告。以下単に「被告」という。)は、映像・音響機器、家電品、情報・通信機器等の製造・販売等を業とする株式会社である。
(2) 被告の特許権
 被告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項1の発明を「本件第1発明」、同請求項2の発明を「本件第2発明」、同請求項3の発明を「本件第3発明」といい、併せて「本件発明」という。また、本件特許に係る明細書(甲13。別紙特許公報参照。)を「本件明細書」という。)を有している。
 特許番号 第2803236号
 発明の名称 情報処理装置及び情報処理方法
 出願日 平成元年10月31日
 出願番号 特願平1−283583
 公開日 平成3年6月20日
 公開番号 特開平3−144719
 登録日 平成10年7月17日
 特許請求の範囲請求項1
 「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置。」
 特許請求の範囲請求項2
 「前記制御手段は、前記指定手段による第2のアイコンの指定が、第1のアイコンの指定の直後でない場合は、前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。」
 特許請求の範囲請求項3
 「データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法。」
(3) 構成要件の分説
ア 本件第1発明は、次のとおり分説される。
1−A アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、
1−B 前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、
1−C 前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段と
1−D を有することを特徴とする情報処理装置。
イ 本件第2発明は、次のとおり分説される。
2−A 前記制御手段は、前記指定手段による第2のアイコンの指定が、第1のアイコンの指定の直後でない場合は、前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させる
2−B ことを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
ウ 本件第3発明は、次のとおり分説される。
3−A データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、
3−B 機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、
3−C 第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる
3−D ことを特徴とする情報処理方法。
(4) 原告の行為
 原告は、別紙物件目録記載の製品(以下「本件製品」という。)の製造、譲渡等(譲渡、貸渡し、電気通信回線を通じた提供)又は譲渡等の申出をしている。
 原告から本件製品の譲渡等を受けたユーザーは、これをパソコンにインストールして使用している。本件製品をインストールしたパソコンにおけるヘルプ機能の動作及び表示は、別紙「ヘルプ機能の表示」記載のとおりである(別紙「ヘルプ機能の表示」の説明のうち、「表示」ボタン、「プロパティ」ボタン及び「キャンセル」ボタンを併せて、以下『「表示」ボタン等』という。)。
(5) 被告の行為
 被告は、平成13年5月31日付け書面(甲40)により、本件製品をプリインストールしたパソコンを販売していた株式会社ソーテック(以下「ソーテック」という。)に対し、上記パソコンが本件特許を含む特許権を侵害するものである旨を告知した。
 また、被告は、平成13年12月27日付け内容証明郵便(甲41)により、ソーテックに対し、本件製品をプリインストールしたパソコン及び本件製品を同梱して販売しているパソコンは、本件特許を含む特許権を侵害するので、販売を直ちに止め、販売台数、売上高、在庫台数を明らかにするよう求めた。
 さらに、被告は、平成14年11月7日、ソーテックに対し、本件製品をインストールしたパソコンが本件第1及び第2発明に係る特許を侵害するとして、特許権に基づく販売行為等の差止めを請求する仮処分命令を申し立てた(平成14年(ヨ)第22135号。甲42)。なお、被告は、平成15年6月4日、上記仮処分命令の申立てを取り下げた。
(6) なお、被告は、平成14年11月7日、原告に対し、本件製品をインストールしたパソコンが本件第1及び第2発明に係る特許を侵害するとして、特許権に基づく販売行為等の差止めを請求する仮処分命令を申し立てたが(平成14年(ヨ)第22134号)、平成15年6月18日、上記仮処分命令申立てを取り下げた。
2 本訴は、原告が被告に対し、原告による前記1(4)記載の行為が本件特許権を侵害しないと主張して、被告の原告に対する本件特許権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を請求するとともに、被告による前記1(5)記載の行為が不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に該当すると主張して、同法3条及び4条に基づく差止め及び損害賠償を請求する事案である。反訴は、被告が原告に対し、原告による前記1(4)記載の行為が本件特許権を侵害すると主張して、特許法100条に基づき、本件製品の製造及び譲渡等の差止め並びに廃棄を請求する事案である。
3 争点
〔本訴及び反訴について〕
(1) 本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、本件各構成要件にいう「アイコン」に該当するか。
(2) 間接侵害(特許法101条2号、4号)が成立するか。
(3) 本件特許に無効理由が存在することが明らかか否か。
〔本訴について〕
(4) 被告の前記1(5)記載の行為は、不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に該当するか。
(5) 損害の発生及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件充足性)について
〔被告の主張〕
 本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、「アイコン」に該当し、本件製品をインストールしたパソコンは、本件各構成要件をいずれも充足する。
(1) 「アイコン」は、一般にコンピュータディスプレイの画面上に表示される絵又は文字の記号を意味している。
 本件明細書では、第3図に等、文字の記号がアイコンの概念に含まれることが明らかにされている。また、第3図に「ウィンドウタイトル」と記載されているとおり、デスクトップではなくウィンドウ内に表示されるものもアイコンの概念に含まれることが明記されている。さらに、本件明細書第3図でをアイコンに該当するとしているとおり、図案化が極めて低いレベルのものも含まれる。
(2) 本件製品をインストールしたパソコンにおいては、例えば「ジャストホーム」ガイドメニューより「一太郎Home」を起動し、「ヘルプ」メニューから「キーとなる言葉で探す」を選択すると「トピックの検索」というウィンドウが開く。このウィンドウの右上に「?」ボタンが、下部に「表示」ボタンが表示される。「?」ボタンをマウスでクリックし、その後「表示」ボタンをクリックすると「表示」ボタンについての説明が表示される(別紙「ヘルプ機能の表示」記載のとおり)。一方、「?」ボタンをクリックした後、別の操作を行い、その後「表示」ボタンをマウスでクリックしても、「表示」ボタンに関する説明は表示されず、単に「表示」ボタンの機能である項目のヘルプが表示される。
(3) 本件製品の「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、コンピュータディスプレイの画面上に表示される絵又は文字の記号である。したがって、本件製品の「ボタン」は「アイコン」に該当する。
 上記のうち、「?」ボタンは、「アイコン」に該当する「表示」ボタン等の機能説明を表示するので、「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」に該当する。「表示」ボタン等は、これをクリックすると所定の機能を起動するので、「所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコン」に該当する。したがって、本件製品をインストールしたパソコンは、本件各構成要件をいずれも充足する。
(4) 原告の主張(2)について
 原告は、モードレス環境でない環境で用いられるものはアイコンではないと主張するが、被告は容易想到性を主張する前提として「アイコンというモードレス環境にあって」と説明したのであり、これによりアイコンの概念が限定されるものではない。
〔原告の主張〕
 本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、「アイコン」に該当しないから、本件製品をインストールしたパソコンは、本件発明の各構成要件を充足しない。
(1) 本件各構成要件にいう「アイコン」とは、通常ドラッグ・アンド・ドロップができる、画面に表示される絵記号をいう。本件製品をインストールしたパソコンにおいて表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、いずれも絵記号ではないから「アイコン」には該当しない。
 また、「アイコン」であるためには、少なくともデスクトップ上に配置可能であり、かつ図案化されたものであることが必要であり、コンピュータディスプレイの画面上に表示される絵又は「文字の記号」まで拡大されるものではない。「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、いずれもそれぞれのウィンドウ内に配置されており、当該ウィンドウからデスクトップに移動することは不可能である。
 被告は、本件明細書の第3図の記載から文字の記号もアイコンに含まれると主張するが、これは本来具体的に図案化された絵文字が示されるべきところ、単に説明の便宜で抽象的に「通信」とアイコンの枠内に記載されているだけである。
(2) 後記3における被告の主張からすると、本件発明の「アイコン」は、モードレス環境で用いられることが必要である。しかし、「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、機能を表すアイコンを先に指定してから対象となるアイコンを指定する機能先行タイプの処理を行うものであり、「モードレス環境でない環境」で用いられるものであることが明らかであるから、「アイコン」ではない。
2 争点(2)(間接侵害)について
〔被告の主張〕
(1) 本件製品をインストールしたパソコンは、本件特許権を侵害するから、ユーザーが本件製品を購入し、これをパソコンにインストールする行為は、本件第1、第2発明に係る物を生産する行為及び本件第3発明に係る方法を使用する行為に該当し、直接侵害行為を構成する。
 特許法上の「生産」とは、本件特許権の構成要件該当性を有する「物」が作出されれば足り、生産行為を行う以前の対象が本件特許権に該当するかどうかは無関係である。したがって、本件では、「Windows」をインストールし、本件製品をインストールするのは、いずれも「生産」に該当する。
(2) 本件発明の課題は、本件製品をパソコンにインストールすることによって解決されるので、本件製品は、本件発明による課題の解決に不可欠なものである。本件製品は、ねじ、釘、電球、トランジスター等の日本国内で流通している規格品又は普及品ではなく、本件発明による課題の解決のために特別に構成されたものであるから、日本国内において広く一般に流通しているものには当たらない。
(3) 原告は、遅くとも被告が平成14年11月7日に申し立てた仮処分命令の申立書の送達の時からは、本件発明が被告の特許発明であること並びに本件製品が本件発明の実施に用いられることを知っている。したがって、原告が業として、本件製品を製造、譲渡等又は譲渡等の申出を行うことは、特許法101条2号及び4号の要件を満たし、原告には、本件特許に対する間接侵害が成立する。
〔原告の主張〕
(1) 本件製品は、マイクロソフト社のオペレーティングシステムである各種「Windows」上にのみインストールすることができ、「Windows」をインストールしたパソコンであれば、被告が問題としている本件発明の各構成要件はすべて備わっており、本件製品のインストールにより新たに付加されるものではない。
 したがって、ユーザーは既に被告の本件特許の情報処理装置を構成している「Windows」をインストールしたパソコンに本件製品をインストールするに過ぎないから、本件製品のインストールは新たに本件特許に係る「物」を「生産」する行為に当たらない。
(2) 被告が本件製品の機能であると主張する内容について、発明による課題を解決しているのは、むしろ「Windows」というマイクロソフト社のオペレーティングシステムの方であり、本件製品は課題の解決に不可欠ではない。
 例えば、「トピックの検索−一太郎Home2ヘルプ」ウィンドウは、「Windows」が標準で備えるヘルプ表示プログラム「winhelp.exe」が表示するものである。すなわち、「?」ボタンに引き続いて「表示」ボタンをクリックすると「表示」ボタンの説明が表示されるが、この説明は、「一太郎Home」に係る説明ではなく、「Windowsが標準で備えるヘルプ表示プログラムwinhelp.exe」に係る説明であり、その内容もマイクロソフト社が提供するものである。しかも、このように各ボタンの説明が表示されるか否かの制御は、すべて「Windows」が標準で提供するプログラムが行っているのであって、「一太郎Home」は一切関知しないのである。さらに、このような機能を備えたヘルプ表示プログラム等は、他のアプリケーション・ソフトウェアを実行している間においても利用可能である。すなわち、本件製品をインストールするとしないとにかかわらず、「『?』ボタンの指定に引き続いて他のボタンを指定すると、当該他のボタンの説明が表示される」という機能が実現されているのである。これは、本件製品の機能ではなく、「Windows」の機能なのである。
3 争点(3)(権利濫用)について
〔原告の主張〕
 本件発明は進歩性を欠くことが明らかであるから、本件特許に基づく請求は権利濫用として許されない。
(1) 本件特許出願に先行する昭和61年12月11日に公開された特開昭61−281358号公報(甲25)には、「文字・記号キー、削除、挿入等の編集処理を指示する機能キーおよび操作説明キーを有する入力手段、該入力手段からの入力に基づいて文書もしくは操作ガイダンスを表示する表示手段を有するワードプロセッサにおいて、上記操作説明キーと上記機能キーとが連続して入力されると該機能キーにより特定される編集処理機能を説明する説明文を上記表示手段に表示することを特徴とするワードプロセッサの機能説明表示方式。」が開示されている。
 また、本件特許出願に先行する平成元年4月14日に発行され頒布された「一太郎Ver.4活用編」33頁及び34頁(甲26)には、画面のマークを直接クリックすると該当するキーを押すのと同じ操作を行うことができることが記載されている。また、昭和61年5月に発行され頒布された「日経バイト」128頁(甲27)には、指定入力は「アイコン、ボタン」による操作でも「キー」による操作でもよいことが記載されている。
 以上と本件発明との対比において、画面に表示されるアイコンは、画面に表示されるマークの一種であり、ワードプロセッサは情報処理装置であると解釈できる。これらを単純に組み合わせれば、当業者であれば本件第1ないし第3発明をいずれも容易に発明できる。
 したがって、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明できるものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであることは明らかである。
(2) 被告の主張(2)について
ア 後記相違点@Aについて
(ア) 被告は、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させるアイコン自体が容易に想到されないと主張する。
 しかし、甲第25号証からすれば、出願時の当業者であれば、「操作説明キーと機能キーとが連続して入力されると機能キーにより特定される編集処理機能を説明する説明文を表示手段に表示する」技術を自らの知識としている。そして、甲第26号証からすれば、出願時の当業者は、キーとマークは互いに置換が可能であることを自らの知識としているから、出願時の当業者であれば、キーを用いた技術から、そのキーをマークに置換した技術に容易に想到することができ、マークを用いた技術から、そのマークをキーに置換した技術に容易に想到することができる。
 したがって、出願時の当業者であれば、操作説明マークと機能マークが連続して入力されると機能マークにより特定される編集処理機能を説明する説明文を表示手段に表示する技術に容易に想到することができる。そして、アイコンは、少なくとも被告の定義によればマークの一種であるから、結局出願時の当業者であれば、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させるアイコン自体を容易に想到することができる。
(イ) 被告は、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させるアイコンを第2のアイコンより先に指定されるべき第1のアイコンとして着想することにも困難性が存在したと主張する。
 しかし、甲第25号証では、操作説明キーと機能キーが逆の順序で入力される場合も開示されているから、設計変更などの通常の創作能力を発揮すれば可能である。また、出願時の当業者であれば、乙第1号証からすれば、先に目的物を指定し、その後機能を実行するアイコンを指定するモードレス対話の方が多くの場合使いやすいが、機能によってはモード式対話の方が良かったり、設計上避けられないこともあるという知識を有していたから、本件発明の着想は容易であったといえる。
イ 後記相違点Bについて
(ア) 「引き続く」に応じる制御フローは甲第25号証に記載のキー入力の制御フローと同様の作用効果を奏するものである。
 すなわち、本件明細書には、第1のアイコンを指定した直後に第2のアイコン以外の指定があった場合の処理についての開示は一切ない。本件明細書に開示されていない「第2のアイコン以外の指定」があった場合を想定しての主張は失当である。被告は、甲第25号証の操作説明キーの入力の効果は、機能キーが入力されるまで持続されるので、本件発明とは異なると主張するが、当該制御フローは実施例の1つにすぎない。甲第25号証には、操作説明キーを誤って入力してしまった場合については記載がない。逆に本件発明にも、「限定して行う」なる構成要件はないし、「第2のアイコン以外の指定」がされた場合については、何らの限定もなく、ユーザーが誤って第1のアイコンを指定した場合に、望まれない操作説明が表示されてしまう技術をも含むのである。また、甲第25号証第2図からすれば、操作説明キーの後に機能キーを選択しなかった場合にそのまま操作説明モードに戻らず終わりとすることは容易に想到される。
(イ) そして、「引き続く」に応じる制御フローを創作することにより「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」という着想を実現させることは、出願当時の技術水準から容易である。
 すなわち、アイコンというモードレス環境にあって、機能先行タイプの処理を採用することも、甲第25号証からすれば、出願時の当業者による通常の創作能力の発揮により容易に想到できた。また、対象物のアイコンを指定した際、直ちに機能説明が表示されるのは、甲第25号証においても同様である。
(3) 被告の主張(3)について
 本件第2発明については、本件明細書には、第1のアイコンの指定の効果が第2のアイコン以外の指定によって取り消されるか否かについては全く開示されていないから、「モードからの自然な復帰」を実現しているとはいえない。また、第2のアイコン指定が第1のアイコン指定の直後でない場合とは、第2のアイコン指定が初めての指定である場合か、第2のアイコン指定が第2のアイコン指定の直後である場合となるが、これらはいずれも甲第25号証においてすでに開示されており、出願時の当業者が容易に想到できるものである。
(4) 被告の主張(4)について
 甲第26及び第27号証は、ユーザーがキーを押した場合と、ユーザーがマウスを用いてクリックした場合とで同じ処理を行う技術が開示されている点で、異議手続で刊行物3とされたものと実質的に同じものとはいえない。したがって、特許庁で進歩性が認められたことから、無効理由の存在が明らかとはいえないとする被告の主張は失当である。
〔被告の主張〕
 本件発明には進歩性があり、本件特許に無効理由が存在することが明らかとはいえない。
(1) 本件第1及び第3発明と原告の引用例との間には、少なくとも次の相違点がある。
@ 甲第25号証には、操作説明キーが記載されているが、操作説明キーは、それ自身がアイコンではないし、アイコンの機能説明を表示させることもできないから、本件第1発明の構成要件1−A「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」がない。
A 甲第26号証には、マーク、マーク、マーク及びマークが記載されているが、これらのアイコンはアイコンごとの所定の情報処理機能を他のアイコンとは無関係に実行するだけであり、他のアイコンの機能説明を表示させることはできないから、本件第1発明の構成要件1−A「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」がない。
B 甲第25号証には、「上記操作説明キーと上記機能キーが連続して入力される」という制御フローが記載されているが、操作説明キーが入力された場合、他のキー入力があろうがなかろうが、その後に機能キーが入力されれば必ず操作説明が表示されるから、本件第1発明の構成要件1−C「第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定」という制御フローがなく、甲第26号証にも同様にない。
(2) 本件第1発明及び第3発明について
ア 相違点@Aについて
(ア) 甲第26号証は、マークが「ESC」キーと同じ操作を行うことができることを述べるにすぎず、これをもって、どんな場合でもキー操作をマークに置換可能であるとはいえない。甲第26号証に記載の技術思想では、たとえキーをアイコンにより代替することに想到できたとしても、代替できるのは、単発的に所定の情報処理機能が実行される場合に限られる。したがって、甲第25号証に記載の発明における操作説明キーをアイコンに置換して、かつ、第2のアイコンとの関係でその機能を実行する「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」という構成に想到することは当業者といえども容易ではない。
(イ) また、出願当時の技術水準からは、「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる」アイコンを第2のアイコンより先に指定されるべき「第1のアイコン」として着想することにも困難性が存在した。
 一般に機能を表すアイコンはどのアイコンにも移動できないとされており、そのため機能の対象となるアイコンを先に指定してから、その対象に対して実行したい機能を表すアイコンを指定しなければならなかった。したがって、出願当時の技術常識からは、本件特許のような機能を表すアイコンを先に指定するという発想は、通常の創作能力では出てくるはずのないものであった。甲第25号証のようなキー入力のみを想定した技術ではこのような事情はなかった。このように、キー入力とアイコンの指定とは単純に代替できるようなものではない。
イ 相違点Bについて
(ア) 本件発明の「引き続く」に応じる制御フローは甲第25号証に記載のキー入力の制御フローとは異なる作用を有し優れた効果を奏するものである。
 すなわち、甲第25号証の操作説明キーの入力の効果は、機能キーが入力されるまで持続されるが、本件発明ではユーザーが第1のアイコンを誤って指定しても、これに引き続く第2のアイコンの指定がなければ、望まれない機能説明が表示されることはない。これは本件明細書の第2図フローチャートに明確に示されている。
(イ) 本件発明の「引き続く」に応じる制御フローを創作することにより「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」という着想を実現させることは、出願当時の技術水準から困難であった。
 すなわち、存在が確実で有限なキーボード上のキーと異なり、表示画面のアイコンの数には制限がなく、表示画面によっては全くアイコンが存在しない場合もあるから、アイコンを使用する情報処理装置では、まず処理の対象となる目的物を選択し、次に機能を選択して命令するという方式のモードレス対話が通常であり、モードのある方式、すなわち機能を表すアイコンを先に指定してから対象となるアイコンを指定する機能先行タイプの処理を行うには、ユーザーが誤って機能を表すアイコンを指定してしまった場合や機能を表すアイコンを指定してから対象となるアイコンが存在しなかった場合の対処として、確認のために「実行」ボタンを指定させる等の付加処理をするのが当業者の常識であった。
 このような状況で、本件発明のように、アイコンを使用する情報処理装置において機能先行タイプの処理を採用しながら、付加処理をせずに対象のアイコンを指定した際に直ちに機能説明を表示し、誤って機能キーを指定しても「ESC」ボタンなどの操作を要求しないよう、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に限定して行うという構成に想到することは、当業者にとっても容易なことではない。
(3) 本件第2発明について
 本件第2発明が定めるような「直後でない場合」の動作は、甲第25号証には何ら記載されておらず、示唆もない。かえって、甲第25号証には、一度操作説明キーが選択されると、その効果が次に機能キーが選択されるまで持続することが記載されているのであるから、本件第2発明のように、アイコンの機能説明において、モードから自然に復帰することにより、操作性に優れた情報処理装置を提供することは、容易に想到できるものではない。
(4) 明白性について
 本件発明は、操作性に優れた情報処理装置を提供するという効果を奏するヒューマンインターフェースに関する発明であるが、このような発明では人間の操作特性に対する適合性が高いものであればあるほど、操作者にとって使いやすいものなので、後知恵で考えると当たり前で容易に想到し得たとされかねない危険がある。したがって、無効の判断には、出願時の当業者を慎重に認定して判断すべきである。
 本件発明は、進歩性を認めた異議手続を経ているが、原告が根拠としている引用例は異議手続で提出されたものと同じ文献か、実質的に同じものであり、特許庁で進歩性が認められたことからすれば、無効理由を有するのが明らかとはいえない。
4 争点(4)(営業誹謗行為の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 原告は、被告以外のパソコンメーカーに原告の本件製品をプリインストールしたパソコン販売を許すなどしている。被告はソフトウェアも製造販売しているし、原告以外のソフトウェアメーカーのソフトウェアを被告が製造販売するパソコン「レッツノート」にプリインストールしている。したがって、原告と被告は、ソフトウェアの作成、販売の事業の分野において競争関係にある。
(2) 前記のとおり、原告の本件製品が被告の本件特許権を侵害していないにもかかわらず、被告はソーテックに対し、虚偽の事実を告知したものである。また、従前の原告被告間の訴訟外の交渉経緯から、原告が本件特許権を侵害していないと確信して対応していたことは被告にとっても明らかであったのであり、被告は原告の営業上の利益を侵害する結果を生じることを認識しながら、あえて上記行為を行ったものであり、少なくとも過失は認められる。したがって、被告の前記第2の1(5)記載の行為は、不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に該当する。
(3) 特許権者による競業者の取引先に対する告知行為がその取引先自身に対する特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものであるときには、違法性が阻却されるが、その判断基準は、@特許権者等が事実的法律的根拠を欠くことを知りながら、又は、特許権者として、特許権侵害訴訟を提起するために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば、事実的、法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて警告をなしたかどうか、A競業者の取引先に対する警告が特許権の権利行使の一環としてされたものか、社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容、態様となっているかについては、当該警告文書等の形式・文面のみならず、当該警告に至るまでの競業者との交渉の経緯、警告文書等の配付時期・期間、配布先の数・範囲、警告文書等の配布先である取引先の業種・事業内容、事業規模、競業者との関係・取引態様、当該侵害被疑製品への関与の態様、特許侵害訴訟への対応能力、警告文書等の配付への当該取引先の対応、その後の特許権者及び当該取引先の行動等、諸般の事情を総合して判断するのが相当である。なお、直接侵害者に対してなされた通知についても不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当し得るのであり、違法性を阻却する理由とならない。
 被告は、原告に対し、本件特許の登録日から2年以上経過した平成13年2月7日付け文書で本件特許権に関する意見交換を申し入れたが、特許侵害の根拠は、単に添付された特許公報と被告作成の対比表のみであったため、根拠薄弱として、原告は被告のライセンス供与提案を拒絶した。しかし、被告は1往復の書面のやりとりの後、わずか3か月でソーテックに対する警告をした。ソーテックは、原告の製造した本件製品をプリインストール又は同梱して販売していた単なる流通業者と同視できる者であるから、原告の製品が特許侵害かどうかを判断する能力を有していなかった。しかし、被告がソーテック自ら対応することを強引に要求したため、ソーテックは後難をおそれて本件製品の販売をとりやめてしまい、原告は重要な取引先の1つを失い、業界内での信用を毀損されたのである。被告は、ソーテックと誠実に交渉していると主張しながら、侵害の根拠としてソーテックに示した資料は極めて簡易なものにすぎない。また、当時、ソーテック以外にも日本電気株式会社や株式会社日立製作所が本件製品をプリインストールして販売していたが、被告は他のメーカーに比べ訴訟対応能力に劣ると思われるソーテックのみに警告書を発したのである。
 このような事情を総合すると、被告の行為は権利行使に名を借りつつ、その実質がむしろ原告の取引先に対する信用を毀損し、当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的とされたものである。したがって、被告の行為は違法性を阻却されない。
〔被告の主張〕
(1) 原告はいわゆるソフトメーカーであり、被告はいわゆるハードメーカーであり、ソフトウェアの作成、販売の事業の分野において競争関係にはない。
(2) 被告がソーテックに通知や仮処分申立てを行ったのは、@ソーテックが本件製品をインストールしたパソコンを販売していたために、本件特許権の直接侵害行為をしていたこと、Aソーテックからの問い合わせに対して、詳細に調査して回答するなど、真に権利行使する意思で長期にわたり誠実に交渉したこと、Bソーテックは、本件製品をプリインストールしたパソコンの販売を中止すると回答しながら、これを同梱するという方法で、特許侵害逃れを図ったこと、Cこれに対して本件仮処分の申立てをしたこと、Dソーテックが本件製品の同梱を取り止めたために、仮処分の目的を達したとして申立てを取り下げたこと等の事情から、特許権の正当な権利行使として行ったものであり、原告を誹謗するために行ったものではない。
(3) ソーテックは、本件製品をインストールしたパソコンを自ら製造していたのであるから、単なる流通業者ではない。また、その後、ソーテックは本件製品を同梱して販売していたが、これは、本件製品の同梱により自社製パソコンの販売促進を図ろうとするものであるから、このような形態の販売は、単なる流通業者と同視しうる行為ではない。ソーテックは、本件特許権を有責に侵害しており、被告のパソコンのシェアを直接的に奪っていたものである。
 また、ソーテックは、平成12年の実績によれば、市場シェア5位であり、当時パソコン市場の新興勢力として躍進していた。これだけの市場シェアを有し、知的財産分野での訴訟経験も積んでいたから、ソーテックが特許訴訟の対応能力が劣るとは考えられない。また、少ないながら固定した顧客を有する株式会社日立製作所などと比べても、新興であるソーテックへの権利行使による効果が最も期待できた。したがって、被告がソーテックを権利行使の対象としたのは、自社製品のシェア確保として極めて合理的な選択であった。
 したがって、被告の行為は、不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為には該当しない。
5 争点(5)(損害)について
〔原告の主張〕
 被告の虚偽の通知により、原告はソーテックから特許問題につき説明するようにとの要望を出され、対応を強いられた上、ソーテックは、平成13年10月下旬に本件製品のプリインストールモデルの販売を停止する決定を被告に対して回答した。さらに、平成15年1月には、ソーテックは、平成13年10月から継続されていた原告製品の同梱も停止するに至った。このため、原告はソーテックに対して本件製品を販売することができなくなり、得べかりし利益を失った。また、上記の虚偽の通知により、原告の営業上の信用が著しく毀損された。このような結果として原告に発生した損害は100万円を下らない。
 また、今後も被告が原告の取引先に対して、以前と同様に通知、仮処分申立て等の行動に出たり、一般消費者に対して本件製品が本件特許権を侵害するとの虚偽の事実を告知、流布し、原告の信用が毀損されるおそれは大きい。
 よって、原告は被告に対し、不正競争防止法3条及び4条に基づき、差止め及び損害の内金10万円の支払を請求する。
〔被告の主張〕
 原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(構成要件充足性)について
(1) 本件明細書における「アイコン」の意義
ア 本件明細書(甲13)に「アイコン」の定義はないが、特許請求の範囲請求項1には、「機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」、「所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコン」及び「表示手段の表示画面上に表示されたアイコン」との記載がある。
イ また、本件明細書(甲13)の発明の詳細な説明には、「アイコン」について、次のような記載がある。
(ア) 「先ず、ステップS1で、ウィンドウ情報記憶部5を参照して、表示装置1の表示画面上のどの位置にどんなオブジェクトがあるかを知る。つまり、表示装置1に表示されている各種の処理コマンドを指示するアイコンの表示位置データを得る。」(4欄9行ないし14行)
(イ) 「次にステップS2において機能説明を指示するアイコンが指定されたか否かを判別するが、ここでは、ポインティング装置2に設けられたボタンが押された時のマウスカーソルの位置から、その位置に表示されているアイコンの種類を識別する。そして指定されたアイコンが機能説明を指示するアイコンであったならばステップS3に移行し、ポインティング装置2の移動に伴って機能説明を指示するアイコンを移動させる。ステップS4でポインティング装置2のボタンが離されると、ステップS5に移行し、ボタンが離された時の機能説明を指示するアイコンの位置のデータと、ウィンドウ情報記憶部5から得たデータとから機能説明を行うべき機能の種類を識別し、機能説明のアプリケーションを起動し、機能説明を行う。ステップS2の判断で、機能説明アイコンでない場合、ステップS6に移行し、指定されたアイコンで示される機能動作を実行し、その機能の終了によって第2図のフローチャートの制御を終了する。」(4欄14行ないし30行)
(ウ) 「以上の構成で、まず、第3図に示すようにウィンドウがオープンされ、このとき、画面情報として、ウィンドウの位置情報、大きさ等が記憶され、ウィンドウ内に矩形のホームメニューが複数個表示される。この時、機能説明アプリケーションは、丸印で示されたアイコンの形で表示されている。そしてポインティング装置2を移動させて、矢印で示されたマウスカーソルを丸印の機能説明アイコンの上へ重ね合わせ、マウスボタンをプレスして説明対象オブジェクトの上へドラッグして移動し、マウスボタンをリリースする。例えば通信のアイコンの上に移動する。」(4欄31行ないし41行)
(エ) 「第5図は、機能説明の丸印のアイコンをウィンドウの枠部分に設けられたスクロールバーの位置に移動してリリースした時の機能説明の表示例を示したものである。又第6図に示すように、別のウィンドウに表示されているメニューメッセージ上に移動させる場合の例を示したものである。」(4欄50行ないし5欄5行)
(オ) 「第3図、第4図は本実施例を示す図、第5図、第6図は本実施例の他の表示例を示す図である。」(6欄10行、11行)
ウ 前記アで認定したとおり、本件明細書には、「アイコン」を定義する記載はなく、アイコンとは、前記アの記載から、表示画面上に表示され、情報処理機能等を実行させるものであり、また、前記イ(ア)の記載から、各種の処理コマンドを指示するものであることがわかる。
 もっとも、前記イ(エ)及び(オ)記載のとおり、機能説明のアイコンをウィンドウの枠部分に設けられたスクロールバーや、別のウィンドウに表示されているメニューメッセージ上に移動させた時の機能説明の表示例が示されているが、「メニューメッセージ」は、「各種の処理コマンドを指示するもの」ではないから「アイコン」には含まれず、本件発明の実施例とはいえない。本件明細書にも、前記イ(オ)のとおり、第3図及び第4図は、「本実施例」とされているが、機能説明のアイコンをメニューメッセージ上に移動させた図である第6図は、本実施例の「他の表示例」とされており、区別されている。したがって、同じく「他の表示例」とされている第5図に記載された機能説明のアイコンをスクロールバー上に移動させた例も本件発明の実施例とはいえない。したがって、スクロールバーは「アイコン」には含まれない。
 以上のとおり、本件明細書の記載からは、「アイコン」について前記認定以上に定義されているとはいえないので、本件特許出願当時の「アイコン」の意義を参酌すべきものと解される。
(2) 出願当時における「アイコン」の意義
ア 本件特許出願当時(平成元年10月31日)の文献には、次のような記載がある。
(ア) 昭和64年1月1日発行の「現代用語の基礎知識1989」(甲56)には、アイコンについて「ディスプレイの画面の中に、目で見てそれと分かる絵を示し、その絵に相当する処理をさせる方式。たとえば、時間を知りたいときは、時計の形をした絵をマウスで指定する。」との記載がある。
(イ) 昭和63年3月30日発行の「電子情報通信ハンドブック」(甲57)には、「ディスプレイ上ではマルチウィンドウ機能により、複数の画面を同時に表示し、相互にデータ交換を行って、仕事の流れを目で確認しながら進めることができる。また、各種のデータや処理機能を「絵」(アイコンと呼ぶ)として表示し、マウスで指示、選択することにより処理を進める。」との記載がある。
(ウ) 昭和61年11月20日発行の「図解コンピュータ百科事典」(甲58)には、「アイコンとは、機能やファイルを視覚的にだれにでもわかりやすく絵文字で表現したものである。アイコンは、システムごとに決められたものとユーザが自分で自由に決めるものがある。しかし、バラバラな絵文字を使うことは、逆にわかりにくくなる危険性がある。アイコンの標準化は、1986年からやっと検討着手した段階である。代表的なアイコンとしてゼロックスのワークステーション“STAR”で採用されているものを紹介する。」と記載され、アイコンの例として、12例が挙げられているが、いずれもその機能を絵で表現したものである。
(エ) 昭和61年4月25日発行の「JStarワークステーション」(甲44、乙1)には、上記(ウ)で記載したゼロックスのワークステーション“STAR”で採用されたアイコンについて、「一般オフィスで使用される用紙、フォルダ、ドロア、メール箱などの使用形態を画面上にシミュレートし、絵文字を使ったデスクトップというモデルを基本としている。この用紙やフォルダなどを見やすく描いた絵文字をアイコン(icon)とよぶ。図3.3にJStarに使用されるアイコンの主なものを示す。一見して各絵文字が何を表すのかがよくわかるデザインになっている。」とあり、8種類のアイコン例が示されているが、いずれも絵で表現されたものである。「アイコン(絵文字)」という記載もある。
 また、「このようなアイコンが画面上に表示され、その配置もユーザの好みに応じて自由に変更できる。まさに事務机の上に置いてある書類や事務機をシュミレートしてあり、これがワークステーションの概念に欠かせなくなったデスクトップ思想である。」、「オフィスの机の上の状態を画面上にシミュレートしたデスクトップとアイコンの考え方は、ユーザに親しみやすさを感じられると同時に、覚えやすさと操作のしやすさの向上が目的となっている。」、「アイコンは大きく分類して2種類ある。一つは文書アイコンやレコードファイルアイコンなど、中身の実体をもったデータアイコンと、プリンタアイコンや電子メールの送信箱アイコンのように特定の機能を実行するためのアイコンがある。」、「基本的に文字だけの表示とステップキーや数字入力に頼ってユーザインタフェースを構成している従来の機器に比べ、アイコンとマウスを使ったシステムはユーザの心理的負担を大幅に軽減し、ユーザインタフェースを大きく改善している。」との記載もある。
 さらに、図6.5には、デスクトップ表示例として、アイコンがデスクトップ上に並んでいる例が示され、図6.6には、アイコンのデザイン例として、9つの機能に関して5つずつ例が示されているが、アイコンはいずれもデザイン化された絵で示されている。
 他方、「d.文書ウィンドウ 文書の内容を、WYSIWYGの概念にそってプリントしたときと同じレイアウトで表示するウィンドウである。図6.9にその構成を示す。このウィンドウの上端は、灰色のバックグラウンドになっており、真中上に文書タイトルが表示される。その他、左側に操作がわからなくなったときにシステムからの助けを求めるための「?」、文書を閉じるときの「閉じる」、ページ割付けをするための「ページ割り付け」があり、右側には表作成の際の補助命令やそれ以外の補助命令を表示させるための二つのマークが表示されている。いずれもマウス操作によって各命令を選択する。」、ヘルプシステムの操作方法として、「文書ウィンドウ、オプションシート、およびプロパティシートの左上隅にある「?」を選択する。」という記載もある。
イ 本件特許出願後の文献には、次のような記載がある。
(ア) 平成2年5月25日発行の「岩波情報科学辞典」(甲19)には、アイコンとは、「計算機が人間とのインターフェースとして画面上に表示する処理の対象物や処理そのものを示す図柄をいう。icon本来の意味は、像、肖像あるいはキリストや聖人を小さな板に描いた絵のことで、イコンとよんでいる。計算機で使うときにはアイコンと発音する。普通は常時表示しているメニューの項目として使用する。抽象化した単純な図柄を用いるのが普通であるが、対象物を表わす図柄のときには具体的な絵を使うことが多い。高度な機能をもったウィンドウシステムのもとでは、アイコンへの操作だけで仕事を済ませることも可能で、たとえば文書を表わすアイコンを選択し、次にプリンターやくず箱を表わすアイコンへ移動する(ドラッグ(drag)という)という操作によって文書の印字や削除の処理を表現することができる。」と記載されている。
(イ) 平成13年1月1日発行の「現代用語の基礎知識2001」(甲20)には、「アイコンは、画面に表示される絵記号、ウィンドウは画面上に開く小画面のこと。」という記載がある。
(ウ) 平成14年1月1日発行の「情報・知識imidas2002」(甲21)には、アイコンとは、「書類やフォルダー、あるいは、文房具に相当するプログラムを、その内容を象徴したデザインの絵文字で表したもの。よく似たものに、ボタン(button)があるが、こちらは、機能そのものをデザイン化したもの。」との記載がある。
(エ) 平成14年1月1日発行の「情報・知識imidas2002 別冊付録 IT用語/カタカナ・略語辞典」(甲22)には、アイコンとは、「画面上でファイル、ソフトウエア、周辺機器などをシンボル化して表す小さな絵柄。絵記号。」とあり、ボタンとは、「パソコンの画像表示で、機能そのものをデザイン化したもの。」との記載がある。 
ウ 前記ア(ア)ないし(ウ)で認定したとおり、本件特許出願当時の文献によれば、アイコンとは、「表示画面上に、各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されていたものということができる。
 また、前記ア(エ)のとおり、アイコンを絵文字であるとした上で、ヘルプ機能を示す「?」、文書を閉じるときの「閉じる」、ページ割付けをするための「ページ割り付け」を「アイコン」と呼ばずに区別していると解される文献もある。
 さらに、前記イで認定したとおり、本件特許出願後の文献でも、アイコンは、上記と同様に解されている上、前記イ(ウ)及び(エ)からは、絵文字で表した「アイコン」と区別して、機能そのものをデザイン化したパソコンの画像表示を「ボタン」と呼んでいる。
(3) 本件製品の「?」ボタン及び「表示」ボタン等の「アイコン」該当性
 以上(1)及び(2)によれば、本件発明にいう「アイコン」とは、「表示画面上に、各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して、コマンドを処理するもの」であるのに対し、本件製品の「?」や「表示」、「プロパティ」及び「キャンセル」は、表示画面上にあり、処理機能を表示しているものの、デザイン化されていない単なる「記号」や「文字」であって、絵又は絵文字とはいえないことは明らかであるから、本件各構成要件における「アイコン」には該当しない。
(4) 被告の主張について
 被告は、「アイコン」には、絵のほかに文字の記号も含まれると主張する。しかしながら、上記主張を認めるに足りる証拠はない。アイコンのデザインの例として、四角い枠の中に「Employee Expense Form」とのみ記載されている表示も紹介されているが(甲44)、これは「Employee Expense Form」という名前を付けた文書を表す絵文字であって、「Employee Expense Form」という機能を表示しているものではない。したがって、「表示」、「プロパティ」、「キャンセル」という機能を文字で表示している本件製品と同様に解することはできない。
 また、被告は、本件明細書では、第3図に等、文字の記号や図案化が極めて低いレベルのものもアイコンの概念に含まれることが明らかにされていると主張する。しかしながら、本件明細書の第3図及び第4図では、機能説明のアイコンも単なる丸印で示されていることから、同図はアイコンの表示を単に簡略に記載しただけであると考えられ、第3図の記載をもってアイコンが文字の記号を含むということはできない。
(5) 小括
 以上のとおり、本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は、本件各構成要件にいう「アイコン」に該当しないから、本件発明の技術的範囲に属さず、同パソコンを製造等する行為は本件特許権を侵害しない。
 したがって、その余の点につき判断するまでもなく、被告の反訴請求は理由がない。
2 争点(4)(営業誹謗行為の有無)について
(1) 原告は、コンピュータシステムの開発及び販売等を目的とする株式会社である。被告は、映像・音響機器、家電品、情報・通信機器等の製造・販売等を業とする株式会社であり、証拠(甲14)によれば、パソコンの製造販売も行っていることが認められるから、原告と被告とは、パソコン関連事業の分野において競争関係にある。
 被告は、原告はいわゆるソフトメーカーであり、被告はいわゆるハードメーカーであるから競争関係にないと主張するが、一般にソフトウェアをプリインストールしたパソコンの販売が多いこと、原告もソーテックのように被告以外のパソコンメーカーにプリインストールを許可していたし、被告も原告以外のソフトウェアメーカーのソフトウェアを被告が製造販売するパソコン「レッツノート」にプリインストールしていること(甲14)などからすれば、両者は、競争関係にあると認められる。
(2) 前記1で認定したとおり、本件製品は本件発明の技術的範囲に属さないのであるから、本件製品をプリインストールしたソーテックのパソコンは被告の本件特許権を侵害するものである旨の告知内容は、虚偽の事実に該当する。
 しかし、このような場合であっても、告知した相手方が本件製品をプリインストールしたパソコンを販売する者であって、特許権者による告知行為が、その相手方自身に対する特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には、違法性が阻却されると解するのが相当である。これに対し、その告知行為が特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも、競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことを目的とし、内容ないし態様において社会通念上著しく不相当であるなど、権利行使の範囲を逸脱するものと認められる場合には違法性は阻却されず、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当すると解すべきである。
(3) 証拠(甲1、28、38ないし43、46ないし55、乙4ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告は、原告に対し、平成7年12月26日付けで、本件特許権とは異なる別の特許が原告の製造販売するソフトウェアに関係があるとして、実施許諾の用意がある旨の文書を送付した(甲46)。これを端緒として、その後も被告は原告に対し、同様の申入れを行ったが、平成10年2月3日付けの被告のライセンス契約締結の申入れに対し、原告は、同年3月20日、ライセンス供与拒絶の回答をした(甲47)。
イ 被告は、原告に対し、平成12年6月7日付けで、さらに被告の特許権と原告の製造販売するソフトウェアに関する意見交換の申入れを行い、電話でも重ねて申入れをしたが、原告が回答しなかったため、平成13年2月7日付け文書により、本件明細書及び原告の製品との対比表を添付して、再度意見交換の申入れをした(甲48)。
 これに対し、原告は、同年2月22日、被告が有する特許権のライセンス供与を受ける考えはなく、被告の申入れに応じられないとの回答をした(甲49)。
ウ 被告は、平成13年5月31日付け書面により、本件製品をプリインストールしたパソコンを販売していたソーテックに対し、ソーテックの製品は被告の本件特許を含む特許権に関係するものである旨を通知した(甲40)。
 これに対し、同年6月29日、ソーテックは、被告の特許がソーテックの製品のどこに該当するのか書面による具体的な特定を求めた(乙4)。
エ 被告は、ソーテックに対し、同年7月13日、本件製品をプリインストールしたパソコンが本件特許権を侵害する旨の資料(甲50)を添付して通知した(乙5)。
 これに対し、同年8月17日、ソーテックは、特許問題は主として被告と原告との間の問題であり、本件製品の製造元である原告に任せているので原告に直接問い合わせて欲しい旨の回答をした(乙6)。
オ 被告は、ソーテックに対し、同年9月13日、ソーテックが本件製品をプリインストールしたパソコンを販売する行為が侵害行為に該当する旨を通知した(乙7)。
 これに対し、ソーテックは、同年10月4日、本件製品は原告の製品であるため、ソーテックは技術情報を持ち合わせておらず、対応が困難であること、及び同年10月下旬から本件製品のプリインストールを止める旨の回答をした(甲43、乙8)。
カ 被告は、原告に対し、同年10月23日、ソーテックに対して本件特許権に関する申入れをしていること、ソーテックから原告に直接問い合わせて欲しいとの回答があったこと、原告と打合せを望んでいるが対応がない場合にはしかるべき手段を執る旨の通知をした(甲51)。
 これに対し、原告は、同年10月30日、再度被告の特許権のライセンス供与を受ける考えはなく、被告の申入れに応じられないとの回答をした(甲52)。
キ 被告は、ソーテックに対し、同年10月24日、プリインストールが中止されていないこと、ソーテックが行っている本件製品をパソコンに同梱して販売する行為も侵害行為に該当すること、原告にも通知をしていること等を通知した(乙9)。
 ソーテックは、被告に対し、同年11月7日、原告からパソコンに本件製品をインストールしても本件特許権には抵触しない旨被告に回答するよう指示があったこと、ソーテックとしては、被告と原告との紛争と考えており、被告と会う意思がないことを回答した(乙10)。
ク 被告は、平成13年12月27日付け内容証明郵便により、ソーテックに対し、本件製品をプリインストールしたパソコン及び本件製品を同梱して販売しているパソコンは、本件特許権を侵害するので、販売を直ちに止め、販売台数、売上高、在庫台数を明らかにするよう求めた(甲41)。また、同日、原告に対し、同様の内容証明郵便を送付した(甲53)。
 これに対し、ソーテックは、平成14年1月17日、被告に対し、ソーテックの製品は非侵害であると確信している旨の回答書を送付した(甲54)。また、同日、原告も被告に対し、原告の製品について特許侵害行為はないとの回答書を送付した(甲55)。
ケ 被告は、平成14年11月7日、原告に対し、本件製品をインストールしたパソコンが本件第1及び第2発明に係る特許を侵害するとして、特許権侵害による販売行為等の差止めを請求する仮処分命令申立て(平成14年(ヨ)第22134号)を行い(甲1)、同日、ソーテックに対しても同様に仮処分命令申立て(平成14年(ヨ)第22135号)をした(甲42)。
 さらに、平成14年12月10日付けで、被告は、原告に対し、本件製品をインストールしたパソコンが本件第3発明に係る特許を侵害するとして、特許権侵害による販売行為等の差止めを請求する仮処分申立て(平成14年(ヨ)第22145号)を行い(甲28)、同日、ソーテックに対しても同様に仮処分命令申立て(平成14年(ヨ)第22146号)をした。
コ その後、ソーテックは、本件製品をインストールしたパソコンの販売を中止した。
 被告は、ソーテックに対しては平成15年6月4日(乙11、12)、原告に対しては同月18日(甲38、39)、上記仮処分命令申立てをすべて取り下げた。
サ なお、ソーテックは、平成12年度のシェアは業界で5位ながら、前年比3.1ポイント増の9.1%までシェアを伸ばしていた(乙13)。
(4) 前記(3)で認定した事実によれば、被告のソーテックに対する告知及び仮処分命令の申立ては、本件製品をインストールしたパソコンが本件特許権を侵害するとすれば、上記パソコンを製造販売しているソーテックは本件特許権の直接侵害者に相当する立場の者であるから、特許権者の権利行使の一環としてされたものである。そして、被告は、ソーテックにより具体的な侵害の特定を求められて、不十分ながらも返答していること(前記(3)ウ、エ)、被告は、ソーテックから原告に問い合わせて欲しいと回答されて、原告にも通知を発していること(前記(3)エ、カ)、被告がソーテックに対し、内容証明郵便を送付し、仮処分命令申立てを行ったのは、ソーテックが一旦は本件製品のプリインストールを中止すると回答したのにもかかわらず、中止しないばかりか、本件製品は本件特許権に抵触しないと主張して交渉を拒絶したため、法的手段を採らざるを得なかったものと考えられること(前記(3)オ、キ、ク)、被告は、ソーテックばかりではなく、原告に対しても同様に仮処分命令の申立てをしていること(前記(3)ケ)、被告はその後同仮処分命令申立てを取り下げているが、これはソーテックが本件製品をインストールしたパソコンの販売を中止したためであると考えられること(前記(3)コ)、いずれの通知の形式及び内容も、社会的相当性を欠くものとはいえないこと、ソーテックは、当時は成長著しい企業であり、被告が弱小企業を狙い撃ちしたものであるとも認め難いこと(前記(3)サ)などの事情に照らせば、被告のソーテックに対する行為が原告の信用を毀損して被告が市場において優位に立つことを目的としたものとはいえず、内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず、権利行使の範囲を逸脱するものということはできない。
 なお、被告が原告に対し、平成7年からライセンス契約締結の申入れを行い、原告が拒絶し続けている事実は認められるものの(前記(3)ア、イ)、上記認定事実からすれば、被告のソーテックに対する行為が、特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも、権利行使の範囲を逸脱したものとはいえない。
(5) 以上のとおり、被告のソーテックに対する告知及び仮処分命令の申立ては、違法性が阻却されるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求のうち、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
3 原告の確認請求について
 原告の差止請求権不存在確認請求は、差止めを求める反訴が提起されている以上、確認の利益を欠くことになり、不適法として却下を免れない(最高裁平成13年(オ)第734号、同年(受)第723号同16年3月25日第一小法廷判決・民集58巻3号753頁)。
4 結論
 以上のとおり、原告の本訴請求のうち、確認請求は不適法であるからこれを却下し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか


物件目録
 商品名 「ジャストホーム2家計簿パック」

(別紙) ヘルプ機能の表示 <略>
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