判例全文 | ||
【事件名】雑誌題号の商標権侵害事件(2) 【年月日】平成16年7月30日 東京高裁 平成16年(ネ)第2189号 商標権使用差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成15年(ワ)第25348号) (平成16年7月5日 口頭弁論終結) 判決 控訴人 八峰出版株式会社 訴訟代理人弁護士 服部弘志 同 寺原真希子 被控訴人 株式会社日本医療情報出版 訴訟代理人弁護士 山崎順一 同 新井由紀 同 三輪健志 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙雑誌目録記載の雑誌(以下「本件書籍」という。)の販売に当たり、原判決別紙標章目録記載の標章(以下「被控訴人標章」という。)を使用してはならない。 3 被控訴人は、本件書籍を廃棄せよ。 4 被控訴人は、控訴人に対し、553万2000円及びこれに対する平成15年11月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 6 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件書籍を販売する被控訴人の行為が控訴人の商標権を侵害すると主張して、本件書籍の販売に当たっての被控訴人標章の使用の差止め、本件書籍の廃棄及び損害賠償を求めた事案であり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決に対し、控訴人がその取消しを求めて控訴した。 本件の前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。 1 控訴人の主張 原判決は、本件書籍の需要者は、「がん治療の最前線」との被控訴人標章を、最新のがん治療法を内容とする記事を掲載した雑誌であることを示す表示であると理解すると解されると判断したが、誤りである。 (1) 原判決は、上記判断の根拠として、@被控訴人の月刊誌「月刊がん もっといい日」において「治療最前線」の表題の下にがんに関する最新の治療法の紹介記事が連載されていたこと、A本件書籍が上記雑誌の別冊として出版された図書であること、B本件書籍が、上記雑誌において「治療最前線」の表題の下に連載された最新のがん治療法の紹介記事から選択してまとめられた図書であること、の3点を挙げるが、本件書籍の一般の需要者は、上記の点を認識しているものだけではなく、むしろ、上記の点を認識している需要者はごく限られる。にもかかわらず、原判決は、本件書籍の需要者をそうしたごく限られた者に限定して、被控訴人標章の自他商品識別機能ないし出所表示機能を否定したものであるから、不当である。 (2) また、原判決は、上記判断の根拠として、C本件書籍で紹介されている記事のすべてが、注目されている最新の治療法の現場からの紹介に関するものであるとの点を挙げるが、そもそも、書籍の需要者は、書籍を識別する際に、書籍に付されている標章と書籍の中身との比較検討を行うものではなく、書籍に付されている最も目立つ標章を目印に、連想する出版社や中身を基準として、書籍を選別するものであるから、上記の点は上記判断の根拠となり得ない。 (3) さらに、原判決は、上記判断の理由として、上記(1)及び(2)で挙げた諸点のほか、@被控訴人標章の上に、「別冊『月刊がん もっといい日』」と記載されて、本件書籍と上記雑誌との関係が示されていること、A被控訴人標章の下に、「進歩するがん治療。各専門医による最新の治療法をご紹介します。」と本件書籍の内容が端的に説明されていること、B更にその下に、「乳がん内視鏡手術」等の治療法の実例が挙げられていることを挙げる。 しかしながら、本件書籍においては、被控訴人標章が、最も大きな文字で、かつ、控訴人が発行している月刊誌において控訴人が使用している本件商標とほぼ同じ書式で記載されていることからすれば、需要者において、本件書籍は控訴人ないし控訴人が発行している上記月刊誌と関連性があるものであると誤認するおそれは大いにあるというべきであって、上記@ないしBの点は、このおそれを覆すものではない。 (4) そもそも、特許庁の商標審査基準においては、「新聞、雑誌等の定期刊行物の題号は、原則として、自他商品の識別力があるものとする」(3条1項3号に関する「7.(2)」の項)とするが、これは、取引上、「単行本」の場合には著作者との結びつきが強い形で取り扱われるのに対し、「雑誌」の場合には、編集から発行までが出版社の手によって行われることから、出版社との結びつきが強い形で取り扱われることを主な理由とするものである。この点は、雑誌である本件書籍においても異ならないから、被控訴人標章は、本件書籍において、自他商品識別機能を有する態様で使用されているというべきである。 なお、被控訴人は、本件書籍につき、「雑誌」としての側面があるのみならず、「単行本」としての側面もある旨主張するが、本件書籍には、雑誌コードが付されており、書籍コードは付されていない。 2 被控訴人の主張 原判決の認定判断は正当であり、控訴人の上記各主張はすべて争う。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人標章は、自他商品を識別する機能ないしその出所を表示する機能を果たす態様で用いられていないので、商標として使用されておらず、被控訴人が本件書籍において被控訴人標章を用いた行為は、本件商標権の侵害には当たらないと判断する。その理由は、以下のとおり、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「1 商標権侵害の有無」のとおりであるから、これを引用する。 控訴人は、上記第2の1のとおり、上記引用に係る原判決の判断を論難するが、当該判断は、本件書籍の表紙等における被控訴人標章の使用態様を主な根拠として、被控訴人標章が商標として使用されていないとの結論を導いているところ、同(1)及び(2)の主張は、そうした判断に何ら影響を与えるものではないから、採用の限りではない。また、同(3)の主張については、被控訴人標章がどのような機能を果たしているかは、本件書籍における使用態様との関係において判断されるべきことであり、控訴人がその発行する月刊誌において本件商標をどのように使用しているかとは関係がないというべきであるから、この点も上記判断を左右しない。さらに、同(4)の主張については、特許庁の商標審査基準に控訴人主張に係る記載があることは当裁判所に顕著であるが、同基準は、審査官による判断の統一、審査の適正及び促進を期することを主たる目的とするものであって、何ら法的な拘束力を有するものではない上、控訴人の主張に即して考えても、上記引用に係る原判決の認定事実に照らせば、本件書籍において自他商品の識別力を有する「題号」は「別冊『月刊がん もっといい日』」との表示であると解されるから、やはり、上記判断を左右しないというべきである。 2 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないから、棄却すべきである。 よって、以上と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所知的財産第2部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 古城春実 裁判官 早田尚貴 |
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