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【事件名】マンション名“ヴォーグ”事件
【年月日】平成16年7月2日
 東京地裁 平成15年(ワ)第27434号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年5月14日)

判決
原告 アドバンス・マガジン・パブリッシャーズ・インコーポレーテッド
原告 有限会社日経コンデナスト
上記両名訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
同 永田早苗
同 吉澤尚
同 加藤はるか
同補佐人弁理士 小林彰治
被告 株式会社プロパスト
同訴訟代理人弁護士 島田康男
同 羽野島裕二
同 上田敏成
同補佐人弁理士 押本泰彦
同 島田富美子
同 近藤美帆


主文
1 被告は、建物及びその営業上の施設又は活動に、別紙被告標章目録(1)ないし(11)記載の各標章を使用してはならない。
2 被告は、別紙被告標章目録(1)ないし(11)記載の各標章を定価表、取引書類、その他の印刷物並びに看板、のぼり、チラシ、新聞広告等の広告物に使用してはならない。
3 被告は、原告らそれぞれに対し、金4750万円及びこれに対する平成15年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1、2項同旨
2 被告は、原告らに対し、金1億2725万円及びこれに対する平成15年12月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 上記第2項及び第3項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告アドバンス・マガジン・パブリッシャーズ・インコーポレーテッド(以下「原告アドバンスマガジン」という。)は、アメリカ合衆国ニューヨーク州法に基づいて設立された法人であり、ファッション雑誌「VOGUE」を発刊している(甲1の1及び2)。
 原告有限会社日経コンデナスト(以下「原告日経コンデナスト」という。)は、平成11年から、日本において、上記「VOGUE」誌の日本版である「VOGUE NIPPON」誌を発刊している(甲2)。
 被告は、不動産の売買・賃貸・仲介・管理・鑑定評価及び不動産の企画・設計・調査測量等を業務とする株式会社である。
(2) 被告は、東京都港区(以下省略)に別紙物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)の建築を企画し、平成14年7月上旬、本件マンションの名称を「ラ ヴォーグ南青山」と決定し、同年9月2日、建築に着工し、同月14日から本件マンションの分譲を開始した。被告は、これに伴い、同日から本件マンションの近辺に存在する「カプリース青山」というビル(以下「カプリース青山」という。)にモデルルームを設置するとともに、販売のための宣伝広告活動も開始した(乙131、弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、別紙標章目録記載の各標章(以下、各標章をそれぞれに付された番号に従って「被告標章1」などといい、各標章を併せて「被告標章」という。)を次のとおり使用している。
ア 被告標章1
 被告は、カプリース青山の郵便受け及びフロア案内板、本件マンションのパンフレットの裏表紙及び30頁、宣伝用ポケットティッシュ、本件マンション周辺に置かれたモデルルーム案内板、本件マンション内に置かれたモデルルーム案内板等に被告標章1を使用している。
イ 被告標章2
 被告は、カプリース青山のモデルルーム入口のドア及び紙袋に被告標章2を使用している。
ウ 被告標章3
 被告は、本件マンションの壁面を覆うテント上の看板、カプリース青山の壁面に掲げた看板、本件マンションのパンフレットの表紙、宣伝用ティッシュの折り込み用紙に被告標章3を使用している。
エ 被告標章4
 被告は、本件マンションの壁面を覆うテント上の看板に被告標章4を使用している。
オ 被告標章5
 被告は、カプリース青山の1階から2階に昇る階段横の壁に掲げた看板に被告標章5を使用している。
カ 被告標章6
 被告は、本件マンションのパンフレット(甲138)の表紙、15頁及び16頁、本件マンションのパンフレット(甲139)の8頁、28頁、39頁及び40頁、「すべて標準装備です」と題する書面及び宣伝用チラシ、「Model Room Guide」並びに本件マンションの入口に置かれたマットに被告標章6を使用している。
キ 被告標章7
 被告は、本件マンションのエントランス部分に被告標章7を使用している。
ク 被告標章8
 被告は、本件マンションの壁面を覆うテント上の看板、カプリース青山の郵便受け、1階から2階に昇る階段横の壁に掲げた看板及びフロア案内板、「ラ ヴォーグ南青山」第1期2次予定価格表、宣伝用ポケットティッシュ及び宣伝用チラシ、被告のホームページ並びに本件マンション周辺に置かれたモデルルーム案内板等に被告標章8を使用し、仲介業者の物件案内のホームページ上の本件マンションにも被告標章8を使用している。
ケ 被告標章9
 被告は、本件マンションの壁面を覆うテント上の看板に被告標章9を使用している。
コ 被告標章10
 被告は、カプリース青山のフロア案内板に被告標章10を使用している。
サ 被告標章11
 被告は、カプリース青山のフロア案内板に被告標章11を使用している。
(4) 「VOGUE」(vogue)とは、フランス語及び英語で「流行、はやり」の語義を有する名詞である。
2 本件は、原告らが、別紙原告標章目録記載の各標章(以下、各標章をそれぞれに付された番号に従って「原告標章1」などといい、各標章を併せて「原告標章」という。)を原告らの周知又は著名商品等表示であると主張し、被告が原告標章と類似する被告標章を使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号又は同2号に該当すると主張して、同法3条、4条に基づき、被告標章の使用差止め及び損害賠償を請求する事案である。
3 争点
(1) 被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか。
ア 原告らは商品等表示の主体ということができるか。
イ 原告標章に周知性が認められるか。
ウ 被告標章は被告の商品等表示ということができるか。
エ 原告標章と被告標章は類似しているか。
オ 被告の行為は、需要者に混同を生じさせるか。
(2) 被告の行為は、不正競争防止法2条1項2号に該当するか。
ア 原告らは商品等表示の主体ということができるか。
イ 原告標章に著名性が認められるか。
ウ 被告標章は被告の商品等表示ということができるか。
エ 原告標章と被告標章は類似しているか。
オ 原告標章がウィークマークであることを理由として、不正競争防止法2条1項2号の適用が否定されるか。
(3) 損害の発生の有無及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア及び(2)ア(商品等表示の主体)について
〔原告らの主張〕
 不正競争防止法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」の主体たる「他人」は、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当であり、単一の営業主体であることを要するものではない。
 原告アドバンスマガジンは、全世界における原告標章及びその関連標章を自ら又は関連会社を通じて管理している。日本における原告標章の商標権者は、原告アドバンスマガジンの関連会社であるコンデ・ナスト・アジア・パシフィック・インコーポレーテッド(以下「CNAP社」という。)であり、原告アドバンスマガジンは、CNAP社とライセンス契約等を通じて原告標章についての使用権を確保し、「VOGUE」誌各国版を発行している。このような状況では、原告らは個々に「商品等表示」たる原告標章の主体であるとともに、グループとしても「商品等表示」たる原告標章の主体である「他人」に該当する。
 日本においては、原告アドバンスマガジンの発刊する米国版「VOGUE」誌を中心として、フランス版及びイタリア版が頒布されていたが、平成11年に原告日経コンデナストが発行する「VOGUE NIPPON」誌が創刊され、以後は、主として米国版「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌が頒布されている。「VOGUE NIPPON」誌は、「VOGUE」誌の日本版として、「VOGUE」誌のイメージを継承し、発展させたもので、その題号には原告標章3を使用しているが、これは原告標章1の外観をも有し、「ヴォーグ」及び「ヴォーグニッポン」の称呼を生じるものであって、第三者や原告アドバンスマガジン及び原告日経コンデナスト自身が「VOGUE NIPPON」誌を「VOGUE」と表示することもある。このように、日本国内においては、原告アドバンスマガジン及び原告日経コンデナストのいずれもが原告標章1ないし3を使用しており、それらの商品等表示の主体である。
〔被告の主張〕
 日本国内においては、CNAP社が「VOGUE」商標を有しており、原告日経コンデナストが専用使用権を設定している。この点に照らしても、平成11年以降は、原告アドバンスマガジンは、日本国内で英語版「VOGUE」誌を発行しておらず、原告日経コンデナストが日本版「VOGUE NIPPON」誌を発行していると解される。そうであれば、原告アドバンスマガジンの商品等表示は、原告標章1であり、原告日経コンデナストの商品等表示は、原告標章3となると考えられる。
 したがって、原告日経コンデナストが原告標章1についても自己の商品等表示であるとする主張は、これを争う。
2 争点(1)イ及び(2)イ(原告標章の周知性ないし著名性)について
〔原告らの主張〕
(1) 「VOGUE」誌は、1892年12月にアメリカ合衆国において創刊され、昭和63年9月からは原告アドバンスマガジンから、世界各国において、世界最高水準の高級ファッション雑誌として100年以上にわたり継続して発行されている雑誌である。日本においては、昭和24年に輸入が再開されてから現在に至るまで主に米国版、フランス版、イタリア版が継続して販売されており、平成11年7月からは原告日経コンデナストによって日本版が発行されている。
 「VOGUE」は、多くの百科事典や英和辞典等において、「最も知られた流行服飾雑誌の名」等と紹介され、全国有力紙及び雑誌等においても折に触れて報道され、一流の出版社から出版されている書籍においても、「世界第一のファッション誌」等と紹介されており、「VOGUE」誌がファッション界及び雑誌界において非常に重要かつ権威のある地位を有していることを示している。「VOGUE NIPPON」誌も、遅くとも昭和55年ころまでには確立された「VOGUE」誌のブランドイメージを維持し、更に日本で発行される「VOGUE」誌としての特色を加味してそのイメージを発展させるべく努力している。平成15年5月現在のデータにおける1か月間の「VOGUE」誌の販売部数は、米国版が約125万部、フランス版が約11万部、日本版が約9万部で、15か国版の合計部数は約266万部であり、年間販売部数は約3200万部で、うち日本版は約108万部である。
 「VOGUE」商標の著名・周知性は、東京商工会議所等の公的機関や第三者によっても証明されている。また、原告アドバンスマガジンは、その関連会社であるCNAP社を通じて、原告標章1について24件、原告標章2について9件、「需要者の間に広く認識されていること」が要件とされる防護標章登録をしている。さらに、原告標章について訴訟になったケースにおいては、判決又は決定で原告標章の著名・周知性が認定され、新聞報道もされている。したがって、原告標章は、その周知性及び著名性を確立している。
(2) 被告は、第三者によって、原告標章と同一ないし類似の商標が印刷物以外の指定商品・役務について登録されていると主張するが、これが商品等表示の周知性・著名性や誤認混同の発生の否定に直接結びつくものではない。原告標章は、顧客吸引力が強く識別性が強い標章であると認識されているため、第三者によって類似の商標出願をする試みが繰り返し行われてきた歴史があるが、特許庁は、基本的にはこれらの出願に対して商標法4条1項15号に該当するとして拒絶査定している。登録査定された場合でも、原告らは異議申立てや無効審判請求をしており、多くは認められている。被告が列挙した登録商標は、既に無効審判請求の除斥期間が経過していたり、現実には使用されていないために放置しているにすぎない。被告の商標登録については、CNAP社が無効審判請求している。アメリカ合衆国における商標登録の効力は日本には及ばず、仮にアメリカ合衆国において出所混同が生じていても、日本における一般需要者が出所混同を生じるか否かとは別問題である。
〔被告の主張〕
(1) 被告の調査によれば、アメリカ合衆国における「VOGUE」誌の発行部数は、6か月で120万部程度である。「VOGUE NIPPON」誌は、1か月で約3万9000部程度であり、ファッション誌としての順位は28位に留まっており、日本国内において著名性を主張するには余りに少ない部数である。
(2) 原告らは、原告標章に関する商標登録の存在を主張するが、商標登録の状況からは、原告らが原告標章を独占し得る地位にあることは明らかになっていない。「VOGUE」に関しては、日本国内において、印刷物(第26類)以外の商品及び役務に関して他社が登録しており、一般需要者及び取引者間において、原告らの商品であると混同することがないことが明らかになっている。
 原告アドバンスマガジンの本国であるアメリカ合衆国においても、多数の商品・役務において、「VOGUE」を含む商標が、ファッション関連商品に至るまで、他社により併存登録されている。これは、原告標章1に関しては、混同の生じる範囲が限定的であることを示している。
 原告らは、原告標章1が著名であると主張するが、上記のように「VOGUE」を含む各商標が商標法4条各号に抵触せずに登録されている事実からすると説明し得ない。
3 争点(1)ウ及び(2)ウ(被告の商品等表示)について
〔原告らの主張〕
 不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう商品等表示とは、人の業務にかかる氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものであって、登録、未登録を問わず、かつ商品商標と役務商標の双方を含むものと解されており、マンション名についても、商品ないし役務の表示に当たるとされている。
 したがって、マンションの名称も商品等表示に該当し、マンションの名称として使用されている被告標章は、いずれも商品等表示に該当する。
〔被告の主張〕
 マンションは商標法上の商品ではなく、マンションの名称は、当然には当該マンションの分譲業者の商品等表示となるものではない。
4 争点(1)エ及び(2)エ(類似性)について
〔原告らの主張〕
(1) 被告標章1ないし3及び5ないし7について
 上記各被告標章は、中央より右に大きく「Vogue」の欧文字を表示し、中央より左に「La」の欧文字と「a」全体を覆いつつ上下に大きく広がる湖様の図形、及びその右下に「MinamiAoyama」の欧文字を「Vogue」の表示部分の10分の1程度の大きさで付記してなる標章である。
 小さく付記した「MinamiAoyama」の部分は、表示の大きさのみならず、意味的にも本件マンションの所在地を示す地名をアルファベットで普通に表したにすぎず、自他商品ないし役務の識別機能を果たすものではない。「La」の語は、フランス語の定冠詞にすぎず特別な意味はない上、外観構成上、湖様の図形が「a」の欧文字全体を覆い、「a」の部分が地色と同色になっていることから、「a」の部分は地に沈んでしまうため、「Vogue」の部分が独立して看取されやすい。上記各被告標章は、全体が一体不可分とは言えず、その構成中の「Vogue」の部分を外観上他の部分から明確に区別して認識することができる。そして、「Vogue」を大文字で書した原告標章1が高い周知性・著名性を有し、強い識別力があることに照らすと、上記各被告標章からは「ヴォーグ」の称呼を生じることが容易に是認される。
 以上のように、上記各被告標章の自他商品ないし役務の識別機能を果たす部分は「Vogue」の語であり、原告標章1、2とは「ヴォーグ」という同一の称呼を生じる類似標章である。原告標章3は、「VOGUE」の「O」の文字の中に小さく「NIPPON」と表示しているが、構成は「VOGUE」の外観が顕著であり、「NIPPON」は我が国の国名を表示しているにすぎないから、要部は「VOGUE」の部分であり、「ヴォーグ」の称呼を生じる。したがって、原告標章3とも類似するといえる。
(2) 被告標章4について
 被告標章4は、左側に被告標章1と同一の標章を配し、その右横に片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と大書された標章を配してなる標章である。
 「ラ ヴォーグ南青山」の部分は大書され、かつ左側の被告標章1と同一の標章部分とは相互に文字種を異にするから、需要者は左右いずれの部分にも着目し、それぞれの部分を別異の標章と認識する可能性が高い。そうすると、左側部分の標章については、上記(1)のとおり原告標章と類似し、右側部分についても被告標章8と同一であるから、後記(3)のとおり原告標章と類似する。
(3) 被告標章8及び9について
 被告標章8及び9は、横書きと縦書きの差はあるが、ゴシック体の片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と表示してなる標章である。このうち「南青山」の部分は、本件マンションの所在地を普通に用いられる書体で表したにすぎず、自他商品ないし役務の識別機能を果たすものではない。一方、「ラ ヴォーグ」の部分のうち、「ラ」の語はフランス語の定冠詞にすぎず、特別な意味はないから、上記各被告標章中の要部は「ヴォーグ」の部分にあり、「ヴォーグ」の称呼も発生する。したがって、被告標章8及び9は、原告標章と類似する。
(4) 被告標章10及び11について
 被告標章10は、欧文字で「LaVogue MinamiAoyama」と書してなる標章である。「MinamiAoyama」の部分は、本件マンションの所在地を示す地名である「南青山」をアルファベットで普通に表したにすぎず、自他商品ないし役務の識別機能を果たさず、「LaVogue」のうち「La」の語はフランス語の定冠詞であり特別な意味はなく、要部は「Vogue」の部分にあり、「ヴォーグ」の称呼を生じるので、原告標章と類似する。
 被告標章11は、「LaVogue」と「MinamiAoyama」の語を上下二段に構成してなる。二段に配することにより、「LaVogue」の部分と「MinamiAoyama」の部分は、より一層分離して感得されやすい。したがって、被告標章10と同様の理由が該当するばかりでなく、標章構成上「LaVogue」の部分が特に容易に分離して認識されるから、被告標章10以上に原告標章との類似性が高いといえる。
〔被告の主張〕
 被告標章と原告標章との類似性を論ずるに当たって、要部論を安直に用いるのは失当である。被告標章は、居住用マンションの名称であるから、その立地条件は購入者の最も注目するところであり、「南青山」が地名であるからといって自他商品の識別機能がないことにはならない。また、「ラ ヴォーグ」の部分は、フランス語の語法にならった用法であり、「流行、人気」という観念・イメージを与えるものである。フランス語では、「流行、人気」を意味する言葉は、通常「la vogue」と使用されるから、これを文法的に分解して「vogue」が要部であるとするのは、通常の用法に反する。居住用マンションの名称である被告標章は、このうち一部を取り出して使用されることはない。したがって、「La Vogue MinamiAoyama」、「ラ ヴォーグ南青山」は、原告標章とは類似しない。
 原告らも、第26類において、登録商標「VOGUE」を有するにもかかわらず、同じく第26類において、登録商標「L’UOMO VOGUE」、「CASAVOGUE カサヴォーグ」、「MEN IN VOGUE メンインヴォーグ」を独立商標として登録しており、これらの標章が「VOGUE」標章に類似しないことを認めていることに他ならない。自らの商標出願に当たっては、既登録の自己の商標権の類似範囲を限定的に解する主張をしながら、第三者に対しては既登録の自己の商標権の類似範囲を拡大して主張するのは、禁反言の法理に反すると言うべきである。
5 争点(1)オ(混同のおそれの有無)について
〔原告らの主張〕
(1) 被告は、本件マンションを一貫して洗練されたファッション性の高いイメージで販売しているが、このようなイメージは、原告らの「VOGUE」誌や「VOGUE NIPPON」誌がその著名・周知性を確立してきたイメージと同一のものである。デザイナーズマンションというようなファッション性が重視される住宅用建築物が人気を博している今日のマンション販売市場を考えると、本件マンションの需要者において、被告が原告らのグループに属するものである、あるいは、被告が原告らから「VOGUE」ブランドの使用許諾を得たライセンシーである等広義の誤認混同をするおそれは極めて強い。
 被告は、本件マンション販売にあたり配布している資料等の中で、ファッションモデルの写真や「CELEBRITY」などの語を使用して、ことさら原告標章の有する洗練された高級ファッションのイメージを想起させる宣伝を行っている。
 近年、ライフスタイルの向上に一般需要者の関心が高まっており、住空間の充実、特に住宅用建築物についてファッション性が重視されてきている。また、ファッション界においても、建築を含めたトータルなファッションを提案することが最近の主流となっている。原告日経コンデナスト自身も、「VOGUE NIPPON」誌2002年7月号において、ファッショナブルな建築デザインをすることで有名な建築家の特集を組んでいる。このように、ファッション性とブランドを重視するデザイナーズマンションが建築界や住宅を求める消費者の間で大きな話題となり人気化している社会的背景と原告日経コンデナストもこのような流行を支え、促進している最も有力な事業者の一人である事実からすれば、被告がその販売する住宅用あるいは投資用マンション及びその営業用資材に、周知・著名な原告標章と類似する被告標章を使用した場合には、本件マンションの需要者から見て、原告らが被告のデザイナーズマンション事業の企画に参加し、あるいはデザイナーズマンション事業についてライセンスビジネスを行っているなど、原告らと本件マンションの事業者である被告との関係について混同が生じるものといえる。
(2) 被告の主張に対する反論
ア 被告は、マンションの購入者は分譲業者の事業態様や信用も十分検討すると主張するが、被告が原告らとの間に緊密な営業上の関係がないこと及び同一の表示による商品化事業を営むグループに所属していないことや、被告が原告らから本件マンションのデザインや名称につきライセンスを受けていないことまでは、容易に調査できるものではない。
イ また、被告は、マンションの名称は分譲業者を表示するものではないと主張するが、多数の主要な一流あるいは著名なマンション分譲業者は、独自にマンションの名称を付け商標登録までして、当該マンションの名称が当該分譲業者の分譲に係るマンションであることを明らかにしている。被告自らも、被告の販売するマンションに使用するために商標登録している。
ウ 上記イの実情からすれば、「ラ ヴォーグ南青山」のうち、「南青山」の部分は立地場所を示すにすぎないので、「ラ ヴォーグ」の部分こそが営業主体を示す部分と理解される。また、仮に営業主体を示すものではないとしても、「商品等表示」には当たるから、上記(1)で述べたとおり、原告らの商品等表示と広義の誤認混同を招くおそれが高い。
エ 原告らがマンション分譲業務を行っていないことあるいはマンション分譲業務に関して原告標章をライセンスしていないことは、需要者に周知され、そのような認識が浸透しているわけではない。このような状況において、上記(1)の実情からすれば、被告標章が原告らの営業ないし商品との広義の誤認混同を招くおそれは非常に高い。
オ 「vogue」又は「ヴォーグ」の語は、日本においては未だ日常語としてそのまま用いられるほどには定着しておらず、本件マンションの需要者の大多数は、その英語やフランス語における意味を知らないと考えられる反面、原告らの発行する「VOGUE」誌や「VOGUE NIPPON」誌は著名である。したがって、需要者は、「vogue」又は「ヴォーグ」の語に接すれば、まず同誌を想起するのが通常であるから、第三者によって「vogue」が使用されることを制限することのできる特別の事情があるといえる。
カ 近年において、住宅用建築物の価値を左右する最重要の要素の一つとしてファッション性が重視されている。したがって、原告らの雑誌を購入するようなファッションに関心のある者は、マンションを購入する際には、そのファッション性を重視するといえ、また被告はその宣伝・広告物においてマンションの購入意思の決定にファッション性を重視する需要者をターゲットとして本件マンションの販売、営業活動を行っていることが明らかであるから、その需要者層は重複しているといえる。
〔被告の主張〕
(1) 被告標章の「LaVogue MinamiAoyama」、「ラ ヴォーグ南青山」は、被告が販売(分譲)する南青山に立地するマンションの名称であって、原告らが発行する「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌との間で誤認混同が生ずることはなく、そのおそれもない。また、被告によるマンション「ラ ヴォーグ南青山」の分譲が原告アドバンスマガジン及び原告日経コンデナストによって行われていると誤認されることはなく、そのおそれもない。さらに、同マンションの購入者あるいは取引業者が、被告が原告らとの間に、いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係があるとか同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にあると誤信してマンション「ラ ヴォーグ南青山」を購入したり取引することもない。
(2) 被告は、第36類を指定役務として、「ラ・ヴォーグ南青山」(文字商標)を商標登録出願し、設定登録を受けている。被告の上記出願当時、原告標章1は、第36類には出願されておらず、被告の上記出願後に、CNAP社が防護標章登録出願しているにすぎない。CNAP社の防護標章登録出願が原告らの商品等表示の著名性を証するものとはいえないし、他方で被告の上記登録商標は、特許庁に特別顕著性が認められたものである。
(3)ア 「ラ ヴォーグ南青山」のような居住用の高級マンションの購入にあたっては、立地条件、建築内容の外、分譲業者の事業態様、信用も十分検討される。
イ マンションの名称は、特段の事由のある場合は別として、当該マンションの分譲業者を表示するものではないことは一般的に了解されている。居住用マンションの分譲においては、立地条件、建築内容及び価格が購入に当たって検討される重要事項であって、マンションの名称は住居表示の役割を果たせば十分であると考えられている。
ウ 本件居住用マンションの名称は、立地を示す「南青山」に流行、人気の語義を有するフランス語「la vogue」を付して、「南青山に立地する流行、人気のマンション」といったイメージを与えることを意図して命名されたもので、「la vogue」は営業主体を示すものではないし、このことは購入者や取引関係者においても理解されている。そして、同マンションの名称において、購入者が注目するのは立地を示す「南青山」であって、そのほかの部分は購入者の購入動機に影響を与えない。
エ 仮に原告らの発行に係るファッション雑誌の名称として「vogue」が知られているとしても、原告らはマンションの分譲業務を行っていないのであるから、マンション購入者や取引関係者が「vogue」を原告らのマンションの分譲業務における商品等表示と認識する余地はなく、「ラ ヴォーグ南青山」の「ヴォーグ」を原告らの商品等表示であると誤信する購入者や取引関係者はいない。原告らの主張は、取引の実情を考慮しないものである。
オ 「ヴォーグ」なる語は、原告らによって創造された造語ではなく、流行、人気の語義を有するフランス語、英語であって、原告らもこの認識の下にこれを原告らの発行に係るファッション雑誌の名称としたにすぎないから、原告標章は特別顕著性(識別力)の弱い標章(商品等表示)である。したがって、仮にファッション雑誌の発行において、原告標章が周知となっても、ファッション雑誌以外の分野において、第三者が流行、人気の語義を有するフランス語、英語である「vogue」又は「ヴォーグ」を使用することを制限することは認められない。「vogue」又は「ヴォーグ」と同一あるいは類似する商標は、多くの指定商品及び指定役務において、原告ら以外の出願人によって出願され登録されている(アメリカにおける登録を含む。)。これらの登録例が存することは、それぞれの指定商品及び指定役務において、「vogue」又は「ヴォーグ」と同一あるいは類似する商標が、原告標章と混同を生ずるものではないことを示唆するものである。
カ さらに、ファッション雑誌の購入者層と一戸が数千万円もする「ラ ヴォーグ南青山」のような居住用高級マンションの購入者層は全く異なる。
 したがって、本件においては、原告らと被告を誤認混同することはあり得ない。
6 争点(2)オ(ウィークマーク論)について
〔被告の主張〕
 「vogue」という語は、原告らによって創造された造語ではなく、流行、人気の語義を有するフランス語、英語の普通名詞であるから、原告標章は独創性の程度が相当程度低い、いわゆるウィークマークである。その裏付けとして、「vogue」標章は日本国内でも商標登録されて使用されているし、アメリカにおいては、多数の商品・役務において「VOGUE」を含む商標が第三者によって併存登録されている。
 ウィークマーク論は、著名性及び特別顕著性の認められる標章について、当該標章の個性に着目することなく、一律に法的効果を付与することを見直し、当該標章の個性に着目してその個性に適した法的効果を付与しようとするものである。不正競争防止法2条1項2号は、商品等表示の著名性は要件としているものの、それ以外には保護されるべき商品等表示については条文上何らの制限も設けていない。しかし、ウィークマーク論は、著名標章の保護において、標章の著名性を吟味するだけでなく、当該標章が独占に適するものであるかをも吟味しようとするものである。
 したがって、不正競争防止法2条1項2号の適用が否定されるが、その法律構成については、次のとおりである。
(1) 原告標章は、独創性の低いウィークマークであるから、独占に適するものとはいえず、不正競争防止法2条1項2号の保護が否定される。
(2) 被告の販売にかかるマンションに「ラ ヴォーグ南青山」との名称を付することは、原告アドバンスマガジン及び原告日経コンデナストの商品等表示「VOGUE」の顧客吸引力にただ乗りするものではないし、「VOGUE」と原告らとの結びつきを希釈化するものでもないから、不正競争防止法2条1項2号の対象とはならない。
 被告は、本件マンションの分譲販売にあたって、「南青山」という立地に着目し、これに、「流行、人気」という観念、イメージを与える意味で、本件マンションの名称を「ラ ヴォーグ南青山」としたものである。したがって、原告らの商品等表示は全く念頭に置いていない。そもそも原告らは、マンション分譲販売の分野には全く進出しておらず、原告らの商品等表示は、マンション分譲販売の分野では顧客吸引力がないのであるから、被告が原告らの商品等表示の顧客吸引力にただ乗りする意思を有していたなどと言える状況にはない。
(3) 原告標章はいわゆるウィークマークであり、このような表示に独占性を与えることは第三者の表示選定の自由を不当に制限することとなるから、原告らには不正競争防止法3条、4条の「営業上の利益」はない。
〔原告らの主張〕
 被告の主張するウィークマークの抗弁及びウィークマークについては不正競争防止法2条1項2号の適用がないとの主張は争う。
 「vogue」の語は、日本国内においては、英語やフランス語の語義によって一般に知られたのではなく、原告らの原告標章使用によって知られるようになったものである。したがって、日本国内において「vogue」の語を一般に使用することがあるとしても、それは単に「流行、人気」という意味ではなく、「ファッション分野における流行、人気」の意味を持つ言葉として認識されている。
 原告らが被告のデザイナーズマンションの企画に参加し、あるいは被告に対してライセンスを提供したと誤認混同されることは、原告標章の有するイメージや価値を希釈化することは間違いなく、また不動産業界、建築業界、インテリア業界などの一流企業から広告を取得する可能性を著しく低下させ、被告の不正な競争行為によって原告らにとって取り返しのつかない営業上の利益が侵害されることは明らかである。
7 争点(3)(損害)について
〔原告らの主張〕
 不正競争防止法5条2項にいう商品等表示の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額は、侵害行為によって営業上の損害を被った者に対して回復されるべき客観的に相当な対価であると解されるところ、その額は、当該事案の具体的事実関係を踏まえ、権利者側の事情、不正競争行為者側の事情、市場の状況等を算定要素として考慮して認定することが相当である。具体的には、@原告標章の顧客吸引力、A被告の不正競争目的その他悪性の有無、B被告標章の顧客吸引力、C被告の営業努力の存在、D被告標章の使用による原告らとの間の出所混同の程度(標章の使用態様、営業活動、需要者層、商品競合の有無等)を考慮して決定されるべきである。
 原告標章は著名であり、顧客吸引力は非常に強い。他方、被告は建築業界で一流の地位を確立しているとは言い難く、「VOGUE」誌等のイメージダウンにつながりかねないことから、原告らが被告に対して原告標章を使用許諾することはあり得なかった事案である。
 さらに、被告標章は、「Vogue」のアルファベット表記で記載される等、原告標章に近づける変形を行い、ことさら「Vogue」の部分が分離独立して認識される表示態様がとられており、本件マンション販売にあたっても洗練された高級ファッションのイメージを想起させる宣伝を行うなど、専ら原告標章の有する高い信用、ファッショナブルで洗練されたイメージ等にフリーライドしようとする悪質な使用態様である。このような被告標章の使用態様、被告の営業活動に加え、被告はその宣伝・広告からマンションの購入意思の決定に、原告らの雑誌を購入するようなファッション性を重視する需要者をターゲットとしていることから、その需要者層は重複しているといえる。原告らは、広告収入を重視して営業を行っているところ、被告に対し、本件マンションに関するライセンスを行っていると外部に誤解されると不動産業界、建築業界、インテリア業界などの一流企業から広告を取得する可能性が著しく低下する。したがって、実質的に商品が競合している場合と同様の結果が生じる。
 したがって、これらの諸事情からすると、原告らが被告の不正競争行為によって被った使用料相当損害額は、被告の本件マンション総販売額25億4500万円の10%である2億5450万円を下らないものであるが、原告らはその内金として金1億2725万円を請求するものである。
〔被告の主張〕
 原告らの主張は、これを争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(商品等表示の主体)について
(1) 証拠(甲1ないし7、105、乙117。特に断らない限り、各枝番を含む。以下同じ。)によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告アドバンスマガジンは、ファッション雑誌「VOGUE」を発行しているが、関連会社を通じて、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、シンガポール、韓国、スペイン、アメリカなどの各国で、「VOGUE」誌各国版を発行させている。我が国においては、昭和24年ころから米国版の「VOGUE」誌が販売されているが、平成11年に原告日経コンデナストが日本版の「VOGUE NIPPON」誌を創刊した。
イ 原告アドバンスマガジンは、各国における原告標章及びその関連標章を自ら又は関連会社を通じて管理しているところ、我が国において、原告標章1について第26類(印刷物)に商標登録し、原告標章2について第26類(雑誌その他本類に属する商品)に商標登録していたが、これらの商標権を関連会社のCNAP社に移転し、CNAP社は平成10年から原告日経コンデナストに専用使用権を設定している。
ウ 「VOGUE NIPPON」誌では、基本的には原告標章3が表題等に使用されているが、「VOGUE」誌の日本版であることから、原告日経コンデナスト主催のVOGUE写真展においては、原告標章1も使用されていた。
(2) 不正競争防止法2条1項1号所定の他人には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)。
 上記(1)認定のとおり、原告アドバンスマガジンが発行する「VOGUE」誌をもとに各国版が発行されていること、原告アドバンスマガジンは、各国における原告標章及びその関連標章を自ら又は関連会社を通じて管理していること、我が国における原告標章の商標権者であるCNAP社も、原告アドバンスマガジンの関連会社であり、「VOGUE NIPPON」誌を発行する原告日経コンデナストは、CNAP社から上記商標権について専用使用権の設定を受けていること等からすると、原告アドバンスマガジンと原告日経コンデナストを含む「VOGUE」誌各国版の発行者及びCNAP社とは、「VOGUE」誌の発行によって原告標章1の持つ出所表示機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束した企業グループであるということができる。
 実際、原告日経コンデナストが使用する原告標章3は、原告標章1の「O」の文字の中に小さく「NIPPON」を標記したものであり、この表示は「VOGUE」誌の日本版であることを示したにすぎないから、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、原告標章1と類似するものである。また、原告標章2は、原告標章1を日本語読みにしただけであり、また、「VOGUE NIPPON」は我が国においては単に「VOGUE」「ヴォーグ」と呼ばれることも多いから、原告日経コンデナストも、原告標章3のみならず、原告標章1及び2を使用することもあり得る。
 したがって、原告らは、「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属しているから、原告らは、いずれも原告標章1ないし3の商品等表示の主体であると認められる。
(3) 被告は、原告アドバンスマガジンが、平成11年以降日本国内において英語版「VOGUE」誌を発行していないと主張するが、証拠(甲80)によれば、平成11年以降も販売されている。
 また、被告は、原告アドバンスマガジンの商品等表示が原告標章1であり、原告日経コンデナストの商品等表示が原告標章3であると主張するが、上記のとおり、「VOGUE」誌の日本版であるという「VOGUE NIPPON」誌の位置付けに鑑みれば、原告標章の使用態様は、そのように明確に分けられるものではなく、原告標章のいずれもが原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループの商品等表示であるというべきである。
 したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。
2 争点(1)イ(原告標章の周知性)について
(1) 証拠(甲1ないし23、25ないし114、160、177ないし180、183、乙13、117)によれば、以下の事実が認められる。
ア 「VOGUE」誌は、1892年にアメリカ合衆国において創刊されたファッション雑誌であり、1909年からは原告アドバンスマガジンの前身である米国法人コンデ・ナスト・パブリケーションズ・インコーポレーテッド(以下「コンデナスト社」という。)から発行され、また、1988年からは原告アドバンスマガジンを存続会社とする合併により、原告アドバンスマガジンから発行され、現在まで創刊以来100年以上発行され続けている。
 原告アドバンスマガジンは、関連会社を通じて、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、シンガポール、韓国、スペイン、アメリカなどの各国で、「VOGUE」誌各国版を発行させている。
 我が国においては、昭和24年ころから米国版の「VOGUE」誌が販売されていたが、平成11年に原告日経コンデナストが日本版の「VOGUE NIPPON」誌を創刊した。
 (甲1ないし5、9、36)
イ 昭和24年に、「VOGUE」誌が日本に10年ぶりに入荷したことが新聞に報道されたことに加え、昭和42年には、「VOGUE」誌が日本で取材したことにつき新聞や週刊誌で報道され、「VOGUE」誌は「世界的なハイファッション誌」、「世界の流行をリードする雑誌」、「世界の流行を左右するといわれる服飾雑誌の権威」などと紹介されている。昭和52年には、パリ・ヴォーグ誌の美容担当編集長が来日し、女性週刊誌や新聞にインタビューが掲載された。昭和55年には、日本においてヴォーグ60年展が開催され、新聞に広告や記事が掲載され、ファッション雑誌等で特集記事が掲載された。その他にも、現在まで、「VOGUE NIPPON」誌の創刊や様々な「VOGUE」誌に関する話題が週刊誌や新聞等に掲載されている。
 また、多くの百科事典、アメリカ文化事典、現代用語の基礎知識、イミダス、英和辞典、服飾事典、ファッション辞典、アパレル用語事典などには、「vogue」という言葉について、婦人服飾流行雑誌、アメリカのファッション雑誌、最も知られた流行服飾雑誌、代表的なファッション雑誌、ファッション誌の代名詞等と紹介されている。昭和59年発行の「アメリカ情報コレクション」(甲36)には、「日本の女性でVogueという雑誌の名前を知らない人はまずいないだろう。これほど知名度の高い外国の女性誌はほかにないといえる。」とある。昭和60年発行の「気になるアメリカ雑誌」(甲37)には、「『世界第一のファッション誌』と『タイム』に呼ばれた雑誌、それが『ヴォーグ』である。」と紹介されている。他にも、各種のファッション関係の書籍に、「VOGUE」誌が登場する。
 (甲9ないし23、25ないし78)
ウ 「VOGUE」誌は、高級でハイセンスなファッション雑誌のイメージがあり、それは「VOGUE NIPPON」誌も同様である。したがって、原告らは、一流企業や有名ブランドを主たる広告主にしている。
 「VOGUE NIPPON」誌が、高級でハイセンスな読者を対象としており、ブランドイメージを守るため、広告を厳しく選別していることなどは、新聞や雑誌記事にも掲載されている。その結果、アンケート調査では、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。
 東京商工会議所、在日本フランス商業会議所、在日ドイツ商工会議所、在日イタリア商工会議所、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジバンシィ、ピエール・カルダン、シャネル、ヴァレンティノといった有名ブランドを有する会社の外、航空会社、出版社、書店、デパート、繊維会社等が、原告標章1の周知性及び著名性を証明書という形にして提出しているが、その証明書提出者は、様々な業界にわたっている。
 (甲79、102ないし104、107ないし110、112)
エ 原告アドバンスマガジンは、我が国において、原告標章1及び2について商標登録していたが、これらの商標権を関連会社のCNAP社に移転し、CNAP社は、平成10年から原告日経コンデナストに専用使用権を設定している。CNAP社は、原告標章1に関して平成2年5月28日以降24件の防護標章登録を受け、平成12年以降は、上記各防護標章の更新登録が行われている。また、CNAP社は、原告標章2に関して平成14年2月22日以降9件の防護標章登録を有している。
 なお、商標法64条では、登録商標が「需要者の間に広く認識されている場合」を防護商標登録の要件としているが、特許庁の商標審査基準では、「著名の程度に至った場合」をいうとされている。
 (甲6ないし8)
オ 昭和59年ころから、原告アドバンスマガジン及びその前身のコンデナスト社又は商標権者であるCNAP社は、原告標章に類似する標章に対し、訴訟提起あるいは特許庁に対する異議申立て又は無効審判請求をするなどして、原告標章の希釈化を防止する努力をしてきた。訴訟においては、原告標章の著名性又は周知性が認められ、類似する標章の使用差止め等の請求が認容された判決も言い渡されている。また、特許庁においても、原告標章との類似商標が商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するとして拒絶された例も多数みられる。
 (甲58、81ないし101、160、177ないし180)
カ アメリカ合衆国における「VOGUE」誌の最近における発行部数は、1号当たりの平均が約110万部ないし125万部であり、「VOGUE NIPPON」誌の発行部数は、約9万部であって、15か国版の合計部数は約266万4000部である。
 (甲183、乙13の1、2及び4)
キ その後も、平成14年10月にシャネル銀座ビルでVOGUE写真展が開催されたが、このときの加盟企業は、世界的に有名なブランドばかりであり、新聞や雑誌にも記事や広告が掲載された。平成15年には、丸の内ファッションストリートウィークのイベントが開催され、原告日経コンデナストは、東京丸の内ビルディングにおいて、「VOGUE NIPPON」誌のファッション写真を巨大なパネルにして展示するなどしてイベントに参加した。また、平成15年6月の紀伊國屋書店洋書ベストセラーでは、米国版「VOGUE」誌は、6位になっている。最近のイメージアンケート調査でも、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。
 (甲80、105、106、113、114)
(2) 上記(1)アないしカ認定の事実、すなわち「VOGUE」誌は、アメリカ合衆国において100年以上にわたり販売され続けており、世界各国版が発行されて、アメリカ合衆国をはじめとして世界的に知られたファッション雑誌であること、我が国においても、昭和24年ころから「VOGUE」誌が50年以上にわたり販売され、各種事典にも紹介され、新聞・週刊誌等にも広告や各種記事が掲載されていること、我が国において「VOGUE」誌は、高級志向のファッション誌として、世界的に有名な各種ブランドの広告提供を受け、一般読者にも高級イメージのファッション雑誌として認識されていること、原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属するCNAP社は、原告標章1及び2の商標登録をし、防護標章登録も受けていること、原告らが原告標章1及び2につき、希釈化を防止するため、様々な法的手段を執ってきたこと等に鑑みると、原告標章1及び2は、遅くとも被告標章が使用された平成14年9月までには、「需要者の間に広く認識されているもの」として、周知性を獲得したものと認められる。また、原告標章3は、原告標章1の「O」の中に小さく「NIPPON」と記載されており、外観上原告標章1とほとんど変わらないから、明らかに「VOGUE」誌の日本版を表すものとして、又は原告標章1と同視されて、遅くとも被告標章が使用された平成14年9月までには、「需要者の間に広く認識されているもの」として、周知性を獲得したものと認められる。
 さらに、上記(1)キ認定の事実に照らし、原告標章は、その後現在に至るまで周知性を維持し続けているものということができる。
(3) 被告は、「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌の発行部数が少ないと主張する。しかしながら、上記(1)カ認定の発行部数が必ずしも少ないというわけではない。また、発行部数は、周知性を認定する一事情にすぎず、前記認定の「VOGUE」誌の評判に鑑みれば、「需要者の間に広く認識されている」との認定を左右するものではない。
 また、被告は、我が国又はアメリカ合衆国において、「VOGUE」を含む商標が他社により併存登録されている旨主張する。しかし、これらの事情は、原告標章との類似性又は混同のおそれの有無を検討する場合に問題となっても、原告標章が需要者の間に広く認識されているかどうかとは直接関係しない。
(4) 以上のとおり、原告標章は、遅くとも平成14年9月までに原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループの商品等表示として需要者の間に広く認識され、その後現在に至るまで周知性を維持し続けていることが認められる。
3 争点(1)ウ(被告の商品等表示)について
 被告は、マンションの名称が商品等表示に該当しない旨主張する。
 不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務にかかる氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。ここにいう「商品」は、競争が行われることを前提としていることから、市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている、主として動産をいうものである。もっとも、不動産であっても、大量生産ないし大量供給が行われるマンション等の建築物は、実際に本件マンションも投資目的での購入を勧誘しているように(甲159、161)、一般に市場における流通が予定されており、マンション自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている。よって、マンションは、商取引の目的となって市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている物として、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品」に該当するものと解される。
 また、被告は、平成15年5月30日、「ラ・ヴォーグ南青山」につき第36類(建物の売買、建物の売買の代理又は媒介等)を指定役務として商標登録を受けている(乙1)。被告は、他のマンションの名称についても商標登録を受け、また、大手の不動産業者がマンションの名称を同様に商標登録していることからしても(甲148、175、176)、マンションの名称が商品等表示に該当しないとする理由はない。
 したがって、マンションの名称も商品等表示に該当し、マンションの名称として使用されている被告標章は、いずれも商品等表示に該当する。
4 争点(1)エ(類似性)について
(1) 原告標章の構成
 原告標章1の構成は、別紙原告標章目録1記載のとおり、欧文字で「VOGUE」と横書きで表記したものであり、「ヴォーグ」との称呼が生じ、「VOGUE」誌又は英語、フランス語で「流行、はやり」という観念を生ずる(乙66、67)。
 原告標章2の構成は、別紙原告標章目録2記載のとおり、片仮名文字で「ヴォーグ」と横書きで表記したものであり、「ヴォーグ」との称呼が生じ、「VOGUE」誌又は英語、フランス語における「vogue」として、「流行、はやり」という観念を生ずる。
 原告標章3の構成は、別紙原告標章目録3記載のとおり、欧文字で「VOGUE」と横書きで表記したものの「O」の文字の中に更に欧文字で「NIPPON」と小さく横書きしたものである。「NIPPON」の部分は、我が国の国名を表示したものであり、外観は「VOGUE」の文字が大きく顕著であるので、同標章からは、「ヴォーグ」又は「ヴォーグニッポン」との称呼が生じ、「ヴォーグ誌の日本版」又は英語、フランス語で「流行、はやり」という観念を生ずる。
(2) 被告標章の構成
ア 被告標章1ないし3及び5ないし7について
 上記各被告標章は、中央より右に大きく横書きで「Vogue」の欧文字を表示し、中央より左に「La」の欧文字と「a」全体を覆いつつ上下に大きく広がる湖様の図形、及びその右下に「MinamiAoyama」の欧文字を「Vogue」の表示部分の10分の1程度の大きさで横書きで付記してなる標章である。
イ 被告標章4について
 被告標章4は、左側に小さく被告標章1と同一の標章を配し、その右横に片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と横書きで大書された標章を配してなる標章である。
ウ 被告標章8及び9について
 被告標章8は横書きで、被告標章9は縦書きで、いずれもゴシック体の同じ大きさの片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と表示してなる標章である。
エ 被告標章10及び11について
 被告標章10は、同じ大きさの欧文字で「LaVogue MinamiAoyama」と横一列に表示してなる標章である。
 被告標章11は、同じ大きさの欧文字で「LaVogue」と「MinamiAoyama」の語を上下二段に横書きしてなる標章である。
(3) 被告標章1ないし3及び5ないし7について
ア 上記(2)のとおり、被告標章1ないし3及び5ないし7は、いずれも「La Vogue」と「MinamiAoyama」が二段に表記されていることからすると、上記被告標章は、「La Vogue」と「MinamiAoyama」の語句が結合してできた表示であって、全体として強い一体性を有しているとはいえない。そして、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、「MinamiAoyama」の部分は「La Vogue」の部分に比べて、約10分の1程度の著しく小さい文字で表記されていること、「MinamiAoyama」の部分は、本件のマンションの所在地である南青山という地名を示したものと考えられること(乙104)からすると、上記被告標章のうち特に自他識別機能を発揮する部分は、「La Vogue」の部分であるということができる。
 この点について、被告は、被告標章は、居住用マンションの名称であるから、その立地条件は購入者の最も注目するところであり、「南青山」が地名であるからといって自他商品の識別機能がないことにはならないと主張する。しかし、上記のとおり、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、「MinamiAoyama」の部分が極めて小さくしか表記されておらず、注意して見ないとわからないほどであるから、被告の上記主張は、採用することができない。
イ また、被告標章1ないし3及び5ないし7の「La Vogue」のうち、「La」は、フランス語の定冠詞であって、この標章に接する取引者、需要者は、それ自体識別標識としての機能を備えない「La」の部分に対して、識別標識として顕著な部分が後半の「Vogue」の文字にあるものと把握して、単に「ヴォーグ」と称呼して取引にあたることも少なくないものと推認される。さらに、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、外観構成上、湖様の図形が「a」の文字全体を覆い、「a」の部分が地色と同色になっており、「a」の部分は地に沈んでしまうため、「Vogue」の部分が一層独立して看取されやすい。 
ウ さらに、前記第4の2で認定したとおり、原告標章「VOGUE」がファッション雑誌「VOGUE」の題号として、需要者の間に広く認識されていることからすると、被告標章においても「Vogue」の部分は、強い識別力を持つものと認められる。
エ 以上のとおりであるから、被告標章1ないし3及び5ないし7に接する需要者の注意を特に強く引くのは「Vogue」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得るものである。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
(4) 被告標章4について
 上記(2)のとおり、被告標章4は、左側に小さく被告標章1と同一の標章を配し、その右横に片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と横書きで大書された標章を配してなる標章である。「ラ ヴォーグ」のうち「ラ」の部分はスペースを空けて記載され、わずか一文字である上、フランス語の定冠詞にすぎないし、「南青山」の部分が本件マンションの所在地を示すもので自他識別機能が弱いから、被告標章4に接する需要者の注意を特に強く引くのは「ヴォーグ」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
(5) 被告標章8及び9について
 上記(2)のとおり、被告標章8は横書きで、被告標章9は縦書きで、いずれもゴシック体の同じ大きさの片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と表示してなる標章である。「ラ ヴォーグ」のうち「ラ」の部分はスペースを空けて記載され、わずか一文字である上、フランス語の定冠詞にすぎないし、「南青山」が本件マンションの所在地を示すもので自他識別機能が弱いから、被告標章8及び9に接する需要者の注意を特に強く引くのは「ヴォーグ」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
(6) 被告標章10及び11について
 上記(2)のとおり、被告標章10においては「LaVogue」と「MinamiAoyama」の間にスペースがあり、被告標章11も、「LaVogue」と「MinamiAoyama」とが二段に表記されているから、「MinamiAoyama」の部分と「LaVogue」の部分とを別々に認識することができる。そして、「LaVogue」のうち「La」はフランス語の定冠詞であるから、被告標章10及び11に接する需要者の注意を特に強く引くのは「Vogue」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
(7) 以上のとおり、原告標章と被告標章は類似している。
5 争点(1)オ(混同のおそれの有無)について
(1) 証拠(甲3、6、7、36、37、79、81ないし120、131ないし135、138ないし141、143、144、148、160、177ないし181、乙1ないし12、14ないし18、28、30、32ないし34、44、68、71、72、76ないし86、101ないし103、105、108ないし114、116、118ないし127)に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 「VOGUE NIPPON」誌においては、セレブリティについての特集が何度も組まれ、ファッション性の高い写真の使用が特徴となっている。セレブリティ又はセレブとは、有名人という意味であるが、我が国では「有名人でゴージャスな人」の意味で使用され、ファッション雑誌においては、有名人の高級で洗練されたファッショナブルな面が強調されている。
 また、「VOGUE NIPPON」誌は、そのプロモーション用パンフレットにおいて、高級でファッショナブルなイメージの広告を提案しており、一流企業、有名ブランドを広告主にしている。平成14年に銀座においてVOGUE写真展が開催されたときの加盟企業は、有名ブランドを有する企業ばかりであり、平成15年には、丸の内ファッションストリートウィークのイベントが開催されたが、ファッションイメージアップのため「VOGUE NIPPON」誌が指名された。
 「VOGUE NIPPON」誌が、高級でハイセンスな読者を対象としており、ブランドイメージを守るため、広告を厳しく選別していることなどは、新聞や雑誌記事にも掲載されている。その結果、アンケート調査では、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。原告らの取引先が原告標章1の周知性及び著名性を証明書という形にして提出しているが、その証明書提出者は、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジバンシィ、ピエール・カルダン、シャネル、ヴァレンティノといった有名ブランドを有する会社が多く名前を連ねている。
 また、ファッション関係の書籍などでは、「VOGUE」誌について、「世界第一のファッション誌」とか、「エレガントなファッションと最新のアートや文芸作家の読物を含めた高級誌」などと紹介するものもある。
 (甲3、36、37、79、102ないし114、131ないし135、乙103)
イ 原告アドバンスマガジンのイタリアの関連会社エディツィオーニ・コンデナスト社は、住空間のファッション雑誌「CASAVOGUE」を出版している。「VOGUE NIPPON」誌においては、ファッショナブルな建築関係の特集も行っている。このほか、「CasaBRUTUS」誌が、建築とファッションの関係について特集している。また、「日経アーキテクチュア」でも、デザイナーズマンションが話題となっており、デザイナーズアパートが主流になってきたという新聞記事や週刊誌記事がある。
 デザイナーズマンションとは、首都圏で生まれた個性的な間取りやデザインのマンションのことで、この言葉が登場した当初は賃貸用マンションが中心であったが、その後短期間で状況が変わり、分譲マンションでもデザイナーズを名乗る商品が次々に登場している。若手のデザイナーを起用し、都市性を楽しむ住人にオフィス、住居の機能を提供するものであり、従来の家族構成や間取りにとらわれないデザインが受けているといわれている。その結果、デザイナーの名前がブランド化し、賃料も高く、高級感やファッション性が打ち出されてきているといえる。
 したがって、最近はファッションと建築は無関係ではなく、デザイナーズマンションというブランドやファッション性を重視したマンションが求められる傾向になってきた。
 (甲3の21、甲115ないし120、乙103の1)
ウ 本件マンションは、13階建てで、1LDKが3700万円台から(2階以上)、2LDKが6100万円台から(10階以上)、メゾネットが1億900万円台(12、13階)となっている高級マンションである。本件マンションのパンフレットは、ファッションショーにおけるモデルの写真が使われ、「for AOYAMA CELEBRITY」といった語が使用され、ファッション雑誌のような体裁になっている。広告にも「南青山のデザイナーズマンション」と銘打たれ、様々な機能的設備が全て標準装備であることをアピールしている。また、被告は、本件マンションの工事現場の看板にも、ファッションショーのモデルの写真を使用していた。
 (甲138ないし141、143、144、乙101、102、105)
エ 原告アドバンスマガジン又はCNAP社は、原告標章1について、商品の区分として第26類(印刷物)に商標登録し、第4類、9類、11類、16類、17類、20ないし25類、27ないし30類、35類、36類、38類、39類、41類、42類に関して24件の防護標章登録を受けている(甲6)。また、原告標章2について、商品の区分として第26類(雑誌その他本類に属する商品)に商標登録し、第3類、9類、14類、18類、20類、21類、24類、25類、28類に関して9件の防護標章登録を受けている(甲7)。
オ 他社の「ヴォーグ」又は「VOGUE」ないしこれらに類する標章の使用状況は、次のとおりである。
(ア) 株式会社日本ヴォーグ社は、ヴォーグ学園という編み物の学校を経営し、「株式会社日本ヴォーグ社」という商標を第26類に、「ヴォーグヤーン」、「VOGUE YARN」及び「ヴォーグ」という商標を第15類に登録している。ただし、雑誌に使用されていた「日本ヴォーグ社の編み物ヴォーグ」という商標については無効審決がされ、昭和62年9月20日からは、雑誌の題号が「機械編ZAZA」に変更された。
 「ゾンボーグ」という商標は、第28類に登録されており、CNAP社が無効審判を請求し、特許庁が請求不成立の審決をしたため、CNAP社が同審決の取消請求訴訟を提起したが、原告標章とは混同を生じないとしてCNAP社が敗訴した。
 他にも、「VOGUE」という商標が第22類、27類、30類に登録され、「RANGE ROVER VOGUE」という商標が第12類に、「ボーグ」が第20類に、「ボーグ VORG」が第1類に、「Vogue Star」が第16類に、「VOGUE STAR ボオグスター」が第17類に、「ラボーグ」が第29類及び32類に、「ラヴオーグ」が第43類に登録されている。第27類に登録された「VOGUE」という商標は、原告アドバンスマガジンの前身であるコンデナスト社が登録異議の申立てをしたが、混同のおそれが否定されて異議が棄却され、拒絶査定は取り消され、審判で登録された。また、第27類に登録された「Vogue」に図形が付された商標と「RANGE ROVER VOGUE」という商標は現在も使用されている。さらに、第22類の蓄音機のレコード盤を指定商品として「VOGUE」という商標が登録されており、現在もCDに同商標が付されて日本国内で販売されている。
 他に、原告アドバンスマガジン又はその関連会社が無効審判を請求したにもかかわらず、混同を生ずるおそれが認められず、最終的に登録になった商標として、「ヴォーグヤーン/エクトリー」、「DIAVOGUE」、「マイヴォーグ」(ただし、商標法50条1項により取り消された。)、「FEMMIOVOGUE」があり、「コインボーグ」、「アニマルボーグ」、「スポーツボーグ」という商標については、コンデナスト社が異議申立てをしたが、いずれも退けられて登録された。
 (甲180、181、乙2ないし12、14ないし18、68、71、76、77、108ないし110、112ないし114、116、121ないし127)
(イ) 被告は、「ラ・ヴォーグ南青山」を第36類(建物の売買、建物の売買の代理又は媒介等)で商標登録している。ただし、CNAP社が無効審判を請求している(甲148、乙1、弁論の全趣旨)。
 原告アドバンスマガジンは、第26類において、登録商標「L’UOMO VOGUE」及び「CASAVOGUE/カサヴォーグ」の譲渡を受けて商標権者となり、また、「MEN IN VOGUE/メンインヴォーグ」を独立商標として登録している(乙118ないし120)。
(ウ) その外にも、「ヴォーグ」を含む名称を有する事業者は日本に多数存在している。CDアルバム、自動二輪車、賃貸マンション、ビルの名称などにも使用されている(乙72、78ないし86、111ないし114)。
(エ) 逆に、昭和59年ころから、原告アドバンスマガジン及びその関連会社は、原告標章に類似する標章に対し、訴訟提起あるいは特許庁に対する異議申立て又は無効審判請求をするなどしており、訴訟においては、原告標章の著名、周知性を認め、請求を認容した判決も言い渡されている。また、特許庁においても、原告標章との類似商標が商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するとして拒絶された例も相当数みられる(甲81ないし101、160、177ないし180)。
(オ) なお、アメリカ合衆国又はフランスにおいては、商標「VOGUE」又は「La Vogue」を含む「VOGUE」の文字が表記された商標が多数登録されている(乙19ないし65、69、70)。このうち、国際分類第16類の「Vogue/Knitting」、「VOGUE/HOMMES/international mode」、「TEEN VOGUE」、同第16類、18類及び25類の「VOGUE」は、原告アドバンスマガジン又はその関連会社が登録したものである(乙28、30、32ないし34、44)。
(2) 不正競争防止法2条1項1号における「混同」を生ぜしめる行為には、周知の他人の商品表示又は営業表示と同一又は類似のものを使用する者が、自己と上記他人とを同一の商品主体又は営業主体と誤信させる行為のみならず、自己と上記他人との間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為をも包含し、混同を生ぜしめる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)。
 そして、このような混同を生ぜしめる行為といえるかどうかは、他人の商品等表示と自己の使用表示との類似性の程度、他人の商品等表示の周知著名性及び独創性の程度や、自己の表示の使用商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、上記自己の表示の使用商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。
(3) これを本件について見ると、次のとおりである。
ア 原告らの商品等表示である原告標章と被告標章は、前記第4の4で認定したとおり、類似している。被告標章は、その構成の一部に原告標章と同一の「VOGUE」、「ヴォーグ」という文字を明確に区別して認識できる態様で含む構成をとった結合標章であり、その他の部分は、定冠詞又は所在地を表す地名を付したものにすぎない。また、被告標章は、全体として1個不可分の既成の概念を示すものとはいえない。
イ 原告標章は、前記第4の2で認定したとおり、原告らの発行する雑誌の記号を示すものとして、需要者に広く認識されていると認められ、この周知性の程度は極めて高いものである。
 もっとも、「VOGUE」は、「流行、はやり」を意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるから、造語による標章に比して、独創性の程度は必ずしも高くないと言わざるを得ない。上記(1)オ(オ)のとおり、アメリカ合衆国やフランスにおいて、「VOGUE」を含む商標が多数登録されている事実は、「VOGUE」という語が同国において普通名詞であることによる独創性の程度の低さに原因があるものと推認される。
 しかし、我が国においては、「VOGUE」という語は決して通常一般的に使用される語ではないこと、上記(1)オ(ア)(イ)(エ)のとおり、原告アドバンスマガジン及びその関連会社が法的手段を通じて、原告標章の希釈化防止を図る努力をしていること、上記(1)エのとおり、原告アドバンスマガジン及びその関連会社が原告標章について多数の防護標章登録を受けることにより原告標章の希釈化防止を図っていること、及び原告標章の極めて高い周知性からすると、上記(1)オ(ア)(イ)(ウ)で認定した他社による「VOGUE」標章の使用という事実にもかかわらず、原告標章の自他識別機能は、決して低いものとはいえないということができる。
ウ 原告らの業務に係る商品は、ファッション雑誌「VOGUE」誌又は「VOGUE NIPPON」誌であり、被告が被告標章を使用する対象商品は本件マンションであって、両者の商品自体は類似するものとはいえない。しかしながら、上記(1)アで認定したとおり、「VOGUE」誌又は「VOGUE NIPPON」誌が高級なブランドイメージや都会的なファッションセンスのイメージを前面に押し出していること、上記(1)イで認定したとおり、近年デザイナーズマンションという高級で都会的でファッション性のあるマンションがもてはやされ、ファッション雑誌と建築が無縁ではなくなってきており、実際に「VOGUE NIPPON」誌で建築を扱ったこともあったことに加え、上記(1)ウで認定したとおり、被告が本件マンションをデザイナーズマンションと銘打ち、その高級感やファッション性を売り物にしていたことからすれば、両者の商品の間には、関連性が認められ、需要者についても共通する場合があるというべきである。そして、被告は、本件マンションを、まさに「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌が長年にわたり積み上げてきた高級でファッショナブルなイメージと同じイメージで販売していたものであるから、その関連性は相当程度存在するといえる。
(4) 以上の諸事情、すなわち、原告標章の独創性は、アメリカ合衆国及びフランスにおいて普通名詞であったことから同国においては高くはないが、我が国においては、一般的に使用される語ではないこと、原告標章が長年にわたって使用され、周知性が極めて高いこと、原告標章が被告標章と称呼及び観念において同一であって、両標章が類似すること、両標章の使用される商品の間に関連性が認められ、需要者が共通し、本件マンションが「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌の高級でファッショナブルなイメージと同じイメージで販売されていること等を総合的に考慮すれば、被告標章は、これに接した需要者に対し、原告標章を連想させ、原告らと同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告らから使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させるものと認められる。
(5) 被告は、第36類を指定役務として、「ラ・ヴォーグ南青山」について商標登録を受けている旨主張する。被告標章の使用行為が登録商標の使用であるとしても、上記商標登録については、現に無効審判が請求されている上、これを南青山に所在する建物の販売に使用するときは、上記商標の使用が原告らと広義の混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。
 また、被告は、「vogue」と同一あるいは類似する商標が数多く登録されていることは、それぞれの指定商品及び指定役務において、原告標章と混同を生ずるものではないことを示唆するものである旨主張する。しかしながら、「vogue」を普通名詞とするアメリカ合衆国やフランスにおいて類似の商標が登録されているとしても、そのことは我が国における混同惹起の有無とは直接関係がないし、我が国における商標登録についても、原告らにおいて除斥期間の経過等の理由により無効審判を請求できなかったものも存在する。また、上記(1)オに認定した登録例についても、類似性が認められないものや、取引の実情を具体的に認定することが困難な審査の段階で登録が認められたものも存在する。そして、混同のおそれの有無は、取引の実情に照らして判断されるべきであることは前記のとおりであるから、他の指定商品及び指定役務において、「vogue」を含む商標が登録されているとしても、本件において混同の生ずるおそれがあるとした前記判断を覆すに足りない。
6 争点(3)(損害)について
(1) 被告は、被告標章を本件マンションの販売のために使用しているから、不正競争防止法5条2項1号に定める行為に対し通常受けるべき金銭の額は、本件マンションの売上高を基準にして算定されるべきである。
 本件マンションの総売上高は、25億4500万円であるところ(甲161)、原告らは、この総売上高の10%が原告らの使用料相当損害額であると主張する。しかしながら、本件の対象商品は敷地権付きマンションであり(乙128ないし130)、上記価格には、本件マンションの建物部分のみならず、敷地権についての価格も含まれ、建物部分の価格(建築費、設計料等)の総額は、9億5000万円である(乙129、弁論の全趣旨)。
 また、マンションの取引においては、まず立地条件、建築内容及び価格等が購入に当たって検討する重要事項であって、マンションの名称はイメージとして多少の効果は否定し得ないものの、取引の際に大きな影響を与えるものとはいえない。したがって、本件においては、被告が原告らの商品等表示である原告標章に類似した被告標章を使用したことによって得られる利益ないし寄与割合は、必ずしも大きくないと解される。
(2) 以上の諸事情を考慮し、本件マンションの建物部分の価格の総額9億5000万円の5%である4750万円をもって原告らの使用料相当損害額と認める。
 なお、原告らは、原告らの損害賠償請求権は、不可分債権又は連帯債権であると主張する。前記のとおり、原告らは、それぞれが「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属する者として原告標章を自己の商品等表示として使用しているのであって、原告標章を共有しているわけではなく、共有持分も観念できないことからすると、原告らは、いずれも単独で本件における被告の侵害行為により発生した損害全額について賠償を求めることができる。したがって、本件における原告らの不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は、連帯債権であると解するのが相当である。
7 結論
 以上の次第で、被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当し、これにより原告らの営業上の利益を侵害するものである。よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求のうち、被告標章の使用差止め及び4750万円の損害賠償を請求する限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用に関する仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか
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