判例全文 line
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【事件名】「超時空要塞マクロス」の標章事件
【年月日】平成16年7月1日
 東京地裁 平成15年(ワ)第19435号 不当利得返還請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年2月16日)

判決
原告 株式会社竜の子プロダクション
訴訟代理人弁護士 内田公志
同 鮫島正洋
同 大川原紀之
被告 株式会社ビックウエスト
訴訟代理人弁護士 新保克芳
同 國廣正
同 五味祐子
同 村田真一
同訴訟復代理人弁護士 青木正賢
被告 バンダイビジュアル株式会社
訴訟代理人弁護士 柳瀬康治
同 山本昌平


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、連帯して原告に対し、6億8500万円及びこれに対する平成15年9月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告は、テレビ映画「超時空要塞マクロス」及び劇場用映画「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」の製作者であり、被告らは、「マクロスU」、「マクロスセブン」、「マクロスプラス」、「マクロスダイナマイト7」などと題する映画を製作販売したものである。
 原告は、「マクロス」という表示(以下「本件表示」ともいう。)は、自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであるとし、被告らの上記行為は、本件表示と類似の表示を使用するものであって、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当すると主張し、被告らに対し、主位的に民法703条に基づき不当利得返還を請求し(被告らは組合契約を用いた共同事業により利得を得たものであり、被告らの当該利得返還債務は不可分債務の関係にあるとして、連帯支払を求めている。)、予備的に不正競争防止法4条に基づき損害賠償を請求している。
第3 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者等
 原告は、昭和37年に設立された、映画の企画製作及びその著作権管理等を主たる業とする株式会社であり、昭和39年ころから「宇宙エース」、「マッハGoGoGo」、「おらぁグズラだど」、「ハクション大魔王」、「昆虫物語みなしごハッチ」及び「科学忍者隊ガッチャマン」などのアニメーション映画を製作し、公表してきた(甲1、2)。
 被告株式会社ビックウエスト(以下「被告ビックウエスト」という。)は、テレビ、ラジオの宣伝映画等の企画及び製作等を業とする株式会社である。
 被告バンダイビジュアル株式会社(以下「被告バンダイビジュアル」という。)は、映像著作物の企画、製作並びに映像著作物の複製物の製造、販売及び輸出入などを業とする会社である。
2 テレビ用アニメーション映画の放映
 原告と株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)は、昭和57年9月30日(第1話ないし第21話に関する)及び昭和58年3月10日(第22話ないし第36話に関する)、連続テレビジョン放送用動画フィルム「超時空要塞マクロス」(以下「本件テレビアニメ」という。)に関する契約を締結し(以下「本件テレビ放送契約」という。)、本件テレビアニメは、昭和57年10月3日から昭和58年6月2日までの間、毎日放送をキー局としてテレビ放映された(甲5、6、14(枝番号は省略。以下、同じ)、弁論の全趣旨)。
3 劇場用アニメーション映画の製作、公表
 原告、被告ビックウエスト、毎日放送及び株式会社小学館(以下「小学館」という。)は、昭和58年11月24日、劇場用映画「超時空要塞/マクロス」(以下「本件劇場版アニメ」という。)の共同製作に関する契約を締結し(甲9)、本件劇場版アニメは、昭和59年に全国の劇場で公開された(甲14、弁論の全趣旨)。
4 被告らによる映画の製作販売
 被告らは、「マクロスU」(ビデオ)、「マクロスプラス」(ビデオ、劇場版)、「マクロスセブン」(劇場版、テレビ放送、ビデオ)、「マクロスダイナマイト7」(DVDソフト)、「マクロスゼロ」(DVDソフト)等とのタイトルが付された映画(以下、これらをまとめて「被告各映画」と総称し、これらに付されたタイトルを「被告表示」と総称することがある。)につき、各作品ごとに、民法上の組合契約を用いた製作委員会を組織することにより、あるいはこれらの委員会と被告ビックウエストとの共同で製作し、被告バンダイビジュアルがこれらを販売した(甲14、乙4、5、8、9、弁論の全趣旨)。
第4 争点並びに争点に関する当事者の主張
1 不正競争行為の成否
(原告の主張)
(1) 本件表示の周知・著名性
ア 原告は、本件テレビアニメの製作について、その放映主体である毎日放送から委託を受けた。本件テレビ放送契約第1条には「原告が毎日放送の諸々の事項に関する意見を尊重しつつ、カラートーキーフィルムを製作すること」、同第2条には「毎日放送が日本国内において独占的にテレビ放映する権利を取得すること」、同第8条には「権利処理については、原告の責任と負担において行うこと」が規定されている。
 また、第1回から第3回に係る本件テレビアニメは、エンドクレジットにおいて、本件テレビアニメの製作が毎日放送、アニメフレンド(原告の100%子会社)と並び、原告であることが表示されている。
 本件テレビアニメ第1回から第3回までの放映日、視聴率、推定視聴者数(大都市部)は次のとおりである。

  放映日 タイトル 視聴率(%) 推定視聴者数(万人)
第1回 S57.10.3 ブービートラップ 2.9 185
第2回 S57.10.3 カウント・ダウン 2.9 185
第3回 S57.10.17 スペース・フォールド 4.8 307

 以上によれば、本件表示(「マクロス」)は、原告が製作する本件テレビアニメのタイトルの一部として、遅くとも昭和57年10月末ころには周知・著名であった。
イ また、原告は、毎日放送、被告ビックウエスト、小学館と、共同出資にて本件劇場版アニメを製作する旨の契約を締結したが、同契約の第3条には「本件劇場版アニメの製作は原告が行い、昭和59年6月末日までに責任をもってこれを完成させること」、同第5条には「本件劇場版アニメ完成後のオリジナル・フィルムは、原告が責任をもって管理すること」が規定されており、共同出資の形態をとりつつも、原告が実質的な製作者であることが表明されている。
 したがって、遅くとも、本件劇場版アニメが全国の各映画館において公開を終えた昭和59年10月の時点において、本件表示は、原告の商品等表示として全国的に周知・著名となった。
ウ 上記のように、本件表示(「マクロス」)は、本件テレビアニメ36話、本件劇場版アニメのタイトルの要部として、昭和57年10月から昭和59年にわたって用いられており、製作者である原告の営業表示として、保護されるべきものである。
(2) 本件表示の「商品等表示」の該当性
ア 抽象的な著作物としての映画ではなく、映画という商品、すなわちフィルムという有体物に固定された映画フィルム、あるいは商品化事業において映画自体を一般視聴者へ流通させることを目的として媒体物に複製したビデオソフトやDVDソフトのような映画ソフトにおいては、これらに付された映画の題名は、「商品」表示に該当する。
 このような有体物が不正競争防止法上の商品かどうか、あるいは、当該商品に付された表示が商品等表示に該当するかを判断する際には、その素材が著作物であるかどうかは、全く関係がない。素材が著作物であるという理由で、当該著作物の題名が当該著作物を素材とする商品の「商品表示」にならないというのは、著作権法上の解釈を不正競争防止法上の解釈に持ち込んだ誤った解釈である。
 事業者あるいは消費者にとって、映画は、@それが固定されたフィルムを借りて(買い取って)上映する興業者からみれば、映画フィルムという歴とした商品であって、ADVDソフト等に複製された場合、販売業者から見ても、消費者から見ても映画ソフトという商品であって、B放映、上映される映画は、これを鑑賞する消費者から見て営業(サービス)であることは明らかである。
 このように、商品や営業(サービス)を他と識別する表示は、当該映画の題名以外にはあり得ない。
イ 著作権法上、「著作物の題名は当該著作物を特定するものにすぎないから、著作物に当たらない」というのは理解できるが、「著作物の題名は当該著作物を特定するものにすぎないから、当該著作物を素材とする商品を特定する表示とはなり得ない。」とはいえない。著作権法と不正競争防止法はその趣旨を異にする上、不正競争防止法における「商品」については、法文上何ら限定が付されていないのであって、著作権法の著作物と不正競争防止法の商品性の判断は必ずしも一致しないというべきである。実質的にみても、例えば「ガンダム」というDVDソフト(商品)のタイトルが、商品を識別する表示となりえないとは考えられない。一般の消費者は、「ガンダム」というタイトルを見て、これをいわゆる「ガンダム」映画として認識し、他と識別し、「ガンダム」ソフトを購入するのである。映画のタイトルは、抽象的な著作物を特定するものであるのと同時に、有体物であり取引の対象となる映画フィルムあるいは映画ソフトという「商品」を他と識別するものである。このことは、映画ソフトの販売店に行って「『ガンダム』ビデオ下さい。」という消費者はあっても、「……という内容のビデオを下さい。」などという消費者がいないであろうことからも明らかである。少なくとも、一般消費者は、映画のタイトルを「映画ソフト」という商品を識別する表示としてとらえている。
 上記のとおり、映画のタイトルが、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」に該当することは明らかである。
ウ 被告らは、映画の題名が、「自他商品識別機能」及び「出所表示機能」を有していないから、「商品等表示」に当たらない旨を主張する。
 しかし、不正競争防止法上保護される表示が、「自他商品識別機能」及び「出所表示機能」を備えていなければならないと解されているのは、「このような機能のない商品等表示を保護するということは、とりも直さず単なる一般的名称や表示について独占的使用を認めるという不当な結果を招くことになるから」(山本庸幸「要説不正競争防止法(第3版)」49頁)であって、本件表示(「マクロス」)のように特徴のあるタイトルには全く当てはまらない。
 また、自他商品識別機能や出所表示機能は、当該表示自体に「どこの出版社」だとか、「どこの取扱店」だとかが明示される必要はないのであって、本件タイトルからこのような事情が読みとれないからといって、「自他商品識別機能」や「出所表示機能」を有しないということにはならない。
 むしろ、一定の層の消費者にとっては、「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」といえば「ジブリ映画」というように出所が想起されることからも明らかなとおり、映画のタイトルは、このような意味での「出所」を表示し(出所表示機能)、他の映画や他の製作者と識別する機能(自他商品識別機能)を有する場合がある。そして、本件表示は、それ自体で、商品等の出所を示すことを目的とするものではないが、「マクロス」という特徴的な名称からも、「自他商品識別機能」を有することは明らかである。
 このように、本件表示である「マクロス」というタイトルは、映画(本件テレビアニメ及び本件劇場用アニメ)を指し示すのと同時に、少なくとも他の映画及び他の映画関連商品(DVDソフト等を含む)と識別するものである。被告らの反論は、記述的名称で構成された著作物の場合にはあてはまるとしても、本件表示である「マクロス」というタイトルにはあてはまらない。
 なお、そもそも、著作物の題号については、1966年4月の著作権制度審議会においても「題号の保護の問題は、むしろ、不正競争防止に関する法制の問題として、別途、措置されることが望ましい。」(阿部浩二「著作権とその周辺」164頁)と述べられているように、不正競争防止法によって解決されることが予定されているものである。
(3) 本件表示が原告(他人)の商品等表示であるかどうか
ア 本件に先立つ、東京地方裁判所平成14年(ヨ)第22155号仮処分命令申立事件において平成15年11月1日にされた決定(甲14。以下「本件仮処分決定」という。)において、「仮に本件各表示が当該商品化事業に係る商品ないしその出所としての営業主体を示す『商品等表示』に該当し得るとしても、債権者(原告)のみならず、債務者補助参加人(被告ビックウエスト)、株式会社スタジオぬえ(以下「スタジオぬえ」という。)等をも含めた共同事業体を主体とする「商品等表示」というべきであ」り、「債務者補助参加人(被告ビックウエスト)から許諾を受けてアニメーションDVDソフトを販売している債務者(被告バンダイビジュアル)との関係において、債権者(原告)がこれを自己の「商品等表示」と主張することはできない」ことが示されている。しかし、仮に、このように本件表示が、原告らの共同事業に帰属すべき性質のものだとしても、かかる結論は不当である。原告、被告ビックウエスト及び訴外スタジオぬえの三者の共同事業における商品等表示であれば、その営業等表示の帰属主体は、この三者にあるのであって、換言すれば、共同事業体を主体とする「商品等表示」であるということは、それを構成する事業者にとっては、いずれも「自己の営業等表示」というべきであり、自己以外の事業者はすべて「他人」である。
 仮に、原告が、「マクロス」ブランドに乗じて、共同事業者である他の二者とは無関係に「マクロス」表示を利用し、これと類似の表示を用いた商品を独断で製作、販売すれば、これは当然に不正競争行為である。このことは、原告が、第2の「マクロス・ゼロ」を販売した場合に明確となる。市場に2種類の「マクロス・ゼロ」が出現すれば、消費者が混乱することは明らかである。このような事態が生じても、相互に「自己の商品等表示」でないことから、不正競争防止法上なんの請求も認められないのは、極めて不都合であり、このような行為は「事業者間の公正な競争」とはいえない。共同事業者のいずれもが、「自己の商品等表示」であると解釈することにより、はじめてかかる不当な混同行為を防止することができ、不正競争防止法の立法趣旨が実現されるというべきである。
 本件のようないわば、「共同事業者間の内紛型」というべきケースの場合には、共同事業者間の契約の解釈で処理が図られるべきで、契約において、誰が表示を利用しうるか、あるいは、共同事業を構成する事業者のいずれもが他の事業者の表示の二次的利用に対して、不正競争防止法上の権利を行使しないという不行使条項を定めておくなどしていれば、正当に表示を利用しうる者がそれを抗弁として主張すればよい。
 上記のとおり、マクロス映画事業(マクロス映画の放映及び劇場公開並びに各種商品化事業を含むライセンス事業の総体をいい、以下「本件映画事業」という。)が、原告の単独事業でなく、仮に本件仮処分決定のとおり、本件表示が共同事業体を主体とする表示であったとしても、原告の「商品等表示」であり、原告からみた被告らは明らかに「他人」である。
イ 被告ビックウエストの主張に対する反論
 被告ビックウエストは「ただ乗り」でない旨主張するが、上記のとおり、本件映画事業が共同事業であることを前提とすれば、「ただ乗り」であることに変わりはない。「ただ乗り」でないとすれば、自己の寄与度についてのみ当てはまることであって、自己の寄与度を超えた成果のすべてを利用し得るわけではない。
 したがって、少なくとも、被告ビックウエストの寄与度を超える部分について、「ただ乗り」であることは明らかであり、同被告の許諾のみにより、他の第三者が本件表示を正当に利用することなどできない。
ウ 被告バンダイビジュアルの主張に対する反論
 共同事業者間の内紛型というべきケースは、原則として相互に「他人」の関係にあり、当該他人間に契約が存在する場合、例えば、「互いに表示を利用しても不正競争防止法等の請求をしないという不行使契約」があれば、当該契約に規律されることは当然のことであるが、このような契約がない場合、被告バンダイビジュアルの主張は必ずしも明確でないが、他人の成果を一部でも冒用することになるのは、明らかであるから、不正競争防止法等により、かかる行為が禁止されるのは当然である。
 原告は、共同事業者の一つである被告ビックウエストとの間で、上記のような不行使契約を締結したことも、第三者である被告バンダイビジュアルに対して何らかの許諾を行ったこともない。
 そして、このような不行使契約等の存在については、被告バンダイビジュアルが被告ビックウエストから許諾を受けたという事実を除き、被告らからは何ら主張されていない。
(4) 本件表示と被告表示の類否等
ア 被告各映画には、@マクロスU、Aマクロスプラス、Bマクロスセブン、Cマクロスセブンアンコール、Dマクロスダイナマイト7、Eマクロスゼロなどの各タイトルが付されており、これらのタイトルは、本件表示「マクロス」と、数字を表示する「U」「セブン」「ゼロ」、あるいは、算式記号ないし「加算」という概念を一般的に表す言葉「プラス」とを結合させたにすぎない。上記の各タイトルにおいて、「マクロス」の部分は、特定の概念を一般的に表すものではなく、いわば固有名詞的な役割を担っていること、被告各映画のタイトルにおける使用は、別紙に示すように「超時空要塞」という小さな文字を囲むように「マクロス」「MACROSS」と片仮名・ローマ字で大きく二段併記されて用いられることが通常であったこと、昭和58年当時のプレスにおいても、専ら「マクロス」との略称で知られていたことなどにかんがみれば、被告らのタイトルにおいて識別力が際立つ部分、つまり要部は「マクロス」であるといえる。
 したがって、被告各映画の上記各タイトルは、本件表示と類似する。
イ そして、不正競争防止法上の「混同」とは、判例上、広義の混同、すなわち、原告と被告が同一の営業主体であると誤信を抱く場合のみならず、需要者をして、親会社・子会社・系列会社の関係を有する等何らかの資本上の緊密な関係があると誤信する場合や(最高裁昭和58年10月7日判決参照)、顧客吸引力を供与するためのライセンス契約等何らかの営業上の緊密な関係があると誤信する場合(神戸地方裁判所平成8年11月25日判決参照)を含むと解されている。
 被告各映画のタイトルの一部として使用されている「マクロス」を認識した需要者からすれば、被告らが、原告から本件表示の使用について何らかのライセンスを与えられたと誤認するのが自然である。
 したがって、被告らが、被告各映画を製作、販売する行為が、本件表示にかかる原告営業との間で、広義の混同を惹起し得ることは明白である。
(5) 被告らの行為が商品等表示の「使用」に該当するか否か
 不正競争防止法上の「使用」とは、「商品等表示をその商品又は営業との関連においてその業務に用いること」であって、「公正な競争の確保という観点から、競争に影響を及ぼすべき使用形態はすべて対象とすべきであり、その意味での『使用』の語句は広く解するべきである」(山本庸幸「要説不正競争防止法(第3版)」96頁)ことからすれば、本件仮処分決定における説示のように、アニメーションDVDソフトに付された表示は、「記録媒体に収録された著作物である映画を特定して表示するものにすぎず、商品等表示として使用されているものということはできない」とすることは不当である。
 被告らは、原告の商品等表示を抽象的な著作物の題名に付して利用しているだけでなく、それを素材とした「商品」に付して利用しているのであるから、被告らによる「アニメーションDVDソフトに原告の商品等表示と類似した題名を付す」ことは明らかに同法の「使用」に当たる。
(被告ビックウエストの主張)
(1) 本件表示の「商品等表示」の該当性
ア 映画のタイトルは、フィルムやソフトに収録されている映画の内容を示すものにすぎず、有体物である映画フィルムや映画ソフトの出所としての製造・販売元を表示するものではなく(出所表示機能の欠如)、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能も果たしていない(自他商品識別機能の欠如)。このことは、映画がどのような媒体(VHS、DVD等)に収録されようとも、媒体毎にそのタイトルが変更されることはなく、媒体としての映画フィルムや映画ソフトを発売する会社が替わった場合でも、内容が同一である限り、その映画のタイトルが変更されずに使用されることからも明らかである。
 原告の挙げる「ガンダム」の例で説明すれば、「ガンダム」との表示は、「ガンダム」という映画を示すものであって、当該ソフトの発売元がどの会社であっても、内容が同一である限り、「ガンダム」というタイトルが使用され、内容を示す「ガンダム」という題名によって、消費者の購入が決定されるものである。原告は、「他と識別し」と述べているが、購入者は、他の内容の映画と識別しているにすぎない。映画の題名が媒体である映画ソフト(有体物の意味)の出所を表示したり、自己の業務と他人の業務とを識別する機能を有するものではない。
イ また、映画のタイトルが作品の識別標識としての機能を有することがあるとしても、その映画の製作主体の営業等表示になることはない。このことは、映画が別の製作会社でリメイクされた場合を想定すれば明らかなことである。結局、映画の基となった原作がある場合、映画製作者が誰であっても、その映画のタイトルは、原作者のものであり、自らあるいは第三者をしてそのタイトルを使用した映画を製作することができる。
 そして、多数の作品を発表して個々の作品を超えたアニメーション製作会社そのものとしての営業表示(「タツノコプロ」「竜の子プロ」「竜の子」「タツノコ」等)が有名な原告のような場合、マクロスシリーズの一部に関与しただけで、本件表示(「マクロス」)が原告の「商品等表示」にならないことはいうまでもない。
ウ さらに、次に掲げた事実からすれば、被告らは原作者として本件表示(「マクロス」)を使用して新たな作品を作成できること、及び、本件表示は被告らの「商品等表示」であって、原告の「商品等表示」に当たらないことは明らかである。
@ 本件テレビアニメ(36話)は、スタジオぬえの発案に基づき、被告ビックウエストがテレビ放映のための放送枠の確保やスポンサー探しを行うなどして製作が開始された作品であり、同作品の基になるストーリーや登場人物等の図柄はすべてスタジオぬえと被告ビックウエストによって作成された(スタジオぬえと被告ビックウエストが同作品に登場する図柄の著作権を共有していることは裁判上既に確定している。)。
A 本件テレビアニメ(36話)の映画の著作者人格権は、被告ビックウエストらにある(東京地方裁判所平成15年1月20日判決(同13年(ワ)第6447号。甲3)及び東京高等裁判所同15年9月25日判決(同15年(ネ)第1107号。甲13))。
B 「マクロス」という題名は、被告ビックウエストの前代表者であるPが、昭和57年1月ころ命名したものである。
C 本件テレビアニメ(36話)放送直後に、それをベースに「マクロス」と題して小学館から発行された書籍類には、被告ビックウエストの名前はあるが、原告名はない(乙1〜3)。
D 本件劇場版アニメについては、被告ビックウエストが著作権の50%を有しているのに対し、原告は、わずか16.6%のみであり、エンドテロップの製作者には、被告ビックウエスト、毎日放送、小学館と共に原告名が記載されている。
E マクロスU以降の作品については、原告は製作に一切関与しておらず、被告ビックウエストらが製作し、発表している。
F 被告ビックウエストは、おもちゃや袋物など多数の類、本件テレビアニメ(36話)の放送開始前の昭和57年5月に「マクロス」の商標登録の出願を行い、現に商標権を保有している。
エ 本件仮処分決定(甲14)において言及されているように、仮に、「商品化事業の展開により映画の題名と同一の名称を付した多数の商品が市場において販売されているような場合には、それによって、当該名称が特定の営業主体による商品化事業の対象とされている一連の商品ないしその出所としての営業主体を示す表示として需要者の間に周知ないし著名となり、その結果、当該名称が不正競争防止法上の『商品等表示』に該当することもあり得る」としても、本件においては、原告について、このような事情は全く認められない。
(2) 本件表示が原告(他人)の商品等表示であるかどうか
ア 仮に、原告の「商品等表示」として、本件表示(「マクロス」)が周知であるとしても、周知になるためには、被告らの多大な努力が不可欠であった。したがって、本件表示は、被告らの「商品等表示」でもあるから、被告らを「他人」ということはできない。
イ 不正競争防止法2条1項1号は、商品表示や営業表示は、商品の販売又は営業の遂行に際し、その商品又は営業を他の事業者のものと区別するため、あるいはそれが自己のものであることを明示するために表示され、使用されていくうちに、その商品又は営業に対する需要者の信用が次第にその表示に化体されていき、それとともに表示自体がその商品又は営業の広告宣伝媒体ともなるという経過をたどることを前提に、ある事業者がこのように築き上げた経済的成果を別の事業者がそれと同一又は類似の商品等表示を使用して混同を生じさせることにより一挙に奪い取るような不正な競争を規制することとしたものである。したがって、例えば共同事業体の事業者間のように共同で表示に対する信用という経済的効果を築き上げた場合には、各事業者が保護されるべきなのであって、このような場合に、相互に「他人」に当たるとすることは、本条項の趣旨を没却してしまう。原告は、「複数の事業者が取り組んで生み出した成果を、そのうちの一部の業者がただ乗りしてよいわけがない」旨主張するが、被告らに「ただ乗り」などという事実はない。
ウ 以上のとおりであって、「マクロス」という本件表示は、そもそも被告ビックウエストにとって「他人」の表示ではない。
(被告バンダイビジュアルの主張)
(1) 本件表示の「商品等表示」の該当性
 原告の主張は争う。不正競争防止法上、商品等表示が保護されているのは、それぞれ商品を販売したり、営業を遂行するに際して、その商品又は営業を他の事業者のものと区別する機能(自他商品識別機能)、又は、商品又は営業が自己のものであることを明示する機能(出所表示機能)を有するからである。
 本件についてみると、「超時空要塞マクロス」等という映画の題号は、あくまでも、「超時空要塞マクロス」等のアニメーション映画を特定しているものであり、この「超時空要塞マクロス」等という映画の題号そのものが、商品又は営業を他の事業者のものと区別する機能や(自他商品識別機能)、商品又は営業が自己のものであることを明示する機能(出所表示機能)を有しているわけではない。
(2) 本件表示が原告(他人)の商品等表示であるかどうか
 一般に、共同事業体においては、商品化の企画、構想の段階から、市場調査や資金の拠出、スポンサー探し、実際の製作、労力の提供等といった様々な役割分担を行い、共同事業者がそれぞれ相互に協力・補完しながら一体となって商品化を展開していくものであり、かかる共同事業体によって商品化されたものは、まさに共同事業体の商品であり、仮に共同事業体によって商品化された商品の名称が「商品等表示」に該当する場合があったとしても、「商品等表示」の出所は共同事業体でしかあり得ず、共同事業体の個々の構成員の「商品等表示」になるわけではないことは当然である。共同事業体の努力が存してはじめて不正競争防止法上の「商品等表示」などの要件に該当することが可能となった場合に、その要件該当性を作出した主体である共同事業体の内部関係においてまで「他人」とみなし、不正競争防止法を適用することは一種の背理であり、同法の予定していないところというべきである。
 そして、内部の個々の構成員の間においては、共同事業体を構成するにあたって締結された契約等の契約法理等による解決・規律等がなされるべきことが予定されている。
 以上のとおり、共同事業体を主体とする「商品等表示」において、共同事業者間は、不正競争防止法上の「他人」にそもそも該当しない。
2 原告の損害について
(原告の主張)
ア 被告らは、被告各映画の製作販売により、本件表示である「マクロス」を被告各映画のタイトルの一部に使用することにより、平成4年から、次のとおり、概略合計68億5000万円の利益を上げている。

被告各映画のタイトル 発売開始 推定総製作費 推定収入
@マクロスU 1992年8月 2億3400万円  
Aマクロスプラス 1994年8月 1億5600万円  
Bマクロスセブン 1994年10月 6億3700万円  
Cマクロスプラス(劇場版) 1995年5月 1億3000万円  
Dマクロスセブン(劇場版)   2億6000万円  
Eマクロスセブンアンコール 1995年12月 6500万円  
Fマクロスダイナマイト 1997年12月 1億5600万円  
Gマクロスゼロ 2002年12月 5億8500万円  
合計   22億2300万円 68億5000万円

 収入の計算方式は、次のとおりである。
 各作品のビデオ本数等から下請製作費を推定する。推定根拠とする数値は原告における映画製作の実績から採用し、30分のビデオ1巻当たり下請製作費3000万円とし、これに30%上乗せして、推定総製作費を算出する。本件テレビアニメ、本件劇場版アニメの総収入/総製作費の比は、それぞれ325.15%、291.14%であり、平均すると308.15%である。この比が、マクロスシリーズにおいて一定であると仮定し、総製作費の合計に308.15%を乗ずると総収入費68億5000万円余りとなる。
イ そして、仮に、原告が本件表示につき被告ビックウエストに対して使用許諾を行ったとすれば、その料率は、業界標準と本件表示の著名性とを勘案して、その収益の10%を下回らない。
 被告らが、本件表示の使用許諾料を支払うことを免れることによって得た利益と、これを得られなかったことによる原告の損失(得べかりし利益)との間に直接的な因果関係を認めることができる。
 そうすると、上記収益の10%に当たる6億8500万円は、被告らが、被告各映画の営業に伴って支払を免れた不当利得であるから、原告は、被告らに対し、民法703条に基づき返還を求めるものである。
ウ なお、被告らは、組合契約を用いた製作委員会方式等により、被告らの共同事業として上記映画を製作し、これらの映画を劇場公開し、ビデオ、DVDソフトとして販売するなどして利得を得たものであるから、被告らの得た利得の返還債務は、不可分債務(いわゆる性質上の不可分債務)の関係にある。したがって、原告は、上記不当利得の返還につき、被告らに対し連帯支払を求める。
(被告らの主張)
 原告の主張は、否認ないし争う。
第5 当裁判所の判断
1 本件の事実関係
 前記の「争いのない事実等」(前記第3)に証拠(甲2、3、5ないし7、10、11、13ないし15、乙1ないし10)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。
(1) 本件テレビアニメの作成経緯
ア 昭和55年ころ、スタジオぬえは、巨大宇宙艦の中に民間人を住まわせ、宇宙艦の内外で巨大宇宙人との宇宙戦争を行うことなどを内容とし、戦闘の主役となる戦闘機に、従来のものとは異なる変形メカを使用することなどを特徴とする新しいテレビアニメ作品の構想を着想し、昭和56年11月ころまでに39話分の大まかなストーリーメモを作成した。また、スタジオぬえは、同年12月ころまでに戦闘メカ(バルキリー)の原図柄を作成し、昭和57年3月ころまでには、ほとんどの登場人物の原図柄及びバルキリー、宇宙艦その他のメカの原図柄を作成した。
イ スタジオぬえは、昭和56年2月ころ、被告ビックウエストに前記企画を持ち込んだところ、その斬新性に着目した被告ビックウエストは、前記企画をテレビアニメ作品として放映することを考えた。そして、昭和57年1月ころ、毎日放送の放送枠を同年10月以降確保できる見通しが立ち、そのころまでに玩具、プラモデル、文具及び菓子メーカー等から前記企画のスポンサーとなる承諾が得られるなどして放送費用を調達できるめどがついたことから、被告ビックウエストにおいては、前記企画を毎日放送でテレビ放送することを考え、アニメの題名を「マクロス」と名付けた。
 被告ビックウエストは、「マクロス」という標章について、昭和57年5月27日に、指定商品を自転車、本類の第12類、日用品等の第19類、袋物等の第21類、おもちゃ等の第24類として商標登録出願し、商標登録された。
ウ 被告ビックウエストは、当初、前記企画のアニメーション化作業を協力会社であるアートランドに委託することを予定していたが、アートランドだけではアニメーターの数が足りないことから、昭和56年12月末ころ、多数のアニメーターを有する原告に対して協力方を打診した。そして、昭和57年4月ころ、原告はアニメーション製作作業への参加を正式に決定した。
エ 毎日放送は、製作スケジュールの把握等の観点からアニメーション製作の実績のある原告との製作契約を希望した。そこで、本件テレビアニメに関する製作及び放送の契約は、原告と毎日放送を当事者として締結されることになった。
(2) 本件テレビアニメの放映及び権利関係についての合意
ア 原告と毎日放送は、昭和57年9月30日(第1話ないし第21話に関する)及び昭和58年3月10日(第22話ないし第36話に関する)、本件テレビアニメに関する本件テレビ放送契約を締結し、本件テレビアニメは、昭和57年10月3日から昭和58年6月2日までの間、毎日放送をキー局としてテレビ放映された。各回の放送の最後には「製作 毎日放送、タツノコプロ、アニメフレンド」との表示がされた。
イ 原告、被告ビックウエスト及びスタジオぬえは、昭和57年10月1日、覚書を締結し、本件テレビアニメに関する諸権利の帰属について、次の内容で合意した(甲15)。
(ア) 商品化権について
 商品化権の窓口を被告ビックウエストとする。その権利から発生する利益については、まず被告ビックウエストが窓口手数料として10パーセント取得し、残額(90パーセント)については、これを100として、被告ビックウエストが30パーセント、原告が33パーセント、スタジオぬえが12パーセント、毎日放送が25パーセントの割合で配分する。
(イ) 出版物について
 幼児から小学校6年生までを対象とするものについては、出版物に関する窓口は原告が担当し、これから発生する利益については、被告ビックウエスト30パーセント、原告40パーセント、スタジオぬえ30パーセントの割合で配分する。中学生以上を対象とするものについては、出版物に関する窓口はスタジオぬえが担当し、これから発生する利益については、被告ビックウエスト30パーセント、原告30パーセント、スタジオぬえ40パーセントの割合で配分する。
(ウ) 音楽に関する諸権利について
 音楽に関する諸権利(例えば、レコードの原盤権、音楽著作権等)の窓口は原告が担当し、これらの権利を得るための諸経費は被告ビックウエスト40パーセント、原告60パーセントの割合で負担する。これらの権利から発生する利益については、被告ビックウエスト40パーセント、原告60パーセントの配分とする。
(エ) 国内におけるリピートの番組販売について
 国内におけるリピートの番組販売に関する窓口は、被告ビックウエストが担当し、これから発生する利益については、被告ビックウエスト50パーセント、原告50パーセントの割合で配分する。
(オ) 海外番組販売及び海外での一般商品化権については、原告が権利を有し、これから発生する利益については、すべて原告のものとする。
(カ) 覚書以外の諸権利が発生した場合には、被告ビックウエスト、原告及びスタジオぬえがそれぞれ協議してこれを解決するものとする。
(3) 本件劇場版アニメの製作、公表
 原告、被告ビックウエスト、毎日放送及び小学館は、昭和58年11月24日、本件劇場版アニメの共同製作に関し、次の内容の契約を締結し、本件劇場版アニメは、昭和59年に全国252の劇場で公開され、延べ85万7582人の観客を動員した。
ア 本件劇場版アニメの製作費は、総額2億2万円とし、出資会社及び出資額は、被告ビックウエスト1億円、原告3334万円、毎日放送3334万円及び小学館3334万円とする。
イ 本件劇場版アニメの製作は原告が行う。
ウ 本件劇場版アニメの劇場上映、テレビ放映、ビデオ出版にかかわる著作権の処理(ストーリー、キャラクター、声優など)は、被告ビックウエスト及び原告が責任をもって行う。ただし、劇場用以外の音楽著作物の使用料は除外する。
エ 本件劇場版アニメ完成後のオリジナル・フィルム(画と音)は、原告が責任をもって管理する。
オ 本件劇場版アニメ完成後の権利は、被告ビックウエスト、原告、毎日放送及び小学館の共有とする。
カ 本件劇場版アニメに係る権利行使のための契約代表者は被告ビックウエストとし、被告ビックウエストは、原告、毎日放送、小学館と協議の上、本件劇場版アニメの利用につき、次の各契約を締結する。
(ア) 本件劇場版アニメの日本国内における興行配給に関する契約は、東宝株式会社と締結する(以下この契約を「東宝契約」という。)。
(イ) 本件劇場版アニメの国内のテレビ放映権(全国2回)は、毎日放送が優先して取得する。ビデオ出版権は小学館が優先して取得する。毎日放送及び小学館の権利取得の対価は、被告ビックウエスト、原告、毎日放送及び小学館が協議して決定する。
(ウ) 本件劇場版アニメから発生する(ア)(イ)の収入及び商品化権の管理は被告ビックウエストが行う。
キ 被告ビックウエストは、上記カに記載した各契約による収入については、次に記載した額を上記アの出資比率に従って各出資者に配分する。
(ア) 東宝契約、テレビ放映権による収入についてはその全額。
(イ) ビデオ出版権による収入については、他の権利者への使用料を差し引いた残額。
(ウ) 本件劇場版アニメの商品化権による収入は、被告ビックウエストが窓口手数料として10パーセントを控除した残額。
(4) 「超時空要塞マクロスU」等のアニメーション映画の製作・発表
 本件テレビアニメの放送及び本件劇場版アニメの発表後、「超時空要塞マクロスU」(ビデオ)、「マクロスプラス」(ビデオ、劇場版)、「マクロスセブン」(劇場版、テレビ放送、ビデオ)、「マクロスダイナマイト7」(DVDソフト)、「マクロスゼロ」(DVDソフト)とのタイトルが付されたアニメーション映画が製作、発表されたが、いずれも著作権者として原告が表示されたことはなく、著作権表示(コ表示)は、次のように記載されていた。
@「超時空要塞マクロスU」(ビデオ) −「ビックウエスト・マクロス製作委員会」
A「マクロスプラス」(ビデオ) −「1994年ビックウエスト/マクロス製作委員会」
B「マクロスセブン」(テレビ放送) −「ビックウエスト/毎日放送」
C「マクロスダイナマイト7」(DVDソフト) −「1997年ビックウエスト/OVAマクロス製作委員会」
2 争点1(不正競争行為の成否)について
(1) 原告は、本件表示が本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメという「商品」を表示するもの、あるいはアニメ映画の放映及び商品化事業を含む各種ライセンス事業等(アニメ映画事業)の営業主体を表示するものとして、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当する旨を主張する。
(2) テレビ放映用映画ないし劇場用映画については、映画の題名(タイトル)は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」に該当しないものと解するのが相当である。けだし、映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではないから、特定の映画が人気を博し、その題名が視聴者等の間で広く知られるようになったとしても、そのことにより、当該題名により特定される著作物たる映画の存在が広く認識されるに至ったと評価することはできても、特定の商品や営業主体が周知ないし著名となったと評価することはできないからである。
 本件において、原告は、本件テレビアニメの題名「超時空要塞マクロス」及び本件劇場版アニメの題名「超時空要塞/マクロス」が周知ないし著名となり、その結果、本件表示が原告の商品等表示として周知ないし著名となったと主張するが、これらの題名は、著作物であるアニメーション映画自体を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体としての映画製作者等を識別する機能を有するものではないから、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当しない。したがって、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメの題名が一般に広く知られていたとしても、それによってなにびとかの商品ないし営業が周知ないし著名となったということはできない。
 この点について、原告は、素材が著作物であるからといって、当該著作物の題名が当該著作物を素材とする商品の「商品表示」にならないというのは誤りであり、著作権法の著作物と不正競争防止法の商品性の判断は必ずしも一致しないなどと主張するが、上記のとおり、映画の題名はあくまでも著作物たる映画を特定するものにすぎないものであり、原告の主張は採用できない。
(3) また、本件において被告らが製作ないし販売に関与する被告各映画は、劇場版映画かあるいは映画を収録したビデオ又はDVDソフトであり、それらに付された「マクロス」を含むタイトル(被告表示)はいずれも当該映画ないし当該媒体に収録された映画の題名として表示されているものであるから、被告表示が商品等表示として使用されているものではない。したがって、この点からも、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為をいう原告の主張は、理由がない。
(4) なお、原告は、キャラクター商品をはじめとする商品化事業を含めたアニメーション映画関連事業における商品ないしその営業主体を示すものとして、本件表示が周知ないし著名であるとも主張する。なるほど、商品化事業の展開により映画の題名と同一の名称を付した多数の商品が市場において販売されているような場合には、それによって、当該名称が特定の営業主体による商品化事業の対象とされている一連の商品ないしその出所としての営業主体を示す表示として需要者の間に周知ないし著名となり、その結果、当該名称が不正競争防止法上の「商品等表示」に該当することもあり得るものと解される。
 しかし、本件における前記事実関係に照らせば、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメに関連する商品化事業等においては、原告は、被告ビックウエスト、スタジオぬえ等と共同して事業を展開していたものであるから、仮に本件表示が当該商品化事業に係る商品ないしその出所としての営業主体を示す「商品等表示」に該当し得るとしても、原告のみならず、被告ビックウエスト、スタジオぬえ等をも含めた共同事業体を主体とする「商品等表示」というべきである。
 したがって、仮に本件表示が商品化事業等における商品等表示に該当するとしても、被告ビックウエストないし同被告から許諾を受けてアニメーションDVDソフトを販売している被告バンダイビジュアルとの関係において、原告がこれを自己の「商品等表示」と主張することはできないというべきである。
(5) 上記のとおり、本件においては、本件表示が原告の「商品等表示」に該当するということができないものであり、また、被告表示が「商品等表示」として使用されているということもできない。
3 結論
 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、本件における原告の請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり、判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 松岡千帆
 裁判官 大須賀寛之は、転任のため、署名押印できない。

裁判長裁判官 三村量一
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