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【事件名】幼児教育書シリーズの改訂版事件(2) 【年月日】平成16年3月31日 東京高裁 平成16年(ネ)第39号 著作権確認等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成14年(ワ)第23214号) (口頭弁論終結日 平成16年2月18日) 判決 控訴人 株式会社スタジオビツク(以下「控訴人会社」という。) 控訴人 A(以下「控訴人」という。) 控訴人ら訴訟代理人弁護士 村松靖夫 被控訴人 株式会社学習研究社 同訴訟代理人弁護士 河合英男 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら (1) 原判決を取り消す。 (2) 控訴人会社が、別紙書籍目録1、2、9及び10記載の書籍につきいずれも4分の1の割合による著作権を、同目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。 (3) 控訴人が、別紙書籍目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。 (4) 被控訴人は、別紙書籍目録1ないし10記載の書籍を発行及び頒布してはならない。 (5) 被控訴人は、前項記載の書籍を廃棄せよ。 (6) 被控訴人は、控訴人会社に対し、142万8000円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を、控訴人に対し、102万円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (7) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 (8) 第(6)項につき、仮執行宣言 2 被控訴人 主文と同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 被控訴人は、別紙書籍一覧表「多湖輝の頭脳開発シリーズ(当初シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「当初シリーズ」という。)、同表「多湖輝の頭脳開発シリーズ(新シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「新シリーズ」という。)及び同表「多湖輝の新頭脳開発シリーズ(本件シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「本件シリーズ」という。)を出版した。 控訴人らは、(@)本件シリーズのうち、別紙書籍目録1ないし10記載の書籍(以下「本件書籍1」等といい、まとめて「本件各書籍」という。)及び本件各書籍に対応する新シリーズ中の各書籍(以下、まとめて「新シリーズ対応書籍」という。)について、控訴人らが前記第1、1、(2)(3)記載のとおりの割合により著作権を共有するところ、被控訴人による本件各書籍の出版は、本件各書籍についての著作権(複製権)又は新シリーズ対応書籍についての著作権(翻案権)を侵害する旨、また、(A)当初シリーズ及び新シリーズの改訂に際しては、控訴人らの許諾が必要であるにもかかわらず、被控訴人が控訴人らに無断でこれらを改訂して本件各書籍を出版した行為は、不法行為に当たる旨主張して、被控訴人に対し、@本件各書籍についての共有著作権の確認、A著作権(本件各書籍についての複製権又は新シリーズ対応書籍についての翻案権)に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止め並びに廃棄、B上記(@)又は(A)の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金(控訴人会社につき142万8000円、控訴人につき102万円)及びこれに対する不法行為の後である平成14年11月1日(本件訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 また、控訴人は、被控訴人に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料を請求した。 原判決は、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却したのに対し、控訴人らが、その変更を求めて本件控訴を提起した(なお、当審において、控訴人の新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」についての著作権使用料請求部分について、当事者間に和解が成立した。)。 2 争いのない事実等並びに本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における追加的な主張の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1、3の(1)ないし(4)及び「第3 争点に関する当事者の主張」の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。 (ただし、原判決2頁14行目の「表現した。」を「表現した(但し、控訴人らが当初シリーズの共同著作者であるか否かは争いがある。)。」と、同26行目の「原告ら」を「控訴人会社」と、同3頁2行目の「他方、本件シリーズのうち」を「他方、被控訴人は、控訴人らとの間で、本件シリーズのうち」と、同16行目冒頭から末尾までを「(2) 控訴人らは、新シリーズ対応書籍の翻案権を有するか。また、本件各書籍は、新シリーズ対応書籍を翻案したものか。(翻案権侵害の成否)」と、同17行目冒頭から末尾までを「(3) 被控訴人が本件各書籍を出版したことは、(著作権侵害とは別個に)不法行為を構成するか。」と、同6頁20行目の「平成13年」を「平成12年」と、同7頁12行目の「本件書籍1、2、9及び10」を「本件書籍1、2、9及び10(新シリーズ対応書籍中で控訴人が絵を描いていないものに対応する。)」と、同13行目から14行目にかけての「本件書籍3ないし8」を「本件書籍3ないし8(新シリーズ対応書籍中で控訴人が絵を描いたものに対応する。)」と、同26行目から同8頁2行目までを「したがって、仮に、本件シリーズの著作者に控訴人らが含まれないとしても、被控訴人は、控訴人らに対し、本件各書籍について著作権を一部譲渡する旨の黙示の意思表示をし、前記(2)記載のとおりの持分の共有著作権を譲渡したものである。」とそれぞれ改め、同10行目から11行目にかけての「それが重要なのは幼児向けの教育教材に限ったことではなく、」を削除し、同9頁2行目から6行目にかけての「同Aについては、新シリーズを材料として使用する権利を得たものであるが、実際には使用しなかった。同Bについては、ノウハウや、本件シリーズの著作権のことは、話題にすらならなかったものであり、本件シリーズに対し、原告らの著作権を認めたものではない。」を「同Aについては、新シリーズを材料として使用する権利を得たものであるが、実際には使用しなかったものであり、ノウハウについては話題にもならなかった。同Bについては、本件シリーズの著作権のことは、話題にもならなかった。」と、同25行目の「当初シリーズ及び新シリーズは、」を「前記1〔控訴人らの主張〕(2)ないし(4)記載のとおり、控訴人らは、当初シリーズ及び新シリーズの共有著作権者であるところ、当初シリーズ及び新シリーズは、」と、同10頁18行目の「次の」を「次に」と、同11頁24行目の「新シリーズと本件シリーズを比較すると、」を「前記1〔被控訴人の主張〕(1)イ記載のとおり、そもそも、控訴人らは、新シリーズの共有著作権者ではないところ、新シリーズと本件シリーズを比較すると、」と、同13頁4行目から5行目にかけての「これらの事情から、本件各書籍がこれに対応する新シリーズの各書籍の翻案であるということはできない。」を「したがって、控訴人らが、本件シリーズが新シリーズの翻案であることを裏付ける事情として挙げる点は、いずれも理由がない。」と、同20行目の「不法行為に該当する。」を「著作権侵害とは別個に、不法行為に該当する。」とそれぞれ改める。) 3 当審における控訴人らの追加的な主張の要点(争点(3)(不法行為の成否)について) (1) 控訴人らと被控訴人との間には、新シリーズの改訂版である本件各書籍の発行について、控訴人らの許諾を必要とする旨の合意が成立したから、本件各書籍を控訴人らの許諾なしに発行することは、不法行為法上の違法性を有する。上記合意の存在は、@被控訴人は、本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」の制作発行に当たり、控訴人会社と出版契約を締結して、その許諾を得ていること、A被控訴人は、本件シリーズ中の本件書籍1及び2の制作発行についても、当初は控訴人会社の使用許諾を求めてきたこと、B上記@の出版契約書及びその交渉過程で提示された契約書案は、いずれも本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」以外の書籍にもそのまま使用できる体裁になっていること等から明らかである。 なお、本件各書籍を含む本件シリーズが新シリーズの改訂版に当たることは、本件シリーズの名称が「多湖輝の新頭脳開発シリーズ」というものであり、当初シリーズ及び新シリーズの名称に「新」を付加したのみであること、また、本件シリーズの書籍の裏表紙の一覧表には、本件シリーズと新シリーズの書籍が混在して記載されていることからも明らかである。 (2) また、控訴人らが、「多湖輝の頭脳開発シリーズ」について、原判決第3の3〔控訴人らの主張〕(1)記載のとおりの法的保護を受けるべき財産的利益を有している以上、新シリーズの改訂版である本件各書籍を控訴人らの許諾なしに発行することは、上記利益を侵害するものとして、不法行為法上の違法性を有する。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(共有著作権の有無)について (1) 共同著作に基づく共有著作権について 著作権の原始的な帰属主体は著作者である(著作権法17条)ところ、著作者とは、著作物を創作する者をいい(同法2条1項2号)、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(同項1号)。しかるに、控訴人らは、いずれも本件各書籍の制作自体に関与していないことを自認しているから、控訴人らが、本件各書籍の著作者であるということはできず、控訴人らが本件各書籍の著作権を原始的に取得することはあり得ないというべきである。 これに対し、控訴人らは、「本件各書籍には、控訴人らが当初シリーズ及び新シリーズについて案出した、原判決第3の1〔控訴人らの主張〕(1)アの@ないしD記載のノウハウが用いられているから、控訴人らも本件各書籍の共同著作者として共有著作権を有する。」旨主張する。しかしながら、控訴人ら主張のノウハウは、著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということはできず、著作権法において保護されるものではない。また、本件各書籍が新シリーズを翻案したものでないことは、後記2認定のとおりであるから、控訴人らが、本件各書籍について二次的著作物として著作権を有するに至るものということもできない。したがって、控訴人らの上記主張は理由がない。 (2) 合意に基づく共有著作権について 控訴人らは、「控訴人らと被控訴人は、平成11年11月、本件シリーズについて控訴人らが著作権を有することを合意したから、同合意に基づき、控訴人らは、本件各書籍の共有著作権を原始的に有する。」旨主張する。 しかしながら、全証拠を精査しても、上記合意の成立を認めるに足りる的確な証拠はない。また、著作権の原始的な帰属主体は、上記(1)のとおり、著作者である(著作権法17条)から、客観的に著作者としての要件を満たさない者について、著作権が原始的に帰属することはあり得ず、仮に、当事者間において、著作者でない者につき著作権が原始的に帰属する旨の合意が成立したとしても、そのような合意の効力を認めることはできないと解さざるを得ない。したがって、控訴人らの上記主張も理由がない。 (3) 著作権の一部譲渡について 控訴人らは、予備的に、「被控訴人は、控訴人らに対し、黙示の意思表示により、本件各書籍の著作権を一部譲渡した。」旨主張し、その根拠として、被控訴人が控訴人会社との間において、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わしたことを挙げる。 ア 証拠(甲35ないし44、甲46ないし49、甲50の1、2、甲51、甲177、甲179ないし182)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 被控訴人は、平成11年5月17日、控訴人会社に対し、新シリーズ中の「新ひらがなおけいこ」(2歳ないし5歳)及び「新かずおけいこ」(2歳ないし5歳)を基にした新書籍を出版するための「使用許諾契約書(案)」と題する契約書案を提示したところ、その案文には、上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」のうち控訴人会社が制作編集した部分等を、被控訴人が発行する書籍に複製改変して使用することができ、かつ、上記部分を使用した書籍を自由に改変することができる旨の条項等があった。これに対し、控訴人会社は、同年6月1日ころ、被控訴人に対し、上記契約書案は、上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」が控訴人会社らが創作した著作物であることを明記しないなど、現行の出版契約書に比べ、著作権及び著作者人格権を弱体化しているので、その契約書名を含めてこれには同意することができず、現行の出版契約書により契約を継続することが望ましい旨返答した。 (イ) 被控訴人は、同年7月1日ころ、再度控訴人会社に対し、被控訴人が発行する書籍に上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」のうち控訴人会社が制作編集した部分を使用(改変の上使用することを含む。)することができることなどを内容とする「著作権使用契約書(案)」と題する契約書案を提示した。これに対し、控訴人会社は、同年8月9日ころ、被控訴人に対し、上記契約書案も、前記「使用許諾契約書(案)」と題する契約書案と同様に、現行の出版契約書で認められている著作権及び著作者人格権の保護の規定が明確ではないことなどの観点から、納得できる内容ではないとした上、使用を許諾する対象を「控訴人会社が企画制作し、かつ編集表現した著作物」とするなどの具体的な修正案を提示した。 (ウ) そこで、被控訴人は、同年8月25日ころ及び同年9月21日ころ、控訴人会社に対し、同社の上記修正内容をほぼ全面的に採り入れた内容の「出版契約書」と題する契約書案を提示したことから、当事者間に合意が成立した結果、控訴人会社と被控訴人は、同年11月15日、本件シリーズのうち「ひらがな」(2歳ないし6歳)及び「かず」(2歳ないし6歳)について、上記契約書案と同一内容の「出版契約書」を取り交わした。同契約書においては、控訴人会社が本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」についての共有著作権者であることが明記されると共に、「本契約において原本とは、控訴人会社が企画制作し、かつ編集・表現した著作物で被控訴人が発行している「多湖輝の頭脳開発シリーズ「○歳新ひらがなおけいこ」(又は「○歳新かずおけいこ」)」をいう。」(2条)、「被控訴人は、被控訴人が発行する「多湖輝の新頭脳開発シリーズ「○歳ひらがな」(又は「○歳かず」)」に原本の全部又は一部を使用(改変の上使用することを含む。)することができる。…」(3条)等の規定がある。 (エ) その後、被控訴人は、平成12年9月ころ、控訴人会社に対し、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の了解の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業に着手した上、被控訴人は、同年11月20日ころには、控訴人会社に対し、「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍についての校正紙を送付し、控訴人会社は、これを校正して被控訴人に送付し、また、「入学準備 新かんじ」を基にした新書籍についても同様に校正が行われることになっていた。しかし、控訴人会社と被控訴人との間にトラブルが発生したため、被控訴人は、平成13年2月、控訴人会社に対し、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍を出版することの使用許諾の申込みを撤回する旨通知した。 イ 上記認定事実によれば、控訴人らが指摘するとおり、被控訴人は控訴人会社との間において、平成11年11月15日、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わし、その際、控訴人会社が上記各書籍についての著作権者であることを認めていたものである。しかしながら、本件各書籍と本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」とは、あくまでも別個の書籍であるから、被控訴人が、上記「ひらがな」及び「かず」について控訴人会社が著作権者であることを認めているからといって、本件各書籍について著作権の一部譲渡があったものということはできない。 ウ なお、上記認定事実によれば、被控訴人は控訴人会社に対し、平成12年9月ころ、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の承諾の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業を開始していたことが認められる。しかしながら、被控訴人は、当初は控訴人会社に上記使用許諾を求めたものの、その後、上記許諾申込みを撤回する旨通知しており、また、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」に対応するものと認められる本件シリーズ中の本件書籍1及び2は、後記2認定のとおり、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」の翻案には当たらないものであるから、これらの事情によれば、被控訴人が、本件書籍1及び2について控訴人会社が著作権者であることを認めているということはできない。 エ 他に著作権譲渡の黙示の意思表示があったことをうかがわせる事実はないから、結局、被控訴人が、控訴人らに対し、本件各書籍の著作権を一部譲渡したとの事実を認めることはできない。 (4) 以上のとおり、控訴人らが本件各書籍について共有著作権を有するということはできない。 よって、本件各書籍についての共有著作権の確認請求、本件各書籍についての複製権に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止請求等並びに上記複製権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。 2 争点(2)(翻案権侵害の成否)について (1) 翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実、事件若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 (2) 控訴人らが新シリーズについての共有著作権を有するか否かについてはそもそも争いがあるが、この点はさておき、まず、本件各書籍と新シリーズ対応書籍との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。 控訴人らは、本件各書籍と新シリーズ対応書籍が、各分野ごとに年齢別に作成された独創的なプログラムに則った構成において類似性を有する旨主張するところ、個々の書籍についての判断は、以下のとおりである。 ア 本件書籍1について 本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)ア記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、シールを用いて作業する点はアイデアにすぎず、表現とはいえない。また、漢字の読み書きの学習方法や、その学習に先立ってまず漢字に親しみを持たせるという点は、漢字の学習を目的とする幼児用教育教材に関する思想又はアイデアというべきものであって、表現には当たらない。なお、本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」を比較すると、「木」、「山」及び「川」の字を学習する頁、身体の部分、自然及び学校に関連する漢字を学習する頁並びにカレンダーの頁など、対応する頁における絵の具体的表現そのものは、大きく異なっており、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(甲55ないし68、乙1の1ないし8、検甲1、13)。 イ 本件書籍2について 本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)イ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、時計の仕組み及び数と時計の関係についての学習方法や時計について理解させるための設問をどのような順序で設けるかという点は、数や時計の学習を目的とする幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。なお、本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」を比較すると、対応する頁における時計の絵やイラストなどの具体的表現そのものは、大きく異なっており、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(甲69ないし102、乙2の1ないし21、検甲2、14)。 ウ 本件書籍3ないし7について 本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)ウ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、迷路遊びによって、鉛筆の使い方を身につけたり、目と手の協応作業の訓練をし、洞察力、集中力を養うという点は、本件書籍3ないし7を構成する目的そのものであり、幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。なお、本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)を比較すると、類似する絵は存在せず、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(検甲3ないし7、15ないし19)。 エ 本件書籍8ないし10について 本件書籍8ないし10と新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)エ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、各年齢ごとにどのようなはさみの使い方等を訓練させるかという点は、幼児用教育教材に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。 また、控訴人らは、本件書籍8ないし10については、さらに別紙きりえこうさく対照表「控訴人らの主張」欄記載のとおり主張する。個々の箇所についての判断は、同表「当裁判所の判断」欄記載のとおりであり、いずれの箇所についても、本件書籍8ないし10に接する者が新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)等の書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。すなわち、控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアにすぎず、表現それ自体とはいえないから、これらの点が類似していても、翻案とはいえない。また、控訴人らの指摘する箇所のほとんどは、絵の素材が異なるため具体的表現も全く異なっている。さらに、絵の素材が同一のものについても、素材自体は表現とはいえず、また、その具体的表現は異なっている。さらに、名称や文章の類似をいう点については、同じことがらを説明するためのありふれた短い表現であって、表現上の創作性がない。加えて、本件書籍8ないし10は、色彩も鮮やかで裏のページにも絵や模様があるなど、新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)等とは絵の色彩や配置等が異なる(甲103ないし163、乙3ないし5(枝番号を含む。)、検甲8ないし10、20ないし22、29、30)。 (3) 以上のとおり、控訴人らが主張する本件各書籍と新シリーズ対応書籍との類似点は、思想、アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分における類似をいうものにすぎないから、仮に、これらの点が類似していても、翻案には当たらない。そして、本件各書籍(検甲1ないし10)の表現と新シリーズ対応書籍(検甲13ないし22)の表現は、表現上の本質的特徴の同一性を有するとはいえず、本件各書籍に接する者が新シリーズ対応書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる箇所は見当たらない。 なお、本件各書籍と新シリーズ対応書籍それぞれの表紙裏に記載されている「この本のねらいと構成」(甲164ないし175、検甲1ないし10、13ないし22)は、まさに書籍として表現するにあたっての思想又はアイデアを記したものにすぎないから、仮に、この内容が類似していても、翻案には当たらない。また、年齢別、分野別としたこと、1枚ずつ外して使えるものとしたこと、シールを利用したこと及びボードをつけたこと等控訴人ら主張のノウハウは、本件シリーズや新シリーズを制作するにあたってのアイデアにすぎず、表現それ自体ではないから、この点が類似していても、翻案には当たらない。 (4) 控訴人らは、本件シリーズと新シリーズの名称が類似していること、本件シリーズの発行と同時に新シリーズの発行が停止されたこと、本件シリーズに掲載された書籍一覧表には、新シリーズの書籍が混在して記載されていること及び控訴人会社と被控訴人との交渉経過等を翻案の根拠として主張する。しかしながら、翻案に該当するためには、本件各書籍と新シリーズ対応書籍における表現上の本質的な特徴の同一性が存在することが必要であって、表現上の本質的な特徴の同一性に関係しない、シリーズの名称や当事者間の交渉経過等の上記事情は、翻案に当たるか否かの判断に何ら影響を与えないものであるから、控訴人らの上記主張は理由がない。 (5) したがって、控訴人らが新シリーズについて共有著作権(翻案権)を有するか否かにかかわらず、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の翻案に当たるということはできない。 よって、新シリーズ対応書籍の翻案権に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止請求等並びに上記翻案権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。 (なお、別紙「きりえこうさく対照表」記載の当初シリーズ中の「4歳 切り絵あそび」「5歳 切り絵あそび」についても、新シリーズ対応書籍についての上記判断と同様である。) 3 争点(3)(不法行為の成否)について (1) 控訴人らは、「控訴人らと被控訴人との間には、新シリーズの改訂版である本件各書籍の発行については控訴人らの許諾を必要とする旨の合意が成立したから、被控訴人が本件各書籍を控訴人らの許諾なく発行したことは、不法行為を構成する。」旨主張し、上記合意成立の根拠として、本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」の制作発行について、控訴人会社と被控訴人との間で出版契約が締結されていること等、両者間の交渉経過を挙げる。 前記1(3)ア認定の事実によれば、控訴人ら指摘のとおり、@被控訴人は、平成11年11月15日、控訴人会社との間において、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わしたこと、A被控訴人は、平成12年9月ころ、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の了解の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業を開始したことが認められる。しかしながら、前記1(3)イ、ウ説示のとおり、@については、被控訴人が、上記「ひらがな」及び「かず」の制作発行について、控訴人会社の使用許諾を求めて出版契約書を取り交わしたからといって、これとは別個の書籍である本件各書籍の発行についてまで控訴人らの使用許諾を必要とする旨の合意が成立したということはできないし、Aについても、前記1(3)ア及び2認定のとおり、被控訴人は、平成13年2月には、控訴人会社に対し、上記許諾申込みを撤回する旨通知したこと、また、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」に対応する本件シリーズ中の本件書籍1及び2は、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」の翻案には当たらないものであることが認められるから、これらの事情によれば、本件書籍1及び2の制作発行について控訴人会社の使用許諾が必要であるとの合意が成立したということはできず、まして、本件各書籍全体の制作発行について控訴人らの使用許諾が必要であるとの合意が成立したということはできない(なお、控訴人らは、上記合意成立の根拠として、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書が本件各書籍にもそのまま使用できる体裁であることも挙げるが、本件各書籍について出版契約書が作成されていない以上、出版契約書の体裁が他の書籍にも流用できるからといって、出版契約書が取り交わされた「ひらがな」及び「かず」の場合と本件各書籍の場合を同視できないのは当然である。)。 もっとも、新シリーズについて控訴人らと被控訴人との間で締結された出版契約書には、「本著作物の改訂版または増補版の出版及び電子出版利用については、甲乙別途協議により決定する。(9条)」(甲12、16、20ないし22、26ないし30、34)又は「本著作物の改訂増補についてその必要が生じたときは、甲乙協議する。(8条)」(甲13ないし15、17ないし19、23ないし25、31ないし33)との条項があるから、新シリーズの改訂版や増補版の発行に際しての協議義務が定められていることが認められる。しかしながら、前記2認定のとおり、本件各書籍に接する者が新シリーズ対応書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないため、本件各書籍は新シリーズ対応書籍を翻案したものとはいえないのであるから、そのような本件各書籍が新シリーズの改訂版や増補版に当たるということもできない。したがって、上記条項に基づき本件各書籍の発行に控訴人らの許諾が必要であるということもできない。 控訴人らは、新シリーズと本件シリーズの名称が類似していること、本件シリーズに掲載された書籍一覧表には、新シリーズの書籍が混在して記載されていることを挙げて、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の改訂版に当たる旨主張する。しかしながら、改訂、増補という語の語義に照らせば、既存の著作物の改訂版、増補版というためには、少なくとも既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要すると解すべきであるところ、控訴人ら主張のような事情は、本件各書籍や新シリーズ対応書籍の表現内容(表現上の本質的な特徴等)とは関係がないものであるから、そのような事情があるからといって、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の改訂版や増補版に当たるということはできない。 したがって、控訴人らの上記主張も理由がない。 (2) また、控訴人らは、「被控訴人が本件各書籍を控訴人らの許諾なく発行したことは、当初シリーズ及び新シリーズを通じての企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体という法的保護を受けるべき財産的価値を侵害するものとして、著作権侵害とは別個に、不法行為を構成する。」旨主張する。 しかしながら、本件において控訴人らの主張する「企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体」なる概念は、極めてあいまいなものであり、その内容が不明確であるといわざるを得ない。また、控訴人らの主張するノウハウ等は、当初シリーズ等に特有のものではなく、当初シリーズの刊行前から、被控訴人発行の他の書籍や公文数学研究センター発行の書籍にも既に使用されていたものである(乙7の1ないし3、乙8ないし10の各1、2、乙11、12の各1ないし5、乙13の1ないし7、弁論の全趣旨)から、民法上も保護に値する法律上の利益として控訴人らに帰属するものであるとはいえない。これらの事情に加えて、被控訴人による本件各書籍の発行が著作権侵害に該当しないものであることは、前記1、2認定のとおりであるところ、物の無体物としての面の利用に関しては、著作権法等の知的財産権関係の各法律が、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にすることにより、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにしており、そのような上記各法律の趣旨、目的も併せ考慮すれば、控訴人らの主張する「企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体」が、著作権法上保護されないものでありながら、なお不法行為法上保護に値する利益であるということは到底できない。 したがって、控訴人らの上記主張は理由がない。 (3) よって、控訴人らの不法行為を理由とする損害賠償請求は、理由がない。 4 結論 以上によれば、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官 北山元章 裁判官 清水節 裁判官 沖中康人 書籍目録 名称 多湖輝の新頭脳開発シリーズ 発行所 株式会社学習研究社 1 5〜6歳 かんじ 2 5〜6歳 とけい 3 2歳 めいろ 4 3歳 めいろ 5 4歳 めいろ 6 5歳 めいろ 7 6歳 めいろ 8 3歳 きりえこうさく 9 4歳 きりえこうさく 10 5歳 きりえこうさく 書籍一覧表
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