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【事件名】街宣活動名誉毀損事件(防府市長選) 【年月日】平成15年12月18日 山口地裁 平成14年(ワ)第286号 損害賠償等請求事件 (平成15年10月21日 口頭弁論終結) 判決 主文 1 被告らは原告に対し、各自、金220万円及びこれに対する平成14年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者が求めた裁判 1 請求の趣旨 (1) 被告らは原告に対し、各自、金627万5000円及びこれに対する平成14年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告らは、各自、別紙広告目録記載の新聞各紙にそれぞれ同目録記載の掲載条件で同目録記載の謝罪広告を各1回掲載せよ。 (3) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (4) 第(1)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 (3) 被告ら敗訴の場合には仮執行免脱宣言 第2 事案の概要 本件は、原告が被告らを相手方として、被告らは、原告が平成14年5月26日施行の山口県防府市長選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補した際、原告に対していわゆる街頭宣伝行為(以下「街宣行為」という。)を行い、その名誉を毀損したと主張し、民法709条及び719条に基づく損害賠償請求として、627万5000円及びこれに対する不法行為の日である平成14年5月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と謝罪広告の掲載を求めた事案である。 1 当事者間に争いがない事実 (1) 当事者 ア 原告は、平成10年6月21日に施行された山口県防府市長選挙で初当選して同市長に就任し、任期満了に伴い平成14年5月26日に施行された本件選挙で再当選し、現在防府市長の職にあるものである。 イ 被告Aは、兵庫県尼崎市に本部を置く政治結社民族闘士會総本部(以下「本件結社」という。)の代表者・会長である。被告Bは、本件結社の行動隊長である。 (2) 被告らによる街宣行為 被告らは、共同実行の意思をもって、同月18日午前10時30分ころから同日午後4時ころまでの間、2回にわたり、山口県防府市ab番c号所在の防府市役所及びその周辺において、3台の街頭宣伝車(以下「街宣車」という。)を連ね、街宣車に装備した拡声器を大音量で使用して、不特定多数の同所付近の住民や通行人に対し、「C市長は、市長になったとたんに、自分の息子を県議に出そうとしたり、自分の愛人を県議に当選させたり、私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた。」などと繰り返し宣伝した(以下「本件街宣行為」という。)。 (3) 刑事処分 被告らは、同年10月8日、本件街宣行為について公職選挙法違反、名誉毀損の罪名で山口簡易裁判所に起訴され、同日、同裁判所において、被告Aについては罰金40万円、被告Bについては罰金20万円の略式命令を受け、同略式命令は同月22日の経過によりいずれも確定した。 2 争点 (1) 本件街宣行為は、原告の名誉を毀損するものであるか(請求原因)。 (2) 本件街宣行為について、不法行為の成立を阻却する事由があるか(抗弁)。 ア 本件街宣行為は、専ら公益を図る目的によりなされたものか。 イ 本件街宣行為において摘示された事実は真実であるか。 ウ 被告らは、相当な根拠に基づき、上記事実が真実であると誤信したものであるか。 (3) 本件街宣行為について、どのような損害賠償をすべきか(請求原因)。 ア 本件街宣行為により原告に生じた損害の額はいくらか。 イ 本件街宣行為について、民法723条所定の名誉回復処分として謝罪広告をなすべき旨を命じる必要があるか。 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) 本件街宣行為において摘示された事実(以下「本件摘示事実」という。)は、いずれも街頭宣伝を聞く者にとって、あたかも原告が市長の権限を濫用することによって私腹を肥やすなど、市長の職責を担う者として適格を欠くかのごとく印象づけたものであって、原告の名誉を著しく毀損するものである。 (被告らの主張) 原告の上記主張は争う。 (2) 争点(2)アについて (被告らの主張) 被告Aは、防府市民有志より九州の知人を通じて、防府市長である原告の政治姿勢を批判する街宣行為をしてほしいとの依頼を受けたため、被告らは、この依頼の趣旨に共鳴して本件街宣行為を行った。本件街宣行為の目的は、防府市長という公職にある原告の政治姿勢を追及し、併せて一般市民に対し、原告の市長としての適格性についての情報提供を行うことにあったものであり、本件街宣行為は、政治的論評、政治的批判の範疇に属するものであって、専ら公益を図るためになされたものである。 (原告の主張) 被告らの上記主張は否認する。被告らは、専ら公益を図る目的ではなく、違法な街宣行為によって自己の名前を売り、対価を得るという私利私欲のために原告の名誉を毀損したものである。 (3) 争点(2)イについて (被告らの主張) 本件街宣行為において摘示された事実は真実であり、意見ないし論評にわたる部分は真実に基づくものであった。 特に、「私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた。」との事実は、防府市議会においても問題とされており、原告に対して長年にわたって献金を行っていた者が経営する防府市外の建設会社が防府市発注の公共工事に関して下請工事を受注していたことが判明している。防府市が発注する工事については原則として防府市内の業者が下請業者として選定されるべきものとされているのに、この防府市外の建設会社は特段の事情もないまま下請業者となっており、その経緯も極めて不透明であって、上記事実が真実であることについては十分な証拠がある。 (原告の主張) 被告らの上記主張はいずれも否認する。 ア 本件摘示事実中、「自分の息子を県議に出そうとした。」との部分については、従来山口県議会議員であった原告が防府市長選挙に当選したため、その後任に原告の息子を担ぎ出そうとする動きが原告の後援会の一部にあったことは事実である。しかし、原告が自らその動きを制したのであって、現実になされた行為は上記摘示事実と全く反対である。 イ 同事実中、「自分の愛人を県議に当選させた。」との部分は、防府市を含む選挙区から選出された女性の県議がD県議1人であり、D県議のことを指すと考えられるところ、原告とD県議は、山口県知事選で同じ候補を応援したり、原告の防府市長選挙をD県議に応援してもらったりした経緯から、D県議が山口県議会議員選挙に立候補した際に原告の後援会の一部がD県議を応援したことは事実である。しかし、夫のいるD県議と原告が愛人関係にあるなどということは一切ない。 ウ 同事実中、「私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた。」との部分は、過去に防府市が山口県豊浦郡d町所在の芝田建設株式会社(以下「芝田建設」という。)を指定したことに関して、防府市議会において原告と同社との関係について質問がなされたことがあり、同社のことを指すと考えられるところ、防府市が発注した公共下水道工事の下請業者として同社が工事を請け負ったことは事実である。しかし、市長に特定の業者を使うことを元請業者に指示する権限はなく、そのような事実もない。また、同社が下請工事を請け負ったのは、同社が当該工事に不可欠な特殊工法に必要な機材と技術を有していたからである。 (4) 争点(2)ウについて (被告らの主張) 被告らは、しかるべき立場にある防府市民有志からの情報提供を受けたものである。また、「私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた」との事実については、前記のとおり防府市議会において質問がなされ、当該事実の大半が真実であることが明らかになっていたものであるから、被告らは、相当な根拠に基づき、本件街宣行為において摘示された前記の各事実が真実であると誤信したものである。 (原告の主張) 被告らの上記主張は否認する。 本件街宣行為において摘示された事実が真実でないことは、原告や関係者に確認すれば容易に判明するものであった。しかし、被告らは、第三者からの依頼に基づき、事実関係の調査を全く行うことなく街宣行為に及んだものであって、被告らが摘示事実が真実であると誤信したことについて相当な理由があったと認める余地はない。 (5) 争点(3)アについて (原告の主張) 本件街宣行為により、原告には以下の損害が生じた。 ア 慰謝料 500万円 本件街宣行為は、原告が立候補を予定していた本件選挙の告示日の直前という時期を選んで行われたものであり、原告の正当な反論の機会が非常に限られるものであった。このため、原告は、本件街宣行為によって住民の間に原告について誤った評価がなされるのではないかと心を痛めた上、摘示された事実が真実でないことを後援者や住民に説明する必要が生ずるなど、その選挙運動に重大な支障が生じた。加えて、原告は、原告の長女が本件街宣行為を聞いて耳をふさいでいる姿を見て、家族までが街宣行為により不快な心境でいることを余儀なくされていることを知り、更に心を痛めたものであって、これらの精神的損害を慰謝するには500万円が相当である。 イ 弁護士費用 127万5000円 原告は、後記の名誉回復処分を含めて本件訴訟の提起を弁護士に委任せざるを得なかったので、これによって弁護士費用として127万5000円の損害を被った。 (被告らの主張) 原告の上記主張はいずれも争う。 (6) 争点(3)イについて (原告の主張) 以下の事情に照らせば、本件街宣行為について、民法723条所定の名誉回復処分として別紙広告目録記載のとおり謝罪広告を掲載させる必要があるというべきである。 ア 本件街宣行為は、政治的信条に基づくものではなく、単に経済的な利益を得るという私利私欲のためになされたものである。このことは、以下の事情から明らかである。 (ア) 被告らは、街宣行為の対象者の選定から、街宣行為の日時、内容の詳細に至るまで、本件街宣行為を依頼した者の指示どおり、その内容を全く確認することなく本件街宣行為に及んでいる。 (イ) 被告らは、上記依頼者から30万円の報酬を受領している。 (ウ) 被告らは、いずれも兵庫県に居住しており、本件街宣行為前には防府市長が誰であるかも知らず、被告Bにおいては防府市が何県にあるかさえ知らなかった。 イ 原告は、結果としては本件選挙に当選することができたものの、本件選挙の告示日直前に本件街宣行為がなされたことにより、その政治的生命を左右されかねない損害を被った。 本件街宣行為の影響が甚大であったことは、原告が初当選を果たしたときに比べ、小差の決着となったことからも推認される。即ち、原告が初当選した前回の選挙における原告の得票数が3万3711票であったのに対し、本件選挙における原告の得票数は2万4777票にとどまった。特に、本件選挙は原告と新人候補との2名による選挙であり、選挙前には原告の圧勝と予想されていたにもかかわらず、結果はわずか2500票余りという小差での決着となった。 ウ 被告らは、本件街宣行為について捜査段階から一貫して犯罪事実を認め、略式命令が確定したにもかかわらず、原告に対して謝罪せず、何ら名誉回復のための措置を講じようとしない。 エ 政治家に厳しい視線が向けられる昨今の社会情勢に照らせば、政治家に関する負の情報は過大に評価されがちである。また、不特定多数の者に対し、その意思にかかわらず宣伝を行うという街宣行為の特質にも照らせば、原告の名誉を回復するためには、多数人に了知され得る措置が採られる必要がある。 (被告らの主張) 原告の上記イの主張は知らない。その余の主張はいずれも争う。なお、被告らが受領した30万円は報酬ではなく実費である。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実 証拠(甲6ないし8、11、16、18ないし21、23ないし25、被告A、同B)によれば、争点に対する判断の前提となる事実として、以下の事実が認められる。 (1) 被告Aは、平成14年5月10日ころ、知人であるEから、防府市長選に現職の防府市長が出馬するので、本件選挙の告示日である同月19日までの間に、街宣車を3台くらい用いて同人に対する街宣行為をしてほしいと依頼され、これを承諾した。 (2) 被告Aは、同月11日、被告Bとともに防府警察署を訪れ、街宣行為の実施について許可申請をし、同月12日ころ、Eから原告が様々な不正を行った旨が記載されているファクシミリ文書を受領したが、同月13日、Eから街宣行為を中止してほしいとの連絡を受けた。 (3) ところが、被告Aは、同月14日ころ、Eから街宣行為の実施を再度依頼されたので、警察の許可が得られれば街宣行為を実施すると返答したところ、同月16日ころ、Eから上記許可が得られたと連絡を受けたので、街宣行為の実施を承諾した。 (4) Eは、同月14日ころ、本件街宣行為の報酬ないし実費として被告Aの銀行預金口座に30万円を振り込んだ。 (5) 被告Aは、本件街宣行為の依頼を受けた当時、防府市について特に知識があったわけではなく、だれが現職の防府市長であるかも知らなかったが、前記ファクシミリ文書の記載内容を少し手直ししただけで、これが真実であるかどうかの裏付けを全く行なわず、本件街宣行為に使用した。 (6) 被告Bは、本件街宣行為を依頼された当時、現職の防府市長がだれであるかはもちろん、防府市が何県にあるかも知らず、専ら被告Aの指示に従って本件街宣行為を行った。 2 争点(1)(名誉毀損の成否)について 前記のとおり、本件摘示事実は、原告が防府市長になった後、自分の息子を県議に出そうとしたり、自分の愛人を県議に当選させたり、私利私欲のためにその権力を使用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させたなどというものであり、これを聞いた者に対し、原告が防府市長としての権限を濫用して不正を行っており、市長の職責を担う者として適格を欠いていると印象づける内容であることが認められる。また、前記のとおり、被告らは、本件選挙の告示日の前日に街宣車3台を連ねて防府市役所及びその周辺を巡回し、不特定多数の防府市民に対して大音量で繰り返し上記事実を宣伝したものであって、以上のような街宣行為の態様にも照らせば、本件街宣行為により原告の社会的名誉は著しく毀損されたものと認められ、これは原告に対する不法行為を構成する。 3 争点(2)(不法行為の成立を阻却する事由の有無)について 民事上の不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、上記事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、上記行為には故意若しくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。 (1) 争点(2)イ(摘示事実の真実性)について 被告らは、本件街宣行為において摘示した事実はいずれも真実であり、意見ないし論評にわたる部分は真実に基づくものであったと主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。 この点について、被告らは、「私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた。」との事実が真実であることについては十分な証拠があると主張する。確かに、証拠(乙1)によれば、@防府市が発注する公共工事については原則として防府市内の業者が下請業者として選定されるべきものとされていること、A防府市外の業者である芝田建設が防府市が発注した公共工事に関して下請工事を受注していたこと、B芝田建設の代表取締役は原告の旧来の知人であり、芝田建設は原告に対して献金を行っていたものであること、C防府市議会議員の1人が以上の事実関係を問題とし、防府市議会において原告に対して質問をしたことが認められる。しかし、以上のような事実があるというだけでは、原告がことさら芝田建設の便宜を図り、同社を下請業者とするよう指示したなどと認めることはできないし、原告自身もこのような事実を否定しており(甲5、15、乙1)、被告らの上記主張は採用できない。 (2) 争点(2)ウ(誤信の相当性) 被告らは、いずれも本件摘示事実が真実であると誤信していたと主張し、これに副う供述をするが、その検察官に対する供述調書(甲6、8)においては、本件摘示事実の真偽は分からなかったと供述しており、そもそも本件摘示事実が真実であると誤信していたとの上記供述の信用性には疑問があるし、仮に同供述を信用することができるとしても、被告らが本件摘示事実が真実であると誤信したことについて、相当な根拠があったと認めるに足りる証拠はない。 この点について、被告らは、しかるべき立場にある防府市民有志からの情報提供を受けたものであるから、上記誤信には相当な根拠があると主張するが、この情報提供者がだれであるかは明らかでないし、前記のとおり、被告らは、確かな情報であるとのEの発言をそのまま採用し、上記事実について全く裏付けを取らずに本件街宣行為を行ったにすぎないのであるから、上記のような事情が存在することを理由として上記誤信について相当な根拠があったと認めることは到底できない。 また、被告らは、「私利私欲のためにその権力を利用して、天の声をもって下請業者を指定して受注させた」との事実が防府市議会において問題とされていることなどの事情が存在するから、上記誤信には相当な根拠があると主張する。確かに、芝田建設の公共工事受注について防府市議会議員が原告に対して質問をしたなどという事実があったことは前記のとおりであるが、このような事実が存在するというだけでは上記誤信に相当な根拠があるというには不十分である。また、前記のとおり、被告らは、現職の防府市長がだれであるかも知らないで本件街宣行為の実施を承諾したものであり、そもそも、本件街宣行為を行った際、芝田建設の公共工事受注について上記のような質問がなされるなどしていたことを知らなかったものと認められるから、上記のような事情が存在することを理由として上記誤信について相当な根拠があったと認める余地はない。 (3) 小括 したがって、争点(2)ア(公益目的の有無)について判断するまでもなく、本件街宣行為について不法行為の成立を阻却する事由があるものとは認められない。 4 争点(3)(損害)について (1) 争点(3)ア(損害の額)について 前記のとおり、本件街宣行為において摘示された事実は、現職の防府市長であり、本件選挙に立候補を予定していた原告が、その市長としての権限を濫用して不正を行っているという重大なものであった。また、本件街宣行為は、本件選挙の告示日の前日に街宣車3台を連ねて防府市役所及びその周辺を巡回し、不特定多数の防府市民に対して大音量で繰り返し上記事実を宣伝するというものであり、政治家に厳しい視線が向けられる昨今の社会情勢にも照らせば、被告らは、本件街宣行為によって原告の社会的名誉を著しく毀損したものと認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、被告らは、原告に対して謝罪せず、何ら名誉回復のための措置を講じていないものと認められるのであって、原告が結果的には本件選挙に当選したものであること、被告らが本件街宣行為を実施したことについて既に処罰を受けていることなどの事情も総合考慮すれば、原告が本件街宣行為により被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は200万円と認めるのが相当である。 また、弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが原告に対して謝罪せず、何ら名誉回復のための措置を講じようとしなかったため、本件訴訟の提起を弁護士に委任せざるを得なかったことが認められ、以上の事実を総合考慮すれば、弁護士費用20万円を本件街宣行為と因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (2) 争点(3)イ(謝罪広告の当否)について 前記の本件街宣行為の態様等に照らしてみても、本件街宣行為により毀損された原告らの名誉を回復するために、民法723条所定の名誉回復処分として、被告らに対して謝罪広告の掲載を命じ、本件街宣行為による名誉毀損について被告らが原告に対して謝罪した事実を公表する必要があると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 第4 結論 よって、原告の本訴請求中、220万円及びこれに対する平成14年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分は理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。なお、被告らは、上記仮執行の免脱を求めているが、これを認めることは相当でない。 山口地方裁判所第1部 裁判長裁判官 辻川昭 裁判官 杉山順一 裁判官 栄岳夫 別紙 広告目録 第1 掲載新聞 朝日新聞、中国新聞、毎日新聞、山口新聞及び読売新聞 第2 掲載条件 1 掲載場所 朝日新聞山口版 中国新聞ワイド山口版 毎日新聞山口版 山口新聞県央版 読売新聞山口版 各広告欄2段抜き 2 掲載文字 見出し字、原告名及び被告名 2倍活字 その他 1倍活字 字体 明朝体 第3 掲載内容 謝罪広告 私どもが、平成14年5月18日、防府市役所周辺において、山口県防府市長C氏に関して行った街頭宣伝活動において摘示した事実は、いずれも内容虚偽・事実無根のものでありました。 街頭宣伝活動により、同市長をはじめ、多くの方の名誉を傷つけ、また甚大な御迷惑をおかけしましたことを深く反省するとともに、ここに謹んで謝罪いたします。 平成 年 月 日 兵庫県尼崎市ef丁目g番h号 政治結社民族闘士會会長 A 兵庫県尼崎市ij丁目k番l号 同行動隊長 B 防府市長 C殿 |
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