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【事件名】幼児教育書シリーズの改訂版事件
【年月日】平成15年11月28日
 東京地裁 平成14年(ワ)第23214号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成15年9月30日)

判決
原告 株式会社スタジオビツク
原告 A 
上記両名訴訟代理人弁護士 村松靖夫
被告 株式会社学習研究社
同訴訟代理人弁護士 河合英男


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原告株式会社スタジオビツクが、別紙書籍目録1、2、9及び10記載の書籍につきいずれも4分の1の割合による著作権を、同目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
2 原告Aが、別紙書籍目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
3 被告は、別紙書籍目録1ないし10記載の書籍を発行及び頒布してはならない。
4 被告は、前項記載の書籍を廃棄せよ。
5 被告は、原告株式会社スタジオビツクに対し、金142万8000円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を、原告Aに対し、金223万0400円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告株式会社スタジオビツク(以下「原告会社」という。)は、本の企画及び出版等を業とする株式会社であり、原告Aは、イラストレーターである。被告は、出版社である。
(2) 原告会社代表者、原告A、B、C及び被告担当者Dらは、昭和56年ころから、別紙書籍一覧表「Bの頭脳開発シリーズ」(当初シリーズ)欄記載の各書籍(以下、併せて「当初シリーズ」という。)を企画し、制作し、編集し、表現した。被告は、昭和57年ころから随時、当初シリーズを出版した。被告は、当初シリーズの出版に際し、原告らとの間で、それぞれ出版契約書を用いて契約を締結した(甲1ないし11、検甲23ないし30、弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、平成6年から8年ころにかけて、別紙書籍一覧表「Bの頭脳開発シリーズ」(新シリーズ)欄記載の各書籍(以下、併せて「新シリーズ」という。)を出版した。被告は、原告会社との間で新シリーズの書籍全部について、原告Aとの間で同原告が絵を描いた「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)について、それぞれ出版契約書を用いて契約を締結した(甲12ないし34、検甲13ないし22)。
(4) 被告は、平成11年から、別紙書籍一覧表「Bの新頭脳開発シリーズ」(本件シリーズ)欄記載の各書籍(以下、併せて「本件シリーズ」という。)を出版している。この際、被告は、原告らとの間で、「ひらがな」(2歳ないし6歳)及び「かず」(2歳ないし6歳)については、出版契約書を取り交わした(甲35ないし44、検甲11、12)。他方、本件シリーズのうち平成13年以降に出版した別紙書籍目録1ないし10記載の書籍(以下、それぞれを「本件書籍1」などといい、併せて「本件各書籍」という。)については、出版契約書を取り交わしていない。
2 本件は、原告らが、本件各書籍について原告らが前記第1の1、2記載のとおりの割合により著作権を共有し、本件各書籍の出版が本件各書籍の著作権(複製権)若しくはこれに対応する新シリーズの各書籍の著作権(翻案権)を侵害し又は不法行為に当たるなどと主張して、被告に対し、@ 本件各書籍の共有著作権の確認、A 著作権(本件各書籍の複製権又はこれに対応する新シリーズの各書籍の翻案権)に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止め並びに廃棄、B 不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに、原告Aが、被告に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料を請求する事案である。
3 争点
(1) 原告らは、本件各書籍の共有著作権を有するか。
(2) 本件各書籍は、これに対応する新シリーズの各書籍を翻案したものか。
(3) 被告が本件各書籍を出版したことは、不法行為を構成するか。
(4) 損害の発生の有無及びその額
(5) 原告Aは、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料を請求することができるか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(共有著作権の有無)について
〔原告らの主張〕 
(1) 本件に至る経緯
ア 当初シリーズ制作の経緯
 Bは、昭和56年ころ、「頭のよい子は親が創る」という名称の書籍を被告から出版することになったが、その後半部に付するドリルの制作に原告会社代表者や原告Aが関わっていた。このドリルの制作中、原告ら及びBの間で、年齢別の幼児教育用ドリルを作ろうという企画が持ち上がり、幼児教育の専門家であるCを交えて見本を制作し、当時の被告担当者Dを通じて、その企画案を被告に提出した。被告がその企画を承認したので、原告らは、幼児の能力を開発する指導方法、発達の段階に応じた配置、紙面の具体的構成、表現する絵や設問等を全員で協議し、その上で最終的な文章や絵を決定し、当初シリーズを制作していった。
 当初シリーズ制作において、原告ら及びBらは協議を重ね、シリーズ全体を通じて幼児の学習意欲を高め効果的な習得をもたらすアイデアを具体化した、独自性ある有形無形のノウハウを案出した。上記ノウハウは、具体的には、次のようなものである。
@ 単独の年齢別としたこと
A 「かず」「ひらがな」「めいろ」等、分野別としたこと
B 1枚ずつ外して使えるものとしたこと
C 学習意欲を高めるために「おけいこシール」「おべんきょうシール」「がんばりシール」等のシールを利用したこと
D 描いたものを消すことができ、繰返し練習することができるボードをつけたこと
 さらに、各書籍について全員が協議し、a「かず」「ひらがな」など各分野別及び年齢別の発達段階に応じ、ステップを踏んだドリルやワークを設定する、b各ページ毎にふさわしい構成を考え、設問の表現及びその位置、絵の位置を決める、c絵についてはいかなる絵を描くか、色をどうするか等を決める、d主として原告Aが下絵を描く、という段取りで実際の制作行為を行った。
 幼児教育用テキストは、幼児の学習の意欲を生ぜしめ、その能力を開発するという目的の著作物であり、結果的に絵あるいは文章という形で固定されている表現と同様又はそれ以上に、幼児の学習意欲を引き出し、効果的に幼児の能力を開発するノウハウが重要な価値を持つものである。したがって、原告ら及びBらは、当初シリーズの各書籍の最も本質的な部分を作り出した者であり、その著作には同人らの行為が分かち難く寄与しているから、共同著作者であり、各人が著作権者として被告と出版契約を締結したものである。
イ 新シリーズ制作の経緯
 平成6年から平成8年ころに制作された新シリーズにおいても、原告ら及びBらは、当初シリーズと同様の作業に携わり、前記ア@ないしDのノウハウを用いつつ、内容を改めていった。したがって、原告らは、新シリーズの共同著作者であり、著作権者として、原告会社は新シリーズの書籍全部について、原告Aはそのうち「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)について、被告とそれぞれ出版契約を締結したものである。
 原告Aは、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」について、他の著作権者らと同様の作業を行った上、自ら絵も描いているが、出版契約は締結しなかった。
ウ 本件シリーズ制作の経緯
 被告は、平成11年5月ころから、新シリーズの更なる改訂を企図し、出版契約書の約定に基づいて、原告会社に対して協議を求めてきた。そこで、原告会社は、共有著作権者らの代表として被告と協議し、同年11月に概ね以下のような合意をした。
@ 本件シリーズについては、経費削減のため被告会社自ら制作を行う。
A 原告らは被告に対し新シリーズの書籍の表現、ノウハウをそのまま又は改変して使用することを許諾する。
B 従前の書籍を改訂するものであるから、原告ら新シリーズの共同著作者は当然本件シリーズの著作権を有する。
 平成11年11月15日、原告会社と被告は、新シリーズの「新ひらがなおけいこ」(2歳ないし5歳)に基づいて改訂した本件シリーズの「ひらがな」(2歳ないし6歳)を、新シリーズの「新かずおけいこ」(2歳ないし5歳)に基づいて改訂した本件シリーズの「かず」(2歳ないし6歳)を出版することとし、原告会社は、著作権者として被告との間で出版契約を締結した。
 被告は、平成12年9月ころ、新シリーズ「入学準備 新かんじ」に基づいて本件書籍1を、新シリーズ「入学準備 新かずととけい」に基づいて本件書籍2を、それぞれ制作することとなり、原告会社に対して改訂に着手したい旨通知してきた。原告会社は直ちにこれを了承し、校正刷りができた際にはそれに加筆するので送付をするよう求めた。被告は、同年11月20日ころ、原告会社に対し校正刷を送付し、原告会社はこれに加筆して被告に返送した。
 ところが、その後、被告が、ディズニーのキャラクターを用いて、新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)及び「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)と競合する「頭脳開発ドリル ディズニーシリーズ」の「めいろ」(2〜3歳、4〜5歳、6〜7歳)及び「頭脳開発シリーズ」の「入園準備 はさみ」を出版していることが判明した。そこで、原告会社は、平成13年11月21日、被告に対して異議を述べ、被告は、これに反論すると同時に、本件書籍1及び2の出版についての契約申込みを撤回した。
 被告は、B及びCの経営する有限会社日本科学造形教育研究所とのみ出版契約を締結した上で、平成13年2月27日に本件書籍1及び2を出版し、その後も原告らに無断で、新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)を改訂して本件書籍3ないし7を、新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)を改訂して本件書籍8ないし10を出版している。
(2) 共同著作に基づく共有著作権
 以上のとおり、原告らは、当初シリーズ及び新シリーズの共有著作権者であり、当初の企画から紙面構成、表現、編集から制作まで一貫してこのシリーズの書籍の創造過程に携わってきた。原告らは、本件各書籍の制作自体には関与しなかったが、本件各書籍は、これに対応する新シリーズの各書籍の改訂版であり、原告らが当初シリーズ及び新シリーズについて案出した前記(1)ア@ないしD記載の有形無形のノウハウが用いられており、それら著作物の根幹をなす部分を創造したのは原告らであるから、原告らに本件各書籍について著作権が認められるべきである。
 本件書籍1、2、9及び10については、原告会社、B、C及び被告が著作権を共有し、その持分はいずれも4分の1である。本件書籍3ないし8については、原告会社、原告A、B、C及び被告が著作権を共有し、その持分はいずれも5分の1である。
(3) 合意に基づく共有著作権
 前記(1)ウBのとおり、原告らと被告との間においては、平成11年11月に、本件シリーズの書籍について、原告らが著作権を有することが合意されているのであるから、原告らは、前記(2)のとおりの持分の共有著作権を有するものである。
(4) 著作権の一部譲渡(予備的主張)
 前記(1)ウのとおり、被告が原告会社と本件シリーズのうち「ひらがな」及び「かず」については出版契約を締結し、原告会社を著作権者としているということは、本件各書籍についても実質的に著作権の一部持分譲渡の意思があったといえる。
 したがって、たとえ、本件シリーズの著作者が被告であるとしても、被告から原告らに著作権を一部譲渡する旨の黙示の意思表示があったものである。
〔被告の主張〕
(1) 本件に至る経緯について
ア 当初シリーズの制作については、被告担当者も常に協議に加わり、中心的役割を果たした。また、原告らが独自性あるノウハウとして列挙しているものは、いずれも従来からある教材と同じ作り方をしただけであり、当時既に他社が同様のことを実施しており、目新しいものはない。幼児向けの教育教材において幼児の学習意欲を引き出すためのノウハウが重要であることは否定しないが、それが重要なのは幼児向けの教育教材に限ったことではなく、これらのノウハウは著作物とはいえない。著作物としての本質的な部分は、あくまで表現された文章や絵であるから、原告らは当初シリーズの共同著作者ではない。なお、制作協力の対価を印税で支払うために、出版契約書の形式を流用したにすぎない。
イ 新シリーズの制作に際し、原告会社は、「新かずおけいこ」(3歳ないし5歳)及び「新ひらがなおけいこ」(3歳ないし5歳)については、全く関与していない。したがって、被告は、これらの書籍に関して原告会社に印税を支払う必要もなかったが、原告会社の抗議を受け、不本意ながら出版契約書を作成し、印税払とした。新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)についても、原告会社は、絵の発注、受領及び校正程度の作業を行ったのみであり、企画制作、編集及び著作というような創作的活動は行っていない。したがって、原告らは、新シリーズについても共同著作者ではなく、被告は、原告らの著作権を認めたこともない。
ウ 本件シリーズの制作に際し、被告が原告会社に対して協議を求めたのは、トラブルを避けるためのやむを得ない措置であり、〔原告らの主張〕(1)ウ記載の@ないしBの内容の合意をした事実はない。すなわち、原告らが主張する合意@については、原告会社がデジタル化に対応できていなかったため、被告のみが制作を行うとしたにすぎないものである。同Aについては、新シリーズを材料として使用する権利を得たものであるが、実際には使用しなかった。同Bについては、ノウハウや、本件シリーズの著作権のことは、話題にすらならなかったものであり、本件シリーズに対し、原告らの著作権を認めたものではない。被告は、原告会社と「ひらがな」及び「かず」について、出版契約書と題する書面を取り交わしたが、契約内容は、原材料の使用許諾契約であり、出版を許諾する内容の契約を締結したわけではない。
(2) 共同著作に基づく共有著作権について
 被告は、新シリーズを使用せず、全く新しい別の商品として本件シリーズを原告らとは全く無関係に制作したものであり、本件シリーズは「改訂」ではない。原告らは、本件シリーズの制作に全く関与していないから、原告らは共有著作権者ではないし、その出版に原告らの同意は不要である。
(3) 合意に基づく共有著作権について
 〔原告らの主張〕(1)ウ記載の@ないしBの内容の合意をした事実はなく、被告は、本件シリーズに対し、原告らの著作権を認めたものではない。
(4) 著作権の一部譲渡(予備的主張)について
 原告会社と被告との間に、著作権を一部譲渡するという合意はなく、話題になったことすらない。出版社である被告が自社の有する著作権という重大な権利を譲渡し、その上で著作権使用料(印税)を支払うという非常識な処理をすることはあり得ない。 
2 争点(2)(翻案権侵害の成否)について
〔原告らの主張〕  
(1) 当初シリーズ及び新シリーズは、原告らを含む全員が協議をして、各分野ごとに年齢別のプログラムを作成し、それに基づいて順序だった構成を考え出したのであるから、このような独創的なプログラムに則った構成こそが、本件のような幼児教育ドリルの著作物においては最も重要である。本件シリーズのうちの本件各書籍は、これに対応する新シリーズの各書籍と、そのプログラムに則った構成について、次のとおり類似性を有するから、新シリーズを翻案したものである。
ア 本件書籍1「かんじ」
(ア) 漢字の読み書きという作業に入る前に「かん字シール」を用いてこれに相当する絵等に貼ることを最初の作業として漢字に親しませている。
(イ) 自然、体、曜日、数など身近にある漢字で表現できる世界を「かん字シール」を貼りながら確認する。
(ウ) 漢字に親しみを持たせた上で、書き順を示して漢字を書かせる。
(エ) 熟語を「かん字シール」などで学習する。
イ 本件書籍2「とけい」
(ア) 最初に、時計には12の数字があることや短針と長針があること、針は右回りに回ること、長針は短針より速く動くことなど時計の仕組みを針の回転方向に「やじるしシール」を貼らせるなどして理解させている。
(イ) 次に、文字盤に使用される1から12の数と時計の関係を理解させる。
(ウ) 次の「○時ちょうど」を読めるように多くの設問を設ける。
(エ) 次に「○時半」を読めるように多くの設問を設ける。
ウ 本件書籍3ないし7「めいろ」
(ア) 鉛筆を自由自在に使いこなす力(運筆力)を養い、直線、折れ線及び曲線などを書く鉛筆の使い方を身につける。
(イ) 迷路の道幅からはみ出さないように線を引くことは、目で見て判断したことに対応して鉛筆を動かすという「目と手の協応作業」の訓練になる。
(ウ) 迷路遊びによって、洞察力及び集中力を養う。
 以上の構成から、2歳においては、主として線を引くことの訓練により運筆力を養い、3歳以降年齢によって複雑な迷路の問題を解かせることにより、洞察力を養い、迷路の幅を次第に細かくすることにより、「目と手の協応作業」の訓練をする。
エ 本件書籍8ないし10「きりえ」
(ア) 3歳においては、はさみを使用して直線のみの切り方を、1回で切り落とす、長く切る、斜めに切るという順序で訓練し、山折り・谷折りの折り方、円筒形の丸め方及び糊付けの仕方等を訓練する。
(イ) 4歳においては、はさみでの切り方として、ジグザグ切り、カーブを切る、円を切り抜くという訓練をする。
(ウ) 5歳においては、はさみでの切り方として渦巻き切り、切り込み、波形に切る、輪郭を切るという訓練をし、円錐形に丸める技術を訓練する。
(エ) 切り絵の対象となっている図形や工作そのものについても、別紙きりえこうさく対照表「原告らの主張」欄記載のとおり、類似するものが相当数ある。
(2) 本件シリーズは新シリーズとシリーズの名称が酷似していること、本件シリーズの書籍発行と同時に新シリーズの書籍の発行を停止していること、本件シリーズの各書籍の裏面にある書籍一覧表には、新シリーズの書籍が混在して記載されていること、平成11年の協議時に、被告は新シリーズの著作権が原告会社にあることを認めた上で、同書籍を複製又は翻案して新たな書籍を制作することの許諾を求めていたこと等からすれば、本件各書籍がこれに対応する新シリーズの各書籍を翻案したものであることは明らかである。
〔被告の主張〕
(1) 新シリーズと本件シリーズを比較すると、契約の有無にかかわらず、表現が全く似ていない。原告らが主張するシリーズの特徴は、独自性があるといえるものではなく、他社でも既に行われていた。また、シールを利用するとか、迷路の制作方法、学習方法等のノウハウは、著作物ではあり得ないのであり、比較すること自体無意味である。
ア 本件書籍1「かんじ」
 シールを貼るという漢字の学習方法やノウハウに幾分似たところはあるが、それ以外は全く異なっており、著作物としての類似性はない。
イ 本件書籍2「とけい」
 時計の学習方法やノウハウに幾分似たところはあるが、学習方法は、小学校等で昔から行われている当たり前の方法であるし、それ以外に著作物としての具体的表現に類似性はない。
ウ 本件書籍3ないし7「めいろ」
 迷路を使った教育方法やノウハウに幾分似たところがあるというのみで、著作物としての表現に類似性はない。また、新シリーズの「この本のねらいと構成」では、2歳と3歳以降の項目立てでは特に区別をしていないのに対し、本件シリーズでは、2歳から6歳の各年齢でねらいと構成が異なり、新シリーズとは構成自体も明らかに異なる。
エ 本件書籍8ないし10「きりえ」
 切り絵を使った教育方法やノウハウに幾分似たところがあるというのみで、著作物としての表現に類似性はない。本件シリーズは、子供たちの学習意欲を高めるため、楽しく遊べることを重視し、ページの表裏ともに4色印刷としカラフル感を強調している。
 また、原告らが別紙きりえこうさく対照表で主張する類似点についても、いずれも題材、作り方及び遊び方が類似しているだけで、絵も異なっているし、表現の類似性はない。
 そもそも、新シリーズで切り絵のノウハウを考えたのはEであり、原告らに類似性を主張する資格はない。
(2) 本件シリーズと新シリーズの名称は異なるし、新シリーズは、増刷を行っていないものの販売は継続している。本件シリーズの各書籍の裏面にある書籍一覧表は、商品群を1つの表にまとめただけである。平成11年の協議時に、新シリーズの素材を使用する権利を取得しようとして、原告会社と契約書を交わしたが、実際には使用していない。これらの事情から、本件各書籍がこれに対応する新シリーズの各書籍の翻案であるということはできない。
3 争点(3)(不法行為の成否)について
〔原告らの主張〕
(1) 前記のとおり、「Bの頭脳開発シリーズ」の企画そのものが、原告らの共同作業中に発生し、それを全員で具体化し、幼児の能力開発のためのノウハウを考え、各書籍について一定のプログラムのもとに構成を考え、具体的表現を与えて制作されたものである。したがって、仮に、原告らが本件各書籍について著作権を有しないとしても、原告らが作り上げた「Bの頭脳開発シリーズ」の企画そのもの、当初シリーズ及び新シリーズを通じてのノウハウ、各書籍を制作するについてのプログラム、構成及び従前のシリーズの信用等の総体は、法的保護を受けるべき財産的利益である。
(2) このように、原告らを含む者らの共同作業により企画され、著作された「Bの頭脳開発シリーズ」の改訂に際しては、原告らの許諾が必要であるにもかかわらず、被告は、故意に、原告らに無断で本件各書籍を制作し、出版した。
 したがって、このような被告の行為は、不法行為に該当する。
〔被告の主張〕 
(1) 「Bの頭脳開発シリーズ」は、あくまで被告の提案に基づき、被告主導で企画が検討されたもので、発案者は被告であり、その評価を高めたのも被告の営業活動によるところも大きい。新シリーズに関する原告会社の関与は、創作といえるものではなく、共同著作者とはいえない。また、企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の「総体」に法的保護を受けるべき財産的利益があるという法的根拠はない。
(2) 新シリーズにおける出版契約書は、単行本等の発行に際し、著者と出版権設定契約を結ぶための書式であり、本来原告らとの契約に使用するべきものではなかった。上記契約条項にある改訂版又は増補版の発行につき協議事項とする旨の規定は、出版契約書の雛型に通常存在する規定であり、特別な意味をもって入れたものではない。そもそも本件シリーズは、新シリーズとは別の新しいシリーズの創作であるから、この規定には当たらない。
 したがって、被告は、本件各書籍の発行に際し、原告らの許諾を得る必要はなく、本件各書籍の発行に何ら違法性はなく、不法行為は成立しない。
4 争点(4)(損害)について
〔原告らの主張〕
(1) 原告会社の損害
ア 被告は、本件書籍1及び2をいずれも本体価格680円で、2万5000部ずつ出版している。新シリーズ「入学準備 新かずととけい」及び「入学準備 新かんじ」の著作権使用料は1%であったから、本件書籍1及び2の著作権使用料相当損害金は、合計34万円である。
 680円×1%×2万5000部×2=34万円
イ 被告は、本件書籍3ないし10についても、本体価格680円で、各年齢別に少なくとも2万5000部ずつ出版している。新シリーズ「新めいろおけいこ」及び「新きりえこうさく」の著作権使用料は0.8%であったから、本件書籍3ないし10の著作権使用料相当損害金は、合計108万8000円である。
 680円×0.8%×2万5000部×8=108万8000円
ウ 原告会社の損害は、アとイの合計額142万8000円である。
(2) 原告Aの損害
ア 本件書籍3ないし7の本体価格及び発行部数は前記(1)イのとおりであり、新シリーズ「新めいろおけいこ」の著作権使用料は1%であったから、本件書籍3ないし7の著作権使用料相当損害金は、合計85万円である。
 680円×1%×2万5000部×5=85万円
イ 本件書籍8の本体価格及び発行部数は前記(1)イのとおりであり、新シリーズ「新きりえこうさく」においては、原告Aは被告と著作権使用料の支払契約を締結していなかったが、上記アと同様1%が相当であるから、本件書籍8の著作権使用料相当損害金は、17万円である。
 680円×1%×2万5000部=17万円
ウ 原告Aの損害は、アとイの合計額102万円である。
〔被告の主張〕
 原告らの主張は、いずれも争う。
5 争点(5)(新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料)について
〔原告Aの主張〕
(1) 原告Aは、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」について、他の著作権者らと同様の作業を行った上、自ら絵も描いている。しかも、同書籍は、昭和61年に当初シリーズ「3歳 切り絵あそび」の内容を一部変更して改訂したものであり、同書籍と内容はほとんど変わらないのであるから、当初シリーズの権利関係が引き継がれる。したがって、原告会社らと同様に、共有著作権に基づき著作権使用料と絵についての使用料が支払われるべきであるにもかかわらず、絵の使用料が支払われているのみであって、著作権使用料が支払われていない。
(2) 上記書籍は、本体価格680円で、総発行部数が17万8000部であり、著作権使用料は本体価格の1%が相当であるから、その使用料は、121万0400円である。
 680円×1%×17万8000部=121万0400円
 したがって、原告Aは、被告に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料として、121万0400円の支払を求める。
〔被告の主張〕
 新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」は、それ以前に発行されていた「3歳 きりえこうさく」(以下「旧版」という。)の改訂版であり、旧版の絵を大部分使用した。原告Aは、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」については、旧版の絵の再使用を許諾し、数枚の絵を描いただけであり、その他の制作作業には関与していない。そして、被告は、原告Aに対し、絵の著作権使用料を定額で支払う合意をし、既に支払った。新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」は、当初シリーズ「3歳 切り絵あそび」とは別の書籍であり、この契約の適用はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(共有著作権の有無)について
(1) 共同著作に基づく共有著作権について
 著作権の原始的な帰属主体は著作者であり(著作権法17条)、著作者とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する著作物を創作した者をいう(同法2条1項1号、2号)。原告らは、いずれも本件各書籍の創作には関与していないことを自認している。したがって、原告らが、本件各書籍の著作者であるということはできず、原始的に原告らが本件各書籍の著作権を取得することはあり得ない。
 なお、原告らは、本件各書籍に当初シリーズ及び新シリーズについて原告らが案出した有形無形のノウハウが用いられている旨主張するが、仮にそうであったとしても、上記ノウハウは、同法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということはできず、著作権法において保護されるものではない。また、本件各書籍が新シリーズを翻案したものでないことは、後記2認定のとおりであるから、原告らが、本件各書籍について二次的著作物として著作権を有するに至るものでもない。
(2) 合意に基づく共有著作権について
 原告らは、平成11年11月ころ、被告との間で、本件シリーズの著作権は原告らに帰属する旨の合意をしたとして、その合意に基づき、本件各書籍の著作権が原告らに帰属する旨主張する。
 しかしながら、全証拠を精査しても、上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。なお、著作権は、著作者が著作物を創作した時点で直ちに著作者に生じる権利であるから、いまだ著作物が創作されておらず、著作物の内容が具体化される前に、あらかじめ合意によって、著作権の原始的帰属を決定することはできないものというべきである。
 したがって、原告らの上記主張は理由がない。
(3) 著作権の一部譲渡について
 原告らは、予備的に、被告から原告らに本件各書籍の著作権を一部譲渡する旨の黙示の意思表示があったとして、本件シリーズ「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わしたことをもって、黙示の著作権譲渡の根拠として主張する。
 しかしながら、同書と本件各書籍は、あくまでも別個の書籍であり、上記「ひらがな」及び「かず」について契約を締結したからといって、本件各書籍について著作権譲渡の意思表示があったものということはできない。
 また、証拠(甲12ないし34)によれば、新シリーズの出版契約書には、契約の対象である新シリーズの複製権及び著作者人格権について定めた条項はあるものの、改訂版又は増補版については、別途協議により決定する又は協議する旨記載されているのみであり、本件シリーズの著作権者を原告らとする旨の記載はないことが認められる。したがって、たとえ本件シリーズが新シリーズの改訂版又は増補版に当たるとしても、上記契約条項をもって、原告らに著作権を譲渡する意思表示であるということもできない。
 他に著作権譲渡の黙示の意思表示があったことをうかがわせる事実はないから、結局、被告が、原告らに対し、本件各書籍の著作権を一部譲渡したとの事実を認めるに足りない。
(4) 以上のとおり、原告らが本件各書籍について共有著作権を有するということはできない。
 よって、共有著作権の確認請求、本件各書籍の複製権に基づく発行及び頒布の差止請求等並びに上記複製権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。
2 争点(2)(翻案権侵害の成否)について
(1) 翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実、事件若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
(2) 原告らが新シリーズの共有著作権を有するか否かについてはそもそも争いがあるが、この点はさておき、まず、本件各書籍とこれに対応する新シリーズの各書籍との表現上の本質的な特徴の同一性を検討する。
 原告らは、本件各書籍とこれに対応する新シリーズの各書籍が、各分野ごとに年齢別に作成された独創的なプログラムに則った構成において類似性を有する旨主張するところ、個々の書籍についての判断は、以下のとおりである。
ア 本件書籍1について
 本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」の構成が、前記第3の2〔原告らの主張〕(1)ア記載の点において類似するとしても、かん字シールを用いて作業する点はアイデアにすぎず、表現そのものとはいえない。また、漢字の読み書きの学習方法や、漢字に親しみを持たせた上で書き順を示して漢字を書かせるという点は、漢字の学習を目的とする幼児用教育教材に関する思想又はアイデアというべきものであって、表現には当たらない。なお、両者を比較すると、「木」、「山」及び「川」を学習する頁、身体の部分、自然及び学校に関連する漢字を学習する頁並びにカレンダーの頁など、対応する頁における絵の具体的表現そのものは、大きく異なっており、表現上の同一性はない(甲55ないし68、乙1の1ないし8、検甲1、13)。
イ 本件書籍2について
 本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」の構成が、前記第3の2〔原告らの主張〕(1)イ記載の点において類似するとしても、時計の仕組み及び数と時計の関係についての学習方法や、どのような順序で時計について理解させる設問を設けるかという点は、数や時計の学習を目的とする幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。なお、両者を比較すると、対応する頁における時計の絵やイラストなどの具体的表現そのものは、大きく異なっており、表現上の同一性はない(甲69ないし102、乙2の1ないし21、検甲2、14)。
ウ 本件書籍3ないし7について
 本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)の構成が、前記第3の2〔原告らの主張〕(1)ウ記載の点において類似するとしても、迷路遊びによって、鉛筆の使い方を身につけたり、目と手の協応作業の訓練をし、洞察力、集中力を養うという点は、本件書籍3ないし7を構成する目的そのものであり、表現するにあたっての思想又はアイデアであって、表現には当たらない。なお、両者を比較すると、類似する絵は存在せず、表現上の同一性はない(検甲3ないし7、15ないし19)。
エ 本件書籍8ないし10について
 本件書籍8ないし10と新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)の構成が、前記第3の2〔原告らの主張〕(1)エ記載の点において類似するとしても、各年齢ごとにどのようなはさみの使い方を訓練させるかという点は、このような幼児用教育教材に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。
 また、原告らは、本件書籍8ないし10については、さらに別紙きりえこうさく対照表「原告らの主張」欄記載のとおり主張する。個々の箇所についての判断は、同表「当裁判所の判断」欄記載のとおりである。すなわち、発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。また、原告らの指摘する箇所のほとんどは、対象とする絵の素材が異なるため具体的表現も全く異なっており、絵の素材が同一のものについても、素材は表現それ自体とはいえず、またその具体的表現は異なっている。さらに、名称や文章の類似をいう点については、同じことがらを説明するためのありふれた短い表現であって、表現上の創作性がない。その他、本件書籍8ないし10は、色彩も鮮やかで裏のページにも絵や模様があり、これに対応する新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)とは色彩や配置が異なるなど、本件各書籍に接する者がこれに対応する新シリーズの各書籍の表現上の本質的な特徴を感得することはできない。
(3) 以上のとおり、原告らが主張する類似点は、思想、アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分における同一性をいうもので、たとえこれらの点が類似していても翻案には当たらない。そして、本件各書籍の表現(検甲1ないし10)とこれに対応する新シリーズの各書籍の表現(検甲13ないし22)は、表現上の同一性があるとはいえず、本件各書籍に接する者がこれに対応する新シリーズの各書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる箇所は見当たらない。なお、本件各書籍とこれに対応する新シリーズの各書籍の表紙裏に記載されている「この本のねらいと構成」(甲164ないし175)は、まさに書籍として表現するにあたっての思想又はアイデアを記したものであり、思想又はアイデアが類似していても翻案には当たらない。また、年齢別、分野別としたこと、1枚ずつ外して使えるものとしたこと、シールを利用したこと及びボードをつけたこと等原告ら主張のノウハウは、本件シリーズ等を制作するにあたって利用されたアイデアであって、表現それ自体ではないから、この点が類似していても、翻案には当たらない。
(4) なお、原告らは、シリーズの名称、新シリーズと本件シリーズとの関係、書籍一覧表の記載及び原告会社と被告との交渉経過等を翻案の根拠として主張するが、翻案に該当するためには、本件各書籍とこれに対応する新シリーズの各書籍における表現上の本質的特徴の同一性が必要であって、シリーズの名称や当事者の合意ないし認識によって翻案に当たるか否かが決せられるものではない。
(5) したがって、原告らが新シリーズについて共有著作権を有するか否かにかかわらず、本件各書籍は、これに対応する新シリーズの各書籍の翻案であるとはいえない。
 よって、新シリーズの翻案権に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止請求等並びに上記翻案権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。
3 争点(3)(不法行為の成否)について
(1) 原告らは、被告が本件各書籍を許諾なく出版したことは、法的保護を受けるべき財産的価値としての企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体を侵害するものとして、不法行為を構成する旨主張する。
 しかしながら、被告が本件各書籍を原告らの許諾なく出版したことは、次のとおり違法性がない。
 すなわち、仮に、原告らが新シリーズについて著作権を有しているとしても、その複製又は翻案に当たらない書籍を別個に制作し出版する行為について、著作権侵害ということはできない。本件各書籍がこれに対応する新シリーズの各書籍の翻案に当たらないことは前記2のとおりであり、その複製にも当たらないことは明らかである。したがって、著作権法上は、被告が本件各書籍を出版するにあたって、原告らから許諾を受ける必要はない。
 もっとも、新シリーズについて原被告間で締結された出版契約書には、「本著作物の改訂版または増補版の出版及び電子出版利用については、甲乙別途協議により決定する。」(9条。甲12、16、20ないし22、26ないし30、34)又は「本著作物の改訂増補についてその必要が生じたときは、甲乙協議する。」(8条。甲13ないし15、17ないし19、23ないし25、31ないし33)との定めがある。しかしながら、本件各書籍は、これに対応する新シリーズの各書籍を翻案したものでないことは前記2で認定したとおりであるから、改訂版や増補版にも当たらず、その出版に原告らの許諾が必要であるということはできない。
 したがって、本件各書籍の出版には、著作権法上も契約上も原告らの許諾が必要であるとはいえない。このように、被告が本件各書籍を出版した行為は、著作権侵害に該当せず、契約上も原告らの許諾が必要であるとはいえないのであるから、被告が本件各書籍を許諾なく出版した行為には、そもそも不法行為を基礎づける違法性が存在しないというべきである。
(2) 仮に、著作権侵害にも契約違反にも該当しない場合に、なお民法上の不法行為が成立する事例があり得るとしても、本件において原告らの主張する「企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体」なる概念は、極めてあいまいなものである上、原告らの主張するノウハウ等は、当初シリーズに特有のものではなく、その出版前から、被告発行の他の書籍や公文数学研究センター発行の書籍にも使用されていたものである(乙7の1ないし3、8の1及び2、9の1及び2、10の1及び2、11の1ないし5、12の1ないし5、13の1ないし7、弁論の全趣旨)から、民法上も保護に値する法律上の利益として原告らに帰属するものであるとはいえない。
(3) よって、原告らの不法行為を理由とする損害賠償請求は、理由がない。
4 争点(5)(新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料)について
 証拠(甲54、178)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aは、当初シリーズ「3歳 切り絵あそび」を一部変更して昭和61年に出版された旧版(「3歳 きりえこうさく」)の絵を描いたこと、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」は、同原告が新たに描いた数枚の絵を使用しているほかは、旧版の絵を再使用していること、同原告は、旧版の絵の再使用を許諾をしたこと、同原告は、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」についての出版契約書を締結していないこと、被告は、平成7年4月17日、同原告に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の原稿料として、「再使用」として20万円、「さし絵」として30万円の合計50万円を支払ったこと、同原告は、被告に対し、その後、本件訴訟に至るまで7年以上もの間、何らの請求もしていないことが認められる。
 以上の事実によれば、原告Aが旧版及び新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」のために描いたこれらの絵については、同原告が著作権を有し、同原告はこれらの絵の使用を被告に対し許諾していたものと認められるものの、同原告は、被告に対し、上記50万円の対価をもって、上記の絵を使用又は再使用して新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」を出版することを許諾したものと認めるのが相当である。そして、被告は、同原告に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」についての上記対価50万円を支払済みである。
 なお、原告Aは、絵の使用料とは別個に著作権使用料が発生するかの主張をするが、同原告が、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」について、絵を描いたほか、何らかの創作行為を行ったと認めるに足りないから、著作権使用料の請求は理由がない。また、当初シリーズ「3歳 切り絵あそび」についての契約を根拠として、上記金額を超えて新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料を請求することはできない。
 よって、原告Aの新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」についての著作権使用料請求は、理由がない。
5 結論
 よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか


書籍目録
名称 Bの新頭脳開発シリーズ
発行所 株式会社学習研究社
 1 5〜6歳 かんじ
 2 5〜6歳 とけい
 3 2歳 めいろ
 4 3歳 めいろ
 5 4歳 めいろ
 6 5歳 めいろ
 7 6歳 めいろ
 8 3歳 きりえ
 9 4歳 きりえ
10 5歳 きりえ

書籍一覧表
Bの頭脳開発シリーズ(当初シリーズ) Bの頭脳開発シリーズ(新シリーズ) Bの新頭脳開発シリーズ(本件シリーズ)
入学準備 かんじ1 入学準備 新かんじ 5〜6歳 かんじ
入学準備 かんじ2    
入学準備 かずととけい 入学準備 新かずととけい 5〜6歳 とけい
2歳 めいろあそび 2歳 新めいろおけいこ 2歳 めいろ
3歳 めいろあそび 3歳 新めいろおけいこ 3歳 めいろ
4歳 めいろあそび 4歳 新めいろおけいこ 4歳 めいろ
5歳 めいろあそび 5歳 新めいろおけいこ 5歳 めいろ
  6歳 新めいろおけいこ 6歳 めいろ
3歳 切り絵あそび 3歳 新きりえこうさく 3歳 きりえ
4歳 切り絵あそび 4歳 新きりえこうさく 4歳 きりえ
5歳 切り絵あそび 5歳 新きりえこうさく 5歳 きりえ
  2歳 新ひらがなおけいこ 2歳 ひらがな
3歳 ひらがなおけいこ 3歳 新ひらがなおけいこ 3歳 ひらがな
4歳 ひらがなおけいこ 4歳 新ひらがなおけいこ 4歳 ひらがな
5歳 ひらがなおけいこ 5歳 新ひらがなおけいこ 5歳 ひらがな
    6歳 ひらがな
  2歳 新かずおけいこ 2歳 かず
3歳 かずおけいこ 3歳 新かずおけいこ 3歳 かず
4歳 かずおけいこ 4歳 新かずおけいこ 4歳 かず
5歳 かずおけいこ 5歳 新かずおけいこ 5歳 かず
    6歳 かず
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