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【事件名】高級注文住宅の著作物性事件 【年月日】平成15年10月30日 大阪地裁 平成14年(ワ)第1989号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件) /平成14年(ワ)第6312号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件) (口頭弁論終結日 平成15年7月8日) 判決 第1・第2事件原告 積水ハウス株式会社 訴訟代理人弁護士 溝上哲也 同 岩原義則 第1・第2事件被告 株式会社サンワホーム 訴訟代理人弁護士 反田一富 主文 1 被告は、別紙被告写真表示の写真を、印刷、複写してはならない。 2 被告は、別紙被告写真表示の写真を掲載したチラシその他の印刷物を配布してはならない。 3 被告は、別紙被告写真表示の写真、そのデータ及び同写真を使用したチラシその他の印刷物を廃棄せよ。 4 被告は、原告に対し、金40万円及びこれに対する平成14年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告の第1事件の請求及び第2事件のその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、第1及び第2事件を通じて、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 7 この判決は、第1ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 〔第1事件〕 1 被告は、別紙イ号物件目録記載の建物を建築し、販売し、又は販売のために展示してはならない。 2 被告は、別紙イ号物件目録記載の建物の玄関側を撮影した写真が掲載された住宅のパンフレットを廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、金3518万5000円及びこれに対する平成14年3月7日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 〔第2事件〕 1 主文1項ないし3項と同旨 2 被告は、原告に対し、金100万円及びこれに対する平成14年7月3日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 〔第1事件〕 第1事件は、原告が、@後記の原告建物は建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当し、原告は原告建物の著作権者であるところ、後記の被告建物は原告建物を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告建物の建築等の差止め、及び被告建物の玄関側写真の掲載されたパンフレットの廃棄を請求するとともに、民法709条に基づき損害賠償を請求し、また、A被告建物は原告建物の商品形態を模倣したものである(不正競争防止法2条1項3号)として、被告に対し、不正競争防止法4条に基づき損害賠償を請求している事案である。 〔第2事件〕 第2事件は、原告が、後記の原告写真は写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当し、原告は原告写真の著作権者であるところ、後記の被告写真は原告写真を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告写真の印刷、複写及び同写真を掲載した印刷物の配布の差止め及び被告写真のデータ等の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、建物、構築物の設計、施工、請負及び監理等を業とする株式会社である。 イ 被告は、建築一式工事の請負及び設計、施工、監理等を業とする株式会社である。 (2) 原告建物 原告は、その開発に係る高性能コンクリート外壁材「ダインコンクリート」を採用した高級注文住宅「グルニエ・ダイン」を企画開発し、同シリーズ中の郊外住宅地対応モデルである「グルニエ・ダインJX」の設計を行い、「グルニエ・ダインJX」シリーズ中の住宅として、平成10年4月25日から、別紙原告住宅目録記載の玄関側外観を有する「大屋根インナーバルコニータイプ」の高級注文住宅(以下「原告建物」という。)を原告の工場で建築し、販売を開始した(甲第5号証)。 原告は、全国の住宅展示場に原告建物を建築の上、展示し(甲第7号証の1、2、第8号証)、また「グルニエ・ダインJX」のカタログに原告建物の写真を掲載した(甲第3号証)。 「グルニエ・ダインJX」を含むグルニエ・ダインシリーズは、平成10年10月、通商産業省選定の平成10年度グッドデザイン賞を受賞した(甲第6号証)。 (3) 被告建物 ア 被告は、次のとおり、別紙イ号物件目録記載の玄関側外観を有するモデルハウス(以下「被告建物」という。)を建築の上、展示している。 @ 展示場名 SBC長野中央ハウジングパーク 住所 長野市(以下略) 建築年月 平成11年8月 A 展示場名 SBSマイホームセンター静清展示場 住所 静岡県清水市(以下略) 建築年月 平成12年4月 B 展示場名 NST燕三条総合住宅展示場 住所 新潟県燕市(以下略) 建築年月 平成12年4月 C 展示場名 福島テレビハウジングプラザ福島 住所 福島市(以下略) 建築年月 平成12年8月 イ 被告は、被告建物の玄関側を撮影した写真を掲載した「百年耐久・檜の家」又は「百年耐久住宅・檜の国」なる名称のパンフレットを少なくとも3種類作成するとともに、チラシや新聞広告を作成し、上記各展示場を始めとする全国の展示場の来訪者や新聞購読者などにこれらを配布している。 (4) 原告写真 原告は、木造住宅「シャーウッド」(木造軸組)シリーズを販売しているところ(甲第29号証)、その最高級品「エム・グラヴィス ベルサ」の建物を原告工場で写真撮影し(甲第21号証の1)(別紙原告写真@表示の写真)、その写真をコンピュータ・グラフィックス(CG)出力処理した別紙原告写真A表示の写真(以下「原告写真」という。)を作成した(甲第21号証の2)。 原告は、平成13年4月1日から「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始した(甲第23号証)。「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログには原告写真が掲載されている(甲第29号証)。 (5) 被告は、別紙被告写真表示の写真(以下「被告写真」という。)を掲載した「木曽檜の家 お客様の家見学会」と題するチラシ(甲第24号証。以下「本件チラシ」という。)を作成し、平成14年3月23日、同月24日に長野県松本市内の松本女鳥羽会場(完成現場)、松本県(あがた)会場(構造現場)で開催される見学会に来訪させるため、少なくとも松本市内で発行された5万部の新聞に本件チラシを折り込んで配布した。 また、被告は、上記松本県会場及び豊科町会場(構造現場)での見学会のために、平成14年6月22日、被告写真を掲載した「木曽檜の家 大工さんのいる構造完成見学会」と題する新聞広告(甲第27号証。以下「本件新聞広告」という。)を、発行エリアが長野県松本市等21市町村、発行部数が6万6400部の地方新聞に掲載した(甲第28号証)。 (6) 原告は、平成13年7月27日、上記(3)ア記載の行為が著作権侵害行為あるいは不正競争行為であるとして、被告に対し、被告建物の展示及び販売の中止等を求めたが、被告はこれに応じなかった。 2 争点 〔第1事件〕 (1) 被告建物の建築、販売、展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。 ア 原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか。 イ 被告建物は、原告建物を複製又は翻案したものか。 (2) 被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか。 (3) 原告の損害 〔第2事件〕 (4) 被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。 ア 原告写真は、写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当するか。 イ 被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか。 (5) 原告の損害 第3 争点に関する当事者の主張 〔第1事件〕 1 争点(1)(被告建物の建築、販売、展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか)について (1) 争点(1)ア(原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか)について 【原告の主張】 ア 原告建物の基本デザインが創作される過程では、日本的感性を大切にした邸宅感のあるニューモデルを提案するため、まず、デザイナーが、「従来、日本の住宅が持つ和感性を継承、進化させ、原告独自のダインコンクリート外壁で構成することで現代性を付加し、従前の和風住宅の枠にとらわれない新しい日本の家とする」とのコンセプトに基づき、「大屋根、葺下し、水平基調、下屋重視、切妻の陰影感、インナーバルコニー」という外観デザインキーワードを選択し、次に、外観デザインキーワードに基づいてスケッチを製作し、更に試作模型を製作し、大屋根のボリュームと下屋、バルコニーバランスを検討し、最後に、改良模型製作のためのイメージスケッチを製作した後、構造、配置、組合せ、広さや長さ、バランスなどのメインシルエットを決定して、改良模型を製作している。原告建物の最終的な外観デザインは、改良模型を基本に、更に細部が検討された結果創作されたものである。このように、原告建物は、原告の設計担当者の試行錯誤を経て、ゆったりとした大屋根、深い軒の陰影美、水平ラインが強調され、勾配破風サッシやインナーバルコニーがその外観に溶け込んだ美術的にも優れた外観の住宅として完成されたものである。 したがって、原告建物のデザインは、高い自由度がある中で、試行錯誤の結果、更に何度も具体的に絞り込んで完成されたもので、建築家の芸術的個性と才能が発揮されて創作されたことが明らかであり、建築上の審美的創作性が認められる建築物であるから、著作権法10条1項5号にいう「建築の著作物」に該当する。 また、原告建物は、平成10年10月には平成10年度グッドデザイン賞を受賞しているが、受賞理由は、原告建物の玄関側の外観の優れたデザイン性によるものと考えられる。グッドデザイン賞の審査基準が「美しさがある」ことや「独創的である」ことなどとされていることからすれば、原告建物は、第三者の評価においても、建築物としての審美的創作性が看取されるものであったことは明らかである。 以上のとおりであるから、原告建物は、建築家の芸術的個性と才能が発揮されてデザインが完成されたものであり、建築美を創造的に表現している建築芸術と評価されるべきである。 イ 被告は、著作権の保護を受ける「建築の著作物」とは、宮殿、城、寺院、凱旋門、塔など建築美を創造的に表現する建築芸術に限られ、原告建物のような通常の住居は「建築の著作物」に当たらないと主張する。 しかし、著作権法10条1項5号は、「建築の著作物」について建築物の種類を限定していない。同法2条1項1号は、著作物の定義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」としているが、建築は、応用美術としての側面を有する一方、学術的な性質も多分に有するため独立の著作物類型とされているのであるから、典型的な建築芸術の範ちゅうに入らない一般住宅であっても、建築家の芸術的個性と才能が発揮され、社会通念上、建築物としての審美的創作性が看取されるものは、その美術性、創作性の程度のいかんを問わず、「建築の著作物」に該当するというべきである。 なお、被告は、原告建物が実用的な目的を有することや、工業化住宅であることをもって著作物であることを否定する根拠としているが、原告建物がこれらの性質を有することは、その著作物性を否定する根拠とはならない。原告建物のデザインに、建築物として創作的に表現された高度な審美性が存在することは、建築及び美術の専門家であるA作成の鑑定書(甲第32号証の1)でも明確に述べられている。 ウ 被告は、原告が原告建物のデザインを改変したり、バリエーションを多数展開させ、シリーズ化して販売している事実を根拠として、原告建物のデザインには創作性がないと主張をしている。 しかし、被告の上記主張は、注文住宅における自由設計思想を理解しないものである。原告建物は、注文に応じて多数の建築が予定されている一般住宅(モデルハウス)であるが、モデルハウスとは、単なる最適の実施例というものではなく、いわばその商品ブランドの象徴として、それ自体デザインとして完結したものである。これに対し、住まい手となる顧客が現実に建築する住宅の家族構成や敷地条件に応じた設計を選択することにより、結果として、モデルハウスとある程度異なったデザインとなることは当然であり、これによって、モデルハウスである原告建物のデザインが固定していないとか、完成されていないということはできない。 【被告の主張】 ア 著作権法10条1項5号の「建築の著作物」とは、同法2条1項1号にいう「著作物」の定義からして、宮殿、城、寺院、凱旋門、塔など建築美を創造的に表現する建築芸術に限られ、通常のビル、住居等の建物はこれに該当しないと解される。原告建物は、住居の用に供される実用的建物であるから、同法10条1項5号の「建築の著作物」に該当しない。 イ 原告建物は「人が居住する」という極めて実用的な目的を有しており、原告自身グッドデザイン賞応募の際に「工業用住宅」として応募していることからしても、美術的に鑑賞されることは目的となっていない。 実用的な目的のある応用美術は、同時に高度の美術性を有し、純粋美術としての性質を認め得るものに限り、著作物として著作権法上の保護が与えられると解されているところ、原告建物は、その対象・構成、着想等から、専ら美的表現を目的とする純粋美術と同程度に高度な美的表象と評価することはできない。 原告建物に原告の主張するようなコンセプトがあるとしても、当該コンセプトは極めて抽象的で漠然としたものであり、その存在をもって原告の「個性」を原告建物から見い出すことはできない。 原告建物のデザインは、従来からあるデザインやその組合せであり、「ありふれたもの」の域を出ていない。したがって、著作権法2条1項1号にいう創作性は、ないか極めて低いものである。 原告建物がグッドデザイン賞を受賞したことは、あくまで居住用建物としてのデザインの範囲で評価を受けたにすぎず、これを超えて建築美を創造的に表現している建築芸術にまで至っていると評価されたとはいえない。 ウ 原告は、原告建物のデザインを一部ないしかなりの部分を改変したバリエーションを多数展開させてシリーズ化して販売しており、原告建物のデザインは固定したものとはいい難い。しかも、これらのデザインの多様性は、切妻屋根、バルコニー、1階屋根、2階屋根という建物の主要な部分に及んでおり、これらを必要に応じて、自在に組み合わせたり、取り替えたりして作出されたものにすぎないから、原告建物のデザインは、単なる組合せによっていかようにも改変可能であるといえる。したがって、原告建物のデザインが、原告によって試行錯誤の結果完成されたデザインとは到底いい難い。そして、これらのデザインの改変は、専ら顧客の都合、嗜好によってされるものである。このように顧客の好みで改変しなければならない建物デザインについて、美術性を議論することは意味がない。 (2) 同(1)イ(被告建物は、原告建物を複製又は翻案したものか)について 【原告の主張】 ア 原告建物の玄関側外観は、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシを配してアクセントを加え、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き、D切妻面の一部をアルコーブ状に下げ、下屋屋根と一体感を持たせた中央に袖壁を設置したインナーバルコニーを配し、E下屋屋根の軒下にはテラスを配している、といった独創的・個性的な特徴を有している。 被告建物の玄関側外観も、これらの特徴をすべて有している。 イ 建築物の著作物性は、専ら一般公衆の観察が可能な外観において認められる。一般住宅の場合は、玄関側の外観が最も注目される。そして、原告建物の外観は、原告によって企画開発された「グルニエ・ダイン」シリーズの中でも、プレス発表やカタログのトップページに真っ先に取り上げられ、グッドデザイン賞の申請書にも表示されていた。したがって、原告建物においては、その玄関側の部分に、デザインの独創的な部分や個性的特徴があると認められるから、被告建物は、原告建物の著作物としての本質的部分の部分引用であると評価されるべきである。 ウ さらに、原告建物の玄関側外観と被告建物の玄関側外観を比較してみると、@右側の片流れ大屋根の傾斜角度、A右側の片流れ大屋根の傾斜角度と左側の切妻屋根との組合せ及び配置の角度、B右側の片流れ大屋根と左側の切妻屋根と左側の上屋屋根との三者の組合せ及び配置の数値上の対比、C左側の下屋屋根とBの三者との四者の組合せ及び配置の数値上の対比、D左側の下屋屋根に一体化して組み込まれ設置されたインナーバルコニーとCの四者と五者の組合せ及び配置の数値上の対比、E左側の下屋屋根と一体感を持たせた袖壁によって2つに分割配置された壁とDの五者との七者の組合せ及び配置の数値上の対比、F大屋根と片流れ大屋根及び左側の上屋屋根に関わる水平性モジュールによる骨格構造、G下屋屋根とバルコニーの袖壁に関わる垂直的・水平的モジュールによる骨格構造、H全体的な骨格構造、I左側面の形態表現、の各ポイントの分析においてほぼ一致しており、盗用の疑いが存在することは、専門家であるBの鑑定書(甲第31号証の1)でも明確に述べられているところである。 エ 被告が最初に被告建物を展示した平成11年8月までに、原告は、原告建物を全国の住宅展示場に展示した上で、各種媒体にも宣伝広告を行い、広く全国に販売展開していたから、被告は、被告建物の建築等において、原告建物の存在を了知し、これに依拠したものである。原告建物と被告建物に共通する玄関側部分の特徴となる構成及びその組合せは、従来の住宅になかった独創的なものであり、被告建物が原告建物に依拠しないで設計されたとは到底考えられない。 オ したがって、被告建物は原告建物を複製又は翻案したものである。 【被告の主張】 被告が原告建物の存在を了知していたことは認めるが、被告建物は原告建物に依拠したものではない。 原告建物と被告建物との玄関側外観のみを比較してみても、玄関の位置、その形状、また、玄関周りの形状が異なり、大屋根下の窓の個数、位置、形状も異なる上、2階ベランダ部分の形状が異なる。これらの相違によって、原告建物と被告建物は、見る者に与える印象が全く異なっている。 2 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか)について 【原告の主張】 (1) 「商品の形態」について 原告建物は、平成10年4月25日以降、原告において製造、販売若しくは建築請負されている商品である。 不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」は、原則として商品全体を指すものとされるが、商品の一部の形態であっても、その形態が意匠の要部のように商品形態を特徴付ける重要な役割を果たしているときには、当該部分の形態をもって「商品の形態」と評価することができる。 注文住宅の場合、外観、特にその商品としての表示が常になされ、消費者がその個性や特徴を判断する玄関側の外観が「商品形態」であるということができる。 なお、仮に「商品の形態」が文字どおり商品全体の形態をいうとしても、注文住宅全体の形態のうち、玄関側の外観でない部分は、玄関側の外観から導かれる形態か、同種の商品が通常有する形態にすぎないから、結局玄関側の外観が同一又は実質的に同一であるかをもって、その商品全体の「模倣」か否かを判断することができるというべきである。 (2)ア 原告建物の玄関側の外観(以下「原告商品形態」ともいう。)は、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシを配してアクセントを加え、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き、D切妻面の一部をアルコーブ状に下げ、下屋屋根と一体感をもたせた中央に袖壁を設置したインナーバルコニーを配し、E下屋屋根の軒下にはテラスを配している点にその主な特徴がある。これらの特徴は、従来にない独創的なものであり、構造上避けられないものではない。 被告建物の玄関側の外観(以下「被告商品形態」ともいう。)は、これらの特徴をすべて有している。 イ 専門家による鑑定書(甲第31号証の1)は、原告商品形態と被告商品形態を詳細に比較した上で、上記1(2)【原告の主張】ウで述べた@ないしIの各ポイントにおいてほぼ同一であり、盗用の疑いが存在すると結論付けている。 なお、上記特徴となる構成及びその組合せの比率等や骨格構造等は、従来の住宅になかった独創的なもので、ありふれた形態でも、機能上避けられない形態でもない。 (3) 被告が最初に被告建物を譲渡のために展示した平成11年8月までに、原告は、原告建物を全国の住宅展示場に展示した上で、各種の媒体にも宣伝広告を行い、広く全国に販売展開していた。被告は、原告建物の存在を了知していた。 (4) したがって、被告建物は、原告建物の形態を模倣したものである。 【被告の主張】 (1) 原告が、原告商品形態として主張する特徴は、いずれも従来から存在するものであり、原告のみがその使用を独占できるものではない。 原告は、上記【原告の主張】(2)アの@ないしEを原告建物の玄関側の外観(原告商品形態)の特徴であると主張する。しかし、@切妻型の大屋根自体は従来から日本に存在するものであるし、屋根を片側に流すのも一般的手法である。A2階以上の建物で下屋屋根に接して上階の窓を設けることは極めて一般的に見られるデザインである。B地面近くから屋根付近までの勾配破風サッシ窓は、要するに外観上1、2階を通した窓であって、店舗用建物等において既に一般的に存在していた。C大屋根を片側に流すと、反対側は必然的に屋根の面積が少なくなるし、2階建て建物に下屋屋根を配置しようとすれば、構造上、原告建物の屋根と同位置に配置されることになるのは避けられない。D今日の2階建て住居においては、2階部分にバルコニーを設けることは、一般的である。E下屋屋根の下にテラスを配置することも、従来から一般的に行われている手法である。更に、これらの組合せによっても、原告商品形態は、独創的ないし個性的な外形を形成しているとはいえない。 以上のとおり、原告が原告商品形態として主張する特徴は、いずれも従来から存在するありふれた形態、ないし機能上必然的な形態である。 原告商品形態は、不正競争防止法2条1項3号かっこ書の「同種の商品が通常有する形態」を示しているものであり、原告が原告商品形態との類似性を主張する被告商品形態も、「通常有する形態」である。 (2) 被告は、長年にわたる経験と実績から多種、多様な住宅の建築販売を行っており、被告独自の設計により被告建物のデザインを完成させたものであり、原告建物を模倣したものではない。 原告建物と被告建物の玄関側を比較しても、玄関の位置、その形状、玄関周りの形状が異なり、大屋根下の窓の個数、位置、形状も異なる上、特に正面左側の2階屋根は際だって異なったデザインを示している。 (3) 原告が援用する鑑定書(甲第31号証の1)は、異なったデザイン部分を除外してモジュール比率を対比させたり、一方で原告建物と被告建物とが「極度な『同一性及び酷似性』を有する」と結論付けながら、他方で、原告建物は「一般的な和風建築にはあり得ない『異化表現』の、いわば和洋折衷の『現代和風』の形態表現及び造形を、『独自的な・全体的な整合性』をもって構成している」が、被告建物は、「一体的に結合せず、相互に矛盾し、住宅商品としての『独自的な・全体的な整合性』を欠如している」という異なる評価を与えるという矛盾した結論付けを行ったりするなどの点で、信用性が乏しい。 3 争点(3)(原告の損害)について 【原告の主張】 (1) 著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項に基づく使用料相当損害金 ア 被告は、上記第2、1、(3)、ア記載のとおり、原告建物の販売が開始された平成10年4月以降平成13年4月までの間に、4展示場に各1棟合計4棟の被告建物を建築した。 イ 原告が原告建物をモデルハウスとして建築することを許諾する場合の使用料については、原告建物が、その外観デザインの創造性が高いために複製又は翻案されるのであるから、少なくとも、建築費に含まれる設計料の割合を基礎とすべきである。そして、建築費に含まれる設計料の割合は、建築士法25条に基づく建設省告示(昭和54年第1206号)で定められた方法により計算すると、一般木造住宅の場合は10パーセント程度である(他業者においても、設計料を10パーセント程度としているところである。)。原告が被告に対し許諾することは到底考えられないが、仮に許諾するとすれば、それがモデルハウスとして使用されることの許諾を含むものであり、その顧客誘引効果を勘案すると、使用料は、建築費の20パーセントを下らないと考えるのが相当である。なお、原告の有価証券報告書における研究開発費を基準に算出しても、20パーセントという数値は妥当である。 被告は、業界において建設省告示基準よりも値引きするという実態があること、施工業者自身がその社内において設計・監理業務を行う場合は設計料が低額になること、2棟目以降の設計料は1棟目の設計料の5割程度になることなどを主張するが、いずれも失当である。 仮に、上記設計料率が証拠により認められないとすれば、その立証がその性質上極めて困難であるときに当たるから、設計料率を20パーセントとして計算した額は、著作権法114条の4の規定により相当な損害額として算定されるべきである。 被告建物の建築費の総額は次のとおり、合計1億6592万5000円を下らない。 66.37坪×62万5000円(被告の坪当たりの建築額単価)×4棟(被告展示場における被告建物棟数)=1億6592万5000円 ウ よって、被告の著作権侵害行為又は不正競争行為により原告が受けるべき金銭の額に相当する金員は、前項の建築費総額に20パーセントを乗じた額である3318万5000円を下らない。 (2) 弁護士費用 200万円 【被告の主張】 原告の主張は争う。 被告は、被告建物そのものの建築注文を受けていない。したがって、被告は、被告建物の建築等や被告建物を撮影した写真のパンフレットへの掲載により、利益を得ていない。 なお、被告建物の建築費総額について、原告は、被告建物の1坪当たりの単価を62万5000円としているが、43万7000円が正しい。また、建築費に含まれる設計料については、業界の実態としては建設省告示(昭和54年第1206号)の2ないし3割の値引きをしている上、本件の原告のように施工業者自身が社内に専属の建築士を擁している場合は更に低額となる。加えて、原告建物では設計事務所の監理業務はあり得ないから、設計料のうち監理業務相当分は除外されるべきである。また、同じ建物を建築する場合は、2棟目以降の設計料は1棟目の5割程度となる。 〔第2事件〕 4 争点(4)(被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか)について (1) 争点(4)ア(原告写真は、写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当するか)について 【原告の主張】 ア 原告写真は、原告の住宅メーカーとしての長年の実績と経験を背景として、設計部所属の担当者が独自の美的感覚に基づき、被写体である「エム・グラヴィス ベルサ」の持つイメージ、すなわち、焼き物の持つ自然の風合い、土の質感・ぬくもりを生かしながら、耐久性、耐候性に優れた業界初のオリジナル外壁である「陶版外壁」、木の優しさと耐久性を兼ね備えた独自の木調部材を採用した外装などにより、「感性や嗜好にこだわりをもつ本物志向」、「木の良さを強調したこだわりの邸宅」のイメージを具体化するために、「エム・グラヴィス ベルサ」の建物自体を撮影し、撮影した写真をより上記イメージに沿うように、更にCG出力処理したものである。 このように、原告写真は、被写体として「エム・グラヴィス ベルサ」を選択したこと自体において、また、「エム・グラヴィス ベルサ」の持つ上記イメージをより具体化するための撮影の方法、組合せ、配置等において創作的な表現がされており、写真それ自体に著作権法上の保護に値する独自性が存する。 したがって、原告写真は、創作性のある著作物(著作権法10条1項8号)である。 イ 被告は、原告写真は単なる機械のメカニズムを利用して被写体を忠実に再現するものにすぎないなどとして、著作物性を争っている。 しかし、原告写真は、被写体を忠実に機械的に再製することを目的としたものではない。原告写真は、カタログに原告の目指す原告のイメージ、すなわち「積水ハウスの個性」、又は企業ブランディングの際に言われる広告表現の「トーン&マナー」(「トーン」とは印象、「マナー」とは「言い方」といった意味を示す。)に帰結すべく表現の検討をした上で最終的に決定されたものである。そのため、被写体を忠実に機械的に再製することを目的として撮影するのではなく、被写体の選択・構図の取り方・カメラアングル・光量の調整・シャッターチャンスなどに撮影者の相違と工夫を加えて撮影することが必要不可欠となる。 ウ 被告は、原告写真は被写体自体が決められているから被写体の選定の余地は一切ないと主張する。しかし、原告は、数あるモデルハウス・モデルプランの中から販促部のアートディレクション担当者、商品開発部の意匠担当者、専属カメラマン、広告代理店のアートディレクターといった専門家4者が、当該商品コンセプト表現のため、また、原告のブランドイメージ構築の諸条件に照らし合わせて、検討し決定している。 被告は、写真の構図についても極めて限定されていたと主張するが、原告写真の構図は、原告イメージを再現するために、数ある構図の中から専門家らによる入念な検討の上で決定されたものである。光量の調整等についても、色調の意図的なコントロールを含めて、上記専門家4者による検討の上、色調・トーン・コントラストの調整や更なる加工処理を施している。 【被告の主張】 写真の著作物性の場合、単なる機械のメカニズムを利用して被写体を忠実に再現することは機械的な複製にすぎないから著作物性を欠き、単なるカメラの機械的な作用にのみ依存することなく、被写体の選定、写真の構図、光量の調整等に工夫を凝らし、撮影者の個性が写真に表れている場合にのみ創作性が認められる。 これを原告写真についてみると、@原告写真は被写体自体が決められているから被写体の選定の余地は一切なく、A構図についても、住宅用パンフレットに使用する目的からして極めて限定され、そこに撮影者の個性を発揮する余地はほとんどなかったというべきである。現に、原告写真は、被写体たる住宅を正面よりやや左側から水平方向に向けて撮影されたものであって、このような構図や撮影角度(アングル)は、建物のパンフレット用写真としては定番の、極めて一般的なものである。さらに、B光量の調整については、昨今の自動式カメラであれば自動的な光量調節がなされるから撮影者の調節は必要なく、また手動の調節が必要なカメラでは、何人が撮影しようと何らかの光量の調整は必要となり、特別の意図をもって異様に暗い写真又は異様に明るい写真を撮影するのでない限り、光量調節において撮影者の個性が発揮されて創作性が認められる余地はない。 以上のとおり、原告写真は創作性の要件に欠け、写真の著作物(著作権法10条1項8号)とは認められない。 (2) 同(4)イ(被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか)について 【原告の主張】 原告写真と被告写真を比較すると、次のようにいうことができる。 ア 原告写真の被写体にあるダイニング部分(2階バルコニー)の突出を除いて、両者はほぼ同一の外観である。また、原告写真の被写体である「エム・グラヴィス ベルサ」に使用されているフラット庇を除き、仕様サッシ品種がすべて同一である。特に、2階左側の1P幅サッシの4連窓、1階同部の2Pサッシ連窓は、サッシ配置が同一である。 「エム・グラヴィス ベルサ」に使用されているフラット庇は、原告オリジナルであり、他社が類似品を作成することが難しいものである。 イ 2階左側サッシ部は、見た目における柱材等が同一のもので、写真の外観として同一のものと評価される。 ウ 2階右側の屋根をくり抜いた形のバルコニー及び花による装飾が付加されている点が同一である。 エ 原告写真の外壁材は「総陶版外壁」であり、被告写真の外壁材は「総タイル貼り」であり、写真の外観としては同一と評価される。 オ 原告写真と被告写真は、いずれも茶系の外壁材・屋根材・軒先・外部建具を使用しており、写真の外観としては同一のものと評価される。 カ 原告写真と被告写真は、いずれも外観パース(透視図。目でみるのと同様な遠近感が現れるように、品物、構造物などを描いた図)で撮影されているが、アングルが一致している。 キ 原告写真と被告写真とは、外観構成を同じくしており、プラン(図面)構成も同一と推測される。 以上のとおり、原告写真と被告写真を比較すると、同一又は同一と評価できるほど酷似したものであり、被告写真が原告写真に依拠せずに撮影又はCG処理されたとは考えられない。これらの事実に加え、被告写真が原告写真以前に存在したとは認められないことから、被告は、原告写真の存在を了知した上でこれに依拠し、被告写真とそれを使用したチラシを複製、翻案し、そのチラシを配布したものである。 さらに、被告写真は、被写体を撮影した写真ではなく、コンピュータによって簡易合成された写真と思われる。そこには、創作的表現が見当たらないのはもちろんのこと、原告写真と被告写真の画像を重ね合わせることにより、被告写真が原告写真の複製であることも容易に証明される。 【被告の主張】 原告写真と被告写真が、同一又は同一と評価できるほど酷似したものであることは、争う。原告写真と被告写真を比較してみると、窓枠や窓の配置、建物右側2階バルコニー部分の花の装飾の存否、外観の色調、建物左側面の張出し及び2階バルコニーの存否、屋根の煙突の存否、玄関ドアのデザインなど、種々の相違点があり、その結果、需要者をして別個の建物であるとの印象を与える。したがって、被告写真は、原告写真とは別個の新たな創作的表現によって作成されたものであり、原告写真を複製又は翻案したものということはできない。 5 争点(5)(原告の損害)について 【原告の主張】 (1) 著作権法114条1項、2項に基づく損害額 ア 被告は、故意又は過失により、原告写真を無断で複製、翻案して被告写真を作成し、これを利用した本件チラシや本件新聞広告(以下「本件チラシ等」という。)を、上記第2、1、(5)記載のとおり、広く配布した。長野県松本市内において、被告写真使用前の平成13年4月から同年7月までの被告の住宅建築確認許可件数は3件であったが、被告写真使用後の平成14年4月から同年7月までの被告の住宅建築確認許可件数は6件であった。このことから、原告写真の複製又は翻案である被告写真を使用した本件チラシ等によって、被告の住宅建築数が増加して被告が利益を得、原告が損害を被ったことは明らかである。 イ 被告が上記著作権侵害行為により受けた利益の額が原告の損害の額と推定されるところ(著作権法114条1項)、被告の利益額は、(被告が本件チラシ等により販売し得た1棟当たりの利益)×(販売した棟数)で算定できる。 被告の住宅建築数の増加における被告写真の寄与率は必ずしも明らかではないが、住宅の価格(被告の場合、1棟当たり2900万3690円ないし4148万1250円)が高額であることからすると、被告が著作権侵害行為により受けた利益の額は、少なくとも、3棟分の建築価格の1パーセント程度の90万円を下らない。 仮に上記寄与率が証拠により認められないとすれば、その立証がその性質上極めて困難な場合に当たるから、著作権法114条の4の規定に基づき、上記90万円をもって相当な損害額と認定されるべきである。 ウ 使用料相当損害金 被告は、上記第2、1、(5)前段のとおり、被告写真が掲載された本件チラシを、松本市内で少なくとも5万部が発行された新聞に折り込みチラシとして配付した。これによる使用料相当損害金は、次のとおり、50万円を下らない。 チラシ1枚当たり写真使用料(10円)×新聞に折り込まれた本件チラシ数(5万枚)=50万円 また、被告は、上記第2、1、(5)後段のとおり、被告写真が掲載された本件新聞広告を、発行部数6万6400部の地方新聞に掲載した。写真著作物の広告使用料は、地方紙の新聞広告の場合、5段以内で5万円であり、原告の目玉商品である原告写真の使用を他社に許諾することは考えられないから、通常の写真についての新聞広告における使用料より相当割高になると考えられること、写真の使用料は、無断使用の場合、約10倍の損害金を発生させる業界の慣行があることからすると、上記新聞広告による使用料相当損害金は40万円を下らない。 したがって、原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、少なくとも90万円を下らない。 (2) 弁護士費用 10万円 【被告の主張】 被告が、本件チラシ5万部を新聞に折り込んで配布したこと、本件新聞広告を発行部数6万6400部の地方新聞に掲載したこと、地方紙の新聞広告の使用料が5段以内で5万円であることは認めるが、その余は争う。折込みチラシ1枚における写真使用料相当額は、2、3円が相当である。被告の住宅販売件数の増加は、被告の営業努力と高い商品的魅力によって得られたものであって、被告写真による成果ではない。 第4 当裁判所の判断 1 第1事件について (1) 争点(1)(被告建物の建築、販売、展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか)ア(原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか)について ア 上記第2、1の争いのない事実等と証拠(甲第1号証の1ないし3、第2号証の1ないし4、第3ないし第6号証、第7号証の1、2、第8号証、第25、第26号証、第31号証の1、第32号証の1、第34号証の1、2、第47号証、第50号証の1ないし4、乙第1号証の1ないし6、第2号証の1ないし4、第3号証の1、2、第4、第5号証、第8ないし第13号証、第14号証の1、2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 (ア) 原告は、平成9年ころから、原告の開発に係る高性能コンクリート外壁材「ダインコンクリート」を使用した軽量鉄骨2階建て高級注文住宅「グルニエ・ダイン シリーズ」の企画開発に着手した。 「グルニエ・ダイン シリーズ」には、「都市部の様々な法的条件をクリアし、空間を大きく生かす都市型住宅」であって150u程度の敷地を前提とする「グルニエ・ダインUX」、「昭和40〜50年代の都市近郊のニュータウンで大量に供給された、比較的形状の整った住宅地(200u程度)の建替の潜在的需要」に対応する「グルニエ・ダインNEO」、「郊外のゆとりある敷地(250u程度)をターゲットに、日本的な感性を生かした深い軒の陰影美や水平ラインを強調した穏やかなデザイン」を持つ「グルニエ・ダインJX」がある(甲第5号証)。 「グルニエ・ダインJX」の企画においては、「日本的感性を大切にした邸宅感のあるニューモデルを提案」し、「従来、日本の住宅が持つ和感性を継承、進化させ、当社(原告)独自のダインコンクリート外壁で構成することで、現代性を附加、従前の和風住宅の枠にとらわれない新しい日本の家として企画する」ことが「デザイン意図」とされた(甲第25号証)。 (イ) 原告建物は、「グルニエ・ダインJX」のうちの、片流れ大屋根、インナーバルコニーを有するタイプである。 原告建物の玄関側外観は、原告の中国・九州営業本部が和風建築の技法を採り入れた6種類の外観デザインを制作し、「好きな家、住んでみたい家」「売れそうな家」「新商品の顔になる家」という観点から行ったアンケート調査(平成9年7月実施)において、最も点数の高かったものである(甲第34号証の1)。 原告は、原告の工場において原告建物を建築し、平成10年4月25日から、原告建物を含めたグルニエ・ダインシリーズの販売を開始した(甲第5号証)。 原告建物は、被告建物が建築された平成11年8月までに、「グルニエ・ダインJX」のカタログ(甲第3号証参照)のトップページに掲載されるなどして全国に宣伝広告され、また、モデルハウスとして全国の展示場でも展示された(甲第7号証の1、2、甲第8号証)。 (ウ) 原告建物の外観は次のようなものである。 原告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニーを、1階には軒下テラスを配し、濃灰色の陶器瓦と自然石の小端積みをデザインモチーフにした白色のダインコンクリート壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している、和風建築の2階建て個人住宅である。 原告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、原告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、原告建物正面左端から建物横幅の約4分の3程度に至っている。原告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより、一体となっているように見える。原告建物1階正面中央やや右寄り部分は、左右に比べて前方に突出しており、その部分とその上の2階に窓が1か所ずつあり、2階にある窓の方が1階にある窓よりも若干幅が狭く、高さも半分程度である。原告建物2階正面左側は、右側や中央よりも後退しており、2階には中央に袖壁のあるインナーバルコニーが、1階には軒下の広い下屋屋根の下にテラスがそれぞれ配置されている。また、1階下屋屋根の左端軒下には、壁が配されている。原告建物正面左側は、1階が中央寄りに扉が褐色で片開きの玄関、左寄りには高さのある大きな窓が1か所配置されており、2階には袖壁を挟んで、1階よりも小さな窓が2か所配置されている。 原告建物の背面側には、2階には窓が4か所、1階には窓が6か所配置されている。背面側の右端はかなり後退し、背面側の中央には他と比べて突出した部分がある。原告建物背面側の屋根は、正面側から見える上屋屋根、下屋屋根とともに切妻屋根を構成する屋根のほか、中央に建物全体の横幅の約3分の1程度の幅を有する下屋屋根が配置されている。 原告建物の右側面には、大屋根部分に窓が1か所、壁部分に窓が3か所配置されている。 原告建物の左側面には、2階に窓が2か所、1階には横格子が1か所配置されている。上屋屋根と下屋屋根の葺き下ろし長さがほぼ同じであり、また、下屋屋根の頂点の位置が上屋屋根の頂点の位置よりも正面側に配置されている。 (エ) 和風建築として人気のある数寄屋風住宅には、水平構造、切妻屋根(寄棟、方形造り、入母屋造りなどとの組合せや、複数の切妻屋根の中心をずらした組合せなどの場合もある。)、緩い屋根勾配、広く深い軒や庇といった建築技法が一般に用いられる(乙第8号証)。 片流れ大屋根、これと交差する切妻屋根、緩い屋根勾配、水平構造、広く深い軒等による陰影、2階部分のインナーバルコニー、テラスといった要素を有する和風の一般住宅が、モデルハウスや個人住宅として多数存在する(乙第2号証の2ないし4、第4、第5号証、第11号証、第13号証、第14号証の1、2)。 (オ) 昭和32年に通商産業省によって創設された「グッドデザイン商品選定制度」(通称Gマーク制度)を母体とする、我が国唯一の総合的デザイン評価・推奨制度として、「グッドデザイン賞」という制度がある。財団法人日本産業デザイン振興会は、毎年ある一定数の「デザインが優れたものごと」を選び、その選ばれた物(商品・施設)に対して「グッドデザイン賞」を授与している。グッドデザイン賞の目的は、「商品の良質化により国民生活の向上、産業の発展及び輸出貿易の振興を図るため(中略)グッド・デザインを選定公表する」こととされ、審査基準には、「良いデザインであるか」「優れたデザインであるか」「未来を拓くデザインであるか」という3点が挙げられている。「良いデザインであるか」については、「美しさ」「誠実」「独創的」「機能・性能」「使いやすさ」「安全への配慮」「魅力」などの10の要素が検討され、一定水準以上にあると判断されたものが受賞対象とされる(甲第50号証の3)。 原告は、平成10年、品目名を「工業化住宅」、ブランド・型式を「グルニエ・ダインシリーズUX、NEO、JX」、商品コンセプトを「高品質・高耐久、邸別敷地配慮、居住性能の向上、生活空間提案」、デザインのポイントを「オリジナル外壁、立地環境別シルエット」として、グッドデザイン賞に応募した(甲第6号証)。 財団法人日本産業デザイン振興会は、平成10年10月、「グルニエ・ダインシリーズUX、NEO、JX」に、平成10年度のグッドデザイン賞を授与することを決定した。なお、受賞はグルニエ・ダインシリーズに対するものであり(甲第6号証)、その理由は「どんな敷地条件、ライフスタイルに対しても一定の水準を満たす適応性の高さと、現代的なオーソドックスさを持っている点が評価」(甲第50号証の2)されたことによる。 イ(ア) 著作権法は、同法にいう著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義し(同法2条1項1号)、著作物の例示中に「建築の著作物」を挙げている(同法10条1項5号)。 著作権法により「建築の著作物」として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、美的な表現における創作性を有するものであることを要することは当然である。したがって、通常のありふれた建築物は、著作権法で保護される「建築の著作物」には当たらないというべきある。一般住宅の場合でも、その全体構成や屋根、柱、壁、窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性のみならず、美的要素も加味された上で、設計、建築されるのが通常であるが、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性が認められる場合に、その程度のいかんを問わず、「建築の著作物」性を肯定して著作権法による保護を与えることは、同法2条1項1号の規定に照らして、広きに失し、社会一般における住宅建築の実情にもそぐわないと考えられる。一般住宅が同法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、一般人をして、一般住宅において通常加味される程度の美的要素を超えて、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような芸術性ないし美術性を備えた場合、すなわち、いわゆる建築芸術といい得るような創作性を備えた場合であると解するのが相当である。 (イ) 上記アの認定事実によれば、原告建物は、和風建築において人気のある、その意味では日本人に和風建築の美を感じさせるということができる、切妻屋根、陰影を造る深い軒、全体的な水平ラインといった要素や、インナーバルコニー、テラス、自然石の小端積み風の壁といった洋風建築の要素を、試行錯誤を経て配置、構成されていると認められるから、実用性や機能性のみならず、美的な面でそれなりの創作性を有する建築物となっていることは否定できない。また、原告建物は、建築会社である原告内において、専門的な知識、経験を有する複数の者が関与して、試行錯誤を経て外観のデザインが決定されたものであり、その意味で、知的活動の成果であることも疑いないところである。 しかしながら、現代において、和風の一般住宅を建築する場合、上記のような種々の要素が、設計・建築途上での試行錯誤を経て、配置・構成されるであろうことは、容易に想像される。本件のように、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合、当該モデルハウスの建築物が、一般人をして、一般住宅が備える程度の美的な創作性を感得させることはあっても、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得させ、美術性や芸術性を認識させることは、一般的に、極めてまれなことといわざるを得ない。 原告建物は、前記認定によれば、通常の一般住宅が備える美的要素を超える美的な創作性を有し、建築芸術といえるような美術性、芸術性を有するとはいえないから、著作権法上の「建築の著作物」に該当するということはできない。 ウ(ア) 原告は、原告建物に審美性や芸術性があることの裏付けについて、原告建物がグッドデザイン賞を受賞したことを挙げる(甲第50号証の1ないし4)。 グッドデザイン賞の趣旨、受賞の経緯は、前記ア(オ)のとおりである。しかるところ、平成10年グッドデザイン賞住宅部門審査委員長(東京理科大学工学部建築学科教授)C作成の「積水ハウス・グルニエダインJXのデザインについて」と題する書面(甲第50号証の4)の「Gマーク工業化住宅の審査の視点」の項には、「平成10(1998)年のGマーク審査において、当該住宅のデザインについては、一般的なデザインの良さという観点のほかに、新規性(在来構法の住宅や従来の工業化住宅他社製品にはないデザインが、一定水準以上で実現されていること)、独自性(現代の我が国の住宅デザインに相応しい独自の提案が望まれる。)、再現性(Gマークの対象である工業化住宅においては、建築家の設計による個々の住宅や、系列化された特有のデザイン傾向を持たない在来構法の個々の住宅とは異なった、一定のスタイルと水準が保たれるという「デザインの再現性」が求められる。)の視点から審査を行った。グルニエダインJXを含めた積水ハウス・グルニエダインシリーズについては、いくつかのタイプのデザイン傾向を一式として審査した。それぞれのタイプ相互にはデザインの指向性に違いがあるが、上記の視点からGマークに相応しいと判断した。特にグルニエダインJXは、伝統的和風建築とは異なり、かつ洋風デザインとも異なる独自の提案を持ち、現代における種々の機能・性能上の要求に対応し、かつ我が国の気候・風土・伝統をも反映するような『現代和風住宅のプロトタイプ』を確立したと言うに相応しい、優れたデザインであると思われる。」旨が記載されている。 また、1998年度グッドデザイン賞イヤーブック、ウェブサイトコピー(甲第50号証の2)の「グルニエダインシリーズUX、JX、NEO」の項には、「どんな敷地条件、ライフスタイルに対しても一定の水準を満たす適応性の高さと、現代的なオーソドックスさを持っている点が評価されました。」と記載され、その「商品概要」の欄には、「首都圏の建て替え需要向けに、外装材の質感や耐久性、居住性の向上を図って開発された工業化住宅。オーソドックスな屋根型シルエットの、立地環境別の対応モデル(UX:市街地対応モデル、NEO:都市近郊住宅地対応モデル、JX:郊外住宅対応モデル)を基本に、個別の敷地や家族の生活要件に細やかに対応した邸別設計が可能なシステム商品である。ホルムアルデヒドの発生を防ぐためにクロス接着剤のゼロホルマリン化を図るなど、環境と人に優しい住宅を追求した。」と記載されている。 以上によれば、グッドデザイン賞の選定に当たっては、美しさ、新規性、独自性など、審美性、芸術性に関連する要素が考慮されることは否定し得ず、また、従来の建築様式との対比の点において、原告建物のデザインに、純然たる和風建築でも洋風建築でもない独自の要素があることが認められる。しかし、他方で、一般に、グッドデザイン賞の選定に当たっては、単に外観の美しさだけではなく、工業製品としての機能や、同じ外観の製品の大量生産が可能か否かという工業製品の生産性に関わる事項(「再現性」等)も相当程度考慮されていることが認められる。特に上記のグッドデザイン賞イヤーブック、ウェブサイトコピーの記載によれば、本件受賞の大きな理由として、多様な敷地条件やライフスタイルに適応した設計が可能なシステム商品であるという機能面が強調されており、美感に関しては、商品概要の欄に「オーソドックスな屋根型シルエット」という抽象的な指摘があるにとどまる。 また、本件のグッドデザイン賞の受賞は、JXだけではなく、UX、NEOという異なった形態の住宅を包含するグルニエダインシリーズに与えられたものであり、これらのシリーズ中の各形式の住宅の形態は、外壁や屋根の色、屋根の傾斜など、共通した点があるものの、建物の形態としては、基本的な部分が大きく異なるといえるものも含まれており、このことからも、本件受賞は、機能面が極めて重視されていることが推認される。 したがって、グッドデザイン賞の受賞から、原告建物に美術性、芸術性が具備されていると認めることはできない。 (イ) 原告商品企画部担当者作成の「創作建築物としてのJXの独自性について」と題する書面(甲第47号証)には、「JXでは、それに和感性を取り入れ、下屋に囲まれたインナーバルコニーに、切妻の片流れ空間と、袖壁構成を組合せ、程よい広さ、心地いい空間を造ることを狙いました。それによって、表層デザインとしての要素の組合せにとどまらず、そこに新規性、独自性が表現できると考えます。」、「要は、方法論としての組合せの仕方であり、ありきたりの要素の組合せというのではなく、必然性があり、かつ吟味した要素を組合せることで、間違いなく創作的審美性をもつものと考えます。」と記載され、インナーバルコニーによって原告建物の新規性、独自性、創作的審美性が表現できる旨記載されている。そして、同書面の「全体的な家のバランス、大屋根、葺き降し、水平基調、下屋屋根との組合せで、トータル設計しているわけですが、今回特にこのバルコニー要素をとりあげました。」という記載からは、原告建物を設計する際に、全体のバランス、大屋根の流れ、水平な上屋屋根、下屋屋根との組合せを考慮してインナーバルコニーが設計されたことが推認される。 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、2階の屋根の交わる部分の下に、下屋に囲まれたインナーバルコニーがある例、2階のインナーバルコニーに袖壁がある例、和風住宅にインナーバルコニーがある例は、従前から通常の住宅建築に存在したことが認められ、また、インナーバルコニーの存在が建物の外観において重要な要素を占めている例が少なくないことが認められ、従前の住宅建築においても、インナーバルコニーの大きさ、位置、上屋屋根及び下屋屋根との関係等が、全体のデザインの中で適正に位置付けられるように設計されていたものと推認される。そうであるとすれば、原告建物のインナーバルコニーと全く同じインナーバルコニーが従前存在しなかったとしても、原告建物のインナーバルコニーは、従前から存在した通常の住宅建築のインナーバルコニーの延長上にあるものと認められ、その存在によって原告建物に美術性、芸術性があることを根拠付けるものではないというべきである。 (ウ)a 建築家である岐阜県立情報科学芸術大学院大学教授A作成の鑑定書(甲第32号証の1)は、原告建物の審美性について詳細に検討し、外観の特徴として、棟から大きく葺き下ろされた切妻型の屋根の存在、深い軒、いくつかの複合した屋根が作り出す奥行き、屋根のプロポーション、開口部のデザイン、プレキャストコンクリートによる壁の表情、軒下の空間構成、2階部分のインナーバルコニーにより軒下に変化を与えるデザイン等を指摘して、原告建物の特徴が、「和的なるものと現代性の共存」あるいは「新しい生活感覚をもった和的な生活感情と現代的な生活の融合」であり、「日本的な印象を作り出しているデザインだが、それは決して単なる和風住宅のデザインとはことなり、デティールや素材にわたってモダンな要素デザインを融合させ、両者は不釣合いにぶつかることなく見事にバランスされている点で、優れた審美性をみたしたデザインであると言える。」と述べている。 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、甲第32号証の1の鑑定書が指摘する、棟から大きく葺き下ろされた切妻型の屋根、深い軒、複合した屋根により作り出される奥行き、陶器瓦の屋根、直線的なけらばのデザイン、モノトーンに近い色使い、壁構造の開口部、開口部周りの厚みを感じさせる処理、表面に凹凸のあるプレキャストコンクリートを使用していること、屋根の傾斜とともに建物全体において水平方向の安定性が強調されていること、軒下に柱を立てて奥行きを作り出していること、2階にインナーバルコニーを設けて軒下に変化を与えていることなどは、従来の住宅建築において普通に見られたデザインや処理であり、従来の住宅建築においても、これらを含む様々な要素を組み合わせ、デザインが完成されてきたことが認められる。そして、従来の住宅建築においても、バランスを考慮して、これらの要素を見栄えよく配置するためのデザインには意が払われてきたものである。原告建物におけるこれらの要素の組合せ方は、それと全く同じものが過去に存在しなかったとしても、従前の住宅建築に比して特段変わったものということはできず、むしろ、過去の通常の住宅建築の延長上にあるものというべきである。また、西洋的なものと和風のものを統合したという点についても、前掲の証拠によれば、我が国の最近の住宅建築においては、純粋に和風又は洋風の建築はむしろ少なく、両者の様式を折衷しているものが少なくないことが認められるから、その点を考慮しても、原告建物に美術性、芸術性があるものとは認めることができない。そうであるとすれば、前記鑑定書によっても、原告建物に美術性、芸術性があることが認められるとはいえない。 b また、前記鑑定書(甲第32号証の1)においては、建物の横方向の寸法と高さとの関係、屋根と軒の高さ、大きな壁面の構成などを補助線を用いて分析した上で、「建築の立体構成を美しい比例でコントロールすることは、建物内部の平面の設計(部屋の配置)と無関係ではなく、大変複雑な設計プロセスを要することは自明であり、決して偶然こうなったというものではない。」とされている。 甲第25号証及び上記記載によれば、原告建物の設計に当たって、建物内部の部屋の配置を整え、住宅としての機能を確保した上で見栄えの良いモデルを作り出すために複雑なプロセスを経ており、その過程で、屋根、壁、窓、バルコニーなど様々な構成要素の適正な配置を決めるために、バランスやシルエットなどが考慮されていることが推認される。 しかし、前記ア(エ)掲記の証拠によれば、完成した原告建物を既存の通常の住宅建築と比較した場合、原告建物にそれらとは異なって美術性、芸術性が備わっているものとは認められないから、原告建物の設計において上記のような考慮がされているとしても、その故に、原告建物に美術性、芸術性が備えられていると認めることはできない。 エ 以上によれば、原告建物は著作権法上の「建築の著作物」とはいえない。第1事件のうち、著作権侵害を理由とする原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。 (2) 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか)について ア 不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とするものであるところ、ここにいう「商品の形態」とは、流通に置かれる当該商品全体の形態を指すものと解すべきである。もちろん、商品の中には、外観上の一部に商品の形態の特徴の全部があり、他の部分は商品の形態の特徴上意味を持たないようなものもあり得るが、居住用の建物に関しては、玄関側の外観のみの特徴をもって建物全体の特徴であるとし、正面外観を「模倣」の判断基準とすることはできない。 原告は、商品の一部の形態であっても、その形態が意匠の要部のように商品形態を特徴付ける重要な役割を果たしているときには、当該部分の形態をもって「商品の形態」と評価することができ、注文住宅の場合は、外観、特にその商品としての表示が常になされ、消費者がその個性や特徴を判断する玄関側の外観が「商品形態」であり、玄関側の外観が決まればそれ以外の面は玄関側の外観から導かれる形態か、同種の商品が通常有する形態に該当するにすぎないと主張する。 しかし、建物において玄関側(正面)外観が最も注目されることは否定できないとしても、そのことは、購入しようとする者にとって背面や両側面、全体的な構成等が当該商品の形態として無意味であるということにはならない。また、玄関側(正面)外観によって、背面や両側面の形態が必然的に定まったり、通常有する形態となるものとはいえない。 イ そこで、上記観点から、形態模倣の有無について検討する。 (ア) 上記第2、1の争いのない事実等と証拠(甲第1号証の1ないし3、第2号証の1ないし4、第3ないし5号証、第11号証、第20号証の1ないし3、第31号証の1)によれば、次の事実が認められる。 a 原告建物の形態等 原告建物の構成及び玄関側外観は、上記(1)ア(ウ)に述べたとおりである。 b 被告建物の形態等 被告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニーを配し、濃灰色の瓦と白色の壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している、和風建築の2階建て個人住宅である。 被告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、被告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、被告建物正面左端から建物横幅の約3分の2程度に至っている。被告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより、一体となっているように見えるようになっているほか、更に右側1階部分に長方形の窓が1か所配置されている。被告建物1階正面中央(全体のやや右寄り)は、その両側から壁が前方へ突出してその中央部が開口していて、奥に玄関があり、その上の2階に窓がある。2階の窓は1階の玄関より幅広い。また、1階の玄関は、扉が黒色の観音開きになっている。被告建物正面左側は、右側と比べて若干突出しており、1階には袖壁を挟んで、幅も広く高さも高い窓が2か所配置されているが、テラスはない。被告建物正面左側2階には中央に袖壁のあるインナーバルコニーがあり、袖壁を挟んで1階の窓よりも幅も狭く高さも低い窓が2か所配置されている。 被告建物の背面側には、2階には窓が3か所、1階には窓が4か所配置されている。背面側の左端がやや後退し、右側には勝手口が配置されている。被告建物背面側の屋根は、正面側から見える上屋屋根、下屋屋根とともに切妻屋根を構成した屋根のほか、建物全体の横幅いっぱいに下屋屋根が配置されている。 被告建物の右側面は、大屋根が手前に向かって葺き下ろし、その左端部は直線状であるが、右端部は入り組んでおり、大屋根部分に窓が1か所ある。1階は平坦な壁面で、窓が4か所配置されている。 被告建物の左側面は、2階に窓はなく、1階には窓が4か所配置されている。上屋屋根と比べ、下屋屋根の葺き下ろし長さの方が長く、また、双方の屋根の頂点がほぼ同位置にある。 (イ)a 原告は、原告建物の玄関側の外観(原告商品形態)の特徴を被告建物の玄関側の外観(被告商品形態)が有していることをもって、商品形態の模倣の根拠としており、玄関側(正面)以外の部分の形態の同一性については主張していない。しかし、前述のとおり、被告商品が原告商品の商品形態を模倣したか否かの判断に当たっては、玄関側(正面)の外観だけではなく、それ以外の部分の外観も考慮に入れて、全体として形態の同一性を判断すべきである。そして、原告建物と被告建物を、玄関側(正面)以外の面で対比すると、各面の外観に現れる屋根と壁面の形状、屋根の大きさ、窓の個数・配置・大きさ等において、顕著に相違しており、少なくとも、玄関側以外の外観上は、原告建物と被告建物の形態が同一ないし実質的に同一といえるほどに酷似しているとはいえないことが明らかである。 b 次に、原告建物と被告建物の玄関側(正面)の外観を比較すると、なるほど、原告が主張するように、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシを配してアクセントを加え、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き、D下屋屋根と一体感をもたせた中央に袖壁を設置したインナーバルコニーを配し、E下屋屋根の軒下にはテラスを配している点では、原告建物と被告建物は共通しているといえる。 しかし、他方、原告建物と被告建物のそれぞれの玄関側(正面)の外観は、次のような点で異なっている。 @ 原告建物においては、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約4分の3に至るまで続いているのに対し、被告建物は、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約3分の2程度までに止まっている。このため、原告建物では水平基調が強調されることになるが、被告建物ではそれほどでもない。 A 原告建物においては、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風勾配サッシがあり、また中央やや右側の1階と2階に1か所ずつ窓があり、しかも1階の窓よりも2階の窓の方が幅が狭い。これに対し、被告建物は、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風サッシがあるほか、その右側1階に更に長方形の窓が配置されており、また、中央やや右側の1階には玄関が、2階には窓が配置され、1階の玄関よりも2階の窓の方が幅が広い。このため、原告建物は縦のラインが強調されるが、被告建物ではそれほどでもない。 B 原告建物では、左側1階が中央部より後退しており、その分下屋屋根の軒が深く、かつテラスが配置されることになる。これに対し、被告建物では、左側1階が、右側や中央玄関位置よりやや突出しており、下屋屋根の軒がさほど深くなく、テラスも配置されていない。また、この結果、原告建物では軒の作る陰影美が認められるが、被告建物ではそのような陰影美を認めることはできない。 このように、原告建物と被告建物の玄関側(正面)外観は、下屋屋根のスペース、窓の配置や大きさ、玄関の位置、壁面の出入りの具合い、軒の深さ、テラスの有無等の違いがあり、印象も異なったものとなっている。 多摩大学経営情報学部教授B作成の鑑定書(甲第31号証の1)においては、(1)右側の片流れ大屋根の傾斜角度、(2)右側の片流れ大屋根、左側の切妻屋根、左側の上屋屋根、左側の下屋屋根、左側の下屋屋根に一体化して組み込まれたインナーバルコニー、左側の下屋屋根と一体感をもたせた袖壁によって2つに分割配置された壁の組合せ及び配置の数値上の対比、(3)大屋根と葺き下ろしからなる片流れ大屋根及び左側の上屋屋根にかかわる水平的モジュールの構成と、インナーバルコニーと袖壁にかかわる水平的モジュールの構成によって構成される建築物の水平的な骨格構造、(4)下屋屋根とバルコニーと袖壁にかかわる垂直的モジュール並びに水平的モジュールによって構成される建築物の垂直的・水平的な骨格構造などの類似性等に基づいて、原告建物と被告建物の正面の形態の基本的な商品形態及びその骨格構造の同一性又は類似性を指摘している。しかし、前記のとおり、原告建物と被告建物には、その印象を大きく異にする重要な要素において相違があり、上記鑑定書は、それらの相違点を検討することなく、類似点のみを挙げて類似性を肯定しているものであるから、その結論を採用することはできない。 したがって、原告建物と被告建物とは、それぞれの玄関側(正面)の外観においても、実質的に同一といえるほどに酷似しているとはいえない。 ウ 以上のとおり、原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできない。 (3) よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の第1事件の請求はいずれも理由がない。 2 第2事件について (1) 争点(4)(被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害するか)ア(原告写真は、写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当するか)について ア 上記第2、1の争いのない事実等と証拠(甲第21号証の1、2、第22、第23号証、第29号証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 原告は、平成13年4月1日から、原告の木造住宅「シャーウッド」(木造軸組)シリーズの最高級品である「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始した。「エム・グラヴィス ベルサ」の販売に際して、「焼き物の風合いをもつ新陶版外壁を採用、木の良さを強調したこだわりの邸宅」をキャッチフレーズにしていた。 原告は、原告工場において「エム・グラヴィス ベルサ」の住宅を建築していたが、「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログを作成し、同カタログに掲載する目的で、同建物を被写体とする写真を撮影することにした。原告は、撮影に際し、上記「エム・グラヴィス ベルサ」のキャッチフレーズに沿い、しかも原告のイメージを損なわず、かつ顧客誘引力あるものとなるよう、構図や光線の照射方法を選択、決定し、調整した上で、撮影した。ただし、撮影された写真(甲第21号証の1)は、工場内で建築された状態の建物そのものを被写体としていたため、地面がむき出しとなっている、建築材が置いてある、別の建物も写っているなど、未だカタログに掲載できるような写真とはなっていなかった。そこで、原告は、これを更にカタログ等に掲載するにふさわしいように、かつ上記キャッチフレーズに沿うように、不要なものを消去し、玄関先、バルコニー、テラスなどに樹木等を配し、建物周辺にも敷石や樹木等を配するなどのCG出力処理を施した。その結果が原告写真(甲第21号証の2)である。 「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログには、「積水ハウスの『シャーウッド』は木への愛着から生まれた進化した木造住宅。素材としての木の素質を生かすと同時に、より高い強度と耐久性を備えています。さらに、快適な木造住宅になるために『エム・グラヴィス ベルサ』は新しい木を創造しました。」「大地の素材、柔らかな土肌の感触、焔が創り出す色合い、そのすべてが自然のなせる技。『エム・グラヴィス ベルサ』で採用したオリジナル陶版外壁『ベルバーン』は、焼き物と同じように『土』と『焔』から生まれました。一枚一枚、微妙に異なる表情の変化、時とともに深まる風合いは、まさに焼き物固有の魅力。美しさと個性を際立たせ、木の家にさらに温もりを与えています。先進の技術で、強度や耐久性など、外壁材としての性能も高めました。シャーウッド『エム・グラヴィス ベルサ』。焼き物の持つ独特の味わいと、魅力をそのまま受け継いだ、積水ハウスの新しい木の家です。」との記載のほか、その全体像を示すものとして見開き全面に原告写真が掲載されている(甲第29号証)。 原告は、「エム・グラヴィスベルサ」を平成13年4月1日より全国的に販売開始しているから、上記原告写真の撮影・制作は、この販売開始前になされたものと推認される。 イ 以上の事実によれば、原告写真は、被写体の選定、撮影の構図、配置、光線の照射方法、撮影後の処理等において創作性があるものと認められ、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものというべきである。 被告は、原告写真は被写体の忠実な再現にすぎないから創作性が認められない旨主張するが、上記認定に照らして、その主張は採用することができない。 (2) 同(4)イ(被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか)について ア 証拠(甲第21号証の1、2、第22ないし第24号証、第48、第49号証)によれば、原告写真と被告写真の比較において、次のようにいうことができる。 (ア) 原告写真と被告写真は、どちらも被写体となる建物を、正面左側の位置から、正面と左側面一部が写るように撮影されている。 (イ) 原告写真と被告写真の被写体となっている建物は、次のような共通点を有する。 a 建物正面左側には2階に寄棟造り様の屋根が、右側には2階に寄棟造り様の屋根と1階に正面に葺き下ろす屋根が存在する。 建物正面から見て左側は、右側よりも突出しており、1階は高さのある大きな2連窓が配置され、2階は1階よりやや前方に出た位置に2階の高さの約3分の2程度の高さの4連窓が配置されている。 建物正面から見て右側は、左側よりやや後退し、中央寄り1階に玄関が、2階には更に奥まったところにインナーバルコニーが配置されている。また右寄りは1階部のみが存在し、比較的幅が広く、高さのある大きな窓が配置されている。 原告写真と被告写真をスキャニングし、原寸でOHPフィルムにて出力したものを重ね併せると、上記寄棟造り様の屋根、建物右側の葺き下ろしの屋根、建物左側1階部分の窓、2階部分の窓、建物右側の玄関、奥まったインナーバルコニー、右端の1階部及びその窓がほぼ一致する(甲第48、第49号証)。 b 建物左側面には、1階部分に屋根はなく、2階と1階にそれぞれ窓が配置されている。原告写真の建物には、1階に突出した部分とその上の2階部分にバルコニーがあるが、被告写真の建物にはそのような突出部分やバルコニーはない。しかし、原告写真と被告写真のOHPフィルムを重ね併せると、突出部分とバルコニーを除いて、建物正面と建物左側面との接線の位置、正面側の1、2の窓の配置及び大きさなどが、ほぼ一致する(甲第48、第49号証)。 c 屋根は平坦で、色は濃茶色である。壁は、褐色で、直方体が積み上げられたような外観を呈している。 上記のような共通点により、原告写真と被告写真の各被写体の建物は、建物の形状、屋根、壁面、窓、玄関、バルコニー等の配置、色彩等を含め、全体として極めてよく似た外観として表示されている。 (ウ) 原告は、平成13年4月1日から「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始したが(甲第23号証)、遅くともこのころには原告写真はカタログ等に掲載されるなどしていたことが推認される。 被告写真は、平成14年3月23日、24日開催の「木曽檜の家 お客様の家見学会」の広告である本件チラシに、あるいは同年6月22日、23日開催の「木曽檜の家 大工さんのいる構造完成見学会」の広告である本件新聞広告に、掲載されている。 イ 以上からすれば、被告写真は原告写真に依拠して原告写真を複製して作成されたものであると認められる。 ウ 被告は、被告写真の被写体である建物の正面左側2階の窓の下の窓枠部分が原告写真の被写体と異なること、被告写真の被写体である建物には建物左側面の張り出しや屋根の上の煙突がないこと、正面2階中央のバルコニーの花の装飾が異なること、全体的な色調が異なることなどを指摘し、その結果、被告写真は原告写真の複製又は翻案に該当しないと主張する。 しかしながら、被告の指摘は、些細な、格別に意味のない相違にすぎず、しかも、これらの相違点から被告独自の思想又は感情を感得できるようなものではないから、上記認定を覆すものではない。 (3) 争点(5)(原告の損害)について ア 上記認定事実によれば、被告は、原告写真を複製して被告写真を作成して原告の著作権を侵害したことにつき、少なくとも過失があったものというべきである。 イ 原告は、著作権法114条1項の規定により、被告が上記著作権侵害行為によって得た利益の額が原告の被った損害の額と推定される旨主張する。しかし、原告が主張するように、被告が被告写真を本件チラシ等に使用した後に、被告の住宅建築数の増加があるとしても、原告写真を複製した被告写真を使用した本件チラシ等の配布と被告の住宅建築数の増加との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。 原告は、原告主張の寄与率(被告の住宅建築数の増加における被告写真の寄与率)が証拠によって認められないとすれば、著作権法114条の4の規定により相当な損害額を認定すべきである旨主張するが、上記のとおり、そもそも、被告による原告写真の複製という著作権侵害行為と被告の住宅建築数の増加との間の因果関係の立証がないのであり、原告主張のごとき損害の発生自体が認められず、一方で、後記のように別の算定方法による損害の立証が可能であるから、著作権法の上記規定を適用すべき場合には当たらない。 ウ 次に、原告は、著作権法114条2項により、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害の額として請求するので検討するに、当事者間に争いのない事実(上記第2、1、(4)及び(5))と証拠(甲第24号証、第27、第28号証、第37号証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (ア) 被告は、平成14年4月23日、同月24日に長野県松本市内の松本女鳥羽会場(完成現場)、松本県(あがた)会場(構造現場)で開催された見学会に来訪させるため、本件チラシ(甲第24号証)5万部を新聞に折り込む形で配布した。また、同年6月22日、長野県松本市等21市町村において6万6400部を発行する「市民タイムス」に、被告写真を使用した本件新聞広告(5段以内)(甲第27号証)を掲載した。本件チラシ、本件新聞広告とも、中央部に被告写真が大きいスペースで掲載されている。 (イ) 写真を広告に使用する際の基本料金として、チラシ1頁以内表紙カットの場合は5万円(甲第37号証・1枚目)、新聞広告(地方紙)5段以内の場合5万円(甲第37号証・2枚目)としているところがある。なお、被告は、折込チラシ1枚における写真使用料相当額を1枚2、3円の限度で自認している。 著作権法114条2項の「受けるべき金銭の額に相当する額」は、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して認定すべきものと解されるところ、上記(ア)、(イ)の事実のほか、上記(1)、(2)で認定した事実も勘案すると、原告が、原告写真を複製されたことにより、被告から受けるべき金銭の額に相当する額は、本件チラシに関しては20万円、本件新聞広告に関しては10万円と認めるのが相当である。 エ 第2事件に関する弁護士費用相当損害金としては、事案の内容、訴訟の経過、認容の程度等を勘案すると、10万円が相当である。 オ よって、第2事件に関して原告に生じた損害は、40万円であると認められる。 (4) 以上によれば、第2事件については、被告写真は「写真の著作物」である原告写真の複製であると認められるから、原告写真の著作権に基づく被告写真の使用の差止め、被告写真、そのデータ及びこれを使用したチラシ等の廃棄を求める請求はいずれも理由があり、また損害賠償請求に関しては、上記(3)記載のとおり40万円及びこれに対する不法行為の後であって第2事件訴状送達の日であることが記録上明らかな平成14年7月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告の請求は理由がある。 3 よって、原告の第1事件の請求は、いずれも理由がないから棄却し、原告の第2事件の請求は、主文第1ないし第4項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 中平健 裁判官 大濱寿美 別紙 原告住宅目録 省略 別紙 イ号物件目録 省略 別紙 原告写真 省略 別紙 被告写真 省略 |
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