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【事件名】美容院のノベルティー商品事件 【年月日】平成15年10月23日 名古屋地裁 平成15年(ワ)第855号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成15年8月8日) 判決 原告 株式会社ホットライン 同代表者代表取締役 A 同訴訟代理人弁護士 佐久間信司 同 夏目武志 被告 株式会社興起社 同代表者代表取締役 B 同訴訟代理人弁護士 岡本弘 主文 1 被告は、原告に対し、154万3680円及びこれに対する平成15年3月9日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。 4 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、702万円及びこれに対する平成15年3月9日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、別紙1記載の文書(A4サイズ・縦長横書き)1枚を、別紙2記載の問屋及びディーラーに送付せよ。 第2 事案の概要 本件は、被告が、美容及び理容(以下「美理容」という。)業界における販促用の贈呈品にして「パーソナルダイアリー」の名称を付せられた手帳型ダイアリー(以下「本件手帳」という。)は、原告を窓口にして被告が販売してきた商品であるなどと記載した文書を取引先等に送付したところ、原告が、本件手帳を企画・立案したのは原告であることを理由に、同文書の送付は虚偽の事実の告知又は流布に当たると主張して、被告に対し、不正競争防止法(以下、条文を示すときは「法」という。)2条1項14号、4条、7条に基づき、損害賠償及び信用回復の措置を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実) (1) 当事者 ア 原告 原告は、美容院及び理容院の機械器具、その他美容健康器具、洗髪剤、洗顔クリーム等美容用品、化粧品の製造、販売、輸出入等を目的とし、昭和63年6月6日に設立登記(ただし、当初の商号は株式会社C)された株式会社である(甲1)。 イ 被告 被告は、出版、製版、製本、広告・宣伝の情報媒体の企画・設計等を目的とし、昭和59年6月1日に設立され(当初は有限会社)、平成3年8月26日に組織変更された株式会社である(甲2)。 (2) 本件手帳 ア 本件手帳は、平成8年に美容院等が顧客に対して宣伝用に贈呈する手帳として企画され、平成9年版(以下、ある年用の本件手帳を単に「平成○年版」と略記する。)から毎年、製作、販売されているものであり、その販売部数は、平成9年版が9万8000部、平成10年版が13万6000部、平成11年版が23万6000部、平成12年版が28万4000部、平成13年版が32万4000部である(甲24及び弁論の全趣旨)。 イ 本件手帳の構成は、年によって若干異なる点もあるものの、おおむね以下のとおりである(甲3ないし6)。なお、本件手帳は、のし袋に入れられた状態で顧客に渡されている。 (ア) 縦長の手帳本体(1頁に2ないし3か月分の日程表を収録した部分、見開き2頁にわたって1か月分の予定表を収録した本体部分、メモ用紙の部分などから成る。) (イ) ビニールカバー (ウ) アドレス帳(別冊。なお、平成11年版までは手帳本体に綴じ込まれ、一体となっていた。) (エ) 差込式カレンダー(上部に当該年1年分のカレンダー、下部に店舗の名称、営業時間、定休日、電話番号等が印刷されている。なお、平成11年版までは差込式ではなく、手帳本体に綴じ込まれ、一体となっていた。) ウ 平成14年版まで、手帳本体、アドレス帳、差込式カレンダーの印刷・製本は被告ないし被告から発注を受けた印刷会社が、ビニールカバーの製作は被告から発注を受けたメーカーがそれぞれ行っていた。その上で、原告は、各パーツを組み合わせて本件手帳を完成し、美理容業界へ販売活動を行ってきた。 ところが、原告と被告とは、平成14年2、3月ころ、両者間の金銭貸借関係をめぐって紛争状態となり、上記の協力関係を解消した結果、平成15年版は、それぞれが別個の「パーソナルダイアリー」の名称の手帳型ダイアリーを製作、販売することとなった(甲7、14、乙25、26)。 (3) 被告による文書の送付 ア 被告は、平成14年6月ころ、取引先等に対し、「さて『パーソナルダイアリー』名称で年末ギフト用の手帳を全国美理容業界様には6年前より株式会社ホットライン様を窓口として販売させて頂きまして有難うございます。本年からは有限会社Dと左記の通り業務提携し販売させて頂く事になりました。これにより、ともすれば流通に円滑を欠き、ご不便をおかけする向きもありましたが、今後はそのような御迷惑は完全に解消いたします。又、これにより、コストダウン、品揃、商品の安定維持ができ、皆様の御期待に添い得ることを確信しております。」等と記載された文書(以下「文書1」という。)を送付した(甲15)。 イ 被告は、平成14年7月31日ころ、取引先等に対し、「さて、印刷会社である弊社では、株式会社ホットラインと二人三脚で全国の美理容問屋様へ『パーソナルダイアリー』の販売を6年間行ってまいりました。業務内容としましては弊社は、ダイアリーの『本体』と各サロン様の『差し込みカレンダー』の製作を行い、株式会社ホットラインには『パーソナルダイアリー』の受注と出荷を行って頂きました。しかし、株式会社ホットライン代表、Aの数年に及ぶ、不祥事並びに放漫経営等に不信の念を感じずにはいられなくなり、この度弊社におきましては、有限会社Dと業務提携を結ぶ事に至りました。」等と記載された文書(以下「文書2」という。)を送付した(甲16)。 ウ 被告は、平成14年8月6日ころ、取引先等に対し、「今回(株)興起社と(株)ホットラインの内部問題により業界の方々に大変ご迷惑をお掛けしている事を深くお詫び申し上げます。印刷物の版権は、法的に印刷会社の(株)興起社である事は認められており、(株)ホットラインにはなにも権利を主張するものはありません。又、昨年までの各サロン様からの版代はすべて全額弊社に入金されており、他社において、各サロン様の店名、住所の入ったレイアウト、デザインが昨年と同じものが印刷された場合は著作権の侵害において法的処置を取る事にしております。※上記内容は、当社顧問弁護士と確認済みです。又、(株)ホットライン代表Aに対しては金銭貸借において告訴中です。」等と記載された文書(以下「文書3」といい、文書1ないし3を総称して「本件各文書」という。)を送付した(甲17)。 2 本件の争点及び争点についての当事者の主張 (1) 争点1(本件各文書の記載内容が虚偽事実に当たるか)について (原告の主張) 以下のとおり、本件手帳を企画・立案し、商品化したのは原告であるから、本件手帳は被告が企画・立案した商品である旨の本件各文書の記載は、客観的真実に反する。また、本件文書3の記載は、原告が平成14年版と同じレイアウト、デザインを用いて本件手帳を印刷した場合、被告の著作権を侵害するとの「権利侵害警告」を内容としているところ、原告が本件手帳の商品主体である以上、被告の著作権を侵害することにはならない。したがって、本件各文書の送付行為は、法2条1項14号所定の「虚偽の事実」の「告知」又は「流布」に該当する。 ア 原告が本件手帳の企画・立案に至ったきっかけは、原告代表者のA(以下「A」という。)が、ノベルティー商品(販促品)の開発に取り組む中で、ディーラーのEから手帳を紹介されたことにある。同人が扱っている手帳は、デザイン等の面で改良の余地があるにもかかわらず、十分売れているということだったため、Aは、価格とサービス面で工夫すればヒット商品を生み出すことが可能と考え、価格を抑えること及び手帳本体に店名、電話番号等を無料で印刷することをアピールポイントとする本件手帳を企画した。 また、Aは、本件手帳のデザイン・構成等について、デザイナーのF(以下「F」という。)と相談して決定した。具体的には、本件手帳を美容院の顧客である女性が主として使用することを念頭に置いて素材や色を選定し、スケジュール欄についても、女性が男性に比べ、平日欄に仕事の予定を細かく書き入れる事が少ないと考えられることなどを考慮して、見開きで1か月のものとした上で休日欄を平日欄より大きくすることにし、また、月ごとに誕生石や花言葉を記載することにした。 イ 本件手帳が、原告が企画・立案した原告の商品であることは、以下の各事実からも明らかである。 (ア) Aは、もともと美容院を経営しており、その上で、美理容関係の商品の企画・製作、販売を行って成功し、全国的な販売ルートを確立していたのに対し、被告は、美理容関係とは無関係な地方の一印刷業者にすぎず、被告がいきなり美理容業界向けの製品を企画することは不自然である。 (イ) 本件手帳は、被告がそのパーツを原告に納品し、原告が組立作業を行って完成品に仕上げ、梱包作業を行って、問屋やディーラーに販売していたものであるが、商品が複数の部品を組み合わせて成り立っている場合には、部品を供給するだけの下請が商品の主体になることは通常考えられず、完成品を市場に販売する元請が、商品の主体となるというべきである。 被告は、原告が被告の販売先の一つにすぎなかったと主張するが、原告は本件手帳の組立てのためにパートを雇って作業させていたところ、メーカーが販売先にパートを抱えさせて組立作業を行わせることは通常考えられず、本件手帳の商品主体が完成品の販売を行っていた原告であることは明らかである。この点について、被告は、原告に利益を得させるために本件手帳の組立作業等を行わせたにすぎない旨主張するが、ビニールカバー、のし袋、外箱については、被告がブローカー的役割を果たして被告が利益を得られるような仕組みとなっており、原告に利益が出るようにしたとの主張は、明らかに不自然である。 なお、原告が本件手帳の販売先の一つにすぎないのであれば、原告がビニールカバーのみを購入したり、パーツの一部の製作を被告以外に発注することはあり得ないところ、原告は、平成10年に、本件手帳のパーツの一つであるビニールカバーを仕入先の一つである株式会社G(以下「G」という。)に発注したことがあり、このことからも、原告が本件手帳の商品主体であり、被告が原告の下請の一つにすぎなかったことが明らかである。 (ウ) 原告は、毎年、本件手帳の販売部数を想定し、被告に印刷代等の見積りを出させた上で全量買取方式によって本件手帳を納品させていた結果、見込みどおりに本件手帳が売れなかった場合、原告がその在庫をすべて抱え込むというリスクを負担していた。他方、被告は、本件手帳の売行きにかかわらず、一定の印刷代が入ることになっていたが、このような仕組みになっていたのは、原告がメーカーで、被告が印刷の下請会社であったからにほかならない。 なお、被告代表者B(以下「B」という。)は、その尋問において、製作数量なる概念を持ち出し、売れ残りが出たら、その分は被告の負担となる旨述べるが、もともと製作数量なるものは、被告が任意に決定する商品数にすぎないから、原告に納品する数量以上に被告が任意に製作する場合に、その在庫を被告が負担するのは当然であって、原告の在庫負担の問題とは無関係なかつ無意味な主張である。 (エ) 原告は、被告の要求により、その資金繰りの便宜のため、被告から本件手帳のパーツが納入される前に、被告に対して代金の前払をしていた。すなわち、納品は毎年10月であるが、原告は、被告に対し、7月20日に手形を交付していた。仮に原告が単なる買主であれば、物を受け取ってからでなければ代金支払をしないはずであり、このことも、原告が本件手帳の製作、販売の元請で、被告が下請であることの現れである。 (オ) 被告が自社商品として販売した平成15年版は、平成14年版と酷似している一方、原告の平成15年版は、平成14年版と全くデザインが異なっているが、このことは、被告が本件手帳のデザイン能力を有しないため原告が考案した平成14年版のデータを使用せざるを得なかったのに対し、原告は、例年同様、前年と異なるデザインを考案する能力を有することを示すものである。 加えて、本件各文書の記載内容によれば、平成13年までは本件手帳の販売窓口又は仲買人にすぎなかった原告が、平成14年になって突然、被告から独立して平成15年度の製作、販売を始めたことになる。そうすると、被告は、原告に自社商品を乗っ取られそうになっていたことになるが、このような状況下において、被告が、自ら本件手帳のデザインを考案する能力を有していたにもかかわらず、前年とほぼ同一のデザインの平成15年版を販売したのは、極めて不可解というべきである。 (カ) 被告は、平成8年から平成13年にかけて、その取引先等に本件手帳を販売するに際し、本件手帳を原告に注文し、原告から購入した上、販売代理店として取引先に販売していたが、本件手帳が原告の商品であるならば、被告が原告に対して本件手帳を注文するということはあり得ないはずである。 (キ) 原告は、被告に対し、平成14年版についての指示書(甲28の1ないし6)を交付し、その仕様について指示しているところ、これに従って同年版が製作されている事実に照らせば、原告が本件手帳の商品主体であり、被告は原告の指示に従って印刷の下請をしていたにすぎないことが明らかである。 (被告の主張) 本件手帳の商品主体が原告であるとの主張は否認する。 以下のとおり、本件手帳を企画・立案して商品化し、製作、販売してきたのは被告であるから、その商品主体は被告である。したがって、本件各文書の記載は、虚偽の事実に当たらない。また、原告の指摘する被告の挨拶状(文書1)は、有限会社Dがその判断で送付先を選択し、送付したもので、被告にはその送付先は分からない。 ア 原告の主張アは否認する。 本件手帳は、Bが、従前から使用していた市販の手帳型ダイアリーを参考に、業務用日誌ではなく、私生活上の日誌を手帳の大きさにしたもので、被告が企画・立案し、商品化したものである。 原告は、本件手帳のデザイン・構成等についてデザイナーのFと相談して決定した旨主張するが、同人はデザイナーでもなければ、企画・立案をする能力もなく、印刷物の御用聞きをしているだけの人物で、Aの子分のような立場にあり、原告が本件手帳についてFと話し合って決めたと主張する事項は、被告が立案したものである。 イ 原告の主張イは否認する。 (ア) 原告は、美理容用品であるシャンプーボディ、ネックシャッター、シザーハンズ及び本件手帳を仕入れ、美理容業界へ販売してきたにすぎず、これらの製作やそれ以外の物品の製作、販売をしていたものではない。 被告は、平成5年11月に原告が手形の不渡りを出して以来、原告の資金繰り等に協力し、営業を管理してきた関係から、本件手帳を美容院、理容室が購入してくれるのではないかと気付き、原告に本件手帳を取引先の問屋を通じて販売することを提案し、問屋に売り込ませたものである。原告は、問屋から店名等の原稿が記載された本件手帳の申込書を受け取って、被告に届ける作業をしていたにすぎない。 (イ) 本件手帳は、手帳本体、ビニールカバー、アドレス帳、差込式カレンダー、のし袋の5つのパーツから成るところ、被告は、手帳本体についてもアドレス帳についても、印刷、製本をする能力があるが、印刷も製本も、仕事量のバランスのため、協力会社へ下請に出すこともあり、必ずしも自社で印刷、製本するとは限らない。そして、手帳本体にビニールカバーをかぶせ、アドレス帳とカレンダーを差し込み、のし袋に入れる作業についても、被告又は協力会社によって行うこともあれば、サロンなどの店や企業で行ってもらうこともある。他方、原告は、印刷、製本する能力はなく、手帳にビニールカバーをかぶせ、アドレス帳を差し込み、外箱に詰めて発送する程度の作業しかこなすことができない。 そして、原告が上記の組立作業等をしていたのは、原告の営業を被告が管理していたことから、原告の利益を多額にして負債を整理すべく、被告の提案により、本件手帳の組立て(ビニールカバー付け等)、梱包、発送の各作業を原告に行わせることになったからで、上記形態は、当初は、原告が販売する分のみであったが、その後、被告が発送する分の一部についても、原告に組立て、梱包作業をしてもらうことがあった。 なお、原告は、ビニールカバーをGに発注したことがある旨主張するが、被告は、原告に対し、手帳本体、アドレス帳、ビニールカバー、差込式カレンダー、のし袋を同じ数量納品していたから、原告がビニールカバーのみをGから購入するということは起こり得ない。なお、Gは、ビル建築工事のうちの管工事、塗装工事、防水工事の業者(吹付業者)であり、ビニールカバーのメーカーではない。 (ウ) 本件手帳の納品については、販売当初、原告に在庫のリスクを負わせないために、原告が注文を取った分だけ、原告が被告から仕入れて販売したことにしていたが、平成11年版から、@増刷による被告の経費の増加及び利益の減少を回避するため、A原告に責任感を植え付け、売る意欲を高めるために、翌年の販売数を取り決め、売れ残りについて原告が責任を負う取引形態に移行したものである。 (エ) 被告は、原告に対し、販売代金の約半額について、手形を差し入れさせていたが、原告の手形は信用のない手形であって、これは、専ら原告に対して販売に対する責任感を持たせるためのものであった。 (オ) 原告は、被告が自社商品として販売した平成15年版が平成14年版に酷似していることを問題とするが、本件手帳は、平成9年版以来、毎年少しずつ改良は加えられてきたものの、被告が自社製品として企画・立案、製作、販売してきたものであるから、平成14年版と平成15年度版とが体裁において酷似するのは当然のことであり、これは考案能力の有無に関わる問題ではない。 他方、原告の平成15年版の体裁が平成9年版以降のそれと異なっているのは、そうしなければ被告の平成15年版と酷似し、不正競争防止法に違反することになるからである。 (2) 争点2(原告と被告間における「競争関係」の有無)について (原告の主張) 法2条1項14号にいう「競争関係」とは、営業活動上、顧客又は供給者を共通にする関係をいい、広く同種の商品、同種の役務を提供する場合であれば、競争関係が認められるところ、原告と被告は、いずれも「パーソナルダイアリー」という同一の商品を製造し、これを株式会社I、J株式会社等の美容関係の卸問屋、ディーラーという共通の顧客に販売しているから、原告と被告は競争関係にある。 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 原告と被告との間には競争関係は存在しない。被告が、原告に卸売していた本件手帳を、有限会社Dに卸売するようになったことは認めるが、被告は、原告が指摘する問屋、ディーラーとは取引していないし、本件手帳をそれらに販売したこともない。 (3) 争点3(本件各文書の記載が、原告の「営業上の信用を害する」か否か)について (原告の主張) 営業上の信用とは、営業生活上与えられる経済的評価をいうところ、本件各文書に記載された事実、すなわち、本件手帳は被告の商品であり、原告は被告商品の販売窓口の一つにすぎなかったとの事実は、経済的評価の中でも最も重要なものの一つである商品供給能力に関する原告の信用を害するものである。 具体的には、文書1の記載は、平成14年版まで本件手帳を原告から仕入れていた問屋に対し、平成15年版を原告から購入できないとの印象を与え、現に、原告は、顧客から平成15年度版の本件手帳の製作は大丈夫かという旨の問い合わせを受けている。また、本件各文書の記載は、顧客に対し、原告と取引を継続していると、種々のトラブルに巻き込まれるとの危惧を抱かせるに十分であり、現に、問屋の株式会社Hからは取引を中止されている。 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 被告は、原告との取引を止めるに当たり、製作元として、本件手帳の販売経路に混乱が生じないように有限会社Dに案内を出させたものであり、その案内文に原告との取引を止める経緯を記載したことは当然である。なお、原告こそ被告を誹謗する文書を問屋等に送りつけており、Hは、トラブルに巻き込まれたくないとして、被告の商品も購入していない。 (4) 争点4(原告の損害額)について (原告の主張) ア 被告は、その製作に係る平成15年版を株式会社Iに7万8000部、J株式会社に2万4000部販売し、原告の両者に対する販売部数がその分減少した。また、株式会社Hは、被告による本件各文書の送付により、原告の本件手帳を取り扱わなくなったところ、同社に対する平成14年版の本件手帳の販売部数は2万6000部であった。これらを合計すると、被告の行為による本件手帳の販売部数の減少は、少なくとも12万部を下らない。そして、本件手帳の1部当たりの販売価格は平均して113.4円であり、1部当たりの純利益は同40.2円である。 イ したがって、被告の行為による原告の損害額は、@原告に生じた3万部の不良在庫分についての340万2000円(販売価格分の損害が生じたものとして上記113.4円を乗じた)と、A残り9万部の販売部数減少分についての361万8000円(上記40.2円を乗じた)との合計702万円である。 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 被告は、製作した平成15年版を株式会社Iなどの問屋に販売したことはなく、有限会社Dに販売したのみである。 また、本件手帳の販売価格は、1部当たり102円であり、仕入値は同68円であったから、粗利は同34円にすぎない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各文書の記載が内容が虚偽事実に当たるか)について (1) 前記前提事実(3)のとおり、被告は、平成14年6月ころから同年8月6日ころまでの間、取引先等に対して本件各文書を送付しているところ、文書1には、被告は、従来、原告を窓口として本件手帳を販売してきたが、今後は有限会社Dと提携して販売することになったこと、文書2には、被告は、従来、原告と二人三脚で本件手帳の販売を行ってきたものであり、本件手帳の本体と差込式カレンダーの製作を担当し、原告は本件手帳の受注と出荷を担当してきたが、今般、有限会社Dと業務提携したこと、文書3には、被告は、印刷物の「版権」は被告に帰属し、原告は何らの権利を有しないこと、「他社」が、「各サロンの店名、住所の入った」レイアウト、デザインと同じものを印刷した場合には、著作権侵害として法的処置をとることなどの内容が記載されている。しかして、文書3の権利侵害警告の対象とされた「他社」が、専ら原告を指していることは、その直前において、被告が印刷物の「版権」を有するのに対し、原告は何らの権利も持たない旨の記載があることに照らして明らかである。 これに対して、原告は、本件手帳を企画・立案した商品主体であることなどを理由に、本件各文書の記載内容は、法2条1項14号の「虚偽の事実」に当たる旨主張する。そこで、まず、原告の用いる商品主体なる概念について検討するに、同概念は、法2条1項各号の規定する複数の不正競争行為で問題となるが、それぞれの場面でその内容が異なるものである。例えば、同項3号に基づく差止請求権等の請求権者である商品主体は、自らの資金や労力を投じて、同種商品の有しない「形態」を有する商品を開発・商品化した者に限られるのに対し、同項1号の周知表示に化体された商品主体は、当該商品の製造、加工、販売等のいわゆる商品取扱業務に従事する者を広く指し、同一の商品につき複数の者が商品主体となり得ると解される。 しかるところ、本件において、原告は、本件手帳を企画・立案したのは原告であり、被告の著作権を侵害することはあり得ない旨主張していることや、争点3において、本件各文書によって本件手帳の「供給能力」に関する信用を害されたと主張していることに照らせば、原告のいう商品主体とは、原告による本件手帳の製作、販売が法的に許容されることを指しているものと解される。 したがって、本件の争点は、被告が本件手帳に関して著作権等の排他的、独占的な権利を有しているか否か、裏返せば、原告が被告の許諾なく本件手帳と同様のデザイン等を有する手帳を製作、販売することが被告の権利の侵害となる関係が肯定できるか否かである。 (2) そこで判断するに、前記前提事実(1)及び(2)に証拠(甲3ないし13、18、20ないし23、26、28の1ないし6、29ないし33、35、36の1及び2、37ないし39、43ないし85、乙13ないし24、32ないし36、50、51、53ないし99、114、原告代表者、被告代表者。ただし、認定事実に反する部分を除く。)を総合すると、以下の事実が認められる。) ア Aは、高校を中退して美容専門学校に入学し、昭和50年に同校を卒業後、美容師として勤務し、昭和59年には半田市において美容院を開業した。Aは、その傍ら、昭和63年に原告を設立し、美理容業界で用いる商品、特に広告効果を持つ低価格のノベルティー商品の企画・開発に努め、商品の展示会などに積極的に出展してきたものの、業績は思うように伸びなかった。 しかるところ、Aは、平成7、8年ころ、美理容関係の商品を問屋から仕入れて美容院等へ販売するディーラーである知人のEから、手帳型ダイアリーの販売が好調であること、その販売価格は、ビニール製の外カバー付きでありながら、カバーなしの他社製品のそれと変わらない180円であること、カバーの色は100部単位で選択できることなどの話を聞き、既に少なくとも5社がそれぞれ30万部から10万部の販売実績を上げている状態ではあったものの、販売価格の30パーセント程度の価格で仕入れることができれば、デザイン等を改善することによって、市場に新たに参入することは可能であり、かつ大きな利益を生む商品となり得ると考えた。 そこで、Aは、昭和63年ころ、ブライダル用商品の印刷を依頼したことから知り合い、平成5年には原告の資金繰りについて援助を受けたことから、営業上の協力関係にあった被告代表者のBに対し、ビニールの外カバーを付けることと、手帳中に購入した美容院の名称、電話番号等を無料で印刷することの2点を特長とする、美理容業界におけるノベルティー商品としての手帳型ダイアリーの企画・開発の相談を持ちかけた。 イ 相談を受けたBは、前記の他社の製品や市販されていた手帳型ダイアリーを参考にして、企画を具体化すべくAと検討を行った。その結果、AとBは、手帳型ダイアリーの名称を、個人を意味するパーソナルと日記を意味するダイアリーを結合させた「パーソナルダイアリー」とすること、手帳本体は、美容院の配布先が女性であることからスマートな縦長形とすること、手帳本体は、@冒頭頁に当年度と次年度の6か月分のカレンダーを収録した部分、A1頁に3か月分(見開き2頁で6か月分)の日程表を収録した部分、B見開き2頁に1か月分のマス目状に区切った予定表を収録した部分、Cメモや住所、電話番号等を記載する頁から構成された部分、D上部に1年分のカレンダーを、下部に購入した美容院の店名、営業時間、電話番号などを印刷した部分(頁)などから構成されること、おしゃれな印象を与えるとともに携帯に便利なように、手帳本体にカラーのビニールカバーをかぶせること、カラーは数種類を用意し、顧客が選択できることなどの方針を決定した。 また、原告と被告は、(a)被告は、自社ないし下請会社で印刷したり(手帳本体)、外注したり(ビニールカバー、のし袋、外箱)して本件手帳の各パーツをそろえた上、本体(48円)とビニールカバー(20円)の1セット68円で原告に納入すること、(b)原告は、各パーツを組み立てた上、美理容業界(問屋)への販売を担当すること、(c)被告が独自に販売する分は、上記納入価格に5円ほど上乗せした価格で原告から完成品を買い入れることなどを合意した。 ウ やがて、初年度版である平成9年版の本件手帳の仕様が確定し、原、被告が2分の1ずつ費用を負担してサンプルが完成した後、被告は、原告から注文を受けた部数に自社が直接販売する部数を加えた数の各パーツを製作などして、原告に納入した。その後、原告は、内職のパートに1部当たり1円80銭の手間賃を支払って本件手帳を完成させ、従来から有していた販売ルートを利用して美理容業界への販売を開始した。その結果、原告は、初年度版である平成9年版について9万6000部を受注し、数百万円の利益を上げることができたのに対し、被告は、3000部を独自に販売したにとどまった。 AとBは、翌年以降も本件手帳を製作、販売すべく、次年度版の本件手帳の改良点について適宜打合せを行い、毎年若干の修正を加えながら、その仕様を確定していたが、その際、問屋からもたらされた指摘を基に、Aが意見を述べることが多かった。その結果、手帳本体から前記Cの部分をアドレス帳として独立させたり、同Dの部分を差込式のカレンダーとして独立させるなどの改良が加えられた。また、原告は、本件手帳の外箱、サンプル、顧客への礼状の文面等について被告へ指示などをすることがあった。なお、本件手帳を販売するに際しては、原告から問屋に対して商品案内書が送付され、これに対する注文を問屋から受けて原告が本件手帳を発送するという手順をとっていたが、美理容業界に対する販売は原告が担当していたため、本件手帳に印刷ミスなどの瑕疵があった場合には、美容院、問屋、原告の順にクレームが伝えられ、最終的に、原告から連絡を受けた被告がクレームの処理に当たっていた。 (3) 前記認定事実によれば、原告代表者であるAは、平成7、8年ころ、Eからの情報に基づいて、ビニールカバーをかぶせ、美容院の名称等を印刷しながら低価格に抑えることを特長とする本件手帳を着想したものであるから、本件手帳の企画者ということができる。他方、被告代表者であるBも、印刷業を営んでいたことから、既に販売されていた手帳型ダイアリーを参考にして、Aから持ち込まれた企画を本件手帳の形で具体化するのに協力し、現実に手帳本体、アドレス帳、差込式カレンダーなどの主要パーツを印刷、製本してきた(場合によっては他の印刷業者に下請けさせる。)ものであるから、その開発・製作者ということが可能である。そうすると、原告及び被告の双方が本件手帳の企画・開発者ということができ、その意味において、双方とも本件手帳の商品主体に当たると判断するのが相当である(原告は、本件手帳を完成させるのは原告であることを理由に、商品主体は原告である旨主張するが、手帳本体にビニールカバーをかぶせ、アドレス帳を挟み込んで手帳として完成させ、発送用のダンボールに手帳本体、差込式カレンダー、のし袋、お礼状を詰める作業は、極めて単純かつ簡易な作業工程であり、現に全体の価格に占めるその労賃の割合は微々たるものであるから、原告がこれを担当していたからといって、被告の果たした役割が相対的に無視し得る程度のものというのは相当でなく、そのほか、原告が商品主体であることを基礎づけるものとして主張する事実も、被告の開発、製作者としての役割を否定するものとはいえない。)。 (4) そこで、本件各文書の記載が虚偽の事実に当たるか否かについて判断するに、まず、文書1は、前記のとおり、被告が本件手帳を原告を窓口として販売してきたとの事実を摘示しているところ、これに引き続く「本年からは有限会社Dと……業務提携し」との文言をも考慮すれば、上記事実は、原告と被告とが業務提携し、原告が販売を担当してきたとの趣旨と理解し得るから、前記で認定した本件手帳の製作、販売実態と基本的にそごはないと判断することができる。また、文書2の摘示する事実、すなわち、原告及び被告が二人三脚で本件手帳の販売を行ってきたとの事実や、被告が手帳本体と差込式カレンダーの製作を行い、原告が受注と出荷を行ってきたとの事実も、基本的事実関係において実態とそごするものではないということができる。以上のとおり、文書1及び2については、その内容が虚偽のものと判断することはできないというべきである。 次に文書3について判断する。前記のとおり、原告にしても被告にしても、本件手帳を企画、開発するに際しては、当時既に美理容業界においてノベルティー商品として定着していた手帳型ダイアリーや市販のそれを参考にしており、あえてその特色を挙げれば、購入者である美容院の宣伝効果を高めるべく、その名称等を無料で印刷する点を指摘できるにすぎない(これを一つのアイデアと呼ぶとしても、これ自体が法的な保護の対象となるものではない。)と認められるから、原告ないし被告が本件手帳に関して何らかの排他的・独占的権利を取得したとは認め難く、このような仕様の手帳を無断で製作、販売することが、原告ないし被告の権利を侵害するとは到底考えられない。 この点につき、被告代表者は、その陳述書(乙53、110)において、@「版権」とは、著作権ではなく、オフセット印刷で用いる文字や絵を焼き付けたフィルムの所有権を指すところ、版権は、原則として印刷会社が有するものであるから、被告に帰属する、A本件手帳の本体には、著作権の対象となるものはないが、差込式カレンダーのうち、美容院の店名、住所の入ったレイアウト、デザインは被告の有する著作権に含まれるなどと述べている(もっとも、乙114では、本件手帳はどこにでもある商品であるから、著作権とか版権があると思えないとも述べている。)。しかしながら、「版権」は、著作権法79条以下に規定する出版権の略称として用いられるのが通常の用語例であるところ、被告は、この意味における出版権を取得した事実を主張、立証するものではない上、証拠(甲3、4、23)によれば、差込式カレンダーに印刷される美容院の店名等については、ロゴマークを入れたり、書体を指定したい場合は、注文者においてこれを印刷した書面を用意しなければならないこと、実際の印刷例も、特に工夫され、注目を引く字体やレイアウトが採用されているわけではなく、上部に大きな文字で店名を、その下に小さな文字で営業時間、定休日、電話番号などの情報を配置するというありふれたレイアウトになっていること、しかも、これらのデータ自体は、問屋や原告を通じて当該美容院等からもたらされるものであること、以上の事実が認められることに照らすと、果たして被告の著作権の対象となるかは極めて疑わしいといわねばならない。 そうすると、「版権」が被告に属し、原告は何らの権利もないこと及び各美容院の店名等につき、昨年と同じものが印刷された場合は、著作権の侵害となるなどと記載し、全体として、本件手帳について被告が排他的、独占的権利を有し、原告が本件手帳の製作、販売を行うことが被告の権利を侵害するものであるとの印象を与える文書3は、根拠のない権利侵害警告を行うものというべきであるから、これを取引先等に送付する行為は、法2条1項14号所定の虚偽の事実の告知又は流布に該当すると判断するのが相当である。 2 争点2(原告と被告間における「競争関係」の有無)について 法2条1項14号の「競争関係」とは、その趣旨にかんがみれば、その営業活動において、同種の商品や役務を取り扱い、あるいはこれらを取り扱う意思を有していることから、その利害が対立する可能性を有する場合を広く指し、必ずしも双方が同一の販売先に対して現実に販売競争を行っていることを要するものではないと解される。 しかるところ、前記のとおり、原告は、美理容業界で用いられる商品一般を取り扱い、特に最近は、美容院が顧客に対して贈答するノベルティー商品である本件手帳を主力製品として販売活動を行ってきたものであり、他方、被告は、手帳本体、アドレス帳、差込式カレンダーを自らあるいは下請けさせて印刷・製本し、またその他のパーツを他に発注して、これらの大半を原告に販売し、残りを自ら販売していたところ、証拠(甲7、14ないし16、乙25、26)によれば、原告と被告は、対立関係が生じた後も、それぞれ独自に「パーソナルダイアリー」なる名称の手帳型ダイアリーを製作していたことや、被告は、美理容業界に対する販売を強化するために、有限会社Dと業務提携していることが認められるから、両者の間に、上記の意味における競争関係が存在することは明らかである。 3 争点3(本件各文書の記載が、原告の「営業上の信用を害する」か否か)について 法2条1項14号の「営業上の信用を害する」とは、当事者が営業活動を行うについて有する経済上の外部的評価を低下させ、あるいは低下させるおそれを生じせしめることを指すところ、その者の有する商品供給能力や当該商品の持つ社会的信頼(他者の権利を侵害するものでないとの法的評価を含む。)などが営業上の信用に含まれることはいうまでもないし、現実に上記評価が低下したことの認定を要するものでもない。 しかるところ、前記のとおり、文書3は、全体として、被告が本件手帳について排他的、独占的権利を有し、原告がその製作、販売を行うことにより、被告の権利を侵害するものであるとの印象を与えるものであるから、これに接した者は、原告の商品が権利侵害物品であり、かかる商品を製造、販売する原告がそのような行為を行っていると考えることが十分に予想されるというべきである。そうすると、文書3の記載は、原告の商品ひいては原告の経済上の評価を低下させる蓋然性があるといわざるを得ないから、原告の営業上の信用を害するものと判断するのが相当である。 4 争点4(原告の損害額)について そこで、原告の損害額について判断するに、証拠(甲24、25、原告代表者)によれば、原告は、平成14年版の本件手帳を株式会社Iに7万8000部、J株式会社に2万4000部、株式会社Hに2万6000部、合計12万8000部販売していたところ、文書3が取引先に送付された後に企画された平成15年版については、これらの取引先からの受注がなかったこと、本件手帳の1部当たりの純利益は40.2円であること、以上の事実が認められる。 もっとも、前記のとおり、本件手帳については、特段排他的、独占的な権利が成立しているとは認められず、被告がこれを独自に製造、販売することはもちろんのこと、他の第三者が類似の商品を製造、販売することも、何ら原告の権利を侵害するものとはいえず、現に、美理容業界においては、原、被告以外の業者も同種の手帳型ダイアリーの製造、販売を行っていることに照らすと、上記の販売部数の減少が、文書3の記載のみを原因とするものかについては断定できず、むしろ、証拠(乙114)によれば、原告は、本件各文書の送付行為があった後、原告の商品のコピー品を無断で製作、販売している悪質な業者がおり、弁護士を通じて法的措置を進めていること、類似品の取扱いには十分に考慮されたい旨記載されたパンフレットを取引先に送付し、本件各文書への対抗措置を講じている事実が認められることに照らすと、上記販売部数の減少については、被告を含む競業各社の営業活動の結果による可能性も否定できない。 そこで、本件手帳に関する原告の従前の営業能力、その資金力、被告の印刷業者としての営業能力、競業他社の販売実績、原告及び被告の平成15年版の仕様その他本件に顕れた一切の事情を基礎事実とした上で、民訴法248条を適用して判断すると、上記販売部数の減少分12万8000部に1部当たりの純利益40.2円を乗じた金額の3割である154万3680円をもって原告の損害と認めるのが相当である(なお、原告は、手元に残った不良在庫3万部につき販売価格相当の損害が生じたと主張するが、不良在庫は、受注部数を正確に予想しないまま見込みで製造ないし発注した場合に生ずるものであるから、これの販売価格相当額を直ちに損害と評価することは相当でない。)。 5 原告の謝罪文書の送付請求について 原告は、別紙1のとおり、本件手帳が原告「が企画・立案した」原告「のオリジナル商品で」あり、本件手帳が被告の商品であるとの内容の通知を被告がしたことにより、原告の信用をき損などしたことについての謝罪文書を別紙2の取引先に送付することを求めているところ、前記認定・判断のとおり、本件手帳は、原告の発案に係るものと認められるものの、これを商品の形に具体化するに当たっては、印刷業者としての被告の知識、資力も寄与しており、原告及び被告の双方の協力によって生み出された商品であるというべきであるから、別紙1の内容の謝罪文書の送付を命ずることは相当でない。 そして、原告の主張によっても、受注が減少したのは前記の3社分にすぎないことに加え、前記のとおり、原告も、原告の商品の模造品が出回っているから留意されたい旨の文書を取引先に送付し、本件各文書への対抗措置を講じていることに照らすと、本件においては、被告に対して前記の損害賠償の支払を命ずることによって原告の信用の回復を図ることが十分に可能と考えられるから、謝罪文書の送付はその必要性を欠くというべきである。 6 結論 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、154万3680円及びこれに対する不法行為の後である平成15年3月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 舟橋恭子 裁判官 小嶋宏幸 |
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